(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述した特許文献1に記載の曲げ加工用芯材は、線状片の縦断面が円形であるため、線状片同士の接触面積が極めて小さい。このため、プラスチック管を曲げたときに、その曲げ荷重によって線状片同士が滑って線状片間に隙間が形成され、線状片の集合体の形状が変形するため、プラスチック管の曲げる領域の断面が変形するという問題がある。
特に、繊維強化熱可塑性樹脂により形成された管状体は、曲げる領域の熱可塑性樹脂が加熱により塑性変形可能になった状態で曲げ加工するため、曲げる領域が曲げ加工用芯材の断面変形に応じて変形し易い。
【0005】
そこで、本発明は、上記の問題を解決するために創出されたものであり、繊維強化熱可塑性樹脂により形成された管状体を曲げ加工する際に、曲げる領域の断面が変形し難い曲げ加工用芯材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本願発明に係る曲げ加工用芯材は、繊維強化熱可塑性樹脂により形成された管状体を
、その曲げ加工領域を加熱して溶融させた状態で曲げ加工する際に管状体に挿入する曲げ加工用芯材であって、長手方向と直交する断面の形状が
六角形の形状を有す
る複数の線状部材を束ねて成ることを第1の特徴とする。
【0007】
上記第1の特徴を備える曲げ加工用芯材は、長手方向と直交する断面の形状が
六角形の形状を有す
る複数の線状部材を束ねて構成されているため、線状部材間の接触面積を大きくすることができる。
したがって、
繊維強化熱可塑性樹脂により形成された管状体を、その曲げ加工領域を加熱して溶融させた状態で曲げたときに、その曲げ荷重によって線状部材同士が滑って線状部材間に隙間が形成されるという現象が発生し難く、曲げ加工用芯材が変形し難いため、管状体の曲げ
加工領域の断面が変形し難い
。
【0009】
さらに、上記第
1の特徴を備える曲げ加工用芯材は、線状部材の長手方向と直交する断面の形状が六角形であるため、各線状部材が隙間無く束ねられた曲げ加工用芯材を形成することができる。
したがって、
繊維強化熱可塑性樹脂により形成された管状体を、その曲げ加工領域を加熱して溶融させた状態で曲げたときの曲げ荷重が作用した場合でもより一層断面が変形し難いため、管状体の曲げ
加工領域がより一層変形し難い。
【0012】
また、本願発明に係る曲げ加工用芯材は、前述した第
1の特徴において、複数の線状部材を束ねて成るものの周囲が所定の部材により包まれていることを第
2の特徴とする。
【0013】
上記第
2の特徴を備える曲げ加工用芯材は、複数の線状部材を束ねて成るものの周囲が所定の部材により包まれているため、管状体を曲げたときの曲げ荷重が作用した場合でもより一層変形し難いため、管状体の曲げる領域がより一層変形し難い。
【0014】
また、本願発明に係る曲げ加工用芯材は、前述の第
2の特徴において、所定の部材の表面は
ポリテトラフルオロエチレン加工されていることを第
3の特徴とする。
【0015】
上記第
3の特徴を備える曲げ加工用芯材は、所定の部材の表面は
ポリテトラフルオロエチレン加工されているため、所定の部材と管状体との摩擦を小さくすることができるので、管状体を曲げた後に、所定の部材により包まれた線状部材の束を管状体から容易に抜くことができる。
【0016】
また、本願発明に係る曲げ加工用芯材は、前述の第
2または第
3の特徴において、所定の部材は帯状であることを第
4の特徴とする。
【0017】
上記第
4の特徴を備える曲げ加工用芯材は、所定の部材が帯状であるため、複数の線状部材を束ねて成るものの周囲を包み易く、形状を整え易い。
【0018】
また、本願発明に係る曲げ加工用芯材は、繊維強化熱可塑性樹脂により形成された管状体を曲げ加工する際に管状体に挿入する曲げ加工用芯材であって、コイル状の部材の周囲が、複数の線状部材により囲まれており、複数の線状部材は、長手方向と直交する断面の形状が円形、楕円形および多角形の
いずれかの形状を有する少なくとも1
種類の線状部材を含むことを第
5の特徴とする。
なお、「コイル状」には、螺旋状の他、同心円状が含まれる。
【0019】
上記第
