(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985373
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】アラミド含有摩擦材
(51)【国際特許分類】
D21H 13/26 20060101AFI20211213BHJP
D21H 17/34 20060101ALI20211213BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20211213BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20211213BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20211213BHJP
F16D 13/62 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
D21H13/26
D21H17/34 Z
C09K3/14 530H
C09K3/14 520M
C09K3/14 520J
F16D69/00 R
F16D69/02 A
F16D69/02 J
F16D13/62 A
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-510431(P2019-510431)
(86)(22)【出願日】2017年8月22日
(65)【公表番号】特表2019-534954(P2019-534954A)
(43)【公表日】2019年12月5日
(86)【国際出願番号】EP2017071154
(87)【国際公開番号】WO2018037015
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2020年6月9日
(31)【優先権主張番号】16185521.8
(32)【優先日】2016年8月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501469803
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Teijin Aramid B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター ネイハイス
(72)【発明者】
【氏名】フランク ディーデリング
(72)【発明者】
【氏名】ヤン−セース ティーケン
【審査官】
川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−106085(JP,A)
【文献】
特表平10−508345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 13/26
D21H 17/34
C09K 3/14
F16D 69/00
F16D 69/02
F16D 13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
填料とパラ系アラミドパルプと樹脂とを含有する摩擦紙であって、前記パラ系アラミドパルプは、重量平均分子量が10〜60kg/モルの範囲にあるポリビニルピロリドン(PVP)を0.1〜10重量%含有し、前記摩擦紙は、坪量が100〜800g/m2の範囲にあることを特徴とする摩擦紙。
【請求項2】
パラ系アラミドは、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)である、請求項1記載の摩擦紙。
【請求項3】
前記パラ系アラミドパルプは、ポリビニルピロリドン(PVP)を0.5〜6重量%含有する、請求項1または2記載の摩擦紙。
【請求項4】
前記PVP含有パラ系アラミドパルプは、長さ(LL0.25)が0.7〜1.5mmの範囲にあり、特に0.9〜1.3mmの範囲にある、請求項1から3までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項5】
前記PVP含有パラ系アラミドパルプは、ショッパー・リーグラ(SR)値が15〜80°SRの範囲にある、請求項1から4までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項6】
前記PVP含有パラ系アラミドパルプは、カナダ標準ろ水度(CSF)が15〜700mLの範囲にある、請求項1から5までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項7】
前記PVP含有パラ系アラミドパルプは、
