特許第6985416号(P6985416)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985416リチウムイオン電池及びアノードのプレリチオ化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985416
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池及びアノードのプレリチオ化方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20211213BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211213BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20211213BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M10/052
   H01M4/139
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-560774(P2019-560774)
(86)(22)【出願日】2017年5月5日
(65)【公表番号】特表2020-518991(P2020-518991A)
(43)【公表日】2020年6月25日
(86)【国際出願番号】CN2017083159
(87)【国際公開番号】WO2018201427
(87)【国際公開日】20181108
【審査請求日】2019年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シャオガン ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ロンロン ジアン
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−149996(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102376972(CN,A)
【文献】 特開2017−050112(JP,A)
【文献】 特開2003−022804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−0587
H01M 4/13−62
H01M 10/42−44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のアノードをプレリチオ化する方法であって、
(a)第1の温度で4.2〜4.5Vの電圧に前記電池を充電するステップと、
(b)前記第1の温度よりも20〜40℃低い第2の温度で2.5〜3.2Vの電圧に前記電池を放電するステップと、
を含み、
ステップ(a)及び(b)が、3サイクルの間、交互に行われ、
前記第1の温度が45〜65℃である、方法。
【請求項2】
ステップ(a)及び(b)の前記サイクル後に、前記方法が、後続のサイクル中に、前記第2の温度で2.5〜4.5Vの電圧範囲内で前記電池の充電及び放電を行うステップ(c)をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の温度が25℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)に先立って、前記電池が、3〜7時間、前記第1の温度に保たれる、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)及び(b)を受けていない同じ電池のアノードにおける可逆リチウム量と比較して、追加の5〜25重量%のリチウムが、前記アノードに蓄積される、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プレリチオ化中の前記アノードに蓄積された前記追加のリチウムを除き、前記アノードの可逆容量(単位:mAh/cm)が、カソードの可逆容量(単位:mAh/cm)の1〜1.3倍である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、及びリチウムイオン電池のアノードをプレリチオ化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、現在、エネルギー蓄積システム及び電気自動車において広く使用されている。
【0003】
リチウム含有カソード材料(LiCoO又はLiNiO)を含むリチウムイオン電池の場合、リチウムイオンは、充電時にカソードからアノードへと移動する。しかし、移動するリチウムイオンは、不可避的且つ連続的に電解質と反応する。その結果、リチウムが不必要に消費され、固体電解質界面(SEI)がアノード上に形成される。消費されたリチウムは、後続の放電中にカソードに戻らず、リチウムイオン電池の速い容量フェーディングが生じる。
【0004】
