特許第6985222号(P6985222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985222
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】昇圧コンバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   H02M3/155 P
   H02M3/155 F
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-147034(P2018-147034)
(22)【出願日】2018年8月3日
(65)【公開番号】特開2020-22334(P2020-22334A)
(43)【公開日】2020年2月6日
【審査請求日】2020年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高見
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−046495(JP,A)
【文献】 特開2007−068253(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/183496(WO,A1)
【文献】 特開2006−136169(JP,A)
【文献】 特開2004−236391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷と直流電源との間に接続される昇圧コンバータを制御する昇圧コンバータの制御装置であって、
前記昇圧コンバータの前記負荷側の電圧値を電圧指令値に調整するための制御演算を行う電圧制御部と、
前記電圧制御部の演算結果に基づいて、前記昇圧コンバータの直流リアクトルに流す目標電流値を示すリアクトル電流指令値を生成する電流指令生成部と、
前記直流電源の負極側に配置される前記昇圧コンバータのスイッチング素子のオフ期間を示すオフデューティの推定値であるデューティ推定値を算出するデューティ推定器と、
前記電圧制御部と前記昇圧コンバータの負荷側コンデンサとを含む系に遅れ要素を形成する極ゼロ相殺ゲインを記憶し、前記極ゼロ相殺ゲインに基づく値を生成する極ゼロ相殺制御部と
を備え、
前記電圧制御部は、前記負荷側の電圧値と前記電圧指令値との差分に対して比例演算及び積分演算を行った演算値と、前記極ゼロ相殺制御部で生成された値とに基づいて前記制御演算を行い、
前記電流指令生成部は、前記電圧制御部の演算結果と、前記デューティ推定値の逆数とに基づいて前記リアクトル電流指令値を生成する
ことを特徴とする昇圧コンバータの制御装置。
【請求項2】
前記極ゼロ相殺制御部は、前記負荷側の電圧値に前記極ゼロ相殺ゲインを乗算した値を生成し、
前記電圧制御部は、前記負荷側の電圧値と前記電圧指令値との差分に対して比例演算及び積分演算を行った演算値から前記極ゼロ相殺制御部で生成された値を減算する減算器を有する
ことを特徴とする請求項1記載の昇圧コンバータの制御装置。
【請求項3】
前記極ゼロ相殺ゲインは、直流負荷抵抗相当の値に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の昇圧コンバータの制御装置。
【請求項4】
前記負荷側の電圧値に基づいて、負荷電流の交流成分の推定値である負荷電流交流成分推定値を算出する近似外乱オブザーバを備え、
前記電流指令生成部は、前記電圧制御部の演算結果及び前記デューティ推定値の逆数に加え、前記負荷電流交流成分推定値に基づいて前記リアクトル電流指令値を生成する
ことを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の昇圧コンバータの制御装置。
【請求項5】
前記電圧制御部と前記昇圧コンバータの負荷側コンデンサとを含む系が、一次遅れ特性となるように、前記電圧制御部の比例ゲイン、積分ゲイン及び極ゼロ相殺ゲインとが設定されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の昇圧コンバータの制御装置。
【請求項6】
前記比例ゲインは、前記昇圧コンバータの負荷側コンデンサの静電容量値とカットオフ角周波数とに基づいて設定され、
前記積分ゲインは、前記極ゼロ相殺ゲインと前記カットオフ角周波数とに基づいて設定されている
ことを特徴とする請求項5記載の昇圧コンバータの制御装置。
【請求項7】
前記直流リアクトルに流れる電流値を示すリアクトル電流値を前記リアクトル電流指令値に調整するための制御演算を行って前記直流リアクトルに印加する目標電圧値を示すリアクトル電圧指令値を算出する電流制御部と、
前記負荷側の電圧値と、前記昇圧コンバータの前記直流電源側の電圧値と、前記リアクトル電圧指令値とに基づいて、前記昇圧コンバータの制御信号を生成する制御信号生成部と
を備え、
前記電流制御部は、前記リアクトル電流値と前記リアクトル電流指令値との差分に対して、カットオフ角周波数と前記直流リアクトルのインダクタンス値とに基づいて可変設定された可変比例ゲインによる比例演算、及び、前記直流リアクトルの直流抵抗値と前記昇圧コンバータのスイッチング素子のオン抵抗との合成抵抗値とカットオフ角周波数とに基づいて設定された積分ゲインによる積分演算を行った演算値を前記リアクトル電圧指令値として算出する
ことを特徴とする請求項1〜6いずれか一項に記載の昇圧コンバータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧コンバータの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、バッテリを搭載する車両等においては、一次側に接続されたバッテリ電圧を昇圧して二次側に出力する昇圧コンバータが用いられている。このような昇圧コンバータは、例えば特許文献1に開示されているように、二次側電圧値に基づいて昇圧コンバータを制御する制御装置によって制御されている。
【0003】
