特許第6985193号(P6985193)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985193
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】放電制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20211213BHJP
【FI】
   H02M7/48 MZHV
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-54702(P2018-54702)
(22)【出願日】2018年3月22日
(65)【公開番号】特開2019-170023(P2019-170023A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2020年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】山口 修功
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−328854(JP,A)
【文献】 特開平09−215102(JP,A)
【文献】 特開2014−155335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するインバータにバッテリが接続されていない状態で、前記インバータに接続されたコンデンサに蓄積された電荷を前記モータの巻線で消費させることで前記コンデンサの放電を行う放電制御装置であって、
前記モータの回転子の回転軸を原点とし、相互に直交するα軸及びβ軸によって定義されるαβ静止座標系における電圧位相を、予め規定された周期で反転させつつ前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、前記コンデンサの放電を行う放電制御装置。
【請求項2】
前記周期で位相が反転する電圧位相が予め定義された電圧位相テーブルに基づいて、前記αβ静止座標系における電圧位相を出力する電圧位相出力部と、
前記電圧位相出力部から出力された電圧位相に基づいて、前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を生成する電圧指令値生成部と、
を備える請求項1記載の放電制御装置。
【請求項3】
前記αβ静止座標系における第1電圧位相を前記周期で反転させつつ前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、前記コンデンサの放電を行う第1制御と、
前記第1電圧位相に直交する関係にある第2電圧位相を前記周期で反転させつつ前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、前記コンデンサの放電を行う第2制御と、
を前記コンデンサの電圧が予め規定された閾電圧以下になるまで繰り返し行う、請求項1又は請求項2記載の放電制御装置。
【請求項4】
前記第1電圧位相及び前記第2電圧位相は、前記第1制御及び前記第2制御が行われる一巡周期の間に、前記α軸及び前記β軸に流れる電流の和が零となるように設定される、請求項3記載の放電制御装置。
【請求項5】
前記周期は、前記モータの機械的時定数よりも短い時間に設定される、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の放電制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)を代表として、エンジンとともに又はエンジンに代えてモータを備える車両の普及率が高まっている。このような車両は、概して、再充電が可能なバッテリ、バッテリから供給される直流電力を交流電力に変換してモータに供給するインバータ(電力変換装置)、インバータの駆動制御を行うことでモータの回転制御を行う制御装置を備える。インバータの入力側には、インバータによって生ずるリプルやノイズを除去するためのコンデンサ(平滑コンデンサ)が設けられる。
【0003】
上記のコンデンサには高電圧(例えば、500[V]を超える電圧)が印加されるため、車両の異常(例えば、バッテリ異常、車両の衝突等)が生じた場合、又はイグニッションオフした場合には、安全性の面からバッテリを切り離してコンデンサに蓄えられた電荷を急速に放電する必要がある。例えば、数[sec]程度の短時間で、コンデンサの電圧を10分の1程度に低下させる必要がある。
【0004】
