(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記構造体は、連続した複数の接触部と、連続した複数の非接触部とを有し、前記連続した複数の接触部と前記連続した複数の非接触部が、縞状構造を形成し、前記縞状構造が、前記カーボンナノチューブの整列方向に対して前記平面視において交差して、かつ、隣り合う連続した接触部の、対向し合う各々の端部において、一方の端部の任意の一点について、他方の端部の最も近接した点までの距離が常に5mm未満となるように設けられている、
請求項3から請求項6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブシートの改質方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第一実施形態〕
[改質方法]
以下、本実施形態のカーボンナノチューブシートの改質方法(以下、「本改質方法」ということもある。)を説明する。
【0021】
本改質方法は、構造体上に一または複数のカーボンナノチューブシートを載置する工程(以下、便宜上「載置工程」ということもある)と、前記構造体上のカーボンナノチューブシートを常温で液体の物質の蒸気または粒子に曝露する工程(以下、便宜上「曝露工程」ということもある)とを含む。
以下、まず本実施形態に係るカーボンナノチューブシートについて説明し、その後、本改質方法の各工程について説明する。
【0022】
(カーボンナノチューブシート)
本実施形態に係るカーボンナノチューブシートは、複数のカーボンナノチューブが、シート面内の一方向に優先的に整列した構造を有する。
【0023】
本明細書において、「カーボンナノチューブがシート面内の一方向に整列した構造」とは、カーボンナノチューブがシート面内の一方向に沿って整列した状態のことであり、例えば、カーボンナノチューブの長軸が、シート面内の一方向と平行になるように整列した状態が挙げられる。
【0024】
また、本明細書において、「優先的に整列した状態」とは、当該整列した状態が主流であることを意味する。例えば、上記のように、カーボンナノチューブの長軸が、シート面内の一方向と平行になるように整列した状態である場合、当該整列状態が主流であれば、一部のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの長軸が、シート面内の一方向と平行になるように整列した状態でなくてもよい。
【0025】
カーボンナノチューブシートは、例えば、カーボンナノチューブのフォレスト(カーボンナノチューブを、基板の主面に対して垂直方向に配向するよう、基板上に複数成長させた成長体のことであり、「アレイ」と称される場合もある)から、分子間力により集合したカーボンナノチューブをシートの状態で引き出して基板から引き離すことにより得られる。
【0026】
(載置工程)
載置工程では、構造体上に、カーボンナノチューブシートを載置する。この時、積層されていない単一のカーボンナノチューブシートを載置してもよいし、複数のカーボンナノチューブシートが予め積層されたシートを載置してもよい。
【0027】
本改質方法に係る構造体は、カーボンナノチューブシートを載置する載置部を有する。
構造体の載置部は、カーボンナノチューブシートとは接触しない非接触部およびカーボンナノチューブシートと接触する接触部を有する。非接触部と接触部との境界と、載置部の平面視において、カーボンナノチューブの整列方向に平行し、かつ非接触部を跨ぐ直線との、非接触部における交点間の最長距離をL
1とし、非接触部と前記接触部との境界と、載置部の平面視において、カーボンナノチューブの整列方向に交差し、かつ非接触部を跨ぐ直線との、非接触部における交点間の最長距離をL
2としたとき、L
1がL
2よりも大きい場合、少なくともL
2は0mm超10mm未満である。L
1がL
2よりも小さい場合、少なくともL
1は0mm超10mm未満である。L
1とL
2が等しい場合、L
1およびL
2は0mm超10mm未満である。
【0028】
本実施形態において、L
1がL
2よりも大きい場合、少なくともL
2は、10μm超5mm以下であることが好ましく、50μm以上2mm以下であることがより好ましく、100μm以上1.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態において、L
1がL
2よりも小さい場合、少なくともL
1は、10μm超5mm以下であることが好ましく、50μm以上2mm以下であることがより好ましく、100μm以上1.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態において、L
1とL
2が等しい場合、L
1およびL
2は、10μm超5mm以下であることが好ましく、50μm以上2mm以下であることがより好ましく、100μm以上1.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
本実施形態では、前記非接触部および前記接触部の少なくともいずれかは、独立して複数存在する。
【0032】
構造体の載置部が、独立した複数の非接触部を有する場合、非接触部の形状は、特に限定されず、例えば、正方形、長方形、矩形、円状、楕円状、ハニカム状、櫛葉状、直線状、曲線状、波線状(正弦波曲線等)、および多角形状の網目状等であり、あるいは不定形の形状であってもよい。また、後述するように非接触部が微細孔を有していてもよい。
【0033】
構造体の載置部が、独立した複数の接触部を有する場合、独立した複数の接触部は、各々、載置部の平面視において、シート面内の隣り合う(近接する)他の接触部との最短距離(両接触部の端部の最近接距離)が0mm超10mm未満であることが好ましい。カーボンナノチューブシートにおいて、シート面内の一方向に優先的に整列した複数のカーボンナノチューブは、後述する曝露工程において、その方向を軸として、バンドリングされる。この方向において、個々の独立した複数の接触部同士が緊密に存在することにより、カーボンナノチューブがバンドリングされる際の、接触部により固定されたシートの両端部の間隔の距離が短くなる。その結果、バンドリングされるカーボンナノチューブの数が適度となり、カーボンナノチューブの均一な分布が維持されやすい。独立した複数の接触部は、各々、載置部の平面視において、隣り合う他の接触部との最短距離が10μm超5mm以下であることが好ましく、50μm以上2mm以下であることがより好ましく、100μm以上1.5mm以下であることがさらに好ましい。接触部の形状も特に限定されず、例えば、正方形、長方形、矩形、円状、楕円状、曲線状、波線状(正弦波曲線等)、および多角形状等であり、あるいは不定形の形状であってもよい。
【0034】
ここで、本明細書において、「バンドリング」とは、カーボンナノチューブシートを構成するカーボンナノチューブについて、近接する複数のカーボンナノチューブが束(繊維状に集合した構造)になった状態とすることである。
