(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトからなる地盤注入材を地盤に注入して地盤を固結する地盤注入工法であって、前記シリカ材に含まれる重金属の含有量が、地盤注入における目的に対応する一律排水基準値または環境基準値以下であり、
前記シリカグラウトが、前記シリカ材と、水ガラスと、酸性反応剤とを有効成分として含み、シリカ濃度が0.4〜50.0w/vol%であって、pHが1.0〜10.0の範囲であり、
前記シリカグラウトの気中ゲルタイム(GT0)と、気中pH(pH0)と、土中pH(PHs)と、土中ゲルタイム(GTs)とを確認し、該地盤注入材中の水ガラスの濃度や酸性反応剤の量を調整してシリカ材のバラつきや固結地盤の反応のバラつきを調整し、注入方式および注入設計から得られた注入時間(H)との関連を確認し、注入目的を満たす配合設計を行うことにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことを特徴とする地盤注入工法。
前記シリカグラウトが、前記シリカ材と、水ガラスと、酸性反応剤とを有効成分として含み、シリカ濃度が2〜40wt%、気中pH(pH0)が1〜4、気中ゲル化時間(GT0)が瞬結〜10000分/20℃であり、該シリカ材に由来するシリカ濃度が該シリカグラウトのシリカ濃度の10〜50%であって、該シリカグラウトに含まれる重金属の含有量が、地盤注入における目的に対応する一律排水基準値または環境基準値以下であり、pHを前記地盤のpH値よりも酸性側である1〜4の範囲とした該シリカグラウトを該地盤に注入して、土中における該シリカグラウトのpHを中性方向に移行させることにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項1記載の地盤注入工法。
前記地盤にあらかじめ一次注入材を注入した後、該地盤に二次注入材として前記シリカグラウトを注入することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項1または2記載の地盤注入工法。
地盤改良を行う地盤において、以下の(1)〜(8)の手法でシリカグラウトの配合設定を行うことにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項1〜3のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
(1)前記シリカグラウトの配合と、気中pH(pH0)と、気中ゲル化時間(GT0)との関係を確認する。
(2)前記地盤からの採取土と前記シリカグラウトとを用いて、該シリカグラウトの配合と、土中ゲル化時間(GTs)と、土中pH(pHs)との関係を確認する。
(3)前記採取土と前記シリカグラウトとを用いて、該シリカグラウトの配合と固結採取土の強度(qu)との関係を確認する。
(4)要求される地盤改良強度から前記シリカグラウトの配合のシリカ濃度を決定する。(5)注入対象土層における改良土の単位体積あたりの注入量を算出する。
(6)注入孔間隔と注入ステージ量とを決定し、単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Q)を算出する。
(7)毎分吐出量(q)を設定し、1ステージあたりの注入時間(H)を設定する。但し、毎分吐出量は、限界注入速度範囲内の吐出量をいう。
(8)注入時間(H)と土中ゲル化時間(GTs)との関係から、注入材の反応剤濃度を設定する。但し、注入時間(H)は、1ステージあたりの注入量を毎分吐出量で割った時間をいう。
注入対象地盤の地盤状況、注入孔間隔および単位ステージあたりの注入量に応じて、注入材の気中ゲル化時間(GT0)、注入材と前記地盤からの採取土とを混合した混合物のゲル化時間である土中ゲル化時間(GTs)、および、1ステージあたりの注入時間(H)の関係が、下記式(I)および/または(II)で示される関係を満足するように、注入材の配合処方を設定することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項4記載の地盤注入工法。
GT0>H≧GTs (I)
GT0>GTs≧H (II)
注入材の気中ゲル化時間(GT0)、注入材と前記地盤からの採取土とを混合した混合物のゲル化時間である土中ゲル化時間(GTs)、および、1ステージあたりの注入時間(H)の値を以下の範囲で設定して、注入範囲外への注入材の逸脱を低減することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項5記載の地盤注入工法。
(1)注入速度は限界浸透注入速度内とする(但し、限界浸透注入速度内とは、割裂・浸透注入速度よりも小さい浸透注入速度をいう。)。
(2)注入孔間隔または固結径:1.0〜3.0m。
(3)毎分注入速度q:1l〜30l/min(但し、限界浸透注入速度内とする。)。(4)1ステージ長:0.33m〜3.0m。
(5)1ステージあたりの注入時間H:4.4分〜10000分(但し、注入時間Hは現場の作業性や工期の短縮を考慮して短縮することができる。)。
(6)シリカグラウトの気中ゲル化時間GT0:10分〜10000分。
(7)シリカグラウトのpH(pH0):1.0〜10.0。
(8)シリカグラウトのシリカ濃度:0.4%〜50%(w/v%)。
(9)土中ゲル化時間GTs:10分〜3000分。
注入材を、点注入、多点注入、柱状注入、多点同時注入または柱状注入同時注入によって地盤に注入することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項5または6記載の地盤注入工法。
注入材を点注入によって地盤に注入するにあたり、以下の条件を満足することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項5〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
注入孔間隔:1m〜3m。
土中ゲル化時間(GTs):10分〜3000分。
注入速度(毎分吐出量):1l〜30l/min(但し、注入速度は限界浸透注入速度内とする。)。
1ステージあたりの注入量:132l〜10,800l。
1ステージあたりの注入時間(H):4.4分〜10,800分。
β=H/GTs(=10800/10〜4.4/3000):1080〜0.001。
注入材を柱状注入方式によって地盤に注入するにあたり、以下の条件を満足することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行う請求項5〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
1ステージあたりの注入量:132l〜10,800l。
注入速度:10l〜30l/min。
1ステージあたりの注入時間:4.4分〜1080分。
土中ゲル化時間(GTs):10分〜3000分。
β=H/GT0(=1080/10〜4.4/3000):108〜0.001。
