【実施例】
【0136】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。また、便宜のため、実施例番号、比較例番号が連続していない場合もある。
【0137】
<1.モデル実験>
以下では、本発明の第一の発明に係るスクリーニング法の実施例の前に、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するマウス由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。このとき、比較実験として、マウス由来単鎖抗体を提示していないファージライブラリを用いた場合についても記載する。さらに、いずれの場合においても、多重膜リポソームを用いた場合とイムノチューブを用いた実験について記載する。
【0138】
<1−1.多重膜リポソームとヒト血清由来IgGポリクローナル抗体との結合>
10μmolのジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1μmolのリン酸ジセチル(DCP)、0.5μmolのN−(4−(p−マレイミドフェニル)ブチリル)ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(MPB−DPPE)を、クロロホルム5ml中に溶解し、100mlナスフラスコ中で減圧下、クロロホルムを留去した。
【0139】
次に、フラスコ内壁に形成させたリン脂質薄膜を50℃下、3mlのPBSで水和し、多重膜リポソーム(MLVs)を形成させた。25℃、20,000gで2分間の遠心分離を行い、上清を除去した。この操作をさらに2回繰り返した。
【0140】
3mlのPBSで懸濁し、4℃で保存した(これを「反応性MLVs」と称することがある。)。1mlの反応性MLVsを25℃、20,000gで2分間の遠心分離した。ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)を1mg/mlとなるようにPBSに溶解し、この溶液に、上記遠心分離後の反応性MLVsのペレットを分散した。
【0141】
モル比にしてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の10倍量の2−イミノチオラン塩酸塩(Sigma)を加え、25℃で3時間以上撹拌しながらインキュベートした。その後、25℃、20,000gで2分間の遠心分離を行い、上清を除去し、1mlのPBSで懸濁した。この遠心分離と上清の除去、及び1mlのPBSへの懸濁を1単位としてさらに3回繰り返した。
【0142】
得られた懸濁液をヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsとして4℃で保存した。MLVsに固定化されたヒト血清由来IgGポリクローナル抗体量はDC Protein Assayで定量した。
【0143】
<1−2.チューブへのヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の固定>
イムノチューブ(Immunotube;Nunc社、Maxisorp(登録商標))に、PBSで濃度10μg/mlに調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)溶液を1ml加えて4℃で一晩インキュベートした。その後、PBSで5回洗浄し、2%BSA−PBSを1ml加えて1時間インキュベートした。
この後、ファージライブラリと混合する際には、PBSでさらに5回洗浄してからファージライブラリ溶液を添加して用いた。
【0144】
なお、ウサギ血清由来IgGポリクローナル抗体を用いた場合ではあるが、チューブへ抗体を固定した場合におけるチューブに非特異的に結合する抗体の割合が、多重膜リポソームへ抗体を固定した場合における多重膜リポソームに非特異的に結合する抗体の割合に比べて非常に大きいことが非特許文献1で示されている。当業者であれば、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体を用いた場合でも同様であることは容易に理解することができる。
【0145】
<1−3.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
pelB leaderの遺伝子配列、Nco Iサイト、Spe Iサイト、フレキシブルリンカー(G
4S)
3の遺伝子配列、BamH Iサイト、Not Iサイト、FLAG−tagの遺伝子配列、c−myc−tagの遺伝子配列、Amber ストップコドン(TAG)、及びgIIIpコートタンパク質の遺伝子(N末端側250アミノ酸残基を欠損)を含むDNAを委託合成し、pT7 Blue(メルク社)のXba I/BamH Iサイトに挿入した。このpT7 Blue組換えファージミドベクターをpPLFMAΔ250gIIIpとし、一連のファージディスプレイの実験に用いた。
【0146】
マウスハイブリドーマCRL−1786株(ATCC)より決定した抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子をPCRで増幅し、組換えファージミドベクターpPLFMAΔ250gIIIpのNco I/Not Iサイト中に導入した。
この組換えファージミドベクターで大腸菌TG1を形質転換し、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)10ml中に植菌した。200ml三角フラスコ中で37℃、200rpmにおいて一晩培養した(前培養)。
【0147】
前培養液を、OD600=0.1となるように、50mlの2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)中に植菌し、30℃、200rpmで振とう培養した。OD=1.0付近まで培養後、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように培養液に加え、37℃で30分インキュベートした。37℃で3000g、10分間遠心分離し、上清を除去し、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、35mg/Lカナマイシン含有)50ml中に穏やかに懸濁した。30℃、200rpmで12時間以上振とうし、培養上清中に、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージを生産した。
上清を遠心分離によって回収し、PEG沈殿によって濃縮とするとともに、1mlのPBS中に再懸濁して、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを取得した。
【0148】
<1−4.非提示ファージのライブラリの調製>
抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子を挿入していない組換えファージミドベクターpPLFMAΔ250gIIIpで大腸菌TG1を形質転換したこと以外は、上記1−3と同様にして、非提示ファージを取得した。
【0149】
<1−5.パニング>
(疑似ファージライブラリの調製)
上記1−3及び1−4で取得した抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリと非提示ファージのライブラリを表1に示す比で混合し、疑似ファージライブラリを調製した。
【0150】
【表1】
【0151】
[実施例1−1]
(ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いたパニング)
以下のようにして、上記疑似ファージライブラリとして条件1を採用し、上記1−1で調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いて、以下のようにパニングを実施した。
【0152】
(ラウンド)
まず各ラウンドにおいて行う操作を説明する。
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsをIgG量が10μgとなるように加え、ボルテックスした。これを25℃、20,000g、2分間遠心分離し、上清を取り除いて、2%BSA−PBSを0.9ml加えて再懸濁した。
【0153】
一方で、疑似ファージライブラリ溶液を25℃、20,000g、2分間遠心分離し、上清を回収した。100μlの上清をチューブに加えてボルテックスし、25℃で1時間、ローテーターを用いて転倒混和し、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsと疑似ファージライブラリとを結合させる反応を行った。
【0154】
上記結合反応液と1mlの2%BSA−PBSを混合し、25℃、20,000g、2分間遠心分離、上清を除去した(洗浄)。洗浄作業は5回繰り返した。
【0155】
(パニングにより選択されたファージの取得)
上記チューブ内のヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsに10mM グリシン−HCl(pH1.5)を0.9ml加えて懸濁し、BSAブロッキングしたチューブに移した。そして、さらに、室温(または4℃)でチューブを10分間転倒混和して、ファージを溶出した。
