特許第6985572号(P6985572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985572単鎖抗体のスクリーニング方法及び単鎖抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985572
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】単鎖抗体のスクリーニング方法及び単鎖抗体
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20211213BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20211213BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20211213BHJP
   C07K 16/42 20060101ALI20211213BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20211213BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20211213BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20211213BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20211213BHJP
   C40B 40/08 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   C12Q1/70ZNA
   C12P21/08
   C12N15/13
   C07K16/42
   C07K16/46
   C07K16/08
   C07K16/28
   C07K16/18
   !C40B40/08
【請求項の数】12
【全頁数】85
(21)【出願番号】特願2017-550314(P2017-550314)
(86)(22)【出願日】2016年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2016082988
(87)【国際公開番号】WO2017082214
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2019年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-219765(P2015-219765)
(32)【優先日】2015年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-24016(P2016-24016)
(32)【優先日】2016年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(74)【代理人】
【識別番号】100188606
【弁理士】
【氏名又は名称】安西 悠
(72)【発明者】
【氏名】熊田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐也
(72)【発明者】
【氏名】内村 誠一
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−525359(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/007698(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/126115(WO,A1)
【文献】 特表2002−522096(JP,A)
【文献】 特表2013−508700(JP,A)
【文献】 Journal of Chromatography A,2005年,Vol.1080(1),pp.22-28
【文献】 ASSAY and Drug Development Technologies,2007年,Vol.5(5),pp.1-8
【文献】 The Journal of Immunology,1988年,Vol.140(5),pp.1600-1604
【文献】 Molecular Immunology,1992年,Vol.29(5),pp.672-687
【文献】 Journal of Molecular Biology,1996年,Vol.263(4),pp.551-567
【文献】 Blood,2002年,Vol.100(13),pp.4502-4511
【文献】 Journal of Bioscience and Bioengineering,2008年,Vol.105(3),pp.261-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C07K 1/00−19/00
C12N 1/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含み、
前記選択工程は、前記ファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する解離速度定数を算出し、該解離速度定数の小さい順にランキングする工程を含む、
抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法において、
前記抗原がSf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質であり、前記単鎖抗体がウサギ由来であり、選択されるファージの提示する単鎖抗体が前記融合タンパク質に対して8.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する、方法。
【請求項2】
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含み、
前記選択工程は、前記ファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する解離速度定数を算出し、該解離速度定数の小さい順にランキングする工程を含む、
抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法において、
前記抗原がB型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Proteinであり、前記単鎖抗体がウサギ由来であり、選択されるファージの提示する単鎖抗体が前記Nucleotide-binding Proteinに対して6.68×10−5−1以下の解離速度定数を有する、方法。
【請求項3】
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含み、
前記選択工程は、前記ファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する解離速度定数を算出し、該解離速度定数の小さい順にランキングする工程を含む、
抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法において、
前記抗原がヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)であり、前記単鎖抗体がウサギ由来であり、選択されるファージの提示する単鎖抗体が前記C-reactive Protein
(CRP)に対して1.21×10−5−1以下の解離速度定数を有する、方法。
【請求項4】
Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質に対して8.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する、ウサギ由来の単鎖抗体。
【請求項5】
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含み、
前記選択工程は、前記ファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する解離速度定数を算出し、該解離速度定数の小さい順にランキングする工程を含む、
抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法において、
前記抗原がヒト血清由来IgAポリクローナル抗体であり、前記単鎖抗体がウサギ由来であり、選択されるファージの提示する単鎖抗体が前記ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対して8.69×10−5−1以下の解離速度定数を有する、方法。
【請求項6】
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含み、
前記選択工程は、前記ファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する解離速度定数を算出し、該解離速度定数の小さい順にランキングする工程を含む、
抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法において、
前記抗原がヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体であり、前記単鎖抗体がウサギ由来であり、選択されるファージの提示する単鎖抗体が前記ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体に対して3.7×10−5−1以下の解離速度定数を有し、
前記単鎖抗体が、さらにヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に結合し、該ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対して9.88×10−5−1M以下の解離速度定数を有する、方法。
【請求項7】
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含み、
前記選択工程は、前記ファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する解離速度定数を算出し、該解離速度定数の小さい順にランキングする工程を含む、
抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法において、
前記抗原がヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体であり、前記単鎖抗体がウサギ由来であり、選択されるファージの提示する単鎖抗体が前記ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体に対して3.7×10−5−1以下の解離速度定数を有し、
前記単鎖抗体が、前記ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体のL鎖に結合する単鎖抗体である、方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法であって、選択されるファージの提示する単鎖抗体が、前記ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体のL鎖に結合する単鎖抗体である、方法。
【請求項9】
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含み、
前記選択工程は、前記ファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する解離速度定数を算出し、該解離速度定数の小さい順にランキングする工程を含む、
抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法において、
前記抗原がヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体であり、前記単鎖抗体がウサギ由来であり、選択されるファージの提示する単鎖抗体が前記ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体に対して3.7×10−5−1以下の解離速度定数を有し、
前記単鎖抗体の重鎖の可変領域のアミノ酸配列が配列番号12の配列であり、軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が配列番号21の配列である、方法。
【請求項10】
請求項に記載の方法であって、選択されるファージの提示する重鎖の可変領域のアミノ酸配列が配列番号113の配列である、方法。
【請求項11】
請求項1〜3及び5〜10のいずれか1項に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングする工程、
スクリーニングされた単鎖抗体のアミノ酸配列を決定する工程、
決定されたアミノ酸配列の可変領域の配列に基づき、抗体をコードするDNAを作成する工程、及び
作成されたDNAを宿主細胞で発現させる工程
を含む、抗体の製造方法。
【請求項12】
抗体をコードするDNAがヒト化抗体をコードする請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単鎖抗体のスクリーニング方法及び単鎖抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
分子標的薬の形態として、抗体医薬品、低分子医薬品をはじめとし、ペプチド医薬品、サイトカインなどの生体内タンパク製剤のほか、siRNA、アプタマーなど、様々なものが研究・開発されている(例えば、特許文献1)。治療薬としての抗体の使用は、その特異性から、疾患細胞が特異的抗原を発現する病態の治療に有用である。抗体は、細胞表面に発現するタンパク質を抗原として結合し、結合した細胞に有効に作用する。抗体は、血中半減期が長く、抗原への特異性が高いという特徴を持ち、抗腫瘍剤としても非常に有用である。
【0003】
このような抗体の取得方法として、抗体ライブラリを用いたパニング(「砂の中から砂金を洗い出すこと」になぞらえて「パニング」と称している。)を行うことにより抗体を取得する技術が知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を単鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択する方法が知られている。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターに組み込み、ヒト抗体を容易に製造できるようになる(例えば、特許文献2、3)。
【0004】
このように、抗体ライブラリを用いたパニングによる抗体医薬の候補となる抗体を取得する方法等が知られている。しかし、当該技術分野においては、抗原とファージとを結合する際には、抗原をポリスチレン製のチューブやプレートに固定することが通常であり、ブロッキングの操作が必要であることや、チューブ等に吸着したタンパク質が変性してしまうことがあった。その結果、ファージライブラリの中には、ブロッキングに用いたタンパク質や変性したタンパク質と結合するものが生じ、目的とする抗原以外の抗原に結合するファージが取得されてしまうという問題があった。
【0005】
一方で、上記した抗体の取得方法とは逆に、多重膜リポソームを用いてペプチドライブラリから特定の抗体に結合するペプチドを取得する方法が開発されている(非特許文献1)。この文献では、モデルとして、多重膜リポソームに固定した抗オクタペプチド(FVNQHLCK、配列番号35)抗体に対して、ファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させたペプチドのライブラリを適用したところ、オクタペプチド(FVNQHLCK、配列番号35)が選択的に取得されることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−145366号公報
【特許文献2】特開2015−097496号公報
【特許文献3】特表平9−506508号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Chromatography A, 1080 (2005) 22-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分離効率に優れ、抗原との結合能が極めて大きい単鎖抗体のスクリーニング方法の提供、及び、該スクリーニング法により取得された単鎖抗体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ファージディスプレイ法により調製した抗体ライブラリを用いてパニングにより目的の抗体を取得する際に、従来のように、抗原をチューブ等に固定する方法を用いた場合に生じる、目的とする抗原以外の抗原に結合するファージが取得されやすいとの問題を、抗原を多重膜リポソームに結合させるという方法で解決できることを見出した。本発明は以下に示すとおりである。
【0010】
〔1〕
多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、
単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び
前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程
を含む、抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法。
〔2〕
前記単鎖抗体が前記抗原に対して1.5×10−2−1以下の解離速度定数を有する、〔1〕に記載の方法。
〔3〕
前記単鎖抗体がウサギ由来である、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕
前記抗原がタンパク質である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕
前記タンパク質が抗体である、〔4〕に記載の方法。
〔6〕
前記抗体がヒト血清由来IgGポリクローナル抗体又はヒト血清由来IgAポリクローナル抗体である、〔5〕に記載の方法。
〔7〕
前記単鎖抗体がヒト由来抗体のL鎖に結合する単鎖抗体である、〔5〕又は〔6〕に記載の方法。
〔8〕
前記タンパク質がエクソソーム由来タンパク質を含む、〔4〕に記載の方法。
〔9〕
前記タンパク質が、Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質である、〔8〕に記載の方法。
〔10〕
前記タンパク質がウイルス由来タンパク質である、〔4〕に記載の方法。
〔11〕
前記ウイルス由来タンパク質がインフルエンザウイルス由来タンパク質である、〔10〕に記載の方法。
〔12〕
前記インフルエンザウイルス由来タンパク質がB型インフルエンザウイルス由来タンパク質である、〔11〕に記載の方法。
〔13〕
前記B型インフルエンザウイルス由来タンパク質がB型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Protein である、〔12〕に記載の方法。
〔14〕
前記タンパク質が炎症性タンパク質である、〔4〕に記載の方法。
〔15〕
前記炎症性タンパク質がヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)である、〔14〕に記載の方法。
〔16〕
〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によりスクリーニングする工程、
スクリーニングされた単鎖抗体のアミノ酸配列を決定する工程、
決定されたアミノ酸配列の可変領域の配列に基づき、抗体をコードするDNA配列を作成する工程、及び
作成されたDNA配列を宿主細胞で発現させる工程
を含む、抗体の製造方法。
〔17〕
抗体をコードするDNA配列がヒト化抗体をコードする〔16〕に記載の製造方法。
〔18〕
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に対して3.0×10−8M以下の解離定数を有する単鎖抗体。
〔19〕
さらに、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に結合する、〔18〕に記載の単鎖抗体。
〔20〕
ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
〔21〕
ヒト由来抗体のL鎖に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
〔22〕
エクソソーム由来タンパク質を含むタンパク質に対して8.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
〔23〕
前記タンパク質が、Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質である、〔22〕に記載の単鎖抗体。
〔24〕
ウイルス由来タンパク質に対して1.0×10−2−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
〔25〕
前記ウイルス由来タンパク質がインフルエンザウイルス由来タンパク質である、〔24〕に記載の単鎖抗体。
〔26〕
前記インフルエンザウイルス由来タンパク質がB型インフルエンザウイルス由来タンパク質である、〔25〕に記載の鎖抗体。
〔27〕
前記B型インフルエンザウイルス由来タンパク質がB型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Proteinである、〔26〕に記載の単鎖抗体。
