特許第6985626号(P6985626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特許69856261,1,2−トリフルオロエタン、1−クロロ−2,2−ジフルオロエタン又は1,2−ジクロロ−1−フルオロエタンと、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物
<>
  • 特許6985626-1,1,2−トリフルオロエタン、1−クロロ−2,2−ジフルオロエタン又は1,2−ジクロロ−1−フルオロエタンと、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物 図000006
  • 特許6985626-1,1,2−トリフルオロエタン、1−クロロ−2,2−ジフルオロエタン又は1,2−ジクロロ−1−フルオロエタンと、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985626
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】1,1,2−トリフルオロエタン、1−クロロ−2,2−ジフルオロエタン又は1,2−ジクロロ−1−フルオロエタンと、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 19/08 20060101AFI20211213BHJP
   C07C 19/12 20060101ALI20211213BHJP
   C07C 17/383 20060101ALI20211213BHJP
   C01B 9/08 20060101ALI20211213BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20211213BHJP
   C08J 9/14 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   C07C19/08
   C07C19/12
   C07C17/383
   C01B9/08
   C09K3/30 N
   C09K3/30 Q
   C08J9/14CES
   C08J9/14CFF
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-70250(P2020-70250)
(22)【出願日】2020年4月9日
(65)【公開番号】特開2020-172485(P2020-172485A)
(43)【公開日】2020年10月22日
【審査請求日】2020年4月9日
(31)【優先権主張番号】特願2019-75126(P2019-75126)
(32)【優先日】2019年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−501992(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/060576(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/069609(WO,A1)
【文献】 Industrial and Engineering Chemistry,1947年,Vol.39, No.3,p.409-412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C01B
C09K
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)とフッ化水素とを含む、共沸又は共沸様組成物であって、前記共沸様組成物とは、バブルポイント蒸気圧と露点蒸気圧との差が3%以下(バブルポイント圧力を基準として)である組成物を指す、共沸又は共沸様組成物
【請求項2】
前記HFC-143を、前記HFC-143と前記フッ化水素との合計100質量%に対して、40質量%以上100質量%未満含む、請求項1に記載の共沸又は共沸様組成物。
【請求項3】
さらに追加的化合物を、前記共沸又は共沸様組成物全体100質量%に対して、合計で0質量%より多く1質量%以下含む、請求項1又は2に記載の共沸又は共沸様組成物。
【請求項4】
1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン(HCFC-142)とフッ化水素とを含む、共沸又は共沸様組成物であって、前記共沸様組成物とは、バブルポイント蒸気圧と露点蒸気圧との差が3%以下(バブルポイント圧力を基準として)である組成物を指す、共沸又は共沸様組成物
【請求項5】
前記HCFC-142を、前記HCFC-142と前記フッ化水素との合計100質量%に対して、10質量%以上99質量%以下含む、請求項4に記載の共沸又は共沸様組成物。
【請求項6】
さらに追加的化合物を、前記共沸又は共沸様組成物全体100質量%に対して、合計で0質量%より多く1質量%以下含む、請求項4又は5に記載の共沸又は共沸様組成物。
【請求項7】
1,2-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141)とフッ化水素とを含む、共沸又は共沸様組成物であって、前記共沸様組成物とは、バブルポイント蒸気圧と露点蒸気圧との差が3%以下(バブルポイント圧力を基準として)である組成物を指す、共沸又は共沸様組成物
【請求項8】
前記HCFC-141を、前記HCFC-141と前記フッ化水素との合計100質量%に対して、20質量%以上99質量%以下含む、請求項7に記載の共沸又は共沸様組成物。
【請求項9】
さらに追加的化合物を、前記共沸又は共沸様組成物全体100質量%に対して、合計で0質量%より多く1質量%以下含む、請求項7又は8に記載の共沸又は共沸様組成物。
【請求項10】
工程(a)及び(b)を含み、必要に応じてさらに工程(c)及び(d)を含む、
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン(HCFC-142)及び1,2-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物の分離方法であって、下記において共沸様組成物とは、バブルポイント蒸気圧と露点蒸気圧との差が3%以下(バブルポイント圧力を基準として)である組成物を指す、分離方法
(a)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物を第1蒸留塔に供給する工程;
