【実施例】
【0061】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0062】
実験例1 殺菌効果の評価
微生物としてAspergillus brasiliensis(ATCC 16404)を用いて、本発明の殺菌組成物の殺菌効果を評価した。A.brasiliensisは、医療分野において汚染リスクのある環境浮遊菌であり、糸状菌の中で薬剤抵抗性が高い胞子を形成する。
【0063】
(1)被験組成物の調製
表2に記載する各成分を、当該表に記載する濃度及びpHになるように人工硬水に溶解して、各種の被験組成物(実施例1−1〜1−4,比較例1−1〜1−7)を調製した。 なお、人工硬水として、下記の溶液Aを6mL、及び溶液Bを8mL混合して、蒸留水で全量が1000mLになるようにメスアップしたものを使用した(後述する実験例も同じ)。
溶液A:MgCl
2(1.984g)+CaCl
2(4.624g)を蒸留水に溶解して100mLに調整したもの。
溶液B:MgHCO
3(3.502g)を蒸留水に溶解して100mLに調整したもの。
【0064】
(2)接種菌液の調製
前記A.brasiliensisのグリセロールストックを麦芽エキス寒天培地(Malt Extract Agar:Oxoid Limited社製)に植菌し、30℃で7日間培養した。培養後、0.05質量%ポリソルベート80水溶液を加え、コンラージ棒で胞子をかきとった。得られた胞子液を50mL容量の遠沈管に移し、滅菌したガラスビーズ5gを加えて1分間撹拌した。撹拌した後、セルストレーナー (メッシュサイズ40μm )で2回ろ過したものを使用した。
【0065】
(3)殺菌効果の評価試験
各被験組成物(実施例1−1〜1−4,比較例1−1〜1−7)の殺菌効果は、EN13624:2013(clean conditions)で規定されている試験方法(懸濁試験)に従って評価した。なお、この試験方法で殺菌効果があると判断される被験組成物は、Spauldingの分類による高水準消毒薬として、医療分野ではセミクリティカル器具や機器の消毒に使用することができる。つまり、この試験方法で殺菌効果があると判断される被験組成物は、酵母様真菌(カンジダを含む)、及び糸状真菌に対して、殺滅作用があると判断することができる。
【0066】
具体的には、下記の操作を行って殺菌効果を評価した。
(i)予め35℃に保温しておいた接種菌液、及びclean conditionsの負荷物質(0.3%のBSA(Bovine serum albumin):以下、同じ)の水溶液を、それぞれ0.5mLずつ試験管にいれて撹拌し、35℃で2分間静置する。
(ii)予め35℃に保温しておいた被験組成物(被験試料)4mLを、前記(i)の試験管にいれて混合した後、35℃で作用させる。
(iii)表2に記載する所定の作用時間経過後、混合液から0.5mLを採取し、これを中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)4.5mLの中に入れて、不活性化させる。
(iv)不活性化した混合液0.5mLを、固形の麦芽エキス寒天培地の表面に塗沫し、30℃で培養する。
(v)培養から3日後に生残菌数を測定する。
(vi)EN13624:2013の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が4Log
10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0067】
(4)殺菌効果の評価結果
結果を表2に合わせて示す。
【表2】
表2に示すように、殺菌成分である過酢酸及び過酸化水素を含有する水溶液であっても、過酢酸の濃度が0.03%以下、過酸化水素の濃度が0.045%以下であって、グリシンを含有しない場合は、所望の殺菌効果を発揮しなかった(比較例1−1)。これに対して、過酢酸濃度が0.03%、過酸化水素濃度が0.045%の水溶液であっても、グリシンを0.036質量%以上の割合で含んでいると、所望の殺菌効果が得られた(実施例1−1)。一方、過酸化水素の濃度を0.045%以上、グリシンの濃度を0.036質量%以上にした場合であっても、過酢酸の濃度が0.03%未満である場合(比較例1−2)や、過酢酸の濃度を0.03%以上、グリシンの濃度を0.036質量%以上にした場合であっても、過酸化水素の濃度が0.045%未満である場合(比較例1−3)は、所望の殺菌効果は得られなかった。
【0068】
