特許第6984837号(P6984837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984837アルカリ水電解方法及びアルカリ水電解用アノード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984837
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】アルカリ水電解方法及びアルカリ水電解用アノード
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/095 20210101AFI20211213BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20211213BHJP
   C25B 11/069 20210101ALI20211213BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20211213BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20211213BHJP
   C25B 15/029 20210101ALI20211213BHJP
【FI】
   C25B11/095
   C25B11/061
   C25B11/069
   C25B1/04
   C25B11/053
   C25B15/029
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-505102(P2021-505102)
(86)(22)【出願日】2020年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2020010477
(87)【国際公開番号】WO2020184607
(87)【国際公開日】20200917
【審査請求日】2021年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2019-45008(P2019-45008)
(32)【優先日】2019年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】光島 重徳
(72)【発明者】
【氏名】黒田 義之
(72)【発明者】
【氏名】西本 武史
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−086420(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106563450(CN,A)
【文献】 国際公開第2017/167373(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水酸化物と有機物との複合体のハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)を含んでなる触媒を分散させた電解液を、電解セルを構成するアノード室とカソード室に供給し、各室での電解に共通して用いることを特徴とするアルカリ水電解方法。
【請求項2】
金属水酸化物と有機物との複合体のハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)を含んでなる触媒を分散させた電解液を、電解セルを構成するアノード室とカソード室に供給し、各室での電解に共通して用い、運転中に、前記Co−NSの電解析出を前記電解セル内にて行い、酸素発生用アノードを構成する、表面に触媒層を形成してなる導電性基体の表面に、前記Co−NSを電解析出させることで、電解性能を回復、向上させることを特徴とするアルカリ水電解方法。
【請求項3】
前記導電性基体の表面に電解析出させるCo−NSが、10〜100nmの大きさの層状の分子構造を有する請求項2に記載のアルカリ水電解方法。
【請求項4】
前記Co−NSを電解析出させる条件が、前記導電性基体を、1.2V〜1.8V vs.RHEの電位範囲に保持することである請求項2又は3に記載のアルカリ水電解方法。
【請求項5】
前記Co−NSを分散させた電解液として、濃度が10〜100g/LであるCo−NS分散液を用い、該Co−NS分散液の電解液への添加濃度が0.1〜5mL/Lの範囲内になるように調製する請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルカリ水電解方法。
【請求項6】
表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体と、
前記導電性基体の表面上に形成された、組成式LiNi2−x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層と、
前記中間層の表面上に形成された、金属水酸化物と有機物との複合体のハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)を含んでなる触媒層と、
