特許第6984922号(P6984922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6984922バイオプシーデバイス、該バイオプシーデバイスを射出するための射出装置、及び、これらを備えたバイオプシー装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984922
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】バイオプシーデバイス、該バイオプシーデバイスを射出するための射出装置、及び、これらを備えたバイオプシー装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20211213BHJP
   G01N 1/08 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   G01N1/04 H
   G01N1/08 Z
【請求項の数】22
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-523663(P2020-523663)
(86)(22)【出願日】2019年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2019021443
(87)【国際公開番号】WO2019235340
(87)【国際公開日】20191212
【審査請求日】2020年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2018-107507(P2018-107507)
(32)【優先日】2018年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】藤原 義弘
(72)【発明者】
【氏名】土田 真二
(72)【発明者】
【氏名】河戸 勝
(72)【発明者】
【氏名】増田 殊大
(72)【発明者】
【氏名】巻 俊宏
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−073554(JP,A)
【文献】 特開2016−148675(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/040631(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0014818(US,A1)
【文献】 特表平4−502872(JP,A)
【文献】 特表2007−508122(JP,A)
【文献】 特表2019−523661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/44
A61B 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に尖鋭部を有し、該尖鋭部の後方に外側に向かって開口した試料取込口を有して試料を取り込む試料取込凹部が形成されたニードル部及び該ニードル部の後方にあるロッド部を有するニードル部材と、
先端に開口部を有して前記ニードル部材を該ニードル部材の長手方向にスライド可能に収納するニードル部材収納路を備えた筒状のニードル部材収納体と、
接触面を備え、前記接触面が試料採取対象物に接触することにより、前記ニードル部の前記尖鋭部が前記試料採取対象物に対して入り込む深さを制限する1以上のストッパ部と、
前記1以上のストッパ部を備えたハウジングと、
試料採取前には前記試料取込口を前記1以上のストッパ部の前記接触面よりも前記長手方向の外側に位置させ、前記1以上のストッパ部の前記接触面が前記試料採取対象物に接触すると、前記試料取込口を前記ニードル部材収納路内に位置させるように前記ニードル部材を前記ニードル部材収納路内に引き込む駆動機構とを備えたバイオプシーデバイスと、
前記ニードル部を前記試料採取対象物に向けた姿勢で、前記バイオプシーデバイスを射出する射出装置とを備えたバイオプシー装置。
【請求項2】
先端に尖鋭部を有し、該尖鋭部の後方に外側に向かって開口した試料取込口を有して試料を取り込む試料取込凹部が形成されたニードル部及び該ニードル部の後方にあるロッド部を有するニードル部材と、
先端に開口部を有して前記ニードル部材を該ニードル部材の長手方向にスライド可能に収納するニードル部材収納路を備えた筒状のニードル部材収納体と、
接触面を備え、前記接触面が試料採取対象物に接触することにより、前記ニードル部の前記尖鋭部が前記試料採取対象物に対して入り込む深さを制限する1以上のストッパ部と、
前記1以上のストッパ部を備えたハウジングと、
試料採取前には前記試料取込口を前記1以上のストッパ部の前記接触面よりも前記長手方向の外側に位置させ、前記1以上のストッパ部の前記接触面が前記試料採取対象物に接触すると、前記試料取込口を前記ニードル部材収納路内に位置させるように前記ニードル部材を前記ニードル部材収納路内に引き込む駆動機構とを備えていることを特徴とするバイオプシーデバイス。
【請求項3】
前記ニードル部の前記尖鋭部は、頂部が前記試料採取対象物に向いた三角錐状になっている請求項2に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項4】
前記三角錐状の前記尖鋭部を構成する3つの面のうちの一面を含む仮想面と、他の二面が形成する稜線に沿って延びる仮想線との間に形成される角度が20°乃至40°の間の角度である請求項3に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項5】
前記角度が30°である請求項4に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項6】
前記ニードル部の前記尖鋭部が前記試料採取対象物に対して入り込む深さは、前記ニードル部の前記尖鋭部が前記試料採取対象物の内臓に到達しない深さであり、
