特許第6985391号(P6985391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

特許6985391爬虫類革製品および爬虫類革製品の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985391
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】爬虫類革製品および爬虫類革製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C14C 11/00 20060101AFI20211213BHJP
   C14C 3/06 20060101ALI20211213BHJP
   A44C 5/02 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C14C11/00
   C14C3/06
   A44C5/02 C
   A44C5/02 F
   A44C5/02 A
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-529008(P2019-529008)
(86)(22)【出願日】2018年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2018022925
(87)【国際公開番号】WO2019012913
(87)【国際公開日】20190117
【審査請求日】2020年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-137038(P2017-137038)
(32)【優先日】2017年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−199800(JP,A)
【文献】 特開2017−039876(JP,A)
【文献】 特開昭48−035001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C14C 1/00−99/00
C14B 1/00−99/00
B68F 1/00− 3/04
A44C 5/02, 5/10
C07C 39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層と、ニトロセルロースを含む表面層とが、この順で積層されており、
前記ポリエステル系ポリウレタンは、ポリエステルポリオール由来の構成単位を含み、
前記ポリエステルポリオールは、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよびネオペンチルグリコール、または、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび3−メチル−1,5−ペンタンジオールと2価の塩基酸との重縮合物からなることを特徴とする爬虫類革製品。
【請求項2】
前記爬虫類革が、6価クロムを3価クロムに還元し得る6価クロム還元化合物成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の爬虫類革製品。
【請求項3】
前記6価クロム還元化合物成分が、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の爬虫類革製品。
【化1】

(nは、0、1または2を表す。R11〜R18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基(R19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を表す。nが0のとき、R11〜R14、R16およびR17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、nが1または2のとき、R11〜R18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが2のとき、複数あるR15は、同一であっても異なっていてもよく、R18についても同様である。R16とR17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。)
【化2】
【請求項4】
前記6価クロム還元化合物成分が、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3に記載の爬虫類革製品。
【化3】

(Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基(оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。)のいずれかを表す。)
【化4】
【請求項5】
前記爬虫類革製品が時計用バンドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の爬虫類革製品。
【請求項6】
爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層形成工程で形成された前記中間層上に、ニトロセルロースを含む表面層を形成する表面層形成工程とを含み、
前記ポリエステル系ポリウレタンは、ポリエステルポリオール由来の構成単位を含み、
前記ポリエステルポリオールは、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよびネオペンチルグリコール、または、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよび3−メチル−1,5−ペンタンジオールと2価の塩基酸との重縮合物からなることを特徴とする爬虫類革製品の製造方法。
【請求項7】
前記爬虫類革が、6価クロムを3価クロムに還元し得る6価クロム還元化合物成分を含むことを特徴とする請求項6に記載の爬虫類革製品の製造方法。
【請求項8】
前記6価クロム還元化合物成分が、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7に記載の爬虫類革製品の製造方法。
【化5】