を備えてなる酸素発生を行うことを特徴とするアルカリ水電解用アノード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解方法及びアルカリ水電解用アノードに関する。詳しくは、電解セルを構成するアノード室とカソード室に共通の特有の構成の電解液を供給するという簡便な手段によって、酸素発生用アノードの触媒活性を長期間にわたって安定して維持させることを実現し、これにより、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、長期間にわたって安定したアルカリ水電解を行うことができる技術を提供する。
【背景技術】
【0002】
水素は、貯蔵及び輸送に適しているとともに、環境負荷が小さい二次エネルギーであるため、水素をエネルギーキャリアに用いた水素エネルギーシステムに関心が集まっている。現在、水素は主に化石燃料の水蒸気改質などにより製造されている。しかし、地球温暖化や化石燃料枯渇問題の観点から、基盤技術の中でも、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーからの水電解による水素製造が重要になってきている。水電解は、低コストで大規模化に適しており、水素製造の有力な技術である。
【0003】
現状の実用的な水電解は大きく2つに分けられる。1つはアルカリ水電解であり、電解質に高濃度アルカリ水溶液が用いられている。もう1つは、固体高分子型水電解であり、電解質に固体高分子膜(SPE)が用いられている。大規模な水素製造を水電解で行う場合は、高価な貴金属を多量に用いた電極を用いる固体高分子型水電解よりも、ニッケル等の鉄系金属などの安価な材料を用いるアルカリ水電解の方が適していると言われている。
【0004】
高濃度アルカリ水溶液は、温度上昇に伴って電導度が高くなるが、腐食性も高くなる。このため、操業温度の上限は80〜90℃程度に抑制されている。高温及び高濃度のアルカリ水溶液に耐える、電解槽の構成材料や各種配管材料の開発、低抵抗隔膜、及び、表面積を拡大し触媒を付与した電極の開発により、電解セル電圧は、電流密度0.6Acm−2において2V以下にまで向上している。
【0005】
アルカリ水電解用の陽極(アノード)として、高濃度アルカリ水溶液中で安定なニッケル系材料が使用されており、安定な動力源を用いたアルカリ水電解の場合、ニッケル系アノードは、数十年以上の寿命を有することが報告されている(非特許文献1及び2)。しかし、再生可能エネルギーを動力源とすると、激しい起動停止や負荷変動などの過酷な条件となる場合が多く、ニッケル系アノードの性能劣化が問題とされている(非特許文献3)。
【0006】
ニッケル酸化物の生成反応、及び、生成したニッケル酸化物の還元反応は、いずれも金属表面にて進行する。このため、これらの反応に伴い、金属表面に形成された電極触媒の脱離が促進される。電解のための電力が供給されなくなると、電解が停止し、ニッケル系アノードは、酸素発生電位(1.23V vs.RHE)より低い電位、かつ、対極である水素発生用の陰極(カソード)(0.00V vs.RHE)より高い電位に維持される。電解セル内では、種々の化学種による起電力が発生しており、電池反応の進行によりアノード電位は低く維持され、ニッケル酸化物の還元反応が促進される。
【0007】
電池反応によって生じた電流は、例えば、アノード室とカソード室等の複数のセルを組み合わせた電解槽の場合、セル間を連結する配管を介してリークする。このような電流のリークを防止する対策としては、例えば、停止時に微小な電流を流し続けるようにする方法などがある。しかし、停止時に微小な電流を流し続けるには、特別な電源制御が必要になるとともに、酸素及び水素を常に発生させることになるため、運用管理上の過度の手間がかかる、といった問題がある。また、逆電流状態を意図的に避けるために、停止直後に液を抜いて電池反応を防止することは可能であるが、再生エネルギーのような出力変動の大きい電力での稼動を想定した場合、必ずしも適切な処置であるとは言い難い。
【0008】
ここで、従来、アルカリ水電解に使用される酸素発生用アノードの触媒(アノード触媒)として、白金族金属、白金族金属酸化物、バルブ金属酸化物、鉄族酸化物、ランタニド族金属酸化物などが利用されている。その他のアノード触媒としては、Ni−Co、Ni−Feなど、ニッケルをベースにした合金系;表面積を拡大したニッケル;スピネル系のCo、NiCo、ペロブスカイト系のLaCoO、LaNiOなどの導電性酸化物(セラミック材料);貴金属酸化物;ランタニド族金属と貴金属からなる酸化物なども知られている(非特許文献3)。
【0009】
近年、高濃度アルカリ水電解に使用される酸素発生用アノードとして、リチウムとニッケルを所定のモル比で含むリチウム含有ニッケル酸化物触媒層を、ニッケル基体表面に形成したアルカリ水電解用陽極(特許文献1)や、ニッケルコバルト系酸化物と、イリジウム酸化物又はルテニウム酸化物とを含む触媒層をニッケル基体表面に形成したアルカリ水電解用陽極(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−86420号公報
【特許文献2】特開2017−190476号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】P.W.T.Lu, S.Srinivasan, J.Electrochem.Soc.,125,1416(1978)