前記試料取込口は、前記試料採取対象物の筋肉組織を採取可能な位置に形成されている請求項2に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項7】
前記試料取込口は、前記ニードル部の前記尖鋭部から後方の20mm乃至50mmの間の位置に形成されている請求項6に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項8】
前記駆動機構は、
前記試料取込口が前記1以上のストッパ部の前記接触面よりも前記長手方向の外側に位置する第1の位置に前記ニードル部材が移動させられるときに蓄勢され、前記ニードル部材を前記ニードル部材収納路内に引き込んで第2の位置に移動させるときに放勢される引き込み用蓄勢部材と、
前記ニードル部材が前記第1の位置にあるときに前記ニードル部材と係合し、前記1以上のストッパ部の前記接触面が前記試料採取対象物に接触して前記ストッパ部に前記後方に向かう外力が加わったときに前記ニードル部材との係合が解除される係合機構とを備えている請求項2に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項9】
前記係合機構は、
前記1以上のストッパ部の前記接触面に前記外力が加わっていないときに前記ハウジングを定常位置に保持し、前記1以上のストッパ部に前記外力が加わっているときには前記定常位置よりも前記後方側に前記ハウジングが移動することを許容し前記外力がなくなると前記ハウジングを前記定常位置に戻すハウジングスライド機構と、
前記ニードル部材収納体の周方向に間隔をあけて形成され前記ニードル部材収納体の周壁を径方向に貫通する複数の貫通孔と、
前記複数の貫通孔内に前記径方向に移動可能にそれぞれ保持されて前記ニードル部材が前記第1の位置にあるときに前記ニードル部材と係合し、前記ハウジングが前記定常位置よりも前記後方側に移動すると前記ニードル部材との係合が解除される係合部材とを備えている請求項8に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項10】
前記ニードル部材の前記ロッド部の後方端部にはフランジ部が設けられており、
前記ニードル部材収納体の前記周壁の内周部には、前記複数の貫通孔の前記後方側の位置に前記径方向の内側に向かって突出する1以上の突起が設けられており、
前記引き込み用蓄勢部材はコイル状のバネ部材からなり、
前記バネ部材が前記ニードル部材の前記フランジ部と前記1以上の突起との間に配置されており、
前記ハウジングスライド機構で前記ハウジングが前記後方側に移動すると、前記バネ部材が放勢される請求項9に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項11】
前記ハウジングスライド機構は、
前記ニードル部材収納体の後方端部に固定されたエンドキャップと、
該エンドキャップと前記ハウジングの後方端部との間に配置されて、前記ハウジングに前記外力が加わっているときに蓄勢され、前記外力がなくなると放勢されて前記ハウジングを前記定常位置に戻す復帰用蓄勢部材とからなる請求項10に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項12】
前記復帰用蓄勢部材はコイル状のバネ部材からなり、該バネ部材が前記ニードル部材収納体に嵌合されている請求項11に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項13】
前記ハウジングの内周部には、前記ハウジングが前記定常位置から前記後方側に下がったときに、前記係合部材が前記径方向外側に変位することを許容する環状の凹部が設けられている請求項9に記載に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項14】
前記エンドキャップの外側には、筒状の姿勢安定用スポイラが、複数のピンを介して装着されている請求項11に記載のバイオプシーデバイス。
【請求項15】
前記ニードル部を前記試料採取対象物に向けた姿勢で、請求項2乃至14のいずれか1項に記載のバイオプシーデバイスを射出する射出装置。
【請求項16】
前記射出装置は、
前記バイオプシーデバイスの後端に先端が連結される棒状部材と、
前記棒状部材の後端に設けられたカプラと、
前方の端部に開口部を有し、待機状態において前記バイオプシーデバイスと前記バイオプシーデバイスに連結された前記棒状部材とを収納する筒体と、
前記筒体の後方端部に設けられ、前記待機状態において前記棒状部材の前記後端に設けられた前記カプラが係止された係止状態になり、射出指令に基づいて前記係止状態を解除する解除状態になるカプラ係止機構と、
前記筒体の内部に配置された前記バイオプシーデバイスの前記後端と前記カプラ係止機構との間に配置されて、前記カプラが前記カプラ係止機構に係止される過程で蓄勢され、前記カプラ係止機構が前記解除状態になると放勢されて、前記バイオプシーデバイスを射出する射出用蓄勢部材とを備えた請求項15に記載の射出装置。
【請求項17】
前記筒体内に前記バイオプシーデバイスを収納した状態で、前記カプラ係止機構が誤って前記解除状態になった場合に、前記バイオプシーデバイスが前記筒体の前記開口部から射出されるのを防止する誤射防止機構を備えている請求項16に記載の射出装置。
【請求項18】
前記誤射防止機構は、前記筒体内に前記バイオプシーデバイスを収納した状態で、前記バイオプシーデバイスの射線上に配置される引き抜き可能な安全ピンである請求項17に記載の射出装置。
【請求項19】
前記誤射防止機構は、前記筒体内に前記バイオプシーデバイスを収納した状態で、前記バイオプシーデバイスの射線上に位置して前記バイオプシーデバイスの通過を阻止し、前記射出装置が水没されている状態では、水圧によって押し潰されて、前記バイオプシーデバイスの通過を許容するようになる弾性球体部材である請求項17に記載の射出装置。
