特許第6985635号(P6985635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985635車載ネットワークケーブル用電線及び車載ネットワークケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985635
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】車載ネットワークケーブル用電線及び車載ネットワークケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20211213BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20211213BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20211213BHJP
   H01B 3/44 20060101ALN20211213BHJP
【FI】
   H01B11/00 Z
   C08L27/18
   H01B7/02 Z
   !H01B3/44 C
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-47294(P2021-47294)
(22)【出願日】2021年3月22日
(65)【公開番号】特開2021-158111(P2021-158111A)
(43)【公開日】2021年10月7日
【審査請求日】2021年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2020-54292(P2020-54292)
(32)【優先日】2020年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井坂 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】山本 有香里
(72)【発明者】
【氏名】善家 佑美
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−514407(JP,A)
【文献】 特開2014−035810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
C08L 27/18
H01B 7/02
H01B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が0.5〜1.5mmである電線であって、導体と、その周囲を被覆する被覆材とを備え、前記被覆材は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体であって、372℃、5kg荷重で測定したメルトフローレートが20〜40g/10分、25℃、6GHzで測定した比誘電率が2.2以下、融点が250℃以上、MIT曲げ寿命が2000回以上、150℃での引張伸びが300%以上であるフッ素樹脂を含むことを特徴とする車載ネットワークケーブル用電線。
【請求項2】
前記フッ素樹脂は、25℃、6GHzで測定した誘電正接が0.0006以下である請求項1記載の車載ネットワークケーブル用電線。
【請求項3】
前記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体である請求項1又は2記載の車載ネットワークケーブル用電線。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の車載ネットワークケーブル用電線を含むことを特徴とする車載ネットワークケーブル。
【請求項5】
相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルを備え、該一対の電線の少なくとも一方が請求項1〜3のいずれかに記載の車載ネットワークケーブル用電線である請求項4記載の車載ネットワークケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載ネットワークケーブル用電線及び車載ネットワークケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス、家庭等で通信ネットワークが普及しているが、近年では、自動運転支援システムの採用等に伴う通信データ量の増大に伴って、車両においても通信速度向上が求められており、イーサネット(登録商標)のような高速通信可能なネットワークケーブルの導入が進められている。
【0003】
