特許第6985127号(P6985127)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985127造形物の製造方法、造形システム、及び造形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985127
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、造形システム、及び造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20211213BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20211213BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20211213BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20211213BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20211213BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20211213BHJP
【FI】
   B29C64/386
   B33Y10/00
   B33Y30/00
   B33Y50/00
   B29C64/112
   B29C64/40
【請求項の数】13
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-242139(P2017-242139)
(22)【出願日】2017年12月18日
(65)【公開番号】特開2019-107816(P2019-107816A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2020年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】八角 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 貴一
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−196812(JP,A)
【文献】 特開2017−113986(JP,A)
【文献】 特開2017−071211(JP,A)
【文献】 特開2017−094587(JP,A)
【文献】 特開2016−210139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形物の材料である造形物材料の層を予め設定された積層方向へ積層することで前記造形物を造形する造形物の製造方法であって、
前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面をそれぞれ示すデータである複数のスライスデータを生成するスライスデータ生成段階と、
前記複数のスライスデータに基づいて前記造形物材料を吐出することにより前記造形物を造形する造形段階と
を備え、
前記スライスデータ生成段階及び前記造形段階の少なくともいずれかにおいて、前記造形物の外側から見た位置が凹凸状に変化するゆらぎを前記造形物に付与するための処理を行い、
前記造形物材料を吐出する単位の位置をボクセル位置と定義した場合、前記スライスデータは、前記造形物材料を吐出すべき前記ボクセル位置である吐出位置を指定するデータであり、
前記造形段階において、それぞれの前記スライスデータにおいて指定される前記吐出位置へ前記造形物材料を吐出することにより、それぞれの前記スライスデータに対応する前記造形物材料の層を形成し、
前記スライスデータ生成段階において、
前記スライスデータの生成に用いるデータである中間データを生成する処理であり、前記造形物の全体を示すデータである造形物データに基づき、少なくとも前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面の形状をそれぞれが示す複数の中間データを生成する中間データ生成処理と、
それぞれの前記中間データに基づいてそれぞれの前記スライスデータを生成する処理であり、前記ゆらぎを前記造形物に付与するための処理として、少なくとも一部の前記中間データから前記スライスデータを生成する場合に前記造形物の外周面に対応する部分である輪郭を変更しつつ、前記複数のスライスデータを生成するデータ変換処理と
を行い、
前記データ変換処理において、少なくとも一部の前記スライスデータについて、最外周における前記吐出位置の並び方を対応する前記中間データと異ならせることにより、前記輪郭が前記中間データと異なる前記スライスデータを生成し、
前記中間データは、前記スライスデータと同じ形式で前記吐出位置を指定するデータであり、
前記データ変換処理において、予め設定されたパターンで前記吐出位置の指定を変更するマスクを少なくとも一部の前記中間データに対して適用することにより、前記輪郭が前記中間データと異なる前記スライスデータを生成し、
前記造形段階において、造形中の前記造形物を支えるサポート層の材料であるサポート材を更に吐出し、
前記マスクは、一部の前記吐出位置へ前記造形物材料に代えて前記サポート材を吐出するように前記吐出位置の指定を変更するマスクであることを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項2】
前記スライスデータの前記輪郭のうち、前記積層方向と直交する面内における位置が前記積層方向において隣接する前記スライスデータと同一になっている部分を段差重畳部分と定義した場合、
前記データ変換処理において、前記中間データと前記輪郭が同じ前記スライスデータを用いる場合よりも前記段差重畳部分が少なくなるように、前記少なくとも一部の前記スライスデータの前記輪郭を対応する前記中間データと異ならせることを特徴とする請求項に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記データ変換処理において、前記中間データと前記輪郭が同じ前記スライスデータを用いる場合よりも前記ゆらぎが多くなるように、前記少なくとも一部の前記スライスデータの前記輪郭を対応する前記中間データと異ならせることを特徴とする請求項1又は2に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記造形段階において、前記造形物材料を吐出する吐出ヘッドに、造形中の前記造形物に対して相対的に予め設定された主走査方向へ移動しつつ前記造形物材料を吐出する主走査動作を行わせ、
前記主走査方向及び前記積層方向と直交する方向を副走査方向と定義した場合、
前記データ変換処理において、前記少なくとも一部の前記スライスデータについて、対応する前記中間データと輪郭が同じ前記スライスデータと比べて、前記輪郭を構成する一部の前記吐出位置が前記主走査方向及び前記副走査方向の少なくともいずれかの方向へずれるように、前記少なくとも一部の前記スライスデータの前記輪郭を対応する前記中間データと異ならせることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記データ変換処理において、前記少なくとも一部の前記スライスデータについて、対応する前記中間データと輪郭が同じ前記スライスデータと比べて、前記輪郭を構成する一部の前記吐出位置が前記主走査方向及び前記副走査方向の少なくともいずれかの方向へ1つの前記ボクセル位置分だけずれるように、前記少なくとも一部の前記スライスデータの前記輪郭を対応する前記中間データと異ならせることを特徴とする請求項に記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
前記造形段階において、前記造形物材料を吐出する吐出ヘッドに、造形中の前記造形物に対して相対的に予め設定された主走査方向へ移動しつつ前記造形物材料を吐出する主走査動作を行わせ、かつ、1つの前記スライスデータに対応する前記造形物材料の層の形成時に、前記吐出ヘッドに、複数回の前記主走査動作を行わせ、
前記データ変換処理において、前記複数回の前記主走査動作のうちの一部の回の前記主走査動作において前記造形物材料を吐出する前記吐出位置が前記中間データにおいて指定されている前記吐出位置と比べて前記主走査方向における位置がずれるようにした前記スライスデータを生成することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項7】
造形物の材料である造形物材料の層を予め設定された積層方向へ積層することで前記造形物を造形する造形物の製造方法であって、
前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面をそれぞれ示すデータである複数のスライスデータを生成するスライスデータ生成段階と、
前記複数のスライスデータに基づいて前記造形物材料を吐出することにより前記造形物を造形する造形段階と
を備え、
前記スライスデータ生成段階及び前記造形段階の少なくともいずれかにおいて、前記造形物の外側から見た位置が凹凸状に変化するゆらぎを前記造形物に付与するための処理を行い、
前記造形物材料を吐出する単位の位置をボクセル位置と定義した場合、前記スライスデータは、前記造形物材料を吐出すべき前記ボクセル位置である吐出位置を指定するデータであり、
前記造形段階において、それぞれの前記スライスデータにおいて指定される前記吐出位置へ前記造形物材料を吐出することにより、それぞれの前記スライスデータに対応する前記造形物材料の層を形成し、
前記スライスデータ生成段階において、
前記スライスデータの生成に用いるデータである中間データを生成する処理であり、前記造形物の全体を示すデータである造形物データに基づき、少なくとも前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面の形状をそれぞれが示す複数の中間データを生成する中間データ生成処理と、
それぞれの前記中間データに基づいてそれぞれの前記スライスデータを生成する処理であり、前記ゆらぎを前記造形物に付与するための処理として、少なくとも一部の前記中間データから前記スライスデータを生成する場合に前記造形物の外周面に対応する部分である輪郭を変更しつつ、前記複数のスライスデータを生成するデータ変換処理と
を行い、
前記データ変換処理において、少なくとも一部の前記スライスデータについて、最外周における前記吐出位置の並び方を対応する前記中間データと異ならせることにより、前記輪郭が前記中間データと異なる前記スライスデータを生成し、かつ、前記造形物の表面の少なくとも一部がマット状になるように、前記少なくとも一部の前記スライスデータの前記輪郭を対応する前記中間データと異ならせることにより、
前記造形段階において、表面の少なくとも一部がマット状になっている前記造形物を造形することを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項8】
前記ゆらぎを前記造形物に付与するための処理を行うことにより、前記造形物材料の層の複数層分の高さの段差が形成される範囲を、前記ゆらぎを付与しない場合よりも少なくすることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項9】
前記ゆらぎを前記造形物に付与するための処理において、少なくとも、前記造形物材料の層の外縁部に前記ゆらぎを付与することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の造形物の製造方法。
【請求項10】
造形物の材料である造形物材料の層を予め設定された積層方向へ積層することで前記造形物を造形する造形物の製造方法であって、
前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面をそれぞれ示すデータである複数のスライスデータを生成するスライスデータ生成段階と、