【背景技術】
【0002】
地盤を固結する耐久性に優れた地盤注入材および注入工法として、本出願人によるコロイダルシリカを用いた注入材がすでに知られている(特許文献1,2)。コロイダルシリカはそれ自体が安定性に優れ、固結性がないため、塩および/または酸を加えて不安定化させてゲル化させるか(特許文献1)、あるいは、さらに水ガラスを加えて強度発現を速くしたり、長い浸透性をもつ酸性〜弱アルカリ性のpHに調整した、本出願人によるシリカグラウトが知られている(特許文献2)。
【0003】
これらのコロイダルシリカは、水ガラスのアルカリをイオン交換法により除去したシリカを弱アルカリ性のpH領域で増粒させてつくるか、または、金属シリカを溶解して製造される。これらはいずれも重金属等の汚染物質を含まないため、注入地盤の安全性は維持され、安全な地盤改良が多く実施されてきた。
【0004】
一方で、近年、火山地帯の地熱エネルギーを利用した地熱発電が注目されており、これに伴い、地熱水に含まれるシリカの処理方法やその利用方法が提案されている。地熱発電は、蒸気や熱水からなる地熱流体を地下から取り出して、発電に用いるものである。地下は高温高圧であり、多くの成分が地熱流体中に溶解しているため、地熱発電では、これらの成分が発電設備の腐食やスケールの原因となる。特に、地熱流体から熱を回収し、流体の温度が低下すると、熱水からシリカが析出してスケールになりやすい(非特許文献1)。
【0005】
このシリカスケールの熱水からの回収に関する技術として、地熱流体からの沈殿無定形シリカの製造方法が、特許文献3に記載されている。また、特許文献4には、地熱水由来のシリカを用いた地盤注入用固結材が開示されている。その一方、地熱発電では、環境汚染上の問題が多く指摘されている。
【0006】
例えば、特許文献3の記載によれば、地熱水にはヒ素などの汚染物質が多く含まれ、地熱水から取り出したシリカやシリカケーキを用いたシリカグラウトにも、汚染物質が含まれる危険があることがわかる。また、非特許文献2には、「…分離された熱水中にヒ素がふくまれていることが問題になった。…浴場排水地点ではいずれも環境基準0.05μg/mLを上回る0.54μg/mlのヒ素が検出された…施設従業員の頭髪中ヒ素量は正常値範囲と比較したとき、やや高濃度でありヒ素による何らかの異常暴露が疑われる結果」との内容が記載されている。
【0007】
これに対し、例えば、特許文献5には、ヒ素含有量が多い汚染土壌に対し鉄塩、半水石膏、及びセメント系固化材、石灰系固化材、マグネシア系固化材等を添加混合する方法が提示されている。このように、ヒ素の不溶化ではマグネシウム系が有効であることが分かる。また、特許文献6には、有害物質について、酸化マグネシウムと珪酸アルカリ金属塩によって不溶化を行う方法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献7には、本出願人による地盤注入工法であって、コロイド−水ガラス−酸または水ガラス−酸を有効成分とする注入工法について記載されている。
【0009】
さらに、非特許文献3には地熱熱水の環境基準の遵守について記載されており、非特許文献4には汚染状態に関する基準として土壌溶出量基準や地下水基準が記載されている。さらにまた、非特許文献5にはシリカスケール防止と地熱水中の全シリカ濃度が記載されており、非特許文献6には第二種特定有害物質の基準値や自然的上限値が記載されている。さらにまた、非特許文献7〜9は環境省ホームページであり、それぞれ一律排水基準の有害物質基準、地下水の水質汚濁に係る環境基準、および、土壌環境基準について記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、地盤注入用固結材として、地熱水由来のシリカを含有するコロイダルシリカを用いる技術は、すでに知られている(特許文献4)。しかし、地熱水中にはヒ素などの重金属が多量に含まれており、地熱水由来のシリカにも当然に重金属が含まれているため、そのシリカを用いた地盤注入材を地盤に注入した場合には、注入地盤が汚染される危険性が生ずる(非特許文献2)。よって、地熱水由来のシリカを地盤注入材に用いることができるように、汚染の原因を事前に取り除くことができれば、コストやCO
2削減の点において有利である。
【0013】
上記のような点から、本発明は、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトを用いても、土壌汚染を生ずることがない地盤注入材、その製造方法、および、それを用いた地盤注入工法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
地熱発電所の地盤から噴出する地熱水は、シリカを含むものである一方、火山地帯の地中深くボーリングし注水して噴出してくるものであるために、火山帯に含まれるヒ素等の有害重金属も含む場合がある。そのため、地熱水中のシリカをそのまま用いることによって、地盤が汚染されてしまうことが問題になる。以下に具体的に説明する。
【0015】
上記非特許文献2によれば、地熱水中に含まれる重金属の含有量は、例えばヒ素であれば、3か所から採取した結果が3.53、3.33、2.18mg/Lであった。また、特許文献3には、「地熱源から沈殿させたシリカの砒素による汚染は、沈殿シリカの最終用途により問題になったり・・・」(5頁左下欄14〜16行目)と記載され、表1〜表8には化学組成としてAsの含有量が記載されている。
【0016】
このように、地熱水においては重金属の含有量が環境基準値を上回っている場合があり、この地熱水中のシリカをそのまま使用すると地盤を汚染するおそれがある。また、所定の注入領域において注入目的通りの注入効果を得られないおそれがある。
【0017】
上述の値はヒ素の環境基準値0.01mg/Lを超えるため、このような地熱水や地熱水中から収集したシリカは、環境基準値以下にしなければ再利用はできない。そこで、重金属がヒ素の場合、ヒ素の不溶化方法において有効なマグネシウム系等の不溶化剤を用いて、不溶化を行うことができる。
【0018】
非特許文献5によれば、地熱水中の全シリカ濃度は775mg/Lであり、カウエロー産出井戸から採取された水の中には、1.90mg/kg〜2.26mg/kgのヒ素が含有されていることがわかる。このように、本発明は、地熱水には重金属、特にはヒ素が環境基準値以上に含まれており、この地熱水中のシリカを用いた地盤注入材は注入地盤を汚染する可能性があることから、このような汚染を生じない地盤改良技術に係るものである。
【0019】
非特許文献6によれば、地熱水における自然由来上限値での重金属含有量は39mg/kgである。このように自然由来であっても地熱水中には重金属が環境基準値を超えて含有されているため、汚染重金属を含有する地熱水中のシリカをそのまま再利用することは、注入地盤を汚染することになる。そこで本発明者らは、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトからなる地盤注入材であって、シリカ材に含まれる重金属の含有量が環境基準値または一律排水基準値以下であるもの、または、基準値以下に調整されたものを用いることで、土壌汚染を生じないか、または、基準値以上の重金属を含んでいても、必要最小限の不溶化剤で土壌汚染を生ずることのない地盤注入材および地盤注入工法を実現したものである。また、本発明によれば、地熱水の熱そのものでシリカをコロイド化しているため、シリカコロイド製造時におけるCO
