【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、下記の化学式(I):
【化1】
(式中、−Xは、H、CH
3、CH
2CH
3、アントラニルアラニン、DOPA、チロシン、トレオニン、
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
および
【化6】
からなる群より選択され、少なくとも1つ、好ましくは最大2つもしくは3つのXは、
【化7】
および/または
【化8】
であり;
−Yは、O、H、OH、SおよびNからなる群から選択され、
【化9】
において、
------------は、結合なし、単結合または二重結合を示し、
------------は、単結合または二重結合を示し;
−mは、0と3との間の整数であり;
−nは、0と4との間の整数である)の化合物、その塩、その溶媒和物ならびにその塩の溶媒和物の提供により達成される。
【0009】
本発明者らは、Staphylococcus lugdunensisという細菌から、化学式(I)の範囲に含まれる、ある環状ペプチドを単離することに成功した。この環状ペプチドは、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)であるEnterococcus faecalisおよびE.faecium、Streptococcus pneumonia、Listeria monocytogenesならびにStaphylococcus aureusを含む様々な病原性細菌に対して強い活性を示す。本発明者らは、さらに研究を進めて、化学式(I)で示されるコア構造が、単離した化合物の抗菌活性に関与することを確認した。
【0010】
前記新規化合物は、環状構造内に5〜9個のアミノ酸を含む。この「大員環」に含まれるアミノ酸は、疎水性芳香族アミノ酸が好ましく、少なくとも1つのアミノ酸はトリプトファンまたはフェニルアラニンである必要があり、一実施形態においては、好ましくは最大2つ、3つ、4つなどの複数のアミノ酸がトリプトファンまたはフェニルアラニンである。好ましくは、2個以下の芳香族アミノ酸が含まれている。
【0011】
前記新規化合物は、さらに「小員環」、すなわちチアゾリジン環、オキサゾリジン環またはイミダゾリジン環などの5員環、6員環または7員環の複素環を含んでいてもよい。この小員環は、二重結合を有する必要はないが、破線と下線の組み合わせで示されるように、単結合または二重結合を有していてもよい。また、破線で示されるように、環構造を有さず、「小員環」が開環した状態であってもよい。
【0012】
本発明の化合物には、その個々の構造によって、立体異性体(エナンチオマー、ジアステレオマー)が存在する場合がある。したがって、本発明は、このようなエナンチオマーまたはジアステレオマーおよびそれらの混合物も包含する。そのようなエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーの混合物から立体異性学的に均一な成分を単離することは、公知の方法により可能である。本発明の化合物において、互変異性体が存在する場合、そのような互変異性体もすべて本発明に包含される。
【0013】
本発明の目的に好適な塩は、本発明の化合物の生理学的に許容される塩である。しかし、それ自体医薬用途に適していなくても、例えば、本発明の化合物の単離または精製に使用することができる塩であれば、このような塩も本発明に包含される。
【0014】
化学式(I)の化合物の医薬的に許容される塩として、無機塩基の塩、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、特にナトリウム塩やカリウム塩、アルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩やカルシウム塩;有機塩基の塩、特に、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、プロカイン、モルホリン、ピロリン、ピペリジン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリンまたはピペラジンといった有機塩基に由来する塩;塩基性アミノ酸との塩、特にリジン、アルギニン、オルニチンまたはヒスチジンとの塩などが挙げられる。
【0015】
化学式(I)の化合物の医薬的に許容される塩として、無機酸の塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩またはホスホン酸塩;有機酸の塩、特に酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩またはベンゼンスルホン酸塩;酸性アミノ酸との塩、特にアスパラギン酸塩またはグルタミン酸塩などがさらに挙げられる。
【0016】
本発明の目的に好適な溶媒和物は、固体状態または液体状態で、本発明の化合物に溶媒分子が配位して形成される複合体である、本発明の化合物の溶媒和物形態を指す。水和物は、水分子の配位により形成される、溶媒和物の特定の一形態である。