5の特徴を備える芯材は、コイル状の部材の周囲が複数の線状部材により囲まれて構成されており、複数の線状部材は、長手方向と直交する断面の形状が円形、楕円形および多角形の何れかの形状を有する少なくとも1種類の線状部材を含
むため、曲げ加工用芯材の断面が変形し難いので、管状体の曲げる領域の断面が変形し難い。
しかも
、管状体を曲げた後に、コイル状の部材を伸長させることにより、コイル状の部材の径を細くし、曲げ加工用芯材と管状体との間に隙間を形成することができるので、管状体から曲げ加工用芯材を容易に抜くことができる。
さらに、コイル状の部材の中に線状部材を入れる必要がないため、その分、線状部材の数を減らすことができるので、曲げ加工用芯材を軽量化することもできる。
【発明の効果】
【0020】
本願発明に係る曲げ加工用芯材を実施すれば、繊維強化熱可塑性樹脂により形成された管状体を曲げ加工する際に、曲げる領域の断面が変形し難い曲げ加工用芯材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の曲げ加工用芯材を適用する繊維強化樹脂管状体について図を参照しつつ説明する。
図1に示すように、繊維強化樹脂管状体1は、縦断面形状が円形の円筒形状(中空パイプ状)に形成されている。繊維強化樹脂管状体1の全長はL、外径はφ1、内径はφ2である。繊維強化樹脂管状体1には、曲げ加工を行う予定の領域、つまり、曲げ予定領域VEが設定されている。符号Cにて示す点は、曲げ半径の中心である。繊維強化樹脂管状体1の左端から右端に向けてL1移動した位置から曲げ予定領域VEが始まっており、その幅はL2に設定されている。繊維強化樹脂管状体は、CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics:炭素繊維強化熱可塑性樹脂)により形成されている。
【0023】
繊維強化樹脂管状体1は、公知のフィラメントワインディングによって形成されている。本実施形態においてフィラメントワインディングに用いるフィラメントは、複数本の連続炭素繊維がマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂によって被覆されたもの、もしくは、連続炭素繊維が熱可塑性樹脂と混練されたものである。
図2(a)は、繊維強化樹脂管状体1の説明図であるが、フィラメントの捲回状態が分かるように模式的に表されている。
図2において、符号θ1,θ2は、繊維強化樹脂管状体1を形成する連続炭素繊維の配向角度を示す。ここで、配向角度とは、繊維強化樹脂管状体1の軸線G(繊維強化樹脂管状体1の長手方向に沿った中心軸)に対する連続炭素繊維の角度である。
図2(b),(c)は、曲げ予定領域VEおよび曲げ予定領域以外の領域E1,E2における配向角度をそれぞれ示す。なお、フィラメントをマンドレルにヘリカル巻きする場合、フィラメントはマンドレルの軸線に沿って両端を往復するため、マンドレルの左端から右端に向けて巻くとき(往路)の角度をθ1で示し、右端から左端に向けて巻くとき(復路)の角度を−θ1で示す。
【0024】
〈第1実施形態〉
次に、本発明の第1実施形態に係る曲げ加工用芯材について
図3を参照しつつ説明する。同図に示すように、本実施形態に係る曲げ加工用芯材6を構成する線状部材6aは、長手方向と直交する断面の形状が正六角形の線状部材である。同図(c)に示すように、曲げ加工用芯材6は線状部材6aを束ねて構成されており、略円柱形を呈している。繊維強化樹脂管状体1に挿入された各線状部材6aは、正六角形を構成する辺同士を密着させており、各線状部材6a間に隙間が形成されていない。さらに、多くの線状部材6aは、自身の辺の両端を繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aと接触させている。つまり、曲げ加工用芯材6を構成する各線状部材6aは、それぞれ長手方向と直交する断面の形状が正六角形であるため、繊維強化樹脂管状体1に挿入して充填した場合に、長手方向と直交する断面の形状が円形の線状部材を充填した場合と比較して、各線状部材6a間に形成される隙間が少ない。
【0025】
[実験1]
