(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
例えば特許文献1は、成形機の自動昇温制御方法を開示し、加熱部に相当するバレル部(加熱シリンダ)の外周部分を軸方向に沿って複数の加熱区間(加熱ゾーン)に分けて、バレル部のマスター区間(マスターゾーン)とスレーブ区間(スレーブゾーン)とがそれぞれ最終目標温度に到達する昇温完了までの時間を短縮することができる。より具体的には、特許文献1は、各加熱ゾーンに仮の目標値を設定して昇温させ、仮の目標温度に到達した時点で、複数の加熱ゾーンの中からマスターゾーンを選択する。仮の目標温度到達以降で、最終の目標温度までの昇温では、マスターゾーンの昇温度合いに基づきマスターゾーンとスレーブゾーンとを昇温制御する。
【0004】
例えば特許文献2は、成形機の自動昇温制御方法を開示し、複数の加熱ゾーンを目標温度に向かって同時に昇温完了させ、温度制御の周期毎に計測する目標温度到達率が一番低い加熱ゾーンをマスターゾーンとして設定し、その他の加熱ゾーンをスレーブゾーンとして設定する。このように設定されたスレーブゾーンは、マスターゾーンの昇温度合いに基づき昇温制御される。これにより、温度傾きデータ等のパラメータの設定は、不要であり、また、外乱による温度変化とパラメータの誤差とによる影響を受けずにマスターゾーンとスレーブゾーンとを同時に昇温できる。
【0005】
例えば特許文献3は、射出成形機における多点温度制御方法を開示し、任意のタイミングで各ヒータによる昇温開始した後の所定時刻における加熱部位毎の目標温度と当該各部位の検出温度との間の偏差をそれぞれに演算し、それらの偏差うちの最大偏差を有する加熱部位を特定する。このように特定された加熱部位を除く他の加熱部位毎に、各目標温度を修正する。言い換えれば、射出成形機の加熱筒における各ゾーンの目標設定温度が異なる場合でも、それらのゾーンの昇温速度を制御する。これにより、被制御体への発熱歴の相違による影響を抑制することができる。
【0006】
なお、従来、PID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)は、広く知られ、また、その改良は、様々な分野で、多く思考されている。また、偏差に基づく比例演算部、積分演算部及び微分演算部を備える基本的なPID制御とは異なる微分先行型PID制御(前記偏差の目標値を微分することをやめて、微分動作は入力信号だけに働くような構成)も、広く知られている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0017】
図1は、本発明に従う温度制御装置が適用される成形機の概略構成例を示す。
図1は、成形機として、例えば射出成形機Mが図示され、射出成形機Mは、射出装置Miと型締装置Mcとを備える。
図1の例において、射出装置Miは、樹脂材料を加熱するための加熱部を備え、加熱部は、典型的には、加熱筒である。
図1の加熱筒は、例えば、前部3aと、中間部3bと、後部3cと、を有し、加熱筒の前端には、射出ノズル21が設けられるとともに、加熱筒の後端には、樹脂材料を供給するためのホッパ22(広義には、材料供給部)が設けられる。型締装置Mcの構成は、当業者によく知られているので、その説明は、省略するが、典型的には、図示されない可動型と固定型とからなる金型(mold)を備え、この金型には冷却用のウォータージャケット(図示せず)が設けられている。
【0018】
図1の例において、加熱筒の内部にはスクリュ2が挿入され、このスクリュ2の後端には、材料供給部の後方へ延出することにより、スクリュ2を回転駆動及び進退駆動するスクリュ駆動部23が接続される。なお、スクリュ駆動部23の構成は、当業者によく知られているので、その説明は、省略する。
【0019】
加熱筒の外部には、加熱部を構成する例えば3つのバンドヒータ4a,4b,4c(広義には、ヒータ、更に広義には、加熱体)が装着されている。射出成形機M(具体的には、加熱部、典型的には、樹脂材料の加熱筒)は、本発明に従う温度制御装置31の制御対象1であり、例えば3つの温度センサ6a,6b,6cが、加熱筒(前部3a、中間部3b及び後部3c)に、設けられている。なお、ホッパ22から加熱筒の内部に供給された固形状のペレット(樹脂材料)は、スクリュ2の回転による剪断及び加熱筒による加熱により可塑化混練され、型締装置Mcの金型に射出充填するための溶融樹脂が生成される。
