特許第6985313号(P6985313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985313
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】フリータイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 43/26 20060101AFI20211213BHJP
   F16D 43/02 20060101ALI20211213BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   F16D43/26 A
   F16D43/02
   F16H1/28
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-25439(P2019-25439)
(22)【出願日】2019年2月15日
(65)【公開番号】特開2020-133712(P2020-133712A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2020年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】飯田 輝信
(72)【発明者】
【氏名】池川 汐里
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4280620(JP,B2)
【文献】 特許第5468099(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 43/26
F16D 43/02
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転不能のハウジングと、前記ハウジング内で共通の中心軸の回りに回転可能な入力部材及び出力部材とを備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材から前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材が空転して遮断されるフリータイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材は内歯歯車を有すると共に、前記出力部材は太陽歯車を有し、
前記ハウジングの内部には、記太陽歯車及び前記内歯歯車と噛合可能な遊星歯車を有する遊星歯車体と、前記遊星歯車体を回転可能に支持し且つ前記共通の中心軸の回りに回転可能なキャリアとが配置されており、前記遊星歯車は前記遊星歯車体の外周面において円弧状に延在し、前記遊星歯車体の外周面には前記遊星歯車が存在しない遊星歯車非存在領域も存在し、
前記遊星歯車体と前記キャリアとの一方には係合手段が形成され、前記遊星歯車体と前記キャリアとの他方には前記係合手段と解除自在に係合する被係合手段が形成されており、
前記入力部材が回転したときは、前記遊星歯車が自転して前記太陽歯車と噛み合った後に前記係合手段が前記被係合手段に係合することで、前記内歯歯車、前記遊星歯車及び前記太陽歯車が一体的に回転して前記入力部材の回転が前記出力部材に伝達され、
前記出力部材が回転したときは、前記遊星歯車が前記太陽歯車から離間して前記遊星歯車と前記太陽歯車との噛み合いが解除されることによって、前記太陽歯車が空転して前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達が遮断されるフリータイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記被係合手段は扇形状凹部から構成され、前記係合手段は前記扇形状凹部に嵌め合わされた係合片から構成されている、請求項1に記載のフリータイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
前記キャリアは円形状のプレートを有し、前記プレートの前記入力部材側の面には、前記遊星歯車体を回転可能に支持する支持軸が設けられており、前記支持軸の外周面に前記係合片が固着されている、請求項2に記載のフリータイプ双方向クラッチ。
【請求項4】
