特許第6984874号(P6984874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984874
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】航海計画方法及び航海計画システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 3/00 20060101AFI20211213BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20211213BHJP
   G01C 21/20 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   G08G3/00 A
   B63B49/00 Z
   G01C21/20
【請求項の数】19
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-192850(P2017-192850)
(22)【出願日】2017年10月2日
(65)【公開番号】特開2019-67198(P2019-67198A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】枌原 直人
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
【審査官】 白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−013145(JP,A)
【文献】 特開2017−021029(JP,A)
【文献】 特開2016−055772(JP,A)
【文献】 特開2003−203300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 3/00
B63B 49/00
G01C 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の航海を計画する航海計画方法であって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手ステップと、入手した前記波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定ステップと、前記航海計画に基づいて航行する前記船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測ステップと、計測された前記実波浪から算定される前記実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて前記航海計画の修正を行う航海計画修正ステップとを備え、前記航海計画修正ステップにおいて、前記計測方向スペクトラムの角度に対する広がりを判断するパラメータであるエネルギー分散幅又は平均分散角を含む方向分散性パラメータを使用して前記航海計画を修正することを特徴とする航海計画方法。
【請求項2】
船舶の航海を計画する航海計画方法であって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手ステップと、入手した前記波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定ステップと、前記航海計画に基づいて航行する前記船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測ステップと、計測された前記実波浪から算定される前記実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて前記航海計画の修正を行う航海計画修正ステップとを備え、前記航海計画策定ステップにおいて、波浪場を表す代表値である前記波浪諸元情報に含まれる有義波高、平均波周期、及び主波向を用いて算定される波浪の標準方向スペクトラムを利用して最適航路及び/又は最適船速配分を含む前記航海計画を策定することを特徴とする航海計画方法。
【請求項3】
前記方向分散性パラメータが閾値を超えた場合に、前記航海計画の修正を行うことを特徴とする請求項に記載の航海計画方法。
【請求項4】
計測された前記実波浪から推定される有義波高の大小に応じて、前記閾値を変更することを特徴とする請求項3に記載の航海計画方法。
【請求項5】
前記航海計画策定ステップにおいて、前記波浪諸元情報の波浪諸元ごとに燃料消費量及び/又は船速を含む前記船舶の応答データを算定することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の航海計画方法。
【請求項6】
前記航海計画修正ステップにおいて、計測された前記実波浪により修正応答データとして修正燃料消費量及び/又は修正船速を算定することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の航海計画方法。
【請求項7】
前記航海計画修正ステップにおいて、前記応答データと前記修正応答データとの差に基づいて、前記航海計画の修正を行うことを特徴とする請求項を引用する請求項に記載の航海計画方法。
【請求項8】
前記航海計画の修正は、船舶パラメータである前記船舶のプロペラ回転数及び/又は針路の修正であることを特徴とする請求項に記載の航海計画方法。
【請求項9】
前記実波浪計測ステップにおける前記実波浪の計測には、前記船舶に搭載された波浪レーダを用いることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の航海計画方法。
【請求項10】
前記実波浪計測ステップで計測された前記実波浪に基づいて、海象予測による前記波浪諸元情報を修正することを特徴とする請求項1に記載の航海計画方法。
【請求項11】
