特許第6985175号(P6985175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000002
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000003
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000004
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000005
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000006
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000007
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000008
  • 特許6985175-電動車両の駆動装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985175
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】電動車両の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20211213BHJP
   B60W 10/101 20120101ALI20211213BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 61/16 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 59/20 20060101ALI20211213BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20211213BHJP
   B60W 10/107 20120101ALI20211213BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20211213BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   B60W10/00 114
   F16H63/50
   F16H61/662
   F16H61/16
   F16H61/02
   F16H59/74
   F16H59/20
   B60W10/08
   B60W10/107
   B60L15/20 K
   B60L1/00 L
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-25119(P2018-25119)
(22)【出願日】2018年2月15日
(65)【公開番号】特開2019-137362(P2019-137362A)
(43)【公開日】2019年8月22日
【審査請求日】2020年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤
【審査官】 岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−175479(JP,A)
【文献】 特開平5−336618(JP,A)
【文献】 特開2001−56045(JP,A)
【文献】 特開平2−3745(JP,A)
【文献】 特開2000−186758(JP,A)
【文献】 特開2013−181408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/04
F16H 63/50
F16H 61/662
F16H 61/16
F16H 61/02
F16H 59/74
F16H 59/20
B60W 10/08
B60W 10/107
B60L 15/20
B60L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機からの入力回転を変速して出力する油圧式無段変速機と、
前記油圧式無段変速機へ供給する油圧を発生するオイルポンプと、
アクセル操作量及び車速に応じて、前記電動機を制御する電動機制御部及び前記油圧式無段変速機を制御する変速制御部を有する制御手段と、を備え、
前記変速機の最大トルクで達成可能な車速の上限を第1車速と定義したとき、
前記オイルポンプの最大出力は上記最大トルク及び前記第1車速により規定されており、