なお、以下、カーボンナノチューブシートが有するカーボンナノチューブをバンドリングする処理を「バンドリング処理」という。
【0035】
本改質方法に係る構造体は、最長距離L
2が、カーボンナノチューブシートにおけるカーボンナノチューブの整列方向に対して、載置部の平面視において60〜90°の角度を成して交差する直線上にあり、かつ0mm超10mm未満であることが好ましい。より好ましくは実質的に直交(80〜90°の角度を成して交差)する直線上に、最長距離L
2があり(90°の場合については
図1参照)、当該最長距離L
2が0mm超10mm未満であることが好ましい。
【0036】
本改質方法に係る構造体は、最長距離L
1が0mm超10mm未満であることがより好ましい。すなわち、構造体は、カーボンナノチューブの整列方向において、隣接する接触部間の最長距離(両接触部の端部の最も離間した距離)が、0mm超10mm未満であることが好ましい。すなわち、構造体表面において任意に引かれた、カーボンナノチューブの整列方向と平行な直線上に存在する接触部について、隣接する接触部間の、当該直線の線分の長さが0mm超10mm未満であることが好ましい(
図1参照)。カーボンナノチューブシートにおいてシート面内の一方向に優先的に整列した複数のカーボンナノチューブは、後述する曝露工程において、その方向を軸として、バンドリングされる。この方向において、隣接する接触部間の距離が10mmよりも小さいことにより、複数のカーボンナノチューブがバンドリングされる際の、接触部により固定されたシートの両端部の間隔の距離が短くなる。その結果、バンドリングされるカーボンナノチューブの数が適度となり、カーボンナノチューブの均一な分布が維持されやすい。カーボンナノチューブの整列方向における、隣接する接触部間の最長距離は、10μm超5mm以下であることがより好ましく、50μm以上2mm以下であることがさらに好ましく、100μm以上1.5mm以下であることがさらにより好ましい。
【0037】
また、後述するように、曝露工程において、接触部に対応するカーボンナノチューブシートでは、カーボンナノチューブのバンドリングがなされない。そのため、カーボンナノチューブシート全体におけるバンドリング処理済みの部分の面積の割合を大きくするためには、構造体における接触部の面積を相対的に小さくする必要がある。このような観点から、カーボンナノチューブの整列方向において、隣接する非接触部間の距離が、0mm超5mm未満であることが好ましい。すなわち、構造体表面(載置部を有する面)において任意に引かれた、カーボンナノチューブの整列方向と平行な直線上に存在する非接触部について、隣接する非接触部間の、当該直線の線分の長さが0mm超5mm未満であることが好ましい。カーボンナノチューブの整列方向において、隣接する非接触部間の距離は、10μm超2mm以下であることがより好ましく、50μm以上1mm以下であることがさらに好ましく、100μm以上500μm以下であることがさらにより好ましい。
なお、ここでいう「構造体表面において任意に引かれた、カーボンナノチューブの整列方向と平行な直線上に存在する」とは、発明の効果が得られる限り、構造体表面の一部のみにおいて、任意に引かれた、カーボンナノチューブの整列方向と平行な直線上に存在することを含む。
【0038】
本改質方法に係る構造体は、最長距離L
1および最長距離L
2のいずれもが、0mm超10mm未満であることが好ましい。
【0039】
本改質方法に係る構造体としては、例えば、非接触部が微細孔を有する構造体が用いられる。
【0040】
ここで、本明細書において、「微細孔」とは、孔の開口径(孔の最小径)が10mm未満である孔をいう。非接触部が微細孔を有する構造体は、後述する第二実施形態においても採用することができるが、本実施形態においてこのような構造体を採用することで、前記非接触部および前記接触部の少なくともいずれかが独立して複数存在する構造体を、容易に得ることができる。カーボンナノチューブシートの幅方向の収縮を防止する観点から、本実施形態において、微細孔の開口径は、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましい。微細孔の開口径の下限値は、特に限定されず、カーボンナノチューブシートの光線透過率および粘着力等を考慮し、適宜設計すればよいが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
微細孔の開口部の形状は、特に限定されない。
微細孔は、最大径が0mm超10mm未満であることが好ましい。
【0041】
本改質方法に係る構造体は、複数の微細孔と、連続した接触部を有する構造体であってもよく、複数の微細孔と、独立した複数の接触部を有する構造体であってもよい。
ここで、本明細書において、「連続した接触部」とは、載置部の平面視において、接触部が非接触部により閉鎖されていないことをいう。また、「連続した非接触部」とは、載置部の平面視において、非接触部が接触部により閉鎖されていないことをいう。
【0042】
本実施形態に係る構造体としては、例えば、メッシュ状、ネット状、パンチング状、エンボス状、格子状、あるいはこれらを組み合わせた構造体等が挙げられる。より具体的には、例えば、複数の微細孔と、連続した接触部を有する構造体として、スポンジ、マクロポーラス材料(例えば、軽石、およびマクロポーラスセラミック等)、ハニカム多孔構造体、並びにパンチング加工された金属箔等が挙げられる。これらの構造体においては、微細孔を有する非接触部は独立している。
また例えば、複数の微細孔と、独立した複数の接触部を有する構造体として、金属メッシュ、および平面的な球充填構造体等が挙げられる。これらの構造体においては、微細孔を有する非接触部は連続している。
なお、3Dプリンター等の公知の手段により、微細孔を有する構造体を形成してもよい。
【0043】
図2は、第一実施形態に係る構造体の別の一例を示す概略図であり、メッシュ状の構造体1Aに支持されたカーボンナノチューブシート5Aの一部を破断して図示している。
メッシュ状の構造体1Aは、格子状パターンの複数の微細孔2Aを有する。
図2において、L
1が微細孔2Aの最小径(微細孔2Aの開口径)となる。メッシュ状の構造体1Aは、メッシュを構成する糸がパターン化された隆起構造を有しており、カーボンナノチューブシート5Aが載置される側の隆起構造が、カーボンナノチューブシート5Aとの接触部3Aとなる(
図3参照)。
【0044】
(曝露工程)
曝露工程では、メッシュ状の構造体1A上に載置したカーボンナノチューブシート5Aを常温で液体の物質の蒸気または粒子(エアロゾル)に曝露する。
曝露工程により、カーボンナノチューブシート5Aのカーボンナノチューブをバンドリングすることができる。
なお、本明細書において、「常温」とは、25℃の温度のことである。
【0045】