前記複数のスライスデータに基づいて前記造形物材料を吐出することにより前記造形物を造形する造形段階と
を備え、
前記造形物材料を吐出する単位の位置をボクセル位置と定義した場合、前記スライスデータは、前記造形物材料を吐出すべき前記ボクセル位置である吐出位置を指定するデータであり、
前記造形段階において、それぞれの前記スライスデータにおいて指定される前記吐出位置へ前記造形物材料を吐出することにより、それぞれの前記スライスデータに対応する前記造形物材料の層を形成し、
前記スライスデータ生成段階において、
前記スライスデータの生成に用いるデータである中間データを生成する処理であり、前記造形物の全体を示すデータである造形物データに基づき、少なくとも前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面の形状をそれぞれが示す複数の中間データを生成する中間データ生成処理と、
それぞれの前記中間データに基づいてそれぞれの前記スライスデータを生成する処理であり、少なくとも一部の前記中間データについて前記造形物の外周面に対応する部分である輪郭を変更しつつ、前記複数のスライスデータを生成するデータ変換処理と
を行い、
前記データ変換処理において、少なくとも一部の前記スライスデータについて、最外周における前記吐出位置の並び方を対応する前記中間データと異ならせることにより、前記輪郭が前記中間データと異なる前記スライスデータを生成し、
前記中間データは、前記スライスデータと同じ形式で前記吐出位置を指定するデータであり、
前記データ変換処理において、予め設定されたパターンで前記吐出位置の指定を変更するマスクを少なくとも一部の前記中間データに対して適用することにより、前記輪郭が前記中間データと異なる前記スライスデータを生成し、
前記造形段階において、造形中の前記造形物を支えるサポート層の材料であるサポート材を更に吐出し、
前記マスクは、一部の前記吐出位置へ前記造形物材料に代えて前記サポート材を吐出するように前記吐出位置の指定を変更するマスクであることを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項11】
造形物の材料である造形物材料の層を予め設定された積層方向へ積層することで前記造形物を造形する造形物の製造方法であって、
前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面をそれぞれ示すデータである複数のスライスデータを生成するスライスデータ生成段階と、
前記複数のスライスデータに基づいて前記造形物材料を吐出することにより前記造形物を造形する造形段階と
を備え、
前記造形物材料を吐出する単位の位置をボクセル位置と定義した場合、前記スライスデータは、前記造形物材料を吐出すべき前記ボクセル位置である吐出位置を指定するデータであり、
前記造形段階において、それぞれの前記スライスデータにおいて指定される前記吐出位置へ前記造形物材料を吐出することにより、それぞれの前記スライスデータに対応する前記造形物材料の層を形成し、
前記スライスデータ生成段階において、
前記スライスデータの生成に用いるデータである中間データを生成する処理であり、前記造形物の全体を示すデータである造形物データに基づき、少なくとも前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面の形状をそれぞれが示す複数の中間データを生成する中間データ生成処理と、
それぞれの前記中間データに基づいてそれぞれの前記スライスデータを生成する処理であり、少なくとも一部の前記中間データについて前記造形物の外周面に対応する部分である輪郭を変更しつつ、前記複数のスライスデータを生成するデータ変換処理と
を行い、
前記データ変換処理において、少なくとも一部の前記スライスデータについて、最外周における前記吐出位置の並び方を対応する前記中間データと異ならせることにより、前記輪郭が前記中間データと異なる前記スライスデータを生成し、かつ、前記造形物の表面の少なくとも一部がマット状になるように、前記少なくとも一部の前記スライスデータの前記輪郭を対応する前記中間データと異ならせることにより、
前記造形段階において、表面の少なくとも一部がマット状になっている前記造形物を造形することを特徴とする造形物の製造方法。
【請求項12】
造形物を造形する造形システムであって、
請求項1から11のいずれかに記載の造形物の製造方法により前記造形物を造形することを特徴とすることを特徴とする造形システム。
【請求項13】
造形物を造形する造形装置であって、
請求項1から11のいずれかに記載の造形物の製造方法における前記スライスデータ生成段階の動作により生成された前記スライスデータに基づき、請求項1から11のいずれかに記載の造形物の製造方法における前記造形段階の動作を行うことを特徴とする造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法、造形システム、及び造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットヘッドを用いて造形物を造形する造形装置(3Dプリンタ)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような造形装置においては、例えば、インクジェットヘッドにより形成するインクの層を複数層重ねることにより、積層造形法で造形物を造形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−071282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
積層造形法で造形物を造形する場合、通常、予め設定された厚さでそれぞれのインクの層を形成する。そして、この場合、造形物の外周面の中で積層方向に対して傾いている領域等に、インクの層の厚みに対応する段差が生じることになる。また、造形物の形状によっては、このような段差によって生じる縞である積層縞が目立つ場合がある。また、その結果、造形の品質が低下する場合もある。そのため、造形物の造形時には、積層縞をできるだけ目立たなくすることが望まれる。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる造形物の製造方法、造形システム、及び造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明者は、造形物の積層縞を目立たなくする方法について、鋭意研究を行った。そして、例えば造形物の表面において連続的な長い段差が形成されないようにすることで、積層縞を目立ちにくくし得ることを見出した。また、そのための方法として、例えば、造形物の外側から見た位置が凹凸状に変化するゆらぎを造形物に付与しつつ造形物を造形することを考えた。また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、上記のような効果を得るために必要な特徴を見出し、本発明に至った。
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、造形物の材料である造形物材料の層を予め設定された積層方向へ積層することで前記造形物を造形する造形物の製造方法であって、前記積層方向における互いに異なる位置での前記造形物の断面をそれぞれ示すデータである複数のスライスデータを生成するスライスデータ生成段階と、前記複数のスライスデータに基づいて前記造形物材料を吐出することにより前記造形物を造形する造形段階とを備え、前記スライスデータ生成段階及び前記造形段階の少なくともいずれかにおいて、前記造形物の外側から見た位置が凹凸状に変化するゆらぎを前記造形物に付与するための処理を行う。
【0007】
この構成において、スライスデータとしては、例えば、造形物材料を吐出すべきボクセル位置である吐出位置を指定するデータを用いることが考えられる。ボクセル位置とは、例えば、造形物材料を吐出する単位の位置のことである。また、ボクセル位置については、例えば、予め設定された造形の解像度で並ぶ位置等と考えることもできる。また、この場合、造形段階では、例えば、それぞれのスライスデータにおいて指定される吐出位置へ造形物材料を吐出することにより、それぞれのスライスデータに対応する造形物材料の層を形成する。このように構成すれば、例えば、造形物において積層縞が目立つこと等を適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、高い品質の造形物をより適切に製造することができる。また、ゆらぎを造形物に付与するための処理では、少なくとも、造形物材料の層の外縁部にゆらぎを付与することが好ましい。このように構成すれば、例えば、積層縞を目立ちにくくするゆらぎを造形物に適切に付与できる。
【0008】
また、ゆらぎを付与するための方法としては、例えば、造形時に使用するデータについて、造形しようとする造形物の断面の形状をそのまま単に示すデータを用いるのではなく、輪郭の少なくとも一部を変更したデータを用いること等が考えられる。この場合、例えば、スライスデータ生成段階において、中間データ生成処理及びデータ変換処理を行う。中間データ生成処理は、スライスデータの生成に用いるデータである中間データを生成する処理であり、造形物の全体を示すデータである造形物データに基づき、少なくとも積層方向における互いに異なる位置での造形物の断面の形状をそれぞれが示す複数の中間データを生成する。また、データ変換処理は、それぞれの中間データに基づいてそれぞれのスライスデータを生成する処理であり、少なくとも一部の中間データからスライスデータを生成する場合に造形物の外周面に対応する部分である輪郭を変更しつつ、複数のスライスデータを生成する。また、この場合、データ変換処理において、少なくとも一部のスライスデータについて、最外周における吐出位置の並び方を対応する中間データと異ならせることにより、輪郭が前記中間データと異なるスライスデータを生成する。
【0009】
このように構成した場合、例えば、形状に関して造形物の断面の形状をそのまま単に示すスライスデータを用いるのではなく、輪郭の変更を行ったスライスデータを用いることができる。そして、この場合、例えば、積層縞が目立ちにくくなるように、スライスデータの輪郭を変更すること等が考えられる。このように構成すれば、例えば、造形物において積層縞が目立つこと等を適切に防ぐことができる。また、この構成において、中間データとしては、例えば、スライスデータと同じ形式で吐出位置を指定するデータ等を用いることができる。また、中間データについては、例えば、形状に関して造形物の断面の形状をそのまま単に示すスライスデータに対応するデータ等と考えることもできる。また、データ変換処理では、全てのスライスデータに対し、輪郭の変更(調整)を行ってもよい。
【0010】
また、積層縞は、造形物材料の層の外縁部(外周部)が同じ位置(積層方向と直交する面内における同じ位置)で重なる場合において、特に目立ちやすくなると考えられる。そのため、この場合、造形物材料の層の外縁部が同じ位置で重なる範囲が少なくなるように、スライスデータの輪郭を変更することが好ましい。また、より具体的に、例えば、スライスデータの輪郭のうち、積層方向と直交する面内における位置が積層方向において隣接するスライスデータと同一になっている部分を段差重畳部分と定義した場合、データ変換処理において、中間データと輪郭が同じスライスデータを用いる場合よりも段差重畳部分が少なくなるように、スライスデータの輪郭の変更を行うこと等が考えられる。段差重畳部分が少なくなるようにするとは、例えば、連続する複数の造形物材料の層の外縁部において、同じ位置で重なる部分を少なくすることである。このように構成すれば、例えば、造形物材料の層の複数層分の高さの段差が形成される範囲について、ゆらぎを付与しない場合よりも少なくすることができる。また、これにより、例えば、積層縞が目立つことをより適切に防ぐことができる。
【0011】
