(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985182
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】工作機械における回転軸の中心位置計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 5/00 20060101AFI20211213BHJP
B23Q 15/22 20060101ALI20211213BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
G01B5/00 F
B23Q15/22
B23Q17/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-38910(P2018-38910)
(22)【出願日】2018年3月5日
(65)【公開番号】特開2019-152574(P2019-152574A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2020年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小島 拓也
【審査官】
山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−038902(JP,A)
【文献】
特開2015−133073(JP,A)
【文献】
特開2016−155185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00−5/30
B23Q 15/00−15/28
17/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を装着可能な主軸と、テーブルと、3軸以上の並進軸と、前記テーブルを旋回可能な第1の回転軸と、前記第1の回転軸を搭載するユニットを旋回可能な第2の回転軸と、を有する工作機械において、前記主軸に取り付けたセンサにより、前記テーブルに取り付けた基準マスタの3次元空間上の位置を計測し、該計測値から各前記回転軸の中心位置をそれぞれ計測する方法であって、
前記センサを用いて前記基準マスタの初期位置を計測する初期位置計測ステップと、
前記初期位置計測ステップにて計測した前記初期位置から、前記センサで計測可能な前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する前記第1の回転軸の第1基準角度を算出する基準角度算出ステップと、
前記第2の回転軸を所定の第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第1基準角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する基準位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第1割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する第1割出位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第2割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する第2割出位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度から所定角度旋回した旋回角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第3割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する旋回/割出位置計測ステップと、
前記基準位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置と、前記第2割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第1の回転軸の回転中心位置を算出する第1回転軸中心算出ステップと、
前記第2の回転軸を第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第3割出角度に割り出した場合に前記並進軸の動作範囲外となる前記基準マスタの仮想位置を、前記第1回転軸中心算出ステップで算出した前記第1の回転軸の回転中心位置と、前記第1割出位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置とから算出する擬似計測ステップと、
前記擬似計測ステップにて算出した前記仮想位置と、前記旋回/割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第2の回転軸の回転中心位置を算出する第2回転軸中心算出ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【請求項2】
前記第2割出角度は、前記第1基準角度から180°回転した角度であり、前記第3割出角度は、前記第1割出角度から180°回転した角度であることを特徴とする請求項1に記載の工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【請求項3】