(nは、0、1または2を表す。R11〜R18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基(R19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を表す。nが0のとき、R11〜R14、R16およびR17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、nが1または2のとき、R11〜R18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが2のとき、複数あるR15は、同一であっても異なっていてもよく、R18についても同様である。R16とR17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。)
【化6】
【請求項9】
前記6価クロム還元化合物成分が、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項8に記載の爬虫類革製品の製造方法。
【化7】

(Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基(оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。)のいずれかを表す。)
【化8】
【請求項10】
前記爬虫類革製品が時計用バンドであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の爬虫類革製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爬虫類革製品および爬虫類革製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、革製の時計バンドにおいては、時計バンド本体の表面にニトロセルロースなどを含む表面層が設けられることがある(特許文献1)。特に、爬虫類革製の時計バンド本体には、光沢を与えるため、ニトロセルロースを含む表面層が設けられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61−20281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記表面層は剥がれやすい問題がある。また、時計バンドの尾錠には、たとえば製造されてから販売されるまでの間、傷が付かないよう保護フィルムを貼付することがある。この保護フィルムは、尾錠とともに時計バンド本体の一部を覆っていることがある。この場合、たとえば販売時などに保護フィルムを剥がす際に、ニトロセルロースを含む表面層の一部が保護フィルムと一緒に剥がれやすい。これにより、時計バンドの美観が損なわれ得る。
【0005】
時計バンド以外の爬虫類革製品が金属製等の部品(たとえば留め具、装飾部品等)を有している場合も、たとえば製造されてから販売されるまでの間、該部品に保護フィルムを貼付することがある。このため、時計バンド以外の爬虫類革製品においても上述した問題が起こり得る。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる爬虫類革製品および爬虫類革製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る爬虫類革製品は、爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層と、ニトロセルロースを含む表面層とが、この順で積層されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の爬虫類革製品は、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
<実施形態1>
まず、実施形態1に係る爬虫類革製品である時計バンドについて説明する。上記時計バンドは、時計バンド本体と、金属製などの腕に装着するための留め具とを有する。上記留め具としては、尾錠、中留めが挙げられる。実施形態1においては、上記時計バンド本体を構成する爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層と、ニトロセルロースを含む表面層とが、この順で積層されている。
【0011】
爬虫類革としては、カメ目ウミガメ科に属するウミガメ、トカゲ亜目オオトカゲ科に属するオオトカゲ、トカゲ亜目テーイッド科に属するデグー、ヘビ亜目ボア科に属するアミメニシキヘビ、インドニシキヘビ、ヘビ亜目ウミヘビ科に属するウミヘビ、エラブウミヘビ、ヘビ亜目ヘビ科に属するミズヘビ、ワニ目クロコダイル科に属するニューギニアワニ、ワニ目アリゲーター科に属するミシシッピーワニ、カイマンなどの爬虫類の革が挙げられる。時計バンドとしては、美観の点から、ワニ目クロコダイル科およびワニ目アリゲーター科に属する構成種のうち、小型の種が特に好適に用いられる。
【0012】
このような爬虫類革は、公知の方法によって得られる。たとえば、原料皮に対して、準備工程(水漬け、石灰脱毛、再石灰漬け、脱灰・酵解など)、クロムなめし工程、染色工程、加脂工程および仕上げ工程を行って得られる。次いで、通常、仕上げ工程の1つとして、爬虫類革の銀面にグレージング処理などの光沢を出すための処理が行われる。
【0013】
実施形態1においては、具体的には、上記光沢を出すための処理が行われた爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層が設けられている。さらに、上記中間層上に、光沢をより一層出すために、爬虫類革の銀面に上述したニトロセルロースを含む表面層が設けられている。
【0014】
上記時計バンド本体の具体的な構成としては、上記表面層が設けられた爬虫類革の銀面とは反対の面(床面)に、クッション層、芯材層などを介して、豚革がさらに積層された構成が挙げられる。また、上記時計バンド本体は、時計バンドとして通常用いられる形状および大きさに形成されている。留め具として尾錠を用いる場合には、上記時計バンド本体には、つく棒を差し込むための孔が開けられている。
【0015】
上記時計バンドの留め具には、たとえば製造されてから販売されるまでの間、傷が付かないように、通常、保護フィルムを貼付する。なお、保護フィルムとしては、基材上にアクリル系粘着剤層を設けたフィルムが挙げられる。基材としては、ポリエチレンなどが用いられる。この保護フィルムは、留め具とともに時計バンド本体(爬虫類革の銀面)の一部を覆っていることがある。