特許文献1には、信号導体の周りが絶縁被覆された一対のコア電線とドレイン線とが撚り合わされてなるツイストペア線と、上記ツイストペア線の外周を覆う導体箔と、上記導体箔の外周を覆う外皮絶縁層とを有するシールドツイストペアケーブルであって、上記ツイストペア線は、少なくとも2本以上のドレイン線が撚り合わされてなることを特徴とするシールドツイストペアケーブルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−287948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、径の小さい導体上に静電容量が均質で薄肉の被覆層をもつ軽量で折り曲げ性がよい細線であって、長期間150℃環境にさらされても被覆が形状を保ち欠損ができづらく、かつ電気的特性に優れる車載ネットワークケーブル用電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、直径が0.5〜1.5mmの電線であって、導体と、その周囲を被覆する被覆材とを備え、上記被覆材は、テトラフルオロエチレン[TFE]/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体であって、372℃、5kg荷重で測定したメルトフローレート[MFR]が20〜40g/10分、25℃、6GHzで測定した比誘電率が2.2以下、融点が250℃以上、MIT曲げ寿命が2000回以上、150℃での引張伸びが300%以上であるフッ素樹脂を含むことを特徴とする車載ネットワークケーブル用電線に関する。
【0007】
上記フッ素樹脂は、25℃、6GHzで測定した誘電正接が0.0006以下であることが好ましい。
【0008】
上記フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体であることが好ましい。
【0009】
本開示はまた、本開示の車載ネットワークケーブル用電線を含むことを特徴とする車載ネットワークケーブルを提供する。
【0010】
本開示の車載ネットワークケーブルは、相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルを備え、該一対の電線の少なくとも一方が上記本開示の車載ネットワークケーブル用電線であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の車載ネットワークケーブル用電線は、上記の構成を有することから、径の小さい導体上に静電容量が均質で薄肉の被覆層をもつ軽量で折り曲げ性がよい細線であって、長期間150℃環境にさらされても被覆が形状を保ち欠損ができづらく、かつ電気的特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特許文献1には電線の被覆層の材料として、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂等が挙げられているが、自動車用のネットワークケーブルにどのような樹脂が好適であるかは一切記載されていない。
【0013】
車載用とする場合、従来のネットワークケーブルに求められる伝送損失を少なくするための被覆材の静電容量の均質性に加え、車内にケーブルを敷設するための軽量性や折り曲げ易さとともに、折り曲げ、運転中の振動、夏場の直射日光、及びエンジンからの熱等に曝される過酷な環境下に置かれることとなるため、150℃に近い温度で長期間さらされても被覆材が形状を保ち欠損ができづらい優れた耐久性が必要となることがわかった。
【0014】
本開示の車載ネットワークケーブル用電線は、直径が0.5〜1.5mmの電線であって、導体と、その周囲を被覆する被覆材とを備え、該被覆材は、TFE/HFP/PAVE共重合体であって、372℃、5kg荷重で測定したMFRが20〜40g/10分、25℃、6GHzで測定した比誘電率が2.2以下、融点が250℃以上、MIT曲げ寿命が2000回以上、150℃での引張伸びが300%以上であるフッ素樹脂を含む。本開示の車載ネットワークケーブル用電線は、フッ素樹脂の中でも上記特定のフッ素樹脂がネットワークケーブルに求められる伝送損失を少なくするための被覆材の静電容量の均質性に加え、車内にケーブルを敷設するための軽量性や折り曲げ易さ、150℃で長期間さらされても形状を保ち欠損ができづらい優れた耐久性を有し、車載ネットワークケーブル用電線として使用できることが見出されて完成したものである。本開示はまた、本開示の車載ネットワークケーブル用電線の車載ネットワークケーブルへの使用を提供する。
【0015】
上記導体としては、銅、アルミ等の金属導体材料、および、それらに銀、チタン等のメッキをした金属導体材料を用いることができる。上記導体は、単線でも、細い導体を撚りあわせた撚り線であってもよい。上記導体は、直径0.1〜1.0mmであるものが好ましい。撚り線の場合、導体直径とは、撚り線の全体径をさす。上記導体は、電気的特性の観点からは太いものが好ましく、導体の直径は、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上が更に好ましく、0.4mm以上が特に好ましい。また、軽量化や折り曲げ易さ、高価な導体費用の削減の観点からは細いものが好ましく、0.9mm以下がより好ましく、0.8mm以下が更に好ましく、0.7mm以下が特に好ましく、0.65mm以下が最も好ましい。導体の具体例としては、例えば、AWG−26(直径404マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG−24(直径510マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)、AWG−22(直径635マイクロメートルの中実銅製ワイヤー)等が挙げられる。
【0016】
