(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記曲線部において、前記磁力線の磁場ベクトルが前記断面中心線と直交する面と平行になる点は、前記断面中心線よりも前記第2部分の側に位置しており、前記断面中心線からの距離が0.1mmから0.4mmの範囲である
ことを特徴とする請求項5又は6記載のイオンガン。
アノードと、前記アノードに対向する第1部分及び第2部分を有するカソードと、前記第1部分と前記第2部分との間に空間磁場を形成する磁石と、を有し、前記カソードの前記第1部分と前記第2部分との間に曲線部を含む環状の間隙が設けられたイオンガンにおいて、前記間隙から射出されるイオンビームを調整するイオンビームの調整方法であって、
前記曲線部の前記第1部分と前記第2部分との間に形成される磁力線のボトムの位置を前記間隙の断面中心線よりも内側方向にシフトすることにより、前記間隙から射出されるイオンビームの中心位置を調整する
ことを特徴とするイオンビームの調整方法。
アノードと、前記アノードに対向する第1部分及び第2部分を有するカソードと、前記第1部分と前記第2部分との間に空間磁場を形成する磁石と、を有し、前記カソードの前記第1部分と前記第2部分との間に曲線部を含む環状の間隙が設けられており、前記第1部分が前記間隙に対して内側に配され、前記第2部分が前記間隙に対して外側に配されており、前記磁石が前記第1部分及び前記第2部分と前記アノードとの間の空間に前記第2部分から前記第1部分の方向に向かう磁力線を形成するイオンガンにおいて、前記間隙から射出されるイオンビームを調整するイオンビームの調整方法であって、
前記曲線部において、前記磁力線と前記間隙の断面中心線とが交差する点の磁場ベクトルを、前記断面中心線と直交する面に対して前記アノードの側に傾斜させることにより、前記間隙から射出されるイオンビームの中心位置を調整する
ことを特徴とするイオンビームの調整方法。
アノードと、前記アノードに対向する第1部分及び第2部分を有するカソードと、前記第1部分と前記第2部分との間に空間磁場を形成する磁石と、前記第1部分と前記磁石を磁気的に結合する第1ヨークと、前記第2部分と前記磁石を磁気的に結合する第2ヨークと、を有し、前記カソードの前記第1部分と前記第2部分との間に環状の間隙が設けられたイオンガンにおいて、前記間隙から射出されるイオンビームを調整するイオンビームの調整方法であって、
前記第1ヨークと前記第2ヨークの磁気抵抗が異なり、
前記第1ヨーク又は前記第2ヨークの前記磁気抵抗は調整可能である
ことを特徴とするイオンビームの調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態によるイオンガンの構造について、
図1乃至
図3Bを用いて説明する。
図1は、本実施形態によるイオンガンの構造を示す斜視図である。
図2は、本実施形態によるイオンガンの構造を示す平面図である。
図3A及び
図3Bは、本実施形態によるイオンガンの構造を示す概略断面図である。
図3Aは
図2のA−A′線断面図であり、
図3Bは
図2のB−B′線断面図である。
【0015】
本実施形態によるイオンガン10は、
図1乃至
図3Bに示すように、磁極板20A,20Bと、磁石32と、ヨーク34と、アノード40と、を含み、略直方体形状の外観をなしている。イオンガン10の一主面には、
図1に示すように、イオンビームを射出するための射出口22が設けられている。
【0016】
磁極板20A及び磁極板20Bは、導電性を有する高透磁率の磁性材料からなる板状体である。磁極板20Bは、磁極板20Aの外周形状に応じた開口部を有する環状の板状体である。磁極板20Aは、磁極板20Bとの間に所定の間隙(ギャップ)を確保するように、磁極板20Bの開口部の内側に配される。磁極板20A及び磁極板20Bは、所定の間隙を空けて配置することで空間磁場を形成する磁極としての機能を備え得る。また、磁極板20A及び磁極板20Bは、アノード40に対向するカソード(陰極)としての機能をも備える。磁極板20Aはカソードの第1部分を構成し、磁極板20Bはカソードの第2部分を構成する。
【0017】
磁極板20Aと磁極板20Bとの間の間隙は、磁極板20Aの外周及び磁極板20Bの内周に沿った環状の開口部を形成している。このように形成される環状の開口部が、イオンビームの射出口22を構成している。射出口22は、例えば
図1及び
図2に示すように、直線状の直線部22aと、半円状の曲線部22bと、を含み得る。なお、射出口22は、放電を維持するために環状であることが好ましいが、その形状は特に限定されるものではない。例えば、曲線部22bには、
図23に示すような真円形状の一部や楕円形状の一部などの任意の形状を適用可能である。曲線形状の曲率は一定でもよいし、変動してもよい。
【0018】
平面視において射出口22を中心に見ると、
図2に示すように、磁極板20Aは環状の射出口22の内側に位置し、磁極板20Bは環状の射出口22の外側に位置している。本明細書において、射出口22の「内側」と表現するときは射出口22に対して磁極板20Aの側であることを示し、射出口22の「外側」と表現するときは射出口22に対して磁極板20Bの側であることを示すものとする。
【0019】
磁極板20A及び磁極板20Bは、導電性を有する高透磁率の磁性材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、SUS430等の強磁性ステンレス鋼、SmCo合金、NdFe合金等により構成され得る。
【0020】
磁石32及びヨーク34は、
図2及び