以下の特許文献1には、d軸電流値(励磁電流成分)とq軸電流値(トルク電流成分)とを指令値として与えてモータのベクトル制御を行う制御装置で使用される放電装置の一例が開示されている。具体的に、以下の特許文献1には、インバータがバッテリに接続されていない状態で、モータの回転子の回転位置を参照しつつ、モータを励磁するd軸電流値Idを非零にするとともに、モータにトルクを付与するq軸電流値Iqを零にすることで、モータを回転させることなくコンデンサに蓄えられた電荷をモータの巻線で消費する放電装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3289567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1に開示された放電装置において、モータを回転させずにコンデンサを放電するためには、センサによって検出されたモータの回転子の回転位置に応じてq軸電流値Iqを零にしなければならない。このため、例えばモータの回転子の回転位置を検出するセンサに異常が生じた場合には、q軸電流値Iqを零にすることができず、モータを回転させることなくコンデンサを放電することは困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、モータの回転子の回転位置を検出するセンサに異常が生じた場合であっても、確実にコンデンサを放電させることが可能な放電制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による放電制御装置は、モータ(18)を駆動するインバータ(17)にバッテリ(11)が接続されていない状態で、前記インバータに接続されたコンデンサ(15)に蓄積された電荷を前記モータの巻線で消費させることで前記コンデンサの放電を行う放電制御装置(40)であって、前記モータの回転子の回転軸を原点とし、相互に直交するα軸及びβ軸によって定義されるαβ静止座標系における電圧位相を、予め規定された周期(Tc)で反転させつつ前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、前記コンデンサの放電を行う。
また、本発明の一態様による放電制御装置は、前記周期で位相が反転する電圧位相が予め定義された電圧位相テーブルに基づいて、前記αβ静止座標系における電圧位相を出力する電圧位相出力部(44)と、前記電圧位相出力部から出力された電圧位相に基づいて、前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を生成する電圧指令値生成部(45)と、を備える。
また、本発明の一態様による放電制御装置は、前記αβ静止座標系における第1電圧位相を前記周期で反転させつつ前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、前記コンデンサの放電を行う第1制御と、前記第1電圧位相に直交する関係にある第2電圧位相を前記周期で反転させつつ前記α軸及び前記β軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、前記コンデンサの放電を行う第2制御と、を前記コンデンサの電圧が予め規定された閾電圧(V0)以下になるまで繰り返し行う。
また、本発明の一態様による放電制御装置は、前記第1電圧位相及び前記第2電圧位相は、前記第1制御及び前記第2制御が行われる一巡周期(Tr)の間に、前記α軸及び前記β軸に流れる電流の和が零となるように設定される。
また、本発明の一態様による放電制御装置は、前記周期が、前記モータの機械的時定数よりも短い時間に設定される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モータの回転子の回転位置を検出するセンサに異常が生じた場合であっても、確実にコンデンサを放電させることが可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態による放電制御装置が設けられる車両のモータの駆動制御系に係る構成を示す図である。
図2図1に示すモータ制御装置の内部構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態で用いられる電圧位相テーブルを説明するための図である。
図4】本発明の一実施形態による放電制御装置の動作を具体的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による放電制御装置について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による放電制御装置が設けられる車両のモータの駆動制御系に係る構成を示す図である。尚、図1に示す車両は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車等の走行用のモータを備える車両である。
