特許第6985424号(P6985424)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985424
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 20/02 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   B60K20/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-565750(P2019-565750)
(86)(22)【出願日】2018年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2018044447
(87)【国際公開番号】WO2019142522
(87)【国際公開日】20190725
【審査請求日】2020年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2018-4781(P2018-4781)
(32)【優先日】2018年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-116781(P2018-116781)
(32)【優先日】2018年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591050970
【氏名又は名称】津田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 直哉
(72)【発明者】
【氏名】福島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】野口 昭仁
【審査官】 筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2017/0191561(US,A1)
【文献】 特開2014−052281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から作用する磁気のうち、少なくとも、予め定められた検出面に沿う成分の作用方向を検出する磁気センサと、該磁気センサに磁気を作用する磁石と、の組合せを含む車両用のシフト装置であって、
車両を運転する者による操作を受け付ける操作部と、
該操作部が設けられていると共に該操作部に対する操作に応じて回動可能に支持された操作レバーと、
前記操作レバーの回動動作に従動して回動変位する従動部材と
前記操作レバーの回動動作に対応する回動動作が可能な状態で前記従動部材を支持するため、前記操作レバーを回動可能に支持する構造とは別に設けられた支持構造と、を有し、
前記従動部材は、当該操作レバーの回動動作に対応する回動動作であって、当該操作レバーの回動動作とは回動中心が異なる回動動作を、前記操作レバーの回動動作に従動して生じると共に、
当該従動部材の回動動作に応じて、前記磁気センサ及び前記磁石のうちのいずれか一方を駆動し、これにより、前記磁気センサに作用する磁気の作用方向変化させることが可能であるシフト装置。
【請求項2】
請求項1において、前記磁石は、N極とS極との組み合わせよりなる磁極対を含み、該磁極対におけるN極とS極とが境界を介して対面する方向が前記検出面に沿うと共に、当該磁極対におけるN極とS極との境界が当該検出面に対面するように設けられ、
前記従動部材は、前記操作レバーの回動動作に対応する回動動作によって前記磁気センサ及び前記磁石のうちのいずれか一方を駆動することにより、前記境界が前記検出面に対面する状態を保ちながら、該検出面に沿って前記対面する方向が相対的に回転し、前記検出面に沿う磁気の作用方向を変化させることが可能であるシフト装置。
【請求項3】
請求項1において、前記操作部は、互いに直交するシフト方向及びセレクト方向に沿って操作可能であって、
前記磁石は、N極とS極との組み合わせよりなると共に前記検出面における磁気の作用方向が異なる磁極対を少なくとも2対含んでおり、
前記操作レバーと前記従動部材とは、前記シフト方向及び前記セレクト方向のうちの一方の方向に沿って前記操作部が操作されたとき、前記操作レバーの回動動作に対応する回動動作であって、当該操作レバーの回動動作とは回動中心が異なる回動動作が、前記操作部の操作に応じて生じるように該従動部材を駆動する第1の駆動部、及び
前記シフト方向及び前記セレクト方向のうちの他方の方向に沿って前記操作部が操作されたとき、前記操作レバーの回動動作に対応する動作である一方、当該操作レバーの回動動作とは回動中心が異なる回動動作が、前記操作部の操作に応じて生じるように該従動部材を駆動する第2の駆動部、を介在して連結され
前記一方の方向に沿って前記操作部が操作されたときには、前記第1の駆動部による前記従動部材の駆動により、前記磁石に属するいずれか一の磁極対から前記磁気センサに作用する磁気の作用方向が変化するよう、該磁気センサに相対して前記磁石が回転変位し、
前記他方の方向に沿って前記操作部が操作されたときには、前記第2の駆動部による前記従動部材の駆動により、前記磁気センサに磁気を作用する磁極対の切替に応じて該磁気センサに作用する磁気の作用方向が変化するよう、前記磁気センサに相対して前記磁石が進退するシフト装置。
【請求項4】
請求項3において、前記少なくとも2対の磁極対のうちのいずれかの磁極対のN極とS極とが境界を介して対面する方向が前記検出面に沿うと共に、当該いずれかの磁極対のN極とS極との境界が当該検出面に対面しており、
前記第1の駆動部は、前記シフト方向及び前記セレクト方向のうちの一方の方向に沿って前記操作部が操作されたとき、当該操作に応じた前記操作レバーの回動動作に対応する回動動作を生じるよう前記従動部材を駆動し、これにより、前記磁石に属するいずれか一の磁極対の前記境界が前記検出面に対面する状態を保ちながら、該検出面に沿って当該いずれか一の磁極対の前記対面する方向が相対的に回転し、前記検出面に沿う磁気の作用方向が変化するよう、前記磁気センサに相対して前記磁石を回転変位させ、
前記第2の駆動部は、前記シフト方向及び前記セレクト方向のうちの他方の方向に沿って前記操作部が操作されたとき、当該操作に応じた前記操作レバーの回動動作に対応する回動動作を生じるよう前記従動部材を駆動し、これにより、前記検出面に前記境界が対面する磁極対が切り替わって前記検出面に作用する磁気の作用方向が変化するよう、前記検出面に相対して前記磁石を進退させるシフト装置。
【請求項5】
請求項3または4において、前記従動部材は、球状軸受により支持されており、前記第1の駆動部及び前記第2の駆動部のうちの少なくともいずれか一方は、略平行をなして対面する一対の壁面が柱状の部材を挟み、該柱状の部材の軸方向を該壁面に沿うように規制する構造を有するシフト装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項において、前記検出面に対面する状態で回転可能な回転台を含み、該回転台は、前記検出面に沿って進退可能に前記磁石を保持しているシフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者がシフト位置を選択するために操作するシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の原動機が出力する回転を加減速するための自動変速機が知られている。この自動変速機を含む変速システムとしては、自動変速機を制御する車載コンピュータユニットと、シフト位置を選択するためのシフト装置と、が信号線を介して接続されたシフトバイワイヤの変速システムが実用化されている。この変速システムでは、シフト装置で選択されたシフト位置を表す電気信号が車載コンピュータユニットに伝達され、その電気信号に応じて自動変速機が制御される。