− パラ系アラミドショートカットとPVPとを水溶液中で合して混合物を形成する工程と、
− 前記混合物を叩解工程に供してPVP含有パラ系アラミドパルプを形成する工程と
を含む方法によって製造されたものである、請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項8】
200〜600g/m2の範囲の坪量を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項9】
前記PVP含有アラミドパルプは、5〜60重量%、特に5〜55重量%、より具体的には8〜45重量%の範囲の量で、さらにより具体的には10〜35重量%の範囲の量で存在する、請求項1から8までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項10】
前記填料は、5〜55重量%の量で、特に10〜45重量%の範囲の量で、より具体的には20〜35重量%の範囲の量で存在する、請求項1から9までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項11】
前記樹脂は、5〜50重量%の量で、特に15〜40重量%の量で存在する、請求項1から10までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項12】
前記樹脂は、フェノール系樹脂である、請求項1から11までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項13】
さらに、強化用繊維を、総じて2〜40重量%、特に5〜35重量%の量で含有する、請求項1から12までのいずれか1項記載の摩擦紙。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか1項記載の摩擦紙の製造方法であって、PVP含有アラミドパルプと樹脂と填料とを含有する紙を製造する工程と、前記樹脂が硬化するような条件下で前記紙を加熱する工程とを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド含有摩擦材に関する。
【0002】
摩擦紙、すなわち紙ベースの摩擦材は、自動変速機のクラッチフェーシングなどの湿式摩擦用途で使用されている。こうした紙タイプの材料は通常、機械的エネルギーを伝達する用途で使用するための支持部材に結合されている。摩擦紙は従来の製紙法によって製造されているが、こうした材料は実際には、パルプ、填料およびバインダー(通常はフェノール系樹脂)に加え、任意に繊維や摩擦添加剤といったさらなる成分をも含む複雑な複合的構造体である。
【0003】
湿式多板クラッチおよびブレーキは、高エネルギー用途に理想的なトルク伝達装置であることが証明されている。多板クラッチは、摩擦板と鋼板とを交互に含み、これらが油で冷却されたトライボロジカルシステム内で相互作用することで、所望のトルクが伝達される。「湿式」多板クラッチは、デュアルクラッチトランスミッションのクラッチ、トルクコンバータロックアップクラッチ、自動変速機のクラッチおよびブレーキ、ホイールおよびアクセルブレーキ、ディファレンシャルロック、全輪駆動トランスファーケース、パワーテイクオフおよびマスタークラッチといった幅広い用途で使用されている。
【0004】
摩擦紙は、それぞれの特定の用途に適切な摩擦、騒音制御、温度耐久性および摩耗特性が与えられるように配合された複合材である。摩擦紙は、異なる材料を多数含有しており、そのそれぞれが紙の特性に寄与している。
【0005】
強化用繊維は、システムの機械的強度および耐久性を高める目的で存在する場合が多い。該繊維はさらに、多孔質構造の提供の一助となる。多孔質構造は、適切な樹脂吸収を確実なものとするのに役立つ。
【0006】
填料は、様々な機能を果たす目的で加えられ、例えば樹脂吸収を助け、紙を通る油の流れを促進して使用時の温度劣化を抑制し、適切な摩擦性能を保証し、かつ/または騒音を低減する目的で加えられる。
【0007】
樹脂は、良好な寸法安定性、良好なトライボロジカル性能および良好な耐熱性を保証する目的で存在する。
【0008】
パルプ材は、機械的強度、紙の多孔性および填料の歩留まりを高める目的で存在する。国際公開第2007076335号(WO 2007076335)には、摩擦紙におけるPIPD繊維またはパルプの使用が記載されている。国際公開第2006/012040号(WO 2006/012040)には、シールや摩擦材といった製品において強化用材料として使用するためのアクリル系およびパラ系アラミドパルプが記載されている。
【0009】
