特許第6985247号(P6985247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テイジン・アラミド・ビー.ブイ.の特許一覧

特許6985247改善された加水分解安定性を有するポリアリーレン繊維
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985247
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】改善された加水分解安定性を有するポリアリーレン繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20211213BHJP
   D01F 1/02 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   D01F6/90 331
   D01F1/02
   D01F6/90 301
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-500303(P2018-500303)
(86)(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公表番号】特表2018-529849(P2018-529849A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】EP2016072919
(87)【国際公開番号】WO2017055247
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年8月16日
(31)【優先権主張番号】15187383.3
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501469803
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Teijin Aramid B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアーン イェー.エム. ファン デン ヒューフェル
(72)【発明者】
【氏名】マルテイン アルノルデュス ヨハネス フェルト
(72)【発明者】
【氏名】ヨアネス ハー.エム. クヴァエイタール
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ペー. フェルフーフ
(72)【発明者】
【氏名】ヨリト デ ヨング
(72)【発明者】
【氏名】ヴィド ネイエンハイス
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−104921(JP,A)
【文献】 特開平04−202257(JP,A)
【文献】 特開平04−226566(JP,A)
【文献】 特開2005−179855(JP,A)
【文献】 特開2010−285557(JP,A)
【文献】 特表2010−525183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/90
D01F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレン繊維であって、該繊維の重量に基づいて0.1〜15%の芳香族化合物または芳香族化合物の組合せを含み、各芳香族化合物が、芳香族コアと、置換基AまたはBの少なくとも1つとを含み、ここで、Aは、式1:
【化1】
によって表され、かつBは、式2:
【化2】
によって表され、該式中、
R1およびR2は、互いに独立して、炭素原子2〜10個を含むアルカンジイルから選択され、
R3およびR4は、互いに独立して、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、または炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキルから選択され、
R5は、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、および芳香族コアに縮合されたフタルイミド環構造を形成するカルボニル(−C(=O)−)から選択され、
ポリアリーレンはポリアラミドおよび剛直棒状芳香族複素環ポリマーから選択され、前記ポリアリーレンは酸性溶剤中で処理されたものである、ポリアリーレン繊維。
【請求項2】
少なくとも1種の芳香族化合物が、コア1(式3)、コア2(式4)およびコア3(式5):
【化3】
から選択される芳香族コアを有し、該式中、
R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37およびR38は、互いに独立して、以下の一価の基:追加の置換基AまたはB、−H、ハロゲン、−NO、−CN、−OR3、−NR3R4、−SR3、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むパーフルオロアルキル、および(置換された)カルボニルから選択され、
L1およびL2は、互いに独立して、以下の二価および三価の基:カルボニル(−C(=O)−)、−O−、−S−、−SO−、炭素原子1〜6個を含むアルカンジイル、炭素原子1〜6個を含むパーフルオロアルカンジイル、炭素原子3〜10個を含むシクロアルカンジイル、炭素原子3〜10個を含むパーフルオロシクロアルカンジイル、イミノカルボニル(−C(=O)NR5−、−R5NC(=O)−)、アシルオキシ(−C(=O)O−または−OC(=O)−)から選択され、
pおよびqは、0または1であり、かつ
nは、0、1、2または3である、請求項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項3】
少なくとも1種の芳香族化合物が、少なくとも1つの置換基Aで置換されており、ここで、前記AのR1およびR2が、−C−である、請求項1または2記載のポリアリーレン繊維。
【請求項4】
少なくとも1種の芳香族化合物が、少なくとも1つの置換基Aで置換されており、ここで、前記AのR3が、メチルである、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項5】
少なくとも1種の芳香族化合物が、少なくとも1つの置換基Bで置換されており、ここで、前記BのR1が、−C−である、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項6】
少なくとも1種の芳香族化合物が、少なくとも1つの置換基Bで置換されており、ここで、前記BのR3およびR4が、メチルである、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項7】
少なくとも1種の芳香族化合物が、少なくとも1つの置換基Bで置換されており、ここで、前記BのR5が、Hである、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項8】
少なくとも1種の芳香族化合物が、コア3を含み、かつL1およびL2が、それぞれイミノカルボニル基であり、ここで、n、pおよびqは、1である、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項9】
