【実施例1】
【0024】
図2〜
図9を用いて第1実施例を説明する。
図2は、粒子線治療装置1の全体構成を示す。粒子線治療装置1は、図示せぬ建屋の中に配置される。粒子線治療装置1は、例えば、粒子線発生装置2と、回転ガントリ3と、ビーム輸送系4と、治療台6と、CT装置7と、情報処理システム8とを含む。
【0025】
粒子線発生装置2は、放射線の一種である粒子線の例としての粒子線を発生させる装置である。粒子線発生装置2は、例えば、図示せぬイオン源と、前段加速器である直線加速器20およびシンクロトロン加速器21を有する。本実施例では、前段加速器20とシンクロトロン21とを用いたシステムを示すが、これに限らず、例えばサイクロトロンやシンクロサイクロトロンを用いてもよいし、または、超電導電磁石を使用する粒子線加速器であってもよい。粒子線には、例えば、陽子線(陽子イオンビーム)、ヘリウム線(ヘリウムイオンビーム)、炭素線(炭素イオンビーム)などがある。いずれを用いてもよい。
【0026】
シンクロトロン加速器21は、例えば、環状のビームダクト22、入射器23、複数の偏向電磁石24、複数の四極電磁石25、高周波加速空胴26、出射用の高周波印加装置27、出射用のセプタム電磁石28を有する。
【0027】
ビームダクト22は、粒子線の周回軌道を構成する。ビームダクト22に取り付けられた入射器23は、真空ダクトにより直線加速器20に接続される。図示せぬイオン源は、直線加速器20に接続されている。高周波印加装置27は、例えば、出射用高周波電極と、高周波電源と、開閉スイッチとを有する(いずれも不図示)。各偏向電磁石24と各四極電磁石25と高周波加速空胴26とセプタム電磁石28とは、
図2に示すように、ビームダクト22に沿って配置されている。
【0028】
ビーム輸送系は、加速器2から回転ガントリ3までビームを輸送する第1ビーム輸送系(高エネルギービーム輸送系)4と、回転ガントリ3内において照射装置5へビームを輸送する第2ビーム輸送系(ガントリービーム輸送系)30とに大別できる。
【0029】
第1ビーム輸送系4は、シンクロトロン加速器21のセプタム電磁石28に接続されるビーム経路(ビームダクト)41を有している。ビーム経路41に沿って、シンクロトロン加速器21から照射装置5に向けて、複数の四極電磁石43と偏向電磁石42と複数の四極電磁石43とが配置される。
【0030】
第2ビーム輸送系30は、ビーム経路(ビームダクト)31を有している。ビーム経路31に沿って、シンクロトロン加速器21から照射装置5に向けて、複数の偏向電磁石32と複数の四極電磁石33とが配置される。
【0031】
ビーム経路31および各電磁石32,33は、回転ガントリ3に取り付けられる。ビーム経路31は、第1ビーム輸送系4と第2ビーム輸送系30との接続部44において、ビーム経路41に連絡される。ビーム経路31は、回転ガントリ3の回転に応じて回転されるため、ビーム経路41とは直接接続されず、接続部44を介して接続される。
【0032】
照射装置5は、治療計画に基づいて、伸縮可能な照射ノズル53から、治療台6の天板61に載置された患者Ptの患部に向けて粒子線を照射する。照射装置5は、例えば、Y方向の走査電磁石(ビーム走査装置)51と、X方向の走査電磁石52と、照射ノズル53とを備える。
【0033】
Y方向の走査電磁石51は、粒子線(ビーム)を照射装置5の中心軸に垂直な平面内において偏向させてY方向に走査する。X方向の走査電磁石52は、粒子線をその平面内において偏向させて、X方向と直交するY方向に走査する。後述のように、X方向の走査電磁石51は、複数設けることができる。
【0034】
上述の通り照射装置5の先端側には、照射ノズル53がその軸方向に伸縮可能に設けられている。照射ノズル53は、例えば、ベローズ管531と、窓部532と、線量モニタ533,534と、ビーム位置モニタ535と、リッジフィルタ536(いずれも
図4参照)とを含む。窓部532は、真空と空気との境界である。ビームダクト22、31、41から照射装置5の窓部532までは、真空に保持されており、粒子線は真空中を加速、輸送される。窓部532を通過した粒子線は、空気中を進行する。
【0035】
照射装置5は、回転ガントリ3に取り付けられている。照射装置5は、回転ガントリ3により、回転ガントリ3の回転軸AX(