船舶の航海を計画する航海計画システムであって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手手段と、入手した前記波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定手段と、前記航海計画に基づいて航行する前記船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測手段と、計測された前記実波浪から算定される計測方向スペクトラムに基づいて前記航海計画の修正を行う航海計画修正手段とを備え、前記航海計画修正手段が、前記計測方向スペクトラムの角度に対する広がりを判断するパラメータであるエネルギー分散幅又は平均分散角を含む方向分散性パラメータを算定する方向分散性パラメータ算定部を有することを特徴とする航海計画システム。
【請求項12】
船舶の航海を計画する航海計画システムであって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手手段と、入手した前記波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定手段と、前記航海計画に基づいて航行する前記船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測手段と、計測された前記実波浪から算定される計測方向スペクトラムに基づいて前記航海計画の修正を行う航海計画修正手段とを備え、前記航海計画策定手段が、波浪場を表す代表値である前記波浪諸元情報に含まれる有義波高、平均波周期、及び主波向を用いて波浪の標準方向スペクトラムを算定する標準方向スペクトラム算定部を有することを特徴とする航海計画システム。
【請求項13】
前記航海計画修正手段が、前記方向分散性パラメータが閾値を超えた場合に前記航海計画の修正を行う修正判断部を有することを特徴とする請求項11に記載の航海計画システム。
【請求項14】
前記航海計画修正手段が、計測された前記実波浪から推定される有義波高の大小に応じて前記閾値を変更する閾値変更部を有することを特徴とする請求項13に記載の航海計画システム。
【請求項15】
前記航海計画策定手段が、前記波浪諸元情報の波浪諸元ごとに、燃料消費量及び/又は船速を含む前記船舶の応答データを算定する応答データ算定部を有することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか1項に記載の航海計画システム。
【請求項16】
前記航海計画修正手段が、計測された前記実波浪により修正燃料消費量及び/又は修正船速を算定し修正応答データを求める応答データ修正部を有することを特徴とする請求項11から請求項15のいずれか1項に記載の航海計画システム。
【請求項17】
前記航海計画修正手段が、前記応答データと前記修正応答データとの差に基づいて、前記航海計画の修正を行なう計画修正部を有することを特徴とする請求項15を引用する請求項16に記載の航海計画システム。
【請求項18】
前記計画修正部は、前記船舶のプロペラ回転数及び/又は針路を修正する船舶パラメータ修正部を含むことを特徴とする請求項17に記載の航海計画システム。
【請求項19】
前記実波浪計測手段として、前記船舶に搭載した波浪レーダを用いることを特徴とする請求項11から請求項18のいずれか1項に記載の航海計画システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の航海計画方法及び航海計画システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海象予測による波浪諸元情報(有義波高、平均波周期、主波向)から算定される標準方向スペクトラムを利用して航路や船速配分を含む航海計画を策定する、いわゆるウェザー・ルーティングと呼ばれる手法が知られている。策定した航海計画に基づいて航行することで、目的地まで効率よく航海することができる。
【0003】
ところで、特許文献1には、2組以上の短波海洋レーダで観測された海面散乱のドップラスペクトルから波浪の方向スペクトルを抽出する波浪方向スペクトル抽出法であって、波浪の方向スペクトルを指数関数Xで表し、方位と周波数の座標で展開し、ベイズモデルを導入してドップラスペクトルから波浪の方向スペクトルを抽出する短波海洋レーダによる波浪方向スペクトル抽出法が開示されている。
また、特許文献2には、台風の位置、中心気圧、暴風半径等々のパラメータの情報を得る工程と、得た情報からカルマンフィルターにより時間T後のパラメータを予測する工程と、予測されたパラメータを用いて台風内の有義波高と有義周期とを算出する工程と、台風内の波浪が推算点に到達する時間を計算する工程と、推算点における波浪データを取得する工程と、台風内の波浪が推算点に到達した時点における推算点の有義波高と有義周期とを算出して予測する工程とを有する港湾における船舶運航限界の予測システム及び予測方法が開示されている。
また、特許文献3には、波浪特性と波浪方向との関係を示す第1グラフと、波浪特性スペクトラム又は方向スペクトラムの第2グラフとを表示する表示器を備え、表示器には、第1グラフ又は第2グラフの一方に表示される第1マーカーと、第1グラフ又は第2グラフの他方に表示される第2マーカーとが表示される波浪レーダ装置が開示されている。
また、特許文献4には、船体運動のピッチ運動とヨウ運動を測定し、測定したピッチ運動とヨウ運動の周期と振幅比と位相差から、予め設定されたピッチ運動とヨウ運動の周期と振幅比と位相差と入射波の波向きとの関係を示すデータを基に、入射波の波向きを推定すると共に、計測されたピッチ運動と推定された波向きから入射波の波高を推定する入射波の波高及び波向き推定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−266863号公報
【特許文献2】特開2003−203300号公報
【特許文献3】特開2016−206151号公報
