特許第6985645号(P6985645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6985645車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6985645
(24)【登録日】2021年11月30日
(45)【発行日】2021年12月22日
(54)【発明の名称】車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20211213BHJP
   B60L 7/18 20060101ALI20211213BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20211213BHJP
【FI】
   B60W30/02
   B60L7/18
   B60L15/20 J
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-17254(P2018-17254)
(22)【出願日】2018年2月2日
(65)【公開番号】特開2019-131134(P2019-131134A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2021年1月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】砂原 修
(72)【発明者】
【氏名】小川 大策
【審査官】 菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−089465(JP,A)
【文献】 特開2005−145197(JP,A)
【文献】 特開2015−063202(JP,A)
【文献】 特開2015−229405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−10/30
B60W 30/00−60/00
B60T 7/12− 8/1769
B60T 8/32− 8/96
B60L 7/18
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダル踏込量を検出するアクセルセンサと、を有する車両の制御方法であって、
前記アクセルセンサにより検出されたアクセルペダル踏込量が0よりも大きい所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量に応じた減速度を前記車両に付加する工程と、
前記操舵角センサにより検出された操舵角に基づき、前記操舵装置が切り込み操作されたか否かを判定する工程と、
前記操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、車両姿勢を制御するように前記車両に減速度を付加する工程と、
前記アクセルペダル踏込量が前記所定値未満で且つ第1値であるときには、前記アクセルペダル踏込量が前記所定値未満で且つ前記第1値よりも大きい第2値であるときよりも、前記操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに前記車両に付加する前記減速度を小さな値に設定する工程と、
を有する、ことを特徴とする車両の制御方法。
【請求項2】
前記減速度を設定する工程では、更に、前記アクセルペダル踏込量が前記所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量が小さいほど、前記車両に付加する前記減速度を小さくする、請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
前記減速度を設定する工程では、更に、前記アクセルペダル踏込量が前記所定値以上であるときに、当該アクセルペダル踏込量が大きいほど、前記車両に付加する前記減速度を小さくする、請求項1又は2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
前記車両は、車輪により駆動されて回生発電を行うジェネレータを有しており、
設定された前記減速度を前記車両に付加するように、前記ジェネレータに回生発電を行わせる工程を更に有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項5】
前記車両は、制動力を車輪に付加する制動装置を有しており、
設定された前記減速度を前記車両に付加するように、前記制動装置より制動力を付加させる工程を更に有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両の制御方法。
【請求項6】
操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダル踏込量を検出するアクセルセンサと、プロセッサと、を備えた車両システムであって、
前記プロセッサは、
前記アクセルセンサにより検出されたアクセルペダル踏込量が0よりも大きい所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量に応じた減速度を前記車両システムが搭載された車両に付加し、
前記操舵角センサにより検出された操舵角に基づき、前記操舵装置が切り込み操作されたか否かを判定し、
前記操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、車両姿勢を制御するように前記車両に減速度を付加し、
前記アクセルペダル踏込量が前記所定値未満で且つ第1値であるときには、前記アクセルペダル踏込量が前記所定値未満で且つ前記第1値よりも大きい第2値であるときよりも、前記操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに前記車両に付加する前記減速度を小さくするように構成されている、
ことを特徴とする車両システム。
【請求項7】
車両の制御装置であって、
アクセルペダル踏込量が0よりも大きい所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量に応じた減速度を車両に付加する第1減速度付加手段と、
操舵装置が切り込み操作されたときに、車両姿勢を制御するように前記車両に減速度を付加する第2減速度付加手段と、を有し、
前記第2減速度付加手段は、前記アクセルペダル踏込量が前記所定値未満であるときにおいて、当該アクセルペダル踏込量が小さいときには、そうでないときよりも、前記車両に付加する前記減速度を小さくする、ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の状況において車両に減速度を付加する制御を行う車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップ等により車両の挙動が不安定になった場合に、車両の挙動を安全方向に制御する技術(例えば横滑り防止装置)が知られている。具体的には、車両のコーナリング時等に、車両にアンダーステアやオーバーステアの挙動が生じたことを検出し、それらを抑制するように車輪に適切な減速度を付与するようにしたものが知られている。