前記ハウジングの内部には、前記キャリアに抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段が配置されている、請求項1乃至3のいずれかに記載のフリータイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力部材と出力部材との間の回転伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力部材からの正・逆回転の回転を出力部材に伝達し、出力部材からの回転の伝達は、出力部材を空転させて遮断するフリータイプ双方向クラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モーター等の駆動源によって機械装置あるいは作業機器等を駆動する動力伝達系では、駆動する機器の特性に対応するよう各種の伝達装置が使用される。このような伝達装置の中でフリータイプ双方向クラッチと呼ばれるものは、入力部材(駆動側部材)から出力部材(従動側部材)への動力伝達では、入力部材の正方向及び逆方向の回転を共に出力部材に伝達し、反対向きの、出力部材から入力部材への回転の伝達は、出力部材を空転させて遮断する機能を備えている。
【0003】
フリータイプ双方向クラッチは、一例として、巻き上げ式の電動カーテン等を手動でも操作できるようにした開閉駆動装置に適用することができる。この場合、フリータイプ双方向クラッチは、駆動モーターとカーテンの巻き上げ機構との間に介在され、入力部材に駆動モーターが連結され、出力部材に巻き上げ機構が連結される。駆動モーターを正・逆回転させるとカーテンの昇降が可能であると共に、駆動モーターの停止位置においては、手動による巻き上げ機構の操作が可能であって、このときには、出力部材が空転するので駆動モーターに悪影響を及ぼすことがない。こうした機能は、駆動モーターと巻き上げ機構との間に電磁クラッチを設置し、これを断・接しても達成できるが、電磁クラッチを作動させるには電力を必要とし、電力制御のための複雑な制御装置等も必要となる。
【0004】
フリータイプ双方向クラッチとして、特許文献1に記載されたフリータイプ双方向クラッチが知られており、このフリータイプ双方向クラッチについて、図12を参照して説明する。
【0005】
このフリータイプ双方向クラッチ100は、回転不能のハウジング102、ハウジング102内で共通の中心軸Oの回りに回転可能な入力軸104及び出力軸106を備える。ハウジング102の内部には、入力軸104に固着されたカム体108と、出力軸106に固着された太陽歯車110と、太陽歯車110と噛み合う遊星歯車112a及び112bを有する一対の遊星歯車体114a及び114bと、遊星歯車体114a及び114bを回転可能に支持し共通の中心軸Oの回りに回転可能なキャリア116とが配置されている。一対の遊星歯車体114a及び114bは、一方向クラッチ118a及び118bを介して遊星歯車112a及び112bの回転軸120a及び120bに嵌め合わされた作動子122a及び122bを有すると共に、一対の遊星歯車体114a及び114bのそれぞれの一方向クラッチ118a及び118bは、異なる回転方向の空転を許容するよう設定されている。また、一対の遊星歯車体114a及び114bのそれぞれは、カム体108の一方側及び他方側に配置され、かつ、作動子122a及び122b及びカム体108には、それぞれ直線部が形成されている。
【0006】
そして、特許文献1に記載の双方向クラッチ100によれば、入力軸104が回転したときは、一対の遊星歯車体114a及び114bのうち、回転方向で近距離にある遊星歯車体114a又は114bにおける作動子122a又は122bの外周面が、入力軸104のカム体108の外周面と直線部が重なる状態で当接する。この状態となると、入力軸104のカム体108は、当接した遊星歯車体114a又は114bの遊星歯車112a又は112bを介してキャリア116を同一方向に回転させ、作動子122a又は122bが当接していない他方の遊星歯車体114a又は114bを同様にその回転方向に移動させる。ここで、遊星歯車体114a及び114bの遊星歯車112a及び112bは出力軸106の太陽歯車110と噛み合っているが、一方向クラッチ118a及び118bによりその回転(自転)が拘束されているため、太陽歯車110が遊星歯車112a及び112bの移動(公転)に連れ回ることとなり、出力軸106は、入力軸104と一体化されて同一方向に回転する。また、一対の遊星歯車体114a及び114bは対称的に配置されているので、入力軸104から出力軸106への回転伝達は入力軸104の回転方向を問わず行われる。
【0007】