本実施形態に係る常温で液体の物質としては、例えば、水、および有機溶媒等が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、およびエステル類等が挙げられる。アルコール類としては、例えば、エタノール、メタノール、およびイソプロピルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、およびメチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、例えば、酢酸エチル等が挙げられる。
【0046】
メッシュ状の構造体1A上に載置したカーボンナノチューブシート5Aを常温で液体の物質の蒸気または粒子(エアロゾル)に曝露する方法としては、例えば、メッシュ状の構造体1A上のカーボンナノチューブシート5Aに常温で液体の物質を噴霧する方法、および超音波加湿器等を用いて常温で液体の物質のエアロゾルを発生させた後、発生させたエアロゾル中に、カーボンナノチューブシート5Aをメッシュ状の構造体1Aごと曝露する方法等が挙げられる。
【0047】
常温で液体の物質の粒子により曝露工程を行う場合、粒子をカーボンナノチューブシート5Aの内部に入り込みやすくする観点から、当該常温で液体の物質の粒子径(カーボンナノチューブシート5Aに付着した粒子を無作為に10点で抽出して光学顕微鏡で観察し、測定した、粒子の長径の平均)は、5nm以上200μm以下であることが好ましく、7.5nm以上100μm以下であることがより好ましく、10nm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
光線透過性の向上および面抵抗低下の観点から、カーボンナノチューブが繊維状に集合した構造の平均直径(複数の構造の直径の平均)は、好ましくは1μm以上300μm以下であり、より好ましくは3μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上50μm以下である。
なお、本明細書において、カーボンナノチューブが繊維状に集合した構造の平均直径とは、当該構造の外側の円周の平均直径のことを指す。
【0049】
本改質方法によれば、メッシュ状の構造体1Aにおけるメッシュを構成する糸がパターン化された隆起構造を形成した部分である接触部3Aと、カーボンナノチューブシート5Aとが接触するので、接触部3Aと接触しているカーボンナノチューブシート5Aの部分のカーボンナノチューブはバンドリングされず、接触していない箇所(メッシュ状の構造体1Aの微細孔2Aおよびメッシュを構成する糸の隆起構造の裾に当たる部分に対応する箇所)のカーボンナノチューブシート5Aのカーボンナノチューブはバンドリングされる(
図4参照)。フリースタンディング状態(カーボンナノチューブシートを何らかの支持構造に載せず、自立した状態)でカーボンナノチューブシートにバンドリング処理をする場合には、幅方向の収縮が顕著となる。本改質方法によれば、載置部4Aの平面視において複数の微細孔(所定の開口径を有する非接触部)2Aを有するメッシュ状の構造体1A上においてカーボンナノチューブシート5Aにバンドリング処理をすることで、カーボンナノチューブシート5Aの幅方向の収縮が防止される。
【0050】
本改質方法によれば、近接する複数のカーボンナノチューブが束になる結果、カーボンナノチューブシート5A中に空隙が生じ、その結果、カーボンナノチューブシート5Aの光線透過性が向上する。また、面抵抗が低下する等の効果が得られる。
一方、カーボンナノチューブシートを非接触部を有しない支持構造に配置して液体蒸気に曝露する等の処理を施す場合、カーボンナノチューブシートの支持構造側の面全体が支持構造と接触する。そのため、処理を施しても、カーボンナノチューブシートは支持構造側(カーボンナノチューブシートの厚み方向)に移動するのみで、カーボンナノチューブ同士は繊維状に集合しない。そのため、光線透過率の向上、および面抵抗の低下等の効果は得られない。
【0051】
また、本改質方法によれば、メッシュ状の構造体1Aの微細孔2Aを有する非接触部のパターンに合わせて、バンドリング処理された部分とされていない部分をカーボンナノチューブシートに形成することができる。
【0052】
[改質されたカーボンナノチューブシート]
本改質方法によれば、例えば、光線透過性、および面抵抗等が改質されたカーボンナノチューブシートが得られる。改質されたカーボンナノチューブシートは、光線透過率は70%以上であることが好ましい。カーボンナノチューブシートの光線透過率が70%以上であれば、例えば、視認性が求められる乗用車の窓、および造影の鮮明性が求められる鏡等に好適に用いられる。カーボンナノチューブシートの光線透過率は、例えば、カーボンナノチューブシート中の空隙を多くすることで向上させることができる。カーボンナノチューブシート中の空隙を多くするには、例えば、構造体における微細孔の開口径を大きくすること等により、非接触部の面積を増やせばよい。
改質されたカーボンナノチューブシートの光線透過率は、好ましくは70%以上100%以下であり、より好ましくは80%以上99.9%以下である。
なお、光線透過率は、例えば、可視−紫外光源および分光器を用いた光学透過率測定器等を用いて測定することができる。
【0053】
[粘着シート]
以下、本実施形態に係る粘着シートを説明する。
図5には、本実施形態の粘着シート10の断面概略図が示されている。
図5に示されているように、本実施形態に係る粘着シート10は、カーボンナノチューブシート11と、粘着剤を含有する粘着剤層12と、を有する。本実施形態に係る粘着シート10は、カーボンナノチューブシート11の第一の面11a(以下、「第一シート面11a」ということもある)と、粘着剤層12の第一の面12a(以下、「第一粘着面12a」ということもある)とが隣接している。
【0054】
カーボンナノチューブシート11は、上述の本実施形態のカーボンナノチューブシートの改質方法により得られるバンドリング処理が施されたカーボンナノチューブシートである。そのため、カーボンナノチューブシート11の光線透過性を向上させることができる。
【0055】
カーボンナノチューブシート11の厚さt
11(
図5参照)は、粘着シート10の用途に応じて適宜決定される。例えば、カーボンナノチューブシート11を被着体と粘着剤層12の間に介在させて粘着シート10を被着体に貼る場合の粘着性の観点、および粘着シート10の光線透過率を高めることをより容易とする観点から、カーボンナノチューブシート11の厚さt
11は、0.01μm以上100μm以下であることが好ましく、0.05μm以上75μm以下であることがより好ましい。
【0056】
(粘着剤層)
粘着剤層12を構成する粘着剤は、特に限定されない。例えば、粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、およびポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。粘着剤層12を構成する粘着剤は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、およびゴム系粘着剤からなる群から選択される少なくともいずれかであることが好ましく、アクリル系粘着剤であることがより好ましい。