図3に示すように、環状の凹部36を有する構造体30を構成している。磁極板20A及び磁極板20Bは、凹部36に沿って射出口22がその上に位置するように、構造体30の凹部36が設けられた面の上に接合されている。ヨーク34は、磁石32及び磁極板20A,20Bに磁気的に結合し、磁石32から発生される磁束を磁極板20A,20Bに導く磁気導体としての役割を有する。磁石32及びヨーク34は、磁極板20A,20B、磁石32及びヨーク34によって構成される磁気回路(磁路)の内側に凹部36が位置するように配される。磁石32は、ヨーク34を介して磁極板20Aと磁極板20Bとの間に空間磁場を形成する。ヨーク34及び磁石32は、磁極板20A,20Bに電気的に接続され得る。
【0021】
ヨーク34は、導電性を有する高透磁率の磁性材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、SUS430等の強磁性ステンレス鋼、SmCo合金、NdFe合金等により構成され得る。磁石32は、永久磁石でも電磁石でも構わない。磁石32によって磁極板20Aと磁極板20Bとの間に形成される磁場における最大磁束密度は、1000[Gauss]程度であることが好ましい。
【0022】
ヨーク34には、構造体30の外部から凹部36内に連通するガス導入孔38が設けられている。なお、
図3A及び
図3Bには構造体30の底部に設けられた複数のガス導入孔38を示しているが、ガス導入孔38の数や配置場所は、特に限定されるものではない。
【0023】
磁石32は、射出口22の直線部22aにおいては、
図3Aに示すように、射出口22の断面中心線24上に位置している。別の言い方をすると、磁石32と磁極板20Bとの間の距離は、磁石32と磁極板20Aとの間の距離とほぼ等しくなっている。或いは、磁石32と磁極板20Bとの間の磁路の長さは、磁石32と磁極板20Aとの間の磁路の長さとほぼ等しくなっている。なお、本明細書において射出口22の断面中心線24とは、射出口22の幅方向の中心を通るイオンビームの射出方向(Z方向)に平行な直線をいうものとする。
【0024】
また、磁石32は、射出口22の曲線部22bにおいては、
図3Bに示すように、射出口22の断面中心線24よりも外側に位置している。別の言い方をすると、磁石32と磁極板20Bとの間の距離は、磁石32と磁極板20Aとの間の距離よりも近くなっている。或いは、磁石32と磁極板20Bとの間の磁路の長さは、磁石32と磁極板20Aとの間の磁路の長さよりも短くなっている。
【0025】
アノード(陽極)40は、凹部36の形状に応じた環状の構造体であり、磁極板20A,20B、磁石32及びヨーク34から離間して凹部36の中に収容される。アノード40は、カソードとしての磁極板20A,20Bと対向し、磁極板20A,20Bとともに、磁極板20A,20Bとアノード40との間の空間に生じたプラズマ中のイオンを加速する加速電極としての機能を備える。アノード40は、特に限定されるものではないが、例えば図示しない絶縁体からなるスペーサ等により、構造体30に固定され得る。アノード40は、導電性を有していればよく、磁気的な考慮は不要であり、例えば非磁性のステンレス鋼などにより構成され得る。
【0026】
次に、磁極板20A,20Bとアノード40とが対向する部分における具体的な形状について、
図4を用いて説明する。
図4は、磁極板20A,20Bとアノード40とが対向する部分の形状を概念的に示した断面図である。
【0027】
射出口22から射出されるイオンビームの特性は、磁極板20A,20Bの先端部の形状や磁極板20A,20Bとアノード40との間の位置関係などにより大きく変化する。そのため、磁極板20A,20Bの先端部の形状や磁極板20A,20Bとアノード40との間の位置関係などは、必要とされるイオンビームの特性に応じて適宜設定されるが、典型的には、例えば
図4に示すような関係に設定され得る。
【0028】
磁極板20A,20Bの先端部は、例えば
図4に示すように、アノード40に対向する面側の角部が面取りされたテーパ形状に成形され得る。射出口22の幅をG、磁極板20A,20Bの最薄部の厚さをT1、テーパ部の厚さをT2、磁極板20A,20Bとアノード40との間隔をSとすると、これらはいずれも数mm程度のサイズに設定され得る。また、テーパ角度θは45度程度に設定され得る。なお、磁極板20A,20Bの先端部の形状や各部のサイズは一例であり、特に限定されるものではない。また、イオンガンによっては、磁極板20A,20Bのアノード40とは反対の面側の角部が面取りされることもある。
【0029】
次に、本実施形態によるイオンガンの動作について、
図5A及び
図5Bを用いて説明する。
図5A及び
図5Bは、本実施形態によるイオンガンの動作を説明する図である。
図5Aは
図2のA−A′線断面図に対応し、
図5Bは
図2のB−B′線断面図に対応している。なお、
図5A及び
図5Bに示される断面は、射出口22の幅が最小となる方向にイオンガン10を切断したときに現れる面であるものとする。また、本願におけるイオンガンの断面は、射出口22の幅が最小となる方向にイオンガン10を切断したときに現れる面であるものとする。
【0030】
まず、ガス導入孔38を介して凹部36にアルゴン(Ar)等の放電用のガスを供給し、イオンガン10の内部の圧力が0.1Pa程度になるように調整する。使用環境の圧力(例えば、イオンガン10が設置される真空処理装置のチャンバ内の圧力)が既に0.1Pa程度でありその状態で放電が可能な場合には、ガスの供給動作は省略してもよい。
【0031】
次に、カソードとしての磁極板20A,20B及びヨーク34を接地電位(0V)とし、アノード40に図示しない電源から例えば1000V〜4000V程度の電圧を印加する。これにより、アノード40と磁極板20A,20Bとの間に電界が生じ、その電界によってイオンガン10の内部に導入したガスが励起、解離、電離され、プラズマ50が生成される。
【0032】
