特許第6985335号(P6985335)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985335磁粉探傷検査用試験体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985335
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】磁粉探傷検査用試験体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/91 20060101AFI20211213BHJP
   G01N 21/93 20060101ALI20211213BHJP
   G01N 27/84 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   G01N21/91 B
   G01N21/93
   G01N27/84
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-119138(P2019-119138)
(22)【出願日】2019年6月26日
(65)【公開番号】特開2021-4808(P2021-4808A)
(43)【公開日】2021年1月14日
【審査請求日】2020年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】390002808
【氏名又は名称】マークテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090893
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 敏
(72)【発明者】
【氏名】一本 哲男
(72)【発明者】
【氏名】伊東 俊
【審査官】 赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−043203(JP,A)
【文献】 特開2011−075377(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2018−0039833(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第108373920(CN,A)
【文献】 特開2003−014700(JP,A)
【文献】 特開2009−075098(JP,A)
【文献】 特開昭57−061944(JP,A)
【文献】 特開2005−351910(JP,A)
【文献】 特開2018−194494(JP,A)
【文献】 特表2011−507001(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0273240(US,A1)
【文献】 米国特許第04661369(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−G01N 21/958
G01N 27/72−G01N 27/9093
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁粉探傷検査システムの傷検出性能を評価する強磁性体の試験体において、
傷の内部に非磁性物質を含浸し、
傷の内部に磁粉が入り込まないことを特徴とする磁粉探傷検査用試験体。
【請求項2】
前記強磁性体は、鉄であり、
前記非磁性物質は、前記傷の略底部まで含浸していることを特徴とする、
請求項1に記載の磁粉探傷検査用試験体。
【請求項3】
前記非磁性物質は、シリコーンであることを特徴とする、
請求項1または2に記載の磁粉探傷検査用試験体。
【請求項4】
前記試験体の表面の前記傷の内部に含浸されなかった前記非磁性物質は、除去されていることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の磁粉探傷検査用試験体。
【請求項5】
磁粉探傷検査システムの傷検出性能を評価する試験体の製造方法において、
傷の表面に非磁性物質を塗布する工程と、
真空を用いて前記傷の内部の略底部まで前記非磁性物質を含浸する工程と、
前記傷の内部に含浸されなかった前記非磁性物質を除去する工程と、を有することを特徴とする、
磁粉探傷検査用試験体の製造方法。
【請求項6】
前記真空はマイナス70kPa以下であることを特徴とする、