【0057】
アクリル系粘着剤は、アクリル重合体を含む。アクリル重合体は、例えば、直鎖のアルキル基または分岐鎖のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位、および環状構造を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位等を含む。ここで「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0058】
より具体的には、アクリル系重合体の構成単位としては、炭素数1〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1’)(以下、「単量体成分(a1’)」ともいう)に由来する構成単位(a1)、官能基含有モノマー(a2’)(以下、「単量体成分(a2’)」ともいう)に由来する構成単位(a2)、および単量体成分(a1’)と単量体成分(a2’)を除くその他の単量体成分(a3’)に由来する構成単位(a3)が挙げられる。
【0059】
前述のアクリル系重合体は、少なくとも構成単位(a1)または(a2)のいずれかを含み、構成単位(a1)〜(a3)から選ばれる2種以上を含む共重合体とすることができる。この場合、共重合の形態としては、特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、またはグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0060】
単量体成分(a1’)が有するアルキル基の炭素数としては、粘着特性の向上の観点から、好ましくは1〜18、より好ましくは2〜14、さらに好ましくは4〜12である。単量体成分(a1’)が有するアルキル基の炭素数がこのような範囲にあると、アクリル系重合体の主鎖同士の相互作用が阻害されつつ、側鎖の結晶化の影響も小さい。そのため、アクリル系重合体のガラス転移温度が低く維持され、粘着剤の粘着性が向上しやすい。したがって、カーボンナノチューブシート11の粘着剤層12が隣接する面とは反対の面(第二の面11b(以下、「第二シート面11b」ということもある))を被着体に貼付して測定した粘着シート10の粘着力を、後述する範囲に調整することが容易となる。
【0061】
単量体成分(a1’)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、およびステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単量体成分(a1’)の中でも、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、およびラウリル(メタ)アクリレートが好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレートおよび2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0062】
アクリル系重合体が、少なくとも構成単位(a1)を含み、さらに構成単位(a2)および(a3)のいずれか1種以上を含むアクリル系共重合体である場合には、構成単位(a1)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは50質量%以上99.5質量%以下、より好ましくは55質量%以上99質量%以下、さらに好ましくは60質量%以上97質量%以下、さらにより好ましくは65質量%以上95質量%以下である。
【0063】
単量体成分(a2’)としては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ケト基含有モノマー、およびアルコキシシリル基含有モノマー等が挙げられる。これらの単量体成分(a2’)の中でも、ヒドロキシ基含有モノマーおよびカルボキシ基含有モノマーが好ましい。
【0064】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、および4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0065】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸等が挙げられ、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0066】
エポキシ基含有モノマーとしては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミノ基含有モノマーとしては、例えばジアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。シアノ基含有モノマーとしては、例えばアクリロニトリル等が挙げられる。
【0067】
アクリル系重合体が、少なくとも構成単位(a2)を含み、さらに構成単位(a1)および(a3)のいずれか1種以上を含むアクリル系共重合体である場合には、構成単位(a2)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上30質量%以下、さらにより好ましくは1.5質量%以上20質量%以下である。
【0068】
単量体成分(a3’)としては、例えば、環状構造を有する(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、およびスチレン等が挙げられる。環状構造を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、およびアクリロイルモルフォリン等が挙げられる。
【0069】
アクリル系重合体が、少なくとも構成単位(a1)または(a2)を含み、さらに構成単位(a3)を含むアクリル系共重合体である場合には、構成単位(a3)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、好ましくは0質量%よりも大きく40質量%以下、より好ましくは0質量%よりも大きく30質量%以下、さらに好ましくは0質量%よりも大きく25質量%以下、よりさらに好ましくは0質量%よりも大きく20質量%以下である。
【0070】
なお、上述の単量体成分(a1’)は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよく、上述の単量体成分(a2’)は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよく、上述の単量体成分(a3’)は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
