(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るゼオライト膜複合体1の断面図である。ゼオライト膜複合体1は、支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12とを備える。
図1では、ゼオライト膜12を実際よりも厚く示している。本実施の形態では、支持体11はガスを透過する多孔質であり、ゼオライト膜12はガス分離膜である。ゼオライト膜12は分子篩作用を利用する分子分離膜として他の用途に用いられてもよい。例えば、ゼオライト膜12は浸透気化膜としても利用可能である。ゼオライト膜複合体1は、さらに他の用途に利用されてもよい。支持体11はガスを透過しないものであってもよい。
【0017】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々なものが採用可能である。支持体11の材料として、例えば、セラミックス焼結体、金属、有機高分子、ガラス、カーボン等を挙げることができる。セラミックス焼結体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄、ブロンズ、ステンレス等が挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド等が挙げられる。
【0018】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。
【0019】
図1では、支持体11の一部のみを示しているが、支持体11の全体は、例えば、ハニカム状、モノリス状、平板状、管状、円筒状、円柱状、角柱状等である。支持体11の長さは、例えば10cm〜200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm〜30cmである。支持体11の形状がモノリス状である場合、隣接する貫通孔の中心軸間の距離は、例えば0.3mm〜10mmである。支持体11の形状が管状や平板状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm〜10mmである。
【0020】
支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm〜2.0μmであり、好ましくは0.2μm〜1.0μmである。
【0021】
ゼオライト膜12がガス分離膜として利用される場合、支持体11は多孔質である。この場合、好ましくは、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は、他の部位の平均細孔径よりも小さい。このような構造を実現するために、支持体11は多層構造を有する。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができ、それぞれは同じでもよいし異なっていてもよい。平均細孔径は、水銀ポロシメータ、パームポロメータ、ナノパームポロメータ等によって測定することができる。ゼオライト膜12が形成される支持体11の表面近傍における平均細孔径は、好ましくは、0.001μm〜1μmであり、気孔率は、好ましくは、20%〜60%である。このような構造は、好ましくは、表面から1μm〜50μmの範囲に設けられる。
【0022】
支持体11の細孔径の分布について、D5は例えば0.1μm〜50μmであり、D50は例えば0.5μm〜70μmであり、D95は例えば10μm〜2000μmである。
【0023】
ゼオライト膜12の厚さは、好ましくは、0.1μm〜10μmである。ゼオライト膜12を厚くするとガス分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くするとガス透過速度が増大する。
【0024】
ゼオライト膜12は、構造がSAT型であるゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、構造コードが「SAT」であるゼオライトである。SAT型ゼオライトは、少なくともAl原子、P原子、O原子から構成されるリン酸アルミニウム(AlPO)系ゼオライトである。細孔径は、0.30×0.55nmである。既述のように、支持体11の材料としては様々なものが採用可能であるが、SAT型ゼオライトはAlPO系であるため、支持体11は、アルミナ焼結体もしくはムライト焼結体であることが好ましい。
【0025】
ゼオライト膜12は配向しており、ゼオライト膜12にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、2θ=13.9°付近に存在するピークの強度は、2θ=8.5°付近に存在するピークの強度の1.5倍以上である。より好ましくは、X線回折パターンにおいて、2θ=13.9°付近に存在するピークの強度は、2θ=8.5°付近に存在するピークの強度の2倍以上である。2θ=13.9°付近のピークの強度と、2θ=8.5°付近のピークの強度との比較では、X線回折パターンにおける底部のライン、すなわち、バックグラウンドノイズ成分を除いた高さを用いるものとする。X線回折パターンは、X線回折装置(リガク社製、型式MiniFlex600)を用いて、ゼオライト膜12の膜表面にCuKα線を照射することによって得られる。X線出力:600W(管電圧:40kV、管電流:15mA)、走査速度:0.5°/min、走査ステップ:0.02°、CuKβ線フィルタ:0.015mm厚Ni箔とする。
【0026】
2θ=13.9°付近のピークの強度は、微細孔の開口面である(110)面が膜の表面を向く配向の程度を示すことが判っており、X線回折パターンが上記特徴を有することから、ゼオライト結晶の微細孔の開口面の多くが膜表面を向いていることが判る。すなわち、開口に沿う面と膜表面とがほぼ平行である。したがって、ゼオライト膜12は、分子が膜を透過する利用方法に適している。ゼオライト膜複合体1は、ガス分離に特に適しているが、上記配向により、他の様々な用途においても、高い性能が得られる。また、配向により、結晶同士の高い結合性が得られ、緻密かつ分離性能の高いゼオライト膜となる。
【0027】