前記アクセル操作量が最大の状態で車両が発進する全開発進時に、前記電動機制御部は、前記油圧式無段変速機の出力回転数と出力トルクとで規定される駆動力線図上の上限トルク線及び最大出力線に沿って車両を駆動するように前記電動機を制御し、前記変速制御部は、発進から車速が前記第1車速に到達するまでは最ロー変速比に固定し、車速が前記第1車速を超えたあとは、前記オイルポンプの余裕出力に基づき前記油圧を設定して変速比をハイ側へ変更する余裕出力対応変速制御を実施する
ことを特徴とする電動車両の駆動装置。
【請求項2】
前記変速制御部は、変速比の変更に使用する前記オイルポンプの変速用流量を前記余裕出力に基づいて設定し、当該変速用流量に基づいて前記油圧を設定して前記余裕出力対応変速制御を実施する
ことを特徴とする請求項1記載の電動車両の駆動装置。
【請求項3】
前記変速制御部は、車速が前記第1車速を超えて前記第1車速よりも高速の第2車速に達するまでは、前記余裕出力対応変速制御を実施し、車速が前記第2車速を超えたあとは、前記油圧式無段変速機及び前記電動機の効率に基づき目標変速比を設定し、当該目標変速比に基づき前記油圧を設定して変速比を制御する効率対応変速制御を実施する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の電動車両の駆動装置。
【請求項4】
前記変速制御部は、
前記余裕出力対応変速制御を実施する余裕出力対応変速制御部と、
前記油圧式無段変速機及び前記電動機の効率に基づき目標変速比を設定し、当該目標変速比に基づき前記油圧を設定して、前記変速用流量を基準流量にして変速比を制御する効率対応変速制御を実施する効率対応変速制御部と、
前記基準流量に基づく変速用出力を前記余裕出力と比較して、前記変速用出力が前記余裕出力以下であれば、前記効率対応変速制御を選択し、前記変速用出力が前記余裕出力よりも大きければ、前記余裕出力対応変速制御を選択する制御選択部と、を備えている
ことを特徴とする請求項2記載の電動車両の駆動装置。
【請求項5】
前記オイルポンプは電動ポンプである
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電動車両の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機と油圧式無段変速機とを組み合わせた電動車両の駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車等の電動車両に用いる駆動装置として、電動機(以下、モータともいう)と無段変速機(以下、CVTともいう)とを組み合わせたものが開発されている。モータは出力トルクが出力回転数に反比例する特性があるため、例えば高トルクで且つ高回転数の状態は定格範囲外となり達成することができない。
【0003】
図8はモータとCVTとを組み合わせた駆動装置の駆動力線図であり、横軸は車速に対応する出力回転数Noutを示し、縦軸は駆動輪に出力される駆動トルクに対応する出力トルクToutを示す。図8に示すように、モータ特性に応じて駆動トルクの上限は回転数に反比例するように回転数の増加に応じて低下する。ただし、低回転領域ではCVTの変速比に応じた一定の上限トルク値となる。また、回転数には上限がある。
【0004】
図8において、破線Lt1,Lr1はCVTの変速比が最ローのときの上限トルク値及び上限回転数を示し、一点鎖線Lt2,Lr2はCVTの変速比が最ハイのときの上限トルク値及び上限回転数を示す。上限トルク値は変速比が最ローのときに最大となり、上限回転数は変速比が最ハイのときに最大となる。
したがって、変速比をロー側に制御することによって駆動トルクを増大させることができ、変速比をハイ側に制御することによって回転数(車速)を増大させることができる。
【0005】
これに関連する技術として、特許文献1には、車両駆動に要求される要求トルクに応じて決まる電動機への要求トルクが、定格範囲外のときは無段変速機構の変速比を変更するとともに、電動機を制御して車両駆動の要求トルクを達成するようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4860741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、モータと油圧式CVTとを組み合わせた駆動装置において、アクセルが最大まで踏み込まれて発進する全開発進時には、駆動装置の上限トルク線及び最大出力線に沿って車両を駆動することが考えられる(図8の太線矢印参照)。
【0008】