請求項5に記載の磁粉探傷検査用試験体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁粉探傷検査用の傷を有する試験体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁粉探傷検査は、ビレット等の鋼材や自動車部品の被検査体の表面の探傷検査に適用され、JIS−Z−2320に規格化されている。磁粉探傷法による磁性体の傷の検査法は、軸通電法やコイル法によって磁性体である被検査物に磁場を発生させ、その表面に磁粉液などを塗布し、被検査物に傷などの間隙がある場合には、傷部に磁粉が集積することで傷部を検出する。
【0003】
磁粉探傷検査装置ならびに磁粉探傷検査用磁粉の傷検出性能の評価は、磁粉メーカー、鉄鋼メーカー、自動車メーカーなどの磁粉探傷検査装置ユーザーにおいて必要とされる。被検査物に加える電流や磁場、あるいは磁粉が、磁粉探傷検査に適切かどうかを確認する上で、適切な自然または人工的につくられた傷を有する磁性体部材が必要である。一方で、表面に開口する傷には、加えられた磁粉が入り込み、洗浄作業が困難で、再使用時の再現性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−43203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、磁粉探傷検査用試験体として、人工的に作られた傷に、厚さ0.1〜0.5mmの厚みをもつシート体を貼り付けて作成された試験体が開示されている。このシート体によって、人工的につくられた傷の内部に磁粉が入り込むことなく、洗浄作業が簡便となった。しかし、薄いシートには強度的な問題があり、シートの厚みがある為、鮮明な磁粉指示模様を形成できないという課題があった。
【0006】
また、傷が表面に開口している場合、傷内部に磁粉が入り込み、これを蛍光磁粉探傷法にて検出する際、幅方向に角度が付くと、視認性が低下して評価結果が悪化する場合があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、磁粉探傷検査用試験体として、自然もしくは人工的に作られた傷であって、洗浄作業が容易で、傷の内部に磁粉が入り込むことなく、再現性の高い傷検出性能評価が可能な、磁粉探傷検査用試験体の作成を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の磁粉探傷検査用試験体は、
磁粉探傷検査システムの傷検出性能を評価する強磁性体の試験体において、
傷の内部に非磁性物質を含浸し、
傷の内部に磁粉が入り込まないことを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体は、
前記強磁性体は、鉄であり、
前記非磁性物質は、前記傷の略底部まで含浸していることを特徴とする。
【0010】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体は、
前記非磁性物質は、シリコーンであることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体は、
前記試験体の表面の前記傷の内部に含浸されなかった前記非磁性物質は、除去されていることを特徴とする。
【0012】
更に、磁粉探傷検査システムの傷検出性能を評価する試験体の製造方法において、
傷の表面に非磁性物質を塗布する工程と、
真空を用いて前記傷の内部の略底部まで前記非磁性物質を含浸する工程と、
前記傷の内部に含浸されなかった前記非磁性物質を除去する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体の製造方法は、
前記真空は、マイナス70kPa以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁粉探傷検査システムの傷検出性能を評価する強磁性体の試験体において、傷の内部に非磁性物質を含浸し、傷の内部に磁粉が入り込まないことを特徴とするので、洗浄作業が容易で、傷の内部に磁粉が入り込むことのない、再現性の高い傷検出性能評価が可能な、磁粉探傷検査用試験体を提供することが可能である。
【0015】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体は、強磁性体は、鉄であり、非磁性物質は、傷の略底部まで含浸しているので、洗浄作業によっても傷内部の非磁性物質は除去されず、再現性の高い傷検出性能評価が可能な、磁粉探傷検査用試験体を提供することが可能である。
【0016】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体は、前記非磁性物質は、シリコーンであるので、試験体全体の洗浄作業が容易で、再現性が高く、傷の内部に磁粉が入り込むことなく、再現性の高い傷検出性能評価が可能な、磁粉探傷検査用試験体を提供することが可能である。