【特許文献4】特開2011−213130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
航海計画に基づいて航行する船舶が遭遇する実際の海象は、航海計画策定時の予想海象と異なることも多い。船舶に搭載された波浪レーダにより波浪を計測し、それを基に航海計画を修正することが行われてはいるが、精度等の面で十分とはいえない。
ここで、特許文献1は、2組以上の短波海洋レーダを用いて精度の高い波浪の方向スペクトルを抽出しようとするものであるが、船上で計測した波浪に基づいて航行中の船舶の航海計画を修正するものではない。
また、特許文献2は、外洋性港湾において荒天時に多い長周期波の発生を1〜3日後まで予測し、船舶の入港可否又は港内係留船の安全を予測しようとするものであり、航行中の船舶の航海計画を修正するものではない。また、港外の波浪を予測する海象観測装置等を設置する必要があり、構成が大掛かりになってしまう。
また、特許文献3は、波浪レーダ装置に表示される複数のスペクトラムの対応関係を直感的に分かりやすくしようとするものであるが、その表示情報を用いて航海計画をどのように修正するかについての具体的な記載は見当たらない。
また、特許文献4は、入射波の波向きと波高を精度よく推定しようとするものであるが、推定した結果は、波漂流力等を推定して船舶の航路維持又は停船中の船位を維持するために用いられており、航行中の船舶の航海計画を修正するものではない。
【0006】
そこで本発明は、計測した実波浪に基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行することができる航海計画方法及び航海計画システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した航海計画方法においては、船舶の航海を計画する航海計画方法であって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手ステップと、入手した波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定ステップと、航海計画に基づいて航行する船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測ステップと、計測された実波浪から算定される実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画の修正を行う航海計画修正ステップとを備え、航海計画修正ステップにおいて、計測方向スペクトラムの角度に対する広がりを判断するパラメータであるエネルギー分散幅又は平均分散角を含む方向分散性パラメータを使用して航海計画を修正することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、波浪諸元情報を用いて航海計画を策定、実施し、海象予測値と計測値に乖離がある場合に、船上で計測した実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行させることができる。これにより、従来の航海計画方法に比べ燃料消費量を節約して、温室効果ガスの排出量を削減できる。また、例えば計測方向スペクトラムのピークが複数ある場合に大きく異なって来る波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムに基づいた波浪中抵抗増加の予測を、方向分散性パラメータを用いることで正しく行い、航海計画における燃料消費量や船速等の予測値と、実際の燃料消費量や船速等の計測値との乖離判断を精度よく行うことができるため、より効果的に航海計画を修正することができる。
【0008】
請求項2記載に対応した航海計画方法においては、船舶の航海を計画する航海計画方法であって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手ステップと、入手した波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定ステップと、航海計画に基づいて航行する船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測ステップと、計測された実波浪から算定される実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画の修正を行う航海計画修正ステップとを備え、航海計画策定ステップにおいて、波浪場を表す代表値である波浪諸元情報に含まれる有義波高、平均波周期、及び主波向を用いて算定される波浪の標準方向スペクトラムを利用して最適航路及び/又は最適船速配分を含む航海計画を策定することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、波浪諸元情報を用いて航海計画を策定、実施し、海象予測値と計測値に乖離がある場合に、船上で計測した実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行させることができる。これにより、従来の航海計画方法に比べ燃料消費量を節約して、温室効果ガスの排出量を削減できる。また、波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムを利用することで、波浪諸元での海象予測により計算の高速化及び堅牢化が可能となり、最適航路や最適船速配分を含んだ航海計画を迅速に策定できる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、方向分散性パラメータが閾値を超えた場合に、航海計画の修正を行うことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、閾値に基づく統一的な判断の下に、頻繁な修正を避けて航海計画の修正を行うことができる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、計測された実波浪から推定される有義波高の大小に応じて、閾値を変更することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、例えば有義波高の大きさによって異なるエネルギー分布幅(Sprt)に対応して閾値を定めることができ、的確に航海計画を修正することの判断ができる