2の排出を低減でき、地球温暖化防止にも寄与することができる。
【0020】
また、上述したように、地熱水中に含まれるシリカ材を地盤注入に用いる場合の最大の課題は、特許文献3の表1〜表8に記載されているようにヒ素のような有害重金属が含有されていること、および、ヒ素以外の成分としてかなりの量のSiO
2、Na、K、Li、Ca、Mg、Al、Rb、Cs、B、SO
4、Cl等が含まれ、かつ、その含有量が一律ではなく、地熱水の位置や濃度によって異なることにより、これを注入材として用いた場合のゲル化にバラつきが生じたり、あるいは、多様な地盤に注入した場合に地盤中の組成物と反応して土中におけるゲル化や固結強度にバラつきが生じることである。よって、地熱水中に含まれるシリカ材を地盤に注入するにあたっては、注入材そのもののゲルタイムとpH、すなわち、気中ゲルタイム(GT0)と、気中pH(pH0)と、それを地盤に注入した場合の土中pH(pHs)と、土中ゲルタイム(GTs)とを確認し、水ガラスの濃度や酸性反応剤の量を調整してシリカ材のバラつきや固結地盤の反応のバラつきを調整し、注入方式および注入設計から得られた注入時間(H)との関連を確認し、注入目的を満たす配合設計を行うことが要求される。また、注入目的を達するには、注入対象地盤からの注入材の逸脱を防ぎ、粗い層を懸濁液または瞬結性グラウトを一次注入して地盤を均質化してから、本シリカ材を注入することが望ましい。
【0021】
排水基準と環境基準の例を下記の表1に示す。第二種特定有害物質の基準として、土壌溶出量基準または地下水基準、第二溶出量基準、さらに、自然的要因の上限値の目安、および、一律排水基準を一覧にした。環境基準としては、地下水の水質汚濁に係る環境基準、および、土壌環境基準を記載した。
【0022】
【表1】
【0023】
土壌溶出量基準または地下水基準および第二溶出量基準は、非特許文献4より抜粋したものであり、自然要因の上限値の目安は非特許文献6より抜粋したものであり、一律排水基準は非特許文献7より抜粋したものであり、地下水の水質汚濁に係る環境基準は非特許文献8から抜粋したものであり、土壌環境基準は非特許文献9から抜粋したものである。
【0024】
ここで、第一種特定有害物質とは揮発性有機化合物であり、第二種特定有害物質は重金属類、第三種特定有害物質は農薬類である。本発明は重金属を不溶化して低減しているため、第二種特定有害物質について上記に示している。本発明において、地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属の不溶化は、目的に応じ、第二種特定有害物質が表に示すような基準値を満足するよう行う。
【0025】
以下に、汚染重金属の不溶化の例を説明する。複合汚染土に対する不溶化として、宇部マテリアルズ株式会社製のマグネシウム系の不溶化材である「グリーンライムMP−S」を使用した不溶化の一例を示す。配合量30kg/m
3を用いた試験では、ヒ素とセレンの含有量が約0.03mg/Lであったものが、養生6時間後には、土壌溶出量基準0.01mg/L以下まで低減している。マグネシウム系薬剤がヒ素を不溶化した事例である。よって、同様にして、地熱水中に含まれるヒ素やセレンなどの重金属を環境基準値以下に不溶化することが可能であることがわかる。
【0026】
すなわち、本発明の地盤注入工法は、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトからなる地盤注入材を地盤に注入して地盤を固結する地盤注入工法であって、前記シリカ材に含まれる重金属の含有量が、地盤注入における目的に対応する一律排水基準値または環境基準値以下であり、
前記シリカグラウトが、前記シリカ材と、水ガラスと、酸性反応剤とを有効成分として含み、シリカ濃度が0.4〜50.0w/vol%であって、pHが1.0〜10.0の範囲であり、
前記シリカグラウトの気中ゲルタイム(GT0)と、気中pH(pH0)と、土中pH(PHs)と、土中ゲルタイム(GTs)とを確認し、該地盤注入材中の水ガラスの濃度や酸性反応剤の量を調整してシリカ材のバラつきや固結地盤の反応のバラつきを調整し、注入方式および注入設計から得られた注入時間(H)との関連を確認し、注入目的を満たす配合設計を行うことにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことを特徴とするものである。
【0031】
本発明の地盤注入工法においては、前記シリカグラウトが、前記シリカ材と、水ガラスと、酸性反応剤とを有効成分として含み、シリカ濃度が2〜40wt%、気中pH(pH0)が1〜4、気中ゲル化時間(GT0)が瞬結〜10000分/20℃であり、該シリカ材に由来するシリカ濃度が該シリカグラウトのシリカ濃度の10〜50%であって、該シリカグラウトに含まれる重金属の含有量が、地盤注入における目的に対応する一律排水基準値または環境基準値以下であり、pHを前記地盤のpH値よりも酸性側である1〜4の範囲とした該シリカグラウトを該地盤に注入して、土中における該シリカグラウトのpHを中性方向に移行させることにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことが好ましい。
【0034】
また、本発明の地盤注入工法においては、前記地盤にあらかじめ一次注入材を注入した後、該地盤に二次注入材として前記シリカグラウトを注入することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことが好ましい。
【0035】
さらに、本発明の地盤注入工法においては、地盤改良を行う地盤において、以下の(1)〜(8)の手法でシリカグラウトの配合設定を行うことにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことが好ましい。
(1)前記シリカグラウトの配合と、気中pH(pH0)と、気中ゲル化時間(GT0)との関係を確認する。
(2)前記地盤からの採取土と前記シリカグラウトとを用いて、該シリカグラウトの配合と、土中ゲル化時間(GTs)と、土中pH(pHs)との関係を確認する。
(3)前記採取土と前記シリカグラウトとを用いて、該シリカグラウトの配合と固結採取土の強度(qu)との関係を確認する。
(4)要求される地盤改良強度から前記シリカグラウトの配合のシリカ濃度を決定する。(5)注入対象土層における改良土の単位体積あたりの注入量を算出する。
(6)注入孔間隔と注入ステージ量とを決定し、単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Q)を算出する。