前記第1基準角度を0°として、前記第1割出角度が90°、前記第2割出角度が180°、前記第3割出角度が270°であり、前記第2基準角度を0°として、前記旋回角度が90°若しくは−90°であることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【請求項4】
前記擬似計測ステップでは、前記第1回転軸中心算出ステップで算出した前記第1の回転軸の回転中心位置を中心として、前記第1割出位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置を回転変換することで、前記基準マスタの仮想位置を算出することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【請求項5】
工具を装着可能な主軸と、テーブルと、3軸以上の並進軸と、前記テーブルを旋回可能な第1の回転軸と、前記第1の回転軸を搭載するユニットを旋回可能な第2の回転軸と、を有する工作機械において、前記主軸に取り付けたセンサにより、前記テーブルに取り付けた基準マスタの3次元空間上の位置を計測し、該計測値から各前記回転軸の中心位置をそれぞれ計測する方法であって、
前記センサを用いて前記基準マスタの初期位置を計測する初期位置計測ステップと、
前記初期位置計測ステップにて計測した前記初期位置から、前記センサで計測可能な前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する前記第1の回転軸の第1基準角度を算出する基準角度算出ステップと、
前記第2の回転軸を所定の第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第1基準角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する基準位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第1割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する第1割出位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度から所定角度旋回した旋回角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第2割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する旋回/割出位置計測ステップと、
前記基準位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置と、前記第1割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第1の回転軸の回転中心位置を算出する第1回転軸中心算出ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第2割出角度に割り出した場合に前記並進軸の動作範囲外となる前記基準マスタの仮想位置を、前記基準位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置と、前記第1割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから算出する擬似計測ステップと、
前記擬似計測ステップにて算出した前記仮想位置と、前記旋回/割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第2の回転軸の回転中心位置を算出する第2回転軸中心算出ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【請求項6】
前記第1割出角度が前記第1基準角度から180°回転した角度、前記第2割出角度が前記第1基準角度から270°回転した角度、前記旋回角度が前記第2基準角度から90°若しくは−90°回転した角度であることを特徴とする請求項5に記載の工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【請求項7】
前記擬似計測ステップでは、前記第1回転軸中心算出ステップで算出した前記第1の回転軸の回転中心位置を中心として、前記基準位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置と、前記第1割出位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置をそれぞれ回転変換することで、前記基準マスタの前記仮想位置を算出することを特徴とする請求項5又は6に記載の工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【請求項8】
前記基準マスタは、球形状もしくは円筒形状もしくは円柱形状であることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の工作機械における回転軸の中心位置計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並進軸を3軸以上、回転軸を2軸以上有する工作機械において、各回転軸の中心位置を計測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、3つの並進軸および2つの回転軸を有する5軸制御の工作機械の模式図である。主軸頭2は、並進軸であり互いに直交するY軸、Z軸によってベッド1に対して並進2自由度の運動が可能である。テーブル3は、第1の回転軸であるC軸によってクレードル4に対して回転1自由度の運動が可能であり、クレードル4は、第2の回転軸であるB軸によってトラニオン5に対して回転1自由度の運動が可能である。B軸とC軸とは互いに直交している。さらに、トラニオン5は、並進軸でありYおよびZ軸に直交するX軸によりベッド1に対して並進1自由度の運動が可能である。したがって、主軸頭2は、テーブル3に対して並進3自由度および回転2自由度の運動が可能である。各送り軸は図に示していない数値制御装置により制御されるサーボモータにより駆動され、被加工物をテーブル3に固定し、主軸頭2に工具を装着して回転させ、被加工物と工具の相対位置および相対姿勢を制御して加工を行うことができる。