アクリル系重合体の重量平均分子量は、50,000以上2,500,000以下であることが好ましく、100,000以上1,500,000以下であることがより好ましい。一般的には、アクリル系重合体の重量平均分子量が低いほど、粘着剤が軟化し、粘着剤の粘着性が向上する傾向にある。第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着シート10の粘着力を、後述する範囲に調整する際には、アクリル系重合体の重量平均分子量をこのような範囲内で調整し、上記粘着力を制御しやすくすることができる。
【0072】
アクリル系重合体は架橋されていてもよい。架橋剤としては、例えば、公知のエポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、および金属キレート系架橋剤等を用いることができる。アクリル系重合体を架橋する場合には、単量体成分(a2’)に由来する官能基を、架橋剤と反応する架橋点として利用することができる。構成単位(a2)のみでは、アクリル系重合体の物理特性の制御が容易でない場合もあるため、この場合には、アクリル系重合体を、構成単位(a2)と、少なくとも構成単位(a1)および(a3)のいずれかを含むアクリル系共重合体とすることが好ましい。一般的には、架橋剤の添加量が少ないほど粘着剤が軟化し、粘着剤の粘着性が向上する傾向にある。架橋剤の添加量はアクリル系共重合体100質量部に対して、0.01質量部以上15質量部以下とすることが好ましく、0.05質量部以上10質量部以下とすることがより好ましい。第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着シート10の粘着力を、後述する範囲に調整する際には、架橋剤の添加量をこのような範囲内で調整し、上記粘着力を制御しやすくすることができる。
【0073】
粘着剤層12を構成する粘着剤層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。粘着剤層形成用組成物に含まれ得るその他の成分としては、例えば、有機溶媒、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、および濡れ性調整剤等が挙げられる。粘着付与剤を用いた場合には、第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着シート10の粘着力を後述する範囲に調整することが容易となる。粘着付与剤は、アクリル系粘着剤100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下とすることが好ましい。
【0074】
粘着剤層12の厚さt
12(
図5参照)は、粘着シート10の用途に応じて適宜決定される。一般的には、カーボンナノチューブシート11の第一シート面11aに形成された粘着剤層12の厚さt
12は、3μm以上150μm以下、好ましくは5μm以上100μm以下の範囲で調整される。例えば、粘着シート10全体の厚さを小さくするとともに、十分な接着性を得る観点から、t
12は、1μm以上20μm以下であることが好ましく、2μm以上9μm以下であることがより好ましい。
【0075】
粘着シート10は、被着体への十分な固定のための観点、および粘着シートの粘着性により、汚染物質等の対象物を除去する場合の除去性能の観点から、第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着力が8N/25mm以上であることが好ましい。より好ましくは9N/25mm以上、さらに好ましくは、9.5N/25mm以上である。また、カーボンナノチューブシート11の第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着力の上限は、特に限定されないが、通常35N/25mm以下程度である。
なお、本明細書における粘着力は、JIS Z0237:2000に基づき、180°引き剥がし法により、引っ張り速度300mm/分、シート幅25mmにて、貼付してから30分後の粘着力について測定した値である。
【0076】
ここで、第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着シート10の粘着力は、粘着シート10が支持体を有さない場合には、そのまま測定したのでは、通常、粘着剤層12の伸びの影響を受けてしまう。したがって、この場合の上記粘着力は、粘着剤層12のカーボンナノチューブシート11が隣接する面とは反対の面(第二の面12b(以下、「第二粘着面12b」ということもある))に支持体として厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合わせて得た試料について測定する。本発明では、上記の改質方法により、近接する複数のカーボンナノチューブが束になる結果、カーボンナノチューブシート中に空隙が生じる。これにより、第二シート面11bにおいては、その空隙において粘着剤層の粘着剤が露出しやすくなる。このため、粘着シート10の、第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着力を上記の範囲に調節することが容易である。
【0077】
[粘着シートの製造方法]
本実施形態の粘着シート10の製造方法は、粘着剤を含有する粘着剤層にカーボンナノチューブシートを積層する工程を含む。それ以外の工程は、特に限定されない。
例えば、粘着シート10は、次のような工程を経て製造される。
まず、公知の方法により、シリコンウエハ等の基板上にカーボンナノチューブのフォレストを形成する。次に、形成したフォレストの端部をよじり、ピンセット等で引き出すことにより、カーボンナノチューブシートを作製する。そして、作製したカーボンナノチューブシートに対して、本実施形態に係る改質方法を施すことで、カーボンナノチューブシート11を得る。
カーボンナノチューブシート11とは別に、粘着剤層を作製する。まず、剥離シートの上に粘着剤を塗布し、塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥させて、粘着剤層12を作製する。
作製した粘着剤層12の第一粘着面12aに、カーボンナノチューブシート11の第一シート面11aを貼り合わせる(積層する)。その後、剥離シートを剥がせば、粘着シート10が得られる。
【0078】
本実施形態の粘着シート10であれば、カーボンナノチューブシートの取扱い性が良好となり、様々な用途に容易に適用可能となる。
【0079】
〔第二実施形態〕
第二実施形態は、カーボンナノチューブシートの改質方法に係る構造体として、載置部が連続した接触部と、連続した非接触部とを有する構造体を用いる点で、第一実施形態とは相違する。
第二実施形態は、その他の点において第一実施形態と同様であるため、説明を省略または簡略化する。
【0080】