これに対し、出力軸106が回転すると、太陽歯車110と噛み合う遊星歯車112a及び112bはキャリア116の支持軸の周りに自転しようとする。しかし、入力軸104が停止した位置においては、一方の遊星歯車体114a又は114bの作動子122a又は122bの直線部とカム体108の直線部とが重なっており、その作動子122a又は122bは自転することができない。
【0008】
この状態において、出力軸106の回転方向が、入力軸104が停止する以前に回転していたのと同一方向であれば、遊星歯車112a又は112bは、一方向クラッチ118a又は118bにより作動子122a又は122bと一体化され、キャリア116を伴いながら出力軸106(太陽歯車110)の回転方向にわずかに移動する。これにより、作動子122a又は122bが遊星歯車112a又は112bとともに移動してカム体108から離れ、図12の断面A−Aの状態に至るため、出力軸106は空転する。
【0009】
一方、出力軸106の回転方向が、入力軸104が停止する以前の回転方向と逆であれば、遊星歯車112a又は112bは一方向クラッチ118a又は118bにより作動子122a又は122bと切り離される。そのため、作動子122a又は122bの直線部とカム体108の直線部とが重なっていても、遊星歯車112a又は112bは自転が可能であって、入力軸104に回転を伝達することなく、出力軸106は空転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6027702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フリータイプ双方向クラッチには種々の用途があるが、用途によってはコンパクトなフリータイプ双方向クラッチが強く望まれる場合がある。しかし、特許文献1に記載のフリータイプ双方向クラッチでは、一対の遊星歯車体114a、114bのそれぞれの遊星歯車112a、112bと、一方向クラッチ118a、118bと、作動子122a、122bとが軸方向に沿って配置されていることから、軸方向におけるコンパクト化には限界がある。
【0012】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、コンパクト化が可能であるフリータイプ双方向クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明が提供するのは以下のフリータイプ双方向クラッチである。すなわち、「回転不能のハウジングと、前記ハウジング内で共通の中心軸の回りに回転可能な入力部材及び出力部材とを備え、前記入力部材からの正・逆方向の回転は前記出力部材に伝達されると共に、前記出力部材から前記入力部材への回転の伝達は、前記出力部材が空転して遮断されるフリータイプ双方向クラッチであって、
前記入力部材は内歯歯車を有すると共に、前記出力部材は太陽歯車を有し、
前記ハウジングの内部には、記太陽歯車及び前記内歯歯車と噛合可能な遊星歯車を有する遊星歯車体と、前記遊星歯車体を回転可能に支持し且つ前記共通の中心軸の回りに回転可能なキャリアとが配置されており、前記遊星歯車は前記遊星歯車体の外周面において円弧状に延在し、前記遊星歯車体の外周面には前記遊星歯車が存在しない遊星歯車非存在領域も存在し、
前記遊星歯車体と前記キャリアとの一方には係合手段が形成され、前記遊星歯車体と前記キャリアとの他方には前記係合手段と解除自在に係合する被係合手段が形成されており、
前記入力部材が回転したときは、前記遊星歯車が自転して前記太陽歯車と噛み合った後に前記係合手段が前記被係合手段に係合することで、前記内歯歯車、前記遊星歯車及び前記太陽歯車が一体的に回転して前記入力部材の回転が前記出力部材に伝達され、
前記出力部材が回転したときは、前記遊星歯車が前記太陽歯車から離間して前記遊星歯車と前記太陽歯車との噛み合いが解除されることによって、前記太陽歯車が空転して前記出力部材からの前記入力部材への回転の伝達が遮断されるフリータイプ双方向クラッチ」である。
【0014】