【0003】
シフトバイワイヤの変速システムに対応するシフト装置としては、例えば、シフト方向及びセレクト方向に操作可能なシフトレバーの後端に磁石を取り付けると共に、磁石の変位位置を検出する磁気センサを設けた装置が提案されている(例えば、下記の特許文献1参照。)。このシフト装置では、磁気センサが複数配置されたセンサ基板が磁石の変位領域に対面するように配設される。このシフト装置では、複数の磁気センサを利用して、シフトレバーの後端の磁石の変位位置を検出することで、シフトレバーが操作されたシフト位置が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−223384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のシフト装置では、シフトレバーの操作に応じた磁石の2方向(シフト方向及びセレクト方向)の変位位置を検出できるように磁石が変位するスペースを確保する必要があると共に、磁石の変位領域に対応して磁気センサを2次元的に配置する必要がある。比較的大判のセンサ基板が必要となるため、装置のコンパクト設計の難易度が高くなる傾向にあるという問題がある。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、コンパクト設計が容易なシフト装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外部から作用する磁気のうち、少なくとも、予め定められた検出面に沿う成分の作用方向を検出する磁気センサと、該磁気センサに磁気を作用する磁石と、の組合せを含む車両用のシフト装置であって、
車両を運転する者による操作を受け付ける操作部と、
該操作部が設けられていると共に該操作部に対する操作に応じて回動可能に支持された操作レバーと、
前記操作レバーの回動動作に従動して回動変位する従動部材と
前記操作レバーの回動動作に対応する回動動作が可能な状態で前記従動部材を支持するため、前記操作レバーを回動可能に支持する構造とは別に設けられた支持構造と、を有し、
前記従動部材は、当該操作レバーの回動動作に対応する回動動作であって、当該操作レバーの回動動作とは回動中心が異なる回動動作を、前記操作レバーの回動動作に従動して生じると共に、
当該従動部材の回動動作に応じて、前記磁気センサ及び前記磁石のうちのいずれか一方を駆動し、これにより、前記磁気センサに作用する磁気の作用方向変化させることが可能であるシフト装置にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシフト装置では、操作部が操作されたときに検出面における磁気の作用方向が変化する。このシフト装置では、磁石の位置的な変化ではなく、磁気の作用方向の変化に応じて操作を検出可能であるので、磁石の変位スペースを確保する必要性が少ない。したがって、本発明のシフト装置は、コンパクト設計が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1における、シフト装置を示す斜視図。
図2】実施例1における、シフト装置の構造を示す組立図。
図3】実施例1における、シフトレバー及び基板の構造を示す第1の組立図。
図4】実施例1における、シフトレバー及び基板の構造を示す第2の組立図(第1の組立図とは視方向が相違している。)。
図5】実施例1における、シフトレバー及び基板の構造を示す第3の組立図(第2の組立図と視方向が一致している。)。
図6(a)】実施例1における、磁石の構成を示す斜視図(上面側から見込む図。)。
図6(b)】実施例1における、磁石の構成を示す斜視図(下面側から見込む図。)。
図7】実施例1における、シフトレバーの操作の説明図。
図8】実施例1における、シフトレバーの操作に応じて磁石が変位する様子を示す説明図。
図9】実施例1における、磁石と検出面との関係を示す説明図。
図10】実施例1における、他の磁石その1を示す説明図。
図11】実施例1における、他の磁石その2を示す説明図。
図12】実施例2における、磁石と検出面との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、シフトバイワイヤの変速システムに対応するシフト装置1に関する例である。この内容について、図1図11を参照して説明する。
図1のシフト装置1は、車両に搭載される図示しない自動変速機で設定されるシフトレンジを選択するための操作装置であり、運転者の持ち手をなすシフトノブ(操作部)111を備えている。シフト装置1は、自動変速機を制御するECU(図示しない車載コンピュータユニット)と信号線を介して接続されており、運転者によるシフトノブ111の操作情報を電気信号に変換してECUに入力する。
【0011】
例示するシフト装置1では、エンジンブレーキが必要なときのBレンジ、前進時のD(ドライブ)レンジ、後退時のR(リバース)レンジ、N(ニュートラル)レンジを選択できる。シフト装置1では、図1のごとく、各シフトレンジに対応するシフトノブ111の操作位置であるシフト位置が設定されており、いずれかのシフト位置にシフトノブ111を操作することで、対応するシフトレンジを選択的に設定できる。なお、以下の説明では、例えばDレンジに対応するシフト位置をDポジションと言う。
【0012】
図1のシフト装置1では、初期位置となるH(ホーム)ポジションを操作の起点として、車両の進行方向に沿うシフト方向、及び車幅方向に沿うセレクト方向にシフトノブ111を操作可能である。このシフト装置1の例では、右ハンドルの運転者側から見て、Hポジションに対してBポジションがシフト方向手前側(進行方向逆側、車両後部側)、Nポジションがセレクト方向に引き寄せる側(右側)に配置され、Nポジションに対してRポジションがシフト方向奥側(進行方向側、車両前側)、Dポジションがシフト方向手前側に当たる位置に配置されている。
【0013】
図1に示すHポジションを起点として、運転者がシフト方向手前側にあるBポジションにシフトノブ111を操作すれば、Bレンジを選択できる。Dレンジは、Hポジションからセレクト方向に沿ってシフトノブ111を移動させて一旦Nポジションに操作し、そのままシフト方向手前側のDポジションにシフトノブ111を操作することで選択できる。Rレンジは、Hポジションからセレクト方向に沿ってシフトノブ111を移動させて一旦Nポジションに操作した後、そのままシフト方向奥側のRポジションにシフトノブ111を操作することで選択できる。なお、このシフト装置1では、操作の起点であるHポジションに向けてシフトノブ111が付勢されている。例えばDポジションにシフトノブ111を操作した後、運転者がシフトノブ111から手を離すと、シフトノブ111は自動的にHポジションに復帰する。
【0014】
