【実施例】
【0014】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
主な実験の結果を示す。
Jurkat細胞はRPMI1640培地に10%ウシ胎児血清、50microM2−メルカプトエタノールにストレプトマイシンとペニシリンを加えた培養液で培養した。細胞質局在をしめすエストロゲン受容体の断片とCBPとを融合タンパク質として発現するプラスミドをBio−Rad社のGene Pulserを用いてJurkat細胞に遺伝子導入した。同時にルシフェラーゼにAp−1、NF−κB、あるいはNFATの調節領域を連結したレポーターベクターも導入した。導入48時間後に死細胞を除去し、血清を加えていないRPMI1640培地に細胞数を1x10^6個/mlとして懸濁した。この細胞をBiolegend社の抗CD3抗体と抗CD28抗体とでT細胞受容体(TCR)刺激した。刺激6時間後に回収した細胞の転写活性をPromega社のDual−Luciferase Reporter Assay Systemの方法に従って測定した。AP−1、NF−κB、およびNFATの活性を測定し、その結果を
図1に示した。AP−1の転写活性が低下した。TCRから始まる伝達系のうち、AP−1へ至る経路のいずれかが細胞質CBPにより下方制御されたと考えた。
【0015】
JNKはTCR刺激をAP−1へ伝達する経路で活性化するリン酸化酵素である。AP−1の活性低下はJNKの活性低下の結果と考え、その活性状態を解析した。活性化はJNK自体のリン酸化状態から知ることが出来る。正常Jurkat細胞と細胞質CBP発現Jurkat細胞とをTCR刺激した後、所定の時間で細胞を回収し、JNKのリン酸化をイムノブロット法で解析した。JNKおよびリン酸化JNKの検出には、Cell Signaling Technology社の抗体を使用した。この際、刺激後の細胞を
図2に示す各時で回収し細胞抽出液を調製した。JNKの活性について抗リン酸化JNK抗体を用いて解析した。
図2に示したように、細胞質CBP発現Jurkat細胞ではJNKの活性が減弱していることが判った。CTRLは対象の正常細胞を、ERT2−CBPは細胞質CBP発現細胞をそれぞれ示す。
【0016】
TCR下流で活性化するJNK以外の経路が細胞質CBPにより正や負の調節を受けている可能性がある。
図3には先の実験と同様にして調製したサンプル(どのサンプルでしょうか?
図2と同様の方法で行った実験という意味で、同一のサンプルであるとは限りません。「どの」サンプルかという問いで同一性を表現するつもりはありません)を用いて、他の経路の活性化について解析した結果を示した。この際、刺激後の細胞を
図3に示す各時で回収し細胞抽出液を調製した。ZAP70活性について抗リン酸化ZAP70抗体を用いて解析した(図中左側の二つ)。IkappaB活性状態については抗IkappaB抗体を用いて解析した(右側の二つ)。それぞれのアッセイはイムノブロット法で行った。抗体はいずれもCell Signaling Technology社のものを用いた。
【0017】
TCR刺激に応答するリン酸化酵素ZAP70の活性化に正常細胞と細胞質CBP発現細胞との間で著明な差異を認めなかった。未刺激時は経路の抑制を維持するIkappaBはTCR刺激により分解される。これにより抑制が解除され刺激が伝達される。正常細胞は刺激10分後にIkappaB分解消失し、活性化したことが解る。この活性化は負のフィードバックがかかるため、IkappaBの発現レベルは初期状態に復帰する。こうした一連の活性化状態の変化は細胞質CBP発現細胞でも認められた。このIkappaBの結果は、
図1に示したNKκBの転写活性に変化が生じないことを支持する結果でもある。以上のことは、TCR刺激により活性化する経路のうち、JNK−AP−1経路を細胞質CBPは選択的に制御することを示唆する。
【0018】
細胞質CBPによるアセチル化が刺激伝達を調節したと予測した。JNK−AP−1経路の減弱とアセチル化との直接の関係を探るため、JNKのアセチル化について解析した。また、JNKの活性も低下していることから、その上流のMKK4がアセチル化されている可能性についても検討した。正常Jurkat細胞と細胞質CBP発現細胞の双方から細胞抽出液を調製し、抗アセチル化リジン抗体(Cell Signaling Technology)を用いて免疫沈降を行った。沈降画分をイムノブロット法で解析した。Cell Signaling Technology社の抗JNK1抗体と抗MKK4抗体を使用した。沈降画分にJNK1とMKK4が存在したが、細胞質CBPによりそれらは著明に増大した(
図4)。この結果はJNK1とMKK4がアセチル化されていることを示すが、これらの酵素はアセチル化により低活性になることが考えられる。
【0019】
なお、
図4において、細胞質に存在するJNKとMKK4のアセチル化を解析するため、正常細胞と細胞質CBP発現細胞のそれぞれから細胞抽出液を調製した。各抽出液から抗アセチル化リジン抗体による免疫沈降画分を分画しイムノブロット法でJNKとMKK4の修飾を調べた。
図4に示すERT2−CBP−は正常細胞を、ERT2−CBP+は細胞質CBP発現細胞を示す。
【0020】
上流のMKK4は下流のJNK1と複合体を形成し活性を伝達する。アセチル化されたことが活性化状態に影響することを調べるため、細胞質CBP存在下でのMKK4とJNK1との複合体形成について解析した。正常細胞と細胞質CBP発現細胞とをTCRで刺激した後、細胞溶解液を調製した。抗MKK4抗体を用いて免疫沈降を行い、沈降画分中にJNK1が存在するか否かをイムノブロット法で解析した。試薬と装置は既述のものを使用した。正常細胞ではMKK4免疫沈降画分にJNK1の存在がTCR刺激依存にして検出できたが、細胞質CBP発現細胞では著明に低下していることが判った(
図5左)。これはアセチル化されたことによりMKK4とJNK1とが複合体を形成できない状態になっていることを示唆する。
【0021】
正常細胞ではAP−1構成因子であるc−Junのリン酸化がTCR刺激依存性に検出された。細胞質CBP発現細胞ではc−Junのリン酸化は認められなかった(
図5右)。複合体形成のできないJNK1ではAP−1の活性化を充分に誘導できないことが示唆された。
【0022】
図5中の左図が示すのは、正常細胞(CTRL)と細胞質CBP発現細胞(ERT2−CBP)でのMKK4とJNK1の相互作用を解析した結果である。このときTCR刺激は抗CD3抗体と抗CD28抗体とを用いて行った。また、
図5中の右図が示すのは、MKK4−JNK1経路の活性を知るため、下流のc−Junリン酸化を解析した結果である。この際、抗c−Jun抗体と抗リン酸化c−Jun抗体はCell Signaling Technology社のものを使用した。イムノブロット法で解析を行った。
【0023】
アセチル化によるJNK−AP−1経路の抑制が示唆されたが、このことがT細胞機能にどのような影響を与えているかについて検討した。
図6に示す実験では、正常細胞(CTRL)と細胞質CBP発現細胞(ERT2−CBP)の細胞上清中に含まれるインターロイキン−2濃度を解析した。TCR刺激0時間(0h)と18時間(18h)後に培養上清を用いた。上清中のインターロイキン−2をELISA法(Biolegend社)で測定した結果、正常Jurkat細胞と比較して細胞質CBP発現細胞ではインターロイキン−2量が少なかった(
図6)。MKK4やJNK1のアセチル化によりT細胞の機能が減弱したと考えられる。こうした系を応用すれば、T細胞機能亢進により生じる自己免疫疾患を治療できる可能性が示唆された。
【0024】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。