〔28〕
炎症性タンパク質に対して1.0×10−2−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
〔29〕
前記炎症性タンパク質がC-reactive Protein (CRP)である、〔28〕に記載の単鎖抗体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分離効率に優れ、抗原との結合能が極めて大きい単鎖抗体のスクリーニング方法の提供、及び、該スクリーニング法により取得された単鎖抗体の提供ができる。
多重膜リポソームは分散性が良好であるため、従来の方法に比べて、多重膜リポソームに結合した抗原と抗体との接触を効率よく行うことができ、遠心分離により簡便に回収することもできる。また、多重膜リポソームを用いれば、担体に非特異的に吸着するファージが極めて少なくなる。さらに、抗原は多重膜リポソームの膜上を側方拡散できるため、ファージライブラリとの結合性が大きく、分離効率に優れ、抗原との結合能が極めて大きい単鎖抗体を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1、比較例1−2において取得されたクローン数に対するポジティブクローン数の割合を示したグラフである。
図2】実施例2及び比較例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示したグラフである。
図3】実施例2及び比較例2におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示したグラフである。
図4】実施例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時で得られたファージミド含有大腸菌ペレット単位で抗原結合活性評価した際の波長450nm(副波長650nm)における吸光度を示すグラフである。
図5】実施例3−2における、ラウンド1終了時に得られた48コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図6】実施例3−2における、ラウンド2終了時に得られた48コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-1】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-2】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-3】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-4】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-5】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-6】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-7】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図7-8】実施例3−2における、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図8-1】実施例5において決定したウサギ由来単鎖抗体遺伝子のアミノ酸配列を示す。
図8-2】実施例5において決定したウサギ由来単鎖抗体遺伝子のアミノ酸配列を示す。
図9-1】実施例6及び比較例6−1の抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図9-2】実施例6及び比較例6−2の抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図10】実施例8における、破過曲線である。
図11】実施例9−1及び比較例9−1におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示したグラフである。
図12】実施例9−1及び比較例9−1におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示したグラフである。
図13】実施例9−2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時で得られたファージミド含有大腸菌ペレット単位で抗原結合活性評価した際の波長450nm(副波長650nm)における吸光度を示すグラフである。
図14】実施例9−3における、ラウンド1終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図15】実施例9−3における、ラウンド2終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図16】実施例9−3における、ラウンド3終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図17-1】実施例10における、ラウンド1終了時に得られた32コロニーについてVドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列を示す。
図17-2】実施例10における、ラウンド1終了時に得られた32コロニーについてVドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列の分析結果を示す。
図17-3】実施例10における、ラウンド2終了時に得られた32コロニーについてVドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列を示す。
図17-4】実施例10における、ラウンド2終了時に得られた32コロニーについてVドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列の分析結果を示す。
図17-5】実施例10における、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについてVドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列を示す。
図17-6】実施例10における、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについてVドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列の分析結果を示す。
図17-7】実施例10において参考として示したウサギ由来単鎖抗体遺伝子のアミノ酸配列である。
図17-8】実施例10における、ラウンド1終了時に得られた共通クローンの数を示す表である。
図17-9】実施例10における、ラウンド2終了時に得られた共通クローンの数を示す表である。
図17-10】実施例10における、ラウンド3終了時に得られた共通クローンの数を示す表である。
図18】実施例11及び比較例11の抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図19】実施例12におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時におけるファージ数を示したグラフである。
図20】実施例12におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示したグラフである。
図21】実施例13の抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図22-1】実施例13の抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図22-2】実施例13の抗原結合活性評価の結果を示すグラフである。
図23】実施例14におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時におけるファージ数を示したグラフである。
図24】実施例14におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示したグラフである。
図25】実施例16におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示したグラフである。
図26】実施例16におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、単鎖抗体のスクリーニング方法に係る第一の発明、及び、単鎖抗体に係る第二の発明を含む。本明細書では、多重膜リポソームのことをMLVsと称することがある。また、単鎖抗体をscFv(single chain Fv)と称することがある。本発明における単鎖抗体(scFv)は、当該技術分野では、低分子抗体の一つとして一本鎖Fv(single chain Fv)などと称されていることがある。
【0014】
以下においては、本発明における単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いた場合の記載もあるが、これは単鎖抗体がウサギ由来である場合の一例に過ぎず、本発明の単鎖抗体がウサギ由来の単鎖抗体に限定されるものではない。
【0015】
<1.第一の発明>
本発明の第一の発明は、次の第一の実施態様および第二の実施態様を含む。
第一の実施態様:多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程を含む、抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法。
第二の実施態様:第一の実施態様に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングする工程、スクリーニングされた単鎖抗体のアミノ酸配列を決定する工程、決定されたアミノ酸配列の可変領域の配列に基づき、抗体をコードするDNA配列を作成する工程、及び作成されたDNA配列を宿主細胞で発現させる工程を含む、抗体の製造方法。
【0016】
<1−1.第一の発明における第一の実施態様>
本発明の第一の発明における第一の実施態様は、多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程、単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程、及び前記ファージライブラリから、前記多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程を含む、抗原に結合する単鎖抗体のスクリーニング方法である。
【0017】
本スクリーニング方法は、前記抗原に結合する単鎖抗体の候補をスクリーニングする方法であってもよい。
【0018】
<(1)多重膜リポソームに結合した抗原を準備する工程>
[多重膜リポソーム(MLVs)]
多重膜リポソームとしては、抗原を結合できるのであれば特に制限はない。例えば、Journal of Biotechnology 131 (2007) 144-149に記載されるような公知の方法に従って作製することができる。具体的には、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、リン酸ジセチル(DCP)、及びN−(4−(p−マレイミドフェニル)ブチリル)ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(MPB−DPPE)を適量水和するなどして作製できる。
【0019】
このとき、水和しただけでは多重膜リポソームと単膜リポソームが混合した状態であることが多いため、遠心分離により多重膜リポソームを分離して用いることが好ましい。遠心分離の条件としては、多重膜リポソームを分離できるのであれば特に制限はない。例えば、25℃で2分、20,000gで遠心分離することが挙げられる。
【0020】
[抗原]
抗原としては、本実施態様に係るスクリーニング方法によりスクリーニングされる単鎖抗体が結合する物質であれば特に制限されない。例えば、細胞、タンパク質、脂質、糖鎖などが挙げられ、これらの中ではタンパク質が好ましい。抗原は、得られる単鎖抗体の用途に従って適宜選択できる。
【0021】
抗原の生物種は特に制限されず、得られる単鎖抗体の用途に従って適宜選択できる。例えば、哺乳動物、昆虫細胞、ウイルスなどが挙げられる。
【0022】
哺乳動物としては、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サルなどが挙げられ、好ましくはヒト、ラット、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヤギである。抗原は、株化細胞に由来してもよい。
【0023】
昆虫細胞としては、例えば、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、ボンビックス・マンダリナ(Bombyx mandarina)、ヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)、ヘリオシス・ゼア(Heliothis zea)、マメストラ・ブラッシカス(Mamestra brassicas)、エスチグマン・アクレア(Estigmene acrea)、トリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)などが挙げられる。さらに、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)であれば、例えば、sf9細胞株などが挙げられる。抗原は、株化細胞に由来してもよい。
【0024】
ウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス、ウマ脳炎ウイルス、肝炎ウイルスなどが挙げられる。さらに、インフルエンザウイルスであれば、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルスが挙げられる。
【0025】
また、本スクリーニング方法により選択される単鎖抗体は、前記多重膜リポソームに固定した抗原に結合し、他の抗原に結合しないのであれば、特異性の高い単鎖抗体として利用できる。一方、本スクリーニング方法により選択される単鎖抗体は、前記多重膜リポソームに固定した抗原に結合し、かつ、他の抗原にも結合する可能性を含んでいる。このような単鎖抗体は、二以上の異なる抗原の共通部位に結合する単鎖抗体や、単鎖抗体のアミノ酸配列としては同一だが二以上の異なる部位に結合する単鎖抗体として利用できる。いずれも用途に従って選択し、利用することができるものであり、いずれも好ましい態様である。
ここで、二以上の異なる抗原の共通部位に結合する単鎖抗体については、例えば、二以上の異なる抗原それぞれに対して行うスクリーニングで選択された単鎖抗体のアミノ酸配列を比較すれば決定できる。このことは、当業者であれば容易に理解することができる。
また、単鎖抗体のアミノ酸配列としては同一だが二以上の異なる部位に結合する単鎖抗体については、例えば、ある抗原を用いたスクリーニングで選択された単鎖抗体の、他の抗原への結合性を確認すればよい。このことは、当業者であれば容易に理解することができる。
【0026】
また、抗原としては、主とする抗原単体を用いてもよいが、例えば、他のタンパク質等の融合タンパク質を用いてもよい。該他のタンパク質は特に制限されないが、例えば、抗体のFcドメイン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、ロイシンジッパー、コイルドコイルペプチド、ストレプトアビジンなどが挙げられる。Fcドメインの場合、その由来は特に制限されないが、例えば、ヒトが挙げられる。いずれの融合タンパク質の調製も公知の方法に従うことができる。
【0027】
抗原として融合タンパク質を用いる場合、ファージライブラリは、その融合タンパク質で動物を免疫して得られたものに限られず、例えば、その融合タンパク質の一部のタンパク質を含む物質で動物を免疫して得られたものであってもよい。
具体的には、タンパク質Aとタンパク質Bとの融合タンパク質の場合、ファージライブラリは、タンパク質Aで動物を免疫して得られたものであってもよいし、タンパク質Aと他のタンパク質との融合タンパク質で動物を免疫して得られたものであってもよい。
【0028】
また、多重膜リポソームに結合させる抗原と、動物を免疫してファージライブラリを得る際に用いる抗原とは同一であるのが好ましいが、前者が後者の一部であるのも好ましく、後者が前者の一部であるのも好ましい。例を挙げれば、前者が後者の一部であるとは、例えば、前者が単離されたタンパク質であり、後者が細胞膜上に該タンパク質を発現した細胞である場合などが挙げられる。
【0029】
抗原として用いるタンパク質のうち、好ましいタンパク質は抗体である。また、抗原として用いる抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよく、得られる単鎖抗体の用途に従って適宜選択できる。
【0030】
さらに、抗原として用いる抗体は、IgG抗体、IgM抗体、IgA抗体、IgD抗体、及びIgE抗体を含むいずれの抗体でもよく、いずれか1種のみでもよいし、2種以上でもよい。さらに、それぞれは、それぞれのサブクラスであってもよく、それぞれのサブクラスのいずれか1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0031】
例えば、抗原として用いる抗体がヒトIgG抗体であれば、そのサブクラスは、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体が挙げられる。これらのいずれか1種でもよいし、2種以上でもよく、3種以上でもよく、4種全てでもよい。
【0032】
また、例えば、抗原として用いる抗体がヒト血清由来IgGポリクローナル抗体であれば、そのサブクラスは、ヒト血清由来IgG1ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG2ポリクローナル抗体、ヒト血清由来IgG3ポリクローナル抗体、及びヒト血清由来IgG4ポリクローナル抗体が挙げられる。これらのいずれか1種でもよいし、2種以上でもよく、3種以上でもよく、4種全てでもよい。
【0033】
二以上の異なる抗体の共通部位に結合する単鎖抗体としては、例えば、二以上の異なる抗体の軽鎖(L鎖)、具体的にはλ鎖又はκ鎖に含まれる共通の部位に結合する単鎖抗体が挙げられる。特に、λ鎖又はκ鎖のアミノ酸配列はアイソタイプとは無関係であることから、λ鎖又はκ鎖に含まれるアミノ酸配列に結合する単鎖抗体が選択されれば、その単鎖抗体が、異なるアイソタイプであってもそのアミノ酸配列を認識して結合することは、当業者であれば容易に理解することができる。
【0034】
ここで、選択される単鎖抗体が、抗体の軽鎖(L鎖)に含まれるアミノ酸配列に結合することや、具体的にλ鎖又はκ鎖に含まれるアミノ酸配列に結合することは、当業者であれば、例えば、ウェスタンブロット法などの公知の方法で確認することができる。
アイソタイプとは無関係に軽鎖(L鎖)に含まれるアミノ酸配列に結合する単鎖抗体を選択するための、抗原としての抗体は、特に制限されないが、好ましくはIgA抗体であり、例えば、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体などが挙げられる。
というのは、例えばIgG抗体やIgM抗体は補体活性を有する一方で、IgA抗体が補体活性を有しないことを考えると、IgG抗体を基準に考えた場合、機能および構造がIgG抗体からかけ離れているのはIgM抗体よりもIgA抗体であると考えられることから、例えばIgM抗体を用いるよりもIgA抗体を用いた方が、軽鎖(L鎖)に含まれるアミノ酸配列に結合する単鎖抗体が選択されやすいからである。
また、例えば5量体を形成するIgM抗体に比べ、単量体又は二量体を形成するIgA抗体の方が分子量が小さく、多重膜リポソーム上の分散性も高いため、IgM抗体よりもIgA抗体を用いた方が、スクリーニングの効率がよいからである。
さらには、IgA抗体は、粘膜において治療効果の高い抗体医薬として利用することができる。
【0035】
抗原として用いるタンパク質のうち、他の好ましいタンパク質はエクソソーム由来タンパク質である。エクソソーム由来タンパク質としては、例えば、単鎖膜タンパク質CD9(p24)、CD81、CD63、EpCAMなどが挙げられる。既出の通り、該エクソソーム由来タンパク質は、他のタンパク質との融合タンパク質であることが好ましく、いずれもその一部分であってもよい。
また、エクソソーム由来タンパク質の中でも、単鎖膜タンパク質CD9(p24)が好ましい。CD9は、4つの膜貫通ドメインを持ち、N末端とC末端ともに細胞内にある構造をとっている。CD9は、VLA(Very Late Activation)インテグリン分子やHLA−DRなどの分子と関連しており、細胞間の接着やシグナル伝達、細胞の運動能に関与すると考えられている。
【0036】
抗原として用いるタンパク質のうち、他の好ましいタンパク質は、ウイルス由来タンパク質である。ウイルス由来タンパク質としては、例えば、インフルエンザウイルス由来タンパク質、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来タンパク質、単純ヘルペスウイルス由来タンパク質、ヒトパピローマウイルス由来タンパク質、ウマ脳炎ウイルス由来タンパク質、肝炎ウイルス由来タンパク質などが挙げられる。
また、ウイルス由来タンパク質の中でも、インフルエンザウイルス由来タンパク質が好ましく、その中でも、A型インフルエンザウイルス由来タンパク質、B型インフルエンザウイルス由来タンパク質、C型インフルエンザウイルス由来タンパク質がより好ましい。
