特許第6985641号(P6985641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニデックの特許一覧

<>
  • 特許6985641-眼内レンズ挿入器具の製造方法 図000002
  • 特許6985641-眼内レンズ挿入器具の製造方法 図000003
  • 特許6985641-眼内レンズ挿入器具の製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985641
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20211213BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-168456(P2017-168456)
(22)【出願日】2017年9月1日
(65)【公開番号】特開2019-42128(P2019-42128A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】菱田 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】夏目 明嘉
(72)【発明者】
【氏名】原 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】長坂 信司
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−086934(JP,A)
【文献】 特表2001−504740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟性の眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具の製造方法であって、
樹脂によって成形された前記眼内レンズ挿入器具のうち、少なくとも、前記眼内レンズが通過する前記通路の内壁に対し、水溶性高分子材料を含む潤滑性向上剤の定着性を向上させるための表面処理を行う表面処理工程と、
前記表面処理工程において表面処理が行われた前記通路の内壁に、前記潤滑性向上剤をコーティングするコーティング工程と、
を含み、
前記表面処理工程は、紫外線照射処理とプラズマ処理の各々を、前記潤滑性向上剤の成分と共有結合を行う官能基を前記眼内レンズ挿入器具の基材に新たに生成させるために実行することで、前記潤滑性向上剤の前記基材に対する定着性を向上させることを特徴とする眼内レンズ挿入器具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の眼内レンズ挿入器具の製造方法であって、
前記表面処理工程では、前記紫外線照射処理を実行した後に、前記プラズマ処理を実行することを特徴とする眼内レンズ挿入器具の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の眼内レンズ挿入器具の製造方法であって、
前記コーティング工程においてコーティングされた前記潤滑性向上剤に対して加湿処理を行う加湿工程と、
加湿工程が行われた前記眼内レンズ挿入器具を滅菌ガスによって滅菌する滅菌工程と、
をさらに含むことを特徴とする眼内レンズ挿入器具の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の眼内レンズ挿入器具の製造方法であって、
前記加湿工程が行われた後、且つ前記滅菌工程が行われる前に、前記眼内レンズ挿入器具に前記眼内レンズを配置するレンズ配置工程をさらに含むことを特徴とする眼内レンズ挿入器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼内レンズを眼内に挿入するための眼内レンズ挿入器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障の手術方法の一つとして、摘出された水晶体の代わりに折り曲げ可能な軟性の眼内レンズを眼内に挿入する手法が用いられている。また、眼の屈折力を矯正するために、水晶体よりも前側に眼内レンズが挿入される場合もある。眼内レンズの眼内への挿入には、インジェクターと呼ばれる眼内レンズ挿入器具が用いられる場合がある。
【0003】
眼内レンズは、眼内レンズ挿入器具の内部の通路を移動する過程で小さく折り畳まれた後、先端の挿入口から眼内に挿入される。通路の内壁の潤滑性が低ければ、眼内レンズの破損等の不具合が生じやすくなる。従って、通路の内壁に潤滑性向上剤を予めコーティングすることで、潤滑性の向上が図られる場合がある。
【0004】
潤滑性向上剤を内壁に定着させるために、コーティング前に、内壁に対して表面処理を行う技術が知られている。例えば、特許文献1には、表面処理としてプラズマ処理が開示されている。また、特許文献1には、プラズマ処理とは別の方法として、紫外線処理または放射線処理も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−504740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
