特許第6984947号(P6984947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984947
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20211213BHJP
   B60K 5/12 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   F16F13/10 J
   F16F13/10 D
   !B60K5/12 H
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-98209(P2018-98209)
(22)【出願日】2018年5月22日
(65)【公開番号】特開2019-203544(P2019-203544A)
(43)【公開日】2019年11月28日
【審査請求日】2020年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】石原 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】西川 慶太
(72)【発明者】
【氏名】堤 龍也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正樹
【審査官】 後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−85313(JP,A)
【文献】 特開2009−287735(JP,A)
【文献】 特開2013−228003(JP,A)
【文献】 特開2012−215214(JP,A)
【文献】 特開2012−172737(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0001364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部及び振動受部のうちのいずれか一方に連結される第1取付部材と、
振動発生部及び振動受部のうちのいずれか他方に連結される第2取付部材と、
前記第1取付部材と前記第2取付部材とを弾性的に連結する弾性体と、
前記第1取付部材に設けられ、前記弾性体を壁面の一部とする主液室と副液室とを区画する仕切部材と、
前記仕切部材の内部に設けられ、前記主液室とは第1連通孔を介して連通し、前記副液室とは第2連通孔を介して連通する収容室と、
前記収容室に収容され、前記主液室と前記副液室との圧力差に応じて主液室側と副液室側とに変位する弾性体からなる可動部材と、
前記可動部材の前記第1連通孔と対応する箇所に形成され主液室側から副液室側へ貫通する貫通孔と、
前記可動部材の前記貫通孔の周縁に沿って設けられ、前記主液室に向けて突出すると共に前記貫通孔から離れる方向に湾曲し、先端が前記収容室の内壁に接触した主液室側凸部と、
前記可動部材の前記貫通孔の周縁の全周に渡って設けられ、前記副液室に向けて突出すると共に、前記収容室の内壁に当接して前記貫通孔と前記第2連通孔との間を閉塞する副液室側凸部と、
を有する防振装置。
【請求項2】
前記可動部材には、前記主液室側凸部を前記貫通孔の周方向に複数に分割する切欠が形成されている、請求項1に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に液体が封入された防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
防振装置として、主液室と副液室との間に、主液室と副液室との圧力差に応じて変位する可動部材を備えた液体封入式の防振装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
例えば、特許文献1の液体封入式の防振装置では、振動等が入力されると、可動部材の弾性変形による主液室の液圧吸収効果に基づき防振効果が発揮される。
【0004】
ところで、液体封入式の防振装置では、例えば、自動車が段差を乗り越えたり凹凸の大きな路面等を走行して、大きな荷重が入力されると、主液室においてキャビテーションを生じ、異音や振動を発生する場合がある。
【0005】