一方、磁石32のN極から出た磁束(磁力線60)は、ヨーク34及び磁極板20Bを通り、磁極板20Bの先端から放出される。磁極板20Bの先端から放出された磁力線60は、斥力で広がった後、磁極板20Aへと吸い込まれる。その結果、磁極板20Aと磁極板20Bとの間のギャップ空間では、
図5A及び
図5Bに示すように、磁力線60が上下に凸の形状となる。このような形状の磁場空間は、ミラー磁場と呼ばれる。ミラー磁場は、その中に荷電粒子を閉じ込めるように作用する。
【0033】
図6は、ミラー磁場により生じる磁気ミラー力を説明する模式図である。
図6に示すように、磁力線60に密の部分と疎の部分とがあると、ミラー磁場の中の荷電粒子は磁力線60が密の部分から磁力線が疎の部分へと向かう方向に磁気ミラー力64を受ける。これにより、荷電粒子はミラー磁場の中に閉じ込められる。また、ミラー磁場の中でプラズマ50を生成すると、磁場がないときと比較して高い密度のプラズマ50となる。
【0034】
プラズマ50中の電子は、磁極板20A,20Bとアノード40との間の電界によりアノード40へと引き込まれる。また、プラズマ50中の陽イオンは、磁極板20A,20Bとアノード40との間の電位差によって加速され、イオンビーム52となる。
【0035】
本実施形態によるイオンガン10は、前述のように、射出口22の曲線部22bにおいて、磁石32を射出口22の断面中心線24よりも外側に配置していることを1つの特徴としている。本実施形態のイオンガン10をこのように構成している理由について、参考例によるイオンガンとの比較を交えつつ、以下に説明する。
【0036】
図7A及び
図7Bは、参考例によるイオンガンの構造及び動作を示す概略断面図である。
図7Aは
図1のA−A′線断面図に対応し、
図7Bは
図1のB−B′線断面図に対応している。
図7A及び
図7Bに示す参考例によるイオンガンは、磁石32の配置が異なるほかは、本実施形態によるイオンガン10と同様である。すなわち、参考例によるイオンガンにおいて、磁石32は、アノード40を挟んで射出口22と対向する位置に配置されている。すなわち、磁石32は、射出口22の直線部22a及び曲線部22bの両方において、射出口22の断面中心線24上に位置している。
【0037】
一般的なイオンガンでは、射出口22の断面中心線24に対して磁場が対称となるように磁場設計がなされる。このように磁場設計をすることで、生成されたプラズマ50の中心が射出口22の断面中心線24上に位置するようになり、磁極板20A,20Bへのイオンビーム52の衝突を最小化し、ひいてはイオンビーム52を効率よく射出することができる。この目的のもと磁石32については、例えば
図7A及び
図7Bに示す参考例によるイオンガンのように、アノード40を挟んで射出口22と対向する位置に配置することが多い。
【0038】
しかしながら、射出口22の曲線部22bにおいて直線部22aと同様の磁場設計を行うと、
図7Bに示すように、生成したプラズマ50の中心が射出口22の断面中心線24よりも外側にシフトし、磁極板20Bに衝突するイオンビーム52が増加する。これにより、射出口22からイオンビーム52を効率よく射出することができなくなる。
【0039】
また、磁極板20A,20Bは衝突するイオンビーム52によるスパッタリング作用によって時間とともに削れていき、徐々に放電安定性が低下し、最終的には放電を維持できなくなる。そのため、磁極板20A,20Bは定期的に交換する必要があるが、衝突するイオンビーム52が増加すると磁極板20A,20Bが削れる量も多くなり、メンテナンス周期が短くなる。また、磁極板20A,20Bがスパッタリングされることにより生じるパーティクルは装置汚染の原因となるため、磁極板20A,20Bに衝突するイオンビーム52は可能な限り少なくすることが望ましい。
【0040】
射出口22の曲線部22bにおいてプラズマ50の中心が射出口22の断面中心よりも外側にシフトする原因について、
図8及び
図9を用いて説明する。
図8は、射出口22の曲線部22bに生じる磁気ミラー力を説明する模式図である。
図9は、射出口22の曲線部22bにおけるプラズマ50とアノード40及び磁極板20A,20Bとの電気的な関係を示す図である。
【0041】
磁極板20A,20Bに平行な面(XY平面)における曲線部22bの磁力線60の間隔は、
図8に示すように、磁極板20Aから磁極板20Bの方向に向かって徐々に広がる。すなわち、磁力線60は、磁極板20Aの側(射出口22よりも内側)で密に、磁極板20Bの側(射出口22よりも外側)で疎になる。この結果、プラズマ50は、
図7Bに示すように、磁気ミラー効果によって外側向きの磁気ミラー力64を受け、磁極板20Bの側(射出口22の断面中心線24よりも外側)にシフトするようになる。
【0042】
また、曲線部22bにおいて磁極板20A,20Bがプラズマ50に接する面積を比較すると、磁極板20Aがプラズマ50に接する面積(電極面積)よりも、磁極板20Bがプラズマ50に接する面積(電極面積)の方が大きくなる。したがって、プラズマ50と磁極板20Aとの間の抵抗R
Aとプラズマ50と磁極板20Bとの間の抵抗R
Bとを比較すると、磁極板20Aよりも電極面積の大きい磁極板20Bの方がプラズマ50との間の抵抗が小さくなる(R
A>R
B)。すなわち、磁極板20Aよりも磁極板20Bの方がカソードとして強く作用する。その結果、より多くの電流が磁極板20Bの側に流れ、プラズマ50の生成も磁極板20Bの側で多くなる。
【0043】
これら2つの作用により、射出口22の曲線部22bでは、プラズマ50の中心が射出口22の断面中心線24よりも外側にシフトすることになる。
【0044】
このような観点から、本実施形態によるイオンガン10では、射出口22の曲線部22bにおいて磁力線60のボトム62が射出口22の断面中心線24よりも磁極板20Aの側に位置するように磁場設計を行っている(
