特許第6985202号(P6985202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985202
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20211213BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20211213BHJP
【FI】
   B22F9/24 Z
   B82Y40/00
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-67255(P2018-67255)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-178355(P2019-178355A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】赤松 謙祐
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−059243(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0931558(KR,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0122321(US,A1)
【文献】 特開2016−186102(JP,A)
【文献】 特開2016−166391(JP,A)
【文献】 特開2008−075181(JP,A)
【文献】 特開2018−031054(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/031860(WO,A1)
【文献】 特開2008−121051(JP,A)
【文献】 特開2015−086469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00−9/30
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料溶液にマイクロ波を照射するステップを含むナノ粒子の製造方法であって、
原料溶液が、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、DMSO、DMF、及び多価アルコール系溶媒から選択される溶媒と、エチレンジアミン四酢酸及その塩から選択される1種以上のキレート剤と、硝酸銀、ポリビニルピロリドン(PVP)とからなり
硝酸銀中のに対する前記キレート剤のモル比(キレート剤の物質量/の物質量)が、0.067〜3.00であり、
原料溶液が、ギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤を含まない、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク材料と異なる性質を有することがある金属ナノ粒子は、例えば触媒、電子部品部材など、様々な用途に使用されている。
【0003】
また、金属ナノ粒子を製造するための方法も様々なものが考案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、銀、金、及びパラジウムから選ばれる少なくとも一つの金属の前駆体をアルキルアミンを用いて解離する段階と、前記解離された金属前駆体を還元させる段階と、アルキルアミンでキャッピングされた金属ナノ粒子を分離する段階と、を含む金属ナノ粒子の製造方法について開示している。
【0005】
特許文献2は、狭い粒径分布を有する銀ナノ粒子の製造方法であって、銀化合物、カルボン酸、及びキレート性ジアミン化合物を含有する混合物を形成する工程と、該混合物を任意選択で加熱する工程と、該混合物にヒドラジン化合物を添加する工程と、該混合物を反応させて銀ナノ粒子を形成する工程と、を含み、該銀ナノ粒子が、約30nm以下の粒径分布を有することを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法について開示している。
【0006】
特許文献3は、少なくとも一種の金属塩を溶媒中に溶解あるいは分散してなる溶液に、マイクロ波を照射することによって、前記金属塩中の金属から構成される超微粒子を製造することを特徴とする、超微粒子の製造方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−30170号公報
【特許文献2】特開2010−43355号公報
【特許文献3】特開2000−256707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3を含む従来技術では、得られる金属ナノ粒子の粒径が不均一になるという問題があった。
【0009】
金属ナノ粒子の前駆体を還元剤により還元させて金属ナノ粒子を生成する方法では、金属ナノ粒子の前駆体と還元剤との反応は非常に速く起こる。そのため、還元剤を単純に添加した場合、還元剤が撹拌により反応場全体に拡散する前に、添加された部分から反応が局所的に始まってしまう。その結果、得られる金属ナノ粒子の粒径は不均一になる。
【0010】