ところで、昇圧コンバータの二次側に接続された負荷への電力の安定供給を達成するためには、昇圧コンバータの二次側電圧値が意図せずに変動することを抑止する必要がある。例えば、スイッチング素子を有する昇圧コンバータは、制御装置側から見て、スイッチング素子のオフ期間比率(オフデューティ)に起因した外乱成分を有している。このため、制御装置にて、オフデューティの逆数を電流指令値に乗算することで、オフデューティに起因する外乱成分の影響を抑制することができる。しかしながら、オフデューティの逆数を電流指令値に乗算することのみでは、オフデューティに起因した外乱成分の影響を完全に除去することができない。このため、特許文献1では、制御装置の電圧制御部において制御ゲインをオフデューティの逆数に応じて可変とすることにより、二次側電圧値の変動をより抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−46495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように二次側電圧値の変動を抑制する場合には、制御装置の内部に電圧制御部における制御ゲインをオフデューティの逆数に応じて可変とする仕組みを組み込む必要があり、制御装置の設計が複雑化する。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、電圧制御部における制御ゲインを可変とすることなく、昇圧コンバータが有する制御上の外乱成分の影響をより抑制可能とし、負荷への電力供給を安定化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、負荷と直流電源との間に接続される昇圧コンバータを制御する昇圧コンバータの制御装置であって、上記昇圧コンバータの上記負荷側の電圧値を電圧指令値に調整するための制御演算を行う電圧制御部と、上記電圧制御部の演算結果に基づいて、上記昇圧コンバータの直流リアクトルに流す目標電流値を示すリアクトル電流指令値を生成する電流指令生成部と、上記直流電源の負極側に配置される上記昇圧コンバータのスイッチング素子のオフ期間を示すオフデューティの推定値であるデューティ推定値を算出するデューティ推定器と、上記電圧制御部と上記昇圧コンバータの負荷側コンデンサとを含む系に遅れ要素を形成する極ゼロ相殺ゲインを記憶し、上記極ゼロ相殺ゲインに基づく値を生成する極ゼロ相殺制御部とを備え、上記電圧制御部が、上記負荷側の電圧値と上記電圧指令値との差分に対して比例演算及び積分演算を行った演算値と、上記極ゼロ相殺制御部で生成された値とに基づいて上記制御演算を行い、上記電流指令生成部が、上記電圧制御部の演算結果と、上記デューティ推定値の逆数とに基づいて上記リアクトル電流指令値を生成するという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記極ゼロ相殺制御部が、上記負荷側の電圧値に上記極ゼロ相殺ゲインを乗算した値を生成し、上記電圧制御部が、上記負荷側の電圧値と上記電圧指令値との差分に対して比例演算及び積分演算を行った演算値から上記極ゼロ相殺制御部で生成された値を減算する減算器を有するという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記極ゼロ相殺ゲインが、直流負荷抵抗相当の値に設定されているという構成を採用する。
【0011】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記負荷側の電圧値に基づいて、負荷電流の交流成分の推定値である負荷電流交流成分推定値を算出する近似外乱オブザーバを備え、上記電流指令生成部が、上記電圧制御部の演算結果及び上記デューティ推定値の逆数に加え、上記負荷電流交流成分推定値に基づいて上記リアクトル電流指令値を生成するという構成を採用する。
【0012】
第5の発明は、上記第1〜第4いずれかの発明において、上記電圧制御部と上記昇圧コンバータの負荷側コンデンサとを含む系が、一次遅れ特性となるように、上記電圧制御部の比例ゲイン、積分ゲイン及び極ゼロ相殺ゲインとが設定されているという構成を採用する。
【0013】
第6の発明は、上記第5の発明において、上記比例ゲインが、上記昇圧コンバータの負荷側コンデンサの静電容量値とカットオフ角周波数とに基づいて設定され、上記積分ゲインが、上記極ゼロ相殺ゲインと上記カットオフ角周波数とに基づいて設定されているという構成を採用する。
【0014】
第7の発明は、上記第1〜第6いずれかの発明において、上記直流リアクトルに流れる電流値を示すリアクトル電流値を上記リアクトル電流指令値に調整するための制御演算を行って上記直流リアクトルに印加する目標電圧値を示すリアクトル電圧指令値を算出する電流制御部と、上記負荷側の電圧値と、上記昇圧コンバータの上記直流電源側の電圧値と、上記リアクトル電圧指令値とに基づいて、上記昇圧コンバータの制御信号を生成する制御信号生成部とを備え、上記電流制御部が、上記リアクトル電流値と上記リアクトル電流指令値との差分に対して、カットオフ角周波数と上記直流リアクトルのインダクタンス値とに基づいて可変設定された可変比例ゲインによる比例演算、及び、上記直流リアクトルの直流抵抗値と上記昇圧コンバータのスイッチング素子のオン抵抗との合成抵抗値とカットオフ角周波数とに基づいて設定された積分ゲインによる積分演算を行った演算値を上記リアクトル電圧指令値として算出するという構成を採用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極ゼロ相殺ゲインによって、電圧制御部と昇圧コンバータの負荷側コンデンサとを含む系に遅れ要素が形成される。このため、オフデューティの逆数を電流指令値に乗算しても残存するオフデューティに起因した外乱成分の残存成分を、電圧制御部の積分演算によって吸収することができる。したがって、本発明によれば、電圧制御部における制御ゲインを可変とすることなく、昇圧コンバータが有する制御上の外乱成分の影響をより抑制可能とし、負荷への電力供給を安定化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に制御装置を含む電力システムの概略構成を示す回路図である。