また、B型インフルエンザウイルス由来タンパク質の中でも、B型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Protein がさらに好ましい。これは、B型インフルエンザの感染有無の検査に利用可能な抗原である。
【0037】
抗原として用いるタンパク質のうち、他の好ましいタンパク質は、炎症性タンパク質である。炎症性タンパク質としては、例えば、ヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)、TNF−α、IL−6などが挙げられる。
また、炎症性タンパク質の中でも、ヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)が好ましい。これは、体内で炎症反応や組織の破壊が起きているときに発現するタンパク質であり、病気の進行度や重症度、経過、予後などを判定するのに重要な指標として利用されているものである。
【0038】
[多重膜リポソームに抗原を結合する工程]
多重膜リポソームに抗原を結合する方法としては、多重膜リポソームから抗原が遊離しなければ特に制限されない。例えば、非特許文献1に記載されるような公知の方法に従って結合することができる。具体的には、抗原と多重膜リポソームとの混合液に、モル比として過剰量の2−イミノチオラン塩酸塩を加えて撹拌しながら反応させることなどが挙げられる。例えば、抗原と多重膜リポソームとの混合液に、モル比として抗原の10倍量の2−イミノチオラン塩酸塩を加えて、25℃で3時間以上撹拌しながら反応させることなどが挙げられる。
【0039】
<(2)単鎖抗体を提示するファージライブラリを準備する工程>
[単鎖抗体を提示するファージライブラリ]
ファージライブラリとしては、単鎖抗体を提示しているファージライブラリであれば特に制限されず、公知のライブラリや市販のライブラリを用いてもよい。単鎖抗体が由来する動物に特に制限はないが、抗原への結合能が大きいものが好ましく、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サルなどが挙げられ、より好ましくはヒト、ラット、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヤギが挙げられ、さらに好ましくはマウス、ウサギである、特に好ましくはウサギである。
【0040】
ファージライブラリを構築する方法としては、例えば、特願2013−233096号公報に記載されるような公知の方法が挙げられる。
免疫動物を用いる場合には、例えば次のようにして行うことができる。免疫動物に特定の抗原を投与し、該免疫動物の脾臓から全RNAを取得し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)でcDNAライブラリを構築する。次に、所定のプライマーを用いて、重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子をPCRで増幅する。
免疫動物としてウサギを用いる場合のプライマーとしては、目的の遺伝子をPCRで特異的に増幅できれば特に制限はないが、重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子を増幅するセンスプライマーとしては、例えば、
5’−AAAAAGGCCATGGCCCAGTCGGTGGAGGAGTCCRGG−3’(配列番号1、本明細書においてNco-VH1 Sと称することがある。)、
5’−AAAAAGGCCATGGCCCAGTCGGTGAAGGAGTCCGAG−3’(配列番号2、本明細書においてNco-VH2 Sと称することがある。)、
5’−AAAAAGGCCATGGCCCAGTCGYTGGAGGAGTCCGGG−3’(配列番号3、本明細書においてNco-VH3 Sと称することがある。)、
5’−AAAAAGGCCATGGCCCAGSAGCAGCTGRWGGAGTCCGG−3’(配列番号4、本明細書においてNco-VH4 Sと称することがある。)などが挙げられ、
アンチセンスプライマーとしては、例えば、
5’−TCCACCACTAGTGACGGTGACSAGGGT−3’(配列番号5、本明細書においてVH-Spe ASと称することがある。)などが挙げられる。
【0041】
軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子を増幅するセンスプライマーとしては、例えば、
5’−AATTAAGGATCCGAGCTCGTGMTGACCCAGACTSCA−3’(配列番号6、本明細書においてBam-Vκ1 Sと称することがある。)、
5’−AATTAAGGATCCGAGCTCGATMTGACCCAGACTSCA−3’(配列番号7、本明細書においてBam-Vκ2 Sと称することがある。)、
5’−AATTAAGGATCCGAGCTCGTGATGACCCAGACTGCA−3’(配列番号8、本明細書においてBam-Vκ3 Sと称することがある。)、
5’−AATTAAGGATCCGAGCTCGTGCTGACTCAGTCGYCCTC−3’(配列番号9、本明細書においてBam-Vλ4 Sと称することがある。)などが挙げられ、
アンチセンスプライマーとしては、例えば、
5’−TATATATGCGGCCGCCGAACSTKTGAYSWCCAC−3’(配列番号10、本明細書においてVκ-Not ASと称することがある。)、
5’−TTTAAATTTGCGGCCGCCGAACCTGTGACGGTCAG−3’(配列番号11、本明細書においてVλ-Not ASと称することがある。)などが挙げられる。
【0042】
なお、塩基のIUPAC命名法に基づき、WはA又はT、RはA又はG、MはA又はC、KはT又はG、YはT又はC、SはG又はC、HはA、C又はT、BはG、C又はT、VはA、G又はC、DはA、G又はT、NはA、G、C又はTを表す。
【0043】
次に、これらPCR産物をファージミドベクターに挿入するための所定の制限酵素による処理等を行う。また、ファージミドベクターにおいても所定の制限酵素による処理等を行う。そして、制限酵素処理をした各遺伝子を、制限酵素処理したファージミドベクターへ挿入する。
【0044】
このようにして、重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子が挿入された組換えファージミドベクターを宿主細胞、例えば大腸菌に導入し、さらにヘルパーファージを感染させて培養することで、培養上清中にウサギ由来単鎖抗体を提示したファージのライブラリを産生させることができる。ここで用いるヘルパーファージの種類は特に制限されないが、例えば、VCSM13などが挙げられる。
【0045】
<(3)ファージライブラリから、多重膜リポソームに結合した抗原に結合する単鎖抗体を提示するファージを選択する工程(選択工程)>
本工程(選択工程)は、抗原とファージライブラリ中のファージ表面に発現した単鎖抗体とを結合する工程(結合工程)、多重膜リポソームに結合した抗原に結合しなかった単鎖抗体を提示するファージを洗浄により除去する工程(洗浄工程)、及び、多重膜リポソームに結合した抗原に結合した単鎖抗体を提示するファージを、該抗原から解離(溶出)させる工程(溶出工程)を含む。
【0046】
<(3−1)結合工程>
本工程は、抗原とファージライブラリ中のファージ表面に発現した単鎖抗体とを結合する工程である。その方法は、両者が十分に結合できれば特に制限はない。例えば、以下のような条件下で行うことができる。
【0047】
(抗原とファージライブラリとの量比)
抗原とファージライブラリとの比は、両者が十分に結合できれば特に制限はない。ライブラリ中の総ファージ数:抗原分子数として、通常1:5以上、好ましくは1:100以上、より好ましくは1:1000以上である。当該範囲内にあることで、ファージ表面に発現した単鎖抗体に対して抗原分子数が十分となり、両者間で十分な結合が期待できる。
【0048】
(溶媒)
抗原とファージライブラリ中のファージ表面に発現した単鎖抗体とを結合する場合の溶媒の種類は、両者が十分に結合できれば特に制限はない。例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの当該技術分野で用いられている通常の溶媒を用いることができる。
【0049】
(温度)
抗原とファージライブラリ中のファージ表面に発現した単鎖抗体とを結合する場合の温度は、両者が十分に結合できれば特に制限はないが、分解や変性等を回避するために、例えば、室温、例えば25℃が好ましく、低温、例えば4℃がより好ましい。
【0050】
(時間)
抗原とファージライブラリ中のファージ表面に発現した単鎖抗体とを結合する場合の結合時間は、両者が十分に結合できれば特に制限はないが、例えば、30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくはオーバーナイトである。
【0051】
(その他)
抗原とファージライブラリ中のファージ表面に発現した単鎖抗体とは、反応中に十分に撹拌されるように、例えば、ローテートしながら結合させることが好ましい。また、両者を結合する際に用いるチューブ等の反応容器は、予め、ブロッキングしておくことが好ましい。ブロッキング剤としては公知のものが挙げられ、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)を添加したものなどが挙げられる。また、このようなブロッキング剤を、結合に用いる溶媒に予め添加しておくことなどもできる。
【0052】
<(3−2)洗浄工程>
本工程は、多重膜リポソームに結合した抗原に結合しなかった単鎖抗体を提示するファージを洗浄により除去する工程である。その方法は、抗原に結合しなかった単鎖抗体を提示するファージを洗浄により除去できれば特に制限はない。例えば、以下のような条件下で行うことができる。
【0053】
(遠心分離及び溶媒交換)
抗原とファージライブラリ中のファージ表面に発現した単鎖抗体との結合反応後、遠心分離により、多重膜リポソームに結合した抗原に結合したファージは沈殿し、結合しなかったファージは上清に含まれる。そのため、上清を除去した後、ペレットに溶媒を加えて懸濁することで、多重膜リポソームに結合した抗原に結合したファージを選択的に取得することができる。
【0054】
このとき用いる溶媒に制限はないが、上記「(3−1)結合工程」で用いた溶媒と同一であることが好ましく、PBSなどを用いることができる。また、BSAなどのブロッキング剤を添加しておくことなどができる。さらに、ペレットにこのような溶媒を加えて得られた懸濁液を新たなチューブなどの容器に移す場合には、該容器も同様に、予めブロッキングしておくことが好ましい。また、このようなブロッキング剤を、結合に用いる溶媒に予め添加しておくことなどもできる。
【0055】
遠心分離の条件としては、多重膜リポソームに結合した抗原に結合したファージと結合しなかったファージとを分離できるのであれば特に制限はない。例えば、4℃で2分、20,000gで遠心分離することが挙げられる。この遠心分離及び溶媒交換は、単回でも複数回繰り返してもよいが、通常2回以上であり、3回以上繰り返すことが好ましい。
【0056】
<(3−3)溶出工程>
本工程は、多重膜リポソームに結合した抗原に結合した単鎖抗体を提示するファージを、該抗原から解離(溶出)させる工程である。その方法は特に制限されないが、例えば、非特許文献1に記載されるような公知の方法に従うことができる。
ファージを溶出するための溶液としては、例えば、グリシン−塩酸緩衝液等を用いることができる。さらに、ファージを溶出した後にその溶液を中和してもよく、その中和には、例えばトリス塩酸緩衝液等を用いることができる。
【0057】
<(3−4)任意の工程>
当該選択工程は、上記3工程(結合工程、洗浄工程、溶出工程)のほかにも、適宜、任意の工程を含んでよい。例えば、選択されたファージを増幅する工程(増幅工程)、上記選択工程を反復する工程(反復工程)、選択されたファージの遺伝子配列を決定する工程(遺伝子配列決定工程)、遺伝子配列決定工程により決定された配列に基づいてクローンを選択する工程(クローン選択工程)、選択されたファージが提示する単鎖抗体の抗原に対する結合活性を評価する工程(抗原結合活性の評価工程)などが挙げられる。
【0058】
[増幅工程]
本工程は、選択工程で選択されたファージを増幅する工程である。その方法は特に制限されないが、例えば、以下のような条件下で行うことができる。
【0059】
(宿主細胞へのファージの感染、及びファージが感染した宿主細胞の培養)
選択工程で選択されたファージを宿主細胞へ感染させて増幅することができる。その方法は特に制限されず、非特許文献1に記載されるような公知の方法に従うことができる。宿主細胞としては、ファージを増殖できれば特に制限されず、例えば大腸菌を用いることができ、菌株としては、例えば、TG1株やXL−1 Blue株などが挙げられる。また、宿主細胞を予め培養し、指数増殖中期のものを用いることが好ましい。宿主細胞へファージを感染させた後のその宿主細胞の培養条件も特に制限されず、例えば、37℃で200rpmの振とう培養が挙げられる。
【0060】
(宿主細胞へのヘルパーファージの感染、及び培養上清中へのファージの産生)
ファージが感染した宿主細胞に対してヘルパーファージを感染させ、培養することによって、培養上清中に単鎖抗体を提示するファージ及び単鎖抗体を分泌させることができる。その方法は特に制限されず、非特許文献1に記載されるような公知の方法に従うことができる。このとき、ヘルパーファージは特に限定されないが、例えば、VCSM13などが挙げられる。また、培養条件も特に制限されず、例えば、37℃で200rpmの振とう培養が挙げられる。
【0061】
[反復工程]
上記選択工程で選択されたファージのライブラリ、または、さらに上記増幅工程で増幅されたファージのライブラリを用いて、上記選択工程を反復してもよい。
上記選択工程を1単位とするラウンドを反復することで、抗原との結合能が極めて大きいファージをさらに選択することができる。そのラウンド数は特に制限されない。ラウンド数が多ければ、抗原との結合能が極めて大きいファージが取得されるが、ラウンド数が少なければ、迅速で効率的なスクリーニング法として有用である。本方法は、従来技術と比べて少ないラウンド数で、抗原との結合能が極めて大きいファージを取得できる点で有用である。
反復工程を行う回数は、通常3回以下、好ましくは2回以下、より好ましくは1回以下、さらに好ましくは0回である。反復工程を行う回数が0回ということは、選択工程を1回のみ行うことを意味する。
【0062】
[遺伝子配列決定工程]
本工程は、上記選択工程で選択されたファージのライブラリを用いて各ファージの重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子配列、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子配列を決定する工程である。本工程は、最終ラウンド及び/又はラウンド間に行ってもよい。
【0063】
その方法は特に制限されず、非特許文献1に記載されるような公知の方法に従って決定することができる。例えば、次のような方法で決定できる。
上記増幅工程における「宿主細胞へのファージの感染、及びファージが感染した宿主細胞の培養」欄の方法によりファージを感染させた大腸菌をシングルコロニー化して、それぞれをサブクローニング後、コロニーごとに、重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子の配列を解析して決定することができる。遺伝子配列の解析は公知の技術を用いることができる。また、遺伝子配列が決定できれば、その遺伝子配列がコードしているアミノ酸配列も決定される。このように遺伝子配列が決定できれば、スクリーニングの効率をモニタリングすることもできる。
【0064】
[クローン選択工程]
本工程は、遺伝子配列決定工程により決定された配列に基づいてクローンを選択する工程である。所望の重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子配列、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子配列を含むファージが感染した宿主細胞のクローンを選択する工程である。重複するクローンを排除するのにも有効である。
本工程は、最終ラウンド及び/又はラウンド間に行ってもよい。このようなクローンが選択できれば、抗原に対して、結合能の大きいファージが感染した宿主細胞を選択でき、スクリーニングをより効率よく行うことができる。
【0065】
[抗原結合活性の評価工程]
本工程は、選択されたファージが提示する抗体と抗原との結合活性を評価する工程である。選択されたファージが提示する抗体と抗原との結合活性が評価できれば、その方法に制限はない。
【0066】
例えば、実施例3−2に記載するような方法が挙げられる。すなわち、ファージミドを含有する宿主細胞をシングルコロニー化し、抗原を固相化したプレートに溶菌後の上清を適用して、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定する方法が挙げられる。
本工程は、最終ラウンド及び/又はラウンド間に行ってもよい。抗原に対する結合能が大きい抗体の遺伝子を含むクローンが選択できれば、そのクローンを用いてスクリーニングをより効率よく行うことができる。
その他、実施例4や実施例6に記載するように、Biacoreを用いるなどして、解離速度定数koffや解離定数Kを測定し、それを指標にすることもできる。
【0067】
解離速度定数koff、解離定数Kを測定する際のサンプルの調製方法は特に制限されないが、例えば、実施例に示されるように、ファージミド含有宿主細胞のコロニーを培養後に溶菌し、遠心分離後の上清を用いることができる。
【0068】
また、ファージ及び単鎖抗体が宿主細胞から分泌されたかどうか、又はペリプラズム内に存在していたかどうかについては、次のようにして確認することができる。例えば、実施例に示されるように、ファージミドベクターを用いて単鎖抗体遺伝子を含むDNA断片を増幅し、これをpET22ベクター(メルク社)などの適当なベクターに挿入すれば、N末端側にペリプラズム移行シグナル配列(pelB leader signal)、C末端側にヒスチジンタグ(6xHis-tag)が融合された形で単鎖抗体が発現される。当該組換えベクターを含む宿主細胞を培養し、適当な方法により、培養上清および菌体から菌体内可溶性画分を回収できる。この培養上清および菌体内可溶性画分を、それぞれヒスチジンタグをトラップできるカラム等に適用して得られる溶離液を用いて解離定数Kを測定することができる。
【0069】
以下に、解離速度定数koffと解離定数Kについて説明する。
[解離速度定数koff
(定義)
本明細書では、抗原と単鎖抗体との結合における解離速度定数koffを次のように定義する。解離速度定数koffは、好ましくなる順に、1.5×10−2−1以下、1.0×10−2−1以下、8.0×10−3−1以下、7.0×10−3−1以下、6.0×10−3−1以下、5.0×10−3−1以下、4.0×10−3−1以下、3.0×10−3−1以下、2.0×10−3−1以下、1.5×10−3−1以下、1.0×10−3−1以下、9.0×10−4−1以下、8.0×10−4−1以下、7.0×10−4−1以下、6.0×10−4−1以下、5.0×10−4−1以下、4.0×10−4−1以下、3.0×10−4−1以下、2.0×10−4−1以下、1.0×10−4−1以下、7.0×10−5−1以下、6.0×10−5−1以下、5.0×10−5−1以下、4.0×10−5−1以下、3.0×10−5−1以下、1.5×10−5−1以下、1.0×10−5−1以下、5.0×10−6−1以下、3.0×10−6−1以下である。解離速度定数koffが小さいほど抗原との結合能が大きく、抗体として有用である。
【0070】
抗原をAg、抗原濃度を[Ag]、抗体をAb、抗体濃度を[Ab]、抗原−抗体複合体をAg・Ab、抗原−抗体複合体濃度を[Ag・Ab]、結合速度定数をkon、解離速度定数をkoffとした場合、抗原と単鎖抗体との結合反応は下記式(1)、(2)のように表される。
【0071】
【数1】
【0072】
【数2】
【0073】
これを変形すると、下記式(3)のように表される。
【0074】
【数3】
【0075】
Biacoreなどの送液系では、センサーチップ洗浄時、[Ab]=0であるため、上記式(3)は、下記式(4)のように表される。
【0076】
【数4】
【0077】
さらに、時間t=0における[Ag・Ab]を[Ag・Ab]とすると、下記式(5)のように表される。
【0078】
【数5】
【0079】
Biacoreなどの送液系を用いて、抗原と単鎖抗体との結合における解離速度定数を算出する場合には、横軸に時間t、縦軸に
【0080】
【数6】
【0081】
とした測定グラフが描ければ、その傾きから解離速度定数を算出することができる。
【0082】
(解離速度定数koffの測定方法)
解離速度定数の測定方法は特に制限されず、例えば、測定装置としてBiacore X−100(GEヘルスケア社)などの公知の装置を用いて、上述したように測定グラフが描ければ、その傾きから解離速度定数を算出することができる。
【0083】
[解離定数K
解離定数Kは、好ましくなる順に、1.0×10−6M以下、7.0×10−7M以下、5.0×10−7M以下、1.5×10−7M以下、1.0×10−8M以下、9.0×10−8M以下、8.7×10−8M以下、4.0×10−8M以下、3.5×10−8M以下、3.0×10−8M以下、2.5×10−8M以下、1.0×10−8M以下、7.0×10−9M以下、6.0×10−9M以下、5.0×10−9M以下、4.0×10−9M以下、3.0×10−9M以下、1.0×10−9M以下、6.0×10−10M以下、5.0×10−10M以下、1.0×10−10M以下、5.0×10−11M以下、2.0×10−11M以下、1.5×10−11M以下である。解離定数が小さいほど抗原との結合能が大きく、抗体として有用である。尚、一般的な抗体のKは10nM程度であるのに対し、本実施態様における単鎖抗体のKの範囲は上記の通りであり、一般的な抗体に比べて格段に結合能が大きいことが分かる。