本実施形態の改質方法に係る構造体の好ましい形態としては、複数の連続した接触部(以下、「複数の支持部」ということもある)と、複数の連続した非接触部とを有し、これらが縞状構造を形成している形態が挙げられる。複数の支持部(例えば、縞状構造)は、カーボンナノチューブシートにおけるカーボンナノチューブの整列方向に対して、載置部の平面視において交差、好ましくは60〜90°の角度を成して交差、より好ましくは実質的に直交(80〜90°の角度を成して交差)し、かつ、隣り合う連続した接触部の、対向し合う各々の端部において、一方の端部の任意の一点について、他方の端部の最も近接した点までの距離が常に10mm未満となるように設けられている。縞を構成する線は、直線であってもよいし、例えば、波線、曲線、および折れ曲がり線等であってもよい。
【0081】
カーボンナノチューブシートの幅方向の収縮を防止する観点から、本実施形態において、隣り合う連続した接触部の、対向し合う各々の端部において、一方の端部の任意の一点について、他方の端部の最も近接した点までの距離が常に5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましい。各々の複数の支持部間の最長の距離の下限値は、特に限定されず、カーボンナノチューブシートの光線透過率および粘着力等を考慮し、適宜設計すればよいが、通常10μm以上であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。
【0082】
本実施形態においても、第一実施形態について上述したように、構造体は、最長距離L
1が、0mm超10mm未満であることが好ましい。このような構成は、複数の支持部と、連続した非接触部とが縞状構造を形成している場合において、隣り合う連続した接触部の、対向し合う各々の端部において、一方の端部の任意の一点について、他方の端部の最も近接した点までの距離が常に10mm未満であり、複数の支持部が、カーボンナノチューブシートにおけるカーボンナノチューブの整列方向に対して、載置部の平面視において実質的に直交することで容易に実現される。
【0083】
図6は、第二実施形態に係る構造体の一例を示す概略図であり、複数の連続した接触部2Bを有する構造体1Bに支持されたカーボンナノチューブシート5Bの一部を破断して図示している。
本実施形態の改質方法に係る構造体1Bは、複数の連続した接触部2Bと、連続した非接触部3Bを有している。複数の接触部2Bは、カーボンナノチューブシート5Bにおけるカーボンナノチューブの整列方向に対して、載置部4B(
図7参照)の平面視において直交する。隣接する接触部2B間の距離L
1は、上述の通りである。構造体1B上に載置したカーボンナノチューブシート5Bは、接触部2Bと接触する(
図7参照)。
【0084】
〔実施形態の変形〕
本発明は、前記実施形態(第一実施形態および第二実施形態)中の例示に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形および改良等は、本発明に含まれる。なお、以下の説明では、前記実施形態で説明した部材等と同一であれば、同一符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0085】
例えば、第一実施形態において、カーボンナノチューブシートを載置する構造体は、独立した複数の接触部としての隆起構造と、連続した非接触部を有する構造体であってもよい。このような構造体として、具体的には、例えば、複数の針状の構造、柱状の構造、および緩やかな傾斜を持つ隆起構造等が基体に立設した構造等が挙げられる。この場合、カーボンナノチューブシートとの接触部である隆起構造等の先端部は、平坦であるか、湾曲していることが好ましい。針または柱の形状としては、例えば、円柱状および円錐状等が挙げられる。
また例えば、カーボンナノチューブシートを載置する構造体は、サンドブラストまたは充填材の添加により凹凸が形成されたフィルム、およびエンボスフィルム等であってもよい。また、上述したように、金属メッシュおよび平面的な球充填構造体等のような、複数の微細孔と、独立した複数の接触部とを有する構造体も隆起構造を有している。
【0086】
このほか、カーボンナノチューブを載置する構造体が、以上に挙げたような微細孔を有する構造体、および隆起構造を有する構造体のほか、エンボスフィルムであって、連続した平坦な未処理部を接触部として有し、複数の独立した窪みを非接触部として有する構造体も第一実施形態に含まれる。
【0087】
また例えば、前記実施形態の改質方法においては、一または積層済みの複数のカーボンナノチューブシートを構造体上に載置した後、曝露工程を実施したが、載置工程において、前記構造体上でカーボンナノチューブシートを複数枚積層し、その後、曝露工程を実施してもよい。カーボンナノチューブシートを複数積層した場合、カーボンナノチューブシートの幅方向の収縮防止の効果が一層得られる。
【0088】
また例えば、カーボンナノチューブシートを複数積層する場合、一のカーボンナノチューブシートに対して載置工程および曝露工程を行って処理を施し、当該処理を施したカーボンナノチューブシートを複数積層した積層体に対して、さらに載置工程および曝露工程を実施してもよい。この場合にも、当該処理を施したカーボンナノチューブシートを、載置工程において構造体上で積層してもよい。
【0089】
また例えば、カーボンナノチューブシートを複数積層する場合、一のカーボンナノチューブシートを構造体上に載置した後、曝露工程を実施し、さらにそのカーボンナノチューブシートにもう一枚のカーボンナノチューブシートを積層して曝露工程を実施し、この手順を繰り返して逐次に積層体に曝露工程を実施してもよい。
【0090】
また例えば、前記実施形態の粘着シート10において、粘着剤層12は、硬化性であってもよい。粘着剤層12が硬化することにより、耐衝撃性が向上し、衝撃による粘着剤層12の変形を防止できる。
【0091】
また例えば、粘着剤層12が硬化性を有しておらず、粘着剤層12それ自体がシート形状を維持できる性質を有していない場合には、前記実施形態の粘着シート10において、粘着シート10が支持体を有していることが好ましい。
この場合、第二粘着面12bに、支持体が積層されていてもよく、粘着シート10の被着体への十分な固定のための観点、および粘着シート10の粘着性により汚染物質等の対象物を除去する場合の除去性能の観点から、第二シート面11bを被着体に貼付して測定した粘着力を上述の範囲とすることが好ましい。
【0092】
また例えば、カーボンナノチューブシート11の第二シート面11bに、支持体が積層されていてもよい。この場合には、バンドリング処理したカーボンナノチューブシート11の空隙に露出した粘着剤の影響によって、第二シート面11bに発現する粘着性により支持体をカーボンナノチューブシート11と接着することができる。
【0093】
支持体としては、例えば、紙、樹脂フィルム、硬化性樹脂の硬化物、金属箔、およびガラスフィルム等が挙げられる。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、およびアクリル系等の樹脂フィルムが挙げられる。
