特許第6984847号(P6984847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984847
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】照明システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 47/155 20200101AFI20211213BHJP
【FI】
   H05B47/155
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-1291(P2018-1291)
(22)【出願日】2018年1月9日
(65)【公開番号】特開2019-121531(P2019-121531A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】日比野 治雄
【審査官】 大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−162697(JP,A)
【文献】 特開平10−003991(JP,A)
【文献】 特開2017−073360(JP,A)
【文献】 特公昭51−005227(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 47/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の照明を備え、前記複数の照明の照度又は色温度を周期的に変化させ、前記複数の照明の照度又は色温度を、利用者を誘導したい方向に移動するように変化させるものであって、
前記複数の照明の照度又は色温度の和の時間的変動の範囲が、前記照明の照度又は色温度の時間的変動の範囲の40%以下であり、
前記複数の照明の照度又は色温度を時間的に正弦波状に変化させる照明システム。
【請求項2】
複数の照明を備え、前記複数の照明の照度又は色温度を周期的に変化させ、前記複数の照明の照度又は色温度を、利用者を誘導したい方向に移動するように変化させるものであって、
前記複数の照明の照度又は色温度の和が時間的にほぼ一定となるように制御し、
前記複数の照明の照度又は色温度を時間的に正弦波状に変化させる照明システム。
【請求項3】
前記複数の照明の照度又は色温度の周期的変化の周期を1秒以上40秒以下としたことを特徴とする請求項1または請求項に記載の照明システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1に記載されている照明システムは、マルチ調光調色システムと称しており、明るさや色温度、照明制御区分の変更やスケジュール設定を、タブレットにより入力する照明システムが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】http://www2.panasonic.biz/es/lighting/shisetsu/m-chokochoshoku/intro/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記照明システムでは、公共施設や商業施設等を利用する利用者に対し、当該利用者に注目させたい場所に注意を促すことや、当該利用者をそのような場所に自然に誘導することができない。
【0005】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、公共施設や商業施設等を利用する利用者に対し、当該利用者に注目させたい場所に注意を促し、当該利用者をそのような場所に自然に誘導することができる照明システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの観点によれば、上記課題を解決するために、照明システムを、複数の照明を備え、前記複数の照明の照度又は色温度を周期的に変化させ、前記複数の照明の照度又は色温度を、利用者を誘導したい方向に移動するように変化させるものとした。
【0007】
また、本発明の他の観点によれば、前記複数の照明の照度又は色温度の和の時間的変動の範囲が、前記照明の照度又は色温度の時間的変動の範囲の40%以下である
【0010】
また、本発明の他の観点によれば、前記複数の照明の照度又は色温度の周期的変化の周期を1秒以上40秒以下とした
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、公共施設や商業施設等を利用する利用者に対し、当該利用者に注目させたい場所に注意を促し、当該利用者をそのような場所に自然に誘導することができる照明システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の概念を示す図である。
図2】実施例2による人間の誘導を示す図である。
