特許第6984939号(P6984939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サラヤ株式会社の特許一覧

特許6984939接着剤の耐久性低下を抑制する酸化剤組成物およびその用途
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6984939
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】接着剤の耐久性低下を抑制する酸化剤組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/02 20060101AFI20211213BHJP
   A01N 37/16 20060101ALI20211213BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20211213BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20211213BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20211213BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20211213BHJP
   A61L 101/22 20060101ALN20211213BHJP
   A61L 101/36 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   A01N25/02
   A01N37/16
   A01N59/00 A
   A01P1/00
   A01P3/00
   A61L2/18 102
   C09J201/00
   A61L101:22
   A61L101:36
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2021-550165(P2021-550165)
(86)(22)【出願日】2021年5月14日
(86)【国際出願番号】JP2021018507
【審査請求日】2021年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2020-86296(P2020-86296)
(32)【優先日】2020年5月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2020-183267(P2020-183267)
(32)【優先日】2020年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 友則
(72)【発明者】
【氏名】吉川 啓明
(72)【発明者】
【氏名】坂井 聡美
(72)【発明者】
【氏名】マリー マダン
(72)【発明者】
【氏名】川向 恵美子
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/019414(WO,A1)
【文献】 特開2005−206565(JP,A)
【文献】 国際公開第00/022931(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0322349(US,A1)
【文献】 特開2005−305109(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105724381(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0108942(US,A1)
【文献】 特開2009−132692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A61L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酢酸、過酸化水素、及びグリシンを含有する殺菌組成物であって、
過酢酸の配合量が0.03〜0.9質量%、過酸化水素の配合量が0.045〜1.35質量%、及びグリシンの配合量が0.036質量%以上であり、pHが2〜7の水性溶液であることを特徴とする、殺菌組成物。
【請求項2】
pHが3〜7である、請求項1に記載する殺菌組成物。
【請求項3】
さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有する、請求項1又は2に記載する殺菌組成物。
【請求項4】
接着剤を含有する被験物に対する消毒剤及び/又は殺菌剤であり、
当該被験物が殺菌又は消毒を必要とする医療又は食品分野で使用される器具または機器である、請求項1〜3のいずれかに記載する殺菌組成物。
【請求項5】
(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と、(B)グリシンを含有する製剤との組み合わせ製剤であって、
前記(A)製剤と(B)製剤とが、水性溶剤とともに混合されて、過酢酸の配合量が0.03〜0.9質量%、過酸化水素の配合量が0.045〜1.35質量%、及びグリシンの配合量が0.036質量%以上の、pH2〜7の水性溶液として調製されて使用される、
前記組み合わせ製剤。
【請求項6】
前記(B)製剤は、さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有する、請求項5に記載する組み合わせ製剤。
【請求項7】
(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と(B)グリシンを含有する製剤を、水性溶剤とともに混合して、過酢酸の配合量が0.03〜0.9質量%、過酸化水素の配合量が0.045〜1.35質量%、及びグリシンの配合量が0.036質量%以上である、pH2〜7の水性溶液を調製する工程を有する、請求項に記載する殺菌組成物の調製方法。
【請求項8】
前記(B)製剤が、さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有するものである、請求項7に記載する調製方法。
【請求項9】
消毒チャンバ及び消毒剤導入システムを備える消毒装置であって、
前記消毒剤導入システムが、(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と、(B)グリシンを含有する製剤とを、別々に、前記消毒チャンバに供給するものであり、
前記消毒チャンバの内部で、前記供給された(A)製剤及び(B)製剤が、別途供給される水性溶剤と混合されて、過酢酸を0.03〜0.9質量%、過酸化水素を0.045〜1.35質量%、及びグリシンを0.036質量%以上の割合で含む、pH2〜7の水性溶液が調製されるものである、消毒装置。
【請求項10】
前記(B)製剤が、さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有するものである、請求項9に記載する消毒装置。
【請求項11】
接着剤を含有する被験物を殺菌消毒するための装置であり、
被験物が、殺菌消毒を必要とする医療又は食品分野で使用される器具または機器である、請求項9又は10に記載する消毒装置。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれかに記載する殺菌組成物を用いて被験物を処理する工程を有する、被験物の消毒方法。
【請求項13】
前記処理工程の前に、(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と、(B)グリシンを含有する製剤とを、水性溶剤とともに混合して、請求項1〜4のいずれかに記載する殺菌組成物を調製する工程を有する、請求項12に記載する消毒方法。
【請求項14】
前記被験物が接着剤を含有するものである、請求項12または13に記載する消毒方法。
【請求項15】
前記接着剤の耐久性低下を抑制しながら被験物を消毒する方法である、請求項14に記載する消毒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤を有効成分とし、殺菌作用とともに、接着剤、特に合成系接着剤の耐久性低下を抑制する作用を有する殺菌組成物に関する。このため、本発明の殺菌組成物は、合成系接着剤を含有する被験物、特に殺菌消毒を必要とする医療分野(歯科分野を含む。以下、同じ。)や食品分野で使用される器具や機器の殺菌消毒に好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
酸性酸化剤は、幅広い微生物に対し優れた殺菌力を有するため、消毒剤や殺菌剤として医療分野や食品分野で広く用いられている。特に過酢酸などの過カルボン酸や過酸化水素を含む酸性酸化剤は、殺菌消毒を短時間に行うことができるため、高圧蒸気滅菌や乾熱滅菌など物理的な消毒が適用できない器具類や環境に対して有効な殺菌消毒剤である。
