【文献】
角屋正人,閉塞理論の解説とろ過結果への適用,Pall News,vol.117,日本,日本ポール株式会社,2013年,P10-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0021】
「システム構成」
本実施形態における多孔体の構造評価方法はそのための装置(システム)によって実施されるが、その多孔体の構造評価装置は、多孔体の構造評価プログラムを実行する装置であり、装置形態としては汎用のコンピュータでよい。また、プログラムは、コンピュータで実行できればよく、各種オペレーションシステム(OS)上で動作するアプリケーションプログラムでよい。このようなアプリケーションプログラムは、DVDなどの形態で提供されても、ネットワークを介してダウンロードすることで提供されてもよいし、コンピュータに予めインストールしておいてもよい。
【0022】
「多孔体」
種々の方法で生成された3次元の多孔体構造物が評価対象となり得る。このような多孔体は、例えばガスフィルター、液体フィルタ、燃料電池の電極材料、建築材料として利用される。
【0023】
本実施形態では、数nm〜数100μm径の細孔を持つ多孔体を対象として採用する。このような細孔は、発泡剤を溶媒に混合し高温下で気化させ気泡を作成したり、氷等の溶融材を母材に混合し熱処理等で溶融除去したり、足場材料と共に細孔形成剤をゼル化し凍結乾燥させ細孔形成材を除去したり、高気孔率ゼルから溶融材を除去したりして形成する。
【0024】
<解析モデルの作成>
本実施形態では、X線CT像からモデルを作成する。多孔体における細孔の形状などを表現できれば、他のデータに基づいてモデルを形成してもよい。例えば、FIB SEM(Focused Ion Beam Scanning Electron Microscope)、TEM(Transmission Electron Microscopy)の3次元画像からのモデル作成も可能である。
【0025】
<細孔の抽出>
母材に比し、細孔は空気等密度小の物質で充填されていることから、CT値を用いて細孔を抽出する。
図1は多孔体の細孔を示す図であり、(a)はCT値画像。本画像を用いて細孔を抽出する。(b)は細孔を抽出し2値化したものである。ここで、
図1(a)では黒が細孔(気孔)を示しており、
図1(b)では白が細孔を示している。
【0026】
<細孔の直径と骨格線>
図2は、細孔の最大直径、骨格線の求め方を示す説明図である。このように、細孔内に球を詰め、細孔径を細孔内に含まれる球の最大直径として求める。また、球の中心点の軌跡を細孔の骨格線とする。
【0027】
<連通孔ネットワーク>
骨格線が求められた場合には、これを接続して、連通孔ネットワークを求める。
図3は、骨格線のネットワークを示す図である。まず、多孔体の一領域(例えば、多角形の一面)を入口領域とし、他の一領域を出口領域とし、ここに位置する骨格線の端部を入口In,出口Out(Ct)と定義する。さらに、骨格線の交点をノードNode(Nd)、ノードNdでない端点を終端Tmとする。Nd:Nd、Nd:Tm、Nd:In、Nd:Out等を枝と呼ぶ。そして、枝の端点間の長さをLとする。
【0028】
そして、各枝について骨格線に対する直交断面を楕円で近似する。すなわち、短辺長を厚さ(Th)、長辺長を幅(Wd)と定義する。なお、L、Th、Wdは2値化した細孔画像から算出する。断面積Sは、S=π(Th/2)・(Wd/2)である。
【0029】
このようにして、
図3に示すような、楕円柱の枝からなる連通孔ネットワークを作成することができる。
【0030】
ここで、枝の楕円は、枝の骨格線に直交する断面により周囲を決定できる。例えば、その周囲(細孔の外周)から各点の接線に直交する方向に徐々に(例えば所定距離ずつ)内側に移動する。このような操作を繰り返すことで、中心付近のいずれかの点で、反対方向から移動してきた点同士が接触する。そこで、最初に接触した点において短径を特定する。そして、短径に直交する方向において、操作を繰り返し反対方向からの外周が接触したことで長径を特定する。
