(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ag,Sn及びFeの合計含有量が9.0massppm以上100.0massppm未満とされ、残部が不可避不純物とした組成を有し、
圧延面における結晶粒の平均結晶粒径が10μm以上であり、
圧延面に対して平行な結晶面が、{022}面、{002}面、{113}面、{111}面、及び、{133}面である結晶を有し、
前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度を、それぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}としたとき、
I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.15、
I{002}/I{111}≧10.0、
I{002}/I{113}≧15.0、
を満足することを特徴とする純銅板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1においては、Sの含有量を規定することで結晶粒の粗大化を抑制しているが、熱処理条件によってはSの含有量を規定するだけでは、十分な結晶粒粗大化抑制効果を得ることができないことがあった。また、熱処理後に、局所的に結晶粒が粗大化し、結晶組織が不均一となることがあった。
さらに、結晶粒の粗大化を抑制するために、Sの含有量を増加させた場合には、熱間加工性が大きく低下してしまい、純銅板の製造歩留まりが大きく低下してしまうといった問題があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、導電率が高く、かつ、熱処理後においても結晶粒の粗大化及び不均一化を抑制することができる純銅板、この純銅板を用いた銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。純銅板に微量に含有された不純物元素には、結晶粒界に存在することで結晶粒の粗大化を抑制する結晶粒成長抑制効果を有するものが存在する。そこで、この結晶粒成長抑制効果を有する元素(以下、結晶粒成長抑制元素、と称する)を活用することで、熱処理後においても結晶粒の粗大化や不均一化を抑制可能であるとの知見を得た。また、この結晶粒成長抑制元素の作用効果を十分に奏功せしめるためには、特定の元素の含有量を規制することが効果的であるとの知見を得た。
さらに、加熱時における結晶成長の駆動力を抑えるために、材料に蓄積されたひずみエネルギーを低く抑えることが有効であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の純銅板は、Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ag,Sn及びFeの合計含有量が9.0massppm以上100.0massppm未満とされ、残部が不可避不純物とした組成を有し、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径が10.0μm以上であり、圧延面に対して平行な結晶面が、{022}面、{002}面、{113}面、{111}面、及び、{133}面である結晶を有し、前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度を、それぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}としたとき、
I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.15、
I{002}/I{111}≧10.0、
I{002}/I{113}≧15.0、
を満足することを特徴としている。
【0010】
この構成の純銅板によれば、Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ag,Sn及びFeの合計含有量が9.0massppm以上100.0massppm未満とされ、残部が不可避不純物とした組成を有しているので、Ag,Sn及びFeが銅の母相中に固溶することによって、結晶粒の粗大化を抑制することが可能となる。また、純銅板の導電率を確保することができ、大電流用途の電子・電気機器用部材及び放熱用部材の素材として用いることができる。
【0011】
また、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径が10.0μm以上とされているので、加熱前の状態で、粒径が比較的大きく、加熱時における再結晶の駆動力が小さく、粒成長を抑制することが可能となる。
そして、前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度I{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}が上述の関係を有しているので、蓄積されたひずみエネルギーが少なく、加熱時における再結晶の駆動力が小さく、粒成長を抑制することが可能となる。
【0012】
ここで、本発明の純銅板においては、Sの含有量が2.0massppm以上20.0massppm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、結晶粒成長抑制元素に該当するSを2.0massppm以上含むことにより、熱処理後においても結晶粒の粗大化や不均一化を確実に抑制することが可能となる。また、Sの含有量を20.0massppm以下に制限することにより、熱間加工性を十分に確保することができる。
【0013】