図2は、ゼオライト膜複合体1の製造の流れを示す図である。まず、水熱合成にてSAT型のゼオライトの粉末が生成される。ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、粉末を粉砕等で加工することにより種結晶が取得されてもよい(ステップS11)。次に、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体を浸漬し、種結晶を支持体に付着させる(ステップS12)。種結晶は他の手法により、支持体に付着されてもよい。
【0028】
支持体は、原料溶液に浸漬され、水熱合成により種結晶を核としてSAT型のゼオライトを成長させ、支持体上にゼオライト膜が形成される(ステップS13)。水熱合成時の温度は、好ましくは、130〜200℃である。このとき、原料溶液中のリン源と構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)との配合割合等を調整することにより、配向したSAT型ゼオライト膜が得られる。原料溶液のpHは他の手法により調整されてもよい。最後に、加熱によりゼオライト膜中のSDAが分解されて除去される(ステップS14)。ステップS14では、ゼオライト膜中のSDAは、すべて除去されてもよいし、一部が残っていてもよい。
【0029】
ステップS13にて用いられる原料溶液は、具体的には、アルミニウム源とリン源とをpHが4以上の状態を保って混合することと、最終的なpHが5以上9以下となるようにして調製することにより得られる。これにより、配向したSAT型ゼオライト膜が得られる。換言すれば、少なくともアルミニウム源とリン源とを含む混合溶液を調製した段階でpHは4以上である。そして、好ましくは、原料溶液の調製が完了するまでpHは4以上に維持され、最終的にpHが5以上9以下の原料溶液が得られる。
【0030】
SAT型のゼオライトの粉末を作製する従来技術とは異なり、上記ステップS13にてSAT型のゼオライト膜を成長させる際に、原料溶液のpHが高すぎるとゼオライト膜の成長の確保が難しくなり、pHが低すぎるとSAT型ゼオライト以外の副生相を抑制することが難しくなる。また、アルミニウム源とリン源とを混合する際のpHが低すぎると、原料溶液が不均一になりやすく、上記ステップS13にて配向した膜の成長が難しくなる。本実施の形態では、原料溶液における原料の混合比を調整して、アルミニウム源とリン源とをpHが4以上の状態で混合しつつ原料溶液のpHを5以上9以下とすることにより、効率よくゼオライト膜を成長させることができる。加えて、このようなpH調整により、配向したSAT型ゼオライト膜が得られる。
【0031】
また、SAT型ゼオライトの粉末や膜を合成する場合、アルミニウム源としては、例えば、アルミニウムイソプロポキシドなどのアルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミナゾルなどを用いることができ、リン源としては、例えば、リン酸、五酸化二リン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸エステルなどを用いることができる。
【0032】
次に、
図3を参照しつつ、ゼオライト膜複合体1を利用した混合物質の分離について説明する。
【0033】
図3において、支持体11が有する貫通孔111の内面にゼオライト膜12が形成されている。支持体11の両端部は封止部21にて封止され、支持体11は外筒22内に収められる。すなわち、ゼオライト膜複合体1が外筒22内に配置される。封止部21は、ゼオライト膜複合体1の支持体11の長手方向両端部に取り付けられ、支持体11の長手方向両端面を被覆して封止する部材である。封止部21は、例えば、ガラスにより形成された板状部材である。封止部21の材料および形状は、適宜変更されてよい。さらに、支持体11の両端部と外筒との間にはシール部材23が配置される。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外側面(すなわち、支持体11の外側面)と外筒22の内側面との間に、全周に亘って配置される。シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された略円環状の部材である。シール部材23は、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外側面および外筒22の内側面に全周に亘って密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外側面との間、および、シール部材23と外筒22の内側面との間は、シールされており、ガスの通過は不能である。
【0034】
この状態で、複数種類の流体(すなわち、ガスまたは液体)を含む混合物質が矢印251にて示すように支持体11の貫通孔111内に導入され、外筒22に設けられた孔221からゼオライト膜12を透過した物質が矢印252にて示すように回収することで、混合物質中の透過性が高い物質を他の物質から分離させる。分離は、例えば、透過性が高い物質を混合物質から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0035】
当該混合物質(すなわち、混合流体)は、上述のように、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0036】
混合物質は、例えば、水素(H
2)、ヘリウム(He)、窒素(N
2)、酸素(O
2)、水(H
2O)、水蒸気(H
2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO
2)、窒素酸化物、アンモニア(NH
3)、硫黄酸化物、硫化水素(H
2S)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH
3)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1〜C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0037】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(N