ここで、この構成において、スライスデータの輪郭の変更を行うとは、例えば、輪郭が中間データと異なるスライスデータを生成することである。また、中間データとスライスデータとの間で、輪郭が同じであるとは、各データの仕様に基づき、同じ輪郭を示していることであってよい。例えば、中間データとスライスデータとの間で、解像度が異なっている場合等には、解像度の違いの影響等を考慮して、同じ輪郭を示していることであってよい。また、積層縞を目立ちにくくするためには、それぞれの造形物材料の層についても、できるだけ輪郭を目立ちにくくすることが好ましい。そして、この場合、例えば、それぞれのスライスデータの輪郭にゆらぎを付与して、輪郭をぼやけさせること等が考えられる。スライスデータの輪郭にゆらぎを付与するとは、例えば、造形物においてスライスデータの輪郭に対応する部分にゆらぎが付与されるようにスライスデータの輪郭を変更することである。また、より具体的に、データ変換処理では、例えば、中間データと輪郭が同じスライスデータを用いる場合よりもゆらぎが多くなるように、スライスデータの輪郭の変更を行うこと等が考えられる。このように構成すれば、例えば、積層縞が目立つことをより適切に防ぐことができる。
【0012】
また、造形段階においては、例えば、造形物材料を吐出する吐出ヘッドに主走査動作を行わせることで、造形物を造形することが考えられる。この場合、主走査動作とは、例えば、造形中の造形物に対して相対的に予め設定された主走査方向へ移動しつつ造形物材料を吐出する動作のことである。また、この場合、主走査方向及び積層方向と直交する方向について、例えば、副走査方向と定義することができる。そして、この場合、データ変換処理においては、例えば、少なくとも一部のスライスデータについて、対応する中間データと輪郭が同じスライスデータと比べて、輪郭を構成する一部の吐出位置が主走査方向及び副走査方向の少なくともいずれかの方向へずれるように、スライスデータの輪郭の変更を行うことが考えられる。このように構成すれば、例えば、少なくとも一部のスライスデータの輪郭について、対応する中間データの輪郭と適切に異ならせることができる。また、この場合、スライスデータの輪郭の変更の仕方については、スライスデータの外縁を構成する一部のボクセル位置について、主走査方向又は副走査方向へずらす方法等と考えることができる。また、この場合、例えば、スライスデータの外縁(外周)に沿って、所定数のボクセル位置毎に、位置をずらすボクセル位置を選択すること等が考えられる。また、この場合、ボクセル位置のずらし量については、例えば、1〜2個のボクセル位置分(例えば、1つのボクセル位置分だけ)にすること等が考えられる。
【0013】
また、データ変換処理においては、例えば、データ変換用の所定のマスクを用いて、スライスデータの輪郭の変更を行うこと等が考えられる。より具体的に、この場合、例えば、予め設定されたパターンで吐出位置の指定を変更するマスクを少なくとも一部の中間データに対して適用することにより、輪郭が中間データと異なるスライスデータを生成する。また、この場合、マスクとして、例えば、一部の吐出位置へ造形物材料に代えてサポート材を吐出するように吐出位置の指定を変更するマスク等を用いることが考えられる。サポート材とは、例えば、造形中の造形物を支えるサポート層の材料のことである。また、この場合、造形段階において、サポート材を更に吐出して、造形物の造形を行う。このように構成すれば、例えば、スライスデータの輪郭の変更を適切に行うことができる。
【0014】
また、造形段階においては、例えば、1つのスライスデータに対応する造形物材料の層の形成時に、吐出ヘッドに複数回の前記主走査動作を行わせることが考えられる。そして、この場合、輪郭変更処理において、一部の回の主走査動作での吐出位置が主走査方向へずれるようにスライスデータの輪郭を変更すること等が考えられる。より具体的に、この場合、例えば、輪郭変更処理において、複数回の主走査動作のうちの一部の回の主走査動作において造形物材料を吐出する吐出位置が中間データにおいて指定されている吐出位置と比べて主走査方向における位置がずれるようにしたスライスデータを生成すること等が考えられる。このように構成すれば、例えば、スライスデータの輪郭の変更を適切に行うことができる。
【0015】
また、ゆらぎの付与については、例えば、造形段階での処理により行うこと等も考えられる。この場合、例えば、主走査動作において造形物材料を吐出する吐出位置の基準となる基準位置について、一部の回の主走査動作の基準位置を他の回の主走査動作と異ならせることが考えられる。この場合、基準位置とは、例えば、主走査方向における基準位置のことである。また、より具体的に、この場合、複数回の主走査動作のうちの一部の回の主走査動作に対して設定する基準位置について、他の回の主走査動作に対して設定する基準位置に対し、主走査方向における位置がずれるように設定すること等が考えられる。このように構成した場合も、例えば、スライスデータに従って形成される造形物の外面形状に対し、ゆらぎを適切に付与することができる。また、これにより、例えば、積層縞が目立つことを適切に防ぐことができる。
【0016】
また、造形物へのゆらぎの付与については、例えば、積層縞を目立ちにくくする目的以外で行うこと等も考えられる。この場合、例えば、スライスデータの輪郭を変更することで、造形物の表面の質感をマット調にすること等が考えられる。また、より具体的に、この場合、例えば、データ変換処理において、造形物の表面の少なくとも一部がマット状になるように、少なくとも一部のスライスデータの輪郭を対応する中間データと異ならせる。このように構成すれば、例えば、必要に応じて、表面がマット調の造形物を適切に製造することができる。
【0017】
また、本発明の構成として、例えば、上記と同様の特徴を有する造形システムや造形装置等を用いることも考えられる。これらの場合も、例えば、上記と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば、高い品質の造形物をより適切に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る造形方法を実行する造形システム10の一例を示す図である。図1(a)は、造形システム10の構成の一例を示す。図1(b)は、造形装置12の要部の構成の一例を示す。図1(c)は、ヘッド部102の構成の一例を示す。
図2】造形物50の詳細な構成及びスライスデータを生成する動作の一例を示す図である。図2(a)は、本例において造形する造形物50の構成の一例を示す。図2(b)は、制御PC14においてスライスデータを生成する動作の一例を示すフローチャートである。
図3】輪郭の変更を行わずに造形物50を造形した場合に生じる問題点について説明をする図である。図3(a)は、輪郭の変更を行わずに造形物50を造形した場合における造形物50の断面の状態について説明をする図である。図3(b)は、造形物50の外観について説明をする図である。
図4】スライスデータの輪郭の変更について更に詳しく説明をする図である。図4(a)は、スライスデータに対して輪郭の変更を行わなかった場合の造形物50の外観について説明をする図である。図4(b)は、スライスデータに対して行う輪郭の変更の一例を示す。
図5】マスクを適用してスライスデータの輪郭を変更させる動作の一例について説明をする図である。図5(a)は、中間データの構成の一例を示す。図5(b)は、中間データに適用するマスクの一例を示す。
図6】マスクを適用してスライスデータの輪郭を変更させる動作の一例について説明をする図である。図6(a)は、マスクを適用する動作について更に詳しく説明をする図である。図6(b)は、マスクを適用する効果について更に詳しく説明をする図である。
図7】表面をマット調にした造形物50を造形する動作について更に詳しく説明をする図である。図7(a)は、造形物50の一部を構成するボクセルを模式的に示す。図7(b)は、造形が完了した最終造形物の状態の一例を示す。図7(c)は、マット状の保護領域156の形成の仕方の変形例について説明をする図である。
図8】表面をマット調にした造形物50を造形する動作の更なる変形例について説明をする図である。図8(a)は、造形物50の一部を構成するボクセルを模式的に示す。図8(b)は、サポート層52を除去した後における着色領域154の近傍の状態の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る造形方法を実行する造形システム10の一例を示す。図1(a)は、造形システム10の構成の一例を示す。本例において、造形システム10は、立体的な造形物を造形する造形システムであり、造形装置12及び制御PC14を備える。
【0021】
造形装置12は、造形物の造形を実行する装置であり、制御PC14の制御に応じて、造形物を造形する。また、より具体的に、造形装置12は、フルカラーでの着色がされた造形物を造形可能なフルカラー造形装置であり、造形しようとする造形物を示すデータを制御PC14から受け取り、このデータに基づいて、造形物を造形する。また、本例において、造形装置12は、造形物を示すデータとして、造形物の断面を示すスライスデータを受け取り、スライスデータに基づき、造形物の造形を行う。
【0022】
制御PC14は、造形装置12の動作を制御するコンピュータ(ホストPC)である。制御PC14は、造形装置12に造形をさせる造形物を示すスライスデータを生成して、造形装置12へ供給する。また、これにより、制御PC14は、造形装置12による造形の動作を制御する。また、より具体的に、本例において、制御PC14は、造形しようとする造形物50を示す造形物データを外部から受け取り、造形物データに基づき、スライスデータを生成する。また、この場合、造形物データとしては、例えば、所定の形式で造形物50の全体を示すデータを用いる。造形物データとしては、造形装置12の機種等に依存しない汎用の形式のデータ等を好適に用いることができる。スライスデータを生成する動作については、後に更に詳しく説明をする。
【0023】
尚、上記のように、本例において、造形システム10は、複数の装置である造形装置12及び制御PC14により構成されている。しかし、造形システム10の変形例において、造形システム10は、一台の装置により構成されてもよい。この場合、例えば、制御PC14の機能を含む一台の造形装置12により造形システム10を構成すること等が考えられる。また、造形システム10の構成の変形例においては、上記及び以下において説明をする制御PC14の機能のうちの一部について、造形装置12において実行すること等も考えられる。
【0024】
続いて、造形装置12の具体的な構成について、説明をする。図1(b)は、造形装置12の要部の構成の一例を示す。本例において、造形装置12は、立体的な造形物50を造形する造形装置であり、ヘッド部102、造形台104、走査駆動部106、及び制御部110を有する。尚、以下に説明をする点を除き、造形装置12は、公知の造形装置と同一又は同様の構成を有してよい。より具体的に、以下に説明をする点を除き、造形装置12は、インクジェットヘッドを用いて造形物50の材料となるインクの液滴を吐出することで造形を行う公知の造形装置と同一又は同様の構成を有してよい。また、造形装置12は、図示した構成以外にも、例えば、造形物50の造形等に必要な各種構成を更に備えてよい。また、本例において、造形装置12は、積層造形法により立体的な造形物50を造形する造形装置(3Dプリンタ)である。この場合、造形物50とは、例えば、立体的な三次元構造物のことである。また、積層造形法とは、例えば、複数の層を重ねて造形物50を造形する方法である。また、本例において、積層造形法は、造形物の材料である造形物材料の層を予め設定された積層方向へ積層することで造形を行う方法の一例である。
【0025】