【0011】
求項記載の本発明は、航海計画策定ステップにおいて、波浪諸元情報の波浪諸元ごとに燃料消費量及び/又は船速を含む船舶の応答データを算定することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、波浪諸元ごとの応答データを得ることができ、例えば波浪緒元ごとの応答データベースを構築し標準的な航海計画や計画の修正に役立てることが可能となる。
【0012】
請求項記載の本発明は、航海計画修正ステップにおいて、計測された実波浪により修正応答データとして修正燃料消費量及び/又は修正船速を算定することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、修正した燃料消費量や船速を航海計画の修正や船舶の航行等に用いることができる。
【0013】
請求項記載の本発明は、航海計画修正ステップにおいて、応答データと修正応答データとの差に基づいて、航海計画の修正を行うことを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、より効果的に実波浪を計測した船舶自身の航海計画を修正することができる。
【0014】
請求項記載の本発明は、航海計画の修正は、船舶パラメータである船舶のプロペラ回転数及び/又は針路の修正であることを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、実波浪の計測結果に対応して船舶のプロペラ回転数や針路を修正することで、効率よく船舶を航行することができる。
【0015】
請求項記載の本発明は、実波浪計測ステップにおける実波浪の計測には、船舶に搭載された波浪レーダを用いることを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、船舶に搭載された一般的な波浪情報も得られる波浪レーダを利用して実波浪を精度よく計測し、計測方向スペクトラムを得ることができる。
【0016】
請求項10記載の本発明は、実波浪計測ステップで計測された実波浪に基づいて、海象予測による波浪諸元情報を修正することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、波浪諸元情報を修正することで、航海計画を修正した後に再度航海計画を策定する際の精度を高めることができるとともに、他の船舶へ修正した波浪諸元情報を提供することも可能となる。
【0017】
請求項11記載に対応した航海計画システムは、船舶の航海を計画する航海計画システムであって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手手段と、入手した波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定手段と、航海計画に基づいて航行する船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測手段と、計測された実波浪から算定される計測方向スペクトラムに基づいて航海計画の修正を行う航海計画修正手段とを備え、航海計画修正手段が、計測方向スペクトラムの角度に対する広がりを判断するパラメータであるエネルギー分散幅又は平均分散角を含む方向分散性パラメータを算定する方向分散性パラメータ算定部を有することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、波浪諸元情報を用いて航海計画を策定、実施し、海象予測値と計測値に乖離がある場合に、船上で計測した実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行させることができる。これにより、従来の航海計画方法に比べ燃料消費量を節約して、温室効果ガスの排出量を削減できる。また、例えば計測方向スペクトラムのピークが複数ある場合に大きく異なって来る波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムに基づいた波浪中抵抗増加の予測を、方向分散性パラメータを算定して用いることで正しく行い、航海計画における燃料消費量や船速等の予測値と、実際の燃料消費量や船速等の計測値との乖離判断を精度よく行うことができるため、より効果的に航海計画を修正することができる。
【0018】
請求項12記載に対応した航海計画システムは、船舶の航海を計画する航海計画システムであって、海象予測による波浪諸元情報を入手する波浪諸元情報入手手段と、入手した波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する航海計画策定手段と、航海計画に基づいて航行する船舶の船上で実波浪を計測する実波浪計測手段と、計測された実波浪から算定される計測方向スペクトラムに基づいて航海計画の修正を行う航海計画修正手段とを備え、航海計画策定手段が、波浪場を表す代表値である波浪諸元情報に含まれる有義波高、平均波周期、及び主波向を用いて波浪の標準方向スペクトラムを算定する標準方向スペクトラム算定部を有することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、波浪諸元情報を用いて航海計画を策定、実施し、海象予測値と計測値に乖離がある場合に、船上で計測した実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行させることができる。これにより、従来の航海計画方法に比べ燃料消費量を節約して、温室効果ガスの排出量を削減できる。また、波浪諸元情報から標準方向スペクトラムを算定して用いることで、波浪諸元での海象予測により計算の高速化及び堅牢化が可能となり、最適航路や最適船速配分を含んだ航海計画を迅速に策定できる。