【0016】
従来の時計バンドでは、たとえば販売時などに上記保護フィルムを剥がす際に、ニトロセルロースを含む表面層の一部が上記保護フィルムと一緒に剥がれることがある。すなわち、時計バンドの美観が損なわれることがある。これは、従来の時計バンドでは、爬虫類革の銀面上に上記表面層が直接積層されており、爬虫類革と上記表面層との密着性が小さいためと考えられる。また、爬虫類革には製造時に加脂剤が添加されている。この加脂剤は、グレージング処理中に発生する熱で、爬虫類革の表面側に移動してくることがあると考えられる。移動してきた加脂剤により、爬虫類革と上記表面層との密着性がさらに小さくなると考えられる。
【0017】
これに対して、実施形態1に係る爬虫類革製品である時計バンドでは、たとえば販売時などに上記保護フィルムを剥がす際に、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。すなわち、時計バンドの美観を維持できる。これは、爬虫類革の銀面と上記表面層との間に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層が設けられていることによる。具体的には、ポリエステル系ポリウレタン中のウレタン結合は、爬虫類革を構成するタンパク質が有するポリペプチド結合と親和性が大きいためと考えられる。また、上記ウレタン結合は、上記表面層に含まれるニトロセルロースの極性部分とも親和性が大きいためと考えられる。このように、中間層を介して、爬虫類革と上記表面層との密着性が大きくなっていると考えられる。
【0018】
さらに、実施形態1では、ポリエーテル系ポリウレタンを用いる場合と比較して、上記表面層の剥がれをより抑えられる。ポリエステル系ポリウレタンは、ポリエーテル系ポリウレタンと異なり、エステル基を有する。このエステル基によって、表面に浮いてきた加脂剤が存在していても、爬虫類革との密着性をより高められると考えられる。また、上記エステル基を有することにより、上記表面層に含まれるニトロセルロースの極性部分とも、より親和性が大きいと考えられる。
【0019】
また、ポリエステル系ポリウレタンを用いる方が、ポリエーテル系ポリウレタンを用いるよりも、中間層の無色透明性が高められる。なお、中間層において、ポリエステルとポリウレタンとを別々に含ませるよりも、ポリエステル系ポリウレタンとして含ませる方が、中間層を形成する際の溶剤選択の観点からも好ましい。
【0020】
ここで、上記中間層および上記表面層についてより具体的に説明する。上記中間層は、ポリエステル系ポリウレタンを含む。ポリエステル系ポリウレタンは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリエステル系ポリウレタンは、ポリオール成分であるポリエステルポリオールとポリイソシアネート成分とを反応させて得られる。このため、ポリエステル系ポリウレタンは、ポリエステルポリオール由来の構成単位と、ポリイソシアネート成分由来の構成単位とを有する。
【0021】
上記ポリエステルポリオールとしては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールなどのアルコールと、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの2価の塩基酸との重縮合物からなるポリエステルポリオール;ポリカプロラクトンポリオールなどが挙げられる。ポリオール成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。爬虫類革との密着性および表面層との密着性の観点から、上記アルコールとしては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよびネオペンチルグリコールが好ましく用いられ、上記2価の塩基酸としては、アジピン酸が好ましく用いられる。
【0022】
上記ポリエステル系ポリウレタンのポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を1分子中に2個以上有する公知の脂肪族、脂環式または芳香族の有機イソシアネート化合物が挙げられる。
【0023】
上記脂肪族の有機イソシアネート化合物としては、たとえば、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。上記脂環式の有機イソシアネート化合物としては、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートが挙げられる。上記芳香族の有機イソシアネート化合物としては、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが挙げられる。なお、ポリイソシアネート成分には、アダクト体、イソシアヌレート体、ビウレット体などの3官能以上のポリイソシアネート化合物を用いてもよい。ポリイソシアネート成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。爬虫類革との密着性および表面層との密着性の観点から、上記ポリイソシアネート成分としては、脂肪族ジイソシアネートおよび芳香族ジイソシアネートが好ましく用いられ、ヘキサメチレンジイソシアネ−トおよびトリレンジイソシアネートがより好ましく用いられる。
【0024】
ポリエステル系ポリウレタンの平均分子量は特に限定されないが、重量平均分子量は通常1,000〜500,000である。
【0025】
上記中間層は、本発明の目的を阻害しない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0026】
上記中間層の厚さは、特に限定されないが、たとえば後述する製造方法によって得られる程度の厚さである。
【0027】
上記表面層は、ニトロセルロースを含む。ニトロセルロースは、中間層との密着性の観点から、窒素量が通常10%〜13%、好ましくは10.7%〜12.2%であることが望ましい。また、ニトロセルロースは、中間層との密着性の観点から、平均重合度が通常35〜90、好ましくは45〜70であることが望ましい。
【0028】
上記表面層は、本発明の目的を阻害しない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、たとえば、ポリエステル樹脂等の樹脂、酸化防止剤等の添加剤が挙げられる。