【0017】
本発明の化合物は、該化合物が配位子として働くことにより、例えば、鉄、カルシウムなどと複合体を形成してもよく、そのような複合体も本発明の対象である。
【0018】
上記により、本発明の根底にある問題は完全に解決される。
【0019】
本発明の別の一実施形態において、本発明の化合物は、下記の化学式(II):
【化10】
(式中、−Xは、H、CH
3、CH
2CH
3、アントラニルアラニン、DOPA、チロシン、トレオニン、
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
および
【化15】
からなる群より選択され、少なくとも1つ、好ましくは最大2つもしくは3つのXは、
【化16】
および/または
【化17】
である)で示される化合物、その塩、その溶媒和物ならびにその塩の溶媒和物であることを特徴とする。
【0020】
本発明者らにより実証されているように、7個のアミノ酸を含む大員環とチアゾリジン小員環とからなる本発明の化合物は、特に強い抗菌活性を有する。
【0021】
化学式(I)で示される化合物に関して記載された特徴、特性および利点は、化学式(II)で示される化合物にも当てはまる。
【0022】
別の一実施形態において、本発明の化合物は、下記の化学式(III):
【化18】
(式中、Yは、
【化19】
【化20】
および
【化21】
からなる群より選択される)で示されることを特徴とする。
【0023】
本発明者らによって確認されているように、化学式(III)のコア構造で示される本発明の化合物は、極めて高い抗菌活性を示す。
【0024】
化学式(I)および(II)で示される化合物に関して記載された特徴、特性および利点は、化学式(III)で示される化合物にも当てはまる。
【0025】
別の一実施形態において、本発明の化合物は、下記の化学式(IV):
【化22】
で示されることを特徴とする。
【0026】
この実施形態において提供される化合物は、まさに本発明者らがStaphylococcus lugdunensisから単離した化合物である。この化合物は、一般式(I)〜(III)で示される化合物の抗菌活性を実証するための実施形態で、模範的に使用されている。本発明者らにより実証されているように、この化合物は殺菌活性を有しており、よって細菌感染を確実かつ効果的に阻止することができる。この化合物は、周知の微生物学的手法と周知の化学的手法であるクロマトグラフィーとを組み合わせることによって、Staphylococcus lugdunensisから単離することが可能であり、また、ペプチド合成によって合成することも可能である。
【0027】
化学式(I)、(II)および(III)で示される化合物に関して記載された特徴、特性および利点は、化学式(IV)で示される化合物にも当てはまる。
【0028】
本発明のさらなる一発展形態において、本発明の化合物は、疾患、好ましくは感染症、さらに好ましくは細菌性疾患、さらに好ましくはグラム陽性細菌による感染症、特に好ましくは、特にメチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)およびバイコマイシン耐性Staphylococcus aureus(VRSA)を含むStaphylococcus aureusによる感染症の治療および/または予防のために提供される。
【0029】
この方策は、様々な感染性因子、特にヒトにおいて種々の重篤な感染症を引き起こすMRSAに変異したStaphylococcus aureusに対して有効な化合物が提供されるという利点を有する。
【0030】
本発明の化合物は、その薬理学的特性により、単独でまたは他の薬剤と組み合わせて使用することにより、疾患または感染症、特に細菌感染症を治療および/または予防することができる。
【0031】
例えば、下記の病原体の感染または下記の複数の病原体の混合感染により引き起こされる局所性疾患および/または全身性疾患を治療および/または予防することができる:
【0032】
スタフィロコッカス属菌(Staph.aureus、Staph.epidermidis)、ストレプトコッカス属菌(Strept.agalactiae、Enterococcus faecalis、Strept.pneumonia、Strept.pyogenes)などのグラム陽性球菌;バチルス属菌(Bacillus anthracis)、リステリア属菌(Listeria monocytogenes)、コリネバクテリウム属菌(Corynebacterium diphteriae)などのグラム陽性杆菌;グラム陰性球菌(Neisseria gonorrhoeae);Escherichia coli、Haemophilus influenzae、シトロバクター属菌(Citrob.freundii、Citrob.divernis)、サルモネラ属菌、赤痢属菌などの腸内細菌科に属する菌を含むグラム陰性杆菌;ならびにクレブシエラ属菌(Klebs.pneumoniae、Klebs.oxytoca)、エンテロバクター属菌(Ent.aerogenes、Pantoea agglomerans)、ハフニア属菌、セラチア属菌(Serr.marcescens)、プロテウス属菌(Pr.mirabilis、Pr.rettgeri、Pr.vulgaris)、プロビデンシア属菌、エルシニア属菌およびアシネトバクター属菌。