(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985489
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】プレスパッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/06 20060101AFI20211213BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20211213BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20211213BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20211213BHJP
D02G 3/12 20060101ALI20211213BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20211213BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20211213BHJP
D06M 11/79 20060101ALI20211213BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20211213BHJP
D06M 11/45 20060101ALI20211213BHJP
D06M 11/81 20060101ALI20211213BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
B30B15/06 Z
D03D1/00 Z
D03D15/00 E
D03D15/08
D02G3/12
D02G3/36
D06M15/643
D06M11/79
D06M11/74
D06M11/45
D06M11/81
D01F1/10
【請求項の数】9
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2020-501289(P2020-501289)
(86)(22)【出願日】2018年7月10日
(65)【公表番号】特表2020-526680(P2020-526680A)
(43)【公表日】2020年8月31日
(86)【国際出願番号】EP2018068633
(87)【国際公開番号】WO2019011902
(87)【国際公開日】20190117
【審査請求日】2020年3月9日
(31)【優先権主張番号】202017003635.5
(32)【優先日】2017年7月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514013967
【氏名又は名称】ヒュック ライニッシェ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】HUECK Rheinische GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ エスペ
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−136259(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0196283(US,A1)
【文献】
特開昭50−133969(JP,A)
【文献】
特開2008−305817(JP,A)
【文献】
特表2009−535221(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0311811(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101432130(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08−15/14
B30B1/00−7/04
12/00−13/00
15/00−15/34
C08J5/04−5/10
5/24
D03D1/00−27/18
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
F16C13/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスパッドの製造方法であって、熱伝導率を高めるための添加剤を含む、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、もしくはフッ素ゴムからなるか、またはシリコーンゴムとフルオロシリコーンゴムとからなるコポリマーからなるエラストマーマトリックスから、糸、前記糸から構成される縦糸および/または横糸を用いた織物、ならびに前記織物から構成されるプレスパッドを製造する方法において、前記添加剤を、ポリジメチルシロキサンに対して修飾された櫛状またはブロック状の構造を有しており、その際、メチル基は、アクリレート基、エポキシ基、フェニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基またはアルキル基で置換されていてもよい有機修飾シロキサンに分散させ、前記有機修飾シロキサンによって前記添加剤を前記エラストマーマトリックスに組み込むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記芯糸が、金属からなることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
