特許第6984955号(P6984955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6984955
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】タイヤ及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20211213BHJP
   B29D 30/38 20060101ALI20211213BHJP
   B29D 30/70 20060101ALI20211213BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   B60C9/18 A
   B60C9/18 B
   B29D30/38
   B29D30/70
   D07B1/06 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-120307(P2018-120307)
(22)【出願日】2018年6月25日
(65)【公開番号】特開2020-1471(P2020-1471A)
(43)【公開日】2020年1月9日
【審査請求日】2020年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】上條 哲史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 圭一
(72)【発明者】
【氏名】田中 英久
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/200061(WO,A1)
【文献】 特開2018−090056(JP,A)
【文献】 特表2010−540337(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/074196(WO,A1)
【文献】 特開2016−022902(JP,A)
【文献】 特開2013−159272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B29D 30/38
B29D 30/70
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のタイヤ骨格部材と、
前記タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に設けられたベルトと、
を備え、
前記ベルトは、
補強コードが交錯して形成された補強部と、
前記補強部を覆う樹脂部と、
を含んで構成され
前記補強コードの少なくとも一部がカーボン繊維により形成され、前記補強部は、前記カーボン繊維を含む補強コードが編み込まれて形成された織布であるタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤ骨格部材と前記補強部の間には、樹脂層が設けられている請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のタイヤを製造するためのタイヤの製造方法であって、
前記ベルトの形状に合わせて形成された筒状の補助プレートの外周面に、前記補強部を形成する補強シートを取付ける補強シート取付け工程と、
前記補助プレートの外周面に取付けられた前記補強シートの表面に前記樹脂部を形成する溶融樹脂を流し、当該補強シートの表面を前記溶融樹脂で被覆する樹脂被覆工程と、
を有するタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記補強シート取付け工程の前に、前記補助プレートの外周面に請求項2に記載の樹脂層を形成する樹脂シートを取付ける樹脂シート取付け工程が設けられている請求項3に記載のタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ及びタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補強コードを樹脂で被覆してなる樹脂被覆コードを、樹脂材料を用いて構成されたタイヤ骨格部材の外周面に螺旋状に巻いて接合したベルトを有するタイヤが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−210487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、タイヤ骨格部材の外周面(巻付け面)に樹脂被覆コードを接合する際、樹脂被覆コードの接合面、及びタイヤ骨格部材の外周面に熱風を吹き当て当該熱風が吹き当てられた部分を溶融させ溶着している。そして、樹脂被覆コードを押付ローラによりタイヤ骨格部材の外周面に押し付けて、タイヤ骨格部材の外周面に樹脂被覆コードを接合している。
【0005】
また、これ以外にも、樹脂被覆コードを、樹脂と接合し難い金属等の巻付け面に取付け、互いに隣接する樹脂被覆コードの樹脂同士を溶着させてベルトを形成し、当該ベルトを巻付け面から取り外し、タイヤ骨格部材に接合させる方法もある。