【0029】
上記表面層の厚さは、特に限定されないが、たとえば後述する製造方法によって得られる程度の厚さである。
【0030】
また、実施形態1において、中間層と表面層との間に、ポリエステル系ポリウレタンとニトロセルロースとが含まれる混在層が形成されていることも好ましい。この場合は、中間層および表面層の密着性がより大きくなる。さらに、中間層は、ポリエーテル系ポリウレタンを含まないことが好ましい。この場合は、爬虫類革との密着性および表面層との密着性がより大きくなる。
【0031】
次に、実施形態1に係る爬虫類革製品である時計バンドの製造方法について説明する。
【0032】
上記時計バンドの製造方法は、爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層を形成する中間層形成工程と、上記中間層形成工程で形成された上記中間層上に、ニトロセルロースを含む表面層を形成する表面層形成工程とを含む。
【0033】
なお、通常、爬虫類革に対する仕上げ工程として、上記光沢を出すための処理が行われる。時計バンドの製造においては、この仕上げ工程に続いて、爬虫類革を打ち抜いて、時計バンド本体に必要な形状および大きさの革を得る工程;爬虫類革の厚さを調整する工程;爬虫類革の銀面とは反対の面(床面)に、クッション層、芯材層などを介して、豚革等を積層する積層工程;必要に応じて、尾錠のつく棒を差し込むための孔をあける孔開け工程などが行われる。中間層形成工程および表面層形成工程は、通常、上記積層工程または上記孔開け工程の後に行われるが、これに限らない。また、中間層形成工程および表面層形成工程に続いて、留め具を付ける工程などが行われる。このように、時計バンドは、上記中間層形成工程および表面層形成工程の他、公知の加工工程を経て製造できる。
【0034】
上記中間層形成工程では、具体的には、上記光沢を出すための処理が行われた爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物を付着し、乾燥させてポリエステル系ポリウレタンを含む中間層を形成する。
【0035】
ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物は、上記ポリエステル系ポリウレタンと、溶剤を含む。溶剤としては、有機溶剤が好適に用いられる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられる。溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物は、中間層に含んでいてもよいその他の成分を含んでいてもよい。
【0036】
ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物は、市販の組成物(溶液)を用いてもよい。中間層を形成しやすくなるよう、ポリエステル系ポリウレタンの濃度を適宜調整して用いる。たとえば、ポリエステル系ポリウレタンの濃度は、5wt%以上20wt%以下であることが好ましく、7wt%以上9wt%以下であることがより好ましい。
【0037】
ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物を付着する方法としては、たとえば、はけ塗り、吹き付けが挙げられる。ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物を付着した爬虫類革について、通常15℃以上30℃以下で、好ましくは20℃以上28℃以下で、たとえば30分間程度、該組成物中の溶剤を蒸発させる。これにより、上記爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層が形成できる。
【0038】
上記表面層形成工程では、具体的には、上記中間層形成工程で形成された上記中間層上に、ニトロセルロースを含む組成物を付着し、乾燥させてニトロセルロースを含む表面層を形成する。
【0039】
ニトロセルロースを含む組成物は、上記ニトロセルロースと、溶剤を含む。溶剤としては、有機溶剤が好適に用いられる。有機溶剤としては、ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物の場合と同様の溶剤、アルコール系溶剤が挙げられる。すなわち、溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤が挙げられる。溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ニトロセルロースを含む組成物は、表面層に含んでいてもよいその他の成分を含んでいてもよい。ニトロセルロースを含む組成物に、ポリエステル系ポリウレタンを含む組成物の場合と同様の溶剤を用いる場合は、中間層および表面層の密着性がより大きくなると考えられる。これは、ニトロセルロースを含む組成物を付着する際に、上記溶剤に中間層中のポリエステル系ポリウレタンの一部が溶け、中間層と表面層との間に、ポリエステル系ポリウレタンとニトロセルロースとが含まれる混在層が形成されることによると考えられる。
【0040】
ニトロセルロースを含む組成物は、市販の組成物(たとえばニトロセルロースラッカー)を用いてもよい。また、表面層を形成しやすくなるよう、ニトロセルロースの濃度を適宜調整して用いる。たとえば、ニトロセルロースの濃度は、5wt%以上20wt%以下であることが好ましく、9wt%以上13wt%以下であることがより好ましい。
【0041】
ニトロセルロースを含む組成物を付着する方法としては、たとえば、はけ塗り、吹き付けが挙げられる。ニトロセルロースを含む組成物を付着した爬虫類革について、通常15℃以上30℃以下で、好ましくは20℃以上28℃以下で、たとえば60分間程度、該組成物中の溶剤を蒸発させる。これにより、中間層上に、ニトロセルロースを含む表面層が形成できる。
【0042】
このようにして得られた時計バンドは、留め具に貼付された保護フィルムを剥がす際に、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。
【0043】
<実施形態2>
まず、実施形態2に係る爬虫類革製品である時計バンドについて説明する。上記時計バンドは、爬虫類革が、6価クロムを3価クロムに還元し得る6価クロム還元化合物成分をさらに含む点で、実施形態1に係る爬虫類革製品と異なる。なお、実施形態1に係る爬虫類革製品と共通する点については説明を省略する。
