特許第6985563号(P6985563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6985563
(24)【登録日】2021年11月29日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】数値制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   G05B19/18 D
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2021-531049(P2021-531049)
(86)(22)【出願日】2021年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2021008490
【審査請求日】2021年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2020-41461(P2020-41461)
(32)【優先日】2020年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】澤岡 浩貴
【審査官】 臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−090734(JP,A)
【文献】 特開2009−230552(JP,A)
【文献】 特開2011−003176(JP,A)
【文献】 特開2011−133968(JP,A)
【文献】 特開2013−175229(JP,A)
【文献】 特開2015−030078(JP,A)
【文献】 米国特許第8532825(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/4155
G05B 11/00
B25J 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の回転軸によって移動軸部材の軸の指示方向を数値制御する数値制御装置であって、
動作指令に基づく前記2以上の回転軸のそれぞれの回転軸方向と前記指示方向とから、特異点までの距離である特異点距離をそれぞれ算出する特異点距離算出部と、
前記特異点距離算出部によって算出された前記特異点距離に基づいて、前記2以上の回転軸のうちから前記指示方向を制御する制御回転軸を抽出する回転軸抽出部と、
前記回転軸抽出部によって抽出された前記制御回転軸を基に前記制御回転軸を駆動するパルスの生成を行うパルス生成部と、を備え、
前記回転軸抽出部は、前記特異点距離と予め設定された閾値とを比較することによって、前記2以上の回転軸のうちの前記閾値を超える前記回転軸を前記制御回転軸として抽出し、又は、前記特異点距離同士を比較することによって、前記2以上の回転軸のうちの前記特異点距離が大きい前記回転軸を前記制御回転軸として抽出する、数値制御装置。
【請求項2】
前記パルス生成部は、前記回転軸抽出部によって前記制御回転軸が1つだけ抽出された場合に、1つの前記制御回転軸のみで前記動作指令によって指令された前記指示方向に最も近づくように、前記1つの制御回転軸を駆動する駆動パルスを生成する第1のパルス生成部と、前記回転軸抽出部によって前記制御回転軸が2つ抽出された場合に、前記動作指令によって指令された前記指示方向に最も近づくように、2つの前記制御回転軸をそれぞれ駆動する駆動パルスを生成する第2のパルス生成部と、を有する、請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記回転軸抽出部は、前記特異点距離と前記閾値とを比較した場合に、前記特異点距離が前記閾値以内である前記回転軸を特異点回転軸として抽出し、
前記パルス生成部は、前記特異点回転軸に対して、予め指定された角度まで回転させるように駆動する駆動パルスを生成する第3のパルス生成部を有する、請求項1又は2に記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テーブルに取り付けられた加工対象であるワークを、X軸、Y軸及びZ軸の3つの直線軸に加えて、2以上の回転軸によって加工する5軸加工機が知られている。このような5軸加工機としては、例えば、A軸及びC軸の2つの回転軸がワーク側に配置されるタイプと、A軸及びC軸の2つの回転軸が工具側に配置されるタイプとがある。2つの回転軸が工具側に配置されるタイプの加工機では、ワーク側にさらに傾斜回転軸が配置される場合もある。
【0003】