【0084】
(解離定数Kの測定方法)
解離定数Kの測定方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、測定装置としては、Biacore X−100(GEヘルスケア社)を用いることができる。
【0085】
解離速度定数koffや解離定数Kに着目した際の、本発明の第一の発明が有する優位性は次の通りである。
従来のパニング法では、例えば、選択されたファージを感染させた大腸菌をシングルコロニー化して、それぞれをサブクローニング後、コロニーごとに、重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子の配列を解析して決定する。そして、得られた遺伝子配列を解析し、重複するクローン数が多ければ多いほど、そのクローンを「親和力の大きい(可能性のある)候補」として扱い、単鎖抗体の性質を詳しく解析する。しかし、そもそもファージディスプレイ法では各ステップにおいて様々な摂動が加わるため、遺伝子配列が重複するクローンであっても、それらが、必ずしも結合力や選択性が大きいクローンとは限らない。例えば、ファージの生産量や増殖速度の違いによって、結合力や選択性が小さいクローンも得られることがある。また、単鎖抗体の結合力や選択性を評価する方法としてELISA法もよく用いられているが、scFv濃度が不明な状態でELISA法のようなエンドポイントアッセイ(Endpoint assay)を行った場合、抗原に結合するかどうかは分かっても、抗原に対する単鎖抗体の結合力の大きさを直接的に評価することはできない。
【0086】
本発明の第一の発明では、解離速度定数koffや解離定数Kに着目して単鎖抗体を選択することにより、結合力や選択性が大きい単鎖抗体の選択効率を著しく向上することができる。
解離定数K=(解離速度定数koff)/(結合速度定数kon)であるところ、分子の速度以上に結合速度が大きくなることはあり得ず、kon値の大きさには上限があることから、kon値の大小はクローンによって大きく相違しない。従って、クローン間においては、結合速度定数konよりも解離速度定数koffの方が大きな差を生じやすいため、解離速度定数koffの小さいクローンは、解離定数Kの小さいクローンとみなすことができる。すなわち、本発明の第一の発明では、濃度を特定することなく、パニング終了時の単鎖抗体の解離速度定数koffを測定するという方法によって、従来法よりも結合力や選択性が大きい単鎖抗体を効率よく、かつ簡便に、迅速に選択することができる。
【0087】
[単鎖抗体のV鎖の相補性決定領域(CDR)]
単鎖抗体のV鎖の相補性決定領域(CDR)は、CDR1、CDR2、及びCDR3を含む。周知の通り、これらの中で、抗原への結合性に最も寄与しているのはCDR3のアミノ酸配列である。
【0088】
本実施態様における単鎖抗体のV鎖のCDRのアミノ酸配列は、抗体を構成したときにその抗体が抗原に結合する限り特に限定されない。このうち、CDR3のアミノ酸配列については、抗原としてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体やヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を、単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いて本方法を実施した場合には、本明細書の実施例に記載するV鎖のCDR3のアミノ酸配列が好ましい。これらは、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性が大きいからである。また、これらの中でも、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性がより大きいものがより好ましい。
【0089】
また、CDR1のアミノ酸配列、CDR2のアミノ酸配列も同様であり、抗原としてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体やヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を、単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いて本方法を実施した場合には、本明細書の実施例に記載するV鎖のCDR1、CDR2のアミノ酸配列が好ましい。これらは、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性が大きいからである。また、これらの中でも、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性がより大きいものがより好ましい。
【0090】
[V鎖のCDRのアミノ酸配列と実質的な相同性を有するアミノ酸配列]
本実施態様におけるV鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列はいずれも、抗体を構成したときにその抗体が抗原に結合する限り特に限定されない。抗原としてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体やヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を、単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いて本方法を実施した場合には、本明細書の実施例に記載するV鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列と、それぞれ80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
【0091】
また、抗原としてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体やヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を、単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いて本方法を実施した場合には、本明細書の実施例に記載するV鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であってもよい。ここで、1〜数個とは、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個である。
【0092】
また、上記置換は保存的置換が好ましく、保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。
【0093】
保存的置換としては、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0094】
また、抗体を構成したときにその抗体が抗原に結合する限り、当該アミノ酸配列は修飾されていてもよい。該修飾としては、アミド化、脂質鎖の付加(脂肪族アシル化(パルミトイル化、ミリストイル化等)、プレニル化(ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化等)等)、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、糖鎖の付加(N−グリコシル化、O−グリコシル化)等を挙げることができる。
【0095】
[単鎖抗体のV鎖の相補性決定領域(CDR)]
単鎖抗体のV鎖の相補性決定領域(CDR)は、CDR1、CDR2、及びCDR3を含む。周知の通り、これらV鎖のCDRのアミノ酸配列も、抗原への結合性に寄与している。
【0096】
本実施態様における単鎖抗体のV鎖のCDRのアミノ酸配列は、抗体を構成したときにその抗体が抗原に結合する限り特に限定されない。CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列については、それぞれ、抗原としてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体やヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を、単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いて本方法を実施した場合には、本明細書の実施例に記載するV鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列が好ましい。これらは、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性が大きいからである。また、これらの中でも、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性がより大きいものがより好ましい。
【0097】
[VL鎖のCDRのアミノ酸配列と実質的な相同性を有するアミノ酸配列]
上述した「V鎖のCDRのアミノ酸配列と実質的な相同性を有するアミノ酸配列」に記載した内容と同様である。
【0098】
[単鎖抗体のV鎖のフレームワーク領域(FR)]
単鎖抗体のV鎖のフレームワーク領域(FR)は、FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む。周知の通り、これらV鎖のFRのアミノ酸配列も、抗原への結合性に寄与している。
【0099】
本実施態様における単鎖抗体のV鎖のFRのアミノ酸配列は、抗体を構成したときにその抗体が抗原に結合する限り特に限定されない。FR1、FR2、FR3、FR4のアミノ酸配列については、それぞれ、抗原としてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体やヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を、単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いて本方法を実施した場合には、本明細書の実施例に記載するV鎖のFR1、FR2、FR3、FR4のアミノ酸配列が好ましい。これらは、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性が大きいからである。また、これらの中でも、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性がより大きいものがより好ましい。
【0100】
[V鎖のFRのアミノ酸配列と実質的な相同性を有するアミノ酸配列]
上述した「V鎖のCDRのアミノ酸配列と実質的な相同性を有するアミノ酸配列」に記載した内容と同様である。
【0101】
[単鎖抗体のV鎖のフレームワーク領域(FR)]
単鎖抗体のV鎖のフレームワーク領域(FR)は、FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む。周知の通り、これらV鎖のFRのアミノ酸配列も、抗原への結合性に寄与している。
【0102】
本実施態様における単鎖抗体のV鎖のFRのアミノ酸配列は、抗体を構成したときにその抗体が抗原に結合する限り特に限定されない。FR1、FR2、FR3、FR4のアミノ酸配列については、それぞれ、抗原としてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体やヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を、単鎖抗体としてウサギ由来単鎖抗体を用いて本方法を実施した場合には、本明細書の実施例に記載するV鎖のFR1、FR2、FR3、FR4のアミノ酸配列が好ましい、これらは、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性が大きいからである。また、これらの中でも、抗体を構成したときにその抗体の抗原への結合性がより大きいものがより好ましい。
【0103】
[VL鎖のFRのアミノ酸配列と実質的な相同性を有するアミノ酸配列]
上述した「V鎖のCDRのアミノ酸配列と実質的な相同性を有するアミノ酸配列」に記載した内容と同様である。
【0104】
<1−2.第一の発明における第二の実施態様>
本発明の第一の発明における第二の実施態様は、第一の実施態様に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングする工程、スクリーニングされた単鎖抗体のアミノ酸配列を決定する工程、決定されたアミノ酸配列の可変領域の配列に基づき、抗体をコードするDNA配列を作成する工程、及び作成されたDNA配列を宿主細胞で発現させる工程を含む、抗体の製造方法である。
【0105】
<(1)第一の実施態様に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングする工程>
本工程は、第一の実施態様に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングする工程であり、その説明には、既出の第一の実施態様の説明が適用される。
【0106】
<(2)スクリーニングされた単鎖抗体のアミノ酸配列を決定する工程>
本工程は、スクリーニングされた単鎖抗体のアミノ酸配列を決定する工程である。スクリーニングされた単鎖抗体のアミノ酸配列が決定できれば、その方法に制限はない。
例えば、既出の「遺伝子配列決定工程」により決定された遺伝子配列に基づいて、アミノ酸配列を決定することができる。
【0107】
<(3)決定されたアミノ酸配列の可変領域の配列に基づき、抗体をコードするDNA配列を作成する工程>
本工程において、決定されたアミノ酸配列の可変領域の配列に基づき、抗体をコードするDNA配列が作成できれば、その方法に制限はない。また、各アミノ酸をコードするコドンは公知であるため、特定のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列は容易に特定することができる。
【0108】
抗体をコードするDNA配列を作成する公知の方法は多数あるが、例えば、アミノ酸配列を決定する工程で決定されたアミノ酸配列の可変領域(Vドメイン)をコードするDNA配列を、所望の定常領域(Cドメイン)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む、又は、抗体の可変領域(Vドメイン)をコードするDNAを、定常領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込むことができる。このとき、例えば、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込み、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を産生させることができる。
【0109】
このとき定常領域(Cドメイン)のアミノ酸配列が由来する動物は制限されない。可変領域(Vドメイン)のアミノ酸が由来する動物と異なる動物であってもよく、そのような場合に組み合わせて作製される抗体はキメラ抗体となる。例えば、ヒト、ラット、マウス、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サルなどが挙げられ、好ましくはヒトである。可変領域(Vドメイン)のアミノ酸が由来する動物がヒトでなく、定常領域(Cドメイン)のアミノ酸配列が由来する動物がヒトの場合、組み合わせて作製される抗体はヒト化抗体となる。
【0110】
また、DNA配列がコードする抗体は、免疫グロブリンである必要はなく、例えば、scFv、Fv、Fab、Fab’、又はF(ab’)などであってもよい。
【0111】
(ヒト化抗体をコードDNA配列)
以下では、ヒト化抗体をコードするDNA配列を例に挙げて説明するが、上記の通り、定常領域(Cドメイン)のアミノ酸配列が由来する動物は制限されない。
ヒト化抗体とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。本実施態様では、ヒト化抗体は、第一の実施態様に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングされた単鎖抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築することができる。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。例えば、国際公開2013/125654号パンフレット、欧州特許出願公開第EP239400号公報、国際公開96/02576号パンフレットなどに記載されている。
【0112】
本実施態様では、例えば、第一の実施態様に記載のスクリーニング方法によりスクリーニングされた単鎖抗体のCDRとヒト抗体のFRを連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0113】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、ヒト化抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい。その方法は、例えば、Sato K. et al., Cancer Research 1993, 53: 851-856などに記載されている。また、FRは、異なるクラス又はサブクラスのヒト抗体由来のフレームワーク領域と置換されてもよい。その方法は、例えば、国際公開99/51743号パンフレットに記載されている。
【0114】
また、ヒト化抗体を作製する際に、可変領域(例えば、FR)や定常領域中のアミノ酸を他のアミノ酸で置換等してもよい。例えば、日本血栓止血学会誌 4 (3): 193-200, 1993に記載される方法を用いてもよい。当該文献に記載されているように、決定された可変領域のアミノ酸配列とデータバンクにあるヒト抗体の可変領域のアミノ酸とを比較し、両者の骨格(FR)が最も似ているヒト抗体遺伝子を選択後、コンピュータ・グラフィクスによりその高次構造を解析して、最適な可変領域のアミノ酸配列を決定してもよい。さらに、発現ベクターに組み込み、宿主細胞に導入して抗体を産生させる際に、効率的に産生させるために必要なアミノ酸の置換等をしてもよい。
【0115】
アミノ酸の置換は、例えば、15未満、10未満、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下のアミノ酸、好ましくは1〜5アミノ酸、より好ましくは1又は2アミノ酸の置換であり、置換抗体は、未置換抗体と機能的に同等であるべきである。置換は、保存的アミノ酸置換が望ましく、これは、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似するアミノ酸間の置換である。性質の類似したアミノ酸は、例えば、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン)、無極性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、アラニン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン)、分枝鎖アミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン)等に分類しうる。
【0116】
<(4)作成されたDNA配列を宿主細胞で発現させる工程>
本工程では、抗体をコードするDNA配列を作成する工程で作成されたDNA配列が宿主細胞で発現させられれば、その方法に制限はない。
例えば、抗体を生産するための宿主は哺乳動物起源のものが多いが、当業者であれば、発現したい遺伝子産物に最も適する特定の宿主細胞を適宜選択することができる。一般的な宿主細胞系としては、CHO由来細胞株(チャイニーズハムスター卵巣細胞系)、CV1(サル腎臓系)、COS(SV40T抗原をするCV1の誘導体)、SP2/0(マウスミエローマ)、P3x63−Ag3.653(マウスミエローマ)、293(ヒト腎臓)、及び293T(SV40T抗原をする293の誘導体)などが挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞系は、各種メーカー、ATCCなどの機関、または文献に記載の論文発表機関から入手することができる。
【0117】
<(5)任意の工程>
宿主細胞で発現させる工程の後に、その抗体を分離・精製する工程を設けてもよい。その方法は特に制限されないが、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて抗体を分離・精製することができる。
例えば、イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の主として分子量の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法等の等電点の差を利用する方法等が挙げられる。
【0118】
<2.第二の発明>
本発明の第二の発明は、次の第一の実施態様ないし第六の実施態様を含む。
第一の実施態様:ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に対して3.0×10−8M以下の解離定数を有する単鎖抗体。
第二の実施態様:担体と担体の表面に化学結合によって結合する第一の実施態様に記載の単鎖抗体とを含む、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤。
第三の実施態様:ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
