(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゲート絶縁膜は、極性を有し、前記グラフェンに前記極性に応じた電荷を発生させることによって、前記グラフェンの電荷のドーピングを誘起することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子デバイス。
前記ゲート絶縁膜は、前記グラフェンに電荷を供与することによって、又は前記グラフェンから電荷を吸引することによって、前記グラフェンの電荷のドーピングを誘起することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、第1の実施の形態について説明する。
図1は第1の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図1には、電子デバイスの要部斜視図を模式的に示している。
【0011】
図1に示す電子デバイス1は、ゲートにグラフェン10が用いられたFETを備える。電子デバイス1は、半導体基板20、ゲート絶縁膜30、グラフェン10、ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60を有する。
【0012】
半導体基板20には、例えば、シリコン(Si)基板が用いられる。半導体基板20には、シリコン基板のほか、ゲルマニウム(Ge)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、インジウムリン(InP)、ガリウムヒ素(GaAs)等の各種半導体基板が用いられてもよい。
【0013】
半導体基板20内には、その一部の半導体領域21を挟んで対向するようにソース領域22及びドレイン領域23が設けられる。ソース領域22及びドレイン領域23は、半導体基板20に所定の導電型の不純物をイオン注入することで形成される。半導体領域21と、ソース領域22及びドレイン領域23とは、反対の導電型とされる。例えば、半導体領域21がp型とされ、ソース領域22及びドレイン領域23がn型(n
++)とされる。半導体領域21は、p型の半導体基板20を用いるか又はノンドープの半導体基板20にp型の不純物をイオン注入することで形成される。ソース領域22とドレイン領域23との間に介在される半導体領域21が、FETのチャネル領域として機能する。
【0014】
半導体領域21、ソース領域22及びドレイン領域23を含む半導体基板20上に、ゲート絶縁膜30が設けられる。半導体基板20の、ソース領域22とドレイン領域23との間に介在される半導体領域21上に、ゲート絶縁膜30を介してグラフェン10が設けられる。
【0015】
ゲート絶縁膜30は、半導体基板20上に設けられた絶縁膜31と、その絶縁膜31上に設けられた絶縁膜32とを含む積層構造を有する。ゲート絶縁膜30の、上層側の絶縁膜32上に、絶縁膜32と接するように、グラフェン10が設けられる。
【0016】
ゲート絶縁膜30の、下層側(半導体基板20側)の絶縁膜31には、酸化シリコン(SiO
2)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)等の各種絶縁材料が用いられる。絶縁膜31は、例えば、熱酸化法や堆積法(ALD(Atomic Layer Deposition)法、PVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法等)を用いて形成される。絶縁膜31は、例えば、1層の絶縁膜とされる。このほか、絶縁膜31は、同種又は異種の絶縁材料が用いられた2層以上の絶縁膜の積層構造とされてもよい。
【0017】
ゲート絶縁膜30の、上層側(グラフェン10側)の絶縁膜32には、これに接して設けられるグラフェン10の、その電荷(電子又は正孔)のドーピングを誘起する材料が用いられる。絶縁膜32には、有機材料が用いられてもよいし、無機材料が用いられてもよい。絶縁膜32は、用いられる材料に応じた手法で形成される。
【0018】
1つの形態として、絶縁膜32は、グラフェン10に電荷を導入することにより、グラフェン10に電荷をドープする。例えば、絶縁膜32は、グラフェン10に電子を供与することにより、グラフェン10に電子をドープする。或いは、絶縁膜32は、グラフェン10から電子を吸引することにより、グラフェン10に正孔をドープする。グラフェン10に電子を供与する絶縁膜32の材料には、それを構成する分子内に、グラフェン10に電子を供与するように作用する官能基や原子を有するものが用いられる。また、グラフェン10から電子を吸引する絶縁膜32の材料には、それを構成する分子内に、グラフェン10から電子を吸引するように作用する官能基や原子を有するものが用いられる。
【0019】
また、別の形態として、絶縁膜32は、グラフェン10に電荷を発生させることにより、グラフェン10に電荷をドープする。例えば、絶縁膜32は、それが有する極性によってグラフェン10に電子又は正孔を誘起させることにより、グラフェン10に電子又は正孔をドープする。絶縁膜32の極性は、絶縁膜32を構成する分子内の特定の官能基や原子が有する極性(極性基)によって発現されるものでもよいし、絶縁膜32を構成する分子が全体として有する極性(極性分子)によって発現されるものでもよい。絶縁膜32の極性は、絶縁膜32が全体として有する極性によって発現されるものでもよい。
【0020】
このような、グラフェン10の電荷のドーピングを誘起する絶縁膜32の上に、その絶縁膜32と接するように、グラフェン10が設けられる。グラフェン10は、例えば、所定の基板上に別途形成されたものを絶縁膜32上に転写することで設けられる。
【0021】
絶縁膜32上のグラフェン10には、ゲート電極40が接続される。ゲート電極40は、平面視で、ソース領域22とドレイン領域23との間のチャネル領域(半導体領域21の全部又は一部)と重複しない位置に設けられ、グラフェン10と接続される。
【0022】
ソース領域22及びドレイン領域23にはそれぞれ、ソース電極50及びドレイン電極60が接続される。例えば、ソース領域22及びドレイン領域23のそれぞれに達する開口を設けたゲート絶縁膜30上に、ソース電極50及びドレイン電極60が設けられ、ゲート絶縁膜30の開口を通じてソース領域22及びドレイン領域23のそれぞれと接続される。
【0023】
上記のような構成を有する電子デバイス1は、例えば、ガスセンサとして用いられる。
ガスセンサは、雰囲気中に含まれる化学物質を検知するもので、様々な測定原理のものがあり、環境測定等に広く使用される。例えば、自動車の排気ガスに含まれる二酸化窒素(NO
2)は、その環境基準値が20ppb(parts per billion)〜40ppb程度であり、極めて低濃度の検知が要求される。また、近年、呼気に含まれる化学物質と健康状態との関連が指摘されており、例えば、胃がんと呼気中のアンモニア(NH
3)の濃度、喘息と一酸化窒素(NO)の濃度との関連が指摘されている。その診断の閾値は、数十ppb〜数百ppb程度であり、この場合も極めて低濃度の検知が要求される。
【0024】
上記の電子デバイス1がガスセンサとして用いられる場合、ソース電極50とドレイン電極60との間には、これらの間に流れる電流を検出する電流モニタリング装置(図示せず)が接続される。ソース電極50とドレイン電極60の間、及びソース電極50とゲート電極40との間には、それぞれバイアス電源(図示せず)によって所定のバイアスが印加される。
【0025】
或る雰囲気中に配置された、ガスセンサとして用いられる電子デバイス1のグラフェン10に、雰囲気中の検知対象の成分(検知対象成分)が吸着すると、その吸着した検知対象成分によってグラフェン10に電荷がドープされ、グラフェン10の仕事関数が変化する。グラフェン10の仕事関数が変化すると、フラットバンド電圧が変化し、グラフェン10をゲートするFETの閾値電圧が変化する。その結果、ゲート電極40のバイアスが一定ならば、ソース電極50(ソース領域22)とドレイン電極60(ドレイン領域23)との間に流れるドレイン電流が変化する。ソース電極50とドレイン電極60との間に接続した電流モニタリング装置によってドレイン電流を検出することで、雰囲気中の検知対象成分の有無や、雰囲気中の検知対象成分の量(分子の数や濃度)を検知することができる。