図3】一対の照明間の適切な距離を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本発明の実施形態は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
人間は「知覚の恒常性」という特性を有している。たとえば、照明に関連した「知覚の恒常性」では、「色の恒常性」という特性がある。これは、人間の場合、照明条件がある程度変化しても、青い物体は青く、黄色い物体は黄色く見えるという現象である。誰しも、屋外の太陽光の下で撮影した場合と室内の電気器具照明下で撮影した場合では、同じ対象を撮影していたとしても、その場で感じた色とは全く異なった色に写っていることに驚いたという経験があるであろう。それは正に人間に「色の恒常性」という特性が備わっているためである。つまり、照明がある程度白色光とは異なっていても、人間は最初こそやや違和感を感じるが、すぐにその照明に順応し、白色光下と同様な色の感じ方をするようになる。これが「色の恒常性」なのである。
【0015】
したがって、時間的な変化のない刺激に対しては、人間は短時間のうちに順応してしまう。そのため、これまでの時間的に変化の感じられない定常的な照明計画では、安定感のある空間を生み出すことは可能であっても、その照明計画の効果によって「変化」を感じさせることは難しいのである。一方、明暗が短周期で繰り返されるフリッカー光のような照明にすれば、その場にいる人間に常に「変化」を感じさせられることは当然であるが、その「変化」は強い視覚的ストレス(i.e.,不快感)を惹起することになる。以上のような理由から、従来の照明計画のパラダイムには、照明に時間的な変化を加えるという概念自体が存在しなかったのである。
【0016】
以上のような点に鑑み、照明における「安定性」と「変化」という、一見併存不可能に思われる二側面を両立させることを企図したのが本発明である。その原理は、次の通りである。本発明の「正弦波変動照明システム(Sinusoidal Oscillation Lighting (SOL)システム)」は、基本的には一対をなす2つの照明器具(以下、照明A(1)と照明B(2)とする)から構成される。そして、図1に示すように、照明A(1)は、時間の関数として、その照度(又は色温度あるいはその両者の組み合わせ)が正弦波状に変動する一方、照明B(2)は、同様にその照度(又は色温度あるいはその両者の組み合わせ)が照明Aの変動と逆位相で変動するというシステムである。このようにすると、照明AおよびBのすぐ下付近での照度は、照明Aと照明Bの照度の和となるため、常にほぼ一定に保たれ、しかもその場の人の視野に直接照明Aおよび照明Bの変動が入ることはないので、その変動に気付くことがないのである。しかし、照明Aおよび照明Bの下から少々離れた場所にいる人にとっては、その視野(特に周辺視野)に照明Aおよび照明Bが目に入るため、その変動に気付くことになる。
【0017】
一般的に、商業施設や公共施設等の人間が活動する空間を有する施設全般の照明計画においては、その空間の性格上、あまりに奇抜な照明計画とする訳にはいかないことが普通である。それは、そのような空間の場合、まずはその場の人間が安心して穏やかで快い気分の中で活動することができる照明であることが必須条件となるからである。しかし、その一方で、主として商業的な観点からは、人間が順応しにくく、変化の感じられる照明計画が求められているのも事実である。なぜなら、人間を始めとしてあらゆる生物は新奇刺激を求めるという性質があるにもかかわらず、上記の通り、人間には「知覚の恒常性」という特性が備わっているので、従来のような定常的な照明計画では、短時間のうちにその場の照明に順応してしまうため、長時間にわたって変化を感じさせることは困難だったからである。
【0018】
それに対し、本発明のSOLシステムをその空間(全体ではなく、一部でも構わない。)に組み込めば、SOLシステムのすぐ下の空間では常にほぼ一定の照度(又は色温度あるいはその両者の組み合わせが一定)となるため、その場は通常の穏やかな環境を保ちながら、そこから離れた場所にいる人間にはSOLシステムを構成する照明Aと照明Bが個々にその視野に入るので、それぞれが一定の周期でその照度(又は色温度あるいはその両者の組み合わせ)が変動するという新奇刺激として認識されるのである。そのように時間的に変動する刺激に対しては、人間は順応せずに継続してその変化を知覚するからである。
【0019】
本発明者は、これまでに行った人間の知覚に関連する多数のプロジェクトの成果から、ほんの些細な刺激の属性の変化であっても、時間的に見た目の変化が生じるということが人間の注意を惹くという事実を掴んでいる。そこで、本発明のSOLシステムでは、そのような人間の特徴を上手く利用し、照明に時間的な変化を持たせることによって照明に新奇刺激としての特性を付与するという、これまでに例のない概念の照明計画を可能にすることを企図したのである。空間内において特定の照明が新奇刺激として呈示できるとなれば、新奇刺激に惹かれるという人間の特性を利用することにより、その場所に導くという「回遊行動」を促すことも可能になるものと考えられる。しかも、変動の振幅や周期を適切に調整することにより、それを見る人間が受ける心理的印象もコントロールすることのできる可能性もある。
