(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電気設備の運転中における絶縁監視の手法として、放電電流を計測することが行われている。放電電流の計測に用いられるセンサには、実用面から以下のような要求が課せられる。
(要求1)解体困難な巨大電路であっても、取り付け可能な構造であること。
(要求2)狭隘な設備内でも、取り付け可能な重量であり、かつ、事故時の大電流に耐えられるものであること。
(要求3)製造が容易であり、回路の信頼性が高いこと。
【0003】
これらの要求1〜要求3を満たすための従来技術として、空芯のロゴスキーコイルを適用して放電電流を測定するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、製造が容易なロゴスキーコイル構造を実現するために、プリント配線板にロゴスキーコイルを印刷する技術がある(例えば、特許文献2、3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献2、3に係る技術では、プリント配線板に電流検出用コイルであるロゴスキーコイルを印刷することで、ロゴスキーコイル構造の製造容易化を実現している。しかしながら、これら特許文献2、3に係る従来の製造手法は、ロゴスキーコイル構造を実現するために、3層以上のプリント配線板が必要であった。この結果、プリント配線板を用いてロゴスキーコイル構造を実現できるものの、製造コストが高くなってしまう問題点があった。
【0007】
また、感度を上げるためには、コイルの巻数を増やす必要がある。従って、プリント配線板を用いたロゴスキーコイル構造の感度を上げるためには、必然的に細い配線幅を採用することになる。しかしながら、3層以上のプリント配線板を必要とする従来技術では、層間に形成された配線の断線検査が容易でないという問題点があった。
【0008】
本発明は、前記のような問題点を解決するためになされたものであり、プリント配線板を用いてロゴスキーコイル構造を実現する際に、製造コストの低減、および断線検査の容易化を図ることのできる放電測定回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る放電測定回路は、2層のプリント配線板と、2層のプリント配線板に形成された電流検出用コイルとを備えた放電測定回路であって、電流検出用コイルは、2層のプリント配線板のそれぞれの層に
渡って形成された
ポロイダル方向の巻線と、2層のプリント配線板のいずれか一方の層に形成されたトロイダル方向の巻線とを有し、トロイダル方向の巻線は、中心点が同一で、異なる半径で形成された2つの優弧と、2つの優弧の一端同士を接続する第1接続配線と、2つの優弧の他端同士を接続する第2接続配線とにより構成される閉ループ形状を有し、2層のプリント配線板は、閉ループ形状を有するトロイダル方向の巻線が
ポロイダル方向の巻線を囲む形で一方の層に配置されたC字形状を有するように形成されて
おり、電流検出用コイルは、ポロイダル方向の巻線の端部と、トロイダル方向の巻線の端部とが接続されることで1つのコイルとして形成されているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2層のプリント配線板を用いてロゴスキーコイル構造を実現できる構成を備えている。この結果、プリント配線板を用いてロゴスキーコイル構造を実現する際に、製造コストの低減、および断線検査の容易化を図ることのできる放電測定回路を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の放電測定回路の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。本発明に係る放電測定回路は、製造コストが比較的安価であり、かつ、断線検査を比較的容易に実施可能な2層のプリント配線板を用いて、ロゴスキーコイル構造を実現することを技術的特徴とするものである。
【0013】
実施の形態1.