【0156】
上記チューブから回収したファージ溶出液0.9mlと0.1mlの2M Tris−HCl溶液を混合し、ファージ溶出液を中和した。
【0157】
一方で、大腸菌TG1の培養液をOD=0.1となるように新しいLB培地10mlに植菌し、30℃で培養を行った。
【0158】
中和した溶離液1mlと培養した大腸菌TG1の培養液1mlを混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)中に添加し、30℃、200rpmでOD600=1.0となるまで培養した。
【0159】
その培養液に、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように添加し、37℃で30分インキュベートした。30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を捨て、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)50ml中に菌体を再分散させた。これを、30℃、200rpmで12時間培養を行い、ファージを培養上清中に生産させた。
【0160】
その後、30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を回収し、PEG沈殿によって濃縮、精製を行った。最後に、1mlのPBSに分散し、遠心分離によって凝集体を取り除いた。
ここまでの操作を1ラウンドとする。上記操作によりラウンド1を行ったことになる。
その後、上記ラウンドをさらに3回実施した。すなわち、ラウンド4まで行った。各ラウンドで得られたコロニーからファージミドDNAを回収した。
【0161】
[実施例1−2]
疑似ファージライブラリとして条件2を採用したこと以外は実施例1−1と同様にしたものを実施例1−2とした。
【0162】
[比較例1−1]
上記疑似ファージライブラリとして条件1を採用し、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsではなく、上記1−2で調製した、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化チューブを用いて、以下のようにパニングを行った。
【0163】
(ラウンド)
各ラウンドにおいて行う操作を説明する。
上記1−2の通り、イムノチューブ(Immunotube;Nunc社、Maxisorp(登録商標))に、PBSで濃度10μg/mlに調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)溶液を1ml加えて4℃で一晩インキュベートした。その後、PBSで5回洗浄し、2%BSA−PBSを1ml加えて1時間インキュベートした。
次に、PBSTで5回洗浄し、2%BSA−PBSTを900μl加え、さらに、疑似ファージライブラリ溶液を100μl加えて25℃で1時間インキュベートした。
【0164】
(パニングにより選択されたファージの取得)
大腸菌TG1の培養液をOD=0.1となるように新しいLB培地10mlに植菌し、30℃で培養を行った。
【0165】
溶離液1mlと培養した大腸菌TG1の培養液1mlを混合し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)中に添加し、30℃、200rpmでOD600=1.0となるまで培養した。
【0166】
その培養液に、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように添加し、37℃で30分インキュベートした。30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後後に上清を捨て、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)50ml中に菌体を再分散させた。これを、30℃、200rpmで12時間培養を行い、培養上清中にファージを生産させた。
【0167】
その後、30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を回収し、PEG沈殿によって濃縮、精製を行った。最後に、1mlのPBSに分散し、遠心分離によって凝集体を取り除いた。
ここまでの操作を1ラウンドとする。上記操作によりラウンド1を行ったことになる。
その後、上記ラウンドをさらに3回実施した。すなわち、ラウンド4まで行った。各ラウンドで得られたコロニーからファージミドDNAを回収した。
【0168】
[比較例1−2]
疑似ファージライブラリとして条件2を採用したこと以外は比較例1−1と同様にしたものを比較例1−2とした。
【0169】
<1−6.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子の有無の確認>
実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1、比較例1−2で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認した。
【0170】
得られたファージミドDNAを、1%アガロースゲルを用いた電気泳動によって分離し、エチジウムブロマイド染色によって可視化した。抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子を挿入していないファージミドベクター(pPLFMAΔ250gIIIp)と泳動距離を比較し、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子の有無を目視で確認した。
【0171】
<1−7.パニングの結果>
表2−1及び表2−2に、ラウンド1〜4におけるパニング前後のファージ数、パニング前に対するパニング後のファージ数である回収率を示した。
また、表3に、ラウンド1〜4における、取得されたポジティブクローン数(すなわち、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−マウス由来単鎖抗体の遺伝子を含むクローン数)と、取得された全クローン数に対するポジティブクローン数の割合を示した。さらに、この割合を
図1に示した。
【0172】
【表2-1】
【0173】
【表2-2】
【0174】
【表3】
【0175】
上記結果より、抗原であるヒト血清由来IgGポリクローナル抗体をチューブに固定した方法よりも、多重膜リポソームに結合させた方法を用いた方が、効率的なパニングが可能であることが分かった。
【0176】
<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0177】
<2−1.多重膜リポソームとヒト血清由来IgGポリクローナル抗体との結合>
上記1−1と同様にして、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを調製した。
【0178】
<2−2.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
まず、公知の方法により、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)でアナウサギを免疫した。そのウサギの脾臓から全RNAを抽出した。
【0179】
逆転写酵素として、Superscript(登録商標) IV Reverse Transcriptase(Thermo Fisher Scientific社)を用いて全RNAからcDNAを作成した。cDNAをテンプレートにして、配列番号1〜11のプライマーを用いて、重鎖(H鎖)の可変領域(V
Hドメイン)の遺伝子、及び、軽鎖(L鎖)の可変領域(V
Lドメイン)の遺伝子を増幅した。
【0180】
増幅したV
L遺伝子を、pPLFMAΔgIIIpベクターのBamH I/Not Iサイトに導入し、これをV
Lライブラリベクターとした。このときの宿主細胞は大腸菌TG1である。
次に、V
Lライブラリベクターを大腸菌から精製し、増幅したV
H遺伝子を、Nco I/Spe Iサイトに導入し、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージライブラリベクター(2.0×10
7コロニー)を取得した。このときの宿主細胞も大腸菌TG1である。
【0181】
次に、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)50ml中に、ファージライブラリベクターを含む大腸菌TG1を植菌し、30℃、200rpmでOD=1となるまで振とう培養した。その培養液に、ヘルパーファージVCSM13を感染多重度MOI=20となるように加え、37℃で1時間インキュベートした。30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を捨て、2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)50ml中に菌体を懸濁し、30℃、200rpmで12時間以上培養して、培養上清中にファージを産生させた。
