特許第6985266号(P6985266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985266熱ポーリングによるガラス質材料の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985266
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】熱ポーリングによるガラス質材料の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20211213BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/06 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/076 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/078 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20211213BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C03C21/00 A
   C03C23/00 Z
   C03C3/087
   C03C3/06
   C03C3/076
   C03C3/078
   C03C3/083
   C03C3/085
   C03C3/089
   C03C3/091
   C03C3/093
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-523778(P2018-523778)
(86)(22)【出願日】2016年11月8日
(65)【公表番号】特表2018-535180(P2018-535180A)
(43)【公表日】2018年11月29日
(86)【国際出願番号】FR2016052884
(87)【国際公開番号】WO2017081396
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2019年9月5日
(31)【優先権主張番号】1560733
(32)【優先日】2015年11月10日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】マクシム パライユース
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー カルディナル
(72)【発明者】
【氏名】アンジェリーヌ プロン
(72)【発明者】
【氏名】エブリーヌ ファルガン
(72)【発明者】
【氏名】マルク デュソーズ
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−230653(JP,A)
【文献】 特開昭49−073413(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/093284(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/191164(WO,A1)
【文献】 米国特許第05045508(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0329408(US,A1)
【文献】 DERIANO S,MECHANICAL STRENGTH IMPROVEMENT OF A SODA-LIME-SILICA GLASS BY THERMAL TREATMENT UNDER FLOWING GAS,JOURNAL OF THE EUROPEAN CERAMIC SOCIETY,英国,ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS,2004年08月,VOL:24, NR:9,PAGE(S):2803 - 2812,http://dx.doi.org/10.1016/j.jeurceramsoc.2003.09.019
【文献】 MARC DUSSAUZE,HOW DOES THERMAL POLING AFFECT THE STRUCTURE OF SODA-LIME GLASS?,JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY C,米国,2010年07月,VOL:114, NR:29,PAGE(S):12754 - 12759,http://dx.doi.org/10.1021/jp1033905
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物あるいはd10金属酸化物もしくはIIIA金属酸化物を含むケイ酸塩型のガラスの処理方法であって、少なくとも以下の工程、
(a)窒素の、前記ガラス表面中への取り込み、
(b)工程(a)からのガラスの、化学的に不活性な制御された雰囲気下での熱ポーリング処理、
を含んでなる方法。
【請求項2】
工程(a)が、窒素−制御雰囲気下での、150℃以上の温度での前記ガラスの熱処理からなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の前記温度が、200℃〜500℃である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、前記雰囲気が、N、NHから選択されるガスで本質的に構成される、請求項2または請求項3記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、前記雰囲気が、窒素N、あるいは窒素とArおよびHeから選択される不活性ガスとの混合物で本質的に構成される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、工程(a)からの前記ガラスが、150〜500℃の範囲の温度に維持され、かつ0.1〜10kVの電圧によって特徴付けられる電場に暴露される、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において、前記制御された雰囲気が、乾燥空気、O、N、Ar、He、それらのガスの2種もしくは3種以上の混合物から選択されたガスからなる、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(b)において、前記制御された雰囲気が、窒素Nからなる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