【0003】
その一方で、酸性酸化剤には腐食性があるため、例えば、医療機器の材質として汎用されるアルミニウムやアルミニウム合金等の金属を劣化または錆を発生させて、金属の機能や外観に支障を与えることが知られている。こうした金属の腐食を抑制するために、クロム酸塩やモリブデン酸塩等が防食剤として使用されている(特許文献1参照)。しかし、これらの成分は化学物質排出移動量届出制度(PRTR)の対象となっているため、実用的ではない。またクロム酸塩やモリブデン酸塩の他、硝酸塩、亜硝酸塩、タングステン酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩および亜硫酸塩などの酸塩、ならびにアミン塩が金属の防食剤として有効であることが知られている(特許文献2参照)。また特許文献3には、過カルボン酸などの酸性酸化剤の金属腐食性の抑制に、上記酸塩のうち、亜硝酸塩とモリブデン酸塩を組み合わせて用いることが記載されている。
【0004】
医療機器や器具の中には、各部材の接合部などに接着剤が使用されているものや、保護等を目的に接着剤で包被されているものがある。その一つである、例えば内視鏡などの医療器具は、日常的に消毒処理することが不可欠であるが、消毒処理によっても接着剤が劣化せず、機能や外観が損なわれないための措置が必要である。その一方で、医療分野や食品分野では、殺菌成分の残留や毒性を考慮する必要がある。過酢酸などの過カルボン酸や過酸化水素などの酸性酸化剤は、比較的残留性や毒性が低い殺菌成分であるものの、接着剤、特に合成系接着剤に対して浸食性があるという問題がある。しかし、この問題を殺菌組成物サイドから解消する方法は知られていない。
【0005】
なお、特許文献4には、過酸化合物からなる酸化剤、及び緩衝剤を含有する透析装置の洗浄及び消毒組成物が記載されている。当該組成物は、前記酸化剤として、過酢酸0.0050〜0.5%W/V、及び過酸化水素0.5〜50.0%W/Vの混合物を含み、また前記緩衝剤として、2mM〜2Mの範囲で約4.5〜11.5のpKa値を有する緩衝剤を含む。かかる緩衝剤としては、具体的には、酢酸、プロパン酸、グリシン、一塩基性リン酸二水素、二塩基性リン酸水素塩、重炭酸塩または炭酸塩が記載されている。しかし、当該洗浄及び消毒組成物を医療装置に適用した場合の接着剤への影響は確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公報第5900256号
【特許文献2】特開2007−254693号公報
【特許文献3】米国特許公報第5077008号
【特許文献4】国際公開01/019414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、接着剤を含有する被験物の消毒及び/又は殺菌に使用することができる殺菌組成物を提供することである。より好ましくは、本発明の目的は、特に合成系接着剤を含有する被験物の消毒及び/又は殺菌を、当該接着剤の耐久性低下を抑制しながら、行うことができる殺菌組成物を提供することである。
また本発明の目的は、前記殺菌組成物の調製に好適に使用することができる製剤の組み合わせ(組み合わせ製剤)を提供することである。
さらに本発明の目的は、前記殺菌組成物を用いた被験物の消毒方法、並びに当該消毒に使用される消毒装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、殺菌成分として有効な過酢酸及び過酸化水素を、アミノカルボン酸の一種であるグリシンと、特定の割合で組み合わせることにより、所望の消毒効果を維持しながらも、過酢酸及び過酸化水素による合成系接着剤の耐久性低下が抑制できることを見出し、これらの3成分を含有する殺菌組成物は、合成系接着剤を含有する被験物、例えば殺菌消毒が必要とされる医療や食品分野における器具や機器など(例えば内視鏡等)の消毒剤として有効に用いることができることを確認した。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を備えることを特徴とする。
【0010】
(I)殺菌組成物
(I−1)過酢酸、過酸化水素、及びグリシンを含有する殺菌組成物であって、
過酢酸の配合量が0.03〜1.0質量%未満、過酸化水素の配合量が0.045〜1.5質量%未満、及びグリシンの配合量が0.036質量%以上であることを特徴とする、殺菌組成物。
(I−2)pHが2以上の水性溶液である、(I−1)に記載する殺菌組成物。
(I−3)さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有する、(I−1)又は(I−2)に記載する殺菌組成物。
(I−4)接着剤、好ましくは合成系接着剤を含有する被験物に対する消毒剤及び/又は殺菌剤である、(I−1)〜(I−3)のいずれか一項に記載する殺菌組成物。
(I−5)前記被験物が、殺菌消毒を必要とする医療または食品分野で使用される器具または機器である、(I−4)に記載する殺菌組成物。
(I−6)防食成分として、少なくとも硝酸塩、亜硝酸塩、タングステン酸塩、モリブデン酸塩、クロム酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、及びアミン塩を含有しないものである(I−1)〜(I−5)のいずれか一項に記載する殺菌組成物。
【0011】
(II)組み合わせ製剤
(II−1)(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と、(B)グリシンを含有する製剤との組み合わせ製剤であって、
前記(A)製剤と(B)製剤とが、水性溶剤とともに混合されて、過酢酸の配合量が0.03〜1.0質量%未満、過酸化水素の配合量が0.045〜1.5質量%未満、及びグリシンの配合量が0.036質量%以上の、pH2以上の水性溶液に調製されて使用される、前記組み合わせ製剤。
(II−2)前記(B)製剤は、さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有する、(II−1)に記載する組み合わせ製剤。
(II−3)(I−1)〜(I−6)のいずれか一項に記載する殺菌組成物の調製に使用される製剤である、(II−1)または(II−2)に記載する組み合わせ製剤。
【0012】
(III)殺菌組成物の調製方法
(III−1)(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と(B)グリシンを含有する製剤を、水性溶剤とともに混合して、過酢酸の配合量が0.03〜1.0質量%未満、過酸化水素の配合量が0.045〜1.5質量%未満、及びグリシンの配合量が0.036質量%以上である、pH2以上の水性溶液を調製する工程を有する、(I−2)に記載する殺菌組成物の調製方法。
(III−2)前記(B)製剤が、さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有するものである、(III−1)に記載する調製方法。
【0013】
(IV)消毒装置
(IV−1)消毒チャンバ及び消毒剤導入システムを備える消毒装置であって、
前記消毒剤導入システムが、(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と、(B)グリシンを含有する製剤とを、別々に、前記消毒チャンバに供給するものであり、
前記消毒チャンバの内部で、前記供給された(A)製剤及び(B)製剤が、別途供給される水と混合されて、過酢酸を0.03〜1.0質量%未満、過酸化水素を0.045〜1.5質量%未満、及びグリシンを0.036質量%以上の割合で含む、pH2以上の水性溶液が調製されるものである、消毒装置。
(IV−2)前記(B)製剤が、さらにリン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤よりなる群から選択される少なくとも1種の補助成分を含有するものである、(IV−1)に記載する消毒装置。
(IV−3)接着剤、好ましくは合成系接着剤を含有する被験物を殺菌消毒するための装置である、(IV−1)又は(IV−2)に記載する消毒装置。
(IV−4)前記被験物が、殺菌消毒を必要とする医療または食品分野で使用される器具または機器である、(IV−3)に記載する消毒装置。
【0014】
(V)消毒方法
(V−1)(I−1)〜(I−6)のいずれか一項に記載する殺菌用組成物を用いて被験物を処理する工程を有する、被験物の消毒方法。
(V−2)前記処理工程の前に、(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と、(B)グリシンを含有する製剤とを、水性溶剤とともに混合して、(I−1)〜(I−6)のいずれかに記載する殺菌組成物を調製する工程を有する、(V−1)に記載する消毒方法。