図3参照)を中心に、例えば360°移動可能になっている。照射装置5は、第2ビーム輸送系30の末端に位置し、走査電磁石51,52と先端部530とは照射装置5の粒子線出口に向けて、照射装置5の中心軸に沿って配置されている。なお、先端部530は、例えば、線量モニタ533,534と、ビーム位置モニタ535と、リッジフィルタ536、レンジシフタ(不図示)、コリメータ(不図示)など、粒子線を監視および調整する機器である。
【0036】
治療台6は、患者Ptを所定の位置および角度に保持する装置であり、患者Ptを載置する天板61と移動機構62とを含む。移動機構62は、例えば、天板61を複数方向(例えば6軸方向)に移動させるロボットアームとして構成してもよいし、天板61をレール上で水平に移動させる機構として構成してもよい。
【0037】
CT装置7は、照射装置5による照射可能空間(照射室36)を挟んで、治療台6と対向して設けられている。CT装置7は、天板61が照射室36に進入する方向とは逆の方向から、照射室36へ出入りできるように設けられている。
【0038】
情報処理システム8は、粒子線治療装置1の制御等を行うシステムである。情報処理システム8は、例えば、メインコントローラ81と、照射制御システム82と、治療計画装置83と、CT制御システム84と、データ蓄積部85と、操作端末86とを含む。ここでは、メインコントローラ81と、照射制御システム82と、治療計画装置83と、CT制御システム84と、データ蓄積部85と、操作端末86とは、それぞれ一つのシステムまたは装置として構成される例を示すが、これに代えて、複数のシステムまたは複数の装置を一つのシステムまたは装置として構成してもよいし、あるいは、一つのシステムまたは一つの装置を複数のシステムまたは複数の装置として、機能を分割して構成してもよい。
【0039】
メインコントローラ81は、粒子線治療装置1の全体動作を制御するコンピュータであり、例えば、マイクロプロセッサ811とメモリ812とインターフェース部813といったコンピュータ資源を備えている。図中、マイクロプロセッサ811を「CPU」と表示し、インターフェース部813を「IF」と表示する。メモリ812には、粒子線治療装置1を制御するために使用される所定のコンピュータプログラム(不図示)が格納されている。
【0040】
マイクロプロセッサ811は、所定のコンピュータプログラムをメモリ812から読み出して実行することにより、粒子線治療装置1を制御する。インターフェース部813は、例えば、一つまたは複数の通信プロトコルに対応する通信インターフェース回路、入出力インターフェース回路などを含む。
【0041】
インターフェース部813には、記憶媒体PMを接続可能である。記憶媒体PMは、例えば、フラッシュメモリ、光ディスク、メモリカード、ハードディスクなどのように構成される。記憶媒体PMからメインコントローラ81のメモリ812へ所定のコンピュータプログラムの一部または全部を転送させて記憶させることができる。逆に、メインコントローラ81のメモリ812から記憶媒体PMへ所定のコンピュータプログラムの一部または全部を転送させて記憶させることもできる。
【0042】
照射制御システム82は、粒子線治療装置1による粒子線の照射の全体を制御するコンピュータである。照射制御システム82を含めて、以下に述べる各コンピュータ83,84,86は、メインコントローラ81と同様に、マイクロプロセッサおよびメモリ(いずれも不図示)などのコンピュータ資源を有する。
【0043】
治療計画装置83は、粒子線の照射により治療する計画を作成するコンピュータである。治療計画装置83は、医師の指示とCT装置7から得られた画像データとに基づいて、治療計画を作成する。
【0044】
CT制御システム84は、CT装置7の動作を制御するコンピュータである。CT装置7で撮影された患部の画像データ(診断画像データ)は、CT制御システム84を介してデータ蓄積部85へ格納される。
【0045】
データ蓄積部85は、例えば、CT装置7で撮影された画像データと、治療計画装置83で作成された治療計画とを記憶する。
【0046】