工程(b)において、工程(a)からの前記ガラスが、200〜300℃の温度に維持される、請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
用いられる前記ガラスが、以下の質量組成、0〜40%のAl;50〜97%のSiO;0〜15%のB;0〜25%のZnO;0%〜5%のZrO;0〜10%のTiO;0〜40%のNaO;0〜40%のLiO;0〜40%のKO;0〜40%のMgO;0〜50%のCaO;0〜40%のSrO;0〜40%のBaO;0〜15%のAgO;0〜15%のAu3,AuO;0〜15%のCuOを有し、かつ前記ガラスの全質量を基準として、少なくとも95質量%の成分が、Al;SiO;B;ZnO;ZrO;TiO;NaO;LiO;KO;MgO;CaO;SrO;BaO;AgO;Au;AuO;CuOから選択される、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
用いられる前記ガラスが、以下の組成、質量%で規定して、60〜74%のSiO、8.2〜16.4%のNaO、3.2〜7.40%のCaO、2.8〜4.30%のMgO、0.3〜1.20%のAl、0.3〜1.20%のKOおよび0.1〜0.30%のSOのガラスである、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
グレージングの耐久性の向上、または、
デジタル/触覚スクリーンの耐引掻き性の向上、または
鏡の耐摩耗性の向上、
のための、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法の使用。
【請求項13】
建築用グレージング、または
ソーラーパネル鏡、または、
電子装置用のスクリーン、または、
ガラス繊維、
の製造のための、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理された材料、特にはソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、の機械的特性を向上させるための、熱ポーリングによるガラス質材料の処理方法に関する。また、本発明は、この方法によって得られた材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ソーダ石灰ケイ酸塩ガラスは、建築用グレージングまたは太陽光集光プラントにおける太陽鏡の製造のために広く用いられている。それらのガラスは、困難な大気条件に曝される可能性があり、そして従って外部環境の機械的なストレスに抵抗力があり、そして経時的にそれらの性質の耐久性を確実にする必要がある。
【0003】
多くのガラス質材料が、現在市場に出されている。種々の検討が、それらの材料の機械的性質を向上させる目的で行われてきている。イオン交換法(ナトリウム原子をより大きなカリウム原子に置き換える)によって、ガラスの表面を固めて(Contraindre)、そしてそれをより硬くすることが可能となる。これは、携帯電話のスクリーンのガラスの表面の機械的性質を向上させるのに用いられる方法である。幾つかの製造者は、より硬い材料、例えばサファイアを用いている。
【0004】
ガラス質のソーダ石灰ケイ酸塩材料を処理する方法が、それらの材料の性質を向上させることが知られている:Dussauze M.、Rodriguez V.ら、「How does thermal poling affect the structure of soda-lime glass?」、J. Phys. Chem. C 2010、114、p.12754-12759。この文献には、空気中またはアルゴン中での熱ポーリング処理ならびにそのように得られたガラスの性質の検討が記載されている。同様の処理が、Redkov A.V.ら、J. Phys. Chem.、119(30)、2015、p.17298-17307およびLepicard A.ら、J. Phys. Chem.、119(40)、2015、p.22999-23007に記載されている。Deriano S.ら、Journal of the European Ceramic Society、24(2004)、28032812には、ソーダ石灰ガラスの処理方法が開示されており、この方法は、気体流(N、NHまたは空気)中での熱処理を含んでいる。この方法は、ガラスの機械的性質の強化に導くことが信じられる。それらの処理の最後に、限定された機械的強度の結果は、特には、7%の硬度の増加を示した。この文献には、この処理の効果の耐久性も、あるいは化学的なもしくは気候上の攻撃への、または経時変化への抵抗性の向上にも言及されていない。
【0005】
上記の種々の用途において用いられるソーダ石灰ケイ酸塩ガラスは、通常は高い機械的または気候的なストレスを受ける。従って、それらのガラス質材料の表面の機械的性質(硬度、磨耗または引掻きへの耐性)を向上させることが必要であると思われれる。特に、従来技術の方法によって得られたこれらの材料は、ソーラー型の用途のために十分な機械的強度および耐久性を提供することを可能にはさせない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の困難さを克服すること、および従来技術のガラスと比較して向上した機械的強度、特には向上した硬度および耐衝撃性、を与え、一方で出発材料の光学的性質、例えば光透過性を保持する、ガラス質材料を提供すること、特にはソーダ石灰ケイ酸塩型のガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルカリおよびアルカリ土類金属酸化物またはd10もしくはIIIA金属酸化物を含むケイ酸塩型のガラスの処理方法に関し、この方法は、少なくとも以下の工程を含んでいる。
(a)ガラスの表面中への窒素の取り込み、
(b)工程(a)からの材料の、化学的に不活性の制御された雰囲気下での熱ポーリング処理。
【0008】
好ましい態様によれば、工程(a)は、窒素−制御雰囲気下での、150℃以上の温度でのガラスの熱処理からなる。