(7)毎分吐出量(q)を設定し、1ステージあたりの注入時間(H)を設定する。但し、毎分吐出量は、限界注入速度範囲内の吐出量をいう。
(8)注入時間(H)と土中ゲル化時間(GTs)との関係から、注入材の反応剤濃度を設定する。但し、注入時間(H)は、1ステージあたりの注入量を毎分吐出量で割った時間をいう。
【0036】
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、注入対象地盤の地盤状況、注入孔間隔および単位ステージあたりの注入量に応じて、注入材の気中ゲル化時間(GT0)、注入材と前記地盤からの採取土とを混合した混合物のゲル化時間である土中ゲル化時間(GTs)、および、1ステージあたりの注入時間(H)の関係が、下記式(I)および/または(II)で示される関係を満足するように、注入材の配合処方を設定することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことができる。
GT0>H≧GTs (I)
GT0>GTs≧H (II)
【0037】
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、注入材の気中ゲル化時間(GT0)、注入材と前記地盤からの採取土とを混合した混合物のゲル化時間である土中ゲル化時間(GTs)、および、1ステージあたりの注入時間(H)の値を以下の範囲で設定して、注入範囲外への注入材の逸脱を低減することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことができる。
(1)注入速度は限界浸透注入速度内とする(但し、限界浸透注入速度内とは、割裂・浸透注入速度よりも小さい浸透注入速度をいう。)。
(2)注入孔間隔または固結径:1.0〜3.0m。
(3)毎分注入速度q:1l〜30l/min(但し、限界浸透注入速度内とする。)。(4)1ステージ長:0.33m〜3.0m。
(5)1ステージあたりの注入時間H:4.4分〜10000分(但し、注入時間Hは現場の作業性や工期の短縮を考慮して短縮することができる。)。
(6)シリカグラウトの気中ゲル化時間GT0:10分〜10000分。
(7)シリカグラウトのpH(pH0):1.0〜10.0。
(8)シリカグラウトのシリカ濃度:0.4%〜50%(w/v%)。
(9)土中ゲル化時間GTs:10分〜3000分。
【0038】
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、注入材を、点注入、多点注入、柱状注入、多点同時注入または柱状注入同時注入によって地盤に注入することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うことが好ましい。
【0039】
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、注入材を点注入によって地盤に注入す
るにあたり、以下の条件を満足することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うものとすることができる。
注入孔間隔:1m〜3m。
土中ゲル化時間(GTs):10分〜3000分。
注入速度(毎分吐出量):1l〜30l/min(但し、注入速度は限界浸透注入速度内とする。)。
1ステージあたりの注入量:132l〜10,800l。
1ステージあたりの注入時間(H):4.4分〜10,800分。
β=H/GTs(=10800/10〜4.4/3000):1080〜0.001。
【0040】
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、注入材を柱状注入方式によって地盤に注入するにあたり、以下の条件を満足することにより、組成が一律でない地熱水由来のシリカ材を用いて注入目的を満たす地盤固結を行うものとすることができる。
1ステージあたりの注入量:132l〜10,800l。
注入速度:10l〜30l/min。
1ステージあたりの注入時間:4.4分〜1080分。
土中ゲル化時間(GTs):10分〜3000分。
β=H/GT0(=1080/10〜4.4/3000):108〜0.001。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトを用いても、土壌汚染を生ずることがない地盤注入材、その製造方法、および、それを用いた地盤注入工法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0045】
本発明の地盤注入材は、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を有効成分として含むシリカグラウトからなり、シリカ材に含まれる重金属の含有量が、一律排水基準値または環境基準値以下であるものである。これにより、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を用いたシリカグラウトを、地盤改良に利用できるとともに、上記本発明の地盤注入材を地盤に注入することで、土壌を汚染することなく地盤を固結できる地盤注入材および地盤注入工法を実現することができ、また、シリカコロイド製造時におけるCO
2の排出を低減できるため、地球温暖化防止にも寄与することができる。さらに、地熱水中に含まれるシリカを収集したシリカ材を、地盤注入に適合する1〜100nmの粒径まで微細化して用いることで、シリカスケールやシリカケーキを含むシリカ分の地盤注入への適合量を増大して、地熱水中のシリカの有効利用率を高め、経済性を向上することができる。
【0046】
本発明における地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属の含有量は、例えば、不溶化材を用いて重金属を不溶化することにより、低減することができる。シリカ材に含まれる重金属の含有量を低減することにより、シリカグラウトに含まれる重金属の含有量を、一律排水基準値または環境基準値以下に調整することができる。その他の重金属の除去、回収方法としては、硫酸多糖をビーズ、多孔性吸着部材などの固定化担体に固定化し、これを産業廃液中に投入し、遠心法、沈降法などで回収する方法や、産業廃液中に硫酸多糖を直接投入し、遠心法、沈降法などで回収する方法などといった、従来の環境汚染物質などの除去、回収方法を利用することができる。具体的には、重金属の不溶化は、例えば、宇部マテリアルズ株式会社製の不溶化材を用いて、先に述べた不溶化の事例と同様にして、実施することができる。本発明の地盤注入材においては、重金属の中でも、特に、生物に対する毒性が高いことが知られるヒ素の含有量が低減されていることが好ましい。
【0047】