(b)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物を第1留出物とし、i)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、ii)フッ化水素のいずれかが、供給した組成物よりも濃度的に富む組成物を、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程;
(c)第1蒸留塔のボトム組成物を、運転温度及び/又は運転圧力の異なる第2蒸留塔に供給して蒸留する工程;(d)第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出した組成物において、フッ化水素の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、フッ化水素濃度がさらに富むストリームを第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出し、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度がさらに富むストリームを、第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1,1,2-トリフルオロエタン、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン又は1,2-ジクロロ-1-フルオロエタンと、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物、及び該組成物の性質を利用したフッ化水素との分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)は、ポリオレフィン及びポリウレタン用の発泡剤、エアロゾル噴射剤、冷媒、伝熱媒体、気体誘電体、消火剤、動力サイクル作動流体、重合媒体、粒子除去流体、搬送流体、バフみがき研摩剤及び置換乾燥剤として有用とされる(特許文献1)。HFC-143の沸点は約4℃である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第94/011460号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、1,1,2-トリフルオロエタン、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン又は1,2-ジクロロ-1-フルオロエタンと、フッ化水素とを含む新たな共沸又は共沸様組成物、及び、それを用いた分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)とフッ化水素とを含む、共沸又は共沸様組成物。
項2.前記HFC-143を、前記HFC-143と前記フッ化水素との合計100質量%に対して、40質量%以上100質量%未満含む、項1に記載の共沸又は共沸様組成物。
項3.1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン(HCFC-142)とフッ化水素とを含む、共沸又は共沸様組成物。
項4.前記HCFC-142を、前記HCFC-142と前記フッ化水素との合計100質量%に対して、10質量%以上99質量%以下含む、項3に記載の共沸又は共沸様組成物。
項5.1,2-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141)とフッ化水素とを含む、共沸又は共沸様組成物。
項6.前記HCFC-141を、前記HCFC-141と前記フッ化水素との合計100質量%に対して、20質量%以上99質量%以下含む、項5に記載の共沸又は共沸様組成物。
項7.工程(a)及び(b)を含み、必要に応じてさらに工程(c)及び(d)を含む、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン(HCFC-142)及び1,2-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物の分離方法:
(a)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物を第1蒸留塔に供給する工程;
(b)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物を第1留出物とし、i)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、ii)フッ化水素のいずれかが、供給した組成物よりも濃度的に富む組成物を、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程;
(c)第1蒸留塔のボトム組成物を、運転温度及び/又は運転圧力の異なる第2蒸留塔に供給して蒸留する工程;
(d)第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出した組成物において、フッ化水素の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、フッ化水素濃度がさらに富むストリームを第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出し、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度がさらに富むストリームを、第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程。
【発明の効果】
【0006】
本開示により、1,1,2-トリフルオロエタン、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン又は1,2-ジクロロ-1-フルオロエタンと、フッ化水素とを含む新たな共沸又は共沸様組成物、及び、それを用いた分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】共沸又は共沸様組成物を用いた分離方法の一例を示す図である。
