(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985642
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/16 20060101AFI20211213BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20211213BHJP
【FI】
B23K26/16
B23K26/21 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-203642(P2017-203642)
(22)【出願日】2017年10月20日
(65)【公開番号】特開2019-76911(P2019-76911A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康介
(72)【発明者】
【氏名】松坂 文夫
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−168693(JP,A)
【文献】
特開昭61−55400(JP,A)
【文献】
特開2014−128832(JP,A)
【文献】
特開平9−141482(JP,A)
【文献】
特開2015−77604(JP,A)
【文献】
特表2008−501531(JP,A)
【文献】
特開2014−61551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射するレーザヘッドを備えたレーザ溶接装置であって、
前記レーザヘッドから被溶接物に照射されるレーザ光に向けてガスを噴射するノズル、及び、前記レーザ光の光軸上に配置されて前記ノズルから前記レーザ光に吹き付けられたガスを導入して前記レーザヘッド側に向かわせるディフューザを具備した負圧環境発生部と、
前記負圧環境発生部の前記ディフューザから排出された前記ガスの圧力を下げる付加負圧部を備えており、
前記付加負圧部は、前記負圧環境発生部の前記ノズルから噴射される前記ガスよりも高圧の付加ガスを前記レーザ光を横切る方向に噴射する付加ノズル、及び、前記付加ノズルと前記レーザ光を挟んで対峙して該付加ノズルから噴射されて前記レーザ光を横切った付加ガスとともに前記負圧環境発生部の前記ディフューザから排出されたガスを導入する付加ディフューザを具備しているレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記負圧環境発生部における前記ノズルのガス噴射量及び前記付加負圧部における前記付加ノズルの付加ガス噴射量を個別に調整する制御部を備えている請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記レーザヘッドから照射されるレーザ光を覆うと共に前記被溶接物の少なくともレーザ光照射部分を囲んで配置される被覆部を備え、前記被覆部に前記負圧環境発生部の前記ノズル及び前記ディフューザが配置されていると共に、前記付加負圧部における前記付加ノズル及び前記付加ディフューザが配置されている請求項1又は2に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記被覆部の前記被溶接物の少なくともレーザ光照射部分を囲む部分に不活性ガスが充填されている請求項3に記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
前記付加負圧部は、前記負圧環境発生部の前記ディフューザから排出された前記ガスが導入される真空ポンプである請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項6】
レーザヘッドから被溶接物にレーザ光を照射して溶接を行うに際して、
前記レーザヘッドから照射されるレーザ光に向けてノズルからガスを噴射すると共に前記ノズルから噴射されて前記レーザ光に吹き付けられたガスを前記レーザ光の光軸上に配置したディフューザに導入し、
これと同時に、前記ノズルから噴射される前記ガスよりも高圧の付加ガスを前記レーザヘッドから照射されるレーザ光を横切る方向に付加ノズルから噴射し、
前記付加ノズルと前記レーザ光を挟んで対峙させた付加ディフューザに、前記ディフューザから排出された前記ガス及び前記付加ノズルから前記レーザ光に吹き付けられた前記付加ガスを導入して拡散させることで、前記被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を生じさせつつ溶接を行うレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したレーザ光を用いたレーザ溶接において、例えば、平板同士を突合せ溶接する場合には、被溶接物である平板のレーザ光照射部分に金属ヒューム,レーザプルーム等の金属蒸気やスパッタ(金属溶滴)が発生する。この金属蒸気やスパッタがレーザ光を照射するレーザヘッドの光学系に付着すると、レーザ光が遮られて被溶接物へのレーザ照射が不安定になって、被溶接物のレーザ光照射部分に生じるキーホールがその内部に金属蒸気を残したまま塞がれてポロシティ(気泡)となって残留してしまう。