地熱水中のシリカを収集したシリカ材を、重金属を不溶化せずに用いた場合には、地盤を重金属で汚染してしまうおそれがある。よって、地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属の含有量を、環境基準値または一律排水基準値以下まで低減して用いたシリカグラウトからなる地盤注入材を使用する。シリカ材における重金属の含有量については、表1に示す目的に対応する基準値以下に調整することができ、このようなシリカ材を用いることにより、効率的に不溶化を行うことができ、地盤注入に用いることができる。また、地熱水中のシリカを収集したシリカ材の重金属の含有量を分析して一律排水基準値または環境基準値以下であることを確認したシリカ材については、そのまま地盤注入材として用いることもできる。
【0048】
また、本発明においては、目的に応じ、地熱水中のシリカを収集したシリカ材として、重金属の含有量を分析して、さらに、第二種特定有害物質の含有量が環境基準値以下に低減されたものを用いることが好ましい。これにより、土壌汚染をより効果的に防止することができる。
【0049】
本発明の地盤注入材としては、上記地熱水に含まれるシリカを収集したシリカ材とともに、水ガラスと、酸性反応剤とを有効成分として含み、特には酸、塩およびアルカリからなる群から選択されるいずれか一種または複数種を含む地盤注入材を好適に用いることができる。また、本発明の地盤注入材は、非アルカリ性であることが好ましい。具体的には、本発明の地盤注入材としては、重金属を不溶化して低減したシリカ材を、特許文献1,特許文献2などに記載されている配合に置き換えて用いることができる。本発明の地盤注入材のその他の構成については限定されず、水ガラスや酸成分などは、通常、地盤注入材で用いられるものであれば、幅広く使用できる。
【0050】
例えば、活性シリカ、コロイダルシリカ、金属シリカ等のシリカの他、水ガラスの原液を希釈せずに使用することもでき、これらから選択される複数種を併用してもよい。注入材としては、pH1.0〜10.0の範囲内で瞬結から緩結までゲルタイムを自由に調整することができ、シリカ濃度についても、0.4〜50.0w/vol%の範囲内で目的の地盤強度に合わせて調整することができる。練り混ぜ水としては、工業用水や海水を用いてもよく、清水でなくても、注入材が通常通り練り混ざるものであれば使用することができるので、施工箇所は限定されない。水ガラスからイオン交換法によって得られるアルカリを除去した活性シリカは、シリカ粒径が1〜5nmに成長して数日後にはゲル化するが、微量の水酸化ナトリウムや水ガラスを加えて弱アルカリ性に安定化させたコロイダルシリカは、上述の活性シリカを加熱することにより濃縮増粒し、pHを9〜10に調整することで安定化して得られる。このようにして得られたコロイダルシリカは、シリカ濃度が5%以上、通常は30%程度であり、また、粒径が5〜100nm、通常は5〜20nmであって、重金属の問題はなく、地盤を汚染することはない。しかし、本発明に係るシリカ材は、地熱によって地中のシリカが重合してコロイド化しているため、CO
2の排出量が少ない点では自然環境によいことになる。
【0051】
非アルカリシリカグラウトとして、酸としては、例えば、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸、スルファミン酸等の無機酸、および、これらの混酸を用いることができる。その他の鉱酸等、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、その他の有機酸等を幅広く使用することができるが、その中でも硫酸、リン酸および有機酸のうちの少なくとも一種が好ましい。塩としては、例えば、多価金属の無機塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウムなどが挙げられる。アルカリとしては、例えば、消石灰、苛性アルカリ、スラグ、セメント等が挙げられる。本発明の注入材には、さらに、多価金属化合物を配合することもできる。
【0052】
上記のようなシリカグラウトは、シリカ濃度5〜30%であって、シリカ濃度6%のときのサンドゲル強度が、相対密度にもよるが0.2〜0.5MN/m
2であり、シリカ濃度4〜12%のときのサンドゲル強度が0.1〜2.0MN/m
2である。本発明のシリカグラウトも以下に述べる手法を用いて注入材を調整し、また、注入対象地盤との反応性を調整することによって、このような効果を得ることができるので、特許文献1,特許文献2のコロイダルシリカ等の代わりに、本発明に係る、重金属の含有量を低減したシリカ材を置き換えて用いればよい。したがって、配合については、特許文献1,特許文献2に準ずればよいので、詳細は省略する。
【0053】
本発明の地盤注入材は、地盤改良(補強)、液状化防止、耐震補強、住宅持ち上げなどに、幅広く適用できる。
【0054】
本発明においては、シリカを含有する地熱水中のシリカを収集したシリカ材に重金属が一律排水基準値または環境基準値を超えて含有されているかどうかを事前に確認し、目的に応じ、基準値以下であれば、不溶化材を含有しない地熱水中のシリカを収集したシリカ材を用いた地盤注入材を、地盤に注入することができる。また、地熱水中のシリカを収集したシリカ材における重金属の含有量が基準値を超えていた場合には、このシリカ材中の重金属を不溶化してその含有量を低減したのち、得られたシリカ材をそのまま注入材に用いることができる。さらに、不溶化材を含有する地熱水中のシリカを収集したシリカ材をそのまま用いて地盤注入材として作液し、重金属の不溶化を同時に行うことにより、重金属の値を基準値以下にすることもできる。地熱水中のシリカを収集したシリカ材に含まれる重金属が単一であることが確認できれば、その重金属に対して有効な不溶化材のみを適宜併用することができる。
【0055】
本発明によれば、地盤中に重金属が存在した場合でも、地盤注入材に不溶化材が含まれているため、同時に不溶化することが可能となる。
【0056】
不溶化するために用いる薬剤(不溶化材)としては、第二鉄系、第一鉄系、りん酸系、キレート剤、硫化物、チタン系、セリウム系、カルシウム系、マグネシウム系などが使用される。これらは地盤注入材の成分として使用されている場合があるが、本発明ではこれらの不溶化材を用い、注入材自体に含まれる重金属を基準値以下の量とすることにより、地熱水中のシリカを収集したシリカ材を用いた地盤汚染のない地盤改良を可能にしたものである。これらの薬剤の中には劇物や危険物などに指定されているものもあるため、毒物および劇物取締法、危険物船舶運送および貯蔵規則、消防法などの法令を遵守し、取扱いには注意が必要である。本発明では、事前に地熱水中のシリカを収集したシリカ材の重金属を不溶化してから使用するため、このような確認事項は不要となる。
【0057】
本発明において用いるシリカを含む地熱水としては、発電方式はフラッシュ式でもバイナリー式でもよく、その他の地熱発電方式を使った地熱水でもよい。
【0058】
本発明において、地熱水中のシリカを収集したシリカ材に由来するシリカ濃度は30%、コロイダルシリカとしての平均粒径は1〜100nm、特には5〜20nmの範囲であることが、耐久地盤の形成に優れているため、好ましい。シリカ濃度としては制限されないが、20〜50%であることが好ましく、20〜30%であることがより好ましい。