このシフト装置1は、図1図5のごとく、筐体13によってシフトレバー11が回動可能に軸支された装置である。シフト装置1では、筐体13の上面からシフトレバー11が突き出しており、その先端にシフトノブ111が取り付けられている。シフト装置1は、シフト操作を磁気的に検出し、シフト操作を表す電気信号を外部出力するように構成されている。
【0015】
筐体13の内部(図2図5)には、磁気センサIC201が実装された基板2や、シフトレバー(操作レバーの一例)11の回動動作に従動する従動部材17等が収容されている。基板2では、磁気センサIC201の検出面201Sに面して、進退変位及び回転変位が可能な状態で磁石21が保持されている。従動部材17は、筐体13側に取り付けられたピボット球135(図2)によって回動可能に軸支されている。シフト操作に伴うシフトレバー11の回動動作は、この従動部材17を介在して磁石21の変位動作に変換される。そして、シフト装置1は、磁石21の変位に伴う磁気の作用方向の変化を検出することで、シフト操作を検出する。以下、シフト装置1の各部の構成を説明する。
【0016】
筐体13は、カバー部13Cと底板部13Bとによる分割構造を有している(図2)。カバー部13Cに対して、例えばビス止め等により底板部13Bを固定することで、シフトレバー11の軸支構造や、従動部材17や、基板2を収容するための内部空間が形成される。筐体13は、細長い外形状を呈し、車両に対してはその前後方向に沿って組み付けられる。筐体(カバー部)13の上面は、車両の前側ほど高くなる階段状の3段の段差が設けられている。車両の前側に当たる一番高い段131には、シフトレバー11の軸部11Sを貫通配置するための孔130が設けられている。また、筐体13の後端面には、動作電力を供給したり、電子信号を外部出力するための外部ケーブル(図示略)を接続するための外部コネクタ2Cが設けられている。
【0017】
カバー部13C(図1図2)は、上記の孔130の内側に、シフトレバー11を回動可能に軸支する球状軸受15の取付部(図示略)を有している。シフトレバー11は、この取付部に取り付けられた球状軸受15により、回動可能に軸支される。また、カバー部13Cの階段状の上面のうち、中間の段132の内側は、上記の従動部材17の収容空間となっている。この収容空間の天井をなすカバー部13Cの内周面(天井面)には、従動部材17を回動可能に軸支するための構造が設けられている。詳しくは、後述するが、従動部材17の上端部には球状軸受17Eが設けられている。一方、カバー部13Cの内部空間の天井面には、従動部材17の球状軸受17Eに対応するピボット球135が下方に向けて立設されている。従動部材17は、球状軸受17Eとピボット球135との組合せによる支持構造によってシフトレバー11と同様の回動動作が可能である。
【0018】
底板部13Bは、カバー部13Cの底側の開口形状に対応する形状の部材である。車両の前側に当たる部分には、シフト操作に節度感を付与するためのディテント部13Dが設けられ、後ろ側に当たる部分には、基板2を取り付けるためのスペースが設けられている。ディテント部13Dは、車両の前側に向けて次第に高くなる傾斜状に形成されている。ディテント部13Dの表面には、シフトパターンに対応するディテント溝137が穿設されている。
【0019】
ディテント溝137(図2)は、シフトレバー11が備える後述のディテントロッド119の先端部119Tが嵌まり込む溝である。それ故、ディテント溝137は、シフトノブ111の操作経路をなすシフトパターンと相似形をなしている。ディテント溝137の溝底面には凹凸(図示略)が形成され、HポジションやNポジションなどのシフト位置に対応する位置に、それぞれ凹みが設けられている。そして、隣り合う凹みの間隙には、浅い溝底面が形成されている。
【0020】
シフトレバー11は、球状部110を挟んで上側に軸部11Sが設けられ、その先端にシフトノブ111(図1参照。)が取り付けられる。球状部110を挟んでシフトレバー11の下側には、レバー基部11Bが形成されている。レバー基部11Bは、シフトレバー11の重量バランスを良好にするためのウェイトとしての役割を有するほか、従動部材17を従動させるためのアーム116、117の基部、シフト操作に節度感を付与するためのディテントロッド119の基部、としての役割等を有している。
【0021】
レバー基部11B(図2図5)では、軸方向に略直交する方向に向けて、2本のアーム116、117が立設されている。1本のアームは、セレクト方向のシフト操作に応じて従動部材17を回動させるためのセレクトアーム117である。このセレクトアーム117の先端には、球状の駆動部117Sが設けられている。セレクトアーム117は、シフトレバー11に対して筐体13の長手方向(車両の前後方向、シフト方向)に隣り合わせの従動部材17に向けて突き出ている。
【0022】
もう1本のアームは、シフト方向のシフト操作に応じて従動部材17を回動させるためのシフトアーム116である。シフトアーム116は、シフト方向に沿う中間レバー部116Mと、セレクト方向に沿う円柱状の駆動部116Cと、の組合せを含んでいる。中間レバー部116Mは、筐体13の幅方向に当たる従動部材17の側方に位置している。円柱状の駆動部116Cは、中間レバー部116Mの先端近くの側面において、従動部材17に向けて突き出すように立設されている。中間レバー部116Mと駆動部116Cとの組合せにより、シフトアーム116は、全体として略L字状を呈している。
【0023】
レバー基部11Bのうち、シフトアーム116及びセレクトアーム117の反対側には、斜め下方に向かって棒状のディテントロッド119が立設されている(図4図5)。ディテントロッド119の先端部119Tは、伸縮構造を介してロッド本体119Bに保持されている。先端部119Tは、例えばディテントロッド119の内部に収容されたコイルばね(図示略)によって、先端側に向けて付勢された状態で、ロッド本体119Bに保持されている。シフト装置においては、ディテントロッド119の半球状の先端部119Tが、ディテント溝137(図2)に嵌まり込んでいる。シフト装置1では、ディテントロッド119の先端部119Tがディテント溝137に嵌まり込むことで、シフトパターンが所定のパターンに規制される。
【0024】
ここで、ディテントロッド119とディテント溝137との組み合わせを含む節度付与機構について簡単に説明しておく。シフトノブ111がHポジションなどいずれかのシフト位置に操作されたとき、ディテントロッド119の先端部119Tがディテント溝137の凹みに位置し、コイルばねの付勢力によって先端部119Tがロッド本体119Bから突出する状態となる。HポジションからNポジションに向けてシフトノブ111を操作する際には、ディテントロッド119の先端部119Tが押し当たる溝底面が次第に浅くなるので、先端部119Tをロッド本体119Bに押し込む力が必要となり、この力が操作反力となる。その後、Nポジションに近づくと、ディテントロッド119の先端部119Tが押し当たる溝底面が次第に深くなる。このときには、先端部119Tがロッド本体119Bから突出でき、コイルばねが次第に伸張する。この場合には、先端部119Tをロッド本体119Bに押し込む場合とは反対に、コイルばねの伸張に応じてシフトノブ111をNポジションに引き込む力が生じる。このように、伸縮構造によってロッド本体119Bに保持された先端部119Tと、溝底面に凹凸が形成されたディテント溝137と、の組み合わせによって、シフトノブ111の操作に節度感が付与される。