【0009】
好ましい態様では、工程(a)は、窒素−制御雰囲気下でのガラスの熱処理からなり、そして工程(a)において、温度は200℃〜500℃である。
【0010】
好ましい態様によれば、工程(a)は、窒素−制御雰囲気下でのガラスの熱処理からなり、そして工程(a)において、その雰囲気は、N、NH、随意選択的にAr、Heから選択されるガスから本質的に構成されており、それらのガスの混合物は、少なくともNまたはNHを含んでいる。
【0011】
更なる好ましい態様では、工程(a)では、雰囲気は、N窒素、あるいは窒素とArおよびHeから選択される不活性ガスとの混合物から本質的に構成される。
【0012】
好ましい態様によれば、工程(b)では、材料は、150℃〜500℃の範囲の温度に維持され、そして0.1〜10kVの範囲の電圧によって特徴付けられる電場に曝露される。
【0013】
好ましい態様では、工程(b)では、制御された雰囲気は、乾燥空気、O、N、Ar、He、それらのガスの2種もしくは3種以上の混合物から選択されるガスから本質的に構成される。
【0014】
より好ましい態様では、工程(b)では、制御される雰囲気は、N窒素から本質的に構成される。
【0015】
なおより好ましい態様では、工程(b)では、材料は、200〜300℃の範囲の温度に維持される。
【0016】
好ましい態様では、用いられるガラスは、以下の質量組成を有している;0〜40%のAl;50〜97%のSiO;0〜15%のB;0〜25%のZnO;0〜5%のZrO;0〜10%のTiO;0〜40%のNaO;0〜40%のLiO;0〜40%のKO;0〜40%のMgO;0〜50%のCaO;0〜40%のSrO;0〜40%のBaO;0〜15%のAgO;0〜15%のAu、AuO;0〜15%のCuO、そして、ガラスの全質量に対して少なくとも95質量%の成分は、Al;SiO;B;ZnO;ZrO;TiO;NaO;LiO;KO;MgO;CaO;SrO;BaO;AgO;Au3;AuO;CuOから選択される。
【0017】
好ましい態様では、用いられるガラスは、質量%で規定される以下の組成のガラスである:60〜74%のSiO、8.2〜16.4%のNaO、3.2〜7.40%のCaO、2.8〜4.30%のMgO、0.3〜1.20%のAl、0.3〜1.20%のKOおよび0.1〜0.30%のSO
【0018】
本発明は、上記で規定される方法によって得ることができる材料に更に関し、この材料は、ポーリングされた透明ガラスであり、そして0.1%以上の窒素含有量を含んでいる。
【0019】
好ましい態様によれば、得られるガラスの組成は質量%で以下の通りである:60〜74%のSiO、8.2〜16.4%のNa、3.2〜7.40%のCaO、2.8〜4.30%のMgO、0.3〜1.20%のAl、0.3〜1.20%のKO、0.1〜0.30%のSOおよび0.1%〜5%の窒素。
【0020】
本発明は、更に、
・グレージングの耐久性の向上、または、
・デジタル/触覚スクリーンの耐引掻き性の向上、または
・鏡の耐摩耗性の向上、
のための本方法の使用に関する。
【0021】
また、本発明は、
・建築用グレージング、または
・ソーラーパネル鏡、または、
・電子装置用のスクリーン、または、
・ガラス繊維、
の製造のための本方法の使用に関する。
【0022】
本発明は、ガラス質材料、特には、ソーダ石灰ケイ酸塩型の材料、の表面化学および機械的性質を正確に制御することを可能にさせる。本発明は、広範囲の用途におけるその使用が知られている、ガラス、特には、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、の機械的な性能を向上させる。
【0023】
本発明は、一方で、それらの光学特性、特には透過率の測定によって評価される光の透過を保持しながら、その機械的な表面性能を高めるように、特には硬度および耐衝撃性を向上させるように、ガラス、特には、ソーダ石灰ケイ酸塩型のガラス、の表面化学を改質することを可能にする。この方法は、全てのサイズのガラスに適用可能である。
【0024】
驚くべきことには、この処理のこれらの2つの工程の間の相乗的な効果が観察されて、ガラスの機械的性質の向上をもたらし、その向上は、それらの工程のそれぞれが別々に行われた場合の効果を観察することによって当業者が予測するであろう向上よりも遥かに高かった。
【0025】
更に、本発明の方法は、処理されたガラスに、経時変化へのよりよい耐久性を与えることが見出された。ガラスの硬度を評価する試験は、気候上の/化学的エージング処理の後に硬度が維持されることを示しているが、しかしながら、従来技術のガラスは、同じエージング試験に付すと、それらの機械的性質の非常に重大な低下を示している。
【0026】
このエージング耐久性は、従来技術を読むことからは、決して予測することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、熱ポーリング組立体の概略図を示している。
【0028】
図2図2は、本発明の方法の第2の工程を示すグラフを示している。
【0029】
図3図3は、対照のソーダ石灰ガラス(黒□)、Nの下でアニールされたソーダ石灰ガラス(●)、Nの下で熱的にポーリング処理されたソーダ石灰ガラス(黒△)、およびNの下でアニールされ、そして次いでNの下で熱的にポーリング処理されたソーダ石灰ガラス(黒▽)についての、荷重(グラム重gfで、横座標)の関数としてのヌープ硬度(縦座標)の動向のグラフ表示を示している。
【0030】
図4図4は、対照のソーダ石灰ガラス(黒□)、Nの下でアニールされたソーダ石灰ガラス(●)、Nの下で熱的にポーリング処理されたソーダ石灰ガラス(黒△)およびNの下でアニールされ、そして次いでNの下で熱的にポーリング処理されたソーダ石灰ガラス(黒▽)についての、荷重(mNで、横座標)の関数としての、バーコビッチナノインデンテーション(GPaで、縦座標)の動向を示している。
【0031】
図5図5aおよび5bは、耐候性試験の後の表面状態の光学顕微鏡のスナップ写真を示している。 図5aのスナップ写真
【表1】

図5bのスナップ写真
【表2】

A1:対照のガラス、B2:耐候性処理後の対照のガラス、A2:Nの下でアニールされ、次いでNの下で熱的にポーリング処理された標準のガラス、B2:耐候性処理の後のA2ガラス、A3:空気の下で熱的にポーリング処理された標準のガラス、B3:耐候性処理の後のA3ガラス、A4:Nの下で熱的にポーリング処理された標準のガラス:B4:耐候性処理の後のA4ガラス。