【0003】
一方、上述したような車両の挙動が不安定になるような走行状態における安全性向上のための制御とは異なり、通常の走行状態にある車両のコーナリング時におけるドライバによる一連の操作(ブレーキング、ステアリングの切り込み、加速、及び、ステアリングの戻し等)が自然で安定したものとなるように、コーナリング時に減速度を調整して操舵輪である前輪に加わる荷重を調整するようにした車両運動制御装置が知られている。
【0004】
更に、ドライバのステアリング操作に対応するヨーレート関連量(例えばヨー加速度)に応じて、エンジンやモータの生成トルクを低減させることにより、ドライバがステアリング操作を開始したときに減速度を迅速に車両に生じさせ、十分な荷重を操舵輪である前輪に迅速に加えるようにした車両用挙動制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置によれば、ステアリング操作の開始時に荷重を前輪に迅速に加えることにより、前輪と路面との間の摩擦力が増加し、前輪のコーナリングフォースが増大するので、カーブ進入初期における車両の回頭性が向上し、ステアリングの切り込み操作に対する応答性(つまり操安性)が向上する。これにより、ドライバの意図に沿った車両姿勢の制御を実現することができる。以下では、このような制御を適宜「車両姿勢制御」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6229879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、1つのペダル(以下では適宜「単一ペダル」と呼ぶ。)の操作により、車両の加速及び減速を実現できるようにした技術が提案されている。この技術では、ドライバが単一ペダルの踏込量などを調整することで、車両の停車、発進、加速、定常走行、及び減速を行えるようになっている。
【0007】
ここで、上記した従来の車両姿勢制御においては、車両の発進及び加速時にはアクセルペダルが操作され、車両の減速及び停車時にはブレーキペダルが操作されることを前提にして、車両に付加する減速度を制御していた。特に、特許文献1に記載の車両姿勢制御では、ブレーキペダルの操作に応じた要求減速度に基づき、車両に付加する減速度を変化させていた。しかしながら、従来の車両姿勢制御においては、単一ペダルの操作に応じて変化する車両の加減速状態に合わせて、車両に付加する減速度を適切に制御することができなかった。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、操舵装置が切り込み操作されたときに車両姿勢を制御するように車両に減速度を付加する車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置において、単一ペダルの操作に基づき減速度を適切に設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダル踏込量を検出するアクセルセンサと、を有する車両の制御方法であって、アクセルセンサにより検出されたアクセルペダル踏込量が0よりも大きい所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量に応じた減速度を車両に付加する工程と、操舵角センサにより検出された操舵角に基づき、操舵装置が切り込み操作されたか否かを判定する工程と、操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、車両姿勢を制御するように車両に減速度を付加する工程と、アクセルペダル踏込量が所定値未満で且つ第1値であるときには、アクセルペダル踏込量が所定値未満で且つ第1値よりも大きい第2値であるときよりも、操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに車両に付加する減速度を小さな値に設定する工程と、を有する、ことを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明においては、アクセルペダル踏込量が所定値(>0)以上であるときに、アクセルペダル踏込量に応じた加速度が車両に付加される一方で、アクセルペダル踏込量が当該所定値未満であるときに、アクセルペダル踏込量に応じた減速度が車両に付加される。よって、このアクセルペダルは、当該ペダルの操作により車両の加速及び減速の両方を実現できるようになっており、前述した単一ペダルとしての機能を有する。他方で、本願発明では、操舵装置が切り込み操作されたときに、車両姿勢を制御するように車両に減速度が付加される、つまり車両姿勢制御が行われる。そして、本願発明では、アクセルペダル踏込量に応じて、車両姿勢制御において車両に付加する減速度を設定する。これにより、車両姿勢制御において、単一ペダルの機能を有するアクセルペダルの操作に応じた適切な減速度を付加することができる。
【0011】
特に、本発明では、アクセルペダル踏込量が所定値未満であるときに、つまりドライバがアクセルペダル操作により車両を減速させるときに、アクセルペダル踏込量が小さいときに、車両姿勢制御において車両に付加する減速度を小さくする。これにより、ドライバがアクセルペダルを大きく踏み戻しており、減速度の変化に敏感なときに、車両姿勢制御による減速度の付加によって、ドライバの要求する以上の減速度(過度の減速度)が発生しているという違和感を与えることを抑制できる。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、減速度を設定する工程では、更に、アクセルペダル踏込量が所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量が小さいほど、車両に付加する減速度を小さくする。
このように構成された本発明によれば、車両姿勢制御による減速度の付加によって、ドライバの要求する以上の減速度が発生しているという違和感を与えることをより効果的に抑制できる。
【0013】
また、本発明において、好ましくは、減速度を設定する工程では、更に、アクセルペダル踏込量が所定値以上であるときに、当該アクセルペダル踏込量が大きいほど、車両に付加する減速度を小さくする。