これらのことから、比較的低濃度の過酢酸及び過酸化水素を含有する殺菌組成物であっても、グリシンを配合することで、その殺菌効果が増強すること、そして、所望の殺菌効果を発揮するための各成分の最小濃度は、過酢酸は0.03%、過酸化水素は0.045%、及びグリシンは0.036%であることが確認された。また、過酢酸、過酸化水素、及びグリシンを所定濃度含有する殺菌組成物の殺菌効果は、さらにリン酸水素塩、キレート剤、安定剤等の補助成分を配合することで増強することが確認された(実施例1−2〜1−3、比較例1−4〜1−5)。また、当該殺菌組成物の殺菌効果は、過酢酸、過酸化水素またはグリシンの配合量を増加することで増強することが確認された(実施例1−4)。一方、グリシンを配合しない場合は、過酢酸及び過酸化水素の配合量を増加したり、これに他の補助成分を配合しても、所望の殺菌効果は得られなかった(比較例1−6及び1−7)。
【0069】
前記で得られた効果がグリシン使用特有の効果であることを確認するために、実施例1−1の処方において、グリシンに代えて、
特許文献4に記載されたpKa4.5〜11.5の範囲にある緩衝剤(酢酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム)を等モル用いて同様の試験を行った。結果を、実施例1−1及び比較例1−1の結果と合わせて、表3に示す。
【表3】
この結果から、明らかなように、酢酸、リン酸三ナトリウム、及びリン酸水素二カリウムでは、グリシンとは異なり、過酢酸及び過酸化水素の酸性酸化剤の殺菌力を増強することはできなかった。
【0070】
実験例2 合成系接着剤に対する耐久性低下抑制効果の評価
合成系接着剤として、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、及び酢酸ビニル樹脂系接着剤を用いて、これらの接着剤の耐久性低下に対する殺菌組成物の抑制効果(腐食抑制効果)を評価した。
【0071】
(1)殺菌組成物の調製
表4〜9に記載する各成分を、これらの表に記載する濃度及びpHになるように蒸留水に溶解して、各種の殺菌組成物を調製した。
【0072】
(2)接着剤テストピースの調製
SUS304(オーステナイト系ステンレス)製のテストピース(3cm×5cm、厚み1.0mm)の片側の表面に、パンチで直径14mmの穴を2つ(2×1列)開けたビニルテープ(3cm×5cm)を貼りつけ、この穴の中に接着剤を流し込み、ビニルテープの高さに合わせてヘラで表面を均一に伸ばし、それぞれ室温で24時間以上放置して乾燥させた。
乾燥後、ビニルテープを剥がして、接着剤が1面に2スポット付着した接着剤テストピースを調製した。
【0073】
接着剤としては、下記のシリコーン系接着剤(接着剤A)、エポキシ樹脂系接着剤(接着剤B)、及び酢酸ビニル樹脂系接着剤(接着剤C)の3種類を用いて、それぞれ接着剤テストピースA、B及びCを調製した。
[接着剤]
A:シリコーン系接着剤(スーパーX No.8008 ブラック:セメダイン株式会社製)(主成分:アクリル変性シリコーン樹脂)
B:エポキシ樹脂系接着剤(3Mパネルボンドミニ38315N:スリーエム株式会社)(主成分:エポキシ樹脂、硬化剤:アミン系樹脂)
C:酢酸ビニル樹脂系接着剤(コンクリメント CA-131:セメダイン株式会社)(成分:酢酸ビニル樹脂25%、無機物50%、有機溶剤25%)
【0074】
(3)耐久性低下抑制効果の評価試験
(i)40℃に保温した各殺菌組成物に、接着剤テストピースA、B及びCをそれぞれ浸漬し、そのまま16時間放置する。
(ii)16時間後に、各テストピースを浸漬液から取り出し、蒸留水ですすぎ、室温下に静置して自然乾燥させる。
(iii)乾燥後、テストピース上の接着剤の外観を、目視で観察する。
(iv)耐久性低下抑制効果は、接着剤の特性から、「変色の有無:×/○」、「バブリング(気泡)の有無:×/○」、「浮き・剥がれの有無:×/○」、「ひび割れの有無:×/○」の4項目で評価する。
【0075】
(4)耐久性低下抑制効果の評価結果
殺菌組成物のグリシンの効果と過酸化水素の影響をみた結果を、表4に示す。
【表4】
表4に示すように、グリシンを配合することで、特にシリコーン系接着剤や酢酸ビニル系樹脂系接着剤に対する過酢酸及び過酸化水素の耐久性低下(特にバブリング)を抑制することができることが確認された(実施例2−1及び2−2、比較例2−1)。しかし、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、及び酢酸ビニル樹脂系接着剤のいずれも、グリシンを配合した場合でも、過酸化水素が5%以上の高濃度になると、バブリングまたは浮き・剥がれが認められ、耐久性低下(変性)することが確認された(比較例2−2及び2−3)。