【0006】
一方、互いに隣接する樹脂被覆コード間において、例えば、樹脂同士の溶着面積を十分に確保することができない場合、当該樹脂同士の溶着力が弱くなる可能性があり、当該ベルトをタイヤに適用する際は耐久性の確保を考慮する必要がある。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮し、耐久性をより向上させたタイヤ、及びこのタイヤの製造方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のタイヤは、環状のタイヤ骨格部材と、前記タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に設けられたベルトと、を備え、前記ベルトは、補強コードが交錯して形成された補強部と、前記補強部を覆う樹脂部と、を含んで構成され、前記補強コードの少なくとも一部がカーボン繊維により形成され、前記補強部は、前記カーボン繊維を含む補強コードが編み込まれて形成された織布である
【0009】
請求項1に記載のタイヤでは、環状のタイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側にベルトが設けられている。当該ベルトは、補強部及び樹脂部を含んで構成されており、補強部は、補強コードが交錯して形成され、補強部は樹脂部によって覆われている。
【0010】
これにより、交錯した補強コードと樹脂部とが一体化され、交錯する補強コード間において、樹脂部同士の溶着面自体をなくすことができる。これにより、補強部及び樹脂部を含んで構成されるベルト自体の剛性を向上させることができ、当該ベルトを備えたタイヤの耐久性を向上させることが可能となる。なお、ここでの「覆う」とは、少なくとも補強部の一部が樹脂で覆われているものを含む。
【0011】
また、本発明では、前記補強コードの少なくとも一部がカーボン繊維により形成されている。
【0012】
前記構成を備えることにより、ベルト補強部としてカーボン繊維を用いた際でもコストを抑制しつつベルトの剛性を担保することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明では、前記補強部は、前記カーボン繊維を含む補強コードが編み込まれて形成された織布である。
【0014】
このように、補強部としてカーボン繊維が編み込まれて形成された織布とすることにより、ベルトの剛性をさらに向上させることが可能となる。
【0015】
請求項に記載のタイヤは、請求項1に記載のタイヤにおいて、前記タイヤ骨格部材と前記補強部の間には、樹脂層が設けられている。
【0016】
前記構成を備えることにより、タイヤ骨格部材と補強部の間に樹脂層が形成されるため、当該樹脂層及び樹脂部を介して、タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側に補強部が接合されることとなり接合強度が増す効果が発現する。なお、「樹脂層」は、タイヤ骨格部材と補強部の間に設けられた層であり、必ずしも「樹脂層」として別途設けられる必要はない。このため、「樹脂層」が樹脂部の一部を示すものでもよい。
【0017】
請求項に記載のタイヤの製造方法は、請求項1又は請求項に記載のタイヤを製造するためのタイヤの製造方法であって、前記ベルトの形状に合わせて形成された筒状の補助プレートの外周面に、前記補強部を形成する補強シートを取付ける補強シート取付け工程と、前記補助プレートの外周面に取付けられた前記補強シートの表面に前記樹脂部を形成する溶融樹脂を流し、当該補強シートの表面を前記溶融樹脂で被覆する樹脂被覆工程と、を有している。
【0018】
請求項に記載のタイヤの製造方法では、補強シート取付け工程と、樹脂被覆工程と、を含んでいる。補強シート取付け工程では、ベルトの形状に合わせて形成された筒状の補助プレートの外周面に、補強部を形成する補強シートを取付ける。ここで、「補強シート」とは、上記カーボン繊維を含む補強コードにより構成されたベルト骨格を形成する編み込まれた織布のことを指す。そして、樹脂被覆工程では、補助プレートの外周面に取付けられた補強シートの表面に、樹脂部を形成する溶融樹脂を流し、当該補強シートの表面及び編み込まれた補強コード間の隙間を溶融樹脂で被覆する。溶融樹脂が固化すると補強シートは樹脂によって被覆された状態となり、補強部及び樹脂部を含んで構成されたベルトが形成される。
【0019】
請求項に記載のタイヤの製造方法は、請求項に記載のタイヤの製造方法において、前記補強シート取付け工程の前に、前記補助プレートの外周面に請求項に記載の樹脂層を形成する樹脂シートを取付ける樹脂シート取付け工程が設けられている。
【0020】
前述のように、補助プレートの外周面に補強シートを取付けた後、当該補強シートの表面(外周面)に溶融樹脂を流し、補強シートの表面(編み込まれた補強コード間の隙間を含む)を溶融樹脂で被覆する製法により、補強シートの表面は樹脂で被覆された状態となるが、補強シートの内周面側は被覆できない可能性がある。これを解決する手段として、予め樹脂シートを補強シートの内周面側に設置する。