【0003】
従来、レーザ光照射部分に生じる金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に付着することを防ぐための策を講じたレーザ溶接装置として、負圧環境下でレーザ溶接を行うレーザ溶接装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このレーザ溶接装置は、被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を生じさせる負圧発生器をレーザヘッドの下方に配置した構成を成している。この負圧発生器は、レーザヘッドから照射されるレーザ光を横切る方向に沿って配置されたノズルと、レーザ光を挟んでノズルと対峙して配置されたディフューザを具備している。
【0005】
このレーザ溶接装置の負圧発生器は、ノズルから噴射された窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスをディフューザに導入して拡散させる(ノズル及びディフューザ間に不活性ガスを増速して流す)ことで、被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を作り出す。これにより、被溶接物のレーザ光照射部分で生じる金属蒸気やスパッタをディフューザに吸引することができる。
【0006】
したがって、このレーザ溶接装置では、レーザ光照射部分に生じる金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に付着するのを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−231629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記したレーザ溶接装置において、20kW程度の大出力のレーザ光を用いるレーザ溶接の場合には、レーザ出力の増大に伴って大量に発生する金属蒸気やスパッタを吸引仕切れずに、少なからずレーザヘッドの光学系に届いて付着してしまい、これに起因して被溶接物へのレーザ光照射が不安定となって、被溶接物のレーザ光照射部分にポロシティができてしまうという問題がある。
【0009】
この際、例えば、不活性ガスの供給源としてアキュムレータを使用して、ノズルやディフューザへの不活性ガス流量を増やすことで、被溶接物のレーザ光照射部分の圧力を下げて優れた負圧環境を作り出すことも考えられるが、装置構成が複雑化すると共に装置コストが上昇してしまうという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっている。
【0010】
本発明は、上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、装置構成のシンプル化及び低コスト化を実現したうえで、レーザ出力の大小にかかわらず、金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に届くのを阻止することができ、その結果、ポロシティの発生を少なく抑えることが可能なレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、レーザ光を照射するレーザヘッドを備えたレーザ溶接装置であって、前記レーザヘッドから被溶接物に照射されるレーザ光に向けてガスを噴射するノズル、及び、前記レーザ光の光軸上に配置されて前記ノズルから前記レーザ光に吹き付けられたガスを導入して前記レーザヘッド側に向かわせるディフューザを具備した負圧環境発生部と、前記負圧環境発生部の前記ディフューザから排出された前記ガスの圧力を下げる付加負圧部を備えて
おり、前記付加負圧部は、前記負圧環境発生部の前記ノズルから噴射される前記ガスよりも高圧の付加ガスを前記レーザ光を横切る方向に噴射する付加ノズル、及び、前記付加ノズルと前記レーザ光を挟んで対峙して該付加ノズルから噴射されて前記レーザ光を横切った付加ガスとともに前記負圧環境発生部の前記ディフューザから排出されたガスを導入する付加ディフューザを具備している構成としている。
【0013】
また、本発明の第
2の態様は、前記負圧環境発生部における前記ノズルのガス噴射量及び前記付加負圧部における前記付加ノズルの付加ガス噴射量を個別に調整する制御部を備えている構成としている。
【0014】
さら
に、本発明の第
3の態様は、前記レーザヘッドから照射されるレーザ光を覆うと共に前記被溶接物の少なくともレーザ光照射部分を囲んで配置される被覆部を備え、前記被覆部に前記負圧環境発生部の前記ノズル及び前記ディフューザが配置されていると共に、前記付加負圧部における前記付加ノズル及び前記付加ディフューザが配置されている構成としている。
【0015】
さらにまた、本発明の第
4の態様は、前記被覆部の前記被溶接物の少なくともレーザ光照射部分を囲む部分に不活性ガスが充填されている構成としている。
【0016】
さらにまた、本発明の第
5の態様において、前記付加負圧部は、前記負圧環境発生部の前記ディフューザから排出された前記ガスが導入される真空ポンプである構成としている。
【0017】
一方、本発明の第
6の態様は、レーザヘッドから被溶接物にレーザ光を照射して溶接を行うに際して、前記レーザヘッドから照射されるレーザ光に向けてノズルからガスを噴射すると共に前記ノズルから噴射されて前記レーザ光に吹き付けられたガスを前記レーザ光の光軸上に配置したディフューザに導入し、これと同時に、前記ノズルから噴射される前記ガスよりも高圧の付加ガスを前記レーザヘッドから照射されるレーザ光を横切る方向に付加ノズルから噴射し、前記付加ノズルと前記レーザ光を挟んで対峙させた付加ディフューザに、前記ディフューザから排出された前記ガス及び前記付加ノズルから前記レーザ光に吹き付けられた前記付加ガスを導入して拡散させることで、前記被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を生じさせつつ溶接を行う構成としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法では、装置構成のシンプル化及び低コスト化を実現しつつ、レーザ出力の大小にかかわらず、金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に届くのを阻止して、ポロシティの発生を減らすことができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置を示す断面説明図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係るレーザ溶接装置を示す断面説明図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施形態に係るレーザ溶接装置を示す部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置を示しており、この実施形態では、本発明に係るレーザ溶接装置を一対の平板同士の突合せ溶接に用いた場合を示している。
【0021】
図1に示すように、このレーザ溶接装置1は、レーザ発振器2と、光ファイバ3を介してレーザ発振器2と接続するレーザヘッド4と、このレーザヘッド4を移動させる駆動機構5と、溶接速度やレーザ出力やレーザ光Lのスポット径等をコントロールする制御部6を備えている。
【0022】
レーザヘッド4は光学系であるレンズ4aを具備しており、レーザ発振器2から供給されるレーザ光Lを円錐形状のレーザ光路に集光して一対の平板(被溶接物)W,W間の開先Waに照射する。駆動機構5は、開先Waに沿って配置されたレール5aと、スライダ5bを具備しており、スライダ5bは、レーザヘッド4を装着して、図示しないモータの出力によりレール5a上を黒太矢印方向に移動する。
【0023】
また、このレーザ溶接装置1は、一対の平板W,Wのレーザ光照射部分である開先Wa付近に、すなわち、レーザ光Lの焦点LA付近に負圧環境を生じさせる負圧環境発生ユニットを備えており、この負圧環境発生ユニットは、負圧環境発生部10,付加負圧部20及び被覆部30から成っている。
【0024】
負圧環境発生部10は、ノズル11及びディフューザ12を具備している。これらのノズル11及びディフューザ12は、いずれもレーザヘッド4の下部に配置された後述する被覆部30のブロック32に形成されている。ノズル11は、レーザ光Lを横切る方向に配置され、一方、ディフューザ12は、レーザ光Lのレーザ光路(光軸)上に配置されており、レーザ光Lはディフューザ12の内部を妨げられることなく通過する。
【0025】
ノズル11は、負圧発生用ガスボンベ7から供給される窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスGをレーザヘッド4から照射されるレーザ光Lに向けて高速で噴射する。ディフューザ12は、ノズル11からレーザ光Lに吹き付けられた不活性ガスGを導入して拡散させつつ矢印で示す経路に沿ってレーザヘッド4側に向かわせる。
【0026】
このように、負圧環境発生部10では、ノズル11及びディフューザ12間に不活性ガスGを増速して流すことで、レーザ光Lの焦点LA付近に負圧環境を生じさせている。
【0027】
付加負圧部20は、負圧環境発生部10と同様に、付加ノズル21及び付加ディフューザ22を具備している。これらの付加ノズル21及び付加ディフューザ22も、被覆部30のブロック32にそれぞれ形成されており、負圧環境発生部10のノズル11及びディフューザ12よりも上方に位置している。付加ノズル21は、レーザ光Lを横切る方向に配置され、一方、付加ディフューザ22は、付加ノズル21とレーザ光Lを挟んで対峙して配置されている。
【0028】
付加ノズル21は、付加ガスボンベ8から供給される窒素ガスやアルゴンガス等の不活性の付加ガスGeをレーザヘッド4から照射されるレーザ光Lに向けて高速で噴射する。この場合、付加ガスGeは、負圧環境発生部10のノズル11から噴射される不活性ガスGよりも高圧に設定されている。付加ディフューザ22は、付加ノズル21から噴射されてレーザ光Lを横切った付加ガスGeとともに負圧環境発生部10のディフューザ12から排出された不活性ガスGを導入して、白抜き矢印に示す合流ガスGMとして排出する。