【0044】
クロムなめし工程を経て得られた爬虫類革には、有害な6価クロム(Cr(VI)を含む化合物)が含まれていることがある。このため、爬虫類革に対して、6価クロム還元化合物成分を含む6価クロム処理剤による処理を施すことがある。この処理では、6価クロム還元化合物成分によって、6価クロムを無害な3価クロム(Cr(III)を含む化合物)に還元する。そして、処理後の爬虫類革は、3価クロムとともに、上記還元に使われなかった残りの6価クロム還元化合物成分が含まれた状態となる。爬虫類革がこの状態にあると、処理後に何らかの原因で生成する6価クロムをも還元し、たとえば無害な3価クロムとできる。いいかえると、爬虫類革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満(通常3ppm未満)である状態を保てる。
【0045】
実施形態2に係る爬虫類革製品において、具体的には、上記時計バンド本体を構成する爬虫類革に6価クロム処理剤による処理を施す。このため、上記時計バンド本体を構成する爬虫類革は、6価クロムを3価クロムに還元し得る6価クロム還元化合物成分をさらに含む。
【0046】
6価クロム還元化合物成分としては、たとえば国際公開第2016/021461号明細書に記載された成分が挙げられる。さらに、6価クロム還元化合物成分としては、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。
【0047】
化合物(A−i)は下記式(A−i)で表される。
【0048】
【化1】
【0049】
式中、nは、0、1または2を表す。すなわち、化合物(A−i)は、ベンゼン、ナフタレンまたはアントラセン構造を有する。
【0050】
11〜R18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基を表す。ここで、R19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0051】
【化2】
【0052】
炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基が挙げられる。
【0053】
nが0のとき、R11〜R14、R16およびR17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが0のとき、R11〜R14、R16およびR17のうち、2個がヒドロキシ基である場合および3個がヒドロキシ基である場合は、6価クロムを還元する能力が高くなるため好ましい。
【0054】
nが1または2のとき、R11〜R18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが1または2のとき、R11〜R18のうち、2個がヒドロキシ基である場合および3個がヒドロキシ基である場合は、6価クロムを還元する能力が高くなるため好ましい。
【0055】
なお、nが2のとき、複数あるR15は、同一であっても異なっていてもよく、R18についても同様である。
【0056】
16とR17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環を構成する原子としては炭素原子の他に酸素原子が含まれていてもよい。また、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。炭素数1〜16のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0057】
化合物(A−i)としては、n=0であり、R14、R16、R17がヒドロキシ基であり、R12が上記式(a−i)で表される基である没食子酸エステルが好適に用いられる。また、化合物(A−i)としては、具体的には下記式(1)〜(10)で表される化合物が挙げられる。化合物(A−i)は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
【化3】
【0059】
【化4】
【0060】
タンニン(A−ii)は、加水分解性タンニンであっても、縮合型タンニンであってもよい。加水分解性タンニンとしては、タンニン酸(下記式(11)で表される化合物)等のガロタンニン、エラジタンニンなどが挙げられる。加水分解性タンニンが好適に用いられる。タンニン(A−ii)は1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
【化5】
【0062】
6価クロム還元化合物成分として、化合物(A−i)、タンニン(A−ii)とともに、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0063】
【化6】
【0064】
式中、Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基のいずれかを表す。ここで、оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。
【0065】
【化7】
【0066】
化合物(B−i)および化合物(B−ii)としては、具体的には、下記式(12)で表される化合物(アスコルビン酸)が挙げられる。化合物(B−i)および化合物(B−ii)は、それぞれ1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、化合物(B−i)および化合物(B−ii)を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
【化8】
【0068】
特に、即効性の高い化合物(A−i)と遅行性のタンニン(A−ii)とを組み合わせると、爬虫類革製品がその効用および目的を達するまで、より確実に規制値未満の状態を保てる。さらに、化合物(A−i)および/またはタンニン(A−ii)とともに、還元力および即効性の高い化合物(B−i)および/または化合物(B−ii)を組み合わせると、処理時に、爬虫類革の特に表面付近に存在している6価クロムを効果的に還元できる。なお、爬虫類革への着色を考慮した場合は、化合物(A−i)と、化合物(B−i)および/または化合物(B−ii)とを組み合わせることも好ましい。
【0069】