しかしながら、特許文献1の防振装置では、主液室と副液室との間にリリーフ弁が設けられており、主液室に一定以上の負圧が生じた際にリリーフ弁が開放され、主液室と副液室の圧力が平衡状態に向かい、キャビテーションの発生が抑制されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−85313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の防振装置のリリーフ弁では、主液室に過大な負圧が入力した場合に開き難くなってキャビテーションの発生を抑制することが困難になる場合があり、改善の余地があった。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、過大な負荷が入力した場合のキャビテーションの発生を抑制することのできる防振装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の防振装置は、振動発生部及び振動受部のうちのいずれか一方に連結される第1取付部材と、振動発生部及び振動受部のうちのいずれか他方に連結される第2取付部材と、前記第1取付部材と前記第2取付部材とを弾性的に連結する弾性体と、前記第1取付部材に設けられ、前記弾性体を壁面の一部とする主液室と副液室とを区画する仕切部材と、前記仕切部材の内部に設けられ、前記主液室とは第1連通孔を介して連通し、前記副液室とは第2連通孔を介して連通する収容室と、前記収容室に収容され、前記主液室と前記副液室との圧力差に応じて主液室側と副液室側とに変位する弾性体からなる可動部材と、前記可動部材の前記第1連通孔と対応する箇所に形成され主液室側から副液室側へ貫通する貫通孔と、前記可動部材の前記貫通孔の周縁に沿って設けられ、前記主液室に向けて突出すると共に前記貫通孔から離れる方向に湾曲し、先端が前記収容室の内壁に接触した主液室側凸部と、前記可動部材の前記貫通孔の周縁の全周に渡って設けられ、前記副液室に向けて突出すると共に、前記収容室の内壁に当接して前記貫通孔と前記第2連通孔との間を閉塞する副液室側凸部と、を有する。
【0010】
請求項1に記載の防振装置では、衝撃的な荷重が入力し、主液室に過大な負圧が生じると、相対的に副液室側の液体の圧力が主液室側の液体の圧力よりも高くなるので、副液室側の液体が第2連通孔から可動部材を押圧し、可動部材が主液室側に向かって変位し、副液室側凸部が収容室の内壁から離間して第2連通孔が開放される。また、可動部材が変位することで、可動部材に設けられた主液室側凸部は収容室の内壁側へ押圧されて弾性変形する。
【0011】
これにより、副液室の液体が第2連通孔から収容室、及び第1連通孔を介して主液室へ流れ込み、主液室の液体の圧力と副液室の液体の圧力が平衡状態に向かい、主液室の過大な負圧状態が解消される。
その結果、主液室の液体の圧力がキャビテーションを発生する負圧に到ることが回避されて、キャビテーションに起因する異音や振動が抑制される。
【0012】
また、請求項1の防振装置では、主液室側凸部は、貫通孔から離れる方向に湾曲しており、先端が収容室の内壁に当接しているので、可動部材が主液室側に向かって変位すると、湾曲した主液室側凸部は、先端が収容室の内壁に接しながら全体的に倒れこむように曲げ変形する。
【0013】
主液室側凸部は、倒れこむように曲げ変形をするので、バネ特性としては線形域が拡大する傾向となる。即ち、主液室側凸部は、バネ定数が途中で急激に上昇することが抑制されるので、可動部材は変位し易く、その結果、貫通孔と第2連通孔との間が開き易くなる。言い換えれば、貫通孔と第2連通孔との間を塞いでいた可動部材が収容室の内壁から大きく離れ易くなるので、主液室の圧力と副液室の圧力とを迅速に平衡状態に向かわせることができ、従来よりもキャビテーションの発生を抑制する効果を高めることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の防振装置において、前記可動部材には、前記主液室側凸部を前記貫通孔の周方向に複数に分割する切欠が形成されている。
【0015】
主液室に向けて突出し、貫通孔から離れる方向に湾曲した主液室側凸部が、貫通孔の周縁に沿って連続していると、主液室側凸部が収容室の内壁に押圧されるにしたがって、主液室側凸部の先端側に周方向の張力が生じ、この張力が、主液室側凸部の貫通孔の径方向外側への変形を抑制するように作用してしまう。
【0016】
そのため、主液室側凸部を、切欠によって貫通孔の周方向に複数に分割することで、主液室側凸部の周方向長さを短くして主液室側凸部に生じる周方向の張力を小さくすることができる。これにより、各々の主液室側凸部が径方向外側に曲げ変形し易くなり、可動部材がより変位し易くなるため、第2連通孔がより開き易くなる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明の防振装置によれば、過大な負荷が入力した場合のキャビテーションの発生を抑制することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る防振装置を示す断面図である。