【0032】
図6図6は、ソーダ石灰ガラス、Nの下で熱的にポーリング処理された標準のガラス(黒□)、Nの下で熱的にポーリング処理され次いで耐候性エージングサイクルに付された標準のガラス(●)、の荷重(gfで、横座標)の関数としてのヌープ硬度(縦座標)の動向を示している。
【0033】
図7図7は、ソーダ石灰ガラス、Nの下でアニールされ、次いでNの下で熱的にポーリング処理された標準のガラス(黒□)、Nの下でアニールされ、次いでNの下で熱的にポーリング処理された耐候性試験の後の標準のガラス(●)の、荷重(gfで、横座標)の関数としてのヌープ硬度(縦座標)の動向を示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、光学材料の分野、およびガラス工業の製品の用途の分野に関する。限定するものではなく、それらのガラスは、建築用グレージングの分野における、太陽エネルギーのための鏡、電子装置のためのスクリーン(タブレット、携帯スクリーンなど)、光ファイバーの製造における用途を有している。
【0035】
出発材料
用いられるガラスは、ケイ酸塩型のものである。それらは、有利には、アルカリおよびアルカリ土類金属の酸化物、あるいはd10およびIIIA金属の酸化物、例えば、Na、Li、K、Mg、Ca、Sr、BaおよびAlの酸化物を含んでいる。特には、本発明は、ナトリウム−カルシウムケイ酸塩に関する。
【0036】
出発材料として用いられるガラスは、有利には以下の質量組成を有している。
・0〜40% Al
・50〜97% SiO
・0〜15% B
・0〜25% ZnO
・0〜5% ZrO
・0〜10% TiO
・0〜40% Na
・0〜40% Li
・0〜40% K
・0〜40% MgO
・0〜50% CaO
・0〜40% SrO
・0〜40% BaO
・0〜15% Ag
・0〜15% Au,Au
・0〜15% Cu
【0037】
有利には、ガラスの全質量に対して、少なくとも95質量%の成分は、Al;SiO;B;ZnO;ZrO;TiO;Na;LiO;KO;MgO;CaO;SrO;BaO;AgO;Au3;AuO;CuOから選択される。
【0038】
上記の表では言及されていない他の種は、ガラスの全質量に対して、5質量%以下を占めることができる。
【0039】
有利には、本発明のガラスは、50質量%〜97質量%のSiO、ならびに3〜50質量%の、アルカリおよびアルカリ土類金属酸化物ならびにd10およびIIIAの金属酸化物から選択された成分を含んでいる。
【0040】
好ましい変形によれば、本発明のガラスは、55質量%〜80質量%のSiO、ならびに20〜45質量%の、アルカリおよびアルカリ土類金属酸化物から選択された成分を含んでおり、他の種は、ガラスの全質量に対して5質量%以下を占めることができることが理解される。
【0041】
それらの組成物は、有利には、質量%で、60〜74%のSiO、8.2〜16.4%のNa、3.2〜7.40%のCaO、2.8〜4.30%のMgO、0.3〜1.20%のAl、0.3〜1.20%のKOおよび0.1〜0.30%のSOで規定され、このリストで言及されていない他の種は、ガラスの全質量に対して5質量%以下を占めることができることが理解される。
【0042】
好ましくは、それらの組成は、質量%で、60〜74%のSiO、8.2〜16.4%のNaO、3.2〜7.40%のCaO、2.8〜4.30%のMgO、0.3〜1.20%のAl、0.3〜1.20%のKOおよび0.1〜0.30%のSOで規定され、そしてガラスの全質量を基準として、少なくとも98質量%、より好ましくは少なくとも99質量%の成分は、SiO、Na、CaO、MgO、Al、KOおよびSOからなる群の一部である。
【0043】
通常は、出発材料は、実質的に均一な組成物である。
【0044】
本発明は、上記の出発材料に適用される少なくとも2つの工程を含む方法からなる。
【0045】
処理方法
・工程(a)
工程(a)は、ガラスの表面または表面領域での窒素の取り込みからなっている。本発明によれば、表面領域中への窒素の導入は、処理の後に、窒素が、100nm〜1ミクロンの厚さのガラス表面領域中に本質的に存在することを意味している。窒素原子は、下記の手段の1つによってガラス表面領域中に導入される。
【0046】
第1の変形によれば、ガラスの表面は、窒素イオンビームで照射されることができる。このために、本発明者らは、例えばイオン照射(bombardement)を用いることができる。
【0047】
本発明の第2の、好ましい変形によれば、工程(a)は、窒素制御された雰囲気下でのガラスの熱処理からなっている。
【0048】
第1の熱処理は、150℃以上だが、ガラスのガラス転移温度、すなわち575℃未満の温度で行われる。好ましくは、熱処理は、200℃以上および550℃以下の温度で行われる。更により好ましくは、この処理は、250〜450℃の範囲の温度で行われる。
【0049】
この熱処理を行うために、材料は、制御された窒素雰囲気下に置かれる。窒素制御された雰囲気は、N、NH、および随意選択的に、化学的に不活性なガス、から選択されたガスで構成される雰囲気、好ましくは、N、NH、および、随意選択的にAr、He、から選択されたガスから本質的に構成される雰囲気、あるいは少なくともN、NHを含むそれらのガスの混合物、を意味する。
【0050】
「から本質的に構成される」は、ガスの雰囲気の少なくとも98体積%が、より好ましくは少なくとも99質量%が、好ましくは実質的に100質量%が、選択されたそのガスまたはそれらのガスから構成されることを意味している。
【0051】
好ましくは、雰囲気は、1%未満の反応性ガス、例えば水蒸気(HO)または酸素(O)を含んでいる。有利には、雰囲気は、500ppm未満、より好ましくは200ppm未満、そして好ましくは100ppm未満の、反応性ガス、例えば水蒸気または酸素を含んでいる。
【0052】
好ましくは、熱処理は、窒素(N)または窒素と不活性ガス、例えばArもしくはHeとの混合物、から本質的になる雰囲気下で行われる。
【0053】
