特許第6984879号(P6984879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984879着火装置、及びその着火装置を含むエアロゾル消火装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984879
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】着火装置、及びその着火装置を含むエアロゾル消火装置
(51)【国際特許分類】
   F42B 3/12 20060101AFI20211213BHJP
   A62C 35/02 20060101ALI20211213BHJP
   A62D 1/06 20060101ALI20211213BHJP
   C06B 29/00 20060101ALI20211213BHJP
   C06B 29/20 20060101ALI20211213BHJP
   F42B 3/10 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   F42B3/12
   A62C35/02 A
   A62D1/06
   C06B29/00
   C06B29/20
   F42B3/10
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-206567(P2017-206567)
(22)【出願日】2017年10月25日
(65)【公開番号】特開2019-78491(P2019-78491A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昭光
(72)【発明者】
【氏名】富山 昇吾
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−060805(JP,A)
【文献】 特開平09−124388(JP,A)
【文献】 特開2002−362992(JP,A)
【文献】 特開2014−028731(JP,A)
【文献】 特許第6159851(JP,B1)
【文献】 国際公開第2017/134703(WO,A1)
【文献】 実開昭57−052543(JP,U)
【文献】 特開2004−333031(JP,A)
【文献】 特開2007−024327(JP,A)
【文献】 特表2007−512913(JP,A)
【文献】 特開2003−159346(JP,A)
【文献】 特開2016−069200(JP,A)
【文献】 特開2005−156038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 3/12
A62C 35/02
A62D 1/06
C06B 29/00
C06B 29/20
F42B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼によりエアロゾルを発生させる消火剤に着火するための着火装置であって、
一対の電極と、
前記一対の電極同士を接続し、通電により発熱する抵抗体と、
前記抵抗体に接触し、前記抵抗体において生じた熱を蓄える蓄熱体と、
前記蓄熱体に接触し、所定の熱量で発火して前記消火剤に着火する非火薬の点火剤と、
を具備し、
前記蓄熱体は、セルロース、ニトロセルロース、エナメル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、テフロン(登録商標)、塩化ビニル、ベークライト、メラミンあるいはその誘導体、又は、これらのうちの二つ以上より構成される共重合体を含み、
前記点火剤は、ホウ素、三酸化モリブデン、及びニトロセルロースを含むこと、
を特徴とする着火装置。
【請求項2】
前記蓄熱体は、前記抵抗体の周面を覆うように形成されていること、
を特徴とする請求項1に記載の着火装置。
【請求項3】
前記蓄熱体は、ニトロセルロースを含むこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の着火装置。
【請求項4】
前記点火剤は、ホウ素、三酸化モリブデン、及びニトロセルロースを含むこと、
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の着火装置。
燃焼によりエアロゾルを発生させる消火剤と、請求項1〜3のいずれかに記載の着火装置と、を具備するエアロゾル消火装置。
【請求項5】
前記消火剤が塩素酸カリウムを含み、
DSC評価(100〜400℃、10℃毎分昇温)吸熱ピーク総量が100J/g〜900J/gであること、
を特徴とする請求項4に記載のエアロゾル消火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着火装置、及びその着火装置を含むエアロゾル消火装置に関する。エアロゾル消火装置は、燃焼によりエアロゾルを発生して火災を消火ないし抑制することができるものである。