本願発明者らは、本実施形態の曲げ加工用芯材6を使用した場合の繊維強化樹脂管状体1の曲げ性を調べる実験を行った。
(実験内容)
本実験では、繊維強化樹脂管状体1を形成するフィラメントとして、連続PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維がポリアミド樹脂繊維と混繊されたフィラメントを使用した。連続強化繊維およびポリアミド樹脂の体積含有率は、それぞれ50%である。フィラメントの幅は5〜6mmであり、厚さは0.3〜0.4mmである。また、旭化成エンジニアリング株式会社製のフィラメントワインディング装置を使用した。
フィラメントワインディングは、加熱によりフィラメントに含まれるポリアミド樹脂を溶融させながら、ヘリカル巻きによりマンドレルに4層捲回し、自然冷却によりポリアミド樹脂を固化させ、繊維強化樹脂管状体1を作成した。
作成した繊維強化樹脂管状体1は、全長Lが510mm、外径φ1が31.0mm、内径φ2が27.2mmの中空パイプ形状である。また、繊維強化樹脂管状体1の縦断面形状は真円であり、扁平度は1である。また、
図1(a)に示したL1=210〜220mmであり、L2=約150mmである。また、本実験では、連続炭素繊維の配向角度が曲げ予定領域VEおよび曲げ予定領域以外の領域E1,E2の総てにおいて45度であり、かつ、連続炭素繊維が4層に捲回された繊維強化樹脂管状体を使用した。
また、曲げ加工用芯材6を構成する線状部材6aは、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂製である。ポリアミド樹脂の融点は230℃であり、PEEKの融点は345℃である。そして、正六角形の1辺の長さh1(
図3(b))が0.4mmの線状部材6aを束ねた曲げ加工用芯材(第1実施形態(1))と、正六角形の1辺の長さh1が0.3mmの線状部材6aを束ねた曲げ加工用芯材(第1実施形態(2))と、正六角形の1辺の長さh1が0.2mmの線状部材6aを束ねた曲げ加工用芯材(第1実施形態(3))とを使用した。各曲げ加工用芯材6を構成する線状部材6aは、200〜300本である。
【0026】
また、曲げ加工装置として、
図4に示すものを使用した。この曲げ加工装置2は、金型3と、固定クランプ4と、移動クランプ5と、スライド装置(図示省略)とを備える。本実験では、曲げ加工対象を金型に巻き付けて曲げ加工するストレッチベンド方式を用いた。繊維強化樹脂管状体1の左端は固定クランプ4に、右端は移動クランプ5によってそれぞれ保持される。固定クランプ4および移動クランプ5は、前後に移動可能な独立したスライド装置にそれぞれ設けられている。金型3のR部3aの曲率半径は284mmである。また、繊維強化樹脂管状体1の曲げ条件は、曲げ角度θ3(
図9(a))が10度、曲げ方向の内側の曲げ半径r、つまり、曲げ中心C(
図9(a))の曲率半径が300mmである。
【0027】
先ず、繊維強化樹脂管状体1の中に曲げ加工用芯材6を挿入して充填した後、繊維強化樹脂管状体1の左端を固定クランプ4に右端を移動クランプ5にそれぞれ取付け、繊維強化樹脂管状体1の曲げ予定領域VEを加熱装置(図示省略)によって加熱する。そして、曲げ予定領域VEが240℃に達し、曲げ予定領域VEを形成しているポリアミド樹脂が溶融してからスライド装置を前方(
図4において矢印F1で示す方向)、つまり金型3の方へ移動させる。そして、
図5に示すように、繊維強化樹脂管状体1が金型3に当接すると、左側の固定クランプ4が取付けられたスライド装置が停止する。一方、右側の移動クランプ5が取付けられたスライド装置は前進し、繊維強化樹脂管状体1には矢印F2で示す方向に引張荷重が掛かり、曲げ予定領域VEが金型3のR部3aに沿って曲がる。本実験では、移動クランプ5を介して繊維強化樹脂管状体1の右端に3500Nの引張荷重を掛けて曲げ加工を行った。そして自然冷却後、固定クランプ4および移動クランプ5から繊維強化樹脂管状体1を外し、曲げ加工用芯材6を抜いた(脱芯した)。
【0028】
(実験結果)
本願発明者らは、上述した手法によって曲げ加工された繊維強化樹脂管状体1の曲げ方向の内外方向の外径Aと、曲げ方向の上下方向の外径B(
