(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の方法は、サテライト滴が微小な大きさであるので、スキャナの解像度が低いと主滴とサテライト滴とを正確に区別できない。したがって、比較的高価な高解像度のスキャナを用いなければ、主滴からサテライト滴までの距離を正確に測定できず、電圧補正の精度を向上できないという問題がある。
【0007】
さらに、サテライト滴がなくなる、あるいはサテライト滴が主滴に極力近くなるように補正することになるので、主滴が小さくなり過ぎてインク滴の濃度が仕様を満たさなくなる恐れがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、テストチャート画像の輝度分布に基づいてサテライト滴の特徴点を抽出することにより、比較的低解像度のスキャナを用いつつも電圧補正の精度を向上できるとともに、インク滴のサイズを考慮することにより、インク滴の濃度が仕様を満たすことができるインクジェット印刷装置のヘッド電圧補正方法及びそれを用いた装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、
所定の搬送方向に搬送される印刷媒体に対して
ヘッドからインク滴を吐出して印刷を行うインクジェット印刷装置のヘッド電圧補正方法において、所定濃度となるインク滴を吐出するための基準電圧に対して、所定ステップで電圧を変位させた駆動電圧を前記ヘッドに与えることにより、前記ヘッドからインク滴を吐出させて、異なる駆動電圧ごとにテストチャートを印刷させる過程と、前記各テストチャートを読み取って前記テストチャートごとにテストチャート画像を取り込む過程と、前記各テストチャート画像について、主滴とサテライト滴の輝度分布に基づき、駆動電圧ごとにサテライト滴の有無を判定する過程と、サテライト滴が存在する駆動電圧の前記テストチャート画像について、前記輝度分布に基づき駆動電圧ごとに主滴とサテライト滴の距離を求める過程と、前記駆動電圧ごとの距離と、前記取り込む過程において主滴とサテライト滴の距離が接近し1個のインク滴と見なせる最大の距離である距離閾値との関係から、前記距離閾値を満たす駆動電圧として距離基準駆動電圧を求める過程と、前記各テストチャート画像について、主滴とサテライト滴の輝度分布に基づき駆動電圧ごとにインク滴のサイズを求める過程と、前記駆動電圧ごとのインク滴のサイズと、仕様で決められた濃度が得られる面積であるサイズ閾値との関係から、前記サイズ閾値を満たす駆動電圧としてサイズ基準駆動電圧を求める過程と、前記距離基準駆動電圧と、前記サイズ基準駆動電圧とを比較して、大きな方を前記基準電圧として補正する過程と、を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づいて駆動電圧ごとにサテライト滴の有無を判定し、サテライト滴が存在する駆動電圧のテストチャートについて、駆動電圧ごとに主滴とサテライト滴との距離を求め、駆動電圧ごとの距離と距離閾値との関係から、距離閾値を満たす距離基準駆動電圧を求める。また、異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づき駆動電圧ごとにインク滴のサイズを求め、駆動電圧ごとのインク滴のサイズとサイズ閾値との関係から、サイズ閾値を満たすサイズ基準駆動電圧を求める。そして、距離基準駆動電圧と、サイズ基準駆動電圧とを比較して大きな方で元の基準電圧を置き換える。テストチャート画像の輝度分布に基づいてサテライト滴の特徴点を抽出してサテライト滴の距離を求めるので、比較的低解像度の画像取り込み部であっても電圧補正の精度を向上できる。また、距離基準駆動電圧とサイズ基準駆動電圧のうち大きな方で元の基準電圧を置き換えるので、基準電圧は、距離閾値とサイズ閾値とをともに満たす駆動電圧となる。したがって、印刷品質を低下させずにインク滴の濃度の仕様を満たすことができる。
【0011】
また、本発明において、前記サテライト滴の有無を判定する過程は、前記各テストチャート画像について、前記主滴と前記サテライト滴の輝度分布に基づきサテライト滴の特徴点を抽出し、駆動電圧ごとにサテライト滴の有無を判定し、前記距離を求める過程は、サテライト滴が存在する駆動電圧の前記テストチャート画像について、前記特徴点に基づいて駆動電圧ごとに主滴とサテライト滴の距離を求めることが好ましい(請求項2)。