アノードのプレリチオ化を行い、及び容量フェーディングを補償するために、外部リチウム金属からコーティングされたアノードテープ内へとリチウムを予めインターカレートすることが提案されている。続いて、プレリチオ化アノードが、リチウムイオン電池へとアセンブルされる。しかし、プレリチオ化アノードの高活量により、プレリチオ化ステップに続く電池製造手順は、適切に制御された湿度の動作環境を必要とし、これが、リチウムイオン電池の製造コストを増加させる。
【0005】
より魅力的且つ信頼性のあるリチウムイオン電池を提供し得る方法に対する要求が常時存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
集中的に研究を行い、本発明者らは、
(a)第1の温度で約4.2〜約4.5Vの電圧に電池を充電するステップと、
(b)第1の温度よりも約20〜40℃低い第2の温度で約2.5〜約3.2Vの電圧に電池を放電するステップと、
を含む、リチウムイオン電池のアノードをプレリチオ化する新規の方法を開発した。
【0007】
幾つかの例では、ステップ(a)及び(b)は、アノードをプレリチオ化するために、1〜3サイクルの間、交互に行われる。
【0008】
幾つかの例では、ステップ(a)及び(b)のサイクル後に、本方法は、後続のサイクル中に、第2の温度で約2.5〜約4.5Vの電圧範囲内で電池の充電及び放電を行うステップ(c)をさらに含む。
【0009】
本開示の方法に従ってプレリチオ化されたアノードを含むリチウムイオン電池も提供される。
【0010】
本開示によるプレリチオ化方法を用いることによって、容量フェーディングを補償することができ、及び電池性能(可逆容量及びサイクリング安定性)が大幅に向上され得る。
【0011】
加えて、プレリチオ化のソースとして外部リチウム金属を用いるという既知の提案に関しては、リチウム金属を加える追加のステップが伴い、適切に制御されたアセンブリ条件が必要とされ、望ましくない爆発危険性が生じる可能性がある。それにひきかえ、本開示のプレリチオ化方法は、簡単且つ安全に行うことができ、特別なアセンブリ条件を必要とせず、及び工業生産にとってかなりのコストの削減及び労力の削減を意味する、in−situプレリチオ化を実現する。
【0012】
さらに、最初の幾つかの充電/放電サイクル中に、第1の温度を第2の温度よりも高くすることにより、カソードから抽出され、及びアノード内に挿入されるリチウム量が、アノードから離れるリチウム量よりも大きい。その結果、追加のリチウムがアノードに蓄積され、及びアノードがプレリチオ化される。一方で、第1の温度と第2の温度との間の差を調節することによって、プレリチオ化の度合いは制御可能である。
【0013】
本開示のさらなる特徴及び利点は、例として本技術の特徴を一緒に示す添付の図面と併せて理解される、以下の詳細な説明から明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施例及び比較例に従って充電/放電が行われたセルのサイクリング性能を比較する。
図2】本開示の実施例及び比較例に従って充電/放電が行われたセルの放電/充電プロファイルを比較する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
これより、幾つかの説明のための例が言及され、本明細書では、それらを説明するために特定の言語が使用される。だが、それによって本開示の範囲の限定が意図されないことが理解されるだろう。
【0016】
本開示を通して、全ての科学用語及び技術用語は、別段の記載のない限り、当業者に知られている意味と同じ意味を持つものとする。不一致がある場合、本開示において与えられる定義が選ばれるものとする。
【0017】
全ての材料、プロセス、例、及び図の詳細な説明は、例示のために提示されるものであり、従って、別段の明確な指定のない限り、本開示の限定と解釈されないことが理解されるものとする。
【0018】
本明細書では、「セル」及び「電池」という用語は、同義的に使用され得る。また、「リチウムイオンセル(又は電池)」という用語は、「セル」又は「電池」と略される場合がある。
【0019】
本明細書では、「含む(comprising)」という用語は、最終的な効果に影響を与えない他の要素又は他のステップが含まれ得ることを意味する。この用語は、「〜からなる(consisting of)」及び「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」という用語を包含する。本開示による製品及びプロセスは、ここに記載される本開示の必須の技術的特徴及び/又は限定、並びにここに記載されるあらゆる追加的及び/又は任意的な要素、成分、ステップ、又は限定を含んでもよく、それらのみから成ってもよく、及び本質的にそれらから成ってもよい。
【0020】
本明細書では、「カソード組成物」又は「アノード組成物」という用語は、カソードスラリー又はアノードスラリーを形成するために使用される組成物を意味することを意図する。カソードスラリー又はアノードスラリーは、後に、対応する集電装置上に塗布され、カソード又はアノードを形成するために乾燥され得る。
【0021】