図9(b))と、曲げ半径rとを測定した。また、扁平度(=B/A)を計算した。また、曲がった領域に座屈が発生していないか否か(曲げ性)を調べた。さらに、曲げ加工用芯材6の抜き易さ(脱芯性)を調べた。扁平度は、
図9に示すように、繊維強化樹脂管状体1の曲がった領域の曲げ中心Cを縦方向に切断し、内外方向の外径Aと、上下方向の外径Bとの比(B/A)を扁平度として計算した。曲げ加工を行う前の繊維強化樹脂管状体1は、潰れていないため、扁平度は1である。
そして、曲がった領域が座屈していない場合は、曲げ性が良好であるとして○を記し、座屈していた場合は、曲げ性が不良であるとして×を記した。また、曲げ加工用芯材6を抜くことができた場合は、脱芯性が良好であるとして○を記し、曲げ加工用芯材6を抜くことができなかった場合は、脱芯性が不良であるとして×を記した。
【0029】
その結果、
図10に示すように、第1実施形態(1)〜(3)の曲げ加工用芯材6を繊維強化樹脂管状体1に挿入して充填した場合は、いずれも曲げ性および脱芯性が良好であった(曲げ性判定が○、脱芯性判定が○)。また、扁平度は、いずれも1.01〜1.02であり、曲げ加工による繊維強化樹脂管状体1の変形が極めて小さかった。
【0030】
(考察)
本願発明者らは、上述した実験結果に基づき、本実施形態の曲げ加工用芯材6が、曲げ性および脱芯性に及ぼす効果について考察した。
前述したように、曲げ加工用芯材6は、長手方向と直交する断面の形状が正六角形の線状部材6aによって構成されているため、各線状部材6aの正六角形の辺同士が密着し、線状部材6a間の接触面積が大きくなる。これにより、曲げ荷重が発生した場合に、各線状部材6a間にズレが発生し難いため、線状部材6aを束ねて成る曲げ加工用芯材6の断面形状が、繊維強化樹脂管状体1の内部において変形し難い。
したがって、繊維強化樹脂管状体1を曲げたときに、その曲げ荷重によって線状部材6a同士が滑ってできた隙間に他の線状部材が入り込み線状部材束の断面形状が円形でなくなるという現象が発生し難く、曲げ加工用芯材6が変形し難いため、繊維強化樹脂管状体1の曲げる領域の断面が変形し難いと推測した。
また、各線状部材6aは、繊維強化樹脂管状体1を形成するポリアミド樹脂よりも加熱による塑性変形が発生し難いPEEK樹脂によりそれぞれ形成されているため、曲げ加工時にポリアミド樹脂が塑性変形した場合であっても、各線状部材6aが塑性変形するおそれがないので、曲げ加工用芯材6が変形し難く、繊維強化樹脂管状体1の曲げる領域の断面が変形し難いと推測した。
【0031】
(結論)
本願発明者らは、上述した実験結果および考察から、長手方向と直交する断面の形状が正六角形であり、かつ、繊維強化樹脂管状体を形成する熱可塑性樹脂よりも加熱による塑性変形が発生し難い材料により形成された複数の線状部材を束ねて成る曲げ加工用芯材を作成すれば、繊維強化樹脂管状体の曲げる領域の断面が変形し難い曲げ加工用芯材を提供することができると結論した。
【0032】
〈第2実施形態〉
次に、本発明の第2実施形態に係る曲げ加工用芯材について
図6を参照しつつ説明する。同図に示すように、本実施形態に係る曲げ加工用芯材7を構成する線状部材7aは、長手方向と直交する断面の形状が円形で中空(中空円形)の線状部材である。同図(c)に示すように、曲げ加工用芯材7は線状部材7aを束ねて構成されており、円筒形状を呈している。繊維強化樹脂管状体1に挿入された各線状部材7aは、周面同士を密着させている。なお、また、線状部材7aは、中空であるため、繊維強化樹脂管状体1に充填すると潰れて変形するが、同図(c)では、潰れた状態を誇張して表している。
【0033】
[実験2]
本願発明者らは、本実施形態の曲げ加工用芯材7を使用した場合の繊維強化樹脂管状体1の曲げ性を調べる実験を行った。
(実験内容)