(V−3)前記被験物が接着剤、好ましくは合成系接着剤を含有するものである、(V−1)または(V−2)に記載する消毒方法。
(V−4)前記接着剤の耐久性低下を抑制しながら被験物を消毒する方法である、(V−3)に記載する消毒方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明が開示する殺菌組成物(以下、単に「本殺菌組成物」とも称する)は、残留や毒性の問題がない過酢酸及び過酸化水素を殺菌成分として有効量含有するため、医療分野や食品分野において化学的な消毒剤及び/又は殺菌剤として用いることができる。特に本殺菌組成物は、合成系接着剤に対して耐久性低下抑制作用を有するため、合成系接着剤を含有する被験物、例えば合成系接着剤を用いて接合されてなる部位を含む被験物や合成系接着剤で包被された部分を含む被験物(例えば内視鏡などの医療器具や、その他、殺菌消毒が必要とされる医療分野や食品分野における器具や機器等)を対象とした消毒剤及び/又は殺菌剤(実用液)として有効に利用することができる。なお、前記の「耐久性低下」には、外観の低下(例えば、変色、膨れ、ひび割れなど)、及び/又は機能の低下(例えば、接着力の低下、剥がれ等)を例示することができる。
【0016】
本発明が開示する組み合わせ製剤(以下、単に「本組み合わせ製剤」とも称する)は、前記本殺菌組成物における殺菌成分として(A)過酢酸及び過酸化水素を含む製剤と、それに配合する(B)グリシンを含む製剤とを、各々別個の容器に比較的高い濃度で収容したものであり(二剤用時混合希釈タイプ)、こうすることで、過酢酸及び過酸化水素の安定性を維持しながら保存ができるとともに、使用時に両者を混合し、水などの水性溶剤で希釈することで、簡便に本殺菌組成物を調製することができる。
【0017】
本発明が開示する消毒装置(以下、単に「本消毒装置」とも称する)によれば、(A)過酢酸及び過酸化水素を含む製剤と、(B)グリシンを含む製剤とを用いることで、本殺菌組成物を簡便に調製することができるとともに、合成系接着剤を含有する被験物、例えば医療や食品分野における器具や機器を簡便に殺菌消毒することができる。
【0018】
本発明が開示する消毒方法(以下、単に「本消毒方法」とも称する)によれば、本殺菌組成物を用いることで、合成系接着剤を含有する被験物、例えば医療や食品分野における器具や機器を、当該接着剤の耐久性低下を抑制しながら、有効に殺菌消毒することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
用語の説明
「殺菌」とは微生物を死滅させることを意味する。対象とする微生物の種類や死滅の程度を特に問うものではない。このため広義に解釈される用語である。「殺菌組成物」は、当該殺菌作用を有する組成物であり、その程度を問わず、少なくとも何某かの微生物を死滅させる作用を有するものであればよい。「殺菌剤」は、殺菌を目的に使用される製剤である。
【0020】
「消毒」とは、微生物を害のない程度まで減らしたり、あるいは感染力を失わせる等して、毒性を無力化させること、つまり、対象の被験物に存在している病原性の微生物を無害化することを意味する。当該微生物の無害化には、病原性細菌を完全に死滅化(狭義の殺菌)することにより、当該細菌を無害化することも含まれる。その意味で、「消毒」には、病原性細菌のほぼすべてを死滅させて無毒化させることを意味する狭義の殺菌が包含される場合もある。「消毒剤」は、消毒を目的に使用される製剤である。当該消毒剤には、前述するように、殺菌作用を有する消毒剤も含まれ、これを「殺菌消毒剤」と称する場合がある。
【0021】
消毒は、表1に示すように、Spauldingの消毒水準分類に基づいて、滅菌(sterilization)、高水準消毒(high-level disinfection)、中水準消毒(intermediate-level disinfection)、及び低水準消毒(low-level disinfection)に分類されており、消毒する対象物の使用用途に応じて、各レベルに適合した消毒処理や消毒剤が選択される(Rutala WA:APIC Guideline for selection and use of disinfectants, 1996. Am J Infect Control 1996;24:313-342)。
【表1】
例えば、医療分野で使用される器具や機器の場合、感染対策ガイドラインには、標準予防策の観点から、無菌の組織や血管に挿入して使用されるクリティカル器具(critical items)(例えば、手術用器具、循環器又は尿路カテーテル、移植埋め込み器具[インプラント]、針やメスなど)に対しては滅菌による消毒処理を施すことが定められている。また、粘膜又は損傷皮膚など健常でない皮膚に接触して使用されるセミクリティカル器具(semi-critical items)(例えば、呼吸器系療法の器具、麻酔器具、内視鏡、喉頭鏡、ネブライザー、気管内挿入チューブ、体温計など)に対しては高水準消毒処理又は中水準消毒処理を施すことが定められている。さらに、健常な皮膚にのみ接触して使用されるノンクリティカル器具(non-critical items)(例えば、血圧測定用カフ、聴診器、松葉杖、ベッドパン、便座やベッド柵などの環境表面等)に対しては低水準消毒処理を施すことが定められている。
【0022】
(I)殺菌組成物
本殺菌組成物は、過酢酸、過酸化水素、及びグリシンを含有することを特徴とする。 本発明の殺菌組成物は、過酢酸及び過酸化水素の殺菌作用に基づいて、殺菌作用を有している。本殺菌組成物は、被験物の殺菌処理、好ましくは殺菌消毒処理に有効に使用することができる。
【0023】
本殺菌組成物における過酢酸の配合量は0.03〜1.0質量%未満の範囲から設定することができる。後述する実施例に示すように、下限値は0.03〜0.07質量%の範囲、上限値は0.4〜1.0質量%未満の範囲から任意に選択することもできる。過酢酸の配合量として、好ましくは0.03〜0.9質量%、より好ましくは0.03〜0.8質量%、さらに好ましくは0.03〜0.6質量%、特に好ましくは0.03〜0.4質量%である。
【0024】
また、本殺菌組成物における過酸化水素の配合量は0.045〜1.5質量%未満の範囲から設定することができる。後述する実施例に示すように、下限値は0.45〜0.11質量%の範囲、上限値は0.6〜1.5質量%未満の範囲から任意に選択することもできる。過酸化水素の配合量として、好ましくは0.045〜1.35質量%、より好ましくは0.045〜1.2質量%、さらに好ましくは0.045〜0.9質量%、特に好ましくは0.045〜0.6質量%である。
【0025】
さらに、本殺菌組成物におけるグリシンの配合量は0.036質量%以上の範囲から設定することができる。その上限値は、本殺菌組成物の効果に悪影響しない限り、制限されない。このため、コスト等を考慮すれば、余り多くの量を配合する必要はなく、例えば0.036〜2質量%の範囲から適宜調整することができる。後述する実施例に示すように、下限値は0.036〜0.08質量%の範囲、上限値は0.48〜1.2質量%未満、0.48〜1.08質量%の範囲から任意に選択することもできる。グリシンの配合量として、好ましくは0.036〜1.2質量%未満、より好ましくは0.036〜1.08質量%、さらに好ましくは0.036〜0.96質量%、またさらに好ましくは0.036〜0.72質量%、特に好ましくは0.036〜0.48質量%である。
【0026】
前記の割合になるように、過酢酸、過酸化水素、及びグリシンを水性溶剤に配合、溶解することで、所望の殺菌作用を発揮しながらも、過酢酸及び過酸化水素が有する合成系接着剤に対する腐食作用を抑制することができる実用液として、本殺菌組成物を調製することができる。
【0027】
制限されないものの、本発明の殺菌組成物において、過酢酸100質量部に対する過酸化水素の割合としては、50〜600質量部の範囲を挙げることができる。好ましくは70〜450質量部であり、より好ましくは100〜200質量部である。また、過酢酸100質量部に対するグリシンの割合としては、15〜500質量部の範囲を挙げることができる。好ましくは50〜350質量部であり、より好ましくは80〜180質量部である。さらに、過酸化水素100質量部に対するグリシンの割合としては、10〜350質量部の範囲を挙げることができる。好ましくは30〜230質量部であり、より好ましくは50〜120質量部である。
【0028】
本殺菌組成物は、前記3成分が、水性溶剤に溶解してなる水性溶液状の組成物である。かかる水性溶剤としては好適に水を挙げることができる。水の種類は、特に制限されず、水道水、蒸留水、イオン交換水、RO水を挙げることができる。なお、本殺菌組成物は、後述する実験例1に示すように硬度が比較的高い水(硬水)で調製された場合であっても、殺菌作用を発揮することが確認されている。具体的には、本殺菌組成物は、炭酸カルシウム濃度に換算して少なくとも400ppm以下、より好ましくは60〜400ppmの範囲にある水を用いて調製されてもよい。