5軸加工機の数値制御装置では、ワークに対する加工指令である指令値への工具方向の回転、あるいはワーク設置誤差補正や3次元回転誤差補正における工具方向の補正で、姿勢制御が必要となる。工具方向とは、ワークに対する工具の相対的な向きである。姿勢制御とは、所望の工具方向ベクトルから、それを実現する各回転軸の回転角度を算出して、工具姿勢である工具方向を制御することである。
【0004】
従来、特許文献1には、5軸加工機を制御する数値制御装置において、直線軸位置に依存した直線軸依存並進誤差、回転軸位置に依存した回転軸依存並進誤差、直線軸位置に依存した直線軸依存回転誤差、回転軸位置に依存した回転軸依存回転誤差の4つの誤差に対応した補正量を設定し、それらの補正量から並進補正量を求め指令直線軸位置に加算するとともに回転補正量を求め回転軸位置に加算することによって、指令通りの工具姿勢で加工を行うことができるようにする技術が記載されている。
【0005】
特許文献2には、直進軸と回転軸とを有する工作機械を数値制御する数値制御装置において、工具先端位置を誤差のない位置に移動しつつ、無理なく補正可能な方向の工具姿勢については誤差の姿勢に保つことで、高精度な加工を実現する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4837115号公報
【特許文献2】特許第5105024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
5軸加工機の工具姿勢制御においては、特異点の近傍で、回転軸の角度が極端に大きく変化し、回転軸の回転の速度や加速度が非常に大きくなる場合がある。特異点の一例は、工具方向と回転軸方向とが一致する点である。この特異点では、回転軸を変化させても、工具方向はほとんど変わらない。5軸加工機の工具姿勢制御において、特異点を通過する際に、その特異点の近傍において回転軸が急激に回転すると、ワークの面品位を低下させるおそれがある。
【0008】
しかし、特許文献1記載の技術は、特異点の近傍で回転軸が急激に変化する上記の問題を解決するものではない。そのため、特許文献1記載の技術では、特異点の近傍で誤差補正による回転軸の角度の急激な変化が発生するおそれがある。
【0009】
これに対して、特許文献2記載の技術は、上記の特異点の問題が発生しない誤差のみで工具方向の3次元回転誤差を補正することができる。しかし、特許文献2記載の技術では、回転軸の向きが機械座標系上で変化しない機械構成に制限され、特定の回転軸周りの誤差を補正することができない問題がある。
【0010】
したがって、特異点の近傍において回転軸の角度の急激な変化を抑制できるとともに、任意の機械構成にも対応できる数値制御装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、2以上の回転軸によって移動軸部材の軸の指示方向を数値制御する数値制御装置であって、動作指令に基づく前記2以上の回転軸のそれぞれの回転軸方向と前記指示方向とから、特異点までの距離である特異点距離をそれぞれ算出する特異点距離算出部と、前記特異点距離算出部によって算出された前記特異点距離に基づいて、前記2以上の回転軸のうちから前記指示方向を制御する制御回転軸を抽出する回転軸抽出部と、前記回転軸抽出部によって抽出された前記制御回転軸を基に前記制御回転軸を駆動するパルスの生成を行うパルス生成部と、を備え、前記回転軸抽出部は、前記特異点距離と予め設定された閾値とを比較することによって、前記2以上の回転軸のうちの前記閾値を超える前記回転軸を前記制御回転軸として抽出し、又は、前記特異点距離同士を比較することによって、前記2以上の回転軸のうちの前記特異点距離が大きい前記回転軸を前記制御回転軸として抽出する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一態様によれば、特異点の近傍において回転軸の角度の急激な変化を抑制できるとともに、任意の機械構成にも対応できる数値制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】数値制御装置によって数値制御される5軸加工機の一実施形態を示す斜視図である。
図2】数値制御装置によって数値制御される6軸加工機の一実施形態を示す斜視図である。
図3】数値制御装置の一実施形態を説明する機能ブロック図である。
図4A】特異点距離を説明する説明図である。
図4B】特異点距離を説明する説明図である。
図5】数値制御装置の他の実施形態を説明する機能ブロック図である。
図6A】第3のパルス生成部によって制御されない特異点回転軸の回転による工具方向の軌跡を説明する図である。