図2】本発明の一実施形態に制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に制御装置の制御対象である昇降圧コンバータをモデル化したブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に制御装置の制御対象である一次側バッテリ回路をモデル化したブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に制御装置の制御対象である昇降圧コンバータと一次側バッテリ回路とを含むプラントをモデル化したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係る昇圧コンバータの制御装置の一実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の昇圧コンバータの制御装置の一実施形態である制御装置12を含む電力システム1の概略構成を示す回路図である。この図に示すように、電力システム1は、バッテリ2(直流電源)と、コンタクタ3と、一次側コンデンサ4と、昇降圧コンバータ5(昇圧コンバータ)と、インバータ6と、一次側電圧検出回路7と、電流センサ8と、電流検出回路9と、ゲート駆動回路10と、二次側電圧検出回路11と、制御装置12とを備えている。
【0019】
なお、本実施形態においては、電力システム1は、負荷Rから出力される回生電力をバッテリ2に蓄電可能な構成とするために、電力を昇降圧可能な昇降圧コンバータ5を備え、制御装置12が昇圧制御及び降圧制御を行う。ただし、回生電力をバッテリ2に蓄電する必要がない場合には、昇降圧コンバータ5を昇圧コンバータとし、制御装置12は上記の昇圧制御及び降圧制御のうち昇圧制御のみを行う。本実施形態においては、昇圧制御に特徴があることから、以下の説明においては、制御装置12の降圧制御についての説明は省略する。
【0020】
バッテリ2は、複数の電池セル(単電池)が直列接続された組電池であり、数百ボルトの高電圧電力(直流電力)を出力する。コンタクタ3は、バッテリ2のプラス端子側に設けられており、バッテリ2のプラス端子と昇降圧コンバータ5との接続状態を接続と非接続とに切替える開閉器である。
【0021】
一次側コンデンサ4は、昇降圧コンバータ5の一次側(バッテリ2側)に設けられたコンデンサである。なお、昇降圧コンバータ5に対してバッテリ2側を一次側、負荷R側を二次側と称する。この一次側コンデンサ4は、コンタクタ3を介してバッテリ2から入力される入力電圧を平滑化する。
【0022】
昇降圧コンバータ5は、負荷Rとバッテリ2との間に接続されており、バッテリ2から入力される入力電圧を所定の昇圧比で昇圧してインバータ6に出力し、インバータ6から入力される回生電圧を所定の降圧比で降圧してバッテリ2に出力する電力変換回路である。この昇降圧コンバータ5は、直流リアクトル5aと、上側アーム5bと、下側アーム5cと、二次側コンデンサ5d(負荷側コンデンサ)とを備えている。
【0023】
直流リアクトル5aは、バッテリ2のプラス端子に接続されている。上側アーム5bは、エミッタが直流リアクトル5aを介してバッテリ2のプラス端子側に接続されたトランジスタと、このトランジスタをバイパスする還流ダイオードとを有している。下側アーム5cは、コレクタが直流リアクトル5aを介してバッテリ2のプラス端子側に接続されると共にエミッタがバッテリ2のマイナス端子側に接続されたトランジスタと、このトランジスタをバイパスする還流ダイオードとを有している。二次側コンデンサ5dは、上側アーム5bと下側アーム5cに対して二次側(負荷R側)に接続されており、上側アーム5bと下側アーム5cを介してバッテリ2から入力される入力電圧を平滑化する。
【0024】
インバータ6は、昇降圧コンバータ5から入力された入力電力を交流電力に変換してモータ等の負荷Rに給電する電力変換回路である。なお、電力システム1に複数の負荷Rが接続された構成とすることも可能であり、このような場合にはインバータ6が負荷Rごとに設けられることで複数設置される。
【0025】
一次側電圧検出回路7は、一次側コンデンサ4の電圧つまり一次側コンデンサ4の端子間電圧を検出する電圧センサであり、検出値(一次側電圧値v)を制御装置12に出力する。電流センサ8は、直流リアクトル5aとスイッチング回路(上側アーム5b及び下側アーム5c)との間の電流を検出するセンサであり、検出値(リアクトル電流値i)を制御装置12に出力する。
【0026】
ゲート駆動回路10は、上側アーム5bのトランジスタのゲートと、下側アーム5cのトランジスタのゲートとに接続されており、制御装置12から入力される駆動指令に基づいて上側アーム5bのトランジスタ及び下側アーム5cのトランジスタのスイッチングを行う。二次側電圧検出回路11は、二次側コンデンサ5dの電圧つまり二次側コンデンサ5dの端子間電圧を検出する電圧センサであり、検出値(二次側電圧値v)を制御装置12に出力する。
【0027】
制御装置12は、昇降圧コンバータ5を制御する装置であり、一次側電圧検出回路7から入力される一次側電圧値v、二次側電圧検出回路11から入力される二次側電圧値v及び電流センサ8から入力されるリアクトル電流値i等に基づいて、ゲート駆動回路10を介して昇降圧コンバータ5のスイッチング回路(上側アーム5bのトランジスタ及び下側アーム5cのトランジスタ)のオンオフを制御する。
【0028】
図2は、制御装置12の機能構成を示すブロック図である。この図に示すように、制御装置12は、電圧指令生成部12aと、電圧制御演算部12bと、極ゼロ相殺制御部12cと、デューティ推定器12dと、近似外乱オブザーバ12eと、電流指令生成部12fと、電流制御演算部12gと、デューティ相殺演算部12hと、キャリア生成部12iと、パルス信号生成部12jとを備えている。
【0029】
ここで、このような構成の制御装置12の詳細について説明する前に制御装置12の設計方法について説明する。まず、昇降圧コンバータ5を状態平均化法によりモデル化し、これをモデル化された昇降圧コンバータ5の一次側の回路(一次側バッテリ回路と称する)と併合することによりプラントモデルを作成する。本実施形態の制御装置12は、プラントモデルを表す伝達関数に含まれる外乱成分を示す項がキャンセルされ、上記伝達関数が縮退するように設計されている。
【0030】
昇降圧コンバータ5を状態平均化法によってモデル化すると、図3に示すブロック図となる。なお、図3において、Doffは、下側アーム5cのオン期間とオフ期間とを合わせた一周期におけるオフ期間の割合(以下、オフデューティと称する)の指令値を示している。vは、二次側電圧値を示している。vは、一次側電圧値を示している。rは、直流リアクトル5aの内部抵抗値rと、上側アーム5b及び下側アーム5cのオン抵抗値rSWとの合成抵抗値を示している。Lは、直流リアクトル5aのインダクタンス値を示している。iは、リアクトル電流値を示している。Doffは、オフデューティを示している。iは、負荷電流値を示している。Cは、二次側コンデンサ5dの静電容量値を示している。sは、ラプラス演算子を示している。