【0031】
このようにして、長さL方向の一点における近似した楕円を特定することができる。枝(ノード間)において、その長さ方向全体について楕円を特定することで、
図3に示すように、各枝についての楕円柱を特定することができる。なお、1つの枝については、両端を楕円に近似してこれらを接続して楕円柱を形成してもよい。
【0032】
<流路抵抗モデル>
このように、各枝について、楕円柱が定義できた場合には、これら枝についての流路抵抗を特定する。本実施形態では、Poiseuille Flowを実現する抵抗である断面積の2乗に反比例する抵抗(流路抵抗モデル)とする。
【0033】
図4は、流路抵抗モデルにおける各枝の構成を示す図である。このように、上述した楕円柱の枝を中空のパイプとし、各パイプ内のポアズイユの流れを解析する。
【0034】
ポアズイユ流れ抵抗Rfとすると、
Rf=8πμL/S
2
となる。ここでS:断面積、L:パイプの長さ、μ:粘性率(Pa・s)である。なお、Sは、L方向において変化する。
【0035】
このように、流路抵抗は、流体の粘性率μを除けば、流路の形状のみに依存する。この流路抵抗を、連通孔流路の抵抗として用いる。なお、この方法は、パイプ内は層流の定常流を仮定する。これによって、細孔径に強く依存した流体の流れを解析することが可能である。抵抗が定義された後の解析は入出力間の圧力差を電圧とする電気回路モデルの方程式と同様に回路方程式を解く方法で行う。
【0036】
<電気回路モデル>
細孔(枝)を電気伝導物質で満たされていると仮定し、構造体内の細孔の断面積、長さを反映した抵抗を定義し、細孔ネットワークから電気回路網を作成する。すなわち、1つの枝を1つの電気抵抗に置き換え、ノードにおいて電気抵抗を接続して電気回路網とする。入口、出口に電位差を与えネットワーク上の各点の電圧、電流を求める。流れの持つ性質を弱め、細孔の形状とつながりを重視したシミュレーションを行う。
【0037】
細孔(枝)の電気抵抗R
Eは、次のように表せる。
R
E=ρ・L/S
ここで、S:断面積、L:長さ、ρ:体積抵抗率(Ω・m)である。
【0038】
なお、抵抗式を反映したモデル間の概念の対応は表1のようになる。ここで、電気抵抗は、断面積に反比例するものであり、流路抵抗モデルの流路抵抗は断面積の2乗に反比例するものである。両モデルは、この点で異なっている。
【0040】
<その他>
その他の主な流路構造評価指標として、「スターボリューム」、「ループ数(一次元ベッチ数)」などがあげられる。
【0041】
スターボリュームは点の周りの直線で連結される領域体積である。流路や母材の局所的な空間の広がりが表現できる。流路スターボリュームと母材スターボリュームがある。流路の折れ曲がり大のとき流路スターボリュームは小さな値を取る。ストレートのとき大の値となる。母材スターボリューム大は流路の片寄りを示す。小は流路が一様に分散していることを示す。
【0042】
一次元ベッチ数は、細孔ネットワーク中の連結するループの個数。ネットワークの連結性を表現する。ループ数(一次元ベッチ数)大は、流路が繋がり合っていることを示す。
【0043】
<形態特徴量>
ここで、CT画像からの細孔の抽出によって、細孔からなる流路(連通孔ネットワーク)の形態についての情報(構造指標)が得られる。従って、次のような多孔体の構造指標が得られる。
【0044】