【0020】
図1の温度制御装置31は、
図2、或いは、
図3又は
図4のPID演算部7、好ましくは、
図8又は
図9のマスター/スレーブ方式PID演算部7(具体的には、加熱部のI−PD制御を実行するコントローラ)を備えることができる。なお、温度制御装置31は、典型的には、成形機制御装置10の一部を構成し、成形機制御装置10は、加熱の制御対象1だけでなく、スクリュ駆動部23、型締装置Mc等、射出成形機M全体を制御することができ、その制御に必要な構成(図示せず)を温度制御装置31と一緒に備えることができる。温度制御装置31又は成形機制御装置10の構成(又は温度制御装置31を含む成形機制御装置10を有する射出成形機M全体の制御装置の構成)は、当業者によく知られているので、その説明は、省略する。更に、温度制御装置31は、加熱部のI−PD制御を実行するためのプログラムを格納する内部メモリ(図示せず)、I−PD制御の設定値(設定温度SV、比例帯[℃]、積分時間[秒]及び微分時間[秒]等)を入力し、且つ及びI−PD制御の測定値(検出温度PV)をモニタするためのディスプレイ(図示せず)を更に有することができる。
【0021】
本発明者らは、成形機の温度制御には、I−PD制御が適しており、更に、I−PD演算結果(PID出力)から出力リミッタの出力を減算した値(出力リミッタで制限した値)を積分演算部にフィードバックする自動整合制御系が適していると考え、添付図面の
図2の温度制御装置での成形機の温度制御を試みた。しかしながら、成形機(加熱部)の検出温度PVは、設定温度SVに到達する前に、飽和してしまう(オフセットの発生)。本発明者らは、この点を先の出願で改良し、
図3は、先の出願に従う温度制御装置(改良されたI−PD制御)の構成例を示す。
【0022】
また、射出成形機Mの構成は、
図1の例に限定されず、例えば、射出成形機Mは、加熱筒の冷却部を更に備えることができる。言い換えれば、加熱筒は、少なくとも加熱部を備え、好ましくは、樹脂材料を加熱可能又は冷却可能である加熱冷却部である。図示されない冷却部(例えば、図示されないエア供給部からの送風による空冷を行う冷却部)の構成は、当業者によく知られているので、その説明は、省略する。
【0023】
更に、射出成形機Mの構成は、
図1の例に限定されず、例えば、射出成形機Mの加熱部を構成する例えば3つのバンドヒータ4a,4b,4cは、例えば4つのバンドヒータで構成されてもよく、加えて、射出成形機Mは、加熱部として、射出ノズル21部に設けられるバンドヒータ(図示せず)及び/又は加熱筒の最後部に設けられる、例えばバンドヒータ(図示せず)及び熱電対(図示せず)を更に有することができる。なお、バンドヒータの追加により熱電対も追加される。冷却部は、このような加熱部に対応して、冷却範囲を拡大することができるとともに、射出成形機Mは、樹脂材料の落下口の冷却部(例えば、落下口の冷却用に設けたウォータジャケット)を更に有することができる。
【0024】
成形機の1例として、
図1に射出成形機Mを示したが、加熱部を有する例えば押出成形機等のその他の成形機(プラスチック製品を製造するための装置)に、温度制御装置31が適用されてもよい。型締装置Mcを備えず、射出ノズル21内部にダイ(die)が設けられた押出成形機の構成は、当業者によく知られているので、その説明は、省略する。
【0025】
複数のバンドヒータ(複数の加熱部位又は加熱ゾーン)で加熱部が構成される時に、PID演算部7は、複数の加熱ゾーンのうちの1つをマスターゾーン(マスター加熱ゾーン)に設定し、残りの各々をスレーブゾーン(スレーブ加熱ゾーン)に設定して、マスター/スレーブ方式のPID制御又はPID演算を採用することができる。
【0026】
図5は、従来のマスター/スレーブ方式PID演算部の構成例(同時昇温ブロック図)を示す。
図5の例において、PID1は、マスターゾーン(マスター加熱ゾーン)側のPID演算部を示す一方、PID2は、スレーブゾーン(スレーブ加熱ゾーン)側のPID演算部を示す。スレーブゾーンの数は、少なくとも1つであり、典型的には、複数である。スレーブゾーン毎に、
図5のような、マスター/スレーブ関係を構築することができる。
【0027】
図5の例において、スレーブゾーンの設定温度SV2は、マスターゾーンの検出温度PV1に設定されている(SV2=PV1)。同時昇温を行ううえで、基本的な考え方として、典型的には、昇温速度が最も遅いゾーンがマスターゾーンに設定される。