紫外線処理において紫外線を入念に(例えば高い出力で)照射しすぎると、樹脂によって成形された眼内レンズ挿入器具の基材が黄ばんでしまう。また、プラズマ処理は、真空中で行われると共に、眼内レンズ挿入器具が高温となる。従って、プラズマ処理を入念に(例えば長時間)行いすぎると、眼内レンズ挿入器具の基材に破損(例えば割れ等)が生じ得る。さらに、コーティングが行われた眼内レンズ挿入器具に対して滅菌処理が行われると、コーティングされた潤滑性向上剤が剥離してしまう場合もある。
【0007】
本開示の典型的な目的は、上記課題の少なくともいずれかを解決して、通路の内壁に潤滑性向上剤を適切に定着させることが可能な眼内レンズ挿入器具の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入器具の製造方法の一態様は、軟性の眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具の製造方法であって、樹脂によって成形された前記眼内レンズ挿入器具のうち、少なくとも、前記眼内レンズが通過する前記通路の内壁に対し、水溶性高分子材料を含む潤滑性向上剤の定着性を向上させるための表面処理を行う表面処理工程と、前記表面処理工程において表面処理が行われた前記通路の内壁に、前記潤滑性向上剤をコーティングするコーティング工程と、を含み、前記表面処理工程は、紫外線照射処理とプラズマ処理の各々を、前記潤滑性向上剤の成分と共有結合を行う官能基を前記眼内レンズ挿入器具の基材に新たに生成させるために実行することで、前記潤滑性向上剤の前記基材に対する定着性を向上させる
【0009】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入器具の製造方法の他の態様は、軟性の眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具の製造方法であって、樹脂によって成形された前記眼内レンズ挿入器具のうち、少なくとも、前記眼内レンズが通過する前記通路の内壁に、水溶性高分子材料を含む潤滑性向上剤をコーティングするコーティング工程と、前記コーティング工程においてコーティングされた前記潤滑性向上剤に対して加湿処理を行う加湿工程と、加湿工程が行われた前記眼内レンズ挿入器具を滅菌ガスによって滅菌する滅菌工程と、を含む。
【0010】
本開示における眼内レンズ挿入器具の製造方法によると、通路の内壁に潤滑性向上剤を適切に定着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の製造方法によって製造される眼内レンズ挿入器具10を、右斜め上方から見た斜視図である。
図2】本実施形態の製造方法によって製造される眼内レンズ挿入器具10の先端側を、押出軸Aに沿って縦方向に切断して右側面から見た断面図である。
図3】本実施形態における眼内レンズ製造工程のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概要>
本開示における眼内レンズ挿入器具の製造方法は、表面処理工程とコーティング工程を有する。表面処理工程では、樹脂によって形成された眼内レンズ挿入器具のうち、少なくとも、眼内レンズが通過する通路の内壁に対し、水溶性高分子材料を含む潤滑性向上剤の定着性を向上させるための表面処理が行われる。コーティング工程では、表面処理工程において表面処理が行われた通路の内壁に、潤滑性向上剤がコーティングされる。本開示の製造方法では、表面処理工程には紫外線照射処理とプラズマ処理が共に含まれる。
【0013】
紫外線照射処理が行われると、水溶性高分子材料を含む潤滑性向上剤の成分と共有結合を行う官能基(例えばOH基)が、眼内レンズ挿入器具の基材に新たに生成される。その結果、潤滑性向上剤の定着性が向上する。また、プラズマ処理でも同様に、基材に官能基が新たに生成され、潤滑性向上剤の定着性が向上する。従って、紫外線照射処理およびプラズマ処理の各々を入念に行わなくても、共有結合によって潤滑性向上剤の定着性が向上する。よって、紫外線照射処理による基材の黄ばみの発生、および、プラズマ処理による基材の破損を共に抑制しつつ、潤滑性向上剤を十分に基材に定着させることができる。さらに、紫外線照射処理によると、プラズマ処理に比べて、ノズルの先端等の狭い箇所の内壁にも好適に表面処理が行われる。従って、紫外線照射処理とプラズマ処理が共に実行されることで、狭い箇所にも適切に潤滑性向上剤が定着する。
【0014】
なお、プラズマ処理を行うことで、基材に官能基を生成する効果と共に、通路の内壁の表面粗さを粗くする効果を生じさせることも可能である。表面粗さが粗くなると、潤滑性向上剤が眼内レンズ挿入器具の基材に湿潤し易くなるので、潤滑性向上剤の定着性が向上する。従って、紫外線照射処理とプラズマ処理を共に実行することで、共有結合を利用した定着性の向上と、表面粗さが粗くなることによる定着性の向上を共に実現してもよい。