【0012】
サテライト滴の有無及び主滴とサテライト滴の距離を、サテライト滴の特徴点に基づいて判定するので、テストチャート画像の解像度が低くても精度よく有無及び距離を求められる。
【0013】
また、本発明において、前記サテライト滴の有無を判定する過程は、前記テストチャート画像における輝度分布の変化点を求め、変化点が3個以上であればサテライト滴があると判定することが好ましい(請求項3)。
【0014】
主滴の前後部分と、サテライト滴の前部分で輝度分布の変化点が生じるので、変化点の個数を計数するだけで、容易にサテライト滴があると判定できる。
【0015】
また、本発明において、前記変化点が3個以上の場合には、前記変化点のうち搬送方向の下流側から2個目と3個目との長さを前記距離とすることが好ましい(請求項4)。
【0016】
変化点の内下流側から2個目と3個目の長さを、主滴とサテライト滴の距離とすることで、比較的低解像度の画像取り込み部であってもほぼ正確に主滴とサテライト滴との間の距離を求めることができる。
【0017】
また、本発明において、前記距離基準駆動電圧を求める過程は、前記駆動電圧ごとの距離を近似する近似式と、前記距離閾値の直線との交点に対応する電圧値を前記距離基準駆動電圧とすることが好ましい(請求項5)。
【0018】
駆動電圧ごとの離散的な距離を近似する近似式を求めることにより、近似式と距離閾値の直線との交点を求めることで、容易に距離基準駆動電圧を求めることができる。
【0019】
また、本発明において、前記サイズ基準駆動電圧を求める過程は、前記駆動電圧ごとのインク滴サイズを近似する近似式と、前記サイズ閾値の直線との交点に対応する電圧値を前記サイズ基準駆動電圧とすることが好ましい(請求項6)。
【0020】
駆動電圧ごとの離散的なインク滴サイズを近似する近似式を求めることにより、近似式とサイズ閾値の直線との交点を求めることで、容易にサイズ基準駆動電圧を求めることができる。
【0021】
また、本発明において、前記ヘッドは、前記印刷媒体の搬送方向と直交する方向に、インク滴を吐出する複数個のノズルを備え、それらのノズルが同一の駆動部で駆動される場合には、前記印刷媒体の搬送方向と直交する方向に、全ノズルによる前記テストチャートの輝度を平均化して前記輝度分布を算出することが好ましい(請求項7)。
【0022】
複数個のノズルを備え、それらのノズルが同一の駆動部で駆動される場合には、全ノズルによるテストチャートの輝度を搬送方向と直交する方向に平均化して輝度分布を求めることにより、ノズルごとのバラツキを考慮して適切に補正できる。
【0023】
また、本発明において、前記距離を求める過程は、サテライト滴が存在する駆動電圧の前記テストチャート画像について、前記搬送方向及び前記搬送方向に直交する方向について前記輝
度分布をとった二次元の輝
度分布から前記主滴の形状と前記サテライト滴の形状をそれぞれ解析し、それらに基づいて前記主滴と前記サテライト滴の前記搬送方向における距離を求めることが好ましい(請求項8)。
【0024】
二次元の輝度分布に基づき主滴とサテライト滴の距離を求めるので、特徴点を抽出するよりも比較的軽い処理負荷でその距離を求められる。
【0025】
また、請求項9に記載の発明は、ヘッドから印刷媒体に対してインク滴を吐出して印刷を行うインクジェット印刷装置において、インク滴を吐出するノズルを備え、印刷媒体にインク滴を吐出して印刷を行うヘッドと、前記ヘッドと離間して対向した位置にて印刷媒体を搬送方向に搬送する搬送手段と、前記ヘッドに基準電圧を印加してインク滴を吐出させるものであって、印刷データに応じて前記基準電圧に対して駆動電圧を変位させて前記印刷媒体に印刷を行うとともに、前記基準電圧に対して所定ステップで電圧を変位させた駆動電圧で前記印刷媒体にテストチャートを印刷させる印刷制御部と、前記印刷制御部で印刷された各テストチャートを読み取って前記テストチャートごとにテストチャート画像を取り込む画像取り込み部と、前記各テストチャート画像について、主滴とサテライト滴の輝度分布に基づき、駆動電圧ごとにサテライト滴の有無を判定し、サテライト滴が存在する駆動電圧の前記テストチャート画像について、前記輝度分布に基づいて駆動電圧ごとに主滴とサテライト滴の距離を求め、前記駆動電圧ごとの距離と、前記画像取り込み部における主滴とサテライト滴の距離が接近し1個のインク滴と見なせる距離閾値との関係から、前記距離閾値を満たす駆動電圧として距離基準駆動電圧を求める距離基準電圧算出部と、前記テストチャート画像について、主滴とサテライト滴の輝度分布に基づき駆動電圧ごとにインク滴のサイズを求め、前記駆動電圧ごとのインク滴のサイズと、仕様で決められた濃度が得られる面積であるサイズ閾値との関係から、前記サイズ閾値を満たす駆動電圧としてサイズ基準駆動電圧を求めるサイズ基準駆動電圧算出部と、前記距離基準駆動電圧と、前記サイズ基準駆動電圧とを比較して、大きな方を前記基準電圧として補正する比較補正部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0026】
[作用・効果]請求項9に記載の発明によれば、搬送手段で印刷媒体を搬送させつつヘッドからインク滴を吐出させて、印刷制御部によって基準電圧に対して駆動電圧を変位させてテストチャートを印刷させる。画像取り込み部で取り込んだ異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づいて駆動電圧ごとにサテライト滴の有無を判定し、サテライト滴が存在する駆動電圧のテストチャートについて、駆動電圧ごとに主滴とサテライト滴との距離を求め、駆動電圧ごとの距離と距離閾値との関係から、距離基準電圧算出部が距離閾値を満たす距離基準駆動電圧を求める。また、異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づき駆動電圧ごとにインク滴のサイズを求め、駆動電圧ごとのインク滴のサイズとサイズ閾値との関係から、サイズ基準駆動電圧算出部がサイズ閾値を満たすサイズ基準駆動電圧を求める。そして、比較補正部は、距離基準駆動電圧と、サイズ基準駆動電圧とを比較して大きな方で元の基準電圧を置き換える。テストチャート画像の輝度分布に基づいてサテライト滴の特徴点を抽出してサテライト滴の距離を求めるので、比較的低解像度の画像取り込み部であっても電圧補正の精度を向上できる。また、距離基準駆動電圧とサイズ基準駆動電圧のうち大きな方で元の基準電圧を置き換えるので、基準電圧は、距離閾値とサイズ閾値とをともに満たす駆動電圧となる。したがって、印刷品質を低下させずにインク滴の濃度の仕様を満たすことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るインクジェット印刷装置のヘッド電圧補正方法によれば、異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づいて駆動電圧ごとにサテライト滴の有無を判定し、サテライト滴が存在する駆動電圧のテストチャートについて、駆動電圧ごとに主滴とサテライト滴との距離を求め、駆動電圧ごとの距離と距離閾値との関係から、距離閾値を満たす距離基準駆動電圧を求める。また、異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づき駆動電圧ごとにインク滴のサイズを求め、駆動電圧ごとのインク滴のサイズとサイズ閾値との関係から、サイズ閾値を満たすサイズ基準駆動電圧を求める。そして、距離基準駆動電圧と、サイズ基準駆動電圧とを比較して大きな方で元の基準電圧を置き換える。テストチャート画像の輝度分布に基づいてサテライト滴の特徴点を抽出してサテライト滴の距離を求めるので、比較的低解像度の画像取り込み部であっても電圧補正の精度を向上できる。また、距離基準駆動電圧とサイズ基準駆動電圧のうち大きな方で元の基準電圧を置き換えるので、基準電圧は、距離閾値とサイズ閾値とをともに満たす駆動電圧となる。したがって、印刷品質を低下させずにインク滴の濃度の仕様を満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例に係るインクジェット印刷システムの全体を示す概略構成図であり、
