(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸化物粒子及び/又は金属水酸化物粒子は、水酸化マグネシウム、及び水酸化ジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種の粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機有機複合膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳述する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。また、本明細書において、「金属酸化物粒子及び/又は金属水酸化物粒子」を「金属(水)酸化物粒子」とも記載する。
【0013】
<無機有機複合膜の製造方法>
本発明は、金属酸化物粒子及び/又は金属水酸化物粒子、並びに、芳香族炭化水素系樹脂を含む無機有機複合膜を製造する方法であって、上記製造方法は、金属酸化物粒子及び/又は金属水酸化物粒子と、芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片と、溶媒を混合して樹脂組成物を得る工程(以下、「混合工程」とも記載する。)と、上記樹脂組成物を用いて膜を形成する工程(以下、「成膜工程」とも記載する。)を含み、上記樹脂片の算術平均表面粗さ(Ra)が20μm以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の無機有機複合膜の製造方法においては、樹脂組成物を調製するための混合工程において、算術平均表面粗さ(Ra)が20μm以上である芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片を使用する。これにより、芳香族炭化水素系樹脂は容易に溶媒に溶解して、短時間で樹脂組成物を調製することができ、無機有機複合膜の生産性を向上させることができる。
【0015】
芳香族炭化水素系樹脂として、特定範囲の算術平均表面粗さ(Ra)を有する樹脂片を使用することにより、無機有機複合膜の生産性を向上させることができるのは、通常の樹脂形態であるペレットの場合と比較して、溶媒に短時間で樹脂成分を溶解することができるため、金属(水)酸化物粒子と芳香族炭化水素樹脂とを混合分散した樹脂組成物を容易に調製することができるためであると推測される。
【0016】
上記混合工程において、芳香族炭化水素系樹脂をより一層短時間で溶媒に溶解させることができる点で、芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片の算術平均表面粗さ(Ra)は、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。上記樹脂片の算術平均表面粗さ(Ra)の上限値は、上記樹脂片が溶媒に容易に溶解することができるのであれば特に限定されないが、計量、投入時の樹脂片同士の絡み合い抑制の点で、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
なお、本明細書において、算術平均表面粗さ(Ra)は、JIS B0601−2001に準拠した方法にて測定することができ、樹脂片に対し500μm四方を10視野観察したときの平均値であり、例えば、20倍視野のレーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−9700)を用いて測定することができる。
【0017】
本発明の製造方法における各工程について、説明する。
(1)混合工程
本発明の無機有機複合膜の製造方法は、まず、金属(水)酸化物粒子と、芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片と、溶媒を混合して、無機有機複合膜を形成するための樹脂組成物を得る工程を有する。混合工程において使用する各成分について、説明する。
【0018】
(金属(水)酸化物粒子)
本発明において使用する金属(水)酸化物粒子としては、無機有機複合膜の目的や用途に応じて適宜選択することができるが、具体的には、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ビスマス等の金属酸化物;又は、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化チタン等の金属水酸化物が挙げられる。なかでも、安価でアルカリ水電解用隔膜に好適に使用できる点で、金属水酸化物が好ましく、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウムがより好ましく、水酸化マグネシウムが更に好ましい。上記金属(水)酸化物粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