【0029】
つまり、この付加負圧部20では、負圧環境発生部10のディフューザ12から排出された不活性ガスGの圧力をさらに下げることで、負圧環境発生部10により既に負圧環境にあるレーザ光照射部分をより減圧するようにしている。
【0030】
この実施形態では、負圧発生用ガスボンベ7から供給される負圧環境発生部10におけるノズル11の不活性ガス噴射量及び付加ガスボンベ8から供給される付加負圧部20における付加ノズル21の付加ガス噴射量を制御部6で個別に調整するようにしている。
【0031】
被覆部30は、被覆筒31と、ブロック32と、カバー33を具備しており、この被覆部30を含む負圧環境発生ユニットは、レーザヘッド4とともに駆動機構5のレール5aに沿って一対の平板W,W上を移動する。
【0032】
被覆筒31はブロック32に至るまでのレーザ光Lを覆っており、この被覆筒31の上端部には、レーザヘッド4のレンズ4aとともに光学系を構成する図示しない保護ガラスが内蔵されている。
【0033】
ブロック32には、上述したように、負圧環境発生部10のノズル11及びディフューザ12が形成されていると共に、付加負圧部20の付加ノズル21及び付加ディフューザ22が形成されている。
【0034】
カバー33は、一対の平板W,Wのレーザ光照射部分である焦点LAを覆っており、内側には、ブロック32に形成された負圧環境発生部10のディフューザ12を通過するレーザ光Lを覆う先細り筒33aがベースブロック33bを介して装着されている。
【0035】
この実施形態において、一対の平板W,Wと接触するOリング34をカバー33の周縁部に配置して、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが充填されたシールドガスボンベ9から、カバー33内に不活性ガスを供給することで、負圧環境発生部10及び付加負圧部20により発生させた負圧環境にあるカバー33内の不活性雰囲気を保つようになっている。
【0036】
ここで、付加負圧部20における付加ノズル21及び付加ディフューザ22の間隔を狭く設定すると、レーザ光Lの焦点LA付近に良好な負圧環境を形成できる反面、付加ノズル21及び付加ディフューザ22の間を通して行う溶接状況の観察がし難くなり、一方、付加ノズル21及び付加ディフューザ22の間隔を広く設定すると、溶接状況が観察し易くなるものの、レーザ光Lの焦点LA付近における減圧効果が減少する。
【0037】
したがって、付加負圧部20における付加ノズル21及び付加ディフューザ22の間隔は、レーザ出力や、レーザ光Lの焦点LA付近に要求される負圧の大きさに応じて調整することとしている。
【0038】
本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法において、「負圧環境」とは、90kPa以下の圧力の雰囲気を指し、ノズルからの不活性ガスの噴射速度は、ノズル及びディフューザ間を90kPa以下の圧力雰囲気にし得る速度である。
そして、本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法に用いられるレーザとしては、YAGレーザやCO
2レーザやファイバーレーザやディスクレーザを挙げることができるが、これらのものに限定されない。
また、レーザ溶接装置によるレーザ溶接も突合せ溶接に限定されない。
【0039】
次に、このレーザ溶接装置1によって、一対の平板W,W間の開先Waに突合せ溶接を行って、一対の平板W,W同士を接合する場合の要領を説明する。
【0040】
まず、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lに向けて負圧環境発生部10のノズル11から不活性ガスGを噴射させると共に、レーザ光Lに吹き付けられた不活性ガスGをレーザ光Lの光軸上に配置したディフューザ12に導入する。
【0041】
これと同時に、負圧環境発生部10のノズル11から噴射させた不活性ガスGよりも高圧の付加ガスGeを付加負圧部20の付加ノズル21からレーザ光Lを横切る方向に高速で噴射させ、この付加ガスGeを負圧環境発生部10のディフューザ12から排出される不活性ガスGとともに付加ディフューザ22に導入して、合流ガスGMとして拡散させる。
【0042】
次いで、この状態で溶接を開始して、レーザ光Lを一対の平板W,W間の開先Waに照射しつつ、レーザヘッド4及び負圧環境発生ユニットを駆動機構5により開先Waに沿って一体で移動させる。
【0043】
このレーザヘッド4及び負圧環境発生ユニットの移動により、一対の平板W,W間の開先Waには溶接ビードBが形成され、この間、一対の平板W,W間の開先Waに対するレーザヘッド4からのレーザ光Lの照射により、一対の平板W,Wから金属蒸気PやスパッタSが噴出する。
【0044】
このとき、負圧環境発生部10のノズル11及びディフューザ12間に不活性ガスGを増速して流すことで、一対の平板W,W間のレーザ光照射部分、すなわち、レーザ光Lの焦点LA付近は負圧環境となっている。
【0045】