図2は、印刷ヘッド及びテストチャートを印刷した連続紙の平面図である。
【0030】
本実施例に係るインクジェット印刷システムは、給紙部1と、インクジェット印刷装置3と、排紙部5とを備えている。
【0031】
給紙部1は、ロール状の連続紙WPを水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置3に対して連続紙WPを巻き出して供給する。インクジェット印刷装置3は、連続紙に対して印刷を行う。排紙部5は、インクジェット印刷装置3で印刷された連続紙WPを水平軸周りに巻き取る。連続紙WPの供給側を上流とし、連続紙WPの排紙側を下流とすると、給紙部1はインクジェット印刷装置3の上流側に配置され、排紙部5はインクジェット印刷装置3の下流側に配置されている。
【0032】
インクジェット印刷装置3は、給紙部1からの連続紙WPを取り込むための駆動ローラ7を上流側に備えている。駆動ローラ7によって給紙部1から巻き出された連続紙WPは、複数個の搬送ローラ9に沿って下流側の排紙部5に向かって搬送される。最下流の搬送ローラ9と排紙部5との間には、駆動ローラ11が配置されている。この駆動ローラ11は、搬送ローラ9上を搬送されている連続紙WPを排紙部5に向かって送り出す。
【0033】
インクジェット印刷装置3は、駆動ローラ7と駆動ローラ11との間に、印刷ユニット13と、乾燥部15と、スキャン部17とを上流側からその順で備えている。乾燥部15は、印刷ユニット13によって印刷された部分の乾燥を行う。スキャン部17は、印刷された部分に汚れや抜け等がないかを検査するためや、後述する基準電圧を補正するために画像やテストチャートの画像取り込みを行う。
【0034】
印刷ユニット13は、インク滴を吐出するヘッド19を備えている。印刷ユニット13は、連続紙WPの搬送方向に沿って複数個配置されているのが一般的である。例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)について個別に4個の印刷ユニット13を備えている。しかし、本実施例においては、発明の理解を容易にするために、1個の印刷ユニット13だけを備えているものとして説明する。また、印刷ユニット13は、連続紙WPの幅方向(紙面の奥手前方向)における印刷領域を移動することなく印刷できるだけの複数個のノズルを備えた1つのヘッド19を備えている。つまり、本実施例におけるインクジェット印刷装置3は、ヘッド19が連続紙WPの搬送方向に直交する方向に主走査のために移動することがなく、位置固定のままで連続紙WPを副走査方向に送りながら連続紙WPに対して印刷を行う。なお、このような構成は、1パス機と呼ばれる。ここでは、印刷ユニット13が一つのヘッド19を備えている構成を例に説明するが、印刷ユニット13が複数個のヘッド19から構成されていてもよい。
【0035】
駆動ローラ7,11、印刷ユニット13、乾燥部15、スキャン部17は、制御部21によって統括的に制御される。制御部21は、CPUやメモリなどを備えており、連続紙WPに印刷するための画像情報などを含む印刷データを外部から受信する。また、制御部21は、記憶部23を参照するとともに、印刷データに応じた駆動電圧を駆動部25に出力することで、印刷ユニット13による印刷を行う。このとき制御部21は、印刷速度や印刷ユニット13におけるインク滴の吐出速度等に応じて駆動ローラ7,11の駆動速度を操作する。駆動部25は、印刷ユニット13のヘッド19に対応して設けられている。したがって、本実施例では、印刷ユニット13のヘッド19が一つなので、駆動部25は一つである。
【0036】
記憶部23は、例えば、装置の出荷前に行われるヘッド19単体の調整段階において設定された基準電圧を予め記憶している。ここでいう基準電圧は、ヘッド19によって印刷を行う際に、インク滴の濃度が仕様で決められた所定濃度となるように駆動部25に与えられる駆動電圧である。また、詳細は後述するが、インクジェット印刷装置1の印刷ユニット13にヘッド19を取り付けた状態でテストチャートを印刷し、このテストチャートから得られた駆動電圧で記憶部23の基準電圧が更新されて補正される。
【0037】