上記被覆材の厚みは、車載ネットワークケーブルは車内に敷設されるため、敷設路が狭く、折り曲げが多い場合があり、直径が小さい細線であることが好ましい。従って、軽量化や折り曲げ易さ、被覆材料費の削減の観点からは、上記被覆材の厚みも薄いことが好ましく、0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.3mm以下が更に好ましく、0.25mm以下が特に好ましい。電気的特性の観点からは被覆材の厚みは厚いことが好ましく、0.1mm以上が好ましく、0.15mm以上がより好ましい。
【0017】
本開示の車載ネットワークケーブル用電線は、直径が0.5〜1.5mmである。車載ネットワークケーブルは車内に敷設されるため、軽量であることが好ましいとともに、敷設路が狭く、折り曲げが多い場合があり、折り曲げ易さに優れた直径が小さい細線であることが好ましく、1.4mm以下が好ましく、1.3mm以下がより好ましく、1.2mm以下が更に好ましく、1.1mm以下が特に好ましく、1.0mm以下が最も好ましい。また、電気的特性の観点からは、電線の直径は太いことが好ましく、0.6mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、0.8mm以上が更に好ましい。
【0018】
上記フッ素樹脂は、TFE/HFP/PAVE共重合体である。TFE/HFP/PAVE共重合体は、ポリテトラフルオロエチレンに対し生産性のよい溶融成形加工が可能な点で優れており、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体に対し融点が低いため成形加工がより容易であり、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体に対し、MIT曲げ寿命と150℃での引張伸びが良く、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンに対し、融点が高いために150℃で長期間さらされても形状を保ち欠損ができづらい優れた耐久性をもち、かつ比誘電率がより低く優れている。
【0019】
上記TFE/HFP/PAVE共重合体は、質量比(TFE/HFP/PAVE)が87.0〜90.0/9.5〜12.5/0.5〜3.5(質量%)であることが好ましい。HFP含有量が少なすぎるとMIT曲げ寿命が小さくなり、HFP含有量が多すぎると融点が下がり、150℃環境への適性が下がる。PAVE含有量が少なすぎるとMIT曲げ寿命が小さくなり、PAVE含有量が多すぎると融点が下がり、150℃環境への適性が下がる。
なおHFP単位の含有量およびPAVE単位の含有量は、19F−NMR法により測定することができる。
【0020】
上記TFE/HFP/PAVE共重合体は、更に、他のエチレン性単量体(α)単位を含んでいてもよい。他のエチレン性単量体(α)単位としては、TFE、HFP及びPAVEと共重合可能な単量体単位であれば特に限定されず、例えば、パーフルオロ(アルキルアリルエーテル)などのパーフルオロ共重合体等の含フッ素エチレン性単量体や、エチレン等の非フッ素化エチレン性単量体等が挙げられる。他のエチレン性単量体(α)単位の含有量は、好ましくは0〜3質量%である。より優れた電気的特性を有することからパーフルオロ共重合体が好ましい。
【0021】
上記共重合体がTFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α)共重合体である場合、質量比(TFE/HFP/PAVE/他のエチレン性単量体(α))は、87.0〜90.0/9.5〜12.5/0.5〜3.5/0〜3(質量%)であることが好ましい。
【0022】
上記TFE/HFP/PAVE共重合体は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、溶液重合や懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0023】
上記TFE/HFP/PAVE共重合体において、上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、MIT曲げ寿命の観点から、PPVEが更に好ましい。上記フッ素樹脂は、TFE/HFP/PPVE共重合体であることが好ましい。
【0024】
上記フッ素樹脂は、25℃、6GHzで測定した比誘電率が2.2以下である。通信電線の被覆材として広く用いられているポリエチレンより比誘電率に優れており、比誘電率が上記範囲であることによって、優れた信号伝送性能を有する電線が得られ、また、電線の細線化に有利である。上記比誘電率は、2.2未満が好ましく、2.1以下がより好ましい。また、下限は特に限定されないが、1.8より大きい。
上記比誘電率は、25℃、6GHzで空洞共振器摂動法にて測定する値である。
【0025】
上記フッ素樹脂は、372℃、5kg荷重で測定したMFRが20〜40g/10分である。上記フッ素樹脂のMFRが上記範囲であることによって、径の小さい導体上に静電容量が均質な薄肉の被覆層を作製することができ、MIT曲げ寿命および150℃での引張伸びに優れ、それにより長期間150℃環境にさらされても欠損ができづらい被覆の電線を得るために寄与する。
上記MFRは、小さいほうがMIT曲げ寿命および150℃での引張伸びに優れ、38g/10分以下が好ましく、37g/10分以下がより好ましい。また、径の小さい導体上に静電容量が均質な薄肉の被覆層を作製することができる点からはMFRが大きいほうが優れており、21g/10分以上が好ましく、22g/10分以上がより好ましく、24g/10分以上が更により好ましく、30g/10分以上が特に好ましい。