また、本発明の純銅板においては、Mg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Yの合計含有量が15.0massppm以下であることが好ましい。
不可避不純物として含まれるおそれがあるMg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Yといった元素は、結晶粒界に偏析して結晶粒の粗大化を抑制する結晶粒粗大化抑制元素(S,Se,Te等)と化合物を生成し、結晶粒成長抑制元素の作用を阻害するおそれがある。このため、Mg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Yの合計含有量を15.0massppm以下に制限することにより、結晶粒成長抑制元素による結晶粒成長抑制効果を十分に発揮させることができ、熱処理後においても、結晶粒の粗大化や不均一化を確実に抑制することが可能となる。なお、結晶粒粗大化抑制元素(S,Se,Te等)は、不可避不純物として含有されることになる。
【0014】
さらに、本発明の純銅板においては、800℃で1時間保持の熱処理を行った後の、50mm×50mmの範囲における最大結晶粒径d
maxと平均結晶粒径d
aveの比率d
max/d
aveが20.0以下、平均結晶粒径d
aveが500μm以下であることが好ましい。
この場合、上記条件で加熱した場合でも、結晶粒が粗大化および不均一になることを確実に抑制でき、外観不良の発生をさらに抑制することができる。
【0015】
さらに、本発明の純銅板においては、ビッカース硬度が150HV以下であることが好ましい。
この場合、ビッカース硬度が150HV以下であり、十分に軟らかく、純銅板としての特性が確保されているので、大電流用途の電気・電子部品の素材として特に適している。
【0016】
本発明の銅/セラミックス接合体は、上述の純銅板と、セラミックス部材とが接合されてなることを特徴としている。
この構成の銅/セラミックス接合体によれば、純銅板とセラミックス部材とを接合するために加圧熱処理した場合であっても、純銅板の結晶粒が局所的に粗大化することが抑制され、接合不良や外観不良、検査工程での不具合の発生を抑制することが可能となる。
【0017】
本発明の銅/セラミックス接合体は、上述の純銅板と、セラミックス部材とが接合されてなることを特徴としている。
この構成の絶縁回路基板によれば、純銅板とセラミックス基板とを接合するために加圧熱処理した場合であっても、純銅板の結晶粒が局所的に粗大化することが抑制され、接合不良や外観不良、検査工程での不具合の発生を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導電率が高く、かつ、熱処理後においても結晶粒の粗大化及び不均一化を抑制することができる純銅板、この純銅板を用いた銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態である純銅板について説明する。
本実施形態である純銅板は、ヒートシンクや厚銅回路等の電気・電子部品の素材として用いられるものであり、前述の電気・電子部品を成形する際に、例えばセラミックス基板に接合されて使用されるものである。
【0021】
本実施形態である純銅板は、Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ag,Sn及びFeの合計含有量が9.0massppm以上100.0massppm未満とされ、残部が不可避不純物とした組成を有するものとされている。以下では、「mass%」、「massppm」を、それぞれ「%」、「ppm」と記載することがある。
【0022】
なお、本実施形態である純銅板においては、Sの含有量が2.0massppm以上20.0massppm以下の範囲内とされていることが好ましい。
また、本実施形態である純銅板においては、Mg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Y(A元素群)の合計含有量が15.0massppm以下であることが好ましい。
【0023】
また、本実施形態である純銅板においては、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径が10.0μm以上とされている。圧延面における結晶粒の平均結晶粒径は、例えば、圧延面の中心から等距離の三箇所以上で測定される結晶の粒径の平均値とすることができる。
そして、本実施形態である純銅板においては、圧延面に対して平行な結晶面が、{022}面、{002}面、{113}面、{111}面、及び、{133}面である結晶を有し、前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる各結晶面の回折ピーク強度をそれぞれI{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}としたとき、以下の関係式(1)〜(3)を満足するものとされている。
I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.15―――――(1)、
I{002}/I{111}≧10.0―――――(2)、
I{002}/I{113}≧15.0―――――(3)、
【0024】
なお、本実施形態である純銅板においては、800℃で1時間保持の熱処理を行った後の、50mm×50mmの範囲における最大結晶粒径d
maxと平均結晶粒径d
aveの比率d
max/d
aveが20以下であり、平均結晶粒径d
aveが500μm以下であることが好ましい。最大結晶粒径d