【0094】
支持体の、粘着剤層12またはカーボンナノチューブシート11が隣接する面とは反対の面には、保護性を強化するために、紫外線硬化性樹脂等を用いたハードコート処理等が施されていてもよい。
【0095】
また例えば、前記実施形態において、粘着剤層12の第二粘着面12b上に剥離材が積層されている粘着シートであってもよい。粘着シートは、カーボンナノチューブシート11の第二シート面11b上に積層された剥離材をさらに備えていてもよい。粘着シートは、粘着剤層12の第二粘着面12b上と、カーボンナノチューブシート11の第二シート面11b上の両方に積層された剥離材を備えていてもよい。また、粘着シートは、粘着剤層12の第二粘着面12b上およびカーボンナノチューブシート11の第二シート面11b上のいずれか一方に剥離材を備える場合に、他方に上述した支持体を有していてもよい。
【0096】
剥離材としては、特に限定されない。例えば、取り扱い易さの観点から、剥離材は、剥離基材と、剥離基材の上に剥離剤が塗布されて形成された剥離剤層とを備えることが好ましい。また、剥離材は、剥離基材の片面のみに剥離剤層を備えていてもよいし、剥離基材の両面に剥離剤層を備えていてもよい。剥離基材としては、例えば、紙基材、この紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、並びにプラスチックフィルム等が挙げられる。紙基材としては、グラシン紙、コート紙、およびキャストコート紙等が挙げられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、並びにポリプロピレンおよびポリエチレン等のポリオレフィンフィルム等が挙げられる。剥離剤としては、例えば、オレフィン系樹脂、ゴム系エラストマー(例えば、ブタジエン系樹脂、およびイソプレン系樹脂等)、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂、並びにシリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0097】
剥離材の厚さは、特に限定されない。通常、20μm以上200μm以下であり、25μm以上150μm以下であることが好ましい。
剥離剤層の厚さは、特に限定されない。剥離剤を含む溶液を塗布して剥離剤層を形成する場合、剥離剤層の厚さは、0.01μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.03μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。
剥離基材としてプラスチックフィルムを用いる場合、当該プラスチックフィルムの厚さは、3μm以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0098】
また例えば、粘着シート10は、粘着剤層12(以下、便宜上「第一の粘着剤層」ということもある)に加え、カーボンナノチューブシート11の第二シート面11b上にも、さらに粘着剤層(以下、便宜上「第二の粘着剤層」ということもある)を有していてもよい。この場合、第一の粘着剤層が含有する粘着剤と、第二の粘着剤層が含有する粘着剤とは、同一でも、類似していても、全く異なっていてもよい。第一の粘着剤層および第二の粘着剤層のいずれか一方の、カーボンナノチューブシート11が隣接する面とは反対の面に、支持体が設けられていてもよい。
【0099】
第一の粘着剤層の厚さt
21、および第二の粘着剤層の厚さt
22は、それぞれ独立に、3μm以上150μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることがより好ましい。また、第一の粘着剤層の厚さt
21と第二の粘着剤層の厚さt
22の合計値(粘着剤層の総厚さ)は、10μm以上300μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。
第一の粘着剤層および第二の粘着剤層のそれぞれに、さらに剥離材が積層されてもよい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
【0101】
〔評価〕
[カーボンナノチューブシートの光線透過率測定]
実施例1〜3および比較例1〜3で得た各々のカーボンナノチューブシートについて、ヘイズメーター(日本電色工業(株)製、NDH2000)を使用して、JIS K7361に準拠して光線透過率を測定した。なお、比較例4〜6については、カーボンナノチューブシートの収縮性評価の結果が不良であったため、本試験を行わなかった。結果を表1に示す。
【0102】
[CNTシートの収縮性評価]
実施例1〜3および比較例4〜6で得た各々のカーボンナノチューブシートの幅をバンドリング処理前後で測定し、以下の計算式にて収縮率を算出した。なお、比較例1〜3については、バンドリング処理を行わなかったため、収縮率を0%とした。結果を表1に示す。
収縮率=(Wi−Wt)/Wi
Wi:バンドリング処理前のカーボンナノチューブシートの幅(平面視で、カーボンナノチューブシートにおけるカーボンナノチューブの整列方向に直交する方向の長さの平均)
Wt:バンドリング処理後のカーボンナノチューブシートの幅(平面視で、カーボンナノチューブシートにおけるカーボンナノチューブの整列方向に直交する方向の長さにおいて、最も収縮した箇所の長さ)
【0103】
[粘着力測定]
実施例1〜3、比較例1〜3、および参考例1の各々の粘着シートについて、JIS Z0237:2000に基づき、180°引き剥がし法により、引っ張り速度300mm/分、シート幅25mmにて、貼付30分後の粘着力を測定した。測定の際には、カーボンナノチューブシートの粘着剤層が隣接する面とは反対の面を被着体に貼り付けた。なお、比較例4〜6については、粘着シートを製造しなかったため、本試験を行わなかった。結果を表1に示す。
【0104】
[実施例1]
〔カーボンナノチューブシートの改質〕
(1)カーボンナノチューブフォレストの調製およびカーボンナノチューブシートの作製
キャリアガスとしてアルゴンガス、炭素源としてアセチレンを用いた、3つの炉を備える熱CVD装置を用い、触媒化学気相成長法により、シリコンウエハ上にカーボンナノチューブフォレストを形成した。カーボンナノチューブフォレストの高さは300μmであった。
形成したカーボンナノチューブフォレストの端部をよじり、ピンセットで引き出すことにより、幅50mmのカーボンナノチューブシートを作製した。
【0105】
(2)カーボンナノチューブシートの改質
カーボンナノチューブシートを金属メッシュ(格子形状、格子を構成する金属ワイヤの太さ50μm、格子における正方形の開口部の一辺の長さ700μm)のパターン化された隆起構造を有する表面に付着させた。そして、カーボンナノチューブシート側から、カーボンナノチューブシートにイソプロピルアルコールをスプレーすることにより、カーボンナノチューブシートがイソプロピルアルコールのエアロゾルに曝露された。こうして、金属メッシュのパターン化された隆起構造に接していない領域がバンドリング処理されたカーボンナノチューブシートを得た。