【0029】
本殺菌組成物は、前記3成分の溶解、並びに本発明の効果に悪影響を及ぼすことがなければ、水と組み合わせて、他の水性溶剤を配合することもできる。かかる水性溶剤としては、水と相溶する、例えばエタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、及びアセトニトリルを例示することができる。
【0030】
本殺菌組成物は、前記3成分の溶解、並びに本発明の効果に悪影響を及ぼすことがなければ、さらに、リン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤からなる群から選択される少なくとも1つの補助成分を配合することができる。
【0031】
リン酸水素塩としては、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、及びリン酸二水素ナトリウム等のリン酸水素のアルカリ金属塩を挙げることができる。好ましくは、リン酸水素二カリウム、及びリン酸水素二ナトリウムであり、より好ましくはリン酸水素二カリウムである。本殺菌組成物中のリン酸水素塩の含有量としては、制限されないものの、0〜0.3質量%の範囲から選択設定することができる。好ましくは0〜0.2質量%、より好ましくは0〜0.12質量%である。リン酸水素塩を配合する場合の最小量としては、制限されないものの、0.009質量%を例示することができる。
【0032】
キレート剤は、水道水中のカルシウムやマグネシウム、あるいは2価銅イオン、2価鉄イオン、3価鉄イオン、マンガンイオンなどの金属をキレート化することを目的に使用することができる。制限されないものの、具体的にはエチレンジアミン四酢酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸塩、L‐グルタミン酸二酢酸塩、ヒドロキシエタンジホスホン酸塩、ニトリロトリスメチレンホスホン酸塩、ホスホノブタントリカルボン酸塩、及びエチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸塩を挙げることができる。好ましくはヒドロキシエタンジホスホン酸四ナトリウムである。かかるキレート剤は上記目的を達成しえる割合で使用することができる。本殺菌組成物中のキレート剤の含有量としては、制限されないものの、0〜0.15質量%の範囲から選択設定することができる。好ましくは0〜0.1質量%、より好ましくは0〜0.06質量%である。キレート剤を配合する場合の最小量としては、制限されないものの、0.0045質量%を例示することができる。
【0033】
pH緩衝剤は、本殺菌組成物のpHを調整し、またpHを緩衝するために使用される。好ましくは本殺菌組成物のpHを2以上、より好ましくは3以上に調整又は緩衝するために使用される。本殺菌組成物のpHの上限値としては、制限されないものの、好ましくはpH7を挙げることができる。pH範囲としてpH2〜7、好ましくはpH3〜7、より好ましくはpH3〜6の範囲を例示することができる。制限されないが、pH緩衝剤として、具体的には水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の水酸化塩、クエン酸やクエン酸塩等の有機酸又はその塩、リン酸やその塩(例えばリン酸三ナトリウムやリン酸二カリウム等)を例示することができる。
【0034】
本殺菌組成物は、さらに任意成分として、安定化剤や防腐剤等を含有していてもよい。 安定化剤は、過酢酸や過酸化水素などの殺菌成分を安定化することを目的に使用されるものであり、具体的には水溶性溶剤、両親媒性溶剤、界面活性剤を挙げることができる。好ましくはプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、またはブチレングリコール等の多価アルコールである。かかる安定化剤は上記目的を達成しえる割合で使用することができる。本殺菌組成物中の安定化剤の含有量としては、制限されないものの、0〜1質量%の範囲から選択設定することができる。好ましくは0〜0.7質量%、より好ましくは0〜0.4質量%である。安定化剤を配合する場合の最小量としては、制限されないものの、0.03質量%を例示することができる。
【0035】
また防腐剤としては、安息香酸若しくはその塩(例えば、安息香酸ナトリウム等のアルカリ金属塩)、パラベン類(例えば、パラオキシ安息香酸エチル等)、イソチアゾリン系化合物(例えば、メチルイソチアゾリノン等)、フェノキシエタノール、ヘキシレングリコールなどを挙げることができる。本殺菌組成物中の防腐剤の含有量としては、制限されないものの、0〜0.1質量%の範囲から選択設定することができる。好ましくは0〜0.07質量%、より好ましくは0〜0.04質量%である。防腐剤を配合する場合の最小量としては、制限されないものの、0.003質量%を例示することができる。
【0036】
本殺菌組成物は、前述する過酢酸、過酸化水素、及びグリシンを前記の配合割合で水性溶剤に溶解し、必要に応じて、pH緩衝剤を用いてその液性を、好ましくはpH2〜7、より好ましくはpH3〜7に調整することによって調製することができる。またかかる調製工程において、必要に応じて、上記3成分に加えて、前述するリン酸水素塩またはキレート剤等の補助成分、または前述する安定化剤や防腐剤等の任意成分を配合してもよい。
【0037】
本殺菌組成物は、好ましくは、防食剤として知られている、クロム酸塩、モリブデン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、タングステン酸塩、硼酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、及びアミン塩からなる群より選択される1種以上、好ましくはすべてを含有しないものである。
【0038】
本殺菌組成物は、過酢酸及び過酸化水素の殺菌作用に基づいて、一般細菌、抗酸菌、真菌、ウイルス、および芽胞等の微生物に対して殺菌作用を有する。特に本殺菌組成物は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌を含む一般細菌(Staphylococcus aureus, Enterococcus faecium, Escherichia coli, Pseudomonas aeruginosa)、抗酸菌(Mycobacterium terrae)、真菌(Candida albicans, またはAspergillus brasiliensis)、ウイルス(Poliovirus, Adenovirus, Norovirus, Influenzavirus, Coronavirus)、および枯草菌芽胞(Bacillus subtilis)やガス壊疽菌群芽胞(Clostridium sporogenes)等の芽胞などに対して殺菌作用を有する。これらの微生物に対する殺菌作用は、当業界の慣用法に従って、懸濁試験またはキャリア試験により評価することができる。
【0039】
加えて、本殺菌組成物は、過酢酸及び過酸化水素の作用による合成系接着剤の耐久性低下を抑制する性能を備えている。
合成系接着剤は、接着剤成分が変質することにより変色が生じる場合がある。また、接着剤成分が変質することにより、細かい気泡が発生したり(バブリング現象)、ひび割れが生じる場合がある。更に、被着部と接着剤との間に浮きが生じ、最終的に剥がれてしまう場合がある。接着剤の耐久性が低下して、接着剤成分がこのように変質すると、接着力が低下または消失して、被着部や接着剤が落下(脱落)したり、器具や機器の強度が損なわれたりするだけでなく、接着剤成分が溶出(漏出)する場合がある。こうした被着部や接着剤の落下(脱落)による異物混入や接着剤成分の溶出(漏出)は、特に人体に適用される医療器具や機器、食器や調理器具等の場合、人体に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0040】
本殺菌組成物は、合成系接着剤を含有する被験物に使用した場合でも、過酢酸及び過酸化水素による接着剤の耐久性低下を予防しながら、効果的に殺菌処理及び/又は消毒処理をすることができるため、例えば合成系接着剤を含有する被験物の消毒剤及び/又は殺菌剤(殺菌消毒剤を含む)として特に有用である。特に、合成系接着剤に対して悪影響を及ぼす可能性がある殺菌処理(例えば、高温殺菌処理、腐食性の高い殺菌剤による殺菌処理等)に供することができない被験物の殺菌及び/又は消毒に好適に使用することができる。
【0041】