【0019】
請求項13記載の本発明は、航海計画修正手段が、方向分散性パラメータが閾値を超えた場合に航海計画の修正を行う修正判断部を有することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、閾値に基づく統一的な判断の下に、頻繁な修正を避けて航海計画の修正を行うことができる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、航海計画修正手段が、計測された実波浪から推定される有義波高の大小に応じて閾値を変更する閾値変更部を有することを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、例えば有義波高の大きさによって異なるエネルギー分布幅(Sprt)に対応して閾値を定めることができ、的確に航海計画を修正することの判断ができる
【0021】
求項15記載の本発明は、航海計画策定手段が、波浪諸元情報の波浪諸元ごとに、燃料消費量及び/又は船速を含む船舶の応答データを算定する応答データ算定部を有することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、波浪諸元ごとの応答データを得ることができ、例えば波浪緒元ごとの応答データベースを構築し標準的な航海計画や計画の修正に役立てることが可能となる。
【0022】
請求項16記載の本発明は、航海計画修正手段が、計測された実波浪により修正燃料消費量及び/又は修正船速を算定し修正応答データを求める応答データ修正部を有することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、修正した燃料消費量や船速を航海計画の修正や船舶の航行等に用いることができる。
【0023】
請求項17記載の本発明は、航海計画修正手段が、応答データと修正応答データとの差に基づいて、航海計画の修正を行なう計画修正部を有することを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、より効果的に実波浪を計測した船舶自身の航海計画を修正することができる。
【0024】
請求項18記載の本発明は、計画修正部は、船舶のプロペラ回転数及び/又は針路を修正する船舶パラメータ修正部を含むことを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、実波浪の計測結果に対応して船舶のプロペラ回転数や針路を修正することで、効率よく船舶を航行することができる。
【0025】
請求項19記載の本発明は、実波浪計測手段として、船舶に搭載した波浪レーダを用いることを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、船舶に搭載された一般的な波浪情報も得られる波浪レーダを利用して実波浪を精度よく計測し、計測方向スペクトラムを得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の航海計画方法によれば、波浪諸元情報を用いて航海計画を策定、実施し、海象予測値と計測値に乖離がある場合に、船上で計測した実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行させることができる。これにより、従来の航海計画方法に比べ燃料消費量を節約して、温室効果ガスの排出量を削減できる。また、例えば計測方向スペクトラムのピークが複数ある場合に大きく異なって来る波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムに基づいた波浪中抵抗増加の予測を、方向分散性パラメータを用いることで正しく行い、航海計画における燃料消費量や船速等の予測値と、実際の燃料消費量や船速等の計測値との乖離判断を精度よく行うことができるため、より効果的に航海計画を修正することができる。
【0027】
また、本発明の航海方法によれば、波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムを利用することで、波浪諸元での海象予測により計算の高速化及び堅牢化が可能となり、最適航路や最適船速配分を含んだ航海計画を迅速に策定できる。
【0028】
また、方向分散性パラメータが閾値を超えた場合に、航海計画の修正を行う場合には、閾値に基づく統一的な判断の下に、頻繁な修正を避けて航海計画の修正を行うことができる。
【0029】
また、計測された実波浪から推定される有義波高の大小に応じて、閾値を変更する場合には、例えば有義波高の大きさによって異なるエネルギー分布幅(Sprt)に対応して閾値を定めることができ、的確に航海計画を修正することの判断ができる
【0030】
た、航海計画策定ステップにおいて、波浪諸元情報の波浪諸元ごとに燃料消費量及び/又は船速を含む船舶の応答データを算定する場合には、波浪諸元ごとの応答データを得ることができ、例えば波浪緒元ごとの応答データベースを構築し標準的な航海計画や計画の修正に役立てることが可能となる。
【0031】
また、航海計画修正ステップにおいて、計測された実波浪により修正応答データとして修正燃料消費量及び/又は修正船速を算定する場合には、修正した燃料消費量や船速を航海計画の修正や船舶の航行等に用いることができる。
【0032】
また、航海計画修正ステップにおいて、応答データと修正応答データとの差に基づいて、航海計画の修正を行う場合には、より効果的に実波浪を計測した船舶自身の航海計画を修正することができる。
【0033】
また、航海計画の修正は、船舶パラメータである船舶のプロペラ回転数及び/又は針路の修正である場合には、実波浪の計測結果に対応して船舶のプロペラ回転数や針路を修正することで、効率よく船舶を航行することができる。
