(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
停止した内燃機関を始動するにあたり、内燃機関を電動機により回転駆動するクランキングを行いながら気筒に対して燃料を噴射し、エンジン回転数が閾値以上に上昇したならばクランキングを終了する一方、クランキングを開始してから上限時間内にエンジン回転数が閾値以上に上昇しなかったならばクランキング及び燃料噴射を中止するものであって、
クランキングの開始からエンジン回転数が閾値以上に上昇するまでに要した時間を計測し、その計測した所要時間に応じて前記上限時間を増減させることとし、
今回新たに得る前記上限時間の学習値Anと直近の過去に学習した上限時間の学習値An-1との差分(An−An-1)を、前記所要時間が長いほど大きくし、
前記上限時間An(T)を、内燃機関の始動時の温度T毎に設定することとし、
内燃機関の始動時の温度がある値T0であるときに始動を実行し計測した前記所要時間Cnを基に、内燃機関の始動時の温度が同値T0である場合における前記上限時間An(T0)とともに、内燃機関の始動時の温度Tが他の値である場合における前記上限時間An(T)をも、下式に則って増減させる内燃機関の制御装置。
なお、添字nは今回の学習機会を表し、添字n−1は直近の過去の学習機会を表し、B(T)は始動時温度T下における前記所要時間の平均であり、k(T)は始動時温度Tに応じた1よりも小さい正数である。
Bn(T)=Bn-1(T)+k(T)×α×(An-1(T)−Bn-1(T))
An(T)=An-1(T)+k(T)×α×(An-1(T)−Bn-1(T))
α=(Cn−Bn-1(T0))/(An-1(T0)−Bn-1(T0))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クランキング中の電動機は過負荷で稼働しており、かつ大きな電力を消費する。そこで、クランキングを開始してから、ある程度以上の時間が経過してもなお完爆に至らない場合には、電動機によるクランキング及び燃料噴射を中止することにより、電動機及びバッテリの保護を図るとともに燃料の浪費を抑制し、内燃機関の始動の再試行に備える。
【0005】
従来の始動制御では、クランキングの開始後内燃機関が完爆に至らない場合において、クランキングを継続する時間の上限は、内燃機関の温度に応じて設定していた。具体的には、内燃機関の始動時の温度が低いほど、長い時間クランキングを続行する。しかしながら、内燃機関の温度による調整を除けば、クランキングを継続する上限時間の長さは恒常的に一定であった。
【0006】
一方で、内燃機関の始動のしやすさ、換言すればエンジン回転の加速のしやすさは、内燃機関、電動機及びバッテリの経年劣化を含む個体差の影響を受ける。比較的始動しにくい個体に対して、クランキングを継続する上限時間を短く設定してしまうと、本来であれば始動を完遂できるはずであるにもかかわらず、中途でクランキングを打ち切ることとなって内燃機関の始動不良を招く。逆に、比較的始動しやすい個体に対して、クランキングを継続する上限時間を徒に長く設定することは、偶発的に始動が失敗する場合に電動機及びバッテリの損耗を早め、また無駄に燃料を消費することにもなる。
【0007】
本発明は、内燃機関の始動のためのクランキングを継続する時間の上限を適正化することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するべく、本発明では、停止した内燃機関を始動するにあたり、内燃機関を電動機により回転駆動するクランキングを行いながら気筒に対して燃料を噴射し、エンジン回転数が閾値以上に上昇したならばクランキングを終了する一方、クランキングを開始してから上限時間内にエンジン回転数が閾値以上に上昇しなかったならばクランキング及び燃料噴射を中止するものであって、クランキングの開始からエンジン回転数が閾値以上に上昇するまでに要した時間を計測し、その計測した所要時間に応じて前記上限時間を増減させる
こととし、今回新たに得る前記上限時間の学習値Anと直近の過去に学習した上限時間の学習値An-1との差分(An−An-1)を、前記所要時間が長いほど大きくする内燃機関の制御装置を構成した。
【0009】
好ましくは、前記上限時間
An(T)を、内燃機関の始動時の温度
T毎に設定することとし、内燃機関の始動時の温度がある値
T0であるときに始動を実行し計測した前記所要時間
Cnを基に、内燃機関の始動時の温度が同値
T0である場合における前記上限時間
An(T0)とともに、内燃機関の始動時の温度
Tが他の値である場合における前記上限時間
An(T)をも
、下式に則って増減させる。
なお、添字nは今回の学習機会を表し、添字n−1は直近の過去の学習機会を表し、B(T)は始動時温度T下における前記所要時間の平均であり、k(T)は始動時温度Tに応じた1よりも小さい正数である。
Bn(T)=Bn-1(T)+k(T)×α×(An-1(T)−Bn-1(T))
An(T)=An-1(T)+k(T)×α×(An-1(T)−Bn-1(T))
α=(Cn−Bn-1(T0))/(An-1(T0)−Bn-1(T0))
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内燃機関の始動のためのクランキングを継続する時間の上限を適正化できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(例えば、三気筒。
図1には、そのうち一つを図示)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0013】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0014】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0015】