【0028】
本発明者らは、例えば
図2又は
図3に示されたPID演算部7に基づき、
図5に示されるようなマスター/スレーブ方式PID演算部を構築することが好ましいと考えた。言い換えれば、本発明者らは、
図5のPID1を例えば
図2又は
図3のPID演算部7のようなI−PD制御で構築するとともに、
図5のPID2を例えば
図2又は
図3のPID演算部7のようなI−PD制御をスレーブ化したもので構築することが好ましいと考えた。以下の
図3の説明は、例えば
図5のPID1(I−PD制御)の好ましい構成例(マスター側)に対応する。
【0029】
図3は、先の出願に従う温度制御装置31(PID演算部7)の構成例を示し、
図4は、
図3の温度制御装置31のPID演算部7に等価である構成例を示す。
図3に示されるように、温度制御装置31のPID演算部7は、積分演算部41、比例演算部42、微分演算部43、加算部(第1の加算部)44、第1の出力リミッタ45、経路46、加算部(第2の加算部)47及び第2の出力リミッタ48を備える。
【0030】
積分演算部41は、設定温度SV[℃]から検出温度PV[℃]を減算した値である偏差eに基づく積分操作量を演算することができる。比例演算部42は、検出温度PVに基づく比例操作量を演算することができる。第1の加算部44は、積分演算部41からの出力と比例演算部42からの出力の反転とを加算することができる。第1の出力リミッタ45は、第1の加算部44からの出力(比例操作量及び積分操作量の操作量MV
PI)を第1の上限値と第1の下限値との間に制限することができる。経路46は、第1の加算部44からの出力(操作量MV
PI)から第1の出力リミッタ45からの出力(操作量MV
PIlim)を減算した値を積分演算部41にフィードバックすることができる。
【0031】
微分演算部43は、検出温度PVに基づく微分操作量を演算することができる。第2の加算部47は、第1の加算部44からの出力と微分演算部43からの出力の反転とを加算することができる。第2の出力リミッタ48は、第2の加算部47からの出力(比例操作量、積分操作量及び微分操作量の操作量MV
PID)を第2の上限値(<第1の上限値)と第2の下限値(>第1の下限値)との間に制限することができる。第2の出力リミッタ48からの出力(比例操作量、積分操作量及び微分操作量の操作量MV
PIDlim)は、操作量として制御対象1に出力される。
【0032】
図4において、
図3の積分演算部41は、積分器と、(1/T
I)×(100/PB)を有するゲイン設定部と、を含む。
図3の比例演算部42は、100/PBを有するゲイン設定部を含む。
図3の経路46は、PB/100を有するゲイン設定部を含み、より具体的には、減算した値(操作量MV
PI−操作量MV
PIlim)を積分演算部41にフィードバックするための2つの加算器を更に含む。ここで、PB、T
I及びT
Dは、それぞれ、比例帯[℃]、積分時間[秒]及び微分時間[秒]である。
【0033】
図4の例において、
図3の第1の出力リミッタ45の第1の上限値及び第1の下限値は、それぞれ、例えば110[%]及び例えば−10[%]である。
図3の第2の出力リミッタ48の第2の上限値及び第2の下限値は、それぞれ、例えば100[%]及び例えば0[%]である。第2の上限値及び第2の下限値は、それぞれ、加熱部のOn/Off操作の物理的限界である。ここで、加熱部を構成するヒータは、時間比例で制御され、物理的限界である上限値(第2の上限値)は、100[%]の時間でヒータが常にOnされ、0[%]の時間でヒータが常にOffされる(電流が流れない)。
【0034】
本発明者らは、
図2の出力リミッタの入力である操作量MV
PIDが出力リミッタによって制限される飽和状態である時に、上昇側(100[%]を超える)の微分操作量MV
Dが操作量MV
PIDlimに反映されないことを認識した。したがって、
図3又は
図4の先の出願に従う温度制御装置31(PID演算部7)では、I−PD演算結果(PID出力)が出力リミッタによって制限される状況であっても、検出温度PVが設定温度SVに到達可能であるように、