【0059】
また、本発明においては、超音波発生装置を併用することで、上記シリカ材をさらに微細に粉砕して用いたり、浸透性を良くすることもできる。また、注入材に、カチオン系、アニオン系、非イオン系などの界面活性剤を併用することや、分散剤(花王ケミカル社製のマイティ150など)を併用することによっても、浸透性を良くすることができる。さらに、高圧ポンプ攪拌によって微細化することもでき、例えば、スギノマシン社製のスターバースト等の湿式微粒子化装置を用いることもできる。さらにまた、
図1に示すような装置を用いて、シリカ材を粉砕して微細化すると同時に、マイクロ・ナノバブルの作用で浸透性をよくすることもできる。
【0060】
なお、
図1はマイクロバブルをシリカ溶液に混入する装置であるが、エアコンプレッサー7およびエア管16を使用しなくても(b),(c)の円錐状の溶液導入路12に上記シリカ材を通すことによって、シリカ材を粉砕、微細化することができる。
【0061】
図1は、マイクロ・ナノバブル製造装置を含む地盤改良装置の一実施形態を示す説明図である。符号1は、微細気泡(マイクロバブル)が混入されたシリカ溶液(以下、「シリカバブル」とも称する)を生成するための加圧タンクであり、この加圧タンク1内にマイクロバブル発生装置2が設置されている。符号3は、加圧タンク1内に送液管4を介して送り込まれるシリカ溶液の原料液を配合するための原料液配合ミキサーであり、符号5は、加圧タンク1内のシリカ溶液を加圧タンク1とマイクロバブル発生装置2との間を送液管6を介して循環させる注入液循環ポンプ(薬液循環ポンプ)である。符号7は、加圧タンク1内に圧縮空気を送り込んで加圧タンク1内を加圧しつつ、マイクロバブル発生装置2にエアを送り込むエアコンプレッサーであり、符号8は、加圧タンク1内で生成されたシリカバブルを地盤中に注入管9を介して注入するための注入ポンプである。符号10は、マイクロバブル発生装置2、原料液配合ミキサー3、注入液循環ポンプ5および注入ポンプ8にそれぞれ信号ケーブル11を介して接続され、これらを適正に制御するコントローラー(集中管理装置)である。
【0062】
マイクロバブル発生装置2は、
図1(b),(c)に示すように、内径が下端から上端方向に徐々に小径となる円錐形状の溶液導入路12と、この溶液導入路12の直上に接し、円筒形状をなす溶液放出路13を備えている。溶液導入路12の下端部は、注入液循環ポンプ5から伸びる送液管6に接続され、上端部は溶液導入孔14を介して溶液放出路13に連通している。溶液放出路13の内径は、少なくとも溶液導入路12の上端部の内径より大きく形成され、上端部は加圧タンク1内に大きく開口している。また、溶液導入孔14の内壁部にはエア吐出口15が形成され、このエア吐出口15はエアコンプレッサー7から延びるエア管16に接続されている。
【0063】
このような構成において、注入液循環ポンプ5が作動し、加圧タンク1内のシリカ溶液が送液管6を介して加圧タンク1とマイクロバブル発生装置2との間を循環し、同時にエアコンプレッサー7が作動してエア吐出口15から溶液導入孔14内にエアが吐出することにより、溶液放出路13の上端部から加圧タンク1内にシリカバブルが生成されて放出される。この場合、送液管6を介して溶液導入路12内にシリカ溶液が圧送されることにより、溶液導入路12内にはシリカ溶液の旋回流が形成される。
【0064】
そして、シリカ溶液は溶液導入路12内をその内周面に沿って旋回しながら溶液導入孔14方向に流れ、溶液導入孔14を通って溶液放出路13内に流れ込む。なお、
図1(b),(c)において、矢印はシリカ溶液の旋回流を示す。また、溶液放出路13内でシリカ溶液の旋回流が形成されることにより、溶液放出路13の中心軸上付近に負圧部分が形成され、この負圧によってエア吐出口15から溶液導入孔14内にエアが吐出される。
【0065】
なお、
図1(d)に示すように、溶液導入路12にシリカ溶液を圧送するための送液管6を溶液導入路12の内周面の接線方向に接続することにより、溶液導入路12内におけるシリカ溶液の旋回流をシリカ溶液の流れによって確実に形成することができる。
【0066】
溶液放出路13内に吐出されたエアは、圧力が最も低い溶液放出路13の中心軸上付近を溶液放出路13の開口端方向(上方向)に流れ、細い紐状の旋回気体空洞部αを形成する。また、溶液放出路13内では溶液導入孔14から溶液放出路13の先端の間においてシリカ溶液とエアとからなる旋回気液混合体流βが旋回気体空洞部αと共に形成される。この旋回気液混合体流は縮径されて先細りになった後、切断されてマイクロバブルを生成し、その後、溶液放出路13の先端部に向かって大きく旋回しながら流れ、溶液放出路13の開口端部から加圧タンク1内に放出される。
【0067】
このように旋回気液混合体流βが旋回すると、シリカ溶液とエアの比重差からシリカ溶液に遠心力、エアに向心力がそれぞれ同時に作用する。このため、エアは溶液放出路13内の中心軸線における溶液放出路13の先端付近まで紐状に続き、溶液放出路13の先端付近の前後で大きな旋回速度差の発生によって連続的に切断されるので、大量のマイクロバブルが溶液放出路13の端部付近で発生し、加圧タンク1内に放出される。
【0068】
このようにして生成されたバブルが混入されたシリカ溶液(シリカバブル)は、注入ポンプ8が作動することにより、圧送管17を介して注入管9に送り込まれ、注入管9を介して地盤中に注入される。
【0069】
本発明において、地熱水中のシリカの回収方法としては、限外ろ過や濃縮などを行ってもよい。
【0070】
地熱水から得られるシリカ分の粒径は、シリカケーキやシリカスケールも含めて1nm程度から数μm以上のものもある。それらから地盤注入に適合する粒径1〜100nmのシリカ分を得るには、限外ろ過膜を用いて溶質分子径の大きさに対する「分子ふるい」効果を用いるが、この場合、液体を全量通過させてろ過を行うことができるものの、孔の大きさが小さいために阻止された微粒子や不純物により短時間で膜が閉塞されやすいという問題がある。本発明においては、限外ろ過膜を用いて上述した地盤注入に適した粒径のシリカをふるい分けて使用することもできるが、上述したように、収集したシリカ材を粉砕、急速攪拌、加圧噴射、超音波および湿式微粒子化のうちのいずれかの手段を用いて微細化して用いることもできる。その場合、界面活性剤や分散剤、マイクロ・ナノバブルのうちのいずれか1種以上を併用することも効果的である。
【0071】
従来のコロイドを有効成分とするシリカグラウトにおいては、水ガラスからコロイドを形成するのに多くの熱量を必要とし、したがってCO
2排出量が大きいのに対し、本発明では、地熱水による熱エネルギーを利用してシリカコロイド化を得ることにより、CO