少なくとも1種の芳香族化合物が、1−アルキルピペラジン、好ましくは1−メチルピペラジンから誘導されたカルボキサミドであるAを含む、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項10】
少なくとも1種の芳香族化合物が、N,N−ジアルキルエチレンジアミンから誘導されたカルボキサミドであるBを含む、請求項1からまでのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項11】
各化合物の分子量が、200から1000g/molの間である、請求項1から10までのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項12】
ポリアリーレン繊維が、少なくとも3週間、好ましくは少なくとも6週間、より好ましくは少なくとも9週間、さらにより好ましくは少なくとも12週間の加水分解安定性t0.9を有し、ここで、加水分解安定性t0.9は、pH4および90℃の溶液に曝されたときの繊維の引張破断強度が、20℃の温度および相対湿度65%を有する空気に曝されたときの繊維の引張破断強度と比較して90%になるまでの期間として定義される、請求項1から11までのいずれか1項記載のポリアリーレン繊維。
【請求項13】
紡糸原液であって、ポリアリーレンポリマーと、該紡糸原液中のポリアリーレンの重量に基づいて0.1〜15%の芳香族化合物または芳香族化合物の組合せとを含む紡糸原液において、各化合物が、芳香族コアと、置換基AまたはBの少なくとも1つとを含むことを特徴とし、ここで、Aは、式1:
【化4】
によって表され、かつBは、式2:
【化5】
によって表され、該式中、
R1およびR2は、互いに独立して、炭素原子2〜10個を含むアルカンジイルから選択され、
R3およびR4は、互いに独立して、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、または炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキルから選択され、
R5は、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、および芳香族コアに縮合されたフタルイミド環構造を形成するカルボニル(−C(=O)−)から選択され、
ポリアリーレンはポリアラミドおよび剛直棒状芳香族複素環ポリマーから選択され、前記ポリアリーレンは酸性溶剤中で処理されたものである、紡糸原液。
【請求項14】
改善された加水分解安定性を有するポリアリーレン繊維を製造するための方法であって、以下のステップ:
i)ポリアリーレンポリマー、溶剤および化合物または化合物の組合せを含む組成物を調製するステップと、
ii)組成物を処理してポリアリーレン繊維を得るステップ
とを含み、各化合物が、芳香族コアと、置換基AまたはBの少なくとも1つとを含むことを特徴とし、ここで、Aは、式1:
【化6】
によって表され、かつBは、式2:
【化7】
によって表され、該式中、
R1およびR2は、互いに独立して、炭素原子2〜10個を含むアルカンジイルから選択され、
R3およびR4は、互いに独立して、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、または炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキルから選択され、
R5は、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、および芳香族コアに縮合されたフタルイミド環構造を形成するカルボニル(−C(=O)−)から選択され、
ポリアリーレンはポリアラミドおよび剛直棒状芳香族複素環ポリマーから選択され、前記ポリアリーレンは酸性溶剤中で処理されたものである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高強度の合成ポリマー材料は、耐久性のある高い強度が要求される用途において幅広く使用されている。使用中、そのような合成ポリマーを含む物品は、高温、高い湿気および/または水に曝される可能性がある。そのような条件は、環境、例えば熱帯条件において、水、機械、人体との直接的な接触から、または動的荷重(ヒステリシス、内部/外部摩擦)中に発生した熱から生じる。そのような高性能の合成材料には、例えば、アラミドおよび剛直棒状芳香族複素環ポリマー、例えばポリベンザゾールなどが含まれる。
【0002】
環境および使用条件により、合成繊維の強度が損なわれるおそれがある。このことが際立つのは、例えば極端なpH、湿気および高温の存在といった加水分解に好都合な条件に繊維が曝されているケースである。そのような条件は、例えば、海底油およびガス操作において使用されている補強された可撓性のフローライン、ライザーおよびアンビリカルパイプにおいて起こり得る。特に、カルボキシレート末端基を有する合成ポリマーは、高温および高い相対湿度に曝されたときの劣化に対して敏感であると考えられる。
【0003】
例えば、70℃および相対湿度50%での芳香族ポリアミドヤーンの残留強度は、3年後に本来の値の70%まで減少する可能性がある。したがって、数年間にわたって使用されなければならない合成材料のために、耐久性を改善させることが重要である。
【0004】
合成繊維の加水分解安定性を改善することは記載されている。米国特許第5003036号明細書(US 5,003,036)は、テレフタロイルモノマーの少なくとも10%がモノ−および/またはジクロロテレフタロイル基で置き換えられているアラミドコポリマーに関する。米国特許第5091456号明細書(US 5,091,456)には、0.5〜3%の特定のフルオロアルコール添加剤を含むアラミド繊維が記載されている。そのようなポリマーについての改善された強度保持率が報告されている。米国特許第5543492号明細書(US 5,543,492)は、アルキルおよび/もしくはアルコキシ置換されたジアミンまたは二酸モノマーの単位2〜8mol%を含むアラミドを対象とする。米国特許第4011203号明細書(US 4,011,203)も、フェニレンジアミン、テレフタロイルおよびピペラジンを含む、改善された耐熱性、靭性および耐化学性を有するアラミドコポリマーを記載している。これらの多くの参考文献において、コポリマーは、p−フェニレンジアミン、テレフタロイルジクロリドおよび第三のモノマーを重合することによって得られる。
【0005】
コモノマーを導入することの欠点は、それらが材料特性に直接影響を及ぼすことと関わっており、これにより、ホモポリマーと比較してコポリマーの引張特性にしばしば影響が出る。さらに、時には複雑な分子構造を有する高純度のコモノマーが、コポリマーの合成のために取得または調製される必要がある。ユーザーにとって、最適なポリマーの選択は限られている。
【0006】
本発明の目的は、改善された加水分解安定性を有するポリアリーレン繊維を得ることと、先行技術の制限を克服することとである。高い引張強度および高い弾性率と、良好な加水分解安定性とを兼ね備える繊維を提供することも、本発明の目的である。本発明はさらに、改善された加水分解安定性を有するポリアリーレン繊維を得るための紡糸原液(spin dope)および方法を提供する。