【非特許文献2】C.T.Bowen, Int.J.Hydrogen Energy,9,59(1984)
【非特許文献3】S. Mitsushima et al., Electrocatalysis 2017, 8, 422.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1及び2で提案されたアルカリ水電解用アノードであっても、再生可能エネルギーなどの、出力変動の大きい電力を動力源とした場合には、性能が低下しやすく、長期間にわたって安定的に使用することが困難であるといった問題があった。このような問題を解決するためには、激しい起動停止や電位負荷変動による電位変動に対するアノードの高耐久化が求められる。
【0013】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、優れた触媒活性が長期間にわたって安定して維持される耐久に優れる電解用電極を提供することにある。また、本発明が最終的に課題とするところは、上記の優れた電解用電極を用いることで、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、長期間にわたって安定したアルカリ水電解を行うことができる運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、以下のアルカリ水電解方法を提供する。
[1]金属水酸化物と有機物との複合体のハイブリッド水酸化コバルトナノシート(以下、Co−NSと略す場合がある)を含んでなる触媒を分散させた電解液を、電解セルを構成するアノード室とカソード室に供給し、各室での電解に共通して用いることを特徴とするアルカリ水電解方法。
【0015】
[2]金属水酸化物と有機物との複合体のハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)を含んでなる触媒を分散させた電解液を、電解セルを構成するアノード室とカソード室に供給し、各室での電解に共通して用い、運転中に、前記Co−NSの電解析出を前記電解セル内にて行い、酸素発生用アノードを構成する、表面に前記触媒層を形成してなる導電性基体の表面に、前記Co−NSを電解析出させることで、電解性能を回復、向上させることを特徴とするアルカリ水電解方法。
【0016】
上記したアルカリ水電解方法の好ましい形態として、下記のものが挙げられる。
[3]前記Co−NSが、10〜100nmの大きさの層状の分子構造を有する[1]又は[2]に記載のアルカリ水電解方法。
[4]前記Co−NSを電解析出させる条件が、前記導電性基体を、1.2V〜1.8V vs.RHEの電位範囲に保持することである[2]又は[3]に記載のアルカリ水電解方法。
[5]前記Co−NSを分散させた電解液として、濃度が10〜100g/LであるCo−NS分散液を用い、該Co−NS分散液の電解液への添加濃度が0.1〜5mL/Lの範囲内になるように調製する[1]〜[4]のいずれかに記載のアルカリ水電解方法。
【0017】
また、本発明は、別の実施形態として、上記アルカリ水電解方法に適用した場合に有用な、以下のアルカリ水電解用アノードを提供する。
[6]表面がニッケル又はニッケル基合金からなる導電性基体と、前記導電性基体の表面上に形成された、組成式LiNi2−x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物からなる中間層と、前記中間層の表面上に形成された、金属水酸化物と有機物との複合体のハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)を含んでなるCo−NS触媒層と、を備えてなる酸素発生を行うことを特徴とするアルカリ水電解用アノード。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解運転中に電解性能が劣化しにくく、優れた触媒活性が長期間にわたって安定して維持される、酸素発生を行うアルカリ水電解用アノード(酸素発生用アノードと呼ぶ場合がある)の提供が可能になる。また、本発明によれば、アノード室とカソード室に共通の電解液を供給するという簡便な手段によって、酸素発生用アノードの触媒活性を長期間にわたって安定して維持させることが実現でき、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、長期間にわたって安定したアルカリ水電解を行うことができる、工業上、有用なアルカリ水電解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のアルカリ水電解方法で用いる酸素発生用アノードの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明で使用する触媒成分の、三脚型配位子を有する層状のCo−Tris−NH2分子構造の一例を示す図である。
図3】本発明で使用する酸素発生用アノードの導電性基体の表面における、層状構造の触媒層の製法例と組成、構造式を示す図である。
図4】検討例1での電位サイクルにおけるサンプルの電流−電位変化(活性変化)を示すグラフである。