上記MFRは、ASTM D1238−98に準拠し、372℃、5kg荷重で測定することができる。
【0026】
上記フッ素樹脂は、融点が250℃以上である。長期間150℃環境にさらされても被覆が形状を保つことが必要である点から融点は高いほうが好ましく、好ましくは252℃以上であり、より好ましくは253℃以上であり、更により好ましくは254℃以上であり、特に好ましくは255℃以上であり、最も好ましくは256℃以上である。また、溶融成形加工の容易性の観点からは融点が低いほうが好ましく、280℃以下が好ましく、265℃以下がより好ましく、263℃以下が更により好ましく、261℃以下が特に好ましく、260℃以下が最も好ましい。
上記融点は、示差走査熱量計を用い、ASTM D−4591に準拠して、昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、得られた吸熱曲線のピーク温度から求める値である。
【0027】
上記フッ素樹脂は、MIT曲げ寿命が2000回以上である。上記MIT曲げ寿命は大きいほうが折り曲げに強く、振動などで受ける繰り返し応力にも強く、好ましくは2200回以上であり、より好ましくは2400回以上であり、更に好ましくは2500回以上であり、最も好ましくは2600回以上である。MIT曲げ寿命の上限値は限定されないが、例えば、300000回であってもよい。MIT曲げ寿命が上記範囲であることによって、折り曲げや振動が問題となる車載ネットワークケーブルに特に好適である。
上記MIT曲げ寿命は、圧縮成形により、0.2mm厚のプレスシートを作製し、ASTM D−2176に準拠して、試験温度は23℃、回転角度は左右各135度、屈曲速度は175cpmのMIT測定で得られる値である。
【0028】
上記フッ素樹脂は、150℃での引張伸び(EL)が300%以上である。電線の被覆層は、きつい角度で曲げた場合、曲げの外側の被覆層は引き伸ばされるため、電線被覆に欠損がでないという観点から、引張伸びが大きいほうが好ましく、より好ましくは、310%以上であり、更に好ましくは320%以上であり、特に好ましくは330%以上である。引張伸びは大きければ大きいほど好ましく、上限値は限定されないが、例えば、1000%であってもよい。
【0029】
上記150℃での引張伸び(EL)は、ASTM D638に準じて、50mm/分の条件下で、150℃で測定した値である。
【0030】
上記のように、本開示は、被覆材の融点が高く、かつ、MIT曲げ寿命が大きく、かつ、150℃での引張伸びが大きいために、長期間150℃環境にさらされても被覆が形状を保ち欠損ができづらい電線となる。
【0031】
上記フッ素樹脂は、更に優れた電気的特性が得られることから、25℃、6GHzで測定した誘電正接が0.0006以下であることが好ましい。本開示の特定のフッ素樹脂を使用することにより上記誘電正接が上記範囲であることによって、より優れた信号伝送性能を有する電線が得られ、また、電線の細線化にも有利である。上記誘電正接は、0.0005以下がより好ましく、0.0004以下が更に好ましく、また、下限は特に限定されないが、0.0002より大きい。上記比誘電率は、25℃、6GHzで空洞共振器摂動法にて測定する値である。
【0032】
上記誘電正接は、上記フッ素樹脂をフッ素化することで達成することができる。すなわち、上記フッ素樹脂は、フッ素化処理されたものであることが好ましい。また、本開示のフッ素樹脂材料に含有される上記フッ素樹脂は、−CF末端基を有することも好ましい。
【0033】
上記フッ素化処理は、例えば、特許第6134818号等に記載の公知の方法によって行うことができ、具体的には、フッ素化処理されていないフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、フッ化ハロゲン(例えばIF、ClF)等が挙げられる。上記Fガス等のフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5〜50質量%に希釈して使用することが好ましく、15〜30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0034】
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態のフッ素樹脂とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、フッ素樹脂の融点以下、好ましくは20〜220℃、より好ましくは100〜200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1〜30時間、好ましくは5〜25時間行う。上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないフッ素樹脂をフッ素ガス(Fガス)と接触させるものが好ましい。
【0035】