【0025】
次に、従動部材17(図2図5)は、上記のごとく、シフトレバー11の回動動作に従動して回動する部材である。この従動部材17は、シフトレバー11の回動動作を磁石21に伝達する中間部材である。従動部材17を利用しない構成の場合、シフトレバー11によって磁石21を変位させるためには、レバー基部11B等の下方や側方に磁石21を配置する必要がある。一方、従動部材17を利用すれば、レバー基部11Bから離れた位置に磁石21を配置できる。この従動部材17は、シフトレバー11の回動動作に対応する回動動作を、シフトレバー11とは異なる位置に伝達するためのポジションチェンジャーの役割を有しているからである。従動部材17を利用すれば、磁石21を含む基板2の設置位置の設計自由度を格段に向上できる。
【0026】
従動部材17は、上端部に球状軸受17Eが設けられた部材であり、この球状軸受17Eに収容された上記のピボット球135(図2)を中心として回動可能である。従動部材17は、下方に向けて末広がりの形状を有している。従動部材17の下端には、磁石21を変位させるための駆動ピン17P、駆動スリット17Sが設けられている。従動部材17の上下方向における中間的な位置には、シフトレバー11から延設されたシフトアーム116、セレクトアーム117の受け部176、177が設けられている。
【0027】
シフトアーム116の受け部であるシフト受け部176(図3図5)は、シフトアーム116の先端の円柱状の駆動部116C(柱状の部材の一例)に対応している。シフト受け部176は、筐体13の幅方向に当たるセレクト方向(車幅方向)に沿う一対の壁面176S(図5)が対面するスリット状の空間である。シフト受け部176のスリット幅は、シフトアーム116の円柱状の駆動部116Cを隙間少なく収容可能な寸法である。
【0028】
セレクトアーム117の受け部であるセレクト受け部177(図4図5)は、セレクトアーム117の先端の球状の駆動部117Sを収容するスリット状の空間である。セレクト受け部177は、筐体13の長手方向に当たるシフト方向(車両の前後方向)に沿って延在している。
【0029】
駆動ピン17P(図3図5)は、シフト方向のシフト操作に応じて磁石21を回転変位させるための駆動部である。駆動ピン17Pは、従動部材17の下側に配置される基板2に向かって突出する軸状をなし、その先端に球状部171が設けられている。この球状部171は、磁石21が備える後述の一対のガイド壁218の間隙であるガイド溝214に収容される。
【0030】
駆動スリット17S(図3図5)は、セレクト方向のシフト操作に応じて磁石21を進退変位させるための駆動部である。駆動スリット17Sは、シフト方向に沿っていると共に、下方に向けて開口するスリット状の空間を形成している。この駆動スリット17Sは、磁石21が備える後述の作用ピン213を収容する。
【0031】
基板2(図3図5)は、磁気センサIC(磁気センサ)201のほか、シフトノブ111の操作により選択されたシフト位置を表す電気信号を生成し出力するための図示しないマイコンチップなどが実装された電子基板である。両面実装に対応する基板2では、筐体13の内部空間に面して磁気センサIC201が配置され、その裏面にマイコンチップなど他の電子部品が配置されている。
【0032】
磁気センサIC201(図3図5)は、直交する2方向の磁気の大きさを検知可能な2軸の磁気センサである。この磁気センサIC201は、この直交する2方向により規定される検出面201Sを有し、この検出面201Sが基板2の表面に沿うように取り付けられている。磁気センサIC201は、この検出面201Sにおける磁気の作用方向を検出し、その作用方向を表すセンサ信号を出力する。つまり、この磁気センサIC201は、検出面201Sに直交する軸回りの回転角を検出する1軸の回転センサとして機能する。
マイコンチップは、磁気センサIC201が出力するセンサ信号を処理することで、シフトノブ111が操作されたシフト位置を検出し、そのシフト位置を表す操作信号を電気的に出力する。
【0033】
基板2には、図3図5のごとく、磁気センサIC201等の電子部品のほかに、磁石21の変位機構が取り付けられている。変位機構は、磁石21が進退可能なレール250を含むマグネットホルダ25と、回転台でもあるマグネットホルダ25を保持するホルダガイド23と、の組合せ等を含んで構成されている。
【0034】
ホルダガイド23(図3図5)は、マグネットホルダ25を回転可能に保持する略円環状のガイド部材である。このホルダガイド23は、周方向において対向する2箇所にマグネットホルダ25を回転可能に保持するための係合部23B(図3)を備えている。対向配置された一対の係合部23Bは、いずれも断面カギ状を呈し、周方向における約40度に亘って形成されている。
【0035】
略円環状のホルダガイド23は、図5において基板2の表面に示す破線の環状領域23Fを取付領域として基板2に固定されている。この環状領域23Fの内側に位置する磁気センサIC201は、略円環状のホルダガイド23の内側に位置することになる。なお、同図中の破線領域25Fは、Hポジション時に磁石21が対面する領域を示している。ホルダガイド23における円環状をなす部分の板厚は、磁気センサIC201の実装高さを僅かに超える寸法に設定されている。このような寸法設定によれば、ホルダガイド23に保持されたマグネットホルダ25の下面が、磁気センサIC201に対して僅かな隙間を空けて非接触で対面する状態を実現できる。
【0036】
マグネットホルダ25(図3図5)は、磁石21を進退可能に保持する回転台である。このマグネットホルダ25は、樹脂等の非磁性材料により形成されている。マグネットホルダ25は、略円形平板状をなす円板部252の表面に、磁石21を進退させるレール250を設けて構成されている。
【0037】
レール250は、断面カギ状を呈する一対の係合部25Aを対向配置することで形成される溝状の空間である。レール250の長さは、磁石21の長手方向の長さと略一致している。各係合部25Aでは、断面カギ状にならない切欠き25Bが長手方向の2箇所に設けられている。詳しくは後述するが、この切欠き25Bを利用して、マグネットホルダ25の正面側からの磁石21の脱着が可能になっている。
【0038】
レール250の両側には、円板部252が円弧状をなして外側に張り出す周縁部25Cが形成されている。回転台であるマグネットホルダ25は、この周縁部25Cがホルダガイド23の係合部23Bに係合する状態で回転可能である。
円板部252は、レール250の長手方向両側の開口部に当たる外周部分が直線的に切り落とされて不完全な円形状をなしている(図4参照。)。約90度回転させた状態のマグネットホルダ25であれば、一対の係合部23Bの間隙を通過でき、これにより、ホルダガイド23の正面側からマグネットホルダ25の脱着が可能になる。
【0039】
磁石21(図3図4図6)は、直方体形状の本体21Bに対して、非磁性材料よりなるカバー210を被せたものである。図3図5に示す磁石21の外形状は、このカバー210の外形状である。磁石21では、本体21Bの露出面である下面が、磁気センサIC201の検出面201Sに対面する。なお、図6では、磁石21の外形状であるカバー210の外形状を細線の破線により示している。
【0040】
以下、カバー210を含む磁石21の形状的な構成について主に図3図4を参照して説明し、続いて本体21Bの磁気的な構成を図6を参照して説明する。
