【実施例1】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0023】
図1は、一般的な単管足場の構成を示す単管足場の部分斜視図及び立面図である。
【0024】
単管足場1は、単管パイプからなる建地2、根がらみ3、布4、腕木(ころばし又は転ばし)5、手摺6、中桟7及び筋交い(ブレース)8や、足場板9等を多層(
図1では、7層)に組立てた構造を有し、建設中の建築物Aの外壁面に沿って配置される。工具落下等を阻止する養生ネット15、16(
図1(B))が、単管足場1の外面等に設けられ、単管足場1の傾倒を防止する壁つなぎ部材17が、建地2及び建築物Aを相互連結するように配設される。
【0025】
単管足場1の組立初期には、敷板11が、単管足場1の配置に相応して地盤上に配置され、固定型ベース金具12が、釘等の係止具によって敷板11に固定される。根がらみ3が、緊結部材、緊締金具又はクランプ金具13(以下、「緊結部材13」という。)によって建地2の最下部に緊結又は緊締(以下、「緊結」という。)され、地盤レベル近傍で建地2を相互連結する。建地2は、梁間方向に約0.6〜1.5m程度、桁行方向に約1.8m程度の間隔を隔てて配置される。布4及び腕木5が緊結部材13によって建地2に緊結され、梁間方向又は桁行方向に架設される。
【0026】
建築物Aが建築工事の進捗に従って順次上層に延びるにつれて、建地2は、汎用の継手金具によって順次上層に継ぎ足される。各層の布4、腕木5及び筋交い8は、緊結部材13によって建地2に順次緊結される。各層の足場板9が、腕木5上に敷設され、作業床又は作業通路が各層に形成される。第2層より上層のレベルでは、手摺6及び中桟7が緊結部材によって建地2に緊結される。手摺6は、各層において足場板9から90cm以上の高さに配置される。なお、
図1において、布4は、建地2の外側(屋外側)に配置され、手摺6及び中桟7は、建地2の内側(通路側)に配置されているが、布4を建地2の内側に配置し、或いは、手摺6及び中桟7を建地2の外側に配置しても良い。
【0027】
図1に示す単管足場1では、最上層(第7層)の足場板9が敷設されている。最上層作業床では、足場板9から所定距離(例えば、約1〜1.5m程度)上方に突出する建地2aと、足場板9から僅かな距離(例えば、約10〜30cm程度)だけ上方に突出する建地2bとが、布4の方向に交互に配置され、建地2の最上部は、二種の建地2a、2bが千鳥形態に配列される。なお、前述したとおり、このような建地最上部の千鳥配列は、従来の単管足場において一般的に採用されている建地配列である。
【0028】
図2(A)及び
図3(A)は、
図1に示すような汎用の単管足場1において、その最上層作業床に親綱支柱20を立設する前の状態を示す単管足場最上部の断面図及び正面図である。
図2(B)及び
図3(B)は、最上層作業床において親綱支柱20を鉛直起立位置に立設した状態を示す単管足場最上部の断面図及び正面図である。なお、
図2及び
図3に示す単管足場においては、布4は、建地2の内側(通路側)に配置されている。また、腕木5は、屋外側から見て、建地2a、2bの左側に配置されている。
【0029】
図2及び
図3には、階層S
nの足場板9上で作業する作業者等が示されている。階層S
nの足場板9は、作業床レベルL
nに位置する。最上層の作業床レベルL
n+1には、点線で示す如く、階層S
n+1の足場板9が敷設される。階層S
nの作業者等は、階層S
n+1(作業床レベルL
n+1)の足場板9を敷設する前に、階層S
n+1の親綱支柱20を結合部Jに取付ける。結合部Jは、建地2a、布4及び腕木5を構成する各単管パイプを緊結部材13で緊結した単管パイプ結合領域である。
【0030】
親綱支柱20は、下端部に配置された第1係合部30と、中間高さ位置に配置された第2係合部40及び第3係合部50とを有する。第1係合部30は、
図2(A)に破線で示す如く、親綱支柱20が傾斜した状態で建地2aに係合する。第1係合部30は、階層S
n+1の足場板9及び腕木5の下側において建地2aに係止する一対の鉤形係止手段を有し、布方向(桁方向)及び腕木方向(梁間方向)の親綱支柱20の変位又は移動は、ある程度は、拘束される。しかしながら、作業者等は、
図2(A)に矢印で示す如く、親綱支柱20を建地2a廻り回転させるとともに、
図2(B)に示す鉛直起立姿勢に親綱支柱20を回動又は枢動させることができる。第2係合部40は、階層S
n+1の腕木5に係止可能なフック状係止手段を有し、主に親綱支柱20の降下及び布方向の傾倒を拘束又は阻止する手段として機能する。第3係合部50は、階層S
n+1の腕木5の上側において建地2aの上方突出部に緊結可能な緊結部材(クランプ金具)を有し、親綱支柱20の降下及び水平変位を拘束又は阻止する手段として機能する。
【0031】
親綱支柱20は更に、親綱Bを中間支持する親綱保持手段として親綱フック部60を上端部に有する。親綱フック部60には、親綱Bが挿通、係止又は係留され、親綱Bは、布方向に水平に延びる。親綱Bは、階層S
n+1の手摺6(
図2に点線で示す)と同等の高さ位置において親綱支柱20の間に張設される。
【0032】
図4は、親綱支柱20の構造を示す斜視図、側面図及び正面図であり、
図5は、第1係合部30の構造を示す正面図、側面図、平面図及び分解斜視図であり、
図6は、第2及び第3係合部40、50の構造を示す平面図、分解斜視図、部分破断正面図及び斜視図である。また、
図7は、親綱フック部60の構造を示す正面図、縦断面図及び斜視図である。なお、
図4及び
図7には、親綱Bが二点鎖線で示されている。
【0033】
図4に示す如く、親綱支柱20は、正方形断面の角形金属管21に対して、第1〜第3係合部30、40、50及び親綱フック部60を配設した構造を有する。金属管21は、支柱本体を構成する。親綱支柱20の全長は、約1500〜1600mm程度の寸法に設定される。金属管21は、例えば、50mm×50mm(W0×D0)の断面寸法及び約1400〜1500mm程度の全長を有するアルミ合金製又は鋼製の管材からなる。第1〜第3係合部30、40、50及び親綱フック部60は、金属製部材、例えば、アルミ合金製又は鋼製の成形部品又はその組立体からなる。
【0034】
図5に示す如く、第1係合部30は、ボルト・ナット組立体32によって金属管21の下端部に固定される平面視コの字形、函形又はU形の固定部31と、固定部31から外方に突出する左右一対の鉤形部材33、34とを有する。鉤形部材33、34は、上下方向に互いにずれた位置に配置されており、傾斜溝35を形成する。傾斜溝35の中心軸線C2は、固定部31の上下方向の中心軸線C1に対して角度θの方向に傾斜しており、角度θは、例えば、約30度に設定される。傾斜溝35の幅W1は、建地2を構成する単管パイプの直径(約48mm)よりも僅かに大きな寸法(例えば、50〜55mm)に設定される。各鉤形部材33、34の正面視幅寸法W2:W3は、固定部31の幅W4×1/2よりも僅かに大きな寸法に設定される。
図5(C)に示す如く、建地2(破線で示す)を鉛直方向に挿通可能な建地挿通空間36が、鉤形部材33、34によって画成される。建地挿通空間36の幅寸法W4及び奥行寸法D1は、建地2を構成する単管パイプの直径(約48mm)よりも僅かに大きな寸法(例えば、50〜55mm)に設定される。
【0035】
図6に示す如く、第2係合部40は、一体的な金属部材からなり、コの字形、函形又はU字形の固定部41と、左右一対のフック部42とを有する。フック部42は、腕木5に係止するフック状係止手段を構成する。固定部41は、一点鎖線で軸芯のみを図示したボルト・ナット組立体45によって金属管21に固定される。各フック部42は、所定の曲率半径R1、R2で湾曲した湾曲部43、44を有する。曲率半径R1、R2は、例えば、25mmに設定される。使用において、内側に位置する湾曲部43は、
図6(C)に二点鎖線で示す腕木5の外周面を囲み、腕木5は、湾曲部43又はその近傍を支承することができる。外側に位置する湾曲部44も又、腕木5の外周面を囲み、腕木5は、湾曲部44又はその近傍を支承することができる。フック部42に作用する親綱支柱20の鉛直荷重は、少なくとも部分的に腕木5によって支持される。湾曲部43、44は、腕木5の両側において腕木5の最頂部よりも下側に延びるので、腕木5は、布方向のフック部42の水平変位を拘束し又は阻止する。
【0036】