ヘッド部102は、造形物50の材料を吐出する部分である。また、本例において、造形物50の材料としては、インクを用いる。この場合、インクとは、例えば、機能性の液体のことである。また、本例において、インクは、造形物材料の一例である。また、インクについては、例えば、インクジェットヘッドから吐出する液体等と考えることもできる。また、より具体的に、ヘッド部102は、造形物50の材料として、複数のインクジェットヘッドから、所定の条件に応じて硬化するインクを吐出する。そして、着弾後のインクを硬化させることにより、造形物50を構成する各層を重ねて形成して、積層造形法で造形物を造形する。また、インクとしては、紫外線の照射により液体状態から硬化する紫外線硬化型インク(UVインク)を用いる。
【0026】
また、ヘッド部102は、造形物50の材料に加え、サポート層52の材料であるサポート材(サポートインク)を更に吐出する。これにより、ヘッド部102は、造形物50の周囲に、必要に応じて、サポート層52を形成する。サポート層52とは、例えば、造形中の造形物50の外周を囲むことで造形物50を支持する積層構造物のことである。サポート層52は、造形物50の造形時において、必要に応じて形成され、造形の完了後に除去される。また、サポート材としては、例えば、造形の完了後に水で溶解除去できるインク等を用いることが考えられる。
【0027】
造形台104は、造形中の造形物50を支持する台状部材であり、ヘッド部102におけるインクジェットヘッドと対向する位置に配設され、造形中の造形物50を上面に載置する。また、本例において、造形台104は、少なくとも上面が積層方向(図中のZ方向)へ移動可能な構成を有しており、走査駆動部106に駆動されることにより、造形物50の造形の進行に合わせて、少なくとも上面を移動させる。この場合、積層方向とは、例えば、積層造形法において造形の材料が積層される方向のことである。また、より具体的に、本例において、積層方向は、造形装置10において予め設定される主走査方向(図中のY方向)及び副走査方向(図中のX方向)と直交する方向である。
【0028】
走査駆動部106は、造形中の造形物50に対して相対的に移動する走査動作をヘッド部102に行わせる駆動部である。この場合、造形中の造形物50に対して相対的に移動するとは、例えば、造形台104に対して相対的に移動することである。また、ヘッド部102に走査動作を行わせるとは、例えば、ヘッド部102が有するインクジェットヘッドに走査動作を行わせることである。また、本例において、走査駆動部106は、主走査動作(Y走査)、副走査動作(X走査)、及び積層方向走査(Z走査)をヘッド部102に行わせる。
【0029】
主走査動作とは、例えば、造形中の造形物50に対して相対的に主走査方向へ移動しつつインクを吐出する動作のことである。本例において、走査駆動部106は、主走査方向における造形台104の位置を固定して、ヘッド部102の側を移動させることにより、ヘッド部102に主走査動作を行わせる。また、走査駆動部106は、例えば、主走査方向におけるヘッド部102の位置を固定して、例えば造形台104を移動させることにより、造形物50の側を移動させてもよい。
【0030】
副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向へ造形中の造形物50に対して相対的に移動する動作のことである。また、より具体的に、副走査動作は、例えば、予め設定された送り量だけ副走査方向へ造形台104に対して相対的に移動する動作である。本例において、走査駆動部106は、主走査動作の合間に、副走査方向におけるヘッド部102の位置を固定して、造形台104を移動させることにより、ヘッド部102に副走査動作を行わせる。また、走査駆動部106は、副走査方向における造形台104の位置を固定して、ヘッド部102を移動させることにより、ヘッド部102に副走査動作を行わせてもよい。
【0031】
積層方向走査とは、例えば、造形中の造形物50に対して相対的に積層方向へヘッド部102を移動させる動作のことである。また、走査駆動部106は、造形の動作の進行に合わせてヘッド部102に積層方向走査を行わせることにより、積層方向において、造形中の造形物50に対するインクジェットヘッドの相対位置を調整する。また、より具体的に、本例の積層方向走査において、走査駆動部106は、積層方向におけるヘッド部102の位置を固定して、造形台104を移動させる。走査駆動部106は、積層方向における造形台104の位置を固定して、ヘッド部102を移動させてもよい。
【0032】
制御部110は、例えば造形装置12のCPUであり、造形装置12の各部を制御することにより、造形物50の造形の動作を制御する。また、本例において、制御部110は、制御PC14から受け取るスライスデータに基づき、造形装置12の各部を制御する。この場合、制御部110は、例えば、ヘッド部102における各インクジェットヘッドの動作を制御することにより、造形物の造形に用いるインクを各インクジェットヘッドに吐出させる。本例によれば、造形物50を適切に造形できる。
【0033】
続いて、造形装置12におけるヘッド部102の構成について、更に詳しく説明をする。図1(c)は、ヘッド部102の構成の一例を示す。本例において、ヘッド部102は、複数のインクジェットヘッド、複数の紫外線光源204、及び平坦化ローラ206を有する。また、複数のインクジェットヘッドとして、図中に示すように、インクジェットヘッド202s、インクジェットヘッド202w、インクジェットヘッド202y、インクジェットヘッド202m、インクジェットヘッド202c、インクジェットヘッド202k、及びインクジェットヘッド202tを有する。これらの複数のインクジェットヘッドは、例えば、副走査方向における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設される。また、それぞれのインクジェットヘッドは、造形台104と対向する面に、所定のノズル列方向へ複数のノズルが並ぶノズル列を有する。また、本例において、ノズル列方向は、副走査方向と平行な方向である。
【0034】
また、これらのインクジェットヘッドのうち、インクジェットヘッド202sは、サポート材を吐出するインクジェットヘッドである。サポート材としては、例えば、サポート層用の公知の材料を好適に用いることができる。インクジェットヘッド202wは、白色(W色)のインクを吐出するインクジェットヘッドである。また、本例において、白色のインクは、光反射性のインクの一例であり、例えば造形物50において光を反射する性質の領域(光反射領域)を形成する場合に用いられる。また、後に説明するように、本例においては、造形物50の内部(内部領域)についても、白色のインクを用いて形成する。そのため、白色のインクについて、造形物50の内部の造形用のインクを兼ねていると考えることもできる。
【0035】
インクジェットヘッド202y、インクジェットヘッド202m、インクジェットヘッド202c、インクジェットヘッド202k(以下、インクジェットヘッド202y〜kという)は、着色された造形物50の造形時に用いられる着色用のインクジェットヘッドである。より具体的に、インクジェットヘッド202yは、イエロー色(Y色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202mは、マゼンタ色(M色)のインクを吐出する。インクジェットヘッド202cは、シアン色(C色)のインクを吐出する。また、インクジェットヘッド202kは、ブラック色(K色)のインクを吐出する。また、本例において、YMCKの各色は、減法混色法によるフルカラー表現に用いるプロセスカラーの一例である。インクジェットヘッド202tは、クリアインク(透明インク)を吐出するインクジェットヘッドである。クリアインクとは、例えば、無色の透明色(T)であるクリア色のインクのことである。
【0036】
複数の紫外線光源204は、インクを硬化させるための光源(UV光源)であり、紫外線硬化型インクを硬化させる紫外線を発生する。また、本例において、複数の紫外線光源204のそれぞれは、間にインクジェットヘッドの並びを挟むように、ヘッド部102における主走査方向の一端側及び他端側のそれぞれに配設される。紫外線光源204としては、例えば、UVLED(紫外LED)等を好適に用いることができる。また、紫外線光源204として、メタルハライドランプや水銀ランプ等を用いることも考えられる。また、平坦化ローラ206は、造形物50の造形中に形成されるインクの層を平坦化するための平坦化手段である。平坦化ローラ206は、例えば主走査動作時において、インクの層の表面と接触して、硬化前のインクの一部を除去することにより、インクの層を平坦化する。
【0037】
以上のような構成のヘッド部102を用いることにより、造形物50を構成するインクの層を適切に形成できる。また、複数のインクの層を重ねて形成することにより、造形物50を適切に造形できる。
【0038】
尚、ヘッド部102の具体的な構成については、上記において説明をした構成に限らず、様々に変形することもできる。例えば、ヘッド部102は、上記以外のインク用のインクジェットヘッドを更に有してもよい。この場合、例えば、造形材インク(Moインク)を吐出するインクジェットヘッド等を用いること等が考えられる。造形材インクとは、例えば、造形物50の内部の造形に用いる造形専用のインクである。また、ヘッド部102は、着色用のインクジェットヘッドとして、上記以外の色用のインクジェットヘッドを更に有してもよい。また、ヘッド部102における複数のインクジェットヘッドの並べ方についても、様々に変形可能である。例えば、一部のインクジェットヘッドについて、他のインクジェットヘッドと副走査方向における位置をずらしてもよい。
【0039】
続いて、造形物50のより詳細な構成や、スライスデータを生成する動作等について、更に詳しく説明をする。図2は、造形物50の詳細な構成及びスライスデータを生成する動作の一例を示す。図2(a)は、本例において造形する造形物50の構成の一例を示す図であり、積層方向(Z方向)と直交する造形物50の断面であるX−Y断面の構成の一例を、サポート層52とともに示す。また、この場合、Y方向やZ方向と垂直な造形物50のZ−X断面やZ−Y断面の構成も、同様の構成になる。
【0040】
本例において、造形装置12(図1参照)は、インクジェットヘッド202y〜k(図1参照)等を用いて、着色された造形物50を造形する。また、この場合、造形物50として、少なくとも表面が着色された造形物50を造形する。造形物50の表面が着色されるとは、例えば、造形物50において外部から色彩を視認できる領域の少なくとも一部が着色されることである。また、この場合、造形装置12は、例えば図中に示すように、内部領域152、着色領域154、及び保護領域156を有する造形物50を造形する。また、必要に応じて、造形物50の周囲等にサポート層52を形成する。
【0041】
内部領域152は、造形物50の内部を構成する領域である。また、内部領域152については、例えば、造形物50の形状を構成する領域と考えることもできる。本例において、造形装置12は、インクジェットヘッド202w(図1参照)から吐出する白色のインクを用いて、内部領域152を形成する。また、これにより、内部領域152として、光反射領域を兼ねた領域を形成する。この場合、光反射領域とは、例えば、着色領域154等を介して造形物50の外側から入射する光を反射するための光反射性の領域のことである。
【0042】
着色領域154は、インクジェットヘッド202y〜kから吐出する着色用のインクにより着色がされる領域である。本例において、造形装置12は、インクジェットヘッド202y〜kから吐出する着色用のインクと、インクジェットヘッド202t(図1参照)から吐出するクリアインクとを用いて、内部領域152の周囲に着色領域154を形成する。また、この場合、例えば、各位置への各色の着色用のインクの吐出量を調整することにより、様々な色を表現する。また、色の違いによって生じる着色用のインクの量(例えば、単位体積あたりの吐出量が0%〜100%)の変化を一定の量に補填するために、クリアインクを用いる。このように構成すれば、例えば、着色領域154の各位置を所望の色で適切に着色できる。
【0043】