プレスパッドの製造方法であって、熱伝導率を高めるための添加剤を含む、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、もしくはフッ素ゴムからなるか、またはシリコーンゴムとフルオロシリコーンゴムとからなるコポリマーからなるエラストマーマトリックスを、縦糸および/または横糸を用いた織物にドクターブレードで塗布し、次いで架橋させる方法において、前記添加剤を、ポリジメチルシロキサンに対して修飾された櫛状またはブロック状の構造を有しており、その際、メチル基は、アクリレート基、エポキシ基、フェニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基またはアルキル基で置換されていてもよい有機修飾シロキサンに分散させ、前記有機修飾シロキサンによって前記添加剤を前記エラストマーマトリックスに組み込むことを特徴とする、プレスパッドの製造方法。
【請求項4】
前記織物に対して前記添加剤を組み込む割合が、前記織物に対して10〜95重量%であり、かつ/または前記エラストマーに対して前記添加剤を組み込む割合が、前記エラストマーに対して10〜95重量%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記添加剤が、少なくとも1W/mKの比熱伝導率を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤が、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、六方晶窒化ホウ素、グラファイト、カーボンブラックもしくは炭素繊維、または純金属粉末からなるか、またはナノスケール材料からなることを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記純金属粉末が、銅、銀またはアルミニウムであることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ナノスケール材料が、単層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記添加剤が、シランまたはシランベースの化合物で表面処理されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスパッドを製造するための2つの方法であって、熱伝導率を高めるための添加剤を含む耐高温性エラストマーマトリックスから、糸、糸から構成される縦糸および/または横糸を用いた織物、ならびに織物から構成されるプレスパッドを製造する方法、あるいは前記添加剤を含む耐高温性エラストマーマトリックスを、縦糸および/または横糸を用いた織物にドクターブレードで塗布し、次いで架橋させる方法に関する。
【0002】
このようなプレスパッドは、木質ボード(合板、パーティクルボード、MDFボードまたはHDFボードなど)を、合成樹脂で含浸した紙ウェブでコーティングする際に、油圧プレス機における圧力相殺用の織物として使用される。該コーティングは主に、高い閉鎖速度と、短いプレス時間での一段プレス(いわゆる短サイクルプレス)とにより、200〜230℃の温度と、40〜60kg/cm
2のプレス圧とで行われる。該コーティングの際に、水蒸気およびホルムアルデヒド蒸気が放出される。エラストマーマトリックスとしては、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴムおよびフッ素ゴムならびにそれらのブレンドおよびコポリマーなどの耐高温性材料のみが使用される。
【0003】
そのようなプレスパッドを製造するために、欧州特許出願公開第1136248号明細書および欧州特許出願公開第1300235号明細書には、熱伝導性添加剤として、金属粉末、具体的には銅粉末、アルミニウム粉末もしくはアルミニウム青銅粉末またはさらには炭素粉末(特にグラファイト)もしくはフェロシリコン粉末を、架橋前にエラストマーマトリックスに組み込むことが提案されている。公知のプレスパッドのエラストマーマトリックスは高粘度であるため、粉末状添加剤を練り込むこと、特に混練により組み込むことは困難であり、最終生成物における該添加剤の分布は不均一である。さらに、エラストマーマトリックスのショア硬さが非常に高くなるため、プレスパッドのレジリエンスが低下し、使用時にエラストマーマトリックスの脆化が助長される。
【0004】
課題
本発明は、プレスパッドに添加剤を均等に分布させるという課題に基づく。
【0005】
解決策
本発明によれば、公知の方法から出発して、添加剤を有機修飾シロキサンに分散させ、該有機修飾シロキサンによって該添加剤をエラストマーマトリックスに組み込むことが提案される。
【0006】
本発明による第1の方法では、糸が、安定化作用を示す芯糸を有することが好ましい。これにより、糸の引張強さが高められる。より好ましくは、芯糸は金属からなる。これによってさらに、プレスパッドの熱伝導性が高められる。金属製の芯糸の使用は、例えば欧州特許出願公開第1136248号明細書から知られている。
【0007】
好ましくは、本発明による方法では、エラストマーマトリックスは、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フッ素ゴム、またはシリコーンゴムとフルオロシリコーンゴムとからなるコポリマーからなる。上述の材料は、高温に耐える。エラストマーマトリックスとしてのそれらの使用は、例えば欧州特許出願公開第1136248号明細書から知られている。
【0008】
好ましくは、本発明による方法では、有機修飾シロキサンは、ポリジメチルシロキサンに対して修飾された櫛状またはブロック状の構造を有しており、その際、メチル基はさらに、好ましくはアクリレート基、エポキシ基、フェニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基またはアルキル基で置換されている。このような有機修飾シロキサンはとりわけ、Lehmann K. et al., Heat transfer and flame retardant properties of silicone elastomers, International Polymer Science and Technology 1/2017, Smithers Rapra, Akron/OH, USA 2017から知られている。
【0009】