図5Bを参照)。すなわち、曲線部22bの磁極板20Aと磁極板20Bとの間に形成される磁力線60のボトム62の位置を射出口22の断面中心線24よりも内側方向にシフトするように、射出口22から射出されるイオンビーム52の中心位置を調整する。ここで、本明細書において磁力線60のボトム62とは、磁極板20A,20Bとアノード40との間の空間における磁力線60上の点であって、磁力線60に対する接線の方向が射出口22に対向するアノード40の面と平行になる点を意味するものとする。
【0045】
別の観点から見ると、曲線部22bの磁極板20A,20Bとアノード40との間の空間において磁極板20Bから磁極板20Aに向かう磁力線60の方向(磁場ベクトル)が、射出口22の断面中心線24と磁力線60とが交差する点において、断面中心線24と直交する面66に対してアノード40の側に傾斜している(
図10参照)。すなわち、曲線部22bにおいて、磁力線60と射出口22の断面中心線24とが交差する点の磁場ベクトルが、断面中心線24と直交する面に対してアノード40の側に傾斜するように、射出口22から射出されるイオンビーム52の中心位置を調整する。
【0046】
図11は、磁極板20A,20Bとアノード40との間の空間における電子の動きを説明する模式図である。プラズマ内では、電離によって絶えず電子とイオンとが生成されている。生成された電子eは、磁極板20A,20Bとアノード40との間の電位差によってアノード40に引き寄せられるが、磁界の力(ローレンツ力)も受けるため、磁力線60に絡まるように磁力線60に沿って移動し、ボトム62を中心として往復運動する。往復運動する電子eは、ガスとの衝突によって徐々にエネルギーを失っていき、最終的にアノード40に捕集される。往復運動する間に電子eの運動エネルギーが最も高くなるのは、電子eが磁力線60のボトム62に位置するときである。そのため、電離の発生頻度、つまりプラズマ50の密度も、磁力線60のボトム62の近傍が最も高くなる。したがって、磁力線60のボトム62の位置を射出口22の断面中心線24からずらすように磁場設計を行えば、それに応じてプラズマ50やイオンビーム52の中心をも射出口22の断面中心線24からずらすことが可能となる。
【0047】
したがって、磁気ミラー効果による外側方向へのプラズマ50の移動を相殺するように磁力線60のボトム62の位置を射出口22の断面中心線24よりも内側方向へずらすことで、プラズマ50の中心を射出口22の断面中心線24の近傍にシフトすることができる。これにより、射出口22の曲線部22bにおいても直線部22aと同様、イオンビーム52の磁極板20A,20Bへの衝突を最小化し、イオンビーム52を効率よく射出することができる。
【0048】
なお、磁力線60は無数に存在するため、磁力線60のボトム62も無数に存在する。本発明で重要となるのは、そのメカニズムからも分かるように、プラズマ50が生成される高さにおける磁力線60のボトム62の位置である。多くの場合、プラズマ50が生成されるのはアノード40の表面から1mm程度の高さ付近である。したがって、一例では、磁力線60のボトム62の位置は、アノード40の表面から1mmの高さにおける磁力線60のボトム62の位置として定義することができる。
【0049】
次に、磁力線60のボトム62の位置を射出口22の断面中心線24から内側にシフトする量について説明する。なお、ボトム62のシフト量に関する検討は、汎用の磁場解析ソフトウェアであるELF/MAGICと、汎用のプラズマ解析ソフトウェアであるPEGASUSを用い、シミュレーションにより行った。シミュレーションの条件は、プラズマ生成用のガスをAr、チャンバ内圧力を0.07Pa、アノード40への印加電圧を3000Vとした。
【0050】
図12は、磁力線60のボトム62の位置を変えたときの磁極板20A,20Bの削れ量についてシミュレーションを行った結果を示すグラフである。縦軸は、磁極板20Aの削れ量と磁極板20Bとの削れ量との比(削れの内外比)を表している。縦軸の値は、磁極板20Aの削れ量及び磁極板20Bの削れ量のうち、大きい方の値を小さい方の値で割ったものである。縦軸の値は、磁極板20Bの削れ量が磁極板20Aの削れ量よりも大きい場合に正の値を示し、磁極板20Aの削れ量が磁極板20Bの削れ量よりも大きい場合に負の値を示すものとする。横軸は、射出口22の断面中心線から磁力線60のボトム62までの距離(磁力線のボトムの位置)を表している。横軸の値は、ボトム62の位置が射出口22の断面中心線24に対して外側方向にシフトしているときのシフト量を正の値、ボトム62の位置が射出口22の断面中心に対して内側方向にシフトしているときのシフト量を負の値で示している。
【0051】
図12に示すように、磁極板20A,20Bの削れの内外比は、磁力線60のボトム62の位置に対して概ね比例関係にある。削れの内外比は、磁力線60のボトム62の位置が外側方向にシフトするほど正方向に大きくなり、磁力線60のボトム62の位置が内側方向にシフトするほど負方向に大きくなる。
【0052】
例えば、射出口22の曲線部22bにおける磁力線60のボトム62が射出口22の断面中心線24上に位置している場合(シフト量=0mm)、前述のように、プラズマ50及びイオンビーム52の中心は射出口22の断面中心線24よりも外側方向にシフトする。この場合、磁極板20Bの削れ量は、磁極板20Aの削れ量の2.1倍程度であった。
【0053】
磁極板20A,20Bの削れ量を均等に、すなわちプラズマ50及びイオンビーム52の中心を射出口22の断面中心線24の付近にシフトするためには、磁力線60のボトム62を射出口22の断面中心線24よりも内側方向にシフトすればよい。
図12の例では、磁力線60のボトム62の位置を、射出口22の断面中心よりも0.1mm〜0.4mm程度、内側方向にシフトすることが好ましく、射出口22の断面中心よりも0.25mm内側方向にシフトするのが最適であることが分かった。