【0017】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体は、試験体の表面の傷の内部に含浸されなかった非磁性物質は、除去されているので、試験体全体の洗浄作業が容易で、再現性が高く、傷の内部に磁粉が入り込むことなく、再現性の高い傷検出性能評価が可能な、磁粉探傷検査用試験体を提供することが可能である。
【0018】
更に、磁粉探傷検査システムの傷検出性能を評価する試験体の製造方法は、傷の表面に非磁性物質を塗布する工程と、真空を用いて傷の内部の略底部まで非磁性物質を含浸する工程と、傷の内部に含浸されなかった非磁性物質を除去する工程と、を有するので、洗浄作業によっても傷内部の非磁性物質は除去されず、再現性の高い傷検出性能評価が可能な、磁粉探傷検査用試験体を提供することが可能である。
【0019】
更に、本発明の磁粉探傷検査用試験体の製造方法は、真空はマイナス70kPa以下であるので、洗浄作業によっても傷内部の非磁性物質は除去されず、再現性の高い傷検出性能評価が可能な、磁粉探傷検査用試験体を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る磁粉探傷検査用試験体の斜視図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3】本実施形態に係る別の磁粉探傷検査用試験体の斜視図である。
図4図3のB−B断面図である。
図5】試験体の蛍光磁粉探傷検査の発光量の角度依存性である。
図6A】実施例1の試験前の拡大写真である。
図6B】実施例1のクリーニング後の拡大写真である。
図7A】比較例1の試験前の拡大写真である。
図7B】比較例1のクリーニング後の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
磁粉探傷検査システムは微細な傷を対象とする場合は、通常、蛍光物質を添加した蛍光磁粉をもちいる。鉄製ビレットなどの磁性体の被検査物を、軸通電法あるいはコイル法等により磁化すると、表面の傷または表面に近い傷より磁束が漏洩する。ここに磁粉を塗布すると、磁束に磁粉が吸着され集積する。この蛍光磁粉に紫外線を照射すると蛍光を発し、蛍光磁粉指示模様を得ることができる。
【0022】
軸通電法は、長物の磁性体検査物に軸方向に電流を通電し、電流の方向とは直角方向に発生する磁場を用いる。磁場の方向に対して直角方向の傷に対して感度があるため、この場合、軸方向の傷を検出することが可能である。
【0023】
コイル法は、長物の磁性体検査物の軸方向に外部から磁場を加える。コイルの磁極と被検査体とで磁気回路を形成して行う。この場合も磁場の方向に対して直角方向の傷に対して感度があるため、周方向の傷を検出することが可能である。
【0024】
コイル法と軸通電法の交流による複合磁化では、互いに直交するコイル法と軸通電法の磁場を合成して方向性が回転する磁場を発生させる。この回転する磁場によって全方向の傷を検出することが可能である。
【0025】
一方、この磁粉探傷検査システムが正常に稼働しているかどうか、あるいは、蛍光磁粉液が適切かどうかを診断する上で、自然または人工的につくられた傷を用いて性能評価をする必要がある。
【0026】
傷に対して直角方向に磁場を加えた場合、被検査体が鉄などの強磁性体である場合には被検査体の透磁率は傷の間隙の透磁率に比べて非常に大きいため、傷部に磁極が発生する。ここに磁粉を付与すると、磁粉が磁極からもれ出た磁束に捕捉され集積する。もしこの傷が開口していると、傷の内部に磁粉が入り込むことになる。この傷内部に入り込んだ磁粉の除去は、被検査物の消磁を行い、たわしなどで掻き出す必要があり、非常に困難である。傷内の磁粉が完全に除去できない状態で再利用すると除去されなかった磁紛が再試験時の結果に影響を及ぼす。すなわち、本来の性能以上の傷検出性能を示す結果となる場合がある。
【0027】
磁粉探傷検査用試験体として鉄などの強磁性体の材料を用いて、図1に示した試験体1を作成する。図2はA−Aの断面図である。人工傷2はレーザー加工または放電加工で作成する。幅は10〜100μm、長さ2〜20mm、深さ0.1〜3.0mmである。この傷2は軸方向であり、軸通電法において有効である。この傷2には、樹脂である非磁性物質3が略底部4まで含浸されている。試験体の表面の傷の内部に含浸されなかった樹脂である非磁性物質は、固化した後カッターナイフなどを用いて除去する。
【0028】
さらに本発明の別の実施形態として、図3に試験体11を示す。図4はB−Bの断面図である。人工傷12は上述と同様に作成され、周方向であり、コイル法において有効である。この人工傷12には樹脂である非磁性物質13が略底部14まで含浸されている。
【0029】
磁粉探傷検査用試験体として、図1の軸方向の傷や、図3の周方向の傷以外に、不図示の斜め方向の傷であっても良い。この斜め方向の傷は、斜め方向に磁場を発生させるコイル法と軸通電法の交流による複合磁化に有効である。