上記被覆材は、電気的特性や軽量化の観点から、例えば発泡被覆のような被覆層内に空隙を持つものであってもよく、被覆材が発泡することにより得られるものである場合、発泡核剤を含むものであってもよい。上記発泡核剤としては、特表2010−513676号公報、特許第5757347号、米国特許第4,764,538号に記載の公知の発泡核剤を使用することができる。上記被覆材において、発泡核剤の含有量は、得られる電線の用途等によって適宜決定すればよいが、例えば、被覆材に対して0.1〜10質量%である。
【0036】
上記被覆材は、更に、例えば積層させるなど、上記フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有するものであってもよい。上記フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂等の汎用樹脂;ナイロン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等のエンジニアリングプラスチックが挙げられる。上記フッ素樹脂以外の熱可塑性樹脂の層は、電気的特性の観点から60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下が更により好ましく、30%以下が特に好ましい。
【0037】
上記被覆材は、上記フッ素樹脂を含むものである。上記被覆材は、上記フッ素樹脂のみからなるものであってもよいし、上記フッ素樹脂以外に、本開示の車載ネットワークケーブル用電線が有する効果を損なわない範囲で従来公知の充填材等を含むものであってもよい。上記被覆材は、電気的特性の観点から、被覆材に対して上記フッ素樹脂が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、99%以上が最も好ましい。
【0038】
上記充填材としては、例えば、特許6134818号に記載のような公知の充填材を用いることができ、グラファイト、炭素繊維、コークス、シリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス、タルク、マイカ、雲母、窒化アルミニウム、リン酸カルシウム、セリサイト、珪藻土、窒化珪素、ファインシリカ、アルミナ、ジルコニア、石英粉、カオリン、ベントナイト、酸化チタン等が挙げられる。上記充填材の形状としては特に限定されず、繊維状、針状、粉末状、粒状、ビーズ状等が挙げられる。
【0039】
また、上記被覆材は、更に、例えば、特許6134818号に記載のような公知の添加剤等のその他の成分を含有するものであってもよい。その他の成分としては、例えば、ガラス繊維、ガラス粉末、アスベスト繊維等の充填材や、補強剤、安定剤、潤滑剤、顔料、その他の添加剤等が挙げられる。
【0040】
本開示は、静電容量ブレ幅の小さい電線を与える。静電容量ブレ幅は、電線被覆の静電容量の均質性を評価しており、静電容量ブレ幅が小さいほうが電線被覆の静電容量がより均質であることを示している。コーンブレイクが起こる場合、安定して静電容量が均質な被覆をもつ電線を作製できていないことを示している。静電容量の均質性が悪化するほどに電線の伝送損失が大きくなり、静電容量の均質性が良好になるほどに電線の伝送損失が小さくなる。
【0041】
本開示は、同径の電線に巻き付け150℃にて1ケ月加熱処理を行った後に、電線を巻き戻しても亀裂ができづらい電線を与える。この電線の特徴は、長期間150℃環境にさらされても被覆が形状を保ち欠損ができづらいことを示している。
【0042】
本開示の車載ネットワークケーブル用電線は、電気的特性の向上や軽量化の観点からは、被覆材中に空隙を有する発泡電線であることが好ましく、被覆層のつぶれやすさの観点からは、ソリッド線であることが好ましい。上記ソリッド線とは、被覆材の内部に実質的に空隙が存在しない線を意味し、中実の被覆層を備える電線ということもできる。
【0043】
本開示の車載ネットワークケーブルは、上述した本開示の車載ネットワークケーブル用電線を含む。本開示はまた、車載ネットワークケーブルの車載ネットワークへの使用を提供する。
【0044】
本開示の車載ネットワークケーブルの形態としては、同軸ケーブル、ツイストペアケーブル、2本平行線、4本平行線、8本平行線等が挙げられる。
【0045】
上記同軸ケーブルとしては、例えば、上述した本発明の車載ネットワークケーブル用電線周りに金属からなる外部導体層(例えば、金属メッシュ等)が形成され、その外部導体層の周りに樹脂層(シース層)を形成してなるケーブルが挙げられる。上記樹脂層(シース層)は特に限定されないが、TFE/HFP系共重合体、TFE/PAVE系共重合体等のTFE単位を有する含フッ素共重合体、ポリ塩化ビニル〔PVC〕、ポリエチレン等の樹脂からなる層であってもよい。上記外部導体層、樹脂層(シース層)は、従来公知の方法で被覆させることができる。
【0046】
本開示の車載ネットワークケーブルは、相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルを備え、該一対の電線の少なくとも一方が上述した本開示の車載ネットワークケーブル用電線であることが好ましい。ツイストペアケーブルを用いることでノイズの影響を受けにくくなり、大きなノイズが発生しやすい車載ネットワークケーブルとして特に好適である。
【0047】
本開示の車載ネットワークケーブルは、1対のツイストペアケーブルを備えるものであってもよいし、2対以上のツイストペアケーブルを備えるものであってもよい。ツイストペアケーブルの数は、1〜4が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。