操作端末86は、医療技師または医師等のユーザが使用するコンピュータである。ユーザは、操作端末86を用いることにより、粒子線治療装置1を操作する。さらに、ユーザは、粒子線治療装置1の持つ情報を操作端末86を介して取得し、端末86の画面で確認することもできる。
【0047】
図3を用いて、回転ガントリ3の機械的構成の概略を説明する。回転ガントリ3は、円筒状の回転胴34と、回転胴34の内側に位置して回転胴34と同軸に設けられる円環状の放射線治療ケージ35と、回転胴34の内側に位置して回転胴34と同軸に設けられる円筒状の静止リング40とを備える。照射装置53は、回転胴34と放射線治療ケージ35に対して固定されており、回転胴34と放射線ケージ35の回転とともにアイソセンタICの周囲を回転する。なお、回転胴34、放射線治療ケージ35、及び、静止リング40が、円筒状または円環状に形成される例を説明するが、これに代えて、回転胴34等を直方体形状またはトラス構造に形成してもよい。
【0048】
回転胴34は、その前側にリング状のフロントリングが設けられており、その後側にもリング状のリアリング(いずれも不図示)が設けられている。フロントリングは、建屋の床100に設置された支持装置37により下側から支持される。リアリングは、床100に設置された支持装置38により下側から支持される。
【0049】
支持装置37は、一対のロール支持部材および複数のサポートローラ(いずれも不図示)を含む。各サポートローラは、各ロール支持部材に回転可能に取り付けられる。フロントリングは各サポートローラにより回転可能に支持される。
【0050】
支持装置38も支持装置37と同様に、一対のロール支持部材および複数のサポートローラ(いずれも不図示)を含む。各サポートローラは、各ロール支持部材に回転可能に取り付けられる。リアリングは、各サポートローラにより回転可能に支持される。
【0051】
回転ガントリ3を回転させる回転装置の回転軸は、減速装置(いずれも不図示)を介して、リアリングを支持する複数のサポートローラのうちの一つのサポートローラの回転軸に連結される。回転ガントリ3の回転角度を測定する角度検出器(不図示)は、フロントリングを支持する複数のサポートローラのうちの一つのサポートローラの回転軸に連結される。
【0052】
放射線治療ケージ35について説明する。以下では、治療ケージ35と略記する場合がある。治療ケージ35は、回転胴34の開口部、フロントリング側に設けられる。治療ケージ35の内側は、建屋10の床100と水平な移動床352と、円弧状の円弧部353とにより、アルファベットの「D」を90度傾けたような形状となっている。治療ケージ35の内側には、クローラ状に連結された板材が配置され、板材が回転胴34と治療ケージ35と回転しながら、水平な移動床352を形成している。治療ケージ35の両端は開口しており、フロントリング側が照射室36へ天板61が出入りするための出入り口361となっている。
治療ケージ35の両端のうち出入り口361の反対側に、静止リング40が配置される。静止リング40の内側には、水平床部401が形成されている。静止リング40の両端のうち治療ケージ35と反対側は、パネル351により封止されている。静止リング40は、回転胴34に設けられた駆動機構39により、回転胴34とは逆方向に回転される。これにより、水平床部401は、回転胴34が回転しても建屋10に対しては回転しない。水平床部401の上に、後述のようにCT装置7が移動可能に設けられている。
【0053】
このように構成される治療ケージ35は、回転ガントリ3の周方向における照射装置5の移動経路(旋回経路)に対し、天板61上の患者Ptの安全を守る。さらに、治療ケージ35は、医療技師等が患者Ptに対して医療行為を実施できるように、足場となる移動床352を提供する。治療ケージ35は、周囲に対して照射室36となる閉空間を与える。また、静止リング40は、建屋10に対して静止した水平床部401を提供する。治療ケージ35は、周囲に対してCT装置7の退避場所となる閉空間を与える。
【0054】