つまり、例えば、図8に示すように、アクセルが最大まで操作されたアクセル全開発進時〔(a)参照〕に、上限トルク線に到達後この上限トルク線に沿ってモータトルクが最大で且つモータ出力が最大となる点(最大出力点)に到達したら〔(b)参照〕、その後、最大出力線をたどって車速を上げていくこと〔(c)参照〕で車両は最大の駆動力を得ることができる。この最大出力線に沿って車速を上げる方法として、例えば、モータの最大出力点に到達したことをトリガにして〔(b)参照〕、変速比を最ローから離脱させてハイ側に徐々に変速することが考えられる。この場合には、最高車速到達の準備を早期に行うことができる。
【0009】
しかしながら、モータの最大出力点到達時点〔(b)参照〕から、最大出力線をたどって車速を上げていく過程で〔(c)参照〕、モータの最大出力点に到達したことをトリガにして、すなわち最大出力点到達時点直後に最ローから離脱する変速比変更(変速)を行うと、その地点でのモータ出力トルクに応じた動力伝達のための油圧に加えて、変速比変更のための「瞬時変速分」の油圧が必要になり、この2つの油圧を発生できるようオイルポンプはその最大出力を十分に確保しなければならず、オイルポンプの大型化,高コスト化を招き、また、オイルポンプを駆動するためのエネルギー消費も多くなる。
【0010】
本発明はこのような課題に着目して創案されたもので、電動機と油圧式無段変速機とを組み合わせた電動車両の駆動装置において、油圧式無段変速機にかかるオイルポンプの負担を軽減できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の電動車両の駆動装置は、電動機と、前記電動機からの入力回転を変速して出力する油圧式無段変速機と、前記油圧式無段変速機へ供給する油圧を発生するオイルポンプと、アクセル操作量及び車速に応じて、前記電動機を制御する電動機制御部及び前記油圧式無段変速機を制御する変速制御部を有する制御手段と、を備え、前記変速機の最大トルクで達成可能な車速の上限を第1車速と定義したとき、前記オイルポンプの最大出力は上記最大トルク及び前記第1車速により規定されており、前記アクセル操作量が最大の状態で車両が発進する全開発進時に、前記電動機制御部は、前記油圧式無段変速機の出力回転数と出力トルクとで規定される駆動力線図上の上限トルク線及び最大出力線に沿って車両を駆動するように前記電動機を制御し、前記変速制御部は、発進から車速が前記第1車速に到達するまでは最ロー変速比に固定し、車速が前記第1車速を超えたあとは、前記オイルポンプの余裕出力に基づき前記油圧を設定して変速比をハイ側へ変更する余裕出力対応変速制御を実施することを特徴としている。
【0012】
(2)前記変速制御部は、変速比の変更に使用する前記オイルポンプの変速用流量を前記余裕出力に基づいて設定し、当該変速用流量に基づいて前記油圧を設定して前記余裕出力対応変速制御を実施することが好ましい。
【0013】
(3)前記変速制御部は、車速が前記第1車速を超えて前記第1車速よりも高速の第2車速に達するまでは、前記余裕出力対応変速制御を実施し、車速が前記第2車速を超えたあとは、前記油圧式無段変速機及び前記電動機の効率に基づき目標変速比を設定し、当該目標変速比に基づき前記油圧を設定して変速比を制御する効率対応変速制御を実施することが好ましい。
【0014】
(4)前記変速制御部は、前記余裕出力対応変速制御を実施する余裕出力対応変速制御部と、前記油圧式無段変速機及び前記電動機の効率に基づき目標変速比を設定し、当該目標変速比に基づき前記油圧を設定して、前記変速用流量を基準流量にして変速比を制御する効率対応変速制御を実施する効率対応変速制御部と、前記基準流量に基づく変速用出力を前記余裕出力と比較して、前記変速用出力が前記余裕出力以下であれば、前記効率対応変速制御を選択し、前記変速用出力が前記余裕出力よりも大きければ、前記余裕出力対応変速制御を選択する制御選択部と、を備えていることが好ましい。
【0015】
(5)前記オイルポンプは電動ポンプであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電動車両の駆動装置によれば、アクセル操作量が最大の状態で車両が発進する全開発進時に、電動機制御部が油圧式無段変速機の出力回転数と出力トルクとで規定される駆動力線図上の上限トルク線及び最大出力線に沿って車両を駆動するように電動機を制御するので、大きな出力を得ながら滑らかに車両を加速させることができる。
【0017】
