(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985213
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】気相反応器中でのケイ素−炭素複合材の合成
(51)【国際特許分類】
C01B 33/029 20060101AFI20211213BHJP
C01B 32/963 20170101ALI20211213BHJP
【FI】
C01B33/029
C01B32/963
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-112828(P2018-112828)
(22)【出願日】2018年6月13日
(65)【公開番号】特開2019-1704(P2019-1704A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年12月10日
(31)【優先権主張番号】17176040.8
(32)【優先日】2017年6月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン エルヴィン ラング
(72)【発明者】
【氏名】ハートムート ヴィッガース
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス オアトナー
(72)【発明者】
【氏名】ヤスミナ コヴァチェヴィチ
【審査官】
印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第03026012(EP,A1)
【文献】
国際公開第2017/109098(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素−SiC−複合材粉末の製造方法において、
a)SiH4、Si2H6および/またはSi3H8から選択される少なくとも1種のシランを含有し、かつエテンおよび/またはアセチレンから選択される少なくとも1種の炭化水素を含有するガス流Iと、水素を含有する同軸のガス流IIとを高温壁反応器に供給し、ここで、前記ガス流IIは、前記ガス流Iに対するジャケット流を形成し、
b)少なくとも前記ガス流Iを900℃〜1100℃の温度で反応させ、引き続き前記高温壁反応器の出口で反応混合物を冷却または放冷し、粉末状反応生成物をガス状物質から分離する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ガス流Iと前記ガス流IIは層流で、高温壁反応器を貫流する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、前記ガス流Iにエテンまたはアセチレンを装入し、さらにアルゴンを装入する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記高温壁反応器中で少なくとも2つの加熱ゾーンを用い、ここで、第1の加熱ゾーンは、900℃〜1010℃の温度にし、かつ第2の加熱ゾーンは、1050℃〜1100℃の温度にすることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池における複合材またはアノード材料として使用することができるケイ素−炭素複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素複合材は、リチウムイオン電池におけるアノード材料として大きな可能性を秘めている。しかしながら、充/放電が繰り返されるとケイ素の体積が大きく変化することから、これらのケイ素複合材は、アノード材料として使用することができない。
【0003】
したがって、複合材であるシリコン−グラファイト、グラフェン−ナノシリコン、シリコン−カーボンナノチューブ、シリコン−カーボンナノワイヤ、ケイ素でカプセル化された炭素および炭素でカプセル化されたケイ素の使用によってサイクル安定性を改善するための集中的な取組みがなされていた。これらの複合材の製造方法は、例えば、熱分解、粉砕またはCVD法である(Zhang et al.,Nanoscale,5(2013)5384およびKasavajjula et al.,Journal Power Sources 163(2007)1003)。
【0004】
Magasinki et al.,Nat.Mater.9(2010)353には、2段階CVD法においてモノシランとプロペンから出発するケイ素−炭素複合材の製造が記載されている。第1の工程では、SiH
4/He混合物を真空下に700℃で管型反応器に導入することにより、担体上にケイ素が適用される。続けて、上記の条件下でプロペンを管型反応器に導入することにより、このケイ素上に炭素が適用される。
【0005】
国際公開第2011/006698号(WO2011/006698)は、ヒドロキシ芳香族化合物とアルデヒドとの反応によって製造される炭素含有混合物にサブミクロンのケイ素粉末を加え、その混合物を500℃〜1200℃で炭素化したナノ構造のケイ素−炭素複合材の製造方法を開示している。
【0006】
さらに別の方法は、Wang et al.,Electrochem.Commun.6(2004),689に従って、85℃で10時間硬化するゲル化レゾルシン/ホルムアルデヒド混合物へのナノ結晶ケイ素粉末の添加である。この混合物は、緻密なブロック体であり、炭素40%を含むケイ素−炭素複合材へと650℃で変換される。
【0007】