【0076】
殺菌組成物における過酢酸、過酸化水素、及びグリシンの濃度の影響をみた結果を、表5に示す。
【表5】
この結果から、過酢酸の濃度が1.0%、過酸化水素の濃度が1.5%、グリシンの濃度が1.2%である殺菌組成物(比較例3−1)は、シリコーン系接着剤及び酢酸ビニル樹脂系接着剤に対して、わずかではあるものの、耐久性を低下させたが、エポキシ樹脂系接着剤に対しては耐久性の低下を示さなかった。このことから、これらの接着剤の耐久性低下を抑制する作用を示す過酢酸の濃度は1.0%未満、過酸化水素の濃度は1.5%未満であると考えられた。このように、過酢酸濃度が1.0%以上、過酸化水素濃度が1.5%以上の場合、グリシンを1.2%配合しても、接着剤の耐久性低下は十分抑制することはできなかったが、例えば、実施例3−5のように過酢酸及び過酸化水素の濃度がそれぞれ
0.9%及び1.35%の場合は、グリシンを1.2%超える量を配合しても、実施例3−5と同じ結果が得られる。このことから、過酢酸濃度が1.0%未満、過酸化水素濃度が1.5%未満の場合、グリシン配合量の上限は、接着剤の耐久性低下抑制効果の点から、制限されないと考えられる。
【0077】
殺菌組成物のpHの影響をみた結果を、表6(シリコーン系接着剤)、表7(エポキシ樹脂系接着剤)、及び表8(酢酸ビニル樹脂系接着剤)に示す。
【表6】
【表7】
【表8】
この結果から、殺菌組成物はpH2〜7の範囲、好ましくはpH3〜7の範囲で、これらの接着剤に対して耐久性低下抑制性があることが確認された。
【0078】
前記で得られた効果がグリシン使用特有の効果であることを確認するために、実施例3−5の処方において、グリシンに代えて、
特許文献4に記載の緩衝剤(酢酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム)を等モル用いて同様の試験を行った。また、コントロールとして、グリシンを含む緩衝剤を使用しない場合についても同様に試験を行った。結果を、実施例3−5の結果と合わせて、表9に示す。
【表9】
この結果が示すように、酢酸、リン酸三ナトリウム、及びリン酸水素二カリウムには、グリシンと異なり、酸化剤による合成系接着剤の耐久性低下を抑制する作用は認められなかった。このことから、酸化剤(過酢酸及び過酸化水素)による接着剤の耐久性低下を抑制する効果はグリシンを併用することによる特有の効果であることが確認された。
【0079】
実験例3 各種微生物に対する殺菌効果の評価(その1)
微生物として、一般細菌(Enterococcus faecium ATCC 6057)、抗酸菌(Mycobacterium terrae ATCC 15755)、芽胞(Bacillus subtilis ATCC 19659)、及びウイルス(Poliovirus type 1 Sabin strain [LS-c, 2ab strain]/宿主細胞:African green monkey kidney cell JCRB 9013)を用いて、欧州規格によるin vitro試験に従って、本発明の殺菌組成物の殺菌効果を評価した。
【0080】
(1)被験組成物の調製
表10に記載する各成分を、当該表に記載する濃度及びpHになるように人工硬水に溶解して、各種の被験組成物(実施例7−1〜7−3)を調製した。
【0081】
(2)各種菌液の調製
(a)一般細菌
Enterococcus faecium ATCC 6057のグリセロールストックをトリプチケースソイ寒天培地(以下、「TSA培地」と称する)に植菌し、37℃で培養した。培養後、希釈液(0.85% NaCl及び0.1%トリプトンペプトン含有水溶液、以下これを「希釈液1」と称する)を加えてかきとり、得られた菌液を50mL容量の遠沈管に移し、滅菌したガラスビーズ5gを加えて1分間撹拌した。撹拌した後、新しい遠沈管に菌液のみを回収し、遠心分離後、上清を除去して、前記希釈液で再懸濁したものを菌液とした。
【0082】
(b)抗酸菌
Mycobacterium terrae ATCC 15755のグリセロールストックを培地(Mycobacteria 7H11 agar+10% OADC Enrichment培地)(以下、「7H11培地」と称する)に植菌し、37℃で培養した。培養後、菌体をかきとり、滅菌したガラスビーズを入れた50mL容量の遠沈管に回収する。これに滅菌蒸留水を加えて撹拌し、適宜希釈した。これを静置し、中間層の菌液を回収した。
【0083】
(c)芽胞