熱処理は、雰囲気の制御を可能とするために密閉された容器の中で行われる。この密閉された容器は、オーブンまたはオートクレーブであることができる。それは断熱された容器であり、そして熱盤が与えられていることができる。あるいは、熱処理は、レーザー光線によって行うことができる。
【0054】
制御された雰囲気下での熱処理の継続時間は、ガラス表面中への窒素原子の取り込みを可能にするのに十分でなければならない。用いられる手段によれば、ガラスの温度の上昇を起こすように設計される。例えば、レーザーがガラスを加熱するのに用いられる場合には、目標温度は、ほぼ瞬時に到達され、そして処理は、1分間の水準であることができる。例えば、オートクレーブ型の加熱チャンバが用いられる場合には、処理は、ガラスの表面が所望の温度に到達するのに十分な時間継続されなければならず、この場合には、処理の継続時間は、1時間の水準、例えば少なくとも1時間、好ましくは5〜50時間、より好ましくは10〜40時間、であることができる。
【0055】
熱処理は、定められた領域に亘って温度上昇を生じさせることができる特定のレーザーによって、全体の材料、または材料の単に一部に適用されることができる。
【0056】
処理の後に、常に制御された雰囲気中で、材料は、室温に戻される。
【0057】
工程(a)の最後に、工程(b)の実施前に、得られた材料は、特別な予防処置なしに、特には外気中で、貯蔵することができる。
【0058】
本発明の方法は、表面領域に窒素原子が充填されたガラスを利用する機会を与える。ガラスの塊中に実質的に均一に分配された窒素を含む、窒化物ガラスは、従来技術で知られているが、しかしながら、それらは真珠光沢で不透明であり、そのことで、それらは、意図する用途(特には、太陽電池パネルおよび反射板、電子装置のスクリーン)に用いることを不可能にする。
【0059】
・工程(b):
次いで、電場によって支援された熱処理が、工程(a)の最後に得られた材料に適用される。
【0060】
第2の熱ポーリング処理が、100℃以上であるが、しかしながらガラス転移温度、すなわち575℃未満の温度で行われる。好ましくは、熱ポーリング処理は、150℃以上または500℃以下の温度で行われる。好ましくは、この処理は、200℃〜300℃の範囲の温度で行われる。
【0061】
この第2の処理を行うために、材料は、制御された雰囲気下に置かれる。制御された雰囲気は、熱ポーリング条件の下での化学的に不活性な雰囲気、好ましくは乾燥空気、O、N、Ar、それらのガスの2種もしくは3種以上の混合物から選択されたガスから本質的になる雰囲気、を意味している。
【0062】
「本質的になる」とは、ガスの環境の少なくとも98体積%、より好ましくは少なくとも99体積%、好ましくは実質的に100体積%が、それらの選択されたガス(単数)もしくはガス(複数)で構成されていることを意味している。
【0063】
好ましくは、雰囲気は、1%未満の水蒸気(HO)を含んでいる。有利には、雰囲気は500ppm未満、好ましくは200ppm未満、そしてより好ましくは100ppm未満、の水蒸気を含んでいる。
【0064】
好ましくは、熱ポーリング処理は、窒素(N)雰囲気下で行われる。この好ましい態様によれば、硬度のより大きな増加がみられる。
【0065】
また、熱ポーリング処理は、完全に気密の容器中で制御された雰囲気下で行われなければならない。この雰囲気の制御は、熱ポーリング処理の質において重要な役割を演じるパラメータの1つである。
【0066】
ガラスは、0.1〜10kV、より好ましくは0.2〜7kV、最も好ましくは0.5〜5kVの電圧によって特徴付けられる電場に曝露される。
【0067】
熱ポーリング法において、材料は2つの電極の間に配置される。熱ポーリング法は、非反応性の雰囲気中、またはブロッキング電極で行われる。
【0068】
これらの電極は、ガラスと直接接触していることができる。同じ処理を、アノードとの直接の接触無しに行うことが可能である。アノードとガラスとの間の距離は、制御されなければならず、そして好ましくは300μm以下でなければならない。また、熱ポーリング処理は、ガラスの表面への接触無しに動く2つの電極によって行うこともできる。
【0069】
熱ポーリング処理の継続時間は、1分間〜5時間、好ましくは5分間〜2時間、より好ましくは20分間〜60分間である。
【0070】
工程(a)に関しては、工程(b)の処理の継続時間は、温度の上昇を引き起こすのに用いられる手段の関数である。当業者は、選択された処理温度に近づく速度の関数として、この継続時間をどのように適用するかを理解している。
【0071】
次いで、ガラスは周囲温度に戻されるが、一方で電場は維持され、そして常に制御された雰囲気下にある。この系が室温に到達すると、電圧は0Vに低下される。次いで、熱ポーリング処理は、完結される。
【0072】
熱処理は、全体の材料に、または材料の単に一部に、特には、所定の領域に亘って温度の上昇をもたらすことを可能にするレーザーによって適用することができる。
【0073】
この処理から結果として得られる材料
この熱ポーリグ法は、材料の表面化学を改質することを可能にさせる。ガラスにこの電位差を与えることによって、正に荷電したナトリウム原子が、材料の中心に移動する。電荷の中立性を守るために、材料は、制御された雰囲気の下で、自然にSi−O−Si結合を再生させる。ドープされたシリカの層が、最表面に生成される。この処理は、特に、マイクロ−陥凹(indentation)およびナノ−陥凹(indentation)の場合には、表面上の機械的性能を増大させることを可能にする。この系の種々のパラメータ(雰囲気、温度、印加電圧、継続時間)は、表面上のシリカ層の厚さおよび化学的性質を制御することを可能にさせる。この方法は、経時的に安定しており、そして再現性がある。
【0074】
熱ポーリング法の間に、ガラスは、2つの化学的な事象に付される。熱処理は、原子にエネルギーを与え、それらにガラスの結晶構造内で動くためのより大きな能力を与える。このことは、高い移動度および拡散係数を有するガラス中に存在する種、アルカリ性種、例えばNa、Li、Ca2+、Mg2+およびKでは当てはまる。ポーリング温度が高ければ高い程、それらのイオンの移動度はより大きい。電場によって誘導された分極処理は、アルカリ性種が、材料内部を移動することを引き起こす。それらの正に荷電したアルカリ性種の移動は、アルカリ性種が少ない、最表面(数百ナノメートルから数マイクロメートル)での層の生成をもたらす。この層は、枯渇領域と称される。冷却する間に電位差を維持することで、枯渇領域が保持されることが可能になる。