ロゴスキーコイルのトロイダル方向の巻線は、外部磁場の影響を正確にリセットするためには、2つのポロイダル方向の巻線の中央を戻る向きに巻く必要がある。
【0014】
ここで、トロイダル方向の巻線が、2つのポロイダル方向の巻線の中央ではなく、いずれかのポロイダル方向の巻線が形成された面に寄っている場合であっても、外部磁場の影響が小さくなる場合について考察する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態1において、トロイダル巻線の配置の違いによる外部磁場の影響に関する説明図である。トロイダル巻線が基板の内層に設けられている場合が、点線L1で示されている。一方、トロイダル巻線が基板表面に設けられている場合が、実線L2で示されている。
【0016】
ここで、点線L1を基板の内層に設ける場合には、従来のように3層以上のプリント配線板を用いる必要がある。これに対して、実線L2を基板表面に設ける場合には、2層のプリント配線板により実現できる。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態1において、トロイダル巻線の配置の違いによる磁束に関する概念図である。
図2において、領域S1、領域S2、および領域S12は、それぞれ次の内容の領域を意味している。
領域S1:外部磁場Bの影響により点線L1で示したトロイダル巻線のみを通過し、実線L2で示したトロイダル巻線を通過しない磁束の領域
領域S2:外部磁場Bの影響により実線L2で示したトロイダル巻線のみを通過し、点線L1で示したトロイダル巻線を通過しない磁束の領域
領域S12:外部磁場Bの影響により実線L2で示したトロイダル巻線、および点線L1で示したトロイダル巻線の両方を通過する磁束の領域
【0018】
領域S1および領域S2の面積が小さければ、トロイダル巻線の配置が点線L1である場合の起電力と、トロイダル巻線の配置が実線L2である場合の起電力との差は、小さいといえる。なお、以下の説明においては、トロイダル巻線の配置が点線L1である場合の起電力と、トロイダル巻線の配置が実線L2である場合の起電力との差のことを、単に「起電力の差」と称する。
【0019】
図1に示したような斜め方向からの外部磁場Bに対して、起電力の差が出ないようにすれば、トロイダル巻線の配置が実線L2であっても、トロイダル巻線の配置が点線L1である場合と実質的に同様の起電力が得られることとなる。
【0020】
円筒上面斜めからの磁束の量を減らせば、起電力の差が小さく済む。このことは、つまり、
図1の円筒の高さが低ければ低いほど、起電力の差は小さくなる、ということである。要するに、円筒形のコイルにおいて、半径に対して厚さが十分に薄ければ、トロイダル巻線を片側の面に寄せても、起電力の差は小さくて済むことがわかる。
【0021】
ここで、本実施の形態1に係る放電測定回路は、2層のプリント配線板を用いてロゴスキーコイル構造を実現できる構成を備える点に技術的特徴を有するものである。従って、コイルの半径は、プリント配線板の厚みに対して当然大きくとることが容易であり、一般的にはプリント配線板の内層に設けていたトロイダル巻線を、基板表面に移動させることができる。
【0022】
2層のプリント配線板にトロイダルコイルとポロイダルコイルを実装する場合には、トロイダルコイルとポロイダルコイルとが交差する構造とすることはできない。
【0023】
しかしながら、トロイダルコイルを、半径r1を有する内側の優弧と、半径r2を有する外側の優弧とに分割して、2層のプリント配線板の一方の層に実装することで、トロイダルコイルがほぼ半径(r1+r2)/2の位置にある場合と等価の特性を作ることができる。
【0024】
図3は、本発明の実施の形態1において、2層のプリント配線板の一方の層に実装されるトロイダルコイルの形状を示した模式図である。
図3に示したトロイダルコイル10は、中心点Oが同一で、異なる半径r1、r2で形成された2つの優弧11、12と、第1接続配線13と、第2接続配線14とで構成されている。
【0025】
第1接続配線13は、2つの優弧11、12の一端同士を接続している。また、第2接続配線14は、2つの優弧11、12の他端同士を接続している。従って、本実施の形態1に係るトロイダルコイル10は、優弧11、優弧12、第1接続配線13、および第2接続配線14によりC字形状の閉ループ形状が形成されている。
【0026】
このようなトロイダルコイル10では、特に、半径r1が大きく、かつ、半径r1と半径r2との差が小さいほど、トロイダルコイル10がほぼ半径(r1+r2)/2の位置にある場合と等価な特性を作ることができる。