さらに、抗菌スペクトルには、シュードモナス属菌(Ps.aeruginosaおよびPs.maltophilia);Bacteroides fragilis、ペプトコッカス属、ペプトストレプトコッカス属およびクロストリジウム属の代表的な菌種などの絶対嫌気性細菌;さらにマイコプラズマ(M.pneumoniae、M.hominis、M.urealyticum)およびMycobacterium tuberculosisなどのマイコバクテリアも含まれる。
【0033】
上記の病原体の一覧は単なる例示であり、本発明を限定するものではない。
【0034】
本発明の化合物によって治癒、予防または緩和することができる、上記の病原体または混合感染が原因の疾患としては、例えば、下記の疾患が挙げられる:
【0035】
敗血症性感染症、骨・関節感染症、皮膚感染症、術後創傷感染症、膿瘍、蜂巣炎、創傷感染症、感染した熱傷、熱傷、口腔感染症、歯科術後感染症、化膿性関節炎、乳腺炎、扁桃炎、泌尿生殖器感染症、眼感染症などのヒトの感染症。
【0036】
特に、鼻腔内コロニー形成および鼻腔感染症の治療および/または予防のための本発明の化合物の使用が好ましい。
【0037】
この点に関して、本発明者らの知見によれば、本発明の化合物は、単離した環状ペプチドが作用する自然環境に配置される。
【0038】
ヒトに限らずその他の動物の細菌感染症も治療または予防することが可能であり、そのような細菌感染症として、下記の例が挙げられる。
【0039】
ブタ:大腸菌性下痢症、腸毒血症、敗血症、赤痢、サルモネラ症、子宮炎−乳腺炎−無乳症症候群、乳腺炎;
【0040】
反芻動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ):下痢、敗血症、気管支肺炎、サルモネラ症、パスツレラ症、マイコプラズマ症および性器感染症;
【0041】
ウマ:気管支肺炎、産褥期感染症および産褥後感染症、サルモネラ症;
【0042】
イヌおよびネコ:気管支肺炎、下痢、皮膚炎、耳炎、尿路感染症、前立腺炎;ならびに
【0043】
家禽類(ニワトリ、七面鳥、ウズラ、ハト、飼育舎で飼われている鳥類など):マイコプラズマ症、大腸菌感染症、慢性気道疾患、サルモネラ症、パスツレラ症、オウム病。
【0044】
また、有用魚および鑑賞魚の繁殖および飼育において発症しうる細菌性疾患を治療することも可能であり、またヒトの場合においても、抗菌スペクトルは、パスツレラ属菌、ブルセラ属菌、カンピロバクター属菌、リステリア属菌、エリジペロスリックス菌、コリネバクテリウム属菌、ボレリア属菌、トレポネーマ属菌、ノカルディア属菌、リケッチア属菌、エルシニア属菌などの病原体にまで及ぶ。
【0045】
本発明の化合物により、ヒトまたはその他の動物の細菌感染症だけではなく、植物の細菌感染症も治療または予防することが可能である。
【0046】
本発明の化合物は、全身および/または局所に作用させることができる。この目的のために、本発明の化合物は、適切な方法によって投与することが可能であり、例えば、経口、非経口、経肺、経鼻、舌下、舌側、頬側、直腸内、皮膚、経皮、結膜下、耳腔内などの経路から投与してもよく、また、インプラントまたはステントを用いて投与してもよい。
【0047】
中でも、本発明の化合物が深部の組織にまで浸透することが本発明者らにより実証されていることから、局所適用が特に好ましい。
【0048】
このような背景から、本発明の別の主題は、疾患、好ましくは感染症、さらに好ましくは細菌性疾患、さらに好ましくはグラム陽性細菌による感染症、特に好ましくは、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むStaphylococcus aureusによる感染症の治療用および/または予防用の医薬組成物の製造のための、本発明の化合物の使用である。
【0049】
本発明の別の主題は、本発明の化合物および医薬的に許容される担体を含む医薬組成物である。
【0050】
この目的において、「医薬的に許容される担体」は、感染症の治療の分野で一般的に使用される任意の賦形剤、添加剤または媒体であって、本発明の化合物の生体への投与を簡便もしくは可能にするもの、ならびに/または該化合物の安定性および/もしくは活性を向上させるものを意味するものと理解される。前記医薬組成物には、さらに結合剤、希釈剤または滑沢剤を配合することができる。医薬担体またはその他の添加剤の選択は、所望の投与経路および標準の医薬的慣行に基づいて行われる。医薬的に許容される担体としては、溶剤、増量剤またはその他の液体の結合媒体、例えば、分散剤、懸濁化剤、界面活性剤、等張化剤、展着剤や乳化剤など、さらに、防腐剤、カプセル化剤、固体の結合媒体などを使用することが可能であり、各用法に最も適したもの、また本発明の化合物に適合するものが選択される。このような付加的な成分の概要については、例えば、Roweら編集のHandbook of Pharmaceutical Excipients(医薬賦形剤ハンドブック)、第7版、2012年、Pharmaceutical Press社に記載されている。