この全開発進時には、発進から車速が前記第1車速に到達するまでは最ロー変速比に固定するので、この間は変速用流量の油を供給分の油圧を必要としない。さらに、この後、第1車速よりも高速の第2車速まで、オイルポンプの余裕出力に基づき油圧式無段変速機へ供給するオイルポンプの油圧及び変速用流量を設定して変速比をハイ側に制御するので、オイルポンプの負担を増加させることなく、変速比変更のための変速用流量分の油圧を確保しながら、変速比をハイ側に操作することができる。
このため、最高車速到達の準備を早期に行うことができるようにしながら、オイルポンプに小型で低出力のものを採用することができ、オイルポンプのコスト低減や車両のエネルギー効率(電費とも言う)の向上の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置を示す模式的な構成図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明する駆動力線図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明するモータ性能図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による効率の算出手法の一例としてモータ効率マップとトランスミッション効率マップを用いる手法を説明する図である。
図5】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置にかかる変速線図である。
図6】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明するフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態にかかる電動車両の駆動装置による制御を説明するタイムチャートであり、(A)は比較例を示し、(B)は本実施形態を示す。
図8】本発明の背景技術にかかる電動車両の駆動装置の駆動力線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することや適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
〔構成〕
図1は本実施形態に係る電動車両の駆動装置を示す模式的な構成図である。図1に示すように、本駆動装置は、電動機(以下、モータという)1と、モータ1からの入力回転を変速して出力する無段変速機(以下、CVTという)2と、アクセル開度(アクセルペダルの操作量)APOを検出するアクセル開度センサ(アクセル操作量検出手段)3と、車速VSPを検出する車速センサ(車速検出手段)4と、モータ1を制御する電動機制御部(MCU;motor control unit)51及びCVT2を制御する変速制御部(ATCU;automatic transmission control unit)52を有するECU群(制御手段,ECU;electric control unit)5と、を備えている。なお、駆動装置をパワートレイン(略してPT)ともいう。
【0021】
CVT2は、モータ1と駆動連結されたプライマリプーリ21と、駆動輪6と駆動連結されたセカンダリプーリ22と、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との各V溝内に架け回されたベルト又はチェーン等の無端帯状動力伝達体(以下、ベルトという)23とを備え、ベルト23のクランプ及びプーリ21,22の溝幅変更による変速操作には油圧を用いた油圧式CVTが適用されている。
また、セカンダリプーリ22と駆動輪6との間には、減速機構7及びディファレンシャル8が設けられている。
【0022】
MCU51は、アクセル開度センサ3で検出されたアクセル開度(検出アクセル開度、以下、単にアクセル開度ともいう)APO,車速センサ4で検出された車速(検出車速、以下、単に車速ともいう)VSP及びCVT2の変速比(プーリ比)Rpに基づいて、モータ1と接続されたインバータ10を制御する。つまり、図2の駆動装置の駆動力線図と略対応した図3に示すようなモータ1の駆動力線図があり、駆動力線図で規定される範囲内で、アクセル開度APO,車速VSP及び変速比Rpに応じた出力トルク(CVT2への入力トルク)Tm及び回転数(回転速度)Nmでモータ1が作動するようにインバータ10を制御する。
【0023】
特に、アクセルが全開操作されて車両が発進する全開発進時には、MCU51は、全開発進時制御として、図2に太実線の矢印で示すように、CVT2から出力される駆動装置の出力回転数Noutと出力トルクToutとで規定される駆動力線図上の上限トルク線及び最大出力線に沿って車両を駆動するようにモータ1を制御する。なお、上限トルク線及び最大出力線は、車速に応じた出力トルクToutの上限の値で規定される。出力トルクToutは、図3に示すモータ1の駆動力線図に対応して車速が高くなるほど低下する特性があるが、低速領域では最大トルクで一定となる。