パラ系アラミドパルプは、摩擦紙のパルプ材としてしばしば使用されている。該パルプは、良好な耐熱性、摩擦性能および耐久性を示す。該パルプはさらに、騒音・振動・ハーシュネス(NVH)に関して良好な特性を示し、またオートマチックトランスミッションフルード(ATF)との化学的相互作用を示さない。該パルプはまた、良好な圧縮性およびせん断強度特性を示すとともに、金属繊維よりも良好な可とう性を示す。
【0010】
それにもかかわらず、摩擦紙におけるパラ系アラミドパルプの性能についてさらに改善の余地があることが判明した。特に、摩擦性能、強度、ならびに樹脂粒子および填料の損失に関して改善する必要がある。
【0011】
本発明は、前述の課題に対する解決手段を提供するものである。
【0012】
本発明は、填料とパラ系アラミドパルプと樹脂とを含有する摩擦紙であって、前記パラ系アラミドパルプは、ポリビニルピロリドン(PVP)を0.1〜10重量%含有し、前記摩擦紙は、坪量が100〜800g/m
2の範囲にあることを特徴とする摩擦紙に関する。
【0013】
PVP含有パラ系アラミドパルプを使用することによって、PVP不含のパラ系アラミドパルプを使用した場合と比較して摩擦性能が向上することが判明した。得られる効果としては、摩擦特性の向上、強度特性の向上および填料の歩留まりの向上が挙げられる。さらなる説明によって、本発明のさらなる利点および本発明の特定の実施形態が明らかになるであろう。
【0014】
本発明および本発明に付随して生じる効果につき、以下に詳説する。
【0015】
本発明の重要な特徴の1つは、摩擦紙がパラ系アラミドパルプを含有し、該パルプがポリビニルピロリドン(PVP)を0.1〜10重量%含有するという点にある。
【0016】
本明細書に関して、アラミドという用語は、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ハロゲン化物との縮合ポリマーである芳香族ポリアミドを指す。アラミドは、メタ系およびパラ系で存在し得る。本発明では、パラ系アラミドを使用する。本明細書に関して、パラ系アラミドという用語は、芳香族部分間の結合の少なくとも85%がパラ系アラミド結合であるアラミドを指す。この群の典型的な構成員としては、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)およびポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミドまたはコポリ(パラフェニレン/3,4’−ジオキシジフェニレンテレフタルアミド)が挙げられる。芳香族部分間の結合の少なくとも90%、より具体的には少なくとも95%がパラ系アラミド結合であるアラミドを使用することが好ましいと考えられる。ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(PPTAとも示される)の使用が特に好ましい。
【0017】
PVP、すなわちポリビニルピロリドンは当技術分野において公知であり、また市販されている。PVPは、例えばN−ビニル−2−ピロリドンの線状重合によって得られたものであってよい。本発明で使用されるPVPの重量平均分子量は、総じて5〜2500kg/モルの範囲にある。PVPの重量平均分子量が8〜1500kg/モルであることが好ましい場合がある。良好な特性を得るためには、分子量が比較的低いことが好ましい場合がある。したがって、PVPの重量平均分子量が10〜1000kg/モル、特に10〜500kg/モル、より具体的には10〜200kg/モル、実施形態によっては10〜100kg/モル、さらには10〜60kg/モルの範囲にあることが好ましい場合がある。
【0018】
PVP含有パラ系アラミドパルプは、ポリビニルピロリドン(PVP)を0.1〜10重量%含有する。存在するPVPが0.1重量%未満である場合には、本発明の有益な効果が得られない。10重量%を上回る量で存在する場合には、さらなる有益性が得られない。PVPの量が0.5〜6重量%の範囲にあることが好ましいと考えられる。
【0019】
本発明において使用されるPVP含有アラミドパルプは総じて、長さ(LL
0.25)が0.7〜1.5mmの範囲にあり、特に0.9〜1.5mmの範囲にあり、実施形態によっては0.9〜1.3mmの範囲にある。このパラメーターは、長さが既知のパルプ試料を用いて較正したPulp Expert(登録商標)FS装置によって求めたものである。長さ加重長LL
0.25[mm]とは、250μm超、すなわち0.25mm超の長さの粒子を含む長さ加重平均長である。
【0020】
