特許第6985466号(P6985466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985466サーボモータの騒音の消音方法および騒音消音装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6985466
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】サーボモータの騒音の消音方法および騒音消音装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   G10K11/178
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-128847(P2020-128847)
(22)【出願日】2020年7月30日
【審査請求日】2021年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】水口 博貴
(72)【発明者】
【氏名】上垣内 裕治
【審査官】 辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−190596(JP,A)
【文献】 特開平05−080776(JP,A)
【文献】 特開2013−209969(JP,A)
【文献】 特開2015−052703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボアンプのU、V、W端子からPWM制御により出力されるパルス状の直流電圧により三相交流電流を生成させて駆動されるようになっているサーボモータにおいて、
前記U、V、W端子の任意の2端子から前記三相交流電流の一部を分岐させ、該分岐した電流を減衰させ、そして前記PWM制御のキャリア周波数の周期に基づいた所定の位相で遅らせ、これをスピーカーに供給して音波を発生させ、前記サーボモータから発生する騒音に干渉させるようにすることを特徴とする、サーボモータの騒音の消音方法。
【請求項2】
サーボアンプのU、V、W端子と接続され、PWM制御により出力されるパルス状の直流電圧によって三相交流電流が生成されて駆動されるようになっているサーボモータにおいて、
前記U、V、W端子の任意の2端子から分岐された電線と、該電線に設けられている減衰器と、該減衰器に接続されている位相シフト回路と、該位相シフト回路に接続されているスピーカとから構成され、前記U、V、W端子から分岐した電流が前記減衰器によって減衰され、前記位相シフト回路によって前記PWM制御のキャリア周波数の周期に基づいた所定の位相で遅れて前記スピーカに供給され、それによって前記スピーカから発生する音波が前記サーボモータから発生する騒音に干渉するようになっていることを特徴とする、サーボモータの騒音消音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWM制御によりサーボアンプから供給される電圧によってサーボモータが駆動されるとき、変化する電流によりサーボモータの鉄心に磁歪が生じ、それによって発生する騒音を消音する消音方法、および消音方法を実施する騒音消音装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気で駆動される電動射出成形機等の産業機械には、1個もしくは複数個のサーボモータが設けられ可動部が駆動される。サーボモータはサーボアンプが生成する三相交流電力によって駆動されるが、サーボアンプには直流電力が入力されている。サーボアンプは入力されている直流電力をキャリア周波数のパルスで出力するが、このときパルス幅を変調させて出力するいわゆるPWM制御を実施している。このようにパルス幅変調によって直流電圧のパルスを供給すると、サーボモータにおいて所望の周波数からなる擬似的な正弦波の三相交流電流が流れる。これによってサーボモータを所望の回転数で駆動することができる。ところで、このようにサーボモータにキャリア周波数でパルス状の直流電圧を供給すると、電流はこの周波数で脈動し、それによってサーボモータの鉄心に磁歪による収縮が生じる。この収縮によってサーボモータには特有の騒音が発生する。
【0003】