本実験では、実験1において使用した繊維強化樹脂管状体1と同じ繊維強化樹脂管状体を使用した。また、実験1と同じ曲げ加工装置を使用し、実験1と同じ手順で繊維強化樹脂管状体1を曲げ加工した。曲げ加工用芯材7を構成する線状部材7aは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製である。PTFEの融点は327℃である。そして、外径φ4が1.5mm、内径φ3が1.0mmの線状部材7aを束ねた曲げ加工用芯材(第2実施形態(1))と、外径φ4が2.0mm、内径φ3が1.0mmの線状部材7aを束ねた曲げ加工用芯材(第2実施形態(2))と、外径φ4が3.0mm、内径φ3が1.0mmの線状部材7aを束ねた曲げ加工用芯材(第2実施形態(3))とを使用した。各曲げ加工用芯材7を構成する線状部材7aは、200〜300本である。
【0034】
(実験結果)
図10に示すように、第2実施形態(1)〜(3)の曲げ加工用芯材7を充填した繊維強化樹脂管状体1は、いずれも曲げ性が良好であり(曲げ性判定が○)、曲げ加工用芯材7の脱芯性も良好であった(脱芯性判定が○)。
【0035】
(考察)
本願発明者らは、上述した実験結果に基づき、本実施形態の曲げ加工用芯材7が、曲げ性および脱芯性に及ぼす効果について考察した。
前述したように、曲げ加工用芯材7は、長手方向と直交する断面の形状が円形で中空の線状部材7aによって構成されているため、繊維強化樹脂管状体1に挿入して充填するときに、各線状部材7aが潰れて変形する。このため、各線状部材7a同士の接触面積が大きくなる。これにより、曲げ荷重が発生した場合に、各線状部材7a間にズレが発生し難いため、線状部材7aを束ねて成る曲げ加工用芯材7の形状が、繊維強化樹脂管状体1の内部において変形し難い。
したがって、繊維強化樹脂管状体1を曲げたときに、その曲げ荷重によって線状部材7a同士が滑って線状部材7a間の隙間に他の線状部材が入り込み断面が変形する現象が発生し難く、曲げ加工用芯材7が変形し難いため、繊維強化樹脂管状体1の曲げる領域の断面が変形し難いと推測した。
また、各線状部材7aは、繊維強化樹脂管状体1を形成するポリアミド樹脂よりも加熱による塑性変形が発生し難いPTFEによりそれぞれ形成されているため、曲げ加工時にポリアミド樹脂が塑性変形した場合であっても、各線状部材7aが塑性変形するおそれがないので、曲げ加工用芯材7が変形し難く、繊維強化樹脂管状体1の曲げる領域の断面が変形し難いと推測した。
さらに、各線状部材7aはそれぞれ中空であるため、繊維強化樹脂管状体1を曲げ加工の前に加熱する際の熱が曲げ加工用芯材7に奪われ難いので、曲げる領域が目標温度に達する時間を短縮することができる。このため、繊維強化樹脂管状体1の曲げ加工効率を高めることができると推測した。
【0036】
(結論)
本願発明者らは、上述した実験結果および考察から、長手方向と直交する断面の形状が円形で中空であり、かつ、繊維強化樹脂管状体を形成する熱可塑性樹脂よりも加熱による塑性変形が発生し難い材料により形成された複数の線状部材を束ねて成る曲げ加工用芯材を作成すれば、繊維強化樹脂管状体の曲げる領域が変形し難い曲げ加工用芯材を提供することができると結論した。さらに、繊維強化樹脂管状体1の曲げ加工効率を高めることができる加工用芯材を提供することもできると結論した。
【0037】
〈第3実施形態〉
次に、本発明の第3実施形態に係る曲げ加工用芯材について
図7を参照しつつ説明する。同図に示すように、本実施形態に係る曲げ加工用芯材8は、コイル状の芯8aと、前述した第1実施形態において使用した縦断面形状が正六角形の線状部材6aとを備える。芯8aの周面と、繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aとの間には線状部材6aが充填されている。また、芯8aの内部には線状部材6aは充填されていない。芯8aは、コイルスプリング形状(螺旋状)に形成されており、ステンレス製である。また、芯8aは、フレキシブルチューブと同じ性質を有し、伸縮性および可撓性を有する。
【0038】
[実験3]
本願発明者らは、本実施形態の曲げ加工用芯材8を使用した場合の繊維強化樹脂管状体1の曲げ性を調べる実験を行った。
(実験内容)
本実験では、実験1において使用した繊維強化樹脂管状体1と同じ繊維強化樹脂管状体1(以下、本実施形態において繊維強化樹脂管状体Aという)と、連続炭素繊維の配向角度θ1を20度に設定してフィラメントを4層構造に捲回した繊維強化樹脂管状体(以下、本実施形態において繊維強化樹脂管状体Bという)とを使用した。また、実験1と同じ曲げ加工装置を使用し、実験1と同じ手順で繊維強化樹脂管状体1を曲げ加工した。曲げ加工用芯材7を構成する線状部材6aは、縦断面の正六角形の1辺の長さh1(