maxは、任意の面積50mm×50mmの範囲を選択し、その範囲の中で少なくとも三箇所以上での結晶の粒径を測り、測った粒径の中で最大のものとすることが好ましい。
また、本実施形態である純銅板においては、ビッカース硬度が150HV以下であることが好ましい。
さらに、本実施形態である純銅板においては、導電率が97%IACS以上であることが好ましい。
【0025】
ここで、本実施形態の純銅板において、上述のように成分組成、結晶方位、各種特性を規定した理由について以下に説明する。
【0026】
(Cuの純度:99.96mass%以上)
大電流用途の電気・電子部品においては、通電時の発熱を抑制するために、導電性及び放熱性に優れていることが要求されており、導電性及び放熱性に特に優れた純銅を用いることが好ましい。また、セラミックス基板等と接合した場合には、冷熱サイクル負荷時に生じる熱ひずみを緩和できるように、変形抵抗が小さいことが好ましい。
そこで、本実施形態である純銅板においては、Cuの純度を99.96mass%以上に規定している。
なお、Cuの純度は99.965mass%以上であることが好ましく、99.97mass%以上であることがさらに好ましい。また、Cuの純度の上限に特に制限はないが、99.999mass%を超える場合には、特別な精錬工程が必要となり、製造コストが大幅に増加するため、99.999mass%以下とすることが好ましい。
【0027】
(Ag,Sn及びFeの合計含有量:9.0massppm以上100.0massppm未満)
Ag,Sn及びFeは銅母相中への固溶によって結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。
このため、本実施形態においてAg,Sn及びFeの合計含有量を9.0massppm以上とした場合には、Ag,Sn及びFeによる結晶粒粗大化抑制効果を十分に奏功せしめることができ、熱処理後においても結晶粒の粗大化を確実に抑制することが可能となる。一方、必要以上の添加により製造コストの増加や導電率の低下が懸念されるため、Ag, Sn及びFeの合計含有量を100.0massppm未満とする。
なお、Ag,Sn及びFeの合計含有量の下限は9.5massppm以上であることが好ましく、10.0massppm以上であることがさらに好ましい。一方、Ag,Sn及びFeの合計含有量の上限は80.0massppm未満であることが好ましく、60.0massppm未満であることがさらに好ましい。また、特に導電率を大きく低下させるSn及びFeは合計で30.0massppm未満であることが好ましい。
【0028】
(Sの含有量:2.0massppm以上20.0massppm以下)
Sは、結晶粒界移動を抑制することによって、結晶粒の粗大化を抑制する作用を有するとともに、熱間加工性を低下させる元素である。
このため、本実施形態においてSの含有量を2.0massppm以上とした場合には、Sによる結晶粒粗大化抑制効果を十分に奏功せしめることができ、熱処理後においても結晶粒の粗大化を確実に抑制することが可能となる。一方、Sの含有量を20.0massppm以下に制限した場合には、熱間加工性を確保することが可能となる。
なお、Sの含有量の下限は、2.5massppm以上であることが好ましく、3.0massppm以上であることがさらに好ましい。また、Sの含有量の上限は、17.5massppm以下であることが好ましく、15.0massppm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
(Mg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Y(A元素群)の合計含有量:15.0massppm以下)
不可避不純物として含まれるMg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Yから選択される1種又は2種以上(A元素群)は、結晶粒界に偏析して結晶粒の粗大化を抑制する結晶粒粗大化抑制元素(S,Se,Te等)と化合物を生成し、結晶粒粗大化抑制元素の作用を阻害するおそれがある。
このため、熱処理後の結晶粒の粗大化を確実に抑制するためには、Mg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Y(A元素群)の合計含有量を15.0massppm以下とすることが好ましい。
なお、Mg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Y(A元素群)の合計含有量は、10.0massppm以下であることが好ましく、7.5massppm以下であることがさらに好ましく、5.0massppm以下であることが最も好ましい。
【0030】
(その他の元素)
なお、Al,Cr,P,Be,Cd,Mg,Ni,Pb(M元素群)は銅母相中への固溶や粒界への偏析、さらには酸化物の形成により、粒成長を抑制する効果を持つ。
このため、熱処理後の結晶粒の粗大化を確実に抑制するためには、Al,Cr,P,Be,Cd,Mg,Ni,Pb(M元素群)を合計で2.0massppmを超えて含有することが好ましい。なお、Al,Cr,P,Be,Cd,Mg,Ni,Pb(M元素群)を意図的に含有する場合にはAl,Cr,P,Be,Cd,Mg,Ni,Pb(M元素群)の合計含有量の下限を2.1massppm以上とすることがより好ましく、2.3massppm以上とすることがさらに好ましく、2.5massppm以上とすることより一層好ましく、3.0massppm以上とすることが最適である。