【0007】
驚くべきことに、ポリアリーレン繊維の加水分解安定性が大幅に改善され得ることが今に見出された。これは、ポリアリーレン繊維であって、該繊維の重量に基づいて0.1〜15%の芳香族化合物または芳香族化合物の組合せを含み、各芳香族化合物が、芳香族コアと、置換基AまたはBの少なくとも1つとを含むことを特徴とし、ここで、Aは、式1:
【化1】
によって表され、かつBは、式2:
【化2】
によって表され、該式中、
R1およびR2は、互いに独立して、炭素原子2〜10個を含むアルカンジイルから選択され、
R3およびR4は、互いに独立して、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、および炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキルから選択され、
R5は、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、および芳香族コアに縮合されたフタルイミド環構造を形成するカルボニル(−C(=O)−)から選択される、ポリアリーレン繊維によって解決される。
【0008】
基本的には、芳香族化合物の置換基AおよびBは、カルボキサミドである。
【0009】
本発明は、合成ポリアリーレンポリマー材料、より具体的にはリオトロピック液晶ポリマー、好ましくはフェニレン基を含むポリマー、より好ましくは、アラミド(芳香族ポリアミド、ポリアラミド)および剛直棒状芳香族ポリマー、より好ましくは剛直棒状芳香族複素環ポリマーから選択されるポリマーを対象とする。剛直棒状芳香族ポリマーは、当該技術分野において剛性スペーサーセグメントとして知られているものを有する。剛性スペーサーはしばしば、別の環状ユニット、または官能性末端基、例えば−NH−、−CO−、−O−、−COO−、−N=N−および/もしくは−CH=CH−を含有する。一般的には、剛直棒状ポリマーは、高度にパラ配向された芳香族基を有し、これらのポリマーから製造された繊維は、高い引張弾性率を有する。
【0010】
これらのポリマーの多くは、酸性溶剤を使用して処理されるがゆえに、加水分解不安定性になりがちである。
【0011】
より高い加水分解安定性を達成することができる本発明のポリアリーレン型繊維のために使用されるポリアリーレンには、アラミド(芳香族ポリアミド)ならびに剛直棒状芳香族複素環ポリマー、例えばポリベンザゾール、ポリヒドロキノン−ジイミダゾピリジンおよびこれらのポリマーのコポリマーが含まれる。
【0012】
本明細書の文脈においては、アラミドは、アミドフラグメントにより互いに直接結合された芳香族フラグメントから成る芳香族ポリアミドを指す。アラミドを合成するための方法は、当業者に知られており、典型的には、芳香族ジアミンと芳香族ハロゲン化ジアシルとの重縮合を伴う。アラミドは、メタ型およびパラ型で存在してよく、そのいずれも本発明において使用されることができる。芳香族部位間の結合の少なくとも85%がパラアラミド結合であるアラミドの使用が好ましいと考えられる。このグループの典型的なメンバーとして、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボキサミド)およびポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボキサミド)、5,4’−ジアミノ−2−フェニルベンズイミダゾールまたはポリ(パラフェニレン−co−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)またはそれらのコポリマーが挙げられる。芳香族部位間の結合の少なくとも90%、より詳細には少なくとも95%がパラアラミド結合であるアラミドの使用が好ましいと考えられる。PPTAとも示されるポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の使用が特に好ましい。
【0013】
剛直棒状芳香族複素環ポリマーには、ポリアゾール、例えばポリベンザゾールおよびポリピリダゾールおよび同種のものが含まれ、それらはホモポリマーまたはコポリマーであってよい。適切なポリアゾールは、ポリベンザゾール、例えばポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)およびPBO様ポリマー、例えばポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)およびポリヒドロキノンジイミダゾピリジンなどである。ポリベンゾオキサゾールは、必ずしもベンゼン環ではない芳香族基に結合されたオキサゾール環を含有するポリマーである。PBO様ポリマーには、広範囲のポリマーが含まれ、その各々がポリ(フェニレンベンゾビスオキサゾール)および芳香族基に結合された多数のオキサゾール環のユニットを含む。PBIおよびPBT様のポリマーも、類似の構造を有することができる。
【0014】
ポリベンザゾールがポリベンズイミダゾールである場合、好ましくは、それはポリ[5,5’−ビ−1H−ベンズイミダゾール]−2,2’−ジイル−1,3−フェニレンである。ポリベンザゾールがポリベンゾチアゾールである場合、好ましくは、それはポリベンゾビスチアゾールであり、より好ましくは、それはポリ(ベンゾ[1,2−d:4,5−d’]ビスチアゾール−2,6−ジイル−1,4−フェニレン)である。ポリベンザゾールが、ポリベンゾオキサゾールである場合、好ましくは、それはポリベンゾビスオキサゾールであり、より好ましくは、それはポリ(ベンゾ[1,2−d:4,5−d’]ビスオキサゾール−2,6−ジイル−1,4−フェニレン)である。いくつかの実施形態においては、好ましいポリピリダゾールは、ポリ(ピリドビスイミダゾール)、ポリ(ピリドビスチアゾール)およびポリ(ピリドビスオザゾール)などの剛直棒状ポリピリドビスアゾールである。好ましいポリ(ピリドビスオザゾール)は、ポリ(1,4−(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン−2,6−ピリド[2,3−d:5,6−d’]ビスイミダゾール)である。
【0015】
剛直棒状芳香族複素環ポリマーにはまた、上記の2種以上の混合物、コポリマーまたはブロックポリマーが含まれる。
【0016】
本発明によるポリアリーレン繊維は、上記ポリマーの少なくとも1種を含み、そのようなポリマーの組合せを含むこともできる。通常、ポリアリーレン繊維は、(該繊維の重量に基づいて)少なくとも60重量%の本発明において使用されるポリアリーレンの任意の1種または任意の組合せを含む。
【0017】
1つの実施形態においては、ポリアリーレン繊維は、コア1(式3)、コア2(式4)およびコア3(式5):
【化3】
から選択される芳香族コアを有する芳香族化合物を含み、該式中、
R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37およびR38は、互いに独立して、以下の一価の基:追加の置換基AまたはB、−H、ハロゲン、−NO、−CN、−OR3、−NR3R4、−SR3、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むパーフルオロアルキル、および(置換された)カルボニルから選択され、