【0026】
例えば、雰囲気中の窒素酸化物やアンモニアを検知するガスセンサとして用いられる電子デバイス1では、窒素酸化物やアンモニアがグラフェン10に吸着すると、その吸着によってグラフェン10に電子がドープされる。これにより、グラフェン10の仕事関数が変化し、グラフェン10をゲートとするFETの閾値電圧が変化する。所定のバイアス条件の下、このFETのドレイン電流を検出することで、雰囲気中の窒素酸化物やアンモニアが検知される。
【0027】
尚、ガスクロマトグラフィ等の据え置き型の装置は、低濃度のガスの検知には有効であるものの、装置が比較的大型になる。一方、小型で簡便且つリアルタイムで検知可能な装置のニーズは高く、例えば、携帯型の半導体式センサも開発されている。酸化物半導体にガスが吸着した際の抵抗変化等を利用したものがあり、酸化第二スズを利用したエタノールセンサ等がその一例であるが、このようなセンサの検出限界は1ppm(parts per million)程度と感度としては一般的には高くない。上記のような電子デバイス1によれば、小型で高感度のガスセンサを実現することができる。
【0028】
ところで、一般に、ガスセンサが配置される雰囲気中には、検知対象成分以外の成分(検知対象外成分)が含まれ得る。例えば、大気中や呼気中の窒素酸化物やアンモニアを検知する場合における、その大気中の酸素(O
2)等である。このような検知対象外成分が、検知対象成分をゲートに吸着させてその検知を行うガスセンサの、そのゲートに吸着すると、ゲートの仕事関数に影響を及ぼし、検知感度に影響を及ぼす可能性がある。
【0029】
ここで、上記電子デバイス1との比較のため、ガスセンサとして用いることのできる電子デバイスの別例を
図2に示す。
図2(A)には、電子デバイスの要部斜視図を模式的に示している。
図2(B)には、電子デバイスに用いられるグラフェンのエネルギー状態を模式的に示している。
【0030】
図2(A)に示す電子デバイス100は、半導体基板20上に、グラフェン10の電荷のドーピングを誘起する機能を持たないゲート絶縁膜130を介して、グラフェン10が設けられる点で、上記電子デバイス1と相違する。
【0031】
電子デバイス100では、窒素(N
2)のような不活性ガス雰囲気中の窒素酸化物やアンモニアの検知では、窒素酸化物に対してはサブppb、アンモニアに対しては数十ppbといった、極めて高感度の検知を実現することができる。しかし、大気中の窒素酸化物やアンモニアといった検知対象成分の検知では、その大気中の酸素もグラフェン10に吸着する。大気中の酸素がグラフェン10に吸着すると、そのグラフェン10には正孔がドープされる。
【0032】
グラフェン10は本来、
図2(B)の左図に示すように、価電子帯と伝導帯がディラックポイントDで点接触するバンド構造(ディラックコーン)を示し、ディラックポイントDにフェルミレベルE
Fが位置する。このようなグラフェン10に大気中の酸素が吸着し、グラフェン10に正孔がドープされると、
図2(B)の右図に示すように、そのフェルミレベルE
Fの位置が低下してディラックポイントDからずれる。その結果、大気中の酸素が吸着したグラフェン10では、窒素酸化物やアンモニアといった検知対象成分が吸着した時でも、その仕事関数の変化量が、窒素のような不活性ガス雰囲気中で検知対象成分が吸着した時よりも低下する。即ち、検知対象成分の検知感度が低下する。
【0033】
このように、
図2(A)に示す電子デバイス100をガスセンサとして大気中で用いる場合には、大気中の酸素により、検知対象成分の検知感度が低下してしまうことが起こり得る。
【0034】
これに対し、
図1に示す電子デバイス1では、ゲート絶縁膜30が絶縁膜31及び絶縁膜32の積層構造とされ、グラフェン10がその電荷のドーピングを誘起する絶縁膜32上に設けられる。例えば、電子デバイス1を、酸素を含む大気中に配置して検知対象成分の検知を行う場合には、グラフェン10下の絶縁膜32として、グラフェン10の電子のドーピングを誘起する(グラフェン10に電子がドープされる)絶縁膜32が設けられる。
【0035】
図3は第1の実施の形態に係る電子デバイスの説明図である。
図3(A)には、電子デバイスに用いられるグラフェンのエネルギー状態を模式的に示している。
図3(B)には、電子デバイスの電流電圧特性を模式的に示している。
【0036】
例えば、上記のように、
図1に示す電子デバイス1をガスセンサとして用い、これを大気中に配置して窒素酸化物やアンモニアといった検知対象成分の検知を行う場合には、グラフェン10に電子がドープされるような絶縁膜32をグラフェン10下に設ける。これにより、大気中の酸素が吸着することによる影響、より詳しくは、酸素の吸着によってグラフェン10に正孔がドープされ、
図3(A)の左図に示すように、そのフェルミレベルE
Fが低下してディラックポイントDからずれることが、抑えられる。
【0037】
即ち、大気中の酸素の吸着によってグラフェン10に正孔がドープされても、そのグラフェン10には、その電子のドーピングを誘起する絶縁膜32により、電子がドープされる。その結果、
図3(A)の左図に示すように、大気中の酸素の吸着によってディラックポイントDから離れたフェルミレベルE
Fが、
図3(A)の右図に示すように、再びディラックポイントD又はその付近に引き戻される。或いは、大気中の酸素の吸着によってディラックポイントDから離れようとするフェルミレベルE
Fが、
図3(A)の右図に示すように、ディラックポイントD又はその付近に維持される。或いはまた、大気中の酸素の吸着前にフェルミレベルE
FがディラックポイントDよりも上に位置され、大気中の酸素の吸着時にフェルミレベルE
FがディラックポイントD又はその付近に維持される。
【0038】
このように、大気中に配置される電子デバイス1では、グラフェン10下にその電子のドーピングを誘起する絶縁膜32が設けられる。即ち、大気中の酸素の吸着によって正孔がドープされるグラフェン10に、正孔とは反対の電荷である電子がドープ(カウンタードープ)されるような絶縁膜32が設けられる。このような絶縁膜32がグラフェン10下に設けられることで、大気中での検知時にも、グラフェン10のフェルミレベルE
FをディラックポイントD又はその付近に調整することができる。これにより、大気中の酸素がグラフェン10に吸着することによる影響を抑え、大気中に酸素と共に含まれる検知対象成分を高感度で検知することが可能になる。
【0039】
図3(B)には、大気中に配置された電子デバイス1(
図1)及び電子デバイス100(
図2(A))のグラフェン10の両端に電極を配置した場合の、グラフェン10の電流電圧特性の一例を模式的に示している(
図1及び
図2(A)では図示を省略するが、この場合は、紙面手前側に電極40に対向して電極が配置される)。ここでは、電子デバイス1及び電子デバイス100の各々について、グラフェン10の両端に電圧を印加し、更に半導体基板20にバックゲート電圧を印加した時の、バックゲート電圧V
Bとグラフェン10に流れる電流I
Gとの関係を示している。
図3(B)には、電子デバイス1についてのバックゲート電圧V
Bと電流I
Gとの関係を実線Xで、電子デバイス100についてのバックゲート電圧V
Bと電流I
Gとの関係を点線Yで、それぞれ示している。
【0040】
図3(B)より、大気中に配置された電子デバイス1(実線X)では、そのグラフェン10に流れる電流I
Gが最小となるバックゲート電圧V
Bが0又はその付近になる。一方、大気中に配置された電子デバイス100(点線Y)では、そのグラフェン10に流れる電流I
Gが最小となるバックゲート電圧V
Bが、より正の電圧側になる。このことから、大気中に配置された電子デバイス100のグラフェン10には正孔がドープされると言うことができる。
【0041】