【0024】
つまり、アクセルが全開まで操作されて発進する前回発進時には〔図2(a)参照〕、上限トルク線に到達後この上限トルク線に沿って出力トルクToutが最大で且つ出力(=出力トルクTout×出力回転数Nout=駆動力)が最大となる点(最大出力点)に進み〔図2(b)参照〕、その後、車速の増加に応じて出力トルクToutは次第に低下していくが、最大出力線をたどって車速を上げていくこと〔図2(c)参照〕で車両は最大の駆動力を得ることができる。最大出力点の車速は、最大トルクが発生している状態で達成可能な車速の中の上限(最高車速)であり、これを第1車速VSP1と定義する。
【0025】
なお、上限トルク線の最大トルク部分(最大トルク線)は変速比Rpに応じて変化し、最ロー変速比であれば最大トルク線は最大(図2の破線Lt1参照)となり、最ハイ変速比であれば最大トルク線は最小(図2の一点鎖線Lt2参照)となる。また、最大出力線は、出力トルクToutと出力回転数Noutとが反比例の関係をなす曲線である。ただし、上記の最大トルクとは、最ロー変速比における最大トルク線に応じた値とする。
【0026】
ATCU52は、アクセル開度APO,車速VSP及びモータ1の出力トルクTmに基づいて、オイルポンプ9及び油圧コントロールユニット20内に装備されオイルポンプ9に接続されたソレノイドバルブ20aを通じてCVT2を制御する。つまり、ATCU52は、モータ1の出力トルクTmとCVT2の変速比Rpとから決まる駆動装置の出力トルク(駆動トルク、CVT2の出力トルク)Toutに応じたベルト23のクランプ力を確保できるように両プーリ21,22に油圧を与え、且つ、変速比Rpの変更(すなわち、変速)をすべき場合には、両プーリ21,22間に変速に必要な差推力を与えるように、油圧コントロールユニット20を制御する。
【0027】
オイルポンプ9には吐出圧を精度よく制御可能な電動ポンプが適用され、オイルポンプ9の吐出圧自体をライン圧に適用している。また、このライン圧はセカンダリプーリ22の油圧室の目標圧(セカンダリ圧)に調圧され、セカンダリプーリ22の油圧室に供給される。プライマリプーリ21の油圧室には、ソレノイドバルブ20aで目標圧(プライマリ圧)に調圧され油圧が供給される。ここでは、各プーリ21,22に初期推力を加えるスプリングの付勢力や、各プーリ21,22の可動シーブの受圧面の面積設定等によってプライマリ圧がセカンダリ圧よりもやや低い状態で推力がバランスするようなっている。
【0028】
特に、アクセルが全開操作されて車両が発進する全開発進時には、ATCU52は、全開発進時制御として、発進後に車速が第1車速VSP1に到達するまでは、変速比Rpの変更を規制し、変速比Rpを最ロー変速比に固定する。したがって、全開発進時には、上限トルク線のトルク値は最大(図2の破線Lt1を参照)となる。なお、車両停止時には、通常通り、モータ1は停止状態とされ、CVT2の変速比Rpは最ローに戻されるものとする。
【0029】
そして、ATCU52は、車速VSPが第1車速VSP1を超えたら、オイルポンプ9の余裕出力OPremに基づき、オイルポンプ9の油圧(吐出圧力)Pd及び変速比を変更操作するための変速用吐出流量(単位時間当たりの吐出流量)Qdsを設定して変速比をハイ側に制御する。
【0030】
ここで、オイルポンプ9の余裕出力OPremについて説明する。
オイルポンプ9の出力OPは、吐出圧力Pdと全吐出流量Qdと効率(全効率)ηとによって、次式(1)のように表すことができる。
OP=Pd×Qd÷η・・・(1)
【0031】
吐出圧力Pdはベルト23のクランプを維持する(ベルト滑りを発生させない)のに必要な推力(必要推力)THtに応じて決まり、全吐出流量Qdはオイルポンプ9のリーク流量Qdrと変速用吐出流量Qdsとの和(Qd=Qdr+Qds)となる。なお、各プーリ21,22の必要推力THtはプーリ21,22の伝達トルクに応じる。
リーク流量Qdrや変速用吐出流量Qdsは吐出圧力Pdに応じて変動し、リーク流量Qdrは変速比を一定に保持する場合にも発生する。
【0032】
オイルポンプ9の余裕出力OPremとは、オイルポンプ9の最大出力OPmaxからその時点の変速比を保持するために必要なオイルポンプ9の出力OPpreを減算した値である。