2の排出量が少なく良い点を利用しながら、地熱水につきもののヒ素(As)などの汚染性重金属の含有量を基準値以下とした環境保全性に優れた地盤改良工法を提供することができる。また、地熱水を起源とするシリカ材は地熱水中の種々の塩を含有するため、広範囲の地盤改良のためにはゲル化時間が短縮しやすいという問題、および、その塩の含有量や組成が一律でないことから多様な地盤に注入した場合に地盤中におけるゲル化が一律でないだけでなく固結性が一律でないという問題を、本発明では後述する手法により、多様な地盤条件、注入条件、施工条件、適用工法において、所定の注入効果を上げることを可能にしたものである。
【0072】
上述したように、地熱水中に含まれるシリカ材を地盤注入として用いる場合の最大の課題は、特許文献3の表1〜表8に記載されているようにヒ素のような有害重金属が含有されていることと、ヒ素以外の成分としてSiO
2、Na、Ca、Al、Cl等が含まれ、かつ、その含有量が一律ではなく、地熱水の位置や濃度によって異なることにより、注入材のゲル化にバラつきが生じたり、あるいは、多様な地盤に注入した場合に地盤中の組成物と反応して土中におけるゲル化や強度にバラつきが生じることである。よって、本発明に係るシリカ材を地盤に注入するにあたっては、注入材そのもののゲルタイムとpH、すなわち、気中ゲルタイム(GT0)と、気中pH(pH0)と、それを地盤に注入した場合の土中pH(pHs)と、土中ゲルタイム(GTs)とを確認し、注入方式および注入設計から得られた注入時間(H)との関連を確認し、注入目的を満たす配合設計を行うことが要求される。また、注入目的を達するには、注入対象地盤からの注入材の逸脱を防ぎ、粗い層にあらかじめ一次注入材としての懸濁液または瞬結性グラウトを注入して地盤を均質化してから、本発明に係るシリカグラウトを二次注入材として注入することが望ましい。
【0073】
一次注入材としては、瞬結性またはアルカリ性を呈する懸濁液からなる注入材を用いることが好ましい。具体的には、一次注入材としては、セメント、ベントナイト、スラグ、カルシウムシリケート、石灰、石膏および炭酸マグネシウムのうちいずれか1種または複数種を有効成分とするものを用いることができる。
【0074】
本発明においては、シリカグラウトのシリカ濃度が2〜40wt%であって、注入材の気中ゲル化時間(GT0)が瞬結〜10000分/20℃であり、かつ、シリカ材に由来するシリカ濃度がシリカグラウトのシリカ濃度の10〜50%であって、注入材の気中pH(pH0)が1〜4であることが好ましい。
【0075】
図2より、非アルカリ性シリカグラウトのpHとゲル化時間とシリカ濃度の関係としては、非アルカリ性シリカグラウトはゲル化時間が10,000分までの長いゲル化時間が可能で、かつ、注入材が地下水で希釈されてもゲル化し、固結性を保つことがわかる。また、
図2,3より、pHが中性に近い地盤に注入されると、非アルカリ性シリカはゲル化時間の長い酸性シリカグラウトでも中性方向にpHが移行してゲル化時間が短縮してゲル化することがわかる。
【0076】
よって、本発明においては、シリカグラウトのpHを地盤のpH値よりも酸性側である1〜4の範囲として、このシリカグラウトを地盤に注入することにより、土中のpHを中性方向に移行させて、地盤を固結することができる。
【0077】
図4は、実際の種々の地盤において、注入目的を達した非アルカリ性シリカグラウト(SiO
2濃度・6w/v%)の注入材の気中pH(PH0)と土中ゲルタイム(GTs)の関係の例を示す。ここで、土中ゲルタイム(GTs)とは、注入対象地盤からの採取土と注入材の混合物、または、採取土に注入材を浸透させた試料のゲルタイムをいう。また、地盤のpHをpHsとすると、pHs=5〜8付近にある。
【0078】
本発明者らの研究によれば、広範囲の浸透に必要な注入時間(H)より土中ゲルタイム(GTs)が短くても、
図6に示すように、地盤中で注入材がゲル化しかかったサンドゲルの表皮を超えながら浸透固結領域を拡大させて、所定の注入量に相当する注入土量の固結体を形成することがわかった。また、
図5に、一次注入材としてセメント・ベントナイトを用い、二次注入材として非アルカリ性シリカグラウトを重ねて注入した場合のゲル化時間の短縮例を示す。一次注入材の地盤中における注入率が多いと、二次注入材のゲル化時間は短縮するため、二次注入材の注入領域外への逸脱は低減する。しかし、
図6の挙動によって、所定の注入量に相当する固結体を形成する。
【0079】
次に、上述したように組成が一律でない本発明に係るシリカ液の配合を、所定範囲から逸脱することなく広い注入間隔を用いて大きな固結径を形成するための本発明の工法について説明する。長い気中ゲル化時間(GT0)の非アルカリ性の本シリカグラウトを用いて、低い注入速度(q(L/min))で、注入時間(H)をかけて、注入範囲外への逸脱を低減しながら広範囲に所定注入量を浸透固結させる注入材の配合組成を、以下のように設定する。
【0080】
この場合、GT0≧H≧GTsとすると、これは
図6に示すように、pHが中性側の地盤にゲル化しかかった注入材を乗り越えて浸透することがわかった。この場合、非アルカリ性の注入材のpHが上昇するにつれ、注入材がゲル化しかかり、さらに、その上をpHが低い注入材が乗り越えてpHが上昇してゲル化が進行することを繰り返しながら、固結領域を拡大するという挙動を利用して、注入孔を広くとって注入範囲を広くしても所定範囲外へ逸脱することなく、所定の領域を固結することが可能となった。
【0081】
また、この場合、採取土と注入材で固結した固結採取土の強度(qu)が、設計強度を満たすシリカ濃度とする。なお、注入時間(H)は、1ステージあたりの注入量を限界注入速度の範囲内で割った時間である。
【0082】
注入材を土粒子間に浸透せしめるためには、
図7に示すように、割裂注入領域の限界よりも低い注入速度q(L/min)で注入しなくてはならない。点注入を用いる場合には、
図8(イ)に示すように、浸透半径を大きくするには高い注入圧力を必要とし、割裂注入領域に入ってしまう。しかし、本発明のように柱状浸透を用いれば、
図8(ロ)に示すように、同一条件下で柱状浸透源の高さを大きくして注入速度を大きくしても、低圧で浸透注入できることがわかる。
【0083】
下記の表2(a)は、注入方式とステージ長と注入時間(H)の関係を示す。また、表2(b)は、ステージ長と注入時間(H)と配合液のゲル化時間(GT0)と土中ゲル化時間(GTs)の例を示す。なお、表2中の受持土量は、実際は円柱であるが、便宜上角柱として計算した。
【0085】
以上の手法によって地盤の均質化をはかって注入地盤を拘束したうえで、大きな注入孔間隔でも所定の範囲外へ逸脱することなく所定の注入量に相当する固結体を形成するための注入材の処方を適用しなくてはならない。そのための手順を、以下に述べる。
【0086】
1)対象となる土を用いて、所定の密度で要求される強度が得られるシリカ濃度を設定する。
2)所定のシリカ濃度を用いて、pHまたは添加剤に対応したゲル化時間(GT0)を有するシリカグラウト配合液を調製する。
3)その配合液を用いて、現場土と混合して土中ゲル化時間(GTs)を測定する。
4)想定する注入孔間隔、注入方式、1注入ステージ長より、単位ステージの固結土量を設定する。(表2(a))
5)単位ステージの固結土量から所定注入量を算出し、浸透可能限界内の注入速度から単位ステージあたりの注入時間(H)を設定する。(表2(a))