好ましくは、前記被係合手段は扇形状凹部から構成され、前記係合手段は前記扇形状凹部に嵌め合わされた係合片から構成されている。この場合には、前記キャリアは円形状のプレートを有し、前記プレートの前記入力部材側の面には、前記遊星歯車体を回転可能に支持する支持軸が設けられており、前記支持軸の外周面に前記係合片が固着されているのがよい。好適には、前記ハウジングの内部には、前記キャリアに抵抗トルクを付与する抵抗トルク付与手段が配置されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明が提供するフリータイプ双方向クラッチでは、入力部材が回転したときは、その回転により、内歯歯車が星歯車と噛み合って遊星歯車体を回転させる。そして、遊星歯車が自転して太陽歯車と噛み合った後に、係合手段が被係合手段に係合する。これによって、入力部材、キャリア及び遊星歯車体が一体的に回転し、遊星歯車と噛み合う太陽歯車も一体的に回転して、入力部材の回転が出力部材に伝達される。一方、出力部材が回転したときは、遊星歯車が太陽歯車から離間して太陽歯車が遊星歯車の存在しない部分に位置し、遊星歯車と太陽歯車との噛み合いが解除される。そのため、太陽歯車が空転して出力部材からの入力部材への回転の伝達が遮断される。
【0016】
本発明のフリータイプ双方向クラッチでは、遊星歯車体に形成された遊星歯車は円環状ではなく円弧状に延在しており、入力部材が回転したときは、遊星歯車体を支持するキャリアと入力部材とが一体化して回転伝達が行われると共に、出力部材が回転したときは、太陽歯車が遊星歯車から離間して回転伝達が遮断される。したがって、本発明のフリータイプ双方向クラッチでは、上記特許文献1に記載のフリータイプ双方向クラッチのような一方向クラッチ及び作動子が不要であることから、軸方向寸法のコンパクト化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に従って構成されたフリータイプ双方向クラッチの好適実施形態を示す図。
図2図1に示すフリータイプ双方向クラッチの分解斜視図。
図3図1に示すフリータイプ双方向クラッチのハウジングを単体で示す図。
図4図1に示すフリータイプ双方向クラッチの入力軸を単体で示す図。
図5図1に示すフリータイプ双方向クラッチの出力軸を単体で示す図。
図6図1に示すフリータイプ双方向クラッチの遊星歯車体を単体で示す図。
図7図1に示すフリータイプ双方向クラッチのキャリアを単体で示す図。
図8図1に示すフリータイプ双方向クラッチの抵抗トルク付与手段を単体で示す図。
図9図1に示すフリータイプ双方向クラッチのシールドを単体で示す図。
図10図1に示すフリータイプ双方向クラッチの入力部材回転時の作動を示す断面図。
図11図1に示すフリータイプ双方向クラッチの出力部材回転時の作動を示す断面図。
図12】従来のフリータイプ双方向クラッチの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に従って構成されたフリータイプ双方向クラッチの好適実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1及び図2を参照して説明すると、全体を符号2で示すフリータイプ双方向クラッチは、回転不能のハウジング4、ハウジング4内で共通の中心軸Oの回りに回転可能な入力部材6及び出力部材8を備える。
【0020】
主に図3を参照して説明すると、ハウジング4は、円形状の端面壁10と、この端面壁10の周縁から軸方向に延びる円筒状の周面壁12とを有するカップ状部材である。端面壁10の中心部分には円形の通過開口14が形成されている。このように構成されたハウジング4は、フリータイプ双方向クラッチ2が設置される機器に回転不能に固定される。
【0021】
主に図4を参照して説明すると、入力部材6は、軸方向に延びる中空の入力軸部16と、入力軸部16の先端においてこれと同軸上に固着された円環形状の入力端板18とを備えている。入力軸部16は全体的に円筒形状であるが、外周面の所定部位に切欠きが形成されており、この切欠きを介して入力軸部16は図示しないモーター等の駆動源に接続される。入力端板18の外周縁には、入力軸部16とは反対側の軸方向に延びる円筒形状の入力外周壁20が固着されており、入力外周壁20の内周面には内歯歯車22が形成されている。
【0022】
主に図5を参照して説明すると、出力部材8は、軸方向に延びる中実の出力軸部24と、出力軸部24の先端においてこれと同軸上に固着された太陽歯車26とを備えている。出力軸部24は全体的に円柱形状であるが、外周面の所定部位には切り欠きが形成されており、この切欠きを介して出力軸部24は従動機器に連結される。太陽歯車26における、出力軸部24が固着された側とは反対側の端面には、出力軸部24及び太陽歯車26と同軸上に軸方向に突出する円柱形状の突出部28が形成されている。突出部28は、入力部材6の中央において軸方向に貫通する穴に挿通される。
【0023】