【背景技術】
【0002】
消火剤を燃焼させてエアロゾルを発生させ、そのエアロゾルを噴射することで火炎を消火ないし抑制するエアロゾル消火装置が知られている(例えば特許文献1)。かかるエアロゾル消火装置は、消火剤に着火する着火装置を備えるところ、当該着火装置は、一対の電極同士を接続する抵抗体(例えばブリッジワイヤ)に通電することで点火剤を発火させ、それにより消火剤に着火する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−156038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の点火剤は一般に、着火しやすいように火薬成分を含む。しかし、非火薬の点火剤を採用する場合、抵抗体の通電により生じる熱量が不足又は散逸し、点火剤が発火しないおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、非火薬の点火剤を採用する場合でも抵抗体の通電により点火剤に確実に着火することができる着火装置、及びその着火装置を含むエアロゾル消火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決すべく、本発明は、燃焼によりエアロゾルを発生させる消火剤に着火するための着火装置であって、一対の電極と、前記一対の電極同士を接続し、通電により発熱する抵抗体と、前記抵抗体に接触し、前記抵抗体において生じた熱を蓄える蓄熱体と、前記蓄熱体に接触し、所定の熱量で発火して前記消火剤に着火する非火薬の点火剤と、を具備することを特徴とする着火装置を提供する。
【0007】
上記のような構成を有する本発明の着火装置では、前記蓄熱体は、前記抵抗体の周面を覆うように形成されていること、が好ましい。
【0008】
また、上記のような構成を有する本発明の着火装置では、前記蓄熱体は、ニトロセルロースを含むこと、が好ましい。
【0009】
また、上記のような構成を有する本発明の着火装置では、前記点火剤は、ホウ素、三酸化モリブデン、及びニトロセルロースを含むこと、が好ましい。
【0010】
そして、本発明は、燃焼によりエアロゾルを発生させる消火剤と、上記のいずれかに記載の着火装置と、を具備するエアロゾル消火装置をも提供する。
【0011】
上記のような構成を有する本発明のエアロゾル消火装置では、消火剤が塩素酸カリウムを含み、DSC評価(100〜400℃、10℃毎分昇温)吸熱ピーク総量が100J/g〜900J/gであること、が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非火薬の点火剤を採用する場合でも抵抗体の通電により点火剤に確実に着火することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の代表的な実施形態に係る着火装置を模式的に示す外観図である。
図2図1の着火装置の断面図である。
図3図1の着火装置を含むエアロゾル消火装置の構成例を模式的に示す断面図である。
図4】着火装置の別の構成例を模式的に示す上面図及び断面図である。
図5】着火装置の更に別の構成例を模式的に示す分解図及び斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施形態に係る着火装置及びこれを含むエアロゾル消火装置について、図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、本発明はこれら図面に限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0015】
[着火装置]
着火装置1は、燃焼によりエアロゾルを発生させる消火剤に着火するためのデバイスであり、例えば図3のようなエアロゾル消火装置に装着される。
着火装置1は、図1及び図2に示すように、一対の電極2,3、抵抗体4、蓄熱体5、及び点火剤6を含んで構成される。ここで使用される点火剤6は、追って述べるように非火薬の薬剤であるが、火薬成分を含む薬剤でもよい。また、着火装置1は、上記の構成要素を収納するための絶縁性のプラグ7及びヘッダ8を含んでいてもよい。
【0016】
一対の電極2,3は、例えば金属ピンのような導体である。一対の電極2,3は、本実施形態では、例えばガラスのような絶縁体で作製されたヘッダ8に形成された孔に挿通され、プラグ7の内側の端部において抵抗体4を介して互いに接続されている。また、一対の電極2,3の外側の端部については、正極側(例えば電極2)の端部は電源及び制御回路と接続され、負極側(例えば電極3)の端部は接地されている。
【0017】