特許文献1に記載の方法では、アミノ基のキャッピング効果を利用し、局所的な反応を抑制する。しかしながら、キャッピング効果は生成した金属ナノ粒子に対して発生する効果であり、金属ナノ粒子の生成時の局所的な反応を十分に抑制することはできない。さらに、アミノ基の結合力は弱く、立体障害効果も小さいため、十分な粒径制御を行うことができない。また、ヒーターを用いて加熱するため、高濃度で反応を実施した場合、収率(反応率)が悪く、反応に長時間を要する。
【0011】
特許文献2に記載の方法では、キレート性ジアミン化合物を利用する。しかしながら、還元剤として使用するヒドラジン化合物の還元性が強く、局所的な反応を十分に抑制することができない。また、ホットプレートを用いて加熱するため、特許文献1と同様に、高濃度で反応を実施した場合、収率(反応率)が悪く、反応に長時間を要する。
【0012】
特許文献3に記載の方法では、反応にマイクロ波を使用するものの、反応率が悪く、金属ナノ粒子を効率的に生成することができない。
【0013】
そこで、本発明は、金属化合物を高濃度で含む原料溶液を使用して、均一な粒径の金属ナノ粒子を短時間で多量に生成することができる金属ナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、原料溶液にマイクロ波を照射することで金属ナノ粒子を製造する方法において、原料溶液として、金属化合物とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤とを特定のモル比で含む原料溶液を使用して反応を実施したところ、金属化合物を高濃度で溶媒に溶解することができ、ギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤を添加しなくても金属イオンが還元されて金属ナノ粒子になることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)原料溶液にマイクロ波を照射するステップを含む金属ナノ粒子の製造方法であって、
原料溶液が、溶媒と、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤と、金属化合物とを含み、
金属化合物中の金属に対する前記キレート剤のモル比(キレート剤の物質量/金属の物質量)が、0.067〜3.00であり、
原料溶液が、ギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤を含まない、
前記方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属ナノ粒子の製造方法では、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤によって、金属化合物を高濃度で溶媒に溶解することができる。さらに、前記キレート剤が、マイクロ波の照射によって、還元剤として利用され、さらに、原料溶液がギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤を含まないことによって、反応の開始をマイクロ波の照射により制御することができる。このため、局所的な反応が起こることがない。加えて、マイクロ波は反応場に直接作用するため、反応時間が短い。結果として、本発明の金属ナノ粒子の製造方法によれば、均一な粒径の金属ナノ粒子を短時間で多量に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示す。
図2】実施例1〜9及び比較例1〜6の実験手順を示す。
図3】実施例1〜9及び比較例1〜4の調製における、(EDTAの物質量/銀の物質量)に対する反応率を示す。
図4】実施例8により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を示す。
図5】実施例9により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を示す。
図6】比較例5により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を示す。
図7】比較例6により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。なお、本発明の金属ナノ粒子の製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0019】
本発明は、原料溶液にマイクロ波を照射するステップを含む金属ナノ粒子の製造方法であって、原料溶液が、溶媒と、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤と、金属化合物とを含み、金属化合物中の金属に対する前記キレート剤のモル比が、特定の値であり、原料溶液が、ギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤を含まない、前記方法に関する。
【0020】
本発明では、原料溶液中のエチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤と金属化合物の量は、一定の関係を有する。本発明では、金属化合物中の金属に対する前記キレート剤のモル比(キレート剤の物質量/金属の物質量)は、0.067〜3.00、好ましくは0.067〜2.67、より好ましくは0.100〜2.00である。