次に、実施形態2に係る爬虫類革製品である時計バンドの製造方法について説明する。上記時計バンドの製造方法は、中間層形成工程に用いる爬虫類革が、6価クロムを3価クロムに還元し得る6価クロム還元化合物成分をさらに含む点で、実施形態1と異なる。なお、実施形態1に係る爬虫類革製品と共通する点については説明を省略する。
【0070】
6価クロム還元化合物成分をさらに含む爬虫類革は、クロムなめし工程後の爬虫類革に対して、6価クロム還元化合物成分を含む6価クロム処理剤による処理を行うことで得られる。なお、本明細書において、6価クロム処理剤による処理を行う工程を6価クロム処理工程という。上記6価クロム還元化合物成分としては、上述した成分の他、国際公開第2016/21461号明細書に記載された6価クロム還元化合物成分が挙げられる。上記6価クロム還元化合物成分として、上記化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種を含む処理剤を用いることが好ましい。また、6価クロム処理剤として、上記化合物(A−i)、タンニン(A−ii)とともに、さらに上記化合物(B−i)および上記化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を含む処理剤を用いることがより好ましい。
【0071】
6価クロム処理工程は、通常、クロムなめし工程後であって中間層形成工程前であれば、いつ行ってもよい。具体的には、染色工程または加脂工程の前であってもよく、染色工程または加脂工程の後であってもよく、染色工程または加脂工程と同時に行ってもよい。なお、6価クロム処理工程は、上記光沢を出すための処理工程の前に行うことが好ましい。
【0072】
6価クロム処理工程では、まず、6価クロム還元化合物成分と溶剤とを含む6価クロム処理剤を調製する。
【0073】
上記溶剤としては、水、炭素原子数1〜3のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA))、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。上記溶剤は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちで、爬虫類革の外観を損ねにくく、また取り扱いやすいため、水のみ、水と炭素原子数1〜3のアルコールとの混合溶媒が好ましく用いられ、水のみ、水とIPAとの混合溶媒がより好ましく用いられる。
【0074】
6価クロム処理剤中の6価クロム還元化合物成分の濃度は、6価クロム処理工程後の爬虫類革に6価クロム還元化合物成分が好ましい量で残るように、適宜調整して用いる。
【0075】
次に、得られた上記6価クロム処理剤によって、クロムなめし後の爬虫類革を処理する。具体的には、上記6価クロム処理剤を爬虫類革に噴霧、散布または塗布して処理してもよく、上記6価クロム処理剤に爬虫類革をディップまたは浸漬して処理してもよい。また、上記6価クロム処理剤を布に含ませて爬虫類革の表面を擦って処理してもよい。このようにして、爬虫類革に上記6価クロム処理剤中の6価クロム還元化合物成分を含ませることができ、6価クロムは無害化される。
【0076】
このように、実施形態2の製造方法では、6価クロム還元化合物成分を含む爬虫類革を中間層形成工程に用いる。なお、中間層形成工程および表面層形成工程において、溶媒として有機溶剤を用いると、6価クロム還元化合物成分が変質されたり、抽出されたりすることを抑えられる利点がある。
【0077】
得られた時計バンドは、留め具に貼付された保護フィルムを剥がす際に、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。さらに、6価クロム還元化合物成分が製造中に爬虫類革から抽出されないため、爬虫類革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満(通常3ppm未満)である状態を保てる。
【0078】
<その他の実施形態>
上述した実施形態2では、6価クロム還元化合物成分として、化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。また、化合物(A−i)、タンニン(A−ii)とともに、さらに化合物(B−i)および化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。なお、6価クロム還元化合物成分として、たとえば国際公開第2016/021461号明細書に記載された成分を用いてもよい。これに対して、その他の実施形態では、6価クロム還元化合物成分として、6価クロムを3価クロムに還元できる成分であれば、特に制限なく用いることができる。たとえば、6価クロム還元化合物成分は、化合物(B−i)または化合物(B−ii)を単独で用いてもよい。より具体的には、アスコルビン酸を単独で用いてもよい。
【0079】
また、上述した実施形態に係る爬虫類革製品は、時計バンドである。これに対して、その他の実施形態では、爬虫類革製品は、時計バンド以外の爬虫類革製品であってもよい。なお、実施形態1、2に係る爬虫類革製品と共通する点については説明を省略する。
このような時計バンド以外の爬虫類革製品は、通常、爬虫類革で構成される本体と、金属製等などの部品(たとえば留め具、装飾具など)とを有する。時計バンド以外の爬虫類革製品としては、具体的には、帽子、手袋、ベルト、財布、名刺入れ、かばん、バッグ、ブックカバー、筆入れ、携帯電話ケース、キーケース、眼鏡ケース、小物入れなどが挙げられる。その他の実施形態に係る爬虫類革製品においても、上述した中間層および表面層が形成された爬虫類革を含むため、上述した効果が発揮される。すなわち、金属製等の部品に貼付された保護フィルムを剥がす際に、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。
【0080】
なお、このような爬虫類革製品は、実施形態1、2において説明した工程の他、公知の加工工程を経て製造できる。
【0081】
また、上述した実施形態に係る爬虫類革製品では、上記光沢を出すための処理が行われた爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層が設けられている。これに対して、その他の実施形態では、上記爬虫類革は上記光沢を出すための処理が行われていない革が用いられていてもよい。この場合も、金属製等の部品に貼付された保護フィルムを剥がす際に、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。
