特許第6984858号(P6984858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984858T細胞に関連する疾病の治療及び診断のための薬剤を同定するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984858
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】T細胞に関連する疾病の治療及び診断のための薬剤を同定するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20211213BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20211213BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20211213BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20211213BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   G01N33/50 Z
   G01N33/68
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 K
   !A61P37/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-247112(P2016-247112)
(22)【出願日】2016年12月3日
(65)【公開番号】特開2018-88905(P2018-88905A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 元就
(72)【発明者】
【氏名】桑原 卓
(72)【発明者】
【氏名】松井 幸英
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0245794(US,A1)
【文献】 特開2010−208954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/02
G01N 33/50
G01N 33/68
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞機能亢進より生じる自己免疫疾患の治療のための薬剤を同定するための方法であって、
候補薬剤の存在下及び非存在下で、T細胞をインキュベートする工程と
インキュベート後のJNK1及びMKK4、又はJNK1若しくはMKK4のアセチル化を、前記候補薬剤の存在下及び
非存在下のそれぞれについて測定する工程と、
候補薬剤の非存在下と比較して、有意に候補薬剤の存在下でアセチル化の割合が増大している候補薬剤をT細胞機能亢進より生じる自己免疫疾患の治療のための薬剤として同定する工程と
を含む、前記方法。
【請求項2】
T細胞機能亢進より生じる自己免疫疾患ヒト多発性硬化症(MS)である請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞に関連する疾患の治療及び診断のための薬剤を同定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染源から身体を守る免疫系には種々の細胞が関与している。免疫細胞の特徴として、一細胞単位で機能を果たすことが挙げられる。個々の細胞が特有の役割を担い、その集合として生体防御が達成される。一つひとつの細胞はサイトカインと呼ばれる細胞外信号分子を用いて情報をやりとりし、全体としては統制のある集団行動をとる。サイトカインを受信した細胞はその内側でシグナル伝達タンパク質になんからの分子修飾を加えて機能スイッチのオンとオフを切り替えている。例えば受信前のシグナル伝達分子はリン酸化修飾の無いオフの状態であるが、サイトカインを受け取るとリン酸化されたオンの状態になる。このように免疫細胞は、シグナル伝達分子のリン酸化により細胞外のサイトカインの情報を解釈し、適切な遺伝子を発現している。分子修飾がスイッチとなっている。最近申請者開示した論文(非特許文献1)のようにシグナル伝達分子のアセチル化が情報伝達の調節に関与することを見出した。
【0003】
免疫系細胞のひとつであるT細胞は感染源を抗原特異的に排除することができる。この抗原特異性はT細胞の発現するT細胞受容体(TCR)による。個々のT細胞はそれぞれ個別のTCRを発現し、固有の抗原と反応する。身体が正常である場合、T細胞は感染源を対象に攻撃しこれを排除する。しかしながら、何らかの原因により制御が乱れると、T細胞は身体の構成成分に攻撃を仕掛ける。これを自己免疫反応と言う。この反応が過剰に生じると臓器の破壊と強く持続した炎症反応を伴う自己免疫疾患が生じる。たとえばヒト多発性硬化症(MS)は自己反応性T細胞により引き起こされる疾患である。
【0004】
抗原を認識したTCRからの情報伝達もリン酸化により進行する。申請者の解析から、TCRからリン酸化により伝達される情報が、アセチル化の干渉により減弱することが判ってきた。アセチル化の特徴を有効に調節すれば、T細胞の反応性を制御できる可能性が浮かぶ。アセチル化によりTCR刺激を減弱できるならば、T細胞の制御不全で生じる自己免疫疾患を治療することも可能となるかも知れない。また、アセチル化調節下のT細胞を用いれば治療薬のスクリーニングや診断法の確立も可能かも知れない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】The Journal of Immunology,2016,197,4334−4343 Acetylation modulates IL−2 receptor signaling in T cells Taku Kuwabara,Hirotake Kasai,and Motonari Kondo