本発明で使用されるPVP含有アラミドパルプは総じて、ショッパー・リーグラ(SR)値が15〜80°SRの範囲にあり、特に20〜60°SRの範囲にあり、より具体的には20〜40°SRの範囲にある。SRとは、パルプおよび紙の技術分野でしばしば使用されるパラメーターの1つである。これは、パルプの水性懸濁液の水切れの尺度の1つである。SRは、ISO 5267/1に準拠して求めることができる。
【0021】
本発明で使用されるPVP含有アラミドパルプは総じて、カナダ標準ろ水度(CSF)が15〜700mLの範囲にあり、特に100〜600mLの範囲にあり、より具体的には270〜570mLの範囲にある。CSFとは、パルプおよび紙の技術分野でしばしば使用されるパラメーターの1つである。これは、パルプの水性懸濁液の水切れの尺度の1つである。CSFは、TAPPI T227に準拠して求めることができる。
【0022】
ポリビニルピロリドン(PVP)を0.1〜10重量%含有するパラ系アラミドパルプは、様々な方法で得ることができる。
【0023】
一実施形態では、PVP含有パルプは、PVPとパラ系アラミドとの双方を含有するヤーンから得られるショートカットのフィブリル化によって得られる。該ヤーンは、PVPとアラミドポリマーとの双方を含有する溶液の紡糸によって得ることができる。アラミド溶液にPVPを加えてもよいし、PVPの存在下でアラミドを重合させてもよい。こうしたヤーンは、例えば米国特許第5399431号明細書(US 5399431)および米国特許第6303221号明細書(US 6303221)に記載されている。
【0024】
一実施形態では、PVP含有パラ系アラミドパルプは、PVPの存在下でパラ系アラミド重合反応を行い、中間的にヤーンを製造せずに該溶液からパルプを直接製造する方法によってパラ系アラミドとPVPとの組合せ物の繊維状パルプを得る、という方法によって得られる。この方法は、国際公開第96/10105号(WO 96/10105)に記載されている。
【0025】
もう1つの方法は、予め製造しておいたアラミドパルプにPVPを加えることであろう。これは、例えばアラミドショートカットを叩解してパルプを形成し、次いでこのアラミドパルプの懸濁液にPVPを加えることによって行うことができる。
【0026】
好ましいと考えられるさらなる方法は、パラ系アラミドショートカットとPVPとを水溶液中で合して混合物を形成する工程と、前記混合物を叩解工程に供してPVP含有アラミドパルプを形成する工程とを含む。この方法は、同一出願人の「PVP含有アラミドパルプの製造方法」という名称の他の特許出願の主題である。
【0027】
本明細書において、パラ系アラミドショートカットという用語は、例えば少なくとも0.5mm、特に少なくとも1mm、より具体的には少なくとも2mm、実施形態によっては少なくとも3mmの長さに切断されたパラ系アラミド繊維を指す。前述の長さは総じて、最大で20mm、特に最大で10mm、より具体的には最大で8mmである。ショートカットの厚さは、例えば5〜50ミクロンの範囲にあり、好ましくは5〜25ミクロンの範囲にあり、最も好ましくは6〜18ミクロンの範囲にある。こうしたショートカットを製造することができるパラ系アラミド繊維は市販されており、例えばテイジンアラミド(登録商標)から市販されている。ショートカットの長さとはLL
0.25を指し、これは、250μm超、すなわち0.25mm超の長さの粒子を含む長さ加重平均長である。
【0028】
好ましい一方法では、パラ系アラミドショートカットとPVPとを水溶液中で合して混合物を形成する。これは、様々な様式で行うことができる。例えば、乾いたショートカットをPVPの水溶液または水性懸濁液に加えてもよいし、PVPをショートカットの水性懸濁液に加えてもよいし、PVPとショートカットとを一緒に水性媒体に加えてもよい。
【0029】
混合物中のPVPの濃度は、最終製品に望まれるPVPの量および操作時に失われる可能性があるPVPの量に依存する。最終生成物中のPVPの量は総じて、アラミド乾燥重量を基準として算出した場合に、PVPが0.1〜10重量%の範囲にあり、特に0.5〜6重量%の範囲にある。水性混合物中のPVPの存在量は、アラミドショートカットの乾燥重量を基準として算出した場合に、0.1〜15重量%で変動し、特に0.5〜10重量%で変動する。
【0030】
このPVPとパラ系アラミドショートカットとを含有する水性混合物を叩解工程に供して、PVP含有アラミドパルプを形成する。叩解方法は、当技術分野において公知である。総じて叩解では、ショートカットスラリーを高せん断環境に曝し、これを例えば互いに動く複数のディスク間を通過させることによって行う。叩解工程の効果は、ショートカットの長さが短くなること、およびショートカットのフィブリル化によりパルプが形成されることである。フィブリル化ではショートカットにおいてフィブリルが形成され、これによって「ステム」(該ステムに結合したフィブリルを含む)およびルーズなフィブリルが得られる。さらに、叩解工程時にパルプのステムがねじれる場合がある。