第四の実施態様:担体と担体の表面に化学結合によって結合する第三の実施態様に記載の単鎖抗体とを含む、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体の分離剤。
第五の実施態様:ヒト由来抗体のL鎖に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
第六の実施態様:担体と担体の表面に化学結合によって結合する第五の実施態様に記載の単鎖抗体とを含む、ヒト由来抗体の分離剤。
第七の実施態様:エクソソーム由来タンパク質を含むタンパク質に対して8.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
第八の実施態様:ウイルス由来タンパク質に対して1.0×10−2−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
第九の実施態様:炎症性タンパク質に対して1.0×10−2−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体。
【0119】
<2−1.第二の発明における第一の実施態様>
本発明の第二の発明における第一の実施態様は、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に対して3.0×10−8M以下の解離定数を有する単鎖抗体である。
該単鎖抗体は、好ましくは、さらに、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対する抗体であり、より好ましくは、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する。また、該単鎖抗体は、これらの抗体のL鎖に結合することが好ましく、κ鎖に結合することがより好ましい。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明の説明が適用される。
【0120】
<2−2.第二の発明における第二の実施態様>
本発明の第二の発明における第二の実施態様は、担体と担体の表面に化学結合によって結合する、第二の発明における第一の実施態様に記載の単鎖抗体とを含む、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤である。
【0121】
[ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤]
第一の実施態様の単鎖抗体は、その抗体結合性を利用して、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤として利用することができる。該分離剤は、抗体の精製や除去、抗体を利用した診断、治療、検査等に用いることができる。
本実施態様の分離剤は、第一の実施態様の単鎖抗体が水不溶性の固相支持体に固定化された形態を有する。
【0122】
[水不溶性担体]
用いる水不溶性担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが挙げられるが、中でも親水性担体は非特異吸着が比較的少なく、第一の実施態様の単鎖抗体の選択性が良好であるため好ましい。ここでいう親水性担体とは、担体を構成する化合物を平板状にしたときの水との接触角が60度以下の担体を示す。この様な担体としてはセルロース、キトサン、デキストラン等の多糖類、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、ガラスなどからなる担体が代表例として挙げられる。
【0123】
市販品としては多孔質セルロースゲルであるGCL2000、GC700、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S-1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharoseCL4B、エポキシ基で活性化されたポリメタクリルアミドであるオイパーギットC250L等を例示することができる。ただし、本実施態様においてはこれらの担体、活性化担体のみに限定されるものではない。上述の担体はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を混合してもよい。又、本実施態様に用いる水不溶性担体としては、本分離剤の使用目的および方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する、すなわち、多孔質であることが好ましい。
【0124】
担体の形態としては、ビーズ状、線維状、膜状(中空糸も含む)など何れも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。特定の排除限界分子量を持つ担体作製の容易さからビーズ状が特に好ましく用いられる。ビーズ状の平均粒径は10〜2500μmのものが使いやすく、とりわけ、単鎖抗体固定化反応のしやすさの点から25μmから800μmの範囲が好ましい。
さらに担体表面には、単鎖抗体の固定化反応に用いうる官能基が存在していると単鎖抗体の固定化に好都合である。これらの官能基の代表例としては、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、アミド基、エポキシ基、サクシニルイミド基、酸無水物基、ヨードアセチル基などが挙げられる。
【0125】
上記担体への単鎖抗体の固定化においては、単鎖抗体の立体障害を小さくすることにより分離効率を向上させ、さらに非特異的な結合を抑えるために、親水性スペーサーを介して固定化することが、より好ましい。親水性スペーサーとしては、例えば、両末端をカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などで置換したポリアルキレンオキサイドの誘導体を用いるのが好ましい。
【0126】
上記の担体へ導入される単鎖抗体およびスペーサーとして用いられる有機化合物の固定化方法及び条件は特に限定されるものではないが、一般にタンパク質やペプチドを担体に固定化する場合に採用される方法を例示する。担体を臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジンなどと反応させて担体を活性化し(担体が元々持っている官能基より単鎖抗体が反応しやすい官能基に変え)、単鎖抗体と反応、固定化する方法、また、担体と単鎖抗体が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、または、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられるが、分離剤の滅菌時または利用時に単鎖抗体が担体より容易に脱離しない固定化方法を適用することがより好ましい。
【0127】
[具体例]
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤およびその製造方法の具体例として、例えば、実施例8に記載するようなHiTrap NHS-activated HP Columns(GEヘルスケア)およびそれを用いた第一の実施態様に係る単鎖抗体の固定化方法が挙げられる。簡潔に言えば、セファロース(ビーズ状のアガロース担体)のカルボキシル基をNHSでエステル化し、精製した第一の実施態様に係る単鎖抗体のアミノ基とアミド結合を形成させて固定化する。未反応のNHSエステルはエタノールアミンを加えてブロックすることができる。
【0128】
[その他について]
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明、および第二の発明における第一の実施態様の説明が適用される。
【0129】
<2−3.第二の発明における第三の実施態様>
本発明の第二の発明における第三の実施態様は、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体である。
該単鎖抗体は、好ましくは、さらに、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に対する抗体であり、より好ましくは、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に対して3.0×10−8M以下の解離定数を有する。また、該単鎖抗体は、これらの抗体のL鎖に結合することが好ましく、κ鎖に結合することがより好ましい。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明の説明が適用される。
【0130】
<2−4.第二の発明における第四の実施態様>
本発明の第二の発明における第四の実施態様は、担体と担体の表面に化学結合によって結合する、第二の発明における第三の実施態様に記載の単鎖抗体とを含む、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体の分離剤である。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明、第二の発明における第二の実施態様、第二の発明における第三の実施態様の説明が適用される。
【0131】
<2−5.第二の発明における第五の実施態様>
本発明の第二の発明における第五の実施態様は、ヒト由来抗体のL鎖に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体である。
該単鎖抗体は、好ましくは、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体及び/又はヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対する抗体であり、より好ましくは、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に対して3.0×10−8M以下の解離定数を有し、及び/又は、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に対して1.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する。また、該単鎖抗体は、κ鎖に結合することが好ましい。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明の説明が適用される。
【0132】
<2−6.第二の発明における第六の実施態様>
本発明の第二の発明における第六の実施態様は、担体と担体の表面に化学結合によって結合する、第二の発明における第五の実施態様に記載の単鎖抗体とを含む、ヒト由来抗体の分離剤である。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明、第二の発明における第二の実施態様、第二の発明における第五の実施態様の説明が適用される。
【0133】
<2−7.第二の発明における第七の実施態様>
本発明の第二の発明における第七の実施態様は、エクソソーム由来タンパク質を含むタンパク質に対して8.0×10−3−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体である。
該エクソソーム由来タンパク質を含むタンパク質は、好ましくは、Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質である。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明の説明が適用される。
【0134】
<2−8.第二の発明における第八の実施態様>
本発明の第二の発明における第八の実施態様は、ウイルス由来タンパク質に対して1.0×10−2−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体である。
該ウイルス由来タンパク質は、好ましくは、インフルエンザウイルス由来タンパク質であり、より好ましくは、B型インフルエンザウイルス由来タンパク質であり、さらに好ましくは、B型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Protein である。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明の説明が適用される。
【0135】
<2−9.第二の発明における第九の実施態様>
本発明の第二の発明における第九の実施態様は、炎症性タンパク質に対して1.0×10−2−1以下の解離速度定数を有する単鎖抗体である。
該炎症性タンパク質は、好ましくは、ヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)である。
本実施態様におけるその他についての説明には、既出の第一の発明の説明が適用される。
【実施例】
【0136】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。また、便宜のため、実施例番号、比較例番号が連続していない場合もある。
【0137】
<1.モデル実験>
以下では、本発明の第一の発明に係るスクリーニング法の実施例の前に、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するマウス由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。このとき、比較実験として、マウス由来単鎖抗体を提示していないファージライブラリを用いた場合についても記載する。さらに、いずれの場合においても、多重膜リポソームを用いた場合とイムノチューブを用いた実験について記載する。
【0138】
<1−1.多重膜リポソームとヒト血清由来IgGポリクローナル抗体との結合>
10μmolのジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1μmolのリン酸ジセチル(DCP)、0.5μmolのN−(4−(p−マレイミドフェニル)ブチリル)ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(MPB−DPPE)を、クロロホルム5ml中に溶解し、100mlナスフラスコ中で減圧下、クロロホルムを留去した。
【0139】
次に、フラスコ内壁に形成させたリン脂質薄膜を50℃下、3mlのPBSで水和し、多重膜リポソーム(MLVs)を形成させた。25℃、20,000gで2分間の遠心分離を行い、上清を除去した。この操作をさらに2回繰り返した。
【0140】
3mlのPBSで懸濁し、4℃で保存した(これを「反応性MLVs」と称することがある。)。1mlの反応性MLVsを25℃、20,000gで2分間の遠心分離した。ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)を1mg/mlとなるようにPBSに溶解し、この溶液に、上記遠心分離後の反応性MLVsのペレットを分散した。
【0141】
モル比にしてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の10倍量の2−イミノチオラン塩酸塩(Sigma)を加え、25℃で3時間以上撹拌しながらインキュベートした。その後、25℃、20,000gで2分間の遠心分離を行い、上清を除去し、1mlのPBSで懸濁した。この遠心分離と上清の除去、及び1mlのPBSへの懸濁を1単位としてさらに3回繰り返した。
【0142】
得られた懸濁液をヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsとして4℃で保存した。MLVsに固定化されたヒト血清由来IgGポリクローナル抗体量はDC Protein Assayで定量した。
【0143】
<1−2.チューブへのヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の固定>
イムノチューブ(Immunotube;Nunc社、Maxisorp(登録商標))に、PBSで濃度10μg/mlに調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)溶液を1ml加えて4℃で一晩インキュベートした。その後、PBSで5回洗浄し、2%BSA−PBSを1ml加えて1時間インキュベートした。
この後、ファージライブラリと混合する際には、PBSでさらに5回洗浄してからファージライブラリ溶液を添加して用いた。
【0144】
なお、ウサギ血清由来IgGポリクローナル抗体を用いた場合ではあるが、チューブへ抗体を固定した場合におけるチューブに非特異的に結合する抗体の割合が、多重膜リポソームへ抗体を固定した場合における多重膜リポソームに非特異的に結合する抗体の割合に比べて非常に大きいことが非特許文献1で示されている。当業者であれば、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体を用いた場合でも同様であることは容易に理解することができる。
【0145】
<1−3.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
pelB leaderの遺伝子配列、Nco Iサイト、Spe Iサイト、フレキシブルリンカー(GS)の遺伝子配列、BamH Iサイト、Not Iサイト、FLAG−tagの遺伝子配列、c−myc−tagの遺伝子配列、Amber ストップコドン(TAG)、及びgIIIpコートタンパク質の遺伝子(N末端側250アミノ酸残基を欠損)を含むDNAを委託合成し、pT7 Blue(メルク社)のXba I/BamH Iサイトに挿入した。このpT7 Blue組換えファージミドベクターをpPLFMAΔ250gIIIpとし、一連のファージディスプレイの実験に用いた。
【0146】
マウスハイブリドーマCRL−1786株(ATCC)より決定した抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子をPCRで増幅し、組換えファージミドベクターpPLFMAΔ250gIIIpのNco I/Not Iサイト中に導入した。
この組換えファージミドベクターで大腸菌TG1を形質転換し、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)10ml中に植菌した。200ml三角フラスコ中で37℃、200rpmにおいて一晩培養した(前培養)。
【0147】
前培養液を、OD600=0.1となるように、50mlの2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)中に植菌し、30℃、200rpmで振とう培養した。OD=1.0付近まで培養後、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように培養液に加え、37℃で30分インキュベートした。37℃で3000g、10分間遠心分離し、上清を除去し、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、35mg/Lカナマイシン含有)50ml中に穏やかに懸濁した。30℃、200rpmで12時間以上振とうし、培養上清中に、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージを生産した。
上清を遠心分離によって回収し、PEG沈殿によって濃縮とするとともに、1mlのPBS中に再懸濁して、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを取得した。
【0148】
<1−4.非提示ファージのライブラリの調製>
抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子を挿入していない組換えファージミドベクターpPLFMAΔ250gIIIpで大腸菌TG1を形質転換したこと以外は、上記1−3と同様にして、非提示ファージを取得した。
【0149】
<1−5.パニング>
(疑似ファージライブラリの調製)
上記1−3及び1−4で取得した抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリと非提示ファージのライブラリを表1に示す比で混合し、疑似ファージライブラリを調製した。
【0150】
【表1】
【0151】
[実施例1−1]
(ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いたパニング)
以下のようにして、上記疑似ファージライブラリとして条件1を採用し、上記1−1で調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いて、以下のようにパニングを実施した。
【0152】
(ラウンド)
まず各ラウンドにおいて行う操作を説明する。
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsをIgG量が10μgとなるように加え、ボルテックスした。これを25℃、20,000g、2分間遠心分離し、上清を取り除いて、2%BSA−PBSを0.9ml加えて再懸濁した。
【0153】
一方で、疑似ファージライブラリ溶液を25℃、20,000g、2分間遠心分離し、上清を回収した。100μlの上清をチューブに加えてボルテックスし、25℃で1時間、ローテーターを用いて転倒混和し、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsと疑似ファージライブラリとを結合させる反応を行った。
【0154】
上記結合反応液と1mlの2%BSA−PBSを混合し、25℃、20,000g、2分間遠心分離、上清を除去した(洗浄)。洗浄作業は5回繰り返した。
【0155】
(パニングにより選択されたファージの取得)