図5】検討例1での加速試験の結果、比較検討例1〜3の電解特性の変化を示すグラフである。
図6】加速試験における酸素発生及び水素発生反応特性の変化を示すグラフである。
図7】加速試験における水素発生反応特性の変化を示すグラフである。
図8】加速試験における水素発生反応特性の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明について詳細に説明する。先述した従来技術の状況下、下記に挙げるような技術についての提案がある。例えば、最近、E. Ventosa et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 8573.で、電解運転中の触媒粒子のその場での自己集合に基づく自己修復能力を有する、安定な触媒層に関する技術が提案された。この従来技術では、触媒粒子は、電解質に添加されて懸濁液を形成し、負に帯電した表面を有する粒子はアノードに付着し、一方、正に帯電した表面を有する粒子はカソードに付着する。そして、下記のことが開示されている。十分な触媒粒子が電解質中に存在する限り、自己修復特性を有する。アノード及びカソードに、それぞれ、NiFe−LDH(NiFe−layered double hydroxide)及びNiB触媒ナノ粉末を使用する例では、セル電圧は、NiBを陰極液に添加した場合にのみ低下した。カソード上に緻密粒子フィルムが観察されたが、アノード上に、フィルム形成は観察されなかった。NiBは、カソード触媒としての効果が確認されたのみであり、アノードへの効果はなかった。
【0021】
しかしながら、アノードが活性な触媒層を有する場合、上記に挙げた従来技術に示されているような触媒効果が期待できるかについては、これまで開示がない。これに対し、実用の電解セルでの運転方法において、分散させた自己修復触媒がアノードのみならず、カソードにも移動するため、カソードへの影響は重要な問題になる。しかし、両方の電極に効果を有し、かつ、安定な触媒として機能する粒子は報告されていない。
【0022】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、最近、Y. Kuroda et al., Chem. Eur. J. 2017, 23, 5032.に開示された新規な製法に基づいて得た、ハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)が、高耐久性の自己組織化電極触媒として機能し得、このシートを使用することで、上記した従来技術における課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、金属水酸化物と有機物の複合体であるハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)を、電解液に分散させて用い、自己組織化触媒として利用することで、Co−NSが、触媒及び防食被膜として作用し、電位変動に対して、Ni系アノードの耐久性を大幅に向上させることができること、さらに、Co−NSが、活性なカソードに対して特に影響を及ぼさず、電解セルに適用できること、を見出した。
【0023】
[アノード]
図1は、本発明のアルカリ水電解方法で用いる酸素発生を行うアルカリ水電解用アノード10の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の酸素発生用アノードは、導電性基体2と、導電性基体2の表面上に形成された中間層4と、中間層4の表面上に形成された触媒層6とを備える。以下、本発明のアルカリ水電解方法で用いる酸素発生用アノードの詳細につき、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
<導電性基体>
導電性基体2は、電気分解のための電気を通すための導電体であり、中間層4及び触媒層6を担持する担体としての機能を有する部材である。導電性基体2の少なくとも表面(中間層4が形成される面)は、ニッケル又はニッケル基合金で形成されている。すなわち、導電性基体2は、全体がニッケル又はニッケル基合金で形成されていてもよく、表面のみがニッケル又はニッケル基合金で形成されていてもよい。具体的に、導電性基体2は、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属材料の表面に、めっき等によりニッケル又はニッケル基合金のコーティングが施されたものであってもよい。
【0025】
導電性基体2の厚さは、0.05〜5mmであることが好ましい。導電性基体の形状は、生成する酸素や水素等の気泡を除去するための開口部を有する形状であることが好ましい。例えば、エクスパンドメッシュや多孔質エクスパンドメッシュを、導電性基体2として使用することができる。導電性基体が開口部を有する形状である場合、導電性基体の開口率は10〜95%であることが好ましい。
【0026】
本発明のアルカリ水電解方法で用いる酸素発生用アノードは、例えば、上記した導電性基体2の表面に、下記のようにして、中間層4と触媒層6とを形成することで得ることができる。
(前処理工程)