「空孔率(空隙率)」、「流路枝の寸法:厚さ、幅、長さ」、「細孔径分布」、「貫通パスの最小細孔径」、「ループ数(一次元ベッチ数)」、「流路粒子分割、粒子径分布(主に発泡剤による流路形成の評価に用いる)」、「バルク比表面積:触媒反応層などにおける母材のバルク体積に対する表面積の割合を表現する」、「流路ネットワークの合計長さ、分岐点数、平均枝長さ」、「入口ノード数、入口平均断面積」、「出口ノード数、出口平均断面積」、「流路スターボリューム(流路の直線性を示す)」、「母材スターボリューム(流路の片寄りを示す)」。
【0045】
<流れの指標>
また、流路抵抗の計算結果に応じて、次のような流れの指標が各枝について得られる。
「圧力(Pa)、圧力損(Pa)」、「流速(m/sec)」、「流量(m
3/sec)(=流速×断面積)」、「消費エネルギー(N/(sec/m))」、「粘性抵抗(Pa/(m
3/sec))」
また、定義した入口から出口を1つの流路と考えた場合での流量、流速、圧損なども計算することができる。
【0046】
<貫通パス形態特徴量>
空孔の抵抗と入口と出口と圧力差を与えることにより、入口から出口に至るひとつながりの流路を抽出することができる。これを貫通パスと呼ぶ。貫通パスにより多孔体の特徴を表現することが可能である。
【0047】
流路入口から出口に至るあらゆるパスをサーチし、最適なパスの順に選択する。パスの本数は無数に多いためパスを構成する枝の消費エネルギーの和をパスの消費エネルギーと定義し、消費エネルギー大の順に取り出す。なお、貫通パスには重複パスはカウントしない。
【0048】
<貫通パス計測>
入口から出口に至るひとつながりの流路を貫通パスと呼ぶ。入口から出口に至るあらゆるパスをサーチし、流体が流れるのに最適なパスの順に選択する。パスの本数は無数に多いためパスを構成する枝のパワー(消費エネルギー)の和をパスのパワーと定義し、パワーが大きい順に取り出す。
【0049】
ここで、パス数が膨大になることを防止するため、全体の流れに対し貢献度の小さなパスは除外する。
【0050】
また、曲路率大のパス、大部分の枝が選択済みパスに含まれる重複パスを除外したり、パスについて計測本数を制限したりしてもよい。
【0051】
貫通パス毎に次の項目を測定し、貫通パス全体の平均を多孔体の特徴量とする。
・形態特徴量:貫通パス本数、最小細孔径、曲路率
・流れの指標:粘性抵抗合計、パワー合計、平均流速、平均流量
【0052】
<貫通パスカバレージ>
貫通パスの合計が全多孔体をカバーする割合を求める。なお、得られた割合は、100を乗算して%表示とした。
・空孔体積割合={Σ[貫通パス構成枝](枝長さ×断面積)/(Σ[全枝](枝長さ×断面積))
【0053】
空孔体積割合は、貫通パスを構成する枝についての空孔体積(枝長さ×断面積)の合計を全枝についての空孔体積(枝長さ×断面積)の合計で除算した値に100を乗算したものである。
【0054】
・流量割合
流量割合は、貫通パスについての流量の合計を入口から出口に流れる全流量の合計で除算した値である。
【0055】
・パワー割合
パワー割合は、貫通パスの流れについてのパワー(消費エネルギー)の合計を入口から出口に流れる全流れについてのパワーの合計で除算した値である。
【0056】
このように、貫通パスを選択して、その貫通パスごとの流れの指標を得て、これを表示することで、多孔体の特性について見やすい表示が可能となる。ここで、全枝について、その流速を色で示すことができるが、枝の数が多すぎて、傾向をつかむことができない。例えば、貫通パスを選択して、各貫通パスについて圧力表示すると、全体としての圧力の傾向を見ることができる。特に、貫通パスは全体の流れの多くの部分を担っており、また行き止まりの枝の圧力などは非表示となるため、全体としての傾向が見やすくなる。さらに、パワーの大きなものを選択するなどして、表示する貫通パスを限定することで、より見やすい表示にすることができる。
【0057】
<解析結果>
透過性が比較的大きい多孔体(建築材料)を用い、本実施形態に係る流路抵抗モデル、電気回路モデルでの流れ解析、および流体シミュレーションを行った。
【0058】