図2】共沸又は共沸様組成物を用いた分離方法の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、用語「共沸様組成物」は、共沸組成物と実質的に同様に取り扱うことができる組成物を意味する。具体的には、本明細書において、用語「共沸様組成物」は、実質的に単一物質として振る舞う2つ以上の物質の定沸点の、又は実質的に定沸点の混合物を意味する。共沸様組成物の特徴の一つとして、液体の蒸発又は蒸留によって発生した蒸気の組成が、液体の組成と実質的に変化しないことが挙げられる。すなわち、本明細書においては、ある混合物が、実質的な組成変化なしに沸騰、蒸留又は還流するとき、この混合物のことを、共沸様組成物と呼ぶ。具体的には、ある特定の温度での組成物のバブルポイント蒸気圧と、当該組成物の露点蒸気圧との差が3%以下(バブルポイント圧力を基準として)である場合に、当該組成物は共沸様組成物であると本開示では定義する。
また、本明細書において、共沸組成物及び共沸様組成物のうち、液相が2液相に分離するものをそれぞれ異相共沸組成物及び異相共沸様組成物ともいう。
【0009】
ここで、HFC-143の製造方法としては、例えば、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン(HCFC-142)又は1,2-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141)を原料として、フッ素化反応を行う方法がある。
本発明者は、従来のHFC-143の製造方法において、用いた原料がすべて目的物に転化されるわけではなく、中間体及び未反応原料を何らかの方法で分離、回収してリサイクルする必要があることに着目した。回収しなければこれら原料のロスとなり、コスト増につながるためである。
本発明者は、これらの原料に含まれる特定成分の組合せが共沸又は共沸様組成物を形成すること、さらに蒸留、抽出又は液液分離等の方法によって分離する場合にこれらの組成物が有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
1.組成物1
組成物1は、HFC-143とフッ化水素(HF)とを含む、共沸又は共沸様組成物である。
組成物1においては、未反応のフッ化水素を回収し、収率をアップするという点で、HFC-143とフッ化水素との合計100質量%に対して、HFC-143を、40質量%以上100質量%未満含むことが好ましく、50質量%以上100質量%未満含むことがより好ましく、60質量%以上100質量%未満含むことがさらに好ましい。
また、組成物1において、例えば、40℃、圧力539kPaの場合、HFC-143とフッ化水素との合計100モル%(100質量%)に対して、HFC-143を68モル%(90質量%)含むときに、共沸組成物(異相共沸組成物)となる。組成物1において、例えば、40℃、圧力524〜554kPaの場合、HFC-143とフッ化水素との合計100モル%(100質量%)に対して、HFC-143を20モル%以上95モル%以下(51質量%以上99質量%以下)含むときに、共沸様組成物となる。上記圧力は、共沸及び共沸様組成物を与える圧力の範囲(40℃の場合)である。
上記質量%及びモル%は、液相での値を示す。
なお、本明細書において、特に断らない限り、圧力は絶対圧を示す。
【0011】
組成物1は、HFC-143とフッ化水素以外に、さらに追加的化合物を含んでもよい。
追加的化合物は、特に限定されず、組成物1が共沸又は共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で幅広く選択できる。追加的化合物は、一種であってもよいし、複数種であってもよい。
追加的化合物としては、例えば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFC-1123)、1,1-ジフルオロメタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1-クロロ-1,2,2-トリフルオロメタン(HCFC-133)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-133a)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)及び1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)等が挙げられる。
追加的化合物の合計含有量は、組成物1が共沸又は共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で適宜選択することができる。
追加的化合物を含む場合、その合計含有量は、組成物1全体を100質量%として、0質量%より多く1質量%以下が好ましく、0質量%より多く0.5質量%以下がより好ましく、0質量%より多く0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0012】
組成物1は、HFC-143とフッ化水素との混合物において、フッ化水素をHFC-143から分離する共沸蒸留を行う際に重要な組成物となりうる。
例えば、HFC-143とフッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物を、HFC-143とフッ化水素とを少なくとも含む組成物から共沸蒸留により抜き出すことによって、フッ化水素をHFC-143から分離することができる。また、抜き出した共沸又は共沸様組成物中に残留したHFは、H2SO4による吸収(抽出)や水洗等の方法を用いることにより、分離・回収することができる。
【0013】
共沸蒸留とは、共沸又は共沸様組成物が分離されるような条件下で蒸留塔を運転することにより目的物を濃縮乃至分離する方法である。共沸蒸留によって、分離対象成分のみを蒸留することができる場合もあるが、分離対象成分の1つ以上と共沸混合物を形成する別の成分を外部から添加した場合に初めて共沸蒸留が起こる場合もある。本明細書においては、前者及び後者のいずれも共沸蒸留という。
【0014】
2.組成物2
組成物2は、HCFC-142とフッ化水素(HF)を含む、共沸又は共沸様組成物である。
組成物2においては、未反応のフッ化水素を回収し、収率をアップするという点で、HCFC-142とフッ化水素との合計100質量%に対して、HCFC-142を、10質量%以上99質量%以下含むことが好ましく、20質量%以上99質量%以下含むことがより好ましく、36質量%以上99質量%以下含むことがさらに好ましい。