【0031】
単一の叩解工程を行ってもよいが、叩解パルプを1つまたは複数のさらなる叩解工程に供することも可能であり、該複数のさらなる叩解工程は、第一の叩解工程と同一のまたは異なる条件で行われる。
【0032】
前述の方法とは別の方法であって、PVPを既存のパラ系アラミドパルプに加えるという方法では、パラ系アラミドショートカットをPVPの不在下で上記のように叩解することができる。次いで、これにPVPを上記の濃度範囲で加える。混合を例えば少なくとも1分間、または少なくとも5分間行った後に、PVP含有パルプのスラリーが得られる。最長の混合時間は、重要ではない。最長の混合時間は総じて最大で4時間であり、特に最大で1時間である。
【0033】
前述の方法とは別の方法であって、PVP含有アラミドヤーンからPVP含有アラミドパルプを得るという方法では、アラミドヤーンのショートカットを上記のように叩解することができる。
【0034】
様々な方法での叩解法によって得られるパルプスラリーを、所望のとおりに処理することができる。該スラリーを例えば脱水工程に供することができ、その際、総じて該スラリーを篩または他のろ材上に搬送することによってスラリーを脱水する。これによって、脱水パルプが形成される。脱水パルプの含水量は総じて、40〜80重量%の範囲にあり、具体的には50〜70重量%の範囲にある。脱水パルプは、(フィルターから得られるため)ケーキの形態であってもよいし、ケーキを破砕して個々の小片(クラムとも示される)を形成させることもできる。
【0035】
ケーキもしくはクラムの形態または他のいずれかの形態の脱水パルプを最終製品とすることができるが、これを所望どおりにさらに加工してもよい。脱水パルプを乾燥させてもよい。
【0036】
脱水パルプの乾燥は慣用の方法で行うことができ、例えば該パルプを乾燥雰囲気と場合により高温で接触させることにより行うことができ、それによって乾燥パルプが形成される。乾燥パルプの含水量は総じて2〜20重量%の範囲にあり、特に3〜10重量%の範囲にある。
【0037】
所望の場合には、乾燥パルプを開放工程に供することができる。パルプの開放は、当技術分野において公知である。これには、例えばインパクトミル、乱流空気を用いるミルまたは高せん断/高撹拌ミキサーを用いて乾燥パルプに機械的衝撃を与えることが包含される。パルプ開放工程によって、パルプ材の嵩密度が減少する(すなわち、パルプ開放工程によってパルプ材がより「毛羽立つ」)。開放されたパルプはより分散し易くなることが可能であり、ひいてはより適用し易くなることが可能である。総じて、パルプ開放工程によって、パルプの特性は実質的には変化しない。
【0038】
本発明の摩擦紙は、坪量が100〜800g/m
2の範囲にあり、特に200〜600g/m
2の範囲にある。
【0039】
本発明による摩擦紙において、PVP含有アラミドパルプは、総じて5〜60重量%の量で存在する。パルプのパーセンテージが低すぎると、機械的強度および填料歩留まりに対するその効果が得られなくなる。パルプの量が多すぎると、他の成分の量が少なくなりすぎる。パルプの量が5〜55重量%の範囲にあり、より具体的には8〜45重量%の範囲にあり、さらにより具体的には10〜35重量%の範囲にあることが好ましい場合がある。
【0040】
摩擦紙は、さらに填料を含有する。本明細書に関して、填料という用語は、紙の摩擦性能に影響を与えるあらゆる粒状材料を包含することを意図している。適切な填料は、当技術分野において公知である。適切な填料の例としては、耐火性の有機および無機粒子、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素、炭化チタン、活性炭、クレー、カオリン、ゼオライト、アルミナ、シリカ、硫酸バリウム、バライト粉末、ならびに再生可能資源由来の粒子、例えば粉末化カカオ豆皮およびカシューダストが挙げられる。適切な填料粒子の他の例としては、珪藻土、グラファイト粒子および銅粒子が挙げられるが、銅粒子の使用は、HSE上の懸念を考慮して総じて中止されている。
【0041】
摩擦紙が珪藻土および/またはグラファイト粒子を含有することが好ましい場合がある。
【0042】
填料は、総じて5〜55重量%の量で存在する。填料のパーセンテージが低すぎると、紙の摩擦特性に対するその効果が得られなくなる。填料の量が多すぎると、他の成分の量が少なくなりすぎる。填料の量が10〜45重量%の範囲にあり、より具体的には20〜35重量%の範囲にあることが好ましい場合がある。