図6(A)には、第3係合部50を構成する緊結部材51が示されている。緊結部材51は、一点鎖線で軸芯のみを図示したボルト・ナット組立体55と、緊結部材51の回転を拘束する保持具52(
図6(D)、
図4(A))とによって固定部41に拘束される。緊結部材51は、汎用の仮設工事用クランプ金具であり、建地2に緊結される。建地2の中心軸線2cとフック部42との間の水平距離S1、中心軸線2cと金属管21との間の水平距離S2、或いは、フック部42の構面と固定部41の外端面41aとの間の水平距離S3は、階層S
n+1の部分の単管パイプ、クランプ金具等の組付け作業の作業性を考慮して設定される。例えば、距離S3は、約35〜45mmに設定され、距離S2は、約75〜80mmに設定される。
【0037】
図7に示す如く、親綱フック部60は、左右一対の親綱係留部材61、62と、二点鎖線で示す親綱Bに転接又は摺接するローラ63と有する。親綱係留部材61、62は、一点鎖線で軸芯のみを
図7(C)に図示したボルト・ナット組立体65によって、
図4に示す如く、金属管21の上端部に固定される。
図7に示す如く、親綱係留部材61、62は、ローラ63を支持する。親綱係留部材61、62及びローラ63は、親綱Bを挿通可能な親綱挿通領域64を画成する。
【0038】
図8及び
図9には、親綱支柱20の設置方法が示されている。
図8(A)及び
図8(B)は、
図2(B)の矢印α方向(屋外側から通路側に向かう方向)に親綱支柱2を見た立面図であり、
図9(A)及び
図9(B)は、
図2(B)の矢印β方向(通路側から屋外側に向かう方向)に親綱支柱2を見た立面図である。また、
図8(C)は、親綱支柱20の取付け態様を示す単管足場1の部分断面図であり、
図8(D)は、フック部42と腕木5との当接状態を示す親綱支柱20の部分斜視図であり、
図9(C)は、親綱支柱20を単管足場1に立設した状態を示す斜視図である。なお、
図8及び
図9においては、理解を容易にするため、布4が破線で示されている。また、腕木5は、屋外側から見て、建地2a、2bの右側に配置されている(
図8(A)及び
図8(B))。
【0039】
図8及び
図9を参照して親綱支柱20の設置方法について説明する。
【0040】
作業者等は、先ず、
図8(A)及び
図9(A)に示す如く、親綱支柱20を鉛直方向に対して傾斜角θで傾斜させ、この状態で、
図8(C)に示す如く、親綱支柱20を屋外側から建地2に接近させ、第1係合部30を建地2に係合させる。建地2は、第1係合部30の傾斜溝35(
図5)から建地挿通空間36(
図5)に収容され、
図8(A)及び
図9(A)に示す如く、傾斜角θで傾斜した状態で建地2に係合する。この状態では、第3係合部50の緊結部材51は、解放した状態である。好ましくは、親綱Bは、
図8(A)及び
図9(A)に一点鎖線で示す如く、親綱支柱20の設置工程を開始する前に親綱フック部60の親綱挿通領域64に予め挿通される。
【0041】
次いで、作業者等は、
図8(A)及び
図9(A)に矢印で示す如く、親綱支柱20を回動させる。親綱支柱20の動作又は挙動は、主として、第1係合部30の部分を支点又は回転中心とした回動又は枢動である。親綱支柱20が概ね鉛直起立位置まで回動すると、第2係合部40の片側のフック部42が腕木5に整列し、フック部42を腕木5上に載置することができる。作業者等がフック部42を腕木5上に載置すると、フック部42は、腕木5に支承され、親綱支柱20の鉛直荷重が腕木5によって支持される。
【0042】
この状態が
図8(B)及び
図9(B)に示されている。この状態では、緊結部材51は、所定の高さ位置において建地2に整合しており、作業者等は、緊結部材51を建地2に対して緊結することができる。親綱支柱20は、緊結部材51を建地2に緊結することにより、鉛直起立位置において建地2にしっかりと固定される。なお、親綱Bを親綱支柱20の間に張設するには、従来の如く、親綱Bの一端を固定し、その他端を牽引すれば良い。また、最上層の足場板9(
図2(B))は、親綱支柱20の設置後に腕木5上に敷設される。
【0043】