【0031】
一次側バッテリ回路は、バッテリ2と、一次側コンデンサ4とを含む回路である。この一次側バッテリ回路をモデル化すると、図4に示すブロック図となる。なお、図4において、Cは、一次側コンデンサの静電容量値を示している。Lは、バッテリインピーダンスの内部インダクタンス値を示している。rは、バッテリインピーダンスの内部抵抗値を示している。vは、バッテリ電圧を示している。その他の記号は、図3と同様である。
【0032】
これらの昇降圧コンバータ5と一次側バッテリ回路とを併合すると、図5のブロック図に示すようになる。この図5において示す、昇降圧コンバータ5に入力されるオフデューティDoff、二次側電圧値v、一次側電圧値v及び負荷電流値iは、制御装置12から見た場合の外乱成分となる。つまり、これらのオフデューティDoff、二次側電圧値v、一次側電圧値v及び負荷電流値iに対して、何らの対応を行わない場合には、インバータ6に供給される電力に誤差成分が含まれた状態となる。
【0033】
そこで、本実施形態において制御装置12は、昇降圧コンバータ5に外乱成分として入力されるオフデューティDoff、二次側電圧値v、一次側電圧値v及び負荷電流値iによる影響をキャンセルするように設計されている。
【0034】
なお、一次側電圧検出回路7、電流検出回路9及び二次側電圧検出回路11の検出値に、センサ特性等に起因する誤差成分が含まれる。このため、電力システム1は、図5に示すように、ハードウェアとして、一次側電圧検出回路7、電流検出回路9及び二次側電圧検出回路11の検出値を除去するためのローパスフィルタ回路を有している。図5において、ωL1、ωL2及びωL3は、各々がカットオフ角周波数を示している。
【0035】
より詳細に、オフデューティDoff、二次側電圧値v、一次側電圧値v及び負荷電流値iによる影響をキャンセルする方法について説明する。図3に示す昇降圧コンバータ5の状態平均化法を適用した状態方程式は、下式(1)及び(2)となる。
【0036】
【数1】
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、式(1)のリアクトル電流値iの微分方程式に着目しラプラス変換を施すと下式(3)となり、さらに式変形を行うと下式(4)となる。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
ラプラス演算子が付いている項は、定常状態を考えた場合に無視できる項であるため、近似化を行うと下式(5)となる。なお、無視した項については、非干渉化によって打ち消すことができない外乱項dに含まれるものとし、後に説明する方法(極ゼロ相殺)によって影響をキャンセルする。
【0042】
【数5】
【0043】
よって、制御装置12で扱う変数に置き換えると、式(6)となる。なお、式(6)においてDoffestは、以下、デューティ推定値と称する。つまり、制御装置12で、式(6)に基づいてデューティ推定値Doffestを用いた演算を行うことによって、昇降圧コンバータ5で外乱成分として入力されるオフデューティDoffを非干渉化することができる。したがって、本実施形態において制御装置12は、オフデューティDoffを非干渉化するために、デューティ推定値Doffestを算出するデューティ推定器12dを備えている。
【0044】
【数6】
【0045】
次に、二次側電圧値v及び一次側電圧値vによる影響を相殺するためには、制御装置12において、オフデューティの指令値Doffに対して、二次側電圧値vのフィードバック値vsfを除算し、一次側電圧値vのフィードバック値vpfを減算する処理を行えばよい。この処理は下式(7)で表すことができる。なお、式(7)において、vは、リアクトル電圧指令値を示し、制御装置12における電流指令生成部12fで生成される指令値である。
【0046】
【数7】
【0047】
つまり、制御装置12で式(7)に基づいた演算処理を行うことによって、昇降圧コンバータ5で外乱成分として入力される二次側電圧値v及び一次側電圧値vを非干渉化することができる。したがって、本実施形態において制御装置12は、外乱成分として入力される二次側電圧値v及び一次側電圧値vを非干渉化するために、式(7)の演算処理を行うデューティ相殺演算部12hを備えている。
【0048】
なお、図5に示すようにモデル化された昇降圧コンバータ5において、オフデューティDoffに対して、二次側電圧値v及び一次側電圧値vを受けた後の信号値ytmpは、下式(8)で表される。
【0049】
【数8】
【0050】
ここで、制御装置12で扱う値とプラントで扱う値とには、取得誤差やデッドタイム誤差等による誤差が存在する。このため、下式(9)、下式(10)及び下式(11)で表せると仮定する。
【0051】
【数9】
【0052】
【数10】
【0053】
【数11】
【0054】
これらの式(9)〜式(11)を考慮すると、上記の信号値ytmpは、下式(12)のように表すことができる。なお、Δが付いている項は微小変化量とみなすことができるため、集約して外乱項dとして扱う。
【0055】
【数12】
【0056】
つまり、上述のように、二次側電圧値v及び一次側電圧値vによる影響を相殺すると、外乱項dが発生する。この外乱項dは、後に説明するように、電流制御演算部12gにおいて比例ゲインを可変とすることにより影響をキャンセルすることができる。
【0057】
外乱項dによる影響をキャンセルする方法について説明する。PI制御に基づく演算を行う電流制御演算部12gを含むブロックのオープンループを下式(13)のように設計する。なお、式(13)において、kpcは、電流制御演算部12gの比例ゲインを示している。ωccは、カットオフ角周波数を示している。Ticは、インダクタンス値Lを合成抵抗値rで除算した値である。
【0058】
【数13】
【0059】
式(13)から、比例ゲインkpcは、下式(14)となる。
【0060】
【数14】
【0061】
また、上記ブロックのクローズドループは、式(13)及び式(14)を用いると、下式(15)となる。なお、式(15)において、Hcc(s)は1である。
【0062】
【数15】
【0063】