【0012】
図1に示す通り、車両1には、バッテリ11、コンタクタ12、コンデンサ13、昇圧コンバータ14、コンデンサ15、電圧センサ16、インバータ17、モータ18、回転位置検出センサ19、モータ制御装置20、及びバッテリ制御装置21が設けられる。バッテリ11は、例えばリチウムイオン電池等の再充電が可能な二次電池であり、バッテリ制御装置21によって充放電制御が行われる。コンタクタ12は、バッテリ制御装置21の制御の下で、バッテリ11と昇圧コンバータ14とを接続し、又はバッテリ11と昇圧コンバータ14との接続を解除する。
【0013】
コンデンサ13は、昇圧コンバータ14の一次側(バッテリ11側)に設けられた平滑用のコンデンサである。昇圧コンバータ14は、リアクトルL、直列的に接続されたスイッチング素子T1,T2、及びスイッチング素子T1,T2に逆方向に並列接続されたダイオードD1,D2を備える。尚、スイッチング素子T1,T2としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いることができる。
【0014】
昇圧コンバータ14は、例えばモータ制御装置20の制御によってスイッチング素子T1,T2がオン・オフされることで、バッテリ11からの電力を昇圧してインバータ17に供給したり、インバータ17からの電力を降圧してバッテリ11に供給したりする。コンデンサ15は、昇圧コンバータ14の二次側(インバータ17側)に設け得られた平滑用のコンデンサである。電圧センサ16は、コンデンサ15の端子間に取り付けられ、コンデンサ15の電圧を検出するセンサである。
【0015】
インバータ17は、スイッチング素子T11〜T16と、スイッチング素子T11〜T16に逆方向に並列接続されたダイオードD11〜D16とを備える。尚、スイッチング素子T11〜T16としては、IGBTを用いることができる。インバータ17に設けられたスイッチング素子T11〜T16のうち、スイッチング素子T11,T14が直列的に接続されて対をなしており、スイッチング素子T12,T15が直列的に接続されて対をなしており、スイッチング素子T13,T16が直列的に接続されて対をなしている。対をなすスイッチング素子T11〜T16の接続点の各々には、モータ18の三相(U相、V相、W相)の巻線が接続されている。従って、インバータ17に電圧が作用している状態で、対をなすスイッチング素子T11〜T16のオン時間の割合を調節することにより、モータ18の三相の巻線に回転磁界を形成でき、これによりモータ18を回転駆動することができる。
【0016】
モータ18は、例えば永久磁石が埋め込まれた回転子と、三相の巻線が巻回された固定子とを備える周知の同期発電電動機である。回転位置検出センサ19は、モータ18の回転子の回転位置を検出するセンサである。バッテリ制御装置21は、バッテリ11の充放電制御及びコンタクタ12の制御を行う。具体的に、バッテリ制御装置21は、車両1の異常(例えば、バッテリ異常、車両の衝突等)が生じた場合、又はイグニッションオフした場合には、コンタクタ12を制御してバッテリ11と昇圧コンバータ14との接続を解除し、放電指令信号をモータ制御装置20に出力する。モータ制御装置20は、インバータ17の駆動制御を行うことでモータ18の回転制御を行う。また、モータ制御装置20は、バッテリ制御装置21から出力された放電指令信号が入力された場合には、コンデンサ15に蓄えられた電荷を急速に放電する放電制御を行う。
【0017】
図2は、図1に示すモータ制御装置の内部構成を示すブロック図である。図2に示す通り、モータ制御装置20は、駆動制御装置30、放電制御装置40、デューティ変換部50、及びスイッチング信号生成部60を備える。駆動制御装置30は、コンタクタ12によってバッテリ11が昇圧コンバータ14に接続されている状態(インバータ17にバッテリ11が接続されている状態)で、モータ18のトルク制御を行う。放電制御装置40は、コンタクタ12によってバッテリ11が昇圧コンバータ14に接続されていない状態(インバータ17にバッテリ11が接続されていない状態)で、モータ18が回転しないように電流を流すことにより、モータ18が備える巻線によって、コンデンサ15の放電制御を行う。以下、駆動制御装置30及び放電制御装置40の詳細を順に説明する。
【0018】