流体シミュレーションは、多孔体についてCT画像より、3次元構造を構築し、得られた流路を用いて行った。流体シミュレーションに用いたソフトFlowsquare(商品名)(Nora Scientific社)である。
【0059】
図5は、多孔体を示す図であり、(a)はCT画像、(b)はCT画像から求められた骨格線を示す。流路抵抗モデルでは、
図5(a)のCT画像に基づいて、
図5(b)のような骨格線を求め、これに基づいて上述した楕円柱からなる流路モデル(流路抵抗モデル)を構築する。そして、この流路抵抗モデルに基づき解析を行った。すなわち、流路入口と出口との間に圧力差を与え、あらゆる流路をポアズイユ流れで近似して、流れ指標を求めた。電気回路モデルは、骨格線を枝毎に電気抵抗に置き換えて形成し、この回路について圧力に対応する電圧を印加して解析を行った。
【0060】
流路抵抗モデルおよび電気回路モデルについての解析結果について、流体シミュレーションとの相関を調べた。
【0061】
多孔体流路モデル(流路抵抗モデル)において、解析結果は、骨格線上の値を取り出し、流体シミュレーション結果は骨格線と直交する面上の値の平均を取り出し比較した。
【0062】
まず、流路抵抗モデルによる圧力、流速について、流体シミュレーションと比較した。圧力はR
2=0.9(p<0.00)、流速はR
2=0.73(p<0.00)で相関した。ここで、R
2は分散、pは有意確率である。
【0063】
流体シミュレーション結果と流路抵抗モデルによる連通孔計測結果は圧力、流速とも回帰直線は原点を通り直接比例することを示した。
【0064】
電気回路モデルは流体シミュレーションと相関した。細孔を電気回路抵抗で近似した電気回路モデルによる解析結果において、圧力はR
2=0.72(p<0.00)、流速はR
2=0.82(p<0.00)で流体シミュレーション結果と相関する。しかし、圧力、流速とも回帰直線は原点を通らず比例関係は示さなかった。
【0065】
図6は多孔体の圧力分布についての3種類の解析結果を示す図であり、(a)は流体シミュレーション、(b)は流路抵抗モデル解析、(c)は電気回路モデル解析の結果を示す。この表示においても、圧力が高いところを赤、低いところを青、中間をオレンジ、緑、黄色で示している。
図6は白黒であり、中間が比較的明度が高くなっている。この
図6における濃淡から、圧力について流路抵抗モデルによる結果が流体シミュレーションの結果に近いことがわかる。
【0066】
図7は多孔体の流速分布についての3種類の解析結果を示す図であり、(a)は流体シミュレーション、(b)は流路抵抗モデルの解析、(c)に電気回路モデルの解析結果を示す。この表示においても、流速が高いところを赤、低いところを青、中間をオレンジ、緑、黄色で示している。
図7は白黒であり、中間が比較的明度が高くなっている。この
図6における濃淡から、流速分布についても、流路抵抗モデルによる結果が流体シミュレーションの結果に近いことがわかる。
【0067】
このように、流路抵抗モデルは流体シミュレーションと相関する。
【0068】
<流路抵抗モデル貫通パス測定>
上述のようにして、貫通パスを選定し、その貫通パスについて流路抵抗モデルによる解析を行った。
図8は貫通パス選定の手順を示す図であり、(a)は多孔体のCT像、(b)は多孔体の空孔、(c)は空孔の骨格線、(d)貫通パス毎のパワー、(e)はパワーの大きな貫通パス、を示す。
【0069】
まず、
図8(a)は対象となる多孔体のCT像であり、青色(図においては灰色)は空孔を示す。
図8(b)には、空孔のみを青(図においては黒)で表示してある。このように、空孔はたくさんあり、この表示からは空孔の形状等を判断するのは難しい。なお、上端が入口、下端が出口である。
【0070】