【0054】
削れの内外比が均等な位置では、磁極板20A,20Bの削れの絶対量も小さくなる傾向がある。発明者等の検討では、ボトム62のシフト量を0.1mm〜0.4mmに設定することにより、ボトム62のシフト量を0mmに設定した場合よりも、磁極板20A,20Bの削れ量を最大で20%程度低減することができた。このことは、磁極板20A,20Bの発熱、処理物への汚染、ビームロス等についても最大で20%程度低減できることを意味している。
【0055】
また、本発明者等の検討では、ボトム62のシフト量を0.1mm〜0.4mmに設定することにより、ボトム62のシフト量を0mmに設定した場合よりも、削れレートのピーク値を1.3分の1から1.8分の1程度まで低減することができた。このことは、部品の寿命やメンテナンス周期が1.3倍〜1.8倍程度長くなることに相当する。
【0056】
なお、磁力線60のボトム62の位置の適切なシフト量は、イオンガン10の構造や放電条件などによって変化する。例えば、イオンガン10のサイズや射出口22の曲線部22bの曲率が大きくなった場合は、最適なシフト量は上記の値より大きくなると考えられる。磁力線60のボトム62の位置のシフト量は、イオンガン10の構造や放電条件などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0057】
射出口22の曲線部22bにおいて磁力線60のボトム62の位置をシフトする方法は特に限定されるものではないが、一例では本実施形態において説明したように、磁石32の位置を変える方法が挙げられる。磁力線60のボトム62の位置をシフトすることは射出口22の断面中心線24に対する磁場の対称性を崩すことであり、磁石32の場所を移動することが最も直接的な方法であるといえる。
【0058】
図13は、磁石下の距離と磁力線のボトム位置との関係をシミュレーションにより求めた結果を示すグラフである。縦軸の「磁石下の距離」は、構造体30の下面から磁石32の下面までの距離x(
図5B参照)を表している。横軸の「磁力線のボトムの位置」は、ボトム62が射出口22の断面中心線24上に位置しているときを0とし、断面中心線24よりも内側の位置をマイナスの符号で表し、断面中心線24よりも外側の位置をプラスの符号で表している。シミュレーションでは、磁石32の大きさは変えずに磁石下の距離xを変化している。
【0059】
図13に示すように、磁石下の距離xと磁力線60のボトム62の位置とは概ね比例関係にある。磁石下の距離xを変化することで、磁極近傍における磁場の内外バランスが変化し、磁力線60のボトム62の位置が変化する。磁石下の距離xを増加することにより、磁力線60のボトム62の位置を射出口22の内側方向にシフトすることができる。このシミュレーション結果によれば、磁石下の距離xをYにすることで、磁力線60のボトム62の位置を0.25mm内側にシフトすることができる。Yは数十mm程度のサイズに設定され得る。
【0060】
図14は、射出口22の断面中心線24上におけるアノード40からの距離と磁力線60の傾斜角度との関係をシミュレーションにより求めた結果を示すグラフである。
図14には、磁力線60のボトム62の位置を−0.1mm、−0.4mm及び−0.56mmに設定した場合のシミュレーション結果をそれぞれ示している。磁力線60のボトム62の位置は、射出口22の断面中心線24よりも内側の位置をマイナスの符号で、射出口22の断面中心線24よりも外側の位置をプラスの符号で表している。磁力線60の傾斜角度は、射出口22の断面中心線24と直交する面66(
図10)に平行な場合を0度とし、アノード40の側に傾斜している場合をマイナスの符号で表し、磁極板20A,20Bの方向に傾斜している場合をプラスの符号で表している。
【0061】
図14に示すように、アノード40に近い磁力線60ほど、射出口22の断面中心線24と交差する点における磁力線60のアノード40方向への傾斜角度は大きくなる。また、磁力線60のボトム62の位置のシフト量が内側方向に大きくなるほど、射出口22の断面中心線24と交差する点におけるアノード40方向への傾斜角度は大きくなる。このシミュレーション結果によれば、磁極板20A,20Bの削れの絶対量や削れレートのピーク値に改善が見られたシフト量−0.1mmから−0.4mmの範囲における磁力線60の傾斜角度は、1.5度から−3.5度の範囲であることが判った。
【0062】
すなわち、曲線部22bにおいて、磁力線60と射出口22の断面中心線24とが交差する点の磁場ベクトルは、断面中心線24と直交する面66に対して磁極板20A,20Bの側に0度から1.5度の範囲、アノード40の側に0度から3.5度の範囲の第1の角度で傾斜していることが望ましい。また、直線部22aにおいて、磁力線60と射出口22の断面中心線24とが交差する点の磁場ベクトルは、断面中心線24と直交する面66に対して第1の角度よりも小さい第2の角度をなしていることが望ましい。第2の角度の最適値は、磁場ベクトルが面66に平行となる0度である。
【0063】
磁場の対称性を崩して磁力線60のボトム62の位置をシフトする方法は、磁石32の位置を移動する方法に限定されるものではない。その他の方法としては、例えば、磁石32として電磁石を用いる場合にあっては印加電流を制御する方法などが挙げられる。
【0064】
このように、本実施形態によれば、イオンビームの射出効率及び均一性を向上することができる。また、磁極へのイオンビームの衝突を抑制し、経時変化の低減、メンテナンス周期の改善、ランニングコストの低減といった優れた効果を実現することができる。
【0065】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態によるイオンガンについて、