図1に示すとおり、ハウジング4の内部には、内歯歯車22及び太陽歯車26に加え、さらに、内歯歯車22と噛み合うと共に太陽歯車26と選択的に噛み合う遊星歯車を備えた遊星歯車体30と、遊星歯車体30を回転可能に支持し且つ共通の中心軸Oの回りに回転可能なキャリア32とが配置されている。図示の実施形態においては、遊星歯車体30は周方向に等間隔をおいて3つ配置されている。後に更に言及するとおり、各遊星歯車36は、太陽歯車26と噛み合う場合(図10参照。)と、太陽歯車26との噛み合いが解除される場合(図1及び図11参照。)とがあり、太陽歯車26と選択的に噛み合うようになっている。
【0024】
主に図6を参照して説明すると、遊星歯車体30は円筒形状の主部34を備えており、主部34の外周面には遊星歯車36が形成されている。本発明に従って構成されたフリータイプ双方向クラッチ2では、遊星歯車36は主部34の外周面(つまり遊星歯車体30の外周面)において円弧状に延在し、主部34の外周面(つまり遊星歯車体30の外周面)には遊星歯車36が存在しない遊星歯車非存在領域38も存在していることが重要である。示の実施形態においては、遊星歯車36は略220度の角度範囲に亘って存在している。遊星歯車体30には、後述の係合手段と解除自在に係合する被係合手段も形成されている。図示の実施形態においては、被係合手段は遊星歯車体30の軸方向片側に形成された扇形状凹部40である。図6の右図を参照して説明すると、扇形状凹部40は略140度の角度範囲に亘って存在している。扇形状凹部40の円弧状辺面42をなす円の中心と遊星歯車体30の中央を軸方向に貫通する断面円形の支持穴44の中心とは共通であって、扇形状凹部40は支持穴44を包含している。そして、扇形状凹部40の周方向端面46a及び46bは、同図において支持穴44と相互に内接している。遊星歯車体30における、扇形状凹部40が形成されていない側の軸方向端面には、支持穴44を囲繞して軸方向に僅かに突出する円環状の突出壁48が形成されている。
【0025】
主に図7を参照して説明すると、キャリア32は円形状のプレート50を有し、このプレート50の片面(入力部材6側の面)には、遊星歯車体30を回転可能に支持する支持軸52が軸方向に突出して設けられている。図示の実施形態においては、支持軸52は周方向に等角度間隔をおいて3個設けられている。キャリア32には更に、遊星歯車体30の被係合手段と係合する係合手段も形成されている。図示の実施形態においては、係合手段は夫々の支持軸52の基端部において径方向外側に突出した係合片54である。図7の左図を参照することによって理解されるとおり、係合片54は、径方向外側に突出した円弧状辺面56と、円弧状辺面56の周方向両端と支持軸52の外周面とを接続する一対の周方向端面58a及び58bとを備えている。一対の周方向端面58a及び58bの各々は直線状であって相互に平行である。係合片54は遊星歯車体36に形成された扇形状凹部40に嵌め合わされ、円弧状辺面56は遊星歯車体30に形成された扇状凹部40の円弧状辺面42に対して摺動可能である。プレート50の中心部分には円形の通過開口60が形成されており、出力軸部24が通過開口60を通過している。
【0026】
キャリア32には、抵抗トルク付与手段によって抵抗トルクが付与される。図示の実施形態においては、抵抗トルク付与手段は、図8に示すとおりのウェーブワッシャ62である。ウェーブワッシャ62は後述するシールド板との間の摩擦によってキャリア32に抵抗トルクを付与する。
【0027】
ハウジング4の開放端には、図9に示すとおりの円形のシールド部材64が圧入され、シールド部材64はハウジング4と一体となる。シールド部材64の中心部分には出力軸部24が通過する円形の通過開口66が形成されている。シールド部材64の片面(入力部材6側の面)には上述したウェーブワッシャ62が嵌り込む円環状の溝68が形成されている。
【0028】
次に、上述したとおりのフリータイプ双方向クラッチ2の作動について図1と共に図10及び図11を参照して説明する。
【0029】
まず、図1及び図10を参照して入力部材6から出力部材8への回転伝達について説明する。図1左図に示す縦断面図の右方から見て時計方向に入力部材6が中心軸Oの回りに回転すると、その回転により、内歯歯車22は遊星歯車36を時計方向に自転させる。遊星歯車36が時計方向に所定程度自転すると、遊星歯車36は太陽歯車26と噛み合い、その後に係合手段としてのキャリア32の各係合片54の周方向端面58aと、被係合手段としての遊星歯車体30の各扇形状凹部40の周方向端面46aとが当接、すなわち、各係合片54と各扇形状凹部40とが係合する。これにより、遊星歯車36の自転はロックされ、入力部材6とキャリア32とは一体的に回転することになる。したがって、入力部材6、キャリア32及び遊星歯車体30が一体的に回転するので、遊星歯車36と噛み合う太陽歯車26も一体的に回転して、図10左図に示す縦断面図の右方から見て時計方向に出力部材8が中心軸Oの回りに回転する。