一方、Al,Cr,P,Be,Cd,Mg,Ni,Pb(M元素群)を必要以上に含有すると導電率の低下が懸念されるため、Al,Cr,P,Be,Cd,Mg,Ni,Pb(M元素群)の合計含有量の上限を100.0massppm未満とすることが好ましく、50.0massppm未満とすることがより好ましく、20.0massppm未満とすることがさらに好ましく、10.0massppm未満とすることがより一層好ましい。
【0031】
(その他の不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、B,Bi,Ca,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,W,Mn,Re,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Zn,Hg,Ga,In,Ge,As,Sb,Tl,N,C,Si,Li,H,O等が挙げられる。これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、少なくすることが好ましい。
【0032】
(圧延面における結晶粒の平均結晶粒径:10μm以上)
本実施形態である純銅板において、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径が微細であると、この純銅板を加熱した際に、再結晶が進行しやすく、結晶粒の成長、組織の不均一化が促進されてしまうおそれがある。
このため、加熱時の結晶粒の粗大化をさらに抑制するためには、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径を10μm以上とすることが好ましい。
なお、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径は、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。
【0033】
(I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.15)
圧延面において、{220}面は、圧延加工時に形成される結晶方位であり、{220}面の比率が高まるほど材料中に蓄積されたひずみエネルギーが高くなる。ここで、材料に蓄積されたひずみエネルギーが高いと、再結晶を起こす際の駆動力が高くなり、加熱時に結晶粒が粗大化しやすくなる。
このため、結晶粒の粗大化を抑制するために、本実施形態においては、I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133}))を0.15以下としている。
ここで、(I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})は0.12以下であることが好ましく、0.10以下であることがさらに好ましい。
【0034】
(I{002}/I{111}≧10.0、I{002}/I{113}≧15.0)
{002}面は再結晶時に形成される結晶方位のため、加工時に形成されやすい{111}面や{113}面に対しての方位割合が増加することによって、再結晶の駆動力となる材料中のひずみエネルギーを抑え、結晶粒の粗大化を抑制することが可能となる。
このため、本実施形態においては、I{002}/I{111}を10.0以上、かつ、I{002}/I{113}を15.0以上としている。
ここで、I{002}/I{111}は11.0以上であることが好ましく、12.0以上であることがさらに好ましい。また、I{002}/I{113}は16.0以上であることが好ましく、17.0以上であることがさらに好ましい。
【0035】
(800℃で1時間保持の熱処理後の平均結晶粒径:500μm以下)
本実施形態である純銅板において、800℃で1時間保持の熱処理後の平均結晶粒径が500μm以下である場合には、800℃以上に加熱した場合であっても、結晶粒が粗大化することを確実に抑制でき、セラミックス基板に接合される厚銅回路やヒートシンクの素材として特に適している。
なお、800℃で1時間保持の熱処理後の平均結晶粒径の上限は450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
(800℃で1時間保持の熱処理後のd
max/d
ave:20.0以下)
本実施形態である純銅板において、800℃で1時間保持の熱処理後の50mm×50mmの範囲における最大結晶粒径d
maxと平均結晶粒径d
aveの比率d
max/d
aveが20.0以下である場合には、800℃以上に加熱した場合であっても、結晶粒が不均一化することを確実に抑制でき、セラミックス基板に接合される厚銅回路やヒートシンクの素材として特に適している。
なお、800℃で1時間保持の熱処理後の50mm×50mmの範囲における最大結晶粒径d
maxと平均結晶粒径d
aveの比率d
max/d
aveは18.0以下であることが好ましく、15.0以下であることがさらに好ましい。
【0037】
(ビッカース硬度:150HV以下)
本実施形態である純銅板においては、ビッカース硬度を150HV以下とすることにより、純銅板としての特性が確保され、大電流用途の電気・電子部品の素材として特に適している。また、十分に軟らかく、セラミックス基板等の他の部材に接合して冷熱サイクルが負荷された場合でも、純銅板が変形することで発生した熱ひずみを解放することが可能となる。
なお、純銅板のビッカース硬度は140HV以下であることがより好ましく、130HV以下であることがさらに好ましく、110HV以下であることが最も好ましい。純銅板のビッカース硬度の下限は、特に制限はないが、硬度が低すぎる場合、製造時に変形しやすく、ハンドリングが難しくなるため、30HV以上であることが好ましく、45HV以上であることがより好ましく、60HV以上であることが最も好ましい。