【0003】
このような5軸制御工作機械の運動精度に影響を及ぼす大きな要因として、回転軸の中心位置の誤差がある。例えば、
図1の5軸制御工作機械において、C軸とB軸の中心位置に誤差がある場合、指令した位置に対してずれた位置を加工してしまい、加工した工作物が望みどおりの形状・寸法にならない。
これに対して、回転軸の中心位置をパラメータとして補正制御を行えば、高精度な加工を行うことができる。このような補正制御を行うためには、予め回転軸の中心位置を計測し、数値制御装置に入力しておく必要がある。
そこで、回転軸の中心位置を計測する方法として、
図2に示すように、基準マスタとなるターゲット球12をテーブル3上に固定し、回転軸を複数の角度に割り出して、主軸頭2に装着させたタッチプローブ11を用いてターゲット球12の中心位置をそれぞれ計測し、計測値から回転軸中心位置を算出する方法が知られている。
【0004】
ここで、タッチプローブは、測定対象に接触したことを感知するセンサを有しており、接触を感知した瞬間に赤外線や電波などで信号を発信して、数値制御装置に接続された受信機でその信号を受信した瞬間もしくは遅れ分を考慮した時点の各軸の現在位置(スキップ値)を取得し、この値を計測値とするものである。また、タッチプローブによるターゲット球の中心位置の計測は、ターゲット球の表面上の4点以上(ターゲット球の直径が既知の場合は3点以上)にタッチプローブを接触させ、それぞれの計測値からターゲット球の中心位置を計測する。
最も一般的な計測パターンを
図3に示す。この方法を従来法Aと呼ぶ。従来法Aでは、始めに、B軸0°の状態で、P3の位置でターゲット球の中心位置を計測する。次にC軸を180°旋回させてP1の位置で計測する。さらに、B軸を90°旋回させ、P5の位置で計測を行う。こうして得られたP1とP3とのターゲット球中心位置の計測値からC軸の回転中心を算出する。さらに、P1とP5の計測値からB軸の回転中心を算出する。これらの計算は、四則演算だけの非常に単純な計算で行うことができる。
【0005】
一方、特許文献1には、回転軸によってテーブルを複数の角度に回転・傾斜割出して、主軸に装着されたタッチプローブを用いて、テーブル上に固定されたターゲット球の中心位置をそれぞれ計測し、得られた計測値から計測値が描く円弧の誤差を算出し、この円弧誤差から機械の幾何誤差を同定する方法が開示されている。同定した幾何誤差の中には回転軸の中心位置の誤差が含まれており、結果として、回転軸の中心位置を計測していることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−38902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、並進軸の動作範囲が制限されている機械の場合、従来法Aでは回転軸の中心位置を計測できない場合がある。例えば
図4に示すように、並進軸の動作範囲の制限により、二重線に囲まれた領域Rの中だけ主軸頭2が相対的に動作可能な機械の場合、X軸の動作範囲外となるためP1の位置の計測ができず、P1とP3の計測値からC軸の中心位置を求めることができない。さらに、P1とP5の計測値からB軸の中心位置も求めることができない。
ここで、P1に対してC軸を90°旋回したP2と、270°旋回したP4とを計測することで、P1とP3の場合と同様に、それらの計測値からC軸中心位置を求めることは可能である。
しかし、Z軸の動作範囲外となるため、B軸を90°旋回させたP6やP8の位置が計測できず、P2とP6、もしくはP4とP8からB軸中心を求めることができない。さらに、P7の位置も計測できないことから、P3とP7の計測値からもB軸中心を求めることができない。
したがって、従来法Aでは、並進軸の動作範囲が制限されている機械の場合にB軸中心を計測することができないという課題がある。
【0008】
一方、特許文献1の方法では、
図5に示すように、B軸割出により90°未満の計測値による円弧軌跡を取得でき、理論的にはB軸中心誤差を同定することができる。しかし、円弧の中心を計算する場合、円弧の角度が小さいほど計算精度が低くなることが一般的にわかっており、特許文献1の方法では90°未満しか取得できないため、並進軸の動作範囲が制限されている機械の場合は精度よくB軸中心誤差を同定できないという課題がある。
また、円弧の中心を計測する場合は、最小自乗法や擬似逆行列など複雑な計算を行う必要があるため、四則演算などの単純な計算しか行えない、例えばNCプログラム解釈処理では、この計算を実行できないという課題もある。
【0009】
そこで、本発明は、並進軸の動作範囲が制限されている工作機械の場合でも、単純な計算で高精度に回転軸の中心位置を計測できる回転軸の中心位置計測方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、3軸以上の並進軸と、前記テーブルを旋回可能な第1の回転軸と、前記第1の回転軸を搭載するユニットを旋回可能な第2の回転軸と、を有する工作機械において、前記主軸に取り付けたセンサにより、前記テーブルに取り付けた基準マスタの3次元空間上の位置を計測し、該計測値から各前記回転軸の中心位置をそれぞれ計測する方法であって、