中間層4、触媒層6の形成工程を行う前に、表面の金属や有機物などの汚染粒子を除去するために、導電性基体2を予め化学エッチング処理することが好ましい。化学エッチング処理による導電性基体の消耗量は、30g/m以上、400g/m以下程度とすることが好ましい。また、中間層との密着力を高めるために、導電性基体の表面を予め粗面化処理することが好ましい。粗面化処理の手段としては、粉末を吹き付けるブラスト処理や、基体可溶性の酸を用いたエッチング処理や、プラズマ溶射などが挙げられる。
【0027】
<中間層>
中間層4は、導電性基体2の表面上に形成される層である。中間層4は、導電性基体2の腐食等を抑制するとともに、触媒層6を導電性基体2に安定的に固着させる。また、中間層4は、触媒層6に電流を速やかに供給する役割も果たす。中間層4は、例えば、組成式LiNi2−x(0.02≦x≦0.5)で表されるリチウム含有ニッケル酸化物で形成するとよい。上記組成式中のxが0.02未満であると、導電性が不十分になる。一方、xが0.5を超えると物理的強度及び化学的安定性が低下する。上記組成式で表されるリチウム含有ニッケル酸化物で形成された中間層4は、電解に十分な導電性を有するとともに、長期間使用した場合でも、優れた物理的強度及び化学的安定性を示す。
【0028】
中間層4の厚さは、0.01μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。中間層の厚さが0.01μm未満であると、上述した機能が十分に得られない。一方、中間層の厚さを100μm超としても、中間層での抵抗による電圧損失が大きくなって上述の機能が発現しないとともに、製造コスト等の面でやや不利になる場合がある。
【0029】
(中間層4を形成するための塗布工程)
塗布工程では、リチウムイオン及びニッケルイオンを含有する前駆体水溶液を導電性基体2の表面に塗布する。中間層4は、いわゆる熱分解法によって形成される。熱分解法により中間層を形成するに際しては、まず、中間層の前駆体水溶液を調製する。リチウム成分を含む前駆体としては、硝酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウム、カルボン酸リチウムなど公知の前駆体を使用することができる。カルボン酸リチウムとしては、ギ酸リチウムや酢酸リチウムが挙げられる。ニッケル成分を含む前駆体としては、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、カルボン酸ニッケルなど公知の前駆体を使用することができる。カルボン酸ニッケルとしては、ギ酸ニッケルや酢酸ニッケルが挙げられる。特に、前駆体としてカルボン酸リチウム及びカルボン酸ニッケルの少なくとも一方を用いることにより、後述するように低温で焼成した場合であっても緻密な中間層を形成することができるので特に好ましい。
【0030】
熱分解法で中間槽4を形成する際の熱処理温度は、適宜設定することができる。前駆体の分解温度と生産コストとを考慮すると、熱処理温度は、450℃以上、600℃以下とすることが好ましい。450℃以上、550℃以下とすることがさらに好ましい。例えば、硝酸リチウムの分解温度は430℃程度であり、酢酸ニッケルの分解温度は373℃程度である。熱処理温度を450℃以上とすることにより、各成分をより確実に分解することができる。熱処理温度を600℃超とすると、導電性基体2の酸化が進行しやすく、電極抵抗が増大して電圧損失の増大を招く場合がある。熱処理時間は、反応速度、生産性、触媒層表面の酸化抵抗等を考慮して、適宜に設定すればよい。
【0031】
前述の塗布工程における水溶液の塗布回数を適宜に設定することで、形成される中間層4の厚さを制御することができる。なお、水溶液の塗布と乾燥を一層毎に繰り返し、最上層を形成した後に全体を熱処理してもよく、また、水溶液の塗布及び熱処理(前処理)を一層毎に繰り返し、最上層を形成した後に全体を熱処理してもよい。前処理の温度と全体の熱処理の温度は、同一であってもよく、異なっていてもよい。前処理の時間は、全体の熱処理の時間よりも短くすることが好ましい。
【0032】
<触媒層>
本発明のアルカリ水電解方法で用いる酸素発生用アノードは、導電性基体2の最表面に特有の触媒成分からなる触媒層6を形成した形態とすることが好ましい。このように構成し、アルカリ水電解に適用することで、本発明の優れた効果を発現できる。以下、本発明において、効果的で有用な触媒層について説明する。
【0033】
(触媒成分)
本発明で使用し、本発明を特徴づける触媒成分である、金属水酸化物と有機物との複合体のハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)は、例えば、下記のようにして簡便に製造することができる。まず、三脚型配位子(Tris−NH)水溶液と、CoCl水溶液とを室温で混合し、80℃で24時間反応させた。その後、反応生成物を、真空ろ過と2度の純水洗浄を行い、再度80℃で乾燥して、粉末の、層状構造のCo−Tris−NHを得た。この粉末50mgをイオン交換水1mLに分散させ、超音波処理により、濃度50g/LのCo−NS分散液を得た。本発明で用いるCo−NSを分散させた電解液には、上記したような製造方法で得た「Co−NS分散液」を添加して、適宜な添加濃度になるように調製した電解液を用いた。