【0038】
(導電率:97%IACS以上)
本実施形態である純銅板においては、導電率を97%IACS以上とすることにより、純銅板としての特性が確保され、大電流用途の電子・電気機器用部材及び放熱用部材の素材として特に適している。
なお、純銅板の導電率は98%IACS以上であることが好ましく、99%IACS以上であることがさらに好ましい。純銅板の導電率の上限は、特に制限はない。
【0039】
次に、このような構成とされた本実施形態である純銅板の製造方法について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0040】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解し、銅溶湯を製出する。なお、銅原料としては、例えば、純度が99.99mass%以上の4NCu、純度が99.999mass%以上の5NCuを用いることが好ましい。
なお、Sを添加する場合には、S単体やCu−S母合金等を用いることができる。なお、Cu−S母合金を製造する際にも、純度が99.99mass%以上の4NCu、純度が99.999mass%以上の5NCuを用いることが好ましい。
また、溶解工程では、水素濃度低減のため、H
2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、成分調整された銅溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0041】
(熱間加工工程S02)
次に、組織の均一化のために、熱間加工を実施する。
熱間加工温度については、特に制限はないが、500℃以上1000℃以下の範囲内とすることが好ましい。
また、熱間加工の総加工率は50%以上とすることが好ましく、60%以上とすることがさらに好ましく、70%以上であることがより好ましい。
さらに、熱間加工後の冷却方法については、特に制限はないが、空冷又は水冷を行うことが好ましい。
また、熱間加工工程S02における加工方法に特に限定はなく、例えば圧延、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。最終形状が板、条の場合には圧延を採用することが好ましく、最終形状がバルク材の場合には鍛造やプレスを採用することが好ましい。
【0042】
(中間圧延工程S03)
次に、熱間加工工程S02後の銅素材に対して、中間圧延を実施して所定の形状に加工する。なお、この中間圧延工程S03における温度条件は特に限定はないが、−200℃以上200℃以下の範囲で行うことが好ましい。また、この中間圧延工程S03における加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、生産性を向上させるためには30%以上とすることが好ましい。
【0043】
(再結晶熱処理工程S04)
次に、中間圧延工程S03後の銅素材に対して、再結晶を目的とした熱処理を行う。ここで、圧延面における再結晶粒の平均結晶粒径は10μm以上であることが望ましい。再結晶粒が微細であると、その後に800℃以上に加熱した際に、結晶粒の成長、組織の不均一化が促進されてしまうおそれがある。
再結晶熱処理工程S04の熱処理条件は、特に限定しないが、200℃以上900℃以下の範囲の熱処理温度で、1秒以上10時間以下の範囲で保持することが好ましい。
例えば、350℃では6hの熱処理、700℃では1分の熱処理、850℃では5秒の熱処理などが挙げられる。
また、再結晶組織の均一化のために、中間圧延工程S03と再結晶熱処理工程S04を2回以上繰り返して行っても良い。
【0044】
(調質加工工程S05)
次に、材料強度を調整するために、再結晶熱処理工程S04後の銅素材に対して調質加工を行ってもよい。なお、材料強度を高くする必要がない場合は、調質加工を行わなくてもよい。
調質加工の加工率は特に限定しないが、材料強度を調整するために0%超え50%以下の範囲内で実施することが好ましい。さらに、材料強度をより低くし、かつI{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})を0.15以下とする場合、及び、I{002}/I{111}を10以上、I{002}/I{113}を15以上とする場合には加工率を0%超え40%以下に制限することがより好ましい。
また、必要に応じて、残留ひずみの除去のために、調質加工後にさらに熱処理を行ってもよい。
【0045】
以上の各工程により、本実施形態である純銅板が製出されることになる。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態である純銅板によれば、Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ag,Sn及びFeの合計含有量が9.0massppm以上100.0massppm未満とされ、残部が不可避不純物とした組成を有しているので、Ag,Sn及びFeが銅の母相中に固溶することによって、結晶粒の粗大化を抑制することが可能となる。
また、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径が10μm以上とされているので、加圧熱処理前の状態で、粒径が比較的大きく、加圧熱処理時における再結晶の駆動力が小さく、粒成長を抑制することが可能となる。
【0047】