また、組成物2において、例えば、40℃、圧力281kPaの場合、HCFC-142とフッ化水素との合計100モル%(100質量%)に対して、HCFC-142を36.2モル%(74質量%)含むときに、共沸組成物(異相共沸組成物)となる。組成物2において、例えば、40℃、圧力272〜290kPaの場合、HCFC-142とフッ化水素との合計100モル%(100質量%)に対して、HCFC-142を10モル%以上95モル%以下(36質量%以上99質量%以下)含むときに、共沸様組成物となる。上記圧力は、共沸及び共沸様組成物を与える圧力の範囲(40℃の場合)である。
上記質量%及びモル%は、液相での値を示す。
【0015】
組成物2は、HCFC-142とフッ化水素以外に、さらに追加的化合物を含んでもよい。
追加的化合物は、特に限定されず、組成物2が共沸又は共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で幅広く選択できる。追加的化合物は、一種であってもよいし、複数種であってもよい。
追加的化合物としては、例えば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFC-1123)、1,1-ジフルオロメタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1-クロロ-1,2,2-トリフルオロメタン(HCFC-133)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-133a)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)及び1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)等が挙げられる。
追加的化合物の合計含有量は、組成物2が共沸又は共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で適宜選択することができる。
追加的化合物を含む場合、その合計含有量は、組成物2全体を100質量%として、0質量%より多く1質量%以下が好ましく、0質量%より多く0.5質量%以下がより好ましく、0質量%より多く0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
組成物2は、HCFC-142とフッ化水素との混合物において、フッ化水素をHCFC-142から分離する共沸蒸留を行う際に重要な組成物となりうる。
例えば、HCFC-142とフッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物を、HCFC-142とフッ化水素とを少なくとも含む組成物から共沸蒸留により抜き出すことによって、フッ化水素をHCFC-142から分離することができる。また、抜き出した共沸又は共沸様組成物中に残留したHFは、H2SO4による吸収(抽出)や水洗等の方法を用いることにより、分離・回収することができる。
【0017】
3.組成物3
組成物3は、HCFC-141とフッ化水素(HF)とを含む、共沸又は共沸様組成物である。
組成物3においては、未反応のフッ化水素を回収し、収率をアップするという点で、HCFC-141とフッ化水素との合計100質量%に対して、HCFC-141を、20質量%以上99質量%以下含むことが好ましく、30質量%以上99質量%以下含むことがより好ましく、39質量%以上99質量%以下含むことがさらに好ましい。
また、組成物3において、例えば、40℃、圧力196kPaの場合、HCFC-141とフッ化水素との合計100モル%(100質量%)に対して、HCFC-141を42.9モル%(81質量%)含むときに、共沸組成物(異相共沸組成物)となる。組成物3において、例えば、40℃、圧力190〜202kPaの場合、HCFC-141とフッ化水素との合計100モル%(100質量%)に対して、HCFC-141を10モル%以上95モル%以下(39質量%以上99質量%以下)含むときに、共沸様組成物となる。上記圧力は、共沸及び共沸様組成物を与える圧力の範囲(40℃の場合)である。
上記質量%及びモル%は、液相での値を示す。
【0018】
組成物3は、HCFC-141とフッ化水素以外に、さらに追加的化合物を含んでもよい。
追加的化合物は、特に限定されず、組成物3が共沸又は共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で幅広く選択できる。追加的化合物は、一種であってもよいし、複数種であってもよい。
追加的化合物としては、例えば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFC-1123)、1,1-ジフルオロメタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1-クロロ-1,2,2-トリフルオロメタン(HCFC-133)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-133a)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)、2,2-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-123)及び1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)等が挙げられる。
追加的化合物の合計含有量は、組成物3が共沸又は共沸様組成物となることを阻害しない範囲内で適宜選択することができる。
追加的化合物を含む場合、その合計含有量は、組成物3全体を100質量%として、0質量%より多く1質量%以下が好ましく、0質量%より多く0.5質量%以下がより好ましく、0質量%より多く0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
組成物3は、HCFC-141とフッ化水素との混合物において、フッ化水素をHCFC-141から分離する共沸蒸留を行う際に重要な組成物となりうる。
例えば、HCFC-141とフッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物を、HCFC-141とHFとを少なくとも含む組成物から共沸蒸留により抜き出すことによって、フッ化水素をHCFC-141から分離することができる。また、抜き出した共沸又は共沸様組成物中に残留したHFは、H2SO4による吸収(抽出)や水洗等の方法を用いることにより、分離・回収することができる。
【0020】
4.分離方法
本開示では、上記の組成物を利用した各成分の分離方法も開示される。
本開示の分離方法は、工程(a)及び(b)を含み、必要に応じてさらに工程(c)及び(d)を含む、