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本分野において、T細胞に関連する疾患の治療及び診断のための薬剤を同定する要求が存在する。本発明は、その要求を満たすための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題を解決するため、まず宿主細胞にヒトT細胞株Jurkat細胞を用い、アセチル化酵素であるCBPを細胞質で発現させた。この狙いは、CBPが細胞質中で基質タンパク質をアセチル化するという現象の顕著化を目指したためである。アセチル化されるタンパク質に情報伝達に関わる分子群も含まれれば、その伝達様式に変化が生じて細胞機能も変わると考えた。実際にJurkat細胞をT細胞受容体で刺激した場合に活性化される転写因子のうち、AP−1の活性が低下した。これはAP−1に至る経路のJNK1とMKK4が細胞質CBPによりアセチル化されたためであるらしいことが判った。T細胞はT細胞受容体刺激によりインターロイキン−2を産生するが、これもMKK4/JNK1/AP−1の活性減弱に起因して産生減となった。
【0008】
このようにTCR刺激によってJNK1とMKK4がアセチル化されることが示された。そのため、T細胞が異常に活性化することにより生じると考えられる疾患はJNK1とMKK4のアセチル化を阻害することによりT細胞に関連する、たとえば多発性硬化症(MS)のような疾患の治療及び診断のための薬剤を同定することが可能であることが示唆される。
【0009】
そこで、本発明は、T細胞に関連する疾病の治療及び診断のための薬剤を同定するための方法であって、候補薬剤の存在下及び非存在下で、T細胞をインキュベートする工程とインキュベート後のJNK1及びMKK4、又はJNK1若しくはMKK4のアセチル化を、前記候補薬剤の存在下及び非存在下のそれぞれについて測定する工程と、候補薬剤の非存在下と比較して、有意に候補薬剤の存在下でアセチル化の割合が減少している候補薬剤をT細胞に関連する疾病の治療及び診断のための薬剤として同定する工程とを含む、前記方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、上記したT細胞に関連する疾患はMSである方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、T細胞関連する疾患の治療及び診断のための薬剤を同定するための方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】 AP−1、NF−κB、およびNFATの活性の測定結果を示す図である。正しいです。
図2】 全JNKおよびリン酸化JNKの検出結果を示す図である。
図3】 全ZAP70およびリン酸化ZAP70とIkappaBの分解を解析した図である。
図4】 アセチル化したJNK1およびMKK4と全JNK1と全MKK4を検出した結果を示す図である。
図5】 正常細胞(CTRL)と細胞質CBP発現細胞(ERT2−CBP)でのMKK4とJNK1の相互作用の解析結果を示す図(図中左)と、MKK4−JNK1経路の活性を知るため下流のc−Junリン酸化の解析結果を示す図(図右)である。
図6】 それぞれTCR刺激した後の正常細胞(CTRL)と細胞質CBP発現細胞(ERT2−CBP)の細胞上清中に含まれるインターロイキン−2濃度の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述したようにTCR刺激によってJNK1とMKK4がアセチル化されることが示された。そのため、T細胞が異常に活性化することにより生じると考えられる疾患はJNK1とMKK4のアセチル化を調節することによりT細胞に関連する、たとえば多発性硬化症(MS)のような疾患の治療及び診断のための薬剤を同定することが可能であることが示唆される。
【実施例】
【0014】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
主な実験の結果を示す。
Jurkat細胞はRPMI1640培地に10%ウシ胎児血清、50microM2−メルカプトエタノールにストレプトマイシンとペニシリンを加えた培養液で培養した。細胞質局在をしめすエストロゲン受容体の断片とCBPとを融合タンパク質として発現するプラスミドをBio−Rad社のGene Pulserを用いてJurkat細胞に遺伝子導入した。同時にルシフェラーゼにAp−1、NF−κB、あるいはNFATの調節領域を連結したレポーターベクターも導入した。導入48時間後に死細胞を除去し、血清を加えていないRPMI1640培地に細胞数を1x10^6個/mlとして懸濁した。この細胞をBiolegend社の抗CD3抗体と抗CD28抗体とでT細胞受容体(TCR)刺激した。刺激6時間後に回収した細胞の転写活性をPromega社のDual−Luciferase Reporter Assay Systemの方法に従って測定した。AP−1、NF−κB、およびNFATの活性を測定し、その結果を図1に示した。AP−1の転写活性が低下した。TCRから始まる伝達系のうち、AP−1へ至る経路のいずれかが細胞質CBPにより下方制御されたと考えた。
【0015】
JNKはTCR刺激をAP−1へ伝達する経路で活性化するリン酸化酵素である。AP−1の活性低下はJNKの活性低下の結果と考え、その活性状態を解析した。活性化はJNK自体のリン酸化状態から知ることが出来る。正常Jurkat細胞と細胞質CBP発現Jurkat細胞とをTCR刺激した後、所定の時間で細胞を回収し、JNKのリン酸化をイムノブロット法で解析した。JNKおよびリン酸化JNKの検出には、Cell Signaling Technology社の抗体を使用した。この際、刺激後の細胞を図2に示す各時で回収し細胞抽出液を調製した。JNKの活性について抗リン酸化JNK抗体を用いて解析した。図2に示したように、細胞質CBP発現Jurkat細胞ではJNKの活性が減弱していることが判った。CTRLは対象の正常細胞を、ERT2−CBPは細胞質CBP発現細胞をそれぞれ示す。