保護領域156は、造形物50の外面を保護するための透明な領域である。本例において、造形装置12は、インクジェットヘッド202tから吐出するクリアインクを用いて、着色領域154の周囲に保護領域156を形成する。また、これにより、ヘッド部102は、透明な材料を用いて、着色領域154の外側を覆うように、保護領域156を形成する。以上のように各領域を形成することにより、表面が着色された造形物50を適切に形成できる。
【0044】
尚、造形物50の構成の変形例においては、造形物50の具体的な構成について、上記と異ならせることも考えられる。より具体的に、この場合、例えば、光反射領域を兼ねた内部領域152を形成するのではなく、両者を別の領域として形成すること等が考えられる。また、この場合、内部領域152について、サポート材以外の任意のインクを用いて形成することができる。また、光反射領域については、例えば、白色のインクを用いて、内部領域152の周囲に形成する。また、造形物50において、一部の領域を省略すること等も考えられる。この場合、例えば、保護領域156を省略すること等が考えられる。また、造形物50において、上記以外の領域を更に形成すること等も考えられる。この場合、例えば、内部領域152と着色領域154との間に分離領域を形成すること等が考えられる。分離領域とは、例えば、着色領域154の内側にある白色のインクと着色領域154を構成するインクとが混ざり合うことを防ぐための透明な領域(透明層)である。この場合、造形装置12は、例えば、インクジェットヘッド202tから吐出するクリアインクを用いて、着色領域154の内側に分離領域を形成する。
【0045】
続いて、本例においてスライスデータを生成する動作について、更に詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、本例においては、制御PC14(図1参照)により、スライスデータの生成を行う。この場合、制御PC14においてスライスデータを生成する動作は、スライスデータ生成段階の動作の一例である。また、この場合、制御PC14は、積層方向における互いに異なる位置での造形物50の断面をそれぞれ示す複数のスライスデータを生成する。また、より具体的に、本例において、スライスデータは、造形に用いる各色のインクの吐出位置を指定するデータであり、各色のインクの吐出位置を指定することにより、造形物50の断面の形状及び色を示す。この場合、吐出位置とは、例えば、インクを吐出すべきボクセル位置のことである。また、ボクセル位置とは、例えば、インクを吐出する単位であるボクセル(voxel)の位置のことである。また、ボクセルとは、例えば、造形の解像度に応じて決まる造形の単位である立体画素のことである。また、ボクセル位置については、例えば、予め設定された造形の解像度で並ぶ位置等と考えることもできる。
【0046】
また、本例において、造形装置12(図1参照)は、制御PC14から受け取る複数のスライスデータに基づいて各色のインクを吐出することにより、造形物50の造形を行う。この場合、造形装置12において行う造形の動作は、造形段階の動作の一例である。また、造形装置12は、造形物50における各位置の断面を示すスライスデータに基づき、造形物50の各位置を構成するインクの層を形成する。より具体的に、本例において、造形装置12は、それぞれのスライスデータにおいて指定される吐出位置へ各色のインクを吐出することにより、それぞれのスライスデータに対応するインクの層を形成する。また、これにより、インクの層を積層して、造形物50を造形する。
【0047】
ここで、上記においても説明をしたように、本例においては、造形物50の全体を示す造形物データに基づき、複数のスライスデータを生成する。また、複数のスライスデータとして、積層方向における互いに異なる位置での造形物50の断面をそれぞれ示すデータを生成する。しかし、この場合において、造形データが示す形状をそのまま反映したスライスデータを生成するのではなく、所定の方法で輪郭の変更(調整)を行ったスライスデータを生成する。この場合、輪郭とは、例えば、造形物の外周面に対応する部分のことである。また、より具体的に、本例においては、図2(b)に示すフローチャートの動作に従って、スライスデータの生成を行う。
【0048】
図2(b)は、制御PC14においてスライスデータを生成する動作の一例を示すフローチャートである。本例において、制御PC14は、先ず、例えばネットワークや記憶媒体等を介して、造形物データを取得する(S102)。そして、造形物データに対するスライス処理を行うことで、スライスデータの生成に用いるデータである中間データを生成する(S104)。この場合、ステップS104の動作は、中間データ生成処理の動作の一例である。また、スライス処理とは、例えば、積層方向における一定の間隔で断面の位置を設定して、各断面の位置に対し、造形物データが示す造形物の断面を示すデータを生成する処理のことである。
【0049】
また、本例において、中間データとしては、スライスデータと同じ形式で吐出位置を指定するデータを用いる。また、スライス処理として、例えば、公知の方法でスライスデータを生成する場合と同一又は同様の処理を行う。公知の方法でスライスデータを生成するとは、例えば、後に更に詳しく説明をする輪郭の変更等を行わずにスライスデータを生成することである。そのため、中間データについては、例えば、輪郭の変更を行わない場合のスライスデータに相当するデータ等と考えることもできる。
【0050】
また、より具体的に、本例において、制御PC14は、中間データを生成する処理において、造形物50の各領域(内部領域152、着色領域154、及び保護領域156)に対応する領域を断面内に設定して、各色のインクの吐出位置の指定を行う。また、この場合、着色領域154に対応する領域での各色のインクの吐出位置の指定を行うために、例えば公知の方法でスライスデータを生成する場合と同一又は同様にして、ハーフトーン処理等を行う。また、これにより、ステップS104において、制御PC14は、造形物データに基づき、積層方向における互いに異なる位置での造形物の断面の形状及び断面の各位置の色をそれぞれが示す複数の中間データを生成する。
【0051】
また、この場合、中間データについて、例えば、積層方向における互いに異なる位置での造形物の断面の形状を少なくとも示すデータ等と考えることができる。また、中間データについては、例えば、形状に関して造形物50の断面の形状をそのまま単に示すスライスデータに対応するデータ等と考えることもできる。また、スライスデータについて、形状に関して造形物50の断面の形状をそのまま単に示すとは、例えば、スライスデータが示す事項のうち、造形物50の形状に関する事項に着目した場合に、造形物50の断面の形状をそのまま示していることである。また、造形物50の断面の形状をそのまま示すとは、例えば、造形の解像度に合わせた解像度の変更等を適宜行った状態で、造形物データにより示されている造形物50の断面に対応する形状を示すことである。
【0052】
また、本例においては、生成した中間データに対し、ゆらぎを付与する処理を行って、スライスデータを生成する(S106)。この場合、ゆらぎとは、例えば、造形物50の外側から見た位置が凹凸状に変化することである。また、ゆらぎを付与する処理を行ってスライスデータを生成するとは、例えば、造形される造形物50にゆらぎが付与されるように変更を行ったスライスデータを生成することである。造形物50にゆらぎが付与されるとは、例えば、造形物の外面形状にゆらぎが付与されることである。また、より具体的に、本例においては、例えば、中間データの輪郭を変更して、輪郭が中間データと異なるスライスデータを生成する。この場合、輪郭を変更するとは、例えば、断面の最外周を構成する吐出位置の並び方を変化させることである。また、より具体的に、この場合、例えば、データ変換用の所定のマスクを用い、このマスクを少なくとも一部の少なくとも一部の中間データに対して適用することで、スライスデータの輪郭の変更を行う。この場合、例えば、予め設定されたパターンで吐出位置の指定を変更するマスクを用いることが考えられる。このように構成すれば、例えば、少なくとも一部の中間データから対応するスライスデータを生成する場合において、輪郭を変更しつつ、それぞれの中間データに基づき、それぞれのスライスデータを生成できる。また、スライスデータの輪郭については、マスクを適用する方法以外の方法で行ってもよい。
【0053】
ここで、本例において、ステップS106の動作は、データ変換処理の動作の一例である。また、図2(b)においては、図示及び説明の便宜上、スライスデータを生成する動作に関し、全ての断面の位置に対応する中間データを生成した後にスライスデータの生成を開始する場合の動作を図示している。しかし、スライスデータを生成する動作の変形例においては、中間データの生成と、スライスデータの生成とを並行して行ってもよい。この場合、それぞれの断面の位置に対応する中間データを順次生成しつつ、生成済みの中間データに対応するスライスデータの生成を並行して行う。
【0054】
また、中間データとスライスデータとの間で、輪郭が同じであるとは、各データの仕様に基づき、同じ輪郭を示していることであってよい。例えば、本例において、中間データとしては、例えば、スライスデータと同じ仕様で断面の形状等を示すデータを用いる。この場合、中間データとスライスデータとの間で輪郭が同じであるとは、各データが示す形状が同一なことである。また、中間データとしては、例えば、スライスデータと解像度等が異なるデータを用いること等も考えられる。この場合、中間データとスライスデータとの間で輪郭が同じであるとは、例えば、解像度の違いの影響を考慮して、同じ輪郭を示していることであってよい。
【0055】
また、ステップS106において行うスライスデータの生成の動作については、例えば、最外周における吐出位置の並び方を対応する中間データと異ならせ、輪郭が中間データと異なるスライスデータを生成する動作等と考えることもできる。このように構成した場合、例えば、形状に関して造形物の断面の形状をそのまま単に示すスライスデータを用いるのではなく、輪郭の変更を行ったスライスデータを適切に用いることができる。そして、この場合、例えば、積層縞が目立ちにくくなるように、スライスデータの輪郭を変更すること等が考えられる。そのため、このように構成すれば、例えば、造形物50において積層縞が目立つこと等を適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、高い品質の造形物をより適切に製造することができる。また、この場合、全てのスライスデータに対し、輪郭の変更を行うことが考えられる。また、スライスデータの生成時に行う輪郭の変更等については、後に更に詳しく説明をする。
【0056】
図3及び図4は、スライスデータの生成時に行う輪郭の変更について更に詳しく説明をする図である。図3は、輪郭の変更を行わずに造形物50を造形した場合に生じる問題点について説明をする図である。図3(a)は、輪郭の変更を行わずに造形物50を造形した場合における造形物50の断面の状態について説明をする図であり、造形の解像度と造形物50の外面形状との関係に着目して、主走査方向(Y方向)と直交する平面による造形物50の断面の一例を示す。図3(b)は、造形物50の外観について説明をする図であり、図3(a)に断面を示した造形物50を積層方向(Z方向)の一方側から見た場合の造形物50の状態の一例を示す。
【0057】
また、図3(a)において、一点破線402は、造形物データが示す造形物50の形状を示す線である。造形物データが示す造形物50の形状とは、例えば、造形の解像度よりも高い解像度で表現した造形物50の形状のことである。より具体的に、一点破線402については、造形物データが示す形状における曲面や斜面等について、造形の解像度よりも高い解像度で示す線等と考えることができる。また、図3(a)においては、造形物50の断面について、一部のみを示している。また、図3(a)において、オブジェクト内部とは、造形物50の内部のことである。また、図3(a)、(b)において、吐出位置302は、造形物50の造形時にいずれかのインクを吐出する吐出位置である。また、この場合、吐出位置については、例えば、造形の解像度に応じて設定される設計上の吐出位置と考えることができる。