【0106】
〔粘着シートの製造〕
(1)粘着性組成物の調製
主剤樹脂として、アクリル酸エステル樹脂(n−ブチルアクリレート(BA)/アクリル酸(AAc)=90.0/10.0(質量比)、重量平均分子量:60万、溶剤:酢酸エチル、固形分濃度:33.6質量%)100質量部(固形分比)、架橋剤として、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、製品名「コロネートL」、固形分濃度:75質量%)2.23質量部(固形分比)を配合し、酢酸エチルを加えて、均一に攪拌して、固形分濃度31質量%の粘着性組成物の溶液を調製した。
【0107】
(2)粘着シートの製造
ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる厚み50μmの基材の片面上に、上記のとおり調製した粘着性組成物の溶液を塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を乾燥させて、膜厚が25μmの粘着剤層を形成した。
次に、形成した粘着剤層の表面に、上記の、バンドリング処理された金属メッシュ上のカーボンナノチューブシートを加圧圧着して貼り合わせ、粘着シートを製造した。なお、粘着シートを金属メッシュから剥離した後に、カーボンナノチューブシートの粘着剤層を貼り合わせた面とは逆の面に、シリコーン剥離処理した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(リンテック株式会社製、SP−PET381031)の剥離処理面を貼り合わせて、剥離フィルムを設けた。
【0108】
[実施例2]
実施例1におけるカーボンナノチューブシートの作製と同様にしてカーボンナノチューブシートを作製した。この新たなカーボンナノチューブシートを金属メッシュ上の改質前のカーボンナノチューブシート上にさらに重ね合わせる、すなわちカーボンナノチューブシートを1層積層することで層数を2層にした後に、カーボンナノチューブシートの改質を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る粘着シートを製造した。
【0109】
[実施例3]
実施例1におけるカーボンナノチューブシートの作製と同様にしてカーボンナノチューブシートを作製した。この新たなカーボンナノチューブシートを金属メッシュ上の改質前のカーボンナノチューブシート上にさらに重ね合わせる、すなわちカーボンナノチューブシートを2層積層することで層数を3層にした後に、カーボンナノチューブシートの改質を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る粘着シートを製造した。
【0110】
[参考例1]
粘着剤層の表面に、カーボンナノチューブシートを貼り合わせなかった以外は、実施例1と同様にして、参考例1に係る粘着シートを製造した。
【0111】
[比較例1]
カーボンナノチューブシートを金属メッシュに付着させる代わりに、平板上に置かれた剥離フィルム(リンテック株式会社製、SP−PET381031)に付着させた。この剥離フィルム上のカーボンナノチューブシートを、バンドリング処理を行わずに粘着剤層と加圧圧着して貼り合わせた以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る粘着シートを製造した。
【0112】
[比較例2]
実施例1におけるカーボンナノチューブシートの作製と同様にしてカーボンナノチューブシートを作製した。この新たなカーボンナノチューブシートを剥離フィルム上のカーボンナノチューブシート上にさらに重ね合わせる、すなわちカーボンナノチューブシートを1層積層することで層数を2層にした以外は、比較例1と同様にして、比較例2に係る粘着シートを製造した。
【0113】
[比較例3]
実施例1におけるカーボンナノチューブシートの作製と同様にしてカーボンナノチューブシートを作製した。この新たなカーボンナノチューブシートを剥離フィルム上のカーボンナノチューブシート上にさらに重ね合わせる、すなわちカーボンナノチューブシートを2層積層することで層数を3層にした以外は、比較例1と同様にして、比較例3に係る粘着シートを製造した。
【0114】
[比較例4]
カーボンナノチューブシートを金属メッシュに付着させる代わりに、2本の平行な棒にフリースタンディングの状態でカーボンナノチューブシートを係止し、係止されたカーボンナノチューブシートにイソプロピルアルコールをスプレーしてバンドリング処理を行った以外は、実施例1と同様にして実施例1の〔カーボンナノチューブシートの改質〕を行い、バンドリング処理されたカーボンナノチューブシートを得た。バンドリング処理によりカーボンナノチューブシートが収縮したために、粘着シートは製造しなかった。
【0115】
[比較例5]
実施例1におけるカーボンナノチューブシートの作製と同様にしてカーボンナノチューブシートを作製した。この新たなカーボンナノチューブシートを2本の平行な棒に係止された改質前のカーボンナノチューブシート上にさらに重ね合わせる、すなわちカーボンナノチューブシートを1層積層することで層数を2層にした後に、バンドリング処理を行った以外は、比較例4と同様にして、比較例5に係るバンドリング処理されたカーボンナノチューブシートを得た。バンドリング処理によりカーボンナノチューブシートが収縮したために、粘着シートは製造しなかった。
【0116】
[比較例6]
実施例1におけるカーボンナノチューブシートの作製と同様にしてカーボンナノチューブシートを作製した。この新たなカーボンナノチューブシートを2本の平行な棒に係止された改質前のカーボンナノチューブシート上にさらに重ね合わせる、すなわちカーボンナノチューブシートを2層積層することで層数を3層にした後に、バンドリング処理を行った以外は、比較例4と同様にして、比較例6に係るバンドリング処理されたカーボンナノチューブシートを得た。バンドリング処理によりカーボンナノチューブシートが収縮したために、粘着シートは製造しなかった。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示されるように、実施例1〜3では、バンドリング処理をしなかった比較例1〜3に比べて、カーボンナノチューブシートの光線透過率が向上している。また、参考例1のカーボンナノチューブシートを設けなかった場合と比べても、粘着力の低下が小さく、被着体に強固に接着することが可能であることがわかる。
【0119】
また、実施例1〜3では、本発明の改質方法によりバンドリング処理を行ったために、いずれの積層数でも幅方向の収縮は見られなかった。一方、比較例4〜6では、フリースタンディングの状態でバンドリング処理を行ったため、カーボンナノチューブシートの幅方向の収縮が生じた。収縮は、積層数が増すほど大きくなった。