【0020】
以上の点から、本発明のSOLシステムは、商業施設、公共施設等の人間が活動する空間を有する施設全般において、快適な照明空間デザインを提供するとともに、その場を訪れる人間に対して自然な回遊行動をも促すことを可能にする画期的な照明システムである。
【0021】
本発明は、上記の通り、従来の照明計画のパラダイムを覆す発想を基盤にした画期的な照明システムであるため、高い独創性を有している。しかも、既存の技術に少々のアレンジを加えるだけで実用化可能なシステムである。現代は照明デザインにおいても付加価値が求められる時代であり、新奇刺激としての性質と回遊行動を促す特性の両者を併せ持つ本発明のSOLシステムは、非常に大きな付加価値を有する照明システムであるといえるのである。
【0022】
上記の説明では、照明Aと照明Bの照度又は色温度が時間に対して正弦波状に変化する例を説明しているが、正弦波状でなくても、照明Aの照度又は色温度と照明Bの照度又は色温度の和が時間的にほぼ一定になるような変化であれば、照明A及び照明Bの波形が正弦波状から多少ずれていてもかまわないし、例えば台形状、矩形状の波形としてもかまわない。しかし、照明Aと照明Bの照度又は色温度の変動を一定範囲に急激な変化なく収めるには、照明Aと照明Bの照度又は色温度を正弦波状に近い波形に変化させるのが現実的であると思われる。
【0023】
また、上記の説明では、照明Aと照明Bの2種類の照明を使用した照明システムの例を説明しているが、3種類以上の照明を使用してもかまわない。例えば、照明A、照明B、照明Cの照度又は色温度を正弦波状に変化させ、位相を120°ずつずらし、いわゆる三相の正弦波として、照明A、照明B、照明Cの照度又は色温度の和が時間的にほぼ一定とするように制御しても、本発明の効果が得られる。
照明Aと照明Bの照度又は色温度の周期的変化の周期は、長すぎると、遠くから照明を見た利用者が変化に気付かないため、回遊を誘導する効果が得られない。逆に短すぎると、これを見た利用者がちらつきを感じ、不快感を感じる。したがって、照明の周期的変化の周期は、1秒以上40秒以下が望ましく、さらに2秒以上20秒以下とすると望ましい。
【0024】
照明Aと照明Bの距離は、離れすぎると、照明A、照明Bのすぐ下にいる人間が照明A、照明Bの照度等の周期的変化に気付きやすくなり、違和感を感じる。逆に照明Aと照明Bの距離が近すぎると、照明A、照明Bから離れた人間が照明A、照明Bの照度等の変化を感じなくなり、回遊効果を生じなくなる。照明間の適切な距離は、天井高(照明の設置場所)によって変化する。図3は、照明間の適切な距離を説明するための図である。利用者33の視点(眼の位置)36における水平線34と利用者33の視点(眼の位置)36から、天井35に設置した照明A(31)又は照明B(32)の設置場所に引いた直線のなす角度θを30°以上とする必要があり、60°以上とするとさらに望ましい。利用者33の視点の高さは、日本人の場合、標準的には概ね150cmから160cm程度となる。一対の照明A、B間の適切な距離は、前述のとおり、天井の高さによって変わってくるが、概ね1m以上10m以下とすることが適切である。
【0025】
照明Aと照明Bの照度又は色温度の和は、ほぼ一定とすることが照明のすぐ下にいる人間の違和感を少なくする点で望ましいが、完全に一定にならなくても本発明の効果は得られる。すなわち、複数の照度又は色温度の和の変動の範囲が、各照明の照度又は色温度の変動の範囲の40%以下とすれば発明の効果は得られ、20%以内であればより望ましいといえる。
【実施例2】
【0026】
図2は実施例2の概念を示す図である。本実施例では、多数の照明の照度又は色温度を制御することにより、人間を無意識のうちに適切な方向に誘導している。図2において、照明が多数一列に並んでおり、照明の照度又は色温度が周期的に変化している。図2の一番左の図における照明21の照度又は色温度が、左から2番目の図では照明22の照度又は色温度となり、さらに左から3番目の図においては照明23の照度又は色温度となっている。このように、人間を誘導したい方向に沿って、特定の照明の照度又は色温度を移動させるように一列に並んだ照明の照度又は色温度を変化させることにより、人間を無意識のうちに自然に適切な方向に誘導するものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、照明システムとして産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 照明Aの照度又は色温度
2 照明Bの照度又は色温度
21、22、23 照明
31 照明A
32 照明B
33 利用者
34 利用者の視点の高さにおける水平線
35 天井
36 利用者の視点
図1
図2
図3