このことから、電流制御演算部12gの積分ゲインは下式(16)から下式(17)となる。なお、下式(16)及び下式(17)において、iは、リアクトル電流指令値を示している。iLfは、リアクトル電流値iのフィードバック値を示している。kicは、電流制御演算部12gの積分ゲインを示している。
【0064】
【数16】
【0065】
【数17】
【0066】
ここで、カットオフ角周波数ωccが、設定したカットオフ周波数fccで与えられ、任意に設計できるよう調整係数を設ければ、下式(18)、下式(19)及び下式(20)のように表される。
【0067】
【数18】
【0068】
【数19】
【0069】
【数20】
【0070】
直流リアクトル5aのインダクタンス値Lは、電流に応じて変化する重畳特性を持つ。このため、直流リアクトル5aのリアクトル電流値iに応じてインダクタンス値が変化するようにインダクタンスマップを保有して比例ゲインkpcを可変化させることで、極ゼロ相殺が実現される。
【0071】
このようにPI制御を行う電流制御演算部12gを含むブロックを設計することによって、積分器が機能して外乱項dの影響を除去することができ、メジャーループである電圧制御側への影響を抑制することができる。なお、このように設計されたブロックは、式(15)に示すように、一次ローパスフィルタの伝達関数で表すことができる。このため、入力に対して、一次遅れのタイミングで安定して出力を行うことができる。
【0072】
つまり、電流制御演算部12gでPI制御に基づく制御演算を行うと共に比例ゲインkpcをリアクトル電流値iに応じて可変とすることによって、外乱項dの影響をキャンセルし、さらに入力に対して一次遅れのタイミングで出力をすることができ応答特性を安定化することができる。
【0073】
次に、外乱項dによる影響をキャンセルする方法について説明する。また、負荷電流値iには、直流成分(直流負荷電流値idc)と交流成分(交流負荷電流値iac)とが含まれている。ここで説明する方法により、外乱項dによる影響をキャンセルすると共に、直流負荷電流値idcによる影響もキャンセルすることができる。
【0074】
電圧制御演算部12bで指令値とフィードバック値との誤差に基づくPI制御演算を行い、演算結果に対して、外乱項dによる影響と直流負荷電流値idcによる影響とをキャンセルするためのゲイン(極ゼロ相殺ゲインkov)を加算することを考える。この場合、極ゼロ相殺ゲインkov図5に示すモデル化された昇降圧コンバータ5の[1/sC]とを統合し、電圧制御演算部12bを含むブロックのオープンループを下式(21)のように設計する。なお、式(21)において、kpvは、電圧制御演算部12bの比例ゲインを示している。Tivは、二次側コンデンサ5dの静電容量値Cを極ゼロ相殺ゲインkovで除算した値である。ωcvは、カットオフ角周波数である。
【0075】
【数21】
【0076】
式(21)から、比例ゲインkpvは、下式(22)となる。
【0077】
【数22】
【0078】
また、上記ブロックのクローズドループは、式(21)及び式(22)を用いると、下式(23)となる。なお、式(23)において、Hcv(s)は1である。
【0079】
【数23】
【0080】
このことから、電圧制御演算部12bの積分ゲインは下式(24)から下式(25)となる。なお、下式(24)及び下式(25)において、vは、二次側電圧指令値を示している。kivは、電圧制御演算部12bの積分ゲインを示している。
【0081】
【数24】
【0082】
【数25】
【0083】
ここで、カットオフ角周波数ωcvが、設定したカットオフ周波数fcvで与えられ、任意に設計できるよう調整係数を設ければ、下式(26)、下式(27)及び下式(28)のように表される。なお、極ゼロ相殺ゲインkovは、任意の値で設計可能であり、ここでは直流負荷抵抗相当の値を設定している。
【0084】
【数26】
【0085】
【数27】
【0086】
【数28】
【0087】
このようにPI制御に基づく制御演算を行う電圧制御演算部12bを含むブロックを設計することによって、積分器が機能して外乱項dの影響及び直流負荷電流値idcによる影響を除去することができる。なお、このように設計されたブロックは、式(23)に示すように、一次ローパスフィルタの伝達関数で表すことができる。このため、入力に対して、一次遅れのタイミングで出力を行うことができる。
【0088】
つまり、電圧制御演算部12bでPI制御に基づく制御演算を行うことによって得られた演算結果に対して、極ゼロ相殺ゲインkovに基づく値を減算することによって、外乱項dの影響及び直流負荷電流値idcの影響をキャンセルし、さらに入力に対して一次遅れのタイミングで出力をすることででき応答特性を安定化することができる。したがって、本実施形態において制御装置12は、極ゼロ相殺ゲインkovに基づいた値を生成する極ゼロ相殺制御部12cを有している。また、制御装置12は、電圧制御演算部12bでPI制御に基づく制御演算を行うことによって得られた演算結果に対して、極ゼロ相殺制御部12cで生成された値を減算する減算器12mを有している。
【0089】
次に、負荷電流値iの交流負荷電流値iacによる影響をキャンセルする方法について説明する。上述した状態方程式の式(2)にラプラス変換を施し、式変形を行うと式(29)となり、さらに下式(30)に近似化できる。なお、制御装置12では、微分を不完全微分として扱うために一次ローパスフィルタをラプラス演算子に付加し一次ハイパスフィルタとする。式(30)において、ωLhはカットオフ角周波数を示している。
【0090】
【数29】
【0091】
【数30】
【0092】
負荷電流値iのうち直流負荷電流値idcの影響は、上述のように、電圧制御演算部12bの積分器で除去される。このため、交流負荷電流値iacによる影響の抑制のみを考えると、式(30)の右辺第2項に相当する下式(31)で表される電流指令(負荷電流交流成分推定値iest)をリアクトル電流指令が生成される前に演算結果に印加すればよい。
【0093】
【数31】
【0094】
したがって、本実施形態において制御装置12は、交流負荷電流値iacの影響をキャンセルするために、負荷電流交流成分推定値iestを求めて電流指令生成部12fに入力する近似外乱オブザーバ12eを備えている。
【0095】