【請求項20】
射程圏内に入った生物を検知する生物検知部と、
前記生物検知部が、前記試料採取対象物を検知すると、前記射出装置に前記射出指令を出力する射出指令出力部をさらに備えている請求項15に記載の射出装置。
【請求項21】
前記試料採取対象物は、予め定めた大きさ以上及び/または形状である請求項20に記載の射出装置。
【請求項22】
前記生物検知部は、レーザ光を利用した光切断法を用いて得られた画像に基づいて、前記試料採取対象物を検知する請求項20に記載の射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物や魚類等の試料採取対象物から生体試料を採取するための、バイオプシーデバイス、該バイオプシーデバイスを射出するための射出装置、及び、これらを備えたバイオプシー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、動物や魚類等の試料採取対象物から生体試料を採取するには、試料採取対象物を捕獲していた。しかしながら、この手法では、試料採取対象物の種類によっては致死的になってしまう可能性があり、個体数が少ない大型動物や大型魚類の場合には、生態系への影響が懸念され、調査を進めにくい、という課題があった。そこで、最近では、バイオプシー銃やバイオプシー・ダーツ(biopsy dart)(以下、「バイオプシー銃等」)と呼ばれる装置を利用して、試料採取対象物から非致死的に生体試料を採取することも行われている。バイオプシー銃等を利用した生体試料の採取を示す例として、一般財団法人日本鯨類研究所「2014/15年 南極海鯨類目視調査の出港について」平成27年1月6日公表(非特許文献1)、同「2015/16年度 新南極海鯨類科学調査(NEWREP−A)の結果について」平成28年3月24日公表(非特許文献2)の文献が挙げられる。
【0003】
非特許文献1及び2に示されたバイオプシー銃等は、ニードル部を備えたバイオプシーデバイスを生体試料採取対象物に向かって放つものである。ニードル部は、先端が生体試料採取対象物に向かって開口した筒状になっている。ニードル部が生体試料採取対象物に当たると、先端が皮膚及び肉の一部を切り裂き、ニードル部内に生体試料が納まる。その後、バイオプシーデバイスを回収することで、生体試料を採取する。
【0004】
しかしながら、バイオプシー銃等の場合、ニードル部の先端が開口した形状であるため、生体試料がニードル部内に納まった後、生体試料の一部が外部に露出した状態になってしまう。そのため、即時にバイオプシーデバイスを回収できない場合、生体試料の保存状態が悪くなる可能性がある。
【0005】
そこで、特開昭50−100882号公報(特許文献1)や、特表平9−500565号公報(特許文献2)に開示されている、医療分野で使用されている、ニードル部と、それを収納するニードル収納体とを有する二重構造のバイオプシーデバイスを使用することが考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】一般財団法人日本鯨類研究所「2014/15年 南極海鯨類目視調査の出港について」平成27年1月6日公表(平成30年3月22日検索・URL:http://www.icrwhale.org/pdf/150106ReleaseJp.pdf)
【非特許文献2】一般財団法人日本鯨類研究所「2015/16年度 新南極海鯨類科学調査(NEWREP−A)の結果について」平成28年3月24日公表(平成30年3月22日検索・URL:http://www.icrwhale.org/pdf/160324ReleaseJp.pdf)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭50−100882号公報
【特許文献2】特表平9−500565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されているバイオプシーデバイスは、操作者が操作をして、ニードル部をニードル収納体内に収納するものである。そのため、人間が近づきにくい野生生物や深海魚等の試料採取対象物に対しては、使用することができないという課題が存在する。
【0009】
本発明の目的は、人間が操作することなく、非致死的に、保存状態がよい状態で、生体試料を採取することができるバイオプシーデバイスを提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、試料採取対象物に与える損傷を低減し、生体試料を採取することができるバイオプシーデバイスを提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、人間が近づきにくい試料採取対象物から、生体試料を採取することができるバイオプシーデバイスを射出するための射出装置、及び、バイオプシー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のバイオプシーデバイスは、ニードル部材と、ニードル部材収納体と、1以上のストッパ部を備えたハウジングと、ニードル部材をニードル部材収納路内に引き込む駆動機構を備えている。
【0013】
ニードル部材は、先端に尖鋭部を有し、該尖鋭部の後方に外側に向かって開口した試料取込口を有して試料を取り込む試料取込凹部が形成されたニードル部及び該ニードル部の後方にあるロッド部を有している。ニードル部材収納体は、先端に開口部を有してニードル部材を該ニードル部材の長手方向にスライド可能に収納するニードル部材収納路を備えた筒状の部材である。ハウジングに備えられた1以上のストッパ部は、接触面を備え、接触面が試料採取対象物に接触することにより、ニードル部の尖鋭部が試料採取対象物に対して入り込む深さを制限するものである。駆動機構は、試料採取前には試料取込口を1以上のストッパ部の接触面よりも長手方向の外側に位置させ、1以上のストッパ部の接触面が試料採取対象物に接触すると、試料取込口をニードル部材収納路内に位置させるようにニードル部材をニードル部材収納路内に引き込むように構成されている。