【0182】
4℃、10000gで15分間の遠心分離を2回行い、上清をファージライブラリとして回収した。そして、PEG沈殿によりファージライブラリを濃縮し、1mlの1×PBS中に分散した。
【0183】
<2−3.パニング>
[実施例2]
上記2−2で調製したファージライブラリと、上記2−1で調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いて、以下のようにパニングを実施した。
【0184】
(ラウンド)
各ラウンドにおいて行う操作を説明する。
1.5mlエッペンドルフチューブに2%BSA−PBSを1ml加え、室温で1時間以上ブロッキングした。このブロッキングは使用するチューブ全てについて行った。ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsをIgG量が10μgとなるように加え、ボルテックスした。これを4℃、20,000gで2分間遠心分離し、上清を除去した。これに、2%BSA−PBSで10倍希釈したファージライブラリを1ml加え、4℃で回転転倒しながら1晩インキュベートした。
【0185】
その後、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を除去した。2%BSA−PBSを1ml加えて懸濁し、別のエッペンドルフチューブに移した。この遠心分離、上清除去、2%BSA−PBSによる懸濁、及び別のエッペンドルフチューブに移す操作を1単位として、合計3回繰り返した。
【0186】
(パニングにより選択されたファージの取得)
続いて、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を除去した。10mMグリシン−HCl(pH1.5)を0.9ml加えて懸濁し、溶液を別のエッペンドルフチューブに移した。4℃で回転転倒しながら10分間インキュベートし、ファージを溶出した。
4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を別のエッペンドルフチューブに移した。さらに、2M Tris−HCl(pH8.0)を0.1ml加えて、ファージ溶出液を中和した。
【0187】
一方で予め培養しておいた指数増殖中期の大腸菌TG1の培養液1mlを加え、37℃で30分インキュベートした。
この溶液を、2×YT培地(1%グルコース、50mg/Lアンピシリン含有)に懸濁し、30℃、200rpmで振とう培養した。OD=1.0付近まで増殖させた後、VCSM13を感染多重度(MOI)=20となるように添加し、37℃で30分インキュベートし、30℃、3000gで10分間遠心分離した。
【0188】
30℃、1500rpmで15分間の遠心分離後に上清を除去し、50mlの2×YT培地(50mg/Lアンピシリン、50mg/Lカナマイシン含有)に菌体を懸濁後、30℃、200rpmで12時間培養し、ファージを培養上清中に生産させた。
【0189】
その後、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清を回収し、PEG沈殿(2回)し、1mlのPBSに分散させた。最後に、4℃、20000gで2分間遠心分離し、上清をファージ溶液として回収した。
【0190】
ここまでの操作を1ラウンドとする。上記操作によりラウンド1を行ったことになる。
その後、上記ラウンドをさらに2回実施した。すなわち、ラウンド3まで行った。各ラウンドで得られたコロニーからファージミドDNAを回収した。
【0191】
[比較例2]
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体を結合しなかった多重膜リポソームを用いたこと以外は実施例2と同様にしたものを比較例2とした。
【0192】
<2−4.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
実施例2、比較例2で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認した。
【0193】
得られたファージミドDNAを、1%アガロースゲルを用いた電気泳動によって分離し、エチジウムブロマイド染色によって可視化した。抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子を挿入していないファージミドベクター(pPLFMAΔ250gIIIp)と泳動距離を比較し、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を目視で確認した。当該遺伝子の挿入を確認できたファージミドベクターは、DNAシーケンス解析(受託)によって配列決定を行った。
当該遺伝子内におけるCDR領域の決定は、IMGT(http://www.imgt.org/)のVquestサーチエンジンを利用して行った。
【0194】
<2−5.パニングの結果>
図2に、実施例2及び比較例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示した。
また、
図3に、実施例2及び比較例2におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0195】
上記結果より、実施例2では、ラウンド2において早くも回収率が大幅に増加することが分かった。なお、通常のイムノチューブを用いる方法では、少なくともラウンド3ないし4以上でなければ、ここまでの回収率(%)が得られないことを付言しておく。すなわち、多重膜リポソームを用いることによって、従来技術に比べて顕著に効率的なパニングが可能であることが分かった。
【0196】
<3−1.抗原結合活性評価1>
[実施例3−1]
各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について、以下のようにして抗原結合活性を評価した。
【0197】
Maxisorp(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)プレートに、ヒトIgG1(Sigma、#I5154)、ヒトIgG2(Sigma、#I5404)、ヒトIgG3(Sigma、#I5654)、ヒトIgG4(Sigma、#I4639)、ヒトIgA(Sigma、#I4036)を、それぞれが最終濃度5μg/mlとなるように100μlのPBSを添加し、4℃で一晩インキュベートした(抗原の固相化)。
次に、上記固相化したプレートをPBSで洗浄し、10%のBlocking One−PBS(ナカライテスク)を300μl加えて25℃で1時間インキュベート後(ブロッキング)、PBSTでプレートを洗浄した。
【0198】
一方で、実施例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時で得られたファージミド含有大腸菌ペレット25mlのそれぞれに、2.5mlのBugbuster(登録商標)(メルク社)、及び2.5μLのBenzonase Nuclease(登録商標)(メルク社)を加えて溶菌後、4℃、10,000gで15分間遠心分離し、上清を回収した。
これを10% Blocking One−PBSTで10倍に希釈し、上記ブロッキング及びPBSTによる洗浄後のプレートに100μlずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。
【0199】
続いて、PBSTでプレートを洗浄し、10% Blocking One−PBSTで10000倍希釈したHRP標識抗c−myc抗体を100μlずつ加えて25℃で1時間インキュベートした。
その後、PBSTでプレートを洗浄し、TMB溶液を100μlずつ加えて5分間インキュベートし、0.3M硫酸を100μlずつ加えて反応を停止した。
マイクロプレートリーダーを用いて450nmにおける吸光度を測定した。なお、650nmを副波長とした。
【0200】
図4にその結果を示す。
図4より、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgG4抗体に対する結合活性として、わずか1ラウンドのパニング操作により、大きい吸光度を示すことが分かった。すなわち、1ラウンドのパニング操作にもかかわらず、抗原に特異的に結合するファージが濃縮されていることが分かった。
さらに、ラウンド2終了時には、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgG4抗体に加えて、ヒトIgA抗体に対しても特異的に結合するファージが濃縮されていることが分かった。
【0201】
<3−2.抗原結合活性評価2>
[実施例3−2]
各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のコロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について、以下のようにして抗原結合活性を評価した。
【0202】