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、1-クロロ-2,2-ジフルオロエタン(HCFC-142)及び1,2-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141)からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物の分離方法である:
(a)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物を第1蒸留塔に供給する工程;
(b)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物を第1留出物とし、i)HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種、又は、ii)フッ化水素のいずれかが、供給した組成物よりも濃度的に富む組成物を、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程;
(c)第1蒸留塔のボトム組成物を、運転温度及び/又は運転圧力の異なる第2蒸留塔に供給して蒸留する工程;
(d)第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出した組成物において、フッ化水素の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、フッ化水素濃度がさらに富むストリームを第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出し、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度がさらに富むストリームを、第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出す工程。
【0021】
上記分離方法は、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とを含む組成物を、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素とに分離する工程を含む、分離方法である。これは、HFC-143、HCFC-142又はHCFC-141と、フッ化水素との共沸又は共沸様組成物となる性質を利用して、蒸留分離するものである。
例えば、HFC-143、HCFC-142又はHCFC-141とフッ化水素とを少なくとも含む組成物から、HFC-143、HCFC-142又はHCFC-141とフッ化水素とを含む共沸又は共沸様組成物を共沸蒸留によって抜き出すことによって、フッ化水素をHFC-143、HCFC-142又はHCFC-141から分離することができる。
また、後述の実施例のように、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141とフッ化水素とを含む組成物についても、上記それぞれの共沸又は共沸様組成物となる性質を利用して、蒸留分離することができる。
【0022】
上記分離方法において、工程(a)において用いる出発組成物である、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ化水素とを含む組成物は、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ化水素のみからなる組成物であってもよいし、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種とフッ化水素以外に他の成分をさらに含む組成物であってもよい。
【0023】
上記工程(b)において、供給した組成物から第1留出物が留出した後の組成物では、i)又はii)のいずれかの濃度が、供給した組成物における濃度よりも高くなる(組成物の全量とその組成が変化するため)。そして、このi)又はii)のいずれかが供給した組成物よりも濃度的に富む組成物を、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出す。
【0024】
上記工程(c)において、第1蒸留塔のボトム組成物を、運転温度及び/又は運転圧力の異なる第2蒸留塔に供給して蒸留する。上記第1及び第2蒸留塔のそれぞれの運転条件(運転温度及び/又は運転圧力)は、適宜設定できる。なお、第2蒸留塔の運転条件を、第1蒸留塔の運転条件とは異なるものにすると、蒸留の効率等の点から好ましい。
【0025】
上記工程(d)において、第1蒸留塔のボトム組成物として抜き出した組成物において、フッ化水素の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、フッ化水素濃度がさらに富むストリームを第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出し、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度が、供給したストリームより濃度的に富む場合は、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141からなる群より選ばれる少なくとも1種の濃度がさらに富むストリームを、第2蒸留塔のボトム組成物として抜き出す。
上記工程(d)における「供給したストリーム」とは、工程(a)での第1蒸留塔に供給したストリームを意味する。
【0026】
上記分離方法において、上記工程(c)〜(d)は必須の工程ではなく、任意に行ってもよい工程である。上記分離方法は、上記工程(a)〜(b)のみからなる方法でも、上記工程(a)〜(d)のみからなる方法でも、上記工程(a)〜(d)以外に他の工程をさらに含む方法でもよい。
【0027】
上記分離方法の一例を図1に示し、他の一例を図2に示す。
図1において、C1は第1蒸留塔、C2は第2蒸留塔を示し;S11からC1に組成物を供給し、S13から第1留出物を得、S12から第1蒸留塔のボトム組成物を抜き出してC2に供給し、S15から第2留出物を得、S14から第2蒸留塔のボトム組成物を抜き出すことを示す。
図2において、C1は第1蒸留塔を示し;S11からC1に組成物を供給し、S13から第1留出物を得、S12から第1蒸留塔のボトム組成物を抜き出すことを示す。
【0028】
具体的には、例えば下記例等が挙げられる。