本出願の主題を説明する文脈における(特に、以下の特許請求の範囲の文脈において)「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」という用語、並びに同様の指示対象の使用は、本明細書において別段の記載のない限り、又は明らかに文脈が矛盾しない限り、単数及び複数の両方を対象に含めると解釈されるものである。
【0022】
「室温」という用語は、約25℃を意味する。
【0023】
別段の指定のない限り、ここでは、各数値範囲は、両終点、並びに前記数値範囲内の入るあらゆる数及びあらゆる部分範囲を含むことを意図する。
【0024】
特に記載のない限り、本開示で使用される全ての材料及び薬剤は、市販のものである。
【0025】
以下の通り、本開示の例を詳細に説明する。
【0026】
プレリチオ化方法
幾つかの例では、
(a)第1の温度で約4.2〜約4.5Vの電圧に電池を充電するステップと、
(b)第1の温度よりも約20〜40℃低い第2の温度で約2.5〜約3.2Vの電圧に電池を放電するステップと、
を含むリチウムイオン電池のアノードをプレリチオ化する方法が提供される。
【0027】
幾つかの例では、ステップ(a)及び(b)は、アノードのプレリチオ化を行うために、1〜3サイクルの間交互に行われる。
【0028】
一方では、本発明者らは、驚くことに、本開示によるプレリチオ化方法を用いることによって、SEIが安定化され、容量損失フェーディングが補償され、及び電池性能(可逆容量及びサイクリング安定性など)が大幅に向上され得ることを発見した。他方では、望ましくないリチウムデンドライトが回避され得る。
【0029】
加えて、プレリチオ化のソースとして外部リチウム金属を用いるという既知の提案に関しては、リチウム金属を加える追加のステップが伴い、適切に制御されたアセンブリ条件が必要とされ、望ましくない爆発危険性が生じる可能性がある。それにひきかえ、本開示のプレリチオ化方法は、簡単且つ安全に行うことができ、特別なアセンブリ条件を必要とせず、及び工業生産にとってかなりのコストの削減及び労力の削減を意味する、in−situプレリチオ化を実現する。
【0030】
さらに、最初の幾つかの充電/放電サイクル中に、第1の温度を第2の温度よりも高くすることにより、カソードから抽出され、及びアノード内に挿入されるリチウム量が、アノードから離れるリチウム量よりも大きい。つまり、充電容量が放電容量よりも大きい。その結果、追加のリチウムがアノードに蓄積され、及びアノードがプレリチオ化される。従って、アノードがプレリチオ化される最初の幾つかの充電は、「形成充電」とも呼ばれ、最初の幾つかの充電/放電サイクルは、「形成サイクル」と呼ばれる。
【0031】
一方で、第1の温度と第2の温度との間の差を調節することによって、プレリチオ化の度合いは制御可能である。温度差が20〜40℃の範囲内に制御される場合、電池は、望ましく高いレベルにプレリチオ化され得るが、不必要に電極と電解質との間の副反応を促進し、及びSEI層を厚くするほど高すぎることはない。
【0032】
各充電サイクル中に、充電電圧の上限は、カットオフ電圧と呼ばれる。幾つかの例では、形成充電中に、カットオフ電圧は、約4.2V以上であるが、約4.5V以下でもよい。形成充電中のカットオフ電圧は、リチウムイオン電池に含有されるカソード活物質に依存し得る。カソード活物質を以下に説明する。これらの範囲内に入る形成充電中のカットオフ電圧を用いた場合、一方では、カソードは、リチウムイオンを十分に放出することができ、他方では、カソードは、著しく破壊されない。
【0033】
幾つかの例では、ステップ(a)及び(b)のサイクル後に、本方法は、後続のサイクル中に、第2の温度で約2.5〜約4.5Vの電圧範囲内で電池の充電及び放電を行うステップ(c)をさらに含む。ステップ(c)の放電/充電サイクル中に、形成充電においてアノードに蓄積されたリチウムは、リチウムイオン移動に参加し、SEI層の形成によるリチウム損失を補償し、SEI層を安定化し、及び容量フェーディングを減少させ得る。
【0034】
幾つかの例では、第1の温度は、約45〜約65℃であり、第2の温度は、約25℃である。第2の温度が室温と同じ、又は室温に近い場合には、省エネを実現しやすい。
【0035】
幾つかの例では、電池は、ステップ(a)に先立って、約3〜7時間、好ましくは約4〜約6時間、より好ましくは約5時間、第1の温度に保たれる。幾つかの例では、電池は、第1の温度に達し、及び第1の温度を保つために、サーモスタットチャンバ内に設置される。ステップ(a)における第1の温度は、この予熱ステップによって保証され得る。
【0036】
幾つかの例では、ステップ(a)及び(b)を受けていない同じ電池のアノードにおける可逆リチウム量と比較して、追加の5〜25重量%、好ましくは10〜20重量%のリチウムが、アノードに蓄積される。プレリチオ化ステップ(a)及び(b)によって蓄積された追加のリチウム量が5〜25重量%の範囲内に制御される場合には、電池は、望ましく高いレベルにプレリチオ化され、その一方で、過剰なリチウムの導入及び電池の質量密度の低下を回避し得る。
【0037】
