【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、柔軟骨格を有するエポキシ樹脂と、金属酸化物粒子と、カチオン硬化剤とを含有する放熱性樹脂組成物であって、前記カチオン硬化剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と前記カチオン硬化剤を重量比で100対0.1の割合で混合した混合物を示差走査熱量計を用いて25℃から10℃/minの昇温速度で測定したときの発熱量が6mW以上である放熱性樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、柔軟性を有する骨格を持つエポキシ樹脂と、金属酸化物粒子と、反応時の発熱量が大きいカチオン硬化剤を組み合わせることによって、放熱性と接着信頼性に優れ、硬化工程を短縮することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の放熱性樹脂組成物は柔軟骨格を有するエポキシ樹脂を含有する。
エポキシ樹脂が柔軟骨格を有することで、硬化後の樹脂の弾性率が低くなり、後の工程で樹脂が割れ難くなるため接着信頼性を向上させることができる。また、柔軟骨格を有するエポキシ樹脂は、硬化前後での体積変化が小さいため、硬化の際の体積変化による応力で被着体が損傷することを抑えることもできる。なおここで柔軟骨格とは、アルキル鎖やシロキサン等の分子が動きやすい構造をもつ骨格のことを指す。
【0011】
上記柔軟骨格を有するエポキシ樹脂としては例えば、(ポリ)エチレングリコール変性エポキシ樹脂、(ポリ)プロピレングリコール変性エポキシ樹脂、(ポリ)テトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂、(ポリ)ヘキサメチレングリコール変性エポキシ樹脂等の(ポリ)アルキレングリコール変性エポキシ樹脂が挙げられる。また、他にもビス(2−(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチル)ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンジグリシジルエーテル等のシロキサン骨格を持つエポキシ樹脂やポリイソブチレンジグリシジルエーテル等も挙げられる。なかでも、より放熱性と接着信頼性に優れ、硬化工程を短縮することができる放熱性樹脂組成物となることからポリテトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂が好ましく、下記式(1)で表されるポリテトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0012】
【化1】
ここで、R
1は水素、グリシジル基、メチル基又はエチル基を表す。
【0013】
上記ポリテトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂は重量平均分子量が200以上3000以下であることが好ましい。
ポリテトラメチレングリコール変性エポキシ樹脂の重量平均分子量を上記範囲とすることで、硬化後の樹脂をより柔軟なものとすることができる。
上記重量平均分子量のより好ましい下限は230、より好ましい上限は2500である。
【0014】
本発明の放熱性樹脂組成物は、上記柔軟骨格を有するエポキシ樹脂以外に他の樹脂を含有していてもよい。上記他の樹脂としては例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。本発明の放熱性樹脂組成物が上記他の樹脂を含有する場合、上記柔軟骨格を有するエポキシ樹脂の含有量は全ての樹脂の混合物中において80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0015】
本発明の放熱性樹脂組成物は金属酸化物粒子を含有する。
金属酸化物粒子は、熱伝導性フィラーとして働き、金属酸化物粒子を含有することで得られる樹脂組成物に放熱性を付与することができる。上記金属酸化物粒子を構成する金属酸化物は、一般的に熱伝導性フィラーとして用いられるものであれば特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化インジウムスズ等が挙げられる。なかでも、熱伝導性に優れることから酸化アルミニウム、酸化チタン又は酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0016】
上記金属酸化物粒子は平均粒子径が0.5μm以上であることが好ましい。平均粒子径が0.5μm以上であることで、熱伝導性をより高めることができる。上記金属酸化物粒子の平均粒子径のより好ましい下限は1μmである。上記金属酸化物粒子の平均粒子径の上限は特に限定されないが、200μmであることが好ましい。なお、上記平均粒子径は、レーザ回折・散乱法によって測定することができる。本発明においてはレーザ回折・散乱法により測定されたd50を平均粒子径とする。
【0017】
上記金属酸化物粒子は、放熱性樹脂組成物中の含有量が80重量%以上であることが好ましい。金属酸化物粒子の含有量が80重量%以上であることで、充分な放熱性能を発揮することができる。上記金属酸化物粒子の含有量のより好ましい下限は85重量%である。上記金属酸化物粒子の含有量の上限は特に限定されないが、97重量%であることが好ましい。
【0018】
本発明の放熱性樹脂組成物は、カチオン硬化剤を含有する。
上記柔軟骨格を有するエポキシ樹脂と上記金属酸化物粒子とカチオン硬化剤を組み合わせることで、放熱性と接着信頼性に優れ、硬化工程を短縮することができる放熱性樹脂組成物とすることができる。