本実施形態の制御装置12は、上述したようなオフデューティDoff、二次側電圧値v、一次側電圧値v及び負荷電流値iによる影響をキャンセルすることによって、プラントモデルを表す伝達関数が縮退するという考えの基に設計されている。
【0096】
図2に戻り、電圧指令生成部12aは、昇降圧コンバータ5の出力電圧(負荷側の電圧値)である二次側電圧値vの目標値を示す二次側電圧指令値v(電圧指令値)を生成する。例えば、負荷Rがモータである場合には、電圧指令生成部12aは、モータのトルク指令値やモータ回転数に基づいて二次側電圧指令値vを生成する。このようにして電圧指令生成部12aによって生成された二次側電圧指令値vは、減算器12kにて二次側電圧検出回路11から入力される二次側電圧値vのフィードバック値vsfが減算された上で、電圧制御演算部12bに入力される。
【0097】
電圧制御演算部12bは、二次側電圧指令値vからフィードバック値vsfが減算された値を減算器12kから受け、二次側電圧値vを二次側電圧指令値vに一致させるように調整するための制御演算(本実施形態ではPI制御に基づく制御演算)を実行する。ここでは、電圧制御演算部12bは、二次側電圧指令値vとフィードバック値vsfとの差分に対して比例演算及び積分演算を行った演算値を求める。なお、比例演算に用いる比例ゲインkpvは、上述した式(26)に基づいて、昇降圧コンバータ5の二次側コンデンサ5dの静電容量値Cとカットオフ角周波数ωcvとに基づいて設定されている。また、積分演算に用いる積分ゲインkivは、上述した式(27)に基づいて、上述の極ゼロ相殺ゲインkovとカットオフ角周波数ωcvとに基づいて設定されている。
【0098】
極ゼロ相殺制御部12cは、後述する電圧制御部20(電圧制御演算部12b、減算器12k及び減算器12mを含む)と昇降圧コンバータ5の二次側コンデンサ5dとを含むブロック(系)に遅れ要素を形成する極ゼロ相殺ゲインkovを記憶しており、二次側電圧検出回路11から入力される二次側電圧値vのフィードバック値vsfに極ゼロ相殺ゲインkovを乗算した値(極ゼロ相殺ゲインに基づく値)を生成して出力する。電圧制御部20と昇降圧コンバータ5の二次側コンデンサ5dとを含むブロックに遅れ要素を形成することで、昇降圧コンバータ5で制御上の外乱成分となる上述の外乱項d(オフデューティDoffの非干渉化でキャンセルできない外乱成分)と負荷電流値iの直流負荷電流値idcの影響をキャンセルすることができる。なお、極ゼロ相殺ゲインkovは、電圧制御演算部12bで用いる比例ゲインkpv及び積分ゲインkivと共に、電圧制御演算部12bを含むブロックがPI制御可能であり、さらに電圧制御演算部12bを含むブロックが一次ローパスフィルタ特性となるように設定されている。例えば、極ゼロ相殺ゲインkovは、直流負荷抵抗相当の値に設定される。
【0099】
また、図2に示すように、電圧制御演算部12bから出力された演算値は、減算器12mにて極ゼロ相殺制御部12cで生成された値が減算された上で、電流指令生成部12fに入力される。
【0100】
なお、図2に示すように、電圧制御部20は、上述の電圧制御演算部12b、減算器12k及び減算器12mを有している。つまり、電圧制御部20は、二次側電圧値v(フィードバック値vsf)と二次側電圧指令値vとの差分に対して比例演算及び積分演算を行った演算値と、極ゼロ相殺制御部12cで生成された値とに基づいて、二次側電圧値vを二次側電圧指令値vに調整する制御演算を行う。
【0101】
デューティ推定器12dは、バッテリ2の負極側に配置されるスイッチング素子(下側アーム5cが有するトランジスタ)のオフ期間を示すオフデューティDoffの推定値であるデューティ推定値Doffestを算出する。ここではデューティ推定器12dは、上述した式(6)に基づいて、昇降圧コンバータ5で制御上の外乱成分となるオフデューティDoffを非干渉化するための、デューティ推定値Doffestを算出する。デューティ推定器12dは、算出したデューティ推定値Doffestを電流指令生成部12fに入力する。
【0102】
近似外乱オブザーバ12eは、二次側電圧値v(フィードバック値vsf)に基づいて、負荷電流の交流成分の推定値である負荷電流交流成分推定値iestを算出する。ここでは、近似外乱オブザーバ12eは、上述した式(31)に基づいて、昇降圧コンバータ5で制御上の外乱成分となる負荷電流値iの交流負荷電流値iacの影響をキャンセルするための負荷電流交流成分推定値iestを算出する。近似外乱オブザーバ12eは、算出した負荷電流交流成分推定値iestを電流指令生成部12fに入力する。
【0103】
電流指令生成部12fは、電圧制御部20の演算結果に基づいて、昇降圧コンバータ5の直流リアクトル5aに流す目標電流値を示すリアクトル電流指令値iを生成する。ここでは、電流指令生成部12fは、減算器12mから入力される演算値と、デューティ推定器12dから入力されるデューティ推定値Doffestの逆数と、近似外乱オブザーバ12eから入力される負荷電流交流成分推定値iestとに基づいて、リアクトル電流指令値iを生成する。電流指令生成部12fで生成されたリアクトル電流指令値iは、減算器12nにて電流検出回路9から入力されるリアクトル電流値iのフィードバック値vpfが減算された上で、電流制御演算部12gに入力される。
【0104】
電流制御演算部12gは、直流リアクトル5aに流れる電流値を示すリアクトル電流値i(フィードバック値iLf)をリアクトル電流指令値iに調整するための制御演算を行って直流リアクトル5aに印加する目標電圧値を示すリアクトル電圧指令値vを算出する。このような電流制御演算部12gは、リアクトル電流指令値iからフィードバック値iLfが減算された値を減算器12nから受け、リアクトル電流値iをリアクトル電流指令値iに一致させるための制御演算(本実施形態ではPI制御に基づく制御演算)を実行する。このとき、電流制御演算部12gは、上述のインダクタンスマップによって、リアクトル電流値i(フィードバック値iLf)に応じてインダクタンス値Lを変化させ、カットオフ角周波数ωccに基づいて比例ゲインkpc(可変比例ゲイン)を設定する。電流制御演算部12gは、このように設定された比例ゲインkpcによる比例演算、及び、合成抵抗値r(直流リアクトル5aの内部抵抗値r(直流抵抗値)と、上側アーム5b及び下側アーム5c(スイッチング素子)のオン抵抗値rSWとの合成抵抗値)とカットオフ角周波数ωccとに基づいて設定された積分ゲインkicによる積分演算を行った演算値をリアクトル電圧指令値vとして出力する。