幾つかの例では、プレリチオ化中にアノードに蓄積された追加のリチウムを除いて、リチウム挿入に利用可能なアノードの可逆容量(単位:mAh/cm)は、カソードの可逆容量(単位:mAh/cm)の約1〜約1.3倍、好ましくは約1.05〜約1.25倍である。理想的には、カソードの可逆容量に対するアノードの可逆容量の比率は、1でもよい。電池の準備中に不可避の動作誤差が存在することを考慮して、前記比率は、1より大きくてもよい。カソードの可逆容量に対するアノードの可逆容量の比率を1以上にすることによって、アノードの周囲に過剰なリチウム金属が凝集して、リチウムデンドライトを形成し、短絡を引き起こすことを回避する助けとなり得る。カソードの可逆容量に対するアノードの可逆容量の比率を1.3以下にすることによって、アノード容量は、アノードの可逆容量を過剰に消費するほど大きくはない。
【0038】
本開示の幾つかの例によれば、アノードは、SEIの形成によるリチウム損失を補償するためだけではなく、カソードとアノードとの間の望ましいリチウム移動を保持するためにも、部分的にプレリチオ化され得る。
【0039】
リチウムイオン電池
幾つかの例では、本開示の方法に従ってプレリチオ化されたアノードを含むリチウムイオン電池が提供される。加えて、リチウムイオン電池は、カソード及び電解質も含む。
【0040】
本開示によるリチウムイオン電池は、エネルギー蓄積システム及び電気自動車において使用され得る。
【0041】
アノード
本開示によるアノード組成物は、アノード活物質を含み得る。アノード活物質に特定の限定はなく、リチウムイオンセルにおいて一般的に知られているアノード活物質が使用され得る。本開示の幾つかの例によれば、アノード活物質は、ケイ素ベース活物質、グラファイトベース活物質、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0042】
「ケイ素ベース活物質」は、ケイ素元素を含有する活物質であればよい。適宜のケイ素ベース活物質の例には、限定されないが、ケイ素、ケイ素合金、酸化ケイ素、ケイ素/炭素複合物、酸化ケイ素/炭素複合物、及びこれらの任意の組み合わせが含まれ得る。幾つかの例では、ケイ素合金は、ケイ素と、Ti、Sn、Al、Sb、Bi、As、Ge、及びPbからなる群から選択される1つ又は複数の金属とを含み得る。幾つかの例では、酸化ケイ素は、2つ以上のケイ素の酸化物の混合物でもよい。例えば、酸化ケイ素は、SiOとして表され、xの平均値は、約0.5〜約2でもよい。
【0043】
「グラファイトベース活物質」は、グラファイトを含有する活物質であればよい。幾つかの例では、グラファイトは、グラファイト粉末(例えば、粒径:2〜30μm)の形態でもよい。
【0044】
幾つかの例では、アノードは、優れた電池性能と、望ましくない体積変化の抑制のバランスを上手く維持するために、ケイ素ベース活物質及びグラファイトベース活物質の混合物を含有し得る。
【0045】
アノード活物質に加えて、アノード組成物は、炭素材料、バインダー、及び/又は溶剤をさらに含み得る。加えて、リチウムイオン電池における使用が一般的に知られている他の添加剤が、電池の所望の性能に悪影響を及ぼさない限り、任意選択的に使用されてもよい。
【0046】
本開示の幾つかの例によれば、アノード組成物は、炭素材料をさらに含み得る。「炭素材料」は、炭素元素を含有する材料であればよい。炭素材料は、アノード組成物の導電率及び/又は分散性を増大させ得る。炭素材料は、グラファイトベース活物質と同じでもよいし、或いは異なってもよい。炭素材料に特定の限定はなく、リチウムイオン電池における使用が知られている炭素材料が使用され得る。幾つかの例では、炭素材料には、限定されないが、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素繊維、気相成長炭素繊維、及びこれらの組み合わせが含まれ得る。幾つかの例では、カーボンブラックは、Super P(例えば、Timcalから市販されるSuper P、粒径:約20nm又は約40nm)でもよい。幾つかの例では、グラファイトは、グラファイト粉末(例えば、粒径:2〜30μm)、及び/又はグラファイトフレーク(例えば、Timcalから市販されるKS6L、粒径:約6μm)でもよい。炭素材料は、個々に、又は任意の組み合わせで使用され得る。炭素材料は、グラファイトベース活物質及び/又はケイ素ベース活物質との組み合わせで使用されてもよい。
【0047】
幾つかの例では、Super P及びグラファイトフレークは、組み合わせて使用されてもよい。Super Pは、比較的小さな粒径及び良好な導電率を有し、1次元の導電率及び1次元の分散性を向上させ得る。グラファイトフレークは、比較的大きな粒径及び良好な導電率を有し、2次元の導電率、2次元の分散性、及びサイクリング性能を向上させ得る。
【0048】
本開示の幾つかの例によれば、アノード組成物は、バインダーをさらに含み得る。バインダーは、アノード組成物の成分を結び付け、及びアノード組成物をアノード集電装置に付着させ、繰り返される充電/放電サイクル中に体積変化が生じるときにアノードの良好な安定性及び完全性を保持することを助け、その結果、サイクリング性能及び変化率性能を含む、最終セルの電気化学特性を向上させ得る。バインダーに特定の限定はなく、リチウムイオン電池における使用が知られているバインダーが使用され得る。幾つかの例では、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)及びその誘導体(LiPAAなど)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、及びこれらの組み合わせでもよい。