2O)、三酸化二窒素(N
2O
3)、四酸化二窒素(N
2O
4)、五酸化二窒素(N
2O
5)等のNO
X(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0038】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO
2)、三酸化硫黄(SO
3)等のSO
X(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0039】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F−S−S−F,S=SF
2)、二フッ化硫黄(SF
2)、四フッ化硫黄(SF
4)、六フッ化硫黄(SF
6)または十フッ化二硫黄(S
2F
10)等である。
【0040】
C1〜C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3〜C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C3〜C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1〜C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH
4)、エタン(C
2H
6)、エチレン(C
2H
4)、プロパン(C
3H
8)、プロピレン(C
3H
6)、ノルマルブタン(CH
3(CH
2)
2CH
3)、イソブタン(CH(CH
3)
3)、1−ブテン(CH
2=CHCH
2CH
3)、2−ブテン(CH
3CH=CHCH
3)またはイソブテン(CH
2=C(CH
3)
2)である。
【0041】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH
2O
2)、酢酸(C
2H
4O
2)、シュウ酸(C
2H
2O
4)、アクリル酸(C
3H
4O
2)または安息香酸(C
6H
5COOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(C
2H
6O
3S)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0042】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CH
3OH)、エタノール(C
2H
5OH)、イソプロパノール(2−プロパノール)(CH
3CH(OH)CH
3)、エチレングリコール(CH
2(OH)CH
2(OH))またはブタノール(C
4H
9OH)等である。
【0043】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CH
3SH)、エチルメルカプタン(C
2H
5SH)または1−プロパンチオール(C
3H
7SH)等である。
【0044】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0045】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CH
3)
2O)、メチルエチルエーテル(C
2H
5OCH
3)またはジエチルエーテル((C
2H
5)
2O)等である。
【0046】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CH
3)
2CO)、メチルエチルケトン(C
2H
5COCH
3)またはジエチルケトン((C
2H
5)
2CO)等である。
【0047】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CH
3CHO)、プロピオンアルデヒド(C
2H
5CHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(C
3H
7CHO)等である。
【0048】
以下の説明では、前述の混合物質が、複数種類のガスを含む混合ガスであるものとして説明する。
【0049】
矢印251にて示すように外筒22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPa〜10.0MPaである。外筒22に設けられた孔221から矢印252にて示すように回収される混合ガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、大気圧である。ゼオライト膜12を透過せず、外筒22から排出される混合ガスの圧力(すなわち、非透過圧)は、例えば、導入圧と同等である。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃〜200℃である。
【0050】
外筒22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の図中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、CO
2であり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内側面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外側面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、CH
4であり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される。支持体11の外側面から導出されたガス(すなわち、高透過性物質)は、外筒22に設けられた孔221から矢印252にて示すように回収される。