Bacillus subtilis ATCC 19659のグリセロールストックをNB培地(Nutrient Broth No.2)に植菌し、37℃で培養したものをSporulation Mediumプレートに植え継ぎ、37℃で培養した。培養後、滅菌水を注いで菌体をかきとり、滅菌したガラスビーズを入れた50mL容量の遠沈管にいれて撹拌した後、滅菌ガーゼで濾過する。その後、遠心分離し、滅菌水で3回洗浄・遠心分離を繰り返した後、滅菌水で再懸濁する。これを80℃、15分間加熱処理したものを菌液とした。
【0084】
(d)ウイルス
Poliovirus type 1 Sabin strainの凍結保存液を希釈して細胞培養プレートに接種し、FBS含有MEM培地を加えて37℃、5%CO
2条件下で培養した後、細胞を剥がして培養液を回収した。回収した培養液を、―80℃での凍結融解を3回繰り返し、得られた培養液を遠心分離して回収した上清を菌液とした。
【0085】
(3)殺菌効果の評価試験
(a)一般細菌:EN13727:2012/dirty conditions
(i)予め35℃に保温しておいた、被験組成物、菌液、及びdirty conditionsの負荷物質(3% BSA+3% 赤血球:以下同じ)を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(ii)5分間作用した後、中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)を入れて不活性化させる。
(iii)不活性化した混合液をTSA培地の表面に塗沫し、37℃で培養する。
(iv)培養から1日後に菌数をカウントする。
(v)EN13727:2012の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が6Log
10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0086】
(b)抗酸菌:EN14348:2005/dirty conditions
(i)予め35℃に保温しておいた、被験組成物、菌液、及び負荷物質を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(ii)5分間または20分間作用した後、中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)を入れて不活性化させる。
(iii)不活性化した混合液を7H11培地の表面に塗沫し、37℃で培養する。
(iv)培養から3週間後に菌数をカウントする。
(v)EN14348:2005の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が4Log
10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0087】
(c)芽胞:EN17126:2018/dirty conditionsまたはclean conditions
(i)予め35℃に保温しておいた、被験組成物、菌液、及びdirty conditionsまたはclean conditionsの負荷物質を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(ii)5分間(dirty conditions)または20分間(clean conditions)作用した後、中和剤(0.1%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)を入れて不活性化させる。
(iii)不活性化した混合液をTSA培地の表面に塗沫し、37℃で培養する。
(iv)培養から1日後に菌数をカウントする。
(v)EN17126:2018の要求基準に合わせて、試験前後の菌数の対数減少値が4Log
10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0088】
(d)ウイルス:EN14476:2013/dirty conditions
(i)被験組成物及び負荷物質は、予め35℃に保温しておく。ウイルス液及び中和剤(10%FBS含有MEM+0.5%チオ硫酸ナトリウム、カタラーゼ)は、氷中に保存する。
(ii)被験組成物、ウイルス液、及び負荷物質を8:1:1の割合で混合し、35℃で作用させる。
(iii)5分間作用した後、中和剤を入れて不活性化させる。
(iv)希釈原液(2%FBS含有MEM)を10倍で段階希釈して調製した各希釈液を、予め宿主細胞(African green monkey kidney cell JCRB9013)を培養しておいた96wellマイクロタイタープレートに8wellずつ分注し(FBS含有MEM培地)、37℃で5%CO