CT装置7は、静止リング40に位置して設けられる。CT装置7は、開口部72に患者Ptを通過させることにより、患部を撮影する。CT装置7は、移動機構71により治療ケージ35内を移動される。CT装置7は、移動床352と平行に移動することもできるし、移動床352とは異なる角度で移動することもできる。すなわち、移動機構71は、レールを用いてCT装置7を移動させるように構成されてもよいし、さらに、CT装置7をX軸に対して傾けられるよう構成されてもよい。また、多軸のロボットアームとして構成されてもよい。CT装置7をX軸に対して傾けられる構成にすることで、天板61の向きに合わせてCT装置7を移動させることができる。移動機構71は、回転ガントリ3の移動床352の上方で移動床352に接触しないよう、天板61を移動させる。
【0055】
図4は、回転ガントリ3の正面方向から見た照射装置5の構成図である。
図4は、CT装置7による撮影時における照射ノズル53の位置を示す。
【0056】
照射装置5のビーム経路500には、上から順に、Y方向の走査電磁石51、X方向の第1走査電磁石52(1)、X方向の第2走査電磁石52(2)、照射ノズル53が設けられている。そして、照射ノズル53は、ベローズ管531と、ベローズ管531の先端側に設けられた窓部532と、窓部532の下側に設けられた主線量モニタ533と、主線量モニタ533の下側に設けられた副線量モニタ534と、副線量モニタ534の下側に設けられた位置モニタ535と、位置モニタ535の下側に設けられたリッジフィルタ536とを備える。さらに、照射ノズル53の先端には、X線検出器(FPD:Flat Panel Detector)55(1),55(2)が設けられている。
【0057】
線量モニタ533,534は粒子線の線量を計測して、照射制御システム82へ送信する。位置モニタ535は、粒子線の出射位置を計測して、照射制御システム82へ送信する。
【0058】
FPD55(1),55(2)は、照射室36の下側に配置されたX線照射装置54(1),54(2)に対応する。すなわち、第1FPD55(1)は、第1X線照射装置54(1)から照射されるX線を検知し、照射制御システム82へ送信する。第2FPD55(2)は、第2X線照射装置54(2)から照射されるX線を検知し、照射制御システム82へ送信する。X線照射装置54(1),54(2)とFPD55(1),55(2)とにより、放射線治療中の患部の位置を追跡することができる。特に区別しない場合は、X線照射装置54(1),54(2)をX線照射装置54と呼び、FPD55(1),55(2)をFPD55と呼ぶ。撮影時、CT装置7に接触しないよう、FPD55は照射ノズル53側に折り畳まれる。FPD55を折り畳まずにFPD55がCT装置7に接触しない位置まで照射ノズル53を退避してもよい。
【0059】
ベローズ管531は、
図4中のZ方向で伸縮する。ベローズ管531の伸縮量は、図示せぬセンサにより検出されて、照射制御システム82へ送信される。
図4に示すように、CT装置7による撮影時には、ベローズ管531は収縮し、照射ノズル53の先端を退避位置P1まで退避させる。照射ノズル53の先端(リッジフィルタ536の下面)とアイソセンタICとは、距離L1だけ離間する。これにより、照射装置5の下側へ向けてCT装置7が照射室36を移動した場合でも、照射装置5とCT装置7との干渉は生じない。なお、CT装置7が大型であり、照射ノズル53の先端とアイソセンタICとの離間距離を大きくする場合、照射ノズル53の上部にある走査電磁石51,52と電磁石32についても上下移動させる事がある。
【0060】
図5は、X線照射装置54とFPD55とにより患者Ptの体内組織の動きをリアルタイムで追跡しながら、照射装置5から粒子線を患者Ptの患部に向けて照射する動体追跡照射を行う場合の、照射ノズル53の位置を示す。動体追跡照射の場合、X線照射装置54から照射されるX線を検知できるよう、FPD55は、X線照射装置54と対向する位置まで降ろされる。
【0061】
図4で示した状態から、ベローズ管531が長さL12だけ下向きに伸長することにより、照射ノズル53の先端は動体追跡照射位置P2へ到達する。このとき、照射ノズル53の先端からアイソセンタICまでの距離はL2(<L1)となる。距離L2は、患者Ptに近いが、照射ノズル53及びFPD55が患者Ptに接触しない値に設定される。
【0062】
図6は、患部に最接近して高精細な粒子線を照射する場合の、照射ノズル53の位置を示す。
【0063】
例えば