【0021】
金属化合物中の金属に対する前記キレート剤のモル比が前記関係を満たすことにより、金属化合物は、前記キレート剤によって溶解後の安定性が確保され、溶媒中に高濃度で溶解することができる。また、前記キレート剤は、マイクロ波の照射によって還元剤として作用し、金属化合物中の金属イオンを効率よく金属ナノ粒子に還元することができる。
【0022】
さらに、本発明では、前記キレート剤が、本来の役割である原料溶液中の金属化合物の高濃度化に加えて、マイクロ波によって金属イオンに対する還元剤としての役目も果たすため、原料溶液は、ギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤を含まない。
【0023】
ここで、本発明におけるギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤は、金属化合物と混合した瞬間に金属化合物中の正の酸化数を有する金属を金属まで還元してしまう強力な還元剤である。本発明では、前記還元剤以外にも、アスコルビン酸などもまた含まないことが好ましい。本発明では、原料溶液は、還元剤を含まないことがより好ましい。
【0024】
原料溶液が前記還元剤を含まないことによって、前記還元剤を添加した瞬間に起こり得る局所的な粒子の生成が進行することがない。また、一般にポットライフ(それぞれ別々の成分として供給される製品が一緒に混合された後の、使用可能の最大値)が短いことで知られる還元剤を使用しないため、製造コストを低減することができる。
【0025】
本発明では、マイクロ波を照射することによって初めて反応場全体において均一な核生成が促されるため、従来と比較して均一な粒径を有する、粒度の揃った金属ナノ粒子を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明では、原料溶液がエチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤を含み、ギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤を含まないため、原料溶液が前記キレート剤を含まずに、前記還元剤を含む場合に析出し得る沈殿が、溶媒と金属化合物の組合せ次第で異なり得るが、金属化合物の濃度が300mM以上になっても析出することがない。
【0027】
本発明では、以下に説明する材料を準備し、それらを混合して、原料溶液を調製する。
【0028】
溶媒は、分子内に極性部分を有し、マイクロ波を照射すると、マイクロ波を吸収し、熱エネルギーに変換することで発熱する極性溶媒である。
【0029】
溶媒としては、限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、DMSO、DMF、エチレングリコールなどの多価アルコール系溶媒などを挙げることができる。本発明では、溶媒として、一般的に安価である水を使用することが好ましい。
【0030】
キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤であり、金属化合物中の金属イオンと容易に反応してキレート化合物を形成することができる多座配位子を有する化合物であり、金属化合物の溶媒中への溶解度を増加する、すなわち、原料溶液中の金属化合物の高濃度化を実現することができる。
【0031】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸及びその塩を使用することが好ましい。
【0032】
キレート剤の量は、前記の金属化合物中の金属に対する前記キレート剤のモル比を満たす限り、限定されないが、原料溶液中、通常1mM(mmol/L)〜2000mM、好ましくは2mM〜800mMである。
【0033】
金属化合物は、溶媒に溶解させる金属ナノ粒子の前駆体であり、金属化合物は、化合物自体が極性を有し、マイクロ波を照射すると、マイクロ波を吸収し、熱エネルギーに変換することで発熱する。
【0034】
金属化合物としては、限定されないが、例えば、金属ナノ粒子を構成する金属、例えば金、銀、白金、銅、ニッケル、鉄、コバルトなどの、塩、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩などの有機塩、などを挙げることができる。本発明では、金属化合物として、例えば銀の金属化合物として、安価である硝酸銀を使用することが好ましい。
【0035】
金属化合物の量は、前記の金属化合物中の金属に対する前記キレート剤のモル比を満たす限り、限定されないが、原料溶液中、通常1mM〜2000mM、好ましくは20mM〜600mMである。
【0036】
本発明では、前記の材料以外に、添加剤、例えば分散剤を添加することができる。
【0037】
分散剤とは、生成する金属ナノ粒子の粒径及び/又は形状を制御し、生成した金属ナノ粒子を溶液中に分散させることができる材料である。分散剤により、原料溶液中に金属ナノ粒子が生成しても、原料溶液を均一な状態に保つことができ、また生成する金属ナノ粒子の粒径及び/又は形状を一定に保つことができる。
【0038】