このように構成された本発明では、アクセルペダル踏込量が所定値以上であるときに、つまりドライバがアクセルペダル操作により車両を加速させるときに、アクセルペダル踏込量が大きいほど、車両姿勢制御による付加減速度を小さくする。これにより、ドライバがアクセルペダルを大きく踏み込んでおり、加速度の変化に敏感なときに、車両姿勢制御による減速度の付加によって、ドライバの要求する加速度が適切に発生していないという違和感を与えることを抑制できる。
【0014】
好適な例では、車両は、車輪により駆動されて回生発電を行うジェネレータを有しており、設定された減速度を車両に付加するように、ジェネレータに回生発電を行わせる工程を更に有するのがよい。
【0015】
また、好適な例では、車両は、制動力を車輪に付加する制動装置を有しており、設定された減速度を車両に付加するように、制動装置より制動力を付加させる工程を更に有するのがよい。
【0016】
他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、操舵装置の操舵角を検出する操舵角センサと、アクセルペダル踏込量を検出するアクセルセンサと、プロセッサと、を備えた車両システムであって、プロセッサは、アクセルセンサにより検出されたアクセルペダル踏込量が0よりも大きい所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量に応じた減速度を車両システムが搭載された車両に付加し、操舵角センサにより検出された操舵角に基づき、操舵装置が切り込み操作されたか否かを判定し、操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに、車両姿勢を制御するように車両に減速度を付加し、アクセルペダル踏込量が所定値未満で且つ第1値であるときには、アクセルペダル踏込量が所定値未満で且つ第1値よりも大きい第2値であるときよりも、操舵装置が切り込み操作されたと判定されたときに車両に付加する減速度を小さくするように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、車両姿勢制御において単一ペダルの機能を有するアクセルペダルの操作に応じた適切な減速度を設定することで、車両姿勢制御による減速度の付加によりドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0017】
更に他の観点では、上記の目的を達成するために、本発明は、車両の制御装置であって、アクセルペダル踏込量が0よりも大きい所定値未満であるときに、当該アクセルペダル踏込量に応じた減速度を車両に付加する第1減速度付加手段と、操舵装置が切り込み操作されたときに、車両姿勢を制御するように車両に減速度を付加する第2減速度付加手段と、を有し、第2減速度付加手段は、アクセルペダル踏込量が所定値未満であるときにおいて、当該アクセルペダル踏込量が小さいときには、そうでないときよりも、車両に付加する減速度を小さくする、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によっても、車両姿勢制御において単一ペダルの機能を有するアクセルペダルの操作に応じた適切な減速度を設定することで、車両姿勢制御による減速度の付加によりドライバに与える違和感を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、操舵装置が切り込み操作されたときに車両姿勢を制御するように車両に減速度を付加する車両の制御方法、車両システム及び車両の制御装置において、単一ペダルの操作に基づき減速度を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
図4】本発明の実施形態によるペダル踏込量と目標加減速度との関係を示したマップである。
図5】本発明の実施形態による目標加速度及び目標減速度を補正するためのゲインを規定したマップである。
図6】本発明の実施形態による付加減速度設定処理のフローチャートである。
図7】本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
図8】本発明の実施形態による付加減速度を補正するためのゲイン(付加減速度ゲイン)を規定したマップである。
図9】本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
図10】本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
図11】本発明の実施形態の変形例による車両の制御装置を搭載した車両が旋回を行う場合の、車両姿勢制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置を説明する。
【0021】
<システム構成>
まず、図1により、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両のシステム構成を説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
【0022】
図1において、符号1は、本実施形態による車両の制御装置を搭載した車両を示す。車両1には、前輪2を駆動する機能(つまり電動機としての機能)と、前輪2により駆動されて回生発電を行う機能(つまり発電機としての機能)と、を有するモータジェネレータ4が搭載されている。モータジェネレータ4は、減速機5を介して前輪2との間で力が伝達され、また、インバータ3を介してコントローラ14により制御される。更に、モータジェネレータ4は、バッテリ25に接続されており、駆動力を発生するときにはバッテリ25から電力が供給され、回生したときにはバッテリ25に電力を供給してバッテリ25を充電する。
【0023】
また、車両1は、当該車両1を操舵するための操舵装置(ステアリングホイール6など)と、この操舵装置においてステアリングホイール6に連結されたステアリングコラム(図示せず)の回転角度を検出する操舵角センサ8と、アクセルペダルの開度に相当するアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ(アクセルセンサ)10と、ブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキ踏込量センサ11と、車速を検出する車速センサ12と、を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をコントローラ14に出力する。このコントローラ14は、PCM(Power-train Control Module)などを含んで構成される。
【0024】