外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置2は、いわゆる高圧ループEGRを実現するものである。EGR装置2は、排気通路4における触媒41の上流側と吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流側とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における排気マニホルド42またはその下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所、具体的にはサージタンク33に接続している。
【0016】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0017】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサ(エンジン回転センサ)から出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(運転者が要求するエンジン出力、いわば要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサまたはマスタシリンダから吐出される作動液の圧力であるマスタシリンダ圧を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、内燃機関の温度を示唆する冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、大気圧を検出する大気圧センサから出力される大気圧信号h等が入力される。
【0018】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l等を出力する。
【0019】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを出力インタフェースを介して印加する。
【0020】
また、ECU0は、イグニッションキー(または、イグニッションスイッチ)がOFFからONに操作されたことに伴い、停止した内燃機関を冷間始動するに際して、電動機(スタータモータまたはISG(Integrated Starter Generator)。図示せず)に制御信号oを入力し、当該電動機によりクランクシャフトを回転駆動するクランキングを行う。クランキングは、内燃機関が初爆から連爆へと至り、エンジン回転数が内燃機関の温度(特に、冷却水温)等に応じて定まる閾値を超えたときに、内燃機関が完爆したものと見なして終了する。
【0021】
しかしながら、何らかの理由により内燃機関の始動に失敗、即ちクランキングを開始してから上限時間内にエンジン回転数が閾値以上に上昇しなかった場合には、それ以上クランキングを続行せず、電動機を停止させて始動処理を中止する。
【0022】
その上で、本実施形態のECU0は、内燃機関の始動に成功した場合において、クランキングの開始からエンジン回転数が閾値以上に上昇するまでに要した時間を計測し、その計測した所要時間の履歴を基に、上記の上限時間を増減させる。
【0023】
詳述すると、ECU0は、内燃機関の冷間始動に成功する都度、始動のためのクランキングに要した時間の平均B(T)、及び以後の内燃機関の始動においてクランキングを継続する時間の上限A(T)の学習を行う。一般に、上限時間A(T)は、過去に計測したクランキングの所要時間の平均B(T)に安全余裕を加味したものである。故に、上限時間A(T)は、平均所要時間B(T)よりも長くなる。
図2に示しているように、平均所要時間B(T)及び上限時間A(T)はそれぞれ、内燃機関の始動時の温度Tに応じて変動する。原則として、始動時の温度Tが低いほど、内燃機関のフリクションロスが大きくなることから、平均所要時間B(T)は長くなり、それとともに上限時間A(T)も長くなる。ECU0は、内燃機関の始動時の温度T毎に、平均所要時間B(T)及び上限時間A(T)の学習値を学習してメモリに記憶保持する。
【0024】
本実施形態のECU0は、下式[1]及び[2]に則って、平均所要時間B(T)及び上限時間A(T)の学習値を算定する。
B
n(T)=B
n-1(T)+k(T)×α×(A
n-1(T)−B
n-1(T)) ……[1]
A
n(T)=A
n-1(T)+k(T)×α×(A
n-1(T)−B
n-1(T)) ……[2]
添字nは今回の学習機会を表し、添字n−1は直近の過去の学習機会を表している。上式[1]及び[2]は、直近の過去に学習した学習値B
n-1(T)及びA
n-1(T)を、今回新たに得られる学習値B
n(T)及びA
n(T)によって更新することを意味している。
【0025】
係数k(T)は、内燃機関の始動時の温度Tに応じた学習反映率であって、1よりも小さい正数である。
図3に例示するように、始動時の温度Tが高い場合の係数k(T)は、始動時の温度Tがより低い場合の係数k(T)よりも小さくなる。
【0026】
係数αは、内燃機関の始動が成功したときに計測した、クランキングの開始からエンジン回転数が閾値以上に上昇するまでの所要時間C
nにより決定する。ECU0は、係数αを、下式[3]に則って求める。
α=(C
n−B
n-1(T
0))/(A
n-1(T
0)−B
n-1(T
0)) ……[3]
係数αは、今回の始動に要した実測の所要時間C
nが、平均所要時間B(T)からどの程度乖離しているかを示す。T
0は、今回の学習機会における内燃機関の始動時の温度である。B
n-1(T
0)及びA
n-1(T
0)はそれぞれ、内燃機関の始動時の温度T=T
0の条件の下でのB
n-1(T)及びA
n-1(T)である。
【0027】
既に述べた通り、本実施形態のECU0は、内燃機関の始動に成功する都度、学習値B