【0030】
図1や3の被検査物は円柱状であるが、角柱状やその他の形状であっても良い。
【0031】
傷2、12に含浸させる非磁性物質3、13は樹脂であり、粘度70Pa・s以下のシリコーンが好適である。粘度が70Pa・sを超えると傷の内部の空気が真空中に出てこない為、傷深部まで含浸する事が出来ない。さらに、樹脂として、エポキシ樹脂やワニスなどの天然樹脂であっても良い。
【0032】
通常の試験体を用いて磁粉探傷検査を行うと、傷の開口部から内部に磁粉が入り込む。これに紫外線を照射し、磁粉指示模様を観察する際、紫外線照明や目視、カメラといった観察部が幅方向に角度が付いていると、視認性が低下する。すなわち、被検査物の表面の垂直方向から撮像しなければならない。幅50μm、長さ5mm、深さ0.3mmの傷の場合は10°の角度があると、約50%明るさが低下する。
【0033】
一度磁粉探傷検査に使用した試験体を再利用する際には、磁粉を予め除去する必要がある。まず、被検査物を消磁しなければならない。傷内部の磁粉はたわし等で機械的に除去した後、超音波洗浄にて数分間洗浄する必要がある。傷内部に磁粉が残存すると、本来の磁粉探傷システムの性能で付着した磁粉以外に残存した磁粉も評価してしまい、性能を過大評価してしまう。
【0034】
この試験体の表面の傷内部に、手などによって、シリコーンなどの樹脂である非磁性物質を塗り込んだ場合、傷内部まで挿入することができず、加工面表面もしくは傷の表層部のみに薄く塗布されるだけとなる。この場合、たわし等で機械的に試験面を洗浄すると、練り込んだシリコーンなどの樹脂が容易に除去されてしまう。
【0035】
また、引用文献1のように、傷表面に非磁性体の0.1〜0.5mm程度の厚さの薄いシートを貼り付ける方法もある。この場合、シートの厚みはより薄い方が好ましいが、薄い0.1mm以下のシートは強度的に問題がある。得られる磁粉指示模様はシートの厚みに依存して不鮮明になり好ましく無い。
【0036】
そこで、本発明では、真空を利用して傷内部までシリコーンなどの樹脂を含浸する。作成された人工傷2、12の表面の傷開口部にシリコーンなどの樹脂の非磁性物質を0.8mm以下の厚みで塗る。これを真空器に入れ、真空度をマイナス70kPa以下の真空で排気する。すると傷内部の空気が抜ける。ここで大気圧に戻すと、傷表面の非磁性物質が真空で引かれ、図2図4に示す様に、傷の略底部4、14まで含浸する。シリコーンなどの樹脂の非磁性物質が固まった後、試験体の表面の傷の内部に含浸されなかったシリコーンを除去し、図2図4に示す非磁性物質3、13となる。
【0037】
真空を利用して傷内部までシリコーンなどの樹脂を含浸する際の真空度がマイナス70kPaより低真空の場合、含浸は傷の略底部まで到達せず、非磁性物質の充填が不完全になる。この場合、たわしによるクリーニングによって容易に除去されてしまう場合がある。
【0038】
樹脂である非磁性物質としてはシリコーンが好適である。シリコーンの粘度は70Pa・s以下が好ましい。シリコーンの厚みは以下の表1に示した様に粘度に依存し、粘度が大きい場合は薄く塗布する必要がある。表1は幅50μm、長さ5mm、深さ0.3mmの傷に適用した際のデータである。シリコーンの粘度が70Pa・sより大きい場合、あるいは塗布する厚さが0.8mmより厚い場合は、傷内部の空気が真空中に出てこない為、傷内部に含浸する事が出来ない。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明の試験体1、11は、真空槽に入らない大型の場合、可搬式真空装置を用いて真空にする。オーリング等の真空シールを有する吸引器を傷部に密着させて、真空吸引することで、傷に非磁性物質を含浸させる。真空ポンプとして、ロータリーポンプ、ダイアフラムポンプ等を用いる。手動式ポンプを使用しても良い。
【0041】
本発明で作成された試験体1、11の表面に磁粉を塗布した場合、磁粉は傷2、12の内部に入り込まない。この為、照明や観察部が斜めに配置されていても磁粉指示模様を観察する事ができる。また、磁粉が傷2、12内部に入り込まないため、検査後のクリーニングが容易である。
【0042】
磁粉探傷検査法では、まず、鉄鋼などの強磁性体の被検査物の表面を溶剤などで清浄にした後、乾燥させる。次に、電磁石等により強磁性体を磁化する。磁化している最中に磁粉を掛ける連続法と、磁場を除いた後に検出する残留法がある。磁粉は、空気中に磁粉を散布して振り掛ける乾式法と、水や有機溶媒を用いる湿式法がある。蛍光物質が付着した磁粉を振り掛ける。磁粉を振り掛けたところに傷部があり、漏洩磁場があると、そこに磁粉がとどまる。紫外線を照射すると磁粉に付けられた蛍光物質が発光して、傷部の指示模様が得られる。傷部の判定は、目視による。あるいは、撮像装置によって画像化し、コンピューターにより自動的に判定する。傷部が検出された箇所にはマーキングを行い、印を付ける場合がある。コンピューターによる自動判定の場合、自動的にマーキングすることで効率良く傷部が確認できる。