【0015】
表面処理工程では、紫外線照射処理を実行した後にプラズマ処理が実行されてもよい。プラズマ処理によって基材に生成される官能基の量は、紫外線照射処理によって生成される官能基の量よりも多い。また、生成された官能基は、時間の経過と共に徐々に減少する。従って、紫外線照射処理、プラズマ処理、およびコーティング工程の順に実行することで、紫外線照射処理において生成された官能基をプラズマ処理によってさらに急激に増加させつつ、増加した官能基が大幅に減少する前にコーティングが行われる。つまり、プラズマ処理とコーティング工程の間に紫外線照射処理を行う場合に比べて、一旦生成された官能基が減少する割合が低下する。よって、共有結合による潤滑性向上剤の定着性の向上効果が、より効率よく得られる。
【0016】
ただし、表面処理工程では、プラズマ処理を実行した後に紫外線照射処理を実行してもよい。この場合でも、プラズマ処理と紫外線照射処理の一方のみを実行する場合に比べて、潤滑性向上剤の定着性は適切に向上する。
【0017】
眼内レンズ挿入器具の製造方法は、加湿工程と滅菌工程をさらに含んでいてもよい。加湿工程では、コーティング工程においてコーティングされた潤滑性向上剤が加湿される。滅菌工程では、加湿工程が行われた眼内レンズ挿入器具が、滅菌ガスによって滅菌される。この場合、コーティング工程においてコーティングされた潤滑性向上剤が加湿されることで、潤滑性向上剤がさらに基材に密着する。その結果、滅菌工程を行うことで生じ得る潤滑性向上剤のコーティングの剥離が抑制される。また、加湿工程が行われることで、潤滑性向上剤による潤滑性の向上効果がさらに増大する。
【0018】
加湿工程が行われた後、且つ滅菌工程が行われる前に、眼内レンズ挿入器具に眼内レンズを配置するレンズ配置工程が行われてもよい。この場合、眼内レンズが配置される前に加湿工程が行われるので、眼内レンズが配置された後に加湿工程が行われる場合とは異なり、眼内レンズが接触した位置にコーティングされている潤滑性向上剤に高湿度の気体が行きわたらないことが無い。また、眼内レンズ挿入器具と共に眼内レンズも滅菌工程で滅菌される。
【0019】
なお、紫外線照射処理およびプラズマ処理を共に含む表面処理工程を実行せずに、コーティング工程、加湿工程、および滅菌工程を順に実行することも可能である。この場合でも、潤滑性向上剤は適切に基材に密着し、且つ、コーティングが滅菌工程によって剥離する可能性も低下する。また、加湿工程等を実行せずに、紫外線照射処理およびプラズマ処理を共に含む表面処理工程を実行することも可能である。
【0020】
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態について、図面を参照して説明する。まず、図1および図2を参照して、本実施形態の製造方法によって製造される眼内レンズ挿入器具10の一例について説明する。眼内レンズ挿入器具10は、変形可能な眼内レンズ1(図2参照)を眼内に挿入するために使用される。
【0021】
本実施形態では、眼内レンズ1が予め内部に配置(充填)されたプリセット型の眼内レンズ挿入器具10を製造する場合について説明する。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、病院において眼内レンズ1が充填される非プリセット型の眼内レンズ挿入器具を製造する場合にも適用できる。また、本実施形態では、全体が樹脂成型された使い捨てタイプの眼内レンズ挿入器具10を製造する場合について説明する。しかし、本体に取り付けられることで使用されるカートリッジ(後述するノズル180を含む)を製造する場合にも、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用できる。
【0022】
図1に示すように、眼内レンズ挿入器具10は、本体部100とプランジャー300を備える。本体部100は略筒状であり、本体部100の内部の通路101(図2参照)を通じて眼内レンズ1が眼内に挿入される。プランジャー300は棒状であり、本体部100の内部の通路101を前後方向に移動することができる。プランジャー300は、押出軸(通路の軸)Aに沿って前方に移動することで、本体部100の内部に充填された眼内レンズ1を押し出す。
【0023】
本体部100は、本体筒部110と、設置部130と、ノズル180を備える。本体筒部110は、前後方向に延びる筒状に形成されており、本体部100の基端側に位置する。設置部130は、本体筒部110の先端側に接続されている。設置部130には眼内レンズ1が充填される。詳細には、設置部130は保持部160とセット部170を備える。保持部160には、眼内レンズ挿入器具10が保管状態とされている場合に眼内レンズ1を保持する。セット部170は、先端部の軸を中心として回動可能に設けられている。セット部170が回動されると、保持部160に保持されている眼内レンズ1が、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動して位置決めされる。なお、図1および図2は、眼内レンズ1が待機位置に移動した状態を示す。