本発明者等は、親綱支柱20に関し、労働安全衛生法の下で規定された「落下阻止性能試験」を実施し、所定の性能を確保し得ることを既に確認しており、従って、親綱支柱20の諸性能については、既に実証されている。また、親綱支柱20は、単管足場用に開発されたものであるが、本発明の構成は、枠組足場用の親綱支柱の構成としても応用することができる。以下、本発明の応用例として、本発明に係る枠組足場用の親綱支柱の実施例について説明する。
【実施例3】
【0049】
図12(A)は、ブラケット足場1”に取付け可能な親綱支柱20”の構成を示す側面図であり、
図12(B)は、親綱支柱20”をブラケット足場1”に取付けた状態を示す側面図であり、
図12(C)は、親綱支柱20”において使用される第2係合部80’の構造を示す斜視図である。
【0050】
ブラケット足場1”は、単管パイプからなる建地2dに取付けられた伸縮ブラケット90を有し、伸縮ブラケット90の腕木92上に足場板9(破線で示す)を敷設した構造を有する。腕木92は、伸縮部96を腕木本体の管内に引き込んだ短縮状態で
図12に示されている。伸縮ブラケット90は、腕木92の基端部から下方に延びる係留部材91と、係留部材91の上部に取付けられた緊結部材94と、係留部材91の下部に取付けられた支承部95とを有する。伸縮ブラケット90は、係留部材91の下端部と腕木92の先端部とを相互連結する補剛用斜材93によって補強される。緊結部材94は、建地2dに緊結される仮設工事用クランプ金具からなり、支承部95は、建地2dの外周面に当接する半円状部材からなる。伸縮ブラケット90は、緊結部材94を建地2dに緊結し且つ建地2dで支承部95を支承することにより、建地2dに支持される。
【0051】
親綱支柱20”は、枠組足場用の親綱支柱20’(
図10、
図11)と同じ基本構造を有するが、
図12(C)に示す如く高さを増大した第2係合部80’を備える点で親綱支柱20’と相違する。第2係合部80’は、フック部82及び固定部81の間の上下方向の寸法を拡大する連結拡張部87を有する。
図12(B)に示すようにフック部82の湾曲部83を伸縮ブラケット90の腕木92に係止すると、第3係合部50の緊結部材51は、支承部95の下側に配置されるので、緊結部材51を建地2dに緊結することができる。親綱支柱20”の他の構成要素又は構成部品は、親綱支柱20’の構成要素又は構成部品と実質的に同一又は同等であり、親綱支柱20”は、親綱支柱20’と実質的に同一又は同様の方法又は作業手順で伸縮ブラケット90及び建地2dに組み付けられる。
【0052】
図13は、
図12に示す親綱支柱20”を枠組足場1’(
図10)に取付けた状態を示す側面図である。
【0053】
図12に示す親綱支柱20”は、ブラケット足場1”の構成に適応するために、フック部82及び固定部81の間の上下方向の寸法を拡大する連結拡張部87を備えるが、このような構成を有する親綱支柱20”は、
図13に示す如く、前述の枠組足場1’にも適応し、枠組足場1’に対しても組付けることができる。
【0054】
従って、第2係合部40(
図6)及び第2係合部80’(
図12)を親綱支柱20(20’、20”)の金属管21に選択的に取付け可能なアタッチメントとして設計し、第2係合部40(
図6)及び第2係合部80’を交換することにより、親綱支柱20(20’、20”)を単管足場1、枠組足場1’及びブラケット足場1”のいずれにも適応させることができる。即ち、交換可能な第2係合部40(
図6)及び第2係合部80’(
図12)を用意し、いずれか一方を親綱支柱20(20’、20”)の金属管21に選択的に取付けることにより、親綱支柱20(20’、20”)を単管足場1、枠組足場1’及びブラケット足場1”のいずれにおいても使用することができる。
【0055】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0056】
例えば、上記実施例の親綱支柱は、単管足場、枠組足場又はブラケット足場に取付けられる構成のものであるが、本発明に係る親綱支柱は、適切な設計変更等を行うことにより、他の形式の仮設足場においても使用可能である。
【0057】
また、上記実施例1に係る親綱支柱は、布を建地の内側(通路側)に配置した構成を有する単管足場に適合した構成のものであるが、本発明に係る親綱支柱は、適切な寸法変更等により、布を建地の外側(屋外側)に配置した構成を有する単管足場においても使用し得るように設計変更することができる。