【0043】
本発明の摩擦紙は、バインダーとして樹脂を含有する。適切な樹脂は、当技術分野において公知である。樹脂は、総じて5〜50重量%の量で存在し、特に15〜40重量%の量で存在する。樹脂の量が少なすぎると、紙の構造的完全性に影響が生じることになる。樹脂の量が多すぎると、他の成分の含有量が少なくなりすぎる。樹脂は総じてフェノール系樹脂であり、該樹脂は任意に例えばシリコーン、メラミン、エポキシ、クレゾールまたはカシュー油で変性されていてもよい。他の適切なバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂およびメラミンが挙げられる。樹脂は、紙の耐熱性、その寸法安定性ならびにその摩擦および摩耗性能を向上させる目的で存在する。
【0044】
本発明の摩擦紙は、さらなる成分を含有してもよい。
【0045】
一実施形態では、摩擦紙は、強化用繊維、例えば炭素繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、バサルト繊維およびミネラルウールまたはポリマー繊維、例えばアクリル系繊維、ポリイミド繊維およびポリアミド繊維を含有する。木綿やセルロースのような有機繊維も、繊維としてまたはパルプとしてしばしば使用される。本発明による摩擦紙が、セルロース、木綿または炭素繊維のうちの1つまたは複数を含有することが好ましい場合がある。紙の耐久性および機械的強度を向上させるために、強化用繊維が使用されることが多い。強化用繊維が使用される場合、該繊維は総じて、2〜40重量%、特に5〜35重量%の量で存在する。強化用繊維およびその使用は、当技術分野において公知である。
【0046】
摩擦紙は、当技術分野において公知である方法によって製造可能であり、総じて、PVP含有アラミドパルプと樹脂と填料とを含有する紙を製造する工程と、前記樹脂が硬化するような条件下で前記紙を加熱する工程とを含む方法によって製造可能である。一実施形態では、第1の工程において、紙の成分のうち樹脂以外のものをすべて水性媒体中で合してスラリーを形成する。これをいずれの順序で行ってもよく、また種々の化合物を同時に加えることも順次加えることも可能である。得られたスラリーをスクリーン上に施与し、そして水を除去する。これは製紙において慣例的であり、さらなる説明は不要である。得られた紙を乾燥させる。乾燥させた紙を樹脂と接触させる。総じて樹脂は液体形態であり、紙に樹脂を含浸させる。樹脂の種類に応じて、この含浸紙を硬化工程に供して樹脂を硬化させることができる。正確なプロセス条件は樹脂の性質に依存し、総じて100〜300℃の範囲の温度および0.5〜10MPaの圧力が含まれる。
【0047】
もう1つの実施形態では、固体樹脂粒子を他の成分とともに水性媒体に加え、得られたスラリーを加工して上述のように紙を形成する。次いでこの紙を乾燥させて上記のように硬化させる。
【0048】
当業者には明らかであるように、上記のような様々な好ましい実施形態を、それらが相互に排他的でない限り組み合わせることができる。
【0049】
本発明を以下の例を参照して説明するが、本発明は該例またはそれに類するものに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【0051】
例1:パルプ製造
長さ6mmのパラ系アラミド細断繊維(テイジン・アラミドB.V.社(オランダ国)製Twaron(登録商標)1000 1680f1000型をベースとする6mmのショートカット)4kgを、PVPの水溶液200リットルに加えた。PVPの分子量は、約50kg/モルであった。得られた媒体は、アラミドショートカット2重量%とPVP0.1重量%とを含有していた。得られた懸濁液を、所望の繊維長が得られるまでスプラウトバウアー(Sprout−Bauer)12インチラボリファイナーに通した。この工程中に、中間試料を採取した。叩解した懸濁液を篩台上で脱水して、脱水ケーキを得た。このPVPパルプを、パルプAと表す。パルプAは、PVPを5重量%含有する。
【0052】
参照として、PVPを加えずに同一の手順に従った。このパルプを、パルプBと呼ぶ。
【0053】
例2:本発明による、填料と樹脂とPVPアラミドパルプとを含有する摩擦紙の製造