【0021】
このため、請求項に記載のタイヤの製造方法では、補強シート取付け工程によって補助プレートの外周面に補強シートが取付けられる前に、樹脂シート取付け工程により、補助プレートの外周面に樹脂層を形成する樹脂シートを取付けている。これにより、ベルトのタイヤ径方向内側には樹脂層が形成されることとなり、この樹脂層を介して、タイヤ骨格部材のタイヤ径方向外側にベルトを接合することとなり、接合強度が増す効果が発現する。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のタイヤ及びタイヤの製造方法は、耐久性をより向上させることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態に係るタイヤを示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
図2】本実施の形態に係るタイヤにおけるベルト部分の構造を示す要部拡大断面図である。
図3】(A)〜(D)は、本実施の形態に係るタイヤにおけるベルトの製造方法を示す斜視図である。
図4】(A)〜(C)は、本実施の形態に係るタイヤにおけるベルトの製造方法を示す要部拡大断面図である。
図5】本実施の形態に係るタイヤにおけるベルトの変形例を示す図2に対応する要部拡大断面図である。
図6】(A)〜(C)は、本実施の形態に係るタイヤにおけるベルトの変形例を示す製造方法の斜視図である。
図7】比較例を示す図2に対応する要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図面において、矢印R方向はタイヤ径方向を示し、矢印W方向はタイヤ幅方向を示す。タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸(図示せず)と直交する方向を意味する。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向を意味し、タイヤ幅方向をタイヤ軸方向と言い換えることもできる。さらに、図面において、CLはタイヤ赤道面を示す。
【0025】
また、各部の寸法測定方法は、JATMA(日本自動車タイヤ協会)が発行する2018年度版YEAR BOOKに記載の方法による。使用地又は製造地において、TRA規格、ETRTO規格が適用される場合は、各々の規格に従う。
【0026】
<タイヤの構成>
(タイヤ)
まず、図1を用いて、本発明の一実施形態に係るタイヤ10の構成について説明する。
【0027】
図1に示されるように、本実施形態に係るタイヤ10は、例えば、乗用車に用いられる所謂ラジアルタイヤであり、ビードコア12が埋設された一対のビード部20を備え、一方のビード部20と他方のビード部(図示省略)との間に、後述する1枚のカーカスプライ14からなるカーカス(タイヤ骨格部材)16が跨っている。なお、図1は、タイヤ10の空気充填前の自然状態の形状を示している。
【0028】
カーカスプライ14は、タイヤ10のラジアル方向に延びる複数本のコード(図示せず)をコーティングゴム(図示せず)で被覆して形成されている。即ち、本実施形態のタイヤ10は、所謂ラジアルタイヤである。カーカスプライ14のコードの材料は、例えば、PETであるが、従来公知の他の材料であっても良い。
【0029】
カーカスプライ14は、タイヤ幅方向(矢印W方向)の端部分がビードコア12をタイヤ径方向(矢印R方向)外側に折り返されている。また、カーカスプライ14は、一方のビード部20から他方のビード部(図示省略)に跨る部分が本体部14Aと呼ばれ、ビードコア12から折り返されている部分が折り返し部14Bと呼ばれる。
【0030】
そして、カーカスプライ14の本体部14Aと折返し部14Bとの間には、ビードコア12からタイヤ径方向外側に向けて厚さが漸減するビードフィラー18が配置されている。このビードフィラー18の形成によりビード部20の剛性が向上している。
【0031】
ここで、カーカス16のタイヤ内側には、ゴムからなるインナーライナー22が配置されている。カーカス16のタイヤ幅方向両外側には、ゴム材料からなるサイドゴム層24がそれぞれ設けられており、当該サイドゴム層24とサイドゴム層24の間に、クラウン部23が設けられている。このクラウン部23は、ビード部20からクラウン部23に向かってタイヤ軸方向外側に凸となるように緩やかに湾曲しており、クラウン部23は、そのタイヤ径方向外側に配設されるトレッド36の支持部となっている。
【0032】
なお、本実施形態では、ビードコア12、カーカス16、ビードフィラー18、インナーライナー22、及びサイドゴム層24によってタイヤケース25が構成されている。すなわち、タイヤケース25は、タイヤ10の骨格を成すタイヤ骨格部材のことである。
【0033】
(ベルト)
次に、図2を用いて、本発明の一実施形態に係るベルト26について説明する。
【0034】
図2に示されるように、ベルト26は、カーカス16のクラウン部23の外側、つまり、カーカス16のタイヤ径方向(矢印R方向)外側において、当該クラウン部23のタイヤ軸方向の略全域に亘って設けられている。