上記金属(水)酸化物粒子は、特に限定されず、天然物であっても、合成物であってもよい。また、表面が未処理のものであってもよく、シランカップリング剤、ステアリン酸、オレイン酸、リン酸エステル等により表面処理したものであってもよい。
【0020】
上記金属(水)酸化物粒子の形状は、粒子であれば特に限定されず、不定形、球状、顆粒状、薄片状、六角板状等のいずれの形状であってもよい。なかでも、上記樹脂組成物中の分散性がより一層良好となる点で、不定形、球状、又は薄片状であることが好ましい。
【0021】
本発明においては、上記金属(水)酸化物粒子として、一般的な市販品を使用することもできる。本発明において使用することができる市販品としては、例えば、協和化学工業社製の200−06H、宇部マテリアル社製UP650−1、タテホ化学工業社製MAGSTAR♯20、神島化学工業社製♯200等の水酸化マグネシウム;第一稀元素工業社製の水酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0022】
上記金属(水)酸化物粒子の平均粒子径は、無機有機複合膜の用途に応じて適宜設計すればよいが、通常0.05〜2.0μm、好ましくは0.1〜1.5μm、より好ましくは0.2〜1.0μmである。
無機有機複合膜の用途がアルカリ水電解用隔膜である場合は、イオン透過性、ガスバリア性に優れる点で、上記金属(水)酸化物粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜1.5μmであり、より好ましくは0.2〜1.0μmである。
なお、上記平均粒子径は、レーザー回折法による粒度分布測定から求められる体積平均粒子径(D50)である。具体的には、上記平均粒子径は、上記金属(水)酸化物粒子をエタノール中に分散させ超音波処理したものを、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製「型番LA−920」)を用いて、装置指定の透過率に調整して測定することにより求めることができる。
【0023】
上記金属(水)酸化物粒子の含有量は、上記樹脂組成物中、好ましくは15〜50質量%であり、より好ましくは16〜47質量%であり、更に好ましくは18〜44質量%である。
【0024】
(芳香族炭化水素系樹脂)
本発明において、上記混合工程では、算術平均表面粗さ(Ra)が20μm以上である、芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片を使用する。これにより、樹脂成分を溶媒に容易に溶解させて、樹脂組成物の調製を短時間で行うことができ、無機有機複合膜の生産性を向上させることができる。
【0025】
上記樹脂片の形状としては、上述の算術平均表面粗さ(Ra)の範囲を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、不定形、薄片状、球状、柱状、円筒状等が挙げられる。なかでも、不定形、又は薄片状が好ましい。
【0026】
上記樹脂片のかさ密度は、0.1〜0.7g/cm
3であることが好ましい。上記樹脂片のかさ密度が上記範囲であると、芳香族炭化水素系樹脂をより一層短時間で溶媒に溶解させることができ、無機有機複合膜の生産性をより一層向上させることができる。上記樹脂片のかさ密度は、0.2〜0.6g/cm
3であることがより好ましく、0.25〜0.5g/cm
3であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、かさ密度は、かさ密度測定器(アズワン社製
KAM−01)を使用して求めることができる。
【0027】
上記樹脂片のアスペクト比は、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、7以上であることが更に好ましい。上記樹脂片のアスペクト比の上限は、特に限定されないが、計量、投入時の樹脂片同士の絡み合い抑制の点から30以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下が更に好ましい。
本明細書において、アスペクト比とは、樹脂片を静置した場合、xy方向における最長辺の長さとz方向における厚みとの比(xy方向における最長辺の長さ/z方向における厚み)を表す。上記アスペクト比は、10〜20個程度の樹脂片の上記最長辺の長さと厚みを測定して、(xy方向における最長辺の長さ/z方向における厚み)の比を求め、その平均値を算出することにより求める。
【0028】