【0105】
なお、図2に示すように、電流制御部30は、上述の電流制御演算部12g及び減算器12nを有している。つまり、電流制御部30は、リアクトル電流値i(フィードバック値iLf)とリアクトル電圧指令値vとの差分に対して、比例ゲインkpcによる比例演算、及び、積分ゲインkicによる積分演算を行った演算値をリアクトル電圧指令値vとして算出する。このようなインダクタンス値Lに応じて可変される比例ゲインkpcによる比例演算と、積分ゲインkicによる積分演算を行うことによって、電流制御部30及び直流リアクトル5aを含むブロック(系)は、遅れ要素が形成されて一次ローパスフィルタ特性となる。この結果、積分演算によって外乱項dの影響がキャンセルされると共に、リアクトル電圧指令値vがリアクトル電流指令値iの入力に対して一次遅れのタイミングで安定的に出力される。
【0106】
デューティ相殺演算部12hは、電流制御演算部12gからリアクトル電圧指令値vを受けて、上述した式(7)に基づいて、昇降圧コンバータ5で制御上の外乱成分となる二次側電圧値v及び一次側電圧値vを非干渉化するための、演算処理を行う。デューティ相殺演算部12hは、演算処理の結果をデューティ指令値dとしてパルス信号生成部12jに入力する。
【0107】
キャリア生成部12iは、パルス信号生成部12jにおいてPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成するための三角波からなるキャリア信号を生成する。キャリア生成部12iは、生成したキャリア信号をパルス信号生成部12jに入力する。パルス信号生成部12jは、デューティ相殺演算部12hから入力されるデューティ指令値dをキャリア生成部12iから受けるキャリア信号と比較し、比較結果に応じて論理状態が変化する駆動信号(制御信号)としてゲート駆動回路10に入力する。
【0108】
なお、図2に示すように、制御信号生成部40は、デューティ相殺演算部12h、キャリア生成部12i及びパルス信号生成部12jを有している。つまり、制御信号生成部40は、二次側電圧値vと、一次側電圧値vと、リアクトル電圧指令値vとに基づいて、昇降圧コンバータ5の制御信号を生成する。
【0109】
このような本実施形態の電力システム1では、制御装置12に対して二次側電圧検出回路11からフィルタを介して二次側電圧値vのフィードバック値vsfが入力されると、減算器12kにて電圧指令生成部12aで生成された二次側電圧指令値vからフィードバック値vsfが減算され、この減算された値が電圧制御演算部12bに入力される。
【0110】
電圧制御演算部12bでは、入力値に対して、比例ゲインkpvによる比例演算と積分ゲインkivによる積分演算とが行われ、その演算値が電圧制御演算部12bから出力される。一方で、極ゼロ相殺制御部12cでは、二次側電圧値vのフィードバック値vsfに極ゼロ相殺ゲインkovを乗算した値が生成され、この生成された値が極ゼロ相殺制御部12cから出力される。減算器12mには、電圧制御演算部12bから出力された演算値と極ゼロ相殺制御部12cから出力された生成値とが入力され、電圧制御演算部12bの演算値から極ゼロ相殺制御部12cの生成値を減算した値が減算器12mから出力される。
【0111】
また、デューティ推定器12dでは、一次側電圧検出回路7からフィルタを介して入力される一次側電圧値vのフィードバック値vpfと、電流検出回路9からフィルタを介して入力されるリアクトル電流値iのフィードバック値iLfと、二次側電圧検出回路11からフィルタを介して入力される二次側電圧値vのフィードバック値vsfとに基づいて、デューティ推定値Doffestが算出される。また、近似外乱オブザーバ12eでは、二次側電圧検出回路11からフィルタを介して入力される二次側電圧値vのフィードバック値vsfに基づいて、負荷電流交流成分推定値iestが算出される。
【0112】
電流指令生成部12fでは、減算器12mから入力される値と、デューティ推定器12dから入力されるデューティ推定値Doffestの逆数と、近似外乱オブザーバ12eから入力される負荷電流交流成分推定値iestとに基づいて、リアクトル電流指令値iが生成される。リアクトル電流指令値iは、電流指令生成部12fから出力されて減算器12nに入力される。
【0113】
減算器12nでは、電流指令生成部12fから入力されたリアクトル電流指令値iからリアクトル電流値iのフィードバック値iLfを減算され、この演算された値が電流制御演算部12gに入力される。
【0114】
電流制御演算部12gでは、入力値に対して、可変の比例ゲインkpcによる比例演算と積分ゲインkicによる積分演算とが行われ、その演算値がリアクトル電圧指令値vとして電流制御演算部12gから出力される。電流制御演算部12gから出力されたリアクトル電圧指令値vは、デューティ相殺演算部12hに入力される。
【0115】
デューティ相殺演算部12hでは、デューティ相殺演算部12hから入力されるリアクトル電圧指令値vと、二次側電圧値vのフィードバック値vsfと、一次側電圧値vのフィードバック値vpfとに基づいてデューティ指令値dが生成される。パルス信号生成部12jでは、デューティ相殺演算部12hで生成されたデューティ指令値dと、キャリア生成部12iで生成されたキャリア信号とに基づいて、昇降圧コンバータ5に入力する制御信号が生成される。
【0116】
このように制御装置12で生成された制御信号が昇降圧コンバータ5に入力されると、制御信号に基づいて、バッテリ2の電力が昇圧され、昇圧された電力がインバータ6に供給される。インバータ6に入力された電力は、交流電力変換に変換されてから負荷Rに供給される。
【0117】
以上のような本実施形態の制御装置12によれば、極ゼロ相殺ゲインkovによって、電圧制御部20と昇降圧コンバータ5の二次側コンデンサ5dとを含むブロックに遅れ要素が形成される。このため、オフデューティDoff(デューティ推定値Doffest)の逆数を電流指令値に乗算しても残存する外乱成分の残存成分(外乱項dの影響及び直流負荷電流値idcによる影響)を、電圧制御部20の積分演算によって吸収することができる。したがって、本実施形態の制御装置12によれば、電圧制御部20における制御ゲイン(比例ゲインkpv及び積分ゲインkiv)を可変とすることなく、昇降圧コンバータ5が有する制御上の外乱成分の影響をより抑制可能とし、負荷Rへの電力供給を安定化させることが可能となる。