産業機械等において発生する騒音を消音する方法として、いわゆるアクティブノイズコントロール、つまり能動騒音制御方法が周知である。能動騒音制御方法は騒音に対して、これと逆位相の音波を出力して干渉させる方法であり、一般的に次のように構成されている。すなわち、騒音をマイクロフォンで検出して参照信号として取り出す参照信号検出部と、騒音と干渉させるための2次音波を発生する2次音源つまりスピーカと、干渉後の音圧、すなわち残音信号を検出するエラーマイクロフォンと、制御部とから構成されている。制御部は、検出された参照信号に所定の演算を施して制御信号を出力し、この制御信号をD/A変換器でアナログ信号に変換して、2次音源に送る。そうすると2次音源から2次音波が発生する。騒音は2次音波で干渉され、干渉後の騒音は、エラーマイクロフォンで残音信号として検出される。制御部は、残音信号が最小になるように前記の所定の演算に関するパラメータを適応させる。適応が適切に実施されると、騒音が効果的に消音される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−210700号公報
【0005】
上記した一般的な能動騒音制御方法は、幅広い帯域の周波数からなる騒音に対して、対象とする周波数を限定せずに消音するようにしているので、広帯域能動騒音制御方法と呼ばれることもある。このような方法に対して、消音対象の周波数を限定する能動騒音制御方法も周知であり、これは狭帯域能動騒音制御方法と呼ばれている。狭帯域能動騒音制御方法による騒音の消音方法は、本出願人によって特許文献1においても提案されているが、騒音を構成している音の中で特定の周波数の音の割合が大きいときに効率よくこれを消音できる。サーボモータが発生する騒音はPWM制御のキャリア周波数の音成分が大きいので、狭帯域能動騒音制御方法による消音方法が適していると言える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の広帯域能動騒音制御方法によっても、あるいは特許文献1に記載されているような狭帯域能動制御方法によっても、サーボモータが発生する騒音を消音することはできる。しかしながら解決すべき課題も見受けられる。これらの能動騒音制御方法を実施するには、高価な制御部が必要である。制御部はFIRフィルタ等のデジタルフィルタにより参照信号を演算する必要があり、かつこのようなデジタルフィルタをFxLMSアルゴリズム等によって適応演算する必要がある。つまり十分な能力が必要になるからである。また、能動騒音制御方法を実施するにはエラーマイクロホン、参照信号検出部のマイクロホン等も必要になり、ハードウエアのコストが嵩む。つまり、サーボモータが発生する騒音を消音するのにコストが嵩むという問題がある。
【0007】
本発明は、上記したような問題点を解決したサーボモータの騒音の消音方法、および騒音消音装置を提供することを目的としており、具体的には、効率よく騒音の消音が可能でありながら比較的安価なハードウエアによって実現できる、サーボモータの騒音の消音方法、および騒音消音装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、サーボモータと接続するサーボアンプのU、V、W端子からサーボモータに供給している三相交流電流を分岐し、この分岐した三相交流電流を減衰させて所定の位相だけ遅らせてスピーカに供給する。そしてスピーカから発生する音波によって、サーボモータから発生する騒音を干渉させる。ところでサーボアンプからサーボモータに供給される三相交流電流は、PWM制御によりパルス状に供給される直流電圧によって生成されるが、これによってサーボモータにおいてPWM制御のキャリア周波数と同じ周波数の騒音が発生する。そこで遅らせる位相は、このキャリア周波数の周期に基づいた位相とする。これによって騒音の逆位相の音波を発生させ、騒音と干渉させるようにする。
【0009】
すなわち本発明は、サーボアンプのU、V、W端子からPWM制御により出力されるパルス状の直流電圧により三相交流電流を生成させて駆動されるようになっているサーボモータにおいて、前記U、V、W端子の任意の2端子から前記三相交流電流の一部を分岐させ、該分岐した電流を減衰させ、そして前記PWM制御のキャリア周波数の周期に基づいた所定の位相で遅らせ、これをスピーカーに供給して音波を発生させ、前記サーボモータから発生する騒音に干渉させるようにすることを特徴とする、サーボモータの騒音の消音方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、サーボアンプのU、V、W端子と接続され、PWM制御により出力されるパルス状の直流電圧によって三相交流電流が生成されて駆動されるようになっているサーボモータにおいて、前記U、V、W端子の任意の2端子から分岐された電線と、該電線に設けられている減衰器と、該減衰器に接続されている位相シフト回路と、該位相シフト回路に接続されているスピーカとから構成され、前記U、V、W端子から分岐した電流が前記減衰器によって減衰され、前記位相シフト回路によって前記PWM制御のキャリア周波数の周期に基づいた所定の位相で遅れて前記スピーカに供給され、それによって前記スピーカから発生する音波が前記サーボモータから発生する騒音に干渉するようになっていることを特徴とする、サーボモータの騒音消音装置として構成される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明は、サーボアンプのU、V、W端子からPWM制御により出力されるパルス状の直流電圧により三相交流電流を生成させて駆動されるようになっているサーボモータを対象としている。そして、U、V、W端子の任意の2端子から三相交流電流の一部を分岐させ、該分岐した電流を減衰させ、そしてPWM制御のキャリア周波数の周期に基づいた所定の位相で遅らせ、これをスピーカーに供給して音波を発生させ、サーボモータから発生する騒音に干渉させるように構成されている。パルス状の直流電圧により生成される三相交流電流は、PWM制御のキャリア周波数で脈動するが、この脈動によりサーボモータの鉄心が磁歪により変形し、キャリア周波数と同じ周波数の音波が多く含まれる騒音が発生する。スピーカーから発生させる音波は、この脈動する三相交流電流を、そのキャリア周波数の周期に基づいた所定の位相、例えば略180度位相を遅らせて発生させる。そうすると効率よく騒音と干渉して効率よく消音することができる。つまり、高価な制御部や、マイクロホンを使うこと無く、比較的シンプルな構成によって、騒音を消音することができる。ところで、本発明においてはサーボアンプからサーボモータに供給する三相交流電流を分岐して利用しているので、サーボモータに供給される電力が少なくなり影響が出る可能性がある。しかしながら、スピーカで消費される電力はわずかで済む。そしてその電力は、産業機械等で利用されているサーボモータの消費する電力に比して実質的に無視することができる。このことから、本発明はサーボモータに実質的にほとんど影響を与えないで、サーボモータの騒音を消音できることが保証される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サーボモータと、本実施の形態に係る騒音消音装置とを示すブロック図である。
図2】サーボアンプから出力されるパルス状直流電圧と、サーボモータに流れる電流と、その電流によって発生する騒音と、本実施の形態に係る騒音消音装置から出力される音波と、騒音と音波とが干渉して得られる音波とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。電動で駆動する産業機械1、例えば電動射出成形機には、1個もしくは複数個のサーボモータ3が設けられ可動部を駆動するようになっている。図1には産業機械1に設けられている1個のサーボモータ3が示されているが、サーボモータ3はサーボアンプ4に接続され電力が供給されるようになっている。詳しく説明すると、サーボアンプ4には直流電力が供給される直流電圧線5と、サーボアンプ4において生成する三相交流電流を出力する三相交流電圧線6とが接続され、サーボモータ3はこの三相交流電圧線6が接続されている。サーボアンプ4にはエンコーダの信号線、サーボアンプ4に指令をおくるコントローラからの信号線等も接続されているが、図1にこれらは示されていない。サーボアンプ4は図示されないコントローラの指令を受けて、直流電圧線5から供給される直流電圧をPWM制御によりスイッチングしてパルス状の直流電圧として三相交流電圧線6に供給する。そうするとサーボモータ3に所望の周波数の三相交流電流が流れ、サーボモータ3が所望の回転数で回転することになる。
【0013】
本実施の形態に係る騒音消音装置8は、このようなサーボモータ3の近傍に設けられている。具体的に騒音消音装置8は、サーボアンプ4とサーボモータ3とを接続している三相交流電圧線6に接続されている。三相交流電圧線6はサーボアンプ4とサーボモータ3のU端子、V端子、W端子同士を接続しているが、これらの任意の2端子、例えばU端子とV端子から分岐した分岐電線10に騒音消音装置8が接続されている。騒音消音装置8は、この分岐電線10に接続されている減衰器11と、この減衰器11に接続されている位相シフト回路12と、この位相シフト回路12に接続されているスピーカ13とから構成されている。減衰器11は従来周知のように複数の抵抗からなり、分岐電線10に流れる電流を小さくして、スピーカ13から所望の音量で音波が出力されるのに十分な電流に低減している。そして位相シフト回路12はインダクタンス、コンデンサ、抵抗とからなり、分岐電線10から供給される電流を、所定の位相で遅らせるようになっている。具体的には、PWM制御のキャリア周波数の周期を基準として、その180度だけ位相を遅らせるようにしたり、あるいは120度、240度等、所定の位相で遅らせるようにしている。このようにして所定の位相だけ遅れるようにした電流はスピーカ13に供給され音波を発生するようになっている。スピーカ13はサーボモータ3の近傍に設けるようにすることが好ましく、サーボモータ3が発生する騒音とスピーカ13から発生する音波が干渉し、産業機械1の開口部1aから外部に漏れる騒音を低減するようになっている。