【0016】
TCR下流で活性化するJNK以外の経路が細胞質CBPにより正や負の調節を受けている可能性がある。図3には先の実験と同様にして調製したサンプル(どのサンプルでしょうか?図2と同様の方法で行った実験という意味で、同一のサンプルであるとは限りません。「どの」サンプルかという問いで同一性を表現するつもりはありません)を用いて、他の経路の活性化について解析した結果を示した。この際、刺激後の細胞を図3に示す各時で回収し細胞抽出液を調製した。ZAP70活性について抗リン酸化ZAP70抗体を用いて解析した(図中左側の二つ)。IkappaB活性状態については抗IkappaB抗体を用いて解析した(右側の二つ)。それぞれのアッセイはイムノブロット法で行った。抗体はいずれもCell Signaling Technology社のものを用いた。
【0017】
TCR刺激に応答するリン酸化酵素ZAP70の活性化に正常細胞と細胞質CBP発現細胞との間で著明な差異を認めなかった。未刺激時は経路の抑制を維持するIkappaBはTCR刺激により分解される。これにより抑制が解除され刺激が伝達される。正常細胞は刺激10分後にIkappaB分解消失し、活性化したことが解る。この活性化は負のフィードバックがかかるため、IkappaBの発現レベルは初期状態に復帰する。こうした一連の活性化状態の変化は細胞質CBP発現細胞でも認められた。このIkappaBの結果は、図1に示したNKκBの転写活性に変化が生じないことを支持する結果でもある。以上のことは、TCR刺激により活性化する経路のうち、JNK−AP−1経路を細胞質CBPは選択的に制御することを示唆する。
【0018】
細胞質CBPによるアセチル化が刺激伝達を調節したと予測した。JNK−AP−1経路の減弱とアセチル化との直接の関係を探るため、JNKのアセチル化について解析した。また、JNKの活性も低下していることから、その上流のMKK4がアセチル化されている可能性についても検討した。正常Jurkat細胞と細胞質CBP発現細胞の双方から細胞抽出液を調製し、抗アセチル化リジン抗体(Cell Signaling Technology)を用いて免疫沈降を行った。沈降画分をイムノブロット法で解析した。Cell Signaling Technology社の抗JNK1抗体と抗MKK4抗体を使用した。沈降画分にJNK1とMKK4が存在したが、細胞質CBPによりそれらは著明に増大した(図4)。この結果はJNK1とMKK4がアセチル化されていることを示すが、これらの酵素はアセチル化により低活性になることが考えられる。
【0019】
なお、図4において、細胞質に存在するJNKとMKK4のアセチル化を解析するため、正常細胞と細胞質CBP発現細胞のそれぞれから細胞抽出液を調製した。各抽出液から抗アセチル化リジン抗体による免疫沈降画分を分画しイムノブロット法でJNKとMKK4の修飾を調べた。図4に示すERT2−CBP−は正常細胞を、ERT2−CBP+は細胞質CBP発現細胞を示す。
【0020】
上流のMKK4は下流のJNK1と複合体を形成し活性を伝達する。アセチル化されたことが活性化状態に影響することを調べるため、細胞質CBP存在下でのMKK4とJNK1との複合体形成について解析した。正常細胞と細胞質CBP発現細胞とをTCRで刺激した後、細胞溶解液を調製した。抗MKK4抗体を用いて免疫沈降を行い、沈降画分中にJNK1が存在するか否かをイムノブロット法で解析した。試薬と装置は既述のものを使用した。正常細胞ではMKK4免疫沈降画分にJNK1の存在がTCR刺激依存にして検出できたが、細胞質CBP発現細胞では著明に低下していることが判った(図5左)。これはアセチル化されたことによりMKK4とJNK1とが複合体を形成できない状態になっていることを示唆する。
【0021】
正常細胞ではAP−1構成因子であるc−Junのリン酸化がTCR刺激依存性に検出された。細胞質CBP発現細胞ではc−Junのリン酸化は認められなかった(図5右)。複合体形成のできないJNK1ではAP−1の活性化を充分に誘導できないことが示唆された。
【0022】
図5中の左図が示すのは、正常細胞(CTRL)と細胞質CBP発現細胞(ERT2−CBP)でのMKK4とJNK1の相互作用を解析した結果である。このときTCR刺激は抗CD3抗体と抗CD28抗体とを用いて行った。また、図5中の右図が示すのは、MKK4−JNK1経路の活性を知るため、下流のc−Junリン酸化を解析した結果である。この際、抗c−Jun抗体と抗リン酸化c−Jun抗体はCell Signaling Technology社のものを使用した。イムノブロット法で解析を行った。
【0023】
アセチル化によるJNK−AP−1経路の抑制が示唆されたが、このことがT細胞機能にどのような影響を与えているかについて検討した。図6に示す実験では、正常細胞(CTRL)と細胞質CBP発現細胞(ERT2−CBP)の細胞上清中に含まれるインターロイキン−2濃度を解析した。TCR刺激0時間(0h)と18時間(18h)後に培養上清を用いた。上清中のインターロイキン−2をELISA法(Biolegend社)で測定した結果、正常Jurkat細胞と比較して細胞質CBP発現細胞ではインターロイキン−2量が少なかった(図6)。MKK4やJNK1のアセチル化によりT細胞の機能が減弱したと考えられる。こうした系を応用すれば、T細胞機能亢進により生じる自己免疫疾患を治療できる可能性が示唆された。
【0024】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6