実施例2におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時で得られたファージミド含有大腸菌のコロニーを、96ウェルディープウェルプレート内で、1mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、1600rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、0.2mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。それ以降は、上記3−1と同様である。
【0203】
図5、表4−1、表4−2に、ラウンド1終了時に得られた48コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。尚、「ライブラリ」とは、ファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について抗原結合活性を評価した結果である。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
尚、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法において取得されたクローンの名称として、例えば、「ラウンド1終了時のクローン番号1」のクローンを「R1−1」や「I−1」と略すことがある。同様に、例えば、「ラウンド2終了時のクローン番号1」のクローンを「R2−1」や「II−1」と、「ラウンド3終了時のクローン番号1」のクローンを「R3−1」や「III−1」と略すことがある。
【0204】
【表4-1】
【0205】
【表4-2】
【0206】
同様に、
図6、表5−1、表5−2に、ラウンド2終了時に得られた48コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。ここでは、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgA抗体に対する結合活性の結果を示した。尚、「ライブラリ」とは、上記同様に、ファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について抗原結合活性を評価した結果である。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0207】
【表5-1】
【0208】
【表5-2】
【0209】
同様に、
図7−1〜
図7−8、表6−1〜表6−5に、ラウンド3終了時に得られた96コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。なお、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0210】
【表6-1】
【0211】
【表6-2】
【0212】
【表6-3】
【0213】
【表6-4】
【0214】
【表6-5】
【0215】
以上の結果から以下のことが分かった。
ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いることで、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に極めて特異的に結合するファージを効率的に回収することができた。ここで、1ラウンドのパニングで、全クローン数中のポジティブクローン数の割合が50%を越える結果は、従来技術では困難であり、極めて稀なものである。また、ラウンドを重ねるごとにポジティブクローン数が顕著に増加し、結合量も顕著に増加していることから、多重膜リポソームを用いた本発明にかかるスクリーニング方法は、非常に高効率なスクリーニング技術であるといえる。
【0216】
また、単離されたウサギ由来単鎖抗体の多くが、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体から成る群から選択される二以上に結合特異性を有していた。特に、ヒトIgG1抗体とヒトIgG3抗体の両者への結合量が同じウサギ由来単鎖抗体については、従来用いられているプロテインAに代わるアフィニティリガンドとなる可能性が高いと考えられる。
【0217】
さらに、数は少ないものの、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に加え、ヒトIgA抗体にも同程度の吸光度を示すものもあった。これは、抗体のL鎖に特異性に結合することを示唆しているものと考えられる。
【0218】
<4.解離速度定数k
offの測定>
[実施例4]
ラウンド1終了時に得られた48コロニー、ラウンド2終了時に得られた48コロニー、及びラウンド3終了時に得られた96コロニーのうち、抗原結合活性評価2で吸光度が2.5を超えたコロニーのそれぞれについて、Biacore X−100(GEヘルスケア社)を用いて解離速度定数k
offの測定を行った。
【0219】
(サンプルの調製)
ファージミド含有大腸菌のコロニーを、96ウェルディープウェルプレート内で、1mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、1600rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、0.2mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。回収した上清をPBSTで10倍希釈した。
【0220】
(測定方法)
以下の測定条件で測定を行った。
Sensor Chip: human IgG−coupled CM5(15000 RU)
Running buffer: PBST
Binding time: 300 sec
Dissociation time: 180 sec
Elution: 10mM Glycine,pH 1.5
【0221】
既出の解離速度定数k
offの算出方法に従って、解離速度定数k
offを算出し、その小さい順に1位から140位までランキングしたものを表7−1〜表7−5に示した。
【0222】
【表7-1】
【0223】
【表7-2】
【0224】
【表7-3】
【0225】
【表7-4】
【0226】
【表7-5】
【0227】
<5.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体遺伝子のアミノ酸配列の決定>
[実施例5]
解離速度定数k
offの測定の結果で、1位(R3−75)、2位(R3−23)、3位(R3−26)、4位(R3−43)、5位(R3−58)、6位(R2−18)、7位(R2−16)、8位(R1−27)、11位(R3−8)、68位(R1−7)について、ウサギ由来単鎖抗体遺伝子の遺伝子配列からアミノ酸配列を決定した。なお、4位(R3−43)はシーケンスできなかった。
【0228】
図8−1、
図8−2に、決定したアミノ酸配列を示す。以下のことが分かった。なお、
図8−1に示す重鎖(H鎖)の可変領域(V
Hドメイン)の遺伝子について、1位(R3−75)の配列を配列番号12と、2位(R3−23)の配列を配列番号13と、3位(R3−26)の配列を配列番号14と、5位(R3−58)の配列を配列番号15と、6位(R2−18)の配列を配列番号16と、7位(R2−16)の配列を配列番号17と、8位(R1−27)の配列を配列番号18と、11位(R3−8)の配列を配列番号19と、68位(R1−7)の配列を配列番号20とする。
【0229】
また、
図8−2に示す重鎖(L鎖)の可変領域(V
Lドメイン)の遺伝子について、1位(R3−75)の配列を配列番号21と、2位(R3−23)の配列を配列番号22と、3位(R3−26)の配列を配列番号23と、5位(R3−58)の配列を配列番号24と、6位(R2−18)の配列を配列番号25と、7位(R2−16)の配列を配列番号26と、8位(R1−27)の配列を配列番号27と、11位(R3−8)の配列を配列番号28と、68位(R1−7)の配列を配列番号29とする。
【0230】
1位(R3−75)、6位(R2−18)、11位(R3−8)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ATRYDSYGYAYNYWFGTLW(配列番号30、19残基)」を有することが分かった。尚、これらのコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、ヒトIgG4抗体、及びヒトIgA抗体に結合するものである。
【0231】
2位(R3−23)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「GSYYDSHGYAYVSLW(配列番号31、15残基)」を有することが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0232】
3位(R3−26)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ATDYGIYGYAYGHLW(配列番号32、15残基)」であることが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0233】
5位(R3−58)、8位(R1−27)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ARYSGDNGGTLNLW(配列番号33、14残基)」を有することが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0234】