L1およびL2は、互いに独立して、以下の二価および三価の基:カルボニル(−C(=O)−)、−O−、−S−、−SO−、炭素原子1〜6個を含むアルカンジイル、炭素原子1〜6個を含むパーフルオロアルカンジイル、炭素原子3〜10個を含むシクロアルカンジイル、炭素原子3〜10個を含むパーフルオロシクロアルカンジイル、イミノカルボニル(−C(=O)NR5−、−R5NC(=O)−)、アシルオキシ(−C(=O)O−または−OC(=O)−)から選択され、
pおよびqは、0または1であり、かつ
nは、0、1、2または3である。
【0018】
本発明の文脈内では、以下の用語は、以下のとおり定義される:
アルキルは、炭素原子1〜10個を有する一価の飽和直鎖または分枝状ヒドロカルビル基を意味する。
【0019】
アルカンジイルは、炭素原子2〜10個を有する二価の飽和直鎖または分枝状ヒドロカルビル基を意味する。
【0020】
ヘテロシクロアルキルは、炭素原子1〜10個ならびにN、OおよびSから選択される少なくとも1個のヘテロ原子を有する非芳香族一価の単環式または多環式基を意味する。ヘテロシクロアルキル基は、1つ以上の炭素−炭素二重結合または炭素−ヘテロ原子二重結合を環中に、この環がそれらの結合の存在によって芳香族にされない限り有してよい。
【0021】
ホモシクロアルキルは、炭素原子3〜10個を有する一価の飽和環式ヒドロカルビル基を意味する。
【0022】
パーフルオロ−は、対応するフラグメント中のすべての水素原子がフッ素原子によって置換されていることを意味する。
【0023】
カルボニル基は、基−(C=O)−である。これには、置換されたカルボニル基が含まれる。置換されたカルボニル基の例は、エステル(−C(=O)O−)、アミド(−C(=O)N−)、ケトン(−C(=O)C−)、アルデヒド(−C(=O)H)およびカルボン酸(−C(=O)OH)である。1つの実施形態においては、隣接するカルボニル置換基は、フタルイミドフラグメントを形成することができる。アルコキシ部位は、式−OR3を有する。チオアルキル置換基は、式−SR3を有する。置換されたアミンは、−−NR3R4として表され、かつフタルイミド環構造は、式6のフラグメントであり、該式中、芳香族環は、芳香族化合物の芳香族コアを表す。フタルイミドフラグメントは、置換基Bから、R5の位置に第二のカルボニル基を付加することによって形成されることができ、ここで、Nは、置換基Bについて記載したとおりさらに置換される。あるいは、フタルイミドフラグメントは、コア3のフラグメントL1またはL2の一部であってもよい。
【0024】
式6:フタルイミドフラグメント
【化4】
【0025】
フタルイミドフラグメントを形成するための様々な方法が、当業者に知られている。フタルイミドは、典型的には、隣接するカルボキサミド(−C(=O)NHR−)およびカルボン酸(−C(=O)OH)フラグメントの脱水によって形成される。
【0026】
本発明による化合物のアルキルおよびアルカンジイル置換基の1個以上の隣接していない炭素原子は、ヘテロ原子(N、OおよびS)によって置換されて、それぞれ第二級アミン、エーテルおよびチオエーテルフラグメントを形成することができる。そのような実施形態においては、骨格の原子の総数は増えないが、その代わりに、1個の炭素がヘテロ原子で置き換えられる。
【0027】
アルキル、アルカンジイルまたはシクロアルキル置換基上の1個以上の水素原子は、ハロゲンまたはヘテロ原子(−NR3R4、−OR3、−SR3、ここで、R3は、Hである)で置換されて、それぞれ(置換された)アミン、アルコールおよびチオール(ここで、R3は、アルキルである)を形成することができる。
【0028】
L1またはL2が脂肪族部位を含む場合、前記部位は、直鎖または分枝状であってよい。
【0029】
一般的には、本発明による各化合物の置換基R(R1〜R38)は、化合物の疎水性を高めるために選択される。
【0030】
好ましい実施形態においては、本発明のポリアリーレン成形体において使用される化合物の少なくとも1種は、少なくとも1つの置換基Aで置換され、ここで、前記置換基AのR1およびR2は、−C−である。
【0031】
独立して、またはこの実施形態との組合せにおいて、前記置換基AのR3は、メチルである。
【0032】
好ましい実施形態においては、本発明によるポリアリーレン繊維は、置換基Bを有する芳香族化合物を含み、ここで、前記置換基BのR1は、−C−である。
【0033】
独立して、またはこの実施形態との組合せにおいて、前記BのR3およびR4は、メチルである。
【0034】
独立して、またはそのようなR1との組合せにおいて、前記BのそのようなR3およびそのようなR4、R5は、好ましくは水素である。
【0035】
好ましい実施形態においては、ポリアリーレン繊維は、コア3を有する少なくとも1種の芳香族化合物を含み、ここで、L1およびL2は、それぞれイミノカルボニル基であり、n、pおよびqは、1である。この実施形態も、前述の実施形態との組合せにおいて行われることができる。
【0036】
したがって、芳香族化合物の置換基Aが、1−アルキルピペラジン、好ましくは1−メチルピペラジンから誘導されたカルボキサミドであるポリアリーレン繊維が好ましい。
【0037】
別の好ましい実施形態においては、芳香族化合物の置換基Bは、N,N−ジアルキルエチレンジアミンから誘導されたカルボキサミドである。
【0038】
別の好ましい実施形態においては、コア1、コア2またはコア3から成る芳香族化合物が使用され、ここで、置換基R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33、R34、R35、R36、R37およびR38は、互いに独立して、水素またはハロゲンから選択される。
【0039】
本発明において使用される化合物は、例えば、
【化5】
,N−ビス[4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)フェニル]ベンゼン−1,4−ジカルボキサミド、
【化6】
1−メチル−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)ベンゾイル]ピペラジン、または
【化7】
1−メチル−4−[2,3,5,6−テトラクロロ−4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)−ベンゾイル]ピペラジン
であってよい。
【0040】
他の非限定的な例には、
【化8】
1−メチル−4−[6−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)ナフタレン−2−カルボニル]ピペラジン、
【化9】
1−N,3−N−ビス(4−{[2−(ジエチルアミノ)エチル]カルバモイル}フェニル)ベンゼン−1,3−ジカルボキサミド、
【化10】
1−メチル−4−{4−[4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)フェニル]ベンゾイル}ピペラジン、
【化11】
1−(プロパン−2−イル)−4−(2−{2−[4−(プロパン−2−イル)ピペラジン−1−カルボニル]フェニル}ベンゾイル)ピペラジン、および