図15及び
図16を用いて説明する。
図15は、本実施形態によるイオンガンの構造を示す斜視図である。
図16は
図15のC−C′線断面におけるイオンガンの動作を示している。第1実施形態によるイオンガンと同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略し或いは簡潔にする。
【0066】
本実施形態によるイオンガン10は、
図15及び
図16に示すように、磁極板20A,20Bと、磁石32と、第1ヨーク34Aと、第2ヨーク34Bと、調整ヨーク34Cと、アノード40と、を含む。イオンガン10の一主面には、
図15に示すように、イオンビームを射出するための射出口22が設けられている。
【0067】
磁極板20Aは、
図16に示すように、第1ヨーク34Aを介して磁石32と磁気的に結合されている。また、磁極板20Bは、第2ヨーク34Bを介して磁石32と磁気的に結合されている。調整ヨーク34Cは、第1ヨーク34A、第2ヨーク34B及び/又は磁石32に接触するように設けられる。本実施形態では、
図15及び
図16に示すように、調整ヨーク34Cを第1ヨーク34Aの外周面の一部に配している。ただし、調整ヨーク34Cの配置はこれに限定されるものではない。例えば、調整ヨーク34Cは、第2ヨーク34Bの外周面の一部に設けてもよいし、第1ヨーク34A及び磁石32の外周面の一部に設けてもよいし、第2ヨーク34Bの外周面の全体に渡って設けてもよいし、第1ヨーク34Aに間接的に設けてもよい。或いは、調整ヨーク34Cは、構造体30の内部、例えば凹部36の内壁や内部を空洞にした第1ヨーク34Aの内部に設置することも可能である。また、厚さの異なる調整ヨーク34Cや同じ厚さの調整ヨーク34Cを複数用いることにより、調整ヨーク34Cと接触するヨークの磁気抵抗を調整できるように構成してもよい。
【0068】
第1実施形態では、
図5B、
図13に示すように、磁石32を射出口22の断面中心線24よりも外側に配し、磁石下の距離xを調整することで磁力線60のボトム62の位置を制御した。すなわち、磁石下の距離xを変更することで、磁極板20A,20Bの削れの内外比を調整した。しかしながら、イオンガンの構造によっては、イオンガン又は真空処理装置を組み立てた後に磁石下の距離xを変更することが困難な場合がある。
【0069】
そこで、本実施形態では、調整ヨーク34Cを用いることで、磁石下の距離xを変更することなく磁力線60のボトム62の位置を調整することを可能にしている。磁力線60のボトム62の位置は、磁極板20A,20Bの先端部から磁石までの各磁気抵抗の比率によって変化し得る。具体的には、磁力線のボトムは、磁気抵抗が大きい側にシフトする傾向にある。ここで、磁気抵抗は、磁性体である磁極板やヨークの断面積・透磁率に反比例し、長さに比例する。
【0070】
本実施形態では、上記特性を利用して、磁力線60のボトム62の位置を調整する。
図16に示すように、本実施形態のイオンガン10は、磁石32の上下に厚さの等しい第1ヨーク34Aと第2ヨーク34Bとを配して構成されている。磁極板20A,20Bの先端部から磁石32までの磁気抵抗の比率を調整するために、本実施形態では、調整ヨーク34Cを構造体30に配している。第1ヨーク34A及び第2ヨーク34Bの実質的な厚さ及び断面積は、接している調整ヨーク34Cの厚さ及び断面積を含んだものとなる。したがって、調整ヨーク34Cを用いることで磁気抵抗の比率を調整し、磁石下の距離xを変更することなく磁力線60のボトム62の位置を調整することができる。
【0071】
図17は、第1ヨークの断面積を変えたときの磁極板の削れ量についてシミュレーションを行った結果を示すグラフである。横軸は第1ヨークの断面積変化率を示し、縦軸は削れの内外比を示している。なお本実施形態では、第1ヨークの断面積変化率は、第2ヨーク34Bの断面積に対する第1ヨーク34A及び調整ヨーク34Cの断面積の比に相当する。
【0072】
図17に示すように、削れの内外比は、第1ヨーク34Aの断面積変化率が大きくなるほどにプラス側にシフトする。したがって、第1ヨーク34Aの断面積を適宜調整することにより、磁極板20A,20Bの削れの内外比を±1に最適化することができる。
【0073】
例えば、イオンガン又は真空処理装置の組み立て後において磁極板20A,20Bの削れの内外比が±1よりもマイナス側にシフトしている場合、磁力線のボトム位置は内側方向にシフトしている。したがって、このような場合には、調整ヨーク34Cの厚さを大きくして第1ヨーク34Aの断面積変化率を大きくし、磁力線のボトム位置が外側方向にシフトするようにする。逆に、イオンガン又は真空処理装置の組み立て後において磁極板20A,20Bの削れの内外比が±1よりもプラス側にシフトしている場合、磁力線のボトム位置は外側方向にシフトしている。したがって、このような場合には、調整ヨーク34Cの厚さを小さくして第1ヨーク34Aの断面積変化率を小さくし、磁力線のボトム位置が内側方向にシフトするようにする。このようにして調整ヨーク34Cの厚さを適宜増減することにより、磁極板20A,20Bの削れの内外比を最適値である±1の近傍に調整することができる。
【0074】
なお、磁力線のボトム位置は、調整ヨーク34Cによって第1ヨーク34Aの断面積を変えることにより調整してもよいし、調整ヨーク34Cによって第1ヨーク34A及び第2ヨーク34Bの双方の断面積を変えることにより調整してもよい。
【0075】
このように本実施形態では、調整ヨーク34Cを用いて磁力線60のボトム62の位置を制御することが可能である。したがって、本実施形態によれば、イオンガン又は真空処理装置を組み立てた後でも磁力線のボトムの位置を調整することが可能となる。
【0076】