7位(R2−16)から得られたウサギ由来単鎖抗体遺伝子は、CDR3として、「ARYSGDNGGALNLW(配列番号34、14残基)」を有することが分かった。尚、このコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体に結合するものである。
【0235】
<6.ヒトIgG1抗体との結合能の測定>
[実施例6]
解離速度定数k
offの測定の結果で、1位(R3−75)、2位(R3−23)、6位(R2−18)、7位(R2−16)、8位(R1−27)、68位(R1−7)となった各コロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体について、Biacore X−100(GEヘルスケア社)を用いて、ヒトIgG1抗体との結合性を測定した。
【0236】
(サンプルの調製方法)
得られたファージミド含有大腸菌のコロニーを、500mlバッフル付フラスコ内で、50mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、200rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、5mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。これをPBSTで10倍希釈し、測定に用いた。
【0237】
(測定方法)
以下の測定条件で測定を行った。
Sensor Chip: human IgG1-coupled CM5 (5000 RU)
Running buffer: PBST
Binding time: 540 sec
Dissociation time: 120 sec
Elution: 10mM Glycine, pH 1.5
【0238】
[比較例6−1]
サンプルの代わりに、PBSTで最終濃度10μg/mLに調製したプロテインA(ナカライテスク、29435-14)を用いたこと以外は実施例6と同様にしたものを比較例6−1とした。
【0239】
[比較例6−2]
サンプルの代わりに、mouse scFv-FM(可溶性画分をPBSTで10倍希釈)を用いたこと以外は実施例6と同様にしたものを比較例6−2とした。
得られたファージミド含有大腸菌のコロニーを、500mlバッフル付フラスコ内で、50mlのOvernight Express(登録商標、メルク)培地中に植菌し、30℃、200rpmで24時間培養後、遠心分離で上清を除去した。これに、5mlのBugbuster、及び0.2μLのBenzonase Nucleaseを加えて溶菌後、遠心分離し、上清を回収した。これをPBSTで10倍希釈し、測定に用いた。
【0240】
図9−1、
図9−2に測定結果を示した。ヒトIgG1抗体に対する結合能は、いずれのウサギ由来単鎖抗体も、比較例6−1のプロテインA、比較例6−2のmouse scFv-FMに比べて顕著に大きいことが分かった。
【0241】
<7.ヒトIgG1抗体に対する解離定数K
Dの測定>
[実施例7]
解離速度定数k
offの測定の結果で、1位(R3−75)、2位(R3−23)、3位(R3−26)、6位(R2−18)、7位(R2−16)、8位(R1−27)、68位(R1−7)となったコロニーから取得されたウサギ由来単鎖抗体について、Biacore X−100(GEヘルスケア社)を用いて、ヒトIgG1抗体に対する解離定数K
Dの測定を行った。
【0242】
(サンプルの調製方法)
ファージミドベクターよりT7 promoter primerおよびM13 primerを用いてウサギ由来単鎖抗体遺伝子を含むDNA断片をPCRによって増幅した。DNA断片を精製後、制限酵素Xba IおよびNot Iで消化し、pET22ベクター(メルク)のXba I/Not Iサイトに挿入した。構築したウサギ由来単鎖抗体発現ベクターは、N末端側にペリプラズム移行シグナル配列(pelB leader signal)、C末端側にヒスチジンタグ(6xHis-tag)を融合された形で発現される。発現後、ウサギ由来単鎖抗体はペリプラズムに移行し、pelB leader配列はシグナルペプチダーゼによって切断される。
【0243】
構築したウサギ由来単鎖抗体−His発現ベクターで大腸菌Rosetta (DE3)を形質転換し、LBアガープレート(50mg/Lアンピシリン、35mg/Lカナマイシン含有)上で培養した。得られたシングルコロニーをLB培地10ml(50mg/Lアンピシリン、35mg/Lカナマイシン含有)中で一晩培養した。得られた培養液を50ml Overnight Express TB培地(メルク)中に植菌し、37℃、200rpmで24時間培養した。
得られた培養液を遠心分離(10000rpm、4℃、15分)し、培養上清を得た。また、菌体は、Bugbuster、リゾチーム、Benzonase Nucleaseを含む5mlの溶解バッファと懸濁し、37℃で1時間インキュベートすることで破砕した。10000rpm、4℃、15分間遠心分離し、上清を菌体内可溶性画分として回収した。
【0244】
上述の培養上清および菌体内可溶性画分をそれぞれHis-Trap HPカラム(GE Healthcare)にアプライし、0.4Mイミダゾールを用いたグラジェント溶出によってウサギ由来単鎖抗体−Hisを回収した。また、溶離液のタンパク質濃度をDC Protein assay(Biorad)によって定量した。さらに、溶離液中のウサギ由来単鎖抗体−Hisの純度をSDS−PAGEによって確認した。溶離液中のウサギ由来単鎖抗体−Hisの純度が悪い場合は、溶離液をヒトIgG結合カラムでさらに精製し、定量した。回収した溶離液をPBSTで10倍以上希釈し、BiacoreX−100で解離定数K
Dを測定した。
【0245】
(測定方法)
以下の測定条件で測定を行った。
Sensor Chip: human IgG1-coupled CM5 (5000 RU)
Running buffer: PBST
Binding time: 180 sec
Dissociation time: 600 sec
Elution: 10mM Glycine, pH 1.5
Mode: Single cycle kinetics mode
【0246】
表8に、解離定数K
Dの測定結果を含め、取得されたウサギ由来単鎖抗体の特性をまとめた。1位(R3−75)のウサギ由来単鎖抗体のヒトIgG1抗体に対する解離定数K
Dは5.5×10
−10Mであることが分かった。一般的なプロテインAのヒトIgG1抗体に対する解離定数K
Dは5−10nM程度であることを考慮すると、1位(R3−75)のウサギ由来単鎖抗体は、ヒトIgG1抗体に対して非常に強固に結合するものと考えられる。
【0247】
なお、表8のLocationにおいては、培養上清のサンプルを用いて活性が確認されたものを「上清」と、可溶性画分のサンプルを用いて活性が確認されたものを「ペリプラズム」と記載した。「上清」の場合には、大腸菌からファージまたはウサギ由来単鎖抗体が分泌されたことを示しており、「ペリプラズム」の場合には、大腸菌のペリプラズム内に存在していたことを示している。
【0248】
【表8】
【0249】
1位(R3−75)、3位(R3−26)、および6位(R2−18)のウサギ由来単鎖抗体は、培養上清中に分泌されたことが分かった。
【0250】
<8.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤>
[実施例8]
(単鎖抗体の調製)
Jar Fermenterを用いた流加培養により、「R3−26」の単鎖抗体を大量生産した。さらに、培養上清中に分泌された単鎖抗体をHisTrap HPカラム(GEヘルスケア)を利用した固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。さらに、脱塩・バッファ交換用Hi Trap Desaltingカラム(GEヘルスケア)を用いて0.5M NaClを含む0.1M炭酸バッファー(pH8.3)に置換、さらには、限外ろ過を用いて濃縮した。最終的に、濃度1mg/ml、体積10mlの単鎖抗体を得た。
【0251】
(担体への単鎖抗体の固定化)
HiTrap NHSカラム5ml(GEヘルスケア)の担体であるセファロース(ビーズ状のアガロース担体)のカルボキシル基をNHSでエステル化し、精製した上記単鎖抗体を供給して、そのアミノ基とアミド結合を形成させて固定化した。未反応のNHSエステルはエタノールアミンを加えてブロックした。
【0252】
(ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離)
単鎖抗体を固定した上記カラム5mlをクロマトグラフィーシステムAKTA Purifier UPC 10(GEヘルスケア)にセットし、PBSで平衡化した。そこへ、1mg/mlに調製したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体(Sigma、#I4506)を1ml/minの流速で10ml分供給した。その後、カラムをPBSで洗浄し、UV280の値がベースラインとなったのを確認後、0.5M アルギニン(pH1.5)を供給して、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体をカラムから溶出した。