図6B】第3のパルス生成部によって制御された特異点回転軸の回転による工具方向の軌跡を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一態様に係る数値制御装置について図面を参照して説明する。まず、数値制御装置によって数値制御される加工機の具体的な構成について、図1及び図2を用いて説明する。
【0015】
図1は、5軸加工機1を示している。5軸加工機1は、ベッド11と、ベッド11上に立設される一対のコラム部12,12と、コラム部12,12の上端部同士を連結して横方向に延びるレール部13と、を有する。レール部13には工具ヘッド14が取り付けられている。この5軸加工機1は、ベッド11の面方向であり、かつレール部13の長さ方向に沿うX軸と、ベッド11の面方向であり、かつレール部13の長さ方向に直交するY軸と、ベッド11の面方向に対して垂直方向であるZ軸と、をそれぞれ直線軸とする。工具ヘッド14は、これらのX軸、Y軸及びZ軸の3軸に沿ってそれぞれ直線移動可能に設けられる。工具ヘッド14の下端には、移動軸部材である工具15がZ軸方向に沿って下方に向けて突出している。図1において、Stは、工具15の軸の指示方向である工具方向を示す。
【0016】
5軸加工機1のベッド11上には、加工対象であるワークWを載置し、ワークWをC軸周りに回転させる載置部16と、載置部16をX軸方向に沿うA軸周りに回転させる回転テーブル17と、が設けられる。C軸は、載置部16がZ軸に対して垂直に配置されるとき(回転テーブル17の回転角度が0°のとき)、Z軸方向に平行に配置される。この5軸加工機1におけるこれらのA軸及びC軸の2軸は、ワークW側に配置され、回転によってワークWに対する工具15の相対的な向きである工具方向を決める回転軸である。図1において、S1は、A軸の回転軸を示す。S2は、C軸の回転軸を示す。
【0017】
図2は、6軸加工機2を示している。6軸加工機2は、ベッド21と、ベッド21上に立設される一対のコラム部22,22と、コラム部22,22の上端部同士を連結して横方向に延びるレール部23と、を有する。レール部23には工具ヘッド24が取り付けられている。この5軸加工機2は、ベッド21の面方向であり、かつレール部23の長さ方向に沿うX軸と、ベッド21の面方向であり、かつレール部23の長さ方向に直交するY軸と、ベッド21の面方向に対して垂直方向であるZ軸と、をそれぞれ直線軸とする。工具ヘッド24は、これらのX軸、Y軸及びZ軸の3軸に沿ってそれぞれ直線移動可能に設けられる。
【0018】
工具ヘッド24の下端には、移動軸部材である工具25が設けられている。具体的には、工具ヘッド24の下端には、工具25をX軸方向に沿うA軸周りに揺動するように回転させる第1回転部26と、第1回転部26をZ軸方向に沿うC軸周りに回転させる第2回転軸27と、が設けられている。この5軸加工機2におけるこれらのA軸及びC軸の2軸は、工具25側に配置され、回転によってワークWに対する工具25の相対的な向きである工具方向を決める回転軸である。ベッド21上には、加工対象であるワークWを載置するテーブル28が配置されている。テーブル28は、ベッド21の面方向に対して傾斜する第3回転部29によって回転可能に設けられている。図2において、S1は、A軸の回転軸を示す。S2は、C軸の回転軸を示す。S3は、傾斜回転軸である第3回転部29の回転軸を示す。
【0019】
図3は、数値制御装置の一実施形態を説明する機能ブロック図である。この数値制御装置100において、指令解析部101は、ワークWに対して加工を行うための加工プログラムを解析し、実行形式に変換する。指令解析部101は、実行形式に変換した解析結果を補間部102に出力する。補間部102は、指令解析部101から送られた実行形式の解析結果に対して補間処理を行い、5軸加工機1、6軸加工機2の各軸に対する誤差補正を含む移動指令を生成する。補間部102は、生成した各軸の移動指令をパルス生成部103に出力する。パルス生成部103は、補間部102から送られた各軸の移動指令に基づいて、各軸を駆動するための駆動パルスを生成する。パルス生成部103は、生成した駆動パルスを、各軸のサーボ制御部に出力する。図3では、各軸のサーボ制御部のうち、A軸のサーボ制御部14a及びC軸のサーボ制御部14bのみを示し、その他のX軸、Y軸、Z軸、傾斜回転軸の各サーボ制御部については図示を省略している。各軸のサーボ制御部は、パルス生成部103から送られた駆動パルスに従って各軸のモータ(図示せず)を回転させる。
【0020】
数値制御装置100には、特異点距離算出部105及び回転軸抽出部106がさらに設けられている。特異点距離算出部105は、回転軸方向と工具方向とから特異点までの距離である特異点距離を算出する。詳しくは、特異点距離算出部105は、補間処理後の各回転軸の回転角度である回転軸方向と工具方向とを補間部102から受け取り、その回転軸方向と工具方向とから特異点距離を算出する。