【0049】
本開示の幾つかの例によれば、アノード組成物は、溶剤をさらに含み得る。溶剤は、アノード組成物の他の成分を溶解させてアノードスラリーを提供し得る。その後、得られたアノードスラリーは、アノード集電装置上に塗布され得る。次いで、アノードスラリーが塗布されたアノード集電装置は、アノードを得るために乾燥され得る。アノード組成物に含有される溶剤に特定の限定はなく、リチウムイオン電池における使用が知られている溶剤が使用され得る。幾つかの例では、アノード組成物における溶剤は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)でもよい。
【0050】
アノード組成物における各成分のタイプ、形状、サイズ、及び/又は含有量に特定の限定はない。
【0051】
アノード集電装置に特定の限定はない。幾つかの例では、アノード集電装置として、ニッケル箔、ニッケルネット、銅箔、又は銅ネットが使用され得る。
【0052】
カソード
本開示の幾つかの例によれば、カソードは、リチウムベース活物質を含み得る。幾つかの例では、カソード活物質は、充電/放電サイクル中にリチウムイオンの放棄及び挿入を可逆的に行う材料でもよい。放電サイクルにおいては、リチウムベース活物質に由来するリチウムイオンは、アノードからカソードへと戻り、リチウムベース活物質を再び形成し得る。
【0053】
リチウムベースカソード活物質に特定の限定はなく、リチウムイオンセルにおいて一般的に使用されるカソード活物質が使用され得る。幾つかの例では、カソード活物質は、リチウム金属酸化物、リチウム金属リン酸塩、リチウム金属ケイ酸塩、及びこれらの任意の組み合わせ、好ましくは、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸塩、リチウム金属ケイ酸塩、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。幾つかの例では、カソード活物質は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸鉄マンガンリチウム、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。幾つかの例では、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物/LiMnO複合物(「リチウムリッチNCM」とも呼ばれる)、又はこれらの任意の組み合わせでもよい。遷移金属は、チタン、亜鉛、銅、ニッケル、モリブデンなどの周期表の第3族から第12族のあらゆる遷移金属を含み得る。
【0054】
幾つかの例では、リチウムベースカソード活物質に加えて、カソード組成物は、炭素材料、バインダー、及び溶剤をさらに含み得る。アノードにおけるこれらの物質の上記の記載は、ここにも当てはまり得る。カソードにおける炭素材料、バインダー、及び溶剤は、それぞれ、アノードに含有されるものと同じであってもよいし、或いは異なってもよい。加えて、リチウムイオン電池における使用が一般的に知られている他の添加剤が、電池の所望の性能に悪影響を及ぼさない限り、任意選択的に使用されてもよい。
【0055】
カソード組成物における各成分のタイプ、形状、サイズ、及び/又は含有量に特定の限定はない。
【0056】
カソード集電装置に特定の限定はない。幾つかの例では、カソード集電装置として、アルミニウム箔が使用され得る。
【0057】
電解質
本開示によるリチウムイオン電池は、電解質を含み得る。本開示の幾つかの例によれば、電解質は、リチウム塩及び非水溶剤を含み得る。リチウム塩及び非水溶剤に特定の限定はなく、セルにおいて一般的に知られているリチウム塩及び非水溶剤が使用され得る。幾つかの例では、電解質におけるリチウム塩は、カソードのリチウムベース活物質とは異なり得る。本開示の幾つかの例によれば、リチウム塩には、限定されないが、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、ヒ酸リチウム(LiAsO)、LiSbO、過塩素酸リチウム(LiClO)、LiAlO、LiGaO、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、及びこれらの任意の組み合わせが含まれ得るが、LiPFが優先される。
【0058】