【0014】
本発明のバイオプシーデバイスは、上記の通り構成されているため、必要以上に試料採取対象物にニードル部が入り込むことなく生体試料を採取することができ、また、生体試料は外部に露出した状態にならないため、バイオプシーデバイスを回収すれば、保存状態のよい生体試料を採取することができる。
【0015】
ニードル部の尖鋭部の形状や角度は任意である。例えば、頂部が試料採取対象物に向いた三角錐状や円錐状になっているものでもよいし、円柱を斜めに切断した注射針のような形状であってもよい。また、想定する試料採取対象物の種類によっても変更してもよいのはもちろんである。
【0016】
発明者らは、一例として深海(水深数百メートル〜二千メートル)に生息する深海ザメを試料採取対象物と想定し、尖鋭部の形状及び角度を検討した。深海ザメは皮膚が硬く且つ厚いものが多いため、この皮膚を貫通できる鋭いタイプの尖鋭部が必要である。しかしながら、深海ザメに損傷を与えすぎると、非致死的に生体試料を採取する、という目的を達成できないため、最適と考えられる形状及び角度を検討する必要がある。結果として、深海ザメの場合には、尖鋭部の形状は三角錐状が適していることがわかった。また、尖鋭部の角度は、三角錐状の尖鋭部を構成する3つの面のうちの一面を含む仮想面と、他の二面が形成する稜線に沿って延びる仮想線との間に形成される角度が20°乃至40°の間の角度、特に、30°の角度が適していることがわかった。
【0017】
試料採取対象物から、非致死的に生体試料を採取するという目的を達成するため、ニードル部の尖鋭部が試料採取対象物に対して入り込む深さは、ニードル部の尖鋭部が試料採取対象物の内臓に到達しない深さであることが好ましい。また、試料採取対象物の筋肉組織を生体試料とする場合には、試料取込口は、試料採取対象物の筋肉組織を採取可能な位置に形成しておくことが好ましい。この位置は、具体的には、ニードル部の尖鋭部から後方の20mm乃至50mmの間の位置である。
【0018】
駆動機構は、引き込み用蓄勢部材と、係合機構とを備えていてもよい。引き込み用蓄勢部材は、試料取込口が1以上のストッパ部の接触面よりも長手方向の外側に位置する第1の位置にニードル部材が移動させられるときに蓄勢され、ニードル部材をニードル部材収納路内に引き込んで第2の位置に移動させるときに放勢されるものである。係合機構は、ニードル部材が第1の位置にあるときにニードル部材と係合し、1以上のストッパ部の接触面が試料採取対象物に接触してストッパ部に後方に向かう外力が加わったときにニードル部材との係合が解除されるものである。
【0019】
係合機構は、ハウジングスライド機構と、ニードル部材収納体に形成された複数の貫通孔と、係合部材とを備えていてもよい。ハウジングスライド機構は、1以上のストッパ部の接触面に外力が加わっていないときにハウジングを定常位置に保持し、1以上のストッパ部に外力が加わっているときには定常位置よりも後方側にハウジングが移動することを許容し、外力がなくなるとハウジングを定常位置に戻すものである。複数の貫通孔は、ニードル部材収納体の周方向に間隔をあけて形成され、ニードル部材収納体の周壁を径方向に貫通するものである。係合部材は、複数の貫通孔内に径方向に移動可能にそれぞれ保持されてニードル部材が第1の位置にあるときにニードル部材と係合し、ハウジングが定常位置よりも後方側に移動するとニードル部材との係合が解除されるものである。
【0020】
ニードル部材のロッド部の後方端部にフランジ部を設け、ニードル部材収納体の周壁の内周部は、複数の貫通孔の後方側の位置に径方向の内側に向かって突出する1以上の突起を設け、引き込み用蓄勢部材であるコイル状のバネ部材をニードル部材のフランジ部と1以上の突起との間に配置し、ハウジングスライド機構でハウジングが後方側に移動すると、バネ部材が放勢されるようにしてもよい。
【0021】
ハウジングスライド機構は、ニードル部材収納体の後方端部に固定されたエンドキャップと、該エンドキャップとハウジングの後方端部との間に配置されて、ハウジングに外力が加わっているときに蓄勢され、外力がなくなると放勢されてハウジングを定常位置に戻す復帰用蓄勢部材とからなっていてもよい。復帰用蓄勢部材はコイル状のバネ部材からなり、該バネ部材がニードル部材収納体に嵌合されてもよい。
【0022】
ハウジングの内周部には、ハウジングが定常位置から後方側に下がったときに、係合部材が径方向外側に変位することを許容する環状の凹部が設けられていてもよい。
【0023】
エンドキャップの外側には、筒状の姿勢安定用スポイラが、複数のピンを介して装着されていてもよい。このようにすれば、バイオプシーデバイスを飛ばした場合に、空中や水中で、バイオプシーデバイスの姿勢を安定させることができ、試料採取対象物の命中率が向上する。
【0024】
バイオプシーデバイスは、もちろん人間が投げて使用してもよいが、ニードル部を試料採取対象物に向けた姿勢で射出する射出装置と共に使用してもよい。射出装置は、バイオプシーデバイスの後端に先端が連結される棒状部材と、棒状部材の後端に設けられたカプラと、前方の端部に開口部を有し、待機状態においてバイオプシーデバイスとバイオプシーデバイスに連結された棒状部材とを収納する筒体と、筒体の後方端部に設けられ、待機状態において棒状部材の後端に設けられたカプラが係止された係止状態になり、射出指令に基づいて係止状態を解除する解除状態になるカプラ係止機構と、筒体の内部に配置されたバイオプシーデバイスの後端とカプラ係止機構との間に配置されて、カプラがカプラ係止機構に係止される過程で蓄勢され、カプラ係止機構が解除状態になると放勢されて、バイオプシーデバイスを射出する射出用蓄勢部材とを備えたものとすることができる。