駆動制御装置30は、トルク制御部31、三相/dq変換部32、角度/角速度変換部33、電流制御部34、及びdq/三相変換部35を備えており、dq回転座標系を用いてモータ18のベクトル制御を行って、モータ18のトルク制御を行う。ここで、dq回転座標系は、モータ18の回転子の回転軸を原点とし、相互に直交するd軸及びq軸によって定義される回転座標系である。
【0019】
トルク制御部31は、入力されるトルク指令信号Tに基づいて、d軸電流指令値I及びq軸電流指令値Iを算出する。尚、トルク指令信号Tは、モータ18で発生させるべきトルクの指令信号であり、d軸電流指令値Iは、d軸に流すべき電流の指令値であり、q軸電流指令値Iは、q軸に流すべき電流の指令値である。
【0020】
三相/dq変換部32は、モータ18の三相(U相、V相、W相)の巻線に流れる電流の検出値(電流検出値I,I,I)を、d軸における電流の検出値(d軸電流検出値I)及びq軸における電流の検出値(q軸電流検出値I)に変換する。角度/角速度変換部33は、回転位置検出センサ19の検出結果(モータ18の回転子の回転位置θ)を、モータ18の回転子の角速度ωに変換する。
【0021】
電流制御部34は、トルク制御部31から出力されるd軸電流指令値I及びq軸電流指令値I、三相/dq変換部32で変換されたd軸電流検出値I及びq軸電流検出値I、並びに角度/角速度変換部33で変換されたモータ18の回転子の角速度ωに基づいて、d軸電圧指令値V及びq軸電圧指令値Vを算出する。尚、d軸電圧指令値Vは、d軸に印加すべき電圧の指令値であり、q軸電圧指令値Vは、q軸に印加すべき電圧の指令値である。
【0022】
dq/三相変換部35は、電流制御部34から出力されるd軸電圧指令値V及びq軸電圧指令値Vを、モータ18の三相(U相、V相、W相)の巻線に印加すべき電圧の指令値(電圧指令値V,V,V)に変換する。
【0023】
放電制御装置40は、指令電圧振幅設定部41、電圧位相設定部42、間引き数設定部43、電圧位相出力部44、電圧指令値生成部45、αβ/三相変換部46、及び切替部47を備えており、αβ静止座標系を用いてコンデンサ15の放電制御を行う。ここで、αβ静止座標系は、モータ18の回転子の回転軸を原点とし、相互に直交するα軸及びβ軸によって定義される静止座標系である。具体的に、放電制御装置40は、αβ静止座標系における電圧位相を、予め規定された周期Tc(図4参照)で反転させつつα軸及びβ軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、コンデンサ15の放電を行う。
【0024】
ここで、上記の周期Tcは、例えばモータ18の機械的時定数(モータ18に電圧を印加してから、モータ18の回転が開始されるまでに要する時間)よりも短い時間に設定される。上記の周期Tcを、モータ18の機械的時定数よりも短い時間に設定することで、モータ18に電流が流れてモータ18が動き出す前に、モータ18に逆方向の電流を流すことができるため、モータ18の回転を抑えて、振動や異音を抑制することができる。
【0025】
指令電圧振幅設定部41は、αβ静止座標系におけるα軸及びβ軸に印加すべき電圧振幅の指令信号(電圧振幅指令信号Vamp)を設定する。電圧位相設定部42は、コンデンサ15を放電する際の電圧位相を設定する。具体的に、電圧位相設定部42は、上記の予め規定された周期Tcで位相が反転する電圧位相が予め定義された電圧位相テーブル(図3(a)参照)を用いて、コンデンサ15を放電する際の電圧位相を設定する。
【0026】
図3は、本発明の一実施形態で用いられる電圧位相テーブルを説明するための図である。電圧位相テーブルは、図3(a)に示す通り、一意に定められる番地に、電圧位相を示す位相情報が格納されたテーブルである。図3(a)に示す例では、番地「0」〜「7」に、位相情報“90°”,“270°”,“270°”,“90°”,“180°”,“0°”,“0°”,“180°”が順に格納されている。尚、電圧位相テーブルに格納される位相情報は、α軸を基準としたもの(0°としたもの)である。
【0027】
上記の位相情報“90°”は、図3(b)に示す通り、β軸の正方向を指示する情報であり、上記の位相情報“270°”は、図3(c)に示す通り、β軸の負方向を指示する情報である。また、上記の位相情報“180°”は、図3(d)に示す通り、α軸の負方向を指示する情報であり、上記の位相情報“0°”は、図3(e)に示す通り、α軸の正方向を指示する情報である。
【0028】