図3(b))が0.4mmのPEEK製である。そして、コイル径が23mmの芯8aの周囲を線状部材6aによって囲んだ曲げ加工用芯材を挿入した繊維強化樹脂管状体A(第3実施形態(1))と、コイル径が16mmの芯8aの周囲を線状部材6aによって囲んだ曲げ加工用芯材を挿入した繊維強化樹脂管状体B(第3実施形態(2),(3))と、コイル径が14mmの芯8aの周囲を線状部材6aによって囲んだ曲げ加工用芯材を挿入した繊維強化樹脂管状体A(第3実施形態(4))とを使用した。第3実施形態(2),(3)は、同じ曲げ加工用芯材については2回実験を行ったため、1回目を第3実施形態(2)とし、2回目を第3実施形態(3)とする。
【0039】
(実験結果)
図10に示すように、第3実施形態(1)の曲げ加工用芯材8を充填した繊維強化樹脂管状体1は、曲げ加工の途中で曲げ加工用芯材8が潰れたため、曲げることができなかった(曲げ性判定が×)。また、脱芯することもできなかった(脱芯性判定が×)。また、第3実施形態(2)〜(4)の曲げ加工用芯材8を充填した繊維強化樹脂管状体1は、曲げ性が良好であり(曲げ性判定が○)、曲げ加工用芯材8の脱芯性も良好であった(脱芯性判定が○)。
【0040】
(考察)
第3実施形態(1)の曲げ加工用芯材8は、芯8aのコイル径は23mmであり、繊維強化樹脂管状体1の内径φ2の27.2mmと比較すると、4.2mmの差しかない。つまり、第3実施形態(1)の曲げ加工用芯材8を繊維強化樹脂管状体1に挿入すると、芯8aの占める空間が大きく、芯8aの周囲と繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aとの間に介在する線状部材6aの数が少ないため、曲げ加工用芯材8の強度が不足しており、曲げ加工時に潰れたと推測した。
また、第3実施形態(2),(3)の曲げ加工用芯材8は、芯8aのコイル径がそれぞれ16mmであり、第3実施形態(4)の曲げ加工用芯材8は、芯8aのコイル径が14mmであり、いずれもコイル径23mmのものと比較すると、曲げ加工用芯材8を繊維強化樹脂管状体1に挿入したときの芯8aが占める空間も小さく、芯8aの周囲と繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aとの間に介在する線状部材6aの数も多いため、強度も十分あり、曲げ加工用芯材として十分機能したと推測した。
さらに、繊維強化樹脂管状体1を曲げた後に、芯8aを伸長させることにより、芯8aの径を細くし、曲げ加工用芯材8と繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aとの間に隙間を形成することができるので、繊維強化樹脂管状体1から曲げ加工用芯材8を容易に抜くことができた。さらに、コイル状の部材の中に線状部材を入れる必要がないため、その分、線状部材の数を減らすことができるので、曲げ加工用芯材を軽量化することもできると考えた。
【0041】
(結論)
本願発明者らは、上述した実験結果および考察から、長手方向と直交する断面の形状が正六角形であり、かつ、繊維強化樹脂管状体を形成する熱可塑性樹脂よりも加熱による塑性変形が発生し難い材料により形成された線状部材を、コイル状の芯の周囲を囲んで成る曲げ加工用芯材を作成すれば、繊維強化樹脂管状体の曲げる領域が変形し難い曲げ加工用芯材を提供することができると結論した。さらに、脱芯が容易で、かつ、軽量化を図ることができる曲げ加工用芯材を提供することができると結論した。
【0042】
〈第4実施形態〉
次に、本発明の第4実施形態に係る曲げ加工用芯材について
図8を参照しつつ説明する。同図に示すように、本実施形態に係る曲げ加工用芯材9は、前述の第1および第3実施形態において使用した線状部材6aと、本実施形態において使用する帯状部材9aとを備える。帯状部材9aは、繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aよりも摩擦係数が小さい。つまり、滑り易い材質により形成されている。本実施形態では、帯状部材9aは