【0025】
バイオプシーデバイスが誤射されると危険であるため、射出装置は誤射防止機構を備えることが好ましい。誤射防止機構は、筒体内にバイオプシーデバイスを収納した状態で、カプラ係止機構が誤って解除状態になった場合に、バイオプシーデバイスが筒体の開口部から射出されるのを防止するものである。具体的には、筒体内にバイオプシーデバイスを収納した状態で、バイオプシーデバイスの射線上に配置される引き抜き可能な安全ピンであってもよい。射出装置を設置する際に、安全ピンを引き抜くようにすればよい。また、射出装置を深海等の水深の深い場所に設置する場合には、誤射防止機構は、筒体内にバイオプシーデバイスを収納した状態で、バイオプシーデバイスの射線上に位置してバイオプシーデバイスの通過を阻止し、射出装置が水没されている状態では、水圧によって押し潰されて、バイオプシーデバイスの通過を許容するようになる弾性球体部材であってもよい。もちろん、これら誤射防止機構のうちの一方だけを備えてもよく、また、両方を備えるようにしてもよい。
【0026】
射出装置は、遠隔操作によって射出するものであってもよいが、試料採取対象物を検知すると、射出装置に射出指令を出力するタイプのものであってもよい。この場合、射程圏内に入った生物を検知する生物検知部と、生物検知部が、試料採取対象物を検知すると、射出装置に射出指令を出力する射出指令出力部をさらに備えていればよい。このようにすれば、射出装置を設置しておけば自動的に生体試料を採取することができるため、電波が届かない等、遠隔操作が難しい場所でも生体試料を採取しやすくなる。
【0027】
試料採取対象物であるか否かを判断する基準は、例えば試料採取対象物の大きさや形状を用いることができる。予め定めた大きさ以上及び/または形状である生物を検知した場合に、試料採取対象物を検知した、とすることができる。
【0028】
生物検知部を用いて試料採取対象物を検知する手法は任意である。レーザ光を利用した光切断法を用いて得られた画像に基づいて、試料採取対象物を検知してもよい。
【0029】
本発明は、上述のバイオプシーデバイスと、ニードル部を試料採取対象物に向けた姿勢で、バイオプシーデバイスを射出する射出装置とを備えたバイオプシー装置として捉えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本実施の形態のバイオプシー装置1の一例を示すものであり、(A)は、バイオプシー装置1の斜視図であり、(B)は、バイオプシー装置1の正面図である。
図2】射出装置のブロック図である。
図3】バイオプシーデバイス19を射出する射出装置5の一部を構成するランチャ21の分解斜視図である。
図4】バイオプシーデバイス19を収納した射出前の状態のランチャ21の一部断面図である。
図5】(A)〜(C)は、弾性球体部材47,49による誤射防止の様子を示す模式図である。
図6】バイオプシーデバイス19を射出するまでのフローチャートである。
図7】バイオプシーデバイス19の分解斜視図である。
図8】試料取込口を収納した状態のバイオプシーデバイス19の断面図である。
図9】試料取込口を露出した状態のバイオプシーデバイス19の断面図である。
図10】ニードル部67の拡大図である。
図11】実験1の実験結果を示す図である。
図12】実験2の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明のバイオプシーデバイス、該バイオプシーデバイスを射出するための射出装置、及び、これらを備えたバイオプシー装置の実施の形態について説明する。
【0032】
<バイオプシー装置>
図1(A)及び(B)は、本実施の形態のバイオプシー装置1の一例を示すものである。図1(A)は、バイオプシー装置1の斜視図であり、図1(B)は、バイオプシー装置1の正面図である。
【0033】
本実施の形態のバイオプシー装置1は、水深数百メートル〜二千メートルの深海に生息する深海ザメ等の大型魚類を試料採取対象物としており、設置地点の海上まで船舶で運搬し、海上から投入して海底まで沈めて設置して使用するものである。なお、図1(A)及び(B)では、バイオプシーデバイスは、ランチャ内に収納されていない状態で示してある。図2は、射出装置のブロック図である。
【0034】
まず、本願明細書においては、図1に示すように、バイオプシー装置1に対して複数の方向を定めている。すなわち、右方向Ri及び左方向Leからなる左右方向(第1の方向D1)、上方向Up及び下方向Loからなる上下方向(第2の方向D2)、前方方向Fo及び後方方向Reからなる前後方向(第3の方向D3)を図1に示すように定義している。各構成部材の説明において用いる方向は、各構成部材をフレーム体3に取り付けた状態における方向である。図3図4図7図10に示した構造の説明でも、図1の説明に用いる方向と同じ方向を用いている。
【0035】
バイオプシー装置1は、フレーム体3と、射出装置5と、メイン耐圧容器7と、LEDライト9と、浮力材11と、音響トランスポンダ13と、フラッシャ15と、ラジオビーコン17と、超音波ドップラ式流向流速計18を備えている。
【0036】
フレーム体3は金属製のフレームで構成されており、各種部材が備え付けられている。上部中央部には、クレーンで吊り上げるための吊り点4が備えられている。
【0037】
射出装置5は、4つのバイオプシーデバイス19と、バイオプシーデバイス19を射出する4本のランチャ21と、メイン耐圧容器7内に設置されプロセッサからなる制御部23と、制御部23によって制御され、ランチャ21の射出を制御するランチャ制御部25と、シートレーザ照射部27と、レーザ監視カメラ29とから構成されている。本実施の形態では、シートレーザ照射部27と、レーザ監視カメラ29を用いた光切断法によって、試料採取対象物の監視を行う。
【0038】
制御部23は、シートレーザ照射部27を制御するシートレーザ照射制御部23Aと、レーザ監視カメラ29が取得した画像に基づいて、試料採取対象物を検知する生物検知部23Bと、ランチャ制御部2に射出指令を出力する射出指令出力部23Cを備えている。