前記センサを用いて前記基準マスタの初期位置を計測する初期位置計測ステップと、
前記初期位置計測ステップにて計測した前記初期位置から、前記センサで計測可能な前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する前記第1の回転軸の第1基準角度を算出する基準角度算出ステップと、
前記第2の回転軸を所定の第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第1基準角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する基準位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第1割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する第1割出位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第2割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する第2割出位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度から所定角度旋回した旋回角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第3割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する旋回/割出位置計測ステップと、
前記基準位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置と、前記第2割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第1の回転軸の回転中心位置を算出する第1回転軸中心算出ステップと、
前記第2の回転軸を第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第3割出角度に割り出した場合に前記並進軸の動作範囲外となる前記基準マスタの仮想位置を、前記第1回転軸中心算出ステップで算出した前記第1の回転軸の回転中心位置と、前記第1割出位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置とから算出する擬似計測ステップと、
前記擬似計測ステップにて算出した前記仮想位置と、前記旋回/割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第2の回転軸の回転中心位置を算出する第2回転軸中心算出ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記第2割出角度は、前記第1基準角度から180°回転した角度であり、前記第3割出角度は、前記第1割出角度から180°回転した角度であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、前記第1基準角度を0°として、前記第1割出角度が90°、前記第2割出角度が180°、前記第3割出角度が270°であり、前記第2基準角度を0°として、前記旋回角度が90°若しくは−90°であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、前記擬似計測ステップでは、前記第1回転軸中心算出ステップで算出した前記第1の回転軸の回転中心位置を中心として、前記第1割出位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置を回転変換することで、前記基準マスタの仮想位置を算出することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、3軸以上の並進軸と、前記テーブルを旋回可能な第1の回転軸と、前記第1の回転軸を搭載するユニットを旋回可能な第2の回転軸と、を有する工作機械において、前記主軸に取り付けたセンサにより、前記テーブルに取り付けた基準マスタの3次元空間上の位置を計測し、該計測値から各前記回転軸の中心位置をそれぞれ計測する方法であって、
前記センサを用いて前記基準マスタの初期位置を計測する初期位置計測ステップと、
前記初期位置計測ステップにて計測した前記初期位置から、前記センサで計測可能な前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する前記第1の回転軸の第1基準角度を算出する基準角度算出ステップと、
前記第2の回転軸を所定の第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第1基準角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する基準位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第1割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する第1割出位置計測ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度から所定角度旋回した旋回角度に割り出し、前記第1の回転軸を、前記第1基準角度から所定角度回転し、前記並進軸の動作範囲内に前記基準マスタが位置する第2割出角度に割り出して、前記センサを用いて前記基準マスタの位置を計測する旋回/割出位置計測ステップと、