電子デバイス1では、グラフェン10下にその電子のドーピングを誘起する絶縁膜32が設けられ、大気中の酸素の吸着によって正孔がドープされるグラフェン10に、絶縁膜32により電子がドープされ、実質的に電荷がドープされないか又はそれに近い状態になる。そのため、電子デバイス1では、
図3(B)に実線Xで示すように、グラフェン10に流れる電流I
Gが、バックゲート電圧V
Bが0又はその付近の時に最小となる。
【0042】
一方、電子デバイス100では、グラフェン10下に上記のような絶縁膜32が設けられず、大気中の酸素の吸着により、グラフェン10が正孔でドープされた状態になる。そのため、電子デバイス100では、
図3(B)に点線Yで示すように、グラフェン10に流れる電流I
Gが最小となるバックゲート電圧V
Bが、より正の電圧側にシフトする。
【0043】
換言すれば、電子デバイス1では、グラフェン10下の絶縁膜32により、電子デバイス100で見られるような電流電圧特性のシフトを、バックゲート電圧V
Bが0又はその付近でグラフェン10に流れる電流I
Gが最小となるような状態(実質的に電荷がドープされないか又はそれに近い状態)に引き戻す効果があると言うことができる。
【0044】
尚、以上の説明では、大気中に含まれる特定の成分の検知を行う場合を例にしたが、検知を行う雰囲気は大気中に限定されない。酸素を含む大気のような雰囲気に限らず、電子デバイス1のグラフェン10に対し、酸素同様、吸着により正孔をドープする検知対象外成分を含む雰囲気において、その雰囲気中の検知対象成分を検知する場合には、上記同様の手法を採用することができる。即ち、グラフェン10下にその電子のドーピングを誘起する絶縁膜32を設け、雰囲気中の検知対象外成分の吸着によって正孔がドープされるグラフェン10に、正孔とは反対の電荷である電子がドープされるようにすればよい。
【0045】
また、電子デバイス1のグラフェン10に対し、吸着により電子をドープする検知対象外成分を含む雰囲気において、その雰囲気中の検知対象成分を検知する場合にも、上記同様の手法を採用することができる。即ち、グラフェン10下には、その正孔のドーピングを誘起する絶縁膜32を設け、雰囲気中の検知対象外成分の吸着によって電子がドープされるグラフェン10に、電子とは反対の電荷である正孔がドープされるようにする。これにより、雰囲気中の検知対象外成分の吸着によるフェルミレベルE
FのディラックポイントDからのずれを抑え、その雰囲気中の検知対象成分を高感度で検知することが可能になる。
【0046】
また、電子デバイス1では、グラフェン10上に、グラフェン10を保護する保護膜が設けられてもよい。但し、電子デバイス1をガスセンサとして用いる場合、検知対象成分のグラフェン10への吸着を可能にするため、グラフェン10上に設ける保護膜の一部に、グラフェン10に達する開口が設けられる。
【0047】
また、上記のような構成を有する電子デバイス1は、雰囲気中の特定の成分を検知するガスセンサのほか、電子回路においてオン/オフを制御するスイッチング素子として用いられてもよい。グラフェン10下の絶縁膜32の機能、即ち、電子のドーピングを誘起する機能又は正孔のドーピングを誘起する機能を選択することで、グラフェン10の仕事関数を調整することができる。これにより、ゲート(グラフェン10)の閾値電圧を調整することが可能になる。電子デバイス1をこのようなスイッチング素子として用いる場合には、雰囲気中に含まれる成分のグラフェン10への吸着を抑えるため、グラフェン10を覆う保護膜が設けられてもよい。
【0048】
尚、以上の説明では、グラフェン10の電荷のドーピングを誘起する絶縁膜32を、酸化シリコン等の絶縁膜31上に設ける例を示したが、絶縁膜32をその未形成部位の発生等を抑えて成膜性良く形成可能であれば、下地の絶縁膜31は省略してもよい。
【0049】
次に、第2の実施の形態について説明する。
図4は第2の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図4(A)には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
図4(B)には、ゲート絶縁膜を構成する分子の一例を示している。
【0050】
図4(A)に示す電子デバイス1Aは、半導体基板20、ゲート絶縁膜30、グラフェン10、ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60を有する。
半導体基板20には、例えば、シリコン基板が用いられる。半導体基板20内には、その一部の半導体領域21を挟んで対向するようにソース領域22及びドレイン領域23が設けられる。例えば、半導体領域21はp型とされ、ソース領域22及びドレイン領域23はn型とされる。ソース領域22とドレイン領域23との間に介在される半導体領域21が、FETのチャネル領域として機能する。
【0051】
半導体基板20の、ソース領域22とドレイン領域23との間に介在される半導体領域21上に、ゲート絶縁膜30を介してグラフェン10が設けられる。ゲート絶縁膜30は、半導体基板20上に設けられた絶縁膜31と、その絶縁膜31上に設けられた絶縁膜32とを含む。ゲート絶縁膜30の、上層側の絶縁膜32上に、絶縁膜32と接するように、グラフェン10が設けられる。
【0052】
ゲート絶縁膜30の、下層側(グラフェン10側)の絶縁膜31には、例えば、酸化シリコンが用いられる。絶縁膜31には、酸化ハフニウムや酸化アルミニウムが用いられてもよい。ゲート絶縁膜30の、上層側(グラフェン10側)の絶縁膜32には、これに接して設けられるグラフェン10の電子のドーピングを誘起する材料が用いられる。ここでは、このような絶縁膜32として、自己組織化単分子(Self-Assembled Monolayer,SAM)膜が用いられる。SAM膜の一例を
図4(B)に示す。
【0053】
図4(B)に示すSAM膜は、アルキル鎖を基本骨格とし、その一方の末端に下地の絶縁膜31に結合する結合基、他方の末端に極性を有するジメチルアミノ基(−N(CH
3)
2)が設けられた分子構造を有する。SAM膜は、そのジメチルアミノ基末端側がグラフェン10と接する。SAM膜のジメチルアミノ基とグラフェン10との相互作用により、極性を有するジメチルアミノ基からグラフェン10に電子が供与されることで、グラフェン10に電子がドープされる。或いは、SAM膜のジメチルアミノ基が有する極性によってグラフェン10に電子が誘起されることで、グラフェン10に電子がドープされる。
【0054】
尚、
図4(B)に示すSAM膜の分子構造は一例であって、絶縁膜32として用いられるSAM膜は各種分子構造を採り得る。例えば、アルキル鎖の長さ(基本骨格の炭素数)は上記の例に限定されない。また、グラフェン10側の末端官能基は、グラフェン10の電荷(この例では電子)のドーピングを誘起するものであれば、ジメチルアミノ基に限定されない。例えば、グラフェン10の電子のドーピングを誘起するものとして、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアミノ基等が用いられてもよい。また、下地の絶縁膜31側の結合基には、絶縁膜31の表面に結合するものであれば、各種結合基が採用される。
【0055】
絶縁膜32上のグラフェン10には、ソース領域22とドレイン領域23との間のチャネル領域と重複しない位置に設けられたゲート電極40が接続される。尚、このような位置に設けられるゲート電極40を、便宜上、
図4の断面図では点線で図示している。また、ソース領域22及びドレイン領域23にはそれぞれ、ゲート絶縁膜30に設けられた開口33を通じてソース電極50及びドレイン電極60が接続される。
【0056】
尚、
図4ではソース領域22及びドレイン領域23の直上にそれぞれソース電極50及びドレイン電極60が設けられているが、電気的に(例えば高ドープシリコン等を介して)接続されていれば、ソース領域22及びドレイン領域23から離れたところにそれぞれソース電極50及びドレイン電極60が配置されてもよい。ソース領域22及びドレイン領域23から離れたところにそれぞれソース電極50及びドレイン電極60を設けると、ソース電極50及びドレイン電極60の成分の、チャネル領域への拡散が効果的に抑えられる。