本開示の幾つかの例によれば、非水溶剤は、炭酸塩(すなわち、非フッ素化炭酸塩)、フッ素化炭酸塩、及びこれらの組み合わせでもよい。本開示の幾つかの例によれば、炭酸塩には、限定されないが、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などの環状カーボネート;炭酸ジメチル(DMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジプロピル(DPC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸メチルプロピル(MPC)、炭酸エチルプロピル(EPC)などの線状又は分岐炭酸塩;及び上記の炭酸塩の任意の組み合わせが含まれ得る。本開示の幾つかの例によれば、フッ素化炭酸塩は、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ジフルオロエチレン、及び二フッ素化ジメチルカーボネート(DFDMC)などの上記の炭酸塩のフッ素化誘導体でもよい。
【実施例】
【0059】
材料
NCM−111:リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、カソードの活物質、D50:12μm、BASFより入手可能
Super P:炭素材料、カソード及びアノードにおける導電材料、40nm、Timcalより入手可能
PVDF:ポリフッ化ビニリデン、カソードのバインダー、Soveyより入手可能
Si粉末:アノードの活物質、直径:50nm、3Mより入手可能
グラファイト粉末:アノードの活物質、直径:20μm、Hitachiより入手可能
KS6L:グラファイトフレーク、炭素材料、アノードの導電材料、約6μm、Timcalより入手可能
LiPAA:ポリアクリル酸のリチウム塩、アノードのバインダー、Sigma−Aldrichより入手可能
NMP:N−メチル−2−ピロリドン、溶剤、Guoyaoより入手可能
Celgard 2325:PP/PE/PP膜、セパレータ、Celgardより入手可能
【0060】
実施例1:セルの準備
カソードの準備
室温で、撹拌機を備えた1Lの丸底フラスコ内の300gのNMPに、965gのNCM−111、15gのSuper P、及び20gのPVDFを加えた。3時間撹拌した後に、得られた均一分散スラリーをアルミニウム箔上にコーティングし、その後、80℃で6時間乾燥させた。コーティングされたAl箔を幾つかの直径12mmのカソードに切断した。
【0061】
アノードの準備
室温で、撹拌機を備えた500mLの丸底フラスコ内の100gの脱イオン水に、40gのSi粉末、40gのグラファイト粉末、10gのLiPAA、2gのSuper P、及び2gのKS6Lを加えた。3時間撹拌した後に、得られた均一分散スラリーを銅箔上にコーティングし、その後、60℃で6時間乾燥させた。コーティングされたCu箔を幾つかの直径12mmのアノードに切断した。
【0062】
セルの準備
上記で得たカソード及びアノードを使用して、アルゴン充填グローブボックス(MB−10 compact、MBraun)内でコインセル(CR2016)をアセンブルした。電解質として、FEC/EC/EMC(体積で30:35:35)中の1MのLiPFを使用した。セパレータとして、Celgard 2325を用いた。
【0063】
電気化学測定
実施例1で得たセルの電池性能をArbinの検査システム(型:Arbin BT−G;供給元:Arbin)で測定した。
【0064】
実施例2(Ex.2)
実施例1で得たコインセルを温度室(VT 3050、Voetschより入手可能)内に設置した。温度を45℃に上げて、5時間維持した。次いで、第1の充電サイクル中に、45℃で、0.1Cの電流で4.2V(vs Li/Li)にセルを充電した。続いて、セルを温度室から取り出し、室温(25℃)へと冷ました。次いで、第1の放電サイクル中に、25℃で、0.1Cの電流で2.5Vへとセルを放電した。第2及び第3のサイクルにおいて、上記の充電/放電サイクルを繰り返した。第4から第200のサイクル中に、25℃で、0.5Cの電流で、2.5〜4.2Vの常規電圧範囲内でセルの充電/放電を行った。セルの各カソードにおけるNCMの質量負荷は、約10mg/cmであった。比容量は、NCMの重量に基づいて計算した。
【0065】
実施例3(Ex.3)
充電を行う前に、温度を65℃に上げて、5時間維持したことを除き、実施例1に関して上記に説明した方法で、コインセルの充電/放電を行った。次いで、第1から第3の充電サイクル中に、65℃で、0.1Cの電流で4.2V(vs Li/Li)にセルを充電した。
【0066】
比較例1(Com.Ex.1)
セルを45℃に予熱することなく、第1の充電サイクル中に、25℃で、0.1Cの電流で4.2V(vs Li/Li)にセルをそのまま充電したことを除き、比較例1に関して上記に説明した方法で、コインセルの充電/放電を行った。つまり、第1から第200のサイクル中に、25℃で、2.5〜4.2Vの電圧範囲内でセルの充電/放電を行った。
【0067】
図1は、実施例2、実施例3、及び比較例1に従って充電/放電が行われたセルのサイクリング性能を比較する。
【0068】
図2は、実施例2、実施例3、及び比較例1に従って充電/放電が行われたセルの放電/充電プロファイルを比較する。
【0069】
図1及び図2を参照することにより、プレリチオ化を行わない従来の方法で充電/放電が行われた比較例1のセルと比較して、実施例2及び実施例3の第1から第3の充電の温度を上げることによってプレリチオ化されたセルが、より良い容量及びより良い安定性を示したことが分かる。
図1
図2