加えて、付加負圧部20の付加ノズル21からの付加ガスGeを負圧環境発生部10のディフューザ12から排出された不活性ガスGとともに付加ディフューザ22に導入して不活性ガスGの圧力をさらに下げているので、既に負圧環境にあるレーザ光Lの焦点LA付近はより減圧されることとなる。
【0046】
したがって、開先Waに対するレーザヘッド4からのレーザ光Lの照射により生じる金属蒸気PやスパッタSの大半は、付加ディフューザ22に確実に吸引され、合流ガスGMに乗って排出される。
【0047】
上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、負圧環境発生部10のディフューザ12をレーザ光Lのレーザ光路(光軸)上に配置したうえで、レーザ光Lを挟んで付加負圧部20の付加ノズル21及び付加ディフューザ22を対向配置している。加えて、付加負圧部20の付加ノズル21からの付加ガスGeを負圧環境発生部10のノズル11からの不活性ガスGよりも高圧に設定している。
【0048】
つまり、低圧ガス流側である負圧環境発生部10のディフューザ12の流路と、レーザ光路とを同じ空間とすることで、不活性ガスGをディフューザ12の流路でもあるレーザ光路を通して高圧ガス流側である付加負圧部20側に流すことができ、したがって、レーザ光路を流れる不活性ガスGを金属蒸気PやスパッタSの除去に直接作用させることができる。
【0049】
例えば、20kW程度の大出力のレーザ光Lを用いる場合に、付加負圧部20における付加ノズル21及び付加ディフューザ22の間隔を広く(15mm程度に)設定したとしても、ポロシティの発生を抑えるためのレーザ光照射部分の高真空化が図られると共に、金属蒸気PやスパッタSがレーザヘッド4の光学系である保護ガラスに到達して付着することが少なく抑えられることとなる。
【0050】
また、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、負圧環境発生部10におけるノズル11の不活性ガス噴射量及び付加負圧部20における付加ノズル21の付加ガス噴射量を制御部6で個別に調整するようにしているので、金属蒸気PやスパッタSの発生状況に変化が生じた場合等に迅速に対応することが可能である。
【0051】
さらに、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、被覆部30のカバー33で一対の平板W,Wのレーザ光照射部分である焦点LAを覆うようにしているので、負圧環境発生部10及び付加負圧部20により焦点LA近傍に発生させた負圧環境を維持することができる。
【0052】
さらにまた、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、カバー33内にシールドガスボンベ9から不活性ガスを供給するようにしているので、負圧環境にあるカバー33内を不活性の雰囲気に保持することができ、その結果、溶接品質を向上させることが可能である。
【0053】
さらにまた、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、レーザ光照射部分の圧力を下げて優れた負圧環境を作り出すために、高価なアキュムレータなどを使用しないので、装置構成のシンプル化及び低コスト化を図ったうえで、ポロシティの発生を少なく抑え得ることとなる。
【0054】
図2は、本発明の他の実施形態に係るレーザ溶接装置を示しており、この実施形態においても、本発明に係るレーザ溶接装置を一対の平板同士の突合せ溶接に用いた場合を示している。
【0055】
図2に示すように、このレーザ溶接装置1Aが、先の実施形態に係るレーザ溶接装置1と相違するところは、被覆部30のカバー33Aをボックス状としたうえで、このカバー33A内に、開先Waに沿って配置したレール5Aa及びスライダ5Bbを具備した駆動機構5Aを収容した点にあり、他の構成は、先の実施形態に係るレーザ溶接装置1と同じである。
【0056】
このレーザ溶接装置1Aでは、スライダ5Bb上にセットした一対の平板W,Wを図示しないモータの出力により黒太矢印方向に移動させるようになっている。
【0057】
この実施形態に係るレーザ溶接装置1Aでは、被覆部30のボックス状としたカバー33A内において、一対の平板W,Wを移動させるようにしているので、負圧環境発生部10及び付加負圧部20により発生させた負圧環境にあるカバー33A内の不活性雰囲気をより確実に保ち得ることとなる。
【0058】
本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、他の構成として、例えば、
図3に部分的に示すように、ディフューザ12のガス排出側に流路22Aを介して付加負圧部としての真空ポンプ20Aを配置してもよいほか、レーザ光L(焦点LA)と平板Wとの間に溶接用フィラーワイヤを供給して溶接を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1,1A レーザ溶接装置
4 レーザヘッド
6 制御部
10 負圧環境発生部
11 ノズル
12 ディフューザ
20 付加負圧部
20A 真空ポンプ(付加負圧部)
21 付加ノズル
22 付加ディフューザ
30 被覆部
G 不活性ガス
Ge 付加ガス
L レーザ光
LA レーザ光の焦点
W 平板(被溶接物)