【化12】
1−(4−ブロモベンゾイル)−4−(プロパン−2−イル)ピペラジン
が含まれる。
【0041】
本発明において使用されるフラグメントAまたはフラグメントBを含む芳香族化合物は、ポリアリーレンポリマーと付加された芳香族化合物とが混合物を形成するという意味で化学的に不活性である。
【0042】
すなわち、フラグメントAまたはフラグメントBを含む芳香族化合物が重合反応中に存在する場合、この化合物は、ポリマー中に組み込まれるモノマーとして機能しない。それゆえ、本発明においては、いかなるコポリマーも形成されず、ポリアリーレンポリマーと該化合物または該化合物の組合せとを含む組成物が形成される。
【0043】
中和芳香族化合物の導入によって繊維の本来の色が変化しないようにするために、芳香族化合物は、好ましくは顔料または着色剤であるべきではない。顔料および着色剤は、既知の添加剤であるが、通常、本発明において使用される芳香族化合物のように加水分解安定性に対する有利な効果は提供しない。
【0044】
ポリアリーレン繊維中の化合物または化合物の組合せの量は、化合物の分子量に基づいて選択される。
【0045】
ポリアリーレン繊維中の化合物または化合物の組合せの全体の濃度は、ポリアリーレン繊維の重量に基づいて0.1から15重量%の間で変動し、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜6重量%である。
【0046】
好ましくは、本発明において使用される化合物はいずれも、200から1000g/molの間の、好ましくは300から800g/molの間の、より好ましくは400から600g/molの間の分子量を有する。
【0047】
本明細書中での目的のために、「繊維(fiber)」という用語は、可撓性で、巨視的に均質な物体として定義される。繊維は、長さと、その長さに垂直な断面積の幅との高い比を有する。繊維の断面は、任意の形状を有していてよく、例えば円形または長方形である。本発明による「繊維」という用語には、フィラメント(モノフィラメントおよびマルチフィラメント束を含む)、連続糸、テープ、パルプ、フィブリル、フィブリド、ステープル繊維およびショートカットが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明においては、テープは、物体の長さ、すなわち最大寸法が、物体の幅、第二の最小寸法、および物体の厚さ、すなわち最小寸法よりも大きく、同時にまた、幅が厚さよりも大きい物体として定義される。より詳細には、長さと幅との比は、一般的には少なくとも2である。テープ幅に応じて、比は、より大きくてもよく、例えば、少なくとも4、または少なくとも6である。最大比は、本発明にとって極めて重要なものというわけではなく、処理パラメーターに依存する。
【0049】
本発明によるポリアリーレン繊維は、該繊維が上記で定義される種々のポリアリーレンポリマーを含む実施形態も包含する。例えば、本発明による繊維は、アラミドフィラメントと剛直棒状芳香族複素環ポリマーフィラメント製のフィラメントとを含むことができ、ここで、アラミドフィラメントと剛直棒状芳香族複素環ポリマーフィラメントのいずれか一方または両方が、本発明による芳香族化合物を含む。
【0050】
本発明によるポリアリーレン繊維は、多種多様の製品において使用されることができる。
【0051】
例としては、油/ガス輸送または都市暖房用の補強パイプ、アンビリカル、ロープ、ケーブル、スリング、自動車における冷却ホース、タイヤ、コンベアベルトおよび貫通抵抗物品、例えば耐衝撃物品または切断保護物品などが含まれる。
【0052】
本発明の1つの目的は、改善された加水分解安定性を有するポリアリーレン繊維を提供することである。加水分解安定性は、加水分解を招く条件に繊維が曝された後に残留する引張破断強度(breaking tenacity)に関する。加水分解安定性の測定は、引張破断強度を測定し、かつ本来の引張破断強度の90%(t0.9)または80%(t0.9)が所定の温度および低pH条件下で残留する時点および期間を測定することによって行われる。したがって、この期間(所定の温度(90℃)および低pH(pH4)にその時間にわたって曝された繊維が引張破断強度の90%(t0.9)または80%(t0.8)を有する)を、標準的な環境条件(空気、20℃、相対湿度65%)に曝された繊維と比較した。テープの場合にも同じ方法を適用することができる。フィルムを切断してテープにしてよく、これを引き続き同じ手法で測定することができる。
【0053】
本発明によるポリアリーレン繊維は、好ましくは、少なくとも3週間、好ましくは少なくとも6週間、より好ましくは少なくとも9週間、さらにより好ましくは少なくとも12週間の加水分解安定性t0.9、および少なくとも10週間、好ましくは少なくとも15週間、より好ましくは少なくとも20週間、さらにより好ましくは少なくとも25週間の加水分解安定性t0.8を有し、ここで、加水分解安定性t0.9は、pH4および90℃の溶液に曝されたときの繊維の引張破断強度が、20℃の温度および相対湿度65%を有する空気に曝されたときの繊維の引張破断強度と比較して90%になるまでの期間として定義される。加水分解安定性t0.8は、pH4および90℃の溶液に曝されたときの繊維の引張破断強度が、20℃の温度および相対湿度65%を有する空気に曝されたときの繊維の引張破断強度と比較して80%になるまでの期間として定義される。
【0054】
加水分解安定性を測定するための方法の詳細な説明を、実験の項目において示しているが、全般的に本発明に適用可能である。
【0055】
引張破断強度100%を有する繊維は、加水分解条件に曝された繊維と同じ繊維であり、ひいては同じ芳香族化合物または化合物の組合せを含む。
【0056】
したがって、例えば、本発明によるポリアリーレン繊維は、90℃およびpH4の環境条件下に3週間にわたって曝されることができ、かつ繊維の引張破断強度は、標準的な環境条件に曝されているポリアリーレン繊維と比較して90%で残留する。
【0057】
引張破断強度は、ASTM D1776に従って20℃および相対湿度65%で14時間にわたって繊維をコンディショニングした後に、ASTM D7269に準拠して測定される。
【0058】
本発明において記載される化合物を含まない組成物の加水分解安定性t0.9は、通常、3週間未満であり、かつ加水分解安定性t0.8は、10週間未満であり、一般的には、本発明によって達成される値に達することはできない。1つの実施形態においては、本発明のポリアリーレン繊維の加水分解安定性t0.9は、(記載された化合物を一切含まないポリアリーレン繊維の加水分解安定性と比較して、数週間単位で)少なくとも50%、好ましくは少なくとも100%、より好ましくは少なくとも200%高まる。
【0059】
本発明は、改善された加水分解安定性を有するポリアリーレン繊維を製造するための方法も対象とする。この方法は、以下のステップを含む:
i)ポリアリーレンポリマー、溶剤および芳香族化合物または芳香族化合物の組合せを含む組成物を調製するステップ、
ii)組成物を処理してポリアリーレン繊維を得るステップであって、各芳香族化合物が、置換基AまたはBの少なくとも1つを含むことを特徴とし、ここで、Aは、式1:
【化13】
によって表され、かつBは、式2:
【化14】
によって表され、該式中、
R1およびR2は、互いに独立して、炭素原子2〜10個を含むアルカンジイルから選択され、
R3およびR4は、互いに独立して、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、または炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキルから選択され、
R5は、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、および芳香族コアに縮合されたフタルイミド環構造を形成するカルボニル(−C(=O)−)から選択される。
【0060】
組成物は、多数の手法で処理されることができる。
【0061】
組成物を処理して繊維にすることができ、これを引き続き処理してテープにすることができる。
【0062】
本発明の繊維を得るために、当業者に周知の従来の紡糸法、例えば、湿式紡糸、好ましくはエアギャップ湿式紡糸などが使用されることができる。
【0063】
しかしながら、ジェット紡糸を適用することも可能であり、ここで、気流または凝固剤流が原液に当たって、その進路をそらしながら液滴にする。別の処理法は、ローター紡糸であり、ここで、紡糸原液は、高速回転するローター中に導入され、小さな穴部を介して搾取されて、流れ出る凝固剤により壁上で凝固される(ローター・ステーター凝固)。ジェット紡糸およびローター紡糸により、パルプ、フィブリルおよびフィブリドを直接得ることが可能である。
【0064】
従来の湿式紡糸は、以下のステップを含む:紡糸原液の調製、濾過、紡糸、凝固、洗浄、中和および乾燥。そのような方法は周知であって、例えば国際公開第2010094620号(WO2010094620)に記載されている。
【0065】
溶剤、ポリアリーレンポリマーおよび芳香族化合物または芳香族化合物の組合せを含む組成物は、種々の手法で調製されることができる。
【0066】
1つの実施形態においては、ポリマー、溶剤および芳香族化合物または芳香族化合物の組合せが混合される。しかしながら、芳香族化合物または芳香族化合物の組合せを、ポリアリーレンを生じる重合反応中に添加することも可能である。
【0067】
溶剤は、選択されたポリマーに応じて選択される。例えば、パラアラミドの場合、通常、硫酸が使用され、一方で、ポリベンザゾールの場合は、リン酸が使用されることができる。
【0068】
好ましくは、処理後、ポリアリーレン繊維は、250から500℃の間の温度で、好ましくは300から450℃の間の温度で、より好ましくは350から400℃の間の温度で加熱される。熱処理の期間は、サブ秒〜数分、またはオフライン熱処理の場合はさらにそれより長い期間で変動してよい。好ましくは、加熱中に張力が印加される。
【0069】
好ましい実施形態においては、熱処理は、窒素でフラッシングされた非接触式オーブンを使用して適用される。
【0070】
したがって、好ましくは、本発明の方法においては、ステップ(ii)の後に得られる繊維は、250から500℃の間の温度に、好ましくは300から450℃の間の温度に、より好ましくは350から400℃の間の温度に加熱される。
【0071】
熱処理は、結晶成長を引き起こすことができ、これは加水分解安定性に好ましい追加の効果を及ぼすことができる。結晶サイズの成長は、広角X線回折によって見掛け結晶サイズL110を測定することによって測定されることができる。
【0072】
例えば、45から130Åの間の、好ましくは60から120Åの間の、より好ましくは80から110Åの間の範囲のアラミド繊維のL110値が特に有利であると考えられる。それゆえ、本発明は、45から130Åの間の、好ましくは60から120Åの間の、より好ましくは80から110Åの間の範囲の結晶サイズL110を有する本発明によるアラミド繊維も対象とする。
【0073】
例えば、55から130Åの間の、好ましくは65から125Åの間の、より好ましくは80から120Åの間の範囲のポリベンザゾール繊維のL110値が特に有利であると考えられる。それゆえ、本発明は、55から130Åの間の、好ましくは65から125Åの間の、より好ましくは80から120Åの間の範囲の結晶サイズL110を有する本発明によるポリベンザゾールも対象とする。
【0074】
ポリアリーレン繊維を製造するために紡糸法が使用される場合、紡糸原液が調製されなければならない。
【0075】
それゆえ、本発明はまた、紡糸原液であって、ポリアリーレンポリマーと、紡糸原液中のポリアリーレンポリマーの重量に基づいて0.1〜15%の芳香族化合物または芳香族化合物の組合せとを含む紡糸原液において、各化合物が、芳香族コアと、置換基AまたはBの少なくとも1つとを含むことを特徴とし、ここで、Aは、式1:
【化15】
によって表され、かつBは、式2:
【化16】
によって表され、該式中、
R1およびR2は、互いに独立して、炭素原子2〜10個を含むアルカンジイルから選択され、
R3およびR4は、互いに独立して、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、または炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキルから選択され、
R5は、−H、炭素原子1〜10個を含むアルキル、炭素原子3〜10個を含むホモシクロアルキル、炭素原子1〜10個を含むヘテロシクロアルキル、および芳香族コアに縮合されたフタルイミド環構造を形成するカルボニル(−C(=O)−)
から選択される、紡糸原液に関する。
【0076】
パラアミド、特にPPTAの場合、そのような紡糸原液の溶剤は、硫酸である。
【0077】
ポリベンザゾールの場合、通常、これはリン酸である。好ましくは、本発明において記載される化合物は、酸性溶剤中で安定であり、かつ水溶液中に溶解しないかまたは僅かしか溶解しないことから、凝固中または凝固後に、化合物は洗い流されないかまたは僅かな量しか洗い流されない。
【0078】
ポリアリーレンがアラミドである場合、紡糸原液の重量に基づいたアラミド濃度は、12から25重量%の間で、好ましくは17から22重量%の間で変動する。最も好ましいのは、18から20重量%の間のアラミド濃度である。
【0079】
上記の一種の芳香族化合物または芳香族化合物の組合せが、紡糸原液中に存在する。化合物または化合物の組合せの全体の濃度は、紡糸原液中のアラミドの重量に基づいて0.1から15重量%の間で変動し、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜6重量%である。
【0080】
複数の化合物が使用される場合、(単一濃度値を加えることによって測定される)組合せの濃度は、上述の濃度の範囲にあるべきである。
【0081】
ポリアリーレン繊維に含まれることができる化合物について記載した種々の実施形態は、ポリアリーレン繊維を製造するための紡糸原液および方法において使用される化合物または化合物の組合せの可能な実施形態でもある。
【0082】
より具体的には、本発明は、請求項2〜13において定義されるポリアリーレンと芳香族化合物とを含む紡糸原液、ならびにポリアリーレンおよび芳香族化合物が請求項2〜13における定義のとおり使用される方法にも関する。