図8(c)は、空孔の骨格線を抽出して示したものである。骨格線を表示することが空孔の形状等が見やすくなる。なお、骨格線の各点上に骨格線と垂直方向の断面上で空孔を短軸、長軸を持つ楕円で近似し、各枝を定義する。そして、枝毎の流路抵抗を計算し、各枝の圧力、流速、流路抵抗、パワーなどを計算することができる。
【0071】
そして、これらの流れ指標を貫通パスごとに積算することで各貫通パスについての流れ指標が計算できる。
図8(d)は、貫通パス毎のパワーを示したものであり、貫通パス毎の合計パワーの相違が階調の相違で認識できる。なお、この図では白黒表示であるが、実際の表示では、貫通パス毎のパワーを色で示す。これによって、パワーの大きい小さいを貫通パスごとに認識することができる。また、白黒表示を前提とすれば、パワーに明度を対応させることもできる。すなわち、色相、明度、彩度、ハッチングなどの表示属性を流れ指標に対応させることで、枝や貫通パスなどについての流れ指標の大きさの表示が可能となる。
【0072】
図8(e)には、貫通パスの合計パワーが80%以上となるように、パワーの大きなパスを取り出して表示した例を示す。このように、表示する貫通パスを制限することで、より見やすい表示となる。なお、この例では、
図8(e)に示した貫通パスの合計パワーが、全流路の合計パワーの80%をカバーしており、
図8(e)の表示に基づいて、連通孔ネットワークを評価することができる。
【0073】
<流路抵抗モデルと電気回路モデルの選択経路>
図9(a)は、透水性小のSample1の貫通パスを示す図である。ここでは、パワーの大きいものとして選択された貫通パスを示してあり、緑(うすい灰色)は電気回路モデルの選択経路、赤(濃い灰色)は流路抵抗モデルの選択経路、黄色(白)は両者共通の経路を示す。
(b)は、貫通パスの最小断面積をパワー大→小の順に表示した図である。流路抵抗モデル(赤:流)は電気回路モデル(緑:電)に比べ最小断面積大となる経路を選択している。
(c)は、貫通パスの曲路率についての図である。電気回路モデル(緑:電)は、流路抵抗モデル(赤:流)は比較的曲路率小の経路を選択している。
(d)は、流路抵抗モデルにおける貫通パス流量と最小断面積の関係を示した図である。両者は(R
2=0.52, p<0.00)で正に相関している。
(e)は、流路抵抗モデルにおける流量と曲路率の関係を示す図である。流路抵抗モデル流量は曲路率とは相関しない。
(f)は、電気回路モデル電流と最小断面積の相関を示す図である。両者は(R
2=0.58, p<0.00)で正に相関している。
(g)は、電気回路モデルにおける流量の曲路率依存性を示す図である。電流と曲路率は負に相関した(R
2=0.39, p<0.00)。
(d)〜(g)より、流路抵抗流れはパスの最小断面積に依存し、曲路率への依存は小さく、電気回路モデルの流れは、最小断面積及び曲路率両方への依存性を示すことがわかる。
【0074】
選択された経路について、その最小断面積、曲路率について解析した結果、流路抵抗モデルは電気回路モデルに比べ最小断面積大となる経路を選択しており、電気解回路モデルは、曲路率小の経路を選択していることがわかった。
【0075】
さらに、貫通パス流量と、最小断面積および曲路率の相関を調べた。その結果、流れはパスの最小断面積に依存し、曲路率への依存は小さいことがわかった。これより、流れの解析において、流路抵抗モデルの方が電気回路モデルより適切であることがわかった。
【0076】
<構造指標>
透水性の弱いS1と透水性大のSample2についての解析結果の比較を表2に示す。
【0078】
Sample2は1と比較し空隙率、細孔寸法(厚さ、幅)、流路の分岐点数(N.NdNd)、流路長(TSL/TV)には大きな差はなかったが、ループ数はSample2ではSample1の1/2、V*trは2倍強の値を示した。Sample2はストレートな流路が多いパスで構成されていることがわかる。Sample2の保水能力はSample1より低く、水はけが良いことが示唆された。