【0043】
探傷検査が終わった被検査物は、消磁、洗浄、防錆などの後処理を行う。
【0044】
本発明の磁粉探傷検査用試験体は、被検査物である鉄などの強磁性体部材に、人工的にレーザー加工もしくは放電加工で傷を作り、この傷の表面にシリコーンなどの樹脂である非磁性物質を0.8mm以下の厚みで塗布する。これを真空装置または可搬式真空器を用いてマイナス70kPa以下の真空にさらして傷内部を真空にし、これを真空状態から大気圧に戻す過程で表面の非磁性物質を傷内部の略底部まで含浸させる。シリコーンなどの樹脂である非磁性物質が固化したところで、傷表面の余剰な非磁性物質を除去する。
この試験体を磁粉探傷検査に用いると、照明角度や観測角度によらない磁粉指示模様を形成することが出来る。さらに、使用後は、傷内部に磁粉が入り込まない構造なので、容易に磁粉を除去することが可能であり、再現性が高い。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0046】
(実施例1)
本発明の実施例1として、図1に示した様に、鉄棒に、軸方向に、幅50μm、長さ5mm、深さ0.3mmの人工傷をレーザー加工法で作成した。この試験体に粘度40Pa・sのシリコーンを0.5mmの厚さで塗布した後、マイナス75kPaの真空で傷内部の空気を除去し、これを大気圧に戻す過程で傷内部にシリコーンを略底部まで含浸させた。この試験体を軸通電法で500Aの電流を5秒間通電して磁化した。蛍光磁粉を塗布して磁粉指示模様を得た。
【0047】
(比較例1)
比較例1として、実施例1で作成したものと同様の人工傷のある鉄棒に、シリコーンを手で塗り込んだ試験体を作成した。この試験体を軸通電法で磁化し、蛍光磁粉を塗布して磁粉指示模様を得た。
【0048】
(比較例2)
比較例2として、実施例1で作成したものと同様の人工傷のある鉄棒をもちい、傷内部には何も充填しない状態の試験体を作成した。この試験体を軸通電法で磁化し、蛍光磁粉を塗布して磁粉指示模様を得た。
【0049】
(磁粉探傷検査)
磁粉探傷検査として得られた磁粉指示模様を比較した。図5に蛍光磁粉光量の角度依存性を示した。角度は傷に対して直角方向の角度である。実施例1および比較例1では、図5の様に傷の幅方向の観測角度を変化させても、指示模様の明るさはほとんど変化しなかった。一方、比較例2では、図5に示した様に、大きな観測角度依存性がみられた。表面に対して垂直方向が最も明るく、観測角度を10°にすると明るさは50%に低下した。
【0050】
(クリーニングと再利用)
試験体の再利用の為に、消磁を行い、ブラッシングを行った。実施例1と比較例1について、表面の拡大写真を図6A、6B、7A、7Bに示す。図の右下に0.1mmのスケールを表示した。図6Aは実施例1の使用前の状態を示し、図6Bは実施例1のクリーニング後を示す。実施例1では、クリーニング後、磁粉は除去されたが傷内部のシリコーンは除去されず、再利用可能である。図7Aは比較例1の使用前の状態を示し、図7Bは比較例1のクリーニング後を示す。比較例1の場合、磁粉は除去されたが、人工傷内のシリコーンも一部取り除かれてしまった。比較例1は再利用すると傷内部に磁粉が入り込む為、再現性が得られない。比較例2の場合、人工傷内部の磁粉は完全に除去する事が出来なかった。
【0051】
【表2】
【0052】
(結果のまとめ)
磁粉探傷検査用試験体の実施例として、実施例1、比較例1、比較例2の磁粉探傷検査を行った結果、実施例1と比較例1は観測角度に依存しない磁粉指示模様が得られた。一方比較例2では、磁粉指示模様が得られたが、測定角度が変わると明るさが低減する不備があった。
さらに、クリーニングでは、実施例1と比較例1は磁粉を除去できたが、比較例2は傷の中に磁粉が残存した。また、再利用については、実施例1は良好であったが、比較例1は傷内に塗り込んだシリコーンがクリーニングの際に除去されてしまった為、再利用は出来なかった。比較例2も、傷内部に磁粉が残存した為、再利用出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示の磁粉探傷検査用試験体は、軸通電法やコイル法などの磁粉探傷検査において、磁粉探傷検査システムの磁場や電流の最適化や、用いる磁粉の粒径、濃度などの最適化に関して、再現性の高い傷検出性能評価を行う事ができる。
【符号の説明】
【0054】
1、11 磁粉探傷検査用試験体
2、12 傷
3、13 非磁性物質
4、14 底部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B