【0034】
また、実波浪計測ステップにおける実波浪の計測には、船舶に搭載された波浪レーダを用いる場合には、船舶に搭載された一般的な波浪情報も得られる波浪レーダを利用して実波浪を精度よく計測し、計測方向スペクトラムを得ることができる。
【0035】
また、実波浪計測ステップで計測された実波浪に基づいて、海象予測による波浪諸元情報を修正する場合には、波浪諸元情報を修正することで、航海計画を修正した後に再度航海計画を策定する際の精度を高めることができるとともに、他の船舶へ修正した波浪諸元情報を提供することも可能となる。
【0036】
また、本発明の航海計画システムによれば、波浪諸元情報を用いて航海計画を策定、実施し、海象予測値と計測値に乖離がある場合に、船上で計測した実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行させることができる。これにより、従来の航海計画方法に比べ燃料消費量を節約して、温室効果ガスの排出量を削減できる。また、例えば計測方向スペクトラムのピークが複数ある場合に大きく異なって来る波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムに基づいた波浪中抵抗増加の予測を、方向分散性パラメータを算定して用いることで正しく行い、航海計画における燃料消費量や船速等の予測値と、実際の燃料消費量や船速等の計測値との乖離判断を精度よく行うことができるため、より効果的に航海計画を修正することができる。
【0037】
また、本発明の航海計画システムによれば、波浪諸元情報から標準方向スペクトラムを算定して用いることで、波浪諸元での海象予測により計算の高速化及び堅牢化が可能となり、最適航路や最適船速配分を含んだ航海計画を迅速に策定できる。
【0038】
また、航海計画修正手段が、方向分散性パラメータが閾値を超えた場合に航海計画の修正を行う修正判断部を有する場合には、閾値に基づく統一的な判断の下に、頻繁な修正を避けて航海計画の修正を行うことができる。
【0039】
また、航海計画修正手段が、計測された実波浪から推定される有義波高の大小に応じて閾値を変更する閾値変更部を有する場合には、例えば有義波高の大きさによって異なるエネルギー分布幅(Sprt)に対応して閾値を定めることができ、的確に波浪中抵抗増加を考慮して航海計画を修正することの判断ができる
【0040】
た、航海計画策定手段が、波浪諸元情報の波浪諸元ごとに、燃料消費量及び/又は船速を含む船舶の応答データを算定する応答データ算定部を有する場合には、波浪諸元ごとの応答データを得ることができ、例えば波浪緒元ごとの応答データベースを構築し標準的な航海計画や計画の修正に役立てることが可能となる。
【0041】
また、航海計画修正手段が、計測された実波浪により修正燃料消費量及び/又は修正船速を算定し修正応答データを求める応答データ修正部を有する場合には、修正した燃料消費量や船速を航海計画の修正や船舶の航行等に用いることができる。
【0042】
また、航海計画修正手段が、応答データと修正応答データとの差に基づいて、航海計画の修正を行なう計画修正部を有する場合には、より効果的に実波浪を計測した船舶自身の航海計画を修正することができる。
【0043】
また、計画修正部は、船舶のプロペラ回転数及び/又は針路を修正する船舶パラメータ修正部を含む場合には、実波浪の計測結果に対応して船舶のプロペラ回転数や針路を修正することで、効率よく船舶を航行することができる。
【0044】
また、実波浪計測手段として、船舶に搭載した波浪レーダを用いる場合には、船舶に搭載された一般的な波浪情報も得られる波浪レーダを利用して実波浪を精度よく計測し、計測方向スペクトラムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の実施形態による航海計画システムのブロック図
図2】同航海計画方法のフロー図
図3】航海計画による予想値と実際の計測値との乖離の例を示す図
図4】航海計画の修正例を示す図
図5】波浪中抵抗増加の例を示す図
図6】方向スペクトラムの例を示す図
図7】計測した実波浪を基に求めたSprtの分布の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に、本発明の実施形態による航海計画方法及び航海計画システムについて説明する。
【0047】
図1は本実施形態による航海計画システムのブロック図、図2は同航海計画方法のフロー図である。
図1に示すように、本実施形態による航海計画システムは、波浪諸元情報入手手段10と、航海計画策定手段20と、実波浪計測手段30と、航海計画修正手段40を備える。
【0048】
まず、波浪諸元情報入手手段10が、海象予測による波浪諸元情報を入手する(図2の波浪諸元情報入手ステップS1)。
波浪諸元情報とは、有義波高、平均波周期、及び主波向といった波浪諸元の情報であり、波浪場を表す代表値である。本実施形態における波浪諸元情報入手手段10は、海象予測事業者等から提供されるデータを受信することによって波浪諸元情報を入手する。
【0049】
次に、航海計画策定手段20は、波浪諸元情報入手ステップS1で波浪諸元情報入手手段10が入手した波浪諸元情報に基づいて航海計画を策定する(図2の航海計画策定ステップS2)。
本実施形態における航海計画策定手段20は、波浪諸元情報から波浪の標準方向スペクトラムを算定する標準方向スペクトラム算定部21と、波浪諸元情報の波浪諸元ごとに、燃料消費量及び船速の少なくとも一方を含む船舶の応答データを算定する応答データ算定部22を有しており、標準方向スペクトラムを利用して、波浪諸元ごとに燃料消費量や船速等の応答データを算定し、応答データに基づいて航海計画を策定する。
このように波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムを利用して、波浪諸元ごとに燃料消費量や船速等の応答データを算定することで、波浪諸元での海象予測により計算の高速化及び堅牢化(ロバスト設計)が可能となり、最適航路や最適船速配分を含んだ航海計画を迅速に策定することができる。また、波浪諸元ごとに応答データを得ることができる。