【0034】
Co−NSは、図2に模式的に示す通り、三脚型配位子を有する層状のCo−Tris−NH分子構造を有し、Tris分子が共有結合的に固定化されているブルーサイト層からなる。Tris−NHによる修飾は、層状水酸化コバルトの電解液中での剥離と、分散の能力を高める。上記で得たCo−NSの分子構造が、厚さが1.3nm程度で、横方向のサイズが10〜100nmの範囲である大きさのナノシート状であることは、TEM像及びAFM像より確認した。本発明のアルカリ水電解方法で使用する場合、ナノシートのサイズは、10〜100nmの範囲の長さ(長径)であることが好ましい。これ以上であると、電解析出の効率が低下し、過電圧の改善、修復効果が発現しにくくなる場合があるので好ましくない。
【0035】
(触媒層の形成方法)
Co−NSを含んでなる触媒層6の形成方法について述べる。電解液として1.0MのKOH水溶液を用いた。触媒層を形成する導電性基体2の表面を清浄化するために、電解液中にて電位操作を行うことが好ましい。例えば、電位サイクリック操作(−0.5〜0.5V vs.RHE、200mVs−1、200サイクル)を行う。その後、先に述べたようにして得た10〜100g/Lの濃度のCo−NS分散液を用い、例えば、50g/Lの濃度のCo−NS分散液を用いる場合であれば、電解液に0.8mL/L程度の割合で混合した電解液で、(0.5〜1.8V vs.RHE、200mV/s、200サイクル)の電解により、電極表面でCo−NSを、水酸化物層の酸化や、表面有機基の酸化分解により分散性を低下させ、電極表面に堆積させた。
【0036】
上記において、「Co−NS分散液」を用いて行う、Co−NS粉末の電解液への添加濃度としては、0.1〜5mL/Lの範囲が好ましい。これよりも濃度が高いと分散が不十分となり、電解において均質な析出が得られない場合があるので好ましくない。また、これよりも濃度が低いと、電解による析出において、実用的な時間内では十分な量が得られない。析出のための電解条件としては、導電性基体を1.2V〜1.8V vs.RHEのポテンシャル範囲で保持することが好ましい。析出反応は1.2V以下では進行せず、1.8V以上であると、酸素発生が同時に進行し、析出を阻害するので好ましくない。
【0037】
本発明のアルカリ水電解方法では、酸素発生用アノードとして、上記した特有の触媒層を有する構成の電極を用いることを要するが、カソード(陰極)や、隔膜については、特に限定されず、従来のアルカリ水電解に用いられているものを適宜に使用すればよい。以下、これらについて説明する。
[カソード]
カソードとしては、アルカリ水電解に耐え得る材料製の基体と、陰極過電圧が小さい触媒とを選択して用いることが好ましい。カソード基体としては、ニッケル基体、又はニッケル基体に活性陰極を被覆形成したものを用いることができる。カソード基体の形状としては、板状の他、エクスパンドメッシュや、多孔質エクスパンドメッシュなどを挙げることができる。
【0038】
カソード材料としては、表面積の大きい多孔質ニッケルや、Ni−Mo系材料などがある。その他、Ni−Al、Ni−Zn、Ni−Co−Znなどのラネーニッケル系材料;Ni−Sなどの硫化物系材料;Ti2Niなど水素吸蔵合金系材料などがある。触媒としては、水素過電圧が低い、短絡安定性が高い、被毒耐性が高い等の性質を有するものが好ましい。その他の触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウムなどの金属、及びこれらの酸化物が好ましい。
【0039】
[隔膜]
電解用隔膜としては、アスベスト、不織布、イオン交換膜、高分子多孔膜、及び無機物質と有機高分子の複合膜など、従来公知のものをいずれも用いることができる。具体的には、リン酸カルシウム化合物やフッ化カルシウム等の親水性無機材料と、ポリスルホン、ポリプロピレン、及びフッ化ポリビニリデン等の有機結合材料との混合物に、有機繊維布を内在させたイオン透過性隔膜を用いることができる。また、アンチモンやジルコニウムの酸化物及び水酸化物等の粒状の無機性親水性物質と、フルオロカーボン重合体、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、及びポリビニルブチラール等の有機性結合剤とのフィルム形成性混合物に、伸張された有機性繊維布を内在させたイオン透過性隔膜を用いることができる。
【0040】
本発明のアルカリ水電解方法においては、本発明を特徴づける酸素発生用アノードを構成要素とするアルカリ水電解セルを用いれば、高濃度のアルカリ水溶液を電解することができる。電解液として用いるアルカリ水溶液としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は、1.5質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度は、15質量%以上、40質量%以下であると、電気伝導度が大きく、電力消費量を抑えることができるためにより好ましい。さらに、コスト、腐食性、粘性、操作性等を考慮すると、アルカリ水溶液の濃度は、20質量%以上、30質量%以下であることが好ましい。
【0041】
[運転方法]