図2】ブラケットに装着された防振装置を示す斜視図である。
図3】ブラケットに装着された防振装置を示す断面図である。
図4】(A)は通常時のメンブランを示す仕切部材の断面図であり、(B)はメンブランの円筒部が変位した状態を示す仕切部材の断面図である。
図5】メンブラン、及びメンブラン取付部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至図5にしたがって、本発明に係る防振装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、防振装置10は、振動受部の一例としての車体側に連結される金属製の筒体12を備えている。筒体12の内周上部には、ゴム製の弾性体14が加硫接着されており、第1取付部材の一例としての筒体12は、この弾性体14により上方側の開口部が閉鎖されている。
【0020】
図2、及び図3に示すように、筒体12は、車体に連結するブラケット16の筒部18に挿入されている。ブラケット16には、車体に連結する際に用いる脚部20が設けられている。
【0021】
図1に示すように、この弾性体14の中央上部には、振動発生部の一例としてのエンジン側に連結される支持体22が埋設されており、弾性体14に第2取付部材の一例としての支持体22が加硫接着されている。支持体22の上部には、水平方向に延びるエンジン取付部材24が配置されており、エンジン取付部材24の孔26を貫通させたボルト28を、支持体22に形成した雌螺子30に捩じ込むことで、支持体22にエンジン取付部材24が固定されている。これにより、エンジンから振動が入力されると、弾性体14が弾性変形し、支持体22と筒体12とが相対移動する。
【0022】
図3に示すように、エンジン取付部材24には、弾性体からなるストッパ部31が取り付けられている。ストッパ部31は、支持体22の過大変位時に、ブラケット16の枠部32に当接して、支持体22の過大な変位を抑制する。
【0023】
図1に示すように、筒体12の内部には、弾性体14の下側に、仕切部材33が配置されている。図4に示すように、仕切部材33は、仕切部材本体34、及びメンブラン取付部材38を含んで構成されている。図1に示すように、仕切部材本体34と弾性体14との間には、エチレングリコール等の液体が充填された主液室40が形成されている。
【0024】
メンブラン取付部材38の下側には、ダイヤフラム42が配置されている。ダイヤフラム42の外周部分には、金属製の環状の固定部材46が埋め込まれており、仕切部材本体34の外周の一部分、及びダイヤフラム42の外周部分が、筒体12に加締め固定されている。メンブラン取付部材38とダイヤフラム42との間には、エチレングリコール等の液体が充填された副液室44が形成されている。
【0025】
図4(A)に示すように、仕切部材本体34の下面には、中央部に、下面側から見て円形とされた下向き第1凹部48が形成され、下向き第1凹部48の径方向外側に、下面側から見て円環形状とされた下向き第2凹部50が形成されており、下向き第1凹部48と下向き第2凹部50との間には、下面側から見て円環形状とされた下向き環状凸部52が形成されている。なお、下向き第2凹部50には、円環形状とされたシート状の上側ゴム壁54が接着されている。
【0026】
メンブラン取付部材38は、金属板を円盤状に形成したものであり、仕切部材本体34の下面に密着して固定されている。メンブラン取付部材38の中央には、仕切部材本体34の下向き第2凹部50の外径と略同一外径とされ、上側から見て円形とされた上向き凹部56が形成されている。上向き凹部56には、円形の下側ゴム壁58が接着されている。
【0027】
下側ゴム壁58には、仕切部材本体34の下向き環状凸部52と対向する位置に、上面側から見て円環形状とされた上向き環状凸部60が形成されており、上向き環状凸部60の内側が上向き第1凹部62、上向き環状凸部60の外側が上向き第2凹部64とされている。
【0028】
ここで、仕切部材本体34とメンブラン取付部材38との間において、仕切部材本体34の下向き第1凹部48とメンブラン取付部材38の上向き第1凹部62との間に第1収容室66が形成され、仕切部材本体34の下向き第2凹部50とメンブラン取付部材38の上向き第2凹部64との間に第2収容室68が形成されている。
【0029】
仕切部材本体34とメンブラン取付部材38との間には、ゴム等の弾性体にて円盤形状に形成された可動部材の一例としてのメンブラン36が配置されている。