n(T)及びA
n(T)の学習を実行する。このとき、ECU0は、今回の始動時の内燃機関の温度T
0に対応する学習値B
n(T
0)及びA
n(T
0)のみならず、始動時の温度T≠T
0の条件の下での学習値B
n(T)及びA
n(T)をも一斉に算出して、それら学習値B
n(T)及びA
n(T)をメモリに記憶する。T
0以外の温度Tに対応した学習値B
n(T)及びA
n(T)を演算するにあたり、係数k(T)には、そのT
0以外の温度Tの条件下での係数k(T)を充てる。一方で、係数αには、今回の学習機会における内燃機関の始動時の温度T
0の条件下でのB
n-1(T
0)、A
n-1(T
0)及び実測の所要時間C
nを用いて算定した係数αを宛てる。つまり、本実施形態では、一度の学習機会において、様々な温度条件Tの下での学習値B
n(T)及びA
n(T)の算出に、共通する係数αを用いる。
【0028】
結果として、平均所要時間B
n(T)及び上限時間A
n(T)は、内燃機関の始動のためのクランキングに要した時間C
nが長いほど(または、実測の所要時間C
nが平均所要時間B
n-1(T
0)から大きく乖離しているほど)長くなり、これが短いほど(または、C
nのB
n-1(T
0)からの乖離が小さいほど)短くなる。
【0029】
但し、学習値B
n(T)及びA
n(T)に対しては、予め下限ガード値B
min(T)、A
min(T)及び上限ガード値B
max(T)、A
max(T)を設けている。ECU0は、上記の算出式[1]ないし[3]に則って算出した学習値B
n(T)が下限ガード値B
min(T)を下回るならば、学習値B
n(T)=B
min(T)としてこれをメモリに記憶し、算出した学習値B
n(T)が上限ガード値B
max(T)を上回るならば、学習値B
n(T)=B
max(T)としてこれをメモリに記憶する。同様に、算出した学習値A
n(T)が下限ガード値A
min(T)を下回るならば、学習値A
n(T)=A
min(T)としてこれをメモリに記憶し、算出した学習値A
n(T)が上限ガード値A
max(T)を上回るならば、学習値A
n(T)=A
max(T)としてこれをメモリに記憶する。
【0030】
下限ガード値B
min(T)、A
min(T)及び上限ガード値B
max(T)、A
max(T)はそれぞれ、内燃機関の始動時の温度Tに依存する。
図4に例示するように、始動時の温度Tが高い場合のガード値B
min(T)、A
min(T)、B
max(T)、A
max(T)は、始動時の温度Tがより低い場合のガード値B
min(T)、A
min(T)、B
max(T)、A
max(T)よりも小さくなる。
【0031】
停止している内燃機関の始動に際しては、ECU0が、そのときの内燃機関の温度Tに対応する上限時間A(T)の学習値をメモリから読み出し、クランキングを実行する。クランキングの開始からその上限時間A(T)が経過するまでの間にエンジン回転数が閾値以上に上昇したならば、内燃機関の始動に成功したものとして、クランキングを終了し(燃料噴射及び点火燃焼による内燃機関の運転は続行することは言うまでもない)、計測した所要時間C
nを用いて平均所要時間B(T)及び上限時間A(T)の学習、更新を行う。翻って、クランキングの開始から上限時間A(T)が経過するまでの間にエンジン回転数が閾値以上に上昇しなかったならば、内燃機関の始動に失敗したものとして、クランキング及び燃料噴射を中止する。
【0032】
本実施形態では、停止した内燃機関を始動するにあたり、内燃機関を電動機により回転駆動するクランキングを行いながら気筒1に対して燃料を噴射し、エンジン回転数が閾値以上に上昇したならばクランキングを終了する一方、クランキングを開始してから上限時間A(T)内にエンジン回転数が閾値以上に上昇しなかったならばクランキング及び燃料噴射を中止するものであって、クランキングの開始からエンジン回転数が閾値以上に上昇するまでに要した時間C
nを計測し、その計測した所要時間C
nに応じて前記上限時間A(T)を増減させる内燃機関の制御装置0を構成した。
【0033】
本実施形態によれば、内燃機関及び電動機の個体差を加味して、始動のためのクランキングを継続する時間の上限A(T)を最適化できる。比較的始動しにくい個体に対しては、クランキングを継続する上限時間A(T)をより延長し、内燃機関の始動の中途でクランキングを打ち切ることなく始動を完遂することが可能となる。他方、比較的始動しやすい個体に対しては、クランキングを継続する上限時間A(T)をより短縮し、偶発的に始動が失敗する場合の電動機及びバッテリの損耗を抑制し、内燃機関の始動の再試行に備えることが可能となる。加えて、無駄な燃料の浪費も避けられる。
【0034】
また、本実施形態では、前記上限時間A(T)を、内燃機関の始動時の温度T毎に設定することとし、内燃機関の始動時の温度Tがある値T
0であるときに始動を実行し計測した前記所要時間C
nを基に、内燃機関の始動時の温度Tが同値T
0である場合における前記上限時間A(T
0)とともに、内燃機関の始動時の温度Tが他の値である場合における前記上限時間A(T)をも増減させるようにしている。これにより、一度の学習機会において、始動時の温度T=T
0の条件の下での上限時間A(T
0)だけでなく、始動時の温度T≠T
0の条件の下での上限時間A(T)をも更新することが可能となり、様々な温度条件Tに対応する上限時間A(T)の学習回数が実効的に増加し、実現する頻度の低い温度条件Tについての上限時間A(T)の学習も行い得る。ひいては、上限時間A(T)の値の精度がより一層高まる。
【0035】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成や処理の内容等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。