なお、本実施形態では、イオンガン又は真空処理装置を組み立てた後に磁極板20A,20Bの削れの内外比を調整する場合を例に説明した。しかしながら、本実施形態に係る調整はこれに限定されるものではない。例えば、イオンガンの設計段階において磁力線60のボトム62の位置を制御し、磁極板20A,20Bの削れの内外比を調整することも可能である。すなわち、イオンガンの設計段階において、断面積、長さ、透磁率について磁極板20A,20Bや第1ヨーク34A及び第2ヨーク34Bを別個に設計することで、磁極板20A,20Bの削れの内外比を調整することができる。例えば、第1ヨーク34A及び第2ヨーク34Bが略同一の透磁率を有するように設計しても良いし、第1ヨーク34A及び第2ヨーク34Bが異なる透磁率を有するように設計しても良い。
【0077】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態によるイオンガンについて、
図18乃至
図21を用いて説明する。
図18は射出口22の曲線部22b(
図2のB−B′線断面に相当)におけるイオンガンの動作を示している。
図19は、
図18に示す磁極板20A,20Bの近傍の拡大図である。第1実施形態によるイオンガンと同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略し或いは簡潔にする。
【0078】
本実施形態によるイオンガンは、第1磁極カバー70A,70Bをさらに有する。第1磁極カバー70A,70Bは、磁極板20A及び磁極板20Bの表面全体を覆っている。即ち、磁極板20A,20Bと第1磁極カバー70A,70Bとが一体となって本実施形態によるイオンガンのカソードを構成している。磁極板20A,20Bの表面全体を覆うように第1磁極カバー70A,70Bが設けられるため、磁極板20A,20Bが直にプラズマやイオンと接触することがない。よって、スパッタリングによる磁極板20A,20Bの削れを低減させ、磁極板20A,20B及びイオンビーム特性の経時変化を抑制することができる。また、イオンガンの外部からの影響による磁極板20A,20Bの汚染を抑制できる。また、第1磁極カバー70A,70Bを構成する材料の選択を最適化することで、被処理物(被処理基板132)への望まない材料の付着を回避することができる。さらに、スパッタ率が低い磁極カバー材料を選択することで、イオンビームにより削られる磁極カバーの材料のアノードへの付着を低減でき、アノードのメンテナンス周期の改善及びランニングコストの低減が可能になる。
【0079】
本実施形態に用いられる磁極カバーは、
図18、
図19に示した第1磁極カバー70A,70Bの形状等に限定されず、例えば
図20、
図21に示すような種々の変更が可能である。
図20は、第2磁極カバー71A,71Bにより覆われた磁極板20A,20Bの近傍の拡大図である。第2磁極カバー71A,71Bは、第1磁極カバー70A,70Bと同様に、磁極板20A,20Bの表面全体を覆っている。第2磁極カバー71A,71Bは、磁極板20Aと磁極板20Bとが対向する表面を覆う部分において、アノード40とは反対の面側(本実施形態では被処理物(被処理基板132)の面側)の角部が面取りされ、傾斜面を有している。イオンビームは、イオンガンから発散角を伴って放射される。
そのため、対面部の当該被処理物側の角部に面取りを行っていない場合に、イオンビームが磁極カバーに衝突し、効率よくイオンビームを射出できないことがある。そこで、磁極カバーの射出口22部分のイオンガンの外表面(アノード40とは反対の面)の角部の面取りを行うことで、磁極カバーへのイオンビームの衝突を防ぎ、効率よくイオンビームを射出できる。
【0080】
図21は、第3磁極カバー72A,72B,73A,73Bにより覆われた磁極板20A,20Bの近傍の拡大図である。第3磁極カバー72A,72Bは、磁極板20A,20Bの、アノード40とは反対の面側(被処理物(被処理基板132)と対向する面側)の外表面を覆っている。また、第3磁極カバー73A,73Bは、磁極板20Aと磁極板20Bとが対向する面側の表面をそれぞれ覆っている。
図18〜
図20に示した磁極カバーと異なり、第3磁極カバー72A,72B,73A,73Bは、磁極板20A,20Bの表面のうち、アノード40とは反対の面側(被処理物(被処理基板132)と対向する面側)の外表面及び磁極板20Aと磁極板20Bとが対向する面側の表面のみを覆っている。磁極カバー72A,72Bによって覆われた磁極板20A,20B外表面は、スパッタリングにより削られた被処理物の材料の付着しやすい部分である。また、磁極カバー73A,73Bによって覆われた磁極板20A,20Bの表面は、イオンビームによって削られやすい箇所である。そこで、磁極カバーによって覆われる部分をこのような削られやすい箇所に限定することで、磁極カバーを設けることによる磁力線への影響を低減することができる。また、メンテナンス時に磁極板20A,20Bを外す必要がなくなり、磁極カバーの設置に必要な部品点数が減るため、作業性が向上する。さらに、磁極カバー自体の構造が簡易化されるため、磁極カバーを設置する際の取付け誤差を小さくでき、磁極カバーの製造時の許容公差を大きくすることができる。
【0081】
なお、
図21に示す構成例では、第3磁極カバー72Aと第3磁極カバー73Aとは独立した部品で構成し、また第3磁極カバー72Bと第3磁極カバー73Bとは独立した部品で構成している。しかしながら、第3磁極カバー72A,73A及び第3磁極カバー72B,73Bをそれぞれ一体の部品として構成してもよい。また、
図21に示す構成例では第3磁極カバー73A,73Bに対してのみに面取りがされているが、イオンビームの発散角に合わせて第3磁極カバー72A,72Bの射出口22側の角部を面取りし、傾斜面を有するようにしていても良い。
【0082】