欧州特許出願公開第2782167号明細書(EP−A−2782167)は、ケイ素とリグニンを不活性ガス雰囲気中で少なくとも400℃で反応させるSi/C複合材の製造方法を開示している。
【0008】
米国特許出願公開第2009029256号明細書(US2009029256)には、アルカリ土類金属とケイ酸/炭素複合材との混合物を不活性雰囲気中で加熱することによるSi/炭素複合材の製造方法が開示されている。
【0009】
独国特許出願公開第102009033251号明細書(DE102009033251A1)は、ケイ素−炭素またはケイ素−スズの複合材を製造するための3段階の方法を提案している。ここで、Si−またはSnナノ粒子が作製され、引き続き有機ポリマーに導入される。第3の工程では、ポリマーマトリックスとナノ粒子とからなる系が熱分解される。
【0010】
特許出願第102016203324.7号明細書(DE102016203324.7)は、シランを炭化水素含有ガス流中で高温壁反応器において反応させることによるケイ素−炭素複合材粉末の製造方法を開示している。
【0011】
従来の方法は、しばしば3つ以上の段階を含み、したがって煩雑であるか、または実験室スケールの調達量が僅かであるという欠点を有する。後者の欠点は、例えば、分解されなかった前駆体が装置の内部に堆積し、繰り返し装置を停止して除去しなければならないことが原因にある。したがって、そのような方法は、しばしば長期にわたって安定して実行し続けることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2011/006698号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2782167号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009029256号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102009033251号明細書
【特許文献5】特許出願第102016203324.7号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Zhang et al.,Nanoscale,5(2013)5384およびKasavajjula et al.,Journal Power Sources 163(2007)1003
【非特許文献2】Magasinki et al.,Nat.Mater.9(2010)353
【非特許文献3】Wang et al.,Electrochem.Commun.6(2004),689
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、より少ない工程で、かつ工業規模で利用可能な出発材料を使用して、ケイ素と炭素に基づく複合材の製造を可能にする方法を提供するという課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の対象は、
a)SiH
4、Si
2H
6および/またはSi
3H
8から選択される少なくとも1種のシランを含有し、かつエテンおよび/またはアセチレンから選択される少なくとも1種の炭化水素を含有するガス流Iと、水素を含有する同軸のガス流IIとを高温壁反応器に供給し、ここで、ガス流IIは、ガス流Iに対するジャケット流を形成し、
b)少なくともガス流Iを900℃〜1100℃の温度で反応させ、引き続き高温壁反応器の出口で反応混合物を冷却または放冷し、粉末状反応生成物をガス状物質から分離する、
ことを特徴とする、ケイ素−SiC−複合材粉末の製造方法である。
【0016】
この方法は、同軸に注入されたベールガスとしてのガス流II中の水素が、高温反応器壁からガス流Iのコア流への熱伝達媒体として役立つという利点を有する。更なる利点は、同軸に注入されたガス流Iにより、分解されなかった前駆体の堆積物が回避されるということにある。従来技術においては、例えばCVD法によって堆積物が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】エテンを用いて実施した試験2の生成物の正規化X線回折図をトレースV2において示す図
【
図2】角度2θ[°]の関数として計数した試験2および4それぞれからの生成物のX線回折図を示す図
【0018】
本発明による方法を、以下で詳細に説明する。
【0019】
有利には、ガス流I、特に好ましくは両方のガス流I、IIが、そのつど均質な混合物として注入される。極めて好ましくは、少なくとも1つの同軸ノズルが高温壁反応器に向かって用いられ、ここで、ガス流Iは、コア流として注入され、ガス流IIは、ジャケット流として注入される。さらに、本発明による方法においては、加熱された反応管を高温壁反応器として用い、ここで、同軸ノズルの軸が反応管の主軸と一致することが有利であり得る。特に好ましくは、高温壁反応器を層流で貫流する。
【0020】
さらに、ガス流Iにエテンまたはアセチレンを装入し、追加的にアルゴンを装入することが有利であり得る。ここで、ガス流I中のケイ素と炭素を、化学量論比で、有利には20:1〜1:10、特に好ましくは1:1の比で用いることが好ましい。ガス流I中でモノシランが用いられ、かつエテンまたはアセチレンが選択される場合、有利には、シランの体積流量に対して不足する炭化水素の体積流量は、希ガス、有利にはアルゴンの体積流量で置換する。
【0021】