【0253】
その結果、
図10に示す通りの破過曲線が得られた。さらに、0.5M アルギニン(pH1.5)を用いてヒト血清由来IgGポリクローナル抗体をカラムから強制的に解離させたところ、高純度で単離できた。素通り画分と溶出画分とのピーク面積比から、供給したIgG(10mg)の内、およそ53%(5.3mg)がカラムに吸着し、溶出された。
以上の結果より、本発明のスクリーニング方法によって選択された単鎖抗体の、ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体の分離剤としての利用可能性が示された。
【0254】
<9. ヒト抗体のL鎖に特異的に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
先に検討したヒト血清由来IgGポリクローナル抗体固定化MLVsを用いたパニングにおいて、ラウンド1〜3で得られた合計192クローンの抗原特異性ならびにアミノ酸配列の評価を行った結果、3クローン(R2−18、R3−8、R3−75)がヒトIgG抗体のみならず、ヒトIgA抗体にも強く結合していることが明らかとなった。
さらに、これらの単鎖抗体の抗原特異性をウェスタンブロットで解析した結果、これらは、ヒト抗体の軽鎖(L鎖)、具体的にはκ鎖を特異的に認識していることが明らかとなった。ヒトIgG抗体とヒトIgA抗体の定常部のアミノ酸配列を比較した場合、重鎖(H鎖)のアミノ酸配列は全く異なるが、軽鎖(L鎖)のアミノ酸配列はλ鎖又はκ鎖に大別され、配列はそれぞれで共通である。このことは、ヒトIgM抗体、ヒトIgE抗体、ヒトIgD抗体等でも同様である。したがって、これら3クローンは、ヒトIgG抗体、ヒトIgA抗体のみならず、ヒトIgM抗体、ヒトIgE抗体、ヒトIgD抗体等、全てのヒト抗体に対し、特異的に結合できる非常に付加価値の高い抗体であることが示唆された。
そこで、先に調製した、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリ中から、このような、ヒト抗体のL鎖に特異的に結合するウサギ由来単鎖抗体を高効率に回収するために、新たに以下のパニングを行うことにした。
【0255】
以下では、ヒト抗体のL鎖に特異的に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト抗体L鎖−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
尚、抗−ヒト抗体L鎖−ウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法において取得されたクローンの名称として、例えば、「ラウンド1終了時のクローン番号1」のクローンを「IgA R1−1」や「IgA I−1」と略すことがある。同様に、例えば、「ラウンド2終了時のクローン番号1」のクローンを「IgA R2−1」や「IgA II−1」と、「ラウンド3終了時のクローン番号1」のクローンを「IgA R3−1」や「IgA III−1」と略すことがある。
【0256】
<9−1.多重膜リポソームとヒト血清由来IgAポリクローナル抗体との結合>
上記1−1と同様にして、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを調製した。ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体には、Sigmaの#I4036を用いた。
【0257】
<9−2.抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
上記2−2と同様にして、抗−ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0258】
<9−3.パニング>
[実施例9−1]
上記9−2で調製したファージライブラリと、上記9−1で調製したヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0259】
[比較例9−1]
ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を固定化しなかった多重膜リポソームを用いたこと以外は実施例9−1と同様にしたものを比較例9−1とした。
【0260】
<9−4.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例9−1、比較例9−1で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認した。
【0261】
<9−5.パニングの結果>
図11に、実施例9−1及び比較例9−1におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示した。
また、
図12に、実施例9−1及び比較例9−1におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0262】
上記結果より、実施例9−1では、ラウンド3において回収率が大幅に増加し、比較例9−1に比べて100倍以上になった。ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0263】
<9−6.抗原結合活性評価1>
[実施例9−2]
上記3−1と同様に、各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のペレット単位(すなわち、シングルコロニー化しておらず、ペレットに含まれる大腸菌が含むファージ全体)から得られたウサギ由来単鎖抗体について、以下のようにして抗原結合活性を評価した。ただし、プレートに固相化した抗原としてはヒトIgA抗体(Sigma、#I4036)を用いたのみであり、抗原結合活性評価もヒトIgA抗体に対してしか行わなかった。すなわち、ヒトIgG1抗体等の固相化およびヒトIgG1抗体等に対する抗原結合活性評価は行わなかった。
【0264】
図13にその結果を示す。
図13より、ラウンド2においてヒトIgA抗体に対する抗原結合活性が飛躍的に増加した。さらに、ラウンド3においては、ラウンド2よりもさらにヒトIgA抗体に対する抗原結合活性が高くなった。この結果より、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体固定化MLVsを担体としてパニングを行った場合でも、ヒトIgA抗体に対して特異的に結合するファージが濃縮されていることが分かった。
【0265】
<9−7.抗原結合活性評価2>
[実施例9−3]
各ラウンドで回収されたファージミド含有大腸菌のコロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について、3−2と同様にして抗原結合活性を評価した。尚、ここでは、プレートに固相化した抗原としてはヒトIgA抗体(Sigma、#I4036)を用いただけでなく、3−2と同様にヒトIgG1抗体等も用い、ヒトIgG1抗体等に対する抗原結合活性評価も行った。
【0266】
図14、表9−1、表9−2に、ラウンド1終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0267】
【表9-1】
【0268】
【表9-2】
【0269】
同様に、
図15、表10−1、表10−2に、ラウンド2終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0270】
【表10-1】
【0271】
【表10-2】
【0272】
同様に、
図16、表11−1、表11−2に、ラウンド3終了時に得られた32コロニーから得られたウサギ由来単鎖抗体について行った抗原結合活性評価の結果を示す。また、OD値が0.1以上の場合をポジティブクローンと、それ未満をネガティブクローンとした。
【0273】
【表11-1】
【0274】
【表11-2】
【0275】
以上の結果から以下のことが分かった。
ラウンド3で回収された単鎖抗体は、すべてヒトIgA抗体に結合するものであり、その結合活性も極めて高かった。また、ヒトIgA抗体のみならず、ヒトIgG1抗体、ヒトIgG2抗体、ヒトIgG3抗体、及びヒトIgG4抗体のすべてに結合するものであった。この結果より、パニングが極めて高効率に実施されていることがわかった。
【0276】
<9−8.ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体遺伝子のアミノ酸配列の決定>
[実施例10]
ラウンド1終了時に得られた32コロニー、ラウンド2終了時に得られた32コロニー、および、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについて、ウサギ由来単鎖抗体遺伝子の遺伝子配列からアミノ酸配列を決定した。
【0277】
ラウンド1終了時に得られた32コロニーについて、V
Hドメインの遺伝子配列から決定したアミノ酸配列を