上記チューブ内のヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsに10mM グリシン−HCl(pH1.5)を0.9ml加えて懸濁し、BSAブロッキングしたチューブに移した。そして、さらに、室温(または4℃)でチューブを10分間転倒混和して、ファージを溶出した。
【0156】
上記チューブから回収したファージ溶出液0.9mlと0.1mlの2M Tris−HCl溶液を混合し、ファージ溶出液を中和した。
【0157】
一方で、大腸菌TG1の培養液をOD=0.1となるように新しいLB培地10mlに植菌し、30℃で培養を行った。
【0158】
中和した溶離液1mlと培養した大腸菌TG1の培養液1mlを混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)中に添加し、30℃、200rpmでOD600=1.0となるまで培養した。
【0159】
その培養液に、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように添加し、37℃で30分インキュベートした。30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を捨て、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)50ml中に菌体を再分散させた。これを、30℃、200rpmで12時間培養を行い、ファージを培養上清中に生産させた。
【0160】
その後、30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を回収し、PEG沈殿によって濃縮、精製を行った。最後に、1mlのPBSに分散し、遠心分離によって凝集体を取り除いた。
ここまでの操作を1ラウンドとする。上記操作によりラウンド1を行ったことになる。
その後、上記ラウンドをさらに3回実施した。すなわち、ラウンド4まで行った。各ラウンドで得られたコロニーからファージミドDNAを回収した。
【0161】
[実施例1−2]
疑似ファージライブラリとして条件2を採用したこと以外は実施例1−1と同様にしたものを実施例1−2とした。
【0162】
[比較例1−1]
上記疑似ファージライブラリとして条件1を採用し、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsではなく、上記1−2で調製した、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化チューブを用いて、以下のようにパニングを行った。
【0163】
(ラウンド)
各ラウンドにおいて行う操作を説明する。
上記1−2の通り、イムノチューブ(Immunotube;Nunc社、Maxisorp(登録商標))に、PBSで濃度10μg/mlに調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)溶液を1ml加えて4℃で一晩インキュベートした。その後、PBSで5回洗浄し、2%BSA−PBSを1ml加えて1時間インキュベートした。
次に、PBSTで5回洗浄し、2%BSA−PBSTを900μl加え、さらに、疑似ファージライブラリ溶液を100μl加えて25℃で1時間インキュベートした。
【0164】
(パニングにより選択されたファージの取得)
大腸菌TG1の培養液をOD=0.1となるように新しいLB培地10mlに植菌し、30℃で培養を行った。
【0165】
溶離液1mlと培養した大腸菌TG1の培養液1mlを混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)中に添加し、30℃、200rpmでOD600=1.0となるまで培養した。
【0166】
その培養液に、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように添加し、37℃で30分インキュベートした。30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後後に上清を捨て、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)50ml中に菌体を再分散させた。これを、30℃、200rpmで12時間培養を行い、培養上清中にファージを生産させた。
【0167】
その後、30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を回収し、PEG沈殿によって濃縮、精製を行った。最後に、1mlのPBSに分散し、遠心分離によって凝集体を取り除いた。
ここまでの操作を1ラウンドとする。上記操作によりラウンド1を行ったことになる。
その後、上記ラウンドをさらに3回実施した。すなわち、ラウンド4まで行った。各ラウンドで得られたコロニーからファージミドDNAを回収した。
【0168】
[比較例1−2]
疑似ファージライブラリとして条件2を採用したこと以外は比較例1−1と同様にしたものを比較例1−2とした。
【0169】
<1−6.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子の有無の確認>
実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1、比較例1−2で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認した。
【0170】
得られたファージミドDNAを、1%アガロースゲルを用いた電気泳動によって分離し、エチジウムブロマイド染色によって可視化した。抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子を挿入していないファージミドベクター(pPLFMAΔ250gIIIp)と泳動距離を比較し、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子の有無を目視で確認した。
【0171】
<1−7.パニングの結果>
表2−1及び表2−2に、ラウンド1〜4におけるパニング前後のファージ数、パニング前に対するパニング後のファージ数である回収率を示した。
また、表3に、ラウンド1〜4における、取得されたポジティブクローン数(すなわち、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子を含むクローン数)と、取得された全クローン数に対するポジティブクローン数の割合を示した。さらに、この割合を図1に示した。
【0172】
【表2-1】
【0173】
【表2-2】
【0174】
【表3】
【0175】
上記結果より、抗原であるヒト血清由来IgGポリクローナル抗体をチューブに固定した方法よりも、多重膜リポソームに結合させた方法を用いた方が、効率的なパニングが可能であることが分かった。
【0176】
<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0177】
<2−1.多重膜リポソームとヒト血清由来IgGポリクローナル抗体との結合>
上記1−1と同様にして、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを調製した。
【0178】
<2−2.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
まず、公知の方法により、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)でアナウサギを免疫した。そのウサギの脾臓から全RNAを抽出した。
【0179】
逆転写酵素として、Superscript(登録商標) IV Reverse Transcriptase(Thermo Fisher Scientific社)を用いて全RNAからcDNAを作成した。cDNAをテンプレートにして、配列番号1〜11のプライマーを用いて、重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子を増幅した。
【0180】
増幅したV遺伝子を、pPLFMAΔgIIIpベクターのBamH I/Not Iサイトに導入し、これをVライブラリベクターとした。このときの宿主細胞は大腸菌TG1である。
次に、Vライブラリベクターを大腸菌から精製し、増幅したV遺伝子を、Nco I/Spe Iサイトに導入し、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージライブラリベクター(2.0×10コロニー)を取得した。このときの宿主細胞も大腸菌TG1である。
【0181】
次に、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)50ml中に、ファージライブラリベクターを含む大腸菌TG1を植菌し、30℃、200rpmでOD=1となるまで振とう培養した。その培養液に、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度MOI=20となるように加え、37℃で1時間インキュベートした。30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を捨て、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)50ml中に菌体を懸濁し、30℃、200rpmで12時間以上培養して、培養上清中にファージを産生させた。
【0182】
4℃、10000gで15分間の遠心分離を2回行い、上清をファージライブラリとして回収した。そして、PEG沈殿によりファージライブラリを濃縮し、1mlの1×PBS中に分散した。
【0183】
<2−3.パニング>
[実施例2]
上記2−2で調製したファージライブラリと、上記2−1で調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いて、以下のようにパニングを実施した。
【0184】
(ラウンド)
各ラウンドにおいて行う操作を説明する。
1.5mlエッペンドルフチューブに2%BSA−PBSを1ml加え、室温で1時間以上ブロッキングした。このブロッキングは使用するチューブ全てについて行った。ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsをIgG量が10μgとなるように加え、ボルテックスした。これを4℃、20,000gで2分間遠心分離し、上清を除去した。これに、2%BSA−PBSで10倍希釈したファージライブラリを1ml加え、4℃で回転転倒しながら1晩インキュベートした。
【0185】
その後、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を除去した。2%BSA−PBSを1ml加えて懸濁し、別のエッペンドルフチューブに移した。この遠心分離、上清除去、2%BSA−PBSによる懸濁、及び別のエッペンドルフチューブに移す操作を1単位として、合計3回繰り返した。
【0186】
(パニングにより選択されたファージの取得)
続いて、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を除去した。10mMグリシン−HCl(pH1.5)を0.9ml加えて懸濁し、溶液を別のエッペンドルフチューブに移した。4℃で回転転倒しながら10分間インキュベートし、ファージを溶出した。
4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を別のエッペンドルフチューブに移した。さらに、2M Tris−HCl(pH8.0)を0.1ml加えて、ファージ溶出液を中和した。
【0187】
一方で予め培養しておいた指数増殖中期の大腸菌TG1の培養液1mlを加え、37℃で30分インキュベートした。
この溶液を、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)に懸濁し、30℃、200rpmで振とう培養した。OD=1.0付近まで増殖させた後、VCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように添加し、37℃で30分インキュベートし、30℃、3000gで10分間遠心分離した。
【0188】
30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を除去し、50mlの2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)に菌体を懸濁後、30℃、200rpmで12時間培養し、ファージを培養上清中に生産させた。
【0189】
その後、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を回収し、PEG沈殿(2回)し、1mlのPBSに分散させた。最後に、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清をファージ溶液として回収した。
【0190】
ここまでの操作を1ラウンドとする。上記操作によりラウンド1を行ったことになる。
その後、上記ラウンドをさらに2回実施した。すなわち、ラウンド3まで行った。各ラウンドで得られたコロニーからファージミドDNAを回収した。
【0191】
[比較例2]
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体を結合しなかった多重膜リポソームを用いたこと以外は実施例2と同様にしたものを比較例2とした。
【0192】
<2−4.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
実施例2、比較例2で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認した。
【0193】
得られたファージミドDNAを、1%アガロースゲルを用いた電気泳動によって分離し、エチジウムブロマイド染色によって可視化した。抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子を挿入していないファージミドベクター(pPLFMAΔ250gIIIp)と泳動距離を比較し、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を目視で確認した。当該遺伝子の挿入を確認できたファージミドベクターは、DNAシーケンス解析(受託)によって配列決定を行った。
当該遺伝子内におけるCDR領域の決定は、IMGT(http://www.imgt.org/)のVquestサーチエンジンを利用して行った。
【0194】
<2−5.パニングの結果>
図2に、実施例2及び比較例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示した。
また、図3に、実施例2及び比較例2におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0195】
上記結果より、実施例2では、ラウンド2において早くも回収率が大幅に増加することが分かった。なお、通常のイムノチューブを用いる方法では、少なくともラウンド3ないし4以上でなければ、ここまでの回収率(%)が得られないことを付言しておく。すなわち、多重膜リポソームを用いることによって、従来技術に比べて顕著に効率的なパニングが可能であることが分かった。
【0196】
<3−1.抗原結合活性評価1>
[実施例3−1]
各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について、以下のようにして抗原結合活性を評価した。
【0197】
Maxisorp(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)プレートに、ヒトIgG1(Sigma、#I5154)、ヒトIgG2(Sigma、#I5404)、ヒトIgG3(Sigma、#I5654)、ヒトIgG4(Sigma、#I4639)、ヒトIgA(Sigma、#I4036)を、それぞれが最終濃度5μg/mlとなるように100μlのPBSを添加し、4℃で一晩インキュベートした(抗原の固相化)。
次に、上記固相化したプレートをPBSで洗浄し、10%のBlocking One−PBS(ナカライテスク)を300μl加えて25℃で1時間インキュベート後(ブロッキング)、PBSTでプレートを洗浄した。
【0198】
一方で、実施例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時で得られたファージミド含有大腸菌ペレット25mlのそれぞれに、2.5mlのBugbuster(登録商標)(メルク社)、及び2.5μLのBenzonase Nuclease(登録商標)(メルク社)を加えて溶菌後、4℃、10,000gで15分間遠心分離し、上清を回収した。
これを10% Blocking One−PBSTで10倍に希釈し、上記ブロッキング及びPBSTによる洗浄後のプレートに100μlずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。
【0199】
続いて、PBSTでプレートを洗浄し、10% Blocking One−PBSTで10000倍希釈したHRP標識抗c−myc抗体を100μlずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。
その後、PBSTでプレートを洗浄し、TMB溶液を100μlずつ加えて5分間インキュベートし、0.3M硫酸を100μlずつ加えて反応を停止した。
マイクロプレートリーダーを用いて450nmにおける吸光度を測定した。なお、650nmを副波長とした。
【0200】
図4にその結果を示す。図4より、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgG4抗体に対する結合活性として、わずか1ラウンドのパニング操作により、大きい吸光度を示すことが分かった。すなわち、1ラウンドのパニング操作にもかかわらず、抗原に特異的に結合するファージが濃縮されていることが分かった。
さらに、ラウンド2終了時には、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgG4抗体に加えて、ヒトIgA抗体に対しても特異的に結合するファージが濃縮されていることが分かった。
【0201】
<3−2.抗原結合活性評価2>
[実施例3−2]
各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のコロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について、以下のようにして抗原結合活性を評価した。
【0202】
実施例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時で得られたファージミド含有大腸菌のコロニーを、96ウェルディープウェルプレート内で、1mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、1600rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、0.2mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。それ以降は、上記3−1と同様である。
【0203】
図5、表4−1、表4−2に、ラウンド1終了時に得られた48コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。尚、「ライブラリ」とは、ファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について抗原結合活性を評価した結果である。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
尚、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法において取得されたクローンの名称として、例えば、「ラウンド1終了時のクローン番号1」のクローンを「R1−1」や「I−1」と略すことがある。同様に、例えば、「ラウンド2終了時のクローン番号1」のクローンを「R2−1」や「II−1」と、「ラウンド3終了時のクローン番号1」のクローンを「R3−1」や「III−1」と略すことがある。
【0204】
【表4-1】
【0205】
【表4-2】
【0206】
同様に、図6、表5−1、表5−2に、ラウンド2終了時に得られた48コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。ここでは、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgA抗体に対する結合活性の結果を示した。尚、「ライブラリ」とは、上記同様に、ファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について抗原結合活性を評価した結果である。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0207】
【表5-1】
【0208】
【表5-2】
【0209】
同様に、図7−1〜図7−8、表6−1〜表6−5に、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。なお、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0210】
【表6-1】
【0211】
【表6-2】
【0212】
【表6-3】
【0213】
【表6-4】
【0214】
【表6-5】
【0215】
以上の結果から以下のことが分かった。