【0083】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するものであるが、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【0084】
実験の詳細および実施例
1.線密度および引張特性の測定
糸の単位当たりの質量(線密度)を、ASTM D1907「Test Method for Linear Density of Yarn (Yarn Number) by the Skein Method(Skein法による糸の線密度(糸番号)の試験法)」に準拠して糸の長さを秤量することによって測定する。線密度の単位は、dtex=g/10000mまたは0.1mg/mである。
【0085】
糸の引張特性は、ASTM D7269「Standard Test Methods for Tensile Testing of Aramid Yarns(アラミド糸の引張試験の標準試験法)」に従って測定し、それに関してASTM D1776「Practice for Conditioning and Testing Textiles(テキスタイルのコンディショニングおよび試験のためのプラクティス)」に従って20℃および相対湿度65%で14時間にわたってサンプルをコンディショニングする。この規格とは異なり、45℃で3時間にわたるプレコンディショニングは適用しなかった。同様に、テープの線密度および引張特性を、これらのサンプルがねじられていない場合に測定する。
【0086】
2.加水分解安定性の測定
糸の加水分解安定性を、強制空気循環式オーブン内で測定する。ねじれに対する保護が施された糸を、張力をかけずにガラスロッドに巻き取って、クエン酸、水酸化ナトリウムおよび塩酸をベースとするpH4緩衝液が充填されたガラス管に入れる。挿入後、ガラス管を閉じて、オーブンに90℃で入れる。規則的な時間間隔で、サンプルをオーブンから取り出す。冷却後、糸を水道水ですすいで、45℃で3時間にわたって乾燥する。乾燥後、糸を少なくとも14時間にわたって20℃およびR.H.65%でコンディショニングする。
【0087】
引張破断強度を、ASTM D7269に準拠して測定する。加水分解条件に曝されるサンプルの引張破断強度は、ガラスロッドに巻き取られて20℃の温度および相対湿度65%を有する空気に曝される同じ糸のサンプルの引張破断強度に対する百分率として表される。
【0088】
空気に曝される糸の引張破断強度を100%に設定する。
【0089】
典型的には、引張破断強度は、曝露から1、2、4、8、13、26および52週間後に測定する。
【0090】
内挿によって、糸の引張破断強度が初期値の90%(t0.9)および80%(t0.8)に減少した時間を測定する。
【0091】
3.横方向の結晶サイズの測定
a)サンプルの調製および測定
サンプル、この場合はアラミド繊維サンプルを、Brucker D8 Advance diffractometerを使用してθ/2θの配置で測定する。回折計には、平行ビーム光学系および点検出器(シンチレーションカウンター)が備わっている。光学系は、Cu−Kα線(Kα1/Kα2ダブレット、Kα波長=1.5418Å)を供給する主要な60mmのGoebel集束ミラー(放物線状Ni/C多層デバイス)と、0.12°のソーラースリットとから成る。糸サンプルを、フィラメントが平行になるように、厚さ0.3mmのサンプルホルダーに巻き取る。サンプルホルダーを、糸の軸がゴニオメーター軸と平行になるように回折計に取り付ける。微結晶サイズの測定のために、赤道方向の110および200反射を伴う赤道方向のX線散乱強度を、反射配置における回折角2θを関数として測定する。発電機の設定は、40kV、35mAである。スキャンパラメーター:範囲3〜43°(2θ)、ステップ幅:0.02°(2θ)、タイム/ステップ:8秒。回折角2θは、一次X線ビームと回折X線ビームとの間の角度である。
【0092】
b)評価
L110パラメーターを介して定量化される微結晶サイズは、シェラーの式によれば110反射のピーク幅βに反比例する。
【0093】
【数1】
【0094】
式中:
λは、用いられるX線の波長(1.5418Å)であり、
θは、回折角の半分であり、
βcorrは、機器幅の大きさである。
【0095】
左側のメインピークの半値全幅β(FWHM)を、プロファイルフィッティングを使用して測定する。左側のメインピークは、110反射である。プロファイルフィッティングにおいては、110および200ピークを、線形バックグラウンドと一緒にフィッティングする。ピークを、対称ピアソンIV関数によりフィッティングする。シリコーン粉末サンプルを測定することによって得られた機器幅を使用する。約2θ=28°でのピークのピーク幅(FWHM)を、機器幅βcorrとして取り入れる。続けて、微結晶サイズパラメーターL110を、シェラーの式により計算する。ポリベンザゾールの場合、2θ=16.2°での赤道方向のメインピークの微結晶サイズLを測定するために類似の手順を使用する。
【0096】
4.本発明において使用される化合物の合成
a)N,N−ビス[4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)フェニル]ベンゼン−1,4−ジカルボキサミド(1)の合成
化合物1に向けての合成経路をスキーム1に示し、これは、以下にそれぞれ記載される3つの連続した反応ステップa1〜a3から成る。
【0097】
【化17】
【0098】
スキーム1
a1)(4−メチルピペラジン−1−イル)(4−ニトロフェニル)メタノン(2)の合成
100mLの三つ口フラスコに、マグネチックスターラーバー、窒素入口および出口ならびにセプタムを取り付けた。装置一式を、ヒートガンを使用して完全に乾燥して、窒素流下で室温に冷却させた。次いで、4−ニトロベンゾイルクロリド(4.64g、25.0mmol)を、乾燥ジクロロメタン(50mL)中に溶解して、この溶液を、氷水浴中に10分間静置した。N−メチルピペラジン(2.58g、25.8mmol、1.03当量)を激しく撹拌しながら、10分の時間間隔で滴加した。結果生じる懸濁液を、0℃で1時間にわたって撹拌し、その後、トリエチルアミン(5.01g、50.0mmol、2.0当量)を添加して、室温で1時間にわたって撹拌し続けた。反応混合物を分液漏斗に移して、脱塩水(3×50mL)で洗浄した。有機層をNaSO上で乾燥し、濾紙で濾過して、すべての揮発分を、回転蒸発器を使用して減圧下で除去することで、所望の生成物として淡橙色の固体(5.77g、23.1mmol、92%)を得た。
【0099】
a2)(4−メチルピペラジン−1−イル)(4−アミノフェニル)メタノン(3)の合成