特に熱伝導性添加剤を使用することで、櫛状またはブロック状の構造を有する有機修飾ポリシロキサンを、公知のエラストマーマトリックス材料に比べてはるかに良好に分散させることができる。櫛状またはブロック状の構造を有する有機修飾シロキサンの選択は、適用分野および使用目的に応じて異なることができ、その際、有機置換基は、所望の特性に影響を及ぼす。熱伝導性顔料を均一に分散できるようにするには、良好な分散特性を示す有機修飾ポリジメチルシロキサンを選択することが有利である。
【0010】
好ましくは、本発明による方法では、組込みの割合は、織物の10〜95重量%であるか、または添加剤の割合は、組込みの割合の10〜95重量%である。そのような割合を用いることによって、使用事例に応じて合理的な結果を得ることができる。
【0011】
好ましくは、本発明による方法では、添加剤は、少なくとも1W/mKの比熱伝導率を有する。熱伝導率が0.2W/mK未満の耐高温性エラストマーマトリックスでは、このような添加剤を使用して有意義な結果を得ることができる。
【0012】
好ましくは、本発明による方法では、添加剤は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、六方晶窒化ホウ素、炭素修飾グラファイト、カーボンブラックもしくは炭素繊維のうちの1つ、純金属粉末、例えば銅、銀もしくはアルミニウムからなるか、またはナノスケール材料、特に単層もしくは多層カーボンナノチューブからなる。
【0013】
無機フィラーの場合には、異なった熱伝導率値が観察され、例えばSiO
2、Al
2O
3、CaCO
3といった無機フィラーの場合には、4〜30W/mKという値が認められた。六方晶窒化ホウ素(hBN)は、炭素修飾グラファイト、カーボンブラックおよび炭素繊維と同様に、非常に高い熱伝導率値を示す。有機修飾ポリシロキサンへの、純金属粉末、例えば銅、銀、アルミニウムの分布は非常に異なり、高い濃度は有利ではない。なぜならば、エラストマー糸のレジリエンス特性が低下するためである。さらに、特定の金属、特に架橋剤としてペルオキシドを含む金属は、互いに化学的に反応する。これは、押出機内でのその後の加工の際に発熱反応および早すぎる架橋を招き、その際、搬送スクリューおよびノズルが損傷される場合がある。
【0014】
単層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブの実験研究は、こうしたナノ粒子の熱伝導率値が非常に高いことを示唆している。例えば、個々の多層カーボンナノチューブについては、室温で3000W/mKを超える熱伝導率が測定され、個々の単層カーボンナノチューブについては、理論値が6600W/mKであると算出された。このことから、ポリマーにカーボンナノチューブを少量加えることで、エラストマー複合材全体の熱伝導率を大幅に向上できることが分かる。例えば、30重量%のBNおよび5重量%の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の分散添加剤を含む有機修飾ポリジメチルシロキサンの割合が50重量%であるエラストマーマトリックスにおいて、室温での熱伝導率が0.6W/mKを超えることが認められ、MWCNTの割合が7.5重量%の場合には、0.8W/mKを超える値が認められたが、未修飾エラストマーマトリックスの熱伝導率は、0.24W/mKであった。
【0015】
本発明による方法では好ましくは、添加剤は、特にシランまたはシランベースの化合物で表面処理されている。これによって、エラストマー材料の熱伝導率が最適に活用される。
【0016】
市場では、様々な添加剤が入手可能であり、その表面処理をシランまたはシランベースの化合物により行うことで、ポリマーマトリックスとフィラーとの界面での最適な適合性が保証される。シランは、安定な有機官能基と加水分解性の反応性末端基とからなる二官能性化合物である。加水分解性基はフィラー表面と結合し、一方で有機官能基はポリマーと調和する。また、コーティングされていないフィラーに比べて、コーティングされたフィラーの方が、より容易にポリオルガノシロキサンに組み込めることが判明した。
【0017】
本発明による方法では好ましくは、プレスパッドの糸は、異なるエラストマー混合物および添加剤で仕上げ加工される。本発明によるそのようなプレスパッドは、異なる熱伝導率のゾーンを有する。このようにして、本発明によるプレスパッドを、プレス機のパラメータ、特にプレス機内の不均一な温度分布および作業プロセスの要求に個別に適合させることができる。
【0018】
実施例
本発明を、実施例を参照して以下に説明する。
【0019】
第1のエラストマー混合物は、硬化剤成分であるジ−(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシドを含む未架橋のビニル基含有シリコーンエラストマーHTV 45重量%と、フィラーAl
2O
3を含む有機修飾シロキサンTegosil HT 2100型55重量%とからなる。
【0020】
第2のエラストマー混合物は、硬化剤成分であるジ−(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシドを含む未架橋のフルオロシリコーンエラストマー5重量%を含むシリコーンエラストマーHTV 50重量%と、鎖に沿って配置されたアクリレート系有機ポリマーを含む有機修飾ポリシロキサン50重量%とからなり、これには、hBN 30重量%とMWCNT 5重量%とが分散されている。
【0021】
約200℃でのアニーリング後に、第1のエラストマー混合物は、熱伝導率が0.4W/mKであり、ショア硬さが55であり、第2のエラストマー混合物は、熱伝導率が0.75W/mKであり、硬さが60である。これら2つのエラストマー混合物は、未修飾シリコーンエラストマーHTV(0.24W/mK、ショア硬さ68)と比較して熱伝導率が大幅に向上しているが、ショア硬さは低減された値を示しており、このことは、当然のことながらプレスパッドのレジリエンス特性にとって有利である。
【0022】
これらのエラストマーマトリックスからそれぞれ糸を製造し、次に、この糸による縦糸および横糸を用いて織物を製造し、最後にこの織物からプレスパッドを製造した。このプレスパッドについての測定によって、熱伝導率が2倍または3倍になることが判明した。