【0058】
造形装置12(図1参照)を用いて造形を行う場合、予め設定された造形の解像度で表現可能な範囲で、造形物50の形状を表現することになる。そのため、造形物50の表面のうち、曲面になっている部分や、傾斜している部分については、造形の解像度に応じた間隔で並ぶ吐出位置302で表現可能な範囲で、近い形状に形成することになる。この場合、傾斜している部分とは、例えば、主走査方向、副走査方向、又は積層方向に対して傾斜している部分のことである。
【0059】
そして、この場合、実際に造形される造形物50の表面の形状は、図3(a)に示すように、一点破線402で示される形状を造形の解像度に応じて近似した形状になる。また、その結果、造形物50の表面において、造形の解像度に対応する高さの段差(ボクセル単位の段差)が形成されることになる。そして、このような段差が形成された場合、造形物50の表面において、段差が連なることで、縞状の模様(積層縞)が形成されることになる。また、造形物50の形状によっては、一部の位置において、図3(a)に段差重畳部分304として示すような、複数(例えば2個)のボクセル分の段差が形成される場合もある。段差重畳部分304とは、例えば、スライスデータの輪郭のうち、積層方向と直交する面内(XY面内)における位置が積層方向において隣接するスライスデータと同一になっている部分のことである。また、段差重畳部分304については、例えば、インクの層の外縁部が同じ位置(積層方向と直交する面内における同じ位置)で重なる場合の段差等と考えることもできる。また、段差重畳部分304については、例えば、通常の整数倍分の高さの段差等と考えることもできる。そして、この場合、段差重畳部分304に対応する積層縞は、特に目立ちやすくなると考えられる。
【0060】
また、図3(b)において、破線404は、段差重畳部分304が連なることで形成される縞(複数の段差分の高さの縞)の位置を示している。破線406は、段差重畳部分304以外の段差に対応する縞(一段分の高さの縞)の位置を示している。段差重畳部分304以外の段差とは、例えば、1つのボクセルの高さ分の段差のことである。そして、この場合、段差重畳部分304により生じる破線404の位置の縞については、縞を構成する段差が大きいことにより、破線406の位置の一段分の高さの縞と比べ、強く視認されることになる。また、その結果、造形の品質への影響が特に大きくなる。また、このような縞の影響は、図3(a)、(b)に示した方向に限らず、他の方向においても、生じることになる。より具体的に、このような縞の問題は、主走査方向、副走査方向、及び積層方向のいずれの方向においても、生じることになる。そのため、造形の品質を高めることには、積層縞が目立つことを適切に防ぐことが望まれる。これに対し、本例においては、上記においても説明をしたように、スライスデータの生成時において、輪郭の変更を行う。また、この変更において、以下において説明をするように、造形物50にゆらぎを付与して、積層縞が目立ちにくくなるように、変更を行う。
【0061】
図4は、スライスデータの輪郭の変更について更に詳しく説明をする図である。図4(a)は、スライスデータに対して輪郭の変更を行わなかった場合の造形物50の外観について説明をする図であり、説明の便宜上、図3(b)と同じ内容を改めて図示している。図4(b)は、スライスデータに対して行う輪郭の変更の一例を示す図であり、1つのスライスデータにより指定される吐出位置302の一例を示す。
【0062】
上記においても説明をしたように、本例においては、スライスデータの輪郭の変更を行うことにより、造形物50にゆらぎを付与して、縞模様を弱める。この場合、縞模様を弱めるとは、例えば、視覚的に縞模様が目立ちにくくすることである。より具体的に、図4(b)に示す場合においては、スライスデータの輪郭を構成する吐出位置302の一部について、主走査方向(Y方向)と平行な矢印で図中に示すように、図中の右側へずらす処理を行う。また、この場合、一定の方向へ並ぶ複数の吐出位置302の並びをラインと定義すると、副走査方向(X方向)へ並ぶ複数のラインについて、1ラインおきに、1つのボクセル位置分だけ、右側にずらしている。また、これにより、吐出位置について、予め設定されたボクセル数分だけ、主走査方向における位置をずらしている。
【0063】
このようにした場合、スライスデータの輪郭に対し、図中に斜め方向の矢印で示すような凹凸のゆらぎを付与することができる。この場合、スライスデータの輪郭にゆらぎを付与するとは、例えば、そのスライスデータを用いて造形される造形物にゆらぎが付与されるように、スライスデータの輪郭を変更することである。そして、この場合、例えば、造形物50の造形時に形成されるインクの層においてスライスデータの輪郭部分に対応して形成される段差について、一定の直線や曲線に沿って長い距離にわたって連なること等を適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、インクの層の輪郭の連続性を弱めて、縞の視認性を低下させることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、積層縞が目立つことを適切に防ぐことができる。
【0064】
また、この場合、輪郭にゆらぎを付与することにより、連続する複数のインクの層において、輪郭が同じ位置(XY面内における同じ位置)で重なることを生じ難くすることができる。また、これにより、例えば、段差重畳部分304(図3参照)となる範囲をより少なくすること等も可能になる。そのため、このように構成すれば、複数のインクの層分の高さが形成される範囲について、ゆらぎを付与しない場合よりも少なくすることができる。また、これにより、例えば、積層縞が目立つことをより適切に防ぐことができる。
【0065】
ここで、造形装置12(図1参照)においては、例えば、マルチパス方式での造形を行うことが考えられる。マルチパス方式での造形を行うとは、例えば、1つのスライスデータに対応するインクの層を形成する動作において、同じ位置へ複数回の主走査動作をインクジェットヘッドに行わせることである。そして、この場合、図4(b)を用いて説明をした動作については、例えば、マルチパス方式での造形を行う場合において、パス毎に吐出位置を所定量だけシフトさせる動作等と考えることができる。吐出位置を所定量だけシフトさせるとは、例えば、予め設定された所定の数のボクセル分(nボクセル分:nは、1以上の整数)だけ、主走査方向における吐出位置をずらすことである。このように構成すれば、例えば、スライスデータの輪郭にゆらぎを適切に付与することができる。また、これにより、積層縞を目立ちにくくすることができる。
【0066】
また、上記においても説明をしたように、本例においては、造形物データに基づいて生成する中間データを生成し、更に、中間データに基づき、スライスデータを生成する。また、中間データとして、スライスデータと同じ形式で吐出位置を指定するデータを用いる。そのため、中間データについては、例えば、シフト前の吐出位置を指定するデータ等と考えることもできる。また、中間データに基づいて生成するスライスデータについて、中間データにおいて指定されている吐出位置をシフトさせたデータ等と考えることもできる。また、この場合、スライスデータについて、例えば、シフト前の中間データと比べて、例えば図中に示すように、一部の回の主走査動作で形成されるライン(例えば奇数パスに対応するライン)の吐出位置を主走査方向においてnボクセル分だけずらしたデータ等と考えることもできる。また、このようにして吐出位置をシフトさせる動作については、例えば、一部の回の主走査動作での吐出位置が主走査方向へずれるようにスライスデータを変更する動作等と考えることもできる。また、より具体的に、この場合、スライスデータの輪郭を変更する処理において、例えば、複数回の主走査動作のうちの一部の回の主走査動作においてインクを吐出する吐出位置について中間データにおいて指定されている吐出位置と比べて主走査方向における位置がずれるようにしたスライスデータを生成することが考えられる。このように構成すれば、例えば、スライスデータの輪郭の変更を適切に行うことができる。また、このようなスライスデータに基づいてインクの吐出を行うことにより、実際にインクが吐出される吐出位置もシフトして、積層縞が目立ちにくくなる。
【0067】
また、図4(b)においては、輪郭へのゆらぎ付与の仕方について、主走査方向における位置をずらす場合について、図示をしている。しかし、より一般化して考えた場合、ゆらぎを付与する方法については、主走査方向に限らず、副走査方向や積層方向にすること等も考えられる。このように構成した場合も、例えば、インクの層の外縁部に適切にゆらぎを付与することができる。また、ゆらぎを付与する方向については、一方向(例えば、主走査方向)のみにするのではなく、複数の方向にゆらぎを付与してもよい。また、ゆらぎについては、例えば、1つの方向にゆらぎを付与することで、他の2つの方向にもゆらぎが生じると考えることもできる。
【0068】
また、より具体的に、ゆらぎの付与の仕方に関し、副走査方向へ吐出位置をずらしてゆらぎを付与する場合、例えば、スライスデータにおいて指定する吐出位置について、中間データで指定している吐出位置と比べて、主走査方向におけるmボクセル分(mは、1以上の整数)おきに、nボクセル分だけずらすこと等が考えられる。また、積層方向と直交する面内(XY面内)で吐出位置のシフトを行う場合、スライスデータの輪郭の変更の仕方に関し、例えば、スライスデータの外縁部を構成する一部のボクセル位置について、主走査方向又は副走査方向へずらす方法等と考えることができる。また、この場合、例えば、スライスデータの外縁(外周)に沿って、所定数のボクセル位置毎に、位置をずらすボクセル位置を選択すること等が考えられる。また、この場合、ボクセル位置のずらし量については、例えば、1〜2個のボクセル位置分(例えば、1つのボクセル位置分だけ)にすること等が考えられる。また、この場合、スライスデータを生成する処理において、例えば、少なくとも一部のスライスデータについて、対応する中間データと輪郭が同じスライスデータと比べて、輪郭を構成する一部の吐出位置が主走査方向及び副走査方向の少なくともいずれかの方向へずれるように、スライスデータの輪郭の変更を行う。また、この場合、例えば、中間データと輪郭が同じスライスデータを用いる場合よりもゆらぎが多くなるように、スライスデータの輪郭の変更を行うこと等が考えられる。このように構成すれば、例えば、少なくとも一部のスライスデータの輪郭について、対応する中間データの輪郭と適切に異ならせることができる。また、これにより、スライスデータの輪郭にゆらぎを付与して、輪郭をぼやけさせることができる。また、ゆらぎを付与することにより、例えば、積層縞が目立つことを適切に防ぐことができる。
【0069】
また、この場合、更に、上記において説明をした段差重畳部分304(図3参照)のようなインクの層の外縁部が同じ位置で重なる範囲が少なくなるように、スライスデータの輪郭を変更することが好ましい。この場合、インクの層の外縁部が同じ位置で重なる範囲については、例えば、積層方向において連続して重なる複数のインクの層の外縁部において、同じ位置で重なる部分等と考えることもできる。また、より具体的に、スライスデータの生成時には、例えば、中間データと輪郭が同じスライスデータを用いる場合よりも段差重畳部分304が少なくなるように、スライスデータの輪郭の変更を行うこと等が考えられる。このように構成すれば、例えば、積層縞が目立つことをより適切に防ぐことができる。
【0070】
また、上記においても説明をしたように、ゆらぎの付与については、積層方向へ吐出位置をずらすことで行ってもよい。この場合、例えば1つのインクの層に対応する1つの中間データを例えば格子状のマスクでN分割(Nは、2以上の整数)して、分割したデータを再構成することでスライスデータを生成すること等が考えられる。より具体的に、この場合、例えば、中間データを分割した分割データにおけるN−k層目(kは、1以上、N未満の整数)の(1/N)分割データからN層目の(1/N)分割データまでを組み合わせて、N層目のスライスデータを生成することが考えられる。