また、車両1は、各車輪に設けられたブレーキ装置(制動装置)16のホイールシリンダやブレーキキャリパにブレーキ液圧を供給するブレーキ制御システム18を備えている。ブレーキ制御システム18は、各車輪に設けられたブレーキ装置16において制動力を発生させるために必要なブレーキ液圧を生成する液圧ポンプ20と、各車輪のブレーキ装置16への液圧供給ラインに設けられた、液圧ポンプ20から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を制御するためのバルブユニット22(具体的にはソレノイド弁)と、液圧ポンプ20から各車輪のブレーキ装置16へ供給される液圧を検出する液圧センサ24と、を備えている。液圧センサ24は、例えば各バルブユニット22とその下流側の液圧供給ラインとの接続部に配置され、各バルブユニット22の下流側の液圧を検出し、検出値をコントローラ14に出力する。
【0025】
次に、図2により、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を説明する。図2は、本発明の実施形態による車両の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0026】
本実施形態によるコントローラ14(車両の制御装置)は、上述したセンサ8、10、11、12の検出信号の他、車両1の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、モータジェネレータ4及びブレーキ制御システム18に対する制御を行う。具体的には、コントローラ14は、車両1を駆動するときには、車両1に付与すべき目標トルク(駆動トルク)を求めて、この目標トルクをモータジェネレータ4から発生させるようにインバータ3に対して制御信号を出力する。他方で、コントローラ14は、車両1を制動させるときには、車両1に付与すべき目標回生トルクを求めて、この目標回生トルクをモータジェネレータ4から発生させるようにインバータ3に対して制御信号を出力する。また、コントローラ14は、車両1を制動させるときに、このような回生トルクを用いる代わりに又は回生トルクを用いると共に、車両1に付与すべき目標制動力を求めて、この目標制動力を実現するようにブレーキ制御システム18に対して制御信号を出力してもよい。この場合、コントローラ14は、ブレーキ制御システム18の液圧ポンプ20及びバルブユニット22を制御することで、ブレーキ装置16により所望の制動力を発生させるようにする。
【0027】
コントローラ14(ブレーキ制御システム18も同様)は、1つ以上のプロセッサ、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
詳細は後述するが、コントローラ14は、本発明における車両の制御装置に相当する。また、コントローラ14は、本発明における第1減速度付加手段及び第2減速度付加手段として機能する。更に、コントローラ14、操舵角センサ8及びアクセル開度センサ10を少なくとも含むシステムは、本発明における車両システムに相当する。
【0028】
<車両姿勢制御>
次に、車両の制御装置が実行する具体的な制御内容を説明する。まず、図3により、本発明の実施形態において車両の制御装置が行う車両姿勢制御処理の全体的な流れを説明する。図3は、本発明の実施形態による車両姿勢制御処理のフローチャートである。
【0029】
図3の車両姿勢制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両の制御装置に電源が投入された場合に起動され、所定周期(例えば50ms)で繰り返し実行される。
車両姿勢制御処理が開始されると、図3に示すように、ステップS1において、コントローラ14は車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。具体的には、コントローラ14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセルペダル踏込量、ブレーキ踏込量センサ11が検出したブレーキペダル踏込量、車速センサ12が検出した車速、液圧センサ24が検出した液圧、車両1の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0030】
次に、ステップS2において、コントローラ14は、ステップS1において取得された車両1の運転状態に基づき、車両1に付加すべき目標加速度又は目標減速度を設定する。具体的には、コントローラ14は、アクセルペダル踏込量、ブレーキペダル踏込量及び車速などに基づき、目標加速度又は目標減速度を設定する。
【0031】
ここで、図4及び図5を参照して、本発明の実施形態における目標加速度及び目標減速度の具体的な設定方法について説明する。図4は、本発明の実施形態において、ペダル踏込量と目標加減速度との関係を示したマップである。図5(a)〜(c)は、本発明の実施形態において、図4のマップより得られる目標加速度及び目標減速度を車速に応じて補正するためのゲインを規定したマップである。
【0032】
図4において、横軸はペダル踏込量(アクセルペダル踏込量及びブレーキペダル踏込量の両方)を示しており、縦軸は目標加速度及び目標減速度を示している。符号M11は、アクセルペダル踏込量と目標加速度及び目標減速度との関係を示すマップである。このマップM11は、アクセルペダル踏込量が所定値A1(>0)以上の領域R11では目標加速度が設定され、且つ、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12では目標減速度が設定されるように規定されている。このようなマップM11を適用することで、本実施形態におけるアクセルペダルは、当該ペダルのみの操作により車両1の加速及び減速の両方を実現できるようになっており、上述した単一ペダルとしての機能を有する。より具体的には、アクセルペダル踏込量が所定値A1以上の領域R11では、アクセルペダル踏込量が大きくなるほど目標加速度が大きくなり、且つ、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12では、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど目標減速度(絶対値)が大きくなるように、マップM11が規定されている。他方で、符号M12は、ブレーキペダル踏込量と目標減速度との関係を示すマップである。このマップM12は、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど目標減速度(絶対値)が大きくなるように規定されている。
【0033】