図4で示した状態から、ベローズ管531が長さL13だけ下向きに伸長することにより、照射ノズル53の先端は最接近照射位置P3へ到達する。このとき、照射ノズル53の先端からアイソセンタICまでの距離はL3(<L2)となる。
【0064】
本実施例の最接近照射位置P3では、FPD55が照射ノズル53側に折り畳まれるため、X線による動体追跡をしない。FPD55が折り畳まれる分、照射ノズル53を患者Ptに近づけることができる。なお、FPD55の取付け位置などを変えることにより、FPD55がX線照射装置54からのX線を受信できる場合には、動体追跡してもよい。
【0065】
照射ノズル53の先端が退避位置P1から動体追跡照射位置P2または最接近照射位置P3へ移動する場合を述べたが、照射ノズル53の先端は、位置P1,P2,P3間を移動することができる。すなわち、位置P1から位置P2へ、位置P1から位置P3へ、位置P2から位置P1へ、位置P2から位置P3へ、位置P3から位置P1へ、位置P3から位置P2へ、それぞれ移動可能である。
【0066】
図7を用いて、粒子線治療装置1の制御方法を説明する。
【0067】
メインコントローラ81は、操作端末86から、CT装置7による撮影の準備開始が指示されると(S11)、照射制御システム82を介して照射ノズル53の位置を確認し、照射ノズル53が退避位置P1に退避しているか判定する(S12)。
【0068】
メインコントローラ81は、照射ノズル53が退避していないと判定すると(S12:NO)、CT装置7による撮影準備を中止させ(S13)、照射ノズル53を収縮させて退避するように照射装置5へ指示する。この指示は、例えば、メインコントローラ81から照射制御システム82を介して照射装置5へ送られる。これにより、照射装置5は、照射ノズル53の先端を所定の退避位置P1へ退避させる。
【0069】
ユーザが操作端末86から、再びCT装置7による撮影準備の開始を指示すると(S11)、メインコントローラ81は照射ノズル53の先端が退避していると判定し(S12:YES)、CT装置7に対して照射室36への移動を許可する(S15)。すなわち、メインコントローラ81は、CT制御システム84に対して、CT装置7の移動と撮影とを許可する。照射ノズル53は退避しているため、CT装置7が待機場所から照射室36へ移動しても、CT装置7と照射ノズル53とが接触することはない。
【0070】
移動許可を受けたCT装置7は、治療ケージ35の奥の待機場所から照射室36へ向けて移動し、天板61上の患者Ptを撮影し、撮影した画像データをデータ蓄積部85へ送信して保存させる(S16)。詳しくは、CT装置7は、CT制御システム84からの指示に応じて、所定の待機場所から照射室36内の治療位置(アイソセンタICに対応する位置であり患者Ptの患部が撮影できる場所)へ移動する。CT装置7は、天板61の角度に合わせ、天板61の先端からCT装置7の開口部72に患者Ptを通し、患部が撮影できる場所まで移動し、静止する。そしてCT装置7は、アイソセンタIC付近を撮影し、その画像データをCT制御システム84へ送信する。CT制御システム84は、CT装置7から受信した画像データをデータ蓄積部85に格納する。
【0071】
メインコントローラ81は、CT制御システム84を介して、CT装置7による撮影が終了したか確認する(S17)。メインコントローラ81がCT装置7による撮影終了を確認した後(S17:YES)、治療計画装置83は、データ蓄積部85に保存された画像データに基づいて、治療計画を作成する(S18)。治療計画の作成は、医師からの手動指示にしたがって実施される。作成された治療計画は、データ蓄積部85に転送されて保存される。なお、治療計画の作成に代えて、あらかじめ作成していた治療計画を画像データに基づいて、修正してもよい。
【0072】
メインコントローラ81は、操作端末86から入力される治療開始指示にしたがって、CT装置7に対して待機位置へ戻るよう指示する(S19)。メインコントローラ81は、CT装置7への移動指示と同時に、または、CT装置7への移動指示後に、照射ノズル53が照射位置P2またはP3まで伸長するように指示する(S20)。これにより、患者Ptを動かさずに、CT撮影からビーム照射による治療へ滑らかに移行させることができる。
【0073】