【0021】
ここで、特異点距離について説明する。特異点距離は、回転軸方向と工具方向との外積によって求められる。図4A及び図4Bを参照してさらに具体的に説明する。図4A及び図4Bは、A軸である回転軸S1及びC軸である回転軸S2の2つの回転軸を示している。Stは工具方向を示す。回転軸S1の特異点距離はd1で示され、回転軸S2の特異点距離はd2で示される。この場合において、特異点距離d1及び特異点距離d2は、以下によって求められる。なお、系統の特異点距離d3とは、回転軸S1及び回転軸S2とを合わせた加工機全体の特異点距離である。
【数1】
【0022】
回転軸S1の特異点距離d1は、回転軸S1がA軸周りに回転したときの工具方向Stの変化量である。回転軸S2の特異点距離d2は、回転軸S2がC軸周りに回転したときの工具方向Stの変化量である。図4Aにおいて、回転軸S1の特異点距離d1と回転軸S2の特異点距離d2とはほとんど相違がない。しかし、図4Bにおいて、回転軸S2の特異点距離d2は、回転軸S1の特異点距離d1に比べて小さい。特異点距離が小さい場合、回転軸が回転しても工具方向はほとんど変化しない。特異点は、回転軸を変化させても工具方向に影響を与えない点であるため、特異点距離の値が小さいということは、特異点までの距離が近いと判断できる。すなわち、図4Bに示す回転軸S2は、回転軸S1に比べて、特異点に近いと判断できる。
【0023】
特異点距離算出部105は、補間部102から送られる各回転軸の回転軸方向と工具方向とから特異点距離をそれぞれ算出した後、それらの特異点距離を回転軸抽出部106に出力する。
【0024】
回転軸抽出部106は、特異点距離算出部105から送られた各回転軸の特異点距離を比較することによって、2以上の回転軸の中から制御回転軸を抽出する。制御回転軸とは、工具方向を制御するために回転の制御を行う回転軸のことである。
【0025】
具体的には、回転軸抽出部106は、特異点距離算出部105から送られた各回転軸の特異点距離を、予め設定された閾値と比較することによって、2以上の回転軸のうちの閾値を超える回転軸を制御回転軸として抽出する。例えば、回転軸S1及び回転軸S2の2つの回転軸を有する5軸加工機1において、回転軸S1の特異点距離d1が閾値以下であり、回転軸S2の特異点距離d2が閾値を超える場合には、回転軸抽出部106は、回転軸S1を制御回転軸として抽出せず、回転軸S2のみを制御回転軸として抽出する。また、特異点距離d3が閾値以下である場合には、回転軸S1及び回転軸S2は回転軸方向がほぼ同じになっていると考えられる。この場合、各回転軸S1,S2の角度解を一意に決定するために、回転軸S2の特異点距離d2と回転軸S1の特異点距離d1が閾値を超える場合には、工具に近い方の回転軸S1を制御回転軸として抽出する。回転軸抽出部106は、抽出した制御回転軸に関する情報をパルス生成部103に出力する。
【0026】
パルス生成部103は、回転軸抽出部106によって抽出された制御回転軸を基に制御回転軸を駆動する駆動パルスを生成する。具体的には、パルス生成部103は、図3に示すように、第1のパルス生成部103aを有する。第1のパルス生成部103aは、回転軸抽出部106によって抽出された制御回転軸が1つの場合に、回転軸抽出部106によって抽出された1つの制御回転軸のみについて誤差補正による補正パルスの出力を行い、回転軸抽出部106によって抽出されなかった回転軸については誤差補正による補正パルスの出力を一時停止する。これによって、特異点を通過する際、回転軸抽出部106によって抽出された1つの制御回転軸のみが、加工指令によって指令された工具方向に最も近づくように駆動される。
【0027】
例えば、回転軸S1の特異点距離d1が閾値以下であり、回転軸S2の特異点距離d2が閾値を超える場合、第1のパルス生成部103aは、回転軸S1の誤差補正による補正パルスの出力を一時停止し、制御回転軸である回転軸S2のみを回転駆動させて誤差補正をかける。このとき、第1のパルス生成部103aでは、誤差補正が可能な回転軸S2のみで、残りの誤差を最もキャンセルできる補正量を算出し、それに対応する駆動パルスを生成する。
【0028】
具体的には、第1のパルス生成部103aは、まず、例えば、以下に示す回転誤差a,b,cによる工具方向の誤差を算出する。
【数2】
【0029】
次に、以下に示すように、更新を一時停止した時点での回転軸S1による補正量α1を加える。
【数3】
【0030】