図3の第1の出力リミッタ45は、第2の出力リミッタ48の外側に組み込む。第2の出力リミッタ48は、例えば0[%]〜例えば100%[%]の範囲で、その出力をリミッタする(加熱部のOn/Off操作の物理的限界)。第1の出力リミッタ45の出力範囲(好ましくは例えば−1[%]、より好ましくは例えば−10[%](例えば0[%]未満であればよい)〜好ましくは例えば101[%]、より好ましくは例えば110%[%](例えば100[%]を超えればよい)の範囲)は、第2の出力リミッタ48の出力範囲(例えば0[%]〜例えば100%[%]の範囲)よりも大きい。言い換えれば、第1の出力リミットの範囲は、第2の出力リミットの範囲よりも幅が大きい。
【0035】
なお、第2の出力リミッタ48の出力範囲は、第1の出力リミッタ45の出力範囲の内側に設定されることで、検出温度PVが設定温度SVで安定し易くなり、第1の出力リミッタ45の上限値は、例えば100%に近づく程、この効果が薄くなり、同様に、第1の出力リミッタ45の下限値は、例えば0%に近づく程、その効果が薄くなる。
【0036】
加えて、
図3の第1の出力リミッタ45には、
図2のI−PD演算結果(比例操作量、積分操作量及び微分操作量の操作量MV
PID)ではなく、
図3のI−P演算結果(比例操作量及び積分操作量の操作量MV
PI)が入力される。ここで、
図3の第1の出力リミッタ45で操作量MV
PIが制限される時に、その制限された値を積分器(積分演算部41)から取り除いて、積分操作量が生成されている。第1の出力リミッタ45からの出力(操作量MV
PI)に微分操作量MV
Dが加味されて、
図3のI−PD演算結果(比例操作量、積分操作量及び微分操作量の操作量MV
PID)が得られる。この操作量MV
PIDが第2の出力リミッタ48に入力される。
【0037】
図3又は
図4のPID制御系においては、以下に示す演算式が成立する。
【0039】
ここで、K
I及びK
Pは、それぞれ、積分ゲイン及び比例ゲインである。また、K
I=(1/T
I)×(100/PB)であり、K
P=100/PBである。
【0041】
ここで、UL
1及びLL
1は、それぞれ、第1の上限値(例えば110[%])及び第1の下限値(例えば−10[%])である。なお、第1の上限値は、110[%]に限定されず、例えば、105[%]から110[%]までの値であることが好ましい。同様に、第1の下限値は、−10[%]に限定されず、例えば、−5[%]から−10[%]までの値であることが好ましい。
【0043】
ここで、K
Dは、微分ゲインである。また、K
D=T
D×(100/PB)である。
【0045】
ここで、UL2及びLL2は、それぞれ、第2の上限値(例えば100[%])及び第2の下限値(例えば0[%])である。
【0046】
図6(A)は、比較例としてのマスター/スレーブ方式PID演算部の同時昇温制御によるマスターゾーン及びスレーブゾーンの検出温度PVを示し、
図6(B)及び
図6(C)の各々は、本発明に従うマスター/スレーブ方式PID演算部の同時昇温制御によるマスターゾーン及びスレーブゾーンの検出温度PVを示す。ここで、マスターゾーンとスレーブゾーンの決め方について説明する。一例として、昇温の一番遅いゾーンをマスターゾーンとし、それ以外のゾーンをスレーブゾーンとするのが本技術の効果を発揮させる上で好適である。但し、これに限定されるものではない。ノズルゾーン以外であればどのゾーンを任意にマスターに指定してもよく、このときにマスターゾーンとスレーブゾーンを同時に昇温するようにしてもよい。この場合においても同様の効果が得られる。
【0047】
図5のPID1及びPID2の各々を一般的なI−PD(比較例)による同時昇温制御する時には、スレーブゾーンの検出温度PVは、マスターゾーンの検出温度PVよりも遅れて上昇してしまう時もある(
図6(A)参照)。更に、マスターゾーンの検出温度PVが設定温度に到達した後に、スレーブゾーンの検出温度PVは、マスターゾーンの検出温度PVに追従することができないために、オーバーシュートが発生してしまう(
図6(A)参照)。
【0048】
本発明者らは、スレーブ側のI−PD制御の設定温度に関する項目をマスター側と同様にすることで、同様の設定温度(積分量)で昇温できると考えた。言い換えれば、本発明者らは、同時昇温性を保持するために、スレーブ側のI−PD制御において、マスター側の積分演算部からの出力とスレーブ側の積分演算部からの出力とを加算することが好ましいと考えた(
図6(B)及び
図6(C)参照)。なお、同時昇温制御の開始時の初期値として、スレーブ側のI−PD制御において、微分演算部の初期値(微分操作量)は、ゼロに設定し(
図6(B)及び
図6(C))、