【0024】
ノズル180は、設置部130の先端側に接続されている。ノズル180内の通路面積は、眼内レンズ1を前方に押し進める過程で眼内レンズ1を小さく変形するために、前方に向かう程狭くなる。つまり、ノズル180には、先細りの内部空間が形成されている。ノズル180の先端には、先端が斜めに切断された円筒状の挿入部182が設けられている。挿入部182は眼内に差し込まれる。挿入部182の先端には、眼内レンズ1を内部の通路101から前方に排出するための開口である挿入口183が形成されている。本体部100の内部の通路101は、本体筒部110の後端からノズル180の先端の挿入口183まで貫通している。
【0025】
一例として、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10によって眼内に挿入される眼内レンズ1は、円盤形状の光学部と、光学部から外側に湾曲して延びる一対の支持部を備える。眼内レンズ1の材料には、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の材料を採用できる。眼内レンズ1は、光学部と支持部が一体成型されたワンピースタイプであってもよいし、別々に成形された光学部と支持部が一体化されるタイプ等であってもよい。
【0026】
図3を参照して、本実施形態における眼内レンズ挿入器具10の製造工程について説明する。まず、成形工程が行われる(S1)。成形工程では、眼内レンズ挿入器具10の本体が樹脂材料によって成形される。眼内レンズ挿入器具10の本体は、例えば、モールド成形、樹脂の削り出しによる切削加工等によって成形されてもよい。樹脂材料には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、またはこれらの共重合体からなるポリアルケン系樹脂、または、ポリカーボネート樹脂等の周知の熱可塑性樹脂等、種々の材料を採用することが可能である。また、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10は、無色透明または無色半透明で形成されている。従って、使用者は、眼内レンズ挿入器具10の内部に充填されている眼内レンズ1の変形状態等を、眼内レンズ挿入器具10の外側から容易に視認することができる。
【0027】
なお、成形された眼内レンズ挿入器具10の本体を型から離れやすくする目的、または、汚れの付着を抑制する目的で、樹脂材料に予め添加物(例えば、離型剤および帯電防止剤の少なくともいずれか)が含まれていてもよい。この場合、継時的な温度変化および湿度変化等の影響で、添加物が本体の基材から表面に析出し、眼内レンズ1に付着してしまう場合がある。本実施形態では、成形工程(S1)が行われた後、且つ、後述する洗浄工程(S2)が行われる前に、加温工程が行われる。加温工程では、S1で成形された眼内レンズ挿入器具10を加温することで、添加物を故意に基材から析出させる。その結果、眼内レンズ1への添加物の付着が抑制される。
【0028】
次いで、洗浄工程が行われる(S2)。洗浄工程では、眼内レンズ挿入器具10の基材の表面(通路101の内壁の表面を含む)が洗浄される。一例として、本実施形態では、周知の超音波洗浄器等によって洗浄工程が行われる。しかし、他の洗浄方法(例えば、圧縮空気を吹き付ける方法等)が採用されてもよい。
【0029】
次いで、紫外線(UV)照射処理工程が行われる(S3)。紫外線照射処理は、眼内レンズ挿入器具10に対して行われる表面処理の1つである。紫外線照射処理では、成形された眼内レンズ挿入器具10のうち、少なくとも、眼内レンズ1が通過する通路101の内壁(本実施形態では眼内レンズ挿入器具10の全体)に、酸素を含む気体中(例えば空気中等)で紫外線が照射される。紫外線照射処理が行われると、潤滑性向上剤の成分と共有結合を行う官能基(例えばOH基等)が、眼内レンズ挿入器具10の基材に新たに生成される。その結果、潤滑性向上剤の基材表面への定着性が向上する。
【0030】
なお、紫外線照射処理では、ノズル180の挿入部182等の狭い箇所の内壁にも紫外線が到達する。従って、狭い箇所における潤滑性向上剤の定着性も適切に向上する。詳細には、本実施形態の紫外線照射処理は、長手方向に延びる通路101の先端側(つまり、挿入口183側)が紫外線照射装置の光源を向いた状態で、紫外線が通路101に向けて照射される。従って、通路101のうち最も狭い部分と光源の距離が短くなり、十分な紫外線が最も狭い部分に照射される。よって、通路101における最も狭い部分の潤滑性向上剤の定着性が、さらに適切に向上する。特に、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10における挿入部182では、眼内レンズ1は非常に小さく折り畳まれた状態で通路101内を通過する。従って、挿入部182における通路101の内壁の潤滑性は、特に重要となる。
【0031】