照射ノズル53が照射位置P2または照射位置P3へ到達すると、照射制御システム82は、治療計画にしたがって、照射ノズル53から所定の粒子線をアイソセンタICへ向けて照射させる(S21)。
【0074】
図8は、照射ノズルの伸縮を制御する処理を示すフローチャートである。照射制御システム82は、メインコントローラ81から照射ノズル53を伸縮させる指示を受領すると(S31)、その指示が伸長であるか収縮であるか判定する(S32)。ここで、伸長とは、照射ノズル53の先端をアイソセンタICへ向けて移動させることを意味する。収縮とは、照射ノズル53の先端をアイソセンタICから遠ざけるように移動させることを意味する。
【0075】
照射制御システム82は、照射ノズル53の伸長が指示された場合(S32:伸長)、照射ノズル53を伸長させる(S33)。照射制御システム82は、照射ノズル53の先端が停止位置に達したか判定し(S34)、停止位置に達するまで照射ノズル53の先端を伸長させる(S34:NO→S32:伸長→S33)。照射制御システム82は、照射ノズル53の先端が停止位置に達したと判定すると(S34:YES)、照射ノズル53の伸長を停止させる。
【0076】
一方、照射制御システム82は、照射ノズル53の収縮が指示された場合(S32:収縮)、照射ノズル53を収縮させる(S36)。照射制御システム82は、照射ノズル53の先端が停止位置に達したか判定し(S34)、停止位置に達するまで照射ノズル53の先端を収縮させる(S34:NO→S32:収縮→S36)。照射制御システム82は、照射ノズル53の先端が停止位置に達したと判定すると(S34:YES)、照射ノズル53の収縮を停止させる(S35)。
【0077】
図9は、粒子線治療装置1の適用例を部分的に示す斜視図である。粒子線治療装置1は、建屋10に設けられている。治療台6は、図面手前の空間に位置し、天板61を出入り口361から照射室36へ出し入れする。
【0078】
照射室36の奥には、CT装置7が照射室36に向けて(照射装置5による照射可能領域に向けて)移動可能に設けられている。
図9では、CT装置7は待機場所に位置しており、撮影時には手前方向に移動する。
【0079】
このように構成される本実施例によれば、回転ガントリの内側に形成される照射室36へ向けて、治療台6とCT装置7とはそれぞれ異なる方向から移動することができ、さらに照射ノズル53は、撮影時にはCT装置7と干渉しないように退避し、治療時には伸長してアイソセンタICへ接近する。
【0080】
したがって、本実施例の粒子線治療装置1は、アイソセンタICに位置決めされた患者Ptを動かさずに、CT装置7による撮影と照射装置5による治療とを滑らかに切り替えることができる。この結果、より治療するときの状態に近い患部の画像データから信頼性の高い治療計画を作成することができると共に、治療時に照射ノズル53は患部へ接近して粒子線を照射させることができる。したがって、粒子線治療の信頼性を向上することができる。
【0081】
本実施例の粒子線治療装置1によれば、CT装置7による撮影から粒子線の照射による治療まで患者Ptを移動させる必要がないため、治療計画作成時と治療時とで患部の位置がずれるのを抑制できる。したがって、患部への照射範囲に設定するマージンを小さくすることができるため、正常な組織に対する影響を低減できる。
【0082】
本実施例の粒子線治療装置1によれば、照射室36の奥にCT装置7を収容し、照射室36内のアイソセンタICでのCT画像を取得することができるため、高品質の治療計画を作成できる。さらに、治療計画を作成するためのシミュレーション室を別に設ける必要がないため、建屋を小さくすることができる。
【0083】
本実施例の粒子線治療装置1によれば、CT画像の撮影と治療とを比較的滑らかに切り替えることができるため、従来よりも短時間で治療計画を最適化することができ、リアルタイムのアダプティブセラピー(適応放射線治療)を実現できる。
【0084】
本実施例の粒子線治療装置1によれば、治療台6の天板61とCT装置7とは機械的に分離しており、天板61はCT装置7の構造の制約を受けずに、照射室36へ自在に出入りしたり、その角度(姿勢)を変えたりすることができる。したがって、治療の自由度が増大し、使い勝手が向上する。
【実施例3】
【0090】