【0082】
なお、上述した実施形態に係る爬虫類革製品では、保護フィルムを剥がす場合に表面層の剥がれが抑えられることを例に挙げて説明した。しかしながら、この場合に限定されない。すなわち、上述した実施形態に係る爬虫類革製品では、その他の原因による場合であっても、表面層の剥がれを抑え得る。
【0083】
以上より、本発明は以下に関する。
【0084】
[1] 爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層と、ニトロセルロースを含む表面層とが、この順で積層されていることを特徴とする爬虫類革製品。
【0085】
上記爬虫類革製品によれば、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。
【0086】
[2] 前記爬虫類革が、6価クロムを3価クロムに還元し得る6価クロム還元化合物成分を含むことを特徴とする[1]に記載の爬虫類革製品。
[3] 前記6価クロム還元化合物成分が、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[2]に記載の爬虫類革製品。
【0087】
【化9】
(nは、0、1または2を表す。R11〜R18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基(R19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を表す。nが0のとき、R11〜R14、R16およびR17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、nが1または2のとき、R11〜R18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが2のとき、複数あるR15は、同一であっても異なっていてもよく、R18についても同様である。R16とR17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。)
【0088】
【化10】
【0089】
上記爬虫類革製品によれば、爬虫類革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満(通常3ppm未満)である状態を保てる。
【0090】
[4] 前記6価クロム還元化合物成分が、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[3]に記載の爬虫類革製品。
【0091】
【化11】
(Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基(оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。)のいずれかを表す。)
【0092】
【化12】
【0093】
上記爬虫類革製品によれば、爬虫類革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満(通常3ppm未満)である状態をより確実に保てる。
【0094】
[5] 前記爬虫類革製品が時計用バンドであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1つに記載の爬虫類革製品。
【0095】
上記爬虫類革製品は、特に美観を維持できる点で好ましい。
【0096】
[6] 爬虫類革の銀面上に、ポリエステル系ポリウレタンを含む中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層形成工程で形成された前記中間層上に、ニトロセルロースを含む表面層を形成する表面層形成工程とを含むことを特徴とする爬虫類革製品の製造方法。
【0097】
上記爬虫類革製品の製造方法によれば、得られた爬虫類革製品において、ニトロセルロースを含む表面層の剥がれを抑えられる。
【0098】
[7] 前記爬虫類革が、6価クロムを3価クロムに還元し得る6価クロム還元化合物成分を含むことを特徴とする[6]に記載の爬虫類革製品の製造方法。
[8] 前記6価クロム還元化合物成分が、下記式(A−i)で表される化合物(A−i)およびタンニン(A−ii)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[7]に記載の爬虫類革製品の製造方法。
【0099】
【化13】
(nは、0、1または2を表す。R11〜R18は、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または下記式(a−i)で表される基(R19は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)を表す。nが0のとき、R11〜R14、R16およびR17のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、nが1または2のとき、R11〜R18のうち少なくとも1個はヒドロキシ基である。nが2のとき、複数あるR15は、同一であっても異なっていてもよく、R18についても同様である。R16とR17とは相互に一体となって5員環または6員環を形成していてもよく、該環は置換基として炭素数1〜16のアルキル基を有していてもよい。)
【0100】
【化14】
【0101】
上記爬虫類革製品の製造方法によれば、得られた爬虫類革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満(通常3ppm未満)である状態を保てる。
【0102】
[9] 前記6価クロム還元化合物成分が、さらに下記式(B−i)で表される化合物(B−i)および下記式(B−ii)で表される化合物(B−ii)から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[8]に記載の爬虫類革製品の製造方法。
【化15】
(Xは、下記式(b−i)〜(b−iii)で表される基(оは、0〜3の整数を表し、pは、1〜3の整数を表し、qは、1〜17の整数を表す。)のいずれかを表す。)
【化16】
【0103】