前記基準位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置と、前記第1割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第1の回転軸の回転中心位置を算出する第1回転軸中心算出ステップと、
前記第2の回転軸を前記第2基準角度に割り出し、前記第1の回転軸を前記第2割出角度に割り出した場合に前記並進軸の動作範囲外となる前記基準マスタの仮想位置を、前記基準位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置と、前記第1割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから算出する擬似計測ステップと、
前記擬似計測ステップにて算出した前記仮想位置と、前記旋回/割出位置計測ステップで計測した前記基準マスタの位置とから、前記第2の回転軸の回転中心位置を算出する第2回転軸中心算出ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5の構成において、前記第1割出角度が前記第1基準角度から180°回転した角度、前記第2割出角度が前記第1基準角度から270°回転した角度、前記旋回角度が前記第2基準角度から90°若しくは−90°回転した角度であることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6の構成において、前記擬似計測ステップでは、前記第1回転軸中心算出ステップで算出した前記第1の回転軸の回転中心位置を中心として、前記基準位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置と、前記第1割出位置計測ステップにて計測した前記基準マスタの位置をそれぞれ回転変換することで、前記基準マスタの前記仮想位置を算出することを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7の何れかの構成において、前記基準マスタは、球形状もしくは円筒形状もしくは円柱形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、並進軸の動作範囲が制限されている工作機械の場合でも、高精度に回転軸の中心位置を計測することが可能になる。
特に、第1の回転軸では、第1基準角度を0°として割出角度をそれぞれ90°、180°、270°とし、第2の回転軸では、第2基準角度を0°として旋回角度を90°若しくは−90°として、それぞれの計測値を用いて計算を行えば、四則演算や三角関数などの単純な計算のみで計算できるため、単純な演算のみしか対応できないNCプログラム解釈処理などでも実行可能になる。また、第2の回転軸では、第2基準角度を0°、旋回角度を90°若しくは−90°としてそれぞれの計測値を使用して中心位置を計算するので、0°と90°での精度が最適化され、各角度で高精度な加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】センサ及び基準マスタの一例の模式図である。
【
図3】従来法による回転軸の中心位置計測方法の模式図である。
【
図4】並進軸の動作範囲に制限がある機械における従来法での計測位置の模式図である。
【
図5】並進軸の動作範囲に制限がある機械における従来法での計測位置の模式図である。
【
図6】形態1の中心位置計測方法のフローチャートである。
【
図9】形態2の中心位置計測方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
第1の発明の一実施形態を、
図6のフローチャート及び
図7,8の模式図に基づいて説明する。なお、計測対象としては、
図1に示す5軸制御工作機械のC軸(第1の回転軸)とB軸(第2の回転軸)とする。
まず、ステップS1において、B軸を基準角度である0°に割り出した状態で、センサとしての
図2のタッチプローブ11を用いてテーブル3上に設置された基準マスタとしての
図2のターゲット球12の初期位置P0(Xini,Yini,Zini)を計測する(
図7)(初期位置計測ステップ)。
次に、ステップS2において、初期位置P0からC軸の基準角度Cdtmを計算する(基準角度算出ステップ)。
C軸基準角度は、B軸が基準角度0°の状態で、3つの並進軸の動作範囲内でC軸がC軸基準角度およびC軸基準角度+180°の両方でターゲット球12を計測可能な角度とする。すなわち本実施例では、
図7の初期位置P0と角度c0異なる位置P2でのC軸の角度とする。
ここで、C軸中心位置の仮定位置Casm(Xcs,Ycs,Zcs)とすると、基準角度Cdtmは、下記の数1により求められる。ここで、逆正接関数は、いわゆるatan2関数を用いることで、−180°〜180°の解を求める。
【0014】
[数1]
Cdtm=Cini+c0=Cini+tan
−1{−(Xini−Xcs)/−(Yini−Ycs)}
【0015】
次に、ステップS3において、B軸が基準角度0°の状態で、C軸角度をCq2(=Cdtm)に割り出して、ターゲット球12の中心位置Q2(Xq2,Yq2,Zq2)を計測する(基準位置計測ステップ)。
次に、ステップS4において、B軸が基準角度0°の状態で、C軸角度を第1割出角度であるCq3(=Cdtm+90°)に割り出して、ターゲット球12の中心位置Q3(Xq3,Yq3,Zq3)を計測する(第1割出位置計測ステップ)。