本実施形態である純銅板においては、圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる各結晶面の回折ピーク強度I{022}、I{002}、I{113}、I{111}、I{133}が、I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.15の関係を有しているので、蓄積されたひずみエネルギーが少なく、加熱時における再結晶の駆動力が小さく、粒成長を抑制することが可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態である純銅板においては、I{002}/I{111}を10以上、かつ、I{002}/I{113}を15以上としているので、再結晶時に形成される結晶方位である{002}面の割合が、加工時に形成されやすい{111}面や{113}面に対して多く存在することになり、接合時の再結晶の駆動力となる材料中のひずみエネルギーを抑え、結晶粒の粗大化を抑制することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態において、Sの含有量を2.0massppm以上20.0massppm以下の範囲内とした場合には、結晶粒成長抑制元素の一種であるSが粒界に偏析し、加熱時における結晶粒の粗大化及び不均一化を確実に抑制することが可能となる。また、熱間加工性を確保することができる。
【0050】
さらに、本実施形態において、Mg,Sr,Ba,Ti,Zr,Hf,Y(A元素群)の合計含有量が15.0massppm以下である場合には、これらA元素群の元素と結晶粒成長抑制元素であるS,Se,Te等とが反応して化合物が生成されることを抑制でき、結晶粒成長抑制元素の作用を十分に奏功せしめることが可能となる。よって、加熱時における結晶粒の粗大化及び不均一化を確実に抑制することが可能となる。
【0051】
さらに、本実施形態において、800℃で1時間保持の熱処理を行った後の、50mm×50mmの範囲における最大結晶粒径d
maxと平均結晶粒径d
aveの比率d
max/d
aveが20.0以下、平均結晶粒径d
aveが500μm以下である場合には、熱処理後においても、結晶粒が粗大化および不均一になることを確実に抑制でき、外観不良の発生をさらに抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態において、ビッカース硬度が150HV以下である場合には、十分に軟らかく、純銅板としての特性が確保されているので、大電流用途の電気・電子部品の素材として特に適している。
【0053】
さらに、本実施形態において、Al,Cr,P,Be,Cd,Mg,Ni,Pb(M元素群)を2.0massppmを超えて含有する場合には、M元素銅群の元素の母相中への固溶や粒界への偏析、さらには酸化物の形成により、さらに確実に、熱処理後の粒成長を抑制することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態である純銅板について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、純銅板の製造方法の一例について説明したが、純銅板の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
純度が99.999mass%以上の銅原料と、上記銅原料と純度99mass%以上の各種元素を用いて作成した各種元素のCu−1mass%母合金を準備した。
上述の銅原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯に、上述の各種元素のCu−1mass%母合金を投入し、所定の成分組成に調製した。
得られた銅溶湯を、鋳型に注湯して、鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約100mm×幅約120mm×長さ約150〜200mmとした。
【0056】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、表1,2に記載された温度で1時間の加熱を行い、熱間圧延を実施し、厚さ50mmとした。
熱間圧延後の銅素材を切断するとともに表面の酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。このとき、その後の熱間圧延、中間圧延、調質圧延の圧延率を考慮して、最終厚さが表1,2に示すものとなるように、中間圧延に供する銅素材の厚さを調整した。
【0057】
上述のように厚さを調整した銅素材に対して、表1,2に記載された条件で中間圧延を行い、水冷を行った。
次に、中間圧延後の銅素材に対して、表1,2に記載された条件により、再結晶熱処理を実施した。
そして、再結晶熱処理後の銅素材に対して、表1,2に記載された条件で調質圧延を行い、表3,4に示す厚さで幅60mmの特性評価用条材を製造した。
【0058】
そして、以下の項目について評価を実施した。
【0059】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、Sは赤外線吸収法で、その他の元素はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。なお、測定は試料中央部と幅方向端部の二カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。測定結果を表1,2に示す。
【0060】
(加工性評価)
加工性の評価として、前述の熱間圧延、中間圧延時における耳割れの有無を観察した。目視で耳割れが全くあるいはほとんど認められなかったものを「A」、長さ1mm未満の小さな耳割れが発生したものを「B」、長さ1mm以上の耳割れが発生したものを「C」とした。
なお、耳割れの長さとは、圧延材の幅方向端部から幅方向中央部に向かう耳割れの長さのことである。