上記爬虫類革製品の製造方法によれば、得られた爬虫類革製品がその効用および目的を達するまで、6価クロム量が規則(EU)番号3014/2014による規制値未満(通常3ppm未満)である状態をより確実に保てる。
【0104】
[10] 前記爬虫類革製品が時計用バンドであることを特徴とする[6]〜[9]のいずれか1つに記載の爬虫類革製品の製造方法。
【0105】
上記爬虫類革製品の製造方法によれば、得られた爬虫類革製品が、特に美観を維持できる点で好ましい。
【0106】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
[実施例]
[実施例1−1]
クロムなめし後、グレージング処理されたクロコダイルの革シートを用意した。
また、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールおよびネオペンチルグリコールとアジピン酸とを重縮合させたポリエステルポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネ−トおよびトリレンジイソシアネートとを反応させたポリエステル系ポリウレタン(1)を8wt%の濃度で含むポリエステル系ポリウレタン溶液(1)を用意した。溶剤としては有機溶剤を用いた。
また、ニトロセルロースを10wt%の濃度で含むニトロセルロースラッカーを用意した。溶剤としては有機溶剤を用いた。
革シート上に、ポリエステル系ポリウレタン溶液(1)を塗布し、25℃で30分間溶媒を蒸発させた。これにより、革シート上に中間層を形成した。次いで、中間層上に、ニトロセルロースラッカーを吹き付け、25℃で60分間溶媒を蒸発させた。これにより、中間層上に表面層を形成した。
【0108】
[実施例1−2]
ネオペンチルグリコールの代わりに、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを用いた他は、実施例1−1と同様にしてポリエステル系ポリウレタン溶液(2)を用意した。
このポリエステル系ポリウレタン溶液(2)を用いた他は、実施例1−1と同様にして革シート上に中間層および表面層を形成した。
【0109】
[実施例1−3]
アジピン酸の代わりに、セバシン酸を用いた他は、実施例1−1と同様にしてポリエステル系ポリウレタン溶液(3)を用意した。
このポリエステル系ポリウレタン溶液(3)を用いた他は、実施例1−1と同様にして革シート上に中間層および表面層を形成した。
【0110】
[実施例1−4]
トリレンジイソシアネートの代わりに、イソホロンジイソシアネートを用いた他は、実施例1−1と同様にしてポリエステル系ポリウレタン溶液(4)を用意した。
このポリエステル系ポリウレタン溶液(4)を用いた他は、実施例1−1と同様にして革シート上に中間層および表面層を形成した。
【0111】
[実施例2−1〜2−4]
クロムなめし後、グレージング処理されたクロコダイルの革シートの代わりに、クロムなめし後、グレージング処理されたヘビの革シートを用いた他は、実施例1−1〜1−4と同様にして革シート上に中間層および表面層を形成した。
【0112】
[実施例3−1〜3−4]
クロムなめし後、グレージング処理されたクロコダイルの革シートの代わりに、クロムなめし後、グレージング処理されたトカゲの革シートを用いた他は、実施例1−1〜1−4と同様にして革シート上に中間層および表面層を形成した。
【0113】
[実施例4]
クロムなめし後、グレージング処理されたクロコダイルの革シートを用意した。
この革シートについて、ISO17075:2008−02の手法で求めた6価クロムの含有量は、8ppmであった。また、全クロムの含有率を蛍光X線分析器(エネルギー分散型蛍光X線分析装置、日本電子株式会社製JSX−3202EV ELEMENT ANALYZER)で分析したところ、7141ppmであった。なお、基準試料として、日本電子株式会社製 JSX3000シリーズ 基準試料1、JSX3000シリーズ 基準試料2およびJSX3000シリーズ エネルギー校正基準試料を用いた。測定は、日本電子株式会社資料QuickManual(番号EY07007−J00、J00 EY07007G、2007年8月版)に基づき、JSX starterにつづき PlasticD3により実施した。
次いで、この革シートについて、6価クロム処理工程を行った。まず、水に対して、上記式(2)で示される化合物0.5質量部、上記式(11)で示される化合物2.5質量部および上記式(12)で示される化合物2.0質量部を混合して溶解し、6価クロム処理剤を得た。ここで、処理剤の全量が500質量部となるように水を用いた。革シートに、得られた6価クロム処理剤を塗布し、乾燥させた。
乾燥後、革の一部を切り取って、ISO17075:2008−02で6価クロムの含有量を測定したところ、6価クロムは検出限界(2ppm)以下であった。全クロムの含有率は、蛍光X線分析器で分析したところ、6価クロム処理剤による処理前と変化していなかった。
このようにして得られた革シートを用いた他は、実施例1−1と同様にして革シート上に中間層および表面層を形成した。
実施例4で得られた中間層および表面層を有する革シートの製造において用いたポリエステル系ポリウレタン溶液(1)およびニトロセルロースラッカーでは、調製の際に有機溶剤を用いた。このため、実施例4で得られた革シートには、6価クロム還元化合物成分が変質せずに残存していると考えられる。
【0114】
[比較例1]
ポリエステル系ポリウレタン溶液(1)の代わりに、ポリエーテル系ポリウレタン溶液を用いた他は、実施例1−1と同様にして革シート上に中間層を形成した。ポリエーテル系ポリウレタンを含む中間層は、透明性に欠け、白濁して見えた。
【0115】
[評価]
〔外観観察〕
実施例で得られた中間層および表面層を有する革シートは、光沢を有していた。中間層および表面層は透明であった。一方、比較例1で得られた中間層は、上述のように透明性に欠け、白濁して見えた。
【0116】
〔保護テープ剥離試験〕
実施例で得られた中間層および表面層を有する革シートに、幅1cm、長さ2cm〜3cmの保護テープ(3M表面保護テープ332(商品名)、スリーエム ジャパン株式会社製)を貼り付けた。次いで、貼り付けた保護テープを一気に剥がした。
実施例で得られた中間層および表面層を有する革シートにおいては、中間層および表面層は剥離しなかった。すなわち、保護テープ剥離試験前と光沢は変化しなかった。