上記樹脂片のxy方向における最長辺の長さは、0.2〜5mmであることが好ましい。上記樹脂片のxy方向における最長辺の長さが上記の範囲であると、芳香族炭化水素系樹脂をより一層短時間で溶媒に溶解させることができ、無機有機複合膜の生産性をより一層向上させることができる。上記樹脂片のxy方向における最長辺の長さは、0.2〜4mmであることが好ましく、0.2〜3mmであることが更に好ましい。
なお、上記xy方向における最長辺の長さは、光学顕微鏡(東海産業社製マイクロスコープ「型番PEAK2034−20」、倍率20倍)にて、スコープ内の目盛を読み取り計測することができる。
上記樹脂片のz方向における厚みは、0.05〜2mmであることが好ましく、0.1〜1.5mmであることがより好ましく、0.2〜1.0mmであることが更に好ましい。
上記樹脂片のz方向における厚みは、マイクロメータで計測することができる。
【0029】
上記芳香族炭化水素系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
なかでも、上記無機有機複合膜をアルカリ水電解用隔膜として使用する場合、優れた耐アルカリ性を付与することができる点で、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、無機有機複合膜の製造がより一層容易になる点で、ポリスルホンがより好ましい。
上記芳香族炭化水素系樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
上記芳香族炭化水素系樹脂の含有量は、上記樹脂組成物中、好ましくは3〜22質量%であり、より好ましくは4〜19質量%であり、更に好ましくは5〜17質量%である。
【0031】
上記樹脂組成物における金属(水)酸化物粒子と芳香族炭化水素系樹脂の質量比は、目的の性能を有する無機有機複合膜が得られるのであれば特に限定されないが、上記金属(水)酸化物粒子100質量部に対して、上記芳香族炭化水素系樹脂20〜40質量部であることが好ましく、22〜38質量部であることがより好ましく、25〜35質量部であることが更に好ましい。
【0032】
(溶媒)
本発明において使用する溶媒としては、上記芳香族炭化水素系樹脂を溶解することができる溶媒であれば特に限定されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、上記金属(水)酸化物の分散性がより一層良好となる点で、N−メチル−2−ピロリドンを含むことが好ましい。
【0033】
上記溶媒の含有量は、上記樹脂組成物中、好ましくは50〜90質量%であり、より好ましくは60〜85質量%であり、更に好ましくは70〜80質量%である。
【0034】
(他の成分)
上記樹脂組成物は、上述した金属(水)酸化物粒子、芳香族炭化水素系樹脂、及び溶媒以外に、他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、例えば、ポリビニルピロリドン等の分散剤等が挙げられる。これらは一般に公知のものを適宜選択して使用することができる。また、上記樹脂組成物は、本発明の効果に影響しない範囲で、上述した溶媒以外の他の溶媒を含んでいてもよい。
【0035】
(樹脂組成物の調製)
上記樹脂組成物は、上述した金属(水)酸化物粒子、芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片、及び必要に応じて他の成分を、上記溶媒とともに混合することにより調製されるが、上述した金属(水)酸化物粒子、芳香族炭化水素系樹脂(樹脂片)、及び溶媒を混合分散することにより調製されることが好ましい。混合分散の方法は特に限定されず、ミキサー、ボールミル、ジェットミル、ディスパー、サンドミル、ロールミル、ポットミル、ペイントシェーカー等を用いる方法等、公知の混合分散の手段を適用することができる。
【0036】
また、上記樹脂組成物を調製する場合、先に、上記金属(水)酸化物粒子を溶媒中に分散させた溶液(スラリー)(以下、「溶液(a)」とも記載する。)を調製し、この溶液(a)に上記芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片を混合することにより、上記樹脂組成物を得てもよい。また、上記溶液(a)と、上記芳香族炭化水素系樹脂の樹脂片を溶媒中に溶解させた溶液(以下、「溶液(b)」とも記載する。)をそれぞれ調製し、これらの溶液を混合することにより、上記樹脂組成物を得てもよい。なかでも、より短時間で芳香族炭化水素系樹脂を溶媒に溶解することができる点で、溶液(a)と溶液(b)をそれぞれ調製して、これらを混合することにより上記樹脂組成物を得るのが好ましい。
【0037】