次に、以下に示すように、誤差補正が有効な制御回転軸である回転軸S2の補正量α2を算出する。
【数4】
【0031】
第1のパルス生成部103aは、特異点を通過する際に、制御回転軸である回転軸S2について、算出した補正量α2に対応する駆動パルスを生成する。これによってX,Y,Zの3軸に加えて回転軸S1,S2の2つの回転軸を用いてワークWの加工を行う場合において、特異点を通過する際に、特異点距離が閾値よりも大きい回転軸S2のみで誤差補正を行うことによって工具方向が制御される。
【0032】
したがって、この数値制御装置100によれば、回転軸が2軸である場合に、回転軸抽出部106によって抽出された制御回転軸のみによって誤差補正をかけるため、特異点の近傍において回転軸の角度の急激な変化が生じることは抑制されるとともに、任意の機械構成にも対応可能である。特異点以外では、全方向の回転誤差を補正することができるため、特定の軸周りの誤差が補正できなくなる問題はない。また、駆動パルスに制限が掛かることはないため、加工速度が低下するおそれもない。
【0033】
数値制御装置100において、加工機が、図2に示すように、回転軸S1,S2,S3の3つの回転軸を有する6軸加工機2の場合は、特異点距離算出部105は、以下に示すように、3つの回転軸S1,S2,S3の組み合わせによって、特異点距離d12,d23,d31を算出してもよい。
【数5】
【0034】
この場合には、回転軸抽出部106は、特異点距離算出部105から送られる複数の特異点距離同士を比較することによって、2以上の回転軸のうちの特異点距離が最も大きい回転軸を制御回転軸として抽出する。上述の特異点距離d12,d23,d31の場合では、回転軸抽出部106は、これらの特異点距離d12,d23,d31のうちで最も値が大きいいずれか1つの特異点距離を選択し、その特異点距離に対応する回転軸の組み合わせを制御回転軸として抽出する。例えば、特異点距離d12,d23,d31のうち、特異点距離d12の値が最も大きい場合、回転軸抽出部106は、その特異点距離d12に対応する回転軸S1,S2の2軸を制御回転軸として抽出する。
【0035】
パルス生成部103は、図3に示すように、第2のパルス生成部103bを有する。第2のパルス生成部103bは、回転軸抽出部106によって制御回転軸が2つ抽出された場合に、加工指令によって指令された工具方向に最も近づくように、2つの制御回転軸をそれぞれ駆動する駆動パルスを生成する。この場合には、3つの回転軸のうちの2つの回転軸が制御回転軸として抽出されるため、回転軸は特異点になることがない。そのため、加工精度をより向上させることができるとともに、加工時間もより短縮される。
【0036】
図5は、数値制御装置の他の実施形態を説明する機能ブロック図である。この数値制御装置100Aでは、パルス生成部103に第3のパルス生成部103cがさらに付加されている。また、回転軸抽出部106は、制御回転軸に加えて、特異点回転軸を抽出するように構成される。その他の構成は、図3に示す数値制御装置100と同一構成であるため、それらについての詳細な説明は省略する。
【0037】
回転軸抽出部106は、特異点距離と閾値とを比較した場合に、特異点距離が閾値以内である回転軸を特異点回転軸として抽出する。すなわち、例えば、回転軸が回転軸S1と回転軸S2の2軸であり、回転軸S1の特異点距離d1が閾値を超える場合に、回転軸抽出部106は、特異点距離d1が閾値を超える1つの回転軸S1のみを制御回転軸として抽出する。その際に、回転軸抽出部106は、制御回転軸として抽出されなかったもう1つの回転軸S2を、特異点距離d2が閾値以内である特異点回転軸として抽出する。パルス生成部103の第3のパルス生成部103cは、特異点を通過する際に、回転軸抽出部106によって抽出された特異点回転軸に対して、制御回転軸に対する駆動パルスとは異なり、予め指定された角度まで回転させるように駆動する駆動パルスを生成する。
【0038】
この特異点回転軸の駆動について、図6A及び図6Bを用いて説明する。図6A及び図6Bは、特異点回転軸を制御した際の工具方向Sy,Sxを示している。中心点が特異点である。特異点を中心とする円が、回転軸抽出部106において制御回転軸を抽出する際に特異点距離と比較される閾値を示している。制御回転軸として抽出されなかった特異点回転軸は、特異点を挟んで閾値の範囲外に配置される指令始点から指令終点に亘って工具方向を移動させる。
【0039】