【0071】
また、上記においては、造形物50へのゆらぎの付与について、主に、スライスデータの変更により行う場合について、説明をした。しかし、造形物50へのゆらぎの付与は、例えば、造形装置12(図1参照)の動作の変更により行うこと等も考えられる。この場合、上記において中間データとして説明をしたデータをそのままスライスデータとして用い、造形装置12の動作の設定により、吐出位置をずらすこと等が考えられる。より具体的に、この場合、上記において説明をした中間データと同一のスライスデータに対し、一部の回の主走査動作(例えば奇数パスに対応するラインの位置へインクを吐出する主走査動作)での吐出位置を主走査方向においてnボクセル分だけずらすこと等が考えられる。このように構成した場合も、例えば、スライスデータに従って実際に形成される造形物50に対し、ゆらぎを適切に付与することができる。また、これにより、例えば、積層縞が目立つことを適切に防ぐことができる。
【0072】
また、より具体的に、この場合、例えば、主走査動作においてインクを吐出する吐出位置の基準となる基準位置について、一部の回の主走査動作の基準位置を他の回の主走査動作と異ならせることが考えられる。この場合、基準位置とは、例えば、主走査方向における基準位置のことである。また、主走査動作の基準位置を異ならせるとは、例えば、スライスデータ中で主走査方向における位置が同じになっている吐出位置について、一部の回の主走査動作でのインクの着弾位置を他の回の主走査動作でのインクの着弾位置と異なるようにすることである。この場合、主走査動作でのインクの着弾位置とは、例えば、主走査方向における設計上の着弾位置のことである。また、この場合、例えば、複数回の主走査動作のうちの一部の回の主走査動作に対して設定する基準位置について、他の回の主走査動作に対して設定する基準位置に対し、予め設定された数のボクセル分(例えば、nボクセル分)だけ主走査方向における位置がずれるように設定すること等が考えられる。このように構成すれば、例えば、造形物の外面形状に対し、ゆらぎを適切に付与することができる。
【0073】
また、この場合、中間データをスライスデータに変換する処理等を行う必要がないため、ゆらぎを付与するか否かについて、例えば、スライスデータを生成した後に決定すること等も可能である。そのため、この場合、造形装置12において、ゆらぎを付与するか否かの選択(動作モードの選択等)をユーザから受け付け、ユーザが指示した場合にのみ、ゆらぎを付与してもよい。このように構成すれば、例えば、必要な場合にのみゆらぎを付与することで、所望の品質の造形物をより適切に造形することができる。
【0074】
続いて、中間データに基づいてスライスデータを生成する動作について、更に詳しく説明をする。上記においても説明をしたように、スライスデータの生成時には、データ変換用の所定のマスクを中間データに適用すること等が考えられる。図5及び図6は、マスクを適用してスライスデータの輪郭を変更させる動作の一例について説明をする図である。
【0075】
図5(a)は、中間データの構成の一例を示す図(ボクセル配置図)である。上記においても説明をしたように、本例において、中間データとしては、スライスデータと同じ形式で吐出位置を指定するデータを用いる。そして、この場合、中間データは、図中に示すように、造形物50を構成する各領域(内部領域152、着色領域154、及び保護領域156)及びサポート層52の断面を示すデータになる。この場合、各領域等の断面を示すとは、例えば、その領域の形成に用いるインクの吐出位置を指定することである。また、インクの吐出位置を指定するとは、例えば、断面に含まれるボクセル位置とインクの色とを対応付けることである。また、図中において、各ボクセル位置の文字は、そのボクセル位置へ吐出されるインクの種類(ボクセルの種類)を示している。より具体的に、Wは、白色のインクの吐出位置を示している。Tは、クリアインクの吐出位置を示している。Y、M、C、Kは、プロセスカラーの各色のインク(カラーインク)の吐出位置を示している。また、Spは、サポート材として用いるインク(サポートインク)の吐出位置を示している。また、図5(a)においては、着色領域154について、明るい青色(明るいブルー)、黒色、及び黄色に着色する場合について、ボクセル配置図を示している。
【0076】
また、図5(a)においては、主走査方向及び副走査方向における造形の解像度が600dpiの場合の例を図示している。この場合、1つのボクセルの大きさは、図中に模式的に示すように、42μm角になる。また、この場合、造形時に実際に形成されるインクのドットについては、必ずしも理論上のボクセルの形状と同一でなくてもよい。より具体的に、本例においては、例えば直径100μm程度の円形に広がるようなインクのドットを形成することが考えられる。
【0077】
また、図5(a)において、破線412、破線414、及び破線416は、造形の解像度よりも高い解像度で造形物50の形状を示した場合の各領域の境界を示す線である。この場合、造形の解像度よりも高い解像度で造形物50の形状を示すとは、例えば、中間データの生成時に造形の解像度に合わせた解像度の変換等を行う前の状態での造形物50の形状を示すことである。また、外形ライン420は、造形の解像度で造形物50の外面の形状を示す線であり、図中に示すように、ボクセルの境界に沿って、造形物50の断面の最外周を構成する輪郭(1層の外形ライン)を示す。また、外形ライン420については、例えば、破線412を造形の解像度で表現した線等と考えることもできる。
【0078】
また、この場合、図中に示すように、外形ライン420は、直線状の長い部分を含んでいる。そのため、このような中間データと輪郭が同一なスライスデータを用いる造形を行うと、インクの層の端に、一方向へ連続的に連なる長い段差が形成されることになる。また、その結果、積層縞が目立ちやすくなることが考えられる。これに対し、本例においては、上記においても説明をしたように、例えば中間データに所定のマスクを適用することで、中間データと輪郭が異なるスライスデータを生成して、造形物50の造形を行う。
【0079】
図5(b)は、中間データに適用するマスクの一例を示す。このマスクは、一部の吐出位置へインクに代えてサポート材を吐出するように吐出位置の指定を変更するマスクである。また、より具体的に、図中において、記号Sptは、クリアインク(Tインク)をサポート材として用いるインク(Spインク)に置き換えることを示す記号である。また、記号−は、このような置き換えを行わないことを示す記号である。また、この場合、このマスクについて、例えば、Tインクのボクセル(Tボクセル)をSpインクのボクセル(Spボクセル)に変換するマスク等と考えることもできる。
【0080】
図6(a)は、マスクを適用する動作について更に詳しく説明をする図である。図6(a)において、符号Aを付した矢印で示す図は、マスクの適用前の状態を示す図であり、図5(a)に示した中間データの一部を抜き出して示す。この場合、外形ライン420は、図中に示すように、直線状の長い部分を含んでいる。また、その結果、積層縞が目立ちやすくなっている。
【0081】
また、符号Bを付した矢印で示す図は、マスクの適用により置き換えがされる吐出位置を示す図である。また、より具体的に、本例において、図5(b)に示すマスクを用いる場合、造形物50の最外周に並ぶ吐出位置に対してのみ、マスクを適用する。また、この場合、例えば、図5(a)及び図6(a)において破線412で示す外形のラインと交差するボクセル位置にある吐出位置のみを選んで、マスクを適用することが考えられる。そして、この場合、例えば、図中に太枠で示した4つの吐出位置において、吐出されるインクの指定が、クリアインク(Tインク)からサポート材(Spインク)に変換される。
【0082】
また、符号Cを付した矢印で示す図は、中間データにマスクを適用することで生成されるスライスデータの構成(マスク処理後の構成)を示す。この場合、上記の4つの吐出位置へ吐出するインクがサポート材に変換されることで、処理後の外形ライン420は、処理前と比べ、直線状に長く繋がる部分が少なくなっている。この場合、処理前の外形ライン420とは、中間データにおいて造形の解像度で造形物50の外面の形状を示す線のことである。また、処理後の外形ライン420とは、スライスデータにおいて造形の解像度で造形物50の外面の形状を示す線のことである。
【0083】
図6(b)は、マスクを適用する効果について更に詳しく説明をする図であり、連続する2つのインクの層である第n−1層と第n層とが重なっている状態を模式的に示す。また、図6(b)において、符号Dを付した矢印で示す図は、マスクの適用を行わずに造形を行った結果を示す。また、この図については、例えば、中間データと輪郭が同一のスライスデータを用いた場合の造形結果の例と考えることもできる。この場合、図からわかるように、1層のインクの層の厚さ(高さ)の段差が長い直線状に連続して連なることになる。また、その結果、積層縞が目立ちやすくなっている。
【0084】
これに対し、符号Eを付した矢印で示す図は、マスクの適用を行って生成したスライスデータを用いて造形を行った結果を示す。この場合、図からわかるように、1層のインクの層の厚さ(高さ)の段差について、長い直線状に連続して連なってはいない状態になっている。また、その結果、積層縞は、目立ちにくくなっている。そのため、このように構成すれば、例えば、積層縞が目立つことを適切に防ぐことができる。
【0085】
尚、マスクについては、上記において説明をしたパターンとは異なるパターンのマスクを用いてもよい。より具体的に、上記において説明をしたマスクは、いわば、1つのボクセル単位での市松マスクになっている。しかし、市松マスクを用いる場合において、パターンの周期については、1つのボクセル単位に限らない。この場合、例えば、2つのボクセル単位や、主走査方向及び副走査方向のそれぞれにおいて2つのボクセル単位になる2×2ボクセル単位等の市松マスク等を用いることが考えられる。また、マスクのパターンについては、市松マスクに限らず、例えば他の周期的なパターンのマスクを用いてもよい。この場合、主走査方向及び副走査方向に対して周期的なパターンを用いることが好ましい。また、マスクとして、非周期的なパターンのマスクを用いてもよい。
【0086】
続いて、造形物50にゆらぎを付与する特徴について、他の応用例の説明をする。上記においては、造形物50にゆらぎを付与する特徴について、主に、積層縞を目立ちにくくする目的で行う場合について、説明をした。しかし、ゆらぎの付与については、例えば、積層縞を目立ちにくくする目的以外で行うこと等も考えられる。この場合、例えば、スライスデータの輪郭を変更することで、造形物の表面の質感をマット調にすること等が考えられる。また、より具体的に、この場合、例えば、データ変換処理において、造形物の表面の少なくとも一部がマット状になるように、少なくとも一部のスライスデータの輪郭を対応する中間データと異ならせる。このように構成すれば、例えば、必要に応じて、表面がマット調の造形物50を適切に製造することができる。
【0087】
図7は、表面をマット調にした造形物50を造形する動作について更に詳しく説明をする図である。尚、以下に説明をする点を除き、図7において、図1〜6と同じ符号を付した構成は、図1〜6における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。
【0088】