【0079】
図10は、貫通パスの曲路率を示す図であり、(a)はSample1、(b)はSample2である。元図においては色で曲路率を示しているが、この図は白黒であって、黒いほど曲路率が大きくなっており、Sample1は、曲路率が大きい、即ち曲がりくねった経路を通ることがわかる。また、Sample2は、比較的ストレートな経路を有することがわかる。
【0080】
図11は、多孔体細孔径分布を示す図であり、(a)はSample1、(b)はSample2である。元図においては色で細孔径を示しているが、この図は白黒であり、黒いほど細孔径が小さい。従って、Sample1の方がSample2より細孔径の小さい流路が多いことがわかる。また、色を識別できる表示では、Sample1はSample2より細孔径小の流路がパスの中間に存在していることがわかる。すなわち、
図11の表示によって、どのような位置にどのような細孔があるかという、細孔の分布を把握することができる。
【0081】
図12は細孔径ヒストグラムを示す図であり、(a)Sample1、(b)Sample2を示す。このように、Sample2では細孔径大の流路が、Sample1では細孔径小の流路が広く分布していることがわかる。
【0082】
<流れの指標>
表3は、流路抵抗モデルで算出した流れの指標である。流れの指標からは流量等流れやすいことを示す多くの指標において、Sample2がSample1に比べ著しく大きい。すなわち、Sample2がSample1より抵抗は小さく、流れが良いことがわかる。
【0084】
図13は貫通パスの圧力を示す図であり、(a)はSample1、(b)はSample2を示す。元図では、貫通パスについての流れの圧力を色で示しているが、
図13では白黒で示している。図における上部の黒(赤)が圧力の大きな枝、下部の黒(青)が圧力の小さな枝を示している。このように、Sample1では等圧面が比較的水平面に近く、一様な流れであることがわかる。一方、Sample2では、等圧面が上凸下凸に曲がっており流量大小混在した流れになっている。
【0085】
図14は貫通パスの流量を示す図であり、(a)はSample1、(b)はSample2を示す。Sample2はSample1より本数が多く、パスの流量も大きい。図においては、流量大のパスと、流量小のパスの区別がつかないが、本数が多いことはわかる。
【0086】
このように、貫通パスについて、その3次元位置を表示し、各貫通パスについて色や明度で流量、流速、圧力、パワーなどの流れ指標の表示を行うことで、多孔体の性状を表示することができる。従って、この解析結果の基づき、多孔体の製造方法などを最適化することが可能になる。
【0087】
<等ポテンシャル面、電流>
図15は電気回路モデルによる等ポテンシャル面、電流、流路上の消費電力を示す図であり、(a),(b),(c)は電気回路モデルによるSample1の等ポテンシャル面、電流、流路上の消費電力、(d),(e),(f)はSample2の等ポテンシャル面、電流、流路上の消費電力を示す。元図はカラー表示であるが、図においては白黒表示であり、明度によって相違がわかる。これより、Sample2はSample1に比べ、等ポテンシャル面が平行でない、Sample1は一様な流れであり、Sample2は場所により変化のある流れであることがわかる。電流(b)(e)、消費電力(c)(f)はいずれもSample1が小さく、Sample2が大きい傾向を示した。Sample2がストレートな細孔ネットワークで連結されていることの反映と考えられる。なお、
図15(c)(f)では、パワー0.2mW以上のパスを選択して表示している。
【0088】
このように、流路抵抗モデルと、電気回路モデルの両方を適宜用いることで、より要求にかなった情報を得ることができる。