【0051】
本発明のさらなる一発展形態において、本発明の医薬組成物は、疾患、好ましくは感染症、さらに好ましくは細菌性疾患、さらに好ましくはグラム陽性細菌による感染症、特に好ましくは、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むStaphylococcus aureusによる感染症の治療および/または予防のために提供される。
【0052】
本発明の化合物の特徴、特性、利点および実施形態は、本発明の使用および医薬組成物にも同様に適用される。
【0053】
本発明の別の主題は、本発明の化合物の製造方法であって、
1.Staphylococcus lugdunensis菌種の細菌を提供する工程、および
2.前記細菌から本発明の化合物を精製する工程
を含む方法である。
【0054】
この点に関して、本発明の化合物を製造または単離するために本発明者らが使用した方法が提供される。この実施形態または本開示内の他の箇所で言及されるStaphylococcus lugdunensis菌種には、分離株またはIVK28株が含まれる。
【0055】
本発明の方法の一実施形態において、工程(1)の後かつ工程(2)の前に、前記細菌および前記細菌の培養液を抽出処理に供し、前記細菌からの抽出物および前記培養液からの抽出物を工程(2)に供して、これらの抽出物から前記化合物を精製する。
【0056】
この方策は、本発明の化合物の主要供給源のみが精製工程に提供されるという利点を有しており、微生物学的手法と化学的手法であるクロマトグラフィー(これらはいずれも当業者に周知である)とを組み合わせて用いることにより、該主要供給源から本発明の化合物を単離することができる。
【0057】
本発明の方法の別の一実施形態において、工程(2)の精製は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して、前記化合物に関連するピークシグナルを確認することを含む。
【0058】
この方策は、確立されたペプチド精製ツールを利用して、本発明の化合物を確実に同定できるという利点を有する。
【0059】
本発明の方法の別の一実施形態において、前記シグナルピークは、約650Da〜約950Da、好ましくは約700Da〜約850Da、さらに好ましくは約750Da〜約800Da、さらに好ましくは約770Da〜約790Da、特に好ましくは約782.5Daの分子量に対応する。
【0060】
この方策は、上記範囲に含まれる本発明の化合物を、分子量によって容易に同定することができるという利点を有する。
【0061】
本発明の別の主題は、本発明の化合物の製造方法であって、
1.生体系においてStaphylococcus lugdunensis菌種の非リボソームペプチド合成酵素系II(NRPS−II)を発現させる工程、
2.発現させたNRPS−IIを、本発明の化合物の合成が可能な条件下でインキュベートする工程、および
3.前記化合物を精製する工程
を含む方法である。
【0062】
本発明者らは、Staphylococcus lugdunensis菌種のNRPS−IIが、本発明の化合物の合成に関与していることを見出しており、したがって、本方法は、この天然の装置を利用して、前記新規化合物を製造する方法である。
【0063】
本発明の方法の一実施形態において、前記NRPS−IIは、遺伝子lugA、lugB、lugCおよびlugDのコード配列のいずれかと、任意で、GntRファミリー転写制御因子、ABCトランスポーター(GdmF型の多剤輸送システム)、ABC−2型輸送システムの透過酵素タンパク質、ABCトランスポーター、仮定上の膜蛋白質、TetR/AcrRファミリー制御因子、チオエステラーゼファミリータンパク質、4’−ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼおよび(バチルス属菌の)sigYの推定上の負の制御因子のコード配列のいずれかを含む核酸分子でコードされている。
【0064】
本発明者らは、本発明の化合物の合成および任意の補因子に関与する遺伝子を同定することに成功し、その本質的な特徴を分子生物学的な人工システムで利用することにより、目的の化合物を量産する方法を提供することに成功した。
【0065】
NRPS−IIに含まれるコード配列は、配列番号1から取得することができる。以下に、各コード配列のヌクレオチド番号を示す。
lugA:6007〜13131
lugB:13121〜17341
lugC:17359〜26172
lugD:26893〜28632
GntRファミリー転写制御因子:427〜936
ABCトランスポーター(GdmF型の多剤輸送システム):1253〜2143
ABC−2型輸送システムの透過酵素タンパク質:2140〜2904
ABCトランスポーター:2917〜3630