【0027】
あるいは、トロイダルコイル10の配線幅を、半径r1のコイルと半径r2のコイルとで変化させて、両コイルのインピーダンスを調整することで、戻り巻線としての効果をより高めることもできる。
【0028】
そもそも、高電圧電路の放電電流計測を考えるとき、電路とコイルとの離隔距離は、半径r1であり、半径r1は必然的に大きくなくてはならない。このような場合の半径r1は、プリント配線板の厚みよりも2桁以上大きな長さであり、前述した等価な特性を作るための条件をよく満たす。
【0029】
図4は、本発明の実施の形態1において、2層のプリント配線板の両面に8巻のポロイダルコイル20を形成し、2層のプリント配線板の一方の面にトロイダルコイル10を形成した際のコイル構造を示した図である。
【0030】
また、この応用として、次のような構造が考えられる。
図5は、本実施の形態1における先の
図4のコイル構造を平面上に記載した模式図である。ここで、出力配線は、ポロイダルコイル20の巻数を変えなければ、ポロイダルコイル20のどの位置から取り出しても同じ出力電圧を得ることができる。
【0031】
図6は、本実施の形態1における先の
図4のコイル構造を平面上に記載した模式図であり、先の
図4とは異なる位置に出力配線を設けた場合の模式図である。例えば、この
図6のようなコイル構造を採用すると、以下のような特徴1および特徴2を実現できる。
【0032】
(特徴1)
図6中でA部として「切り込み位置」が示されているように、半径方向に切れ込みを入れたC字形状のプリント配線板にロゴスキーコイルを実装することが可能となる。
(特徴2)
図6中でB部として「引出配線」が示されているように、切れ込み位置であるA部と独立に、引出配線であるB部を任意の位置に配置可能とする構造が実現できる。
【0033】
前者の特徴1により、可とう性のあるプリント配線板であれば、測定対象の配線を、プリント配線板上に電流検出用コイルが形成された回路に対して容易に挿入することができる。さらに、後者の特徴2により、電流検出用コイルに接続する回路を、充電部から離れた、より安全な位置に配置することが可能となる。
【0034】
図6に示したような、本実施の形態1に係る放電測定回路は、部分放電を生じるような高電圧電路に用いるものである。従って、切れ込みがある特徴1を有することで、プリント配線板上に形成された電流検出用コイルを脱着する際に、時間がかかり危険でもある高圧配線の電路の切り離し作業が不要となる。
【0035】
また、引出配線をより安全な位置に配置できる特徴2を有することで、コイルから引き出す、表示器までの配線を、より安全な位置に設けることができる。
【0036】
なお、トロイダルコイル10は、内側のコイルと外側のコイルとの合成起電力が、従来のように内層にコイルを設けた場合と同等となるように、配線の長さ、幅を調整してインピーダンスを調整することで、外部磁場Bの影響をより一層小さくすることが可能である。
【0037】
以上のように、本実施の形態1に係る放電測定回路は、以下のような構造を備えている。
・ロゴスキーコイルを構成する2のポロイダル方向の巻線が、2層のプリント配線板のそれぞれの面に形成されている。
・ロゴスキーコイルを構成するトロイダル方向の巻線は、2層のプリント配線板のいずれか一方の層に形成され、中心点が同一で、異なる半径で形成された2つの優弧の一端同士および他端同士が接続された閉ループ形状を有している。
【0038】
このような構造を備えることで、本実施の形態1に係る放電測定回路は、以下のような効果を得ることができる。
(効果1)トロイダル方向の巻線を、2つのポロイダル方向の巻線の中央を戻る向きに巻く必要がない。この結果、2層のプリント配線板を用いてロゴスキーコイル構造を実現でき、製造コストの低減、および断線検査の容易化を図ることのできる放電測定回路を得ることができる。
【0039】
(効果2)トロイダル方向の巻線を閉ループ形状として形成できることで、半径方向に切れ込みを入れたプリント配線板にロゴスキーコイルを実装することが可能となる。この結果、電流計測用のロゴスキーコイルが形成されたプリント配線板に対して、測定対象の配線を容易に挿入することができる。
【0040】
(効果3)半径方向の切れ込みとは別の任意の位置に引出配線を設けることができる。この結果、ロゴスキーコイルに接続する回路を、充電部から離れた、より安全な位置に配置することが可能となる。
【0041】
実施の形態2.