【0061】
(ビッカース硬さ)
JIS Z 2244に規定されているマイクロビッカース硬さ試験方法に準拠し、試験荷重0.98Nでビッカース硬さを測定した。なお、測定位置は、特性評価用試験片の圧延面とした。評価結果を表3,4に示す。
【0062】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。評価結果を表3,4に示す。
なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0063】
(800℃で1時間保持の熱処理前の平均結晶粒径)
得られた特性評価用条材から20mm×20mmのサンプルを切り出し、SEM−EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、平均結晶粒径を測定した。
圧延面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を大角粒界とし、15°未満を小角粒界とした。大角粒界を用いて、結晶粒界マップを作成し、JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を熱処理前の結晶粒径として記載した。評価結果を表3,4に示す。
【0064】
(X線回折強度)
板表面における{111}面からのX線回折強度をI{111}、{002}面からのX線回折強度I{002}、{022}面からのX線回折強度I{022}、{113}面からのX線回折強度I{113}、{133}面からのX線回折強度I{133}を、積分強度法を用いて、次のような手順で測定した。
特性評価用条材から測定試料を採取し、反射法で、測定試料に対して1つの回転軸の回りのX線回折強度を測定した。ターゲットにはCuを使用し、KαのX線を使用した。管電流40mA、管電圧40kV、測定角度40〜150°、測定ステップ0.02°の条件で測定し、回折角とX線回折強度のプロファイルにおいて、X線回折強度のバックグラウンドを除去後、各回折面からのピークのKα1とKα2を合わせた積分X線回折強度を求めた。
そして、I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})、I{002}/I{111}、I{002}/I{113}を算出した。
【0065】
(800℃で1時間保持の熱処理後の平均結晶粒径)
上述の特性評価用条材から60mm×60mmのサンプルを切り出し、800℃で1時間保持の熱処理を実施した。この試験片より、50mm×50mmのサンプルを切り出し、圧延面を鏡面研磨、エッチングを行い光学顕微鏡にて、圧延方向が写真の横になるように撮影した。観察部位の中で最も結晶粒が微細かつ、約1mm
2の視野内が均一な粒度で形成される部位を選び、観察および測定を行った。そして、結晶粒径をJIS H 0501の切断法に従い、写真縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を熱処理後の平均結晶粒径d
aveとして記載した。評価結果を表3,4に示す。
【0066】
(800℃で1時間保持の熱処理後の平均粒径のばらつき)
上述のように、熱処理を施した試験片から採取したサンプルについて、50mm×50mmの範囲内において双晶を除き、最も結晶粒が粗大な結晶粒の長径とそれに垂直に線を引いた時に粒界によって切断される短径の平均値を最大結晶粒径d
maxとし、この最大結晶粒径と上述の平均結晶粒径d
aveとの比d
max/d
aveが15.0以下を「〇」と評価し、d
max/d
aveが15.0を超え20.0以下の場合を「△」と評価し、d
max/d
aveが20.0を超えた場合を「×」と評価した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
比較例1は、Ag,Sn及びFeの合計含有量が本発明の範囲よりも少なく、800℃で1時間保持の熱処理前の平均結晶粒径が10μm未満であるため、800℃で1時間保持の熱処理後に平均結晶粒径が500μm以上に粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
比較例2は、Ag,Sn及びFeの合計含有量が本発明の範囲よりも多く、導電率が低くなった。
比較例3は、I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})が0.15を超え、I{002}/I{111}が10未満、I{002}/I{113}が15未満であるため、熱処理後に結晶粒が粗大化し、粒径のばらつきも大きくなった。
【0072】
これに対して、本発明例1−27においては、熱処理後の平均結晶粒径が小さく、かつ、粒径のばらつきも小さくなった。また、導電率も97%IACS以上となった。
以上のことから、本発明例によれば、導電性に優れ、かつ、熱処理後においても、結晶粒の粗大化及び不均一化を抑制することができる純銅板を提供可能であることが確認された。
Cuの含有量が99.96mass%以上とされ、Ag,Sn及びFeの合計含有量が9.0massppm以上100.0massppm未満とされ、残部が不可避不純物とした組成を有し、圧延面における結晶粒の平均結晶粒径が10μm以上であり、圧延面に対して平行な結晶面が、{022}面、{002}面、{113}面、{111}面、及び、{133}面である結晶を有し、前記圧延面に対する2θ/θ法によるX線回折測定で得られる前記各結晶面の回折ピーク強度が、I{022}/(I{022}+I{002}+I{113}+I{111}+I{133})≦0.15、I{002}/I{111}≧10.0、I{002}/I{113}≧15.0、を満足する。