【0051】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜12および支持体11を透過したガスを除くガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を図中の左側から右側へと通過し、矢印253にて示すように外筒22から排出される。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0052】
次に、ゼオライト膜複合体の製造の一の実施例について説明する。
【0053】
<種結晶の作製>
アルミニウム源、リン源、SDA(構造規定剤)として、それぞれアルミニウムイソプロポキシド、85%リン酸、水酸化1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−C4−ジクアットを純水に溶解させ、組成が1Al
2O
3:1P
2O
5:0.8SDA:200H
2Oの原料溶液を作製した。この原料溶液を190℃にて50時間水熱合成した。水熱合成によって得られた結晶を回収し、純水にて十分に洗浄した後、100℃で完全に乾燥させた。X線回折測定の結果、得られた結晶はSAT型ゼオライトの結晶であった。この結晶を10〜20mass%となるよう純水に投入し、ボールミルによって7日間粉砕し、種結晶とした。
【0054】
<配向SAT膜の作製>
モノリス形状の多孔質アルミナ支持体を、上記種結晶を分散させた溶液に接触させて、支持体の貫通孔であるセル内に種結晶を塗布した。その後、アルミニウム源、リン源、SDAとして、それぞれアルミニウムイソプロポキシド、85%リン酸、水酸化1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−C4−ジクアットを純水に溶解させ、組成が1Al
2O
3:2P
2O
5:2.3SDA:1000H
2Oの原料溶液を作製した。ゼオライト膜用の原料溶液では、アルミニウム源とリン源とをpHが4以上の状態で混合し、アルミニウムが原料溶液中に均一に分布するようにした。原料溶液のpHは7であった。
【0055】
この原料混合液に種結晶を塗布した支持体を浸漬し、170℃にて50時間水熱合成した。水熱合成後、純水にて十分に洗浄した後、100℃で完全に乾燥させた。乾燥後、SAT型のゼオライト膜のN
2透過量を測定したところ、0.005nmol/m
2・s・Pa以下であった。これにより、ゼオライト膜は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。ゼオライト膜を500℃にて20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜内の微細孔を貫通させた。
【0056】
<ガス分離試験>
次に、
図3に概略構造を示す装置にて混合ガスの分離試験を実施した。
図3において、支持体11が有する貫通孔111の内面にゼオライト膜12が形成されている。支持体11の両端部はガラス21にて封止され、支持体11は外筒22内に収められる。この状態で混合ガスが矢印251にて示すように支持体11の貫通孔111内に導入され、外筒22に設けられた孔221からゼオライト膜12を透過したガスが矢印252にて示すように回収される。
【0057】
分離試験でのガス導入圧は0.2MPaGであり、混合ガスとして、CO
2とCH
4との比が50:50であるものを用いた。その結果、CO
2/CH
4のパーミアンス比は1810であった。これにより、SAT型ゼオライト膜は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。SAT型ゼオライト膜の表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=13.9°付近のピークの強度は、2θ=8.5°付近のピークの強度の2.2倍であった。
【0058】
また、原料の混合比を調整することで、アルミニウム源とリン源とをpHが4以上の状態で混合しつつpHが5〜9となるようにして調製した原料溶液を用いてSAT型ゼオライト膜の作製を行った場合には、SAT型ゼオライト膜の表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、2θ=13.9°付近のピークの強度は、2θ=8.5°付近のピークの強度の1.5倍以上であった。これらの膜で(110)面への配向による分離性能の向上を確認した。
【0059】
なお、比較例として上記非特許文献1に記載の条件で原料溶液を作製したところ、アルミニウム源とリン源との混合時のpHは3で、原料溶液のpHは7であった。この原料溶液を用いて作製されたSAT型ゼオライト膜のX線回折パターンでは、2θ=13.9°付近のピークの強度は、2θ=8.5°付近のピークの強度の1.1倍であった。すなわち、この場合、SAT型ゼオライト膜は配向しない。また、原料の混合比を変更して、原料溶液をpHが10となるように調製し、SAT型ゼオライト膜の合成を行ったところ、支持体上にSAT型ゼオライト膜が形成されなかった。このように、本発明に係るゼオライト膜複合体は、SAT型の配向したゼオライト膜を有する新規なゼオライト膜複合体である。
【0060】
<変形例>
上記ゼオライト膜複合体およびその製造では様々な変形が可能である。
【0061】
原料溶液中のアルミニウム源として、アルミニウムイソプロポキシドに代えて、アルミニウムアルコキシドまたはアルミナゾルに属する他の材料が用いられてもよい。アルミニウムアルコキシドまたはアルミナゾルは、SAT型ゼオライトの生成において新規に用いられた材料である。アルミニウムアルコキシドまたはアルミナゾルは、種結晶を生成する際のみに用いられてもよく、ゼオライト膜を生成する際のみに用いられてもよい。
【0062】
SAT型のゼオライト膜は、純粋なリン酸アルミニウムである必要はなく、他の元素が含まれてもよい。例えば、Mg原子やSi原子が含まれてもよい。
【0063】
ゼオライト膜複合体1は、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜に限られず炭素膜やシリカ膜などの無機膜やポリイミド膜やシリコーン膜などの有機膜であってもよい。
【0064】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。