溶液(a)中の金属(水)酸化物粒子の濃度は、好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは30〜60質量%であり、更に好ましくは40〜50質量%である。
溶液(b)中の芳香族炭化水素系樹脂の濃度は、好ましくは20〜40質量%であり、より好ましくは22〜38質量%であり、更に好ましくは25〜35質量%である。
溶液(a)と溶液(b)に使用する溶媒は、上述した溶媒を含むものであれば同じ溶媒であっても、異なる溶媒であってもよいが、上記金属(水)酸化物粒子と上記芳香族炭化水素系樹脂をより均一に分散・混合できる点で、同じ溶媒であることが好ましい。
【0038】
溶液(a)及び溶液(b)は、上述した樹脂組成物における上記金属(水)酸化物粒子と上記芳香族炭化水素系樹脂の含有量が所望の範囲になるように、添加量を適宜調整して混合するとよい。
【0039】
(2)成膜工程
本発明の製造方法においては、次に、上記混合工程(1)で得られた樹脂組成物を用いて膜を形成する。
上記樹脂組成物を用いて膜を形成する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いればよく、例えば、上記樹脂組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、溶媒を除去して無機有機複合膜を形成する方法が挙げられる。なかでも、アルカリ水電解用隔膜に適用できる多孔質の無機有機複合膜を製造することができる点で、下記の工程(2−1)及び(2−2)を含むことが好ましい。
(2−1)上記樹脂組成物の塗膜を形成する工程
(2−2)上記塗膜を水と接触させることにより上記塗膜を凝固させる工程
【0040】
このように、上記成膜工程の膜を形成する工程が、上記樹脂組成物の塗膜を形成する工程、及び、上記塗膜を水と接触させることにより上記塗膜を凝固させる工程を含む場合もまた、本発明の無機有機複合膜の製造方法における好ましい実施態様の一つである。
【0041】
(2−1)樹脂組成物の塗膜を形成する工程
上記混合工程で得られた樹脂組成物の塗膜を形成する方法としては、例えば、上記樹脂組成物を基材上に塗布する方法や、上記樹脂組成物中に基材を浸漬させる方法等が挙げられる。なかでも、塗膜を容易に形成できる点で、上記樹脂組成物を基材上に塗布する方法が好ましい。
【0042】
上記樹脂組成物を基材上に塗布する方法としては、特に限定されず、ダイコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、スプレー、アプリケーター、コーター等を用いる方法等の公知の塗布手段を適用することができる。
【0043】
上記基材としては、上記樹脂組成物の塗膜を形成することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリテトラエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の樹脂からなるフィルム又はシート、ガラス板等が挙げられる。
【0044】
得られる無機有機複合膜の強度を向上させるために、無機有機複合膜と支持体とが一体化した無機有機複合体を製造する場合、上記基材上に上記樹脂組成物を塗布し、塗布した塗液上に支持体を置いて塗液を支持体に含浸させることにより、支持体と樹脂組成物が複合した塗膜を形成してもよい。
上記無機有機複合膜をアルカリ水電解用隔膜として製造する場合、このような、支持体を上記樹脂組成物と複合する工程を含むことが好ましい。
上記支持体としては、多孔質であるシート状の部材を使用することが好ましい。
【0045】
上記支持体の材料としては、目的・用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素系樹脂等の樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で用いたものであってもよいし、2種以上を組み合わせて併用したものであってもよい。
【0046】
上記支持体の形態としては、例えば、不織布、織布、メッシュ、多孔質膜、又は不織布と織布の混合布等が挙げられるが、好ましくは、不織布、織布、又はメッシュが挙げられる。
【0047】
上記支持体の厚みは、目的・用途に応じて適宜設計することができるが、例えば、アルカリ水電解用隔膜として製造する場合、好ましくは30〜300μm、より好ましくは50〜250μm、更に好ましくは100〜200μmである。
【0048】
上記樹脂組成物の塗布量としては、特に限定されず、上記無機有機複合膜が目的とする性能を発揮できる厚みを有するよう適宜設定すればよい。例えば、上記無機有機複合膜として、アルカリ水電解用隔膜を製造する場合、上記樹脂組成物の塗布量は、通常0.1〜1.0kg/m