仮定上の膜蛋白質:3623〜5164
TetR/AcrRファミリー制御因子:5409〜5981
チオエステラーゼファミリータンパク質:26169〜26855
4’−ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ:28640〜29293
(バチルス属菌の)sigYの推定上の負の制御因子:1027〜1266
【0066】
このような背景から、本発明の別の主題は、配列番号1のヌクレオチド配列を含む核酸分子および/またはStaphylococcus lugdunensis菌種の非リボソームペプチド合成酵素系II(NRPS−II)の上記コード配列のうちのいずれかを含む核酸分子である。このような核酸分子としては、例えば、一般的な分子生物学的発現系において、コードされるタンパク質の制御発現に適した構成を有するベクターまたはプラスミドが挙げられる。また、本発明の主題は、上記の核酸分子によってコードされるタンパク質および/またはペプチドと同一のタンパク質および/またはペプチドをコードする核酸分子であって、遺伝子コードの縮重により元のヌクレオチド配列が修飾されているか、異なるヌクレオチド配列を有する核酸分子である。
【0067】
本発明の別の主題は、本発明の核酸分子の発現によって得られた発現産物に関し、該発現産物には、遺伝子lugA、lugB、lugC、lugDのいずれかでコードされたタンパク質および/もしくはペプチド、GntRファミリー転写制御因子、ABCトランスポーター(GdmF型の多剤輸送システム)、ABC−2型輸送システムの透過酵素タンパク質、ABCトランスポーター、仮定上の膜蛋白質、TetR/AcrRファミリー制御因子、チオエステラーゼファミリータンパク質、4’−ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼおよび(バチルス属菌の)sigYの推定上の負の制御因子、または本発明の主題である上記のヌクレオチド配列でコードされたタンパク質および/もしくはペプチドが含まれる。
【0068】
本発明のさらなる主題は、本発明の核酸分子の発現によって得られた発現産物(ペプチド、タンパク質)のいずれかを特異的に標的とする抗体に関する。
【0069】
本発明の方法の別の一実施形態において、本発明の化合物の合成が可能な条件は、アミノ酸、チオエステラーゼおよび緩衝液を含む。
【0070】
この方策によって、上記条件が、本発明の化合物が高収率で得られるように調整される。
【0071】
本発明の別の目的は、ヒトまたはその他の動物などの生物の疾患、特に上述した疾患を治療および/または予防する方法であって、抗菌効果が得られる量の本発明の化合物を前記生物に投与することを含む方法である。
【0072】
本発明の別の目的は、本発明の化合物を産生することができる微生物を含むプロバイオティクスである。
【0073】
驚くべきことに、本発明者らは、前記新規抗菌化合物を産生する細菌などの微生物をそのまま使用することにより、例えば、生物の臓器における病原性微生物の増殖またはコロニー形成を阻止または抑制できることを見出した。
【0074】
本発明において、「プロバイオティクス」は、摂取または投与により、ヒトなどの生物に健康上の効用をもたらす微生物と理解される。具体的には、Staphylococcus aureusなどの病原性微生物のコロニーが形成されやすい臓器にプロバイオティクスを投与することにより、このような病原性因子が排除される。その結果、病原性負荷が低減または完全に排除される。
【0075】
好ましい一実施形態において、前記プロバイオティクスとして使用される微生物は、Staphylococcus lugdunensisである。Staphylococcus lugdunensisは、その天然形態、すなわち野生株を使用してもよく、また、本発明の化合物の産生能力が保持された変異形態(例えば、遺伝子組換え体、野生株の弱毒変異体)を使用してもよい。
【0076】
本発明の別の一実施形態において、前記プロバイオティクスは、生物の臓器、例えばヒトの臓器における病原性微生物のコロニー形成を阻止または抑制するために用いられる。前記臓器は鼻であってもよく、その場合、前記プロバイオティクスは生物の鼻腔内に投与してもよい。また、前記臓器は皮膚であってもよく、その場合、前記プロバイオティクスは生物の皮膚表面に投与してもよい。
【0077】
当然のことながら、上述した特徴および以下に述べる特徴は、個々の事例で示した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組み合わせまたは単独でも使用可能である。
【0078】
以下、実施形態により本発明についてさらに説明する。これにより、本発明のさらなる特徴、特性および利点が明らかになるであろう。以下の実施形態は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
特定の実施形態で述べられる特徴は、本発明全体としての特徴でもあり、それぞれの実施形態でのみ適用されるものではなく、本発明の任意の実施形態で単独でも適用されうるものである。