抵抗体4は、一対の電極2,3同士を接続し、通電により発熱する導体(例えば線状)である。抵抗体4は、例えばニッケル及びクロムを含む線材であり、例えばブリッジワイヤのような発熱抵抗体である。
【0018】
蓄熱体5は、抵抗体4において生じた熱を蓄え、これにより点火剤6の発火に十分な熱量を点火剤6に供給する。つまり、蓄熱体5は、抵抗体4の熱容量を向上させるための構成要素と言える。
【0019】
この蓄熱体5は、抵抗体4からの熱を蓄えられるよう当該抵抗体4に接触するように配置されていればよいが、例えば、抵抗体4の周面を覆う(又は取り囲む)ように配置・形成されることが好ましい。これにより、抵抗体4で発生した熱が効率よく蓄熱体5に蓄熱され、点火剤6への点火の確実性が高まることになる。なお、蓄熱体5は、抵抗体4の全周面を覆っていてもよいし、部分的に抵抗体4の周面を覆っていてもよい。
【0020】
蓄熱体5は、例えばニトロセルロースの溶液を固化させることで形成される。蓄熱体5の形成方法としては、例えば、ニトロセルロースの溶液を抵抗体4に塗布したり、その溶液に抵抗体4を浸漬したり、その溶液で抵抗体4及びヘッダ8を覆ったりすることができる。また、蓄熱体5の具体的な成分の一例としては、セルロース、ニトロセルロース、エナメル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、テフロン(登録商標)、塩化ビニル、ベークライト、メラミンあるいはその誘導体、あるいは以上の樹脂のうちのニつ以上より構成される共重合体がある。
【0021】
点火剤6は、所定の熱量で発火して消火剤に着火する、非火薬の薬剤(組成物)である。点火剤6として非火薬の薬剤を採用することで、装置の安全性が向上するとともに、例えば製造・保管・設置のような各場面における取扱いが簡便となる。
【0022】
点火剤6は、蓄熱体5に接触するように、例えばポリエチレンのような絶縁材料で作製された筒状のプラグ7内に充填されている。点火剤6が蓄熱体5に接触する態様は、例えば点火剤6が蓄熱体5及び抵抗体4を全体的に又は部分的に覆っていてもよいし、取り囲んでいてもよい。
【0023】
点火剤6は、ホウ素、三酸化モリブデン、及びニトロセルロースを含んでいてもよい。これら成分の比率は、好ましくは、それぞれホウ素が5−30重量%、三酸化モリブデンが20−70重量%、及びニトロセルロースが1−20重量%であり、より好ましくは、それぞれ15重量%、85重量%、及び10重量%である。
【0024】
上述した着火装置1では、例えば環境温度が所定温度を超えるなどの、所定の条件を満たすと、制御回路(図示せず)が、電源(図示せず)に対して、一対の電極2,3間に電力を供給させる。
【0025】
そうすると、抵抗体4は通電により加熱し、抵抗体4で生じた熱は、蓄熱体5に蓄えられる。そして、蓄熱体5に所定の熱量が蓄えられると、点火剤6が発火し、更には消火剤が着火する。このようにして、抵抗体4で生じた熱は、蓄熱体5を介して効率よく(散逸することなく)点火剤6に伝達されることになる。
【0026】
[エアロゾル消火装置]
次いで、上述した着火装置1が組み込まれたエアロゾル消火装置について説明する。エアロゾル消火装置は、例えば、建造物、電気制御盤、蓄電池等の電気化学デバイス、工作機械に設置することができる。図3に示されるエアロゾル消火装置10は、着火装置1を適用可能なエアロゾル消火装置の一例である。
【0027】
エアロゾル消火装置10は、設置面(図示せず)から突出するように取り付けられるタイプの消火装置であり、図3に示すように、容器11、消火剤12、着火装置1、冷却材層14、スペーサ15、及びシール材16を含んで構成される。以下、エアロゾル消火装置10の各構成要素を順に説明する。
【0028】
容器11は、消火剤12、冷却材層14、スペーサ15、及びシール材16を収納する円筒状の部材である。容器11は、エアロゾルの発生により上昇する内圧(例えば、5MPa)に耐えられるように、例えばアルミニウムやステンレス鋼のような金属材料で作製される。
【0029】
容器11は、設置面に向かって開口するとともに、その開口を形成する縁部から延設されたフランジ21を有する。フランジ21は、容器11を例えばボルトなどの固定手段で設置面に固定するために設けられ、容器11の本体と一体的に形成されている。したがって、容器11を設置面に取り付けるための追加の治具を必要としない。
【0030】
容器11の開口は、カバー23によって封止される。カバー23は、例えばネジ留め、接着剤、かしめのような固定手段によってフランジ21に固定される。カバー23には、着火装置1を挿入するための孔231が形成されている。
【0031】
容器11の先端部、つまり開口とは反対側の端部は、底面22によって覆われている。底面22には、エアロゾルの噴出孔221,222が形成されている。底面22もまた、容器11本体と一体的に形成することができる。
【0032】