図6(C)においては、I−PD演算結果の初期値(積分操作量及び比例操作量に基づく出力)は、ゼロに設定した。
図6(C)の例においては、同時昇温制御の開始時から、同時昇温性を高めることができた。
【0049】
図7(A)は、
図6(C)のPID演算部において、マスターゾーンの昇温速度がスレーブゾーンの昇温速度よりも速い場合の、マスターゾーン及びスレーブゾーンの検出温度PVを示し、
図7(B)は、
図7(A)の状況において、マスター待機機能が付加されたPID演算部の同時昇温制御によるマスターゾーン及びスレーブゾーンの検出温度PVを示す。
【0050】
図7(A)に示すように、マスターゾーンの昇温速度がスレーブゾーンの昇温速度よりも速い場合、オーバーシュートが発生してしまう。本発明者らは、例えば、スレーブ側のI−PD演算結果(積分操作量、比例操作量及び微分操作量に基づく出力)が100[%]を超える時に、マスター側のI−PD制御において、同時昇温性を保持するために、マスター待機機能として、マスター側の積分演算部の出力を保持することが好ましいと考えた(
図7(B)参照)。
【0051】
図8は、本発明に従うマスター/スレーブ方式PID演算部の詳細な構成例を示し、
図9は、
図8のPID演算部に等価である構成例を示す。
【0052】
図8に示すように、温度制御装置31(
図8では不図示、
図1を参照)のPID演算部7は、マスターゾーンMzに対応する積分演算部(第1の積分演算部)41M、比例演算部(第1の比例演算部)42M及び微分演算部(第1の微分演算部)43Mと、を備える。また、PID演算部7は、スレーブゾーンSnzに対応する積分演算部(第2の積分演算部)41Sn、比例演算部(第2の比例演算部)42Sn及び微分演算部(第2の微分演算部)43Snと、を備える。さらに、PID演算部7は、加算部80と、保持部81と、を備える。なお、nは、n番目のスレーブゾーンSnzに対応し、スレーブが1つである場合、n=1である(S1z)。nが2以上である場合、各スレーブゾーン(例えばS1z又はS2z等)と1つのマスターゾーンMzとの間に、
図8のマスター/スレーブ方式のPID演算部7が構築される。
【0053】
積分演算部41Mは、偏差(第1の偏差)Me(=設定温度MSV−検出温度MPV)に基づく。また、n番目のスレーブゾーンSnzに対応する積分演算部41Snは、偏差(第2の偏差)Sne(=(設定温度SnSV−設定温度MSV+検出温度MPV)−検出温度SnPV)に基づく。典型的には、設定温度(第2の設定温度)SnSVは、設定温度(第1の設定温度)MSVであり、この場合、偏差Sne=検出温度(第1の検出温度)MPV−検出温度(第2の検出温度)SnPVが成立する。
【0054】
PID演算部7は、加算部(第3の加算部)80と、保持部81と、を更に備える。加算部80は、積分演算部41M,41Snからの出力を加算し、スレーブゾーンSnzに出力される操作量SnMV
PI,SnMV
PID,SnMV
PIDlimは、加算部80からの出力に基づく。操作量SnMV
PIに基づく所定条件(好ましくは、操作量SnMV
PI>110[%])が成立する時に、保持部81は、マスター待機機能として、積分演算部41Mからの出力の値を保持させる。
【0055】
図10(A)は、
図7(B)のPID演算部において、マスターゾーンの検出温度がマスターゾーンの検出温度よりも高い場合の、マスターゾーン及びスレーブゾーンの検出温度PVを示し、
図10(B)は、
図10(A)の状況において、スレーブ待機機能が付加されたPID演算部の同時昇温制御によるマスターゾーンの検出温度MPV及びスレーブゾーンの検出温度SnPVを示す。
【0056】
例えば昇温中や昇温後に、I−PDによる同時昇温制御をオフする場合等、スレーブゾーンの検出温度がマスターゾーンの検出温度よりも高くなる可能性がある(
図10(A)参照)。言い換えれば、スレーブ側の積分がマイナス側に過積分されて、スレーブゾーンの検出温度がなかなか昇温してこないという問題が発生している。そこで、本発明者らは、スレーブゾーンの検出温度がマスターゾーンの検出温度よりも高い時に、スレーブ側のI−PD制御において、スレーブ待機機能として、
図9のカット部82は、加算部80への、積分演算部からの出力をカットする。これにより、同時昇温性を保持することができた(
図10(B)参照)。
【0057】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。