従来の熱硬化型の放熱性樹脂組成物は、大量に含まれる熱伝導性フィラーが樹脂と硬化剤との反応を妨げることによって、硬化に時間がかかっていた。しかし、本発明の放熱性樹脂組成物では、柔軟骨格を有するエポキシ樹脂とカチオン硬化剤を組み合わせることによって、たとえ大量の熱伝導性フィラーを配合した場合であっても、確実に放熱性樹脂組成物を硬化させることができる。また、本発明の放熱性樹脂組成物は、柔軟骨格を有するエポキシ樹脂とカチオン硬化剤を組み合わせることで200℃程度の熱を短時間加えるだけで、加熱を止めた後も徐々に硬化が進行していく性質(熱トリガー効果)を持っている。そのため、硬化工程にかかる時間を短くして製造工程の自由度を高めることができるとともに、徐々に硬化することによって、硬化の際の収縮が抑えられるため、放熱性樹脂組成物の収縮による被着体の破損を抑えることができる。更に、上述のように柔軟骨格を有するエポキシ樹脂を用いることで、硬化後の放熱性樹脂組成物に柔軟性を持たせて接着信頼性を向上させることができる。
【0019】
上記カチオン硬化剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828、三菱ケミカル製)と前記カチオン硬化剤を重量比で100対0.1の割合で混合した混合物を示差走査熱量計を用いて25℃から10℃/minの昇温速度で測定したときの発熱量が6mW以上である。
上記発熱量を有するカチオン硬化剤は反応の活性が高いことからより確実に樹脂を硬化させることができる。上記発熱量の好ましい下限は8mW、より好ましい下限は9mWである。上記発熱量の上限は特に限定されないが、上記柔軟骨格を有するエポキシ樹脂の熱分解の観点から40mWであることが好ましい。なお、上記発熱量は、示差走査熱量計を用いて、毎分10℃の速度で昇温しながら測定を行った際の発熱ピークの高さによって求めることができる。
【0020】
上記カチオン硬化剤は、上記発熱量を満たしていれば特に限定されない。上記発熱量を満たすカチオン硬化剤としては例えば、スルホニウムボレート錯体系カチオン硬化剤等が挙げられる。なかでも、反応性に優れることから下記式(2)で表されるカチオン硬化剤であることが好ましい。下記式(2)で表されるカチオン硬化剤としては、具体的には、4−ヒドロキシフェニルベンジルメチルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、(4−アセトキシフェニル)ベンジルメチルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。なかでも4−ヒドロキシフェニルベンジルメチルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートであることが好ましい。
【0021】
【化2】
ここで、R
2は、水素又はCH
3COを表す。R
3は水素又はメチル基を表す。B
−は、ホウ素原子を含む陰イオンを表す。
【0022】
上記カチオン硬化剤が上記式(2)で表されるカチオン硬化剤である場合、ホウ素原子を含む陰イオンはイオンのサイズが大きいことが好ましい。大きい陰イオンを用いることでよりカチオン硬化剤の反応性を高めることができる。イオンサイズの大きいホウ素原子を含む陰イオンとしては、例えば、B(C
6F
5)
4−等が挙げられる。
【0023】
上記カチオン硬化剤は、含有量が樹脂100重量部に対して5重量部以上25重量部以下であることが好ましい。
カチオン硬化剤の含有量が上記範囲であることで、樹脂をより確実に硬化させることができる。ここで樹脂とは、上記柔軟骨格を有するエポキシ樹脂と上記他の樹脂を合わせたものを指す。上記樹脂100重量部に対する上記カチオン硬化剤の含有量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は20重量部である。
なお、上記カチオン硬化剤の好ましい含有量は通常用いられるカチオン硬化剤の量と比べて格段に多い。一般的な樹脂に上記の量のカチオン硬化剤を用いると硬化反応に伴う反応熱によって樹脂が焼け焦げてしまう。しかし、本発明では熱伝導性フィラーとして金属酸化物粒子を大量に含有することによって硬化反応が抑えられることから硬化性と反応熱が適度にバランスする。
【0024】
本発明の放熱性樹脂組成物は、導電性粒子を含有してもよい。
上記導電性粒子は、熱伝導性フィラーとして働き、導電性粒子を含有することで得られる樹脂組成物に放熱性を付与することができる。上記導電性粒子を構成する金属は、一般的に電気伝導性フィラーとして用いられるものであれば特に限定されず、例えば、金、銀、銅、ニッケル等、あるいは金、銀、銅、ニッケル等で被覆された微粒子が挙げられる。
【0025】
上記導電性粒子は、得られる樹脂組成物に放熱性を付与できるものの、同時に導電性も付与してしまうため、本発明の放熱性樹脂組成物を半導体素子等の電子デバイスの接着に用いる場合、導電性微粒子を樹脂組成物中に大量に配合すると短絡等の回路の不具合が発生する可能性がある。そのため、上記導電性微粒子の含有量は多すぎないことが好ましい。具体的には、放熱性樹脂組成物中の上記導電性粒子の含有量は1重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましく、0.001重量%以下であることが更に好ましい。
【0026】
本発明の放熱性樹脂組成物は、必要に応じて、更に、可塑剤、乳化剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、酸化防止剤などの添加剤等を含んでいてもよい。
【0027】
本発明の放熱性樹脂組成物の用途は特に限定されないが、放熱性と接着信頼性に優れ、硬化工程に要する時間も短いことから、半導体実装工程において半導体素子を実装する際の放熱性接着剤として特に好適に用いることができる。