【0057】
続いて、上記のような構成を有する電子デバイス1Aの形成方法について説明する。
図5及び
図6は第2の実施の形態に係る電子デバイスの形成方法の一例を示す図である。
図5(A)〜
図5(C)及び
図6(A)〜
図6(C)にはそれぞれ、電子デバイス形成の各工程の要部断面を模式的に図示している。
【0058】
まず、
図5(A)に示すように、ソース領域22及びドレイン領域23が形成された半導体基板20上に、ゲート絶縁膜30の下層側の絶縁膜31が形成される。半導体基板20には、p型の半導体基板が用いられるか又はノンドープの半導体基板にp型の不純物がイオン注入されることで、p型の半導体領域21が形成される。半導体領域21を挟んで対向するソース領域22及びドレイン領域23は、半導体基板20にn型の不純物をイオン注入することで形成される。絶縁膜31は、半導体基板20の表面を熱酸化することで形成される。尚、半導体基板20上に、ALD法によって酸化ハフニウムや酸化アルミニウムを堆積し、絶縁膜31を形成してもよい。
【0059】
次いで、
図5(B)に示すように、ゲート絶縁膜30の上層側の絶縁膜32としてSAM膜が形成される。SAM膜は、例えば、気相法により形成される。
より詳しくは、まず、上記のように下層側の絶縁膜31が形成された半導体基板20と、開放容器に入れたSAM膜の原料とが、不活性雰囲気中の密閉容器内に、大気圧下で配置される。SAM膜の原料には、例えば、[3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシランが用いられる。このほか、SAM膜の原料には、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3−(メチルアミノ)プロピル]シラン等が用いられてもよい。続いて、絶縁膜31が形成された半導体基板20とSAM膜の原料とが入った密閉容器が電気炉内に配置され、数時間程度の加熱処理が行われる。加熱温度は、例えば、100℃とされる。この加熱処理により、SAM膜の原料が絶縁膜31の表面にシランカップリングされる。これにより、絶縁膜31上にSAM膜が形成される。形成されたSAM膜には、各種処理が施される。例えば、エタノール処理、トルエン処理、水酸化カリウム処理、硝酸処理がそれぞれ10分間程度、順次行われる。その後、純水で洗浄され、窒素ブロー処理が行われる。
【0060】
尚、SAM膜の形成に関しては、次の刊行物、「サーフィス・アンド・インタフェース・アナリシス(Surface And Interface Analysis)、2002年、第34巻、p.550〜554」等にも記載がある。
【0061】
例えば、上記のような方法により、
図5(B)に示すような、半導体基板20の表面に形成された絶縁膜31と、その上に絶縁膜32として形成されたSAM膜とを有するゲート絶縁膜30が形成される。
【0062】
次いで、
図5(C)に示すように、ゲート絶縁膜30(その絶縁膜32)上にグラフェン10が形成される。グラフェン10は、例えば、転写法により、ゲート絶縁膜30上に形成される。
【0063】
より詳しくは、まず、グラフェンが別途形成される。例えば、酸化膜付きシリコン基板上に1000nm程度の厚みで銅(Cu)薄膜を形成した基体がCVD装置内に配置され、CVD装置内に原料ガスが導入される。原料ガスとしては、例えば、メタン(CH
4)、水素(H
2)、アルゴン(Ar)の混合ガスが用いられる。例えば、メタンの流量は0.75sccm(standard cubic centimeter per minute)程度とされ、水素の流量は100sccm程度とされ、アルゴンの流量は1000sccm程度とされる。このような成長条件でCVD装置内に原料ガスが60分間程度導入され、基体上にグラフェンが形成される。形成されるグラフェンは、そのグレインサイズが十分大きく、単結晶且つ単層(単原子層)で形成される。尚、成長条件を適宜調整する(成長時間を長く設定する等)ことで、層数が2層以上のグラフェンを形成することもできる。続いて、基体上に形成されたグラフェンが、ポリマー等の保護膜が用いられ、上記半導体基板20上のゲート絶縁膜30の上に転写される。
【0064】
尚、グラフェン10の転写に関しては、次の刊行物、「ネイチャー(Nature)、2009年、第457巻、p.706〜710」等にも記載がある。
例えば、上記のような方法により、
図5(C)に示すような、ゲート絶縁膜30上にその上層側の絶縁膜32に接するようにグラフェン10が形成された構造が得られる。
【0065】
次いで、
図6(A)に示すように、ゲート絶縁膜30上に形成されたグラフェン10がパターニングされる。グラフェン10は、半導体基板20のソース領域22とドレイン領域23との間の半導体領域21の上方にグラフェン10が位置するように、パターニングされる。グラフェン10のパターニングは、例えば、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて行われる。グラフェン10のパターニングに用いられるエッチング技術としては、例えば、酸素プラズマを用いたRIE(Reactive Ion Etching)が挙げられる。
【0066】
次いで、
図6(B)に示すように、ゲート絶縁膜30がパターニングされ、ソース領域22及びドレイン領域23に達する開口33が形成される。開口33を形成するゲート絶縁膜30のパターニングは、例えば、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて行われる。
【0067】
次いで、
図6(C)に示すように、ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60が形成される。ゲート電極40は、ソース領域22とドレイン領域23との間のチャネル領域と重複しない位置に、グラフェン10と接続されるように設けられる。ソース電極50及びドレイン電極60は、ゲート絶縁膜30に設けた開口33を通じてそれぞれソース領域22及びドレイン領域23と接続されるように設けられる。ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60の形成では、まず、これらを形成する領域に開口を有するレジストが形成され、続いて、真空蒸着法により金属膜が形成され、その後、レジストがその上に形成された金属膜と共に除去される(リフトオフ法)。金属膜の形成では、例えば、密着材料として厚さが5nm程度のチタン(Ti)が形成され、その上に電極材料として厚さが200nm程度の金(Au)が形成される。このような方法により、ゲート絶縁膜30上の所定の領域に、グラフェン10に接続されるゲート電極40、ソース領域22に接続されるソース電極50、及びドレイン領域23に接続されるドレイン電極60が形成される。
【0068】
以上、
図5(A)〜
図5(C)及び
図6(A)〜
図6(C)に示すような方法により、電子デバイス1Aが形成される。
電子デバイス1Aは、例えば、ガスセンサとして用いられる。或る雰囲気中に配置された電子デバイス1Aのグラフェン10に、雰囲気中の検知対象成分が吸着すると、その吸着した検知対象成分によってグラフェン10に電荷がドープされ、グラフェン10の仕事関数が変化する。グラフェン10の仕事関数が変化すると、グラフェン10をゲートするFETの閾値電圧が変化する。その結果、所定のバイアス下で、ソース領域22(ソース電極50)とドレイン領域23(ドレイン電極60)との間に流れるドレイン電流が変化する。このようなドレイン電流の変化に基づき、雰囲気中の検知対象成分(その有無や量)の検知が行われる。尚、電子デバイス1Aをガスセンサとして用いる場合のシステム構成については後述する(
図9)。
【0069】
続いて、電子デバイス1Aの特性について説明する。
図7は第2の実施の形態に係る電子デバイスの電流電圧特性の説明図、