合成系接着剤を含有する被験物には、制限されないものの、例えば合成系接着剤を用いて部材が接合されてなる被験物(合成系接着剤による接合部を有する被験物)、一部または全部が合成系接着剤で包被されてなる被験物、凹み部分が穴埋めされてなる被験物等が例示される。こうした被験物としては、制限されないが、内視鏡、人工呼吸器、麻酔器回路、膀胱鏡、喉頭鏡ブレード、バイトブロック、ネブライザー、カテーテル、採血用穿刺器具、超音波エコープローブ、歯科用プローブ、キュレット、ファイル、ミラー、印象採取用トレイ、スケーラー、口蓋器、リーマー等の医療機器;哺乳瓶、乳首、皿、コップ等の食品用器具等を好適に例示することができる。これらを構成する素材は、特に制限されず、例えば、ガラス、プラスチック、エラストマー、セラミック、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、タングステン合金、ニッケルチタン合金、ニッケルクロム合金、チタン合金、コバルト合金及びコバルトクロム合金などを例示することができる。
【0042】
なお、合成系接着剤には、熱可塑性樹脂系接着剤(例えば、酢酸ビニル樹脂系、ポリビニルアセタール系、エチレン酢酸ビニル樹脂系、塩化ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、ポリアミド系、セルロース系、α−オレフィン系の接着剤)、熱硬化性樹脂系接着剤(例えば、ユリア樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、レゾルシノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアロマティック系の接着剤)、及びエラストマー系接着剤(クロロプレンゴム系、ニトリルゴム系、スチレンブタジエンゴム系、ポリサルファイド系、ブチルゴム系、シリコーン系(変性シリコーン系を含む)、アクリル系、ウレタン系、シリル化ウレタン樹脂系、テレケリックポリアクリレート系の接着剤)が含まれる。本殺菌組成物は、制限されないものの、少なくとも、熱可塑性樹脂系接着剤に属する酢酸ビニル樹脂系、熱硬化性樹脂系接着剤に属するエポキシ樹脂系接着剤、及びエラストマー系接着剤に属するシリコーン系接着剤に対して耐久性低下を抑制する性能を有することを特徴とする。
【0043】
本殺菌組成物の合成系接着剤に対する耐久性低下抑制性の有無は、簡便には、後述する実験例2等に示すように、合成系接着剤を付着させたテストピースを、40℃に保温した本殺菌組成物に16時間浸漬し、その後、蒸留水で洗浄して、自然乾燥した後の接着剤の外観を、目視で観察することで評価することができる。その場合に評価する項目は、主として変色の有無、気泡の有無、ひび割れの有無、浮き・剥がれの有無である。これらがいずれも観察されない場合、対象とする殺菌組成物は、過酢酸及び過酸化水素による合成系接着剤の耐久性低下に対して抑制性があると判断することができる。特に、実施例2−1と比較例2−1との関係のように、本殺菌組成物からグリシンだけを除いた組成物(比較組成物)と比較して本殺菌組成物のほうが上記評価項目の少なくとも一つでも改善されている場合は、グリシンの配合によって過酢酸及び過酸化水素による接着剤の耐久性低下が抑制されると評価することができる。
【0044】
(II)組み合わせ製剤
前述する本殺菌組成物は、そのままの状態で被験物の殺菌処理及び/又は消毒処理に使用できる実用液であるが、過酢酸及び過酸化水素の水中での安定性を考えると、使用時に、混合して前述する含有量になるように水性溶剤で希釈調整されるものであることが好ましい。
【0045】
このため、本発明は(A)過酢酸、及び過酸化水素を含有する製剤と、(B)グリシンを含有する製剤とが、それぞれ別個の容器に充填されてなる組み合わせ製剤を提供する。当該組み合わせ製剤の一態様として、前記(A)製剤と(B)製剤とがそれぞれ濃縮された状態で、別個の容器に充填包装されて、2剤型製品またはキット製品として市場に供給される形態のものを例示することができる。当該2剤型製品またはキット製品は、使用者が使用時に両者を混合し、水性溶剤で希釈して用いる形態のものである。なお、(B)製剤には、グリシンに加えて、必要に応じて、リン酸水素塩、キレート剤、及びpH緩衝剤からなる群から選択されるいずれか少なくとも一種の補助成分を配合してもよい。また、任意成分として、安定化剤及び/又は防腐剤を配合することもできる。
【0046】
ここで用いる、水性溶剤、リン酸水素塩、キレート剤、pH緩衝剤、安定化剤、及び防腐剤としては、(I)で説明したものを同様に使用することができる。
【0047】
(A)製剤、及び(B)製剤の形態は、液状であってもよいが、粉末、顆粒および錠剤等の固形状であってもよい。
【0048】
(A)製剤における過酢酸、及び過酸化水素の割合、ならびに(B)製剤におけるグリシン、または補助成分や任意成分の割合は、それらを水性溶剤とともに混合することによって、(I)に記載する本殺菌組成物が調製できる割合であればよく、この限りにおいて特に制限されない。具体的には、(A)製剤と(B)製剤を混合し、また水性溶剤で希釈することで、過酢酸の含有量が0.03〜1.0質量%未満、過酸化水素の含有量が0.045〜1.5質量%未満、グリシンの含有量が0.036質量%以上(好ましくは0.036〜2質量%)、リン酸水素塩の含有量が0〜0.3質量%、及びキレート剤の含有量が0〜0.15質量%、安定化剤の含有量が0〜1質量%になるようなものであればよい。制限されないものの、好ましくは混合希釈後の過酢酸の含有量が0.03〜0.9質量%、過酸化水素の含有量が0.045〜1.35質量%、及びグリシンの含有量が0.036〜1.08質量%となるような割合であり;より好ましくは混合希釈後の過酢酸の含有量が0.03〜0.8質量%、過酸化水素の含有量が0.045〜1.2質量%、及びグリシンの含有量が0.036〜0.96質量%となるような割合であり;さらに好ましくは混合希釈後の過酢酸の含有量が0.03〜0.6質量%、過酸化水素の含有量が0.045〜0.9質量%、及びグリシンの含有量が0.036〜0.72質量%となるような割合であり;特に好ましくは混合希釈後の過酢酸の含有量が0.03〜0.4質量%、過酸化水素の含有量が0.045〜0.6質量%、及びグリシンの含有量が0.036〜0.48質量%となるような割合である。
【0049】
また(A)製剤と(B)製剤は、両者を混合して水性溶剤で希釈することで、pHが2〜7、好ましくはpH3〜7の範囲になるようなものであり、必要に応じて(B)製剤に配合されるpH緩衝剤の割合も、そのpH範囲に調整できることを限度として適宜設定することができる。
【0050】
なお、水性溶剤による希釈倍率は特に制限されないが、20〜300倍程度を挙げることができる。前述するような組み合わせ製剤としては、制限されないものの、(A)製剤として、過酢酸を5〜45質量%、過酸化水素を5〜35質量%の割合で含むもの、(B)製剤として、グリシンを3〜54質量%の割合で含むものを例示することができる。
【0051】
本組み合わせ製剤は、前述する本殺菌組成物の調製に好適に使用することができる。つまり、前述する本殺菌組成物は、本組み合わせ製剤に含まれる(A)製剤と(B)製剤とを混合し、水性溶剤で希釈することによっても容易に調製することができる。
【0052】
(III)消毒装置
前記(A)製剤と(B)製剤から調製される本殺菌組成物は、合成系接着剤を有する被験物の殺菌処理及び/又は消毒処理(以下、これを「殺菌消毒処理」と総称する)に好適に使用される。この処理は、制限されないものの、任意の消毒装置を用いて行うことができる。
当該消毒装置としては、例えば、少なくとも消毒チャンバ及び消毒剤導入システムを備えるものを挙げることができる。ここで、消毒チャンバは、被験物を殺菌消毒するために使用される開閉可能な区画(部屋)である。後述するように、この区画では本殺菌組成物の調製、それを用いた被験物の殺菌消毒処理、及び/又は、殺菌消毒後の洗浄処理を行うことができる。また、消毒剤導入システムは、(A)製剤を前記消毒チャンバに導入するラインと、(B)製剤を前記消毒チャンバに導入するラインとを有し、(A)製剤と(B)製剤とを、別々に、前記消毒チャンバに供給するものである。また、消毒剤導入システムは、前記のラインとは別に、水性溶剤を前記消毒チャンバに導入する注水ラインを有する。かかる消毒剤導入システムにより、前記消毒チャンバの内部に(A)製剤、(B)製剤、及び水性溶剤が、各ラインから各々供給され、混合されて、過酢酸を0.03〜1.0質量%未満、過酸化水素を0.045〜1.5質量%未満、及びグリシンを0.036質量%以上、好ましくは0.036〜2質量%の割合で含む、pH2以上の水性溶液(本殺菌組成物)が調製される。
【0053】