【0048】
本開示の車載ネットワークケーブルは、上記ツイストペアケーブルの周囲を囲むジャケットを備えることが好ましい。上記ジャケットの材料としては、TFE/HFP系共重合体、TFE/PAVE系共重合体等のTFE単位を有する含フッ素共重合体、ポリ塩化ビニル〔PVC〕、ポリエチレン等の樹脂が挙げられるが、限定されるものではない。上記ジャケットの厚みは特に限定されず、目的にあわせて適宜設定すればよい。
【0049】
本開示の車載ネットワークケーブルは、上記ツイストペアケーブルの周囲に金属からなる外部導体層(例えば、金属メッシュ、アルミ箔等)を備えていてもよい。上記外部導体層がシールドとして機能し、より安定性が向上する。ただし、軽量性と折り曲げ性の観点からはシールドはないほうが好ましい。
【0050】
本開示の車載ネットワークケーブルは、車載イーサネットケーブルであることが好ましく、具体的には、100BASE−T1、又は1000BASE−T1のネットワークケーブルであることがより好ましい。
【0051】
本開示はまた、車載コンピュータと、該車載コンピュータに接続された本開示の車載ネットワークケーブルと、を備える車載ネットワークシステムを提供する。
本開示の車載ネットワークシステムは、少なくとも1つの車載コンピュータを備えればよく、2以上の車載コンピュータを備えていてもよい。上記車載コンピュータと本開示の車載ネットワークケーブルとは直接接続されていてもよいし、間接的に接続されていてもよい。例えば、本開示の車載ネットワークケーブルと上記車載コンピュータとが、ハブ、ルーター等を介して接続されていてもよい。
上記車載コンピュータは、車両に搭載されるコンピュータであれば限定されず、例えば、車載電子制御ユニット(車載用ECU)、車載テレマティックコントロールユニット(車載TCU)等が挙げられる。
本開示の車載ネットワークシステムは、第1車載コンピュータと、第2車載コンピュータと、第1車載コンピュータと第2車載コンピュータとを接続する本開示の車載ネットワークケーブルと、を備えるものであってもよい。
【実施例】
【0052】
つぎに本開示を実施例にて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
<物性測定>
(1)融点
示差走査熱量測定装置(商品名:X−DSC7000、日立ハイテクサイエンス社製)を用い、ASTM D−4591に準拠して、昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、得られた吸熱曲線のピークから融点を求めた。
【0054】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238−98に準拠し、メルトインデックステスター(東洋精機製作所社製)を用い、約6gの樹脂を372℃に保たれたシリンダーに投入し、5分間放置して温度が平衡状態に達した後、5kgのピストン荷重下で直径2mm、長さ8mmのオリフィスを通して樹脂を押し出して、単位時間(通常10〜60秒)に採取される樹脂の質量(g)を測定する。同一試料について3回ずつ測定を行い、その平均値を10分間当たりの押出量に換算した値(単位:g/10分)を測定値とした。
【0055】
(3)組成
NMR分析装置(たとえば、ブルカーバイオスピン社製、AVANCE300 高温プローブ)を用い、測定温度を(ポリマーの融点+20)℃として19F−NMR測定を行い、各ピークの積分値から求めた。
【0056】
(4)比誘電率及び誘電正接(tanδ)
(ポリマーの融点+約30℃)の温度で溶融押出を行い、直径2.3mm×長さ80mmの円柱状の測定サンプルを作製した。この測定サンプルについて、ネットワークアナライザー(関東電子応用開発社製)を用いて、空洞共振器摂動法にて、6GHzでの比誘電率及び誘電正接を測定した(試験温度25℃)。比誘電率の値は、測定値の小数点2桁目を四捨五入し、誘電正接の値は、測定値の小数点5桁目を四捨五入した値とした。
【0057】
(5)MIT曲げ寿命
圧縮成形により、0.2mm厚のプレスシートを作製し、ASTM D−2176に準拠して、MIT測定を行った。No.307 MIT形屈曲試験機(安田精機製作所製)を用い、測定条件は、試験温度23℃、回転角度は左右各135度、屈曲速度175cpmとした。MIT曲げ寿命は、耐屈曲性の指標である。この値が高いほど、耐屈曲性に優れ、力学的なストレスに対する耐クラック性が高い。
【0058】
(6)150℃での引張伸び(EL)
実施例または比較例において得られたペレットを、ヒートプレス成形機を用いて、直径120mm、1.5mm厚の円盤状に成形し、試験片(圧縮成形)を得た。上記試験片から、ASTM V型ダンベルを用いてダンベル状試験片を切り抜き、得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製AGS−J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、50mm/分の条件下で、150℃で引張伸びを測定した。
【0059】
(7)30000メートル平均の静電容量ブレ幅