2存在下で1時間培養する。
(v)1時間後に培地を除去し、新たな培地を各wellに注ぎ、37℃で5%CO
2存在下で培養する。
(vi)4日後、Behrens-Kaerber法でウイルス感染価(Log
10TCID
50)を算出する。
(vii)EN14476:2013の要求基準に合わせて、試験前後のウイルス感染価の対数減少値が4Log
10以上である場合を「○:有効な殺菌効果あり」、そうでない場合を「×:有効な殺菌効果なし」と判断する。
【0089】
(4)殺菌効果の評価結果
結果を表10に合わせて示す。
【表10】
表10に示すように、被験組成物として用いた本発明の殺菌組成物は、一般細菌、抗酸菌、芽胞、及びウイルスといった広範囲の微生物に対して有効な殺菌効果を発揮することが確認された。なかでも抗酸菌、特に芽胞は消毒剤に対して抵抗性が強い微生物であるが、これらの微生物に対しても低濃度で有効な殺菌効果を発揮することが確認されたことから、本発明の殺菌組成物は広範囲の微生物に対して低濃度で有効な殺菌効果を発揮する有用な殺菌組成物である。
【0090】
実験例4 各種微生物に対する殺菌効果の評価(その2)
微生物として、実験例3で使用した芽胞(B.subtilis)を用いて、実験例3と同様に、殺菌処理を20℃で5分間にし、EN17126:2018(clean conditions)で規定されている試験方法を用いて、本発明の殺菌組成物の殺菌効果を評価した。
【0091】
被験組成物(実施例8−1)の組成と、その殺菌効果を表11に示す。
【表11】
表11に示すように、被験組成物として用いた本発明の殺菌組成物は、物理化学的抵抗性が強い芽胞に対しても、20℃といった常温下での処理で有効な殺菌効果を発揮することが確認された。
【0092】
実験例5 洗剤混入下での殺菌効果
クリティカル器材、セミクリティカル器材、及びノンクリティカル器材の殺菌処理(消毒処理)は、その前に、洗剤を用いた洗浄と水によるすすぎが行われるのが一般的である。しかし、これらの作業を装置内で実施する場合や、洗浄後に十分なすすぎが行われない場合は、洗剤が殺菌処理工程に持ち込まれる可能性がある。
そこで、洗剤が混入した場合を想定して、殺菌組成物について洗剤混入による殺菌効果への影響を評価した。
【0093】
(1)試験方法
(a)評価試験1
pH4に調整した被験組成物(実施例9−1〜9−3、比較例9−1〜9−3)に、洗剤が最終濃度0.01%となるように添加し、洗剤混入被験組成物を35℃に保温した。なお、この洗剤濃度(0.01%)は、洗浄工程の洗浄液全体の2%が、殺菌処理工程に混入したことを想定して設定した。被験組成物の処方は表12に示す。
添加直後(初期)及び保温30分後に、洗剤混入被験組成物の過酢酸濃度を測定し、下式から過酢酸の残存率を算出し、残存率が90%以上を「○」(洗剤混入下での殺菌効果:良好)、90%未満を「×」(不良)と評価した
【0094】
[数1]
残存率(%)=(保温30分後の過酢酸濃度/初期の過酢酸濃度)× 100
【0095】
(b)評価試験2
pH6に調整した被験組成物(実施例10−1、比較例10−1)に、洗剤が最終濃度0.05%となるように添加し、洗剤混入被験組成物を35℃に保温した。なお、この洗剤濃度(0.05%)は、洗浄工程の洗浄液全体の10%が、殺菌処理工程に混入したことを想定して設定した。被験組成物の処方は表13に示す。
評価試験1と同様に、添加直後(初期)及び保温30分後に、洗剤混入被験組成物の過酢酸濃度を測定し過酢酸の残存率を算出し、洗剤混入下での殺菌効果を評価した。
【0096】
(2)試験結果
評価試験1及び2の結果を、表12及び13にそれぞれ示す。
【表12】
【表13】
評価試験1の結果(表12)から、過酢酸は、pHが酸性であると安定性がよく、洗剤の混入量が少なければ、グリシン配合の有無に関わらず、有効量の過酢酸が残存し、殺菌効果に悪影響はないことが確認された。一方、評価試験2の結果(表13)から、過酢酸は、pHが酸性から中性に近づくと安定性が悪くなり、さらに洗剤が混入することで、残存量が低下するが(比較例10−1)、グリシンを配合した被験組成物(実施例10−2)によれば、洗剤が混入しても過酢酸が有効量残存し、殺菌効果に悪影響はないことが確認された。
このように、過酢酸及び過酸化水素に加えてグリシンを含有する本発明の殺菌組成物は、過酢酸の安定性が高く、pHが酸性から中性の広範囲において、仮に洗剤が混入した場合であっても、有効な殺菌効果を発揮することから、手動による消毒作業においても、また例えば消毒チャンバ及び消毒剤導入システムを備える消毒装置を用いた消毒作業にも好適に使用することができる。