2、好ましくは0.2〜0.8kg/m
2である。
【0049】
(2−2)上記塗膜を水と接触させることにより上記塗膜を凝固させる工程
工程(2−1)で形成された塗膜に水を接触させることにより、上記塗膜中に水が拡散し、水に溶解しない芳香族炭化水素系樹脂が凝固する。一方、水に溶解し得る塗膜中の溶媒は、塗膜から溶出する。このような相分離が生じることにより、芳香族炭化水素系樹脂が凝固し、膜中に金属(水)酸化物が分散した、孔を有する膜が形成される。
上記塗膜と水を接触させる方法としては、例えば、上記塗膜を水中に浸漬させる方法等が挙げられる。
【0050】
上記水としては、蒸留水、イオン交換水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。また、水中に上記樹脂組成物中の溶媒が50%以下存在してもよい。
【0051】
上記水の使用量は、塗膜の質量100質量%、すなわち、塗膜の形成に用いられる樹脂組成物の固形分100質量%に対して、50〜10000質量%であることが好ましく、より好ましくは、100〜5000質量%であり、更に好ましくは、200〜1000質量%である。
【0052】
上記工程(2−2)で塗膜を凝固させた後、更に、上記凝固した塗膜を乾燥させる工程(2−3)を有することが好ましい。
上記工程で凝固した塗膜を乾燥させて、水分を除去することにより、金属(水)酸化物が分散した無機有機複合膜を得ることができる。
乾燥温度としては、60〜80℃が好ましい。
乾燥時間としては、2〜120分が好ましく、5〜60分がより好ましく、10〜30分が更に好ましい。
上記凝固した塗膜は、上記基材を除去した後に、乾燥させることが好ましい。
【0053】
以上の工程により、上記金属(水)酸化物が均一に分散し、性能を十分に発揮することができる無機有機複合膜を得ることができる。
本発明の製造方法により得られる無機有機複合膜について、以下に説明する。
【0054】
(無機有機複合膜)
本発明の製造方法により得られる無機有機複合膜は、上記金属(水)酸化物、及び、上記芳香族炭化水素系樹脂を含む。
上記金属(水)酸化物と芳香族炭化水素系樹脂の含有量は、無機有機複合膜の目的・用途に応じて適宜設計することができるが、例えば、上記金属(水)酸化物の含有量は、無機有機複合膜100質量%に対して、通常30〜90質量%、好ましくは32〜85質量%、より好ましくは35〜80質量%である。上記芳香族炭化水素系樹脂の含有量は、通常5〜40質量%、好ましくは7〜35質量%、より好ましくは10〜30質量%である。
【0055】
上記無機有機複合膜は、微多孔膜であることが好ましい。
上記無機有機複合膜は、気孔率が20〜80%であることが好ましく、25〜75%であることがより好ましく、30〜70%であることが更に好ましい。気孔率が上述の範囲であると、例えば、上記無機有機複合膜をアルカリ水電解用隔膜として使用した場合、イオン透過率に優れたものとすることができる。
上記気孔率は、無機有機複合膜を24時間室温で溶液に浸漬させ、吸液前後の隔膜の質量によって求めることができる。具体的には、下記の式によって求める。
気孔率(体積%)=(浸漬後の膜の質量−浸漬前の膜の質量)/溶液の密度/膜の体積×100
上記溶液としては、例えば、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム等の電解質を水に溶解させたアルカリ性水溶液等の電解液が挙げられる。
【0056】
上記無機有機複合膜の厚みは、無機有機複合膜の用途に応じて適宜設計することができるが、通常10〜3000μm、好ましくは50〜1000μmである。例えば、上記無機有機複合膜をアルカリ水電解用隔膜に適用する場合、上記無機有機複合膜の厚みは、ガスバリア性やイオン透過性、強度の観点から50〜1000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましく、200〜400μmであることが更に好ましい。また、上記無機有機複合膜を水系電池用隔膜に適用する場合は、上記無機有機複合膜の厚みは、10〜1000μmであることが好ましく、20〜500μmであることがより好ましい。
【0057】
以上のように、本発明の無機有機複合膜の製造方法は、無機有機複合膜を短時間で効率良く製造することができる。本発明の製造方法は、アルカリ水電解用隔膜、リチウムイオン電池セパレータ、アルカリ形燃料電池用セパレータ等の各種用途に用いられる無機有機複合膜の製造方法として好適に適用することができる。なかでも、本発明の製造方法は、アルカリ水電解用隔膜を製造する方法として好適である。
【0058】
(アルカリ水電解用隔膜)
本発明の製造方法により得られる無機有機複合膜の好適な一例として、アルカリ水電解用隔膜について説明する。