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いることで、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に極めて特異的に結合するファージを効率的に回収することができた。ここで、1ラウンドのパニングで、全クローン数中のポジティブクローン数の割合が50%を越える結果は、従来技術では困難であり、極めて稀なものである。また、ラウンドを重ねるごとにポジティブクローン数が顕著に増加し、結合量も顕著に増加していることから、多重膜リポソームを用いた本発明にかかるスクリーニング方法は、非常に高効率なスクリーニング技術であるといえる。
【0216】
また、単離されたウサギ由来単鎖抗体の多くが、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体から成る群から選択される二以上に結合特異性を有していた。特に、ヒトIgG1抗体とヒトIgG3抗体の両者への結合量が同じウサギ由来単鎖抗体については、従来用いられているプロテインAに代わるアフィニティリガンドとなる可能性が高いと考えられる。
【0217】
さらに、数は少ないものの、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に加え、ヒトIgA抗体にも同程度の吸光度を示すものもあった。これは、抗体のL鎖に特異性に結合することを示唆しているものと考えられる。
【0218】
<4.解離速度定数koffの測定>
[実施例4]
ラウンド1終了時に得られた48コロニー、ラウンド2終了時に得られた48コロニー、及びラウンド3終了時に得られた96コロニーのうち、抗原結合活性評価2で吸光度が2.5を超えたコロニーのそれぞれについて、Biacore X−100(GEヘルスケア社)を用いて解離速度定数koffの測定を行った。
【0219】
(サンプルの調製)
ファージミド含有大腸菌のコロニーを、96ウェルディープウェルプレート内で、1mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、1600rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、0.2mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。回収した上清をPBSTで10倍希釈した。
【0220】
(測定方法)
以下の測定条件で測定を行った。
Sensor Chip: human IgG−coupled CM5(15000 RU)
Running buffer: PBST
Binding time: 300 sec
Dissociation time: 180 sec
Elution: 10mM Glycine,pH 1.5
【0221】
既出の解離速度定数koffの算出方法に従って、解離速度定数koffを算出し、その小さい順に1位から140位までランキングしたものを表7−1〜表7−5に示した。
【0222】
【表7-1】
【0223】
【表7-2】
【0224】
【表7-3】
【0225】
【表7-4】
【0226】
【表7-5】
【0227】
<5.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体遺伝子のアミノ酸配列の決定>
[実施例5]
解離速度定数koffの測定の結果で、1位(R3−75)、2位(R3−23)、3位(R3−26)、4位(R3−43)、5位(R3−58)、6位(R2−18)、7位(R2−16)、8位(R1−27)、11位(R3−8)、68位(R1−7)について、ウサギ由来単鎖抗体遺伝子の遺伝子配列からアミノ酸配列を決定した。なお、4位(R3−43)はシーケンスできなかった。
【0228】
図8−1、図8−2に、決定したアミノ酸配列を示す。以下のことが分かった。なお、図8−1に示す重鎖(H鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子について、1位(R3−75)の配列を配列番号12と、2位(R3−23)の配列を配列番号13と、3位(R3−26)の配列を配列番号14と、5位(R3−58)の配列を配列番号15と、6位(R2−18)の配列を配列番号16と、7位(R2−16)の配列を配列番号17と、8位(R1−27)の配列を配列番号18と、11位(R3−8)の配列を配列番号19と、68位(R1−7)の配列を配列番号20とする。
【0229】
また、図8−2に示す重鎖(L鎖)の可変領域(Vドメイン)の遺伝子について、1位(R3−75)の配列を配列番号21と、2位(R3−23)の配列を配列番号22と、3位(R3−26)の配列を配列番号23と、5位(R3−58)の配列を配列番号24と、6位(R2−18)の配列を配列番号25と、7位(R2−16)の配列を配列番号26と、8位(R1−27)の配列を配列番号27と、11位(R3−8)の配列を配列番号28と、68位(R1−7)の配列を配列番号29とする。
【0230】
1位(R3−75)、6位(R2−18)、11位(R3−8)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ATRYDSYGYAYNYWFGTLW(配列番号30、19残基)」を有することが分かった。尚、これらのコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgG4抗体、及びヒトIgA抗体に結合するものである。
【0231】
2位(R3−23)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「GSYYDSHGYAYVSLW(配列番号31、15残基)」を有することが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0232】
3位(R3−26)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ATDYGIYGYAYGHLW(配列番号32、15残基)」であることが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0233】
5位(R3−58)、8位(R1−27)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ARYSGDNGGTLNLW(配列番号33、14残基)」を有することが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0234】
7位(R2−16)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ARYSGDNGGALNLW(配列番号34、14残基)」を有することが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0235】
<6.ヒトIgG1抗体との結合能の測定>
[実施例6]
解離速度定数koffの測定の結果で、1位(R3−75)、2位(R3−23)、6位(R2−18)、7位(R2−16)、8位(R1−27)、68位(R1−7)となった各コロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体について、Biacore X−100(GEヘルスケア社)を用いて、ヒトIgG1抗体との結合性を測定した。
【0236】
(サンプルの調製方法)
得られたファージミド含有大腸菌のコロニーを、500mlバッフル付フラスコ内で、50mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、200rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、5mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。これをPBSTで10倍希釈し、測定に用いた。
【0237】
(測定方法)
以下の測定条件で測定を行った。
Sensor Chip: human IgG1-coupled CM5 (5000 RU)
Running buffer: PBST
Binding time: 540 sec
Dissociation time: 120 sec
Elution: 10mM Glycine, pH 1.5
【0238】
[比較例6−1]
サンプルの代わりに、PBSTで最終濃度10μg/mLに調製したプロテインA(ナカライテスク、29435-14)を用いたこと以外は実施例6と同様にしたものを比較例6−1とした。
【0239】
[比較例6−2]
サンプルの代わりに、mouse scFv-FM(可溶性画分をPBSTで10倍希釈)を用いたこと以外は実施例6と同様にしたものを比較例6−2とした。
得られたファージミド含有大腸菌のコロニーを、500mlバッフル付フラスコ内で、50mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、200rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、5mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。これをPBSTで10倍希釈し、測定に用いた。
【0240】
図9−1、図9−2に測定結果を示した。ヒトIgG1抗体に対する結合能は、いずれのウサギ由来単鎖抗体も、比較例6−1のプロテインA、比較例6−2のmouse scFv-FMに比べて顕著に大きいことが分かった。
【0241】
<7.ヒトIgG1抗体に対する解離定数Kの測定>
[実施例7]
解離速度定数koffの測定の結果で、1位(R3−75)、2位(R3−23)、3位(R3−26)、6位(R2−18)、7位(R2−16)、8位(R1−27)、68位(R1−7)となったコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体について、Biacore X−100(GEヘルスケア社)を用いて、ヒトIgG1抗体に対する解離定数Kの測定を行った。
【0242】
(サンプルの調製方法)
ファージミドベクターよりT7 promoter primerおよびM13 primerを用いてウサギ由来単鎖抗体遺伝子を含むDNA断片をPCRによって増幅した。DNA断片を精製後、制限酵素Xba IおよびNot Iで消化し、pET22ベクター(メルク)のXba I/Not Iサイトに挿入した。構築したウサギ由来単鎖抗体発現ベクターは、N末端側にペリプラズム移行シグナル配列(pelB leader signal)、C末端側にヒスチジンタグ(6xHis-tag)を融合された形で発現される。発現後、ウサギ由来単鎖抗体はペリプラズムに移行し、pelB leader配列はシグナルペプチダーゼによって切断される。
【0243】
構築したウサギ由来単鎖抗体−His発現ベクターで大腸菌Rosetta (DE3)を形質転換し、LBアガープレート(50mg/Lアンピシリン、35mg/Lカナマイシン含有)上で培養した。得られたシングルコロニーをLB培地10ml(50mg/Lアンピシリン、35mg/Lカナマイシン含有)中で一晩培養した。得られた培養液を50ml Overnight Express TB培地(メルク)中に植菌し、37℃、200rpmで24時間培養した。
得られた培養液を遠心分離(10000rpm、4℃、15分)し、培養上清を得た。また、菌体は、Bugbuster、リゾチーム、Benzonase Nucleaseを含む5mlの溶解バッファと懸濁し、37℃で1時間インキュベートすることで破砕した。10000rpm、4℃、15分間遠心分離し、上清を菌体内可溶性画分として回収した。
【0244】
上述の培養上清および菌体内可溶性画分をそれぞれHis-Trap HPカラム(GE Healthcare)にアプライし、0.4Mイミダゾールを用いたグラジェント溶出によってウサギ由来単鎖抗体−Hisを回収した。また、溶離液のタンパク質濃度をDC Protein assay(Biorad)によって定量した。さらに、溶離液中のウサギ由来単鎖抗体−Hisの純度をSDS−PAGEによって確認した。溶離液中のウサギ由来単鎖抗体−Hisの純度が悪い場合は、溶離液をヒトIgG結合カラムでさらに精製し、定量した。回収した溶離液をPBSTで10倍以上希釈し、BiacoreX−100で解離定数Kを測定した。
【0245】
(測定方法)
以下の測定条件で測定を行った。
Sensor Chip: human IgG1-coupled CM5 (5000 RU)
Running buffer: PBST
Binding time: 180 sec
Dissociation time: 600 sec
Elution: 10mM Glycine, pH 1.5
Mode: Single cycle kinetics mode
【0246】
表8に、解離定数Kの測定結果を含め、取得されたウサギ由来単鎖抗体の特性をまとめた。1位(R3−75)のウサギ由来単鎖抗体のヒトIgG1抗体に対する解離定数Kは5.5×10−10Mであることが分かった。一般的なプロテインAのヒトIgG1抗体に対する解離定数Kは5−10nM程度であることを考慮すると、1位(R3−75)のウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体に対して非常に強固に結合するものと考えられる。
【0247】
なお、表8のLocationにおいては、培養上清のサンプルを用いて活性が確認されたものを「上清」と、可溶性画分のサンプルを用いて活性が確認されたものを「ペリプラズム」と記載した。「上清」の場合には、大腸菌からファージまたはウサギ由来単鎖抗体が分泌されたことを示しており、「ペリプラズム」の場合には、大腸菌のペリプラズム内に存在していたことを示している。
【0248】
【表8】
【0249】
1位(R3−75)、3位(R3−26)、および6位(R2−18)のウサギ由来単鎖抗体は、培養上清中に分泌されたことが分かった。
【0250】
<8.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤>
[実施例8]
(単鎖抗体の調製)
Jar Fermenterを用いた流加培養により、「R3−26」の単鎖抗体を大量生産した。さらに、培養上清中に分泌された単鎖抗体をHisTrap HPカラム(GEヘルスケア)を利用した固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。さらに、脱塩・バッファ交換用Hi Trap Desaltingカラム(GEヘルスケア)を用いて0.5M NaClを含む0.1M炭酸バッファー(pH8.3)に置換、さらには、限外ろ過を用いて濃縮した。最終的に、濃度1mg/ml、体積10mlの単鎖抗体を得た。
【0251】
(担体への単鎖抗体の固定化)
HiTrap NHSカラム5ml(GEヘルスケア)の担体であるセファロース(ビーズ状のアガロース担体)のカルボキシル基をNHSでエステル化し、精製した上記単鎖抗体を供給して、そのアミノ基とアミド結合を形成させて固定化した。未反応のNHSエステルはエタノールアミンを加えてブロックした。
【0252】
(ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離)
単鎖抗体を固定した上記カラム5mlをクロマトグラフィーシステムAKTA Purifier UPC 10(GEヘルスケア)にセットし、PBSで平衡化した。そこへ、1mg/mlに調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)を1ml/minの流速で10ml分供給した。その後、カラムをPBSで洗浄し、UV280の値がベースラインとなったのを確認後、0.5M アルギニン(pH1.5)を供給して、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体をカラムから溶出した。
【0253】
その結果、図10に示す通りの破過曲線が得られた。さらに、0.5M アルギニン(pH1.5)を用いてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体をカラムから強制的に解離させたところ、高純度で単離できた。素通り画分と溶出画分とのピーク面積比から、供給したIgG(10mg)の内、およそ53%(5.3mg)がカラムに吸着し、溶出された。
以上の結果より、本発明のスクリーニング方法によって選択された単鎖抗体の、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤としての利用可能性が示された。
【0254】
<9. ヒト抗体のL鎖に特異的に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
先に検討したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いたパニングにおいて、ラウンド1〜3で得られた合計192クローンの抗原特異性ならびにアミノ酸配列の評価を行った結果、3クローン(R2−18、R3−8、R3−75)がヒトIgG抗体のみならず、ヒトIgA抗体にも強く結合していることが明らかとなった。
さらに、これらの単鎖抗体の抗原特異性をウェスタンブロットで解析した結果、これらは、ヒト抗体の軽鎖(L鎖)、具体的にはκ鎖を特異的に認識していることが明らかとなった。ヒトIgG抗体とヒトIgA抗体の定常部のアミノ酸配列を比較した場合、重鎖(H鎖)のアミノ酸配列は全く異なるが、軽鎖(L鎖)のアミノ酸配列はλ鎖又はκ鎖に大別され、配列はそれぞれで共通である。このことは、ヒトIgM抗体、ヒトIgE抗体、ヒトIgD抗体等でも同様である。したがって、これら3クローンは、ヒトIgG抗体、ヒトIgA抗体のみならず、ヒトIgM抗体、ヒトIgE抗体、ヒトIgD抗体等、全てのヒト抗体に対し、特異的に結合できる非常に付加価値の高い抗体であることが示唆された。
そこで、先に調製した、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリ中から、このような、ヒト抗体のL鎖に特異的に結合するウサギ由来単鎖抗体を高効率に回収するために、新たに以下のパニングを行うことにした。
【0255】
以下では、ヒト抗体のL鎖に特異的に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト抗体L鎖−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
尚、抗−ヒト抗体L鎖−ウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法において取得されたクローンの名称として、例えば、「ラウンド1終了時のクローン番号1」のクローンを「IgA R1−1」や「IgA I−1」と略すことがある。同様に、例えば、「ラウンド2終了時のクローン番号1」のクローンを「IgA R2−1」や「IgA II−1」と、「ラウンド3終了時のクローン番号1」のクローンを「IgA R3−1」や「IgA III−1」と略すことがある。
【0256】
<9−1.多重膜リポソームとヒト血清由来IgAポリクローナル抗体との結合>
上記1−1と同様にして、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを調製した。ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体には、Sigmaの#I4036を用いた。
【0257】
<9−2.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
上記2−2と同様にして、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0258】
<9−3.パニング>
[実施例9−1]
上記9−2で調製したファージライブラリと、上記9−1で調製したヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0259】
[比較例9−1]
ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を固定化しなかった多重膜リポソームを用いたこと以外は実施例9−1と同様にしたものを比較例9−1とした。
【0260】
<9−4.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例9−1、比較例9−1で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認した。
【0261】
<9−5.パニングの結果>
図11に、実施例9−1及び比較例9−1におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示した。
また、図12に、実施例9−1及び比較例9−1におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0262】
上記結果より、実施例9−1では、ラウンド3において回収率が大幅に増加し、比較例9−1に比べて100倍以上になった。ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0263】
<9−6.抗原結合活性評価1>
[実施例9−2]
上記3−1と同様に、各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について、以下のようにして抗原結合活性を評価した。ただし、プレートに固相化した抗原としてはヒトIgA抗体(Sigma、#I4036)を用いたのみであり、抗原結合活性評価もヒトIgA抗体に対してしか行わなかった。すなわち、ヒトIgG1抗体等の固相化およびヒトIgG1抗体等に対する抗原結合活性評価は行わなかった。
【0264】