【0075】
それらの正に荷電した種の離脱を相殺するために、2つの再結合機構(補償機構とも称される)が起こっている可能性がある。
【0076】
酸素原子とケイ素原子の間の化学結合のネットワークで構成されるガラスマトリックスは、再配列し、再構成し、そして従って最表面でSiOシリカ層を形成することができる。この再結合機構は、反応性雰囲気中での、そして非反応性雰囲気中での処理の間に起こる。
【0077】
ポーリング処理がHイオンの存在で、特には水の存在で行われる場合には、アルカリ性の正の種の補償は、ガラス中への、雰囲気中に存在する他の正に荷電した種の注入によって行うことができ、そしてそれは、結晶性網目中のアルカリ性種の場所を占め、そして従ってそれらの離脱を補償する。空気中に存在するH水素原子は、処理の間にガラス中に直接に注入され、そしてアルカリ性種の移動を補償する。この現象は、本発明が、ポーリングが不活性な雰囲気、例えばアルゴンまたは窒素の下で行われる場合には、起こりえない、何故ならば、そのようなH種が存在しないからである。
【0078】
本発明の方法においては、ポーリング処理はHイオンの不在で行われると、ネットワークの再構成は、最表面で数百ナノメートルのシリカSiO層の生成をもたらす。熱ポーリング処理のこのような実験的構成は、ガラスの機械的性質の有意な向上の原因である。更に、ガラス表面の窒素下での予備処理は、機械的性質の有意な向上を可能にする。
【0079】
熱ポーリング処理のみが適用される従来技術の材料と比較して、本発明の方法で得られる材料は、材料の表面上の窒素の存在によって区別される。
【0080】
また、本発明は、本発明の方法によって得ることができる材料に関し、それらは、それらの特有の組成によって特徴付けられる。
【0081】
それらは、ケイ酸塩の種類の材料である。それらは、有利には、アルカリおよびアルカリ土類金属の酸化物、あるいは金属の酸化物、例えばNa、Li、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Alの酸化物を含んでいる。特には、本発明は、分極処理され、そして0.1質量%以上の窒素含有量を含んでいるソーダ石灰ケイ酸塩ガラスに関する。
【0082】
この窒素は、ガラス表面領域の100nm〜1μm厚さに本質的には存在している。
【0083】
制御された雰囲気中でのポーリング処理を単に受けている従来技術の材料では、それらはこのような特徴を示さない。
【0084】
窒素は、本材料中に、窒化物または酸窒化物として存在することができる。
【0085】
本発明の材料は、有利には、可視、UVおよびIRの領域で、透明のガラスである。
【0086】
本発明の趣旨における透明性は、350nm〜2500nmの範囲での80%超の透過率を意味している。
【0087】
本発明の材料は、有利には、その組成が以下のように規定される材料から選択される。
・0〜40% Al
・50〜97% SiO
・0〜15% B
・0〜25% ZnO
・0〜5% ZrO
・0〜10% TiO
・0〜40% Na
・0〜40% Li
・0〜40% K
・0〜40% MgO
・0〜50% CaO
・0〜40% SrO
・0〜40% BaO
・0〜15% Ag
・0〜15% Au、Au
・0〜15% Cu
・0.1〜5% 窒素
【0088】
有利には、ガラスの全質量に対して少なくとも95質量%の成分は、Al;SiO;B;ZnO;ZrO;TiO;NaO;LiO;KO;MgO;CaO;SrO;BaO;AgO;Au3;AuO;CuO;窒素から選択される。
【0089】
上記のリストで言及されていない他の種も、ガラスの全質量に対して5質量%まで存在することができる。
【0090】
有利には、本発明のガラスは、50〜97質量%のSiO,3〜50質量%のアルカリ金属およびアルカリ土類金属酸化物から選択された成分、0.1質量%〜5質量%の窒素を含んでいる。
【0091】
好ましい態様によれば、本発明のガラスは、質量%で、55〜80%のSiO、20〜45%のアルカリ金属およびアルカリ土類金属酸化物から選択された成分、および0.1%〜5%の窒素を含んでおり、ここで、他の種が、ガラスの全質量に対して5質量%まで存在することができることが理解される。
【0092】
窒素は、特には、窒化物の形態で、例えばSi−N、Al−N結合の生成で、または酸窒化物の形態で、例えばSi−ON、Al−ON結合の生成で存在することができるが、それらの例は限定するものではない。
【0093】
本発明の材料の組成は、有利には、質量%で、60〜74%のSiO、8.2〜16.4%のNaO、3.2〜7.40%のCaO、2.8〜4.30%のMgO、0.3〜1.20%のAl、0.3〜1.20%のKOおよび0.1〜0.30%のSOおよび0.1%〜5%の窒素で規定され、このリストで言及されていない他の種が、ガラスの全質量に対して5質量%まで存在することができることが理解される。
【0094】
好ましくは、ガラスの全質量を基準として少なくとも98質量、より好ましくは少なくとも99質量%の成分が、SiO、NaO、CaO、MgO、Al、KO、SO、Nからなる群に含まれる。
【0095】
ガラスの分極処理は制御することができる。最も適切な手段は、可動イオンの枯渇領域の制御である。この測定は、表面化学分析によって、特にはキャスタン・マイクロプローブ、オージェ分光法によって、またはGDOES(グロー放電発光分光分析法)によって行うことができる。それは、第二高調波発生測定を伴うことができ、これは、ポーリング処理の直接の結果である埋め込まれた電場を際立たせることを可能にさせる。第二高調波発生の分析は、例えば、Dussauze M.、Rodriguez V.ら、How does thermal poling affect the structure of soda-lime glass?、J. Phys. Chem、C 2010、114、p.12754-12759に記載されている。
【0096】
本発明の方法は、光学用の材料の分野で特に、そしてより一般的にはガラス工業の用途の全ての分野において、興味深い。
【0097】
例えば、本発明は、以下の分野の用途を見出した。
・向上したグレージング耐久性
・デジタル/触覚スクリーンのより良好な耐引掻き性
・鏡の向上した耐摩耗性
【0098】