ロゴスキーコイルの出力電圧Vは、測定対象の電流の振幅Iならびに周波数f、ポロイダルコイルの断面積Aならびに巻き数N、巻き芯の比透磁率μと、下式(1)の関係がある。
V∝I×f×A×N×μ (1)
【0042】
放電現象は、非常に時間の短い現象であり、周波数fはとても大きい。従って、コイルを薄くすることによる断面積Aの低下、ならびに巻き芯の比透磁率μが小さい(μ≒1)という欠点は、いくらか補うことができる。
【0043】
ところで、巻き数Nについては、プリント配線板に関する製造技術の限界から、あまり大きくできない。Nが小さいということは、ロゴスキーコイルの出力インピーダンスが小さいという特性があることを意味する。この特性を生かして、本実施の形態2では、大きな出力電圧を得るための手法について説明する。
【0044】
高周波、低インピーダンスという特徴のある信号を効率的に増幅する手法として、ベース接地型トランジスタ増幅回路を用いた方法がある。
図7は、本発明の実施の形態2において、ロゴスキー回路を用いて大きな出力電圧を得るために適用される回路図である。
【0045】
ここで、L1は、電流センサであるロゴスキーコイルである。R1は、エミッタ帰還抵抗であり、動作点を決めるため、および負帰還をかけて回路を安定化するための抵抗である。自己バイアス抵抗R3により、温度特性を安定化でき、C2によりベースを高周波接地している。R2は、出力抵抗である。
【0046】
本実施の形態2における放電測定回路の計測対象は、高電圧電路である。観測は、離れたところから実施するので、表示装置と電流センサとの間は、同軸ケーブルで結ばれる。この同軸ケーブルは、Q1から放電信号を受け取ると同時に、Q1に電力を供給する役目も持っている。L1の片端を同軸ケーブルの遮蔽側、および電源のマイナス極と結ぶことで、L1、すなわちセンサを接地することができる。
【0047】
なお、C1の値は、計測信号の帯域に対しては十分小さなインピーダンスとなり、ノイズの帯域に対しては十分大きなインピーダンスとなるように選定される。また、R1のインピーダンスがL1の出力インピーダンスZ1に対して十分大きい場合には、この系の増幅率は、R2/Z1となる。
【0048】
あるいは、L1のインダクタンスに対してR1を小さく選定した場合には、L1,R1による回路は、自己積分回路として動作する。この結果、R1両端に生じる電圧は、電流に比例する値となり、その電圧の{R2/(Q1のエミッタ抵抗値)}倍の電圧がR2両端に得られる。
【0049】
図7に示した回路を用いる利点をまとめると、次のようになる。
(利点1)ロゴスキーコイルと同一の基板上に、プリアンプを設けることができ、感度、S/N比を向上させることができる。
(利点2)同軸ケーブル1本でセンサと表示装置を結ぶことができ、経済的である。
(利点3)電圧計側でコイルの片端を接地することが可能であり、安全である。
(利点4)使用する半導体は、トランジスタ1つだけであり、集積回路を用いた方法より安価に製造できる。
【0050】
R1両端に生じる電圧が電流に比例するようにR2を選定し、同軸ケーブルの中心導体・遮蔽間静電容量Ccを適切に選定することで、時定数Cc*R2の積分回路を構成することが可能である。この結果、出力波形のピーク電圧を放電電荷量に比例する値として得ることが可能となり、少ない部品点数で、当初の目的である部分放電電荷量を得ることができる。