【0039】
メイン耐圧容器7は、制御部23やランチャ制御部25の他、外部撮影用のメインカメラ31等を水密に収納する円筒形の容器である。LEDライト9は、光の届かない深海で外部を照射するためのものであり、主にメインカメラ31の撮影を補助するためのものである。浮力材11は、バイオプシー装置1を運搬中に設置しておくものであり、海に沈める前に取り外すものである。音響トランスポンダ13は、海上の船舶からの浮上指令を受けるためのものであり、バイオプシー装置1が備えた図示しないバラストを切り離す切離装置と組み合わされている。浮上指令を受けると、バラストが切り離され、バイオプシー装置1が浮上する。フラッシャー15は、バイオプシー装置1が海上に浮上した後に、海面で回収者が視認しやすくするための照明具である。ラジオビーコン17は、バイオプシー装置1が海上に浮上した後に、電波を発信し、バイオプシー装置1の位置を知らせるものである。超音波ドップラ式流向流速計18は、バイオプシー装置1の周囲の海水の流向及び流速を計測するものである。
【0040】
<ランチャ>
図3は、バイオプシーデバイス19を射出する射出装置5の一部を構成するランチャ21の分解斜視図であり、図4は、バイオプシーデバイス19を収納した射出前の状態のランチャ21の筒体37及び射出用蓄勢部材41を断面にして示した一部断面図である。
【0041】
ランチャ21は、バイオプシーデバイス19の後端に先端が連結される棒状部材33と、棒状部材33の後端に設けられたカプラ35と、前方の端部に開口部37Aを有し、待機状態においてバイオプシーデバイス19とバイオプシーデバイス19に連結された棒状部材33とを収納する筒体37と、筒体37の後方端部に設けられたカプラ係止機構39と、バイオプシーデバイス19を射出する射出用蓄勢部材41とを備えている。
【0042】
カプラ係止機構39は、ランチャ制御部25と電気的に接続されており、待機状態において棒状部材33の後端に設けられたカプラ35が係止された係止状態になり、射出指令に基づいて係止状態を解除する解除状態になる。射出用蓄勢部材41は、筒体37の内部に配置されたバイオプシーデバイス19の後端とカプラ係止機構39との間に配置されて、カプラ35がカプラ係止機構39に係止される過程で蓄勢され、カプラ係止機構39が解除状態になると放勢される。棒状部材33の長さ、及び、射出用蓄勢部材41の強度を調整することで、バイオプシーデバイス19を射出する力を調整することができる。本実施の形態では、バイオプシーデバイス19は、約500Nの力で射出されるように調整してある。
【0043】
カプラ35には、一端がフレーム体3に固定され、カプラ係止機構39に形成された貫通孔39Aに通されたワイヤ36の他端が締結されている(図1(A)及び(B)参照)。これにより、ランチャ21よりバイオプシーデバイス19が射出された後も、バイオプシーデバイス19はバイオプシー装置1と繋がれた状態になり、バイオプシー装置1を回収することで、バイオプシーデバイス19も回収することが可能となる。
【0044】
筒体37の開口部37A付近には、2つの誤射防止機構が備えられている。1つ目の誤射防止機構は、筒体37の開口部37A付近に形成され、上下方向D2に整合する位置に形成された2つの貫通孔37B,37Cと、筒体37内にバイオプシーデバイス19を収納した状態で、バイオプシーデバイス19の射線上に配置され、貫通孔37B,37Cに通して固定する、引き抜き可能な安全ピン43から構成されている。安全ピン43は、海上からバイオプシー装置1を投入する直前に引き抜かれるものである。
【0045】
2つ目の誤射防止機構は、開口部37A付近に設けられた上下方向D2に延びる通路部45と、通路部45内に収納された弾性球体部材47,49とから構成されている。弾性球体部材47,49としては、軟式野球のボール等を利用することもできる。図5(A)〜(C)は、弾性球体部材47,49による誤射防止の様子を示す模式図である。図5(A)は、バイオプシー装置1を海に投入する前の状態を示す図である。この状態では、重力により、弾性球体部材47,49は通路部45の下側に位置しており、弾性球体部材47がバイオプシーデバイス19の誤射を防止している。図5(B)は、バイオプシー装置1を海に投入後、水深30m程度までの状態を示す図である。この状態では、海水によって浮力が生じ、弾性球体部材47,49は通路部45の上側に位置しており、弾性球体部材49がバイオプシーデバイス19の誤射を防止している。図5(C)は、バイオプシー装置1が設置地点の海底に到着した状態を示す図である。この状態では、水圧によって、弾性球体部材47,49は押し潰された状態で、通路部45の上側に位置に位置している。したがって、この状態になると、バイオプシーデバイス19の通過が許容されるようになる。
【0046】
<バイオプシーデバイスを射出するまでのフローチャート>
図6は、海底に設置したバイオプシー装置1の射出装置5が、バイオプシーデバイス19を射出するまでのフローチャートである。
【0047】
海底に設置後、シートレーザ照射制御部23Aは、シートレーザ照射部27を制御し、バイオプシー装置1の前方にシートレーザを照射する(ステップST1)。生物検知部23Bは、レーザ監視カメラ29が取得したレーザ光の反射光に基づいて、3次元画像データを生成し、射出装置5の射程圏内の魚等の生物の存在の有無を確認する(ステップST2)。本実施の形態では、バイオプシー装置1の前に図示しないサバの切り身等を入れた餌カゴを準備しておき、試料採取対象物を射程圏内におびき寄せるようにしている。レーザ光が乱れたことが検知された場合に、生物が到来したことが検知されるが、これだけでは、試料採取対象物ではない小型の魚類等の可能性もあるため、本実施の形態では、さらに、レーザ光の反射光に基づいて、検知された生物が一定の大きさ及び形状であるか、すなわち、試料採取対象物であるかを判断する(ステップST3)。例えば、レーザ光が細かく乱れている場合には、小型の魚類である可能性が高く、レーザ光が大きく湾曲している場合には、大型の魚類である可能性が高いと判断できる。試料採取対象物であると判断すると、射出指令出力部23Cは、ランチャ制御部25に射出指令を出力し、バイオプシーデバイス19を射出する(ステップST4)。本実施の形態では、ランチャ21を4本備えているため、4本全てを射出するまで、ステップST1〜ST4を繰り返す(ステップST5)。