また、本発明は、上記で規定されたガラスの、建築用グレージングとしての、ソーラーパネル鏡としての、電子装置用のスクリーン(タブレット、ラップトップスクリーンなど)としての、光ファイバーとしての使用に関する。
【0099】
また、本発明は、建築用グレージング、ソーラーパネル鏡、電子装置用のスクリーン(タブレット、ラップトップスクリーンなど)、または光ファイバーの製造方法に関し、この方法は、ガラスを上記で記載した方法の各工程に従って処理することを含んでいる。
【実施例】
【0100】
実験の部
I.材料および方法
1.用いられた材料
用いられたガラス(対照のソーダ石灰ガラス)は、Menzel-Glaser社から商業的に入手可能である。その質量組成は、以下のとおりである:72.2%のSiO、14.3%のNaO、6.4%のCaO、4.3%のMgO、1.2%のAl、1.2%のKOおよび0.3%のSO、ここで%は質量%である。
【0101】
1mm厚さの試料(1cmの水準の寸法)を用いた。
【0102】
2.装置
処理は、下記のチャンバ内で行われた。
【0103】
熱ポーリング組立体は、3つの部分に分かれている。
・雰囲気の制御を可能とする気密の容器(1番目:真空、2番目:乾燥空気、アルゴン、窒素)
・接触による加熱装置。この加熱要素は、インコネルチャンバ中に挿入されており、それはカソードとしても作用する。温度は、インコネルチャンバ中に配置された熱電対によって制御される。
・0〜15kVの高電圧電源
・アノードとカソードは、対面して配置されている。カソードは、ケースレー(商標)ピコアンメータに接続されている。カソードの周辺のガード電極は、表面電流を収集すること、そしてピコアンメータによって試料を通した電流を測定することを可能にさせる。
【0104】
3.材料の特性の評価方法
・硬度の評価:ナノインデンテーションについては、バーコビッチ先端(NT600 nanoindenter、MicroMaterials Limited)が用いられた。マイクロインデンテーションについては、LEICA VMHT AUTO(商標)装置が備えられたヌープ型の先端が用いられた。
・化学的分析:化学的分析プロファイルを行うために、GD-Profiler 2(HORIBA Jobin Yvon(商標))が用いられた。
・透過率の評価:Cary 5000 Varian(商標)UVNIS/NIR
・XPS分析:XPS分析は、Al KcxX単色光源(1486.6eV)を備えたThermo VG Scientific ESCALAB(商標)220 iXL分光計で行われた。試料は、超真空チャンバ(UHV、109ミリバール)中に室温で置かれた。収集されたデータは、モデル化のためにGaussian-Lorentzianの組み合わせで整えられる。データを処理するために、Thermofisher ScientificのAVANTAGE(商標)ソフトウエアが用いられる。
・SHG:マイクロSHGカップリング法が、二次調波発生を探査するために用いられた。用いられた装置は、レーザー源を備えた、Horiba HR800 confocal Ram/Jobin-Yvon(商標)分光計である。第二調波信号を測定するために用いられるこのレーザー源は、1064nmの波長でレーザーを発光するpico-second EKSPLA(商標)PL2200である。
【0105】
顕微鏡は、3D解析を可能とする、1ミクロンの空間分解能を有する電動式ステージ(x、y、z)を備えている。分極した入射光は、近赤外レンズ(50×または100×)によって試料の表面上に焦点を合わせられる。後方散乱された光は同じレンズによって捕捉され、そして検光子へと方向を変えられる。この検光子は、分析ポーリングを選択するように用いられる。そのように分極された光線は、ネットワークに、そして次いでCCDカメラに向けられ、CCDカメラは第二高調波強度を選択することを可能にさせる。この方法は、第二高調波現象を呈する区域を識別することによって、材料内の電場の局在化に到達することを可能にさせる(V. Rodriguez、D. Talaga、F. Adamietz、JL Bruneel、M. Couzi、Chem Phys Lett、2006、431、190)。
【0106】
耐候性経時試験
分析は、異なる雰囲気を擬似するために、そして化学的な耐久性を評価するために、そしてコーティングの経時変化を促進するために、気候チャンバ中で行われた。用いられた方法は、外での使用の実際の条件におけるこの方法の挙動を評価することを可能にさせる。
【0107】
耐候性経時の手順は、以下の相で構成されている。
1)ガラス上に、塩化ナトリウムの1%塩水(pH6.5〜7.1)を3回、24時間の継続時間でスプレーする相A、塩水は試料上に2.0〜4.0mL/80cm/時の速度で落下する。
2)3回、24時間の継続時間で、チャンバ中の%湿度を70〜95%上昇させて、温度を25℃から50℃に上昇させる相B。
3)24時間の継続時間で、−15℃〜50℃の熱衝撃相C。
【0108】
完成したサイクルは、6週間の合計の継続時間にわたる6サイクルの繰り返しからなっている。1サイクルは、7日間継続し、そして次の順序、A−B−A−C−A−B−Bで構成される。
【0109】
II.例
行われる処理は、2つの工程を含んでおり、第1の工程は、窒素雰囲気の下でのガラスの熱処理である。第2の工程は、制御された化学的に不活性の雰囲気中での熱ポーリング処理である。
【0110】
1.工程(a):窒素雰囲気下での熱処理
この処理は、ムライト管中で400℃の温度で、制御された雰囲気下で、窒素(N)下で、24時間行われた。この処理は、ガラスの表面を容器の雰囲気に反応性にするために、ソーダ石灰ガラスのガラス転移温度に近い温度で行われる。300℃、350℃および400℃で行われるこの処理は、同じ結果を与えた。温度の上昇およ下降の勾配は15℃/分の水準である。
【0111】
表面が部分的に窒化されたガラスは、次いで熱ポーリング処理を受ける。
【0112】
2.工程(b):窒素雰囲気下での熱ポーリング処理
熱ポーリング処理は、電場によって支援された、制御された熱処理法である。実験は、閉鎖された容器中で、制御された雰囲気下で、閉ざされた電極で、アルゴンの下もしくはNの下で行われる。この雰囲気の制御の失敗(漏れ、封止の問題、流量計)は、望ましくない化学的機構を招く可能性があり、それはガラスの機械的性質を変化させる。
【0113】