容器11の内面は、例えば砲身のように、エアロゾルが噴出孔221,222から噴出されるように、エアロゾルを案内する役割を果たす。かかる案内部を構成する内面の延在方向の長さは、エアロゾル消火装置10から噴出されるエアロゾルに求められる指向性、つまりエアロゾルがエアロゾル消火装置10からどれぐらい離れた消火対象物に届く必要があるか、に応じて決定される。なお、容器11の内面には、冷却材層14を係止するための段差が形成されている。
【0033】
消火剤12は、容器11において開口の近傍に収納され、燃焼によりエアロゾルを発生させる。消火剤12は、塩素酸カリウムとエアロゾル発生成分とを含む非化薬の組成物でもよく、本実施形態では円盤状に成形されている。消火剤12の組成については追って述べる。
【0034】
消火剤12は、容器11の開口(カバー23の孔231)を臨む表面に、着火装置1を装着するための窪み121を有する。かかる窪み121は、反対側の表面(消火剤12の底面22側の表面)まで貫通していない。つまり、窪み121の深さは消火剤12の厚みより小さい。かかる構成により、着火装置1より噴出し得る火花や火炎が噴出孔221,222から飛び出すことを防止することができる。
【0035】
消火剤12は、底面22側の表面において金網18に当接している。したがって、消火剤12は、カバー23と金網18との間に挟まれている。金網18は、後述する金網142,143と同様に、通気性のよい素材で作製されている。したがって、消火剤12において発生したエアロゾルは、金網18を通過して冷却材層14に流入することになる。
【0036】
着火装置1は、上述の構成を有し、カバー23の孔231を介して消火剤12の窪み121に装着される。着火装置1は、エアロゾル消火装置10に着脱自在に装着されるものでもよい。なお、火災の発生を着火装置1に伝えて作動させるために、図示しない熱センサが設けられてもよい。
【0037】
冷却材層14は、容器11において消火剤12より底面22側に収納される。冷却材層14は、冷却材141と、冷却材141を保持する金網142,143と、を含む。本実施形態では、冷却材層14は、全体として円盤状ないし円柱状に成形され、容器11の内周面に形成された段差において容器11に係止されている。
【0038】
冷却材141は、消火剤12から発生したエアロゾルを冷却する。冷却材141は、例えばアルミナ、シリカ、耐熱性セラミックのような無機酸化物を材料とする球体でもよいし、金属製の粒状体でもよい。あるいは、冷却材141は、円筒状や円筒中空状を呈していてもよい。本実施形態では、複数のアルミナボールが冷却材141を構成している。
【0039】
金網142,143は、冷却材141を挟み込んで保持する。金網142,143は、例えば、金属製の線材を網目状ないしメッシュ状に編むことで形成されてもよい。冷却材141を構成する複数の球体を金網142,143で固定することにより、冷却材141などの各部材における高さのバラつきを吸収することができる。なお、金網142,143は、例えば発泡性高分子素材や金属製板バネでもよい。
【0040】
金網142,143は、上述したように網目状ないしメッシュ状を呈するから、気体を通過させることができる。したがって、開口側から金網142に流入したエアロゾルは、アルミナボール(冷却材141)の間を通り、金網143を通過して、底面22側に抜けることになる。
【0041】
本実施形態では、冷却材層14は一層のみ設けられている。したがって、例えば大小のアルミナボールをそれぞれ含む2層の冷却材層を有するタイプのエアロゾル消火装置と比べて、構造が簡素であるから、組立が容易であるとともに、コストダウンにつながる。
【0042】
スペーサ15は、消火剤12(金網18)と冷却材層14との間に設けられて両部材を離間させる。スペーサ15は、例えば容器11の内周面に沿って配置されるリング部材でもよく、消火剤12と冷却材層14とを一定距離だけ離間させるように一定の厚みを有する。
【0043】
シール材16は、底面22の噴出孔221,222を封止するとともに、容器11の内圧が所定値を超えると噴出孔221,222からエアロゾルを噴出させる。シール材16は、防水・防油・防湿用シーラントであり、例えばアルミニウム層の30〜80μmと、50μmの粘着剤層とを有してもよい。
【0044】
[消火剤組成物]
本実施形態で用いられる消火剤(消火剤組成物)12について説明する。消火剤組成物としては、火薬の分類に属するものであっても属しないものであっても、種々のものを用いることができる。
本実施形態における消火剤12は、例えば、燃料(A成分)20〜50質量%及び塩素酸塩(B成分)80〜50質量%を含有し、更に前記燃料及び前記塩素酸塩の合計量100質量部に対して、6〜1000質量部のカリウム塩(C成分)を含有し、熱分解開始温度が90℃超〜260℃の範囲である。
【0045】