図8は第2の実施の形態に係る電子デバイスの検知感度特性の説明図である。
【0070】
図7(A)には、グラフェン10がSAM膜(絶縁膜32)上に設けられた電子デバイス1A(a,b,c)を大気中に配置した時の電流電圧特性を示している。
図7(A)には比較のため、グラフェン10がSAM膜上には設けられない電子デバイス(d,e)を大気中に配置した時の電流電圧特性を併せて示している。
図7(A)には、電子デバイスa〜eの各々について、グラフェン10の両端に電圧を印加し、更に半導体基板20にバックゲート電圧を印加した時の、バックゲート電圧V
B[V]とグラフェン10に流れる電流I
G[A]との関係を示している。
【0071】
図7(A)より、グラフェン10がSAM膜上に設けられた電子デバイスa,b,c(SAM膜有り)では、大気中に配置された時、そのグラフェン10に流れる電流I
Gが最小となるバックゲート電圧V
Bが0V付近になる。一方、グラフェン10がSAM膜上に設けられない電子デバイスd,e(SAM膜無し)では、大気中に配置された時、そのグラフェン10に流れる電流I
Gが最小となるバックゲート電圧V
Bが、より正の電圧側になる。このことから、グラフェン10がSAM膜上に設けられない電子デバイスd,eのグラフェン10には、大気中で正孔がドープされると言うことができる。これに対し、グラフェン10がSAM膜上に設けられる電子デバイスa,b,cでは、大気中で正孔がドープされるグラフェン10に、SAM膜によって電子がドープされ、グラフェン10が、実質的に電荷がドープされないか又はそれに近い状態になると言うことができる。
【0072】
また、
図7(B)には、グラフェン10がSAM膜上に設けられた電子デバイス1A(a,b,c)の、ゲート電圧V
g[V]と、ソース領域22とドレイン領域23の間を流れるドレイン電流I
d[A]との関係を示している。
図7(B)には比較のため、グラフェン10がSAM膜上には設けられない電子デバイス(d)の、ゲート電圧V
g[V]とドレイン電流I
d[A]との関係を示している。
【0073】
図7(B)より、グラフェン10がSAM膜上に設けられた電子デバイスa,b,c(SAM膜有り)の特性曲線は、グラフェン10がSAM膜上に設けられない電子デバイスd(SAM膜無し)の特性曲線と比べてシフトしている。このことから、グラフェン10は、SAM膜上に設けられることで、その仕事関数が変化すると言うことができる。
【0074】
また、
図8には、グラフェン10がSAM膜上に設けられた電子デバイス1A(a,b,c)と、グラフェン10がSAM膜上には設けられない電子デバイス(d)の、二酸化窒素の検知感度特性を示している。ここでは、各電子デバイスa〜dが配置された検知室内に、大気をキャリアガスとして、7ppbの濃度で二酸化窒素を導入(NO
2導入)した時のドレイン電流I
dの相対値の変化量を求めている。
【0075】
図8より、グラフェン10がSAM膜上に設けられた電子デバイスa,b,c(SAM膜有り)では、グラフェン10がSAM膜上に設けられない電子デバイスd(SAM膜無し)と比べて、二酸化窒素の導入によるドレイン電流I
dの変化がより大きくなる。このことから、グラフェン10がSAM膜上に設けられた電子デバイス1Aによれば、より高感度の二酸化窒素の検知が可能になると言うことができる。
【0076】
続いて、電子デバイス1Aを用いたガスセンサシステム(電子機器)について説明する。
図9は第2の実施の形態に係る電子デバイスを用いたガスセンサシステムの一例を示す図である。
【0077】
図9に示すガスセンサシステム200は、電子デバイス1A、及び電子デバイス1Aが収容される検知室210を備える。検知室210には、外部のガスを検知室210内に導入する導入口220、及び検知室210内のガスを外部に排出する排出口230が設けられる。検知室210の導入口220の前段には、外部のガスを検知室210へと導く図示しないポンプやファンが設けられてもよい。人の呼気の場合は、口から呼吸の力で検知室210へと導かれる。検知室210内には、電子デバイス1Aのほか、電子デバイス1Aの温度を調節する温度調節装置240、並びに検知室210内の温度及び湿度を監視する温湿度モニタ250が設けられる。
【0078】
ここで、温度調節装置240には、例えば、ヒータが用いられる。電子デバイス1Aの動作性能はその温度の影響を受けるため、温度調節装置240により、電子デバイス1Aを一定の温度、例えば、室温よりも高い温度にすることで、周囲の温度変化の影響を小さくし、電子デバイス1Aの安定動作を実現することができる。電子デバイス1Aの温度を高くすることは、湿度がその動作性能に及ぼす影響を小さくすることにも貢献する。
【0079】
また、電子デバイス1Aによる検知対象成分の検知を行った後、或いは検知を行っている途中で、温度調節装置240により、電子デバイス1Aの温度を上げることで、グラフェン10に吸着した成分の除去(脱離)を行うことができる。温度調節装置240によるこのような温度調節は、例えば、予め測定レシピの中に組み込まれる。温度調節範囲は、例えば、室温から数百度程度とされる。尚、グラフェン10の吸着成分の脱離を目的とする温度調節には、ヒータのほか、フラッシュランプ等による光加熱が採用されてもよい。また、グラフェン10の吸着成分の脱離は、グラフェン10に対する紫外線の照射によって行われてもよい。
【0080】
検知室210内の温度及び湿度は、電子デバイス1Aの動作性能及び検知感度に影響を及ぼす。温湿度モニタ250は、検知室210内の温度及び湿度を監視する。例えば、温湿度モニタ250の監視結果に基づき、温度調節装置240の動作が制御される。検知室210の導入口220の前段には、検知室210に導入されるガスの除湿を行う除湿装置や加湿を行う加湿装置が設けられてもよい。例えば、温湿度モニタ250による監視結果に基づき、そのような除湿装置や加湿装置の動作が制御される。
【0081】
ガスセンサシステム200において、検知室210内の電子デバイス1Aのゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60には、所定のバイアスが印加されるようになっている。検知対象成分の検知の際、ソース電極50とドレイン電極60の間には、バイアス電源260により所定のバイアス(ドレインバイアス)が印加され、ソース電極50とゲート電極40との間には、バイアス電源270により所定のバイアス(ゲートバイアス)が印加される。
【0082】
ソース電極50とドレイン電極60の間には、ソース領域22とドレイン領域23との間に流れるドレイン電流の変化(抵抗の変化)を検出する電流モニタリング装置(抵抗モニタリング装置)280が接続される。電流モニタリング装置280には、各種電源、増幅回路、サンプリング回路、アナログ−デジタル(AD)変換器、データ処理用コンピュータ等が含まれてもよい。
【0083】
尚、バイアス電源260及びバイアス電源270、並びに電流モニタリング装置280は、ガスセンサシステム200が備えているものでもよいし、ガスセンサシステム200の外部に設けられ検知時に電子デバイス1Aに接続されるものでもよい。
【0084】
上記のような構成を有するガスセンサシステム200による検知を行う際は、検知室210にその導入口220から、検知対象成分を含み得る外部のガス、例えば、二酸化窒素やアンモニアを含み得る大気や呼気が導入される。検知室210内の電子デバイス1Aには、上記のように所定のドレインバイアス及びゲートバイアスが印加される。電子デバイス1Aのグラフェン10には、大気や呼気に含まれる酸素が吸着するが、その酸素の吸着が検知感度に及ぼす影響は、グラフェン10下に設けられたSAM膜(絶縁膜32)によって抑えられる。このようなグラフェン10に、検知対象成分が吸着すると、その吸着によってグラフェン10にドープされる電荷により、グラフェン10の仕事関数が変化し、グラフェン10をゲートするFETの閾値電圧が変化する。所定のドレインバイアス及びゲートバイアス下でのドレイン電流の変化を電流モニタリング装置280によって検出することで、検知室210に導入されたガス中の検知対象成分(その有無や量)の検知が行われる。