磁石21(図3図4)では、マグネットホルダ25の係合部25Aに進退可能に係合するスライダ217が両側面に設けられている。また、磁石21の上面には、一対のガイド壁218と、軸状の作用ピン213と、が磁石21の長手方向の両端側に立設されている。
【0041】
スライダ217(図3図4)は、磁石21の下面と面一をなすよう、磁石21の側面から張り出して形成されている。磁石21の長手方向に沿って延設されたスライダ217は、マグネットホルダ25の係合部25Aに係合し、レール250に沿う磁石21の進退を可能にする。なお、スライダ217には、その長手方向の2箇所に切欠きが設けられている。この切欠きは、マグネットホルダ25の係合部25Aの切欠き25Bに対応して設けられ、マグネットホルダ25の正面側からの磁石21の脱着を可能にする。
【0042】
作用ピン213(図3図4)は、磁石21を長手方向に進退駆動するための力が作用するピンである。この作用ピン213は、先端に球状部213Sが設けられている。作用ピン213の先端の球状部213Sは、前記従動部材17の駆動スリット17Sに収容される。なお、上記のごとく、駆動スリット17Sは、基板2側に開口すると共に、シフト方向に沿うスリット状の空間である。作用ピン213の球状部213Sの直径は、駆動スリット17Sに収容され得る程度に、そのスリット幅と略一致している。
【0043】
ガイド壁218(図3図4)は、磁石21の長手方向に平行をなすように立設された壁である。一対のガイド壁218の壁面218Sは、間隙を空けて互いに対面するように設けられ、スリット状の空間であるガイド溝214を形成している。このガイド溝214には、駆動ピン17Pの先端の球状部171が収容される。ガイド溝214の溝幅は、駆動ピン17Pの球状部171を収容できる程度に、その直径と略一致している。
【0044】
次に、磁石21の本体21Bの構成について図6を参照して説明する。図6(a)は、本体21Bを上面側から見込む斜視図であり、図6(b)は、本体21Bを下面側から見込む斜視図である。なお、同図中の細線の破線は、磁石21の外形状(カバー210の外形状)を示している。
【0045】
本体21Bは、磁極対をなすN極とS極とを対面させたブロック状の磁石21H、M、Lを3つ並べた直方体形状の磁石である。3つの磁石21H、M、Lのうち、両端の2つの磁石21H、LはN極が面する側(図6(b)で図示される下面側)が同じである一方、中央の磁石21Mは裏返されて他の2つの磁石21H、LのN極が面する側にS極が面している。
【0046】
この本体21Bでは、各磁石21H、M、Lの磁極対によってN極とS極とが対面する方向の磁界が形成されるのに加えて、磁石21H、M、Lのうちの異なる2つに属して隣接するN極とS極との組み合わせによる磁極対によっても磁界が形成される。このような磁極対には、磁石21HのN極と磁石21MのS極との組み合わせによる磁極対215Aと、磁石21MのS極と磁石21LのN極との組み合わせによる磁極対215Bと、が含まれている。
【0047】
磁極対215A・B(図6(b))は、磁石21Hと磁石21Mと磁石21Lとが隣り合う方向、すなわち直方体形状の本体21B(磁石21)の長手方向に沿う磁界を形成する。ここで、本体21Bにカバー210を被せた磁石21は、上記の通り、基板2に対面するマグネットホルダ25のレール250に収容されている。磁石21は、その長手方向が基板2の表面に沿う状態で保持されている。そのため、磁極対215A・Bが形成する磁界は、基板2の表面に沿う方向に磁気を作用することになる。
【0048】
なお、以下の説明では、磁石21の長手方向においてガイド壁218側に配置された磁石21Lのうち基板2に面するN極を第2N極212Nといい、磁石21の長手方向において作用ピン213側に配置された磁石21Hのうち基板2に面するN極を第1N極211Nという。また、中央の磁石21Mのうち基板2に面するS極をS極21Sという。
【0049】
また、磁極対215Aにおける第1N極211NとS極21Sとの境目を第1境界B1といい、磁極対215Bにおける第2N極212NとS極21Sとの境目を第2境界B2という。本例の構成では、磁石21Hの第1N極211N、磁石21MのS極21S、磁石21Lの第2N極212Nにより形成される本体21Bの表面が、カバー210によって覆われずに磁石21の下面として露出している(図6(b))。
【0050】
次に、シフトレバー11が初期位置であるHポジションにあるときの各部品の配置や姿勢を説明し、続いてシフト位置の具体的な検出方法について説明する。
(1)Hポジション時の各部品の配置・姿勢について
本例のシフト装置1では、図1図5を参照して示した通り、従動部材17の下側に、磁石21を進退可能に保持するマグネットホルダ25が位置している。そして、マグネットホルダ25では、長手方向がほぼセレクト方向に沿う姿勢で磁石21が保持されている。詳細には、Hポジション、Nポジションのとき、磁石21の長手方向がセレクト方向に一致し、Bポジション、Dポジション、Rポジションのときは、磁石21の回転によりその長手方向がセレクト方向からずれる。
【0051】
シフトレバー11と従動部材17とは、シフトアーム116の円柱状の駆動部116Cがシフト受け部176に収容されると共に、セレクトアーム117の球状の駆動部117Sがセレクト受け部177に収容された状態で、連結されている。上記のごとく、シフトアーム116の円柱状の駆動部116Cは、セレクト方向に沿う円柱状をなしている。シフト受け部176は、セレクト方向に沿うスリットである。また、セレクトアーム117は、シフト方向に沿う軸状をなしている。セレクト受け部177は、シフト方向に沿うスリットである。
【0052】
なお、シフト受け部176及びセレクト受け部177は、いずれも、シフト方向及びセレクト方向に対して直交する高さ方向に長く形成されている。それ故、シフト受け部176及びセレクト受け部177は、シフトアーム116の円柱状の駆動部116C、セレクトアーム117の球状の駆動部117Sの高さ方向の変位を吸収可能である。
【0053】
また、従動部材17と磁石21とは、駆動ピン17Pの球状部171がガイド溝214に収容されると共に、駆動スリット17Sが作用ピン213の球状部213Sを収容する状態で、連結されている。上記のごとく、ガイド溝214は、磁石21の長手方向のスリットである。駆動スリット17Sは、シフト方向に沿うスリットである。
【0054】
シフト装置1では、従動部材17の球状部171(駆動ピン17P)が壁面218S(ガイド壁218)に当接する箇所が、マグネットホルダ25の回転中心からずれて位置している。全てのシフト位置において、壁面218Sに対する球状部171の当接箇所は、マグネットホルダ25の回転中心に対して図8中の左下方にずれて位置している。
【0055】
シフトレバー11がHポジションにあるとき(図8)、磁石21がセレクト方向に沿うと共に、マグネットホルダ25のレール250に磁石21が完全に近く収容された状態となっている。このとき、磁気センサIC201の検出面201Sに対して、磁石21の第2境界B2が対面する状態にある。検出面201Sには、第2N極212NからS極21Sに向かう磁気が作用する。
【0056】