次に、図5(a)〜(c)は、車速と、目標加速度及び目標減速度のそれぞれを補正するための加速度ゲイン及び減速度ゲインとの関係を示したマップである。図5(a)は、車速(横軸)とアクセルペダル踏込時に適用する加速度ゲイン(縦軸)との関係を示したマップである。図5(a)に示すマップは、車速が低くなるほど加速度ゲインが大きくなるように規定されている。このマップによれば、低車速時に、加速度ゲインにより目標加速度が大きくなるよう補正が行われることとなる。こうしているのは、低車速時にはドライバがアクセルペダルを踏み込んだときの加速要求の度合いが大きいからである。
【0034】
図5(b)は、車速(横軸)とアクセルペダル踏戻時に適用する減速度ゲイン(縦軸)との関係を示したマップである。図5(b)に示すマップは、車速が所定値未満であるときに、車速が低くなるほど減速度ゲインが小さくなり、且つ、車速が所定値以上であるときは減速度ゲインが車速によらずに一定となるように規定されている。このマップによれば、低車速時に、減速度ゲインにより目標減速度(絶対値)が小さくなるように補正が行われることとなる。こうすることで、アクセルペダルを踏み戻して車速が0に向かって低下していくときに、減速度が徐々に小さくなることで、車両1が滑らかに停止することとなる。
【0035】
図5(c)は、車速(横軸)とブレーキペダル踏込時に適用する減速度ゲイン(縦軸)との関係を示したマップである。図5(c)に示すマップは、車速が低くなるほど減速度ゲインが小さくなるように規定されている。このマップによれば、低車速時に、減速度ゲインにより目標減速度(絶対値)が小さくなるように補正が行われることとなる。こうしているのは、ドライバが低車速時にブレーキペダルを踏み込んだ場合には過大な減速要求を出さないからである。
【0036】
コントローラ14は、図3の車両姿勢制御処理のステップS2において、図4に示すマップM11又はマップM12を用いて、アクセルペダル踏込量又はブレーキペダル踏込量に応じて目標加速度又は目標減速度を決定し、そして、図5(a)〜(c)のいずれかのマップを用いて、こうして決定した目標加速度又は目標減速度を車速に応じて補正する。例えば、コントローラ14は、図5(a)〜(c)のいずれかのマップから得られる加速度ゲイン又は減速度ゲインに応じた値を、目標加速度又は目標減速度に乗算することで、当該目標加速度又は当該目標減速度を補正する。
【0037】
なお、上記では、車速に応じて目標加速度及び目標減速度を補正する例を示したが、車速以外にもアクセルペダル及びブレーキペダルの踏込速度や踏戻速度に応じて目標加速度及び目標減速度を補正してもよい。例えば、アクセルペダルの踏込速度が大きいほど目標加速度が大きくなるよう補正したり、アクセルペダルの踏戻速度が大きいほど目標減速度(絶対値)が大きくなるよう補正したりしてもよい。
【0038】
図3に戻って、ステップS3以降の処理について説明を再開する。ステップS3において、コントローラ14は、ステップS2で目標加速度を設定した場合には、この目標加速度を実現するためのモータジェネレータ4の基本目標トルクを設定し、他方で、ステップS2で目標減速度を設定した場合には、この目標減速度を実現するためのモータジェネレータ4の基本目標回生トルクを設定する。
【0039】
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、コントローラ14は付加減速度設定処理を実行し、操舵装置の操舵速度に基づき、車両1に減速度を発生させることで車両姿勢を制御するために必要なトルク低減量を決定する。この付加減速度設定処理の詳細は後述する。
【0040】
次に、ステップS5において、コントローラ14は、車両1が駆動されているか否か、換言すると車両1が制動されていないか否かを判定する。1つの例では、コントローラ14は、ステップS3において基本目標トルクを設定した場合(つまりステップS2において目標加速度を設定した場合)には、車両1が駆動されていると判定する一方で、ステップS3において基本目標回生トルクを設定した場合(つまりステップS2において目標減速度を設定した場合)には、車両1が駆動されていないと判定する。他の例では、コントローラ14は、アクセル開度センサ10及びブレーキ踏込量センサ11の検出信号に基づき当該判定を行う。この例では、コントローラ14は、アクセル開度センサ10により検出されたアクセルペダル踏込量が所定値A1以上である場合には車両1が駆動されていると判定し、アクセル開度センサ10により検出されたアクセルペダル踏込量が所定値A1未満である場合には車両1が駆動されていないと判定する。また、コントローラ14は、ブレーキ踏込量センサ11により検出されたブレーキペダル踏込量が0より大きい場合、つまりブレーキ踏込量センサ11によりブレーキペダルの踏み込みが検出された場合には、車両1が駆動されていないと判定する。
【0041】
ステップS5において車両1が駆動されていると判定された場合(ステップS5:Yes)、コントローラ14は、ステップS6において、ステップS3において設定した基本目標トルクと、ステップS4において設定したトルク低減量に基づき、最終目標トルクを決定する。具体的には、コントローラ14は、基本目標トルクからトルク低減量を減算した値を最終目標トルクとする。つまり、コントローラ14は、車両1に付与する駆動トルクを低減させるようにする。なお、ステップS4においてトルク低減量が設定されなかった場合には(つまりトルク低減量が0である場合)、コントローラ14は、基本目標トルクをそのまま最終目標トルクとして適用する。
【0042】
次いで、ステップS7において、コントローラ14は、ステップS6において決定した最終目標トルクを実現するためのインバータ3の指令値(インバータ指令値)を設定する。つまり、コントローラ14は、最終目標トルクをモータジェネレータ4から発生させるためのインバータ指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS10において、コントローラ14は、ステップS7において設定したインバータ指令値をインバータ3に出力する。このステップS10の後、コントローラ14は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0043】
他方で、ステップS5において車両1が駆動されていないと判定された場合(ステップS5:No)、つまり車両1が制動されている場合、コントローラ14は、ステップS8において、ステップS3において決定した基本目標回生トルクと、ステップS4において決定したトルク低減量とに基づき、最終目標回生トルクを決定する。具体的には、コントローラ14は、基本目標回生トルクにトルク低減量を加算した値を最終目標回生トルクとする(原則、基本目標回生トルク及びトルク低減量は正値で表される)。つまり、コントローラ14は、車両1に付与する回生トルク(制動トルク)を増加させるようにする。なお、ステップS4においてトルク低減量が決定されなかった場合には(つまりトルク低減量が0である場合)、コントローラ14は、基本目標回生トルクをそのまま最終目標回生トルクとして適用する。