また、紫外線照射処理によると、紫外線によって発生する活性酸素と有機汚染物質を化学的に結合させて、有機汚染物質を洗浄する効果も生じる。一例として、本実施形態の紫外線照射処理では、市販の紫外線照射装置によって、波長が約365nmの紫外線が、眼内レンズ挿入器具10の各部材に20分〜30分間照射される。
【0032】
次いで、プラズマ処理工程が行われる(S4)。プラズマ処理も、紫外線照射処理と同様に、眼内レンズ挿入器具10に対して行われる表面処理の1つである。プラズマ処理は、眼内レンズ挿入器具10のうち、少なくとも、眼内レンズ1が通過する通路101の内壁(本実施形態では眼内レンズ挿入器具10の全体)に対して行われる。プラズマ処理が行われると、紫外線照射処理と同様に官能基が基材に生成される。さらに、前述した有機汚染物質の洗浄効果は、プラズマ処理でも生じる。本実施形態では、チャンバー内に不活性ガスを封入し、チャンバー内の圧力を一定の減圧状態に保った状態でプラズマが生成される。一例として、本実施形態では、不活性ガスとして酸素が用いられている。しかし、酸素以外の不活性ガス(例えばアルゴン等)が用いられてもよい。
【0033】
以上のように、本実施形態では、眼内レンズ挿入器具10に対して行われる表面処理工程(S3,S4)には、紫外線照射処理とプラズマ処理が共に含まれる。従って、紫外線照射処理とプラズマ処理の各々を入念に行わなくても定着性が向上するので、紫外線照射処理による基材の黄ばみの発生、および、プラズマ処理による基材の破損の発生を共に抑制しつつ、潤滑性向上剤の定着性を適切に向上させることができる。
【0034】
なお、プラズマ処理を行うことで、基材に官能基を生成する効果に加えて、基材表面の表面粗さを粗くする効果も生じさせてもよい。この場合、表面粗さが粗くなることで、潤滑性向上剤が基材に湿潤しやすくなる。
【0035】
また、本実施形態では、生成される官能基の量がより多いプラズマ処理の方が、紫外線照射処理よりも後に実行される。従って、紫外線照射処理によって生成された官能基がプラズマ処理によってさらに急激に増加し、増加した官能基が大幅に減少する前にコーティング工程(後述する)が行われる。よって、一旦生成された官能基が減少する割合が低下する。
【0036】
次いで、コーティング工程が行われる(S5)。コーティング工程では、少なくとも、眼内レンズ1が通過する通路101の内壁に、潤滑性向上剤がコーティングされる。潤滑性向上剤には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、カルボキシメチルセルロース、デキストラン硫酸ナトリウム、ポリリン酸、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、ヒアルロン酸ナトリウム等の多糖類、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリペプチド等の水溶性高分子材料を用いることができる。本実施形態では、ポリビニルピロリドンが使用されている。
【0037】
一例として、本実施形態のコーティング工程では、潤滑性向上剤のコーティング液に浸した眼内レンズ挿入器具10を、恒温オーブンに入れて所定温度(例えば約60℃)で一定時間(例えば約60分間)保持させることで、コーティングが行われる。ただし、コーティングの条件および方法を変更することも可能である。
【0038】
次いで、加湿工程が行われる(S6)。加湿工程では、コーティングが行われた眼内レンズ挿入器具10が加湿される。基材表面にコーティングされた潤滑性向上剤が加湿されることで、潤滑性向上剤がさらに基材に密着する。その結果、後述する滅菌工程(S8)を行っても、コーティングされた潤滑性向上剤の剥離が抑制される。また、コーティングされた潤滑性向上剤が加湿されることで、潤滑性の向上効果がさらに増大する。加湿工程は、例えば、高湿度(例えば、湿度95%)の気体中に眼内レンズ挿入器具10を配置し、一定時間(例えば約10時間)保持することで行われる。
【0039】
次いで、レンズ配置工程が行われる(S7)。レンズ配置工程では、眼内レンズ挿入器具10に眼内レンズ1が配置(充填)される。前述したように、本実施形態では、眼内レンズ1は眼内レンズ挿入器具10の設置部130(図1図2参照)に充填される。なお、レンズ配置工程(S7)は、加湿工程(S6)の後に行われる。従って、加湿工程(S6)では、通路101の内壁に到達させるべき高湿度の気体が、先に配置された眼内レンズ1によって遮断されることが無い。
【0040】
次いで、滅菌工程が行われる(S8)。滅菌工程では、眼内レンズ挿入器具10が滅菌ガスによって滅菌される。一例として、本実施形態では、所定温度に保たれた滅菌ガスの雰囲気化で、眼内レンズ挿入器具10が所定時間保持されることで、滅菌工程が行われる。レンズ配置工程(S7)の後に滅菌工程(S8)が行われることで、眼内レンズ挿入器具10と共に眼内レンズ1も滅菌される。
【符号の説明】
【0041】
1 眼内レンズ
10 眼内レンズ挿入器具
101 通路

図1
図2
図3