熱ポーリング処理は、2つの電極間に配置された試料の温度を上昇させ、そして図1に示したように電位差を印加することによって、行われた。ガラス試料1は、アノード2およびカソード3の間に置かれ、そしてこの組立体は、熱盤4の上に置かれる。その全体が、密閉されたチャンバ(示されてはいない)内に置かれる。2つの電極は、電圧発生器5に連結されている。
【0114】
温度は、200〜300℃の範囲の熱ポーリング温度に徐々に上昇される。その温度に到達したら、1.0〜3.0kVの範囲の電圧が印加される。熱ポーリング処理は、20〜60分間継続される。次いで、温度は、室温に戻され、一方で、電圧はなお実験の熱バイアス電圧で維持される。系が室温に到達したら、電圧は0Vに低下される。次いで、熱ポーリング処理は完結される。
【0115】
図2には、本発明の方法の第2の工程がグラフで示されている:温度(縦座標)は、所望の閾値に累進的に上昇され(時間の尺度は、横座標に概略的に示されている)、次いで電圧が印加され、ここでこの工程は、ハッチングされた領域によって示されており、最終的に温度は周囲温度に低下され、そして電圧は0Vに低下される。
【0116】
III.特性の決定
硬度の評価:我々は、以下のものについて、バーコビッチナノインデンテーションの動向を、荷重の関数として比較した。
・対照のソーダ石灰ガラス(比較)
・上記の工程(a)(窒素(N)の下での熱処理)の処理を標準のソーダ石灰ガラスに適用することによって得られたガラス。(比較)。
・上記の工程(b)(窒素(N)雰囲気下での熱ポーリング処理)の処理を標準のソーダ石灰ガラスに適用することによって得られたガラス。(比較)。
・上記の工程(a)(Nの下でのアニール)および続く工程(b)(Nの下での熱ポーリング処理)の処理を標準のソーダ石灰ガラスに適用することによって得られたガラス(本発明による)。
【0117】
これらの結果が、図4に示されている。本発明のガラスでは、低荷重(1および2.5mN)において、ナノインデンテーションにおける約40%の硬度の増加が観察された。
【0118】
硬度の評価:マイクロインデンテーション試験
ヌープ硬度の動向が、荷重の関数として、以下のものについて比較された。
・対照のソーダ石灰ガラス(比較)
・上記の工程(a)(窒素(N)の下での熱処理)の処理を標準のソーダ石灰ガラスに適用することによって得られたガラス。(比較)。
・上記の工程(b)(窒素(N)雰囲気下での熱ポーリング処理)の処理を標準のソーダ石灰ガラスに適用することによって得られたガラス。(比較)。
・上記の工程(a)(Nの下でのアニール)および続く工程(b)(Nの下での熱ポーリング処理)の処理を標準のソーダ石灰ガラスに適用することによって得られたガラス(本発明による)。
【0119】
これらの結果が、図3に示されている。本発明のガラスでは、ヌープ硬度は、対照および比較のガラスよりも遥かに高いことが理解される。特に1〜25gfまたは250gf超の範囲の荷重では、2つの処理の相乗的な効果があり、このことは決して予測可能ではなかった。これらのそれぞれの工程の内のただ1つでは、ガラスの硬度を、10gfで最大で約20%向上させることを可能にさせる。50〜200gfの荷重では、その増加は13%未満である。200gf〜300gfの荷重では、その増加は5%未満である。10gfの荷重でほぼ40%の硬度の正味の増加を可能にするのは、連続的に行われたこれらの2つの工程の相乗効果である。これらの2つの工程の相乗効果は、50gf〜300gfの範囲の荷重での15%超の硬度の増加を可能にする。
【0120】
化学的分析:プラズマのエッチング、カップリングおよび分光分析に使用される技術によって、熱ポーリング処理の実験条件による、300〜400nmの範囲の表面シリカ層が示される。カチオンの移動が観察される(カルシウムおよびマグネシウムでは数百ナノメートルから、ナトリウムおよびカリウムでは数マイクロメートルまでの)。
【0121】
透明性の評価:これらの結果は、下記の表1に示されている。これらの結果は、耐候性処理(TC)前後のパーセントでの透過率(T)として表されている。
【0122】
【表3】
【0123】
(1)熱ポーリング処理が空気の下で適用された標準のガラス
(2)熱ポーリング処理が窒素雰囲気下で適用された標準のガラス
(3)アニール処理が窒素雰囲気下で適用され、続いて窒素雰囲気下で熱ポーリング処理が適用された標準のガラス。
【0124】
これらの分析で、表面品質の保持が立証された。耐候性試験後の対照のガラスでは、その透過率が大きく低下(5%超)したことがわかる。窒素の下で熱ポーリングによって処理されたガラス、および本発明の方法におけるガラスの場合には、透過率は1%だけ変化しており、これは測定の精度に相当する。
【0125】
SHG:分極された材料が得られたことが分かった。
【0126】
耐候性の経時変化
図5aおよび5bには、耐候性チャンバ中での経時変化の前(シリーズa)および後(シリーズb)のガラスの表面状態が示されている。
【0127】
スナップ写真A1およびB1には、未処理のガラスへの熱的経時変化の効果、すなわちガラスの光学的品質の劣化、が示されている。
【0128】
スナップ写真A3/B3およびA4/B4では、ガラス表面の光学的品質の維持への雰囲気の制御の役割が実証されている。
【0129】
スナップ写真A2およびB3では、N下でのアニーリングとN下での熱ポーリングの組み合わせの効果(本発明による)が示されている。光学顕微鏡によって観察された表面は、変化せずに維持されることがわかる。これらのスナップ写真は、ソーダ石灰標準ガラスについての、本発明の、耐候性試験の後の化学的耐久性への効果を説明している。この表面の状態は、本方法の有効性を立証している。
【0130】
耐候性の経時処理に付されたガラスに機械的性質が、次いで評価された。
【0131】
同じマイクロインデンテーション試験(荷重の関数としてのヌープ硬度の動向)が、耐候性チャンバ試験に続いて行われた。結果が図6および7に示されている。これらの試験は、本発明の処理に付されたガラスについて、耐候性試験の後に、硬度の機械的性質が維持されることを示すことを可能にさせる(図7)。ポーリング処理単独では、そのような良好な硬度の性質を保持するには十分でないことを理解することができる(図6)。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7