【0014】
本実施の形態に係る騒音消音装置8の作用を説明する。サーボアンプ4においてPWM制御を実施すると、U端子、V端子、W端子の所定の端子において、図2において符号21で示されているようにパルス状の直流電圧が出力される。このパルスの周期はキャリア周波数の周期になっており、直流電圧のパルス幅が変化している。このような直流電圧が供給されると、サーボモータ3内に設けられているコイルに符号22で示されているように脈動を伴った正弦波状の電流が流れる。このような脈動によってコイルの鉄心に磁歪が生じてサーボモータ3の筐体を振動させ、符号23で示されている音波を発生する。すなわち騒音が発生する。本実施の形態に係る騒音消音装置8は、分岐電線10から取り込んだ電流を減衰器11で減衰させると共に位相シフト回路12によって位相を遅らせ、これをスピーカ13に供給して音波を発生させる。遅らせる位相は、例えばキャリア周波数の周期の180度とする。そうするとスピーカ13からは、図2の符号24に示されている音波が発生する。この音波はちょうど符号23で示されている騒音の音波をキャリア周波数の周期の180度だけ位相を遅らせた音波になっている。サーボモータ3とスピーカ13からの、産業機械1の開口部1aまでの距離が等しいとき、開口部1aにおいて騒音はスピーカ13から発生する音波によって干渉して、符号25で示されているように音圧が低下する。すなわち騒音が消音されれる。なお、干渉後の騒音は符号25で示されているように緩やかな正弦波状になるが、その音圧は小さいので問題はない。
【0015】
サーボモータ3とスピーカ13からの、産業機械1の開口部1aまでの距離が異なっている場合には、開口部1aで効率よく騒音を消音できるように、位相シフト回路12で遅らせる位相を調整する必要がある。なお、この本実施の形態において騒音消音装置8は1個のみ設けられているように説明したが、例えば、U端子、V端子、W端子に対して、UV端子間、VW端子間、WU端子間のそれぞれの端子間に1個ずつ騒音消音装置8、8、8を設けるようにしてもよい。サーボモータ3から発生する騒音は、それぞれの端子、もしくは端子間に設けられている3個のコイルの鉄心によって発生しているからであり、これらを精度良く消音するには、それぞれの端子間に流れる電流に基づいて騒音に干渉させる音波を発生させる方が好ましいからである。なお、騒音を精度良く消音させる方法として他の方法もある。例えば、U端子、V端子、W端子に対して、UV端子間、VW端子間、WU端子間のそれぞれの端子間から分岐電線10、10、10を分岐させ、それぞれに減衰器11、11、11を接続し、さらにそれぞれ位相シフト回路12、12、12を接続する。このようにしてそれぞれの電流について180度だけ位相を遅らせた後、これらを1個のスピーカ13に接続して合成した電流によって音波を発生させるようにする。このようにしても実質的に3個の騒音消音装置8、8、8によって騒音を消音するのと同等の効果が得られる。
【符号の説明】
【0016】
1 産業機械 1a 開口部
3 サーボモータ 4 サーボアンプ
5 直流電圧線 6 三相交流電圧線
8 騒音消音装置 10 分岐電線
11 減衰器 12 位相シフト回路
13 スピーカ
【要約】
【課題】安価なハードウエアによってサーボモータの騒音を消音する方法を提供する。
【解決手段】サーボモータ(3)と接続するサーボアンプ(4)のU、V、W端子からサーボモータに供給している三相交流電流を分岐(10)し、この分岐した三相交流電流を減衰(11)させて所定の位相だけ遅らせて(12)、スピーカ(13)に供給する。スピーカ(13)から発生する音波によって、サーボモータ(3)から発生する騒音を干渉させる。ところで、サーボモータ(3)において発生する騒音は、PWM制御のキャリア周波数と同じ周波数の騒音になっている。そこで遅らせる位相については、その大きさをこのキャリア周波数の周期に基づいて決定するようにする。
【選択図】図1
図1
図2