図7(a)は、造形物50の一部を構成するボクセルを模式的に示す図である。表面をマット調にした造形物50を造形する場合においても、上記において説明をした場合と同一又は同様にスライスデータを生成して、造形装置12において、造形物50の造形を行う。また、この場合、スライスデータの輪郭の変更を行うことで、造形物50の最表面に形成される保護領域156について、マット状に形成する。また、より具体的に、この場合、例えば、マスクの適用により吐出位置の指定を変化させることで、造形物50の最外層におけるボクセル単位(液滴単位)での離散的なボクセル位置にクリアインクのドットを配置して、マット状の保護領域156を形成する。また、保護領域156を構成するクリアインクのドットの合間(クリアインクのドットが配置されない部分)には、サポート材料となるインク(サポートインク)のドットを配置する。このように構成すれば、例えば、造形の完了後にサポート層52を除去することで、造形物50の表面をマット状に形成することができる。また、この場合、造形物50の各領域及びサポート層52を構成する各ボクセル位置については、例えば図7(a)に示すように各色のインクと対応付けることが考えられる。
【0089】
ここで、図7(a)に示す構成は、サポート層52の除去を行う前の時点でのボクセルの構成の一例である。また、図7(a)においては、着色領域154を薄青色に着色する場合のボクセルの構成を示している。また、この場合、サポート層52の除去を行う前の時点において、保護領域156になる部分は、クリアインクで形成されるドットに対応するボクセル(T)と、サポートインクで形成されるドットに対応するボクセル(S)とで構成される。また、図中に示した場合においては、この部分においるクリアインクの面積占有率が33%になるように、保護領域156を形成している。この場合、クリアインクの面積占有率が33%になるとは、例えば図中に示すように、保護領域156に対応する部分を構成するボクセルについて、3つのボクセルあたり1つのボクセルがクリアインクに対応するボクセルになっていることである。また、この場合、サポート層52を除去することで、サポートインクに対応するボクセルがなくなり、ボクセル単位での凹凸状の保護領域156が造形物50の表面に形成される。
【0090】
図7(b)は、図7(a)に示す状態からサポート層52を除去した後の状態(造形が完了した最終造形物の状態)の一例を示す。図7(a)に示す状態からサポート層52を除去した場合、図7(a)において保護領域156に対応する部分を構成しているクリアインクのボクセルのうち、着色領域154と接しているボクセルのみが除去されずに残り、着色領域154と接していないボクセルは、サポート層52と共に除去されることになる。そのため、サポート層52の除去後の状態は、図7(b)に示すように、着色領域154と接する部分にクリアインクで形成される凸状の部分が離散的に形成された状態になる。そして、この場合、造形の完了後の造形物50の表面は、光が乱反射するマット状になる。また、より具体的に、図中に示す場合、着色領域154の表面の33%に、クリアインクで、ボクセル単位での凸状の部分が形成されることになる。このように構成すれば、例えば、造形物50の表面における所望の位置にマット状の領域を形成して、造形物50の表面の見え方を適切に調整することができる。また、これにより、例えば、造形物50の外周面の角度によって光沢性に意図しない差が生じること等を適切に防ぐことができる。
【0091】
ここで、造形物50の最表面に形成する保護領域156の厚さについては、例えば、100〜200μm程度にすることが好ましい。このように構成すれば、例えば、造形物50の表面を適切にマット状にすることができる。また、造形物50において、各領域の厚さについては、造形物50の表面と直交する法線方向に並ぶボクセルの数との関連も重要である。例えば、保護領域156については、凹凸の形状が大きいとザラツキが目立つため、法線方向及び法線方向と直交する面内方向において並ぶボクセルが1〜2個程度になるように形成することが好ましい。より具体的に、この場合、1つの凸部を構成するボクセルの数について、X、Y、Zの各方向へ並ぶボクセルの数を1〜2個程度にして、1個(1×1×1ボクセル)又は2個(1×1×2ボクセル)〜8個(2×2×2ボクセル)程度にすることが好ましい。また、図7(a)及び図7(b)等においては、XY方向へ連なる面のボクセルの群が造形物50における1つの層(1層)を形成している場合について、ボクセルの構成を簡略化して示している。また、それぞれのボクセルの寸法について、積層方向(Z方向)の寸法と面内の方向(例えば、Y方向)の寸法の比(例えば、Z:Y)で面内の方向の寸法の方が大きい場合には、造形物50における1つの断面の形状やカラーを示すデータ(スライスデータ)に対応する領域を複数の層により形成してもよい。
【0092】
また、表面をマット調にした造形物50を造形する動作に関し、上記において説明をした動作については、例えば、積層造形法で造形物50を造形する場合において、造形物50の最外面の少なくとも一部に対し、マット処理用のインクのドットを形成する動作等と考えることができる。また、より具体的に、上記において説明をした動作では、クリアインクをマット処理用のインクとして用い、造形物50の外面の法線方向に対して一定の厚さでマット状の保護領域156を形成する。この場合、保護領域156について、造形物50の表面にクリアインクでマット状に形成される領域等と考えることができる。また、この場合、マット状の保護領域156を形成する処理を行うか否か(マット処理の可否)については、ユーザが選択可能(設定可能)にすることが好ましい。この場合、例えば制御PC14(図1参照)に対するユーザの操作により、指示を受け付けることが考えられる。また、この場合、マット状に形成する領域におけるマット処理用のインクの面積占有率をユーザが設定可能にすることがより好ましい。マット状に形成する領域におけるマット処理用のインクの面積占有率とは、例えば、造形物50の表明においてマット状に保護領域156が形成される範囲において、凸状に形成される部分の面積が占める割合のことである。また、凸状に形成される部分の面積とは、例えば、凸状の部分を構成するボクセルが占める設計上の面積のことである。
【0093】
続いて、表面をマット調にした造形物50を造形する動作の変形例の説明について、説明をする。図7(c)は、マット状の保護領域156の形成の仕方の変形例について説明をする図である。上記においては、マット状の保護領域156における凸状の部分(凸部)について、主に、1つのボクセルで1つの凸部を形成する場合の例を説明した。しかし、造形物50の構成の更なる変形例においては、複数のボクセルで1つの凸部を形成してもよい。
【0094】
より具体的に、各ボクセルの形状について、アスペクト比が大きな形状になる場合、造形物50の表面における面の角度によって凸部の形状に差が生じ、結果として、マット状の状態にも差が生じる場合がある。そのため、1つの凸部を構成するボクセルの数やボクセルの並び方については、ボクセルのアスペクト比に応じて決定することが考えられる。例えば、1つのボクセルにおいて、積層方向と直交する面内方向(X方向及びY方向)と積層方向(Z方向)とのアスペクト比が2:1(2倍)である場合、図7(c)に示すように、マット状の保護領域156における1つの凸部を2個のボクセル(1×1×2ボクセル)で形成して、積層方向に2つのボクセルが並ぶようにすることが考えられる。このように構成した場合、1つの凸部の積層方向における幅が1つのボクセルの2倍になるため、それぞれの凸部の形状を立方体により近づけることができる。また、これにより、例えば、造形物50の表面における面の角度によってマット状の状態に差が生じることを適切に防ぐことができる。また、図7(c)に示した場合において、保護領域156でのクリアインクの面積占有率は50%になっている。
【0095】
また、上記においては、マット状に形成する領域について、主に、着色領域154の外側にクリアインクで形成する場合の例を説明した。しかし、造形物50の構成の更なる変形例においては、例えば、着色領域154の一部にマット状の領域を兼ねさせること等も考えられる。図8は、表面をマット調にした造形物50を造形する動作の更なる変形例について説明をする図である。図8(a)は、本変形例において造形物50の一部を構成するボクセルを模式的に示す図であり、造形物50の造形時においてサポート層52を除去する前の状態の一例を示す。図8(b)は、サポート層52を除去した後における着色領域154の近傍の状態の一例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図8において、図1〜7と同じ符号を付した構成は、図1〜7における構成と、同一又は同様の特徴を有してよい。
【0096】
上記においても説明をしたように、造形物50の構成の更なる変形例においては、例えば、着色領域154の一部にマット状の領域を兼ねさせること等も考えられる。より具体的に、例えば、造形物50に求められる品質等によっては、造形物50の最外面に着色領域154が露出するように造形物50を造形すること等も考えられる。そして、このような場合、着色領域154の外側にマット状の保護領域156を別途形成するのではなく、着色領域154において最も外側の部分を凹凸状に形成することで、着色領域154の一部をマット状の領域としても機能させることが考えられる。また、この場合、図8に示すように、着色領域154における最外周の一部が、マット状の領域になる。また、この構成については、例えば、着色領域154において造形物50の表面に露出している部分の少なくとも一部がマット状に形成される構成等と考えることもできる。
【0097】
また、この場合、中間データからスライスデータを生成する処理において、例えば所定のパターンのマスクを適用することで、着色領域154の最外面にある一部のボクセル位置にサポート材を吐出するように、吐出位置の置き換えを行う。このように構成すれば、例えば、着色領域154の外側にボクセルを増やす方法ではなく、いわば、着色領域154のボクセルを間引くことで、造形物50の表面について、光を乱反射させるマット状の状態にすることができる。また、より具体的に、この場合、着色領域154の最外面は、例えば図8(a)に示すように、一部のボクセルがサポートインクのボクセルに置換された状態になる。そして、この場合、造形物50の造形の完了後にサポート層52を除去すると、造形物50の表面には、例えば図8(b)に示すように、凹凸が形成されることになる。そのため、本変形例においても、例えば、造形物50の表面を適切にマット状にすることができる。
【0098】
尚、本変形例のように着色領域154の一部をマット状に形成する場合、着色領域154を構成する着色用のインク(カラーインク)のボクセルの一部が消失することになる。しかし、最終的な造形物50の色調や色の見え方の実質的な解像度は、多数のボクセルの影響により決まることになる。そのため、本変形例のようにマット状の領域を形成したとしても造形物50の表面の画質等への影響については、通常、無視することができると考えられる。また、この場合、着色領域154において法線方向に並ぶボクセルの数を必要に応じて増加させ、十分の大きな数にすれば、マット状の領域を形成することの影響をより低減することもできる。また、造形物50の更なる変形例においては、上記以外の方法でマット状の領域を形成すること等も考えられる。より具体的に、例えば、表面を着色せず、造形物50の表面の少なくとも一部を白色のインクで形成する場合等には、マット処理用のインクとして白色のインク等を用いること等も考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、例えば、造形物の製造方法に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
10・・・造形システム、12・・・造形装置、14・・・制御PC、50・・・造形物、52・・・サポート層、102・・・ヘッド部、104・・・造形台、106・・・走査駆動部、110・・・制御部、152・・・内部領域、154・・・着色領域、156・・・保護領域、202・・・インクジェットヘッド、204・・・紫外線光源、206・・・平坦化ローラ、302・・・吐出位置、304・・・段差重畳部分、402・・・一点破線、404・・・破線、406・・・破線、412・・・破線、414・・・破線、416・・・破線、420・・・外形ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8