本発明による方法においては、高温壁反応器中で少なくとも2つの加熱ゾーンを用いることができ、ここで、有利には、第1の加熱ゾーンは、900℃〜1010℃の温度にし、かつ第2の加熱ゾーンは、1000℃〜1100℃、有利には1050℃〜1100℃の温度にする。
【0022】
ガス流IおよびIIが高温壁反応器の加熱された反応管に入ると、コア流とジャケット流は最初に反応管の第1の加熱ゾーンを通過し、引き続き第2の加熱ゾーンを通過する。有利には、高温壁反応器は、複数の加熱ゾーンを有し、これらの加熱ゾーンを、前記流入するガスまたは双方のガス流のゆっくりとした混合および分解反応によって生じる組み合わされた流が連続的に通り抜ける。特に好ましくは、2つの加熱ゾーンを有する反応管が用いられる。エテンとモノシランが用いられる場合、第1の加熱ゾーンでは980℃、第2の加熱ゾーンでは1050℃の温度を設定することが有利であり得る。
【0023】
本発明による方法は、SiとSiCとが混合された状態で存在する粉末状混合物または粉末の形態のSi/C複合材を提供する。粉末は、電池または二次電池の電極材料として使用することができる。
【実施例】
【0024】
本発明による実施例では、加熱された反応管にガス流IおよびIIを導入するための同軸ノズルを有する高温壁反応器を用いた。ガス流Iは、均質な混合物としてコア流として導入される一方で、ガス流IIは、水素を含有し、同軸に注入されたベールガスとして供給した。したがって、ノズル出口で僅かに生じる局所的な乱流を除けば、上記ガス流I、IIは高温壁反応器を層流で貫流した。ここで、水素は、高温反応器壁からコア流への熱伝達媒体として役立った。
【0025】
高温壁反応器は、本発明によるすべての実施例で、その出口に複数のフィルターエレメントを有するフィルターを有し、それらによって生成物を捕集した。それぞれの実施例の終了時に、窒素を用いてフィルターエレメントから生成物を取り出した。生成物をエアロックシステム(Schleusensystem)を介して不活性条件下で充填し、秤量した。
【0026】
実施例:エテン/アセチレンを用いたSiC複合材の製造
ガス流IおよびIIの組成を表1にまとめている。用いた物質のデータは、それぞれ体積流量[slm]に関する。
【0027】
【表1】
【0028】
Si対Cの比は、試験6を除き、すべての場合において化学量論比で設定し、ノズル出口でのコア流の体積流量は、試験2、4、7のそれぞれにおいて10slmであった。用いた炭化水素が、仮定上使用可能なメタンと比較してより少ない体積流量を有している場合、不足する体積流量をアルゴンによって補填した。試験は中断することなく実行し、そのつど少なくとも1kgの量のSiC複合材が得られてからのみ中断した。
【0029】
高温壁反応器は、2つの加熱ゾーン1および2を有し、加熱ゾーン1は、約40cmの長さを有する一方で、加熱ゾーン2は、約50cmの長さを有していた。温度は、それぞれ加熱ゾーンの中心で反応器壁の外側から測定した。
【0030】
反応器の出口で、反応したガス混合物を濾過し、フィルター中の生成物をフィルターエレメントの逆流洗浄によって窒素で飽和し、エアロックシステムを介して不活性条件下で充填した。すべての試験において、生成物を取り出すことに問題はなかった。
【0031】
それぞれの試験後に反応器を洗浄する間、反応管内の壁にケーキングが生じたりスケール形成したりすることは全く観察されず、同軸ノズルも双方の実施例において詰まることはなかった。
【0032】
本発明に従って作製されたSiCの量比およびBET表面積を表2に示す。結晶子サイズは、平均結晶子サイズとみなし、それらの値は、当業者に公知のリートベルト法による精密化によって計算した。
【0033】
【表2】
【0034】
図1は、エテンを用いて実施した試験2の生成物の正規化X線回折図をトレースV2において示す。比較のために、試験2と同じように実施してはいるものの、ガス流I中でエテンを用いる代わりにプロパン(V3)またはメタン(V1)を用いたという点で異なる生成物の回折図を同図に作成している。縦座標には、X線回折測定時に得られた計数を任意の単位で置き換えている。
【0035】
X線回折
図1におけるトレースV1およびV3とは異なり、トレースV2からは2θ=34°で非常に幅広いシグナルが読み取られ、これは生成物中にSiCが存在していることを示唆している。
【0036】
さらに、各X線回折図について、それぞれの質量分率を定量化するリートベルト法による精密化を実施した。前記精密化に基づき、生成物V2中で91重量%のSiのほかに約9重量%のSiCが得られ、それに対して、エテンの代わりにプロパン(V3)またはメタン(V1)を用いた試験の実施後に得られたSiCの割合はごく僅かであった。
【0037】
試験4、6および7は、試験2と同じように実施してはいるものの、表1から明らかな以下の違いがある:
− 加熱ゾーン1および加熱ゾーン2において、それぞれで異なる温度を設定しており、
− さらに、ガス流II中でより少ない水素流を選択する、すなわち、試験6では30slmのH
2、試験4および7では35slmのH
2を選択することによって、ガス流Iの反応物質の滞留時間をより長く設定し、
− 試験6ではSiH
4対炭化水素の異なる量比で、試験7ではSiH
4対アセチレンを選択した。
【0038】
図2は、角度2θ[°]の関数として計数した試験2および4それぞれからの生成物のX線回折図を示す。
【0039】
試験2のトレースの2θ=34°の非常に幅広いシグナルと比較して、試験4のトレースは、2θ=36°で、はるかに高い重量分率、すなわち、9重量%(V2)と比べて51重量%(V4)でSiCの存在を実証する。