また、波浪諸元ごとの燃料消費量や船速等の応答データは、応答データ算定部22で逐次計算するが、さらに応答データ算定部22が算定した応答データを蓄積し、例えば波浪諸元ごとの応答データベース(図示せず)を構築して標準的な航海計画や計画の修正に役立てることもできる。
【0050】
航海計画策定ステップS2の後、策定した航海計画に基づいて船舶を航行する。
船舶には実波浪計測手段30が搭載されており、実波浪計測手段30は、航行する船舶において実波浪を計測する(図2の実波浪計測ステップS3)。
実波浪計測手段30として船舶に搭載した波浪レーダを用いた場合には、船舶に搭載された一般的な波浪情報も得られる波浪レーダを利用して実波浪を精度よく計測し、計測方向スペクトラムを得ることができる。また、既に波浪レーダが搭載されている船舶の場合には、その既設の波浪レーダを用いて実波浪を計測できるため、新たに実波浪計測手段30を船舶に設ける手間やコストを省くことができる。なお、実波浪計測手段30は、超音波波高計や船体に複数設けた水位検出計等を用いて波浪を計測するものであってもよい。
【0051】
船舶は航海計画に基づいて航行するが、航海中には、航海計画を策定する際に予測した有義波高等の値と、実際に計測された実波浪に基づく有義波高等の値とにずれが生じる場合がある。
ここで、図3は有義波高に関し航海計画による予想値と実際の計測値との乖離の例を示す図である。図3において、縦軸は有義波高[m]、横軸は出航後時間[hour]であり、実線は船上における波浪レーダ(実波浪計測手段30)による計測値、黒丸(●)は波浪予測による予測値である。図3において、計測値と予測値との乖離状況から判断して、点線Xで囲んだ黒丸(●)の予測値は外れる可能性が高い予測値と考えられる。このように予測値と計測値とに乖離がある場合は、計測値を利用して航海計画を修正することによって、より効率的に航行することができる。なお、計測値と予測値との乖離を判断するにあたっては、有義波高に代えて燃料消費量や船速を用いることもできる。
例えば、図4は航海計画の修正例を示す図である。図4において、縦軸は緯度[deg.]、横軸は経度[deg.]であり、曲線Yは航海計画策定ステップS2で策定した航海計画による航路を示している。また、海洋領域においては波高の高さを色の濃さで表しており、色が濃いほど波高が高いことを示している。図4において、波高の高い領域が予想から太矢印Aの方向にずれて航海計画の航路と重なることが実波浪の計測によって判明した場合は、船舶Zの針路を細矢印Bの方向へ修正することによって、波高の高い領域を避けて航行することができる。
【0052】
しかし、標準方向スペクトラムでは、主波向が単一すなわちピークが一つの場合しか評価できないため、計測方向スペクトラムのピーク(その角度が主波向に相当)が複数ある場合、波浪中抵抗増加の算定結果が、標準方向スペクトラムを使用したものと、計測方向スペクトラムを使用したものとで大きく異なる(枌原直人、辻本勝、安藤英幸、角田領:短波頂不規則波中抵抗増加の推定における方向スペクトラムの影響評価、日本船舶海洋工学会講演会論文集第20号、pp.373-376、2015.5)。
例えば、図5はコンテナ船における波浪中抵抗増加の例を示す図である。図5において、縦軸は航海計画策定ステップS2で標準方向スペクトラムから求めた波浪中抵抗増加[kN]、横軸は実波浪計測ステップS3で計測された実波浪の計測方向スペクトラムから求めた波浪中抵抗増加[kN]である。また、図6は方向スペクトラムの例を示す図であり、図6(a)は図5のpoint1における方向スペクトラムを示し、図6(b)は図5のpoint2における方向スペクトラムを示している。図6において、縦軸は波向[deg.]、横軸は角周波数[rad/s]である。point1又はpoint2のように計測方向スペクトラムのピークが複数ある場合は、標準方向スペクトラムから求めた波浪中抵抗増加と、計測された実波浪の計測方向スペクトラムから求めた波浪中抵抗増加とで大きく異なっていることが図5から分かる。
このため、予測する燃料消費量や船速等の応答データも、標準方向スペクトラムを使用した場合と、計測方向スペクトラムを使用した場合とで大きく異なる。よって、より効率的に航海するためには、計測方向スペクトラムを使用する必要がある。また、燃料消費量、船速等の予測値と計測値(到達値)との乖離の判断を精度よく行う必要がある。
【0053】
航海計画修正手段40は、航海計画策定ステップS2において策定した航海計画を、実波浪計測ステップS3で計測された実波浪から算定される実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて修正する(図2の航海計画修正ステップS4)。
波浪諸元情報を用いて航海計画を策定、実施し、海象予測値と計測値に乖離がある場合に、船上で計測した実波浪の計測方向スペクトラムに基づいて航海計画を修正することで、より効率的に船舶を航行することができる。これにより、従来の航海計画方法に比べ燃料消費量を節約して、温室効果ガスの排出量を削減できる。
【0054】
本実施形態における航海計画修正手段40は、方向分散性パラメータ算定部41と、修正判断部42と、閾値変更部43と、応答データ修正部44と、計画修正部45を有し、燃料消費量、船速等の予測値と計測値(到達値)との乖離の判断に方向分散性パラメータを使用する。なお、計画修正部45以外の航海計画修正手段40に含まれる各部の括りは、図1に限定されるものではない。
【0055】