次に、ステップS5において、B軸が基準角度0°の状態で、C軸角度を第2割出角度であるCq4(=Cdtm+180°)に割り出して、ターゲット球12の中心位置Q4(Xq4,Yq4,Zq4)を計測する(第2割出位置計測ステップ)。
次に、ステップS6において、B軸を旋回角度である90°に割り出し、C軸角度を第3割出角度であるCq1(=Cdtm+270°)に割り出して、ターゲット球12の中心位置Q5(Xq5,Yq5,Zq5)を計測する(旋回/割出位置計測ステップ)。
なお、C軸基準角度をQ5の位置でのC軸角度としてもよい。この場合、Cq2=Cdtm+90°、Cq3=Cdtm+180°、Cq4=Cdtm+270°となる。
【0016】
次に、ステップS7において、C軸の中心位置Cpvt(Xc,Yc,Zc)を計算する(第1回転軸中心算出ステップ)。この計算は、Q2とQ4での計測値を用いて四則演算のみの以下の数2にて行う。
【0017】
[数2]
Xc=(Xq2+Xq4)/2
Yc=(Yq2+Yq4)/2
【0018】
次に、ステップS8において、C軸の中心位置Cpvtを用いてQ3の計測値を180°回転変換することで、並進軸の動作範囲外となる仮想位置V1でのターゲット球12の疑似計測値(Xv1,Yv1,Zv1)を計算する(疑似計測ステップ)。この計算は、Q3での計測値とC軸中心位置Cpvtを用いて四則演算のみの以下の数3にて行う。
【0019】
[数3]
Xv1=2
*Xc−Xq3=Xq2+Xq4−Xq3
Yv1=2
*Yc−Yq3=Yq2+Yq4−Yq3
Zv1=Zq3
【0020】
そして、ステップS9において、B軸の中心位置Bpvt (Xb,Yb,Zb)を計算する(第2回転軸中心算出ステップ)。この計算は、仮想位置V1での疑似計測値と中心位置Q5とを用いて四則演算のみの以下の数4にて行う。
【0021】
[数4]
Xb=(Zv1−Zq5+Xv1+Xq5)/2
=(Zq3−Zq5+Xq2+Xq4−Xq3+Xq5)/2
Zb=(Zv1+Zq5−Xv1+Xq5)/2
=(Zq3+Zq5−Xq2−Xq4+Xq3+Xq5)/2
【0022】
このように、上記形態1の回転軸の中心位置計測方法によれば、並進軸の動作範囲が制限されている5軸制御工作機械の場合でも、高精度に回転軸(C軸及びB軸)の中心位置を計測することが可能になる。
特にここでは、B軸0°とB軸90°での計測値を使用してB軸中心位置を計算しているため、B軸0°と90°での精度が最適化され、B軸0°と90°で高精度な加工を行うことができるという効果もある。
さらに、C軸0°、90°、180°、270°、B軸90°の計測値を用いて計算を行うため、四則演算や三角関数などの単純な計算のみで計算できるため、単純な演算のみしか対応できないNCプログラム解釈処理などでも実行可能になる。
【0023】
[形態2]
次に、第2の発明の計測方法について、
図9のフローチャートおよび
図10の模式図にもとづいて説明する。計測対象は形態1と同じである。
まず、ステップS1〜S3、S5〜S7は形態1と同一であるため、説明を省略する。
形態1と異なるのは、形態1のステップS4のQ3の位置での計測を行わない点である。すなわち、形態2で計測を行うのは、Q2、Q4、Q5の3箇所となる。よって、
図9では,ステップS5での中心位置Q4の計測が第2の発明の第1割出位置計測ステップとなり、ステップS6での中心位置Q5の計測が第2の発明の旋回/割出位置計測ステップとなる。
【0024】
そして、ステップS10では、仮想位置W1でのターゲット球12の疑似計測値(Xv1,Yv1,Zv1)を計算する際、C軸の中心位置Cpvtを用いてQ2の計測値を90°回転変換し、Q4の計測値を270°回転変換し、両者の平均値を計算して仮想位置W1を得るようにしている(疑似計測ステップ)。この計算は、計測したターゲット球12の中心位置Q2、Q4を用いて四則演算のみの以下の数5にて行う。
【0025】
[数5]
Xw1=(Xq2+Xq4−Yq2+Yq4)/2
Yw1=(Xq2−Xq4+Yq2+Yq4)/2
Zw1=(Zq2+Zq4)/2
【0026】
次に、ステップS11において、B軸の中心位置Bpvt (Xb,Yb,Zb)を計算する(第2回転軸中心算出ステップ)。この計算は、ステップS10で得た仮想位置W1の疑似計測値とステップS6で得た中心位置Q5とを用いて四則演算のみの以下の数6にて行う。
【0027】
[数6]
Xb=(Zw1−Zq5+Xw1+Xq5)/2
={(Zq2+Zq4)/2−Zq5+(Xq2+Xq4−Yq2+Yq4)/2+Xq5}/2
Zb=(Zw1+Zq5−Xw1+Xq5)/2
={(Zq2+Zq4)/2+Zq5−(Xq2+Xq4−Yq2+Yq4)/2+Xq5}/2
【0028】
このように、上記形態2の回転軸の中心位置計測方法においても、並進軸の動作範囲が制限されている5軸制御工作機械の場合でも、高精度に回転軸(C軸及びB軸)の中心位置を計測することが可能になる。特にここでは、計測ステップが形態1よりも少なくなるので、計測が短時間で行える利点がある。
【0029】
なお、各形態において、各計測ステップでのC軸の割出角度やB軸の旋回角度は上記形態に限らず、並進軸の動作範囲内であれば適宜変更可能である。
さらに、基準マスタとして球形状のターゲット球を使用しているが、円筒形状や円柱形状等の基準マスタも使用できる。
【符号の説明】
【0030】
1・・ベッド、2・・主軸頭、3・・テーブル、4・・クレードル、5・・トラニオン、11・・タッチプローブ、12・・ターゲット球。