磁極カバーは、磁力線への影響を考慮して、非磁性の材料で構成することが望ましい。さらには、イオンビームにより削られる磁極カバーの材料がアノードへ再付着することを抑制するために、磁極カバーをスパッタ率の低い材料で構成することが望ましい。例えば、チタン、タンタル、タングステン、炭素の単体若しくはこれらを含む化合物を用いて磁極カバーを構成することができる。また、磁極カバーを溶射膜や板状のバルクを用いて構成することもできる。板状のバルクを用いて磁極カバーを構成する場合には、メンテナンス周期を長く設定でき、磁極カバーを容易に交換できる。さらに、磁極カバーとして板状のバルクを用いることで、締結部材を用いて磁極カバーと磁極板とを固定することができ、或いは、締結部材を用いずに蟻ほぞと蟻溝によって磁極カバーと磁極板とを固定することもできる。
【0083】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態による真空処理装置について、
図22を用いて説明する。
図22は、本実施形態による真空処理装置の概略図である。第1実施形態によるイオンガンと同様の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略し或いは簡潔にする。
【0084】
本実施形態では、第1〜第3実施形態によるイオンガン10を適用した装置の一例として、半導体装置の製造などに用いられる真空処理装置の1つであるイオンビームエッチング装置について説明する。なお、第1〜第3実施形態によるイオンガンの適用例は、イオンビームエッチング装置に限定されるものではなく、イオンビームスパッタ装置などの成膜装置であってもよい。また、第1〜第3実施形態によるイオンガンの適用例は、真空処理装置に限定されるものでもなく、イオンガンを備えたその他の装置であってもよい。
【0085】
本実施形態による真空処理装置100は、
図22に示すように、真空チャンバ110と、真空ポンプ120と、被処理基板132を保持するホルダ130と、イオンガン140と、を主要な構成要素として備え得る。真空ポンプ120は、真空チャンバ110に接続されている。ホルダ130及びイオンガン140は、真空チャンバ110の中に設置されている。
【0086】
真空チャンバ110は、内部を真空状態に維持することができる処理室であり、その内部でエッチング、表面改質、表面清浄などの種々の処理を行うことが可能である。
【0087】
真空ポンプ120は、真空チャンバ110内の気体を排出し、真空チャンバ110内を真空状態にするための排気装置である。真空ポンプ120により真空チャンバ110内の気体を排出することで、真空チャンバの内部を10
−3〜10
−6Pa程度の高真空状態にすることが可能である。
【0088】
ホルダ130は、例えばSi、Ga、炭素などからなる被処理物(被処理基板132)を保持するための部材である。ホルダ130は、揺動機構を備えていてもよい。ホルダ130が揺動機構を備えることにより、被処理基板132に対して面内均一性の高い処理を施すことが可能である。ホルダ130は、その他の機能、例えば、被処理基板132を加熱する加熱機能などを更に備えていてもよい。
【0089】
イオンガン140は、第1実施形態で説明したイオンガンであって、ホルダ130に保持された被処理基板132と対向する位置に設置される。イオンガン140は、陽イオンのイオンビーム52を被処理基板132に向けて照射する。イオンガン140から放出されたイオンビーム52は、高い運動エネルギーを持ったまま被処理基板132に衝突する。これにより、被処理基板132の表面に対してエッチングなどの所定の処理を施すことができる。
【0090】
第1〜第3実施形態によるイオンガン10を用いて真空処理装置100を構成することにより、均一性の高いイオンビーム52を被処理基板132に照射することが可能となり、処理品質を高めることができる。また、磁極板20A,20Bへのイオンビーム52の衝突を低減できることにより、メンテナンス周期を伸ばすことができる。これにより、生産コストを改善し、被処理基板132の処理能力を向上することができる。また、イオンビーム52によって磁極板20A,20Bがスパッタリングされることにより生じるパーティクルによって真空チャンバ110の内部や被処理基板132が汚染されるのを抑制することができる。
【0091】
[変形実施形態]
本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0092】
例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を他の実施形態に追加した例や、他の実施形態の一部の構成と置換した例も、本発明の実施形態である。また、実施形態において特段の説明や図示のない部分に関しては、当該技術分野の周知技術や公知技術を適宜適用可能である。
【0093】
また、上記実施形態では、射出口22の直線部22aにおいて磁石32を射出口22の断面中心線24上に配置しているが、射出口22の断面中心線24に対して磁場が対称となる位置であれば、必ずしも断面中心線24上に配置する必要はない。
【0094】
また、上記実施形態では、放電用のガスとしてアルゴンガスを例示したが、放電用のガスはアルゴン等の希ガスに限定されるものではなく、酸素ガスや窒素ガスに代表される反応性ガスであってもよい。放電用のガスは、イオンガン10の使用目的等に応じて適宜選択することができる。
イオンガンは、アノードと、アノードに対向する第1部分及び第2部分を有するカソードと、第1部分と第2部分との間に空間磁場を形成する磁石と、を有する。カソードの第1部分と第2部分との間には、曲線部を含む環状の間隙が設けられている。磁石は、曲線部の第1部分と第2部分との間に、間隙の断面中心線よりも内側にボトムを有する磁力線を形成する。