つまり、図3(a)に示す電圧位相テーブルには、番地「0」に格納された位相情報“90°”を反転した位相情報“270°”が番地「1」に格納されており、番地「2」に格納された位相情報“270°”を反転した位相情報“90°”が番地「3」に格納されている。また、番地「4」に格納された位相情報“180°”を反転した位相情報“0°”が番地「5」に格納されており、番地「6」に格納された位相情報“0°”を反転した位相情報“180°”が番地「7」に格納されている。
【0029】
図3(a)に示す電圧位相テーブルが用いられる場合には、電圧位相設定部42によって、電圧位相“90°”,“270°”,“270°”,“90°”,“180°”,“0°”,“0°”,“180°”が、この順で繰り返し設定される。尚、図3(a)に示す電圧位相テーブルはあくまでも一例であって、上記の予め規定された周期Tcで位相が反転する電圧位相が定義されているものであれば、図3(a)に示す電圧位相テーブル以外のものを用いることもできる。間引き数設定部43は、電圧位相テーブルの同じ番地を連続して参照する回数(間引き数N)を設定する。
【0030】
電圧位相出力部44は、電圧位相設定部42で設定される電圧位相と、間引き数設定部43で設定される間引き数Nとに基づいて、電圧位相の指令値(電圧位相指令値θαβ)を出力する。例えば、電圧位相出力部44は、間引き数Nが「1」である場合には、電圧位相“90°”,“270°”,“270°”,“90°”,“180°”,“0°”,“0°”,“180°”を、この順で繰り返し出力する。また、電圧位相出力部44は、間引き数Nが「2」である場合には、電圧位相テーブルの同じ番地が連続して2回参照されることから、電圧位相“90°”,“90°”,“270°”,“270°”,“270°”,“270°”,“90°”,“90°”,“180°”,“180°”,“0°”,“0°”,“0°”,“0°”,“180°”,“180°”を、この順で繰り返し出力する。
【0031】
以下では、電圧位相が繰り返される周期を「一巡周期Tr」(図4参照)という。この一巡周期Trは、間引き数Nに応じて変化する。例えば、間引き数Nが「2」である場合の一巡周期Trは、間引き数Nが「1」である場合の一巡周期Trの2倍の長さになる。上述した電圧位相テーブルに格納される電圧位相は、一巡周期Trの間にα軸及びβ軸に流れる電流の和(ベクトル和)が零となるように設定される。一巡周期Trの間に流れる電流が零であるならば、電流が流れることによってモータ18に発生するトルクも零になることから、モータ18が回転することはない。
【0032】
電圧指令値生成部45は、指令電圧振幅設定部41で設定された電圧振幅指令信号Vampと、電圧位相出力部44から出力される電圧位相指令値θαβとに基づいて、α軸及びβ軸に印加する電圧の指令値(電圧指令値Vα,Vβ)を生成する。αβ/三相変換部46は、電圧指令値生成部45で生成された電圧指令値Vα,Vβを、モータ18の三相(U相、V相、W相)の巻線に印加すべき電圧の指令値(電圧指令値V,V,V)に変換する。
【0033】
切替部47は、外部から放電指令信号が入力された場合に、車両を駆動させるための駆動制御装置30による制御から、コンデンサ15の電荷を放電するための制御を行う放電制御装置40による制御に切り替える。例えば、バッテリ制御装置21からモータ制御装置20に放電指令信号が入力された場合に、切替部47は、デューティ変換部50に入力される電圧指令値V,V,Vの算出を、dq/三相変換部35からαβ/三相変換部46に切り替える。
【0034】
デューティ変換部50は、dq/三相変換部35又はαβ/三相変換部46から出力される電圧指令値V,V,Vに基づき、スイッチング素子を制御するデューティ値(D,D,D)。スイッチング信号生成部60は、デューティ変換部50によって算出されたデューティ値(D,D,D)に基づき、パルス幅変調(PWM)信号を生成する。モータ制御装置20は、スイッチング信号生成部60によって生成されたPWM信号に基づいてインバータ17を制御する。これにより、インバータ17から三相の駆動電圧V,V,Vがそれぞれ出力されてモータ18の三相(U相、V相、W相)の巻線に印加される。
【0035】
次に、上記構成における車両1の動作について説明する。車両1のイグニッションスイッチが操作されると、モータ制御装置20に設けられた駆動制御装置30の制御によってモータ18が駆動される。車両1の異常が生じていない通常時には、駆動制御装置30において、例えばアクセルペダルの踏み込み量に応じたトルク指令信号Tが生成され、dq回転座標系を用いたベクトル制御によってモータ18のトルク制御が行われる。
【0036】