上記アルカリ水電解用隔膜は、上記無機有機複合膜のみからなるものであってもよいし、支持体の一方又は両面に上記無機有機複合膜が形成されたものであってもよいし、支持体と上記無機有機複合膜が一体化した無機有機複合体であってもよい。なかでも、アルカリ水電解用隔膜の強度と靭性をより一層向上させることができる点で、上記無機有機複合体であることが好ましい。
【0059】
上記支持体としては、上述したものが挙げられるが、なかでも、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む、不織布、織布、又はメッシュであることが好ましい。
【0060】
上記アルカリ水電解用隔膜は、気孔率が20〜80体積%であることが好ましく、25〜75体積%であることがより好ましい。気孔率が上述の範囲であると、イオン透過性及びガスバリア性に優れた膜とすることができる。上記気孔率は、上述した方法で求めることができる。
【0061】
上記アルカリ水電解用隔膜の厚みは、ガスバリア性やイオン透過性、強度の観点から、50〜1000μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましく、200〜400μmであることが更に好ましい。
【0062】
上記アルカリ水電解用隔膜は、アルカリ水電解装置の部材として用いられる。上記アルカリ水電解装置としては、例えば、陽極、陰極、及び、陽極と陰極の間に配置された上記アルカリ水電解用隔膜を含むものが挙げられる。より具体的には、上記アルカリ水電解装置は、上記アルカリ水電解用隔膜によって隔てられた、陽極が存在する陽極室と、陰極が存在する陰極室とを有する。
陽極、及び陰極としては、ニッケル又はニッケル合金等を含む導電性基体を含む、公知の電極が挙げられる。
【0063】
上記アルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置を用いて行う水の電気分解の方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、上述した本発明のアルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置に、電解液を充填し、電解液中で電流を印加することにより行うことができる。
【0064】
上記電解液としては、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム等の電解質を溶解したアルカリ性水溶液が用いられる。上記電解液における電解質の濃度は、特に限定されないが、電解効率がより一層向上し得る点で、20〜40質量%であることが好ましい。
また、電気分解を行う場合の温度としては、電解液のイオン電導性がより向上し、電解効率がより一層向上し得る点で、50〜120℃が好ましく、80〜90℃がより好ましい。電流の印加は、公知の条件・方法で行うことができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0066】
<実施例1>
無機有機複合膜の作製
(1.水酸化マグネシウム分散液の調製)
水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、品番200−06H、平均粒子径0.54μm)とN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)を質量比1:1となるよう混合し、ジルコニアメディアボールを入れたポットミルにて、室温で6時間分散処理を行うことにより水酸化マグネシウム分散液を調製した。
【0067】
(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)
粉末状のポリスルホン樹脂(YOUJU New Material社製、品番PARYLS PSU、算術平均表面粗さRa:48μm、かさ密度:0.33g/cm
3、アスペクト比:5.8)を30質量%の濃度で90℃にてN−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)に熱溶解させることによりポリスルホン樹脂溶解液を調製した。上記樹脂濃度の2kgの溶解液を作製する場合、3LセパラブルフラスコにまずN−メチル−2−ピロリドンを投入し、90℃に調温してから、樹脂粉末を連続的に投入し、翼径/槽径が0.7のパドル翼にて200rpmで撹拌して溶解させた。樹脂の溶解に要した時間は30分であった。
【0068】
(3.塗液の調製)