6)注入対象地盤の地盤状況、注入孔間隔および単位ステージあたりの注入量に応じて、下記式(I)および/または(II)で示される関係を満足するように、注入材の配合処方を設定する(表2(b))。
GT0>H≧GTs (I)
GT0>GTs≧H (II)
【0087】
以上の条件を満たすように、注入孔間隔、注入方式(点注入、柱状注入、多ステージ同時注入または選択注入)、単位ステージ長、毎分吐出量を設定する。
【0088】
表2(a)に、注入孔間隔と1ステージ長と毎分吐出量q(L/min)と注入時間Hの関係を示す。また、
図2および表2(a)より、本発明において、広い注入孔間隔、低い吐出量、長いゲル化時間で長時間注入して所定領域からの逸脱を低減しつつ土粒子間に注入材を浸透させるためには、β=H/GTsとすると、β=1080〜0.001の範囲で注入材の配合処方を設定すればよいことが判る。但し、GT0=10000分〜10分、GT0≧H≧GTsである。
【0089】
以上より、本発明は複雑な土層からなる地盤条件下で地表面や粗い土層に逸脱しにくい地盤改良を可能にするが、さらに注入孔間隔を広くとっても、所定注入領域外に注入材が逸脱することなく所定の注入量に相当する固結体を形成することが可能になる。
【0090】
以下に、具体例を示す。
注入孔間隔:1m〜3m。(表2(a))
土中ゲル化時間(GTs):10〜3000分。(
図4)
注入速度(毎分吐出量):1〜30l/min。(表2(a))
但し、注入速度は限界浸透注入速度内とする。(
図7)
1ステージあたりの注入量:132l〜10,800l。(表2(a))
1ステージあたりの注入時間(H):4.4分〜10,800分。(表2(a))
β=H/GTs=10800/10〜4.4/3000=1080〜0.001。
【0091】
また、表2(a)より、点注入に限定して毎分吐出速度を1〜25L/minとすれば、H=5.28分〜10,800分となり、同様に計算できる。
【0092】
なお、注入材を柱状注入方式によって地盤に注入する場合に限定すると、以下のとおりである。
1ステージあたりの注入量:132l〜10,800l。(表2(a))
注入速度:10l〜30l/min。(表2(a))
1ステージあたりの注入時間:4.4分〜1080分。(表2(a))
土中ゲル化時間(GTs):10〜3000分。(
図4)
β=H/GT0=1080/10〜4.4/3000=108〜0.001。
【0093】
以上の条件を満たす注入材の配合処方と、注入孔間隔、単位ステージ、毎分注入量、1ステージあたりの注入時間Hからなる注入設計を行えばよい。また、
図5より、一次注入と二次注入を行う複合注入の場合、土中ゲルタイムは通常はほぼ10分程度になるとみてよい。
【0094】
また、
図9−1,9−2に、注入方式と、点注入、柱状注入、同時注入および一次注入の例を示す。本発明において、注入材は、点注入、多点注入、柱状注入、多点同時注入または柱状注入同時注入によって地盤に注入することができる。
【0095】
本発明においては、地盤改良を行う地盤において、以下の(1)〜(8)の手法でシリカグラウトの配合設定を行うこともできる。
(1)シリカグラウトの配合と、気中pH(pH0)と、気中ゲル化時間(GT0)との関係を確認する。
(2)地盤からの採取土とシリカグラウトとを用いて、シリカグラウトの配合と、土中ゲル化時間(GTs)と、土中pH(pHs)との関係を確認する。
(3)採取土とシリカグラウトとを用いて、シリカグラウトの配合と固結採取土の強度(qu)との関係を確認する。
(4)要求される地盤改良強度からシリカグラウトの配合のシリカ濃度を決定する。
(5)注入対象土層における改良土の単位体積あたりの注入量を算出する。
(6)注入孔間隔と注入ステージ量とを決定し、単位ステージあたりの受持土量から1ステージあたりの注入量(Q)を算出する。
(7)毎分吐出量(q)を設定し、1ステージあたりの注入時間(H)を設定する。但し、毎分吐出量は、限界注入速度範囲内の吐出量をいう。
(8)注入時間(H)と土中ゲル化時間(GTs)との関係から、注入材の反応剤濃度を設定する。但し、注入時間(H)は、1ステージあたりの注入量を毎分吐出量で割った時間をいう。
【0096】
また、本発明においては、注入材の気中ゲル化時間(GT0)、注入材と地盤からの採取土とを混合した混合物のゲル化時間である土中ゲル化時間(GTs)、および、1ステージあたりの注入時間(H)の値を以下の範囲で設定して、注入範囲外への注入材の逸脱を低減することができる。
(1)注入速度は限界浸透注入速度内とする(但し、限界浸透注入速度内とは、割裂・浸透注入速度よりも小さい浸透注入速度をいう。)。
(2)注入孔間隔または固結径:1.0〜3.0m。
(3)毎分注入速度q:1l〜30l/min(但し、限界浸透注入速度内とする。)。
(4)1ステージ長:0.33m〜3.0m。
(5)1ステージあたりの注入時間H:4.4分〜10000分(但し、注入時間Hは現場の作業性や工期の短縮を考慮して短縮することができる。)。
(6)シリカグラウトの気中ゲル化時間GT0:10分〜10000分。
(7)シリカグラウトのpH(pH0):1.0〜10.0。
(8)シリカグラウトのシリカ濃度:0.4%〜50%(w/v%)。
(9)土中ゲル化時間GTs:10分〜3000分。
【0097】
本発明においては、シリカグラウトが、シリカ分0.4〜50.0w/v%、pH1〜10であって、シリカ材と、水ガラスと、酸性反応剤として酸または塩のいずれか1種または複数種を有効成分として含み、シリカ材に起因するシリカ量がシリカグラウト中のシリカ量の10〜50%であり、注入材のゲル化時間が瞬結〜10000分となる配合であることが好ましい。
【0098】
本発明は、主に地盤の止水性向上、強度増大、液状化防止に適し、大きな吐出量の注入材を、孔壁周囲の地盤中に、低圧力で、広範囲かつ均一に浸透注入させることができる。本発明は、不均質地盤でも大きな固結径でかつ所定範囲以外への逸脱を低減し、経済的で確実に地盤改良を実施することができる。
【課題】地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトを用いても、土壌汚染を生ずることがない地盤注入材、地熱水中に含まれるシリカ分の地盤注入材としての適合量を増やして地熱水中のシリカ分を有効に活用する地盤注入材、その製造方法、および、シリカ材の組成にバラつきがあっても多様な地盤に注入して所定の注入効果が得られる地盤注入工法を提供する。
【解決手段】地熱水中のシリカを収集したシリカ材を含むシリカグラウトからなり、シリカ材に含まれる重金属の含有量が一律排水基準値または環境基準値以下である地盤注入材である。また、注入にあたって現場採取土との土中ゲル化時間を求め、強度試験を行い、各注入方式における注入設計と注入時間と要求される注入効果に対応した注入材の配合処方を設定することにより、シリカ材中の組成分のバラつきと多様な地盤との反応のバラつきがあっても所定の注入効果を得られる地盤注入工法である。