(4−メチルピペラジン−1−イル)(4−ニトロフェニル)メタノン(2)を、0.5LのBuechiオートクレーブ中で触媒としてのラネーニッケルを使用して接触還元した。反応器に、96%エタノール(249.2g)中のニトロ化合物2(25.2g、101.1mmol)の溶液および水(9mL)中のラネーニッケル(2.05g、0.22質量当量)の懸濁液を入れた。続けて、反応器容器をN(3×)およびH(3×)でパージし、その後、反応器の中身を80℃に加熱して、反応器を10barに加圧した。撹拌速度を1500rpmに上昇させて、完全に還元されるように反応を60分間進行させた。反応器の中身を50℃に冷却して、フィルター(2μmの孔径)を通じて容器に注ぐことで反応器を空にした。直後に、96%エタノール(210.0g)中のニトロ化合物2(21.0g)の別の量を、同じ触媒バッチを使用して還元した。第二のバッチの除去後、反応器をエタノール(130g)ですすいで、合一されたフラクションのすべての揮発分を、回転蒸発器を使用して減圧下で除去することで、ピンク色〜淡褐色の油状物を得た(これは放置状態で結晶化する)。続けて、固体を50℃で一晩中真空乾燥することで、粗アミン3(39.5g、97%)を淡褐色の固体残留物として得た。
【0100】
a3)N,N−(ビス−4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)フェニル)−テトラフタルアミドの合成
オーブン乾燥された1000mLの三つ口フラスコに、メカニカルスターラー、窒素入口および出口を取り付けて、これを窒素流下で室温に冷却した。アミン3(38.1g、173mmol)をフラスコに入れて、乾燥N−メチルピロリドン−2−オン(NMP)(503g)中に溶解した。この溶液を氷水浴中で20分間にわたって冷却し、その後、テレフタロイルジクロリドの固体フレーク(17.53g、86.3mmol、0.50当量)を、500rpmで撹拌しながら単回でフラスコに添加した。添加漏斗をNMP(40g)ですすいで、この懸濁液を0℃で1時間にわたって撹拌した後に、また室温で0.5時間撹拌した。濃縮された水性水酸化アンモニウム(94g、30重量%)を反応混合物にゆっくりと添加し、続けてこれを脱塩水(3.5L)に注いだ。溶液のpHを、さらに水酸化アンモニア溶液(130g、30重量%)を添加することによって10に調整した。微細な白色沈殿物を、約0.5時間にわたって沈降させ、その後、透明な最上層をデカントした。沈殿物を懸濁し、真空を適用しながらミリポアフィルター(Durapore GV、0.22μmの孔径)で濾過して、脱塩水(3×250mL)で洗浄した。粗生成物をさらに、温かい高純度のMilliQ水(1.0L、T=65℃)中で約1時間にわたって生成物の懸濁を繰り返し(4×)、約36〜38℃に冷却し、ミリポアフィルターで濾過し、MilliQ水(2×250mL)で洗浄して、空気にあてて5〜15分間にわたって吸引乾燥することにより精製した。湿った生成物を50℃で一晩中真空乾燥することで、オフホワイトの微細な粉末(46.4g、95%)として所望の化合物を得た。
【0101】
b)1−メチル−4−[4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)ベンゾイル]ピペラジンの合成
【化18】
【0102】
500mLの三つ口フラスコに、メカニカルスターラーおよび添加漏斗を取り付けた。フラスコに、2.0M NaOH(166.2g、0.308molのNaOH)中のN−メチルピペラジン(26.58g、0.265mol)の溶液を入れた。フラスコを、撹拌しながら氷/水浴中で30分間にわたって冷却した。次いで、乾燥テトラヒドロフラン(55.2g)中のテレフタロイルジクロリド(24.36g、0.120mol)の溶液を、激しく撹拌しながらフラスコに滴加した。添加速度は、内部温度が5℃未満に留まるようにした。反応混合物を、脱塩水の添加によって希釈して、pHを、37重量%のHCl溶液の注意深い添加によって8に設定した。反応混合物を2等分した。反応混合物の各分量から、ジクロロメタン(2×400mL+3×100mL)を用いた抽出によって生成物を単離した。合一された有機層をブラインで洗浄して、NaSO上で乾燥した。濾過後、すべての揮発分を回転蒸発器により減圧下で除去し、さらにジエチルエーテル中で粉砕した後に真空乾燥することにより精製することで、微細な白色粉末として表題の化合物(27.16g、68%)を得た。
【0103】
5.本発明によるアラミド繊維の紡糸
i)砂質の紡糸原液の調製
6リットルのDraisミキサー中で、砂質の紡糸原液のバッチを調製した。まず、99.8重量%の硫酸2008gを、芳香族添加剤15gと、−20℃で2時間にわたって混合した。次いで、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(PPTA)477gを添加して、2時間にわたって混合した。続けて、冷却を停止して、さらに10〜12時間にわたって混合物を撹拌した。結果生じる砂質の紡糸原液は、PPTA19.1重量%および添加剤0.6重量%を含有していた。PPTA19.7重量%の参照バッチを、硫酸に添加剤を添加せずに、類似の手法で調製した。両方の紡糸原液中の全固体含量は、19.7重量%であった。
【0104】
ii)原液の紡糸
i)で得られた砂質の紡糸原液を、二軸スクリューに計量供給して、85℃で押出すことで、溶融液晶溶液を得た。この溶液を、直径59ミクロンの孔106個を有する紡糸口金にポンプで送り出した。紡糸孔に通して押出した後、液体フィラメントを約5mmのエアギャップに引き込んで、続けて、脱塩水から成る凝固浴に入れた。凝固された繊維を、追加の水で洗浄して残留硫酸を除去し、NaOH溶液で中和し、追加の水で洗浄し、250℃または160℃で乾燥してボビンに巻き取った。全体の紡糸工程は、160m/分の巻き取り速度でオンライン式に行った。
【0105】
実施例1−本発明によるアラミド成形体
サンプル1
(紡糸原液の重量に基づいて)19.1重量%のパラアラミドおよび0.6重量%のN,N−ビス[4−(4−メチルピペラジン−1−カルボニル)フェニル]ベンゼン−1,4−ジカルボキサミドを含有する紡糸原液を、上記のとおり調製および処理し、糸を250℃で乾燥した。
【0106】
比較サンプル1
パラアラミド19.7重量%を含有する紡糸原液を、上述のとおり調製および処理し、芳香族化合物は添加せず、糸を250℃で乾燥した。
【0107】
続けて、サンプル1および比較サンプル1として調製した繊維の加水分解安定性t0.9およびt0.8を、記載したとおり試験した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
添加剤を含む繊維の加水分解安定性t0.9およびt0.8は、それぞれ2週間から8週間および10週間から23週間へと顕著に改善される。すなわち、本発明によるポリアリーレン成形体は、従来のポリアリーレン繊維よりもずっと長くその強度を保持し、ひいては加水分解を引き起こす条件下でもずっと長く使用することができる。
【0110】
ポリアリーレン繊維の弾性率は、オフライン熱処理によって改善することができる。これを調べるために、以下のサンプルを調製した:
サンプル2
繊維をサンプル1と同じように紡糸したが、250℃の代わりに160℃で乾燥した。
【0111】
比較サンプル2
繊維を比較サンプル1と同じように紡糸したが、250℃の代わりに160℃で乾燥した。
【0112】
サンプル3
サンプル2の繊維を、ゾーン1において1.6cN/dtexの張力下に400℃で熱処理し、そしてゾーン2において0.11cN/dtexの張力下に120℃で熱処理した。
【0113】
サンプル4
サンプル1の繊維を、ゾーン1において1.5cN/dtexの張力下に450℃で熱処理し、そしてゾーン2において0.11cN/dtexの張力下に120℃で熱処理した。
【0114】
【表2】