前記アノードの触媒層6は、電解セルに組み込む前に形成することができる。本発明のアルカリ水電解方法は、電解セルを構成するアノード室とカソード室に供給する共通の電解液に、前記した本発明を特徴づける触媒層6の形成成分としたナノシート(Co−NS)を懸濁させ、その状態で電解を開始することで、触媒成分をアノードに析出させることができる。このため、本発明のアルカリ水電解の技術を用いれば、運転によって性能の低下した電解セルの性能回復が、電解セル解体の手間なく行うことができるので、実用的であり、その工業上のメリットは極めて大きい。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び検討例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
まず、本発明を特徴づける触媒成分であるCo−NSを、電解液に分散させて電解した場合における電解表面への堆積の状態と、その効果についての検討を行った。比較のために、上記ナノシートを用いない場合についても、同様の試験を行った。
【0043】
(検討例1)
電解操作は、フッ素樹脂であるPFA製の三電極セルを用いて行った。作用極に沸騰塩酸で6分間エッチングしたNiワイヤー、参照極に可逆水素電極(RHE)、対極にNiコイル、電解液に1.0MのKOH水溶液250mLをそれぞれ用いて、30±1℃で実施した。まず、上記電解液にCo−NS分散液を加えずに、前処理として、サイクリックボルタンメトリー(0.5〜1.5V vs.RHE、200mVs−1、200サイクル)を行った。本例では、電解液として、先に説明したと同様の方法で得た50g/LのCo−NS分散液を、上記前処理をした電解液に0.8mL/Lの割合で混合したものを用い、(1.68V vs.RHE、4時間)の電解を行った。この操作により、電極表面でCo−NSが酸化されて、Co−NSの水酸化物層の酸化や表面有機基の酸化分解により分散性を低下させ、電極表面にCo−NSを堆積させて、触媒層を形成した。このアノードを「Ni−Co−NS」とした。
【0044】
図4に、上記で行ったNi−Co−NSにおける触媒層形成時の活性変化を示した。電位スイープからなる触媒層形成操作を繰り返すと、徐々に酸素発生過電圧が減少し、8回でほぼ一定になった。このことから、アノードNi−Co−NSには、Ni表面に、Co−NSからなる良好な機能を発現できる触媒層が形成したと考えられる。
【0045】
図5中に、上記で得たアノードNi−Co−NSについて行った加速劣化試験における、酸素発生過電圧の電位変動サイクル依存性を示した。図5中の検討例1に示した通り、Ni−Co−NSの過電圧は370mV程度で一定であり、電位サイクルによる劣化は観測されなかった。
【0046】
(比較検討例1)
上記と同様にして、電解液に特に触媒を添加しない実験を行った。図5に示したように、この場合、アノード触媒はNiのみであるが、当初の過電圧は370mVでNi−Co−NSと同等であったが、サイクルの経過と共に過電圧が大幅に増加し、10000サイクル以降では約550mVであった。
【0047】
(比較検討例2)
電解液に、触媒として0.66MのCo(NO溶液を0.2mL加えたものをNi−Co(NOとし、検討例1で行ったと同様の実験をした。図5に示したように、Ni−Co(NOでは、過電圧は420mVから460mVへと緩やかに上昇した。このことから、ニッケル電極表面に自発的に形成される水酸化ニッケルも高活性な電極触媒であるが、電位変動に伴うニッケルの酸化還元反応により、β相からα相への転移や、水和酸化物への変化を生じ、活性を失ったと推定される。
【0048】
(比較検討例3)
検討例1と同様の方法でNi表面にCo−NSからなる触媒層を形成させたアノードを用い、Co−NSを添加しない電解液で加速劣化試験を実施したときの、酸素発生過電圧の電位変動サイクル依存性を調べた。図5に示したように、初期の過電圧は370mV程度であったが、徐々に400mVまで増加したことが確認された。
【0049】
(検討例2)
検討例1と同様に、Co−NS分散液を溶解させた電解液を用い、電解することでアノードを作製した。本例では、サイクリックボルタンメトリー(−0.7〜0.5V vs.RHE、500mVs−1、2000サイクル)での電解を21回繰り返し、40000回までの電位変動を負荷した。
【0050】
図6に、電位サイクル数に対する|i|=100mA/cmでの水素発生及び酸素発生過電圧の変化を示した。検討例2のアノードでは、過電圧の増加が抑制でき、Co−NSによる高耐久化が確認できた。一方、カソードでは、図6に示した通り、検討例2と、後述する比較検討例4の結果から、Co−NSの有無によらず過電圧の大きさは0.40〜0.45Vであり、電解液に分散させたCo−NSのカソードに対する影響はないことが分かった。
【0051】
(比較検討例4)
Niアノードを用いて、検討例2と同様に試験を実施した結果を図6中に示した。図6に示した通り、電位サイクル数に対して、アノードの過電圧の増加が確認できた。
【0052】
(検討例3)
検討例1で行ったと同様に、電解液にCo−NS分散液を溶解させ、白金板(Bare−Pt)を用いて、検討例2と同様の条件で電解試験を行って評価した。図7に、電位サイクル数に対する|i|=100mA/cmでの水素発生過電圧の変化を示した。図7に示した通り、過電圧が徐々に0.46Vから0.37Vに低下した。