図13にその結果を示す。図13より、ラウンド2においてヒトIgA抗体に対する抗原結合活性が飛躍的に増加した。さらに、ラウンド3においては、ラウンド2よりもさらにヒトIgA抗体に対する抗原結合活性が高くなった。この結果より、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを担体としてパニングを行った場合でも、ヒトIgA抗体に対して特異的に結合するファージが濃縮されていることが分かった。
【0265】
<9−7.抗原結合活性評価2>
[実施例9−3]
各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のコロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について、3−2と同様にして抗原結合活性を評価した。尚、ここでは、プレートに固相化した抗原としてはヒトIgA抗体(Sigma、#I4036)を用いただけでなく、3−2と同様にヒトIgG1抗体等も用い、ヒトIgG1抗体等に対する抗原結合活性評価も行った。
【0266】
図14、表9−1、表9−2に、ラウンド1終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0267】
【表9-1】
【0268】
【表9-2】
【0269】
同様に、図15、表10−1、表10−2に、ラウンド2終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0270】
【表10-1】
【0271】
【表10-2】
【0272】
同様に、図16、表11−1、表11−2に、ラウンド3終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0273】
【表11-1】
【0274】
【表11-2】
【0275】
以上の結果から以下のことが分かった。
ラウンド3で回収された単鎖抗体は、すべてヒトIgA抗体に結合するものであり、その結合活性も極めて高かった。また、ヒトIgA抗体のみならず、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体のすべてに結合するものであった。この結果より、パニングが極めて高効率に実施されていることがわかった。
【0276】
<9−8.ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体遺伝子のアミノ酸配列の決定>
[実施例10]
ラウンド1終了時に得られた32コロニー、ラウンド2終了時に得られた32コロニー、および、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについて、ウサギ由来単鎖抗体遺伝子の遺伝子配列からアミノ酸配列を決定した。
【0277】
ラウンド1終了時に得られた32コロニーについて、Vドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列を図17−1に示し、各アミノ酸配列について図中に示す通り配列番号を付した。尚、配列が空欄の部分は配列決定ができなかったものである。
また、抗原抗体反応の特異性に大きく関与するVドメインのCDR3領域のアミノ酸配列について、アミノ酸残基数、32クローン中の出現数、32クローン中の出現確率を図17−2に示した。「ネガティブクローン」とは、VドメインのCDR3領域のアミノ酸配列が決定できなかったクローンに関するものである。こちらにも、各アミノ酸配列について図中に示す通り配列番号を付した。
同様にして、ラウンド2終了時に得られた32コロニーについては図17−3、図17−4に、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについては図17−5、図17−6に示した。
さらに、参考のために、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた「R2−18」、「R3−8」、「R3−75」のVドメインのアミノ酸配列を図17−7に示した。
【0278】
また、備考欄に、例えば「共通1」と記載されているクローンが複数ある。「共通1」と記載されているクローン群はすべて同一のクローンであることを示している。同様に、「共通2」と記載されているクローン群もすべて同一のクローンであることを示している。ただし、これらの付与番号は便宜的なものに過ぎない。
さらに、備考欄に、例えば「共通3(R3−75と同一)」と記載されているクローンがある。これは、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた「R3−75」と同一のクローンであることを示している。
さらに、ラウンド1〜3終了時に得られた「共通1」〜「共通7」のクローンの数を、図17−8、図17−9、図17−10にまとめた。
【0279】
以上の結果から以下のことが分かった。
図17−6から分かるように、ラウンド3においては、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた、「R2−18」、「R3−8(ただし、当該クローンは、R2−18と同一クローンである。)」、「R3−75」が含むCDR3のアミノ酸配列である「ATRYDSYGYAYNYWFGTLW(配列番号30、19残基)」を含むVドメインが、全32クローン中26クローン取得され、81.3%の割合で存在した。
【0280】
これらのうち、12クローンと8クローンは、それぞれ、共通1のクローン、共通2のクローンであった。また、他の2クローンは、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた、「R2−18(6位;ただし、当該クローンは、「R3−8」と同一クローンである。)」と同一の共通4のクローンであった。
さらに、他の2クローンは、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた、「R3−75(1位)」と同一の共通3のクローンであった。
【0281】
さらに、「ARADYNTVAYFDLW(14残基、配列番号141)」、「ARADYNTAAYFDLW(14残基、配列番号142)」、「VRADYNTVSYFDLW(14残基、配列番号143)」のように、VドメインのCDR3のアミノ酸配列において互いに相同性の高いクローンも複数個取得された。
【0282】
また、ウェスタンブロットの結果、ラウンド3で取得されたクローンは、VドメインのCDR3のアミノ酸配列の長さに拘わらず、全てがヒト抗体の軽鎖(L鎖)、具体的にはκ鎖に結合していることが明らかとなった。
【0283】
以上の結果より、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を担体に用いてパニングを行うことで、ヒトIgG抗体とヒトIgA抗体との共通部分である、ヒト抗体の軽鎖(L鎖)、具体的にはκ鎖に特異的に結合する単鎖抗体を極めて高効率に回収できることが明らかとなった。
【0284】
<9−9.解離速度定数koffの測定>
[実施例11]
センサーチップとしてヒトIgA抗体固定化CM5を用いたこと以外は<4.解離速度定数koffの測定>と同様にして、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについて解離速度定数koffの測定を行った。その結果を図18、表12に示した。また、Rも併せて記載した。
【0285】
[比較例11]
「IgA R1−2」を用いた以外は実施例11と同様にしたものをネガティブコントロールとし、比較例11とした。
【0286】
【表12】
【0287】
ラウンド3で得られたクローン全てにおいて、ヒトIgA抗体への結合が確認された。さらに、表12に示す通り、ラウンド3で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数koffのほとんどは、10−5〜10−4sec−1のオーダーの範囲にあり、非常に小さかった。特に、32クローン中12クローンを占めていた「IgA R3−6(共通1)」による単鎖抗体の解離速度定数koffは、「R3−75」と同一クローンである「IgA R3−1(共通3)」による単鎖抗体の解離速度定数koffよりも小さく、より高親和性であることが示唆された。
【0288】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0289】
<10.Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質(以下、EC2hFcと称することがある。)に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−EC2hFc−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0290】
<10−1.EC2hFcの調製>
EC2hFcの遺伝子を含む塩基配列(配列番号148)をPCRで増幅し、昆虫細胞用発現ベクターpACGP67(BD Bioscience社製)中のBamH Iサイト内に導入した。構築したベクターで昆虫細胞Sf9を形質転換し、さらに、バキュロウィルスを感染させて、10%FBSを含むGrace培地中で培養した。培養上清中に生産されたEC2hFc遺伝子が導入された組換えバキュロウィルスを回収した。SF900 SFM培地中で継代している昆虫細胞Sf9に対し、組換えバキュロウィルスを感染させることで、培養上清中にEC2hFcを産生させた。上清を遠心分離によって回収し、限外濾過ならびにHi Trap Desaltingカラムを用いたゲルクロマトグラフィによってEC2hFcを回収した。回収されたEC2hFcは、SDS−PAGE、ならびに抗CD9抗体および抗ヒトIgG抗体を用いたウェスタンブロット解析によって確認した。
【0291】
<10−2.多重膜リポソームとEC2hFcとの結合>
上記1−1と同様にして、EC2hFcを固定化したMLVsを調製した。
【0292】
<10−3.ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
CD9を細胞膜上に強制発現させたHEK293T細胞を免疫したこと以外は上記2−2と同様にして、HEK293T細胞にCD9を強制発現した細胞に対するウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0293】
<10−4.パニング>
[実施例12]
上記10−3で調製したファージライブラリと、上記10−2で調製したEC2hFc固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0294】
<10−5.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例12で回収したファージミドDNAから、抗−EC2hFc−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認し、シーケンス解析によって配列決定を行った。
【0295】
<10−6.パニングの結果>
図19に、実施例12におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時におけるファージ数を示した。
また、図20に、実施例12におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、 ラウンド4終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0296】
上記結果より、実施例12では、ラウンド3において回収率が大幅に増加した。したがって、EC2hFc固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0297】
<10−7.解離速度定数koffの測定>
[実施例13]
<4.解離速度定数koffの測定>と同様にして、ラウンド3終了時に得られた48コロニー、ならびに、ラウンド4終了時に得られた48コロニーについて解離速度定数koffの測定を行った。その結果を図21図22−1、図22−2に示した。
【0298】
ラウンド3および4で得られたクローン全てにおいて、EC2hFcへの結合が確認された。さらに、図22に示す通り、ラウンド3および4で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数koffのほとんどは、10−3 sec−1のオーダーの範囲にあり、非常に小さかった。
【0299】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0300】
<11.B型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Protein に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、B型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Protein に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0301】
<11−1.B型インフルエンザウイルス由来NPの調製>
NPの遺伝子を含む塩基配列(配列番号149)をpETBAベクター(株式会社バイオダイナミクス研究所製)内にクローニングし、本ベクターで大腸菌Rosetta (DE3)を形質転換した。形質転換体をOvernight Express TB medium(+Amp)100ml中に植菌し、30℃、200rpmで24時間培養した。菌体を遠心分離で回収後、Bugbuster、リゾチーム、Benzonaseを含むLysis Bufferを用いて溶菌し、遠心分離によって上清を回収した。さらに、これをHis Trap HPカラムにアプライし、カラムを洗浄後、500 mMイミダゾールを用いて溶出した。PBSで透析後、4℃で保存した。
【0302】
<11−2.多重膜リポソームとB型インフルエンザウイルス由来NPとの結合>
上記1−1と同様にして、B型インフルエンザウイルス由来NPを固定化したMLVsを調製した。
【0303】
<11−3.抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
B型インフルエンザウイルス由来NPでアナウサギを免疫したこと以外は上記2−2と同様にして、抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0304】
<11−4.パニング>
[実施例14]
上記11−3で調製したファージライブラリと、上記11−2で調製したB型インフルエンザウイルス由来NP固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0305】
<11−5.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例14で回収したファージミドDNAから、抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認し、シーケンス解析によって配列決定を行った。
【0306】
<11−6.パニングの結果>
図23に、実施例14におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時におけるファージ数を示した。
また、図24に、実施例14におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、 ラウンド4終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0307】
上記結果より、実施例14では、ラウンド3において回収率が大幅に増加した。したがって、B型インフルエンザウイルス由来NP固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0308】
<11−7.解離速度定数koffの測定>
[実施例15]
<4.解離速度定数koffの測定>と同様にして、ラウンド3終了時に得られた48コロニー、ならびに、ラウンド4終了時に得られた48コロニーについて解離速度定数koffの測定を行った。その結果を表14−1、表14−2、表14−3に示した。
【0309】
【表14-1】
【0310】
【表14-2】
【0311】
【表14-3】
【0312】
ラウンド3および4で得られたクローン全てにおいて、B型インフルエンザウイルス由来NPへの結合が確認された。さらに、表14−1、表14−2、表14−3に示す通り、ラウンド3および4で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数koffのほとんどは、10−3 sec−1のオーダー以下の範囲にあり、非常に小さかった。
【0313】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0314】
また、単離されたクローンのアミノ酸配列を解析し、同一・同類クローンを除く解離速度定数koffの小さな6種類のクローンについて、SPRセンサを用いて解離定数Kの測定を行った。表15に示すとおり、得られたK値の大部分が10−8 Mオーダーであり、B型インフルエンザの検査に利用可能なB型インフルエンザウイルス由来NP抗原に対して高い親和力を有するscFvが単離できていることが示された。
【0315】
【表15】
【0316】
<12.ヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、ヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト由来CRP−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0317】
<12−1.ヒト由来CRP>
ヒト由来CRPとしては、rCRP(C‐リアクティブプロテイン(リコンビナント))(オリエンタル酵母工業株式会社製、#47190000)を用いた。
【0318】
<12−2.多重膜リポソームとヒト由来CRPとの結合>
上記1−1と同様にして、ヒト由来CRPを固定化したMLVsを調製した。
【0319】
<12−3.抗−ヒト由来CRP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
ヒト由来CRPでアナウサギを免疫したこと以外は上記2−2と同様にして、抗−CRP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0320】
<12−4.パニング>
[実施例16]
上記12−3で調製したファージライブラリと、上記12−2で調製したヒト由来CRP固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0321】
<12−5.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例16で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト由来CRP−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認し、シーケンス解析によって配列決定を行った。
【0322】
<12−6.パニングの結果>
図25に、実施例16におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示した。
また、図26に、実施例16におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0323】
上記結果より、実施例16では、ラウンド2において回収率が大幅に増加した。したがって、ヒト由来CRP固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0324】
<12−7.解離速度定数koffの測定>
[実施例17]
<4.解離速度定数koffの測定>と同様にして、ラウンド2終了時に得られた48コロニー、ならびに、ラウンド3終了時に得られた48コロニーについて解離速度定数koffの測定を行った。その結果を表16に示した。
【0325】
【表16】
【0326】
ラウンド2および3で得られたクローン全てにおいて、ヒト由来CRPへの結合が確認された。さらに、表16に示す通り、ラウンド2および3で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数koffのほとんどは、10−3 sec−1のオーダーの範囲にあり、非常に小さかった。
【0327】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0328】
また、単離されたクローンのアミノ酸配列を解析し、同一・同類クローンを除く解離速度定数koffの小さな6種類のクローンについて、SPRセンサを用いて解離定数Kの測定を行った。その結果を表17に示した。
【0329】
【表17】
【0330】
表17に示すとおり、得られたK値の大部分が10−9 Mオーダー以下であり、炎症検査に利用可能なバイオマーカー、ヒト由来CRPに対して高い親和力を有するscFvが単離できていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0331】
本発明は、例えば、抗体医薬の製造方法に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図7-4】
図7-5】
図7-6】
図7-7】
図7-8】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図17-4】
図17-5】
図17-6】
図17-7】
図17-8】
図17-9】
図17-10】
図18
図19
図20
図21
図22-1】
図22-2】
図23
図24
図25
図26
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]