メンブラン36の中央部分は、メンブラン36の中で最も厚肉に形成された円筒部70とされ、円筒部70の中心には貫通孔72が形成されている。メンブラン36には、円筒部70の径方向外側に、一定厚さに形成された挟持部74が設けられており、挟持部74の径方向外側には、変位部76が設けられている。円筒部70、及び変位部76は、主液室40と副液室44との圧力差に応じて変位するように挟持部74によって弾性的に支持されている。
【0030】
図4(A)、及び図5に示すように、円筒部70の上面には、貫通孔72の周囲に、複数の主液室側凸部78が円筒部70と一体的に形成されている。主液室側凸部78は、円筒部70から先端に向けて、径方向に延びる切欠80を介して周方向に配置されている。主液室側凸部78は、側面視で、貫通孔72から離れる方向に湾曲している。主液室側凸部78は、言い換えれば、湾曲凸部である。
【0031】
図4(A)、及び図5に示すように、変位部76の両面には、径の異なる複数の環状突起84が、径方向内側から径方向外側に間隔を開けて形成されている。
【0032】
図4(A)に示すように、メンブラン36は、仕切部材本体34の下向き環状凸部52とメンブラン取付部材38の下側ゴム壁58に形成された上向き環状凸部60との間に、挟持部74が挟持されて固定されている。
【0033】
このようにメンブラン36が固定された状態で、メンブラン36の変位部76は、第2収容室68の内部に上下方向に変位可能に収容されている。言い換えれば、メンブラン36の変位部76は、メンブラン取付部材38の下側ゴム壁58と、仕切部材本体34の上側ゴム壁54との間に、隙間が形成されるように第2収容室68の内部に収容されている。
【0034】
また、このようにメンブラン36が固定された状態で、メンブラン36の円筒部70は、第1収容室66の内部に収容されている。そして、円筒部70の上面に形成された主液室側凸部78の先端が、仕切部材本体34の下向き第1凹部48の底面に接触しており、円筒部70の底面が、メンブラン取付部材38の下側ゴム壁58に形成された上向き第1凹部62の底面に接触している。
【0035】
ここで、仕切部材本体34の外周面には、周方向に延びる溝85が形成されており、図1に示すように、この溝85は、筒体12によって塞がれてオリフィス通路86を構成している。オリフィス通路86は、一端側が、仕切部材本体34に形成された第1孔88を介して主液室40と連通しており、他端側が、仕切部材本体34に形成された第2孔90、及びメンブラン取付部材38に形成された孔92を介して副液室44に連通している。したがって、主液室40と副液室44とは、オリフィス通路86を介して常に連通している。
【0036】
図1、及び図4(A)に示すように、仕切部材本体34には、中央に第1連通孔の一例としての孔93が形成されており、この孔93を介して主液室40と第1収容室66とは常時連通している。メンブラン取付部材38、及び下側ゴム壁58には、メンブラン36の円筒部70と対向する位置に、副液室44に連通する複数の第2連通孔の一例としての孔94が周方向に沿って形成されている。通常時(図4(A)に示す状態)、貫通孔72と孔94との間は、円筒部70の下面が下側ゴム壁58に接触していることで閉塞されている。なお、メンブラン36の円筒部70において、挟持部74の下面よりも下側に突出している部分が副液室側凸部70Aとされている。なお、副液室側凸部70Aは、言い換えれば、環状に形成されて、挟持部74の下面よりも下側に突出している環状凸部である。
【0037】
また、仕切部材本体34、及び上側ゴム壁54には、主液室40と第2収容室68とを連通する複数の孔96が、周方向に沿って形成されている。さらに、メンブラン取付部材38、及び下側ゴム壁58には、第2収容室68と副液室44とを連通する複数の孔98が周方向に沿って形成されている。したがって、主液室40と副液室44とは、孔96、第2収容室68、及び孔98を介して常に連通している。
【0038】
(作用、効果)
本実施形態の防振装置10は、ブラケット16に装着され、ブラケット16の脚部20を車体に取り付け、エンジン取付部材24にエンジンを取り付けて用いる。
防振装置10にエンジンの振動が入力されると、振動は、弾性体14の内部摩擦に基く抵抗により吸収される他、弾性体14が変形して主液室40が拡縮し、主液室40の液体と副液室44の液体とがオリフィス通路86を行き来することで、オリフィス通路86を流れる液体の通過抵抗、または液柱共振により吸収される。
【0039】
振動の周波数が上昇して、オリフィス通路86が目詰まり状態になると、主液室40の圧力変動によってメンブラン36が第2収容室68の内部で振動に応じて変位して主液室40の圧力上昇が抑えられ、防振装置10の動バネ定数の上昇が抑えられる。これにより、振動の周波数が上昇しても振動の伝達を低減することができる。