駆動部25は、制御部21から与えられる駆動電圧に応じてヘッド19を操作する。例えば、ヘッド19は電圧を印加されることでその大きさに応じて伸縮する圧電素子を備え、圧電素子に対して駆動電圧を付与する。駆動部25は、ヘッド19と対になって設けられている。ここでは一つのヘッド19なので、駆動部25も一つである。
【0038】
スキャン部17は、例えば、比較的低解像度のスキャナを内蔵している。その解像度は、例えば、1200dpiである。スキャン部17で取り込まれた画像データは、画像処理部27に与えられる。詳細を後述するヘッド電圧補正処理においては、読み取ったテストチャートをテストチャート画像として取り込む。
【0039】
画像処理部27は、製品の印刷時には、連続紙WPに印刷された画像の不良箇所を検出するための画像処理を行う。また、後述するヘッド電圧補正処理時には、テストチャート画像を対象にして、インク滴のうち主滴とサテライト滴との距離を駆動電圧ごとに求めたり、インク滴のサイズを駆動電圧ごとに求めるたりするために必要な画像処理などを行ったりする。
【0040】
算出部29は、画像処理部27での処理結果に基づいて、サテライト滴の有無を判定するとともに、主滴とサテライト滴との距離を駆動電圧ごとに算出し、距離の近似式を求め、近似式と距離閾値の直線との交点となる駆動電圧(距離基準駆動電圧)を求める。また、算出部29は、インク滴のサイズを駆動電圧ごとに算出し、サイズの近似式を求め、近似式とサイズ閾値の直線との交点となる駆動電圧(サイズ基準駆動電圧)を求める。なお、距離閾値とサイズ閾値とは、算出部29の内部に予め記憶されている。求められた距離基準駆動電圧とサイズ基準駆動電圧とは、制御部21に与えられる。
【0041】
ここでいう距離閾値とは、スキャン部17で取り込んだ際に主滴とサテライト滴との距離が接近し1個のインク滴と見なすことができる距離のうち最大の距離をいう。換言すると、主滴とサテライト滴とを識別できなくなる最大距離である。本実施例においては、仕様上の濃度を満たすインク滴のサイズにおける主滴の直径の半分、より正確には、搬送方向における主滴の直径の半分を距離閾値としている。また、ここでいうサイズ閾値とは、インクジェット印刷装置1における仕様で決められた最低限の濃度を得られるインク滴の面積に相当するインク滴のサイズである。
【0042】
制御部21は、上記のようにして求められた距離基準駆動電圧とサイズ基準駆動電圧とを比較する。その結果、大きな駆動電圧の方で、予め設定されている基準電圧を置き換えることで補正する。
【0043】
なお、上述した駆動ローラ7,11が本発明における「搬送手段」に相当し、制御部21が本発明における「印刷制御部」に相当し、スキャン部17が本発明における「画像取り込み部」に相当する。また、上述した画像処理部27及び算出部29が本発明における「距離基準電圧算出部」及び「サイズ基準駆動電圧算出部」に相当し、制御部21が本発明における「比較補正部」に相当する。
【0044】
ヘッド電圧補正処理に用いるテストチャートTCは、例えば、
図2に示すようなものである。例示したテストチャートTCは、例えば、ヘッド19の駆動電圧を基準電圧に対して所定のステップで変位させて印刷することで得られる。具体的には、制御部21は、記憶部23の基準電圧を読み出し、その基準電圧と、その基準電圧に対して2%ステップで電圧を減じて駆動電圧として駆動部25に付与する。つまり、駆動電圧=基準電圧(0%)と、駆動電圧=基準電圧−2%と、駆動電圧=基準電圧−4%、駆動電圧=基準電圧−6%、駆動電圧=基準電圧−8%ごとに印刷された直線的なチャートからなる。直線的なチャートの一つ一つは、一部拡大図に示すように、インクジェット印刷装置1における小滴、中滴、大滴などのうちのいずれかの大きさを印刷するためのドットで形成される。理想的には、インク滴が主滴だけで構成されるが、主滴に続いて小さなインク滴が吐出される関係上、主滴D1の上流側にサテライト滴D2が生じる。
【0045】
ここで、
図3を参照する。なお、
図3は、インク滴の取り込み後の輝度値を示すグラフである。
【0046】
図3(a)は、主滴D1とサテライト滴D2とからなるインク滴を比較的低解像度のスキャン部17でスキャンした画像を示す。また、
図3(b)は、