A成分である燃料は、B成分である塩素酸塩と共に燃焼により熱エネルギーを発生させて、C成分のカリウム塩に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。
【0046】
かかるA成分の燃料としては、例えば、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン及びケイ素のうちの少なくとも1種から選ばれるものが好ましい。
【0047】
B成分の塩素酸塩は強力な酸化剤であり、A成分の燃料と共に燃焼により熱エネルギーを発生させ、C成分のカリウム塩に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。
【0048】
かかるB成分の塩素酸塩としては、例えば塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム及び塩素酸マグネシウムのうちの少なくとも1種から選ばれるものが好ましい。
【0049】
ここで、A成分の燃料とB成分の塩素酸塩の合計100質量%中の含有割合は、以下のとおりである。
A成分:20〜50質量%
好ましくは25〜40質量%
より好ましくは25〜35質量%
B成分:80〜50質量%
好ましくは75〜60質量%
より好ましくは75〜65質量%
【0050】
次に、C成分のカリウム塩は、A成分とB成分の燃焼により生じた熱エネルギーによりエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。
【0051】
かかるC成分のカリウム塩としては、例えば酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウム及び重炭酸カリウムのうちの少なくとも1種から選ばれるものが好ましい。
【0052】
C成分の含有割合は、A成分とB成分の合計量100質量部に対して、6〜1000質量部であるのが好ましく、より好ましくは10〜900質量部である。
【0053】
更に、本実施形態の消火剤組成物は、熱分解開始温度が90℃超〜260℃の範囲のものであり、好ましくは150℃超〜260℃のものである。このような熱分解開始温度の範囲は、上記のA成分、B成分及びC成分を上記の割合で組み合わせることで調製することができる。
【0054】
本実施形態の消火剤組成物は、上記の熱分解開始温度の範囲を満たすことで、例えば着火装置等を使用することなく、火災発生時の熱を受けてA成分とB成分が自動的に着火燃焼して、C成分に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させて消火することができる。
【0055】
なお、室内にある可燃物として一般的な木材の引火温度は260℃であり、火気を取扱う場所に設置する自動火災報知設備の熱感知器の一般的な作動温度である90℃以下では起動しない条件に熱分解開始温度を設定することで、速やかな消火ができると共に、前記熱感知器の誤作動も防止できる。特に、熱感知器の最大設定温度は150℃であるため、熱分解開始温度の下限値を150℃超に設定することで高い汎用性が得られる。
【0056】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それらも本発明に含まれる。
【0057】
着火装置の他の構成例として、図4に示す着火装置31のように、絶縁基板上に形成された金属配線34を抵抗体とし、蓄熱体35が、このような金属配線34及びその両端に接続された一対の電極32,33の先端を覆う(封止する)ようにしてもよい。なお、図では、蓄熱体35を覆う点火剤と、点火剤等を収納するプラグは省略されている。
【0058】
このような構成により、半導体デバイスのプロセス技術を利用して着火装置31を製造することができる。したがって、消火剤への確実な着火はもとより、着火装置の小型化を図ることもできる。
【0059】
また、別の構成例として、図5に示す着火装置51のように、棒状のセラミックの表面に形成された炭素被膜54を抵抗体とし、その両端に金属キャップを介してリード線(電極)52,53を接続し、更に、炭素被膜54を覆うように蓄熱体55を形成してもよい。この図においても、蓄熱体55を覆う点火剤と、点火剤等を収納するプラグは省略されている。
【0060】
このような構成により、着火装置51は、炭素被膜抵抗の材料及び製造技術を応用することにより製造することが可能となる。したがって、消火剤への確実な着火はもとより、着火装置の製造コストを削減することも可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・着火装置、
2,3・・・電極、
4・・・抵抗体、
5・・・蓄熱体、
6・・・点火剤、
10・・・エアロゾル消火装置、
11・・・容器、
12・・・消火剤、
14・・・冷却材層、
15・・・スペーサ。
図1
図2
図3
図4
図5