方向分散性パラメータ算定部41は、計測方向スペクトラムから方向分散性パラメータを算定する。方向分散性パラメータとは、方向スペクトラムの角度に対する広がりを判断するパラメータである。標準方向スペクトラムで設定される値に対して方向分散性パラメータの値が大きい場合は、角度の広がりを持つ、すなわち方向スペクトラムのピーク(主波向)が複数あることを示す。航海計画修正手段40が方向分散性パラメータ算定部41を有することで、例えば計測方向スペクトラムのピークが複数ある場合に大きく異なって来る波浪諸元情報から算定される標準方向スペクトラムに基づいた波浪中抵抗増加の予測を、方向分散性パラメータを算定して用いることで正しく行い、航海計画における燃料消費量や船速等の予測値と、実際の燃料消費量や船速等の計測値との乖離判断を精度よく行うことができるため、より効果的に航海計画を修正することができる。
方向分散性パラメータにはいくつかの定義式が存在するが、例えば下記の式(1)又は式(2)から求めることができる。式(1)はエネルギー分布幅(Sprt:Directional Spread Total Energy)の式、式(2)は平均分散角θkの式である。
【0056】
【数1】
式(1)において、E(ω,α)は計測方向スペクトラム、αは主波向、M0は方向スペクトラムの全方向に対する周波数に関する0次モーメントであり、α及びM0は計測方向スペクトラムから計算により求められる。また、式(1)において、標準方向スペクトラムでコサイン2乗型を仮定した場合、Sprtは31.5度となる。
【0057】
【数2】
式(2)において、M00、M01、M10、M11、M02、及びM20は波数空間における2次元方向スペクトラムのモーメント(添え字はそれぞれ船長方向波数、船幅方向波数の次数を示している)であり、計測方向スペクトラムから計算により求められる。また、式(2)において、標準方向スペクトラムでコサイン2乗型を仮定した場合、平均分散角θkは45度となる。
【0058】
図7は計測した実波浪を基に式(1)から求めたSprtの分布の例を示す図である。縦軸はSprt[deg.]、横軸は有義波高[m]である。また、直線Qは標準方向スペクトラムでコサイン2乗型を仮定した場合のSprt=31.5度を示している。
図7に示すように、この例では、有義波高の大きさによってばらつきはあるものの、実波浪を基に求めたSprtは概ね31.5度よりも上側に分布していることが分かる。
【0059】
修正判断部42は、方向分散性パラメータ算定部41で算定した方向分散性パラメータが閾値を超えた場合に、航海計画の修正を行う。これにより、閾値に基づく統一的な判断の下に、頻繁な修正を避けて航海計画の修正を行うことができる。閾値は、例えば、標準方向スペクトラムでコサイン2乗型を仮定した場合のSprtと、実波浪を基に式(1)から求めたSprtとの差について設定する。
また、閾値変更部43は、実波浪計測手段30によって計測された実波浪から推定される有義波高の大小に応じて閾値を変更する。例えば、有義波高が2m未満の場合の閾値は、波浪中抵抗増加が少ないため大きく設定し、有義波高が2m以上の場合の閾値は、波浪中抵抗増加が大きいため小さく設定する。これにより、有義波高の大きさによって異なるエネルギー分布幅に対応して閾値を定めることができ、的確に航海計画を修正することの判断ができる。
【0060】
応答データ修正部44は、実波浪計測ステップS3で計測された実波浪により修正燃料消費量及び修正船速の少なくとも一方を算定することによって修正応答データを求める。これにより、修正した燃料消費量や船速等の修正応答データを航海計画の修正や船舶の航行等に用いることができる。
【0061】
計画修正部45は、応答データ算定部22が算定した応答データと、応答データ修正部44が算定した修正応答データとの差に基づいて、航海計画の修正を行う。これにより、効果的に実波浪を計測した船舶自身の航海計画を修正することができる。なお、修正応答データは、波浪諸元ごとの応答データベース(図示せず)に蓄えることもできる。
また、計画修正部45は、船舶パラメータ修正部45Aを有しており、船舶パラメータ修正部45Aが、船舶のプロペラ回転数及び針路の少なくとも一方を修正することによって航海計画の修正を行う。実波浪の計測結果に対応して船舶のプロペラ回転数や針路を修正することで、効率よく船舶を航行することができる。なお、船舶パラメータ修正部45Aは、プロペラ回転数及び針路以外にも、舵角、船速、船位、プロペラのブレードピッチ角、到着時刻等の凡そ船舶の航海計画に関連した船舶パラメータを修正することができる。
また、方向分散性パラメータを使用して様々な船舶パラメータの予測値と計測値との乖離を判断して、個別の船舶パラメータを修正することもできる。
【0062】
また、実波浪計測ステップS3で計測された実波浪に基づいて、海象予測による波浪諸元情報(有義波高、平均波周期、主波向等)を修正することもできる。航海計画を修正した後は修正後の針路からの航海計画を再度策定するが、波浪諸元情報を修正することで、航海計画を再度策定する際の精度を高めることができる。また、他の船舶へ修正した波浪諸元情報を提供することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の航海計画方法及び航海計画システムは、船舶に適用することができる。本発明を船舶に適用することにより、従来の航海計画手法に比べ燃料消費量を節約することができ、温室効果ガスの排出量削減が期待できることから、地球環境の保全にも貢献する。また、修正した波浪諸元情報は、他の船舶への提供、データベースへの蓄積、データ同化への使用等、幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 波浪諸元情報入手手段
20 航海計画策定手段
21 標準方向スペクトラム算定部
22 応答データ算定部
30 実波浪計測手段
40 航海計画修正手段
41 方向分散性パラメータ算定部
42 修正判断部
43 閾値変更部
44 応答データ修正部
45 計画修正部
45A 船舶パラメータ修正部
S1 波浪諸元情報入手ステップ
S2 航海計画策定ステップ
S3 実波浪計測ステップ
S4 航海計画修正ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7