【0085】
尚、ガスセンサシステム200による検知は、例えば、検知室210の導入口220から排出口230に向かって流通するガスについて行われる。また、ガスセンサシステム200による検知は、導入口220から検知室210にガスを取り込んだ後、導入口220及び排出口230を塞いで検知室210を密閉した状態で行われてもよい。
【0086】
次に、第3の実施の形態について説明する。
図10は第3の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図10(A)には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
図10(B)及び
図10(C)にはそれぞれ、電子デバイスにおけるゲート絶縁膜及びグラフェンの要部断面を模式的に図示している。
【0087】
図10(A)に示す電子デバイス1Bは、ゲート絶縁膜30の、グラフェン10と接する上層側の絶縁膜32として、強誘電体膜が設けられている点で、上記第2の実施の形態で述べた電子デバイス1Aと相違する。尚、
図10(A)では、便宜上、ゲート電極40を点線で図示している。
【0088】
電子デバイス1Bの絶縁膜32として設けられる強誘電体膜には、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO
3,BTO)が用いられる。このほか、強誘電体膜には、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O
3,PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛((Pb,La)(Zr,Ti)O
3,PLZT)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O
3,PZTN)、ニオブ酸ニッケル酸鉛−チタン酸鉛(Pb(Ni,Nb)O
3−PbTiO
3,PNN−PT)、ニオブ酸ニッケル酸鉛−ジルコン酸鉛(Pb(Ni,Nb)O
3−PbZrO
3,PNN−PZ)、ニオブ酸マグネシウム酸鉛−チタン酸鉛(Pb(Mg,Nb)O
3−PbTiO
3,PNN−PT)、タンタル酸ビスマス酸ストロンチウム(SrBi
2Ta
2O
9,SBT)、タンタル酸ナトリウムカリウム((K,Na)TaO
3)、ニオブ酸ナトリウムカリウム((K,Na)NbO
3)、ビスマスフェライト(BiFeO
3)、チタン酸ランタンネオジムビスマス(Bi(Nd,La)TiO
x)等の強誘電体材料が用いられてもよい。強誘電体膜は、単層構造のほか、積層構造とされてもよい。
【0089】
例えば、
図10(B)に示すように、グラフェン10下の絶縁膜32として上記のような材料を用いた強誘電体膜を、グラフェン10側が正(+)となるように分極させると、グラフェン10には電子が誘起される。これにより、グラフェン10に電子がドープされる。また、
図10(C)に示すように、グラフェン10下の絶縁膜32として上記のような材料を用いた強誘電体膜を、グラフェン10側が負(−)となるように分極させると、グラフェン10には正孔が誘起される。これにより、グラフェン10に正孔がドープされる。
【0090】
電子デバイス1Bは、例えば、雰囲気中の特定の成分を検知するガスセンサとして用いられる。例えば、上記
図9の例に従い、電子デバイス1Bを用いたガスセンサシステムが実現される。電子デバイス1Bがガスセンサとして用いられる場合には、検知時にそれが配置される雰囲気に応じて、絶縁膜32として設けられる強誘電体膜の極性(分極の方向及び量)が調整されることで、グラフェン10の電荷(電子又は正孔)のドーピングが調整される。
【0091】
次に、第4の実施の形態について説明する。
図11は第4の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図11には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
【0092】
図11に示す電子デバイス1Cは、ゲート絶縁膜30の、グラフェン10と接する上層側の絶縁膜32として、フェロセン、コバルトセン及びポリエーテルイミド(PEI)のうちの少なくとも1種を用いた膜が設けられている点で、上記第2の実施の形態で述べた電子デバイス1Aと相違する。尚、
図11では、便宜上、ゲート電極40を点線で図示している。
【0093】
電子デバイス1Cの絶縁膜32に用いられるフェロセン、コバルトセン及びPEIはいずれも、グラフェン10に電子がドープされるように働く。例えば、フェロセン、コバルトセン及びPEIは、グラフェン10との相互作用により、グラフェン10に電子を供与し、それによってグラフェン10に電子をドープする。フェロセン、コバルトセン及びPEIは、例えば、ゲート絶縁膜30の下層側の絶縁膜31上に、真空蒸着法によって堆積される。フェロセン、コバルトセン及びPEIは、周囲の雰囲気によっては不安定となり得るが、電子デバイス1Cにおいては、それらを用いた絶縁膜32の表面がグラフェン10で覆われるため、その劣化が抑えられる。
【0094】
電子デバイス1Cは、例えば、雰囲気中の特定の成分を検知するガスセンサとして用いられる。例えば、上記
図9の例に従い、電子デバイス1Cを用いたガスセンサシステムが実現される。電子デバイス1Cがガスセンサとして用いられ、検知時にそれが配置される雰囲気中に、検知対象外成分として、グラフェン10に吸着し正孔をドープする成分が含まれる場合にも、上記材料の絶縁膜32により、検知対象成分の検知感度の低下が抑えられる。
【0095】
次に、第5の実施の形態について説明する。
図12は第5の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図12には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
【0096】
図12に示す電子デバイス1Dは、ゲート絶縁膜30の、グラフェン10と接する上層側の絶縁膜32として、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)及びその水素原子をフッ素に置換したもの(F4−TCNQ等)のうちの少なくとも1種を用いた膜が設けられている点で、上記第2の実施の形態で述べた電子デバイス1Aと相違する。尚、
図12では、便宜上、ゲート電極40を点線で図示している。
【0097】
電子デバイス1Dの絶縁膜32に用いられるTCNQ及びF4−TCNQ等はいずれも、グラフェン10に正孔がドープされるように働く。例えば、TCNQ及びF4−TCNQ等は、グラフェン10との相互作用により、グラフェン10の電子を吸引し、それによってグラフェン10に正孔をドープする。TCNQ及びF4−TCNQは、例えば、ゲート絶縁膜30の下層側の絶縁膜31上に、真空蒸着法やスピンコート法等によって堆積される。
【0098】
電子デバイス1Dは、例えば、雰囲気中の特定の成分を検知するガスセンサとして用いられる。例えば、上記
図9の例に従い、電子デバイス1Dを用いたガスセンサシステムが実現される。電子デバイス1Dがガスセンサとして用いられ、検知時にそれが配置される雰囲気中に、検知対象外成分として、グラフェン10に吸着し電子をドープする成分が含まれる場合にも、上記材料の絶縁膜32により、検知対象成分の検知感度の低下が抑えられる。
【0099】
次に、第6の実施の形態について説明する。
図13は第6の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図13には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
【0100】
図13に示す電子デバイス1Eは、グラフェン10を覆う保護膜70が設けられている点で、構造上、上記第2の実施の形態で述べた電子デバイス1Aと相違する。尚、