ここで、シフト方向にシフトレバー11が操作された時の動き、及びセレクト方向にシフトレバー11が操作された時の動きについて、図7を参照して説明する。同図では、シフト位置毎のシフトレバー11の上面図及び側面図を示すことで、シフトレバー11の操作に応じたシフトアーム116、セレクトアーム117の姿勢変化を示している。なお、同図中の破線で囲む上面図は、いずれかのシフト位置から隣り合うシフト位置に移行するときの動きを説明するためのイメージ図である。側面図では、同図中の左右方向が鉛直方向に対応し、同図中の左側ほど高く、右側ほど低くなっている。
【0057】
なお、シフトレバー11では、回動中心となる球状部110を介してシフトノブ111の反対側にレバー基部11Bが設けられている。このレバー基部11Bは、操作部をなすシフトノブ111の変位方向とは逆向きに回動する。例えば、シフトレバー11がシフト方向手前側に操作されると、レバー基部11Bはシフト方向奥側に回動する。また、例えば、シフトレバー11がセレクト方向右側に操作されると、レバー基部11Bはセレクト方向左側に回動する。
【0058】
・シフト方向の操作時
シフトレバー11がHポジションあるいはNポジションにあるとき、シフトアーム116の先端の円柱状の駆動部116Cと、球状部110と、を結ぶ線分Lが先端下がりの状態にある(図7、側面図(H、N))。ここで、先端下がりとは、回転中心の球状部110に対して先端の駆動部116Cの位置が低くなっている状態を意味している。HポジションあるいはNポジションのときの線分Lの先端下がりの状態を起点として、シフトレバー11がシフト方向手前側に操作されると(図7、矢印SH1)、線分Lが回動して先端下がりの度合いが強まる(図7、側面図(B、D))。そうすると、シフト方向における球状部110の中心と駆動部116Cとの距離Dが短くなり、円柱状の駆動部116Cがシフト方向奥側に変位する(同矢印MH1)。
【0059】
シフトアーム116の円柱状の駆動部116Cは、上記のごとく、セレクト方向に沿うスリットであるシフト受け部176に収容されている。駆動部116Cがシフト方向奥側に変位したとき(図7中矢印MH1)、上端の球状軸受17Eを利用して支持された従動部材17がシフト方向奥側に回動する。このような従動部材17のシフト方向奥側への回動動作は、シフトレバー11がシフト方向手前側に操作されたとき(図7中SH1)に生じるレバー基部11Bのシフト方向奥側への回動動作と同様である。
【0060】
一方、シフトレバー11が、Nポジションからシフト方向奥側のRポジションに操作されると(図7、矢印SH2)、線分Lの回動により先端下がりの度合いが弱くなり、線分Lが水平に近づく。そうすると、シフト方向における球状部110の中心と駆動部116Cとの距離Dが長くなり、円柱状の駆動部116Cがシフト方向手前側に変位する(同矢印MH2)。これにより、従動部材17は、レバー基部11Bと同様、シフト方向手前側に回動する。
【0061】
・セレクト方向の操作時
シフトレバー11がセレクト方向に操作されたとき、セレクトアーム117の球状の駆動部117Sは、レバー基部11Bと共にセレクト方向の逆向きに変位する。Hポジションを起点として、シフトレバー11がNポジションに向けて操作されると(図7、矢印SL1)、セレクトアーム117の球状の駆動部117Sは、セレクト方向における左側に変位する(同矢印ML1)。
【0062】
上記のごとく、セレクトアーム117の球状の駆動部117Sは、シフト方向に沿うスリットであるセレクト受け部177に収容されている。球状の駆動部117Sがセレクト方向における左側(図7中矢印ML1)に変位すると、上端の球状軸受17Eを利用して支持された従動部材17がセレクト方向における同じ側に回動する。この従動部材17の回動動作は、シフトレバー11がHポジションからNポジションに向けて操作されたとき(図7、矢印SL1)に生じるレバー基部11Bの回動動作と同様である。
【0063】
また、Nポジションを起点としてシフトレバー11がHポジションに向けて(図7中の左側)操作されると、セレクト方向の球状の駆動部117Sは、セレクト方向における逆向き(図7中の右側)に変位する。そうすると、従動部材17が、レバー基部11Bと同様、セレクト方向における逆向き(図7中の右側)に回動する。
【0064】
以上の通り、上端の球状軸受17Eを利用して支持された従動部材17は、シフトレバー11のレバー基部11Bと同様の回動動作を実現する。従動部材17の回動動作は、レバー基部11Bの回動動作の複製とも言える。本例のシフト装置1では、シフトレバー11の操作に伴うレバー基部11Bの回動動作が、従動部材17の回動動作に変換されている。そして、ポジションチェンジャーとして作用する従動部材17によって、回動動作のエリアが位置的に変更されている。
【0065】
本例のシフト装置1では、第1の駆動部の一例をなすシフトアーム116とシフト受け部176との組合せ、及び第2の駆動部の一例をなすセレクトアーム117とセレクト受け部177との組合せ、を介在して、シフトレバー11と従動部材17とが連結されている。詳しくは後述するが、シフトアーム116は、シフト方向に沿ってシフトノブ111(シフトレバー11)が操作されたとき、磁気センサIC201に相対する磁石21の回転変位により、磁気センサIC201に作用する磁気の作用方向が変化するように従動部材17を駆動する。セレクトアーム117は、セレクト方向に沿ってシフトノブ111(シフトレバー11)が操作されたとき、磁気センサIC201に相対する磁石21の進退変位により、磁気センサIC201に作用する磁気の作用方向が変化するように従動部材17を駆動する。
【0066】
(2)シフト位置の検出方法
次に、図8及び図9を参照しながらシフト位置の検出方法を説明する。図8は、各ポジションにおける磁石21の回転位置及び進退位置を示している。図9は、各ポジションにおける磁石21と検出面201Sとの位置関係を示している。なお、図8中のポジション毎に付記された平行四辺形は、基板2に面する磁石21の下面形状を表し、この平行四辺形の内側に重ねて示す小さな太枠の平行四辺形は、磁気センサIC201の検出面201Sを表している。磁石21の下面形状を表す平行四辺形と、検出面201Sを表す太枠の平行四辺形と、の図8中の相対的な位置関係を、わかり易く正面視に書き換えたものが図9である。
【0067】
図8の通り、Hポジションのとき、磁石21がセレクト方向に沿うと共に、マグネットホルダ25のレール250に磁石21が完全に近く収容された状態となる。このとき、磁気センサIC201の検出面201Sは、磁石21の第2境界B2に対面する状態にある。検出面201Sには、図9に示すように、第2N極212NからS極21Sに至る磁気、つまり同図中の上方に向かう磁気が作用する。
【0068】
Hポジションを起点としてシフトレバー11が(運転者側から見て)シフト方向手前側のBポジションに操作されると、上記のようにシフトアーム116の先端側の駆動部116Cがシフト方向奥側(図7中の矢印MH1)に変位し、これにより従動部材17がシフト方向奥側に回動変位する。
【0069】
従動部材17がシフト方向奥側に回動変位すると、従動部材17の下側に設けられてガイド溝214に収容された駆動ピン17Pがシフト方向奥側に変位する(図8中の矢印CH1)。そうすると、駆動ピン17Pの球状部171がガイド壁218の壁面218Sに押し当たり、壁面218Sに対して当接荷重を作用する。壁面218Sに対する球状部171の当接箇所は、マグネットホルダ25の回転中心から偏心して位置している。そのため、駆動ピン17Pの球状部171の当接荷重は、マグネットホルダ25に作用する回転モーメントに変換される。マグネットホルダ25は、この回転モーメントにより図8中の時計回りP1に回転する。