図11を用いて実施例3を説明する。本実施例では、照射装置5を伸縮可能(進退可能)とする方向について説明する。
【0091】
図11は、CT装置7と照射装置5との位置関係を模式的に示す説明図である。CT装置7は、必ずしも円形状の外形とならず、長方形状または楕円形状のような非円形状になる場合がある。
【0092】
図示を省略するが、CT装置7の外形がほぼ正円形状の場合は、照射装置5がCT装置7の外周側のどこに位置したとしても、干渉を防止するために照射ノズル53が伸縮すべき長さ(進退量またはストローク量とも呼ぶ)はあまり変わらない。すなわち、CT装置7の中心から真上を0°としたとき、0°、90°、180°、270°あるいは、それら4つの角度の間に位置する他の角度のほとんど全てにおいて、照射ノズル53がCT装置7との干渉を避けるために必要な伸縮量は、ほぼ同一である。
【0093】
これに対し、CT装置7の外形が非円形状の場合、例えば
図11に示すように、横長の楕円状または長方形状の場合、照射装置5の旋回角度によって、照射ノズル53が伸縮すべき量は異なる。照射装置5が90°と270°に位置する場合のアイソセンタICからCT装置7の外周までの距離L4は、照射装置5が0°と180°に位置する場合のアイソセンタICからCT装置7の外周までの距離L5よりも長くなる。
【0094】
ここでは、0°、90°、180°、270°の4つの角度を例に挙げて説明するが、これら以外の角度、例えば1°〜89°、91°〜179°、181°〜269°、271°〜359°の範囲の任意の角度で照射ノズル53を伸縮可能としてもよい。
【0095】
上述の通り、アイソセンタICからCT装置7の外周までの長さが、照射装置5の角度で異なる場合、照射ノズル53とCT装置7との接触を防止するために最低限必要な伸縮量も異なる。
【0096】
複数の角度から照射ノズル53を伸縮可能に構成することができる。この場合、伸縮可能角度へ照射ノズル53を移動させる必要がないため、粒子線治療とCT撮影との切替に要する時間を短縮することができ、粒子線治療装置1のスループットを向上させることができる。このとき、伸縮量は、いずれの角度でもCT装置7に接触しない伸縮量(最大伸縮量)で一定としてもよい。また、干渉を避けるための伸縮量を照射装置5の角度によって異ならせてもよい。角度によって伸縮量を変える場合、機械構造および制御処理(補正処理など)が複雑化し、回転ガントリのサイズも大型化する。
【0097】
伸縮量が最小となる角度(
図11の場合は、0°と180°)において照射ノズル53を伸縮させる構成としてもよい。回転ガントリの大型化と制御処理の複雑化を抑制することができる。
【0098】
また、照射装置5を180°の角度から伸縮可能とすると、移動床352に照射ノズル53を伸縮させるための隙間が生じるため、照射室36での医療技師の動きが制限される。この隙間を板などで塞いでもよいが、その場合は機械構造が複雑化する。
【0099】
そのため、医療技師の動きを阻害しないという観点では、照射装置5が移動床352に位置する角度(180近辺、例えば150°〜210°の範囲)以外の角度で伸縮させる構成としてもよい。この場合の伸縮量は、上述の通り、最大伸縮量で一定としてもよいし、照射ノズル53の角度ごとの最低限必要な伸縮量を伸縮させてもよい。
【0100】
照射装置5の伸縮可能な角度を0°のみに制限してもよい。これにより、最小の伸縮量でCT装置7との干渉を防止することができる。さらに移動床352に隙間が生じないため、医療技師の動きを阻害するおそれがなく、使い勝手がよい。さらに、機械構造および制御処理が複雑化するのを抑制できる。ただし、照射装置5を0°の角度に位置させてから照射ノズル53を伸縮させる必要があるため、粒子線治療装置1のスループットは低下する。
【0101】
このように、機械構造の複雑化、制御処理の複雑化、回転ガントリの大型化、治療のスループット、医療技師の使い勝手、製造コストなどを勘案して、照射装置5の照射ノズル53をどの角度から伸縮させるかを決定すればよい。
【0102】
このように構成される本実施例は、実施例1または実施例2のいずれとも結合させることができる。本実施例は、実施例1および実施例2の結合された構成に対してさらに適用することもできる。