【0030】
なお、フリータイプ双方向クラッチ2では、図1を参照することによって理解されるとおり、被係合手段としての扇形状凹部40に係合手段としての係合片54が嵌め合わされ、係合片54の周方向両側には、扇形状凹部40の周方向端面46a及び46bが夫々配置されていることから、入力部材6が反時計方向に回転した場合にも、同様な作動で入力部材6からの回転がキャリア32及び遊星歯車体30を介して太陽歯車26に伝達される。
【0031】
次に、図11を参照して出力部材8が回転した場合の入力部材6への回転伝達の遮断について説明する。入力部材6の回転が停止して、図10に示す状態から、図10左図に示す縦断面図の右方から見て時計方向に出力部材8が回転した場合には、太陽歯車26と噛み合っている各遊星歯車30は、反時計方向に自転し、図11右図のA−A断面図に示すとおり、各遊星歯車36が太陽歯車26から離間して各遊星歯車36と太陽歯車26との噛み合いが解除される。これによって、太陽歯車26が空転して、出力部材8からの入力部材6への回転の伝達が遮断される。このとき、キャリア32にはウェーブワッシャ62によって抵抗トルクが付与されるため、太陽歯車26の回転によってキャリア32が連れ回りすることはない。
【0032】
一方、入力部材6の回転が停止して、図10に示す状態から、図10左図に示す中央縦断面図の右方から見て反時計方向に出力部材8が回転した場合には、キャリア32及び遊星歯車体30を介して出力部材8からの回転が入力部材6に伝達されてしまう。このように、入力部材6の回転方向の逆方向に出力部材8を回転させる場合には、入力部材6が回転していた方向の逆方向に入力部材6をわずかに回転させ、図1のA−A断面図又は図11のA−A縦断面図に示すように、太陽歯車26を各遊星歯車36から離間させ、各遊星歯車36と太陽歯車26との噛み合いを解除することによって、出力部材8から入力部材6への回転の伝達を遮断することができる。このときも、キャリア32にはウェーブワッシャ62によって抵抗トルクが付与されるため、太陽歯車26の回転によってキャリア32が連れ回りすることはない。
【0033】
以上のとおりであり、図示の実施形態のフリータイプ双方向クラッチ2では、遊星歯車体30に形成された遊星歯車36は円環状ではなく円弧状に延在しており、入力部材6が回転したときは、遊星歯車体30を支持するキャリア32と入力部材6とが一体化して回転伝達が行われると共に、出力部材8が回転したときは、遊星歯車30が太陽歯車26から離間して回転伝達が遮断される。したがって、図示の実施形態のフリータイプ双方向クラッチ2では、一方向クラッチ及び作動子が不要であることから、軸方向寸法のコンパクト化が可能である。
【0034】
なお、図示の実施形態では、係合手段としての係合片54がキャリア32に形成され、被係合手段としての扇形状凹部40が遊星歯車体30に形成されている例を説明したが、本発明のフリータイプ双方向クラッチにおいては、係合手段が遊星歯車体30に形成され、被係合手段がキャリア32に形成されていてもよい。また、係合片54及び扇形状凹部40のそれぞれは複数設けられていなくてもよく、それぞれ1個であってもよい。
【0035】
また、図示の実施形態における抵抗トルク付与手段はウェーブワッシャ62であったが、キャリア32に対して抵抗トルク付与する物であれば他の形態であってもよく、例えば、板バネをキャリア32の外周に配置するようにしてもよい。更に、キャリア32と、ハウジング4(又はシールド板64)に夫々相互に引力を生じる磁石を固定し、磁力によってキャリア32に抵抗トルクを付与するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0036】
2:フリータイプ双方向クラッチ
4:ハウジング
6:入力部材
8:出力部材
22:内歯歯車
26:太陽歯車
30:遊星歯車体
32:キャリア
36:遊星歯車
40:扇形状凹部(被係合手段)
54:係合片(係合手段)
62:ウェーブワッシャ(抵抗トルク付与手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12