分散剤としては、生成する金属ナノ粒子の種類によって好ましいものが異なる場合があり、限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、オレイン酸、アミン類などを挙げることができる。
【0039】
分散剤の量は、限定されないが、金属化合物中の金属の物質量の、通常0.1倍〜20倍、好ましくは0.2倍〜10倍である。
【0040】
原料溶液の総体積は、照射するマイクロ波の条件などにより異なり、限定されないが、通常0.1L〜100L、好ましくは0.2L〜10Lになるように調整される。
【0041】
本発明の原料溶液の調製では、各材料の添加順序、添加温度、混合方法、混合時間などは限定されず、均一な原料溶液が調製されるように混合される。例えば、本発明では、以下のようにして原料溶液を調製することができる。
【0042】
10℃〜40℃において、容器中に、溶媒と、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤とを加え、混合して混合液を調製する。その後、混合液中に、ゆっくりと金属化合物を加えて、金属化合物が溶解するまで、例えば1分〜30分間撹拌することで、均一な原料溶液を調製する。
【0043】
本発明では、得られた原料溶液にマイクロ波を照射し、反応を進行させる。
【0044】
原料溶液を収容する容器の材質は、原料溶液にマイクロ波を均一に照射することができれば限定されず、例えば、反応器の外部から反応器を介して原料溶液にマイクロ波を照射する場合、マイクロ波を透過する材質、例えばセラミックス、ガラスなどを使用することができ、原料溶液の上部から原料溶液に直接マイクロ波を照射する場合、マイクロ波を反射する材質、例えばアルミニウム、ステンレスなどの金属などを使用することができる。
【0045】
マイクロ波は、マイクロ波照射源(マイクロ波発振器(マグネトロン))から発生し、マイクロ波照射源は、シングルモードシステム、マルチモードシステムのどちらでも使用することができる。
【0046】
マイクロ波照射源の出力は、反応の条件、例えば反応の種類などにより適宜変更することができ、限定されないが、原料溶液の総体積に基づいて、通常100W/L〜10kW/L、好ましくは100W/L〜5kW/Lである。
【0047】
マイクロ波照射源から発生するマイクロ波の周波数は、適宜変更することができ、限定されないが、通常1GHz〜10GHz、好ましくは2GHz〜6GHzである。本発明では、マイクロ波の周波数として、日本の法規で定められている工業用マイクロ波電源の周波数である2.45GHzを使用することがより好ましい。
【0048】
マイクロ波の照射によって昇温される原料溶液の温度は、反応の条件により適宜変更することができ、限定されないが、通常使用する溶媒の沸点に依存する。
【0049】
原料溶液へのマイクロ波の照射時間は、反応の条件により適宜変更することができ、限定されないが、通常1分〜200分、好ましくは1分〜60分である。あるいは、目的とする原料溶液の温度を維持するように、マイクロ波を原料溶液に照射することができる。
【0050】
マイクロ波の照射時間を含む反応の総時間は、反応の条件により適宜変更することができ、限定されないが、例えば1分〜300分、好ましくは1分〜60分である。
【0051】
原料溶液へのマイクロ波の照射の際には、原料溶液を、撹拌機構、例えばプロペラ式撹拌機、振動式撹拌機などにより、撹拌することが好ましい。原料溶液を撹拌することにより、原料溶液中に生成した金属ナノ粒子を均一に分散することができ、原料溶液を均一に保つことができる。
【0052】
本発明は、バッチ式で実施しても、流通式で実施してもよい。本発明は、バッチ式で実施することが好ましい。バッチ式で実施することにより、合成反応自体を完了させることができ、得られる金属ナノ粒子の歩留まりをよくすることができる。また、原料溶液の濃度を高濃度にすることができ、金属ナノ粒子による配管の閉塞が起こらない。
【0053】
本発明では、原料溶液にマイクロ波を照射することによって、金属化合物における金属イオンの還元反応が開始され、金属ナノ粒子の析出が始まる。この反応では、マイクロ波がエチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤と金属化合物における金属イオンとの極性結合部に影響され、本来還元作用を有さない前記キレート剤が金属イオンに対して還元作用を発現する。
【0054】
本発明の一実施形態を図1に示す。
図1では、コストパフォーマンスが良く、金属化合物の溶解度が高い溶媒と、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤と、コストパフォーマンスが良い金属化合物と、適宜選定された分散剤とを含み、金属化合物中の金属に対する前記キレート剤のモル比が前記の要件を満たす原料溶液を調製し、調製した原料溶液に、反応系に基づいて調整された出力及び日本の法規により定められている2.45GHzのマイクロ波を照射して、反応系に依存して調整される温度、反応率に基づいて決定される時間で、反応を実施する。また、撹拌機構は、プロペラ撹拌機を使用することができ、その際の回転数は100rpm〜300rpmに調整される。その後、得られた金属ナノ粒子を回収する。
【0055】