図13では、便宜上、ゲート電極40を点線で図示している。電子デバイス1Eは、例えば、電子回路においてオン/オフを制御するスイッチング素子として用いられる。
【0101】
電子デバイス1Eのグラフェン10下に設けられる絶縁膜32(ゲート絶縁膜30の上層側)には、例えば、上記第2の実施の形態で述べたようなSAM膜が用いられる。このほか、電子デバイス1Eの絶縁膜32には、上記第3の実施の形態で述べたような強誘電体膜や、上記第4及び第5の実施の形態で述べたようなフェロセン、コバルトセン、PEI、TCNQ、F4−TCNQ等の膜が用いられてもよい。
【0102】
電子デバイス1Eでは、絶縁膜32の材料の種類が選択されることで、その上に設けられるグラフェン10の電荷(電子又は正孔)のドーピングが調整され、グラフェン10の仕事関数が調整される。このように絶縁膜32によってグラフェン10の仕事関数が調整されることで、ゲート(グラフェン10)の閾値電圧が調整され、スイッチング特性が調整される。
【0103】
電子デバイス1Eでは、それが配置される雰囲気中の成分のグラフェン10への吸着が保護膜70によって抑えられ、雰囲気中の成分の吸着によるグラフェン10の仕事関数の変化、それによる閾値電圧の変化、スイッチング特性の変化が抑えられる。保護膜70には、各種絶縁材料が用いられ、例えば、SOG(Spin On Glass)や六方晶窒化ホウ素(BN)等が用いられる。
【0104】
尚、上記第3〜第5の実施の形態で述べた電子デバイス1B(
図10)、電子デバイス1C(
図11)及び電子デバイス1D(
図12)も、グラフェン10を覆う、上記のような保護膜70が設けられて、スイッチング素子として用いられてもよい。
【0105】
次に、第7の実施の形態について説明する。
図14は第7の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図14には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
【0106】
図14に示す電子デバイス1Fは、グラフェン10を覆う保護膜70が設けられ、その保護膜70に、グラフェン10に達する開口71が設けられている点で、構造上、上記第6の実施の形態で述べた電子デバイス1Eと相違する。尚、
図14では、便宜上、ゲート電極40を点線で図示している。
【0107】
電子デバイス1Fは、例えば、ガスセンサとして用いられる。この場合、検知時に電子デバイス1Fが配置される雰囲気中に含まれる検知対象成分のグラフェン10への吸着は、保護膜70に設けられた開口71を通じて行われる。電子デバイス1Fにおいて、それが配置される雰囲気中の検知対象外成分がグラフェン10に吸着することによる影響は、グラフェン10下の絶縁膜32によって抑えられ、これにより、検知対象成分の検知感度の低下が抑えられる。
【0108】
尚、上記第3〜第5の実施の形態で述べた電子デバイス1B(
図10)、電子デバイス1C(
図11)及び電子デバイス1D(
図12)についても、グラフェン10を覆う上記のような開口71を有する保護膜70が設けられてもよい。
【0109】
次に、第8の実施の形態について説明する。
上記第1〜第7の実施の形態では、FETのチャネル領域を半導体基板20によって実現する例を示したが、これに限らず、各種の膜をFETのチャネル領域の材料として用いることができる。そのような膜としては、アモルファスシリコン膜、ポリシリコン膜、インジウム(In)−ガリウム(Ga)−亜鉛(Zn)−酸素(O)を含む膜(IGZO膜)、酸化亜鉛(ZnO)膜、遷移金属ダイカルコゲナイド膜等が挙げられる。ここでは一例として、遷移金属ダイカルコゲナイドをFETチャネル領域の材料に用いた電子デバイスを、第8の実施の形態として説明する。
【0110】
図15は第8の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図15には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
図15に示す電子デバイス1Gは、グラフェン10をゲートとするFETのチャネル領域の材料として、遷移金属ダイカルコゲナイド(MX
2,M:遷移金属,X:カルコゲン原子)が用いられた構成を有する。
【0111】
電子デバイス1Gは、絶縁基板80、半導体層90、ゲート絶縁膜30、グラフェン10、ゲート電極40、ソース電極50及びドレイン電極60を有する。
半導体層90に、二硫化モリブデン(MoS
2)等の遷移金属ダイカルコゲナイドが用いられる。半導体層90の、対向する両端部に、ソース電極50及びドレイン電極60がそれぞれ接続される。ソース電極50とドレイン電極60との間の半導体層90が、FETのチャネル領域として機能する。
【0112】
ゲート絶縁膜30は、下層側(半導体層90側)に設けられる絶縁膜31と、上層側(グラフェン10側)にグラフェン10と接するように設けられる絶縁膜32とを含む。下層側の絶縁膜31には、酸化アルミニウムのほか、酸化ハフニウム、酸化シリコン等が用いられる。絶縁膜31は、同種又は異種の絶縁材料が用いられた2層以上の絶縁膜の積層構造とされてもよい。また、上層側の絶縁膜32には、例えば、上記第2の実施の形態で述べたようなSAM膜が用いられる。このほか、絶縁膜32には、上記第3の実施の形態で述べたような強誘電体膜や、上記第4及び第5の実施の形態で述べたようなフェロセン、コバルトセン、PEI、TCNQ、F4−TCNQ等の膜が用いられてもよい。
【0113】
絶縁膜32上のグラフェン10には、半導体層90のチャネル領域と重複しない位置に設けられたゲート電極40が接続される。尚、
図15では、便宜上、ゲート電極40を点線で図示している。
【0114】
上記のような構成を有する電子デバイス1Gは、例えば、雰囲気中の特定の成分を検知するガスセンサとして用いられる。例えば、上記
図9の例に従い、電子デバイス1Gを用いたガスセンサシステムが実現される。ガスセンサとして用いられる電子デバイス1Gでは、それが配置される雰囲気中の検知対象成分がグラフェン10に吸着することで、グラフェン10の仕事関数が変化し、これをゲートとするFETの閾値電圧が変化する。所定のドレインバイアス及びゲートバイアスの下、半導体層90(チャネル領域)に流れるドレイン電流の変化を検出することで、雰囲気中の検知対象成分の検知が行われる。雰囲気中の検知対象外成分がグラフェン10に吸着することによる影響は、グラフェン10下の絶縁膜32によって抑えられ、これにより、検知対象成分の検知感度の低下が抑えられる。
【0115】
グラフェン10下にその電荷のドーピングを誘起する絶縁膜32を設ける手法は、電子デバイス1Gのような、チャネル領域の材料に遷移金属ダイカルコゲナイドを用いるFETに対しても、同様に採用することができる。
【0116】
上記のような構成を有する電子デバイス1Gは、例えば、次のようにして形成される。
図16及び
図17は第8の実施の形態に係る電子デバイスの形成方法の一例を示す図である。
図16(A)〜
図16(C)及び
図17(A)〜
図17(B)にはそれぞれ、電子デバイス形成の各工程の要部断面を模式的に図示している。
【0117】
まず、
図16(A)に示すように、絶縁基板80上に、二硫化モリブデン等の遷移金属ダイカルコゲナイドを用いた半導体層90が形成される。半導体層90は、例えば、転写法により、絶縁基板80上に形成される。
【0118】
例えば、半導体層90として二硫化モリブデンが用いられる場合、CVD法を用いて形成された二硫化モリブデンが、絶縁基板80上に転写される。CVD法を用いた二硫化モリブデンの形成では、基板にc面サファイア(アルミナ)が用いられ、この基板がアルゴン雰囲気の管状炉内に配置される。管状炉内に、キャリアガスとしてアルゴンガスが500sccm程度導入され続けた状態で、基板温度が800℃に、基板の上流に配置された三酸化モリブデン(MoO3)(10mg)の温度が600℃に、基板の上流に配置された硫黄(S)(500mg)の温度が160℃に、それぞれ設定され、その状態で20分間保持される。これにより、基板上に二硫化モリブデンが合成される。続いて、基板上に形成された二硫化モリブデンが、ポリマー膜等を支持膜として絶縁基板80上に転写される。転写された二硫化モリブデンは、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術が用いられてパターニングされる。例えば、四フッ化炭素(CF