図3(a)の画像から得られた輝度値のグラフである。高解像度のスキャナであれば、
図3(c)の画像のように主滴D1とサテライト滴D2とが明確に識別可能であるものの、本実施例装置における低解像度仕様のスキャン部17では、
図3(b)のように、搬送方向における距離に応じた輝度値のグラフからでは、主滴D1とサテライト滴D2とを明確に区別することは困難であることがわかる。
【0047】
次に、
図4を参照する。なお、
図4は、駆動電圧を変位させた場合のインク滴の変化を示す模式図である。
【0048】
図4(a)は、駆動電圧を基準電圧として打滴されたインク滴を示し、
図4(b)は、駆動電圧を基準電圧−2%とした場合のインク滴を示し、
図4(c)は、駆動電圧を基準電圧−4%とし、
図4(d)は、駆動電圧を基準電圧−6%とした場合を示す。これらの模式図から、駆動電圧を小さくしていくと、主滴D1とサテライト滴D2との距離が短くなっていき、ついにはサテライト滴D2がなくなって印刷品質的には最も優れたインク滴を吐出可能であることがわかる。しかしながら、搬送方向における長さに着目すると、駆動電圧が低くなるにつれて、主滴D1の長さがL
0>L
−2>L
−4>L
−6となって、次第に短くなることがわかる。これらのことから、印刷品質の関係上、単に、サテライト滴D2がないインク滴としたり、主滴D1とサテライト滴D2との距離が短いインク滴としたりすると、インク滴のサイズが小さくなり過ぎて、インクジェット印刷装置1のインク滴の濃度が仕様を満たさなくなる恐れがあることがわかる。
【0049】
次に、
図5〜
図7を参照して、ヘッド電圧補正処理について詳細に説明する。なお、
図5は、ヘッド電圧補正の処理の流れを示すフローチャートであり、
図6は、主滴とサテライト滴との距離と駆動電圧の関係を示すグラフであり、
図7は、インク滴サイズと駆動電圧の関係を示すグラフである。
【0050】
なお、図示しない設定部がオペレータによって操作され、基準電圧に対して変位させる電圧のステップ値及びステップ数が予め入力され、記憶部23に記憶されている。本実施例では、例えば、−2%の幅及び5であるとする。なお、この変位幅は、−1%や−3%であってもよく、ヘッド19や駆動部25の特性に応じて設定すればよい。また、ヘッド13単体での調整時に取得された基準電圧V
refも記憶部23に予め記憶されている。
【0051】
ステップS1
制御部21は、記憶部23を参照し、基準電圧V
refと、駆動電圧を変位させるステップ値及びステップ数とを読み出して設定する。
【0052】
ステップS2
制御部21は、基準電圧V
refに対して所定ステップで電圧を変位させた駆動電圧を駆動部25に与えながら、連続紙WPに上述したようなテストチャートを印刷させる。例えば、ステップ値が−2%であって、絶対値の最大値が−8%である場合には、n=1〜5の5回の印刷工程を行って5つのテストチャートTCを印刷させる。
【0053】
ステップS3
制御部21は、テストチャートTCをスキャン部17で読み取らせてテストチャート画像を取り込ませる。
【0054】
ステップS4
画像処理部27は、例えば、後述する手法を用いて各テストチャート画像を対象に、輝度値に基づいてサテライト滴の有無を判定する。
【0055】
ステップS5
画像処理部27は、テストチャート画像を対象にして、インク滴のうち主滴とサテライト滴との距離を駆動電圧ごとに求める。例えば、各テストチャート画像から求められた駆動電圧ごとの距離を駆動電圧に対応させてプロットすると、
図6に示すようになったとする(
図6中に太実線で示す)。
【0056】
算出部29は、これらの各駆動電圧と主滴とサテライト滴の距離との関係から近似式Dnを算出する(
図6中に二点鎖線で示す)。例えば、傾きをa、距離切片をb、ステップ数をnとした場合、線形補間によって近似式は、Dn=an+bで表すことができる。したがって、n=1は基準電圧V
refであるので、予め設定されている距離閾値Dcの直線と、
図6中に黒丸で示す近似式Dnとの交点の駆動電圧Vdは、n=(Dc−b)/aとすると、次式(1)で表される。算出部29は、この式(1)によって、距離基準駆動電圧として駆動電圧Vdを算出する。算出された距離基準駆動電圧Vdは、制御部21に与えられる。
【0057】
Vd=V
ref+(n−1)×−2% …… (1)
【0058】
ステップS6
画像処理部27は、テストチャート画像を対象にして、インク滴のサイズを駆動電圧ごとに求める。例えば、各テストチャート画像から求められた駆動電圧ごとのサイズを駆動電圧に対応させてプロットすると、
図7に示すようになったとする(
図7中に太実線で示す)。
【0059】
算出部29は、これらの各駆動電圧とサイズとの関係から近似式Snを算出する(
図7中に二点鎖線で示す)。例えば、傾きをc,サイズ切片をd、ステップ数をnとした場合、線形補間によって近似式は、Sn=cn+dで表すことができる。したがって、n=1は基準電圧V
refであるので、予め設定されているサイズ閾値Scの直線と、
図7中に黒丸で示す近似式Snとの交点の駆動電圧Vsは、n=(Sc−d)/cとすると、次式(2)で表される。算出部29は、この式(2)によってサイズ基準駆動電圧として駆動電圧Vsを算出する。算出されたサイズ基準駆動電圧Vsは、制御部21に与えられる。
【0060】
Vs=V
ref+(n−1)×−2%…… (2)
【0061】
ステップS7
制御部21は、距離基準駆動電圧Vdとサイズ基準駆動電圧Vsとを比較して、大きい方の駆動電圧を新たな基準電圧として採用する。つまり、制御部21は、記憶部23に新たな基準電圧を記憶部23に保存して、予め記憶されている基準電圧を新たな基準電圧で置換することで補正する。
【0062】
次に、
図8及び
図9を参照して、上述したヘッド電圧補正処理における、サテライト滴の有無の判定処理や、主滴とサテライト滴の距離を求める処理の詳細について説明する。なお、
図8は、輝度値を平均化する処理の説明に供する図であり、
図9は、インク滴の輝度分布における異常度を示すグラフである。
【0063】
上述したステップS4では、サテライト滴の有無を判定した。この判定の際には、まず、画像処理部27は、テストチャート画像のうち、搬送方向と直交する方向において所定個数(ヘッド19のノズル数)のノズル分のインク滴を含むように、搬送方向と直交する所定長さで複数箇所を切り出す(
図8(a))。そして、切り出した画像について、搬送方向と直交する方向に輝度値を平均化処理する(
図8(b))。次いで、搬送方向の距離に対応して分布する、平均化処理した輝度値に基づいて、例えば以下の記載の手法でサテライト滴の特徴点を抽出し、サテライト滴の有無を判定する。このように搬送方向と直交する方向に平均化処理することにより、ノズルごとのバラツキを考慮して適切にヘッド電圧の補正を行うことができる。
【0064】
なお、このようにして求めた距離に応じた輝度分布について、数倍から数十倍にバイキュービック法で拡大して輝度分布を滑らかにしておくことが好ましい。これにより、後に求める変化点の算出精度を向上でき、サテライト滴の有無の判定精度や、主滴とサテライト滴の距離精度を向上できる。
【0065】
算出部29は、距離ごとの輝
度分布から変化点、換言すると異常度の分布を求めてサテライト滴の有無を判定する。その判定には、例えば、ARモデル(自己回帰モデル)を用いることが好ましい。具体的には、異常度Ad=(輝度変化の予測値−輝度の実測値)
2とし、Y(t)をt画素目の輝度値とした場合、輝度変化の予測値Y(t)=Y(t−1)×0.5+Y(t−2)×0.3+Y(t−3)×0.2となる。
【0066】
輝
度分布から上記の異常度Adを求めると、例えば、
図9のようになる。なお、ノイズを除去するために移動平均とすることで、精度を向上できる。このときに異常度閾値Atを設定することで、異常度閾値Atより高い異常度Adにおけるピークの個数を算出できる。そして、ピーク個数が2個以内であればサテライト滴なしと判定し、ピーク個数が3個以上であればサテライト有りと判定する。このように輝
度分布の変化点の個数を計数するだけで、サテライト滴が存在することを容易に判定できる。
【0067】
また、算出部29は、算出したピークの位置から主滴とサテライト滴の距離を算出する。具体的には、搬送方向における下流側から変化点の2個目X1と3個目X2のピーク間の距離Dを求めることで、比較的低解像度のスキャン部17であってもほぼ正確に主滴とサテライト滴の距離を求めることができる。なお、輝