【0048】
<バイオプシーデバイス>
図7は、バイオプシーデバイス19の分解斜視図であり、図8は、試料取込口を収納した状態のバイオプシーデバイス19の断面図であり、図9は、試料取込口を露出した状態のバイオプシーデバイス19の断面図である。
【0049】
バイオプシーデバイス19は、ニードル部材51と、ニードル部材収納体53と、4つのストッパ部55と、ハウジング57と、筒状カッター59と、エンドキャップ61と、引き込み用蓄勢部材を構成する第1のバネ部材63と、復帰用蓄勢部材を構成する第2のバネ部材65とを備えている。
【0050】
ニードル部材51は、金属製であり、生体試料採取対象物に突き刺さる部分である。ニードル部材51は、ニードル部67及びその後方にあるロッド部69を有している。ニードル部67は、直径が6mmであり、先端に尖鋭部71を有し、該尖鋭部71の後方に外側に向かって開口した試料取込口73を有して試料を取り込む試料取込凹部75が形成されている。
【0051】
図10は、本実施の形態のニードル部67の拡大図である。尖鋭部71の形状は、頂部が試料採取対象物に向いた三角錐状になっており、尖鋭部71を構成する3つの面のうちの一面を含む仮想面IFと、他の二面が形成する稜線に沿って延びる仮想線ILとの間に形成される角度θが30°になっている。この形状は、図11及び図12に示した実験結果を経て決定した。
【0052】
●実験1:直径及び形状の決定
実験1では、ニードル部の直径と形状を比較検討した。同じ30°の角度を有する三角錐状(Tr)、シリンジ状(注射針形状)(Sy)、円錐状(Co)の3種類の形状について、ニードル部63の直径を6mm、8mmに変えて、ユメザメ2体に対する静止貫入試験(静止状態の検体にニードル部を突き刺す試験)を実施し、表皮を貫通する際の貫入抵抗(N)を測定した(図11)。いずれも十分に表皮を貫通したため、最も低荷重となった、三角錐状、直径6mmを採用した。
【0053】
●実験2:三角錐状の尖鋭部の角度の決定
実験2では、三角錐状の尖鋭部の角度と貫入抵抗を比較検討した。尖鋭部を構成する3つの面のうちの一面を含む仮想面IFと、他の二面が形成する稜線に沿って延びる仮想線ILとの間に形成される角度を20°、30°、40°に変えて、深海ザメ3種(サガミザメ、ユメザメ、ヨロイザメ)それぞれ3個体に対する静止貫入試験を実施し、貫入抵抗(N)を測定し、平均値(相加平均)を算出した(図12)。角度が低角度である方が低荷重で表皮を貫通できたが、20°と30°の場合、貫通に要する荷重にそれほど大きな差が無いこと、また、低角度にすると尖鋭部の長さが長くなり、試料採取対象物の内臓にまで到達してしまい、ダメージが大きくなる可能性が高いことから、角度は30°を採用した。
【0054】
試料取込口73は、試料採取対象物の筋肉組織を生体試料とするため、筋肉組織を採取可能な位置に形成されている。本実施の形態では、試料採取対象物が深海ザメであり、尖鋭部71から後方の20mm乃至50mmの間の位置に形成している。この例では、尖鋭部の頂部から試料取込口73の中央部までの長さLが30mmになるようにしてある。
【0055】
ニードル部材51のロッド部69の外周部には、環状の凹部69Aが形成されており、後方端部にはフランジ部69Bが設けられている。
【0056】
ニードル部材収納体53は、金属製であり、先端に開口部53Aを有してニードル部材51をその長手方向にスライド可能に収納するニードル部材収納路53Bを備えた筒状である。また、周壁には、径方向に貫通する3つの貫通孔53Cと、この貫通孔53Cの後方側の位置に径方向の内側に向かって突出する突起53Dが設けられている(図8参照)。貫通孔53C内には、係合部材として機能するセラミック製のボール状部材77が径方向に移動可能に保持されている。
【0057】
ストッパ55は、接触面55Aを備えており、接触面55Aが試料採取対象物に接触することにより、ニードル部67の尖鋭部71が試料採取対象物に対して入り込む深さを制限するものである。本実施の形態では、4本備えられているが、本数はこれに限られるものではなく、また、ニードル部67を取り囲むリング状等の他の形状であってもよいのはもちろんである。
【0058】
ハウジング57は、樹脂製であり、ニードル部材収納体53を収納するものである。先端にストッパ部55が固定されており、内周部には、環状の凹部57Aが設けられている。
【0059】
筒状カッター59は、ニードル部材収納体53の開口部53A内に収納され、ニードル部材51のニードル部67の周囲に配置されている。ニードル部材51がニードル部材収収納路53Bに引き込まれる際に、試料採取対象物から試料取込凹部75内に入り込んだ生体試料を切り離す。
【0060】
エンドキャップ61は、ニードル部材収納体53の後方端部にネジ込み式で固定さている。エンドキャップ61の外側には、3つのピンを介して筒状の姿勢安定用スポイラ79が装着されている。これにより、水中を進むバイオプシーデバイス19の姿勢が安定し、試料採取対象物の命中率が向上する。
【0061】
第1のバネ部材63は、ニードル部材51をニードル部材収納路53B内に引き込む引き込み用蓄勢部材である。第1のバネ部材63は、ニードル部材51のフランジ部69Bと、ニードル部材収納体53の内側に設けられた突起53Dの間に配置されている。試料取込口73がストッパ部55の接触面55Aよりも長手方向の外側に位置する第1の位置にニードル部材51が移動させられるときに蓄勢され、ニードル部材51をニードル部材収納路53B内に引き込んで第2の位置に移動させるときに放勢されるようになっている。