【0070】
マグネットホルダ25の図8中の時計回りP1の回転と共に、磁石21の長手方向が時計回りに回転する。図9では、この回転により磁石21の長手方向が傾くように変位している。このとき、磁石21の進退は生じないので、検出面201Sに対して磁石21の第2境界B2が対面する状態を維持しつつ、第2N極212NからS極21Sに至る磁界の向きが回転する。これにより検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する。このような磁気の作用方向の変化を検出することで、HポジションからBポジションへのシフトレバー11のシフト方向の操作を検出可能である。
【0071】
また、Hポジションを起点としてシフトレバー11がNポジションに向けてセレクト方向に操作されると、セレクトアーム117の先端の球状の駆動部117Sがセレクト方向の逆側に変位する(図7中の矢印ML1)。このセレクトアーム117の球状の駆動部117Sは、シフト方向のスリットであるセレクト受け部177に収容されている。そのため、上記のセレクト方向のシフト操作に応じて、従動部材17は、セレクト方向Hポジション側に回動する。
【0072】
従動部材17がセレクト方向Hポジション側に変位すると、従動部材17の下端部に設けられた駆動スリット17Sがセレクト方向に変位する(図8中の矢印CL1)。この駆動スリット17Sは、シフト方向に沿って延設されている。この駆動スリット17Sがセレクト方向に並進すると、駆動スリット17Sに収容された作用ピン213のセレクト方向の変位を生じる。上記のごとく、Hポジション、Nポジションのとき、磁石21の長手方向はセレクト方向に沿っている。そのため、作用ピン213がセレクト方向に変位すれば、磁石21が長手方向に前進する(図8中の矢印K1)。
【0073】
このように磁石21が長手方向に前進すると、磁気センサIC201の検出面201Sに対面する磁石21の部位が、第2境界B2から第1境界B1に切り替わる(図9)。この結果、検出面201Sにおける磁気の作用方向は、第2N極212NからS極21Sに至る方向(図9中の上向き)から、第1N極211NからS極21Sに至る方向(図9中の下向き)に反転する。このような磁気の作用方向の反転を検出すれば、HポジションからNポジションへのセレクト方向の操作を検出できる。
【0074】
さらに、NポジションからDポジションにシフトレバー11が操作されると、上記したHポジションからBポジションへの操作の場合と同様、マグネットホルダ25の時計回りP1の回転が生じ、磁石21の長手方向が回転する。このとき、検出面201Sが磁石21の第1境界B1と対面する状態を維持したまま、第1N極211NからS極21Sに至る磁界が回転し、これによって検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する(図9)。このような磁気の作用方向を検出すれば、NポジションからDポジションへのシフト方向の操作を検出できる。
【0075】
シフトレバー11がNポジションからRポジションに操作されたときには、従動部材17の下側に設けられてガイド溝214に収容された駆動ピン17Pがシフト方向手前側に変位する(図8中の矢印CH2)。そうすると、駆動ピン17Pの球状部171がガイド壁218の壁面218Sに押し当たって、マグネットホルダ25の反時計回りP2(図8)の回転が生じる。この回転により、NポジションからDポジションへの操作の場合とは逆向きに磁石21が回転する。このとき、磁気センサIC201の検出面201Sが第1境界B1と対面した状態を維持したまま、第1N極211NからS極21Sに至る磁界が回転し、検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する(図9)。このような磁気の作用方向の変化を検出すれば、NポジションからRポジションへのシフト方向の操作を検出できる。
【0076】
以上のような構成のシフト装置1では、HポジションからBポジション、あるいはNポジションからRポジションまたはDポジションに至るシフト方向の操作が行われたとき、シフトレバー11に従動して従動部材17がシフト方向に回動する。これにより磁石21が回転駆動されて、検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する。
【0077】
HポジションとNポジションとの間のセレクト方向の操作が行われたときには、シフトレバー11に従動して従動部材17がセレクト方向に回動する。これにより磁石21が進退駆動されて、磁気センサIC201に磁界を作用する磁極対が切り替わって検出面201Sにおける磁気の作用方向が反転する。
【0078】
このように本例のシフト装置1によれば、1つの磁気センサIC201に対する磁気の作用方向を検出することで、互いに直交するシフト方向及びセレクト方向に沿う2次元的なシフトレバー11の操作を検出可能である。したがって、本例のシフト装置1では、従来の構成とは異なり、複数の磁気センサICを2次元的に配置するために大きな設置スペースを確保する必要がなくなり、コンパクト設計が容易になっている。
【0079】
特に、シフト装置1は、シフトレバー11の回動動作を従動部材17の回動動作に複製し、従動部材17が磁石21を変位させるという構成を有している。このシフト装置1では、シフトレバー11に対して隣り合う位置に基板2を配置する必要がない。ポジションチェンジャーとしての役割を有する従動部材17に対して隣り合う位置に基板2を配置すれば良い。それ故、このシフト装置1では、磁石21を含む基板2を配置する際の設計自由度が高くなっており、一層のコンパクト設計が容易である。
【0080】
なお、本例の構成では、シフトレバー11の操作に応じて磁石21を変位させている。これに代えて、磁石21を基板等に固定する一方、シフトレバー11の操作に応じて磁気センサが変位する構成を採用しても良い。さらに、シフトレバー11に従動して磁石21及び磁気センサIC201の両方が変位し、両者間の相対的な位置関係が変化するように構成しても良い。
【0081】
本例は、互いに交わるシフト方向、セレクト方向にシフトレバー11を操作可能なシフト装置1の例である。一方向にのみ直線的にシフトレバー11を操作可能なシフト装置であっても良い。
本例では、シフト方向の操作に応じてシフトアーム116が従動部材17をシフト方向に回動させ、磁石21を回転変位させる一方、セレクト方向の操作に応じてセレクトアーム117が従動部材17をセレクト方向に回動させ、磁石21を進退変位させる構成を説明している。この構成に代えて、シフト方向の操作のとき、シフトアーム116を介して磁石21が進退変位する一方、セレクト方向の操作のとき、セレクトアーム117を介して磁石21が回転変位する構成であっても良い。
【0082】