【0053】
(比較検討例5)
白金線(Bare−Pt)を用いて、電解液にCo−NS分散液を溶解させずに、検討例2と同様の条件で試験を実施した。図7に、電位サイクル数に対する|i|=100mA/cmでの水素発生過電圧の変化を示した。図7に示した通り、Bare−Ptは、過電圧が徐々に増加し、0.4Vから0.5Vに増加した。
【0054】
(検討例4)
電解液にCo−NS分散液を溶解させ、Niカソードを用いて検討例2と同様の条件で試験を行い、評価した。図7に、電位サイクル数に対する|i|=100mA/cmでの水素発生過電圧の変化を示した。図7に示した通り、過電圧は0.43V程度で安定した。
【0055】
(比較検討例6)
Niカソードを用いて、電解液にCo−NS分散液を溶解させずに、検討例2と同様の条件で試験を実施した。図7に、電位サイクル数に対する|i|=100mA/cmでの水素発生過電圧の変化を示した。図7に示した通り、Niカソードの過電圧は0.4Vから0.45Vであり、検討例4でみられた、Co−NS分散液の添加による効果はなかった。
【0056】
(検討例5)
表面にRuとPrの複合酸化物からなる触媒を形成した活性カソードを用いたこと以外は検討例2と同様にして、試験を行い評価した。図8に、電位サイクル数に対する|i|=100mA/cmでの水素発生過電圧の変化を示した。図8に示した通り、活性カソードの過電圧は、75mV程度を維持した。
【0057】
(比較検討例7)
検討例5の活性カソードを用いて、電解液にCo−NS分散液を溶解させずに、検討例5と同様の試験を実施した。図8に電位サイクル数に対する|i|=100mA/cmでの水素発生過電圧の変化を示した。図8に示した通り、活性カソードの過電圧は、初期は60mV程度まで減少したが、その後75mV程度を維持し、40000回後では検討例5とほぼ同程度であった。
【0058】
(実施例1)
アノード基体として、17.5質量%塩酸中に沸点近傍で6分間浸漬して化学エッチング処理を行った、ニッケルエクスパンドメッシュ(10cm×10cm、LW×3.7SW×0.9ST×0.8T)を用いた。このエクスパンドメッシュを、60メッシュのアルミナ粒子でブラスト処理(0.3MPa)した後、20質量%塩酸に浸漬し、沸点近傍で、6分間化学エッチング処理した。化学エッチング処理後の陽極基体の表面に、リチウム含有ニッケル酸化物の前駆体となる成分を含んだ水溶液を刷毛で塗布した後、80℃で15分間乾燥させた。次いで、大気雰囲気下、600℃で15分間熱処理した。上記した水溶液の塗布から熱処理までの処理を20回繰り返して、アノード基体の表面上に中間層(組成:Li0.5Ni1.5)が形成された中間体を得た。
【0059】
次に、先に検討例1で説明したと同様にして、50g/LのCo−NS分散液を電解液に対して1mL/Lの割合で添加し、上記した中間体の表面に、Co−NSからなる触媒層を形成して、Ni−Co−NSアノードを得た。得られたアノードと、隔膜(AGFA製Zirfon)と、表面にRuとCeとの複合酸化物からなる触媒層を形成した活性カソードとを用いて、中性隔膜を用いた小型のゼロギャップ型電解セルを作製した。電極面積は19cmとした。
【0060】
検討例1で用いたと同様のCo−NS分散液を1mL/Lの割合で添加した、25質量%のKOH水溶液を電解液とし、電解セルを構成するアノード室とカソード室に供給し、電流密度6kA/mでそれぞれ6時間電解した。次いで、アノードとカソードを短絡状態(0kA/m)とし、温度を下げて15時間停止させた。そして、上記の電解から停止までの操作を1サイクルとするシャットダウン試験を行った。その結果、20回の試験において、所定の電圧で安定したことが確認できた。
【0061】
(比較例1)
電解セルを構成するアノード室とカソード室に供給する電解液に、Co−NSを添加せずに、実施例1で用いたと同様の電解セルで、実施例1で行ったと同様の試験を行った。その結果、停止回数の増加とともにセル電圧も徐々に増加したことから、実施例1の構成における優位性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明を特徴づける酸素発生アノードは、例えば、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とする電解設備等を構成するアルカリ水電解用アノードとして好適である。具体的には、本発明のように構成して、電解セルを構成するアノード室とカソード室に、共通の、アノードの触媒成分であるハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co−NS)を分散させた電解液を供給して電解を行うことで、再生可能エネルギーなどの出力変動の大きい電力を動力源とした場合であっても、電解性能が劣化しにくく、長期間にわたって安定したアルカリ水電解を行うことが実現できる。
【符号の説明】
【0063】
2:導電性基体
4:中間層
6:触媒層
10:アルカリ水電解用アノード

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8