【0062】
第2のバネ部材65は、ニードル部材収納体53に嵌合されて、エンドキャップ61とハウジング57の後方端部との間に配置されて、ハウジング57に外力が加わっているときに蓄勢され、外力がなくなると放勢されてハウジング57を定常位置に戻す復帰用蓄勢部材である。エンドキャップ61と、第2のバネ部材65でハウジングスライド機構が形成されている。
【0063】
(駆動機構の動作)
本実施の形態では、バイオプシーデバイス19には、上記各部材が協働して実現された駆動機構が実装されている。ストッパ部55、ハウジング57、第1のバネ部材63、第2のバネ部材65、ボール状部材77、凹部57A等により構成される駆動機構により、試料採取前には試料取込口73がストッパ部55の接触面55Aよりも長手方向の外側に位置し、ストッパ部55の接触面55Aが試料採取対象物に接触すると、試料取込口73がニードル部材収納路53B内に位置するように、ニードル部材51がニードル部材収納路53B内に引き込まれる。
【0064】
バイオプシーデバイス19を構成する上述の部材を組み立てると、図8に示す状態となる。本実施の形態では、試料取込口73がストッパ部55の接触面55Aよりも長手方向の外側に位置する状態のニードル部材51の位置を第1の位置と定義し、ニードル部材51がニードル部材収納路53B内に引き込まれた状態のニードル部材51の位置を第2の位置と定義している。図8に示す状態は、ニードル部材51が第2の位置にある状態である。
【0065】
この状態で、ニードル部材収納路53Bに収納されたニードル部材51の後方端部を棒状の治具で前方方向Foに押し込むと、第1のバネ部材63がフランジ部69Bに押されて蓄勢される。ニードル部材51をさらに押し込み続け、ニードル部材51の環状の凹部69Aが3つの貫通孔53Cまで到達すると、ハウジング57の内周部に押されて、貫通孔53C内のボール状部材77の一部が環状の凹部69Aに入り込み係合する。これにより、ニードル部材51は、第1の位置に固定され、図9に示す状態になる。バイオプシーデバイス19は、この状態でランチャ21の筒体37内に収納される。
【0066】
試料採取対象物に向かってランチャ21からバイオプシーデバイス19が射出され、試料採取対象物に到達すると、まず、ニードル部材51の尖鋭部71が試料採取対象物に突き刺さり、次に、ストッパ部55の接触面55Aが試料採取対象物に衝突する。すると、ストッパ部55に後方に向かう外力が加わり、ハウジング57が定常位置よりも後方側に移動し、ハウジング57の内周部に形成された環状の凹部57Aが3つの貫通孔53Cの位置まで移動する。このとき、併せて、第2のバネ部材65が蓄勢される。この状態になると、ボール状部材77が径方向外側に変位することが許容され、ボール状部材77の一部が環状の凹部57Aに逃げることで、ニードル部材51とボール状部材77の係合が解除される。これにより、第1のバネ部材63が放勢され、第2の位置に移動するようにニードル部材51がニードル部材収納路53B内に引き込まれる。併せて、ストッパ部55に加わっていた外力がなくなると、第2のバネ部材65が放勢され、ハウジング57が定常位置に戻る。結果として、バイオプシーデバイス19は、図8に示す状態に戻る。このようにして、人間が操作することなく、試料取込凹部75内に生体試料を取り込み、ニードル部材収納路53B内に収納することができる。
【0067】
上記実施の形態は、一例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本実施例に限定されるものではない。例えば、バイオプシー装置は、海底以外に湖底等に設置して使用してもよく、また、野生動物から生体試料を採取するために、地上で使用することができるのはもちろんである。その場合には、設置場所や対象とする試料採取対象物に応じて、ニードル部の尖鋭部の形状や試料取込口の位置、尖鋭部の頂部からストッパ部までの距離、バイオプシーデバイスの射出力等を調整し、また、適切な誤射防止機構を採用するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、人間が操作することなく、非致死的に、保存状態がよい状態で、生体試料を採取することができるバイオプシーデバイスを提供することができる。また、試料採取対象物の負荷を低減し、生体試料を採取することができるバイオプシーデバイスを提供することができる。さらに、人間が近づきにくい試料採取対象物から、生体試料を採取することができるバイオプシーデバイスを射出するための射出装置、及び、バイオプシー装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 バイオプシー装置
3 フレーム体
4 吊り点
5 射出装置
7 メイン耐圧容器
9 LEDライト
11 浮力材
13 音響トランスポンダ
15 フラッシャ
17 ラジオビーコン
18 超音波ドップラ式流向流速計
19 バイオプシーデバイス
21 ランチャ
23 制御部
25 ランチャ制御部
27 シートレーザ照射部
29 レーザ監視カメラ
31 メインカメラ
33 棒状部材
35 カプラ
37 筒体
39 カプラ係止機構
41 射出用蓄勢部材
43 安全ピン
45 通路部
47,49 弾性球体部材
51 ニードル部材
53 ニードル部材収納体
55 ストッパ部
57 ハウジング
59 筒状カッター
61 エンドキャップ
63 第1のバネ部材
65 第2のバネ部材
67 ニードル部
69 ロッド部
71 尖鋭部
73 試料取込口
75 試料取込凹部
77 ボール状部材
79 姿勢安定用スポイラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12