これに対し、車両1の異常(例えば、バッテリ異常、車両の衝突等)が生じた場合、又はイグニッションオフした場合には、まず、バッテリ制御装置21によってコンタクタ12が制御され、バッテリ11と昇圧コンバータ14との接続が解除される。次に、バッテリ制御装置21からモータ制御装置20に対して放電指令信号が出力される。バッテリ制御装置21から出力された放電指令信号がモータ制御装置20に入力されると、切替部47が放電制御装置40によってモータ18が回転しないようにコンデンサ15の放電制御を行うようにモータ制御装置20を切替える。
【0037】
切替部47によってモータ制御装置20の切り替えが行われると、放電制御装置40では、電圧位相設定部42で設定された電圧位相と、間引き数設定部43で設定された間引き数Nとに基づいた電圧位相指令値θαβが、電圧位相出力部44から順次出力される。尚、ここでは説明を簡単にするために、間引き数Nは「1」であるとする。そして、電圧位相出力部44から順次出力される電圧位相指令値θαβと、指令電圧振幅設定部41で設定された電圧振幅指令信号Vampとに基づいた電圧指令値Vα,Vβが電圧指令値生成部45で生成される。
【0038】
電圧指令値生成部45で生成された電圧指令値Vα,Vβは、αβ/三相変換部46で電圧指令値V,V,Vに変換される。αβ/三相変換部46から出力される電圧指令値V,V,Vは、デューティ変換部50でデューティ値(D,D,D)に変換される。デューティ変換部50によって変換されたデューティ値(D,D,D)はスイッチング信号生成部60でパルス幅変調(PWM)信号に変換される。
【0039】
スイッチング信号生成部60によって生成されたPWM信号に基づいてモータ制御装置20がインバータ17を制御することで、コンデンサ15に蓄積された電荷に基づく電流がモータ18の三相(U相、V相、W相)の巻線に流れて消費される。このような動作が行われて、コンデンサ15の放電が行われる。以上が放電制御装置40で行われる動作の概要であるが、次に放電制御装置40で行われる動作の詳細について説明する。
【0040】
図4は、本発明の一実施形態による放電制御装置の動作を具体的に説明するための図である。尚、ここでは、図3(a)に示す電圧位相テーブルが電圧位相設定部42で用いられるとする。図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「0」には、位相情報“90°”が格納されているため、電圧指令値生成部45で最初に生成される電圧指令値Vα,Vβは、β軸に電圧Vampを印加させるものとなる。この電圧指令値Vα,Vβが電圧指令値生成部45から出力されること、図4(a)に示す通り、β軸に電圧Vampが印加され、これによりβ軸には電流値が徐々に増加する正方向への電流Iβが流れる(時刻t0〜t1)。
【0041】
図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「1」には、番地「0」の位相情報“90°”を反転した位相情報“270°”が格納されているため、電圧指令値生成部45で次に生成される電圧指令値Vα,Vβは、β軸に電圧−Vampを印加させるものとなる。この電圧指令値Vα,Vβが電圧指令値生成部45から出力されることによって、図4(a)に示す通り、β軸に電圧−Vampが印加され、これによりβ軸に流れる正方向への電流Iβは電流値が徐々に減少し、最終的には電流値が零になる(時刻t1〜t2)。
【0042】
図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「2」には、番地「1」と同様に位相情報“270°”が格納されているため、図4(a)に示す通り、β軸への電圧−Vampの印加が継続される。これにより、β軸には電流値が徐々に増加する負方向への電流Iβが流れる(時刻t2〜t3)。
【0043】
図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「3」には、番地「2」の位相情報“270°”を反転した位相情報“90°”が格納されているため、電圧指令値生成部45で次に生成される電圧指令値Vα,Vβは、β軸に電圧Vampを印加させるものとなる。この電圧指令値Vα,Vβが電圧指令値生成部45から出力されること、図4(a)に示す通り、β軸に電圧Vampが印加される。これによりβ軸に流れる負方向への電流Iβは電流値が徐々に減少し、最終的には電流値が零になる(時刻t3〜t4)。尚、以上説明した時刻t0〜t4に行われる制御が、第1制御に相当する。
【0044】
図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「4」には、位相情報“180°”が格納されているため、電圧指令値生成部45で次に生成される電圧指令値Vα,Vβは、α軸に電圧−Vampを印加させるものとなる。この電圧指令値Vα,Vβが電圧指令値生成部45から出力されることによって、図4(a)に示す通り、α軸に電圧−Vampが印加され、これによりα軸には電流値が徐々に増加する負方向への電流Iβが流れる(時刻t4〜t5)。