上記で得られた水酸化マグネシウム分散液とポリスルホン樹脂溶解液とを、水酸化マグネシウム100質量部に対してポリスルホン樹脂(PSU)が33質量部になるように計量し、自転公転ミキサー(シンキー社製、品番あわとり練太郎ARE−500)にて室温で1000rpmで約10分間混合した。得られた混合液を、SUSの200メッシュで濾過することで塗液を得た。
【0069】
(4.塗膜の形成)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、アプリケーターにて塗液を、乾燥後の隔膜の厚みが全体で300μmになるように塗布し、その上にポリプロピレン不織布(日本バイリーン社製、品番OA16728F、厚み120μm)を接触させることで、不織布に塗液を完全に含浸させた。その後、塗液を含浸させた不織布を、室温にて10分間水浴させ、塗液を凝固させて膜を形成し、水中でPETフィルムから不織布ごと膜を剥離した。水浴後、得られた膜を、乾燥機にて80℃で、30分間乾燥し、不織布と水酸化マグネシウム及びポリスルホン樹脂を含む膜との複合体からなる無機有機複合膜(1)を得た。
【0070】
<実施例2>
実施例1の(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)において、粉末状のポリスルホン樹脂の代わりに、粉末のポリエーテルスルホン樹脂(YOUJU New Material社製、品番PARYLS PES、算術平均表面粗さRa:31μm、かさ密度:0.43g/cm
3、アスペクト比:5.1)を使用した以外は実施例1と同様の方法により、無機有機複合膜(2)の作製を行った。上記樹脂濃度の2kgの溶解液を作製する際、溶解に要した時間は60分であった。
【0071】
<実施例3>
実施例1の(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)において、粉末状のポリスルホン樹脂の代わりに、粉末のポリフェニルスルホン樹脂(YOUJU New Material社製、品番PARYLS PPS、算術平均表面粗さRa:57μm、かさ密度:0.28g/cm
3、アスペクト比:7.3)を使用した以外は実施例1と同様の方法により、無機有機複合膜(3)の作製を行った。上記樹脂濃度の2kgの溶解液を作製する際、溶解に要した時間は80分であった。
【0072】
<実施例4>
実施例1の(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)において、粉末状のポリスルホン樹脂の代わりに、粉末のポリスルホン樹脂とポリフェニルスルホン樹脂の混合品(YOUJU New Material社製、品番PARYLS mPPSU、算術平均表面粗さRa:50μm、かさ密度:0.29g/cm
3、アスペクト比:6.6)を使用した以外は実施例1と同様の方法により、無機有機複合膜(4)の作製を行った。上記樹脂濃度の2kgの溶解液を作製する際、溶解に要した時間は60分であった。
実施例1〜4においてそれぞれ製造した無機有機複合膜(1)〜(4)は、アルカリ水電解用隔膜として使用することを目的として製造した。
【0073】
<比較例1>
実施例1の(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)において、粉末状のポリスルホン樹脂の代わりに、ペレットのポリスルホン樹脂(BASF社製、品番ウルトラゾーンS3010、算術平均表面粗さRa:13μm、かさ密度:0.82g/cm
3、アスペクト比:1.5)を使用した以外は実施例1と同様の方法により、無機有機複合膜(c1)の作製を行った。上記樹脂濃度の2kgの溶離液を作製する際、溶解に要した時間は360分であった。
【0074】
<比較例2>
実施例1の(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)において、粉末状のポリスルホン樹脂の代わりに、ペレットのポリエーテルスルホン樹脂(BASF社製、品番ウルトラゾーンE3010、算術平均表面粗さRa:13μm、かさ密度:0.85g/cm
3、アスペクト比:1.4)を使用した以外は実施例1と同様の方法により、無機有機複合膜(c2)の作製を行った。上記樹脂濃度の2kgの溶解液を作製する際、溶解に要した時間は480分であった。
【0075】
<比較例3>
実施例1の(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)において、粉末状のポリスルホン樹脂の代わりに、ペレットのポリフェニルスルホン樹脂(BASF社製、品番ウルトラゾーンP3010、算術平均表面粗さRa:17μm、かさ密度:0.84g/cm
3、アスペクト比:1.6)を使用した以外は実施例1と同様の方法により、無機有機複合膜(c3)の作製を行った。上記樹脂濃度の2kgの溶解液を作製する際、溶解に要した時間は600分であった。