図17−1に示し、各アミノ酸配列について図中に示す通り配列番号を付した。尚、配列が空欄の部分は配列決定ができなかったものである。
また、抗原抗体反応の特異性に大きく関与するV
HドメインのCDR3領域のアミノ酸配列について、アミノ酸残基数、32クローン中の出現数、32クローン中の出現確率を
図17−2に示した。「ネガティブクローン」とは、V
HドメインのCDR3領域のアミノ酸配列が決定できなかったクローンに関するものである。こちらにも、各アミノ酸配列について図中に示す通り配列番号を付した。
同様にして、ラウンド2終了時に得られた32コロニーについては
図17−3、
図17−4に、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについては
図17−5、
図17−6に示した。
さらに、参考のために、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた「R2−18」、「R3−8」、「R3−75」のV
Hドメインのアミノ酸配列を
図17−7に示した。
【0278】
また、備考欄に、例えば「共通1」と記載されているクローンが複数ある。「共通1」と記載されているクローン群はすべて同一のクローンであることを示している。同様に、「共通2」と記載されているクローン群もすべて同一のクローンであることを示している。ただし、これらの付与番号は便宜的なものに過ぎない。
さらに、備考欄に、例えば「共通3(R3−75と同一)」と記載されているクローンがある。これは、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた「R3−75」と同一のクローンであることを示している。
さらに、ラウンド1〜3終了時に得られた「共通1」〜「共通7」のクローンの数を、
図17−8、
図17−9、
図17−10にまとめた。
【0279】
以上の結果から以下のことが分かった。
図17−6から分かるように、ラウンド3においては、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた、「R2−18」、「R3−8(ただし、当該クローンは、R2−18と同一クローンである。)」、「R3−75」が含むCDR3のアミノ酸配列である「ATRYDSYGYAYNYWFGTLW(配列番号30、19残基)」を含むV
Hドメインが、全32クローン中26クローン取得され、81.3%の割合で存在した。
【0280】
これらのうち、12クローンと8クローンは、それぞれ、共通1のクローン、共通2のクローンであった。また、他の2クローンは、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた、「R2−18(6位;ただし、当該クローンは、「R3−8」と同一クローンである。)」と同一の共通4のクローンであった。
さらに、他の2クローンは、<2.ヒト血清由来IgGポリクローナル抗体に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>で得られた、「R3−75(1位)」と同一の共通3のクローンであった。
【0281】
さらに、「ARADYNTVAYFDLW(14残基、配列番号141)」、「ARADYNTAAYFDLW(14残基、配列番号142)」、「VRADYNTVSYFDLW(14残基、配列番号143)」のように、V
HドメインのCDR3のアミノ酸配列において互いに相同性の高いクローンも複数個取得された。
【0282】
また、ウェスタンブロットの結果、ラウンド3で取得されたクローンは、V
HドメインのCDR3のアミノ酸配列の長さに拘わらず、全てがヒト抗体の軽鎖(L鎖)、具体的にはκ鎖に結合していることが明らかとなった。
【0283】
以上の結果より、ヒト血清由来IgAポリクローナル抗体を担体に用いてパニングを行うことで、ヒトIgG抗体とヒトIgA抗体との共通部分である、ヒト抗体の軽鎖(L鎖)、具体的にはκ鎖に特異的に結合する単鎖抗体を極めて高効率に回収できることが明らかとなった。
【0284】
<9−9.解離速度定数k
offの測定>
[実施例11]
センサーチップとしてヒトIgA抗体固定化CM5を用いたこと以外は<4.解離速度定数k
offの測定>と同様にして、ラウンド3終了時に得られた32コロニーについて解離速度定数k
offの測定を行った。その結果を
図18、表12に示した。また、R
2も併せて記載した。
【0285】
[比較例11]
「IgA R1−2」を用いた以外は実施例11と同様にしたものをネガティブコントロールとし、比較例11とした。
【0286】
【表12】
【0287】
ラウンド3で得られたクローン全てにおいて、ヒトIgA抗体への結合が確認された。さらに、表12に示す通り、ラウンド3で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数k
offのほとんどは、10
−5〜10
−4sec
−1のオーダーの範囲にあり、非常に小さかった。特に、32クローン中12クローンを占めていた「IgA R3−6(共通1)」による単鎖抗体の解離速度定数k
offは、「R3−75」と同一クローンである「IgA R3−1(共通3)」による単鎖抗体の解離速度定数k
offよりも小さく、より高親和性であることが示唆された。
【0288】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0289】
<10.Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、Sf9細胞株由来CD9のExtracellular Domain 2 (EC2)部分のみとヒト抗体のFcドメインとの融合タンパク質(以下、EC2hFcと称することがある。)に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−EC2hFc−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0290】
<10−1.EC2hFcの調製>
EC2hFcの遺伝子を含む塩基配列(配列番号148)をPCRで増幅し、昆虫細胞用発現ベクターpACGP67(BD Bioscience社製)中のBamH Iサイト内に導入した。構築したベクターで昆虫細胞Sf9を形質転換し、さらに、バキュロウィルスを感染させて、10%FBSを含むGrace培地中で培養した。培養上清中に生産されたEC2hFc遺伝子が導入された組換えバキュロウィルスを回収した。SF900 SFM培地中で継代している昆虫細胞Sf9に対し、組換えバキュロウィルスを感染させることで、培養上清中にEC2hFcを産生させた。上清を遠心分離によって回収し、限外濾過ならびにHi Trap Desaltingカラムを用いたゲルクロマトグラフィによってEC2hFcを回収した。回収されたEC2hFcは、SDS−PAGE、ならびに抗CD9抗体および抗ヒトIgG抗体を用いたウェスタンブロット解析によって確認した。
【0291】
<10−2.多重膜リポソームとEC2hFcとの結合>
上記1−1と同様にして、EC2hFcを固定化したMLVsを調製した。
【0292】
<10−3.ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
CD9を細胞膜上に強制発現させたHEK293T細胞を免疫したこと以外は上記2−2と同様にして、HEK293T細胞にCD9を強制発現した細胞に対するウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0293】
<10−4.パニング>
[実施例12]
上記10−3で調製したファージライブラリと、上記10−2で調製したEC2hFc固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0294】
<10−5.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例12で回収したファージミドDNAから、抗−EC2hFc−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認し、シーケンス解析によって配列決定を行った。
【0295】
<10−6.パニングの結果>
図19に、実施例12におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時におけるファージ数を示した。
また、
図20に、実施例12におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、 ラウンド4終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0296】
上記結果より、実施例12では、ラウンド3において回収率が大幅に増加した。したがって、EC2hFc固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0297】
<10−7.解離速度定数k
offの測定>
[実施例13]
<4.解離速度定数k
offの測定>と同様にして、ラウンド3終了時に得られた48コロニー、ならびに、ラウンド4終了時に得られた48コロニーについて解離速度定数k
offの測定を行った。その結果を