【0044】
次いで、ステップS9において、コントローラ14は、ステップS8において決定した最終目標回生トルクを実現するためのインバータ3の指令値(インバータ指令値)を設定する。つまり、コントローラ14は、最終目標回生トルクをモータジェネレータ4から発生させるためのインバータ指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS10において、コントローラ14は、ステップS9において設定したインバータ指令値をインバータ3に出力する。このステップS10の後、コントローラ14は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0045】
次に、図6乃至図8を参照して、本発明の実施形態における付加減速度設定処理について説明する。
【0046】
図6は、本発明の実施形態による付加減速度設定処理のフローチャートである。図7は、本発明の実施形態による付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。図8は、本発明の実施形態において、図7のマップより得られる付加減速度をペダル踏込量に応じて補正するためのゲイン(付加減速度ゲイン)を規定したマップである。
【0047】
図6の付加減速度設定処理が開始されると、ステップS21において、コントローラ14は、ステアリングホイール6の切り込み操作中(即ち操舵角(絶対値)が増大中)か否かを判定する。
その結果、切り込み操作中である場合(ステップS21:Yes)、ステップS22に進み、コントローラ14は、図3の車両姿勢制御処理のステップS1において操舵角センサ8から取得した操舵角に基づき操舵速度を算出する。
【0048】
次に、ステップS23において、コントローラ14は、操舵速度が所定の閾値S1以上であるか否かを判定する。その結果、操舵速度が閾値S1以上である場合(ステップS23:Yes)、ステップS24に進み、コントローラ14は、操舵速度に基づき付加減速度を設定する。この付加減速度は、ドライバの意図に沿って車両姿勢を制御するために、ステアリング操作に応じて車両に付加すべき減速度である。
【0049】
具体的には、コントローラ14は、図7のマップに示す付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS22において算出した操舵速度に対応する付加減速度を設定する。図7における横軸は操舵速度を示し、縦軸は付加減速度を示す。図7に示すように、操舵速度が閾値S1未満である場合、対応する付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値S1未満である場合、コントローラ14は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御を行わない。
【0050】
一方、操舵速度が閾値S1以上である場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する付加減速度は、所定の上限値Dmaxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値Dmaxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s2≒0.05G)。さらに、操舵速度が閾値S1よりも大きい閾値S2以上の場合には、付加減速度は上限値Dmaxに維持される。
【0051】
次に、ステップS25において、コントローラ14は、ステップS24で設定した付加減速度を、ペダル踏込量に応じた付加減速度ゲインにより補正する。具体的には、コントローラ14は、図8に示すマップに基づき、アクセル開度センサ10又はブレーキ踏込量センサ11によって検出された現在のアクセルペダル踏込量又はブレーキペダル踏込量に対応する付加減速度ゲインを決定して、この付加減速度ゲインによって付加減速度を補正する。例えば、コントローラ14は、付加減速度ゲインに応じた値を付加減速度に乗算することで、当該付加減速度を補正する。
【0052】
図8において、横軸はペダル踏込量(アクセルペダル踏込量及びブレーキペダル踏込量の両方)を示しており、縦軸は付加減速度ゲインを示している。また、図8では、図4と同様に、アクセルペダル踏込量の所定値A1と、この所定値A1以上の領域R11と、この所定値A1未満の領域R12とを示している。上述したように、アクセルペダル踏込量が所定値A1以上の領域R11では目標加速度が設定され、且つ、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12では目標減速度が設定されるようになっている。
【0053】
図8において、符号M21は、アクセルペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップである。このマップM21は、アクセルペダル踏込量が所定値A1以上の領域R11では、アクセルペダル踏込量が大きくなるほど付加減速度ゲインが小さくなるように規定されている。これにより、領域R11では、アクセルペダル踏込量が大きくなるほど、付加減速度(絶対値)が小さくなるように補正が行われる。また、マップM21は、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12では、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど付加減速度ゲインが小さくなるように規定されている。これにより、領域R12では、アクセルペダル踏込量が小さくなるほど、付加減速度(絶対値)が小さくなるように補正が行われる。
【0054】
他方で、符号M22は、ブレーキペダル踏込量と付加減速度ゲインとの関係を示すマップである。このマップM22は、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど付加減速度ゲインが大きくなるように規定されている。これにより、ブレーキペダル踏込量が大きくなるほど、付加減速度(絶対値)が大きくなるように補正が行われる。
【0055】
次に、ステップS26において、コントローラ14は、ステップS25で補正された付加減速度に基づき、トルク低減量を決定する。具体的には、コントローラ14は、モータジェネレータ4からの駆動トルクの低下又はモータジェネレータ4からの回生トルクの増加により付加減速度を実現するために必要となるトルク量を決定する。ステップS26の後、コントローラ14は付加減速度設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0056】