【0118】
また、本実施形態の制御装置12においては、極ゼロ相殺制御部12cが二次側電圧値vに極ゼロ相殺ゲインkovを乗算した値を生成し、電圧制御部20が二次側電圧値vと二次側電圧指令値vとの差分に対して比例演算及び積分演算を行った演算値から極ゼロ相殺制御部12cで生成された値を減算する減算器12kを有する。このため、電圧制御部20において簡易な演算を行うのみで、昇降圧コンバータ5が有する制御上の外乱成分の影響を抑制することが可能となる。
【0119】
また、本実施形態の制御装置12においては、極ゼロ相殺ゲインkovが直流負荷抵抗相当の値に設定されている。極ゼロ相殺ゲインkovは、任意の値に設定することが可能である。ただし、極ゼロ相殺ゲインkovを直流負荷抵抗相当の値に設定することによって、昇降圧コンバータ5が有する制御上の外乱成分の影響を抑制するための極ゼロ相殺ゲインkovを簡易に設定することが可能となる。
【0120】
また、本実施形態の制御装置12においては、二次側電圧値vに基づいて、負荷電流の交流成分の推定値である負荷電流交流成分推定値iestを算出する近似外乱オブザーバ12eを備え、電流指令生成部12fが、電圧制御部20の演算結果及びデューティ推定値Doffestの逆数に加え、負荷電流交流成分推定値iestに基づいて上記リアクトル電流指令値iを生成している。このような本実施形態の制御装置12によれば、昇降圧コンバータ5が有する制御上の外乱成分となる交流負荷電流値iacの影響をキャンセルすることが可能となり、負荷Rへの電力供給をさらに安定化させることが可能となる。
【0121】
また、本実施形態の制御装置12においては、電圧制御部20と昇降圧コンバータ5の二次側コンデンサ5dとを含むブロックが、一次遅れ特性となるように、電圧制御部20の比例ゲインkpv、積分ゲインkiv及び極ゼロ相殺ゲインkovとが設定されている。このため、本実施形態の制御装置12においては、二次側電圧指令値vが入力され、当該入力に対する二次側電圧値vの応答性を一次遅れ特性とすることができ、制御を安定化することができる。
【0122】
また、本実施形態の制御装置12においては、比例ゲインkpvが昇降圧コンバータ5の二次側コンデンサ5dの静電容量値Cとカットオフ角周波数ωcvとに基づいて設定され、積分ゲインkivが極ゼロ相殺ゲインkovとカットオフ角周波数ωcvとに基づいて設定されている。このように比例ゲインkpv及び積分ゲインkivを設定することによって、電圧制御部20と昇降圧コンバータ5の二次側コンデンサ5dとを含むブロックを一次遅れ特性とすることが可能となる。
【0123】
また、本実施形態の制御装置12においては、直流リアクトル5aに流れる電流値を示すリアクトル電流値iをリアクトル電流指令値iに調整するための制御演算を行って直流リアクトル5aに印加する目標電圧値を示すリアクトル電圧指令値vを算出する電流制御部30と、二次側電圧値vと、一次側電圧値vと、リアクトル電圧指令値vとに基づいて、昇降圧コンバータ5の制御信号を生成する制御信号生成部40とを備えている。さらに、電流制御部30は、リアクトル電流値iとリアクトル電流指令値iとの差分に対して、カットオフ角周波数ωccと直流リアクトル5aのインダクタンス値Lとに基づいて可変設定された比例ゲインkpcによる比例演算、及び、合成抵抗値r(直流リアクトル5aの内部抵抗値rと昇降圧コンバータ5の上側アーム5b及び下側アーム5cのオン抵抗値rSWとの合成抵抗値)とカットオフ角周波数ωccとに基づいて設定された積分ゲインkicによる積分演算を行った演算値をリアクトル電圧指令値vとして算出している。このような本実施形態の制御装置12によれば、制御信号生成部40で二次側電圧値v及び一次側電圧値vを用いることにより、昇降圧コンバータ5が有する二次側電圧値v及び一次側電圧値vに起因する外乱成分を一部除去することができ、さらにこの外乱成分の残部を電流制御部30にて可変設定された比例ゲインkpcを用いることで除去することができる。したがって、本実施形態の制御装置12によれば、二次側電圧値v及び一次側電圧値vに起因する制御上の外乱成分の影響を除去することが可能となる。
【0124】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0125】
例えば、上記実施形態においては、制御装置12がデューティ推定器12d及び近似外乱オブザーバ12eを有する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、デューティ推定器12d及び近似外乱オブザーバ12eのいずれかあるいは両方を備えない構成を採用することも可能である。
【0126】
また、上記実施形態においては、デューティ相殺演算部12hで、一次側電圧値vと二次側電圧値vとに起因する制御上の外乱成分を除去する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。ディーティ相殺演算部12hに換えて、一次側電圧値vと二次側電圧値vとに起因する制御上の外乱成分を除去することなくデューティ指令値dを生成する指令値生成部を備える構成や、当該指令値生成部を電流制御演算部に機能的に組み込む構成を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0127】
1……電力システム、2……バッテリ(直流電源)、3……コンタクタ、4……一次側コンデンサ、5……昇降圧コンバータ(昇圧コンバータ)、5a……直流リアクトル、5b……上側アーム、5c……下側アーム、5d……二次側コンデンサ(負荷側コンデンサ)、6……インバータ、7……一次側電圧検出回路、8……電流センサ、9……電流検出回路、10……ゲート駆動回路、11……二次側電圧検出回路、12……制御装置、12a……電圧指令生成部、12b……電圧制御演算部、12c……極ゼロ相殺制御部、12d……デューティ推定器、12e……近似外乱オブザーバ、12f……電流指令生成部、12g……電流制御演算部、12h……デューティ相殺演算部、12i……キャリア生成部、12j……パルス信号生成部、12k……減算器、12m……減算器、12n……減算器、20……電圧制御部、30……電流制御部、40……制御信号生成部、R……負荷
図1
図2
図3
図4
図5