本例では、シフトアーム116の円柱状の駆動部116Cが、対面する一対の壁面176Sにより挟まれる構造により磁石21が駆動される構成を例示している。球状軸受17Eで支持された従動部材17は回動動作のほか、自転が可能である。一対の壁面176Sが対面するスリット状のシフト受け部176と、円柱状の駆動部116Cと、の組合せの構造によれば、円柱状の駆動部116Cの軸方向を一対の壁面176Sに沿うように規制できる。換言すると、この構造によれば、円柱状の駆動部116Cの軸方向が、壁面176Sに対して角度を持つような従動部材17の自転を規制できる。従動部材17の自転を規制すれば、シフトレバー11の回動に伴う従動部材17の回動動作の精度を向上できる。なお、第2の駆動部の一例をなすセレクトアーム117とセレクト受け部177との組合せにおいても、球状の駆動部117Sに代わる柱状の駆動部が一対の壁面により挟まれる構造を採用しても良い。また、円柱状の駆動部116Cに代えて、角柱状あるいは短冊平板状の駆動部を採用することも良い。この場合には、中間レバー部116Mが角柱状等の駆動部を回転可能に軸支する構造を採用すると良い。
【0083】
なお、本例では、基板2に面して、中央にS極21Sが位置すると共に、両側にN極211N、212Nが位置するように磁石21を構成している。これに代えて、両側にS極が位置し、中央にN極が位置するような磁石を採用しても良い。また、3つの磁石21H、M、Lが並列配置された磁石21に代えて、図10のごとく、S極を内側にして対向配置された2つの磁石21A・Bの組み合わせよりなる磁石21を採用しても良い。この場合、磁石21A及び21BのN極とS極との組み合わせが、磁気センサIC201に磁気を作用する磁極対となる。Hポジションが属するシフト方向の列にシフトノブ111が操作されているときと、Nポジションが属するシフト方向の列にシフトノブ111が操作されているときと、で磁気センサIC201が対面する磁石21A、Bが切り替わるように構成すると良い。例えば、プラスチックマグネットを着磁することで、2つの磁石21A・Bが一体化された磁石21を形成できる。あるいは、例えば、この2つの磁石21A・Bの周りに溶融状態の樹脂材料を流し込み硬化させるインサート成形により、2つの磁石21A・Bが一体化された磁石21を形成することも良い。これら2つの磁石21A・Bについては、S極を内側にして対向配置するのに代えて、図11のように、磁界の向きが異なるように配置しても良い。さらに、磁界の向きが異なる磁石を3つ以上並べて配置して磁石21を形成しても良い。この場合には、例えば3列以上のシフト方向の各列に沿ってシフトノブを操作するシフト装置にも対応できるようになる。3列以上のシフト方向を含む2次元的なシフトノブの操作を、たった1つの磁気センサICによって検出できる。
【0084】
本例では、直交する2方向に作用する磁気を検出可能な2軸の磁気センサを採用しているが、これに代えて、互いに直交する3方向に作用する磁気を検出可能な3軸の磁気センサを採用することも良い。シフト装置1では、上記のごとく、シフトノブ111がセレクト方向に操作されると、磁気センサの検出面201Sに対して磁石21の第2境界B2が対面する状態から第1境界B1が対面する状態に切り替わり、これにより、検出面201Sにおける磁気の作用方向が180度回転する。このような切り替わりの途中では、検出面201Sに対して磁石21のS極21Sが対面する状態が生じ、この状態では、検出面201Sに対して直交する方向の磁気が作用する。そこで、検出面201Sにおける磁気の作用方向の180度回転を検出でき、かつ、180度回転の途中で、検出面201Sに対して直交する作用方向の磁気を検出できたとき、セレクト方向の操作を検出するように構成しても良い。この場合には、セレクト方向の操作を一層確実性高く検出できる。
【0085】
(実施例2)
本例は、実施例1のシフト装置に基づき、検出信頼性を高めたシフト装置の例である。この内容について図1図2図12を参照して説明する。同図は、実施例1における図9に対応する図である。
本例のシフト装置では、磁石21及び磁気センサICの配置構成が実施例1とは相違している。磁石21は、磁気センサICに面して、2箇所のN極と2箇所のS極とが長手方向に交互に配置されるように4つの磁石を組み合わせたものである。この磁石21では、磁気センサIC側の下面において、図12中の上から順番に、N極、S極、N極、S極が配置され、これにより、3対の磁極対215A、B、Cが形成されている。この磁石21では、磁極のスパンS2に一致する間隔で、磁極の境目をなす境界B1(磁極対215Aの境界)、境界B2(磁極対215Bの境界)、及び境界B3(磁極対215Cの境界)が形成されている。
【0086】
この磁石21に対面する基板(図示略)では、2個の磁気センサICが間隔を空けて配置され、2箇所の検出面201A・Bが形成されている。2個の磁気センサICは、磁石21における磁極の間隔をなすスパンS2に対して、検出面201A・BのスパンS1が略一致するように配置されている。
【0087】
シフトノブ111がHポジションにあるとき、検出面201Aが磁極の境界B2に対面し、検出面201Bが境界B3に対面する状態にある。例えば、このHポジションを起点としてシフトノブ111がシフト方向手前側のBポジションに操作されると、シフトレバー11に従動して磁石21が回転する。この場合、検出面201A・Bが境界B2・B3に対面する状態を維持しつつ磁石21が傾いて磁界の向きが回転し、これにより検出面201A・Bにおける磁気の作用方向が変化する。
【0088】
また例えば、Hポジションを起点としてシフトノブ111がセレクト方向のNポジションに操作されると、シフトレバー11により磁石21が駆動されて図12中の下方に移動する。この場合、検出面201Aに対して境界B2が対面する状態から境界B1が対面する状態に切り替わると共に、検出面201Bに対して境界B3が対面する状態から境界B2が対面する状態に切り替わる。境界B1とB2、境界B2とB3、では、磁界の向きが逆であるため、Nポジションへの操作に応じて、検出面201A・Bにおける磁気の作用方向が反転する。
【0089】
本例のシフト装置1によれば、検出面201A・Bを有する2つの磁気センサICを利用してシフトノブ111の操作位置を検出するため、検出の信頼性、確実性を向上できる。
なお、本例では、いずれかのポジションにシフトノブ111が操作されたとき、検出面201A・Bが異なる境界に対面する状態となるように構成している。この構成に代えて、いずれかのポジションにシフトノブ111が操作されたとき、一方の検出面のみがいずれかの境界に対面する状態となるように構成しても良い。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0090】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0091】
1 シフト装置
11 シフトレバー(操作レバー)
110 球状部
111 シフトノブ(操作部)
116 シフトアーム(第1の駆動部)
116C 駆動部(柱状の部材)
117 セレクトアーム(第2の駆動部)
13 筐体
15 球状軸受
17 従動部材
17E 球状軸受
17P 駆動ピン
176 シフト受け部(第1の駆動部)
176S 壁面
177 セレクト受け部(第2の駆動部)
2 基板
201 磁気センサIC(磁気センサ)
201S 検出面
21 磁石
215A〜C 磁極対
23 ホルダガイド
25 マグネットホルダ(回転台)
250 レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図7
図8
図9
図10
図11
図12