当該消毒装置を用いた殺菌消毒処理は、対象とする被験物を、前記消毒チャンバ内の水性溶液(本殺菌組成物)に曝露(例えば、浸漬、噴霧、または塗布など)させることで実施することができる。当該殺菌消毒処理に使用される本殺菌組成物の温度は、制限されないものの10℃以上であることが好ましい。好ましくは15℃以上であり、より好ましくは20℃以上である。温度の上限は、100℃を限度として制限されないものの、例えば、60℃以下、好ましくは40℃以下を例示することができる。曝露時間も、殺菌効果が得られる時間であればよく、制限されない。例えば、1分〜24時間の範囲から選択することができ、好ましくは5分〜16時間の範囲を挙げることができる。
【0054】
本殺菌組成物を用いた殺菌消毒処理の後は、必要に応じて、被験物を水で洗浄し、乾燥することで、殺菌消毒処理を完了することができる。
【0055】
(IV)消毒方法
本発明の消毒方法は、前述する本殺菌組成物を用いて被験物を処理することで実施することができる。
処理対象とする被験物は、制限されないものの、好ましくは接着剤を含有するものである。当該接着剤としては、前述する合成系接着剤を挙げることができる。接着剤を含有する被験物には、制限されないものの、例えば接着剤で接合されてなる部材を有する被験物、接着剤で一部が被覆されてなる被験物などが含まれる。好ましくは接着剤による接合部を有するものが例示される。
【0056】
処理対象とする被験物には、制限されないが、殺菌消毒が必要とされる医療分野や食品分野で使用される器具や機器を例示することができる。医療分野で使用される器具や機器としては、制限されないものの、内視鏡、呼吸器療法器具、麻酔器具、膀胱鏡、喉頭鏡ブレード、バイトブロック、ネブライザー、カテーテル(例えば、気管カテーテル、経鼻カテーテルなど)、採血用穿刺器具、超音波エコープローブ、歯科用ミラー、印象採取用トレイ、スケーラー、口蓋器、リーマー等を例示することができる。これらには、前述するクリティカル器具やセミクリティカル器具に分類されるものが含まれる。食品分野で使用される器具や機器としては、哺乳瓶、乳首、皿、コップ等の食事用器具(食器を含む)、または調理器具や調理機器、調理台が含まれる。
【0057】
消毒処理方法としては、被験物を本殺菌組成物と接触状態におく方法を挙げることができる。具体的には、被験物を本殺菌組成物に浸漬する方法、被験物に本殺菌組成物を噴霧または塗布する方法、被験物に本殺菌組成物を通液する方法、本殺菌組成物で湿潤させたシート等で被験物を清拭する方法などを例示することができる。必要に応じて、本殺菌組成物による消毒処理後に、被消毒対象物は水で洗浄し、乾燥処理を行ってもよい。
【0058】
なお、当該消毒処理に際して、本殺菌組成物は、制限されないが、前記(II)で説明した(A)製剤と(B)製剤とを、用時に水性溶剤とともに混合して調製したものを使用することができる。つまり、本発明の消毒方法の一態様には、本殺菌組成物を用いて被験物を処理する工程に加えて、その前段階の工程として、(A)製剤と(B)製剤とを水性溶剤とともに混合して本殺菌組成物を調製する工程を有する方法も含まれる。
【0059】
本殺菌組成物によれば、過酢酸及び過酸化水素の作用による合成系接着剤の耐久性低下を抑制することができるので、例えば前述するように合成系接着剤剤を含有する被験物の消毒処理に好適に使用することができる。
【0060】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0062】
実験例1 殺菌効果の評価
微生物としてAspergillus brasiliensis(ATCC 16404)を用いて、本発明の殺菌組成物の殺菌効果を評価した。A.brasiliensisは、医療分野において汚染リスクのある環境浮遊菌であり、糸状菌の中で薬剤抵抗性が高い胞子を形成する。
【0063】
(1)被験組成物の調製
表2に記載する各成分を、当該表に記載する濃度及びpHになるように人工硬水に溶解して、各種の被験組成物(実施例1−1〜1−4,比較例1−1〜1−7)を調製した。 なお、人工硬水として、下記の溶液Aを6mL、及び溶液Bを8mL混合して、蒸留水で全量が1000mLになるようにメスアップしたものを使用した(後述する実験例も同じ)。
溶液A:MgCl2(1.984g)+CaCl2(4.624g)を蒸留水に溶解して100mLに調整したもの。
溶液B:MgHCO3(3.502g)を蒸留水に溶解して100mLに調整したもの。
【0064】
(2)接種菌液の調製
前記A.brasiliensisのグリセロールストックを麦芽エキス寒天培地(Malt Extract Agar:Oxoid Limited社製)に植菌し、30℃で7日間培養した。培養後、0.05質量%ポリソルベート80水溶液を加え、コンラージ棒で胞子をかきとった。得られた胞子液を50mL容量の遠沈管に移し、滅菌したガラスビーズ5gを加えて1分間撹拌した。撹拌した後、セルストレーナー (メッシュサイズ40μm )で2回ろ過したものを使用した。
【0065】
(3)殺菌効果の評価試験
各被験組成物(実施例1−1〜1−4,比較例1−1〜1−7)の殺菌効果は、EN13624:2013(clean conditions)で規定されている試験方法(懸濁試験)に従って評価した。なお、この試験方法で殺菌効果があると判断される被験組成物は、Spauldingの分類による高水準消毒薬として、医療分野ではセミクリティカル器具や機器の消毒に使用することができる。つまり、この試験方法で殺菌効果があると判断される被験組成物は、酵母様真菌(カンジダを含む)、及び糸状真菌に対して、殺滅作用があると判断することができる。
【0066】
具体的には、下記の操作を行って殺菌効果を評価した。
(i)予め35℃に保温しておいた接種菌液、及びclean conditionsの負荷物質(0.3%のBSA(Bovine serum albumin):以下、同じ)の水溶液を、それぞれ0.5mLずつ試験管にいれて撹拌し、35℃で2分間静置する。
(ii)予め35℃に保温しておいた被験組成物(被験試料)4mLを、前記(i)の試験管にいれて混合した後、35℃で作用させる。
(iii)表2に記載する所定の作用時間経過後、混合液から0.5mLを採取し、これを中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)4.5mLの中に入れて、不活性化させる。
(iv)不活性化した混合液0.5mLを、固形の麦芽エキス寒天培地の表面に塗沫し、30℃で培養する。
(v)培養から3日後に生残菌数を測定する。
(vi)EN13624:2013の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が4Log10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0067】
(4)殺菌効果の評価結果
結果を表2に合わせて示す。
【表2】
表2に示すように、殺菌成分である過酢酸及び過酸化水素を含有する水溶液であっても、過酢酸の濃度が0.03%以下、過酸化水素の濃度が0.045%以下であって、グリシンを含有しない場合は、所望の殺菌効果を発揮しなかった(比較例1−1)。これに対して、過酢酸濃度が0.03%、過酸化水素濃度が0.045%の水溶液であっても、グリシンを0.036質量%以上の割合で含んでいると、所望の殺菌効果が得られた(実施例1−1)。一方、過酸化水素の濃度を0.045%以上、グリシンの濃度を0.036質量%以上にした場合であっても、過酢酸の濃度が0.03%未満である場合(比較例1−2)や、過酢酸の濃度を0.03%以上、グリシンの濃度を0.036質量%以上にした場合であっても、過酸化水素の濃度が0.045%未満である場合(比較例1−3)は、所望の殺菌効果は得られなかった。
【0068】
これらのことから、比較的低濃度の過酢酸及び過酸化水素を含有する殺菌組成物であっても、グリシンを配合することで、その殺菌効果が増強すること、そして、所望の殺菌効果を発揮するための各成分の最小濃度は、過酢酸は0.03%、過酸化水素は0.045%、及びグリシンは0.036%であることが確認された。また、過酢酸、過酸化水素、及びグリシンを所定濃度含有する殺菌組成物の殺菌効果は、さらにリン酸水素塩、キレート剤、安定剤等の補助成分を配合することで増強することが確認された(実施例1−2〜1−3、比較例1−4〜1−5)。また、当該殺菌組成物の殺菌効果は、過酢酸、過酸化水素またはグリシンの配合量を増加することで増強することが確認された(実施例1−4)。一方、グリシンを配合しない場合は、過酢酸及び過酸化水素の配合量を増加したり、これに他の補助成分を配合しても、所望の殺菌効果は得られなかった(比較例1−6及び1−7)。
【0069】
前記で得られた効果がグリシン使用特有の効果であることを確認するために、実施例1−1の処方において、グリシンに代えて、特許文献4に記載されたpKa4.5〜11.5の範囲にある緩衝剤(酢酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム)を等モル用いて同様の試験を行った。結果を、実施例1−1及び比較例1−1の結果と合わせて、表3に示す。