【0040】
(衝撃的な荷重の入力)
ところで、自動車が段差を乗り越えたり凹凸の大きな路面等を走行して、防振装置10に衝撃的な荷重が入力され、支持体22が急激に上方へ変位すると、主液室40において、異音や振動の発生原因となるキャビテーションを生じさせる過大な負圧が発生する場合がある。
【0041】
主液室40に過大な負圧が発生する、言い換えると、主液室40の圧力が過大に減少すると、相対的に、副液室44の圧力が主液室40の圧力よりも大きくなり、副液室44の液体が、メンブラン取付部材38、及び下側ゴム壁58に形成された孔94を介してメンブラン36の円筒部70を押し上げ、円筒部70の底面がメンブラン取付部材38の下側ゴム壁58から離間して円筒部70の底面と下側ゴム壁58との間に隙間が形成され、貫通孔72と孔94とが連通するので、副液室44の液体が第1収容室66、及び孔93を介して主液室40に流れ込む。これにより、主液室40の圧力と副液室44の圧力が平衡状態に向かい、主液室40の過負圧状態が解消されることから、異音や振動等の原因となるキャビテーションの発生が抑えられる。
【0042】
ここで、本実施形態の防振装置10では、メンブラン36の円筒部70が押し上げられることにより、円筒部70の上部に形成された主液室側凸部78は、図4(A)に示す状態から図4(B)に示すように、先端が下向き第1凹部48の底面を径方向外側に摺動しつつ、全体的に曲がるように弾性変形する。
【0043】
ところで、一例として、円柱状に形成されたゴム等の弾性体が圧縮変形する場合のバネ特性としては、圧縮するにしたがってバネ定数が上がる傾向となり、バネ特性は非線形となる。このため、仮に、円筒部70の上部に円柱状の主液室側凸部を形成すると、副液室44の圧力で円筒部70を下側ゴム壁58から大きく離間させようとしても、バネ定数が上昇するので円柱状の主液室側凸部を大きく圧縮することが難しい。そのため、円筒部70を下側ゴム壁58から大きく離間させて孔94を大きく開き、大量の液体を副液室44から主液室40へ流入させることが難しくなる。
【0044】
言い換えれば、円筒部70の上部に円柱状の主液室側凸部を形成した場合、円筒部70を大きく変位させて孔94を大きく開こうとしても、円柱状の主液室側凸部を圧縮するにしたがって圧縮反力(円筒部70を主液室40側とは反対側へ向かう力)が高くなってしまうので、孔94は開き難くなり、大量の液体を副液室44から主液室40へ流入させることが難しくなる。
【0045】
一方、本実施形態のように、主液室側凸部78は断面形状が湾曲しており、曲がるように弾性変形するので、円柱状に形成されたゴム等の弾性体が圧縮変形する場合に比較して、バネ特性を線形に近づけることが出来る。このため、本実施形態のメンブラン36は、円筒部70を変位させ易く、円筒部70を下側ゴム壁58から大きく離間させて、大量の液体を副液室44から主液室40へ流入させることが可能となる。したがって、過大な負圧が主液室40に生じた場合のキャビテーションの発生を抑制する効果が高いものとなる。
【0046】
また、本実施形態の主液室側凸部78は、周方向に連続して形成されておらず、切欠80によって複数に分割されているので、主液室側凸部78が曲げ変形する際に生じる周方向の張力を小さくすることができる。これにより、各々の主液室側凸部78は、分割しない場合に比較して径方向外側に曲げ変形し易くなる。したがって、主液室側凸部78を分割しない場合に比較してメンブラン36がより変位し易く、孔94がより開き易くなっている。
【0047】
一方、主液室40の過大な負圧が解消して主液室側凸部78に押された円筒部70が下方へ移動すると、図4(A)に示すように、円筒部70の底面が、下側ゴム壁58の上向き第1凹部62に接触し、貫通孔72と孔94との間が閉塞される。ここで、円筒部70が接触する下側ゴム壁58は、ゴム等の弾性体で形成されているので、円筒部70が下側ゴム壁58に接触する際の打音の発生を抑制することができる。
【0048】
[その他の実施形態]
以上、本発明の防振装置の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
10…防振装置、12…筒体(第1取付部材)、14…弾性体、22…支持体(第2取付部材)、33…仕切部材、36…メンブラン(可動部材)、40…主液室、44…副液室、66…第1収容室(収容室)、70…円筒部(副液室側凸部)、70A…副液室側凸部、72…貫通孔、78…主液室側凸部、93…孔(第1連通孔)、94…孔(第2連通孔)、80…切欠
図1
図2
図3
図4
図5