出力OPpreは、その時点の吐出圧力PdをPdpreとしその時点のリーク流量QdrをQdrpreとすると次式(2)のように表すことができ、余裕出力OPremは次式(3)のように表すことができる。
OPpre=Pdpre×Qdrpre÷η ・・・(2)
OPrem=OPmax−OPpre ・・・(3)
【0033】
また、ここでは、オイルポンプ9の最大出力OPmaxが、次式(4)のように、最大出力点〔図2中の(b)を参照〕において必要な吐出圧力Pdmopとリーク流量Qdrmopとで決まる出力OPmopと一致、又は出力OPmopに微小な余裕分αを加えた大きさに設定されている。
OPmax=OPmop 又は、OPmax=OPmop+α ・・・(4)
ただし、OPmop=Pdmop×Qdrmop÷η
【0034】
上記のように、全開発進後アクセル全開を維持すると、最大出力線をたどって車速を上げていく〔図2中の(c)を参照〕が、この段階になると出力トルクToutが速度上昇と共に低下していくので、プーリ21,22の必要推力THtは速度上昇と共に低下していく。したがって、最大出力点から車速が増加するとオイルポンプ9の余裕出力OPremが発生するため、この余裕出力OPremを利用して変速用吐出流量Qdsを確保することができるようになる。
ただし、車速が第1車速VSP1を超えた直後は、余裕出力OPremは僅かであるため確保できる変速用吐出流量Qdsも僅かである。
【0035】
ATCU52は、オイルポンプ9の出力OPに比較的大きな余裕がある通常制御時には、通常の変速用吐出流量(基準流量)Qdssで変速比の変更を行うが、全開発進において車速が第1車速VSP1を超えた直後には余裕出力OPremは僅かであるため、このときには、余裕出力OPremに応じてオイルポンプ9の最大出力OPmaxの範囲内で供給可能な変速用吐出流量Qdsrを設定して変速を行う。このように、余裕出力OPremに応じて変速用吐出流量Qdsrを設定して行う変速を余裕出力対応変速制御という。
【0036】
ATCU52は、通常制御時には、アクセル開度APOと車速VSPとから必要出力OP_tを算出し、必要出力が得られ且つ駆動装置全体の効率が最高となる最高効率変速比Rp_heを算出して、CVT2の変速比Rpを最高効率変速比Rp_heに制御する。このとき、オイルポンプ9の出力OPに余裕がある通常制御時には、基準流量Qdssによって変速比の変更を行う。このように、基準流量Qdssによって変速比Rpを最高効率変速比Rp_heに制御するものを効率対応変速制御という。しかし、オイルポンプ9の出力OPに余裕がないときには、余裕出力OPremに応じて供給可能な変速用吐出流量Qdsrを設定して、これによって余裕出力対応変速制御を行う。
【0037】
このため、ATCU52には、余裕出力対応変速制御を実施する余裕出力対応変速制御部52aと、効率対応変速制御を実施する効率対応変速制御部52bと、基準流量Qdssに基づくオイルポンプ9の出力分(変速用出力)OPdemを余裕出力OPremと比較して、変速用出力OPdemが余裕出力OPrem以下であれば、効率対応変速制御を選択し、変速用出力OPdemが余裕出力OPremよりも大きければ、余裕出力対応変速制御を選択する制御選択部52cとを機能要素として備えている。
【0038】
また、MCU51及びATCU52は、アクセル開度が全開から減少して全開発進状態から脱したら、全開発進時制御を終了し、通常制御を実施する。
この通常制御では、アクセル開度APO,車速VSP及び変速比Rpに基づいて、MCU51はアクセル開度APOに応じた出力が効率よく得られるようにインバータ10を通常制御し、ATCU52は、アクセル開度APOに応じた出力が最も効率よく得られるように、CVT2の変速比Rpを制御する効率対応変速制御を実施する。
【0039】
ここで、上記の最高効率変速比Rp_heについて説明する。
アクセル開度APOに対応して目標駆動トルク(要求駆動トルク)Tout_tを決めることができる。そして、目標駆動トルクTout_tと現在の車速VSPとから次式(5)により車両の必要出力(目標出力)Pout_tを決めることができる。
Pout_t=Tout_t×VSP ・・・(5)
【0040】
車両の必要出力Pout_tを得るには、モータ1のトルクTm(=Tin)と回転数Nm(=Nin)とで決まるモータ1からの目標入力Pin_tを必要出力Pout_tと一致させればよく、次式(6)が成立すればよい。なお、Tin_tはモータ1の目標入力トルク、Nin_tはモータ1の目標入力回転数である。
Pout_t=Pin_t=Tin_t×Nin_t・・・(6)
【0041】