また、ステップS21において、ステアリングホイール6の切り込み操作中ではない場合(ステップS21:No)、又は、ステップS23において、操舵速度が閾値S1未満である場合(ステップS23:No)、コントローラ14は、付加減速度の設定を行うことなく付加減速度設定処理を終了し、メインルーチンに戻る。この場合、トルク低減量は0となる。
【0057】
なお、上記したステップS25では、操舵速度に基づき設定された付加減速度を、ペダル踏込量に応じた付加減速度ゲインにより補正していたが、他の例では、付加減速度ゲインを用いた補正を行わずに、操舵速度及びペダル踏込量に基づき付加減速度を設定してもよい。例えば、操舵速度及びペダル踏込量に対して設定すべき付加減速度が規定されたマップを用意しておき、そのようなマップを用いて、現在の操舵速度及びペダル踏込量に対応する付加減速度を設定すればよい。
【0058】
次に、図9を参照して、本発明の実施形態による車両の制御装置の作用について説明する。図9は、本発明の実施形態による車両の制御装置を搭載した車両1に旋回走行させたときの、車両姿勢制御に関わる各種パラメータの時間変化を示すタイムチャートである。
【0059】
図9において、チャート(a)はアクセルペダル踏込量を示し、チャート(b)は加速度及び減速度を示し、チャート(c)は操舵角を示し、チャート(d)は操舵速度を示し、チャート(e)は付加減速度を示し、チャート(f)は最終目標回生トルクを示している。
【0060】
ここでは、第1の例及び第2の例の2つの例を挙げて、車両姿勢制御に関わる各種パラメータの変化について説明する。具体的には、図9(a)、(b)、(e)、(f)において、実線は第1の例によるパラメータの変化を示し、破線は第2の例によるパラメータの変化を示している。図9(a)に示すように、第1の例及び第2の例の両方ともアクセルペダル踏込量が所定値A1未満であり、第2の例では第1の例よりもアクセルペダル踏込量が小さいものとする。そのため、図9(b)に示すように、第1の例及び第2の例の両方とも車両1が減速しており、第2の例では第1の例よりも減速度(絶対値)が大きくなっている。加えて、図9(f)に示すように、車両1を減速させるようにモータジェネレータ4に回生発電を行わせるべく、最終目標回生トルクが適用されている。
【0061】
上記のような状況において、図9(c)に示すように、時刻t11から、ステアリングホイール6の切り込み操作が行われる。この場合、時刻t11から時刻t12までの間、図9(d)に示すように操舵速度が閾値S1以上となり、図9(e)に示すようにこの操舵速度に基づき付加減速度が設定される。具体的には、第1の例と第2の例とで操舵速度が同じであるが、第2の例のほうが第1の例よりも付加減速度(絶対値)が大きくなっている。これは、第2の例では、第1の例よりもアクセルペダル踏込量が小さいので、比較的小さな値を有する付加減速度ゲインが設定されて(図8参照)、この付加減速度ゲインによって付加減速度(絶対値)が小さくなるよう補正されたからである。このような付加減速度に応じて、図9(f)に示すように、第1の例及び第2の例のそれぞれについて最終目標回生トルクが設定される。具体的には、第2の例のほうが第1の例よりも最終目標回生トルクが小さくなっている。このような最終目標回生トルクをモータジェネレータ4から発生させることで、第2の例によれば、第1の例よりも、車両姿勢制御において付加される減速度(絶対値)が小さくなる。これにより、ドライバがアクセルペダルを大きく踏み戻しており、減速度の変化に敏感なときに、車両姿勢制御による減速度の付加によって、ドライバの要求する以上の減速度が発生しているという違和感を与えることを抑制できる。
【0062】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態による車両の制御装置の作用効果について説明する。
【0063】
本実施形態によれば、コントローラ14は、アクセルペダル踏込量に応じて、車両姿勢制御において適用する付加減速度を設定する。これにより、車両姿勢制御において、単一ペダルの機能を有するアクセルペダルの操作に応じた適切な付加減速度を設定することができる。
【0064】
特に、本実施形態によれば、コントローラ14は、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満であるときに、つまりドライバがアクセルペダル操作により車両1を減速させるときに、アクセルペダル踏込量が小さいほど、車両姿勢制御による付加減速度を小さくする。これにより、ドライバがアクセルペダルを大きく踏み戻しており、減速度の変化に敏感なときに、車両姿勢制御による減速度の付加によって、ドライバの要求する以上の減速度(過度の減速度)が発生しているという違和感を与えることを抑制できる。
【0065】
また、本実施形態によれば、コントローラ14は、アクセルペダル踏込量が所定値A1以上であるときに、つまりドライバがアクセルペダル操作により車両1を加速させるときに、アクセルペダル踏込量が大きいほど、車両姿勢制御による付加減速度を小さくする。これにより、ドライバがアクセルペダルを大きく踏み込んでおり、加速度の変化に敏感なときに、車両姿勢制御による減速度の付加によって、ドライバの要求する加速度が適切に発生していないという違和感を与えることを抑制できる。
【0066】
<変形例>
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0067】
(変形例1)
上記した実施形態では、車両姿勢制御を車両1の制動中に行うときに、設定した付加減速度が車両1に発生するようにモータジェネレータ4に回生発電を行わせていたが(図3参照)、他の例では、車両姿勢制御を車両1の制動中に行うときに、ブレーキ装置16から制動力を付加させることで、設定した付加減速度を車両1に発生させるようにしてもよい。
【0068】
図10は、本発明の実施形態の変形例による車両姿勢制御処理のフローチャートである。図10に示す車両姿勢制御処理は、車両1の制動中に行う車両姿勢制御に関する(車両1の駆動中に行う車両姿勢制御は、図3と同様である)。なお、以下では、図3の車両姿勢制御処理と同一の処理については、その説明を適宜省略する。つまり、ここで特に説明しない処理や制御は、上記した実施形態と同様である。
【0069】
まず、ステップS31において、コントローラ14は車両1の運転状態に関する各種センサ情報を取得する。特に、コントローラ14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセルペダル踏込量、ブレーキ踏込量センサ11が検出したブレーキペダル踏込量、及び、車速センサ12が検出した車速などを取得する。
【0070】