【表3】
この結果から、明らかなように、酢酸、リン酸三ナトリウム、及びリン酸水素二カリウムでは、グリシンとは異なり、過酢酸及び過酸化水素の酸性酸化剤の殺菌力を増強することはできなかった。
【0070】
実験例2 合成系接着剤に対する耐久性低下抑制効果の評価
合成系接着剤として、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、及び酢酸ビニル樹脂系接着剤を用いて、これらの接着剤の耐久性低下に対する殺菌組成物の抑制効果(腐食抑制効果)を評価した。
【0071】
(1)殺菌組成物の調製
表4〜9に記載する各成分を、これらの表に記載する濃度及びpHになるように蒸留水に溶解して、各種の殺菌組成物を調製した。
【0072】
(2)接着剤テストピースの調製
SUS304(オーステナイト系ステンレス)製のテストピース(3cm×5cm、厚み1.0mm)の片側の表面に、パンチで直径14mmの穴を2つ(2×1列)開けたビニルテープ(3cm×5cm)を貼りつけ、この穴の中に接着剤を流し込み、ビニルテープの高さに合わせてヘラで表面を均一に伸ばし、それぞれ室温で24時間以上放置して乾燥させた。
乾燥後、ビニルテープを剥がして、接着剤が1面に2スポット付着した接着剤テストピースを調製した。
【0073】
接着剤としては、下記のシリコーン系接着剤(接着剤A)、エポキシ樹脂系接着剤(接着剤B)、及び酢酸ビニル樹脂系接着剤(接着剤C)の3種類を用いて、それぞれ接着剤テストピースA、B及びCを調製した。
[接着剤]
A:シリコーン系接着剤(スーパーX No.8008 ブラック:セメダイン株式会社製)(主成分:アクリル変性シリコーン樹脂)
B:エポキシ樹脂系接着剤(3Mパネルボンドミニ38315N:スリーエム株式会社)(主成分:エポキシ樹脂、硬化剤:アミン系樹脂)
C:酢酸ビニル樹脂系接着剤(コンクリメント CA-131:セメダイン株式会社)(成分:酢酸ビニル樹脂25%、無機物50%、有機溶剤25%)
【0074】
(3)耐久性低下抑制効果の評価試験
(i)40℃に保温した各殺菌組成物に、接着剤テストピースA、B及びCをそれぞれ浸漬し、そのまま16時間放置する。
(ii)16時間後に、各テストピースを浸漬液から取り出し、蒸留水ですすぎ、室温下に静置して自然乾燥させる。
(iii)乾燥後、テストピース上の接着剤の外観を、目視で観察する。
(iv)耐久性低下抑制効果は、接着剤の特性から、「変色の有無:×/○」、「バブリング(気泡)の有無:×/○」、「浮き・剥がれの有無:×/○」、「ひび割れの有無:×/○」の4項目で評価する。
【0075】
(4)耐久性低下抑制効果の評価結果
殺菌組成物のグリシンの効果と過酸化水素の影響をみた結果を、表4に示す。
【表4】
表4に示すように、グリシンを配合することで、特にシリコーン系接着剤や酢酸ビニル系樹脂系接着剤に対する過酢酸及び過酸化水素の耐久性低下(特にバブリング)を抑制することができることが確認された(実施例2−1及び2−2、比較例2−1)。しかし、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、及び酢酸ビニル樹脂系接着剤のいずれも、グリシンを配合した場合でも、過酸化水素が5%以上の高濃度になると、バブリングまたは浮き・剥がれが認められ、耐久性低下(変性)することが確認された(比較例2−2及び2−3)。
【0076】
殺菌組成物における過酢酸、過酸化水素、及びグリシンの濃度の影響をみた結果を、表5に示す。
【表5】
この結果から、過酢酸の濃度が1.0%、過酸化水素の濃度が1.5%、グリシンの濃度が1.2%である殺菌組成物(比較例3−1)は、シリコーン系接着剤及び酢酸ビニル樹脂系接着剤に対して、わずかではあるものの、耐久性を低下させたが、エポキシ樹脂系接着剤に対しては耐久性の低下を示さなかった。このことから、これらの接着剤の耐久性低下を抑制する作用を示す過酢酸の濃度は1.0%未満、過酸化水素の濃度は1.5%未満であると考えられた。このように、過酢酸濃度が1.0%以上、過酸化水素濃度が1.5%以上の場合、グリシンを1.2%配合しても、接着剤の耐久性低下は十分抑制することはできなかったが、例えば、実施例3−5のように過酢酸及び過酸化水素の濃度がそれぞれ0.9%及び1.35%の場合は、グリシンを1.2%超える量を配合しても、実施例3−5と同じ結果が得られる。このことから、過酢酸濃度が1.0%未満、過酸化水素濃度が1.5%未満の場合、グリシン配合量の上限は、接着剤の耐久性低下抑制効果の点から、制限されないと考えられる。
【0077】
殺菌組成物のpHの影響をみた結果を、表6(シリコーン系接着剤)、表7(エポキシ樹脂系接着剤)、及び表8(酢酸ビニル樹脂系接着剤)に示す。
【表6】
【表7】
【表8】
この結果から、殺菌組成物はpH2〜7の範囲、好ましくはpH3〜7の範囲で、これらの接着剤に対して耐久性低下抑制性があることが確認された。
【0078】
前記で得られた効果がグリシン使用特有の効果であることを確認するために、実施例3−5の処方において、グリシンに代えて、特許文献4に記載の緩衝剤(酢酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム)を等モル用いて同様の試験を行った。また、コントロールとして、グリシンを含む緩衝剤を使用しない場合についても同様に試験を行った。結果を、実施例3−5の結果と合わせて、表9に示す。
【表9】
この結果が示すように、酢酸、リン酸三ナトリウム、及びリン酸水素二カリウムには、グリシンと異なり、酸化剤による合成系接着剤の耐久性低下を抑制する作用は認められなかった。このことから、酸化剤(過酢酸及び過酸化水素)による接着剤の耐久性低下を抑制する効果はグリシンを併用することによる特有の効果であることが確認された。
【0079】
実験例3 各種微生物に対する殺菌効果の評価(その1)
微生物として、一般細菌(Enterococcus faecium ATCC 6057)、抗酸菌(Mycobacterium terrae ATCC 15755)、芽胞(Bacillus subtilis ATCC 19659)、及びウイルス(Poliovirus type 1 Sabin strain [LS-c, 2ab strain]/宿主細胞:African green monkey kidney cell JCRB 9013)を用いて、欧州規格によるin vitro試験に従って、本発明の殺菌組成物の殺菌効果を評価した。
【0080】
(1)被験組成物の調製
表10に記載する各成分を、当該表に記載する濃度及びpHになるように人工硬水に溶解して、各種の被験組成物(実施例7−1〜7−3)を調製した。
【0081】
(2)各種菌液の調製
(a)一般細菌
Enterococcus faecium ATCC 6057のグリセロールストックをトリプチケースソイ寒天培地(以下、「TSA培地」と称する)に植菌し、37℃で培養した。培養後、希釈液(0.85% NaCl及び0.1%トリプトンペプトン含有水溶液、以下これを「希釈液1」と称する)を加えてかきとり、得られた菌液を50mL容量の遠沈管に移し、滅菌したガラスビーズ5gを加えて1分間撹拌した。撹拌した後、新しい遠沈管に菌液のみを回収し、遠心分離後、上清を除去して、前記希釈液で再懸濁したものを菌液とした。
【0082】
(b)抗酸菌
Mycobacterium terrae ATCC 15755のグリセロールストックを培地(Mycobacteria 7H11 agar+10% OADC Enrichment培地)(以下、「7H11培地」と称する)に植菌し、37℃で培養した。培養後、菌体をかきとり、滅菌したガラスビーズを入れた50mL容量の遠沈管に回収する。これに滅菌蒸留水を加えて撹拌し、適宜希釈した。これを静置し、中間層の菌液を回収した。
【0083】
(c)芽胞
Bacillus subtilis ATCC 19659のグリセロールストックをNB培地(Nutrient Broth No.2)に植菌し、37℃で培養したものをSporulation Mediumプレートに植え継ぎ、37℃で培養した。培養後、滅菌水を注いで菌体をかきとり、滅菌したガラスビーズを入れた50mL容量の遠沈管にいれて撹拌した後、滅菌ガーゼで濾過する。その後、遠心分離し、滅菌水で3回洗浄・遠心分離を繰り返した後、滅菌水で再懸濁する。これを80℃、15分間加熱処理したものを菌液とした。
【0084】
(d)ウイルス
Poliovirus type 1 Sabin strainの凍結保存液を希釈して細胞培養プレートに接種し、FBS含有MEM培地を加えて37℃、5%CO条件下で培養した後、細胞を剥がして培養液を回収した。回収した培養液を、―80℃での凍結融解を3回繰り返し、得られた培養液を遠心分離して回収した上清を菌液とした。
【0085】
(3)殺菌効果の評価試験