モータ1からの目標入力Pin_tを達成する入力トルクTin,入力回転数Ninは無数或いは多数あるが、ここでは、目標入力Pin_tを達成する入力トルクTin,入力回転数Ninのうち、モータ1の効率が最も良い入力トルクTin,入力回転数Ninを、目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tに設定する。また、車両の駆動系の総合効率の観点から、変速比Rpも、目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tを実現する変速比Rpのうち、最も効率が良いもの、即ち、最高効率変速比Rp_heを選択し、これを目標変速比Rp_tとして変速比Rpを制御する。
【0042】
例えば図4に示すように、モータトルクTinとモータ回転数Ninとで規定された多数の等出力線上にそれぞれモータ効率を紐付けしたモータ効率マップ(図4(a)参照)を用いて、目標入力Pin_tに相当する等出力線を選出し、この選出した等出力線上のモータ効率の最高効率点P3のモータトルクTin,モータ回転数Ninを選出し、これらを目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tに設定する。
【0043】
最ローから最ハイまでの各変速比毎に、モータトルクTinとモータ回転数Ninとで規定された多数の等出力線上にそれぞれトランスミッション効率を紐付けしたトランスミッション効率マップ(図4(b)参照)を用いて、各変速比Rpにおいてモータ効率マップから選出した目標入力トルクTin_t,目標入力回転数Nin_tに相当する点P3´でのトランスミッション効率を読み込んで、トランスミッション効率が最も高い変速比Rpを最高効率変速比Rp_heに設定する。
【0044】
なお、図5は、横軸に車速VSPをとり縦軸にモータ回転数Nmをとった変速線図であり、太実線で本制御装置による全開発進制御の変速線を示している。本全開発進制御によれば、発進から車速が第1車速VSP1に到達するまでは変速比は最ロー変速比に保持され、車速が第1車速VSP1を超えたら、変速比は最ロー変速比からハイ側にシフトしながら、余裕出力対応変速制御によって車速の上昇と共に最高効率変速比Rp_heに接近し、その後は、最高効率変速比Rp_he付近を維持するように制御される。
【0045】
〔作用及び効果〕
本実施形態に係る電動車両の駆動装置は、上述のように構成されているので、例えば図6のフローチャートに示すように、モータ1及びCVT2を制御することができる。なお、図6のフローチャートに示す処理は、車両の発進と共に開始され、所定の周期で繰り返し行うものとする。なお、車両の発進は車速VSPが所定の閾値(微小値)以上になったことから判定する。
【0046】
図6に示すように、アクセル開度APO,車速VSP,モータ回転数Nmを読み込んで(ステップS10)、まず、アクセル全開、即ち、アクセル開度が最大(最大開度付近の所定開度以上)であるか否かを判定する(ステップS20)。
アクセル全開発進でなければ本制御は行わず通常制御を実施する。なお、この通常制御では、後述するステップS50〜S90及びステップS100に相当する処理を実施するようにしてもよい。
【0047】
アクセル全開であれば、車速VSPが第1車速VSP1以下であるか否かを判定する(ステップS30)。車速VSPが第1車速VSP1以下であれば、変速比を最ロー変速比に保持してモータ1を最大出力にして走行する(ステップS40)。発進後は車速VSPが第1車速VSP1を超えるまではこのステップS30及びステップS40の処理が実施される。
【0048】
車速VSPが第1車速VSP1を超えると、上述のようにオイルポンプ9の出力OPに余裕が生じるので、変速比を最ロー変速比からハイ側にシフトすることが可能になる。この場合は、まず、アクセル開度APOから目標駆動トルクTout_tを算出し、さらに、目標駆動トルクTout_tと現在の車速VSPとから車両の必要出力(目標出力)Pout_t、即ち、モータ1からの目標入力Pin_tを算出する(ステップS50)。
そして、モータ効率マップ(図4(a)参照)から最高出力点を選出し(ステップS60)、トランスミッション効率マップ(図4(b)参照)から最高出力点を満たす変速比である最高効率変速比Rp_heを選出して、これを目標変速比Rp_tに設定する(ステップS70)。
【0049】