次いで、ステップS32において、コントローラ14は、ステップS31において取得された車両1の運転状態に基づき、車両1に付加すべき目標減速度を設定する。具体的には、コントローラ14は、アクセルペダル踏込量、ブレーキペダル踏込量及び車速などに基づき、目標減速度を設定する。より詳しくは、コントローラ14は、図4に示すマップM11又はマップM12を用いて、アクセルペダル踏込量(アクセルペダル踏込量が所定値A1であることが前提となる)又はブレーキペダル踏込量に応じて目標減速度を決定し、そして、図5(b)及び(c)のいずれかのマップを用いて、こうして決定した目標減速度を車速に応じて補正する。
【0071】
次いで、ステップS33において、コントローラ14は、ステップS32で設定した目標減速度を実現するためのブレーキ装置16による基本目標制動力を設定する。
【0072】
ステップS32及びS33の処理と並行して、ステップS34において、コントローラ14は、付加減速度設定処理を実行し(図6参照)、操舵装置の操舵速度に基づき、車両1に減速度を発生させることで車両姿勢を制御するために必要なトルク低減量を決定する。
【0073】
次いで、ステップS35において、コントローラ14は、ステップS33において決定した基本目標制動力と、ステップS34において決定したトルク低減量とに基づき、最終目標制動力を決定する。具体的には、コントローラ14は、基本目標制動力(負値)からトルク低減量(正値)を減算した値を最終目標制動力(負値)とする。つまり、コントローラ14は、車両1に付与する制動力を増加させるようにする。なお、ステップS34においてトルク低減量が決定されなかった場合には(つまりトルク低減量が0である場合)、コントローラ14は、基本目標制動力をそのまま最終目標制動力として適用する。
【0074】
次いで、ステップS36において、コントローラ14は、ステップS35において決定した最終目標制動力を実現すべく、ブレーキ制御システム18の液圧ポンプ20及びバルブユニット22の指令値を設定する。つまり、コントローラ14は、最終目標制動力をブレーキ装置16から発生させるための液圧ポンプ20及びバルブユニット22の指令値(制御信号)を設定する。そして、ステップS37において、コントローラ14は、ステップS36において設定した指令値を液圧ポンプ20及びバルブユニット22に出力する。このステップS37の後、コントローラ14は、車両姿勢制御処理を終了する。
【0075】
次に、図11を参照して、本発明の実施形態の変形例による車両の制御装置の作用について説明する。図11は、本発明の実施形態の変形例による車両の制御装置を搭載した車両1に旋回走行させたときの、車両姿勢制御に関わる各種パラメータの時間変化を示すタイムチャートである。
【0076】
図11において、チャート(a)はアクセルペダル踏込量を示し、チャート(b)は加速度及び減速度を示し、チャート(c)は操舵角を示し、チャート(d)は操舵速度を示し、チャート(e)は付加減速度を示し、チャート(f)は最終目標制動力を示している。図11は、チャート(a)〜(e)が図9と同一であり、チャート(f)のみが図9と異なる。具体的には、図11のチャート(f)は、図11のチャート(e)の付加減速度に応じて設定される最終目標制動力を示している。図9のチャート(f)では、最終目標回生トルクが正値であったが、図11のチャート(f)では、最終目標制動力が負値である。図11のチャート(f)は、図9のチャート(f)を反転したものに相当する。
【0077】
以上述べたような変形例によっても、車両姿勢制御において単一ペダルの機能を有するアクセルペダルの操作に応じた適切な付加減速度を設定することで、車両姿勢制御による減速度の付加によりドライバに与える違和感を抑制することができる。
【0078】
(変形例2)
上記した実施形態では、アクセルペダル踏込量が所定値A1未満の領域R12において、アクセルペダル踏込量が小さくなるにつれて付加減速度ゲインを小さくしていたが(図8参照)、このように付加減速度ゲインを規定することに限定はされない。他の例では、アクセルペダル踏込量の領域R12において、アクセルペダル踏込量が所定値以上である場合には、アクセルペダル踏込量が小さくなるにつれて付加減速度ゲインを小さくする一方で、アクセルペダル踏込量が当該所定値未満である場合には、アクセルペダル踏込量によらずに付加減速度ゲインを一定値(アクセルペダル踏込量が当該所定値以上であるときの付加減速度ゲイン以下の値)にしてもよい。更に他の例では、アクセルペダル踏込量の領域R12において、アクセルペダル踏込量が所定値未満である場合と所定値以上である場合の両方とも、付加減速度ゲインをアクセルペダル踏込量によらずに一定値にするが、アクセルペダル踏込量が所定値未満である場合には所定値以上である場合よりも付加減速度ゲインを小さくしてもよい。つまり、領域R12において、アクセルペダル踏込量が所定値未満である場合には付加減速度ゲインを第1所定値に設定し、アクセルペダル踏込量が所定値以上である場合には付加減速度ゲインを第1所定値よりも大きい第2所定値に設定してもよい。
【0079】
(変形例3)
上記した実施形態では、本発明をモータジェネレータ4により駆動される車両1(EV車両に相当する)に適用した例を示したが、他の例では、エンジンにより駆動される一般的な車両にも本発明を適用することができる。この例では、エンジンの生成トルクを低下させることで、車両1に減速度を付加して車両姿勢を制御すればよい。エンジンがガソリンエンジンである場合には、点火プラグの点火時期を遅角させる(リタードする)ことにより、エンジンの生成トルクを低下させればよい。エンジンがディーゼルエンジンである場合には、燃料噴射量を減少させることにより、エンジンの生成トルクを低下させればよい。更に他の例では、エンジン及びモータジェネレータにより駆動される車両(HV車両)にも本発明を適用することができる。
【0080】
(変形例4)
上記した実施形態では、ステアリングホイール6に連結されたステアリングコラムの回転角度を操舵角として使用すると説明したが、ステアリングコラムの回転角度に代えて、あるいはステアリングコラムの回転角度と共に、操舵系における各種状態量(アシストトルクを付与するモータの回転角や、ラックアンドピニオンにおけるラックの変位等)を操舵角として用いてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 車両
2 前輪
3 インバータ
4 モータジェネレータ
6 ステアリングホイール
8 操舵角センサ
10 アクセル開度センサ(アクセルセンサ)
11 ブレーキ踏込量センサ
12 車速センサ
14 コントローラ
16 ブレーキ装置
18 ブレーキ制御システム
25 バッテリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11