(a)一般細菌:EN13727:2012/dirty conditions
(i)予め35℃に保温しておいた、被験組成物、菌液、及びdirty conditionsの負荷物質(3% BSA+3% 赤血球:以下同じ)を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(ii)5分間作用した後、中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)を入れて不活性化させる。
(iii)不活性化した混合液をTSA培地の表面に塗沫し、37℃で培養する。
(iv)培養から1日後に菌数をカウントする。
(v)EN13727:2012の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が6Log10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0086】
(b)抗酸菌:EN14348:2005/dirty conditions
(i)予め35℃に保温しておいた、被験組成物、菌液、及び負荷物質を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(ii)5分間または20分間作用した後、中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)を入れて不活性化させる。
(iii)不活性化した混合液を7H11培地の表面に塗沫し、37℃で培養する。
(iv)培養から3週間後に菌数をカウントする。
(v)EN14348:2005の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が4Log10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0087】
(c)芽胞:EN17126:2018/dirty conditionsまたはclean conditions
(i)予め35℃に保温しておいた、被験組成物、菌液、及びdirty conditionsまたはclean conditionsの負荷物質を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(ii)5分間(dirty conditions)または20分間(clean conditions)作用した後、中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)を入れて不活性化させる。
(iii)不活性化した混合液をTSA培地の表面に塗沫し、37℃で培養する。
(iv)培養から1日後に菌数をカウントする。
(v)EN17126:2018の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が4Log10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0088】
(d)ウイルス:EN14476:2013/dirty conditions
(i)被験組成物及び負荷物質は、予め35℃に保温しておく。ウイルス液及び中和剤(10%FBS含有MEM+0.5%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)は、氷中に保存する。
(ii)被験組成物、ウイルス液、及び負荷物質を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(iii)5分間作用した後、中和剤を入れて不活性化させる。
(iv)希釈原液(2%FBS含有MEM)を10倍で段階希釈して調製した各希釈液を、予め宿主細胞(African green monkey kidney cell JCRB9013)を培養しておいた96wellマイクロタイタープレートに8wellずつ分注し(FBS含有MEM培地)、37℃で5%CO存在下で1時間培養する。
(v)1時間後に培地を除去し、新たな培地を各wellに注ぎ、37℃で5%CO存在下で培養する。
(vi)4日後、Behrens-Kaerber法でウイルス感染価(Log10TCID50)を算出する。
(vii)EN14476:2013の要求基準に合わせて、試験前後のウイルス感染価の対数減少値が4Log10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0089】
(4)殺菌効果の評価結果
結果を表10に合わせて示す。
【表10】
表10に示すように、被験組成物として用いた本発明の殺菌組成物は、一般細菌、抗酸菌、芽胞、及びウイルスといった広範囲の微生物に対して有効な殺菌効果を発揮することが確認された。なかでも抗酸菌、特に芽胞は消毒剤に対して抵抗性が強い微生物であるが、これらの微生物に対しても低濃度で有効な殺菌効果を発揮することが確認されたことから、本発明の殺菌組成物は広範囲の微生物に対して低濃度で有効な殺菌効果を発揮する有用な殺菌組成物である。
【0090】
実験例4 各種微生物に対する殺菌効果の評価(その2)
微生物として、実験例3で使用した芽胞(B.subtilis)を用いて、実験例3と同様に、殺菌処理を20℃で5分間にし、EN17126:2018(clean conditions)で規定されている試験方法を用いて、本発明の殺菌組成物の殺菌効果を評価した。
【0091】
被験組成物(実施例8−1)の組成と、その殺菌効果を表11に示す。
【表11】
表11に示すように、被験組成物として用いた本発明の殺菌組成物は、物理化学的抵抗性が強い芽胞に対しても、20℃といった常温下での処理で有効な殺菌効果を発揮することが確認された。
【0092】
実験例5 洗剤混入下での殺菌効果
クリティカル器材、セミクリティカル器材、及びノンクリティカル器材の殺菌処理(消毒処理)は、その前に、洗剤を用いた洗浄と水によるすすぎが行われるのが一般的である。しかし、これらの作業を装置内で実施する場合や、洗浄後に十分なすすぎが行われない場合は、洗剤が殺菌処理工程に持ち込まれる可能性がある。
そこで、洗剤が混入した場合を想定して、殺菌組成物について洗剤混入による殺菌効果への影響を評価した。
【0093】
(1)試験方法
(a)評価試験1
pH4に調整した被験組成物(実施例9−1〜9−3、比較例9−1〜9−3)に、洗剤が最終濃度0.01%となるように添加し、洗剤混入被験組成物を35℃に保温した。なお、この洗剤濃度(0.01%)は、洗浄工程の洗浄液全体の2%が、殺菌処理工程に混入したことを想定して設定した。被験組成物の処方は表12に示す。
添加直後(初期)及び保温30分後に、洗剤混入被験組成物の過酢酸濃度を測定し、下式から過酢酸の残存率を算出し、残存率が90%以上を「○」(洗剤混入下での殺菌効果:良好)、90%未満を「×」(不良)と評価した
【0094】
[数1]
残存率(%)=(保温30分後の過酢酸濃度/初期の過酢酸濃度)× 100
【0095】
(b)評価試験2
pH6に調整した被験組成物(実施例10−1、比較例10−1)に、洗剤が最終濃度0.05%となるように添加し、洗剤混入被験組成物を35℃に保温した。なお、この洗剤濃度(0.05%)は、洗浄工程の洗浄液全体の10%が、殺菌処理工程に混入したことを想定して設定した。被験組成物の処方は表13に示す。
評価試験1と同様に、添加直後(初期)及び保温30分後に、洗剤混入被験組成物の過酢酸濃度を測定し過酢酸の残存率を算出し、洗剤混入下での殺菌効果を評価した。
【0096】
(2)試験結果
評価試験1及び2の結果を、表12及び13にそれぞれ示す。
【表12】
【表13】
評価試験1の結果(表12)から、過酢酸は、pHが酸性であると安定性がよく、洗剤の混入量が少なければ、グリシン配合の有無に関わらず、有効量の過酢酸が残存し、殺菌効果に悪影響はないことが確認された。一方、評価試験2の結果(表13)から、過酢酸は、pHが酸性から中性に近づくと安定性が悪くなり、さらに洗剤が混入することで、残存量が低下するが(比較例10−1)、グリシンを配合した被験組成物(実施例10−2)によれば、洗剤が混入しても過酢酸が有効量残存し、殺菌効果に悪影響はないことが確認された。
このように、過酢酸及び過酸化水素に加えてグリシンを含有する本発明の殺菌組成物は、過酢酸の安定性が高く、pHが酸性から中性の広範囲において、仮に洗剤が混入した場合であっても、有効な殺菌効果を発揮することから、手動による消毒作業においても、また例えば消毒チャンバ及び消毒剤導入システムを備える消毒装置を用いた消毒作業にも好適に使用することができる。
【要約】
高い殺菌作用とともに、合成系接着剤に対して優れた耐久性低下抑制作用を有することを特徴とする殺菌組成物に関する。当該殺菌組成物は、過酢酸を0.03〜1.0質量%未満、過酸化水素を0.045〜1.5質量%未満、及びグリシンを0.036質量%以上の割合で含有することを特徴とする。