S11より、HFC-143、HCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素からなる組成物を、蒸留塔C1に供給する。S13より、HFC-143とフッ化水素の共沸組成物が留出し、S12から、HCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素が得られる。
S13は次工程に送られ、液液分離を行ってHFに富む相とHFC-143に富む相に分離する。HFに富む相は、反応工程(HFC-143の製造工程)にリサイクルする。HFC-143に富む相は、水洗及びアルカリ水溶液による水を利用した洗浄や、H2SO4による吸収等の水を使わない手段を用いて、微量に残るHFを完全に取り除き、製品とすることができる。
S12から、得られたHCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素をC2に供給する。C2では、C1と同様に共沸又は共沸様組成物を利用した蒸留を行い、主としてHCFC-142とフッ化水素の共沸又は共沸様組成物からなるストリームS15と、主としてHCFC-141及びフッ化水素からなるストリームS14に分離する。それぞれを反応工程(HFC-143の製造工程)にリサイクルすることもできる。
【0029】
共沸又は共沸様組成物として共に抜き出された少量のHFは、一般的な他の方法(水による吸収)を併用して回収することで、ロスを最小限にし、設備の負担を小さくすることもできる。また、H2SO4による吸収等の、水を使わないHFの回収方法を用いれば、各化合物、HFともに反応の原料として再利用することができる。その場合、腐食性のH2SO4を用いた回収設備を極小化することができ、設備コストを抑えることができる。
このように、本開示の分離方法によれば、効率的にフッ化水素を分離することができる。
【0030】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、本開示は、これら実施例の態様に限定されるものではない。
【0032】
実施例1
HFC-143、HCFC-142又はHCFC-141と、フッ化水素(HF)との混合物の、40℃での気液平衡データを表1〜3に示す。なお、液相及び気相における各化合物の表中の数値単位はモル比率(液相及び気相それぞれにおいて、各化合物とHFの合計モル数を1とする)である。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
表1から、HFC-143とHFの組成物において、液相でHFC-143を68モル%(90質量%)含むときに液相と気相の組成が同じで共沸組成物(異相共沸組成物)となり、HFC-143を20〜95モル%(51〜99質量%)含むときに共沸様組成物となることが示される。
表2から、HCFC-142とHFの組成物において、液相でHCFC-142を36.2モル%(74質量%)含むときに液相と気相の組成が同じで共沸組成物(異相共沸組成物)となり、HCFC-142を10〜95モル%(36〜99質量%)含むときに共沸様組成物となることが示される。
表3から、HCFC-141とHFの組成物において、液相でHCFC-141を42.9モル%(81質量%)含むときに液相と気相の組成が同じで共沸組成物(異相共沸組成物)となり、HCFC-141を10〜95モル%(39〜99質量%)含むときに共沸様組成物となることが示される。
このように、上記40℃での気液平衡データで、HFC-143とHFの組成物においてHFC-143を20〜95モル%含む場合、HCFC-142とHFの組成物においてHCFC-142を10〜95モル%含む場合、及び、HCFC-141とHFの組成物においてHCFC-141を10〜95モル%含む場合は、40℃での上記各々の組成物のバブルポイント蒸気圧と露点蒸気圧との差が3%以下である場合に対応し、共沸様組成物であることが示される。
以上から、HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141はそれぞれ、HFと共沸又は共沸様組成物を形成することが判明した。これらはHFとの分離を蒸留塔で行うにあたって、重要な組成物となる。
【0037】
実施例2
HFC-143、HCFC-142及びHCFC-141から選ばれる少なくとも1種と、フッ化水素を分離する方法を以下の通り行った。
図1に、共沸又は共沸様組成物を用いた分離方法の一例を示す。また、表4に、図1のS11〜S15におけるHFC-143、HCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素の各流量を示す。
【0038】
【表4】
【0039】
S11より、HFC-143、HCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素からなる組成物を、蒸留塔C1に供給する。S13より、HFC-143とフッ化水素の共沸組成物が留出し、S12から、HCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素が得られる。
S13は次工程に送られ、液液分離を行ってHFに富む相とHFC-143に富む相に分離する。HFに富む相は、反応工程(HFC-143の製造工程)にリサイクルする。HFC-143に富む相は、水洗及びアルカリ水溶液による水を利用した洗浄や、H2SO4による吸収等の水を使わない手段を用いて、微量に残るHFを完全に取り除き、製品とすることができる。
S12から、得られたHCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素をC2に供給する。C2では、C1と同様に共沸又は共沸様組成物を利用した蒸留を行い、主としてHCFC-142とフッ化水素の共沸又は共沸様組成物からなるストリームS15と、主としてフッ化水素からなるストリームS14に分離する。それぞれを反応工程(HFC-143の製造工程)にリサイクルすることもできる。
また、蒸留の代わりに液液分離プロセスを用いることもできる。S12から、得られたHCFC-142、HCFC-141及びフッ化水素からなる組成物を、例えば−40℃から40℃の範囲で液液分離させ、主としてHFに富む相と、主として有機物(HCFC-142、HCFC-141)に富む相に分離し、それぞれを反応工程(HFC-143の製造工程)にリサイクルすることができる。
上記の蒸留による分離操作により、反応工程における反応条件(接触時間、フッ化水素/有機物モル比)を制御することができ、反応活性及び触媒活性を良好に維持することもできる。
図1
図2