【0035】
本実施形態では、ベルト26は、補強部28及び樹脂部32を含んで構成されている。補強部28は、カーボン繊維によって形成された補強コード30が編み込まれた織布によって互いに交錯した状態で形成されており、当該補強部28は樹脂部32によって覆われている。ここで、補強コード30は、カーカスプライ14のコードよりも太く、かつ、引張強度が高いものを用いることが好ましく、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)で構成することができる。
【0036】
一方、補強コード30を被覆する樹脂部32には、サイドゴム層24を構成するゴム材料、及びトレッド36を構成するゴム材料よりも引張弾性率の高い樹脂材料が用いられている。補強コード30を被覆する樹脂部32としては、弾性を有する熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)、及び熱硬化性樹脂等を用いることができ、走行時の弾性と製造時の成形性を考慮すると、熱可塑性エラストマーを用いることが望ましい。
【0037】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)等が挙げられる。
【0038】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。さらに、熱可塑性樹脂材料としては、例えば、ISO75−2又はASTM D648に規定されている荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)が78°C以上、JIS K7113に規定される引張降伏強さが10MPa以上、同じくJIS K7113に規定される引張破壊伸び(JIS K7113)が50%以上、JIS K7206に規定されるビカット軟化温度(A法)が130°C以上であるものを用いることができる。
【0039】
補強コード30を被覆する樹脂部32の引張弾性率(JIS K7113:1995に規定される)は、100MPa以上が好ましい。また、補強コード30を被覆する樹脂部32の引張弾性率の上限は、1000MPa以下とすることが好ましい。なお、補強コード30を被覆する樹脂部32の引張弾性率は、200〜700MPaの範囲内が特に好ましい。
【0040】
また、本実施形態のベルト26の厚さ寸法は、補強コード30の直径寸法よりも大きくすることが好ましい、言い換えれば、補強コード30が完全に樹脂部32に埋設されていることが好ましい。ベルト26の厚さ寸法は、空気入りタイヤ10が乗用車用の場合、具体的には、0.70mm以上とすることが好ましい。
【0041】
そして、当該ベルト26のタイヤ径方向外側には、トレッド36が配置され、トレッド36に用いるゴム材料は、従来一般公知のものが用いられる。また、トレッド36には、排水用の溝36Aが形成されており、トレッド36のパターンも従来一般公知のものが用いられる。
【0042】
(タイヤの製造方法)
次に、本実施形態のタイヤ10の製造方法の一例を説明する。
【0043】
まず、公知のタイヤ成形ドラム(不図示)の外周面に、図1で示すゴム材料からなるインナーライナー22、ビードコア12、ゴム材料からなるビードフィラー18、コードをゴム材料で被覆したカーカスプライ14、及びサイドゴム層24からなる未加硫のタイヤケース25を形成する。ここまでの製造方法は、従来通りである。
【0044】
以下に、図3(A)〜(D)及び図4(A)〜(C)を用いて、本実施形態に係るベルト26の製造工程の一例を説明する。
【0045】
まず、図3(A)の左図に示されるように、円筒状に形成されたベルト成形ドラム40の外周面40Aに、図3(A)の右図に示される環状の補助プレート42を嵌め込む(補助プレート取付け工程)。なお、図3(B)の左図には、補助プレート42がベルト成形ドラム40の外周面40Aに嵌め込まれた状態が示されている。当該補助プレート42は、耐熱性部材で形成されており、本実施形態では金属で形成されている。
【0046】
また、図4(A)〜(C)には、外周面40Aに補助プレート42が嵌め込まれたベルト成形ドラム40において、タイヤ軸方向(矢印W方向)に沿って切断されたときの断面形状(タイヤ軸方向断面形状)が示されている。図4(A)に示されるように、補助プレート42の外周面42Aは、タイヤ軸方向断面形状が円弧状(曲率半径R)となるように形成されており、図2に示されるように、カーカス16に設けられたクラウン部23の形状に合わせて形成されている。
【0047】
次に、図3(B)の左図に示されるように、ベルト成形ドラム40の外周面40Aに嵌め込まれた補助プレート42の外周面42Aに、図3(B)の右図に示されるように、補強コード30が編み込まれて形成された織布であり環状の補強シート(補強部)44を巻き付ける(補強シート取付け工程)。なお、図3(C)の左図には、補強シート44が補助プレート42の外周面42Aに巻き付けられた状態が示されており、図4(B)には、そのタイヤ軸方向断面形状が示されている。