図21、
図22−1、
図22−2に示した。
【0298】
ラウンド3および4で得られたクローン全てにおいて、EC2hFcへの結合が確認された。さらに、
図22に示す通り、ラウンド3および4で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数k
offのほとんどは、10
−3 sec
−1のオーダーの範囲にあり、非常に小さかった。
【0299】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0300】
<11.B型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Protein に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、B型インフルエンザウイルス由来Nucleotide-binding Protein に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0301】
<11−1.B型インフルエンザウイルス由来NPの調製>
NPの遺伝子を含む塩基配列(配列番号149)をpETBAベクター(株式会社バイオダイナミクス研究所製)内にクローニングし、本ベクターで大腸菌Rosetta (DE3)を形質転換した。形質転換体をOvernight Express TB medium(+Amp)100ml中に植菌し、30℃、200rpmで24時間培養した。菌体を遠心分離で回収後、Bugbuster、リゾチーム、Benzonaseを含むLysis Bufferを用いて溶菌し、遠心分離によって上清を回収した。さらに、これをHis Trap HPカラムにアプライし、カラムを洗浄後、500 mMイミダゾールを用いて溶出した。PBSで透析後、4℃で保存した。
【0302】
<11−2.多重膜リポソームとB型インフルエンザウイルス由来NPとの結合>
上記1−1と同様にして、B型インフルエンザウイルス由来NPを固定化したMLVsを調製した。
【0303】
<11−3.抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
B型インフルエンザウイルス由来NPでアナウサギを免疫したこと以外は上記2−2と同様にして、抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0304】
<11−4.パニング>
[実施例14]
上記11−3で調製したファージライブラリと、上記11−2で調製したB型インフルエンザウイルス由来NP固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0305】
<11−5.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例14で回収したファージミドDNAから、抗−B型インフルエンザウイルス由来NP−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認し、シーケンス解析によって配列決定を行った。
【0306】
<11−6.パニングの結果>
図23に、実施例14におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、ラウンド4終了時におけるファージ数を示した。
また、
図24に、実施例14におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時、 ラウンド4終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0307】
上記結果より、実施例14では、ラウンド3において回収率が大幅に増加した。したがって、B型インフルエンザウイルス由来NP固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0308】
<11−7.解離速度定数k
offの測定>
[実施例15]
<4.解離速度定数k
offの測定>と同様にして、ラウンド3終了時に得られた48コロニー、ならびに、ラウンド4終了時に得られた48コロニーについて解離速度定数k
offの測定を行った。その結果を表14−1、表14−2、表14−3に示した。
【0309】
【表14-1】
【0310】
【表14-2】
【0311】
【表14-3】
【0312】
ラウンド3および4で得られたクローン全てにおいて、B型インフルエンザウイルス由来NPへの結合が確認された。さらに、表14−1、表14−2、表14−3に示す通り、ラウンド3および4で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数k
offのほとんどは、10
−3 sec
−1のオーダー以下の範囲にあり、非常に小さかった。
【0313】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0314】
また、単離されたクローンのアミノ酸配列を解析し、同一・同類クローンを除く解離速度定数k
offの小さな6種類のクローンについて、SPRセンサを用いて解離定数K
Dの測定を行った。表15に示すとおり、得られたK
D値の大部分が10
−8 Mオーダーであり、B型インフルエンザの検査に利用可能なB型インフルエンザウイルス由来NP抗原に対して高い親和力を有するscFvが単離できていることが示された。
【0315】
【表15】
【0316】
<12.ヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)に結合するウサギ由来単鎖抗体のスクリーニング方法>
以下では、ヒト由来炎症性タンパク質C-reactive Protein (CRP)に結合するウサギ由来単鎖抗体(以下、「抗−ヒト由来CRP−ウサギ由来単鎖抗体」と称することがある。)を、ファージライブラリの中からスクリーニングする方法を記載する。
【0317】
<12−1.ヒト由来CRP>
ヒト由来CRPとしては、rCRP(C‐リアクティブプロテイン(リコンビナント))(オリエンタル酵母工業株式会社製、#47190000)を用いた。
【0318】
<12−2.多重膜リポソームとヒト由来CRPとの結合>
上記1−1と同様にして、ヒト由来CRPを固定化したMLVsを調製した。
【0319】
<12−3.抗−ヒト由来CRP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリの調製>
ヒト由来CRPでアナウサギを免疫したこと以外は上記2−2と同様にして、抗−CRP−ウサギ由来単鎖抗体を提示するファージのライブラリを調製した。
【0320】
<12−4.パニング>
[実施例16]
上記12−3で調製したファージライブラリと、上記12−2で調製したヒト由来CRP固定化MLVsを用いて、上記2−3と同様にパニングを実施した。
【0321】
<12−5.ファージの回収から遺伝子配列のシーケンスまで>
上記2−2と同様にして、実施例16で回収したファージミドDNAから、抗−ヒト由来CRP−ウサギ由来単鎖抗体の遺伝子の有無を確認し、シーケンス解析によって配列決定を行った。
【0322】
<12−6.パニングの結果>
図25に、実施例16におけるパニング前、ラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時におけるファージ数を示した。
また、
図26に、実施例16におけるラウンド1終了時、ラウンド2終了時、ラウンド3終了時における各ファージ数を、それぞれパニング前のファージ数で除した回収率(%)を示した。
【0323】
上記結果より、実施例16では、ラウンド2において回収率が大幅に増加した。したがって、ヒト由来CRP固定化MLVsを用いたパニングにおいても、効率的なパニングが実施できていることが分かった。
【0324】
<12−7.解離速度定数k
offの測定>
[実施例17]
<4.解離速度定数k
offの測定>と同様にして、ラウンド2終了時に得られた48コロニー、ならびに、ラウンド3終了時に得られた48コロニーについて解離速度定数k
offの測定を行った。その結果を表16に示した。
【0325】
【表16】
【0326】
ラウンド2および3で得られたクローン全てにおいて、ヒト由来CRPへの結合が確認された。さらに、表16に示す通り、ラウンド2および3で取得されたクローンによる単鎖抗体の解離速度定数k
offのほとんどは、10
−3 sec
−1のオーダーの範囲にあり、非常に小さかった。
【0327】
以上の結果より、本方法は、ライブラリ中で存在率の低いクローンについても極めて高効率で回収可能であり、高い親和性・特異性を有する単鎖抗体の回収・単離に有効であることがわかった。
【0328】
また、単離されたクローンのアミノ酸配列を解析し、同一・同類クローンを除く解離速度定数k
offの小さな6種類のクローンについて、SPRセンサを用いて解離定数K
Dの測定を行った。その結果を表17に示した。
【0329】
【表17】
【0330】
表17に示すとおり、得られたK
D値の大部分が10
−9 Mオーダー以下であり、炎症検査に利用可能なバイオマーカー、ヒト由来CRPに対して高い親和力を有するscFvが単離できていることが示された。