つぎに、オイルポンプ9の余裕出力OPremを算出し(ステップS80)、さらに、現変速比から目標変速比Rp_tへ通常制御するために必要なオイルポンプ9の出力分(変速用出力)OPdemを算出して(ステップS90)、変速用出力OPdemを余裕出力OPremと比較して、変速用出力OPdemが余裕出力OPrem以下であるか否かを判定する(ステップS100)。
【0050】
変速用出力OPdemが余裕出力OPrem以上でなければ、余裕出力OPremに応じてライン圧(ポンプ出力OP)及びプライマリ圧を設定してこれを指示する(ステップS110)。
変速用出力OPdemが余裕出力OPrem以上であれば、目標変速比Rp_t及び目標入力トルクTinに基づいて基準流量Qdssによって変速するライン圧(ポンプ出力OP)及びプライマリ圧を設定してこれを指示する(ステップS120)。
【0051】
このような制御によって、最大ポンプ出力を低減することができる。
図7は、車両の全開発進時におけるアクセル状態,ブレーキ状態,モータトルクTm,モータ回転数Nm,変速比Rpと共に、オイルポンプ9のポンプ圧力,ポンプ流量,ポンプ出力のそれぞれの変化を示すタイムチャートであり、(A)は比較例の場合を示し、(B)は本装置の場合を示す。比較例とは、図2の駆動力線図上の上限トルク線から最大出力線に移る点(b)に至るまでは変速比を固定し、点(b)に至ってから変速を許可するように構成した場合を想定している。
【0052】
図7(A)に示すように、時点(a)で、車両停止状態からアクセルペダルを全開踏み込み(アクセルオン)して発進する全開発進時には、アクセルオンの直後からモータトルクTmが急増し、これに応じて動力伝達のための推力を確保するために、ポンプ出力(第1ポンプ出力)が増加されてポンプ圧力やポンプ流量が増加される。
【0053】
比較例の場合には、車速VSPが第1車速VSP1に到達する時点、即ち、車両の駆動状態が図2において上限トルク線から最大出力線に移る点(b)に到達した時点(b)で変速を単純に許可しているので、時点(b)から通常の変速が開始されて変速を行うために、ポンプ出力(第2ポンプ出力)が増加されてポンプ圧力やポンプ流量が増加される。したがって、時点(b)から、高い伝達トルクに応じた大きな動力伝達用の第1ポンプ出力に加えて、変速用の第2ポンプ出力が必要になり、必要な最大ポンプ出力が極めて大きくなる。
【0054】
これに対して、本実施形態の場合には、時点(b)で変速が開始されるが、この変速は、時点(b)以降の時点(c)から油圧の低下(黒矢印参照)に伴って生じる余裕出力OPremに応じて変速用流量が増大(黒矢印参照)するように制御するので、ライン圧(ポンプ出力OP)及びプライマリ圧を制御するため、ポンプ出力を増加することなく変速を実施することができる。したがって、変速速度は制限されるが最大出力トルクを動力伝達するための第1ポンプ出力に抑えることができる。
【0055】
これによって、オイルポンプ9の負担が軽減され、オイルポンプ9に小型で低出力のものを採用することができ、オイルポンプ9のコスト低減や重量軽減や車両の電費の向上の効果を得ることができる。
【0056】
また、モータ1の全開発進時制御により、駆動力線図上の上限トルク線及び最大出力線に沿って車両を駆動するように制御するので、大きな出力を得ながら滑らかに車両を加速させることができる効果も得られる。
【0057】
〔その他〕
以上、実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でかかる実施形態を種々変更して実施することができる。
【0058】
例えば、上記実施形態では、制御選択部52cは、変速用出力OPdemを余裕出力OPremと比較して制御選択を行っているが、変速用出力OPdemが余裕出力OPrem以下になるのは車速が第1車速VSP1よりも高い所定車速(第2車速)VSP2に到達するタイミングとも考えられるので、車速VSPが第2車速VSP2に到達したら、余裕出力対応変速制御から効率対応変速制御に切り替えるようにしてもよい(図2図5参照)。
【符号の説明】
【0059】
1 電動機(モータ)
2 無段変速機(CVT)
3 アクセル開度センサ(アクセル操作量検出手段)
4 車速センサ(車速検出手段)
5 ECU群(制御手段)
6 駆動輪
7 減速機構
8 ディファレンシャル
9 オイルポンプ
10 インバータ
20 油圧コントロールユニット
20a ソレノイドバルブ
21 プライマリプーリ
22 セカンダリプーリ
51 電動機制御部(MCU)
52 変速制御部(ATCU)
52a 余裕出力対応変速制御部
52b 効率対応変速制御部
52c 制御選択部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8