【0048】
ここで、補強シート44を構成する補強コード30は、カーボン繊維によって形成されている。また、当該補強シート44は必ずしも環状である必要はなく、図示はしないが、補助プレート42の外周面42Aに長尺状の補強シート44を巻き付けた状態で補強シート44の両端部を仮止めし、当該補強シート44を補助プレート42の外周面42Aに取付けてもよい。
【0049】
そして、図3(C)の左図に示されるように、補助プレート42の外周面42Aに補強シート44が巻き付けられた補助プレート42をベルト成形ドラム40の外周面40Aから取り外す(補助プレート取外し工程)。なお、図3(C)の右図には、補強シート44が巻き付けられた補助プレート42がベルト成形ドラム40の外周面40Aから取り外された状態が示されている。
【0050】
次に、図3(D)の左図に示されるように、補助プレート42の外周面42Aに巻き付けられた補強シート44に3Dプリンタ46を用いて溶融樹脂48を吐出させ、補強シート44の表面(編み込まれた補強コード30間の隙間を含む)を溶融樹脂48で覆う(樹脂被覆工程)。
【0051】
そして、補強シート44の表面を覆う溶融樹脂48が固化すると、補強シート44は樹脂部32によって被覆された状態となる(図4(C)参照)。この状態で、図3(D)の右図に示されるように、補助プレート42を取り外しベルト26が形成される(ベルト取外し工程)。
【0052】
そして、図示はしないが、当該ベルト26は、タイヤ成形ドラムのタイヤケースの径方向外側に配置し、タイヤケースを拡張してタイヤケースの外周面、言い換えればカーカス16の外周面をベルト26の内周面に圧着する。最後に、ベルト26の外周面に、一般のタイヤと同様に未加硫のトレッド36を貼り付け、生タイヤが完成する。このようにして製造された生タイヤは、一般のタイヤと同様に加硫成形モールドで加硫成形され、タイヤ10が完成する。
【0053】
<タイヤの作用、効果>
次に、本実施の形態に係るタイヤ10の作用、効果について説明する。
【0054】
比較例として例示する構成は、図7に示されるように、補強コード104が樹脂部106により被覆されて形成された樹脂被覆コード108のスパイラル構造からなり、タイヤ軸方向(矢印W方向)に隣接する樹脂部106が溶着等で一体化された樹脂スパイラルベルト102をカーカス100の外周面(タイヤ径方向外側)に配置した構成である。この構成では、路面接地時のショルダー部110の繰り返し変形により、タイヤ軸方向に隣接する隣接面108A、108B同士が溶着された樹脂溶着部119に応力集中する可能性があるため、応力集中を緩和する構成を検討する必要がある。
【0055】
特に、カーカス100に設けられたクラウン部112において、タイヤ軸方向(矢印W方向)に沿って切断されたときの断面(タイヤ軸方向断面)の形状が円弧状(曲率半径R)である場合、図示はしないが、カーカス100のタイヤ軸方向の両端部では、互いに隣接する樹脂被覆コード108間において、径差により中央部側よりも段差や隙間が形成される可能性がある。このように、当該樹脂被覆コード108間において、段差や隙間が形成された場合、樹脂部106同士の溶着面積が十分に確保されないことが懸念される。
【0056】
このため、本実施形態では、図2に示されるように、ベルト26は、補強部28と樹脂部32を含んで構成されており、ベルト26の補強部28は、補強コード30が交錯して形成されると共に、当該補強コード30が樹脂部32によって覆われている。
【0057】
これにより、交錯した補強コード30と樹脂部32とが一体化され、互いに交錯する補強コード30間において、比較例としての図7で示す樹脂同士の溶着部119自体をなくすことができる。その結果、図2で示す補強コード30(補強部28)及び樹脂部32を含んで構成されるベルト26では、当該ベルト26自体の剛性を向上させることができ、このベルト26を備えたタイヤ10の耐久性を向上させることが可能となる。
【0058】
また、ベルト26自体の剛性を向上させることで、ベルト26のタイヤ幅方向の面内剪断剛性を確保することができる。そして、ベルト26のタイヤ幅方向の面内剪断剛性が確保されることにより、タイヤ10にスリップ角を付与した場合の横力を十分に発生させることができる。したがって、当該タイヤ10を備えた車両では、操縦安定性を確保することができ、また、応答性も向上させることができる。
【0059】
さらに、ベルト26自体の剛性が向上することで、ベルト26の面外曲げ剛性が向上し、いわゆる突起乗り越し等によるトレッド36のバックリング(トレッド36の一部が路面から離間する現象)によるベルト26の割れを抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、当該ベルト26を備えたタイヤ10の耐久性を向上させることが可能となる。
【0060】