本発明により得られた金属ナノ粒子を含む溶液は、当該技術分野において知られる方法により、分離、精製(例えば塩析や遠心分離)などを実施し、目的とする金属ナノ粒子及び/又は金属ナノ粒子を含む分散液を得ることができる。
【0056】
本発明の金属ナノ粒子の製造方法により製造された金属ナノ粒子は、粒度分布の分散が小さいことが特徴である。
【0057】
本発明の金属ナノ粒子の製造方法により製造された金属ナノ粒子は、従来の触媒、電子部品部材などに加え、パワーコントロールユニット(PCU)向けの高耐熱接合材として、電子制御ユニット(ECU)配線基板向けの材料として、配線材として、使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0059】
1.銀ナノ粒子の調製
実施例1〜9及び比較例1〜6
図2に示す実験手順に従い、実施例1〜9及び比較例1〜6を実施した。実施例1〜9の実験条件を表1にまとめ、比較例1〜6の実験条件を表2にまとめる。なお、反応時間は、生産性を加味して、短く設定した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
図2の実験手順)
極性溶媒である水50mLに、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸及びそれらの塩から選択される1種以上のキレート剤としてのエチレンジアミン四酢酸テトラナトリウム(EDTA−4Na)(1)(mM)(実施例において、「mM」は原料溶液中の濃度を示す)を加えて混合液を調製した。混合液に、金属化合物としての硝酸銀(2)(mM)と、分散剤としてのPVP(銀(Ag)のモル数に対して0.5倍モル)と、場合により、ギ酸、クエン酸及びそれらの塩から選択される還元剤としてのクエン酸三ナトリウム(3)(mM)とを添加し、5分間撹拌して、各材料を水中に溶解して、原料溶液を調製した。
【0063】
調製した原料溶液をガラス製の容器に入れ、スターラーにより撹拌を行いながら、原料溶液が80℃の温度で、一定時間(4)(分)維持されるように、特定の装置(5)により加熱した。反応後、銀ナノ粒子を、回収した。
【0064】
2.反応率評価
実施例1〜9及び比較例1〜5の調製における反応率を以下の手順で算出した。
(1)反応後に得られた原料溶液を遠心分離(20000rpm、20分)することにより、生成した銀ナノ粒子を沈降させた。
(2)上澄み液中に残存する銀の量をICP発光分光分析法(ICP−AES、HORIBA製)により測定した。
(3)上澄み液中に残存する銀の量から反応率を算出した。
実施例1〜9及び比較例1〜5の調製における反応率を表3にまとめ、実施例1〜9及び比較例1〜4の調製における、(EDTAの物質量/銀の物質量)に対する反応率を図3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表3及び図3より、EDTAの濃度には最適値があることがわかった。反応時間が10分という短い時間において、反応率は、硝酸銀中の銀に対するEDTAのモル比(EDTAの物質量/銀の物質量)が0.067〜2.67の場合に、30%以上になり、硝酸銀中の銀に対するEDTAのモル比が0.100〜2.00の場合に、50%以上になり、硝酸銀中の銀に対するEDTAのモル比が0.300〜1.300の場合に、80%以上になることがわかった。それに対して、従来技術の方法である比較例5の反応率は30%未満であった。
【0067】
また、ヒーターによって加熱した比較例4の結果では、反応率は、長時間加熱したにもかかわらず、4%にしかならなかった。これより、実施例1〜9の効果は、マイクロ波とEDTAを組み合わせることによって得られる効果であることがわかった。
【0068】
3.粒度分布評価
硝酸銀の濃度が300mM以上である高濃度領域で合成した実施例8及び9並びに比較例5及び6について、TEM写真を撮影した。実施例8により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を図4に示し、実施例9により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を図5に示し、比較例5により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を図6に示し、比較例6により得られた銀ナノ粒子のTEM写真を図7に示した。
【0069】
図4及び5と、図6とを比較すると、実施例8及び9の調製方法により得られた銀ナノ粒子は、従来技術の方法である比較例5の調製方法により得られた銀ナノ粒子と比較して、粒度分布が揃っており、高品質であることがわかった。また、比較例5の調製方法により得られた銀ナノ粒子は、凝集が激しかった。
【0070】
さらに、図4と、図7とを比較すると、実施例8の調製方法により得られた銀ナノ粒子は、比較例6の調製方法により得られた銀ナノ粒子と比較して、粒度分布が揃っており、高品質であることがわかった。比較例6の調製方法では、原料溶液中にクエン酸三ナトリウムとEDTAの両方が存在するため、クエン酸三ナトリウムによる還元とマイクロ波を照射することで起こるEDTAによる還元との2種類の還元が起こり、粒子の生成にばらつきが生じてしまい、粒度分布が広くなったと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7