度分布を得る際にバイキュービック拡大を用いた場合には、その倍率分の換算も行う。例えば、スキャナ部17の解像度[dpi]をRESOとし、バイキュービック倍率を40倍とし、主滴とサテライト滴との距離Dp[pxel]=X2−X1とした場合、主滴とサテライト滴の距離D[μm]は、次の(3)で表せる。
【0068】
D=Dp/40/RESO×25.4×1000 …… (3)
【0069】
なお、主滴とサテライト滴との距離は、上述した輝
度分布における変化点に基づく手法の他に、輝
度分布を搬送方向だけでなく、搬送方向に直交する方向にも輝
度分布をとった二次元の輝
度分布から主滴とサテライト滴のそれぞれの形状を解析し、それらに基づいて主滴とサテライト滴との搬送方向における距離を求める手法を採用してもよい。これによると、特徴点を抽出するよりも比較的軽い処理負荷でその距離を求められる。
【0070】
また、上述したインク滴のサイズを求めるには、画像処理部27が輝度分布を二値化して、その面積を求めてサイズとして扱うことでインク滴のサイズとすればよい。その他に、輝
度分布から搬送方向における長さと、搬送方向と直交する方向の長さとからインク滴の直径を求めてこれをインク滴のサイズとしてもよい。ここでいうサイズは、インク滴の長さや面積など、仕様上のインク滴の濃度に関連するものであればよい。
【0071】
本実施例によると、連続紙WPを搬送させつつヘッド19からインク滴を吐出させて、制御部21によって基準電圧V
refに対して駆動電圧を変位させてテストチャートTCを印刷させる。スキャン部17で取り込んだ異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づいてサテライト滴の特徴点を抽出し、駆動電圧ごとにサテライト滴の有無を判定し、サテライト滴が存在する駆動電圧のテストチャートTCについて、駆動電圧ごとに主滴とサテライト滴との距離を求め、駆動電圧ごとの距離と距離閾値Dcとの関係から、距離閾値Dcを満たす
距離基準駆動電圧Vdを算出部29が求める。また、異なる駆動電圧ごとのテストチャート画像について、輝度分布に基づき駆動電圧ごとにインク滴のサイズを求め、駆動電圧ごとのインク滴のサイズとサイズ閾値Scとの関係から、サイズ閾値Scを満たす
サイズ基準駆動電圧Vsを算出部29が求める。そして、制御部21は、
距離基準駆動電圧Vdと、
サイズ基準駆動電圧Vsとを比較して大きな方で元の基準電圧V
refを置き換える。テストチャート画像の輝度分布に基づいてサテライト滴の特徴点を抽出してサテライト滴の距離を求めるので、比較的低解像度のスキャン部17部であっても電圧補正の精度を向上できる。また、
距離基準駆動電圧Vdと
サイズ基準駆動電圧Vsのうち大きな方で元の基準電圧V
refを置き換えるので、基準電圧は、距離閾値Dcとサイズ閾値Scとをともに満たす駆動電圧となる。したがって、印刷品質を低下させずにインク滴の濃度の仕様を満たすことができる。
【0072】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0073】
(1)上述した実施例では、インクジェット印刷装置3が連続紙WPを印刷媒体として採用しているが、本発明は印刷媒体が連続紙WPに限定されるものではない。例えば、枚葉用紙であってもよく、また紙でなくプラスティック製のフィルム媒体であってもよい。
【0074】
(2)上述した実施例では、印刷ユニット3が一つのヘッド19を備え、一つのヘッド19に対して駆動部25が一つである構成を例にとって説明したが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、印刷ユニット3が複数個のヘッド19を備え、それぞれのヘッド19に駆動部25を備えている場合には、駆動部25ごとに上述したヘッド電圧補正処理を行えばよい。また、印刷ユニット3が複数個の場合には、印刷ユニット3のヘッド19ごとに上述したヘッド電圧補正処理を行えばよい。
【0075】
(3)上述した実施例では、インクジェット印刷装置3の構成を
図1に示すようなものとしているが、本発明はこのような構成に限定されない。