図6Aは、特異点回転軸を第3のパルス生成部103cによって制御しない場合を示している。この場合において、工具方向は、制御の始点から終点に向けて閾値内の範囲を移動する過程で特異点を通過する。このとき、回転軸が急激に変化する場合がある。これに対して、第3のパルス生成部103cは、図6Bに示すように、回転軸S2の特異点距離d2が閾値以内に入って特異点回転軸になったときに、予め指定された角度で回転するように特異点回転軸の回転を制御する。予め指定された角度は、特異点回転軸として抽出された回転軸(ここでは回転軸S2)の最大許容角度よりも小さい角度である。第3のパルス生成部103cは、特異点回転軸を、予め指定された角度ずつ回転させる。これによって、特異点回転軸は、閾値内に入った時点で緩やかに回転を開始し、特異点を避けて終点に至るように工具方向を移動させる。
【0040】
具体的には、第3のパルス生成部103cは、指令終点工具方向を指令解析部101から取得する。その後、第3のパルス生成部103cは、取得した工具方向から、特異点回転軸の指令終点角度Ceを算出する。さらに、第3のパルス生成部103cは、特異点回転軸の現在角度Cnを補間部102から取得する。その後、第3のパルス生成部103cは、パラメータ設定から特異点回転軸を回転させるための駆動パルスの最大許容値である最大回転パルスδCmaxを算出する。
【0041】
特異点距離算出部105では、特異点回転軸について、指令終点における特異点距離が算出される。回転軸抽出部106では、特異点回転軸の指令終点における特異点距離が閾値を超えることを確認する。このとき、回転軸抽出部106は、特異点回転軸の指令終点における特異点距離が閾値を超えることを確認した場合は、現在の特始点回転軸の特異点距離が閾値以内であることを確認する。
【0042】
現在の特始点回転軸の特異点距離が閾値以内である場合には、第3のパルス生成部103cは、指令値の間を補間した補間指令値に関わらず、特異点回転軸を以下に示すように回転させる駆動パルスを生成する。
【0043】
Ce−Cn>0の場合
a.Ce−Cn>δCmaxの場合、特異点回転軸をδCmax回転させる。
b.Ce−Cn<δCmaxの場合、特異点回転軸をCe−Cn回転させる。
Ce−Cn<0の場合
a.−(Ce−Cn)>δCmaxの場合、特異点回転軸を−δCmax回転させる。
b.−(Ce−Cn)<δCmaxの場合、特異点回転軸をCe−Cn回転させる。
【0044】
これによれば、特異点回転軸は、図6Bにおいて破線で示すように、閾値内に入った時点で緩やかに回転を開始し、特異点を避けて終点に至るように工具方向を移動させる。そのため、ワークWの面品位を低下させる回転軸の急激な角度変化が避けられる。
【0045】
なお、以上の実施形態では、移動軸部材として、5軸加工機1及び6軸加工機2においてワークWに対して加工を行う工具15,25を例示した。しかし、移動軸部材は、軸の長さ方向が示す方向である指示方向が数値制御装置によって制御される移動可能な軸部材であればよく、工具15,25に限定されない。移動軸部材は、例えば、加工機に設けられるプローブ(図示せず)等であってもよい。
【0046】
以上の実施形態では、特異点距離算出部105は、ワークWに対する加工指令に基づく2以上の回転軸のそれぞれの回転軸方向と工具方向とから、特異点距離をそれぞれ算出するように構成される。しかし、特異点距離算出部105は、加工指令以外の動作指令、例えば機械の移動指令等の動作指令に基づく2以上の回転軸のそれぞれの回転軸方向と移動軸部材の軸の指示方向とから、特異点距離をそれぞれ算出するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
100,100A 数値制御装置
105 特異点距離算出部
106 回転軸抽出部
103 パルス生成部
103a 第1のパルス生成部
103b 第2のパルス生成部
103c 第3のパルス生成部
S1,S2,S3 回転軸
St 工具方向
W ワーク
【要約】
特異点の近傍において回転軸の角度の急激な変化を抑制でき、任意の機械構成にも対応できる数値制御装置を提供する。2以上の回転軸によって移動軸部材の軸の指示方向を数値制御する数値制御装置であって、動作指令に基づく2以上の回転軸の回転軸方向と指示方向とから特異点距離をそれぞれ算出する特異点距離算出部と、特異点距離算出部によって算出された特異点距離に基づいて、指示方向を制御する制御回転軸を抽出する回転軸抽出部と、回転軸抽出部によって抽出された制御回転軸を基に制御回転軸を駆動するパルスの生成を行うパルス生成部とを備え、回転軸抽出部は、特異点距離と予め設定された閾値とを比較することによって閾値を超える回転軸を制御回転軸として抽出し、又は、特異点距離同士を比較することによって特異点距離が大きい回転軸を制御回転軸として抽出する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B