なお、カーカス16に設けられたクラウン部23は、必ずしもタイヤ軸方向断面の形状が円弧状である場合に限らず、直線状であってもよく、クラウン部23のタイヤ軸方向断面の形状が直線状であったとしても、円弧状であった場合と略同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態では、補強コード30が少なくとも一部がカーボン繊維で形成されている。例えば、図示はしないが、カーカス16のタイヤ径方向外側に設けられたベルト26がカーボン繊維のみで形成された場合、コストが増大してしまう。このため、本実施形態では、ベルト26における骨格のみを補強部28としてカーボン繊維が用いられている。これにより、コストを抑制しつつベルト26の剛性を担保することが可能となる。
【0062】
さらに、本実施形態では、補強部28としてカーボン繊維が編み込まれて形成された織布が用いられている。これにより、ベルト26の剛性をさらに向上させることが可能となる。但し、このカーボン繊維は必ずしも織布である必要はない。
【0063】
また、本実施形態では、カーカス16のタイヤ径方向外側には補強部28が設けられている。ここで、当該補強部28を構成する補強コード30が金属やカーボン等で形成された場合、カーカス16のタイヤ径方向外側に直接補強部28を接合させることは困難である。
【0064】
一方、以上の実施形態では、補強部28は樹脂部32によって覆われているが、本実施形態における「覆う」では、少なくとも補強部28の一部が樹脂部32で覆われていればよい。図3(D)に示されるように、補助プレート42の外周面42Aに補強シート44を取付けた後、当該補強シート44の表面(編み込まれた補強コード30間の隙間を含む)に溶融樹脂48を流し、補強シート44の表面を溶融樹脂48で被覆する製法により、補強シート44の表面は樹脂部32で被覆された状態となる。この場合、樹脂部32において、補強コード30のカーカス16側の樹脂が少ない場合も考えられる。このため、本実施形態では、例えば、図5に示されるように、カーカス16と補強部28の間に別途樹脂層50を設け、当該樹脂層50及び樹脂部32を介して、カーカス16のタイヤ径方向外側に補強部28が接合されるようにしてもよい。
【0065】
これにより、仮に、製造上、補強コード30のカーカス16側に樹脂部32を設けることができない場合があったとしても、補強コード30のカーカス16側に別途樹脂層50を設けるようにすることで、当該樹脂層50及び補強コード30が樹脂部32を介して、カーカス16のタイヤ径方向外側に補強部28が接合されることとなり接合強度が増す効果が発現する。すなわち、本実施形態によれば、ベルト26の製造方法及び素材において、選択の自由度をさらに向上させることができる。
【0066】
なお、この場合、例えば、前述したベルト26の製造工程において、図3(A)、図6(A)で示す補助プレート取付け工程の後、つまり、図3(B)右図、図6(C)右図で示す補強シート取付け工程の前に、図3(B)左図、図6(B)左図に示される補助プレート42の外周面42Aに、図6(B)右図に示される樹脂シート(樹脂層)52を巻き付ける(樹脂シート取付け工程)。なお、図6(C)の左図には、補強シート44が補助プレート42の外周面42Aに巻き付けられた状態が示されている。この樹脂シート52は、補強シート44と同様、必ずしも環状である必要はない。
【0067】
(本実施形態の変形例)
また、本実施形態では、図3(C)に示されるように、補助プレート42の外周面42Aに補強シート44が巻き付けられた状態で、図3(D)に示されるように、当該補強シート44に溶融樹脂48を吐出させ、補強シート44の表面を溶融樹脂48で覆い、補強部28及び樹脂部32を含むベルト26を形成しているが、当該ベルト26の製造方法はこれに限るものではない。
【0068】
例えば、図示はしないが、インサート成形や二色成形によって、補強シート44の表面が樹脂部32によって覆われるように形成してもよい。なお、二色成形によれば、図2に示す補強シート44の表面が、補強コード30のカーカス16側及びその反対側において、略同じ肉厚で樹脂部32によって覆われるようにすることができる。
【0069】
また、本実施形態では、図5に示す樹脂層50を構成する樹脂の材料として、ベルト26の樹脂部32と同じ樹脂材料を用いることができるが、樹脂層50はベルト26の樹脂部32と溶着できればよく、場合によっては樹脂部32とは同種の樹脂材料で硬さの異なるものを用いたり、樹脂部32とは異なる種類の樹脂材料を用いたりしてもよい。
【0070】
上記実施形態のベルト26は、一般的なタイヤに限らず、サイド部を補強ゴムで補強したランフラットタイヤに用いることもできる。また、上記実施形態の樹脂層50とベルト26とが接合されているが、溶着による接合でもよいし、接着剤を用いた接合でもよい。
【0071】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
10…タイヤ、16…カーカス(タイヤ骨格部材)、25…タイヤケース(タイヤ骨格部材)、26…ベルト、28…補強部、30…補強コード、32…樹脂部、44…補強シート(補強部)、52…樹脂シート(樹脂層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7