【0045】
図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「5」には、番地「4」の位相情報“180°”を反転した位相情報“0°”が格納されているため、電圧指令値生成部45で次に生成される電圧指令値Vα,Vβは、α軸に電圧Vampを印加させるものとなる。この電圧指令値Vα,Vβが電圧指令値生成部45から出力されることによって、図4(a)に示す通り、α軸に電圧Vampが印加され、これによりα軸に流れる負方向への電流Iβは電流値が徐々に減少し、最終的には電流値が零になる(時刻t5〜t6)。
【0046】
図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「6」には、番地「5」と同様に位相情報“0°”が格納されているため、図4(a)に示す通り、α軸への電圧Vampの印加が継続される。これにより、α軸には電流値が徐々に増加する正方向への電流Iβが流れる(時刻t6〜t7)。
【0047】
図3(a)に示す電圧位相テーブルの番地「7」には、番地「6」の位相情報“0°”を反転した位相情報“180°”が格納されているため、電圧指令値生成部45で次に生成される電圧指令値Vα,Vβは、α軸に電圧−Vampを印加させるものとなる。この電圧指令値Vα,Vβが電圧指令値生成部45から出力されることによって、図4(a)に示す通り、α軸に電圧−Vampが印加される。これによりα軸に流れる正方向への電流Iβは電流値が徐々に減少し、最終的には電流値が零になる(時刻t7〜t8)。尚、以上説明した時刻t4〜t8に行われる制御が、第2制御に相当する。
【0048】
以上にて、放電制御装置40で行われる放電制御の一巡周期Trが終了する。以降、上述した動作と同様の動作が繰り返される。つまり、一巡周期Trに行われた動作が繰り返される。このような動作が繰り返されることで、コンデンサ15に蓄積された電荷が放電され、コンデンサ15の残存電圧は、図4(b)に示す通りに低下していく。コンデンサ15の残存電圧が、予め規定された閾電圧V0よりも小さくなると、放電制御装置40の動作が終了する。
【0049】
以上の通り、本実施形態では、モータ制御装置20に設けられた放電制御装置40が、αβ静止座標系における電圧位相を、予め規定された周期Tcで反転させつつα軸及びβ軸に印加する電圧の指令値を順次生成して、コンデンサ15の放電を行うようにしている。このため、モータ18の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ19に異常が生じた場合であっても、確実にコンデンサ15を放電させることが可能である。
【0050】
また、本実施形態では、β軸に印加する電圧を反転させつつコンデンサ15の放電を行う制御(第1制御)と、α軸に印加する電圧を反転させつつコンデンサ15の放電を行う制御(第2制御)とを交互に行っている。これにより、モータ18を回転させることなく確実にコンデンサ15の放電を行うことができる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態による放電制御装置について説明したが、本発明は上述した実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、β軸に沿う電圧位相(90°、270°)と、α軸に沿う電圧位相(0°、180°)とが、電圧位相テーブルで定義されている例について説明したが、電圧位相テーブルで定義される位相は、一巡周期Trの間にα軸及びβ軸に流れる電流の和(ベクトル和)が零になるのであれば、任意の位相を設定することができる。
【0052】
また、上述した第1制御で設定される電圧位相θ1と、上述した第2制御で設定される電圧位相θ2とは必ずしも直交する関係である必要は無い。例えば、電圧位相θ1を0°に設定して第1制御を行った後に、電圧位相θ2を60°に設定して第2制御を行うようにしても良い。つまり、コンデンサ15の放電時にモータ18の回転や振動が生じなければ、先に設定した電圧位相θ1と次に設定される電圧位相θ2と関係は任意である。
【符号の説明】
【0053】
11…バッテリ、15…コンデンサ、17…インバータ、18…モータ、40…放電制御装置、44…電圧位相出力部、45…電圧指令値生成部、Tc…周期、Tr…一巡周期、V0…閾電圧
図1
図2
図3
図4