4)、六フッ化硫黄(SF
6)、O
2、フッ化キセノン(XeF
2)等を用いたRIEによって二硫化モリブデンがエッチングされる。例えば、このような方法により、絶縁基板80上に、半導体層90の一例として、所定のパターン形状を有する二硫化モリブデンが形成される。
【0119】
次いで、
図16(B)に示すように、絶縁基板80上の半導体層90の、対向する両端部に接続されるように、ソース電極50及びドレイン電極60が形成される。ソース電極50及びドレイン電極60の形成には、例えば、リフトオフ法が用いられる。
【0120】
半導体層90として二硫化モリブデンが形成される場合を例にすると、まず、二硫化モリブデンが形成された絶縁基板80上にレジストが塗布され、フォトリソグラフィ技術により、ソース電極50及びドレイン電極60を形成する領域に開口が形成される。続いて、開口内を含むレジスト上に、密着材料及び電極材料が連続的に堆積される。密着材料としては、例えば、チタン、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)のいずれか1種、一例としてチタンが、1nm程度の厚さで堆積される。電極材料としては、金、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、銅、イリジウム(Ir)及びパラジウム(Pd)のいずれか1種、一例として金が、5nm程度の厚さで堆積される。その後、リフトオフ法により、レジストがその上に形成された密着材料及び電極材料と共に除去される。例えば、このような方法により、絶縁基板80上に、半導体層90の一例である二硫化モリブデンの両端部に接続されるソース電極50及びドレイン電極60が形成される。
【0121】
次いで、
図16(C)に示すように、ソース電極50とドレイン電極60との間に露出する半導体層90上に、ゲート絶縁膜30として、下層側の絶縁膜31、及び上層側の絶縁膜32が形成される。絶縁膜31は、例えば、ALD法やCVD法を用いて形成される。例えば、絶縁膜31として、厚さが5nm程度の酸化アルミニウムが形成される。絶縁膜32は、SAM膜等、それに用いる材料に応じ、上記第2〜第5の実施の形態で述べたような手法を用いて形成される。形成された絶縁膜31及び絶縁膜32の積層構造は、不要部分が、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて除去される。
【0122】
次いで、
図17(A)に示すように、ゲート絶縁膜30(その絶縁膜32)上にグラフェン10が形成される。グラフェン10は、例えば、上記第2の実施の形態で述べたような転写法、即ち、別途形成したグラフェン10を絶縁膜32上に転写する手法を用いて形成される。
【0123】
その後、
図17(B)に示すように、ソース電極50とドレイン電極60との間の、半導体層90のチャネル領域と重複しない位置に、グラフェン10と接続されるように、ゲート電極40が形成される。ゲート電極40は、例えば、ソース電極50及びドレイン電極60と同様に、開口を有するレジストの形成後、密着材料のチタン及び電極材料の金を堆積し、レジストをその上に形成された密着材料及び電極材料と共に除去する、リフトオフ法により形成される。
【0124】
以上、
図16(A)〜
図16(C)及び
図17(A)〜
図17(B)に示すような方法により、電子デバイス1Gが形成される。
次に、第9の実施の形態について説明する。
【0125】
図18は第9の実施の形態に係る電子デバイスの一例を示す図である。
図18には、電子デバイスの要部断面を模式的に図示している。
図18に示す電子デバイス1Hは、ゲート絶縁膜30として強誘電体膜が設けられている点で、上記第8の実施の形態で述べた電子デバイス1Gと相違する。
【0126】
電子デバイス1Hのゲート絶縁膜30として設けられる強誘電体膜には、上記第3の実施の形態で述べたような、BTOをはじめとする各種強誘電体材料が、1種又は2種以上、用いられる。ゲート絶縁膜30として設けられる強誘電体膜は、単層構造のほか、積層構造とされてもよい。強誘電体膜は、二硫化モリブデン等の遷移金属ダイカルコゲナイドを用いた半導体層90上に直接形成される。電子デバイス1Hは、ゲート絶縁膜30として強誘電体膜を半導体層90上に直接設けることを除き、上記第8の実施の形態で述べた電子デバイス1Gと同様の方法を用いて形成される。
【0127】
電子デバイス1Hでは、グラフェン10下の絶縁膜32として設けられる強誘電体膜を、グラフェン10側が正となるように分極させると、グラフェン10に電子が誘起され、グラフェン10に電子がドープされる。また、電子デバイス1Hでは、グラフェン10下の絶縁膜32として設けられる強誘電体膜を、グラフェン10側が負となるように分極させると、グラフェン10に正孔が誘起され、グラフェン10に正孔がドープされる。
【0128】
電子デバイス1Hは、例えば、雰囲気中の特定の成分を検知するガスセンサとして用いられる。例えば、上記
図9の例に従い、電子デバイス1Hを用いたガスセンサシステムが実現される。電子デバイス1Hがガスセンサとして用いられる場合には、検知時にそれが配置される雰囲気に応じて、絶縁膜32として設けられる強誘電体膜の極性(分極の方向及び量)が調整されることで、グラフェン10の電荷(電子又は正孔)のドーピングが調整される。
【0129】
尚、上記第8及び第9の実施の形態で述べた電子デバイス1G(
図15)及び電子デバイス1H(
図18)は、グラフェン10を覆う保護膜が設けられて、スイッチング素子として用いられてもよい。スイッチング素子として用いられる電子デバイス1G及び電子デバイス1Hでは、絶縁膜32によってグラフェン10の仕事関数が調整されることで、ゲートの閾値電圧が調整され、スイッチング特性が調整される。
【0130】
次に、第10の実施の形態について説明する。
上記第1〜第9の実施の形態で述べた電子デバイス1,1A〜1Gをスイッチング素子として用いる場合、それらは各種電子機器に搭載することができる。例えば、コンピュータ(パーソナルコンピュータ、スーパーコンピュータ、サーバ等)、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、センサ、カメラ、オーディオ機器、測定装置、検査装置、製造装置といった、各種電子機器に搭載することができる。
【0131】
図19は第10の実施の形態に係る電子機器の説明図である。
図19には、電子機器を模式的に示している。
図19に示すように、例えば上記第6の実施の形態で述べたような電子デバイス1E(
図13)が各種電子機器300に搭載(内蔵)される。電子デバイス1Eでは、そのゲート絶縁膜30の上層側の絶縁膜32により、それに接して設けられるグラフェン10の電荷のドーピングが誘起される。所定の材料が用いられた絶縁膜32によってグラフェン10の仕事関数が調整されることで、ゲートの閾値電圧が調整され、スイッチング特性が調整される。これにより、用途に適した高いデバイス性能を有する電子デバイス1Eが実現され、このような電子デバイス1Eを搭載した、高性能の各種電子機器300が実現される。
【0132】
ここでは、上記第6の実施の形態で述べた電子デバイス1Eを搭載した電子機器300を一例として示した。このほか、上記第1〜第5,第7〜第9の実施の形態で述べた電子デバイス1,1A〜1D,1F〜1Gについても同様に、各種電子機器に搭載することができる。
【0133】
また、上記第1〜第9の実施の形態で述べた電子デバイス1,1A〜1Gをガスセンサとして用いる場合には、それらを用いて実現されるガスセンサシステムを、上記のような各種電子機器に搭載することもできる。