【0089】
<処理フロー>
図16は、本実施形態に係る構造評価のコンピュータによる処理を示すフローチャートである。まず、対象となる多孔体についてのCT画像を取得する(S11)。上述したように、必ずしもCT画像に限定されないが、実際の多孔体についての評価を行う場合、CT画像が適当な画像である。取得したCT画像から細孔を検出する(S12)。通常、母材は固体であって細孔は空気であり、CT値から細孔を検出することができる。細孔の中心を結ぶことによって骨格線を検出する(S13)。骨格線の連続により骨格線ネットワークが得られる。
【0090】
次に、流路抵抗モデルを用いたシミュレーションにおいては、骨格線の各枝を楕円柱に近似する。この楕円柱を接続して、楕円柱を接続したネットワークとして細孔を表現する流路抵抗モデルを構築する(S15)。ここで、流路抵抗は流路の断面積の2乗に反比例する。そして、流路抵抗モデルを用いてシミュレーションを行い(S16)、入口出口間に流体を流した場合の流れ指標を算出する。また、得られた流れ指標に基づいて、入口出口間に貫通する貫通パスを検出し、検出された貫通パスの中でパワーの大きなものなどを選択する。
【0091】
一方、電気回路モデルを用いたシミュレーションの場合には、S14で得られた細孔を電動物質で満たされていると仮定して、各枝を電気抵抗に置き換え、電気抵抗が接続された電気回路モデルを構築する(S17)。ここで、電気抵抗は、細孔の断面積に反比例する。そして、電気回路モデルを用いシミュレーションを行い(S18)、入口出口間の電流密度、パワーなどの流れ指標を算出する。また、得られた流れ指標に基づいて、入口出口間に貫通する貫通パスを検出し、検出された貫通パスの中でパワーの大きなものなどを選択する。
【0092】
そして、シミュレーションの結果を出力する(S19)。例えば、得られた貫通パスについてのパワー、流速、流量などを貫通パスの3次元表示における貫通パス毎の色、明度などで表示する。なお、上述のように、結果の出力としては、各種のものが採用できる。
【0093】
<まとめ>
本実施形態では、まず数nm〜数100μm径を持つ多孔体試料を対象に、X線CTで描出可能な細孔を計測した。次にX線CT画像から画像コントラストをしきい値で判別し細孔構造を抽出、構造指標を算出した。実際の細孔構造をパイプで近似し圧、流れのシミュレーションを行った。
【0094】
特に、シミュレーションは、多孔体材料の流路と、担体両方の構造指標をCT画像から算出する。そして、多孔体構造物に入口、出口を与え、細孔に流路抵抗を定義し、入口、出口間に圧力差を与え、細孔内の流れを3次元でシミュレーションする。本実施形態によれば、流体の近似モデルを利用し、実用的なサイズの多孔体モデルについて、実用的な時間内に精度良く多孔体の構造と流れの指標を得ることができる。本実施形態によれば、細孔径50nm〜10mmという広範囲の細孔径の多孔体についてのシミュレーションが可能である。
【0095】
本実施形態により、マクロな細孔構造物のX線CT画像を用い、階調(=密度)により、細孔を抽出できる。従って、細孔の3次元画像から細孔構造の断面積分布や連結ネットワーク等の構造指標を計測可能である。
【0096】
また、細孔ネットワークに抵抗を定義することにより、細孔構造中の流れの解析が可能である。流路抵抗モデルを用いると入口出口間の圧力差に依存した細孔構造物内の各点の圧力、流速がシミュレーション可能である。流路抵抗モデルでの結果は流体シミュレーション結果と比例する。従って、流路抵抗モデルを用いた解析により3次元流体シミュレーションの近似解が簡便に得られる。排ガスフィルターなど流れの性質を用いる細孔の解析に有効と考えられる。一方、電気回路モデルを与えたシミュレーションでは、流れの抵抗要素の効果を弱め、連通性と構造特性を反映した流路の特徴が得られた。触媒や生体材料の解析に有効と示唆される。