静電容量測定器Capac HS(Type:MR20.50HS、Zumbach社製)を用いて2時間測定し、工程能力指数(Cp)として算出した。なお、Cpは、逐次USYS 2000(Zumbach社製)に蓄え、上限(USL)を+1.0(pf/inch)、下限(LSL)を−1.0(pf/inch)に設定して、解析した。
なお、表1に示すようにコーンブレイクが発生した場合、連続成形ができず、静電容量ブレ幅を求めることができなかった。
【0060】
(8)150℃電線長期保持試験
各実施例・比較例の電線成形で得られた被覆電線から、長さ20cmの電線を10本切り取り、試験片とした。比較例1の電線は、被覆電線ができている部分を選別して切り取り試験片とした。
この試験片を試験片と同径の電線に巻き付け150℃にて1ケ月加熱処理を行った。室温にて冷却後、電線を巻き戻して、目視及び拡大鏡を用いて、亀裂の発生した電線の個数を数えた。一本の電線中に亀裂が一箇所でもあれば亀裂有りとした。亀裂有りと確認された電線がない場合を○、1本以上の場合×とした。結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例1〕
特表2011−514407号公報の実施例2と同じ方法でTFE/HFP/PPVE共重合体(TFE/HFP/PPVE=87.9/11.1/1.0〔質量比〕、МFR24[g/10分])のフッ素化されたペレットを得た。得られたペレットを用いて共重合体の物性を評価した結果を表1に示す。また、得られたペレットを用いて以下の成形条件で電線被覆成形を行って電線(ソリッド線)を得た。電線被覆押出成形条件は以下の通りである。
【0062】
成形条件1
a)芯導体:軟鋼線AWG24(American Wire Gauge)芯線径 20.1mil
b)被覆厚み:7.2mil
c)被覆電線径:34.5mil
d)電線引取速度:1800フィート/分
e)溶融成形(押出)条件:
・シリンダー軸径=2インチ。L/D=30の単軸押出成形機
・ダイ(内径)/チップ(外形)=8.71mm/4.75mm
・押出機の設定温度:バレル部Z1(338℃)、バレル部Z2(360℃)、バレル部Z3(371℃)、バレル部Z4(382℃)、バレル部Z5(399℃)、クランプ部(404℃)、アダプター部(404℃)、クロスヘッド部(404℃)、ダイ部(404℃)に、芯線予備加熱を140℃に設定した。
【0063】
30000メートル平均の静電容量ブレ幅を評価した結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例2〕
特表2010−539252号公報の実施例1と同じ方法でTFE/HFP/PPVE共重合体(TFE/HFP/PPVE=87.6/11.5/0.9〔質量比〕、МFR35[g/10分])のフッ素化されたペレットを得た。得られたペレットを用いてTFE/HFP/PPVE共重合体の物性を評価した結果を表1に示す。また、得られたペレットを用いて、実施例1と同様にして電線被覆成形を行って電線(ソリッド線)を得た。30000メートル平均の静電容量ブレ幅を評価した結果を表1に示す。
【0065】
〔実施例3〕
特許6134818号公報の実施例1と同じ方法でTFE/HFP/PPVE共重合体(TFE/HFP/PPVE=87.5/11.5/1.0〔質量比〕、МFR37[g/10分])のフッ素化されたペレットを得た。得られたペレットを用いてTFE/HFP/PPVE共重合体の物性を評価した結果を表1に示す。また、得られたペレットを用いて、実施例1と同様にして電線被覆成形を行って電線(ソリッド線)を得た。30000メートル平均の静電容量ブレ幅を評価した結果を表1に示す。
【0066】
〔比較例1〕
国際公開第2001−018076号の実施例3と同じ方法でTFE/HFP共重合体(TFE/HFP=86.5/13.5〔質量比〕、МFR17[g/10分])のペレットを得た。得られたペレットを用いてTFE/HFP共重合体の物性を評価した結果を表1に示す。また、得られたペレットを用いて、実施例1と同様にして被覆成形を試みたが連続成形できなかった。
【0067】
〔比較例2〕
特表2010−539252号公報の実施例3と同じ方法でTFE/HFP/PPVE共重合体(TFE/HFP/PPVE=87.6/11.5/0.9〔質量比〕、МFR44[g/10分])のペレットを得た。得られたペレットを用いてTFE/HFP/PPVE共重合体の物性を評価した結果を表1に示す。また、得られたペレットを用いて、実施例1と同様にして電線被覆成形を行って電線(ソリッド線)を得た。30000メートル平均の静電容量ブレ幅を評価した結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1の結果より、被覆材が、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体であって、372℃、5kg荷重で測定したメルトフローレートが20〜40g/10分、25℃、6GHzで測定した比誘電率が2.2以下、融点が250℃以上、MIT曲げ寿命が2000回以上、150℃での引張伸びが300%以上であるフッ素樹脂である実施例では、低比誘電率であるとともに、耐折性、並びに150℃の引張伸びに優れることが分かった。そのため、本開示は、低比誘電率であるとともに、耐折性に優れる車載ネットワークケーブル用電線を提供するという効果も有する。更に150℃での引張伸びに優れるという効果も有する。