ポリテトラフルオロエチレン製であり、繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aを形成しているポリアミド樹脂よりも摩擦係数が小さく滑り易い。本実施形態では、帯状部材9aとして、
ポリテトラフルオロエチレン加工されたスパイラルチューブ状のフレキシブルなものを展開してテープ状にしながら使用した。複数の線状部材6aが束ねられて成るものの周囲に帯状部材9aが捲回されている。
【0043】
[実験4]
本願発明者らは、本実施形態の曲げ加工用芯材9を使用した場合の繊維強化樹脂管状体1の曲げ性を調べる実験を行った。
(実験内容)
本実験では、実験1において使用した繊維強化樹脂管状体1と同じ繊維強化樹脂管状体を使用した。また、実験1と同じ曲げ加工装置を使用し、実験1と同じ手順で繊維強化樹脂管状体1を曲げ加工した。曲げ加工用芯材9を構成する線状部材6aは、縦断面の正六角形の1辺の長さh1(
図3(b))が0.4mmのPEEK製である。
【0044】
(実験結果)
図10に示すように、第4実施形態の曲げ加工用芯材9を充填した繊維強化樹脂管状体1は、曲げ加工が良好であり(曲げ性判定が○)、脱芯性も良好であった(脱芯性判定が○)。特に、曲げ加工用芯材9を繊維強化樹脂管状体1から容易に脱芯することができた。
【0045】
(考察)
曲げ加工用芯材9は、線状部材6aを束ねて成るものの周囲が
ポリテトラフルオロエチレン製の帯状部材9aによって包まれているため、曲げ加工用芯材9と繊維強化樹脂管状体1の内壁面1aとの摩擦が小さいため、容易に脱芯することができたと推測した。
部材9aが捲回されている。
【0046】
(結論)
本願発明者らは、上述した実験結果および考察から、繊維強化樹脂管状体を形成する熱可塑性樹脂よりも加熱による塑性変形が発生し難い材料により形成された線状部材を束ねて成るものの周囲が、繊維強化樹脂管状体の内壁面よりも摩擦係数が小さい部材によって包まれた曲げ加工用芯材を作成すれば、繊維強化樹脂管状体の曲げる領域が変形し難く、かつ、脱芯性に優れた加工用芯材を提供することができると結論した。
【0047】
〈他の実施形態〉
(1)長手方向と直交する断面の形状が楕円形、三角形、四角形、五角形、8角形、12角形などの線状部材を用いることもできる。また、それらの線状部材は中実でも良いし、中空でも良い。
(2)長手方向と直交する断面の形状が円形、楕円形および多角形の線状部材を混合して用いることもできる。また、それらの線状部材は中実でも良いし、中空でも良い。
(3)線状部材を形成する材料としては、軽量かつフレキシブルであり、さらに、熱吸収が少なく取り扱い易いという理由から、PEEKおよびPTFEなどの樹脂が好ましいが、金属材料でも良い。
(4)芯8aを形成する材料は、ステンレス以外に鉄や合金あるいは耐熱性の高い樹脂などでも良い。
(5)帯状部材9aとして、
ポリテトラフルオロエチレン加工されたスパイラルチューブ状のフレキシブルなものを展開してテープ状にしたものを使用したが、
ポリテトラフルオロエチレン製のテープを使用することもできる。
(6)PAN系炭素繊維に代えてピッチ系炭素繊維を用いることもできる。
(7)熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ABS、PES、PEEK、ポリイミド、PMMAなどを用いることもできる。
(8)炭素繊維に代えてガラス繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、フッ素繊維、鉱物繊維などを用いることもできる。
(9)繊維強化樹脂管状体の曲げ方式としてストレッチベンド方式に代えて、曲げ加工対象に金型を押し当てて曲げる、いわゆるスライドベンド方式を用いることもできる。
(10)繊維強化樹脂管状体の両端に引張荷重を掛けて曲げ加工する方法を用いることもできる。
【0048】
[特許請求の範囲と実施形態との対応関係]
繊維強化樹脂管状体1が請求項1に記載の管状体に対応し、帯状部材9aが請求項
2ないし請求項
4に記載の所定の部材に対応する。また、芯8aが請求項
5に記載のコイル状の部材に対応する。