乾燥固形分19.83%(乾燥アラミドパルプ2.75gに相当)のPVP含有パルプA 13.86gを2Lの水に懸濁させ、そしてローレンツェン&ベットレー(Lorentzen&Wettre)破砕装置内で100カウント(3000rpmで20秒間)混合した。次いで、この懸濁液に珪藻土(Celatom MN−23)3.54gおよびフェノール系樹脂(BAKELITE(登録商標)PF 0229 RP)2.97gを加え、さらに500カウント(3000rpmで100秒間)混合した。この混合物を、ISO 5269−2に準拠したラピッドケーテンラボシート形成機(Rapid Koethen lab sheet former)での紙シート製造に使用した。得られた紙シートを、2枚の吸取紙の間でプレート式乾燥装置内で90℃で少なくとも30分間乾燥させた。この乾燥させたシートを、次いでプレス内で2枚のテフロンシートの間で硬化させた。これを、150℃、圧力0.5MPaで合計3分間行った。このプレスプログラムの間に、1分後および2分後にプレスを短時間開放して、生じ得る蒸気の放出による圧力の上昇を避ける。得られたこのモデル摩擦紙の特性については、例4で論じる。
【0054】
例3:填料と樹脂とアラミドパルプとを含有する比較摩擦紙の製造
パルプBについて例2に記載したのと同一の手順に従ったが、ただし今回は15.23gのパルプを18.04%の乾燥固形分で使用して、同量の2.75gの乾燥アラミドパルプを得た。比較パルプBを用いて得られたモデル摩擦紙の特性については、例4で論じる。
【0055】
例4:摩擦紙の比較
例2および3の摩擦紙の様々な特性について調べた。
【0056】
1.紙収率(填料の歩留まり)
紙収率は、最終硬化紙の重量を初期原料(パルプ、樹脂および填料)の乾燥重量で除したものに100%を乗じることによって算出される。したがって紙収率とは、製紙プロセスにおいて失われる填料および樹脂の量を示す尺度である(シート形成機における製紙プロセス中のパルプの損失は、無視できる)。
【0057】
紙収率は、2枚のシートの平均に基づくものである。結果を以下の表に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
この表から、本発明によるパルプAを用いて製造された紙の紙収率は、比較パルプBから製造された紙の紙収率よりもかなり高いことが分かる。明らかに、本発明によるパルプAによって、比較パルプBよりも填料および樹脂粒子の歩留まりを向上させることが可能である。
【0060】
2.強度特性
摩擦用途では、動作時のせん断力が高いことから、せん断強度および(内部結合の尺度としての)Z強度が最も重要な強度特性である。例2および3においてパルプAおよびパルプBから得られたシートから試料を採取し、これらをせん断試験およびZ試験の双方に供した。試験を、Tappi T541およびASTM D−5868−95に準拠して行った。結果を以下の表に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
この表から、本発明によるパルプAをベースとするモデル摩擦紙の強度が、比較パルプBをベースとするモデル摩擦紙の強度と比較して非常に向上していることが分かる。
【0063】
3.摩擦係数
回転駆動モジュール、回転駆動のための温度チャンバおよび特別な湿式摩擦クラッチ試験キットを備えたBruker社製UMTトライボラブ(UMT Tribolab)を使用して、パルプAおよびパルプBの摩擦特性を得た。例2および3に記載の摩擦紙からリングを打ち抜いて試料を製造し、摩擦板の製造に工業的に用いられる方法と同様に樹脂を使用してこれらの試料を鋼製試料ホルダに固定した。それぞれ例2および3に記載されたどちらの摩擦紙についても、摩擦試験用の試料(すなわち鋼製試料ホルダ上の摩擦紙)を3つ製造した。
【0064】
各摩擦試験の開始時に新鮮なオートマチックトランスミッションフルード(Pentosin FFL−2)を使用し、これを一定流量でポンプ搬送した。単一の試料の摩擦試験は、プログラムされたシーケンス(該シーケンスにおいて例えば圧力および速度を変更する)を40℃で10回繰り返すことからなっていた。最初の5回を、実験導入期間と考えた。このことは、ある実験から次の実験へと摩擦係数が減少することによって証明される。最後の5回の実験の2つの異なる圧力での14段階の速度試験における摩擦係数の測定値について、各試料ごとに各速度で平均をとる。各種摩擦紙について測定した3つの異なる試料の結果について各速度で平均をとり、これを
図1に示す。
【0065】
図1から、(本発明による)パルプAをベースとする摩擦紙の摩擦係数が、どちらの圧力でもほぼすべての速度について(参照の)パルプBをベースとする摩擦紙の摩擦係数よりも高いことが分かる。さらに、(本発明による)パルプAをベースとする摩擦紙の静止摩擦係数(速度がゼロの近傍である場合)は動摩擦係数よりも低く(すなわち低速では勾配が正である)、このことは総じて運転快適性にとってプラスであると考えられる(震動の低減)。